説明

バリアー膜形成方法およびバリアー膜形成装置

【課題】 被塗布物に対して吹き付けによって強固で、かつムラなく均一なバリアー膜をローコストに形成可能なバリアー膜形成方法およびバリアー膜形成装置を提供する。
【解決手段】 噴射部12は、例えば2つのスプレー装置25,26を備えている。スプレー装置25,26は、それぞれ供給タンク25a,26aと、この供給タンク25a,26aから延びるスプレーガン25b,26bとを有する。供給タンク25aには、バリアー膜を形成するためのバリアー剤25cが、また供給タンク26aには、バリアー膜を被塗布物2に定着させるバインダー剤26cがそれぞれ収容され、スプレーガン25b,26bから被塗布物2に向けてそれぞれ噴射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂等の被塗布物の表面にバリアー膜を形成するためのバリアー膜形成方法およびバリアー膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、洗剤や飲料などを収容する樹脂製の容器は、樹脂層を介した容器の内外でガス(気体)の透過を阻止して、収容物を酸化などの変質から保護するために、容器の外面にバリアー膜(ガスバリア材)が形成されているものが多い。こうした樹脂容器のバリアー膜は、従来、ラミネート、印刷等の方法より樹脂容器に形成する方法が知られている。また、こうしたラミネート、印刷などより更に均一なバリアー膜を効率的に得るために、水溶性のバリアー膜を樹脂容器の外面に形成する方法が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したような、ラミネート、印刷などの従来のバリアー膜形成方法では、樹脂容器が高い温度に曝されたりして変形する懸念や、製造コストが高くなるといった課題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、被塗布物に対して吹き付けによって強固で、かつムラなく均一なバリアー膜をローコストに形成可能なバリアー膜形成方法およびバリアー膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明によれば、被塗布物の一領域に向けられた少なくとも2本以上のスプレーガンを有し、前記被塗布物の表面にバリアー膜を形成するためのバリアー性を有する液体、前記バリアー膜を前記被塗布物に定着させるためのバインダー性を有する液体、あるいはバリアー性とバインダー性とを有する液体を任意の組み合わせで2本以上の前記スプレーガンから前記被塗布物の一領域に向けて噴射し、前記被塗布物の表面で前記液体を混合しつつ前記被塗布物に塗布して前記バリアー膜を形成する工程とを備えたことを特徴とするバリアー膜形成方法が提供される。
【0006】
前記被塗布物をマイナスイオン環境下に曝露する工程を更に備えていてもよい。また、前記被塗布物にプラズマ処理を行う工程を更に備えているのも好ましい。前記バリアー剤または前記バインダー剤あるいはその両方のクラスターの細分化を図る工程を噴射前または噴射途上に更に備えていてもよい。前記バリアー剤または前記バインダー剤あるいはその両方のクラスターの細分化を図る工程は、マイクロウェーブの照射、または磁場の印加であればよい。前記被塗布物に前記バリアー膜を形成後、マイクロウェーブを照射して乾燥する工程を更に備えていてもよい。
【0007】
また、本発明によれば、上述したバリアー膜形成方法により表面にバリアー膜を形成したことを特徴とする樹脂容器が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、被塗布物の一領域に向けられた少なくとも2本以上のスプレーガンを有し、前記被塗布物の表面にバリアー膜を形成するためのバリアー性を有する液体、前記バリアー膜を前記被塗布物に定着させるためのバインダー性を有する液体、あるいはバリアー性とバインダー性とを有する液体を任意の組み合わせで2本以上の前記スプレーガンから前記被塗布物の一領域に向けて噴射し、前記被塗布物の表面で前記液体を混合しつつ前記被塗布物に塗布して前記被塗布物に前記バリアー膜を形成する噴射部を備えたことを特徴とするバリアー膜形成装置が提供される。前記被塗布物をマイナスイオン環境下に曝露してプラズマ処理を行うプラズマ処理部を更に備えていても良い。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、複数のスプレーガンからそれぞれバリアー剤やバインダー剤などを別々に噴射し、被塗布物の表面に付着する直前で混合させることによって、従来の噴射によるバリアー膜の形成では採用できなかったバリアー剤やバインダー剤などの組み合わせが採用できるようになる。これによって、従来のバリアー膜よりもガスバリアー性や耐久性に優れたバリアー膜を噴射塗布によって形成できるようになる。
【0010】
また、被塗布物の表面にプラズマ処理を施す際に、被塗布物をマイナスイオンの多い環境下におくことによって、従来のプラズマ処理と比較して、被塗布物の表面の濡れ性を大幅に高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を交えて説明する。図1は、本発明のバリアー膜形成方法に使用されるバリアー膜形成装置を示す説明図である。バリアー膜形成装置1は、プラズマ処理部11と噴射部12および乾燥部13とを備えている。プラズマ処理部11は、例えばコロナ放電装置21とマイナスイオン発生装置22とから構成されている。コロナ放電装置21は、放電によってプラズマ状態をつくり出し、被塗布物(樹脂容器)2の表面にプラズマ処理を施すものである。被塗布物(樹脂容器)2としては、例えば、洗剤向け容器などの樹脂容器が例示される。
【0012】
マイナスイオン発生装置22は、プラズマ処理部11内の空気をマイナスイオン雰囲気にするものであり、コロナ放電装置21によって被塗布物2の表面にプラズマ処理を施す際に被塗布物2をマイナスイオン環境下におく役割を果たす。
【0013】
被塗布物2の表面にプラズマ処理を施す際に、被塗布物2をマイナスイオンの多い環境下におくことによって、従来のプラズマ処理と比較して、被塗布物2の表面の濡れ性を大幅に高めることが可能となる。なお、こうした被塗布物2をマイナスイオン環境に曝すマイナスイオン発生装置22は、コロナ放電装置21などのプラズマ処理装置で被塗布物2の表面プラズマ処理を行う前に、前処理として予め被塗布物2をマイナスイオン環境に曝したうえで、プラズマ処理を行う構成であっても良い。
【0014】
噴射部12は、例えば2つのスプレー装置25,26を備えている。スプレー装置25,26は、それぞれ供給タンク25a,26aと、この供給タンク25a,26aから延びるスプレーガン25b,26bとを有する。組み合わせの一例として、供給タンク25aには、バリアー膜を形成するためバリアー性を有する液体(以下、バリアー剤と称する)25cが、また供給タンク26aには、バリアー膜を被塗布物2に定着させるバインダー性を有する液体(以下、バインダー剤と称する)26cがそれぞれ収容され、スプレーガン25b,26bから被塗布物2に向けてそれぞれ噴射される。
【0015】
スプレーガン25b,26bと供給タンク25a,26aとの流路の途上には、磁場発生器27が設けられている。磁場発生器27は、例えば永久磁石から構成されれば良い。こうした磁場発生器27は、供給タンク25aからスプレーガン25bに供給されるバリアー剤25cや、供給タンク26aからスプレーガン26bに供給されるバインダー剤26cに対して磁場を印加し、バリアー剤25cやバインダー剤26cの分子集合体であるクラスターを細分化させる。このようにクラスターを細分化させることにより、バリアー剤25cやバインダー剤26cが活性化され、被塗布物2に円滑に塗布される。
【0016】
図2に示すように、スプレーガン25b,26bは、互いに所定の角度で向き合い、被塗布物2の表面の一点に向けて交差するように配置される。これにより、スプレーガン25bから噴射されたバリアー剤25cと、スプレーガン26bから噴射されたバインダー剤26cとは、被塗布物2の表面に付着する直前でぶつかり合い、さらに微細な霧となって混合されてから被塗布物2の表面に塗布される。
【0017】
このように、2本のスプレーガン25b,26bからそれぞれバリアー剤25cとバインダー剤26cとを別々に噴射し、被塗布物2の表面に付着する直前で混合させてから塗布することにより、従来はその組み合わせが限られていたバリアー剤25cとバインダー剤26cを自由に選択することが可能になる。
【0018】
即ち、従来はバリアー剤とバインダー剤とを予め混合した混合液を1本のスプレーガンで被塗布物に塗布していたため、バリアー剤とバインダー剤とを混合したときに、固化したり、反応して変質するもの同士の組み合わせが採用できず、混合した際に固化したり、互いに反応しないバリアー剤とバインダー剤との組み合わせは極めて限られていた。
【0019】
しかし、本発明のように、2本のスプレーガン25b,26bからそれぞれバリアー剤25cとバインダー剤26cとを別々に噴射し、被塗布物2の表面に付着する直前で混合させることによって、従来の噴射によるバリアー膜の形成では採用できなかったバリアー剤とバインダー剤との組み合わせが採用できるようになる。これによって、従来のバリアー膜よりもガスバリアー性や耐久性に優れたバリアー膜を噴射塗布によって形成できるようになる。
【0020】
こうしたスプレーガンは、本実施例のように2本備える例以外にも、3本以上、複数本形成されていても良い。また、それぞれの供給タンクには、バリアー性とバインダー性とを兼ね備えた液体と、バインダー性と有する液体との組み合わせや、バリアー膜を保護する表面コート剤含む液体との組み合わせなど、被塗布物にバリアー膜を形成する各種溶液の任意な組み合わせが採用されれば良く、本実施形態に例示した組み合わせに限定されるものではない。
【0021】
噴射部12には、被塗布物2を回転させつつスプレーガン25b,26bの前面を通過させるワーク転動装置28が備えられているのが好ましい。こうしたワーク転動装置28によって、被塗布物2は回転しつつスプレーガン25b,26bの前を通過し、バリアー剤25cとバインダー剤26cとの混合物が被塗布物2の表面全体にムラなく塗布される。
【0022】
バリアー剤25cとバインダー剤26cとは、供給タンク25a,26aに収容される前に予めマイクロウェーブ装置29でマイクロウェーブを照射しておくのが好ましい。マイクロウェーブ装置29で予めバリアー剤25cとバインダー剤26cにマイクロウェーブを照射することにより、バリアー剤25cやバインダー剤26cの分子集合体であるクラスターをより細分化させることができる。前述した磁場発生器27によるクラスターの細分化作用と相俟って、バリアー剤25cやバインダー剤26cをより活性化して、被塗布物2に円滑に塗布することができる。
【0023】
図3に示すように、乾燥部13は、送風装置31と、マイクロウェーブ装置32とを備えている。送風装置31は、表面にバリアー膜が塗布形成された被塗布物2に向けて、例えば室温の風など、100℃以下の風を当てる。また、マイクロウェーブ装置32は、送風装置31を経た被塗布物2に向けてマイクロウェーブを照射し、塗布形成されたバリアー膜の内面の水分を効率よく蒸発させる。
【0024】
このように、乾燥部13を送風装置31とマイクロウェーブ装置32との組み合わせで形成することによって、従来のような高温の熱風によって被塗布物2を乾燥させる場合と比べて、被塗布物2の温度を極端に上昇させることなく、バリアー膜の水分を効率よく短時間で乾燥する。こうした被塗布物2の一例である樹脂容器は熱可塑性樹脂が殆どであり、容器の材質、肉厚等の組み合わせによっては、バリアー膜を乾燥させる場合の熱管理が大変重要で、樹脂容器の熱変形を防ぐために個々の樹脂容器別に乾燥条件(設備を含む)を実験的に確立する必要があった。しかし、本発明のように、マイクロウェーブ装置を使用することで、バリアー膜内部の水分も効率よく蒸発させ、短時間で被塗布物2を変形させること無く乾燥して、表面に強固なバリアー膜を連続して形成する事が可能になる。
【0025】
次に、上述したような構成のバリアー膜形成装置を用いた、本発明のバリアー膜形成方法について説明する。本発明のバリアー膜形成方法は、例えば、熱可塑性の樹脂容器などにガスバリアー性を付与するためのバリアー膜を噴射塗布によって形成するために好適に用いることができる。
【0026】
(1)濡れ性向上工程
本発明のバリアー膜形成方法によってバリアー膜を形成する被塗布物2は、マイナスイオン発生装置22でマイナスイオン雰囲気に曝された上で、コロナ放電装置21によって被塗布物2の表面にプラズマ処理が施される。被塗布物2をマイナスイオンの多い環境下においたうえでプラズマ処理を施された被塗布物2の表面は、濡れ性が大幅に高められる。
【0027】
(2)塗布工程
前工程で表面の濡れ性が大幅に高められた被塗布物2は、ワーク転動装置28によっては回転しつつスプレーガン25b,26bの前を通過する。ここで、互いに所定の角度で向き合ったスプレーガン25b,26bからそれぞれ微細な霧となって噴射されたバリアー性を有する液体(バリアー剤)25cとバインダー性を有する液体(バインダー剤)26cとが、被塗布物2の表面に付着する直前でぶつかり合って、更に極めて微細な霧となって混合され、被塗布物2の表面に塗布される。
【0028】
バリアー剤25cとバインダー剤26cとは、予めマイクロウェーブ装置29でマイクロウェーブを照射されてクラスターが細分化され、さらに噴射直前に磁場発生器27によってさらにクラスターが細分化され、これによって活性化されたバリアー剤25cやバインダー剤26cが被塗布物2の表面で混合されて被塗布物2にバリアー膜が円滑に塗布される。
【0029】
(3)乾燥工程
表面にバリアー膜が形成された被塗布物2は、図3に示すように、送風装置31によって、例えば室温の風など、100℃以下の風に曝されて表面部分が乾燥され、その後、マイクロウェーブ装置32によってマイクロウェーブが照射され、バリアー膜の内面の水分を効率よく蒸発させる。これにより、被塗布物2の温度を極端に上昇させることなく、バリアー膜の水分を効率よく短時間で乾燥する。被塗布物2の表面にはガスバリアー性に優れた強固なバリアー膜が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明のバリアー膜形成装置を示す説明図である。
【図2】図2は、スプレーガンを示す断面図である。
【図3】図3は、乾燥部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 バリアー膜形成装置
2 被塗布物(樹脂容器)
11 プラズマ処理部
12 噴射部
13 乾燥部
22 マイナスイオン発生装置
25b,26b スプレーガン
25c バリアー剤(バリアー性を有する液体)
26c バインダー剤(バインダー性を有する液体)
27 磁場発生器
29,32 マイクロウェーブ装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布物の一領域に向けられた少なくとも2本以上のスプレーガンを有し、前記被塗布物の表面にバリアー膜を形成するためのバリアー性を有する液体、前記バリアー膜を前記被塗布物に定着させるためのバインダー性を有する液体、あるいはバリアー性とバインダー性とを有する液体を任意の組み合わせで2本以上の前記スプレーガンから前記被塗布物の一領域に向けて噴射し、前記被塗布物の表面で前記液体を混合しつつ前記被塗布物に塗布して前記バリアー膜を形成する工程とを備えたことを特徴とするバリアー膜形成方法。
【請求項2】
前記被塗布物をマイナスイオン環境下に曝露する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のバリアー膜形成方法。
【請求項3】
前記被塗布物にプラズマ処理を行う工程を更に備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のバリアー膜形成方法。
【請求項4】
前記バリアー性を有する液体また前記はバインダー性を有する液体、あるいは前記バリアー性とバインダー性とを有する液体のクラスターの細分化を図る工程を噴射前または噴射途上に更に備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のバリアー膜形成方法。
【請求項5】
前記バリアー性を有する液体また前記はバインダー性を有する液体、あるいは前記バリアー性とバインダー性とを有する液体のクラスターの細分化を図る工程は、マイクロウェーブの照射、または磁場の印加であることを特徴とする請求項4に記載のバリアー膜形成方法。
【請求項6】
前記被塗布物に前記バリアー膜を形成後、マイクロウェーブを照射して乾燥する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のバリアー膜形成方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のバリアー膜形成方法により表面にバリアー膜を形成したことを特徴とする樹脂容器。
【請求項8】
被塗布物の一領域に向けられた少なくとも2本以上のスプレーガンを有し、前記被塗布物の表面にバリアー膜を形成するためのバリアー性を有する液体、前記バリアー膜を前記被塗布物に定着させるためのバインダー性を有する液体、あるいはバリアー性とバインダー性とを有する液体を任意の組み合わせで2本以上の前記スプレーガンから前記被塗布物の一領域に向けて噴射し、前記被塗布物の表面で前記液体を混合しつつ前記被塗布物に塗布して前記被塗布物に前記バリアー膜を形成する噴射部を備えたことを特徴とするバリアー膜形成装置。
【請求項9】
前記被塗布物をマイナスイオン環境下に曝露してプラズマ処理を行うプラズマ処理部を更に備えたことを特徴とする請求項8に記載のバリアー膜形成装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−7059(P2006−7059A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186237(P2004−186237)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(594007973)株式会社ブレンズ (2)
【Fターム(参考)】