説明

バルブ部材およびこれを用いたバルブ

【課題】一対の弁体同士のシール性を保った状態で、長期間にわたってリンキング(凝着)の発生を十分に防止することができない。
【解決手段】アルミナ質焼結体からなる一対の弁体2,3を相対摺動させて流路の開通および遮断をするバルブ部材であって、前記弁体2,3の少なくとも一方の摺動部2a,3aがアルミナ結晶粒子に炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンおよび単結晶アルミナの少なくとも1種から選択される楔形状の硬質結晶粒子が分散されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルレバー混合栓、サーモスタット混合栓等の湯水混合栓、医療用サンプリングバルブ、薬液用バルブ等に用いられる一対の弁体からなるバルブ部材、またこのバルブ部材を用いてなるバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シングルレバー混合栓、サーモスタット混合栓等の湯水混合栓に用いられるバルブは、一対の円盤状のアルミナ質焼結体から成る弁体を相対的に摺動させることによって、各弁体に形成した流路の開通および遮断をするようになっている。
【0003】
図3に一般的なバルブ部材を用いてなるバルブの斜視図を示す。図3において、バルブ20は可動弁体21と固定弁体22とからなるバルブ部材を互いの摺動面21a,22aで接した状態とし、レバー23の操作で可動弁体21を動かすことにより、可動弁体21および固定弁体22のそれぞれ内部に形成した流路21b,22bの開通および遮断を行い、供給される流体の流量を調整するようになっている。
【0004】
このようなセラミック製のバルブとして、特許文献1では、湯水混合栓の摺動部で相互に摺動する水栓用バルブ部材において、前記バルブ部材の少なくとも一方側の部材の摺動面にアモルファス炭化珪素薄膜を形成したことから、完全なシール性を保った状態で、長期間にわたってリンキング(凝着)の発生を防止し、摺動特性の改善することが示されている。また、炭化珪素薄膜の他にDLC膜や、炭化珪素薄膜およびDLC膜を形成したものも提案されている。
【0005】
特許文献2では、TiO2,MgAl2 4およびFeAl24から選ばれたいずれかからなる、平均粒径0.2μm以下の結晶粒子をアルミナ結晶粒内に1体積%以上の比率で分散し、気孔率が3%以下であるアルミナ焼結体より一対の弁体を構成したものであり、摺動特性を改善することが示されている。
【0006】
特許文献3では、図4に示すように可動弁体21および固定弁体22のいずれかの摺動面21a,22aに潤滑剤24が供給されたマイクロクラック21c,22cを多数均一的に存在させたものであり、完全なシール性を保った状態で、長期間にわたってリンキング(凝着)の発生を防止し、摺動特性を改善することが示されている。
【0007】
図4は特許文献3で提案された水栓バルブ20を模式的に示した部分断面図である。
【特許文献1】特開平8−247318号公報
【特許文献2】特開平11−336924号公報
【特許文献3】特開平4―347076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、弁体の摺動面に炭化珪素等の薄膜を形成したバルブ部材では、摺動特性の改善がある程度確認されるものの、薄膜が摩滅したり剥離したりすると、急激に摺動特性が低下し、リンキング(凝着)が発生するという問題があった。このリンキングが発生すると、湯水を吐水、あるいは止水する際にシングルレバーを動かせない、動かせたとしても両手を使わなければ動かせないという問題があった。
【0009】
また、特許文献2のバルブ部材は、弁体にTiO,MgAlおよびFeAlから選ばれた結晶粒子をアルミナ結晶粒子内に分散しているため、バルブ部材の熱的安定性および化学的安定性を向上させるものの、分散させた結晶粒子(以下、分散粒子という。)はいずれもアルミナ結晶粒子より硬度が低く、特に弁体同士を強く締めすぎてしまうと、分散粒子はアルミナ結晶粒子より先に摩滅し、リンキングが発生するという問題があった。また、特許文献3のバルブ部材では、摺動特性の改善はみられるものの、摺動摩耗により摺動面が摩耗して、マイクロクラック21c,22cの幅の狭い起点側が摺動面21a,22a上に露出すると、リンキングが発生するという問題があった。
【0010】
上述した通り、特許文献1〜3で提案されたバルブ部材は、ある程度摺動特性の改善が確認されるものの、要求される摺動特性が高まる中、リンキングの発生を十分に防止することができないという問題を有していた。
【0011】
本発明は、上述のような課題を解決するためのものであって、高い摺動特性を備えたバルブ部材およびバルブを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のバルブ部材は、アルミナ質焼結体からなる一対の弁体を相対摺動させて流路の開通および遮断をするバルブ部材であって、前記弁体の少なくとも一方の摺動部がアルミナ結晶粒子に楔形状の炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンおよび単結晶アルミナの少なくとも1種から選択される硬質結晶粒子が分散されてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のバルブ部材は、前記硬質の結晶粒子は、炭化珪素からなることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明のバルブ部材は、前記結晶粒子は、緑色炭化珪素からなることを特徴とする。
【0015】
またさらに、本発明のバルブは、前記バルブ部材を用いて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のバルブ部材は、アルミナ質焼結体からなる弁体の少なくとも一方の摺動部がアルミナ結晶粒子に楔形状の炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンおよび単結晶アルミナの少なくとも1種から選択される硬質結晶粒子が分散されてなることから、摺動時に楔形状の硬質結晶粒子は、対向する摺動面に継続して微小なスクラッチを形成でき、このスクラッチによって摺動面に適正な隙間が確保され、摺動面全体に潤滑剤が適正に供給されるため、弁体のリンキングを防止することができる。
【0017】
特に、前記硬質結晶粒子が炭化珪素からなる場合、硬質結晶粒子とアルミナ結晶粒子との硬度差が適正に保たれるため、摺動中、対向する摺動面に容易にスクラッチを入れられ、リンキングの防止により効果的である。
【0018】
また、前記硬質結晶粒子が緑色炭化珪素からなる場合、硬質結晶粒子は黒色炭化珪素からなる結晶粒子より純度および硬度が高いため、不純物が2枚の弁体間に介在して悪影響を及ぼすおそれが低くなり、バルブの信頼性を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、本発明のバルブ部材を用いたバルブ1の一実施形態を示す斜視図であって、このようなバルブ1は可動弁体2と、固定弁体3とからなるバルブ部材を、互いの摺動部2a,3aが接する摺動面Aを有し、レバー4の操作で可動弁体2を動かすことにより、可動弁体2および固定弁体3のそれぞれ内部に形成した流路2b,3bの開通および遮断を行い、供給される流体の流量を調整するようになっている。
【0021】
バルブ部材を構成する可動弁体2、固定弁体3は、その強度、耐食性等の面からアルミナ質焼結体からなり、アルミナ純度94%以上の焼結体を用いることが好ましい。
【0022】
可動弁体2、固定弁体3は、その摺動部2a,3aがアルミナの結晶粒子に炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンおよび単結晶アルミナの少なくとも1種から選択される楔形状の硬質結晶粒子5が分散されて成ることが重要である。
【0023】
図2(a)は本発明のバルブ部材の弁体同士の摺動部2a,3aの近傍を示す断面図であり、図2(b)は図2(a)の摺動部2a,3aに形成される楔形状の硬質結晶粒子を示すためのB部における模式図である。
【0024】
図2(a)に示すように、摺動部2a,3aにアルミナの結晶粒子6に楔形状の硬質結晶粒子5が分散されて成るため、摺動時に楔形状の硬質粒子5により、可動弁体2、固定弁体3の各摺動部2a,3aに継続してスクラッチを形成することができ、適正な隙間が確保され、可動弁体2、固定弁体3の各摺動部2a,3aで形成される摺動面Aの全体に潤滑剤が適正に供給されるため、可動弁体2、固定弁体3のリンキング(凝着)を防止することができる。
【0025】
また、アルミナ結晶粒子6に硬質結晶粒子5が表面を覆うように形成されているものではなく、アルミナ結晶粒子6に硬質結晶粒子5が分散しているため、繰り返しの摺動においても硬質結晶粒子5が脱粒しにくく、常に摺動面Aに位置する摺動部2a,3aにスクラッチを形成することができる。
【0026】
楔形状の硬質結晶粒子5として、炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンおよび単結晶アルミナの少なくとも1種から選択されるが、これらはいずれもその硬度がアルミナの結晶粒子より高いため、炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンを主成分として焼結体とした場合には、ビッカース硬度(Hv)は、それぞれ約22GPa、30GPa、28GPa、29GPa、また単結晶アルミナがコランダム、サファイヤである場合にはそれぞれ約20GPa、約23GPaであり、アルミナ質焼結体のビッカース硬度(Hv)14GPaより高く、その差は6GPa以上である。
【0027】
なお、楔形状の硬質結晶粒子5として、コランダムを選択した場合、入手が容易でしかも安価に製造できることから、電融アルミナを用いることが好適である。
【0028】
また、硬質結晶粒子が楔形状とは、摺動部2a,3aの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合、図2(b)に示されるように硬質結晶粒子5の輪郭線によって形成される交差角θn(n=1,2,・・・)が90°未満の角度を少なくとも1個以上有する結晶をいう。特に、交差角θnを60°以下とすることでさらにスクラッチの形成を容易にすることができる。さらに、楔形状の結晶粒子は、最小となる交差角θnが摺動部2a,3aに対し、垂直方向に位置することがスクラッチを形成しやすい。
【0029】
可動弁体2および固定弁体3は、その厚みがいずれも4〜10mmであり、摺動部2a,3aとは、摺動開始前の摺動面Aから深さ1mmまでの領域をいい、摺動部2a,3a以外に楔形状の硬質粒子5があっても何等差し支えない。
【0030】
ここで、バルブ部材の製造方法について説明する。
【0031】
バルブ部材を構成する固定弁体3の製造方法としては、先ず、純度96%のAl粉末を出発原料とし、これに0.5重量%のSiOと、合計0.2質量%のMgOとCaOを添加し、さらにポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)等の成形用バインダーを加え、24〜100時間攪拌後、噴霧造粒し、平均粒子径3〜10μmのアルミナ質の顆粒を得る。得られた顆粒に楔形状の炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンおよび単結晶アルミナの少なくとも1種から選択される硬質の粉末を顆粒100質量%に対し、例えば1質量%以下(0質量%を含まない)添加、混合する。ここで、硬質の粉末は、JIS R 6001−1998で規定する#80以上、且つ#420以下の粒度の粉末を用いることが好適である。硬質の粉末が混合された顆粒を成形型に充填し、加圧成形によって円盤形状に成形した後、不活性ガス雰囲気中または真空雰囲気中、約1600℃で焼成し、焼結体を得る。得られた焼結体に研削加工、研磨加工等を施すことで、直径5mmの流体通路3bを有し、外径が32mm、厚みが5mm、摺動面Aの平坦度が1μm以下である固定弁体3を得ることができる。
【0032】
また、バルブ部材を構成する固定弁体3の他の製造方法としては、上記顆粒を一部抜き出し、前記硬質の粉末をこの顆粒100質量%に対し、例えば1質量%以下(0質量%を除く)添加、混合してから、成形型に充填した後、硬質の粉末を含まない顆粒をその上部に充填し、加圧成形してもよく、この場合、硬質の粉末が添加、混合された顆粒を成形した部分が焼成後に摺動部となる。加圧成形以後の工程は、上述した方法と同様である。
【0033】
可動弁体2も、固定弁体3を作製した方法と同様の方法で作製すればよく、直径5mmの流体通路2bを有し、外径が25mm、厚みが7mm、摺動部2aの表面における平坦度が1μm以下である可動弁体2を得ることができる。
【0034】
また、硬質結晶粒子5として、炭化珪素を用いることが好ましい。この場合、楔形状の硬質結晶粒子5とアルミナ結晶粒子6との硬度差が適正に保たれるため、摺動中、摺動部2a,3aに容易にスクラッチを形成でき、リンキングをより有効に防止することができる。
【0035】
さらに、硬質結晶粒子5として、緑色炭化珪素を用いることがより好ましく、この場合、硬質結晶粒子5は黒色炭化珪素からなる結晶粒子より純度および硬度が高いため、不純物が可動弁体2、固定弁体3間に介在して悪影響を及ぼすおそれが低くなり、バルブ部材の信頼性を高くすることができる。
【0036】
硬質結晶粒子5は、摺動部2a,3aの表面における硬質結晶粒子5が占める面積の比率により、スクラッチは影響を受ける。本発明のバルブ部材では、硬質結晶粒子5が占める面積を1%以下(0%を含まない)とすることにより、スクラッチが摺動部2a,3aに入り過ぎることがなく、高いシール性を確保することができる。
【0037】
また、このような可動弁体2と、固定弁体3とからなるバルブ部材を、上述した図1に示すように、互いの摺動部2a,3aが接する摺動面Aとして、さらに操作用のレバー4を組合せることにより、水栓用、湯水混合栓用等の各種バルブとして有効に用いることができる。本発明のバルブ1は、可動弁体2および固定弁体3のそれぞれ内部に形成した流路2b,3bの開通および遮断を行い、供給される流体の流量を調整するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のバルブの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】(a)は本発明のバルブ部材を示す部分断面図であり、(b)は本発明のバルブ部材における結晶構造を示す同図B部を示す模式図である。
【図3】従来のバルブを示す斜視図である。
【図4】従来のバルブ部材の摺動面近傍を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1:水栓バルブ
2:可動弁体、2a:摺動部
3:固定弁体、3a:摺動部
4:レバー
5:硬質結晶粒子
6:アルミナ結晶粒子
A:摺動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ質焼結体からなる一対の弁体を相対摺動させて流路の開通および遮断をするバルブ部材であって、前記弁体の少なくとも一方の摺動部は、アルミナ結晶粒子に炭化珪素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化チタンおよび単結晶アルミナの少なくとも1種から選択される楔形状の硬質結晶粒子が分散されてなることを特徴とするバルブ部材。
【請求項2】
前記硬質結晶粒子は、炭化珪素からなることを特徴とする請求項1に記載のバルブ部材。
【請求項3】
前記結晶粒子は、緑色炭化珪素からなることを特徴とする請求項2に記載のバルブ部材。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のバルブ部材を用いて成ることを特徴とするバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−50199(P2008−50199A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227593(P2006−227593)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】