説明

バー塗布方法及び装置

【課題】光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布であっても、塗布ムラのない良好な面状の塗布膜を得ることができるバー塗布方法及び装置を提供する。
【解決手段】回転駆動源72からの回転駆動力がベルト74を介してバー駆動シャフト76に伝達されるバー駆動系70により、回転する塗布バー28で塗布液を走行する支持体上に塗布するバー塗布方法において、バー駆動系70の固有振動数を調整することにより、バー駆動系70の振動と塗布バー28の回転による振動とによる共振を回避した状態で塗布することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバー塗布方法及び装置に係り、特に、可撓性支持体(以下「ウエブ」という)に塗布液を塗布して光学補償フィルム等の光学フィルムや写真感光材料、磁気記録媒体等を製造するのに好適なバー塗布方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウエブ表面に塗布液を塗布する塗布装置としては、バー塗布装置(バーコータ)、リバースロール塗布装置、グラビアロール塗布装置、エクストルージョン塗布装置等がある。この中でもバー塗布装置は、設備が簡便で薄層塗布が可能であることから、光学フィルムや磁気記録媒体の製造における塗布装置として採用されている。
【0003】
このバー塗布装置は、大別すると次の2つの種類がある。第1の種類は、連続走行するウエブを回転する塗工用バーに接触させて、このウエブに塗布液の転移塗布と所望の塗布量の計量とを同時に行う塗布・計量一体型の方式である。第2の種類は、プレコート装置で過剰の塗布液をウエブに塗布しておいて、これに回転する塗工用バーを接触させて塗布液の過剰分を掻き落とすことにより所望の塗布量の計量を行う塗布・計量別体型の方式である。
【0004】
いずれの方式のバー塗布装置においても、従来は、フラットバー、ワイヤーバー、溝付バー等の塗工用バーを、撓みが発生しないようにバー支持台の支持溝に支持するとともに、塗工用バーの両側を回転駆動装置の回転軸に直接連結していた。そして、回転駆動装置で塗工用バーを回転させることにより、塗工用バーとウエブとの間に異物がトラップされるのを防止し、これにより異物による塗布スジの発生を防止している。
【0005】
これらのバー塗布装置は、光学フィルム(光学補償フィルム、反射防止フィルム等)や磁気記録媒体等の製造において使用されており、薄膜で且つ塗布ムラがない面質の良好な高精度の塗布が要求されている。
【0006】
ところで、塗布操作において塗布装置の振動がウエブの塗布面に伝わると塗布ムラとなって現れ、塗布品質を低下させることから、塗布装置の振動を除振したり制振したりして、塗布機が振動しないようにすることも提案されている。
【0007】
塗布装置ではないが、例えば特許文献1の露光装置やデバイス装置では、駆動方向が鉛直方向で対向するように配置した一対のエアダンパと、該エアダンパの内圧を制御する手段を設けてエアダンパの固有振動数を調整する除振装置が開示されている。また、特許文献2には、感光ドラムの剛性を変えることで固有振動数を調整することが開示されている。
【特許文献1】特開平11−315883号公報
【特許文献2】特開平10−222011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光学フィルムや磁気記録媒体等の製造における塗布のように薄膜塗布で且つ塗布ムラを極力小さくした高精度の塗布が要求される場合には、単に塗布機の除振や制振を行うだけでは、満足できる品質の光学フィルムや磁気記録媒体を製造できないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布であっても、塗布ムラのない良好な面状の塗布膜を得ることができるバー塗布方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、回転駆動源からの回転駆動力がベルトを介してバー駆動シャフトに伝達されるバー駆動系により、回転する塗布バーで塗布液を走行する支持体上に塗布するバー塗布方法において、前記バー駆動系の固有振動数を調整することにより、前記バー駆動系の振動と前記塗布バーの回転による振動とによる共振を回避した状態で塗布することを特徴とするバー塗布方法を提供する。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、バー駆動系の固有振動数を調整することにより、バー駆動系の振動と塗布バーの回転による振動とによる共振を回避した状態で塗布するようにしたので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。従って、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布膜の塗布であっても、良好な面状の塗布膜を得ることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記バー駆動系には、前記ベルトを前記回転駆動源と前記バー駆動シャフトとの2点以外を経由するプーリを設け、該プーリによりバー駆動シャフトと回転駆動源との間の軸芯間距離を変えることを特徴とする。
【0013】
バー駆動系は、回転駆動源とバー駆動シャフトとに、ベルトと噛み合うプーリがそれぞれ設けられており、それらのプーリがベルトを介して回転駆動源からの回転駆動力をバー駆動シャフトに伝達させる。通常、回転駆動源とバー駆動シャフトとの2点でベルトが張られているが、更にもう一点のプーリ(以下、中間プーリという。)を介して3点でベルトを張ることで、バー駆動シャフトと回転駆動源との間の距離(軸芯間距離)を変えることができる。そして、その中間プーリの位置を動かすことで、軸芯間距離を任意に可変することができるので、バー駆動系の固有振動数を調整することができる。よって、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、前記バー駆動系には、前記ベルトを前記回転駆動源と前記バー駆動シャフトとの2点以外を経由するプーリを設け、該プーリによりバー駆動シャフトと回転駆動源との間の軸芯間距離を変えることでバー駆動系の固有振動数を調整することで、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記軸芯間距離の最大値は、1000mm以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、軸芯間距離の最大値は、1000mm以下であることが好ましい。軸芯間距離の最大値が1000mm以下であることで、回転駆動源からの回転駆動力を安定して塗布バーに回転を与えることができるとともに、バー駆動系の固有振動数を一定値にすることができるので塗布ムラの発生を更に抑制することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1において、前記バー駆動系にはプーリが設けられており、該プーリの径を変えることでバー駆動系の固有振動数を調整することを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、バー駆動系にはプーリが設けられており、そのプーリの径を変えることで、バー駆動系の固有振動数を調整することができるので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1において、前記ベルトのベルト幅を変えることでバー駆動系の固有振動数を調整することを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、ベルトのベルト幅を変えることで、バー駆動系の固有振動数を調整することができるので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、回転駆動源からの回転駆動力がベルトを介してバー駆動シャフトに伝達されるバー駆動系により、回転する塗布バーで塗布液を走行する支持体上に塗布するバー塗布装置において、前記バー駆動系には、前記バー駆動系の振動と前記塗布バーの回転による振動とによる共振を回避する調整手段を設けることを特徴とするバー塗布装置を提供する。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、バー駆動系に、バー駆動系の振動と塗布バーの回転による振動とによる共振を回避する調整手段を設けているので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。従って、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布膜の塗布であっても、良好な面状の塗布膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布であっても、塗布ムラのない良好な面状の塗布膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面により本発明の塗布方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0025】
図1のバー塗布装置10は、塗布・計量別体型の一例である。
【0026】
塗布・計量別体型のバー塗布装置10は、主として、ウエブWに塗布液14を所望の塗布液量よりも過剰に塗布するエクストルージョン型のプレコート装置16と、ウエブWに過剰に塗布された塗布液14の過剰分を掻き取る掻取り用バー装置18と、ウエブWの搬送ラインに沿って設けられた複数のパスローラ20、20、20とで構成される。
【0027】
エクストルージョン型のプレコート装置16は、ポケット22(又は、「マニホールド」とも称呼される)内に圧送された塗布液14を、ポケット22に連通するスリット24(又は、「スロット」とも称呼される)の出口24Aから、パスローラ20に装架されて矢印方向に一定の速度で走行するウエブWにヘッド先端面26を押し付けながら連続的に吐出する。
【0028】
これにより、掻取り用バー装置18の直前においてウエブWの下面に過剰な塗布液が塗布される。尚、プレコート装置16としては、エクストルージョン型に限定されるものではなく、ウエブWに塗布液を塗布する任意の塗布装置を使用することができる。
【0029】
掻取り用バー装置18は、ウエブWの幅方向と平行に配設された円柱状のバー28をバー支持台30の支持溝30Aに支持して構成され、パスローラ20により、走行するウエブWがバー28に対して所定のラップ角(巻き掛け角)をもって接触されるように構成されている。
【0030】
バー28としては、バー表面がフラットなフラット型のバー、バーにワイヤーを密に巻回したワイヤーバー、バーの表面に溝をつけた溝付バー等を使用することができる。バー28を支持する支持溝30Aの形状としては、図2に示されるV字溝、又は図示しないU字溝が一般的に使用される。この支持溝30Aを形成する壁面30Bの長手方向(ウエブ幅方向と同じ)の真直度は、バー28の長手方向(ウエブ幅方向と同じ)の真直度と同等か、それ以上になるように加工される。
【0031】
図3のバー塗布装置10’は塗布・計量一体型の一例である。尚、図1及び2で説明した塗布・計量別体型と同じ部材には同符号を付して説明する。
【0032】
図3に示されるように、塗布・計量一体型のバー塗布装置10’は、主として、所望量の塗布液を塗布する塗工用バー装置50と、ウエブWの搬送ラインに沿って設けられた複数のパスローラ20、20、20とで構成される。
【0033】
塗工用バー装置50は、主として、バー28と、バー28を回転自在に支持するバー支持台30と、コーターブロック52、54と、両側の(図では前後の)サイドブロック(図示略)から構成される。バー支持台30と各コーターブロック52、54との間には、ポケット56、58及びスリット60、62が形成され、各ポケット56、58に塗布液が供給される。
【0034】
各ポケット56、58に供給された塗布液は、ウエブWの幅方向に平行でウエブ搬送方向に狭隘なスリット60、62を介してウエブWの幅方向に均一に押し出される。これにより、バー28に対してウエブWの搬送方向の上流側には1次側塗布ビード64が形成され、下流側に2次側塗布ビード66が形成される。したがって、バー28はこれらの塗布ビード64、66を介して走行するウエブWに所定量の塗布液を転移塗布する。
【0035】
ポケット56、58から過剰に供給された塗布液は、各コーターブロック52、54とウエブWとの間からオーバーフローし、側溝65、67(一部図示)を介して回収される。尚、ポケット56、58への塗布液の供給はポケット56、58の中央部から行なっても、又は端部から行なってもよい。
【0036】
塗布・計量別体型及び塗布・計量一体型の何れのバー塗布装置10、10’の場合にも、バー28の直径Φは3〜15mmの範囲が好ましく、バー28がワイヤーバーの場合のワイヤー直径Φは0.05〜0.20mmの範囲が好ましい。また、ウエブWの塗布テンション(搬送方向のテンション)は50〜1500N/mの範囲が好ましく、塗布速度は5〜150m/分の範囲が好ましい。また、バー28の異周速比(バー周速度/ウエブ速度)は0.1〜1.5の範囲が好ましい。また、パスローラ20の1回転周期の速度ムラは1.5%以内が好ましく、1.0%以内がより好ましい。
【0037】
ここで、バー塗布装置10、10’の何れの場合にも、少なくとも掻取り用バー装置18又は塗工用バー装置50(以下、まとめてバー装置18、50という)のバー28は図4に示すバー駆動系70によって駆動されるようになっている。そして、本発明において、バー駆動系70には、バー駆動系の振動と塗布バーの回転による振動とによる共振を回避した状態で塗布するために、バー駆動系70の固有振動数を調整する固有振動数調整手段が設けられている。バー28は、バー駆動系70により、ウエブWと同方向又は逆方向に回転駆動される。これにより、ウエブWに過剰に塗布された塗布液14の過剰分が、バー28により掻き落とされて、所望の塗布液量に計量される。尚、バー28を回転させることにより、ウエブWとバー28との間に異物がトラップされることを防止し、異物による塗布故障の発生を防止する。
【0038】
バー駆動系70の固有振動数を調整することにより、バー駆動系の振動と塗布バーの回転による振動とによる共振を回避した状態で塗布することで、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。従って、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布膜の塗布であっても、良好な面状の塗布膜を得ることができる。
【0039】
バー駆動系70は、図4(A)に示すように、バー装置18、50の側方に設けられており、モータ(回転駆動源)72が配置されている。モータ72のシャフト72Sは、ベルト74を介してバー駆動シャフト76の回転シャフト76Sと結合されている。シャフト72Sとシャフト76Sにはそれぞれプーリ(滑車)72P、76Pが設けられており、それらによりベルトは回転する。ここで、ベルト74としては、モータ72の振動をバー駆動シャフト76に伝達させないための観点から、シームレスベルトが好適に用いられる。
【0040】
モータ72としては、一定の回転数で回転駆動できるものであればよく、公知の各種モータが使用できる。たとえば、DCモータ(2相、3相、5相)、ACモータ、インバータモータ、ステッピングモータ、サーボモータ等が使用でき、目的により速度制御モータ、トルク制御モータ等が使用できる。
【0041】
そして、バー駆動シャフト76は、図4(A)に示すように、その両端部の付近において、固定部材78A、78Bを用いて2点で支持台80Aに固定されている。
【0042】
バー駆動シャフト76とバー28との間には、カップリング82が設けられている。このカップリング82により、モータ72からバー駆動シャフト76に伝わってきた駆動力をバー28に供給できる。また、バー駆動シャフト76の回転軸芯とバー28の回転軸芯とのわずかな軸芯のずれを吸収することできる。
【0043】
ここで、本発明において、図4(B)に示すように、バー駆動系70にはバー駆動系70の固有振動数を調整する固有振動数調整手段である中間プーリ81Pが設けられている。この中間プーリ81Pの位置を変えることで、モータ72の位置を変えることができる。従って、バー駆動シャフト76とモータ(回転駆動源)72との間の軸芯間距離Lを変えることができ、バー駆動系の固有振動数を調整することができるので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0044】
ここで、軸芯間距離Lの最大値が1000mm以下であることが好ましい。軸芯間距離Lの最大値が1000mm以下であることで、モータ72からの回転駆動力を安定してバー28に回転を与えることができるとともに、バー駆動系70の固有振動数を一定値にすることができるので塗布ムラの発生を更に抑制することができる。そして、ベルト74のテンションは30〜250Nの範囲が望ましい。テンションが250Nを超えると軸の変形等が発生するからである。軸芯間距離Lを調整するためにはガイド(LMガイド等)があると調整が精度良く早い。調整範囲は10mm以上であることが好ましい。
【0045】
そして、バー駆動系70のプーリの径を変えることでバー駆動系の固有振動数を調整することもできる。バー駆動系70にプーリを設け、そのプーリの径を変えることで、バー駆動系の固有振動数を調整することができるので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0046】
また、ベルト74のベルト幅を変えることでバー駆動系70の固有振動数を調整することもできる。ベルト幅を変えることによっても、バー駆動系の固有振動数を調整することができるので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0047】
以上のように、バー駆動系70の固有振動数を調整することにより、バー駆動系70の振動とバー28の回転による振動とによる共振を回避した状態で塗布するようにしたので、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができる。従って、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布膜の塗布であっても、良好な面状の塗布膜を得ることができる。
【0048】
本発明で使用するウエブWとしては、一般に、その幅が300〜3000mm、長さが45〜10000m、厚さが2〜200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6 −ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフィルム、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布又はラミネートした紙等からなる可撓性帯状物あるいは該帯状物を基材としてその表面に加工層を形成した帯状物が含まれる。
【0049】
ウエブWへの塗布液の塗布量としては、2〜15mL/m2 の範囲が好ましく採用できる。また、ウエブWへの塗布液の塗布幅としては、500〜3000mmの範囲が好ましく採用できる。
【0050】
また、塗布液としては、光学フィルムや磁気テープの塗布液のような非ニュートン流体にかぎらず、写真感光層の比較的低粘度のゼラチン溶液をバインダとしてなるようなニュートン流体であってもよい。塗布液の粘度としては、0.8〜10cp(0.8〜10×10-3Pa・s)の範囲が好ましく採用できる。
【実施例】
【0051】
実施例により本発明の効果を更に説明する。
【0052】
(実験1)
図1に示した塗布・計量別体型のバー塗布装置10を用いて、光学補償フィルム用の塗布液を塗布した実施例を説明する。
【0053】
(光学補償フィルム用塗布液の調製)
下記に示すディスコティック化合物TE−8のR(1)とR(2)の重量比で4:1の混合物に対し、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V♯360、大阪有機科学(株)製)を10重量%、セルロースアセテートプチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)を0.6重量%、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)を3重量%、増感剤(カヤキュアーDET−X、日本化薬(株)製)を1重量%添加し、最終的にその混合物の32重量%メチルエチルケトン溶液とした。その液晶性化合物を含む液に、さらにフッ素系界面括性剤(フルオロ脂肪族基含有共重合体、メガファックF780、大日本インキ(株)製)を0.3重量%添加し、塗布液とした。
【0054】
【化1】

【0055】
・掻取り用バー装置…直径8mmの円柱状の芯材に0.07mmのワイヤーを密に巻回したワイヤーバー
・塗布速度…20m/分
・塗布テンション…200N/m
そして、バー径:8mm、ワイヤー径:100μmのバー28を支持すると共に、ウエブWを走行速度30m/分で走行させながらバー28も同速(回転周波数19.5Hz)で順回転させ、バー塗布ヘッドから塗布液をウエブ1m2 当たり5ml(湿潤膜厚5μm)になるように配向膜上に塗布した。
【0056】
このとき、バー駆動系70のモータ72の回転駆動力は、ベルト74(ベルト幅20mm、厚み1.5m)を介してバー駆動シャフト76に伝達した後、バー28に供給した。ここで、モータに設けられたプーリ72Pの径は50mm、バー駆動シャフトに設けられたプーリ76Pの径は60mm、固有振動数調整手段である中間プーリ81Pの径は40mmのものを用いた。そして、バー駆動シャフト76とバー28はカップリング82(MCGLC32−10−10:ミスミ製)を介して結合した。
【0057】
この際、固有振動数調整手段である中間プーリ81Pの位置を変えることで、バー駆動シャフトに設けられたプーリ76Pの位置を変え、表1に記載の軸芯間距離Lを変えることでバー駆動系の固有振動数を調整した。なお、固有振動数は、FFT(小野測器(株)製のCF5220)を使用して測定した。
【0058】
(面状)
評価項目はバー28の1回転周期でウエブWの幅方向に発生する塗布ムラを横段状ムラとして、目視により評価した。横段状ムラ(搬送方向にバー28の1回転周期で出るムラ)が製造品質を満たすもの(わずかに検出できるもの)を○と、製造合格限度レベル(検出できるが製造品質上問題がないもの)のものを△と、不合格レベルのもの(十分検出でき、製品として問題となるレベル)を×として判定した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から分かるように、固有振動数調整手段である中間プーリ81Pを設け、その位置を変えることで、バー駆動シャフトと回転駆動源との間の距離(軸芯間距離)を変えることができることで、バー駆動系の固有振動数を調整するができ、塗布膜の面状結果が良いものを得ることができる条件を作ることができる。この実験の場合には、軸芯間距離が410mm〜500mm、または600mm〜700mmの範囲とすることで、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができるので、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布膜の塗布であっても、良好な面状の塗布膜を得ることができることが分かる。
【0061】
(実験2)
実験2は、実験1の軸芯間距離が450mmの条件で、ベルト幅を実験1での20mmから、10、15、22、24、及び25mmとして光学補償フィルムを製造したものである。その際の、面状を上記と同様に評価し、表2に記載した。
【0062】
【表2】

【0063】
(実験3)
実験3は、実験1の軸芯間距離が360mmの条件で、バー駆動シャフトに設けられたプーリ76Pの径を60mmから、50、45、及び40mmとして光学補償フィルムを製造したものである。その際の、面状を上記と同様に評価し、表3に記載した。
【0064】
【表3】

【0065】
表2から分かるように、ベルト74のベルト幅を変えることで、バー駆動系の固有振動数を調整することができる。そして、この実験2の条件においては、ベルト幅を10、20、及び22mmとすることで、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができるので、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布膜の塗布であっても、良好な面状の塗布膜を得ることができることが分かる。
【0066】
また、表3から分かるように、バー駆動シャフトに設けられたプーリ76Pの径を変えることで、バー駆動系の固有振動数を調整することができる。そして、この実験3の条件においては、プーリ76Pの径を50、及び60mmとすることで、塗布ムラの発生を効果的に抑制することができるので、光学フィルムや磁気記録媒体等の極めて高精度な塗布が要求される塗布膜の塗布であっても、良好な面状の塗布膜を得ることができることが分かる。
【0067】
尚、塗布・計量別体型での実施例は図に示してないが、上記と同様の結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係るバー塗布装置であって、塗布・計量別体型の一例を示す側面断面図
【図2】図1における掻取り用バー装置の側面断面図
【図3】本発明に係るバー塗布装置であって、塗布・計量一体型の一例を示す側面断面図
【図4】本発明に係るバー塗布装置であって、バー駆動系を示す概略図
【符号の説明】
【0069】
10…塗布・計量別体型のバー塗布装置、10’…塗布・計量一体型のバー塗布装置、11…ローラ本体部、13…ローラシャフト、14…塗布液、15…軸受、16…プレコート装置、17…駆動軸、18…掻取り用バー装置、20…パスローラ、22…ポケット、24…スリット、28…バー、30…バー支持台、50…塗工用バー装置、70…バー駆動系、72…モータ(回転駆動源)、74…ベルト、76…バー駆動シャフト、80…支持台、82…カップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源からの回転駆動力がベルトを介してバー駆動シャフトに伝達されるバー駆動系により、回転する塗布バーで塗布液を走行する支持体上に塗布するバー塗布方法において、
前記バー駆動系の固有振動数を調整することにより、前記バー駆動系の振動と前記塗布バーの回転による振動とによる共振を回避した状態で塗布することを特徴とするバー塗布方法。
【請求項2】
前記バー駆動系には、前記ベルトを前記回転駆動源と前記バー駆動シャフトとの2点以外を経由するプーリを設け、該プーリによりバー駆動シャフトと回転駆動源との間の軸芯間距離を変えることを特徴とする請求項1に記載のバー塗布方法。
【請求項3】
前記軸芯間距離の最大値は、1000mm以下であることを特徴とする請求項2に記載のバー塗布方法。
【請求項4】
前記バー駆動系にはプーリが設けられており、該プーリの径を変えることでバー駆動系の固有振動数を調整することを特徴とする請求項1に記載のバー塗布方法。
【請求項5】
前記ベルトのベルト幅を変えることでバー駆動系の固有振動数を調整することを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載のバー塗布方法。
【請求項6】
回転駆動源からの回転駆動力がベルトを介してバー駆動シャフトに伝達されるバー駆動系により、回転する塗布バーで塗布液を走行する支持体上に塗布するバー塗布装置において、
前記バー駆動系には、前記バー駆動系の振動と前記塗布バーの回転による振動とによる共振を回避する調整手段を設けることを特徴とするバー塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−212819(P2008−212819A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53457(P2007−53457)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】