説明

バー塗布装置、バー塗布装置を用いた塗布方法、及び光学フィルムの製造方法

【課題】塗布直後において、塗布面に縦スジ等のムラが生じることなく、均質な塗布を行う。
【解決手段】
走行するウエブ18に塗布液を塗布するバー20と、バー20の下側に設けられ、該バー20を回転自在に支持するバー受け部材22と、バー受け部材22を介してウエブ走行方向の上流側、下流側にそれぞれ隣設され、バー受け部材22との間にそれぞれ塗布液を供給するスロット34を形成する上流側堰部材28及び下流側堰部材30と、を備え、下流側堰部材30のウエブ18と対向するスライド面30Aの傾斜角度αは5〜30度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バー塗布装置、バー塗布装置を用いた塗布方法、及び光学フィルムの製造方法に係り、特に液晶表示装置に好適な品質を有する光学フィルムを製造するための塗布技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学補償フィルム等の光学機能性フィルムの製造における塗布では、塗布液を均一且つ薄層に塗布形成することが要求される。しかしながら、このような薄層塗布では、ストリークやスクラッチ等の塗布欠陥を生じることが多く、従来から各種対策が検討されている。
【0003】
たとえば、ブレードコーターにおいて、ファウンテンノズルから塗布液を吹き出す前に、塗布液にせん断力を付与して低粘度化する方法(特許文献1)、ロッドコーターにおいて、ロッドのワイヤー間の溝に引っかかる異物や凝集物を除去するための異物除去ブラシ等をロッドバーホルダに設ける方法(特許文献2)等が提案されている。また、支持体上に塗布膜を形成した後、掻き取りローラにより余剰液を掻き取り必要膜厚を得る塗布方法において、掻き取りローラ表面の乾きに起因する塗布故障を抑制するために、掻き取りローラ表面に塗布液又は溶剤を供給する方法が提案されている(特許文献3)。
【0004】
また、バー塗布装置においては、バー断面の最大半径とバー受け部断面の円弧の曲率半径との関係、バーホールド角等を規定することで、バー振動による段状塗布ムラや、バーとバー支持部材との間に発生する泡による塗布筋故障を防止することが提案されている(特許文献4)。
【0005】
また、塗布バーの接触部に対して支持体送り方向の上流側に堰を設けて、接触部と堰との間に液溜まりを構成し、堰から塗布液の一部をオーバーフローさせることが提案されている(特許文献5)。これにより、塗布速度を上げた際に、1次側(塗布バーの接触部に対して支持体送り方向の上流側)の液溜めに規則的な渦が発生することにより生じる塗布スジの発生を抑制している。
【特許文献1】特開平7−189196号公報
【特許文献2】特開平7−246358号公報
【特許文献3】特開平9−294956号公報
【特許文献4】特開2006−82059号公報
【特許文献5】特開2003−33702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献4、5のようなバー塗布では、図8の従来図に示すように、バー2の乾きによる塗布故障を防止するために、バー2を支持するバー支持部材3を介してウエブ走行方向下流側(以下、2次側という)にも堰部材4を設置し、塗布液8を供給するスリット5を形成している。そして、スリット5から塗布液を供給してバー表面との間に塗布液ビードを形成し、余剰の塗布液は堰部材4の上面4Aをオーバーフローさせて排出している。
【0007】
しかしながら、バー2の回転速度を高くすると、2次側のスリット出口の液溜り部6では、バー2の乾き防止用に供給する塗布液とバー表面を流下する余剰塗布液とが勢いよく合流し、塗布液に渦等の乱れが生じる(矢印参照)。合流点での塗布液の乱れは、塗布液が堰部材4をオーバーフローする過程で更に増幅され、塗布液から揮発する揮発性ガスに濃度分布が生じる原因となる。これにより、ウエブ7の塗布面7Aに縦スジ状のムラを生じるという問題があった。
【0008】
これに対して、上記従来の方法では、いずれも塗布後の揮発性ガス濃度分布に起因するムラを解決するものではなかった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗布直後において、塗布面に縦スジ等のムラが生じることがなく、均質な塗布を行うことができるバー塗布装置及びそれを用いた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、走行する帯状体に塗布液を塗布するバーと、前記バーの下側に設けられ、該バーを回転自在に支持する支持部材と、前記支持部材を介して帯状体走行方向の上流側、下流側にそれぞれ隣設され、前記支持部材との間にそれぞれ塗布液を供給するスリットを形成する上流側堰部材及び下流側堰部材と、を備え、前記下流側堰部材の前記帯状体と対向する斜面の傾斜角度は5〜30度であることを特徴とするバー塗布装置を提供する。
【0011】
請求項1によれば、バーの2次側のスリット出口付近で塗布液の乱れが生じても、下流側堰部材の斜面の傾斜角度を5〜30度にするので、塗布液を下流側堰部材の斜面上を均一な薄膜状に流すことができる。このため、塗布液が下流側堰部材をオーバーフローする過程において、下流側堰部材と帯状体の塗布面との間に揮発性ガスによる濃度分布を生じることなく、帯状体の塗布面に縦スジ状のムラが発生するのを抑制できる。なお、下流側堰部材の斜面の傾斜角度を20〜30度にすることが好ましい。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記塗布液の粘度をη(cp)、密度をρ(kg/m)、重力加速度をg(kgf/秒)とし、前記下流側堰部材の斜面を流れる塗布液の流量q(m/秒)、前記傾斜角度をα(°)としたとき、前記下流側堰部材の斜面の傾斜角度αは下記式1を満たすように設定されたことを特徴とする。
【0013】
sinα ≧ 3・η・q/{ρ・g・(4×10−4} …(式1)
請求項2によれば、下流側堰部材の斜面の傾斜角度が上記式1を満たすように設定されるので、塗布液が下流側堰部材の斜面をより均一な薄膜状に流れるようになる。これにより、下流側堰部材の斜面と対向する塗布面に縦スジ状のムラが生じるのを抑制できる。
【0014】
請求項3は請求項1又は2において、前記下流側堰部材の斜面のうち前記スリットに近い側から少なくとも10〜80mmの範囲を前記傾斜角度にすることを特徴とする。
【0015】
このように、スリットに近い側から少なくとも10〜80mmの範囲を上記傾斜角度にすることで、塗布膜との離間距離が小さく、揮発ガスによる影響が大きな領域での揮発性ガスの乱れを最小限に抑えることができる。また、少なくともスリット側から15〜40mmの範囲を上記傾斜角度にすることがより好ましい。
【0016】
請求項4は請求項1〜3の何れか1項において、前記バー支持部材の頂点と前記下流側堰部材の頂点との水平方向の離間距離が1mm以上であることを特徴とする。
【0017】
バー支持部材の頂点と下流側堰部材の頂点との水平方向の離間距離が1mm未満と近すぎると、2次側のスリット出口付近において複数の塗布液が激しく合流する際、塗布液の乱れが生じ易くなる。請求項4によれば、バー支持部材の頂点と下流側堰部材の頂点との水平方向の離間距離を1mm以上にするので、2次側のスリット出口付近における塗布液同士の衝突により渦等の乱れが生じることを抑制できる。
【0018】
請求項5は請求項1〜4の何れか1項において、前記下流側堰部材の頂点は、前記バー支持部材の頂点よりも低いことを特徴とする。
【0019】
請求項5によれば、下流側堰部材の頂点がバー支持部材の頂点よりも低いので、バー表面から2次側へ流れる余剰塗布液が2次側のスリット出口付近で滞留して乱れるのを抑制し、下流側堰部材の表面をスムーズにオーバーフローさせることができる。
【0020】
本発明の請求項6は前記目的を達成するために、請求項1〜5の何れか1項に記載のバー塗布装置を用いて、走行する帯状体に塗布液を塗布することを特徴とする塗布方法を提供する。
【0021】
請求項6によれば、塗布液が下流側堰部材をオーバーフローする過程において、塗布液と塗布面との間に揮発性ガスによる濃度分布を生じさせないので、ウエブの塗布面に縦スジ状のムラが生じるのを抑制できる。
【0022】
請求項7は請求項6において、前記下流側堰部材の頂点と前記帯状体の表面との離間距離は2mm以下であることを特徴とする。
【0023】
このように、下流側堰部材の斜面と帯状体の表面との離間距離を2mm以下に近づけることで、バー、バー受け部材及び下流側堰部材との間を液封し易くなる。これにより、バー表面の乾燥を防止できると共に、バーとバー受け部材との間へ泡の混入を防ぐことができる。一方で、下流側堰部材の斜面と帯状体の塗布面との間隔がこのように狭いと、塗布液の流動の乱れにより塗布面に縦スジ状のムラが生じ易くなる。このような場合でも、本発明を適用することで、塗布液の乱れに起因して塗布面に縦スジ状のムラが生じるのを抑制できる。
【0024】
本発明の請求項8は前記目的を達成するために、予めラビング処理した配向膜層が形成された帯状体上に、液晶性ディスコティック化合物を含有する塗布液を塗布した後、該塗布した塗布面を乾燥させて光学異方性層を形成する光学フィルムの製造方法であって、前記塗布液は、請求項1〜5の何れか1項に記載のバー塗布装置により塗布することを特徴とする光学フィルムの製造方法を提供する。
【0025】
請求項8によれば、塗布面にムラを生じることなく、良好な品質の光学フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、塗布直後において、塗布面に縦スジ等のムラが生じることがなく、均質な塗布を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面に従って本発明に係るバー塗布装置及び塗布方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
まず、本発明に係るバー塗布装置の構成について説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施態様を示すバー塗布装置の側面断面図である。図2は、バー塗布ヘッドの一部を断面で示した斜視図である。
【0030】
図1及び図2に示すように、バー塗布装置10は、バー塗布ヘッド12と、該バー塗布ヘッド12を挟んでウエブ走行方向の上流側と下流側とに設けられた一対のガイドローラ14、16と、を備えている。そして、ウエブ18がバー塗布ヘッド12のバー20にラップされた状態で塗布液が塗布される。
【0031】
バー塗布ヘッド12は、主に、両端が図示しない軸受により回転自在に支持されたバー(ワイヤーバー)20と、そのバー20の全長にわたって支持するとともに、バー20へ塗布液を供給する給液機構を備えたバー受け部材22と、バー受け部材22との間に塗布液の給液路24、26を形成する上流側堰部材28と下流側堰部材30と、より構成されている。
【0032】
給液路24、26は、マニホールド32とスリット34とより構成され、マニホールド32に給液された塗布液がスリット34を介してウエブ18の幅方向に均一に押し出される。これにより、バー20に対してウエブ18の搬送方向の上流側(以下、1次側という)には1次側ビード36が形成され、下流側(以下、2次側という)には2次側ビード38が形成される。2次側ビード38は、バー20とバー受け部材22との間に空気を巻き込まないように作用する。
【0033】
これら1次側と2次側のビード36、38を形成する塗布液が回転するバー20によってピックアップされることにより、バー20にラップして連続走行するウエブ18に塗布される。給液路24、26から1次側と2次側のビード36、38に供給された塗布液のうち余剰の塗布液は、上流側堰部材28、30の外側28A、30Aを流下する。
【0034】
バー20の回転は、ウエブ18の走行によって従動回転する場合、駆動源を設けて回転駆動する場合の何れでも良く、また回転駆動する方向はウエブ18の走行方向と同方向への回転でも、逆方向への回転でもよい。
【0035】
図3は、バー20の概略を説明する説明図であり、図4は、図3のバー20の軸線方向断面からみたバー表面のワイヤーの断面状態を示す拡大断面図である。
【0036】
バー20(ワイヤーバー)は、図3に示すように、円柱状の芯金40の表面にワイヤー42を巻回してワイヤー列44を形成することで作成されている。バー20は、図4に示すように、ワイヤー42の太さを変えることで、ワイヤー列44のワイヤー42同士の間に保持する塗布液量を変えることができ、これにより所望厚みの塗布膜を精度良く塗布することができる。
【0037】
バー20に使用されるワイヤー42は、線径が0.06〜0.2mmのものが好ましく、0.06〜0.1mmのものがより好ましい。ワイヤー42の線径が0.2mmを超えると塗布量が多くなりすぎ、高速薄膜塗布に有効なバー塗布法の使用法として適切でない。バー20の直径は、特に限定されないが、薄層塗布に適する点で3mm〜15mmの範囲の細径のものが好ましい。このように、バー径3mm〜15mm、ワイヤー径0.06〜0.2mmのバー20で塗布液をウエブ18に塗布することで、湿潤厚さが5〜15μmの薄膜な塗布膜を得ることができる。
【0038】
図1のバー塗布装置10において、バー20の2次側に形成されるスリット34出口の液溜り部では、塗布する際にバー20表面に残った余剰塗布液と、スリット34から供給される塗布液とが合流する。このため、液溜り部において塗布液に渦等の乱れが生じ易い。さらに、液溜り部の塗布液が下流側堰部材30のスライド面30Aをオーバーフローする過程で、スライド面30A上の塗布液から揮発した揮発性ガスに濃度分布が生じ、液溜り部で生じた乱れが増幅される。これらの液相の乱れにより気相も乱れを生じ、下流側堰部材30のスライド面30A間近を走行するウエブ18の塗布面に縦スジ状のムラを生じる原因となる。また、ウエブ18の塗布面とスライド面30Aの頂点との離間距離は2mm以下と非常に小さく、塗布液から揮発した揮発性ガスの濃度分布が生じると、塗布面に塗布ムラ等の影響が出易くなる。
【0039】
そこで、本実施形態では、下流側堰部材30のスライド面30Aの傾斜角度を所定範囲にすることで、オーバーフローする過程での塗布液の乱れを緩和する。
【0040】
図5は本発明に係るバー塗布ヘッド12の2次側の拡大断面図である。
【0041】
図5に示すように、下流側堰部材30のスライド面30Aは、水平に対して傾斜角度αが5〜30度となるように形成されている。すなわち、スライド面30Aの傾斜角度αが5度未満であると、斜度が低すぎて塗布液の排出が滞る。塗布液が排出されずにスライド面30A上に次第に蓄積されると塗布液の位置エネルギーも増大し、ウエブ18を波立たせるという問題がある。一方、スライド面30Aの傾斜角度αが30度を超えると斜度が高くなるため、塗布液が表面張力で曲率を持とうとして液滴化して流れる。この液滴化する作用により、塗布液周辺の気流が更に乱れることとなる。
【0042】
なお、スライド面30Aを流下する塗布液の厚さtが400μm以下となるように傾斜角度を設定することが好ましい。すなわち、塗布液の粘度をη(cP)、スライド面30Aを流下する塗布液の流量q(residue)(m/分)、密度をρ(kg/m)、重力加速度をg(kgf/秒)、スライド面30Aの傾斜角度をα(°)としたとき、下記式1を満たすように、傾斜角度αが設定されることが好ましい。
【0043】
sinα ≧ 3・η・q/{ρ・g・(4×10−4} …(式1)
なお、傾斜角度αだけでなく、塗布液の物性(粘度、密度等)や塗布液の流量を調整してもよい。
【0044】
流量q(residue)は、給液路26から2次側のビード38に供給された塗布液の幅当たりの流量をq(supply)とし、給液路26から供給された塗布液のうち塗布に消費される流量をq(coat)としたとき、下記(式2)の関係が成り立つ。ここでは、ウエブ18とバー20との隙間から2次側のビード38に供給される塗布液の流量と、バー20とバー支持面22Aとの隙間から1次側のビード36へ戻る塗布液の流量と、がほぼ等しいとみなす。
【0045】
q(residue)=q(supply)−q(coat) …(式2)
下流側堰部材30は、そのスライド面30Aの頂点P(最も高い位置)がバー支持部材22の頂点Q(最も高い位置)よりも低くなるように配置されている。なお、バー支持面22Aのバー径方向に対応する断面形状は、バー20を受ける円弧部分を少なくとも有する凹形状に形成されている。図5では、バー支持面22Aの頂点Qはバー支持面22Aの2次側端部に相当する。これにより、2次側のスリット34出口の液溜り部50において、スリット34から供給される塗布液とバー20表面を流れる余剰塗布液とが合流した後、塗布液がスライド面30Aにスムーズにオーバーフローし易くなる。このため、乱れが液溜り部50から抜け易くなり、乱れが増幅されるのを抑制できる。
【0046】
スライド面30Aの頂点Pとバー受け部材22の頂点Qとの水平方向の離間距離L1は1mm以上とすることが好ましい。離間距離L1が1mm未満であると、2次側のスリット34出口の液溜り部50が狭くなり、スリット34から供給される塗布液とバー20表面を流れる余剰塗布液とが激しく合流して渦などの乱れが生じ易くなる。
【0047】
また、ウエブ18の塗布面とスライド面30Aの頂点との離間距離L0は、2mm以下とすることが好ましい。これにより、バー20、バー受け部材22及び下流側堰部材30にまたがって液封することができる。これにより、バー表面の乾燥を防止できると共に、バーとバー受け部材との間へ泡の混入を防ぐことができる。
【0048】
なお、図5では、下流側堰部材30のスライド面30A全体が上記傾斜角度となるように形成した例を示したが、これに限定されず、図6に示すように、下流側堰部材30のスライド面30Aのうちバー20に近い一部が上記傾斜角度となるように形成してもよい。この場合、下流側堰部材30のスライド面30Aのうち、スリット34に近い側から約10〜80mm、より好ましくは15〜40mmの領域(スライド面長L2)が上記傾斜角度を満たすことが好ましい。また、下流側堰部材30に、スライド面30Aの傾斜角度を調整できるような傾斜角度調整機構を備えた構成としてもよい。
【0049】
次に、上記の如く構成されたバー塗布装置10によりウエブ18に塗布液を塗布する塗布方法について図1及び図5を参照して説明する。
【0050】
塗布液は、塗布ヘッド12の給液路24、26内に供給されて1次側と2次側のビード36,38を形成し、回転するバー20によってピックアップされウエブ18に塗布される。この際、ウエブ18とバー20との接触部において塗布液の計量が行われて所望の塗布量のみがウエブ18に塗布され、その他の塗布液は上流側堰部材28、下流側堰部材30の外側面に沿って流下する。
【0051】
このようなバー塗布において、本実施の形態では、バー塗布装置10の下流側堰部材30のスライド面30Aの傾斜角度を5〜30度の範囲にするので、塗布面に縦スジ等のムラを生じさせないようにすることができる。
【0052】
すなわち、スライド面30Aにおいて、塗布液が表面張力により液滴化して流れることなく、塗布液をスムーズに排出できる。これにより、塗布液はスライド面30Aをウエブ幅方向に均一な薄膜状に流れるようになり、該塗布液から揮発する揮発性ガスの濃度分布も生じ難くなる。したがって、スライド面30Aとウエブ18の塗布面との間の気相中に揮発性ガスの濃度分布が生じず、塗布面に縦スジ状のムラが生じるのを抑制できる。
【0053】
さらに、上記式1に示すように、スライド面30Aを流下する塗布液の液膜厚さが400μm以下となるようにスライド面30Aの傾斜角度αを設定する。これにより、塗布液をスライド面30A上をより均一な薄膜状に流すことができ、塗布直後の塗布面近傍により均一な揮発性ガス雰囲気を形成できる。
【0054】
このように本実施形態によれば、塗布直後において、塗布面に縦スジ等のムラが生じることがなく、均質な塗布を行うことができる。
【0055】
次に、本発明に係るバー塗布装置10の適用例について説明する。図7は、本発明のバー塗布装置10を組み込んだ光学補償シートの製造ライン80である。
【0056】
光学機能フィルムの製造ライン80は、図7に示されるように、送出機82から予め配向膜形成用のポリマー層が形成された透明支持体であるウエブ18が送り出される。次に、ウエブ18はガイドローラ84によってガイドされてラビング処理装置86に送りこまれる。そして、ウエブ18のポリマー層には、ラビングローラ88によりラビング処理が施される。ラビングローラ88の下流には除塵機90が設けられており、ウエブ18の表面に付着した塵を取り除く。除塵機90の下流には本発明に係るバー塗布ヘッド12が設けられている。そして、バー塗布ヘッド12によりディスコネマティック液晶を含む塗布液がウエブ18に塗布される。塗布ヘッド12の下流には、乾燥ゾーン92、加熱ゾーン94が順次設けられており、ウエブ18上の塗布液が乾燥・加熱されて液晶層が形成される。更に、この下流には紫外線ランプ96が設けられており、紫外線照射により、液晶を架橋させ、所望のポリマーを形成する。これにより、光学補償フィルムが製造され、製造された光学補償フィルムは巻取機98に巻き取られる。
【0057】
このように、本発明に係るバー塗布装置10を、光学補償フィルムの液晶層の塗布(ディスコネマティック液晶を含む塗布液の塗布)に用いるので、縦スジ等のムラのない良好な面質のフィルムを製造できる。
【0058】
本発明に使用されるウエブ18としては、紙、プラスチックフィルム、レジンコーティッド紙、合成紙等が包含される。プラスチックフィルムの材質は、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル重合体、6,6−ナイロン、6−ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ヘルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロースアセテート等が使用される。またレジンコーティッド紙に用いる樹脂としては、ポリエチレンをはじめとするポリオレフィンが代表的であるが、必ずしもこれに限定されない。ウエブの厚さも特に限定されないが、0.01mm〜1.0mm程度のものが取扱い、汎用性より見て有利である。
【0059】
本発明に用いられる塗布液は特に限定は無く、高分子化合物の水又は有機溶媒液、顔料分散液、コロイド溶液等が適用できる。特に、薄層塗布を均一且つ高精度に行うことが求められる各種光学フィルムの塗布液、例えば、液晶性ディスコティック塗布液等が好適である。また、塗布液の粘度が高い場合、塗布膜厚や塗布速度、塗布後の乾燥速度等にもよるが、ワイヤー目或いは溝の目が消えずにバー筋故障となるため、0.5Pa・s以下が望ましい。
【0060】
以上、本発明に係るバー塗布装置及び塗布方法の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0061】
たとえば、上記実施の形態では、バー20としてワイヤーバーを用いる例で説明したが、これに限定されず、例えば、溝切りバー、フラットバー等でもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
(実施例1)
本発明に係るバー塗布装置10を組み込んだ図7の光学補償フィルムの製造ライン80において、塗布直後の縦スジ故障への影響を評価した。
【0064】
ウエブ18は、厚さ100μmのトリアセチルセルロース(フジタック、富士写真フィルム(株)製)の表面に長鎖アルキル変性ポバールの2重量%溶液をフィルム1m2当たり25mlになるように塗布後、60°Cで1分間乾燥させて配向膜用樹脂層を形成したものを使用した。このウエブ18を、送出機82から送り出すと共に50m/分で搬送しながらラビング処理装置86によって配向膜用樹脂層表面にラビング処理を行って配向膜を形成した。ラビング処理におけるラビングローラ88の押し付け圧力を、配向膜樹脂層の1cm2あたり10kgf/cm2にすると共に、回転周速を5.0m/秒にした。
【0065】
そして、配向膜用樹脂層をラビング処理して得られた配向膜上に、バー塗布装置10を使用して塗布液を塗布した。塗布液は、下記に示すディスコティック化合物TE−8のR(1)とR(2)の重量比で4:1の混合物に対し、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V♯360、大阪有機科学(株)製)を10重量%、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)を0.6重量%、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)を3重量%、増感剤(カヤキュアーDET−X、日本化薬(株)製)を1重量%、添加し、最終的にその混合物の32重量%メチルエチルケトン溶液とした。その液晶性化合物を含む液に、さらにフッ素系界面活性剤(フルオロ脂肪族基含有共重合体、メガファックF780、大日本インキ(株)製)を0.3重量%添加し、塗布液として使用した。
【0066】
【化1】

【0067】
そして、図5のバー塗布装置10において、バー支持面22Aに、バー径8mm、線径80μmのワイヤー42のバー20を支持し、ウエブ18を走行速度24〜36m/分で走行させながらバー20も同速で順回転させ、バー塗布ヘッド12から塗布液をウエブ1m2当たり5ml(湿潤膜厚5μm)になるように配向膜上に塗布した。なお、下流側堰部材30のスライド面30Aの傾斜角度αは22度とし、スライド面長L2を15mmとした。
【0068】
塗布液は、常温(25℃)における粘度ηが3×10−3cP、密度ρが0.85〜0.95kg/L、幅当たりの流量q(supply)が4.074×10−5(m/分)、q(coat)が3.0×10−5(m/分)、q(reside)が1.074×10−5(m/分)であった。
【0069】
そして、塗布直後においてバー20の2次側のウエブ18の塗布面の縦スジ状のムラを目視により評価した。評価基準は、以下のようにした。
【0070】
○…縦スジ状のムラがほとんどなく、製造品質を良好に満たすレベル
△…縦スジ状のムラが若干みられるが製造上問題ないレベル
×…縦スジ状のムラが多く、製品品質を満たさず不合格となるレベル
評価結果を表1に示す。
【0071】
(実施例2)
下流側堰部材30において、スライド面30Aの傾斜角度αを30度とし、スライド面長L2を40mmとした以外は、実施例1と同様にした。この結果を表1に示す。
【0072】
(実施例3)
下流側堰部材30において、スライド面30Aの傾斜角度αを5度とし、スライド面長L2を10mmとした以外は、実施例1と同様にした。この結果を表1に示す。
【0073】
(実施例4)
下流側堰部材30において、スライド面30Aの傾斜角度αを30度とし、スライド面長L2を80mmとした以外は、実施例1と同様にした。この結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
下流側堰部材30において、スライド面30Aの傾斜角度αを45度とし、スライド面長L2を5mmとした以外は、実施例1と同様にした。この結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、下流側堰部材30におけるスライド面30Aの傾斜角度αが5〜30度の範囲を満たす実施例1〜4では、いずれも縦スジ状のムラはほとんどなかった。これに対して、傾斜角度αが30度を超える比較例1では、縦スジ状のムラが多く発生した。
【0077】
また、スライド面全体を上記傾斜角にしなくても、スライド面長L2が10〜80mmでも縦スジ状のムラを抑制できることがわかった。
【0078】
以上から、本発明を適用することで、塗布直後の塗布面に縦スジ状のムラが生じるのを抑制できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本実施形態のバー塗布装置の側面断面図である。
【図2】本実施形態のバー塗布装置の一部を断面で示した斜視図である。
【図3】本実施形態のバーを説明する説明図である。
【図4】本実施形態におけるバーの断面図である。
【図5】図1のバー塗布装置の下流側堰部材近傍の拡大断面図である。
【図6】本実施形態の下流側堰部材の変形例を示す拡大断面図である。
【図7】本実施形態のバー塗布装置を組み込んだ光学補償シートの製造ラインの説明図である。
【図8】従来のバー塗布装置を説明する側面断面図である。
【符号の説明】
【0080】
10…バー塗布装置、12…バー塗布ヘッド、14、16…ガイドローラ、18…ウエブ、20…バー、22…バー受け部材、24、26…給液路、28…上流側堰部材、30…下流側堰部材、30A…スライド面、32…マニホールド、34…スリット、36…1次側ビード、38…2次側ビード、40…バーの芯金、42…ワイヤー、44…ワイヤー列、22A…バー支持面、50…液溜り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する帯状体に塗布液を塗布するバーと、
前記バーの下側に設けられ、該バーを回転自在に支持する支持部材と、
前記支持部材を介して帯状体走行方向の上流側、下流側にそれぞれ隣設され、前記支持部材との間にそれぞれ塗布液を供給するスリットを形成する上流側堰部材及び下流側堰部材と、を備え、
前記下流側堰部材の前記帯状体と対向する斜面の傾斜角度は5〜30度であることを特徴とするバー塗布装置。
【請求項2】
前記塗布液の粘度をη(cp)、密度をρ(kg/m)、重力加速度をg(kgf/秒)とし、前記下流側堰部材の斜面を流れる塗布液の流量q(m/秒)、前記傾斜角度をα(°)としたとき、前記下流側堰部材の斜面の傾斜角度αは下記式1を満たすように設定されたことを特徴とする請求項1に記載のバー塗布装置。
sinα ≧ 3・η・q/{ρ・g・(4×10−4} …(式1)
【請求項3】
前記下流側堰部材の斜面のうち前記スリットに近い側から少なくとも10〜80mmの範囲を前記傾斜角度にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のバー塗布装置。
【請求項4】
前記バー支持部材の頂点と前記下流側堰部材の頂点との水平方向の離間距離が1mm以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のバー塗布装置。
【請求項5】
前記下流側堰部材の頂点は、前記バー支持部材の頂点よりも低いことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のバー塗布装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のバー塗布装置を用いて走行する帯状体に塗布液を塗布することを特徴とする塗布方法。
【請求項7】
前記下流側堰部材の頂点と前記帯状体の表面との離間距離は2mm以下であることを特徴とする請求項6に記載の塗布方法。
【請求項8】
予めラビング処理した配向膜層が形成された帯状体上に、液晶性ディスコティック化合物を含有する塗布液を塗布した後、該塗布した塗布面を乾燥させて光学異方性層を形成する光学フィルムの製造方法であって、
前記塗布液は、請求項1〜5の何れか1項に記載のバー塗布装置により塗布することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−72646(P2009−72646A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241179(P2007−241179)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】