説明

パッシブRFIDタグの三次元位置を高精度に計測する方法

【課題】
パッシブRFIDタグの3次元位置を高精度で測定する。
【解決手段】
質問器からの電波AとRFIDタグの応答電波Bの到達時間差から求まる距離と電波Aと電波Bの位相差から求まる1波長内の距離との合成から、質問器からの距離を求め、3台の質問器を使用する事で、3次元位置を高精度で計測すると共に、RFIDタグの特性の違いによる誤差を、個体情報としてRFIDタグに書き込み、補正情報として使用する事で、より高精度な測定結果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質問器からの電波AとRFIDタグの応答電波Bの到達時間差から求まる距離と、電波Aと電波Bの位相差から求まる1波長内の距離との合成から、質問器からの距離を求め、3台の質問器を使用する事で、3次元位置を高精度で計測する方法である。
【0002】
製造ロットで異なるRFIDタグの応答する迄の時間の差は、位相差に影響し、RFIDタグを交換した時の測定距離の誤差の原因となる為、RFIDタグに特性データを書き込み、質問器が読み取る事で補正を行う。
【背景技術】
【0003】
従来から、質問器からの電波とRFIDタグの応答電波の到達時間差から距離を求める方法は有ったが、波長より短い距離を計測するには、波長を必要な精度に分割するクロックが必要で、2.45GHz帯を超えてのディジタルカウントは、事実上不可能である。この波長内距離を求める為に、送信波と応答波の位相差を検出し、位相差に応じた長さを、時間差で求まる距離と合成する事で、波長より短い距離精度で位置計測を可能にするもので有る。尚、位相差だけでは、1波長を越えての位置は計測出来ないので、到達時間から求まる距離との合成が必要である。
【0004】
3台の質問器の1つから送信し、RFIDタグは受信したら、信号を連続送信する。3台の質問器の受信機は、RFIDタグからの応答を受信し、時間差と位相差から、それぞれの位置からRFIDタグ迄の距離を算出する。
【0005】
1台の質問器からの送信で距離の計測は可能で有るが、RFIDタグには指向性が有る為、3台の質問器が順に送信を行う事で、指向性による無応答を回避する。
【0006】
質問器1の座標をP1とし、RFIDタグまでの距離をR1とすると、RFIDタグは、P1を中心とする半径R1の球上に位置していると考えられる。同様に質問器2と3の球を求める。これら3つの球の重なる点から、地震の震源を算出するのと同じ原理で、3次元空間上のRFIDタグの位置を決定出来る。これは、水平平面上に質問器を配置しても、高低を含めて、位置の決定が行える事を意味している。
【0007】
応答電波の強度で位置計測を行うのでは無い為、RFIDタグの送信レベルや障害物による電波の減衰は、問題とされない。
【0008】
RFIDタグにその個体識別IDコードを質問器から発信し、その識別IDコードのRFIDだけが応答するので、複数のRFIDタグの位置計測が可能で有る。
【0009】
RFIDタグ内の処理回路の遅れ時間の個体差が、応答時間や位相差に影響し、画一的条件では、誤差として現れてしまう。この対策として、RFIDタグの固有情報をRFIDタグ内に記録し、質問器で情報を読み取る事で補正を行い、RFIDタグの個体差を無くす事が可能である。
【0010】
変調方式は、位相差の検出を行う都合上、ASK方式を採用する。周波数を変調するFSKやMSK及び位相変調のPSKでは位相差が求められない為、使用出来ない。
【0011】
2.45GHz帯で行う場合は、無線LAN、携帯電話や電子レンジの周波数帯と同じで有り、原理上これ等の干渉を防ぐ事が不可能な関係上、電磁的に遮断された場所で行う必要が有る。又、水分や金属の影響を受け易いので、考慮する必要がある。
【特許文献1】特許公開2002−39714
【特許文献2】特許公開平7−218634
【特許文献3】特許公開2007−127503
【特許文献4】特許公開2006−343309
【非特許文献1】RF/IFゲインおよび位相検出器 AD8302 アナログデバイセス
【非特許文献2】地球科学ハンドブック 力武常次著 聖文社
【非特許文献3】震源の位置と断層運動の推定 防災科学技術研究所 http://www.hinet.bosai.go.jp/about_earthquake/sec3.1.htm
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
計測は次の手順で行われる。
3台の質問器の1台からRFIDタグ識別コードとそれに続いて連続波を送信する。
自分の識別コードを検出したRFIDタグは、連続波を応答送信する。
RFIDタグからの応答波を受信した3台の質問器は、発信した質問器のタイミングに同期して応答時間を計測する。
応答時間からRFIDタグ固有の処理時間を差し引き、実際の電波の往復時間とする。往復時間の半分から距離を求める。
同時に、送信波と応答波の位相を検出し、360度を100%とする位相度数の割合から、1波長の位相分の長さを求める。
求められた距離と長さを加算して、質問器とRFIDタグ間の距離とする。
距離が求まると、質問器からの連続波を停止する。
連続波の停止は、RFIDタグの指向性による無応答が考えられるので、タイムアウトでも停止する。
続いて、次の質問器が働き、同様の測定を順に繰り返す。
質問器が1台だけの場合、距離は求まるが、質問器からの距離を半径とする球面上の何所かであり、座標を特定する事は出来ない為、3台の質問器を使用する。
【0013】
求まった3台の質問器からRFIDタグまでの距離から、RFIDタグの位置を特定する。
3台の質問器の座標値を、P1(X1、Y1、Z1)、P2(X2、Y2、Z2)、P2(X3、Y3、Z3)とする。
3台の質問器からRFIDタグ迄の距離をR1、R2、R3とする。
P1を中心とする半径R1の球とP2を中心とする半径R2の球とP3を中心とする半径R3の球の3つの球の交点が求まるRFIDタグの座標値となる。
次式の解が求める座標値P0(X、Y、Z)となる。
(X−X1)^2+(Y−Y1)^2+(Z−Z1)^2=R1^2
(X−X2)^2+(Y−Y2)^2+(Z−Z2)^2=R2^2
(X−X3)^2+(Y−Y3)^2+(Z−Z3)^2=R3^2
但し、^2は二乗を表す。
この3つの式は、R1、R2、R3に誤差の無い場合に成立し、測定誤差を含む実測値には、適用出来ない。この式で解くには、右辺と左辺の差が極小となる様に、多数の測定点から最少二乗法で求めなければならない。
質問器は3台と、最小構成としていて、最小二乗法では解く事が出来ない為、下記手順で、RFIDタグの位置を求める。
図1を参考にして説明する。
3台の質問器の座標値を含む面Sを作成する。
半径R1、R2、R3の大円を平面Sに描く。
半径R1とR2の円と円の2箇所の交点を結ぶ平面S上の線をL1とする。
半径R2とR3の円と円の2箇所の交点を結ぶ平面S上の線をL2とする。
L1とL2の交点をPc(Xc、Yc、Zc)とする。
Pcから面Sの法線を延ばし、半径R3の球と交わる点P0を求める。P0が求めるRFIDタグとなる。
半径R3とR1の2箇所の円と円の交点を結ぶ平面S上の線をL3としても、L1とL2とL3の交点は一箇所に集まる事は証明されているので、2線の交点だけを求めれば済む。
L1又はL2の求まらない場合は、L3をL1又はL2と入れ換えて求める。
R1、R2、R3が小さく、2つ以上の交点を結ぶ線が求められなかった場合は、2半径に定数を掛けて半径を大きくして求める。比率が同じで有れば、2円の交点を通る直線は変わらない事から、半径を大きくした状態で円と円の交点2箇所から、平面S上の線を求める。但し、法線と交わる球の半径は原寸を使用する。
Pcからの法線と交わる球の交点P0は、平面Sの表と裏の2箇所有り、どちらの点であるか特定は出来ない。
本発明では、面の表裏どちらか片方で計測を行わなければならない制限が有る。
この制限は、質問器の配置を測定対象構造体の最下面なり最上面、又は側面に配置する事で、それを越えての測定は必要無いので、実用上問題とは成らない。
【0014】
個体情報のRFIDタグへの記録は次の手順で行われる。
RFIDタグを質問器の前に置き、3次元実距離を測定して置く。
質問器から距離測定コマンドを送り、応答時間と位相差から距離を算出する。
算出した距離と実距離を比較し、誤差が有れば、定数変更コマンドを送り、RFIDタグの個体情報を書き換え、再度距離を算出する。
これを繰り返して、最適値を求める。
定数変更時、RFIDタグは固定したままで、動かす必要は無い。
この一連の作業は、最適化プログラムを組む事で、自動的に行われる。
【実施例】
【0015】
発明実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1において、1、2、3の質問器P1、P2、P3は、実験構造物の下面に設置され、6の集中制御装置MCから、伝送特性の揃った、同じ長さのケーブルにより、発振周波数と制御線及び通信線が接続されている。
P1、P2、P3の質問器を中心とした円は、3台の質問器の座標を含む平面上に広がる、RFIDタグまでの距離を半径R1、R2、R3とした大円である。
質問器は、集中制御装置の指示で、距離測定コマンドを送信する。
実験動物に取り付けたRFIDタグ4が応答すると、質問器は、応答までの時間と電波の位相差から、各質問器とRFIDタグまでの距離を算出し、集中制御装置に送る。
集中制御装置は、3台の質問器から距離を収集し、RFIDタグの3次元座標を決定して、パソコン等の解析システムに送信する。
集中制御装置は、次の質問器に送信指示を行い、順に測定を繰り返す。
【0017】
図2を参照して、質問器の動作原理を説明する。
3台の質問器は、図3の集中制御装置から27と28の通信ポートでカスケード接続されている。
3台の質問器は、それぞれ独自のデバイスコードを持ち、集中制御装置から選択され、コマンドに従い動作する。
25と26のSW1及びSW2は、外部OSCと外部START信号を使用するか、質問器内蔵の11のOSC及び22のμCPUのSTART信号を使用するかを切り換えるスイッチである。システム構成時は、どちらか片方だけで、両信号を同時に使用する事は無い。集中制御装置側にすると、3台の質問器の距離測定の同時性が保証され、高速移動物体の測定が行える。質問器内蔵側にすると、同時性は失われるが、数時間掛けて低速移動する腸内カプセル監視等に、低価格で構成する事が出来る。
外部でも内蔵でもOSCは常時発振している。
【0018】
17のPH1及び18のPH2の位相差検出器は、非特許文献1のICで、2入力信号の位相差と振幅比を出力する2つの機能を持つ。PH2では、振幅比出力は使用しない。
【0019】
集中制御装置から通信ポートで発信指定された質問器は、連続送信要求とRFIDタグのIDを含む送信コードを、10のシフトレジスタSRに設定する。
START信号は、CNTをリセットすると共に、シフトレジスタSRのシフトを開始し、OSCの周波数に同期してレジスタ内容を9の振幅変調器MDに送り出す。ベースバンド変調された信号は、7のアンテナATから送信される。
【0020】
同時に13のカウンタCNTがOSCに同期してカウントアップし、時間計測を始める。12のSH1及び15のSH2は、アナログ信号をディジタル信号に変換する回路である。
【0021】
RFIDタグからの応答信号がアンテナATで受信されると、8のサーキュレータで信号分離され、14の増幅器AMPを通して、カウンタCNTをSTOPさせる。
【0022】
17の位相差検出器PH1の振幅比の出力電圧は、20のAD2でディジタル値に変換されてμCPUに読み込まれる。この振幅比は、SH2でのディジタル変換時に、受信波の減衰状態で、信号検出レベルに波形が達するまでの時間に違いが出る事を、補正する為に参照される。
【0023】
OSCとAMPの出力信号は、17の位相差検出器PH1で送信波と受信波の位相差が取り出される。位相差は19のAD1で波長内距離計算用としてディジタル値に変換されてμCPUに取り込まれる。
【0024】
OSCの位相を16のPSの移相器で90度位相をずらし、18の位相差検出器PH2で送信波と受信波の位相差を取り出し、21のAD3でAD1と同様に、波長内距離計算用としてディジタル値に変換して、μCPUに取り込む。この値と、PH1と合わせる事で、位相検出範囲が180度までの制限の有る特性を360度に拡張し、かつ0度又は180度近辺での非直線性を相補する。
【0025】
μCPUは、STOP信号を受けると、CNT、AD1、AD2及びAD3のデータからRFIDタグ迄の距離を計算し、集中制御装置に送信する。
【0026】
集中制御装置から発信指定されなかった質問器は、START信号でCNTをリセットする。
受信信号は、発信指定された質問器と同じ処理がされる。
【0027】
内部信号を用いる場合は、図3の集中制御装置で指定された質問器だけが、内蔵OSCと内蔵START信号で送受信し、他の2台の質問器は、送受信処理を行わない。集中制御装置は、3台の質問器を順に指定して、RFIDタグまでの距離を、R01、R02、R03、R11,R12、R13・・・の順に測定すると、RFIDタグの3次元位置の計算は、(R01、R02、R03)→(R02、R03、R11)→(R03、R11、R12)と、質問器の順送りで求める事で、3データ単位での計算に比べ、高速にRFIDタグの移動に追従出来る様になる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
小動物にRFIDタグを取り付ける事で、その生態行動を暗視下でも記録し、調べる実験が行える。従来から電波の発信機や蛍光発光体を付けての実験は行われていたが、小動物に付けるには、形状及び重量に問題が有った。2.45GHzのパッシブRFIDタグは、ミリ単位のサイズであり、電池も不要である為、実験動物への負担が軽減出来る。
【0029】
小動物に限らず、昆虫など虫の行動にも対応可能である。
【0030】
同時に複数のRFIDタグの使用が可能なので、動物の前後に取り付けると、移動方向だけでなく、向きを変えた場合の回転の様子が観察出来る。
【0031】
同時に複数のRFIDタグの使用が可能なので、複数の動物に取り付ける事で、群行動の観察が行える。
【0032】
3次元方向の位置が測定出来るので、平面的な経路だけでなく、立体的行動範囲の実験が可能となる。
【0033】
電波障害の無い環境で有れば、動物に限らず、開放及び隠蔽場所内の移動物体の3次元的行動監視が可能となる。
【0034】
実験構造物の構造図と重ね合わせる事で、現在位置をリアルタイムで知る事ができるので、その場面に対応する操作が行える。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本装置の実施構成図である。
【図2】質問器の構成図である。
【図3】集中制御装置の構成図である。
【図4】RFIDタグ内の処理フローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 質問器1番 (P1)
2 質問器2番 (P2)
3 質問器3番 (P3)
4 実験動物に取り付けたRFIDタグ (P0)
5 実験構造物
6 集中制御装置 (MC)
7 アンテナ (AT)
8 サーキュレータ
9 変調器 (MD)
10 シフトレジスタ (SR)
11 搬送波発振器 (OSC)
12 波形整形器 (SH1)
13 時間測定カウンタ (CNT)
14 増幅器 (AMP)
15 波形整形器 (SH2)
16 90度移相器 (PS)
17 位相差+振幅値検出器 1 (PH1)
18 位相差+振幅値検出器 2 (PH2)
19 位相差用AD変換機 1 (AD1)
20 ゲイン補正AD変換機 (AD2)
21 位相差用AD変換機 2 (AD3)
22 マイクロコンピュータ (μCPU)
23 外部START入力ポート
24 外部OSC入力ポート
25 内蔵OSC・外部OSC切換スイッチ (SW1)
26 内部START・外部START切換スイッチ (SW2)
27 カスケード通信入力ポート
28 カスケード通信出力ポート
29 質問器間通信ポート
30 PC間通信ポート
31 外部START出力ポート(3台の質問器へ)
32 外部出力用OSC (OSC)
33 外部OSC出力ポート(3台の質問器へ)
34 マイクロコンピュータ (μCPU)























【特許請求の範囲】
【請求項1】
質問器から送信した電波に対する、パッシブRFIDタグの応答電波を質問器で受信し、反射時間と位相差の合成により距離を出し、3台の質問器を使う事で、RFIDタグの三次元位置を高精度に計測する方法。
【請求項2】
RFIDタグの応答遅延時間情報をタグ自身に記録し、質問器で読み取り補正する事で、RFIDタグの個体差をなくする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−270901(P2009−270901A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120850(P2008−120850)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(708000683)
【Fターム(参考)】