説明

パティキュレートフィルタの異常検出装置

【目的】パティキュレートフィルタの異常の有無を判断するための、電気抵抗式の排出微粒子センサを用いた新規な手法を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジンの排気管2に設けたパティキュレートフィルタDPFから、異常時にすり抜ける微粒子状物質PMを、電気抵抗式のPMセンサ1にて検出する。パティキュレートフィルタDPF上流の排出ガスの流量または圧力を検出する流量/圧力検出手段を設け、電子制御ユニットECUは、排出ガスの流量または圧力が異なる2つの運転状態において、PMセンサ1の検出部100の出力値変化を比較し、その差分値または比の値が所定値を超えた時に、パティキュレートフィルタの異常と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内燃機関の排出ガス中に存在する微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタの異常検出装置に関し、特に、電気抵抗式の排出微粒子センサを用いて、パティキュレートフィルタをすり抜ける微粒子状物質の量を検出することにより破損等の異常を検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用ディーゼルエンジン等において、排出ガスに含まれる環境汚染物質、特に微粒子状炭素(Soot)および可溶性有機成分(SOF)を主体とする微粒子状物質(Particulate Matter;以下、適宜PMと称する)を捕集するために、排気通路にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、適宜DPFと称する)を設置することが行われている。DPFは、一般に、耐熱性に優れる多孔質セラミックスからなり、多数の細孔を有する隔壁に排出ガスを通過させてPMを捕捉する。さらに、PM捕集量が規定量を超えると、ヒータ加熱あるいはポスト噴射等により高温の燃焼排気ガスをDPF内に導入し、PMを燃焼除去してDPFを再生させる。
【0003】
再生時期の判断には、例えば、PM捕集量の増加により前後差圧が増大することを利用することができ、差圧センサの検出結果に基づいてPM捕集量を検出している。また、DPFの破損などで排ガスの流通に異常が生じると、前後差圧が正常な場合に比して変化するため、これを利用してDPFの異常検出を行い得る。一般に、DPFの前後差圧が所定値を下回ったら破損により排ガスが漏れているものと判断する。また、特許文献1には、前後差圧に基づいて演算されたPM堆積量と、エンジン運転状態から知られるPM排出量の積算により算出されたPM堆積量とを比較し、両者に大きな不整合が生じたらDPF4の異常と判定する装置が記載されている。
【0004】
一方、排出ガス中のPMを直接検出するための電気抵抗式のセンサが提案されており、これをDPFの上流に設置して、DPFに流入するPM量を測定し、あるいはDPFの下流に設置して、DPFをすり抜けるPM量を測定するシステムが検討されている。前者は差圧センサに代わる再生時期の判断に、後者は、DPFの作動状態の監視、劣化や破損等の判断に利用される。近年は、環境汚染防止のために、車載式故障診断装置(OBD;On Board Diagnosis)の設置が義務付けられており、後者の重要性が増している。
【0005】
電気抵抗式のセンサは微粒子状炭素が導電性を有することを利用したもので、特許文献2、3には、耐熱性を有する絶縁性基板の表面に、一対の導電性電極を形成した基本構成が開示されている。このセンサを、PMが含まれる排出ガスの通路に配置すると、検出部となる電極間に、微粒子状炭素が付着することによる抵抗値の変化から、PMを検出することができる。なお、PMを検出する技術としては、他に触媒と熱電対を用いてPMの酸化反応による発熱を検出するセンサや、波長可変ダイオードレーザを用いて排出ガスの化学種や温度をモニタリングする方法が知られるが、電気抵抗式のセンサは、簡易な構成で比較的安定した出力が得られる利点がある。
【0006】
故障診断については、特許文献4に、電気抵抗式のセンサを用いてDPFの破損状態を検出するシステムが例示されている。特許文献4の装置では、DPF下流の排気通路に、PMが付着する電気絶縁層と、該電気絶縁層に相互に離間して設けた複数の電極と、ヒータ層を有するセンサを配置し、複数の電極間の電気抵抗値に相関する指標を計測して、計測値が所定基準より小さくなるとDPF故障と判定するECUを備えた故障判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−344619号公報
【特許文献2】特公平2−44386号公報
【特許文献3】特開昭59−196453号公報
【特許文献4】特開2009−144577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
微粒子状炭素が堆積すると電極間が導通し、当初の絶縁状態から抵抗値が低下するので、特許文献4では、この関係から故障判定閾値(所定基準)を求め、モニタした電極間抵抗値と比較する。閾値は、例えばOBD規制値を基準にして設定される。特許文献1のように、前後差圧に基づく方式に対して、特許文献4の装置は、DPFをすり抜けるPM量を直接検出するので、クラック等の軽微な故障についても精度よく判定を行うことが期待される。
【0009】
しかしながら、DPFに異常がない状態でも、わずかながらDPFをすり抜けるPMが存在すると、電気絶縁層に付着するPM量は徐々に増加する。このため、予め実験等を行ってPM堆積量と電気抵抗値(もしくは変化量)の関係を調べておく必要があるだけでなく、さらに、正常な状態での検出量を予め調べて特定しておき、算出したPM量と比較することによって、DPFによる捕集が正常に行われているかどうかを判断することになる。
【0010】
ところが、エンジンからの排出ガスに含まれるPM量は、運転状態(負荷や回転数)によっても大きく変化する。PMが増加する傾向は、負荷が高くなるほど、例えば、エンジン始動時のような低回転数から高回転数までの全域でPM量が多くなる。また出力領域まで回転数が高くなるとPM量が増加する傾向がある。さらに運転状態によって、排出されるPMの性状や粒子分布が変動すると、DPFをすり抜けるPM量も変動する。そのため、DPFの性能低下や破損の有無を判定するには、運転状態に対して予め求めておいたPM量マップと現在のPM量を比較することになるが、全運転領域をマップ化することは容易でない。また、DPFへのPM堆積状態によっても、PMのすり抜け量は変動することから、PM堆積量との関係もマップ化する必要があり、格納するマップ量を増大する上、故障判定の工程も煩雑になる問題がある。
【0011】
そこで本発明は、内燃機関の排出ガスを処理するDPFの異常の有無を判断するための、電気抵抗式の排出微粒子センサを用いた新規な手法を提供し、簡易な構成で、大量のマップや煩雑な補正処理の必要がなく、応答性および精度の高い異常検出装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に記載の発明は、
内燃機関の排気通路において、排出ガス中の微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタの下流に設置されて、排出ガス中の微粒子状物質の量を検出する排出微粒子センサと、
上記パティキュレートフィルタの上流の排気通路における排出ガスの流量または圧力を検出する流量/圧力検出手段と、
上記流量/圧力検出手段および上記排出微粒子センサの検出結果に基づいて、上記パティキュレートフィルタの異常を検出する異常検出部を備え、
上記排出微粒子センサは、絶縁性基体の表面に一対の検出電極を形成した検出部を有し、上記一対の検出電極間に付着する微粒子状物質の量に応じて電気抵抗値が変化する構成であり、
上記異常検出部は、上記排出ガスの流量または圧力が異なる2つの運転状態における、上記排出微粒子センサの出力値変化を比較し、その差分値または比の値が所定値を超えた時に、パティキュレートフィルタの異常と判定する判定手段を備える。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明において、上記異常検出部は、異常検出開始時の運転状態における上記排出ガスの流量または圧力を、第1の流量/圧力条件として、上記排出微粒子センサの所定期間における出力値変化を測定し、次いで、第1の流量/圧力条件との差が予め設定した流量または圧力となるように、例えば、第1の流量/圧力条件よりも流量が大きいまたは圧力が高い第2の流量/圧力条件を設定して、該第2の流量/圧力条件における上記排出微粒子センサの所定期間における出力値変化を測定する。また、第1の流量/圧力条件が大きいまたは高い場合は、第2の流量/圧力条件を第1の条件より流量が小さいまたは圧力が低い条件に設定して、該第2の条件にて上記排出微粒子センサの所定期間における出力値変化を測定する。
【0014】
本発明の請求項3に記載の発明において、上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件において、上記排出微粒子センサの所定期間における第1の出力値変化を測定した後、上記流量/圧力検出手段の検出結果が上記第2の流量/圧力条件になるまで待機し、上記第2の流量/圧力条件となった時に、上記排出微粒子センサの所定期間における第2の出力値変化を測定して、これら第1および第2の出力値変化に基づいて異常を判定する。
【0015】
本発明の請求項4に記載の発明は、
上記パティキュレートフィルタの上流の排気通路における排出ガスの流量または圧力を調整する流量/圧力調整手段を備えており、
上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件において、上記排出微粒子センサの所定期間における第1の出力値変化を測定した後、上記流量/圧力検出手段の検出結果を監視し、所定期間内に上記第2の流量/圧力条件にならなかった時に、上記流量/圧力調整手段を用いて強制的に上記第2の流量/圧力条件に調整して、上記排出微粒子センサの所定期間における第2の出力値変化を測定し、これら第1および第2の出力値変化に基づいて異常を判定する。
【0016】
本発明の請求項5に記載の発明において、上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件における流量または圧力と、上記第2の流量/圧力条件における流量または圧力の差を、予め設定した所定値とする。
【0017】
本発明の請求項6に記載の発明において、上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件における流量または圧力と、上記第2の流量/圧力条件における流量または圧力の差を、運転状態に応じて設定する。
【0018】
本発明の請求項7に記載の発明において、上記排出微粒子センサは、上記排気通路に位置する上記絶縁性基体の先端部表面に、櫛歯状の上記一対の検出電極とリード部を形成して上記検出部とし、上記絶縁性基体の先端部裏面に、ヒータ電極およびリード部を形成して、上記検出部を所定温度に加熱するヒータ部とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1に記載の発明は、電気抵抗式の排出微粒子センサを用いた新規な手法によりパティキュレートフィルタの異常検出を行う。排出ガスがパティキュレートフィルタ内に流入すると、微粒子状物質がパティキュレートフィルタを構成する多孔質セラミックスの細孔に捕集され、堆積していく。パティキュレートフィルタに破損等の異常が生じると、破損部からパティキュレートフィルタをすり抜けて下流の排出微粒子センサに流入する微粒子状物質の量が多くなるので、異常検出部は、排出ガスの流量または圧力が異なる2つの運転状態において、それぞれセンサ出力値を得る。これは、異常時には、正常時に比べてすり抜ける微粒子状物質は比較的粗大な粒子が多くなり、流量または圧力の変化に対してすり抜ける微粒子状物質の量、排出微粒子センサの検出部への付着率が変化し、出力変化が急になることに着目したものである。
【0020】
このため、これら2水準の流量または圧力で検出されたセンサ出力値は、パティキュレートフィルタに異常がある場合、その差分値または比の値が正常な場合に比べて大きくなる。したがって、これら出力値を比較することで、パティキュレートフィルタが正常に機能しているかどうかを容易に判定することができる。よって、簡易な構成で、大量のマップや煩雑な補正処理が不要であり、応答性よく高精度な異常検出装置を実現できる。
【0021】
本発明の請求項2に記載の発明のように、具体的には、異常検出開始時の流量/圧力検出手段の検出結果を、第1の流量/圧力条件とし、第1の流量/圧力条件との差が予め設定した流量または圧力となる上記第2の流量/圧力条件を設定するのがよい。流量または圧力の増大により、パティキュレートフィルタを微粒子状物質がすり抜けやすくなり、すり抜け量の増加および粗大粒子の比率が多くなることにより、出力が大きく変化するので、正常時の出力変化と比較することで、効果的に異常検出ができる。
【0022】
本発明の請求項3に記載の発明のように、運転状態の変化により流量または圧力は変動するので、第1の流量/圧力条件にて第1の出力値変化を測定した後、予め設定した第2の流量/圧力条件になるまで待機することで、容易に異常判定を行なうことができる。
【0023】
本発明の請求項4に記載の発明のように、あるいは、流量/圧力調整手段を用いて、強制的に第2の流量/圧力条件とすることもできる。この時、流量/圧力調整手段を作動させる前に所定期間待機し、待機中に第2の流量/圧力条件まで変化した場合には、流量/圧力調整手段を作動させることなく第2の出力値変化を測定する。これにより、運転状態への影響を最小限とし、効率よく異常判定を行なうことができる。
【0024】
本発明の請求項5に記載の発明のように、第1の流量/圧力条件に対して、第2の流量/圧力条件を決定するための所定値を、予め設定しておくことができる。例えば、通常走行時には流量/圧力が20%以上増加していれば、異常な出力変化を検出可能であるので、この値を適宜設定しておくことで、簡易かつ効果的に異常判定を行なうことができる。
【0025】
本発明の請求項6に記載の発明のように、第2の流量/圧力条件を決定するための所定値を、運転状態に応じて設定または補正するようにしてもよい。例えば、低負荷運転時には排出微粒子中の炭化水素(HC)成分が増え、パティキュレートフィルタに付着しやすくなる。換言すれば微粒子状物質がすり抜けにくくなるので、第1の流量/圧力条件と第2の流量/圧力条件の差をより大きくすることで、精度よく異常判定を行なうことができる。
【0026】
本発明の請求項7に記載の発明のように、排出微粒子センサの検出部は、絶縁性基体に設けた一対の櫛歯状検出電極にて容易に形成される。好適には、絶縁性基体の裏面にヒータ部を形成して、検出部を所定温度範囲に加熱すると、抵抗値変化量を大きくかつ検出可能時間比率が増加でき検出精度を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態において、異常検出部となる電子制御ユニットが備える判定手段の内容を示すフローチャートである。
【図2】本発明の異常検出装置が適用されるディーゼルエンジンのシステム全体概略図である。
【図3】PMセンサの主要部であるPM検出素子構成を示す図である。
【図4】PMセンサをディーゼルエンジンの排気管に取り付けた状態を示す図である。
【図5】PM堆積量と電極間抵抗値の関係を示す図である。
【図6】ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流側の排気管における排気圧力Pと、PMセンサの出力の関係を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態において、異常検出部となる電子制御ユニットが備える判定手段の内容を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態において、異常検出部となる電子制御ユニットが備える判定手段の内容を示すフローチャートである。
【図9】本発明の異常検出装置の出力例であり、本発明のPMセンサの検出部の昇温度と抵抗変化率の関係を、正常時と異常時とで比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のパティキュレートフィルタの異常検出装置を、内燃機関である自動車用ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムへ適用した第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。図2は、過給装置付きディーゼルエンジンE/Gのシステム全体概略図で、各気筒に共通のコモンレールRに、高圧ポンプPMPにて昇圧した高圧燃料を所定の噴射圧となるように蓄圧するコモンレール燃料噴射システムを採用し、インジェクタINJによって燃焼室内に直接噴射する直噴エンジンとして構成されている。内部を排気通路とする排気管2には、パティキュレートフィルタであるディーゼルパティキュレートフィルタDPFと、排出微粒子センサであるPMセンサ1が設けられ、異常検出部となる電子制御ユニットECUとともに、本発明のパティキュレートフィルタの異常検出装置を構成している。図1は、電子制御ユニットECUによる異常検出処理のフローチャートで、詳細は後述する。
【0029】
図2において、ディーゼルエンジンE/Gの排気マニホールドMHEXには、ターボ過給装置TRBのタービンTRBが設けられ、タービンTRBに連動してコンプレッサTRBが回転すると、圧縮された空気が、吸気スロットルVTH、インタクーラCLINTを通過して吸気マニホールドMHINに送られる。排気マニホールドMHEXから排出される燃焼排気の一部はEGR弁VEGRおよびEGRクーラCLEGRを介して吸気マニホールドMHINに還流する。電子制御ユニットECUは、タービンTRBに設けたノズルベーン(VN)開度を調整することで、過給圧を制御し、EGR弁VEGRの開度を調整することで、EGR還流量を制御する。過給により吸気量を増大して燃焼効率を高め、EGRにより燃焼を緩やかにしてNOx等の排出を抑制する。コンプレッサCPR上流の吸気管3には、吸入される新気の流量を計測するエアフローメータAFMが設けられる。
【0030】
吸気スロットルVTH、EGR弁VEGR、過給装置TRBは、本発明のパティキュレートフィルタの異常検出装置において、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排出ガスの流量または圧力を調整するにおける流量/圧力調整手段として機能する。
【0031】
排気マニホールドMHEXに接続する排気管2には、ディーゼル酸化触媒DOCおよびディーゼルパティキュレートフィルタDPFが設けられ、燃焼排気ガスを処理する。すなわち、排気管2に排出された燃焼排気ガスは、上流側のディーゼル酸化触媒DOCを通過する間に、未燃焼の炭化水素HC、一酸化炭素COおよび一酸化窒素NOが酸化され、下流側のディーゼルパティキュレートフィルタDPFを通過する間に、微粒子状物質PMが捕集される。NOx除去には、例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの後段に、図略の選択触媒還元SCR等が設けられて、NOxをNとHOに還元して除去する。
【0032】
ディーゼル酸化触媒DOCは公知のモノリス担体、例えばコーディエライト等のセラミックスハニカム構造体よりなる担体表面に、酸化触媒を担持してなる。ディーゼル酸化触媒DOCは、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの強制再生時に、供給される燃料の酸化燃焼により排気温度を上昇させ、あるいは微粒子状物質PM中のSOF成分を酸化除去する。また、NOの酸化により生成するNOは、後段のディーゼルパティキュレートフィルタDPFに堆積した微粒子状物質PMの酸化剤として使用され、連続的な酸化を可能にする。
【0033】
ディーゼルパティキュレートフィルタDPFは、公知のウォールフロータイプのフィルタ構造を有する。例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスよりなる多孔質セラミックスハニカム構造体を成形し、ガス流路となる多数のセルの入口側または出口側のいずれか一方を、隣接するセルで互い違いになるように目封じしてフィルタとする。この時、ガス流路を区画するセル壁を貫通して多数の細孔が形成され、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに導入される排出ガス中の微粒子状物質PMを捕獲する。なお、ここでは、ディーゼル酸化触媒DOCとディーゼルパティキュレートフィルタDPFを別体に設けているが、これらを一体化した連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタとして構成することもできる。
【0034】
本実施形態では、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに堆積した微粒子状物質PMの量(PM捕集量)を知るために、差圧センサSPが設けられる。差圧センサSPは、圧力導入管を介してディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上流側および下流側と接続されており、その前後差圧に応じた信号を電子制御ユニットECUに出力する。差圧センサSPに代えて、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上流側および下流側にそれぞれ圧力センサを設置することもできる。また、ディーゼル酸化触媒DOCの上流および、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上下流には、温度センサST1、ST2、ST3が配設されて、各部の排気温度を監視している。電子制御ユニットECUは、これら出力に基づいてディーゼル酸化触媒DOCの触媒活性状態やディーゼルパティキュレートフィルタDPFのPM捕集状態を監視し、PM捕集量が許容量を超えると、強制再生を行って微粒子状物質PMを燃焼除去する再生制御を実施する。
【0035】
電子制御ユニットECUによる再生制御では、例えばポスト噴射等を行って排気中のHCを増量し、ディーゼル酸化触媒DOCでのHC反応熱によりディーゼルパティキュレートフィルタDPFの温度を、微粒子状物質PMの燃焼温度以上に上昇させる。この時、温度センサST2、ST3によりディーゼルパティキュレートフィルタDPFの入ガス温度、出ガス温度を監視して、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFが所定の温度範囲となるように制御する。微粒子状物質PMが自然燃焼可能な運転条件では、再生制御を実施しない設定とすることで、燃料消費を抑制することもできる。電子制御ユニットECUは、さらに図示しない各種センサからの検出信号が入力しており、これら信号に基づく最適な燃料噴射量、噴射時期、噴射圧等を算出して、燃料噴射を制御する。
【0036】
ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの下流の排気管2には、PMセンサ1が配置されて、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFをすり抜ける微粒子状物質PMを検出する。図3は、PMセンサ1の主要部であるPM検出素子10を示す図であり、図4は、PM検出素子部10を含むPMセンサ1を排気管2に取り付けた状態を示す図である。図3において、PM検出素子10は、絶縁性基体である絶縁基板13表面に一対の検出電極11、12を形成した検出部100と、一対の検出電極11、12と外部の抵抗計測手段とを導通させるリード部111、121と、検出部100の裏面側に積層されて、これを所定温度(例えば400℃〜600℃程度)に加熱するためのヒータ部300を有している。
【0037】
検出部100は、アルミナ等の電気絶縁性および耐熱性に優れたセラミック材料をドクターブレード法、プレス成形法等の公知の手法を用いて平板状の絶縁基板13に形成し、その先端部表面に、所定の電極間距離をおいて一対の櫛歯形状の検出電極11、12を対向配設させてなる。検出電極11、12は、例えば白金等の貴金属を含む導電性ペーストを、所定のパターンに印刷して形成される。ヒータ部300は、同様にして形成した平板状の絶縁基板33と、その先端部表面に所定パターンで形成したヒータ電極30からなり、リード部31、32によって外部の通電手段に接続されている。
【0038】
図4において、PMセンサ1は、排気管2の管壁20に螺結される筒状ハウジング50を有し、その内部に筒状インシュレータ60に挿入固定されたPM検出素子10の上半部を保持している。PM検出素子10の下半部は、筒状ハウジング50の下端部に固定されて排気管2内に突出する中空のカバー体40内に位置している。カバー体40の底部および側部には、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFを通過した微粒子状物質PMを含む排出ガスが流通する孔410、411が穿設されている。
【0039】
この時、微粒子状物質PMを確実に捕捉するため、図示するように、PM検出素子10の検出部100が排気管2の上流側を向くように配置するとよい。また、検出部100を除く絶縁基板13の表面に、リード部111、121を覆って絶縁性保護層14を形成すると、リード部111、121間に微粒子状物質PMが堆積することによる誤検出を防止することができる。
【0040】
次に、PMセンサ1の基本作動について説明する。図4において、被測定ガスとなる排出ガスは、PMセンサ1のカバー体40の孔410、411から内部に導出入される。より詳細には排ガス流に正対する位置の孔411より内部に導入され、下流側に位置する孔411または底面に位置する孔410より排出され、PM検出素子10の検出部100に到達する。図3において、検出部100の表面には、櫛歯形状の検出電極11、12が所定の間隙を有して形成されているので、排出ガスと接触することにより、導電性の微粒子状炭素を含む微粒子状物質PMが付着し徐々に堆積すると、ある時点で検出電極11、12間が導通する。図5は、PM堆積量を一定速度で増加させた時の、検出電極11、12間の電気抵抗値の変化を示すもので、略絶縁状態である初期状態には、電極間抵抗は1×10Ω以上となっており、検出電極11、12間が導通すると、PM堆積量の増加に伴い電極間抵抗は急激に低下して1×10Ω程度となる。なお、この電極間抵抗または抵抗変化率は、検出部100の温度に応じて変化する。
【0041】
このため、通常は、PMセンサ1のヒータ部300により検出部100の温度を、例えば400〜600℃の範囲で略一定に保持した状態で、PMセンサ1の出力を監視する。この温度範囲では抵抗変化率が大きく、検出可能状態を長く維持でき、精度よい検出が可能となる。より詳しくは、温度が低い場合は付着するPM量が多いため、センサ出力が短時間で飽和して再生処理の回数が増え、検出可能状態が短くなる。また温度が高い場合は付着した一部のPMが燃焼するため、見かけ上の付着PMが減少し、抵抗変化率が小さくなるので精度よい検出が難しい。
【0042】
ここで、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに、セル壁や栓詰め部の破損、溶損といった何らかの不具合が生じて、正常な捕集が困難になると、排出ガスとともに放出される微粒子状物質PMが増加する。そこで、従来は、PM堆積量と電気抵抗値の関係に基づいて、PMセンサ1の検出電極11、12間の抵抗値を予め設定した閾値と比較し、故障判定を行っている。例えば、所定期間にディーゼルパティキュレートフィルタDPFをすり抜ける微粒子状物質PMが、正常時よりも明らかに多ければ、異常と判断することができる。
【0043】
ところが、前述したように、運転状態によってエンジンE/Gから排出される微粒子状物質PMの量や性質が変動するので、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFをすり抜ける微粒子状物質PMの量も増減する。従来は、これを考慮することなく、微粒子状物質PMの量を基に判定を行っていたものであり、判定閾値を一定値とすると誤判定のおそれがある。あるいは、運転状態に応じたマップを基に補正を行ったり判定閾値を変更したりすることも可能であるが、マップ量が増大する。
【0044】
本発明のパティキュレートフィルタの異常検出装置は、このような従来の不具合を解消するために、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排気管2における排出ガスの流量または圧力を検出する流量/圧力検出手段の検出結果と、PMセンサ1の検出結果に基づいて、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの異常を検出する異常検出部を備える。異常検出部は、PMセンサ1による微粒子状物質PMの検出を、排出ガスの流量または圧力が異なる2つの運転状態において実施する。この時、第1の流量/圧力条件は、異常検出開始時点における流量または圧力とし、これよりも流量が多いまたは圧力が高い第2の流量/圧力条件を設定する。そして、これら第1および第2の流量/圧力条件でのセンサ出力値を比較することで、異常の有無を判断する。ここで第1の流量/圧力条件が大きいまたは高い場合は、第1および第2の流量/圧力条件の大小または高低関係を逆にすることも可能である。
【0045】
図6は、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上流側の排気管2における排気圧力Pと、PMセンサ1の出力すなわち微粒子状物質PMのすり抜け量の関係を示すものである。ここでは、破損等がない正常なディーゼルパティキュレートフィルタDPF(正常時)と、内部のセル壁に破損が生じているディーゼルパティキュレートフィルタDPF(DPF破損時)を用意し、それぞれ排気圧力Pを所定範囲で変更した時のPMセンサ1の出力値変化を調べた。図に明らかなように、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの捕集特性として、正常時には、DPF上流圧力がP1からP2に高まっても、PMすり抜け量は大きく変わらないのに対し、破損時には、DPF上流圧力が高いほどすり抜け量がより多くなっている。
【0046】
ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの捕集が正常に行われている場合は、細孔に捕集されずにすり抜ける微粒子状物質PMはわずかであり、微粒子であるために排気圧力が高まってもすり抜け量が大きく増えることはない。一方、DPF破損時には、セル壁に生じたクラックや栓詰めの破損個所による見かけ上のフィルタ孔面積の増加から、すり抜けてくるPM量が増大すること、およびフィルタ細孔の大径化による粗大粒子(小粒子の集合体)もすり抜けてくる。このため、正常時に比べて排気圧力の影響が大きくなり、排気圧力が高まると粗大粒子がより多く抜けてくるために、PMすり抜け量が急激に増加する。排気圧力に代えて、排気流量を変化させた場合も、DPF上流の排気流量V1と排気流量V2について同様の関係が得られる。
【0047】
本発明は、図6の排出ガスの流量または圧力によるPMすり抜け量の差に着目したものであり、排気圧力が低い第1の圧力条件P1と、排気圧力が高い第2の圧力条件P2とにおいて、それぞれPMセンサ1により所定期間における抵抗変化率を検出し、検出した抵抗変化率の差を、正常時と比較する。排気流量小の第1の流量条件V1と、排気流量大の第2の流量条件V2とにおいて、検出した抵抗変化率の差を比較してもよい。第1の圧力条件P1(または流量条件V1)と、第2の圧力条件P2(または流量条件V2)の差ΔP(またはΔV)と、正常時の抵抗変化率の差に基づく所定値(判定閾値)を、予め設定しておくことで、異常判断が容易にできる。
【0048】
排出ガスの流量または圧力を検出する流量/圧力検出手段は、排出ガスの流量または圧力を、直接または間接的に検出できるものであればよい。例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上流に排気流量計や圧力センサを設置して、直接、流量または圧力を検出する流量/圧力検出手段とする他、一般に、エンジンE/Gに吸入される新気量は排気流量と相関があるので、エアフロメータAFMを排気流量検出手段として利用することができる。また、差圧センサSPに代えて、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上流側および下流側にそれぞれ圧力センサを有する構成であれば、上流側の圧力センサを、排気圧力検出手段として利用することができる。
【0049】
次に、図1のフローチャートに基づいて、異常検出部となる電子制御ユニットECUが備える判定手段の一例を説明する。本実施形態は、排出ガスの流量が異なる第1の流量条件V1と第2の流量条件V2において、PMセンサ1の出力値変化を比較する。図1において、異常検出を開始すると、ステップS100では、まず各種センサからのデータ取込を行い、排出ガス温度T1として、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の温度センサST2出力を取り込む。また、図示しない水温センサからディーゼルエンジンE/Gの冷却水温Twを、エンジン回転数センサからディーゼルエンジンE/Gの回転数NEを取り込み、アクセル開度センサ等の出力に基づき燃料噴射量Qを求める。さらに、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排気流量(DPF前流量V0)として、エアフロメータAFM出力を取り込む。
【0050】
本実施形態では、第1の流量条件V1は、異常検出開始時の排気流量であり、成り行きで決定される。ここでは、ステップS100にて取り込んだエアフロメータAFMによる吸入空気量(質量流量)を、DPF前流量V0(成行)とする。ステップS110では、この成行DPF前流量V0を、第1の流量条件である検出DPF前流量V1に設定する。
【0051】
ステップS120では、検出DPF前流量V1(第1の流量条件)におけるPMセンサ1の検出電極11、12間の抵抗変化率ΔR1(第1の出力値変化)を計測する。この時、一定時間経過後の検出部100の抵抗変化率は、検出電極11、12間に付着した微粒子状物質PMの変化率(付着面積および付着厚さ)に比例し、また、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに何らかの異常がある場合には、前述した図6に示したように、検出される抵抗変化率ΔR1は正常時よりも大きくなる。
【0052】
次に、ステップS130では、第2の流量条件V2を設定するための変化流量差ΔVを決定する。ここで決定される変化流量差ΔVは、DPF破損等の異常があった場合に、正常時に対して明らかな差異が検出できる流量差とする。具体的には、狙い流量として、検出DPF前流量V1に対して、少なくとも20%以上の流量増加、好適には50%以上の流量増加となるように、図6に示した関係から、予め所定の変化流量差ΔVを設定しておくことができる。流量が最低でも20%増加すれば、正常時との比較により異常判定が可能であり、変化流量差ΔVが大きいほど異常判定は容易になるが、成り行きによる流量変化で計測可能な第2の流量条件に達する確率が低くなる。変化流量差ΔVを、ステップS110で取り込んだ各種データから知られる運転状態に応じて、設定するようにすることもできる。
【0053】
ステップS140では、第2の流量条件となるまで待機する。まず、再度エアフロメータAFM出力から成行DPF前流量V2を算出し、[成行DPF前流量V2−成行DPF前流量V1]の絶対値が、所定の変化流量差ΔV以上となったか否かを判定する。肯定判定されたら、ステップS150へ進み、否定判定されたら肯定判定されるまで本ステップを繰り返す。運転条件の変化、例えば加速または減速運転により、排気流量は比較的容易に変化するので、予め変化流量差ΔVを適切な値に設定しておくことで、第2の流量条件(成行DPF前流量V2=成行DPF前流量V1±ΔV)とすることができる。
【0054】
ステップS150では、成行DPF前流量V2(第2の流量条件)において、PMセンサ1の検出電極11、12間の抵抗変化率ΔR2(第2の出力値変化)を計測する。DPFに何らかの異常がある場合、PMセンサ1の検出出力の時間変化が大きくなるだけでなく、第1、第2の流量条件における抵抗変化率の差が大きくなる。そこで、続くステップ160において、計測された抵抗変化率ΔR1、ΔR2を比較して、異常判定を行う。ここでは、抵抗変化率ΔR1と抵抗変化率ΔR2の差分値(ΔR1−ΔR2)を算出し、単位流量当たりの差分値(ΔR1−ΔR2)/(ΔV1−ΔV2)が予め設定した所定値を超えたか否かを判定する。所定値は、例えば図6に示される関係に基づいて、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFが正常に作動している場合の値よりも十分大きく、何らかの異常があると判断できる値以上であればよい。あるいは軽微な破損や性能低下または溶損といった異常の種類に対応する複数の値を予め実験等によって設定しておくこともできる。
【0055】
ステップ160が肯定判断されると、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに何らかの異常があると判断して、例えば警告灯を点灯して運転者に異常を知らせる。ステップ160が否定判断された時には、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFは正常と判断して、本処理を一旦終了する。
【0056】
以上のように、本実施形態では、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排気流量が異なる2つの流量条件を成り行きで設定し、変化流量差ΔVの第1の流量条件と第2の流量条件での抵抗変化率ΔR1、ΔR2に基づいて、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの異常を容易に検出することができる。したがって、電気抵抗式のPMセンサを用いた比較的簡易な構成で、大量のマップや温度補正を不要として、かつ精度よい判定が可能である。
【0057】
次に、図7のフローチャートに基づいて、本発明の第2実施形態における異常検出部の判定手段を説明する。本実施形態は、異常診断開始時に、第1の流量条件V1を成り行きで決定した後、定めた所定期間内に第2の流量条件V2とならなかった時に、強制的に第2の流量条件V2として、PMセンサ1の出力値変化を比較する。図7のステップS200〜S220は、図1のステップS100〜S120とほぼ同様であり、異常検出部となる電子制御ユニットECUは、まずステップS200で、冷却水温Tw、排出ガス温度T1、ディーゼルエンジンE/Gの回転数NE、燃料噴射量Q等の各種データ取込を行い、エアフロメータAFM出力からDPF前流量V0(成行)を算出する。また、PMセンサ1出力として検出電極11、12間の抵抗R0を計測する。
【0058】
ステップS210では、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の流量を、第1の流量条件に設定する。ここでは、ステップS200で取り込んだ成行DPF前流量V0を、第1の流量条件である検出DPF前流量V1とする(検出DPF前流量V1=成行DPF前流量V0)。ステップS220では、再度PMセンサ1出力を取り込み、ステップS200で取り込んだPMセンサ1出力R0から、検出出力の時間変化ΔR1を算出して、メモリに記憶させる。
【0059】
ステップS230では、第2の流量条件V2を設定するための変化流量差ΔVを決定する。狙い流量としては、最低20%以上増加、好ましくは50%以上増加とする。また、成り行きで第2の流量条件V2となるまで待機する最大待機時間timeMaxを設定する。ここで、最大待機時間timeMaxは、異常検出開始時に定めた所定期間は、ステップS210で計測したPMセンサ1出力R0と、PMセンサ1に許容量最大に微粒子状物質PMを堆積させたときの出力とを比較して、例えば許容量の80%程度に到達すると予想される時間、またはモード走行時間(20分)に3回程度、故障診断ができるような所定時間とする。
【0060】
ステップS240では、タイマーをスタートさせ、タイマーの計測値を待機時間t1とする。続くステップS250では、タイマーで計測された待機時間t1が最大待機時間timeMax未満か否かを判定し、肯定判定された場合はステップS260へ進む。ステップS260で・BR>ヘ、再度エアフロメータAFM出力から成行DPF前流量V2を算出し、[成行DPF前流量V2−成行DPF前流量V1]の絶対値が、所定の変化流量差ΔV以上になったか否かを判定する。ステップS260が否定判定されたら、待機を継続するためにステップS250に戻り、肯定判定されるまでステップS250、S260を繰り返す。ステップS260が肯定判定されたら、ステップS280へ進む。
【0061】
ステップS260が否定判定された後、戻ったステップS250が否定判定された場合は、待機時間t1が最大待機時間timeMaxに達しているので、待機を終了し、強制的に第2の流量条件V2とするために、ステップS270へ進む。ステップS270では、狙い流量である[成行DPF前流量V1+ΔV]とするために、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排気流量をΔV増量する操作を行う。次に、強制的に流量を変えるための方法について述べる。
【0062】
ここで、強制的に流量を変えるための流量調整手段としては、吸気スロットルVTH(吸気量)、EGR弁VEGR(EGR還流量)、ターボ過給装置TRB(過給量)がある。これらのうち少なくとも1つあるいは複数を調整することにより、排気流量を増加させることができる。この時、検出DPF前流量V1またはステップS210で取り込んだデータにより知られる運転状態に応じて、流量調整手段を選択すると、効率よく所望の排気流量とすることができる。その一例として、検出DPF前流量V1が、アイドル運転領域に相当する流量である場合、例えば吸気量5g/sの時には、吸気スロットルVTHによる吸気量の50%以上の増量が容易であるので、狙い流量(第2の流量条件)となる吸気例として7.5g/s〜10g/sとし、燃料噴射量Q一定のまま、吸気スロットルVTH開度をより開き側として、新気を導入する。その時にトルク変動を最小にするため、予め取り込んでおいたマップなどにより、着火時期がほぼ同じになるように噴射時期を遅角またはEGR弁VEGRによるEGR還流量を増加させる。これによりトルク変動最小で強制的にDPF前の排気流量を増加できる。
【0063】
次に、検出DPF前流量V1が通常運転領域に相当する流量である場合、例えば吸気量が10〜30g/sの範囲においても、アイドル運転領域での強制的流量増加手法を適用可能であり、同様に50%以上の増量となるように吸気スロットルVTH開度を調整すればよい。加えて、図1のような過給装置付きディーゼルエンジンE/Gでは、ターボ過給装置TRBも活用することができる。その場合は燃料噴射量Q一定で、ターボ過給装置TRBと吸気スロットルVTHで新気量を調整し、トルク変動を最小にした状態で、排気流量を増加させるとよい。さらに、検出DPF前流量V1が高速高負荷運転に相当する領域では、通常、吸気スロットルVTHは全開、EGR弁VEGRは全閉の状態に制御される。このため、流量調整手段としてはターボ過給装置TRBを用い、ノズルベーン(VN)を調整することで、強制的に流量を変化させることができる。
【0064】
ステップS280では、成行DPF前流量V2(第2の流量条件)において、PMセンサ1の検出電極11、12間の抵抗変化率ΔR2を計測する。そして、続くステップ290において、計測された抵抗変化率ΔR1、ΔR2を比較する。本実施形態においても、抵抗変化率ΔR1と抵抗変化率ΔR2の差分値(ΔR1−ΔR2)を算出し、単位流量当たりの差分値(ΔR1−ΔR2)/(ΔV1−ΔV2)が予め設定した所定値を超えたか否かによって、異常判定を行う。
【0065】
ステップ290が肯定判断されると、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに何らかの異常があると判断して、例えば警告灯を点灯して運転者に異常を知らせる。ステップ290が否定判断された時には、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFは正常と判断して、本処理を一旦終了する。
【0066】
以上のように、本実施形態では、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排気流量が異なる第1の流量条件と第2の流量条件(変化流量差ΔV)を成り行きで設定するだけでなく、所定の最大待機時間timeMaxを越えた場合には、強制的に第1の流量条件から変化流量差ΔVだけ増量して、第2の流量条件とする。これにより、定常運転状態で流量変化が小さい場合であっても、2つの流量条件における出力変化を検出し、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの異常を容易かつ確実に検出することができる。
【0067】
次に、図8のフローチャートに基づいて、本発明の第3実施形態における異常検出部の判定手段を説明する。図9は、本実施形態に基づく異常診断時のPMセンサ1の出力検出例である。上記第1、第2実施形態では異常診断を、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排気流量で規定したが、本実施形態では圧力で規定し、異常診断開始時に、第1の圧力条件P1を成り行きで決定した後、昇圧度ΔPを決定し、第1の圧力条件より圧力を高めた第2の圧力条件P2として、PMセンサ1の出力値変化を比較する。また、昇圧度ΔPを決定するに際して、運転状態による微粒子状物質PMの性状を考慮して、昇圧度ΔPの補正を行う。
【0068】
図8のステップS300〜S320は、図1のステップS100〜S120とほぼ同様であり、異常検出部となる電子制御ユニットECUは、まずステップS300で、冷却水温Tw、排出ガス温度T1、ディーゼルエンジンE/Gの回転数NE、燃料噴射量Q等の各種データ取込を行う。また、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流に設置した圧力センサからDPF前圧力P0(成行)を算出する。
【0069】
ステップS310では、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の圧力を、第1の圧力条件に設定する。ここでは、ステップS300で取り込んだ成行DPF前圧力P0を、第1の圧力条件である検出DPF前圧力P1とする(検出DPF前圧力P1=成行DPF前圧力P0)。ステップS320では、検出DPF前圧力P1(第1の圧力条件)におけるPMセンサ1の検出電極11、12間の抵抗変化率ΔR1(第1の出力値変化)を計測して、メモリに記憶させる。
【0070】
ステップS330では、第2の圧力条件を設定するための昇圧度ΔPを決定する。上記第1、第2実施形態のように、成り行きで圧力が所定の変化圧力差となるまで待機することもできるが、本実施形態では待機せずに強制的に圧力を第2の圧力条件まで変化させる例としている。昇圧度ΔPの決定方法は流量の場合と同様であり、上述したように狙い流量で最低20%以上好ましくは50%以上増加となるように、検出DPF前圧力P1に応じて昇圧度ΔPを設定する。さらに、ステップS340で所定以下の低温または低負荷条件か否かを判定し、肯定判定された場合には、ステップS350に進んで昇圧度ΔPを補正する。否定判定された場合には、ステップS360に進む。
【0071】
ステップS340、S350は、運転条件によって微粒子状物質PMに含まれる炭化水素(HC)分が増減すること、特にエンジン始動直後や低負荷運転時には、炭化水素(HC)分が多くなるために、微粒子状物質PMがディーゼルパティキュレートフィルタDPFに付着しやすくなることに着目したものである。このような運転条件では、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに異常が生じても微粒子状物質PMのすり抜け量の変化が生じにくくなる。そこで、ステップS300で取り込んだエンジン冷却水温その他データから運転状態を判断して、昇圧度ΔPをより高く設定し、異常診断が確実にできるようにする。
【0072】
ステップS360では、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の圧力を、第2の圧力条件に設定する。ここでは第1の圧力条件である検出DPF前圧力P1から、ステップS340で決定した昇圧度ΔP(またはステップS350で補正した昇圧度ΔP)だけ、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の圧力を強制的に変化させる。この時、第2の圧力条件である検出DPF前圧力P2=検出DPF前圧力P1+昇圧度ΔPである。
【0073】
強制的に圧力を変える場合も、前述の流量調整手段と同様に、吸気スロットルVTH、EGR弁VEGR、ターボ過給装置TRBを圧力調整手段として利用することができる。これらのうち少なくとも1つあるいは複数を調整することにより、圧力を増加させる操作を行って、昇圧度ΔPに相当する圧力を増加させる。好適には、噴射量Q、新気量一定として、EGR量を増加させることで行い、燃料と酸素量の比率を変えないようにして、圧力を高める事が望ましい。
【0074】
ステップS370では、検出DPF前圧力P2(第2の圧力条件)において、PMセンサ1の検出電極11、12間の抵抗変化率ΔR2を計測する。そして、続くステップ380において、計測された抵抗変化率ΔR1、ΔR2を比較する。本実施形態においても、抵抗変化率ΔR1と抵抗変化率ΔR2の差分値|△R2−△R1|を算出し、予め設定した所定値を超えたか否かによって、異常判定を行う。
【0075】
図9に示すように、PMセンサ1の出力は、成り行きで設定される検出DPF前圧力P1(第1の圧力条件)における出力変化率に対して、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上流圧力を高めると、出力変化率が大きくなる。ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに破損等がある異常時には、圧力上昇中のセンサ出力変化が正常時に比べて大きくなるため、昇圧度ΔPとした検出DPF前圧力P2(第2の圧力条件)における出力変化率を、検出DPF前圧力P1(第1の圧力条件)における出力変化率と比較することで、故障が容易に判定できる。
【0076】
ステップ380が肯定判断されると、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに何らかの異常があると判断して、例えば警告灯を点灯して運転者に異常を知らせる。ステップ380が否定判断された時には、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFは正常と判断して、本処理を一旦終了する。
【0077】
本実施形態のように、ディーゼルパティキュレートフィルタDPF上流の排気圧力が異なる第1の圧力条件と第2の圧力条件(昇圧度ΔP)における出力変化を比較することによっても、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの異常を容易かつ確実に検出することができる。また、第1の圧力条件から待機せずに第2の圧力条件に昇圧することによって、速やかな異常検出が可能となる。
【0078】
なお、上記第1、第2の実施形態は、流量を変化させた場合、上記第3の実施形態は、圧力を変化させた場合の例として説明したが、それぞれ流量または圧力に限定されるものではなく、各異常判定のフローチャートは流量または圧力条件を変化させたいずれの場合にも適用できる。
【0079】
また、本発明で用いるPMセンサは、上記実施形態の構成に限らず、一対の検出電極の形状や配置、ヒータ部、カバー体その他各部構成を、適宜変更することもできる。さらに、パティキュレートフィルタの構成や、排気処理システム、燃料噴射システムの各部構成を任意に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のパティキュレートフィルタの異常検出装置は、ディーゼルパティキュレートフィルタを搭載した自動車への設置が義務付けられる車載式故障診断装置(OBD)等の用途に用いられて、環境汚染物質の排出を防止する。また、自動車用ディーゼルエンジンに限らず、システム構成の異なる他のエンジンや、排気通路に排出ガスに含まれる微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを備えるシステムのいずれにも好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0081】
AFM エアフローメータ(流量/圧力検出手段)
TRB 、ターボ過給機(流量/圧力制御手段)
TRB コンプレッサ
TRB タービン
TH スロットル弁(流量/圧力制御手段)
EGR EGR弁(流量/圧力制御手段)
SP 差圧センサ
DPF ディーゼルパティキュレートフィルタ(パティキュレートフィルタ)
ECU 電子制御ユニット(異常検出部)
E/G ディーゼルエンジン(内燃機関)
ECU 電子制御ユニット(異常検出部)
1 PMセンサ(排出微粒子センサ)
10 PM検出素子
100 検出部
11、12 検出電極
111、121 リード部
13 絶縁性基板(絶縁性基体)
14 絶縁性保護層
2 排気管(排気通路)
20 管壁
30 ヒータ電極
31、32 リード部
300 ヒータ部
40 カバー体
410、411 孔
50 ハウジング
60 インシュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路において、排出ガス中の微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタの下流に設置されて、排出ガス中の微粒子状物質の量を検出する排出微粒子センサと、
上記パティキュレートフィルタの上流の排気通路における排出ガスの流量または圧力を検出する流量/圧力検出手段と、
上記流量/圧力検出手段および上記排出微粒子センサの検出結果に基づいて、上記パティキュレートフィルタの異常を検出する異常検出部を備え、
上記排出微粒子センサは、絶縁性基体の表面に一対の検出電極を形成した検出部を有し、上記一対の検出電極間に付着する微粒子状物質の量に応じて電気抵抗値が変化する構成であり、
上記異常検出部は、上記排出ガスの流量または圧力が異なる2つの運転状態における、上記排出微粒子センサの出力値変化を比較し、その差分値または比の値が所定値を超えた時に、パティキュレートフィルタの異常と判定する判定手段を備えることを特徴とするパティキュレートフィルタの異常検出装置。
【請求項2】
上記異常検出部は、異常検出開始時の運転状態における上記排出ガスの流量または圧力を、第1の流量/圧力条件として、上記排出微粒子センサの所定期間における出力値変化を測定し、次いで、第1の流量/圧力条件との差が予め設定した流量または圧力となる上記第2の流量/圧力条件を設定して、該第2の流量/圧力条件における上記排出微粒子センサの所定期間における出力値変化を測定する請求項1記載のパティキュレートフィルタの異常検出装置。
【請求項3】
上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件において、上記排出微粒子センサの所定期間における第1の出力値変化を測定した後、上記流量/圧力検出手段の検出結果が上記第2の流量/圧力条件になるまで待機し、上記第2の流量/圧力条件となった時に、上記排出微粒子センサの所定期間における第2の出力値変化を測定して、これら第1および第2の出力値変化に基づいて異常を判定する請求項2記載のパティキュレートフィルタの異常検出装置。
【請求項4】
上記パティキュレートフィルタの上流の排気通路における排出ガスの流量または圧力を調整する流量/圧力調整手段を備えており、
上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件において、上記排出微粒子センサの所定期間における第1の出力値変化を測定した後、上記流量/圧力検出手段の検出結果を監視し、所定期間内に上記第2の流量/圧力条件にならなかった時に、上記流量/圧力調整手段を用いて強制的に上記第2の流量/圧力条件に調整して、上記排出微粒子センサの所定期間における第2の出力値変化を測定し、これら第1および第2の出力値変化に基づいて異常を判定する請求項2記載のパティキュレートフィルタの異常検出装置。
【請求項5】
上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件における流量または圧力と、上記第2の流量/圧力条件における流量または圧力の差を、予め設定した所定値とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のパティキュレートフィルタの異常検出装置。
【請求項6】
上記異常検出部は、上記第1の流量/圧力条件における流量または圧力と、上記第2の流量/圧力条件における流量または圧力の差を、運転状態に応じて設定する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のパティキュレートフィルタの異常検出装置。
【請求項7】
上記排出微粒子センサは、上記排気通路に位置する上記絶縁性基体の先端部表面に、櫛歯状の上記一対の検出電極とリード部を形成して上記検出部とし、上記絶縁性基体の先端部裏面に、ヒータ電極およびリード部を形成して、上記検出部を所定温度に加熱するヒータ部とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のパティキュレートフィルタの異常検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−252459(P2011−252459A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127885(P2010−127885)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】