説明

パワーステアリング装置

【課題】コストの高騰を抑制しつつも転舵輪の舵角を検出することのできるパワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリングホイール側ピニオン軸2に設けられた出力側レゾルバ7の軸倍角をk1とし、モータ側ピニオン軸に設けられたモータ側レゾルバ13の軸倍角をk2とし、モータ側ピニオン軸を一回転させたときにラック軸3を介して上記ステアリングホイール側ピニオン軸2が回転する回転角度をθa°とした場合に、(θa/k2)>(360/k1)であって、且つ(θa/k2)/(360/k1)が整数でない値となるように設定する。これにより、出力側レゾルバ出力信号S2の値とモータ側レゾルバ出力信号S3の値との組み合わせが、異なる舵角で同一の値をとることがなくなり、両レゾルバ出力信号S2,S3から舵角を導出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、中立位置からの操舵角に応じて比ストロークが変化するラックピニオン式のパワーステアリング装置において、軸倍角の異なる第1レゾルバおよび第2レゾルバをハンドル軸に設け、それらの両レゾルバの検出信号に基づいてハンドル軸の一回転内での回転角であるハンドル軸回転角を求めるとともに、上記ステアリングギヤの出力部材にアシスト力を付与する電気モータの出力軸に第3レゾルバを設け、その第3レゾルバにより検出されるモータ回転角のハンドル軸回転角による一階微分値および二階微分値を演算し、ハンドル軸が中立位置から回転した方向および回転数を二階微分値の正負および一階微分値に基づいて求めるようにした技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−317296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ハンドル軸の回転角の変化に基づく比ストロークの変化を利用してハンドル軸の回転角を算出するようになっているため、ラックピニオン機構の比ストロークが一定に設定されたパワーステアリング装置には適用することができなかった。そのため、ラックピニオン機構の比ストロークが一定に設定されたパワーステアリング装置において転舵輪の舵角を検出する必要がある場合には、比較的高価ないわゆるアブソリュート型の舵角センサを設ける必要があり、コストが高騰してしまうという問題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、ラックピニオン機構の比ストロークが一定の場合であっても、コストの高騰を抑制しつつ転舵輪の舵角を検出することのできるパワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ステアリングホイールの操舵操作に伴って回転するステアリングホイール側ピニオン軸とラック軸に形成したステアリングホイール側ラック歯との噛み合いをもってステアリングホイール側ラックピニオン機構を構成しているとともに、操舵アシスト力を発生する電動機をもって回転駆動される電動機側ピニオン軸と上記ラック軸に形成した電動機側ラック歯との噛み合いをもって上記ステアリングホイール側ラックピニオン機構とは比ストロークの異なる電動機側ラックピニオン機構を構成しているパワーステアリング装置であることを前提としている。
【0007】
その上で、上記ステアリングホイール側ピニオン軸が一回転する毎にk1周期のステアリングホイール側レゾルバ出力信号を出力するステアリングホイール側レゾルバと、上記電動機側ピニオン軸が一回転する毎にk2周期の電動機側レゾルバ出力信号を出力するとともに、上記電動機側ピニオン軸を一回転させたときに上記ラック軸を介して上記ステアリングホイール側ピニオン軸が回転する回転角度をθaとした場合に、(θa/k2)>(360/k1)であって、且つ(θa/k2)/(360/k1)が整数でない値となるように構成された電動機側レゾルバと、上記ステアリングホイール側レゾルバ出力信号および上記電動機側レゾルバ出力信号に基づいて上記転舵輪の舵角を演算する舵角演算部と、を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラックピニオン機構の比ストロークが一定の場合であっても、上記ステアリングホイール側レゾルバ出力信号および上記電動機側レゾルバ出力信号に基づいて上記転舵輪の舵角を演算できるようなり、コストの高騰を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施の形態としてパワーステアリング装置の概略を示す図。
【図2】図1に示すトルクセンサの断面概略図。
【図3】図1のA−A線に沿った断面図。
【図4】図1に示す電子制御装置の機能ブロック図。
【図5】出力側電気角およびモータ側電気角と出力軸の回転位置との関係を示す図。
【図6】図4に示す角度位置演算部の処理内容を示すフローチャート。
【図7】本発明の第2の実施の形態として、第1の実施の形態における角度位置演算部の変形例を示す機能ブロック図。
【図8】図7に示す角度位置演算部の処理内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜6は本発明の好適な第1の実施の形態を示す図であって、そのうち図1はパワーステアリング装置の概略を示す図、図2は図1におけるトルクセンサの概略を示す断面図、図3は図1のA−A線に沿った断面図である。
【0011】
図1に示すパワーステアリング装置では、運転者によってステアリングホイールSWが回転操作されると、そのステアリングホイールSWの回転がステアリングシャフト1を介してステアリングホイール側ピニオン軸2に伝達されるとともに、そのステアリングホイール側ピニオン軸2の回転運動がラック軸3の直線運動に変換され、ラック軸3の両端に連結された左右の転舵輪W1,W2が転舵するようになっている。つまり、ラック軸3には、ステアリングホイール側ピニオン軸2が噛み合いするステアリングホイール側ラック歯(図示せず)が形成されており、そのステアリングホイール側ラック歯とステアリングホイール側ピニオン軸2との噛合をもって手動操舵用のステアリングホイール側ラックピニオン機構4が構成されている。
【0012】
図2に示すように、ステアリングホイール側ピニオン軸2は、ステアリングホイールSW側の入力軸2aとラック軸3側の出力軸2bとに軸方向で分割されている。入力軸2aと出力軸2bは、それぞれ中空状に形成されているとともに、両軸2a,2bの内周側に設けられたトーションバー2cを介して互いに同軸連結されている。なお、図示は省略しているが、トーションバー2cの軸方向両端部は、両軸2a,2bの内周面に対し、相対回転不能にそれぞれセレーション結合されている。これにより、入力軸2aと出力軸2bとがトーションバー2cの捩れ変形をもって相対回転可能になっている。
【0013】
ステアリングホイール側ピニオン軸2の外周側には、当該ステアリングホイール側ピニオン軸2の外周側を囲繞しつつ車体に固定されたトルクセンサハウジング5が設けられていて、当該トルクセンサハウジング5の内周面と入力軸2aの外周面との間に入力軸2aの回転変位を検出する入力側レゾルバ6が設けられている。また、トルクセンサハウジング5の内周面と出力軸2bの外周面との間には、出力軸2bの回転位置を検出する出力側レゾルバ7がステアリングホイール側レゾルバとして設けられている。すなわち、トーションバー2cの捩れ変形に基づく入力軸2aと出力軸2bとの相対回転変位量を両レゾルバ6,7によって検出することにより、ステアリングホイールSWを運転者が回転操作する操舵トルクを検出するようになっている。換言すれば、ステアリングホイール側ピニオン軸2に作用するトルクを検出するためのトルクセンサTSが、両レゾルバ6,7をもって構成されている。
【0014】
両レゾルバ6,7は、ステータにのみコイルが設けられ、ロータにはコイルが設けられていない周知の可変リラクタンス(VR)型のものであって、入力側レゾルバ6は、入力軸2の外周面に一体的に嵌着された環状の入力側レゾルバロータ6aと、その入力側レゾルバロータ6aの外周側に所定の径方向隙間を介して外挿され、トルクセンサハウジング5に対して固定された環状の入力側レゾルバステータ6bと、を有している。一方、出力側レゾルバ7は、出力軸2bの外周面に一体的に嵌着された環状の出力側レゾルバロータ7aと、その出力側レゾルバロータ7aの外周側に所定の径方向隙間を介して外挿され、トルクセンサハウジング5に対して固定された環状の出力側レゾルバステータ7bと、を有している。
【0015】
また、両レゾルバ6,7の軸倍角は互いに等しく設定されており、本実施の形態では、両レゾルバ6,7の軸倍角をそれぞれk1とする。すなわち、入力側レゾルバロータ6aが入力軸2bとともに一回転する毎に、k1周期の入力側レゾルバ出力信号S1が入力側レゾルバステータ6bから出力される一方、出力側レゾルバロータ7aが出力軸2bとともに一回転する毎に、k1周期の出力側レゾルバ出力信号S2が出力側レゾルバステータ7bから出力されることになる。
【0016】
他方、図1のほか図3に示すように、ラック軸3には、上述したステアリングホイール側ラック歯とは別のモータ側ラック歯3aが電動機側ラック歯として形成されており、そのモータ側ラック歯3aには、ウォーム減速機構8を介して電動機としての電動モータMに駆動されるモータ側ピニオン軸9が電動機側ピニオン軸として噛み合いしている。つまり、モータ側ラック歯3aとモータ側ピニオン軸9とをもって電動機側ラックピニオン機構であるモータ側ラックピニオン機構10が構成されている。モータ側ラックピニオン機構10の比ストロークは、電動モータMの特性やモータ側ラック歯3aの強度を考慮してステアリングホイール側ラックピニオン機構4とは異ならしめてある。
【0017】
そして、後述するECU14をもって電動モータMが駆動制御され、その電動モータMの出力軸12が回転すると、その回転がウォーム減速機構8を介してモータ側ピニオン軸9に伝達されるとともに、そのモータ側ピニオン軸9の回転がモータ側ラックピニオン機構10によって直線運動に変換され、もって電動モータMの出力が操舵アシスト力としてラック軸3へ伝達されることになる。なお、図3の符号11は、ウォーム減速機構8を収容するウォームハウジングを示している。
【0018】
さらに、モータ側ピニオン軸9には、当該モータ側ピニオン軸9の回転変位を検出するモータ側レゾルバ13が電動機側レゾルバとして設けられている。モータ側レゾルバ13は、モータ側ピニオン軸9のうちラック軸3とは反対側の端部の外周面に一体的に嵌着された環状のモータ側レゾルバロータ13aと、そのモータ側レゾルバロータ13bの外周側に所定の径方向隙間を介して外挿され、ウォームハウジング11に対して固定された環状のモータ側レゾルバステータ13bと、から構成されており、モータ側レゾルバステータ13bにのみコイルが設けられ、モータ側レゾルバロータ13aにはコイルが設けられていない周知の可変リラクタンス(VR)型のものである。
【0019】
また、本実施の形態では、モータ側レゾルバ13の軸倍角をk2とする。すなわち、モータ側レゾルバ13は、モータ側レゾルバロータ13aがモータ側ピニオン軸9とともに一回転する毎にk2周期のモータ側レゾルバ出力信号S3を出力することになる。
【0020】
そして、図1に示すように、モータ側レゾルバ出力信号S3のほか、入力側レゾルバ出力信号S1および出力側レゾルバ出力信号S2は電子制御装置(以下、ECUと略称する)14に取り込まれる。ECU14の詳細を機能ブロック図として図4に示す。
【0021】
図4に示すように、ECU14は、入力側レゾルバ出力信号S1に基づいて入力軸2aの回転位置に応じた入力側電気角θe1を演算する入力側電気角演算部15と、出力側レゾルバ出力信号S2に基づいて出力軸2bの回転位置に応じた出力側電気角θe2を演算する出力側電気角演算部16と、モータ側レゾルバ出力信号S3に基づいてモータ側ピニオン軸9の回転位置に応じたモータ側電気角θe3を演算するモータ側電気角演算部17と、入力側電気角θe1と出力側電気角θe2との差、すなわちトーションバー2cの捩れ量に基づいてステアリングホイール側ピニオン軸2に作用する操舵トルクTを演算するトルク演算部18と、出力側電気角θe2とモータ側電気角θe3および操舵トルクTに基づいてステアリングホイールSWの回転位置θSWおよび転舵輪W1,W2の舵角θWを演算する角度位置演算部19と、ステアリングホイールSWの回転位置θSWに基づき、ステアリングホイールSWの切り戻し時に、ステアリング系のフリクションによるステアリングホイールSWの戻り性悪化を抑制するためのステアリング戻し制御指令信号S4を出力するステアリング戻し制御部20と、操舵トルクT,舵角θW,ステアリング戻し制御指令信号S4に応じて電動モータMに発生させる操舵アシストトルクを設定し、モータ駆動指令信号S5を出力する操舵アシスト制御部21と、モータ駆動指令信号S5に基づいて電動モータMに三相交流電力を供給するインバータ22と、を備えている。
【0022】
また、角度位置演算部19は、出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3に基づいて出力軸2bの絶対的な回転位置θpを後述するように演算するピニオン位置演算部23と、操舵トルクTから求められるトーションバー2cの捩れ量を出力軸2bの回転位置θpに加算または減算することにより、ステアリングホイールSWの絶対的な回転位置θSWを演算するステアリングホイール位置演算部24と、出力軸2bの回転位置θpに基づいて転舵輪W1,W2の絶対的な舵角θWを演算する舵角演算部25と、を備えている。なお、転舵輪W1,W2は図示外のリンク機構を介してラック軸3に連結されているため、舵角θWは出力軸2bの回転位置θpから一義的に求めることができるものである。
【0023】
ここで、出力軸2bの回転位置と出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3の関係を図5に示す。なお、図5における横軸の0°とは、出力軸2bが、中立位置、すなわち転舵輪W1,W2が直進方向を向く位置にあることを意味している。また、図5では、横軸が正の領域(例えば右操舵領域)のみを図示しているが、当然のことながら、横軸が負の領域(例えば左操舵領域)においても、出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3は出力軸2bの回転位置の変化に応じて図示の領域と同様の周期をもって変化することになる。
【0024】
図5に示す例では、出力側レゾルバ7の軸倍角k1を15、モータ側レゾルバ13の軸倍角k2を2、ステアリングホイール側ラックピニオン機構4の比ストローク(出力軸2bの一回転に対するラック軸3の軸方向移動量)S1を45mm/rev、モータ側ラックピニオン機構10の比ストローク(モータ側ピニオン軸9の一回転に対するラック軸3の軸方向移動量)S2を55mm/rev、ステアリングホイールSWのロックトゥロックの回転角度nを1080°(3回転)としている。つまり、出力軸2bは中立位置から左右両側にそれぞれ540°ずつ回転可能になっている。
【0025】
図5に示すように、出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3は、出力軸2bの回転位置が0°のときにいずれも0°となるように設定されているとともに、出力側レゾルバ7の軸倍角が上述したようにk1に設定されていることから、出力側電気角θe2の一周期(360°)は出力軸2bの回転変位量で(360/k1)°に対応している。換言すれば、出力側電気角θe2は、出力軸2bが(360/k1)°回転する毎に同一の値をとるようになっている。
【0026】
また、モータ側ラックピニオン機構10の比ストロークS1がステアリングホイール側ラックピニオン機構4の比ストロークS2と異なっていることは上述したとおりであって、モータ側ピニオン軸9の一回転は、出力軸2bの(S2/S1)回転に対応する。つまり、モータ側ピニオン軸9を一回転させると、出力軸2bは(360・(S2/S1))°回転することになる。この(360・(S2/S1))°を便宜上θaとして表すと、モータ側電気角θe3の一周期(360°)は、出力軸2bの回転変位量で(θa/k2)°に対応することになる。換言すれば、モータ側電気角θe3は、出力軸2bが(θa/k2)°回転する毎に同一の値を同一の値をとるようになっている。
【0027】
そして、本実施の形態では、出力側レゾルバ7の軸倍角k1,モータ側レゾルバ13の軸倍角k2,ステアリングホイール側ラックピニオン機構4の比ストロークS1,モータ側ラックピニオン機構10の比ストロークS2を、下記の(1)式および(2)式の関係を満足するようにそれぞれ設定している。
【0028】
(θa/k2)>(360/k1) … (1)
(θa/k2)/(360/k1)≠N(Nは整数) … (2)
その結果、図5に示すように、出力軸2bが中立位置から正方向へ回転していく過程で、モータ側電気角θe3が一周期して0°となったときに、その出力軸2bの回転位置θcでは出力側電気角θe2は0°とはならず、回転位置θcとその回転位置θcの直前で出力側電気角θe2が0°となる出力軸2bの回転位置との間に角度差Iが生じることになる。この角度差Iは、出力軸2bの回転位置が中立位置から正方向へ回転していくのに伴い、累積されて大きくなる。
【0029】
図5に示す例を用いてより具体的に説明するに、図5に示す例では、出力側レゾルバ7の軸倍角k1を15、モータ側レゾルバ13の軸倍角k2を2、ステアリングホイール側ラックピニオン機構4の比ストロークS1を45mm/rev、モータ側ラックピニオン機構10の比ストロークS2を55mm/revとしていることから、(θa/k2)/(360/k1)≒9.17となり、出力軸2bが中立位置から正方向へ回転していく過程で、モータ側電気角θe3が一周期する毎に、出力側電気角θe2の0.17周期分(出力軸2bの回転方向で約4°)の角度差Iが累積されていくことになる。すなわち、(θa/k2)/(360/k1)が整数でない値となること、言い換えれば(θa/k2)が(360/k1)で割り切れないことを条件に、角度差Iが生じることになる。
【0030】
その結果、出力軸2bがロックトゥロックの範囲内で中立位置から正方向または負方向に回転する過程で、出力側電気角θe2とモータ側電気角θe3との組み合わせが、異なる出力軸2bの回転位置で同一の値をとることがなく、出力側電気角θe2とモータ側電気角θe3から出力軸2bの回転位置を導出することが可能となる。
【0031】
すなわち、図4に示したピニオン位置演算部23は、出力側電気角θe2とモータ側電気角θe3との組み合わせと出力軸2bの回転位置との対応関係を示したマップを記憶していて、そのマップを参照することにより、出力側電気角θe2とモータ側電気角θe3から出力軸2bの回転位置を導出するようになっている。
【0032】
ところで、出力軸2bはステアリングホイール側ラックピニオン機構4のバックラッシュによって回転方向でがたつきを生じることになるため、その出力軸2bのがたつきにより、出力軸2bの回転位置とモータ側ピニオン軸9の回転位置との相対関係が正規の相対関係からずれてしまうことがある。これにより、出力軸2bの回転位置が、実際の回転位置に対応するモータ側電気角θe3の周期の範囲内ではなく、その周期に隣接するモータ側電気角θe3の周期の範囲内にあるものと誤検出されてしまう虞がある。したがって、モータ側電気角θe3の一周期毎に累積される角度差Iを、出力軸2bの回転方向におけるステアリングホイール側ラックピニオン機構4のバックラッシュ量θbよりも大きくすることにより、上述したような誤検出の発生を防止することが好ましい。なお、本実施の形態におけるステアリングホイール側ラックピニオン機構4のバックラッシュ量θbは1°である。
【0033】
しかしながら、ロックトゥロックの回転角度n°の範囲内における上述したような角度差Iの累積、すなわちI・n/(θa/k2)が、出力側電気角θe2の一周期、すなわち(360/k1)を超えてしまうと、今度は、出力軸2bの回転位置が、実際の回転位置に対応する出力側電気角θe2の周期の範囲内ではなく、出力側電気角θe2の他の周期の範囲内にあるものと誤検出されてしまう虞が生じる。
【0034】
そこで、本実施の形態では、出力側レゾルバ7の軸倍角k1,モータ側レゾルバ13の軸倍角k2,ステアリングホイールSWのロックトゥロックの回転角度n、ステアリングホイール側ラックピニオン機構4のバックラッシュ量θbを、下記の(3)式の関係を満足するようにそれぞれ設定している。
【0035】
360/k1>θb・n/(θa/k2) … (3)
これにより、ステアリングホイール側ラックピニオン機構4のバックラッシュ量θbよりも角度差Iを大きくし、且つ、ロックトゥロックの回転角度nの範囲内における上述したような角度差Iの累積、すなわちI・n/(θa/k2)を、出力側電気角θe2の一周期、すなわち(360/k1)°よりも小さくすることが可能となり、出力軸2bの回転位置の上述したような誤検出を抑制することができる。
【0036】
次に、本実施の形態における角度位置演算部19の処理内容について図6のフローチャートを参照しつつ説明する。角度位置演算部19は、まず、出力側電気角θe2を出力側電気角演算部16から、モータ側電気角θe3をモータ側電気角演算部17からそれぞれ読み込み(ステップS1,S2)、それらの出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3に基づき、ピニオン位置演算部23の記憶する上述したマップをもって出力軸2bの回転位置θpを演算する(ステップS3)。
【0037】
次いで、舵角演算部25により、出力軸2bの回転位置θpに基づいて転舵輪W1,W2の舵角θWを演算し(ステップS4)、その舵角θWの情報を操舵アシスト制御部21に出力するとともに(ステップS5)、ステアリングホイール位置演算部24により、出力軸2bの回転位置θpに基づいてステアリングホイールSWの回転位置θSWを上述したように演算し(ステップS6)、そのステアリングホイールSWの回転位置θSWの情報をステアリング戻し制御部20および他の制御システム(図4参照)に出力する(ステップS7)。なお、ここで言う他の制御システムとしては、例えば駐車支援システムに代表されるような運転支援システムや車両の姿勢制御システムがあり、より具体的には、駐車支援システムにおけるリアビューモニターに車両の予想進路線を表示させるために用いられる。
【0038】
そして、上述したように、図4に示すステアリング戻し制御部20は、ステアリングホイールSWの回転位置θSWに基づき、ステアリングホイールSWの戻り性悪化を抑制するためのステアリング戻し制御指令信号S4を操舵アシスト制御部21に出力するするとともに、操舵アシスト制御部21は、操舵トルクT,舵角θW,ステアリング戻し制御指令信号S4に応じて電動モータMに発生させる操舵アシストトルクを設定し、モータ駆動指令信号S5をインバータ22に出力する。これにより、インバータ22から供給された電力をもって電動モータMの出力軸12が回転駆動され、その回転駆動力が操舵アシスト力としてラック軸3へ伝達されることになる。
【0039】
したがって、本実施の形態によれば、ステアリングホイール側ラックピニオン機構4の比ストロークが一定の場合であっても、ロックトゥロックの範囲内における出力軸2bの絶対的な角度位置θp、ひいては転舵輪W1,W2の舵角θWを、専用の舵角センサを用いることなく、出力側レゾルバ出力信号S2およびモータ側レゾルバ出力信号S3に基づいて演算できるようになり、コストの高騰を抑制できる。
【0040】
しかも、トルクセンサTSとして用いられている出力側レゾルバ7を利用して転舵輪W1,W2の舵角θWを演算するようになっていることから、コストの高騰をより効果的に抑制することができる。
【0041】
図7は、本発明の第2の実施の形態として、上述した第1の実施の形態における角度位置演算部19の変形例を示す機能ブロック図である。なお、図7では、上述した第1の実施の形態と同様または相当する部分には同一の符号を付している。
【0042】
図7に示す第2の実施の形態における角度位置演算部26は、図示外のイグニッションスイッチがオンとされ、ECU14が電源オフ状態から電源オン状態となったときにおける出力軸2bの回転位置を、出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3に基づいて初期回転位置θ0として演算する初期回転位置演算部27と、初期回転位置θ0からの出力軸2bの回転変位量Δθpを出力側電気角θe2に基づいて計数する回転変位量演算部28と、初期回転位置θ0に回転変位量Δθpを加算することで出力軸2bの回転位置θpを演算する第1ピニオン位置演算部29と、その第1ピニオン位置演算部29とは別に、出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3に基づいて出力軸2bの回転位置θp’を演算する第2ピニオン位置演算部30と、第1ピニオン位置演算部29にて演算した出力軸2bの回転位置θpと第2ピニオン位置演算部30にて演算した出力軸2bの回転位置θp’とを比較することにより、第1ピニオン位置演算部29にて演算した出力軸2bの回転位置θpと第2ピニオン位置演算部30にて演算した出力軸2bの回転位置θp’の異常の有無を判定する異常判定部31と、を備えている点で上述した第1の実施の形態と異なっている。なお、他の部分は上述した第1の実施の形態と同様である。
【0043】
すなわち、本実施の形態における角度位置演算部26は、図8にフローチャートで示すように、図示外のイグニッションスイッチがオンとされ、ECU14が電源オフ状態から電源オン状態となると、まず、初期回転位置演算部27が出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3をそれぞれ読み込み(ステップS11,S12)、それらの出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3に基づいて出力軸2bの回転位置を初期回転位置θ0として演算する(ステップS13)。なお、初期回転位置演算部27は、上述した第1の実施の形態のピニオン位置演算部23と同様の演算方法をもって初期回転位置θ0を演算する。
【0044】
このようにして初期回転位置θ0を演算したならば、回転変位量演算部28が回転変位量Δθpに0を代入するとともに(ステップS14)、その回転変位量Δθpの計数を開始し(ステップS15)、その後に、第1ピニオン位置演算部26が初期回転位置θ0に回転変位量Δθpを加算することで出力軸2bの回転位置θpを演算する(ステップS16)。
【0045】
その上で、舵角演算部25が出力軸2bの回転位置θpに基づいて転舵輪W1,W2の舵角θWを演算し(ステップS17)、その舵角θWの情報を操舵アシスト制御部21に出力するとともに(ステップS18)、ステアリングホイール位置演算部24が出力軸2bの回転位置θpに基づいてステアリングホイールSWの回転位置θSWを上述したように演算し(ステップS19)、そのステアリングホイールSWの回転位置θSWの情報をステアリング戻し制御部20および他の制御システムに出力する(ステップS20)。
【0046】
次いで、ステップS21では、操舵トルクTが零であるか否かを判断し、操舵トルクTが零でない場合には、運転者による操舵操作中であるためステップS16に戻り、出力軸2bの回転位置θpを再度演算する一方、操舵トルクTが零である場合、すなわち運転者による操舵操作が行われていないときには、第2ピニオン位置演算部30が出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3をそれぞれ読み込み(ステップS22,S23)、それらの出力側電気角θe2およびモータ側電気角θe3に基づいて出力軸2bの回転位置θp’を演算する(ステップS24)。なお、第2ピニオン位置演算部30は、上述した第1の実施の形態のピニオン位置演算部23と同様の演算方法をもって出力軸2bの回転位置θp’を演算する。
【0047】
その上で、ステップS25では、第1ピニオン位置演算部29にて演算した出力軸2bの回転位置θpと第2ピニオン位置演算部30にて演算した出力軸2bの回転位置θp’との差分の絶対値(|θp−θp’|)が、予め定めた異常判定しきい値Aよりも小さいか否かを異常判定部31が判定する。そして、ステップS25において|θp−θp’|<Aの条件を満たす場合には、第1ピニオン位置演算部29にて演算した出力軸2bの回転位置θpと第2ピニオン位置演算部30にて演算した出力軸2bの回転位置θp’とに異常がないものと判断し、出力軸2bの初期回転位置θ0に回転位置θp’を代入した上で(ステップS26)、ステップS14に戻る。
【0048】
他方、ステップS25において|θp−θp’|<Aの条件を満たさない場合には、第1ピニオン位置演算部29にて演算した出力軸2bの回転位置θpおよび第2ピニオン位置演算部30にて演算した出力軸2bの回転位置θp’のうち少なくともいずれかに異常が発生しているものと判断し、異常判定部31から操舵アシスト制御部21へ異常検出信号S6を出力し、角度位置演算部26における演算処理を終了する。なお、操舵アシスト制御部21は、異常判定部31から異常検出信号S6を入力すると、ラック軸3に付与する操舵アシストトルクを時間の経過に伴って漸次低減させ、電動モータMによる操舵アシストを停止する。
【0049】
したがって、本実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と略同様の効果が得られる上に、第1ピニオン位置演算部29にて演算した出力軸2bの回転位置θpと第2ピニオン位置演算部30にて演算した出力軸2bの回転位置θp’の異常を異常判定部31によって検出することにより、パワーステアリング装置の信頼性を向上させることができる。
【0050】
ここで、上述した各実施の形態から把握される技術的思想であって、特許請求の範囲に記載した以外のものについて、その効果とともに以下に記載する。
【0051】
(1)上記ステアリングホイール側ピニオン軸は、上記ステアリングホイール側の入力軸と上記ラック軸側の出力軸とをトーションバーを介して連結することで構成され、上記入力軸の回転変位を検出する入力側レゾルバが上記入力軸に、上記出力軸の回転変位を検出する出力側レゾルバが上記ステアリングホイール側レゾルバとして上記出力軸にそれぞれ設けられているとともに、上記入力側レゾルバおよび出力側レゾルバの出力信号に基づいて上記ステアリングホイール側ピニオン軸に作用する操舵トルクを演算するトルク演算部を備えていることを特徴とする(1)に記載のパワーステアリング装置。
【0052】
(1)に記載の技術的思想によれば、上記操舵トルクを検出するための出力側レゾルバを利用して転舵輪の舵角を検出することになり、コスト的により有利となるメリットがある。
【0053】
(2)上記ステアリングホイール側レゾルバ出力信号と上記電動機側レゾルバ出力信号とに基づいて上記ステアリングホイール側ピニオン軸の初期回転位置を演算する初期回転位置演算部と、
上記ステアリングホイール側レゾルバ出力信号に基づいて上記ステアリングホイール側ピニオン軸の上記初期回転位置からの回転変位量を演算する回転変位量演算部と、
上記初期回転位置に上記回転変位量を加算することで上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置を演算する第1ピニオン位置演算部と、
上記ステアリングホイール側レゾルバ出力信号および上記電動機側レゾルバ出力信号とに基づいて上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置を上記第1ピニオン位置演算部とは別に演算する第2ピニオン位置演算部と、
上記第1ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置と上記第2ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置とを比較することにより、上記第1ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置および上記第2ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置の異常の有無を判定する異常判定部と、
を備えていることを特徴とする(1)に記載のパワーステアリング装置。
【0054】
(2)に記載の技術的思想によれば、上記第1ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置および上記第2ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置の異常の有無を上記異常判定部をもって判定することにより、パワーステアリング装置の信頼性を向上させることができる。
【0055】
(3)上記異常判定部は、上記トルク演算部における操舵トルクの演算結果が零のときに、上記第1ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置と上記第2ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置とを比較することにより、上記第1ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置および上記第2ピニオン位置演算部が演算した上記ステアリングホイール側ピニオン軸の回転位置の異常の有無を判定するようになっていることを特徴とする(2)に記載のパワーステアリング装置。
【0056】
(3)に記載の技術的思想によれば、操舵トルクTが零であるとき、すなわち運転者による操舵操作が行われておらず、操舵アシストを行っていないときに、上記異常判定部による処理を行うようになっているため、上記異常判定部における処理と上記操舵アシストのための処理とが異なるタイミングで行われることになり、演算処理装置の負荷を軽減することができる。
【符号の説明】
【0057】
2…ステアリングホイール側ピニオン軸
3…ラック軸
3a…モータ側ラック歯(電動機側ラック歯)
4…ステアリングホイール側ラックピニオン機構
7…出力側レゾルバ(ステアリングホイール側レゾルバ)
9…モータ側ピニオン軸(電動機側ピニオン軸)
10…モータ側ラックピニオン機構(電動機側ラックピニオン機構)
13…モータ側レゾルバ(電動機側レゾルバ)
25…舵角演算部
SW…ステアリングホイール
M…電動モータ(電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵操作に伴って回転するステアリングホイール側ピニオン軸と、
操舵アシスト力を発生する電動機と、
上記電動機をもって回転駆動される電動機側ピニオン軸と、
上記ステアリングホイール側ピニオン軸と噛合してステアリングホイール側ラックピニオン機構を構成するステアリングホイール側ラック歯と、上記電動機側ピニオン軸と噛合して上記ステアリングホイール側ラックピニオン機構とは比ストロークの異なる電動機側ラックピニオン機構を構成する電動機側ラック歯とをそれぞれ有し、ステアリングホイール側ピニオン軸および電動機側ピニオン軸の回転を直線運動に変換して転舵輪に伝達するラック軸と、
上記ステアリングホイール側ピニオン軸が一回転する毎にk1周期のステアリングホイール側レゾルバ出力信号を出力するステアリングホイール側レゾルバと、
上記電動機側ピニオン軸が一回転する毎にk2周期の電動機側レゾルバ出力信号を出力するとともに、上記電動機側ピニオン軸を一回転させたときに上記ラック軸を介して上記ステアリングホイール側ピニオン軸が回転する回転角度をθa°とした場合に、(θa/k2)>(360/k1)であって、且つ(θa/k2)/(360/k1)が整数でない値となるように構成された電動機側レゾルバと、
上記ステアリングホイール側レゾルバ出力信号および上記電動機側レゾルバ出力信号に基づいて上記転舵輪の舵角を演算する舵角演算部と、
を備えていることを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
ステアリングホイールのロックトゥロックの回転角度をn°とし、上記ステアリングホイール側ピニオンシャフトの回転方向における上記ステアリングホイール側ラックピニオン機構のバックラッシュ量をθb°とした場合に、上記ステアリングホイール側レゾルバは、(360/k1)>(θb・n/(θa/k2))の関係を満足していることを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−1257(P2013−1257A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134742(P2011−134742)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(301041449)日立オートモティブシステムズステアリング株式会社 (44)
【Fターム(参考)】