説明

パワー半導体冷却装置

【課題】大型化することなくヒートシンクの放熱性能を向上させる。
【解決手段】放熱部41に対して風上側の任意の位置に、冷却風2に対して霧状の冷却水1を散布する冷却水散布装置10を設ける。冷却風2に霧状の冷却水1が混合されて成るミスト冷却風21は、霧状の冷却水1が蒸発する際に気化熱を奪うことで冷却されて、冷却風2よりも低い温度となる。この様なミスト冷却風21がヒートシンク4の放熱部41に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に搭載される電力変換装置等におけるパワー半導体の温度上昇を抑えるための冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の床下などに設置される電力変換装置は、半導体素子(半導体パワーモジュール等)を用いて電力変換を行うが、半導体素子で発生する熱を大気中に効率良く放散することで半導体素子の温度上昇を抑えるための冷却装置が必要となる。
【0003】
図8は、従来の半導体冷却装置の構造を示す概略図である。
図8の概略図において、例えば鉄道車両の車体の床下等に設置される電力変換装置の筐体5内に、半導体パワーモジュール3(パワー半導体の一例)が設置されている。また、ヒートシンク4が、その一部(ベース部42)が筐体5内にあり、残り(放熱部41)が筐体5の外部に露出する形で、筐体5に固定されている。例えば筐体5に孔が設けられており、ヒートシンク4がこの孔に貫挿されるようにして筐体5に固定されている。
【0004】
ヒートシンク4の上記筐体5内にあるベース部42は、半導体パワーモジュール3に接触しており、半導体パワーモジュール3の熱がヒートシンク4のベース部42に伝わり、この熱が放熱部41から放熱されるように構成されている。この放熱に関しては、図示のように冷却風2が、放熱部41を通過することで、冷却風2に熱が伝達されるように構成されている。この冷却風2は、例えば筐体5が上記鉄道車両の車体の床下等に設置される例の場合には、鉄道車両が走行することで生じるものであるが、この例に限らない。例えば、ファン等によって強制的に風を作り出すようにしてもよい。
【0005】
また、例えば特許文献1,2に記載の従来技術が知られている。
まず、特許文献1について説明する。
特許文献1に記載のように、鉄道車両の床下に設置される電力変換装置は、半導体素子を用いて電力変換を行うものであり(上記半導体パワーモジュール3に相当する)、半導体素子で発生する熱損失を大気中に効率良く放散して、半導体素子の温度上昇を抑えるための冷却器が必要となる。この冷却器は、筐体内部に半導体素子の取り付く受熱部が配置され、筐体外部の外気に晒される部分に放熱フィンが配置されて成る。
【0006】
特許文献1の発明では、半導体冷却装置内の冷却器を上下に分離し、電力変換装置の上アーム側の半導体素子用の冷却器と、下アーム側の半導体素子用の冷却器とを、別個の冷却器で分離した構成とし、上下の放熱フィン群間に間隔を空けることで、この間隔部分を走行風の流路とし後位側冷却器の放熱フィンへも充分な走行風が流れるように構成している。
【0007】
また、特許文献2の発明では、ヒートシンクの放熱部分を、複数個の平板状フィンが互いに並行でほぼ等間隔に固定された形状としている。平板状フィンと平板状フィンとの隙間に走行風を流して冷却するように、上記並行な複数個の平板状フィンが列車の走行方向と並行に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−123459号公報
【特許文献2】特開2001−332883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば上記図8に示す構成の半導体冷却装置の場合、半導体パワーモジュール3から発生した熱(損失熱)は、まずヒートシンク4に伝導し、ヒートシンク4の放熱部41から冷却風2に伝達されることによって、半導体冷却装置の外部(大気中)に運び去られる。
【0010】
ここで、ヒートシンク4の放熱性能を向上させるためには、放熱部41と冷却風2との間での熱伝達を促進することが必要となり、通常はヒートシンク4(その放熱部41)の大型化によって放熱性能の向上を図ることになる。この様に、通常は、放熱性能を向上させるためには放熱部41を大型化する必要があり、それによって電力変換装置の外形が大型化することになる。この為、電力変換装置(その半導体冷却装置)を例えば鉄道車両床下のような限られた空間に設置した場合には、有効な空きスペースが縮小されること、および電力変換装置の質量が増大することが問題であった。
【0011】
尚、ここでは、電力変換装置は、半導体冷却装置(ヒートシンク4等を含む)を備えた電力変換装置であるものとして説明している(よって、ヒートシンク4の大型化が、上記のように電力変換装置の大型化、質量増大を招くことになる)。但し、これは1つの考え方に従って説明しているだけであり、例えば電力変換装置と半導体冷却装置とを別扱いとする場合には、上記のことは半導体冷却装置の大型化、質量増大を意味することになる。しかし、これは表面的な(説明上の)違いに過ぎない。
【0012】
また、従来、例えば一時的に、外気温が所定値以上に上昇したとき、あるいは半導体素子の損失熱が所定値以上に増えたとき等には(所定値は、異常を示す値とする。つまり、これらは外気温の一時的な異常上昇や、半導体素子の損失熱の一時的な異常増加を意味するものと見做してもよい)、この様な異常状態を例えば冷却フィン等の温度上昇を検出する形で検知して電力変換装置の運転を停止する構成とする場合がある。しかしながら、鉄道車両において電力変換装置の運転を停止することによる影響は、小さいものではない。よって、当然、上記のような異常状態であっても電力変換装置の運転が停止されるような事態に陥ることなく、電力変換装置の運転を継続することができるようにすることが望まれる。
【0013】
本発明の課題は、パワー半導体を冷却する装置であって、ヒートシンクの冷却フィンに供給される冷却風に対して上流側で冷却水を散布することで、特に霧状の冷却水を散布することで、大型化することなくヒートシンクの放熱性能を向上させることができるパワー半導体冷却装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のパワー半導体冷却装置は、車両内に搭載されるパワー半導体で発生する熱が伝達されると共にその放熱部が車両外に露出しているヒートシンクを有し、該ヒートシンクによって前記熱を車両外へと放熱するパワー半導体冷却装置であって、前記放熱部へ供給される冷却風に対して、該放熱部の上流側において冷却水を散布することで、前記冷却風に前記冷却水が混合されて成るミスト冷却風を生成して、該ミスト冷却風を前記放熱部へ供給させる冷却水散布装置を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパワー半導体冷却装置等によれば、パワー半導体の冷却装置であって、ヒートシンクの冷却フィンに供給される冷却風に対して上流側で冷却水を散布することで、特に霧状の冷却水を散布することで、大型化することなくヒートシンクの放熱性能を向上させることができる。
【0016】
また、一時的な外気温の上昇や半導体素子の損失熱の増加等に対しても、冷却水を散布して冷却フィンの温度上昇を抑制し、以って半導体素子を所定温度内で動作させることができるので、電力変換装置の運転が停止される事態に陥ることなく運転を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本例の半導体冷却装置の構造を示す断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、ヒートシンク等の詳細構成例である。
【図3】(a),(b)は、ヒートシンクに付着する冷却水について説明する為の図である。
【図4】(a)、(b)は、冷却水散布装置10のON/OFF制御例(制御例1)について説明する為の図である。
【図5】(a)、(b)は、冷却水散布装置10のON/OFF制御例(制御例2)について説明する為の図である。
【図6】(a)、(b)は、冷却水散布装置10のON/OFF制御例(制御例3)について説明する為の図である。
【図7】(a)、(b)は、冷却水散布装置10のON/OFF制御例(制御例4)について説明する為の図である。
【図8】従来の半導体冷却装置の構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本例のパワー半導体冷却装置の構造を示す図である。
尚、図1において、図8に示す従来構成と略同様であってよい構成には、同一符号を付してあり、その説明は簡略化(もしくは省略)する。
【0019】
図1において、半導体パワーモジュール3、ヒートシンク4(ベース部42と放熱部41を有する)、筐体5、冷却風2は、図8の構成と略同様であってよく、図8と同一符号を付してあり、以下、基本的には簡単な説明を行うものとする。但し、図2も参照して、主にヒートシンク4の放熱部41と冷却風2に関して、より詳しく説明するものとする。
【0020】
まず、既に説明した通り、筐体5は鉄道車両の床下等に設置されるものであり、半導体パワーモジュール3は、鉄道車両等に搭載される電力変換装置等におけるパワー半導体である。よく知られているようにパワー半導体は動作中に発熱して高温になるので冷却が必要となり、上記鉄道車両におけるパワー半導体の場合、ヒートシンク4等によって外部へ放熱することになる。この半導体パワーモジュール3が、本例で冷却対象となる発熱体の一例である。
【0021】
既に図8で述べたように、ヒートシンク4は筐体5に固定されており、半導体パワーモジュール3は筐体5の内部に設置されており、ヒートシンク4のベース部42も筐体5内にある一方で、ヒートシンク4の放熱部41は筐体5の外に(外部に)露出している。
【0022】
ここで、図2(a)〜(d)には、ヒートシンク4をメインに詳細構成例を示している。(a)は前面図、(b)は上面図、(c)は側面図、(d)は底面図である。
まず、図2(a),(b),(c)に示すように、半導体パワーモジュール3は、ヒートシンク4のベース部42の上面に固着されている(必ずしも固着されている必要はないが、熱が伝達するように接触している必要はある)。これより、半導体パワーモジュール3で発生した熱は、主にベース部42に伝達され、更に、ベース部42から放熱部41(特に後述する各平板状フィン41a)へと伝達され、放熱部41から大気中へと放熱される。つまり、半導体パワーモジュール3で発生する熱をヒートシンク4が吸収して外部に放熱する。
【0023】
ここで、放熱部41は、例えば、図2(a),(d)に示すように、複数枚の平板状フィン41aが、互いに並行でほぼ等間隔に固定された形状(換言すれば、断面が櫛歯状)となっている。そして、ミスト冷却風21は、放熱部41を通過する際、図2(c)のように放熱部41の側面を通過するだけでなく、放熱部41内部も通過する。すなわち、図2(d)に示すように、相互に隣接する平板状フィン41a間を、ミスト冷却風21が通過するものであり、これはミスト冷却風21が放熱部41内部を通過するものと見做せる。
【0024】
ここで、上記ミスト冷却風21の代わりに冷却風2が放熱部41を通過する場合と比較すると、仮に風量(風速)が同じであるとした場合、ミスト冷却風21の方がヒートシンク4(その放熱部41)の放熱性能が良くなる。これについては後に説明する。
【0025】
図1の説明に戻る。
図1に示す本例のパワー半導体冷却装置は、主に鉄道車両に搭載される電力変換装置等におけるパワー半導体(ここでは半導体パワーモジュール3)について、その発生熱を車両の外部に逃がす形で冷却する装置である。図示の例のパワー半導体冷却装置は、上記ヒートシンク4と、冷却水散布装置10と、制御装置20を有する。尚、制御装置20は、冷却水散布装置10に含まれるものと見做してもよい。
【0026】
本構成では、冷却風2の上流側(放熱部41よりも風上側(上流側))の任意の位置に、この位置で冷却風2に対して冷却水1を散布する冷却水散布装置10を設けている。この冷却水散布装置10は、例えば水等の液体を霧状にして散布(噴霧)する「ミスト散布装置」であるが、この例に限らない。但し、ここでは、冷却水1が霧状の水である場合を典型例とする。
【0027】
尚、図には冷却水散布装置10の搭載位置は、示していないが、基本的には鉄道車両に搭載されるものであり、筐体5の任意の位置に固定されるものであってもよいし、筐体5と独立して設置されるものであってもよい。これは、筐体5の内側、外側のどちらに設置されていても良いが、少なくともノズル13は外部に露出していることが望ましい。
【0028】
上記のように冷却風2に対して冷却水1を散布することで、冷却水1と冷却風2とが混合したミスト冷却風21が生成されることになり、このミスト冷却風21が下流側に流れていき放熱部41に到達し、更に上記図2で説明したように放熱部41を通過することになる。
【0029】
ここで、冷却水1と冷却風2とが混合すると、冷却水1(その霧状の粒)が蒸発する際に冷却風2から熱を吸収すること(周囲から気化熱を奪うこと)により、冷却風2が冷却されて温度低下する(そのイメージを図3(a)に示す。よって、上記ミスト冷却風21の温度は、冷却風2の温度よりも低くなる)。この様な気化熱による冷却は、冷却水1と冷却風2とが混合された時点(ミスト冷却風21が生成された時点)から、ミスト冷却風21が放熱部41に到達するまでの間(更に放熱部41を通過中にも)、行われるかもしれない。何れにしても、放熱部41に到達時のミスト冷却風21の温度は、冷却風2の温度よりも低くなっている。従って、当然、このミスト冷却風21が上記図2で説明したように放熱部41を通過することにより、従来よりも優れた放熱性能が得られることになる。尚、よく知られているように、霧状になった水は、その粒子が極めて小さいため、素早く蒸発し易くなっている。
【0030】
また、ミスト冷却風21が放熱部41に到達するまでの間に、その冷却水1(霧状の水粒子)が全て蒸発する場合も有り得るが、一部は蒸発せずに残っている場合も有り得る。この場合、この様なミスト冷却風21が放熱部41を通過すると、その残存している冷却水1(霧状の水粒子)が放熱部41表面に付着することになる。これは、例えば相互に隣接する平板状フィン41a間をミスト冷却風2が通過する際に、例えば図3(b)に示すようにその冷却水1(霧状の水粒子)が平板状フィン41a表面に付着することになる。この様に、蒸発しなかった冷却水1が放熱部41に付着することで、放熱部41から冷却水1に対して熱伝達により熱が移動する。これによって、付着した冷却水1は温度上昇し、その一部は蒸発することになり、蒸発の際に放熱部41から更に熱を吸収することになる(気化熱の吸収)。
【0031】
また、蒸発しなかった残りの冷却水1は、上記放熱部41から移動した熱をもったまま、ミスト冷却風21の風圧等によって風下側に移動され、図3(b)に示すように放熱部41から排出される(風下側から排出される)。従って、これによっても、放熱部41の冷却が行われることになる。
【0032】
冷却水散布装置10は、例えば図1に示すように、水タンク11、ポンプ12、ノズル13等から成る一般的な構成であってよい。すなわち、水タンク11に貯留された水を、ポンプ12で水圧を掛けて微細な孔を持つノズル13から噴射させることで、霧状の水である上記冷却水1が生成される。
【0033】
また、更に、制御装置20を有するものであってもよい。尚、制御装置20は、冷却水散布装置10に含まれる構成であってもよいし、冷却水散布装置10の外部の構成であってもよい。制御装置20は、例えばCPU/MPU等の演算プロセッサ23やメモリ等の記憶装置22を有している。
【0034】
制御装置20は、例えば、冷却水散布装置10のON/OFF制御を行い、ON状態のときのみ冷却水1の散布が行われるようにする。また、制御装置20が、冷却水1の散布量を調整・制御できるようにしてもよい。この様な制御装置20による制御処理は、上記演算プロセッサ23が、上記記憶装置22に予め記憶されている所定のアプリケーションプログラムを実行することにより実現される。制御装置20による制御処理例については後述する。
【0035】
ここで、上述したように、従来、例えば一時的に、外気温が所定値A以上に上昇したとき、あるいは半導体素子の損失熱が所定値B以上に増えたとき等には、これを例えば冷却フィン等の温度上昇を検出する形で検知して電力変換装置の運転を停止する場合があるという問題があった。
【0036】
この問題に対して、上記本例の構成において、例えば、上記のように一時的に、外気温が所定値以上に上昇したとき、あるいは半導体素子の損失熱が所定値以上に増えたときに、これを制御装置20が例えば上記従来技術と同様、冷却フィン等(例えば平板状フィン41a等)の温度上昇が、予め設定された所定値以上になったことを検出する形で上記異常状態を検知する構成としてもよい(構成や制御方法について、ここではこれ以上は説明しない)。制御装置20は、上記のように異常状態を検知した場合、例えば冷却水散布装置10のON制御を行うように構成してもよい。あるいは、上記のように常にON状態(常に冷却水1の散布が行われている状態)の場合には、散布量を増加させるように制御してもよい。
【0037】
例えば、この様にすることで、上述した問題を解消できる。すなわち、一時的な外気温の上昇や半導体素子の損失熱の増加等に対しても、冷却水を散布して(あるいは散布量を増加させて)冷却フィンの温度上昇を抑制し、以って半導体素子を所定温度内で動作させることができるので、電力変換装置の運転が停止される事態に陥ることなく運転を継続することができる。尚、これに関しては、後述する制御例3、制御例4の手法を適用してもよい。詳しくは後述する。
【0038】
また、冷却風2を発生させる方法は、ブロア/ファン等によって強制的に風を発生させる方法であってもよいし、パワー半導体冷却装置自身が空気に対して移動することによって相対的に冷却風を発生させる方法であってもよい。後者の方法は、例えば、特許文献1、2における“走行風”を冷却風2とする方法であり、電車が運転中は筐体5が移動することで冷却風2が発生することになる。
【0039】
また、図1では筐体5の下側に放熱部41が露出しているが、この例に限らず、筐体5の側面または上面に放熱部41が露出する構成であってもよく、放熱部41の露出する方向については特に限定しない。
【0040】
また、ヒートシンク4は、例えばアルミニウムまたは銅を主材料とし、耐腐食性の向上のために表面は塗装やメッキ、または化成処理皮膜などにより覆われている。
また、上記構成において、上述した冷却水1の霧状の水粒子の大きさ(粒径)については、特に限定するものではないが、基本的には、粒径が小さければ小さいほど、冷却効果が良くなるものと考えられる。
【0041】
すなわち、冷却水1の粒径を小さくすることにより、冷却水1が冷却風2に混合しやすくなり、更に冷却水1全体の体積が同じでも冷却水1全体の表面積が増すため、冷却水1の気化によるミスト冷却風21の温度低下が促進される。また、冷却水1が放熱部41に付着した際にも、冷却水1の個々の粒径が小さい方が放熱部41からの熱の移動による冷却水1の気化が行われ易く、かつ、気化しない冷却水1がミスト冷却風21によって運ばれやすくなるため、冷却水1の個々の粒径が小さい方が、放熱部41から熱を吸収した後の冷却水1が放熱部41から排出されやすくなる。
【0042】
以上より、同一水量を散布した場合でも、散布する水の粒径が小さい方が、冷却性能向上の効果が大となる。既に述べたように、散布する水の粒径について具体的な数値を限定するものではないが、例えば1つの目安としては、平均粒径100μm以下等とすることが考えられるが、この例に限らない。
【0043】
また、上記のように、冷却効果の点からは粒径が小さければ小さいほど良いが、粒径が非常に小さくなると別の問題が生じることになる。すなわち、この場合、ノズル13の孔が非常に小さくなるので、流路の抵抗が増す為、ポンプ12によって掛ける水圧を増加させる必要がある。あるいは、ノズル目詰まりの防止策が必要になる。従って、実際には、この様なデメリットも考慮しながら、適切と思われる粒径となるように設計することになると考えられる。従って、この点からも、散布する水の粒径について具体的な数値を限定するものではない。
【0044】
以下、上記制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御の一例と、この制御に応じた半導体パワーモジュール3の温度上昇値の例を、図4、図5、図6、図7に示して、それぞれ説明する。
【0045】
まず、図4を参照して、制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御例(制御例1)について説明する。尚、制御装置20を冷却水散布装置10の構成の一部と見做す場合には、図4は、冷却水散布装置10のON/OFF動作例を示すものと言える。これは、図5、図6、図7についても同様である。
【0046】
図4(b)は、制御例1による冷却水散布装置10のON/OFF制御、図4(a)は、この制御例に応じた半導体パワーモジュール3の温度上昇値例を示す。
尚、ここで、温度上昇値とは、例えば何らかの基準となる温度と、半導体パワーモジュール3の現在の温度(測定温度)との差を意味する。基準となる温度とは、例えば電力変換装置の稼働前(非稼働時)の温度であってもよいし、予め任意に決められた温度であってもよい。また、温度上昇値に限るものではなく、上記測定温度そのものを用いても良い。よって、以下、温度上昇値、測定温度のどちらかを例にして説明する場合でも、温度上昇値、測定温度のどちらを用いてもよいものとする。尚、測定温度を用いる場合には、後述する温度上昇規定値の代わりに、温度に対する規定値(例えば予め各製品毎に決まっているが、任意に決めてもよい)を用いることになる。
【0047】
制御例1では、冷却水1を常時散布することを特徴とする。
本例では、まず、図8に示す従来構成の場合の半導体パワーモジュール3の温度上昇値例を、図4(a)において図示の点線(破線)で示すものとする。この例では、ヒートシンク4の放熱性能が半導体パワーモジュール3からの発熱量に対して常に不足するものとし、この為、例えば電力変換装置を稼働開始すると、半導体パワーモジュール3の温度上昇が図示の点線(破線)で示すようになり、ある時点以降は半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値(例えば予め各製品毎に決まっているが、任意に決めてもよい)を超過することになる。
【0048】
これに対して、本制御例1では、上記制御装置20は、例えば図4(b)に示すように、電力変換装置の運用を開始したら、直ちに、冷却水散布装置10をON制御して冷却水1の散布を開始させ、その後、例えば電力変換装置の稼働中は、常時、冷却水1の散布を行わせる。この様に冷却水1を噴射して、冷却風の温度を下げることや冷却水1の霧状の水粒子をヒートシンク4の放熱部41に付着させること等によって、既に述べたようにヒートシンク4の放熱性能が向上するので(放熱部41からの放熱量が増えるので)、図4(a)に示す実線の温度上昇のように、半導体パワーモジュール3の温度上昇を半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値内に収めることができる。
【0049】
尚、上記制御例1において、冷却水1の散布を開始するトリガーを、例えば、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が、温度上昇規定値を越えた場合としてもよい。この場合も、散布開始後は、冷却水1を常時散布するが、例えば開始から所定時間経過したら、節約モードに移行して散布量を減少させるようにしてもよい。
【0050】
あるいは、常時散布開始後、随時、冷却フィン(例えば後述する平板状フィン41a等)の温度または温度上昇値を計測し、この計測値が予め任意に設定される所定の閾値を越えた場合には、少なくとも閾値を超えている間は、散布量を増やすようにしてもよい。これによって、後述する一時的な悪条件のとき又は悪条件が重なった場合等にも対応可能となる。
【0051】
あるいは、例えば、冷却水散布装置10または放熱部41の近傍に風速計を設ける等してミスト冷却風21の風速を計測可能な構成とすると共に、制御装置20が、この風速に基づいて、上記冷却水1の常時散布中に随時、散布量を調整制御するようにしてもよい。これは、ミスト冷却風21の風速が低下するとヒートシンクの放熱性能が低下して温度上昇し易くなると考えられることから、例えば、風速が低いほど散布量を多くし、風速が高いほど散布量を少なくするように調整制御する。
【0052】
尚、具体的な風速・散布量の関係などは、例えば実験結果等に基づいて決定すべきものであり、ここでは具体的な数値を示すものではない。これは、他の制御についても同様である。
【0053】
また、他の制御例2〜4においても、ミスト冷却風21の風速に応じて冷却水1の散布量を調整する制御も適用するようにしてもよい。
次に、図5を参照して、制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御例(制御例2)について説明する。
【0054】
この制御例2では、冷却水1を一定時間毎に散布することを特徴とする。
本例でも、上記図4と同様、図8に示す従来構成の場合の半導体パワーモジュール3の温度上昇値例を、図5(a)において図示の点線(破線)で示すものとする。すなわち、本制御例2でも、上記制御例1と同様、ヒートシンク4の放熱性能が半導体パワーモジュール3からの発熱量に対して常に不足するものとし、この為、例えば電力変換装置の運用を開始すると、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が、図示の点線(破線)で示すように、ある時点以降は半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値(予め各製品毎に決まっている)を超過することになるものとする。
【0055】
これに対して、本制御例2では、上記制御装置20は、例えば図5(b)に示すように、電力変換装置の運用を開始したら、所定周期で定期的に、冷却水散布装置10をON制御して冷却水1の散布を行わせる。図示の例では、制御装置20は、冷却水散布装置10を所定時間aの間ON制御したら、所定時間bの間OFF制御し、続いて、所定時間aの間ON制御したら、所定時間bの間OFF制御するというように、所定の時間間隔bを空けて、所定時間aの間冷却水1の散布を行わせること(間欠的に冷却水1の散布を行わせること)を繰り返す。
【0056】
この様に、冷却水1の散布を常時行わなくても、定期的に冷却水1の散布を行う(冷却水1の散布を停止する期間を設ける)方法であっても、図5(a)に実線で示すように、半導体パワーモジュール3の温度上昇値(計測値)を、半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値内に収めることができる。
【0057】
尚、図5(a)には更に上記制御例1の例における半導体パワーモジュール3の温度上昇値を一点鎖線で示している。図示の実線と一点鎖線を見れば明らかなように、本制御例2は、上記制御例1の場合に比べれば、温度上昇値が高いうえに多少の変動が見られるが、規定値を超えないことが重要であり、特に問題はない。そして、当然、制御例1のように冷却水1を常時散布する場合に比べれば、単位時間当たりに必要となる冷却水量が少なくて済む(換言すれば、制御例1の場合に比べて、水タンク11の容量が少なくて済む(あるいは水タンク11への水の補充頻度が少なくて済む)。
【0058】
無論、上記のことは、制御例1と制御例2とで散布量が同じであるとした場合の比較結果を述べているものである。
ここで、上記制御例2では、例えば予め実際に装置を設置して実測・実験した結果に基づいて、例えば図5(a)に実線で示すような温度上昇値特性となるように(少なくとも半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えることが無いように)、例えば上記所定時間a,bの長さや、冷却水1の散布量(所定時間当りの散布量など)などを決定しておくものである。
【0059】
この様に、実測・実験結果に基づく設計を行っていることで、基本的には、通常時であれば、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えないで済むようにできる。しかし、後述する一時的な悪条件のとき又は悪条件が重なった場合等には、規定値を越える可能性もある。これに対して、制御例2においても、運用開始後は、随時、冷却フィン(例えば後述する平板状フィン41a等)の温度または温度上昇値を計測し、この計測値が予め任意に設定される所定の閾値を越えた場合には、少なくとも閾値を超えている間は、例えばON制御し続ける若しくは散布量を増やすようにしてもよい。
【0060】
次に、以下、制御例3,4について説明する。
上記制御例1、2では、基本的には、実際の状況に関係なく、予め決められたルール(常時、または所定時間a,b)に従って、冷却水散布装置10をON制御等して冷却水1の散布を行わせるものであった。
【0061】
これに対して、以下に説明する制御例3,4では、運用中にリアルタイムで取得した温度データ等に基づいて、冷却水散布装置10をON/OFF制御して、半導体パワーモジュール3の温度上昇を半導体パワーモジュール3の規定値内に収めるようにしている。
【0062】
まず、制御例3について説明する。
以下、図6を参照して、制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御例(制御例3)について説明する。
【0063】
この制御例3では、図1において温度センサ(不図示)が更に設けられているものとする。この温度センサは、例えば、半導体パワーモジュール3の温度を測定するものである。尚、この測定温度から上記温度上昇値を求めてこれを温度測定結果としてもよい。既に述べたように、測定温度と温度上昇値のどちらを用いても良いが、ここでは制御例1等と同様に温度上昇値を用いる例とする。
【0064】
制御例3では、上記温度測定結果(温度上昇値)と予め設定される閾値に基づいて冷却水1の散布実行/散布停止を決定することで、半導体パワーモジュール3の温度上昇値を、半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値内に収めることを特徴とする。
【0065】
本例でも、上記図4、図5と同様、図8に示す従来構成の場合の半導体パワーモジュール3の温度上昇値例を、図6(a)において図示の点線(破線)で示すものとする。すなわち、本制御例3でも、上記制御例1、2と同様、ヒートシンク4の放熱性能が半導体パワーモジュール3からの発熱量に対して常に不足するものとし、この為、例えば電力変換装置の運用を開始すると、半導体パワーモジュール3の温度上昇が、図示の点線(破線)で示すように、ある時点以降は半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値(予め各製品毎に決まっている。あるいは任意に設定される)を超過することになるものとする。
【0066】
本制御例3では、上記制御装置20は、例えば図6(a)に示す2種類の閾値(閾値A、閾値B)を、予め上記記憶装置22等に記憶している(温度上昇規定値も記憶していてもよい)。これら閾値A,Bと上記半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値との関係が、温度上昇規定値>閾値A>閾値Bとなることを条件として、閾値A、閾値Bの値は任意に決めてよい。尚、閾値Aは冷却水散布開始温度を意味し、閾値Bは冷却水散布停止温度を意味するものと見做してもよい。
【0067】
上記の温度センサによる半導体パワーモジュール3の温度測定結果(上記の通り、ここでは温度上昇値とする)を測定値Cと記すものとすると、制御装置20は最新の測定値Cを随時または定期的に取得して、取得した測定値と上記閾値A、閾値Bとに基づいて、例えば下記の(1)、(2)の制御を行う。
(1)現在、冷却水散布装置10がOFF状態(停止状態)である場合(冷却水1は散布されていない状態);
測定値Cと閾値Aとを比較して、測定値Cが閾値Aを超えた(測定値C>閾値A)か否かを判定する。もし、測定値Cが閾値A以下であれば(測定値C≦閾値A)、何も行わず現状維持とする。すなわち冷却水散布装置10は停止状態のままとする。
【0068】
一方、もし、測定値Cが閾値Aを超えたのであれば(測定値C>閾値A)、冷却水散布装置10をON制御して、冷却水1の散布を開始させる。
(2)上記冷却水1の散布開始により、現在、冷却水散布装置10がON状態(稼働状態)である場合(冷却水1が散布されている状態);
測定値Cと閾値Bとを比較して、測定値Cが閾値B未満となった(測定値C<閾値B)か否かを判定する。もし、測定値Cが閾値B以上であれば(測定値C≧閾値B)、何も行わず現状維持とする。すなわち冷却水散布装置10は稼働状態のままとする。
【0069】
一方、もし、測定値Cが閾値未満となったのであれば(測定値C<閾値B)、冷却水散布装置10をOFF制御して、冷却水1の散布を停止させる。
但し、上記(2)の制御に関しては、上述した一例に限らず、例えば冷却水1の散布を開始した時点から、予め設定されている所定時間経過したら、冷却水散布装置10をOFF制御して、冷却水1の散布を停止させるようにしてもよい。換言すれば、閾値は、必ずしも2種類必要なわけではなく、1種類(上限値)のみであってもよい。
【0070】
また、既に述べた通り、上記測定値Cは、温度センサによって測定された半導体パワーモジュール3の温度自体としてもよい。この場合、上記閾値A,Bは、上記温度上昇値に応じたものの代わりに、温度自体に応じたものとすることになる。
【0071】
上述した制御を行うことで、半導体パワーモジュール3の温度上昇値は、例えば図6(a)に実線で示すようなものとなり、制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御は例えば図6(b)に示すようなものとなる。
【0072】
図6(a)に実線で示すように、半導体パワーモジュール3の温度上昇値は、起動直後を除けば、基本的には殆ど閾値Bと閾値Aの間の範囲内となる。換言すれば、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えるような事態にはならない。また、図6(b)に示す通り、冷却水散布装置10をOFF制御している期間もあり、冷却水1を常時散布しているわけではないので、制御例1のように常時冷却水1の散布を行う場合に比べれば、必要となる冷却水量を抑える(少なくて済む)ことができる(換言すれば、制御例1の場合に比べて、水タンク11の容量が少なくて済む(あるいは水タンク11への水の補充頻度が少なくて済む)。
【0073】
また、制御例2のように予め決められた通りにON/OFF制御するのではなく、そのときの状況を検知して(測定値Cを取得して)ON/OFF制御するので、何等かの異常な状態が生じても対処可能である(半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えることはない)。これについて以下、説明する。
【0074】
まず、上記の通り、図6(a)において点線(破線)で示すのは、図8に示す従来構成の場合の半導体パワーモジュール3の温度上昇値例である。そして、図示のように、温度上昇値が規定値を越えた状況において、更に、一時的に温度上昇値が急増しているときがある。これは、例えば、一時的に、半導体パワーモジュール3の発熱量の異常増加、冷却風2の温度の上昇(外気温の上昇)、あるいはこれらの悪条件が重なったとき等に起こり得ることである。
【0075】
制御例2の場合、この様な一時的な異常状態のときでも通常時と同様に、上述した所定時間aの間ON制御し、続いて所定時間bの間OFF制御することを繰り返すことになる。従って、場合によっては半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越える可能性は有り得る。
【0076】
これに対して、制御例3では、たとえ一時的に上記悪条件となっても、あるいはこれら悪条件が重なった場合でも、それに応じて例えば図6(a)、(b)に示すように、冷却水散布装置10をON制御する時間が通常時よりも長くなり、以って半導体パワーモジュール3の温度上昇が抑えられるので、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えるような事態を防止できる。
【0077】
次に、以下、図7を参照して、制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御例4について説明する。
この制御例4では、上記制御例3と同様に、図1において温度センサ(不図示)が更に設けられているものとする。この温度センサは、例えば、半導体パワーモジュール3の温度を測定するものである。制御例4では、基本的には制御例3と同様に、この温度測定結果(ここでは、温度上昇値)と予め設定される閾値に基づいて冷却水1の散布実行/散布停止を決定することで、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が、半導体パワーモジュール3の規定値を越えないようにできることを特徴とする。更に、一時的に悪条件となっても、あるいは悪条件が重なっても、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が、半導体パワーモジュール3の規定値を越えないようにできることを特徴とする。
【0078】
ここで、従来技術であっても、図7(a)に点線(破線)で示すように、通常時であれば冷却水1の散布無しでも、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えないように構成することは可能である。これは、例えばヒートシンク4を大型化することでヒートシンク4の放熱性能を向上させることによって実現できる。
【0079】
制御例4では、上記制御例1〜3とは異なり、この様な従来技術をベースとしている。
すなわち、これまでの制御例1,2,3では、上述したように、ヒートシンク4の放熱性能が半導体パワーモジュール3からの発熱量に対して常に不足するものとしていた。これに対して、制御例4では、ヒートシンク4の放熱性能は、半導体パワーモジュール3からの通常時の発熱量に対しては、不足がないようにしている。勿論、その為には、制御例4の場合は、制御例1〜3の場合に比べて、例えばヒートシンク4が多少は大型化することになる。しかしながら、この場合、通常時は問題ないが、上述した一時的な悪条件のときや悪条件が重なった場合のような、一時的な異常時には対応できない可能性がある。
【0080】
これに対して、ヒートシンク4の放熱性能を、この様な異常時であっても問題ないようにすることは、従来でも可能であった(既存手法により、異常時でも半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えないようにすることはできる)。しかしながら、これは、ヒートシンク4を更に大型化することを意味する。上述した一時的に悪条件や悪条件が重なった場合等のような異常状態は、頻繁に起きるようなものではないし、起きても短時間で収束する場合が多いので、この様な場合の為にヒートシンク4を更に大型化することは問題である。
【0081】
尚、図7(a)には、上記従来の“通常時には冷却水1の散布無しでも対応可能な構成”とした場合の半導体パワーモジュール3の温度上昇値特性例を、点線(破線)で示している。また、上記従来の“通常時だけでなく異常時であっても冷却水1の散布無しでも対応可能な構成”とした場合の半導体パワーモジュール3の温度値(温度上昇値)特性例を、一点鎖線で示している。図示の点線(破線)で示すように、通常時には問題はないが、上述した悪条件や悪条件が重なった場合のような異常時には、規定値を大きく越えてしまう場合がありえる。これに対して、上記のように一時的な異常時にも対応可能な構成とした場合には、図示の一点鎖線で示すように、異常時であっても半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えないようにできる。しかしながら、この場合、上述したように、ヒートシンク4の更なる大型化を招くことになる。
【0082】
これより、制御例4では、まず、通常時であれば冷却水1の散布無しでも、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が、上記閾値Aを越えないように構成する。上記の通り、規定値>閾値Aであるので、上記従来技術よりも更にヒートシンク4を多少は大型化することでヒートシンク4の放熱性能を多少は向上させることが必要となる(また、これにより、通常時は、図示の実線で示すように、上記点線(破線)よりも多少温度上昇値が低くなる)。
【0083】
制御例4は、上記制御例3との違いは、上記のようにヒートシンク4の放熱性能を向上させている(通常時は冷却水1の散布無しでも、温度上昇値が閾値Aを越えない構成とする)点のみであると見做してもよい。従って、制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御方法は、上述した制御例3の制御方法と同じであってよく、ここでは特に詳細には説明しないものとする。
【0084】
ここで、制御例4の手法を適用した場合の半導体パワーモジュール3の温度上昇値特性例を、図7(a)では実線で示している。
上記の通り、制御例4では、上記通常時には冷却水1の散布無しでも対応可能な構成と略同様の構成としているので、通常時における特性は、図示の実線で示す通り、上記点線(破線)で示した特性と似た特性となる(但し、上記の通り、多少低くなる)。これより、図示のように、通常時には冷却水散布装置10がON制御されるようなことはない。
【0085】
そして、上述した悪条件や悪条件が重なった場合のような異常時には、制御例4の場合も実線で示すように、点線(破線)と略同様に、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が増加していくことになるが、制御例4の場合、温度上昇値が閾値Aを越えると冷却水散布装置10がON制御されて冷却水1の散布が開始されることになる。これによって、図示の実線で示すように、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が減少していくことになる。
【0086】
その後は、制御例3の場合と同様に、例えば、半導体パワーモジュール3の温度測定値Cが閾値B未満となったら(あるいはON制御開始時点から所定時間経過したら)、冷却水散布装置10がOFF制御されて冷却水1の散布が停止される。これによって、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が再び上昇していくことになり、再び閾値Aを越えたならば、再び冷却水散布装置10がON制御されて冷却水1の散布が開始されることになる。この様にして、異常時であっても、半導体パワーモジュール3の温度は、閾値Bと閾値Aとの間の範囲内に維持され(少なくともほぼ閾値A以下に維持され)、規定値を越えることはない。
【0087】
尚、制御装置20による冷却水散布装置10のON/OFF制御は、例えば図7(b)に示すようなものとなる。
尚、制御例4の場合も、制御例3と同様に、閾値は上記閾値Aの一種類のみとし、従って閾値Bを用いた判定を行うことなく、代わりに例えば、冷却水1の散布を開始した時点から、予め設定されている所定時間経過したら、冷却水散布装置10をOFF制御して、冷却水1の散布を停止させるようにしてもよい。
【0088】
鉄道車両などに搭載される電力変換装置等のパワー半導体を冷却するパワー半導体冷却装置に関しては、半導体パワーモジュール3の発熱量、冷却風2の温度(外気温)、冷却風2の風速等が、さまざまに変化する。電力変換装置が通常の状態の時には冷却風2によって放熱部41を冷却することで(冷却水1の散布無しでも)半導体パワーモジュール3の温度上昇値を半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値内とすることができるように構成した場合でも、一時的に、半導体パワーモジュール3の発熱量の増加、冷却風2の温度の上昇、冷却風2の風速の低下といった悪条件となった場合やこれらの悪条件が重なった場合等には、図7(b)に点線(破線)で示すように半導体パワーモジュール3の温度上昇値が半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値を越えることが有り得る。
【0089】
このように一時的に悪条件や悪条件が重なった場合にも、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えないことがパワー半導体冷却装置には求められる。従来技術を用いて半導体パワーモジュール3の発熱量、および冷却風2の温度、冷却風2の風速の変動等を考慮して、悪条件下に対応したヒートシンク4の放熱性能を設定することは可能である。これによって、図7(a)に一点鎖線で示すように、一時的に悪条件や悪条件が重なった場合にも半導体パワーモジュール3の温度上昇値が規定値を越えないようにすることはできる。しかしながら、この様に構成する場合には、通常の運転時のみを考慮した場合と比較して高い放熱性能が必要となるため、ヒートシンク4が更に大型化することが問題となる。
【0090】
これに対して、上記制御例4を適用した場合には、図6に実線で示すように、設定した温度(閾値A)以上に測定温度が上昇した際にのみ冷却水1を散布し、一定時間経過後、または一定の温度(閾値B)に低下した後に冷却水1の散布を停止することによって、一時的な悪条件下や悪条件が重なった場合にも、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が半導体パワーモジュール3の温度上昇規定値を越えないようにすることができる。
【0091】
尚、上述した制御例1〜4では上記の通り半導体パワーモジュール3の温度(温度上昇値)を測定するものとするが、この例に限らず、例えばヒートシンク4の温度(温度上昇値)を測定するものであってもよい。この例の場合、例えば予め実験等によってヒートシンク4の温度と半導体パワーモジュール3の温度との関係を求めておくことで、ヒートシンク4の温度から、半導体パワーモジュール3の温度上昇値が、規定値内であるか否かを推定することは、可能である。
【0092】
以上説明したように、本例のパワー半導体冷却装置は、例えば基本的には、車両内に搭載されるパワー半導体で発生する熱が伝達されると共にその放熱部が車両外に露出しているヒートシンクを有し、該ヒートシンクによって前記熱を車両外へと放熱するパワー半導体冷却装置である。そして、本例のパワー半導体冷却装置には冷却水散布装置を設けている。この冷却水散布装置は、例えば、上記放熱部へ供給される冷却風に対して、該放熱部の上流側において冷却水を散布することで、冷却風に冷却水が混合されて成るミスト冷却風を生成して、該ミスト冷却風を上記放熱部へ供給させるものである。
【0093】
そして、上記冷却水散布装置は、例えば、上記冷却水を霧状に散布することにより、その蒸発に伴う気化熱の吸収によって、ミスト冷却風の温度を冷却風よりも低くさせることができる。従来の冷却風よりも低い温度のミスト冷却風が、ヒートシンクの放熱部に供給されることで、ヒートシンクの放熱性能が実質的に向上することになる。
【0094】
また、上記霧状の冷却水は、全てが蒸発するとは限らない。これより、上記ミスト冷却風に含まれる、蒸発せずに残った冷却水が、放熱部に付着することで、該放熱部から該付着した冷却水に熱が移動することでも、ヒートシンクの放熱性能が実質的に向上することになる。尚、上記放熱部から熱が移動された冷却水は、それによって蒸発するか、もしくは風圧等によって放熱部から排出されることになる。蒸発する場合には、当然、蒸発に伴って周囲から気化熱を奪うことになる。
【0095】
また、上記パワー半導体冷却装置は、上記冷却水散布装置による冷却水の散布をON/OFF制御する制御装置を更に有するものであってもよい。
そして、この該制御装置は、例えば、上記冷却水散布装置による冷却水の散布を、パワー半導体の稼働中は常時行わせる。
【0096】
あるいは、この制御装置は、例えば、上記冷却水散布装置による冷却水の散布を、所定周期毎に所定時間分、行わせる。つまり、常時散布するのではなく、間欠的に(定期的に)冷却水が散布されるように制御する。
【0097】
あるいは、上記制御装置は、パワー半導体の温度を計測する計測部、予めパワー半導体の温度に係る規定値よりも低い温度である上限温度(上記閾値A等)が記憶された記憶部、上記計測部で計測した温度が該上限温度を越えた場合に、上記冷却水散布装置による冷却水の散布を開始させる制御部などの各種機能部(何れも不図示)を有するものであってもよい。尚、これら機能部の処理機能等、上述した制御装置の制御処理は、例えば、上記演算プロセッサ23が、上記記憶装置22に予め記憶されているアプリケーションプログラムを実行することにより実現される。
【0098】
尚、上記計測部によって計測されるパワー半導体の温度は、既に述べたように、計測温度自体であってもよいし、この計測温度から求められる上記「温度上昇値」を意味するものであってもよい。同様に、上記パワー半導体の温度に係る規定値は、例えば上記「温度上昇規定値」に相当するが、この例に限らず、上記計測温度自体に対する規定値であってもよい。
【0099】
また、例えば、上記ヒートシンクの冷却性能を、冷却水の散布無しではパワー半導体の温度が規定値を越える場合があるように構成しておくようにしてもよい。これは、通常時であっても規定値を越える場合があるように構成してもよいし、通常時には規定値を越えないが上記異常時(一時的に上述した悪条件や悪条件が重なった場合など)には規定値を越える場合があるように構成してもよい。
【0100】
以上説明した本例のパワー半導体冷却装置によれば、下記の効果が得られる。
すなわち、冷却風に対してヒートシンクの上流側で霧状の冷却水を散布し、冷却風と冷却水を混合することにより、冷却水の気化熱によって冷却風の温度が低下する。この様に温度低下させた冷却風がヒートシンクに供給されるので、従来に比べてヒートシンクからの放熱量を増やすことができる(従来よりもヒートシンクの放熱性能が実質的に向上することになる)。換言すれば、大型化することなくヒートシンクの放熱性能を向上させることができる。
【0101】
更に、冷却風に含まれた水分がヒートシンクの放熱部に付着することによって、放熱部から冷却水に熱が移動する。ここで、一般に水の熱伝達率は空気の熱伝達率よりも大であることから、空気より多くの熱を放熱部から移動させることが可能であり、更に付着した水分が蒸発する際にはより多くの熱を放熱部から吸収することができるため(気化熱による)、冷却体(ヒートシンク)の放熱性能が向上する。
【0102】
これにより、ヒートシンク(その放熱部)を大きくすることなく(大型化せずに)、ヒートシンクの放熱性能を向上させて、半導体パワーモジュールの温度上昇を抑えることができる。
【0103】
また、冷却体(ヒートシンク)の放熱性能を、従来技術を用いた冷却装置と同等とする場合、放熱部を小型化することができ、電力変換装置を小型化・軽量化することができる。
【0104】
また、上記異常状態(一時的に悪条件や悪条件が重なった場合;一時的な外気温の上昇や半導体素子の損失熱の増加等)に対しても、冷却水を散布して冷却フィンの温度上昇を抑制し、以ってパワー半導体素子を所定温度内で動作させることができるので、電力変換装置の運転が停止される事態に陥ることなく運転を継続することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 冷却水
2 冷却風
21 ミスト冷却風
3 半導体パワーモジュール
4 ヒートシンク
41 放熱部
41a 平板状フィン
42 ベース部
5 筐体
10 冷却水散布装置
11 水タンク
12 ポンプ
13 ノズル
20 制御装置
23 演算プロセッサ
22 記憶装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内に搭載されるパワー半導体で発生する熱が伝達されると共にその放熱部が車両外に露出しているヒートシンクを有し、該ヒートシンクによって前記熱を車両外へと放熱するパワー半導体冷却装置であって、
前記放熱部へ供給される冷却風に対して、該放熱部の上流側において冷却水を散布することで、前記冷却風に前記冷却水が混合されて成るミスト冷却風を生成して、該ミスト冷却風を前記放熱部へ供給させる冷却水散布装置を設けたことを特徴とするパワー半導体冷却装置。
【請求項2】
前記冷却水散布装置は、前記冷却水を霧状に散布することにより、その蒸発に伴う気化熱の吸収によって、前記ミスト冷却風の温度を前記冷却風よりも低くすることを特徴とする請求項1記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項3】
前記ミスト冷却風に含まれる、前記蒸発せずに残った冷却水が、前記放熱部に付着することで、該放熱部から該付着した冷却水に熱が移動することを特徴とする請求項2記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項4】
前記冷却水散布装置による前記冷却水の散布をON/OFF制御する制御装置を更に有し、
該制御装置は、前記冷却水散布装置による前記冷却水の散布を、前記パワー半導体の稼働中は常時行わせることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項5】
前記冷却水散布装置による前記冷却水の散布をON/OFF制御する制御装置を更に有し、
該制御装置は、前記冷却水散布装置による前記冷却水の散布を、所定周期毎に所定時間分、行わせることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項6】
前記冷却水散布装置による前記冷却水の散布をON/OFF制御する制御装置を更に有し、
前記制御装置は、
前記半導体パワーモジュールの温度を計測する計測手段と、
予め前記半導体パワーモジュールの温度に係る規定値よりも低い温度である上限温度が記憶された記憶手段と、
前記計測手段で計測した温度が該上限温度を越えた場合に、前記冷却水散布装置による前記冷却水の散布を開始させる制御手段とを有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記冷却水の散布開始後、所定時間経過したら、あるいは前記計測手段で計測した温度が、予め設定されている前記上限温度よりも低い温度である下限温度未満となった場合に、該冷却水の散布を停止させることを特徴とする請求項6記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項8】
前記ヒートシンクの冷却性能を、前記冷却水の散布無しでは前記半導体パワーモジュールの温度が前記規定値を越える場合があるように構成しておくことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項9】
前記ヒートシンクの冷却性能を、通常時は前記冷却水の散布無しでも前記半導体パワーモジュールの温度が前記規定値を越えないが、異常時には前記冷却水の散布無しでは前記半導体パワーモジュールの温度が前記規定値を越える場合があるように設定しておくことを特徴とする請求項6記載のパワー半導体冷却装置。
【請求項10】
前記パワー半導体は、鉄道車両に搭載される電力変換装置におけるパワー半導体であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のパワー半導体冷却装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−74214(P2013−74214A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213538(P2011−213538)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】