説明

ヒューズ用めっき付き銅合金材料及びその製造方法

【課題】 ヒューズ用銅合金材の溶断特性を改善する。
【解決手段】 銅合金基材1の表面にNi層2、その上にNi−Sn合金、Ni−Cu−Sn合金、又はその両者からなるNi,Sn含有合金層3が形成され、その上に最表層として純Sn層4が形成されためっき付き銅合金材。銅合金基材1はNi:0.1〜1質量%、Sn:0.1〜1質量%、P:0.01〜0.2質量%を含み、残部がCu及び不可避不純物からなる。Ni層2は厚さ0〜10μmであり、Ni,Sn含有合金層3は厚さが0.01〜50μmであり、純Sn層4は厚さが0.1μm以上である。銅合金基材の表面にNiめっき、続いてSnめっきした後、リフロー処理又は加熱処理を行うか、銅合金基材の表面にNiめっきした後、その上に溶融Snめっきを行うことにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や家電製品の電子部品に使用され、過電流に対する溶断特性に優れ、装置や部品の焼損を防止するように機能するヒューズ用銅合金材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品及び電子機器等に搭載される電気・電子部品の小型化は急速に進行している。これら電子機器において、過電流が流れた時に、回路を保護し、装置や部品が焼損することを避けるため、瞬時に断線するよう機能する過電流溶断型ヒューズが使用されている。ヒューズエレメントに電流が流れると、そのエレメントが持っている固有の抵抗によって発熱エネルギーは、ほぼジュールの法則に従い、発熱と同時に周囲の部品や外気へと伝播し放熱していくが、短時間で溶断するようなインラッシュ電流の領域では、発熱するジュール熱に比べて熱放散が少ないので、発熱する熱は殆どヒューズエレメントの温度上昇に費やされる。
これらのヒューズ材の固有抵抗が大きければ、過電流時に発生するジュール熱が大きく、このジュール熱でヒューズ材が溶断し、電気回路が保護される。このヒューズの溶断にかかる時間や溶断温度は、使用する材料によって異なる。
【0003】
ヒューズは通常状態で溶断することが無く、かつ異常が発生したなら確実に溶断する必要がある。そのため、使用される材料としてはSn、Pb、Zn、Al、Cu、Ag、W等の単体や合金が使用されていた。ヒューズ用Cu合金に関する特許文献としては、例えば下記特許文献1〜5がある。
【0004】
【特許文献1】特開平3−253527号公報
【特許文献2】特開平5−86428号公報
【特許文献3】特開平5−198247号公報
【特許文献4】特開昭61−41737号公報
【特許文献5】特開昭63−230837号公報
【特許文献6】特開平1−315924号公報
【0005】
ヒューズは、大きく分けて、端子部とヒューズ部とが別材料からなるタイプと、端子部とヒューズ部とが同一材料からなるタイプがある。前者は、端子部とヒューズ部との接合が必要となり、コスト高となるため、後者が一般的に使用されることが多い。従って、端子部とヒューズ部とが同一材料から構成される一体型のヒューズ(ヒューズ端子といわれる)の場合、その材料には、ヒューズ部に要求される溶断特性の他に、端子部に要求される機械的特性、特に強度特性や導電率が必要となる。
しかし、適度な強度及び導電率を有する銅合金において、これまで十分な溶断特性が得られていない。そこで、溶融温度を低下させ、かつ溶断にかかる時間を短くするために、ヒューズ用銅合金材料の表面に溶融Snめっきを施したり、ヒューズ部にSnチップをかしめることがなされている(特許文献6参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、ヒューズ用銅合金材料の溶断特性を改善することを目的とする。なお、本発明においてヒューズ用というとき前記ヒューズ端子用を含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るヒューズ用めっき付き銅合金材料は、Ni:0.1〜1質量%、Sn:0.1〜1質量%、P:0.01〜0.2質量%を含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、導電率45%IACS以上とした銅合金素材の表面に、Ni−Sn合金、Ni−Cu−Sn合金、又はその両者からなるNi,Sn含有合金層が形成され、その上に最表層として純Sn層が形成され、前記Ni,Sn含有合金層は厚さが50μm以下、前記純Sn層は厚さが0.1μm以上であることを特徴とする。さらに、前記銅合金基材とNi,Sn含有合金層の間に厚さ10μm以下のNi層が形成されたものも、本発明に係るヒューズ用めっき付き銅合金材料に含まれる。ヒューズ端子用であれば、引張強度が400N/mm以上であることが望ましい。前記銅合金基材の形態は、主として板又は条(コイル状にした板)である。
上記めっき付き銅合金材料をヒューズとして利用するに際し、上記めっき付き銅合金材料のヒューズ部の表面にさらにSnめっきをしてSn層全体の厚さを増すか、ヒューズ部にSnチップをかしめて、ヒューズ溶断温度を低下させ、かつ溶断にかかる時間を短縮することができる。
【0008】
上記ヒューズ用めっき付き銅合金材料(Ni層なし)は、前記銅合金基材の表面にSnめっき層を形成した後、リフロー処理又は加熱処理するか、前記銅合金基材の表面に溶融Snめっきによるめっき層を形成することにより製造できる。この場合、生成するNi,Sn含有合金層の中のNiは銅合金基材から、SnはSnめっき層から供給される。
また、上記ヒューズ用めっき付き銅合金材料は、前記銅合金基材の表面にNiめっき層を形成し、その上にSnめっき層を形成した後、リフロー処理又は加熱処理するか、Niめっき層の上に溶融Snめっきによるめっき層を形成することにより製造できる。この場合、生成するNi,Sn含有合金層中のNiはNiめっき層から供給され、その結果、Niめっき層が残留する場合と消滅する場合がある。Niめっき層が早期に消滅した場合、Ni,Sn含有合金層中のNiはさらに銅合金基材から供給される。
両方法において、Ni,Sn含有合金層は柱状結晶として成長する。
【発明の効果】
【0009】
上記のめっき付き銅合金材料中に含まれるNi,Sn含有合金層は、過電流発生時に発生するジュール熱により、銅合金基材中のCuと純Sn層中のSnの合金化を急速に促進させ、銅合金基材をすばやく減肉させる。銅合金基材が減肉することにより、通電の際の電気抵抗を増加させ、過電流発生時にすばやく溶断させる。
銅合金基材が引張強度400N/mm以上及び導電率45%IACS以上であれば、ヒューズ部に要求される溶断特性の他に、端子部に要求される強度及び導電率をも満たし、ヒューズ端子用として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るヒューズ用めっき付き銅合金材料についてより詳細に説明する。
図1に、本発明に係るヒューズ用めっき付き銅合金材料の断面の模式図を示す。(a)では、銅合金基材1の表面にNi層2が形成され、その上にNi,Sn含有合金層3が形成され、その上に最表層として純Sn層4が形成され、(b)では、銅合金基材1の表面にNi,Sn含有合金層3が形成され、その上に最表層として純Sn層4が形成されている。Ni,Sn含有合金層3は、Sn層に向かって成長した柱状結晶からなる。
【0011】
Ni,Sn含有合金層は、通電による温度上昇と共に銅合金基材中のCuと純Sn層中のSnの拡散を促進させる作用を有する。すなわち、Ni,Sn含有合金層が存在することで、銅合金基材中のCuと純Sn層中のSnとの合金化が促進され、銅合金基材を減肉させやすくなる。なお、このNi,Sn含有合金層は、通常めっき処理後に直ちに厚さ0.01μm以上形成され、その厚さで上記作用を有する。従って、実質的な下限値は0.01μmであり、望ましくは0.1μm以上である。
しかし、Ni,Sn含有合金層は、その厚さが50μmを超えると、銅合金基材と純Sn層の間でバリア層として働き、銅合金基材中のCuと純Sn層中のSnの拡散を起こし難くし、銅合金基材の減肉を抑えてしまうため、厚さが50μm以下である必要がある。望ましくは30μm以下である。
【0012】
Ni,Sn含有合金層において、Ni含有量は0.02〜75at%の範囲が望ましい。これは、Ni含有量が0.02at%未満か75at%を越えるようだと、ヒューズ溶断時のCuとSnの拡散促進効果が少ない、すなわち基材減肉促進効果が少ないからである。
なお、Ni,Sn含有合金層は、Ni−Sn合金、Ni−Cu−Sn合金又はその両者からなり、Ni−Sn合金は主として金属間化合物のNiSn又は/及びNiSnを含み、Ni−Cu−Sn合金は主として金属間化合物の(Cu,Ni)Snを含む。
【0013】
純Sn層は、過電流発生時に発生するジュール熱により、Snを銅合金基材から拡散するCuと合金化させてNi,Sn含有合金層を成長させ、銅合金基材をすばやく減肉させる役割を有する。しかし、その厚さが0.1μm以下では過電流発生時に銅合金基材を減肉させるだけの十分な量ではなく、溶断特性が十分とならない。望ましくは0.3μm以上、さらに望ましくは0.4μm以上である。純Sn層の厚さの上限は特に存在しない。しかし、50μmを大きく越える厚さの純Sn層を形成しようとすると、十分な表面性状が得られにくい。従って、純Sn層の厚さは例えば0.1〜60μm、さらに0.1〜50μmが望ましい。
Ni層は、Ni,Sn含有合金層が形成されるときに残留したもので、存在することが必須ではないが、過電流発生時に発生するジュール熱により、Niを銅合金基材から拡散するCu及びSn層から拡散するSnと合金化させてNi,Sn含有合金層を成長させ、銅合金基材をすばやく減肉させる役割を有する。Ni層の厚さが10μmを越えると、過電流発生に伴う温度上昇により拡散しきれず、バリア層となってCuとSnの拡散を抑制し、Ni,Sn含有合金層の成長及び銅合金基材の減肉を抑制する。従って、Ni層の厚さは10μm以下とする。
【0014】
銅合金基材はNi:0.1〜1質量%、Sn:0.1〜1質量%、P:0.01〜0.2質量%を含み、残部がCu及び不可避不純物からなる。銅合金基材の組成をこのように規定したのは、ヒューズ溶断特性に優れるためである。各元素毎に説明すると次のとおり。
Ni:0.1質量%未満であると、発熱時に形成される合金層がCu−Sn合金層となりやすく、過電流発生時の合金層成長が十分でない。すなわち素材減肉が促進し難いため、ヒューズ溶断特性に劣る。逆に1重量%を越えると、導電率を確保し難くなる。
Sn:0.1重量%未満であると、発熱時のSnの溶融に伴う溶断性向上効果がみられず、1重量%を越えると、導電率を確保し難くなる。
P:Pは昇華作用があるため発熱向上効果を有するが、0.01質量%未満であると、過電流発生時の発熱促進効果が小さく、溶断性に劣り、逆に0.2%を越えると、熱間加工において割れが発生しやすくなる。好ましくは0.01〜0.15質量%、さらに好ましくは0.03〜0.1質量%である。
一方、導電率は析出物の析出状態を示し、45%IACS未満では導電率が不足する。
なお、銅合金性ヒューズの板厚は一般に1mm以下であり、本発明に係る銅合金基材も溶断特性の面からは薄肉の方がよく、板厚1mm以下、さらに0.8mm以下が望ましい。
【0015】
次に、上記ヒューズ用めっき付き銅合金材料の製造方法について説明する。主な方法は次の4通りである。
(1)銅合金基材の表面にSnめっき層を形成した後、リフロー処理又は加熱処理する。
(2)銅合金基材の表面に溶融Snめっきによるめっき層を形成する。
(3)銅合金基材の表面にNiめっき層を形成し、その上にSnめっき層を形成した後、リフロー処理又は加熱処理する。
(4)銅合金基材の表面にNiめっき層を形成し、その上に溶融Snめっきによるめっき層を形成する。
【0016】
さらに、上記ヒューズ用めっき付き銅合金材料は、銅合金基材の表面にSnめっき層を形成しただけ、あるいは銅合金基材の表面にNiめっき層を形成し、その上にSnめっき層を形成しただけでも製造される。これは、Ni,Sn含有合金層は、常温においても、めっき処理後に直ちに厚さ0.01μm以上形成されるからである。
【0017】
上記製造方法において、Snめっき層の厚さに特に上限はない、ただし、Snめっき層の厚さが50μmを大きく越えると、リフロー処理又は加熱処理を施したとき、めっき付き銅合金材料において純Sn層に十分な表面性状が得られにくい。また、溶融Snめっきによるめっき層において50μmを大きく越える厚さの純Sn層を形成しようとすると、同じく十分な表面性状が得られにくい。一方、Snめっき層の厚さ又は溶融Snめっきによる純Sn層の厚さが0.1μm未満では、めっき付き銅合金材料において純Sn層の厚みが不足し、ヒューズとして十分な溶断特性が得られない。従って、Snめっき層の厚さ又は溶融Snめっきによる純Sn層の厚さは例えば0.1〜60μm、さらに0.1〜50μmの範囲とするのが望ましい。
【0018】
上記製造方法において、Niめっき層は必要に応じて形成される。しかし、Niめっき厚さが20μmを越えるようだと、Snめっき層のリフロー処理又は加熱処理を施した後、あるいは溶融Snめっきを行った後でさえ、めっき付き銅合金材に残存するNi層の厚さが10μmを越えやすい。従って、銅合金基材表面にNiめっきを行う場合、その厚さは20μm以下が望ましい。
【0019】
リフロー処理を行う際の雰囲気温度は、270℃〜700℃が好ましく、280℃〜350℃がより好ましい。加熱処理を行う際はSnを溶融しない程度の温度、即ちSnの融点である230℃以下で行う。
本発明の製造方法において、一般的に、Niめっき層の厚みが大きく、Niめっきがない場合は銅合金基材のNi含有量が高く、リフロー処理又は加熱処理の温度が高く処理時間が長く、あるいは溶融SnめっきのSn浴温度が高く処理時間が長いとき、Ni,Sn含有合金層のNi含有量が高く、又は/及びその厚みが大きくなる。また、めっき付き銅合金材のNi層及びSn層は、当初のNiめっき層又はSnめっき層が厚いほど厚く残留し、リフロー処理等による製造時のNi,Sn含有合金層の成長が大きいほど薄くなる。
【0020】
銅基合金基材は、例えば、熱間圧延終了直後に急冷し、冷間圧延した後、500〜600℃の温度範囲で60〜180min程度の再結晶焼鈍を行い、さらに冷間圧延した後、再度350℃未満で1/3〜120min程度の析出焼鈍を行い、所定厚さにするため仕上げ冷間圧延を施すことで製造することができる。なお、熱間圧延終了時(急冷前)の温度は750℃以上が望ましい。この銅合金機材をヒューズエレメントで使用する場合は、以上の工程で製造し、端子付きヒューズであるヒューズ端子、特にヒューズエレメントと端子が一体化したものでは、さらに350℃程度で約1/3〜120min程度の低温焼鈍を行うことが望ましい。この製造方法により、導電率45%IACS以上が得られ、またヒューズ端子の場合に必要とされる引張強度400N/mm以上が得られる。
【0021】
以上述べためっき付き銅合金材料(最表層に純Sn層が形成されているもの)に対し、特にヒューズ端子のヒューズ部にSnめっき、例えば溶融Snめっきを施すと溶断特性がさらに向上する。あるいは、ヒューズ部にSnチップをかしめることによっても溶断特性がさらに向上する。
【実施例】
【0022】
表1〜3に示すNo.1〜19,21〜22,25〜26の組成の銅合金を小型電気炉で大気中にて木炭被覆下で溶解し、厚さ50mm、幅80mm、長さ180mmの鋳塊を溶製した。全ての鋳塊について表裏面を各5mmずつ面削し、No.25は900℃で熱間圧延を行い、それ以外は全て950℃で熱間圧延して、厚さ15mmの板材とした。熱間圧延終了温度は全て750℃以上であり、熱間圧延後直ちに急冷した。続いて、板材の表裏面を面削し、冷間圧延後、520℃×120minの再結晶焼鈍を行い、さらに冷間圧延し、340℃×120minの析出焼鈍を行った。このとき形成された表面の酸化スケールを20vol%硫酸水にて酸洗し、さらに研磨して除去した。この後、冷間圧延を施し、350℃×120minの低温焼鈍を行い、板厚0.2mmの供試材薄板を得た。
一方、No.20はCu−0.1Fe−0.03P−0.2Sn−0.2Mg−0.4Zn(CDA.No.C19800)、No.23はCu−3.2Ni−0.7Si−0.3Zn(CDA.No.C64710)、No.24はCu−2.3Fe−0.03P−0.1Zn(CDA.No.C19400)であり、いずれも厚さ0.2mmの市販品を用いた(元素の前の数字は質量%)。
【0023】
No.1〜26の板材について(No.1〜12は同一の板材を振り分けた)、表1〜3に示すように、Niめっき及びSnめっきを行った後リフロー処理又は加熱処理を行い、あるいはNiめっきを行った後溶融Snめっきを行った。Niめっき層及びSnめっき層の厚さを表1,2に示す(めっきなしの場合は各欄に0と記載)。また、リフロー処理、加熱処理及び溶融Snめっき処理のいずれも行わなかった場合は、表1〜3のめっき処理方法の欄に−で示す。
Niめっき及びSnめっきは表4の条件で行った。リフロー処理は240℃〜600℃×5〜30secで行い、加熱処理は80〜200℃で、溶融Snめっきは250℃で適当な時間処理することにより行った。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
めっき処理していない板材の引張強度及び導電率を下記要領で測定した。また、No.4,11以外は、Snめっき層とNiめっき層の厚さをリフロー処理又は加熱処理を行う前に下記要領で測定し、リフロー処理又は加熱処理を行った後、残存するNi層の厚さと純Sn層の厚さ及び形成されたNi,Sn含有合金層の厚さを下記要領で測定した。No.4は、Niめっき層の厚さを溶融Snめっきを行う前に下記要領で測定し、溶融Snめっきを行った後、残存するNi層の厚さ、形成された純Sn層の厚さ及びNi,Sn含有合金層の厚さを下記要領で測定した。また、Ni,Sn含有合金層の合金種類の同定を下記要領で行った。以上の測定結果を表1〜3にあわせて示す。
【0029】
[引張強度]引張強度は板材の長手方向を圧延方向に平行とし、JIS5号試験片にて圧延平行方向の引張強度を測定した。
[導電率]導電率は、JISH0505に基づいて測定した。
[Snめっき層の厚さ]Snめっき層の厚さは、蛍光X線膜厚計(セイコー電子工業株式会社;型式SFT3200)を用いて測定した。
[Niめっき層の厚さ]Niめっき層の厚さは蛍光X線膜厚計(セイコー電子工業株式会社;型式SFT3200)を用いて測定した。
[純Sn層の厚さ]純Sn層の厚さは、次の手順で測定した。まず、蛍光X線膜厚計(セイコー電子工業株式会社;型式SFT3200)を用いてSn層全体(純Sn層とNi,Sn含有合金層)の厚さを測定する。その後、p−ニトロフェノール及び苛性ソーダを主成分とする剥離液に10分間浸漬し、純Sn層を剥離後、蛍光X線膜厚計を用いて、Ni,Sn含有合金層中のSn量を測定する。この測定値から求めた両者の層厚さの差から純Sn層の厚さを算出した。
【0030】
[Ni,Sn含有合金層の厚さ]Ni,Sn含有合金層の厚さは、板材断面をミクロトームにより切断し、その切断面をSEM観察して測定した。
[Ni,Sn含有合金層の合金種類の同定]合金の種類はX線回折実験により同定した。
[Ni層厚さ]リフロー処理、加熱処理又は溶融Snめっき後のNi層の厚さは、蛍光X線膜厚計(セイコー電子工業株式会社;型式SFT3200)を用いて測定した。
【0031】
続いて、No.1〜26のめっき付き銅合金材料(一部にめっきなしが含まれる)を、0.5mmW×40mmLに切断して溶断特性評価試料を作製し、下記要領で溶断特性を評価した。その結果を表1〜3にあわせて示す。なお、No.13,14については、追加処理として、さらに溶融Snめっきを100μmの厚さで施し又は5mm角のSnチップを溶断部分にかしめた。
[溶断特性評価]各試料に対し、5V、19Aの定電圧条件下で溶断試験を行った。評価は切断に要する時間を測定し、溶断時間10sec未満を合格とした。
【0032】
表1〜3に示すように、本発明の規定を満たすNo.1〜7,12〜18は溶断特性に優れている。さらに追加処理として溶融Snめっきを施し又はSnチップをかしめたNo.13,14は、溶断特性がより優れている。また、これらは銅合金基材の引張強度が400N/mm以上であり、ヒューズ端子用としても適している。
一方、No.8は、Snめっき層厚さが0.05μmと薄いため、リフロー処理後に純Sn層が残存せず、溶断特性が劣っている。No.9は、Niめっき層厚さが25μmと厚いため、加熱処理後に残存するNi層厚さが厚く、溶断時の素材減肉が抑制され、溶断特性が劣っている。No.10は、加熱処理後に形成されるNi,Sn含有合金層が厚く、溶断時の素材減肉が抑制され、溶断特性が劣っている。No.11はめっきを施していないため、本条件下では溶断が起こっていない。
【0033】
No.19,20は、銅合金基材にNiを含有せず、かつNiめっきを行っていないため、リフロー処理により形成される合金層がCu−Sn合金層となり、過電流発生時の合金層成長が十分でなく、銅合金基材の減肉が促進されにくいため、溶断特性が劣っている。No.21は、銅合金基材中にSnを含有せず、そのため発熱時のSn溶融に伴う溶断性向上効果が小さく、溶断特性が劣っている。No.22は、銅合金基材中にPを含有せず、そのため過電流発生時の発熱促進効果が小さく、溶断特性が劣っている。No.23は、銅合金基材がNi−Si系銅合金であり、基材中に析出したNi−Si析出物が過電流発生時の発熱により再固溶し、急激な基材の導電率変化により溶断性が向上するが、実施例に比べると溶断性が劣る。No.24は、銅合金基材中にNi、Snを含有せず、リフロー処理により形成される合金層がCu−Sn合金層となり、過電流発生時の合金層成長が十分でなく、銅合金基材の減肉が促進されにくいため、溶断特性が劣っている。No.25は、銅合金基材中のSn含有量が過剰であるため、溶断特性は良好だが、導電率が劣る。No.26は、銅合金基材中のNi含有量が過剰であるため、溶断特性は良好だが、導電率が劣る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るヒューズ用めっき付き銅合金材料の断面模式図である。
【符号の説明】
【0035】
1 銅合金基材
2 Ni層
3 Ni,Sn含有合金層
4 純Sn層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni:0.1〜1質量%、Sn:0.1〜1質量%、P:0.01〜0.2質量%を含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、導電率45%IACS以上とした銅合金素材の表面に、Ni−Sn合金、Ni−Cu−Sn合金、又はその両者からなるNi,Sn含有合金層が形成され、その上に最表層として純Sn層が形成され、前記Ni,Sn含有合金層は厚さが50μm以下、前記純Sn層は厚さが0.1μm以上であることを特徴とするヒューズ用めっき付き銅合金材料。
【請求項2】
Ni:0.1〜1質量%、Sn:0.1〜1質量%、P:0.01〜0.2質量%を含み、残部がCu及び不可避不純物からなり、導電率45%IACS以上とした銅合金素材の表面に、Ni層が形成され、その上にNi−Sn合金、Ni−Cu−Sn合金、又はその両者からなるNi,Sn含有合金層が形成され、その上に最表層として純Sn層が形成され、前記Ni層は厚さが10μm以下、前記Ni,Sn含有合金層は厚さが50μm以下、前記純Sn層は厚さが0.1μm以上であることを特徴とするヒューズ用めっき付き銅合金材料。
【請求項3】
銅合金基材の引張強度が400N/mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載されたヒューズ用めっき付き銅合金材料。
【請求項4】
前記銅合金素材の表面にSnめっき層を形成した後、リフロー処理又は加熱処理することを特徴とする請求項1に記載されたヒューズ用めっき付き銅合金材料の製造方法。
【請求項5】
前記銅合金素材の表面に溶融Snめっきを行うことを特徴とする請求項1に記載されたヒューズ用めっき付き銅合金材料の製造方法。
【請求項6】
前記銅合金素材の表面にNiめっき層を形成し、その上にSnめっき層を形成した後、リフロー処理又は加熱処理することを特徴とする請求項1又は2に記載されたヒューズ用めっき付き銅合金材料の製造方法。
【請求項7】
前記銅合金素材の表面にNiめっき層を形成した後、溶融Snめっきを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載されたヒューズ用めっき付き銅合金材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載されたヒューズ用めっき付き銅合金材料の表面に、さらにSnめっき層が形成されたことを特徴とするヒューズ。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載されたヒューズ用めっき付き銅合金材料の表面に、さらにSnチップをかしめて取り付けたことを特徴とするヒューズ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−169445(P2008−169445A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4619(P2007−4619)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】