説明

ビシクロエステル誘導体

【課題】 優れたDPP-IV阻害活性を有する新規なビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩、並びにそれらを有効成分とするDPP-IVが関与する疾患に対する予防および/または治療剤を提供する。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】


で表されるビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩(具体例:(2S,4S)−4−フルオロ−1−[[N−[(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル)オキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル]アミノ]アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリル)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼIV(以下、「DPP-IV」と略称する)阻害活性を有し、II型糖尿病などのDPP-IVが関与する疾患の予防および/または治療に有用なビシクロエステル誘導体、または薬理学的に許容されるその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチダーゼIV(EC 3.4.14.5、以下、「CD26」と略称することがある)は、N末端から2番目にプロリンまたはアラニンを有するポリペプチド鎖から、Xaa-ProまたはXaa-Ala(Xaaは任意のアミノ酸を示す)で表されるジペプチドをC末端側で特異的に加水分解するセリンプロテアーゼの1種である。
【0003】
DPP-IVの生体内における機能の1つとして、グルカゴン様ペプチド―1(以下、「GLP-1」と略称する)のN末端にあるHis-Alaのジペプチドを加水分解することによってGLP-1を不活性化することが知られている(非特許文献1)。それに加えて、DPP-IVによって不活性化された不活性型GLP-1がGLP-1受容体に対して拮抗作用を示すことにより、GLP-1の生理的作用がさらに減弱すると考えられている(非特許文献2)。GLP-1は主として小腸腸管上皮に存在する内分泌細胞であるL細胞から分泌されるペプチドホルモンであり、グルコース濃度依存的に膵臓ランゲルハンス島に存在するβ細胞に作用してインスリンの放出を促進することにより、血糖を降下させることが知られている(非特許文献3、4)。またGLP-1は、インスリンの生合成を亢進し、β細胞の増殖も促すことから、β細胞の維持にとっても欠くことのできない因子である(非特許文献5、6)。さらにGLP-1には末梢組織において糖の利用を亢進する作用や、GLP-1の脳室内投与による摂食抑制作用、消化管運動抑制作用が報告されている(非特許文献7−10)。
【0004】
DPP-IVの酵素活性を阻害する物質は、その阻害作用により内在性のGLP-1の分解を抑制することでGLP-1の作用を高め、その結果インスリン分泌を亢進して糖代謝を改善することができると考えられている。そのためDPP-IV阻害剤は、糖尿病、特にII型糖尿病に対する予防および/または治療剤となり得ることが期待されている(非特許文献11、12)。また糖代謝の低下によって惹起、あるいは増悪されるその他の疾患(例えば糖尿病合併症、高インスリン血症、過血糖、脂質代謝異常、肥満など)における予防および/または治療に対する効果も期待されている。
【0005】
GLP-1の不活性化以外にもDPP-IVの生体内における役割や疾病との関係については以下のような報告がある。
【0006】
DPP-IVの阻害剤またはその抗体が、HIVウイルスの細胞内への侵入を阻害する。HIV-1感染患者由来のT細胞では、CD26の発現が減少している(非特許文献13)。また、HIV-1Tatタンパクは、DPP-IVに結合する(非特許文献14)。
【0007】
DPP-IVは免疫応答に関与する。
【0008】
DPP-IVの阻害剤またはその抗体は、抗原刺激によるT細胞の増殖を抑制する(非特許文献15)。また、抗原刺激によりT細胞でのDPP-IVの発現が増加する(非特許文献16)。DPP-IVは、サイトカイン産生などのT細胞の機能に関与している(非特許文献17)。またDPP-IVは、T細胞表面でアデノシンデアミネース(ADA)と結合する(非特許文献18)。慢性関節リウマチ、乾癬および偏平苔蘚患者の皮膚の線維芽細胞において、DPP-IVの発現が増加する(非特許文献19)。
【0009】
良性前立腺肥大の患者および前立腺組織のホモジネートにおいて、DPP-IV活性が亢進している(非特許文献20)。肺内皮に存在するDPP-IVは、ラットの肺転移性乳癌および前立腺癌に対して接着分子として作用する(非特許文献21)。
【0010】
DPP-IV活性を欠損している変異型F344ラットは、野生型F344ラットと比較して血圧が低いこと、および腎臓でナトリウムの再吸収に重要な役目を担っているタンパクとDPP-IVが相互作用する(特許文献1、2)。
【0011】
DPP-IV活性を阻害することによって、骨髄抑制性疾患の予防および/または治療が期待でき、DPP-IV活性剤が白血球数増加剤および/または感染症治療剤として期待できる(特許文献3)。
【0012】
これらの知見からDPP-IV阻害剤は、糖尿病(特にII型糖尿病)および/または糖尿病合併症以外のDPP-IVが関与する疾病の予防および/または治療剤となり得ることが期待される。例えば,HIV-1感染に基づくAIDS、臓器・組織移植における拒絶反応、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、炎症、アレルギー、骨粗鬆症、乾癬および偏平苔蘚、良性前立腺肥大、乳癌および前立腺癌の肺転移抑制、高血圧、利尿、骨髄抑制の低減、白血球数増加および感染症などに用いられる薬剤として有用であると考えられる。
【0013】
現在までにDPP-IV阻害剤として、特許文献4から11にはピロリジン誘導体が、特許文献12または1)にはヘテロ環誘導体が、特許文献14または15にはβアミノ酸誘導体が開示されている。
【0014】
また、特許文献16にDPP-IV阻害活性を有するビシクロ[2.2.2]オクタン誘導体が1化合物のみ開示されているが、本発明は、当該米国特許とは構造、DPP-IV阻害活性の面からも全く異なるものである。また特許文献17には、本発明に構造上近似したビシクロ誘導体を示唆する記述が見られるが、その記述内容は具体的に本発明化合物を何ら説明しておらず、また、本発明化合物のいずれをも実施例によって説明しているものではない。
【0015】
これまでに開示されているDPP-IV阻害剤はいずれも、DPP-IV阻害活性、DPP-IV選択性、安定性、毒性および体内動態において満足できるものではなく、優れたDPP-IV阻害剤が常に求められている。
【0016】
最近、本願発明者らは優れたDPP-IV阻害剤として新規なビシクロエステル誘導体を開示(特許文献18)したが、本願は更に新たな誘導体を提供するものである。
【非特許文献1】American Journal of Physiology、271巻、E458−E464頁(1996年)
【非特許文献2】European Journal of Pharmacology、318巻、429−435頁(1996年)
【非特許文献3】European Journal Clinical Investigation、22巻、154頁(1992年)
【非特許文献4】Lancet、2巻、1300頁(1987年)
【非特許文献5】Endocrinology、42巻、856頁(1992年)
【非特許文献6】Diabetologia、42巻、856頁(1999年)
【非特許文献7】Endocrinology、135巻、2070頁(1994年)
【非特許文献8】Diabetologia、37巻、1163頁(1994年)
【非特許文献9】Digestion、54巻、392頁(1993年)
【非特許文献10】Dig. Dis. Sci.、43巻、1113頁(1998年)
【非特許文献11】Diabetes、47巻、1663−1670頁(1998年)
【非特許文献12】Diabetologia、42巻、1324−1331頁(1999年)
【非特許文献13】Journal of Immunology、149巻、3073頁(1992年)
【非特許文献14】Journal of Immunology、150巻、2544頁(1993年)
【非特許文献15】Biological Chemistry、305頁(1991年)
【非特許文献16】Scandinavian Journal of Immunology、33巻、737頁(1991年)
【非特許文献17】Scandinavian Journal of Immunology、29巻、127頁(1989年)
【非特許文献18】Science、261巻、466頁(1993年)
【非特許文献19】Journal of Cellular Physiology、151巻、378頁(1992年)
【非特許文献20】European Journal of Clinical Chemistry and Clinical Biochemistry、30巻、333頁(1992年)
【非特許文献21】Journal of Cellular Physiology、121巻、1423頁(1993年)
【特許文献1】WO 03/015775 パンフレット
【特許文献2】WO 03/017936 パンフレット
【特許文献3】WO 03/080633 パンフレット
【特許文献4】WO 95/15309 パンフレット
【特許文献5】WO 98/19998 パンフレット
【特許文献6】WO 00/34241 パンフレット
【特許文献7】WO 02/14271 パンフレット
【特許文献8】WO 02/30890 パンフレット
【特許文献9】WO 02/38541 パンフレット
【特許文献10】WO 03/002553 パンフレット
【特許文献11】米国公開特許02/0193390 号
【特許文献12】WO 02/062764 パンフレット
【特許文献13】WO 03/004496 パンフレット
【特許文献14】WO 03/000180 パンフレット
【特許文献15】WO 03/004498 パンフレット
【特許文献16】米国公開特許02/0193390 号
【特許文献17】WO 02/38541 パンフレット
【特許文献18】WO 05/075421 パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明が解決しようとする問題点は、生体内で優れたDPP-IV阻害活性を示す新規な化合物または薬理学的に許容されるその塩を提供することにある。また、生体内で優れたDPP-IV阻害活性を示す新規な化合物または薬理学的に許容されるその塩を含む医薬組成物、糖尿病及びその合併症の予防及び/または治療剤あるいはDPP-IVが関与する疾患に対する予防及び/または治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、優れたDPP-IV阻害活性を有する新規なビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を提供する。また、優れたDPP-IV阻害活性を有する新規なビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を含む医薬組成物、糖尿病及びその合併症の予防及び/または治療剤あるいはDPP-IVが関与する疾患に対する予防及び/または治療剤を提供する。
【0019】
すなわち本発明は、
1)一般式(1)
【0020】
【化1】

【0021】
[式中、RはCHR1OCOR(式中、R1及びRは、同一または異なって、水素原子、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、置換されていてもよいC3〜C6のシクロアルキル基、置換されていてもよいアリールメチル基、置換されていてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示す。)、CHR1OCOAR2(式中、R1及びR2は前記と同じ、Aは窒素原子、酸素原子及び硫黄原子を示す。)、置換されていてもよいフタリジニル基、3-クロトノラクトニル基、3-ブチロラクトニル基、5-ブチロラクトニル基または置換されていてもよい(2-オキソ‐1,3−ジオキソレン‐4−イル)メチル基を示し、XはCH2、CHF、CF2、CHOH、硫黄原子または酸素原子を示し、nは1、2または3を示す。]で表されるビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩、
【0022】
2) 上記1)記載のビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有することを特徴とする医薬、
【0023】
3) 上記1)記載のビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有することを特徴とするDPP-IV阻害剤、
【0024】
4)上記1)記載のビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を有効成分とすることを特徴とするDPP-IVが関与する疾患の治療剤、
【0025】
5)DPP-IVが関与する疾患が糖尿病及びその合併症である上記4)記載の治療剤、
に関するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の新規なビシクロアミド誘導体または薬理学的に許容されるその塩は、優れたDPP-IV阻害活性を有する。本願化合物を有効成分として含有する医薬組成物は、糖尿病およびその合併症の予防および/または治療剤あるいはDPP-IVが関与する疾患に対する予防および/または治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
前記一般式(1)において置換されていてもよいC〜Cのアルキル基とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC〜Cのアルキル基(メチル基、シクロプロピルメチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−エチルプロピル基、2−エチルプロピル基、ブチル基、t−ブチル基及びヘキシル基など)を意味する。
【0029】
置換されていてもよいC〜Cのシクロアルキル基とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC〜Cのシクロアルキル基(シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基など)を意味する。
【0030】
置換されていてもよいアリールメチル基とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換の置換されていてもよいC〜Cのアルキルアミノ基、置換されていてもよいアリールアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールメチル基(フェニルメチル基、ナフチルメチル基、ピリジルメチル基、キノリルメチル基及びインドリルメチル基など)を意味する。
【0031】
置換されていてもよいアリールエチル基とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C〜Cのアルキルカルボニル基、C〜Cのアルコキシカルボニル基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換の置換されていてもよいC〜Cのアルキルアミノ基、置換されていてもよいアリールアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールエチル基(1−フェネチル基、2−フェネチル基、1−ナフチルエチル基及び2−ナフチルエチル基など)を意味する。
【0032】
置換されていてもよい芳香族炭化水素とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、C〜Cのアルコキシ基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素(ベンゼン環、ナフタレン環及びbアントラセン環など)を意味する。
【0033】
置換されていてもよい芳香族へテロ環とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、C〜Cのアルコキシ基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい芳香族へテロ環(窒素原子、酸素原子、硫黄原子の中から任意に選ばれた1〜3個のヘテロ原子を含む5員または6員の芳香族単環式複素環、あるいは9員または10員の芳香族縮合複素環、例えばピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、アクリジン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環及びベンゾオキサゾール環など)を意味する。
【0034】
置換されていてもよい脂肪族へテロ環とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC〜Cのアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換の置換されていてもよいC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C〜Cのアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルコキシカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい脂肪族へテロ環(窒素原子、酸素原子、および硫黄原子の中から任意に選ばれた1〜3個のヘテロ原子を含む4〜7員の脂肪族単環式複素環、あるいは9員または10員の脂肪族縮合複素環、例えばアゼチジン環、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、ピペリジン環、モルホリン環及びペラジン環など)を意味する。
【0035】
置換されていてもよいフタリジニル基とはハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、C〜Cのアルコキシ基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC1〜C6のアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基または置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいフタリジニル基(3−フタリジニル基、6−メトキシ−3−フタリジニル基、5,6−ジメトキシ−3−フタリジニル基、4,5,6−トリメトキシ−3−フタリジニル基、6−クロロ−3−フタリジニル基及び6−ブロモ−3−フタリジニル基など)を意味する。
【0036】
置換されていてもよい置換されていてもよい(2-オキソ‐1,3−ジオキソレン‐4−イル)メチル基とは(2-オキソ‐1,3−ジオキソレン‐4−イル)メチル基、5−メチル‐(2-オキソ‐1,3−ジオキソレン‐4−イル)メチル基、5-tert-ブチル‐(2-オキソ‐1,3−ジオキソレン‐4−イル)メチル基及び5−フェニル‐(2-オキソ‐1,3−ジオキソレン‐4−イル) メチル基などを意味する。
【0037】
置換されていてもよいC〜Cのアルコキシ基とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C〜Cのアルコキシ基、C〜Cのアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC〜Cのアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよい4〜9員の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C〜Cのアルキルスルホニルアミノ基、および置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC1〜C6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基及びヘキシルオキシ基など)を意味する。
【0038】
アミノ基の保護基とは、t−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、トリフルオロアセチル基、アセチル基、ベンジル基及び2,4,6−トリメトキシベンジル基を意味する。
【0039】
ここでハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びウ素原子を意味する。
【0040】
本発明化合物が薬理学上許容な塩を形成する場合、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、および燐酸などの無機酸、または酢酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、パルミチン酸及びトリフルオロ酢酸などの有機酸との塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、および亜鉛塩などの金属塩、アンモニウム塩及びテトラメチルアンモニウム塩などのアンモニウム塩、モルホリン及びピペリジンなどとの有機アミン塩及びグリシン、リジン、アルギニン、フェニルアラニン及びプロリンなどのアミノ酸との付加塩が例示できる。
【0041】
上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩には、2個以上の不斉中心に基づく複数の光学異性体が存在し得るが、本発明はこれらの光学異性体もしくはジアステレオ異性体のいずれをも含み、またそれらの任意の比率を示す混合物またはラセミ体をも含むものである。また、上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩に二重結合を含む場合には、その配置はZまたはEのいずれであってもよく、これらの任意の比率を示す混合物をも本発明に含まれる。さらには、上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩の中には互変異性体や回転異性体が存在し得るものがあるが、それぞれの異性体およびそれらの任意の比率を示す混合物をも本発明に含まれる。
【0042】
上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩は、分子内塩や付加物、それらの溶媒和物あるいは水和物などのいずれも含むものである。
【0043】
上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩は、単独で、または一種以上の製剤上許容される補助剤と共に医薬組成物として用いることができ、薬理学上許容される担体、賦形剤(例えば、デンプン、乳糖、リン酸カルシウム、または炭酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムタルク、またはステアリン酸など)、結合剤(例えば、デンプン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、またはアルギン酸など)、崩壊剤(例えば、タルク、またはカルボキシメチルセルロースカルシウムなど)、希釈剤(例えば、生理食塩水、グルコース、マンニトール、またはラクトースなどの水溶液など)などと混合し、通常の方法により錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、アンプル剤または注射剤などの形態で経口的または非経口的に投与することができる。
【0044】
投与量は上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩の種類、投与方法、患者の年齢、体重、症状などにより異なるが、通常、人を含む哺乳動物に対して上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩として0.0001〜1000mg/kg/日である。投与は例えば1日1回または数回に分割して投与する。
【0045】
上記一般式(1)で表される本発明化合物またはその塩は、必要であれば一種以上のDPP-IV阻害剤以外の糖尿病治療剤と併用することができる。本発明化合物またはその塩と併用される糖尿病治療剤としては、インスリンやその誘導体、GLP-1やその誘導体、その他の経口糖尿病治療剤が挙げられる。経口糖尿病治療剤としては、スルホニルウレア系糖尿病治療剤、非スルホニルウレア系インスリン分泌促進剤、ビグアナイド系糖尿病治療剤、α−グリコシダーゼ阻害剤、グルカゴンアンタゴニスト、GLP-1アゴニスト、PPARアゴニスト、β3アゴニスト、SGLT阻害剤、PKC阻害剤、グルカゴンシンテースキナーゼ-3(GSK-3)阻害剤、プロテインチロシンホスファターゼ-1B(PTP-1B)阻害剤、カリウムチャネルオープナー、インスリン増感剤、グルコース取込み調節剤、脂質代謝作用剤及び食欲抑制剤などがあげられる。
【0046】
これらのうちGLP-1やその誘導体としては、ベタトロピン、またはNN-2211などが挙げられ、スルホニルウレア系糖尿病治療剤としては、トルブタミド、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド、またはグリピジドなどが挙げられ、非スルホニルウレア系インスリン分泌促進剤としては、ナテグリニド、レパグリニド、ミチグリニド、またはJTT-608などが挙げられ、ビグアナイド系糖尿病治療剤としては、メトホルミンなどが挙げられ、α−グリコシダーゼ阻害剤としては、ボグリボースまたはミグリトールなどが挙げられ、PPARアゴニストとしては、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、シグリタゾン、KRP-297(MK-767)、イサグリタゾン、GI-262570、JTT-501などが挙げられ、β3アゴニストとしては、AJ-9677、YM-178またはN-5984などが挙げられる。
【0047】
本発明化合物(1)は、種々の合成法によって製造することができる。本発明化合物(1)は通常の分離手段(例えば抽出、再結晶、蒸留またはクロマトグラフィー等)によって単離、精製することができる。また、得られた化合物が塩を形成する様な場合には、通常の方法あるいはそれに準ずる方法(例えば中和等)によって各種の塩を製造することができる。
【0048】
次に、本発明化合物およびその塩の代表的な製造工程について説明する。
【0049】
【化2】

【0050】
A法第一工程
本工程は、一般式(2)(式中、R及びnは前記に同じ)で表されるビシクロアミン誘導体に、一般式(3)(式中、Y1はClまたはBrを表す。 Xは前記に同じ)で表されるハロ酢酸誘導体を反応させて、一般式(1)(式中、R、n及びXは前記に同じ) で表される請求項1記載のビシクロ誘導体を製造する工程である。本反応は、塩基の存在下または非存在下に行われる。
【0051】
本反応に塩基を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの無機塩基や、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N、N、N、N−テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、ホスファゼンベースまたはペンタイソプロピルグアニジンなどの有機塩基が例示できる。
【0052】
本反応に用いられる溶媒としては、反応に関与しない不活性な溶媒、例えばトルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ジクロロメタン、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンなどが用いられる。反応は0〜150℃で円滑に進行する。
【0053】
【化3】

【0054】
B法第一工程
本工程は、一般式(4)(式中、P2はカルボキシル基の保護基を表す、nは前記に同じ)で表されるビシクロアミン誘導体に、一般式(3)(式中、X及びY1は前記に同じ)で表されるハロ酢酸誘導体を反応させて、一般式(5)(式中、P2、n及びXは前記に同じ) で表される請求項1記載のビシクロ誘導体を製造する工程である。本反応は、塩基の存在下または非存在下に行われる。本反応に塩基を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの無機塩基や、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N、N、N、N−テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、ホスファゼンベースまたはペンタイソプロピルグアニジンなどの有機塩基が例示できる。本反応に用いられる溶媒としては、反応に関与しない不活性な溶媒、例えばトルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ジクロロメタン、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN−メチル−2−ピロリドンなどが用いられる。反応は0〜150℃で円滑に進行する。
【0055】
B法第二工程
本工程は、一般式(5)(式中、P2、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体の2級アミノ基を保護して、一般式(6)(式中、P3はアミノ基の保護基を表す、P2、n及びXは前記に同じ) で表される請求項4記載のビシクロ誘導体を製造する工程である。2級アミノ基の保護基であるP3としては、t−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、トリフルオロアセチル基などが例示でき、それぞれ公知の方法によって導入される。例えば、P3がt−ブトキシカルボニル基である場合、一般式(5)(式中、P2、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体に、ジ−t−ブチルジカーボネートを、トリエチルアミンや4−ジメチルアミノピリジンの存在下または非存在下で反応させることにより、容易に製造することができる。P3がベンジルオキシカルボニル基である場合、一般式(5)(式中、P2、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体に、ベンジルオキシカルボニルクロライドを、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンまたは炭酸カリウムの存在下で反応させることにより、容易に製造することができる。P3がトリフルオロアセチル基である場合、一般式(5)(式中、P2、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体に、無水トリフルオロ酢酸を、トリエチルアミンやN,N-ジメチルアミノピリジンの存在下で反応させることにより、容易に製造することができる。
【0056】
B法第三工程
本工程は、一般式(6)(式中、P2、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体のカルボキシル基の保護基であるP2を除去して、一般式(7)(式中、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体を製造する工程である。P2の除去は公知の方法によって実施できる。例えば、P2がt−ブチル基である場合、トリフルオロ酢酸や塩化水素−ジオキサン溶液などを用いることにより、容易に除去することができる。また、P2がベンジル基である場合、パラジウム炭素と水素やパラジウム炭素と蟻酸アンモニウムの組み合わせによる方法で、容易に除去することができる。また、P2がテトラヒドロピラニル基である場合、酢酸やp−トルエンスルホン酸または塩酸などにより、容易に除去することができる。
【0057】
B法第四工程
本工程は、一般式(7)(式中、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体から、エステル化またはアルキル化によって、一般式(8)(式中、R2、P3、n及びXは前記に同じ) で表される請求項1記載のビシクロ誘導体を製造する工程である。エステル化により一般式(8)(式中、R、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体を製造する場合、一般式(7)(式中、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体とR2OH(式中、R2は前記に同じ)で表されるアルコール誘導体を、縮合剤の存在下でエステル化して、一般式(8)(式中、R、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体を製造する。本工程のエステル化反応の縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、3−エチル−1−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)、ジメチルイミダゾリニウムクロライド(DMC)、クロロ蟻酸エチル、クロロ蟻酸イソブチルまたはピバロイルクロライドなどが挙げられ、これらは固体状、液体状または適当な溶媒に溶かした溶液として添加される。本縮合反応において塩基を用いる場合には、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸カリウムなどのアルカリ炭酸塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンまたは1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンなどの3級アミン類が例示できる。本縮合反応に用いる溶媒としては反応に関与しない不活性な溶媒、例えばN、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、トルエンまたはジクロロメタンなどが用いられる。本縮合反応は−20〜150℃で円滑に進行する。
【0058】
アルキル化により一般式(8)(式中、R、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体を製造する場合、一般式(7)(式中、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体とR2Y2(式中、Y2は、Cl、Br、I、OMs、OTsまたはOTfを表す、R2は前記に同じ)を塩基の存在下または非存在下で反応させて、一般式(8)(式中、R、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体を製造する。本反応に塩基を用いる場合には、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムまたは炭酸セシウムなどのアルカリ炭酸塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンまたは1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ホスファゼンベースまたはペンタイソプロピルグアニジンなどの3級アミン類が例示できる。本反応に用いる溶媒としては反応に関与しない不活性な溶媒、例えばN、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、トルエンまたはジクロロメタンなどが用いられる。本反応は−30〜150℃で円滑に進行する。
【0059】
B法第五工程
本工程は、一般式(7)(式中、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体を、一般式(9)[式中、Wは反応性残基(例えばハロゲン原子、1−イミダゾリル基、4−ニトロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、コハク酸イミドイルオキシ基、または1−ベンゾトリアゾリルオキシ基(または1−ベンゾトリアゾリル 3−オキシド基)などで表されるカルボン酸のハライド、カルボン酸のイミダゾリド、カルボン酸の活性エステル)を表す、P3、n及びXは前記に同じ] で表される請求項1記載のビシクロ誘導体に変換する工程である。本工程は、公知の方法によって容易に実施できる。例えば、Wがコハク酸イミドイルオキシ基の場合、一般式(7)(式中、P3、nおよびXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体と、N−ヒドロキシコハク酸を縮合剤の存在下で反応させることにより、容易に製造することができる。また、Wがベンゾトリアゾリルオキシ基(または1−ベンゾトリアゾリル 3−オキシド基)の場合、一般式(7)(式中、P3、nおよびXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体と、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールを縮合剤の存在下で反応させることにより、容易に製造することができる。
【0060】
本工程で用いられる縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、3−エチル−1−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)、ジメチルイミダゾリニウムクロライド(DMC)、クロロ蟻酸エチル、クロロ蟻酸イソブチル、またはピバロイルクロライドなどが挙げられ、これらは固体状、液体状または適当な溶媒に溶かした溶液として添加される。本縮合反応において塩基を用いる場合には、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸カリウムなどのアルカリ炭酸塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンまたは1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンなどの3級アミン類が例示できる。本縮合反応に用いる溶媒としては反応に関与しない不活性な溶媒、例えばN、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、トルエンまたはジクロロメタンなどが用いられる。
【0061】
本縮合反応は−20〜150℃で円滑に進行する。一般式(9)[式中、W、P3、nおよびXは前記に同じ] で表されるビシクロ誘導体は、単離精製して次工程に用いることも、単離せずに粗製のまま次工程に用いることもできる。
【0062】
B法第六工程
本工程は、一般式(9)[式中、W、P3、n及びXは前記に同じ] で表されるビシクロ誘導体と、R2OH(式中、R2は前記に同じ)で表されるアルコール誘導体を反応させて、一般式(8)(式中、R、P3、n及びXは前記に同じ) で表される請求項4記載のビシクロ誘導体を製造する工程である。本反応に塩基を用いる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの無機塩基や、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N、N、N、N−テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、4−ジメチルアミノピリジン、ホスファゼンベースまたはペンタイソプロピルグアニジンなどの有機塩基が例示できる。本反応に用いられる溶媒としては、反応に関与しない不活性な溶媒、例えばトルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ジクロロメタン、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN−メチル−2−ピロリドンなどが用いられる。反応は−30〜150℃で円滑に進行する。
【0063】
B法第七工程
本工程は、一般式(8)(式中、R、P3、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体の2級アミノ基の保護基であるP3を除去して、一般式(1)(式中、R、n及びXは前記に同じ) で表される請求項1記載のビシクロ誘導体を製造する工程である。P3の除去は公知の方法によって実施できる。例えば、P3がt−ブトキシカルボニル基である場合、トリフルオロ酢酸や塩化水素−ジオキサン溶液などを用いることにより、容易に除去することができる。また、P3がベンジルオキシカルボニル基である場合、パラジウム炭素と水素やパラジウム炭素と蟻酸アンモニウムの組み合わせによる方法で、容易に除去することができる。また、P3がトリフルオロアセチル基である場合、アンモニア−メタノール溶液などを用いることにより、容易に除去することができる。
【0064】
【化4】

【0065】
C法第一工程
本工程は、一般式(10)(式中、n及びXは前記に同じ)で表されるビシクロ誘導体から、エステル化またはアルキル化によって、一般式(1)(式中、R、n及びびXは前記に同じ) で表される請求項1記載のビシクロ誘導体を製造する工程である。エステル化により一般式(1)(式中、R、n及びXは前記に同じ)で表されるビシクロ誘導体を製造する場合、一般式(10)(式中、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体とR2OH(式中、R2は前記に同じ)で表されるアルコール誘導体を、縮合剤の存在下でエステル化して、一般式(1)(式中、R、n及びXは前記に同じ)で表されるビシクロ誘導体を製造する。
【0066】
本工程のエステル化反応の縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、3−エチル−1−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)、ジメチルイミダゾリニウムクロライド(DMC)、クロロ蟻酸エチル、クロロ蟻酸イソブチル、またはピバロイルクロライドなどが挙げられ、これらは固体状、液体状または適当な溶媒に溶かした溶液として添加される。
【0067】
本縮合反応において塩基を用いる場合には、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸カリウムなどのアルカリ炭酸塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンまたは1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンなどの3級アミン類が例示できる。本縮合反応に用いる溶媒としては反応に関与しない不活性な溶媒、例えばN、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、トルエンまたはジクロロメタンなどが用いられる。本縮合反応は−20〜150℃で円滑に進行する。また本縮合反応は、1−イミダゾリル基、4−ニトロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、コハク酸イミドイルオキシ基、または1−ベンゾトリアゾリルオキシ基(または1−ベンゾトリアゾリル 3−オキシド基)を有する活性エステルや酸クロライドを経由しても実施することができ、この場合、活性エステルや酸クロライドは単離精製して次工程に用いることも、単離せずに粗製のまま次工程に用いることもできる。
【0068】
アルキル化により一般式(1)(式中、R、n及びXは前記に同じ)で表されるビシクロ誘導体を製造する場合、一般式(10)(式中、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体とR2Y2(式中、Y2及びR2は前記に同じ)を塩基の存在下または非存在下で反応させて、一般式(1)(式中、R、n及びXは前記に同じ) で表されるビシクロ誘導体を製造する。
【0069】
本反応に塩基を用いる場合には、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムまたは炭酸セシウムなどのアルカリ炭酸塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンまたは1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ホスファゼンベースまたはペンタイソプロピルグアニジンなどの3級アミン類が例示できる。
【0070】
本反応に用いる溶媒としては反応に関与しない不活性な溶媒、例えばN、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルエーテル、ジメトキシエタン、酢酸エチル、トルエン、ジクロロメタンなどが用いられる。本反応は−30〜150℃で円滑に進行する。
【0071】
実施例
以下の実験例および実施例により本発明の有用性を示すが本発明は実験例および実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0072】
【化5】

【0073】
(2S,4S)−4−フルオロ−1−[[N−[(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル)オキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル]アミノ]アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリル
(2S,4S)−1−[[N−(4−カルボキシビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル]−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル(50.0mg)をN,N−ジメチルホルムアミド(1.5mL)に溶解し、炭酸カリウム(23.5mg)次いで4−ブロモメチル−5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン(32.8mg)を加え、室温で1.5時間撹拌した。反応混合物に4−ブロモメチル−5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン(11.9mg)を追加し、室温でさらに2時間撹拌した。反応混合物中の不溶物を濾去し、濾液を減圧濃縮した。残渣をプレパラティブTLC(展開溶媒:クロロホルム:メタノール=10:1)で精製し、白色固体の(2S,4S)−4−フルオロ−1−[[N−[(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル)オキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル]アミノ]アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリル(16.0mg)を得た。
MS (FAB+) m/z: 436 (MH+).
HRMS (FAB+) for C21H27FN3O6 (MH+): calcd, 436.1884; found, 436.1913.
【実施例2】
【0074】
【化6】

【0075】
(2S,4S)−4−フルオロ−1−[[N−(ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル)ビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル]アミノ]アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリル
(2S,4S)−1−[[N−(4−カルボキシビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル]−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル(50.0mg)をN,N−ジメチルホルムアミド(1.5mL)に溶解し、炭酸カリウム(23.5mg)次いでピバル酸クロロメチル(24.5μL)を加え、室温で3時間撹拌した。反応混合物中の不溶物を濾去し、濾液を減圧濃縮した。残渣をプレパラティブTLC(展開溶媒:クロロホルム:メタノール=10:1)で精製し、白色固体の(2S,4S)−4−フルオロ−1−[[N−(ピバロイルオキシメチルオキシカルボニル)ビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル]アミノ]アセチル]ピロリジン−2−カルボニトリル(42.2mg)を得た。
MS (FAB+) m/z: 438 (MH+).
HRMS (FAB+) for C22H33FN3O5 (MH+): calcd, 438.2404; found, 438.2410.
【0076】
<試験例1>[ジペプチジルペプチダーゼ IV活性阻害試験]
基質であるH−Gly−Pro−AMC (7−アミノ−4−メチル−クマリン)・HBrが血漿ジペプチジルペプチダーゼ IVにより分解されて遊離するAMC濃度を蛍光強度により測定した。
【0077】
方法
平底96穴プレートを用いて、生理食塩水で8倍希釈した血漿20μLに化合物を溶解させた緩衝液(25mmol/L ヘペス、140 mmol/ L 塩化ナトリウム、1% ウシ血清アルブミン、80mmol/ L 塩化マグネシウム・6水和物、pH7.4)20μLを添加し室温で5分間放置した後、0.1mmol/LのH−Gly−Pro−AMC・HBr溶液10μLを添加して反応を開始した。遮光下室温で20分間放置した後、25%酢酸溶液20μLを添加して反応を停止させた。遊離したAMC濃度を、蛍光プレートリーダーを用いて355nmで励起させた時の460nmの蛍光強度を測定した。得られた結果から50%阻害濃度(IC50値)をプリズム3.02 (グラフパッド ソフトウェア) を用いて算出した。結果を表1に記載した。
【0078】
【表1】

【0079】
<試験例2>[経口投与におけるマウスのジペプチジルペプチダーゼ IV活性阻害試験]
0.3% カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いて化合物を0.1 mg/mLの濃度で懸濁し、8週齢の雄性ICRマウス (日本チャールスリハ゛ー) に10mL/kgで経口投与した。投与前および投与後30分にEDTA・2K処理毛細管を用いて尾静脈から採血を行い、採取した各血液を6000回転で2分間遠心分離して血漿を得た。試験例1と同様の方法を用いて、酵素活性を測定した。投与前の酵素活性値からの減少率を阻害率として算出した[阻害率={(投与前値−投与後値)÷投与前値}×100]。
【0080】
結果を表2に記載した。
【0081】
【表2】

【0082】
<試験例3>[薬剤性白血球減少症に対する薬効評価試験]
本発明化合物の薬剤性白血球減少症に対する薬効評価実験をOkabeらの方法(薬理と治療、19巻、6号、55頁、1991年)に準じて行った。
8週齢の雄性ICR系マウス(日本チャールスリハ゛ー)を用いて、Day0にシクロホスファミド(200mg/kg)を単回腹腔内投与した。翌日から対照群には生理食塩水を投与し、薬物投与群には本発明化合物(1〜200mg/kg)を1日1〜2回、5日間経口投与した。試験開始から2,4,6及び8日後にそれぞれ採血を行い、白血球数を経時的に測定し、シクロホスファミド投与前の白血球数をコントロールとすることによって、本発明化合物の薬剤性白血球減少症に対する薬効を評価した。
【0083】
<試験例4>[血中G−CSF濃度の増加作用試験]
7週齢の雄性ICR系マウス(日本チャールスリハ゛ー)を用いて、対照群には生理食塩水を投与し、薬物投与群には本発明化合物(1〜200mg/kg)を1日1〜2回、5日間経口投与した。投与終了翌日に麻酔下で採血し、マウスG−CSF ELISA測定キット(R&D SYSTEM社)を用いて血漿中のG−CSF濃度を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願化合物は、優れたDPP-IV阻害活性を有する新規なビシクロアミド誘導体または薬理学的に許容されるその塩である。本願化合物を有効成分として含有する医薬組成物は、糖尿病およびその合併症の予防および/または治療剤あるいはDPP-IVが関与する疾患に対する予防および/または治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、RはCHR1OCOR(式中、R1及びRは、同一または異なって、水素原子、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、置換されていてもよいC3〜C6のシクロアルキル基、置換されていてもよいアリールメチル基、置換されていてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示す。)、CHR1OCOAR2(式中、R1及びR2は前記と同じ、Aは窒素原子、酸素原子及び硫黄原子を示す。)、置換されていてもよいフタリジニル基、3-クロトノラクトニル基、3-ブチロラクトニル基、5-ブチロラクトニル基または置換されていてもよい(2-オキソ‐1,3−ジオキソレン‐4−イル)メチル基を示し、XはCH2、CHF、CF2、CHOH、硫黄原子または酸素原子を示し、nは1、2または3を示す。]で表されるビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩。
【請求項2】
請求項1記載のビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有することを特徴とする医薬。
【請求項3】
請求項1記載のビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を有効成分として含有することを特徴とするDPP-IV阻害剤。
【請求項4】
請求項1記載のビシクロエステル誘導体または薬理学的に許容されるその塩を有効成分とすることを特徴とするDPP-IVが関与する疾患の治療剤。
【請求項5】
DPP-IVが関与する疾患が糖尿病及びその合併症である請求項4記載の治療剤。

【公開番号】特開2007−77099(P2007−77099A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268907(P2005−268907)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】