説明

ビタミンE誘導体を有効成分とする鎮痛剤

【課題】各種の疼痛の緩和軽減に有効な医薬組成物(鎮痛剤)を提供することを目的とする。
【解決手段】下記一般式で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする:


〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合したSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、N−置換アミノ酸またはそのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)またはアミン化合物を示す〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンE誘導体を有効成分とする鎮痛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
痛みの発症には、疾病や外傷などによって組織に損傷を受け、局所に発痛物質が産生されて生ずる場合、また、侵害刺激の有無に関わらず神経系の機能異常等によって引き起こされる場合などが知られている。
【0003】
痛みをその発生源によって分類すると、(1)侵害受容性疼痛(nociceptive pain)、(2)神経因性疼痛(neuropathic pain)、(3)心因性疼痛(psychogenic pain)の3種類に大別することができる。侵害受容性疼痛とは外傷など生体に外部から刺激が加わって生じる痛みや、内部組織などに病変があることで生じる痛みである。このような痛みの多くは、基礎疾患が治癒すると消失することが多い。一方で、末梢組織あるいは末梢神経終末部の異常や末梢神経に損傷が及んだことによって中枢神経系に生じた機能異常、さらには、中枢神経系の障害および心理的機序などによって生じる疼痛があり、これらは神経因性疼痛および心因性疼痛に属する。痛みは多種多様の要因によって生じ、その発現メカニズムは未だ十分に解明されているとはいえないが、痛みおよびその調節に関連する体内物質としては、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、セロトニン、サブスタンスP、オピオイ
ドペプチドなどが報告されている。
【0004】
従来より軽度の痛みの治療薬には、末梢に作用点のあるロキソプロフェンナトリウムやアセトアミノフェンなどに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが主に用いられ、また癌性疼痛などに代表される中等度、重度の痛みには、中枢に作用点のあるモルヒネに代表されるオピオイド鎮痛薬などが用いられている。しかし、NSAIDsなどの末梢性鎮痛薬の場合は十分な鎮痛効果が得られない場合もあり、また消化器系、腎・泌尿器系などに対する副作用が問題となるため使用量も制限される。オピオイド鎮痛薬の場合は、侵害受容性疼痛には効果を示すものの、神経因性疼痛および心因性疼痛に対しては十分な効果を示さないことが多いため、使用量を増量しても十分な鎮痛効果が得られないこともある。このような疼痛を難治性疼痛と言い、この難治性疼痛に対して単独、あるいは従来の鎮痛薬と併用することによって十分な鎮痛効果を有し、かつ、副作用の少ない新たな鎮痛剤の創製が望まれている。
【0005】
近年、慢性および急性の痛みの悪化においてサイトカインの誘導が注目をされている(非特許文献1〜3)。多くの痛みにおいてサイトカインが重要な役割を担っていることから、その制御を介した鎮痛薬の開発が望まれているが、いまだ存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO99/33818号公報
【特許文献2】特開2000-191528号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Int Rev Neurobiol. 2009;85:179-90.,
【非特許文献2】Mol Interv. 2009 Aug;9(4):188-95.,
【非特許文献3】Brain Res Rev. 2009 Apr;60(1):57-64. Epub 2008 Dec 31.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、急性痛から慢性痛などの様々な疼痛を軽減するのに有効な医薬組成物、すなわち鎮痛剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、下記の一般式(1)で示される水溶性ビタミンE誘導体に、鎮痛機序において注目されているサイトカインを抑制する作用があり、疼痛惹起物質(FCA)によって誘導した疼痛を有意に軽減することができること、しかもその鎮痛効果に持続性があることを見出した。かかることから、本発明者らは、当該水溶性ビタミンE誘導体は急性疼痛の軽減・緩和のみならず、慢性疼痛の軽減・緩和にも有効であることを確信し、本発明を開発するにいたった。
【0010】
ちなみに当該ビタミンE誘導体は公知の化合物であるが(例えば特許文献1及び2等参照)、その鎮痛作用については知られていない。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含する。
(I)鎮痛剤
(I-1)下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、鎮痛剤:
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)または下記式(12)に示されるアミンを示す
【0014】
【化2】

【0015】
(I-2)一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体が下記(a)〜(o)からなる群から選択されるいずれかである、(I-1)に記載する鎮痛剤:
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
【0016】
(I-3)治療対象とする疼痛が急性疼痛または慢性疼痛である(I-1)または(I-2)に記載する鎮痛剤。
【0017】
(I-4)治療対象とする疼痛が、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛または心因性疼痛である、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する鎮痛剤。
(II)鎮痛方法
(II-1)下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を、疼痛患者に対して、疼痛を低減または消失する有効量投与する工程を有する鎮痛方法:
【0018】
【化3】

【0019】
〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)または下記式(12)に示されるアミンを示す
【0020】
【化4】

【0021】
(II-2)一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体が下記(a)〜(o)からなる群から選択されるいずれかである、(II-1)に記載する鎮痛方法:
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
【0022】
(II-3)治療対象とする疼痛が急性疼痛または慢性疼痛である(II-1)または(II-2)に記載する鎮痛方法。
【0023】
(II-4)治療対象とする疼痛が、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛または心因性疼痛である、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する鎮痛方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、一般式(I)で表される水溶性ビタミン誘導体またはその薬理学上許容される塩を有効成分とする鎮痛剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】リポ多糖(LPS)を投与したLPS群(―■―)、およびリポ多糖(LPS)と本発明のビタミンE誘導体ETS-GS を投与したETS-GS+LPS群(―●―)について、24時間に亘ってサイトカイン(TNF-α、IL-6)の血清濃度を経時的に観察した結果を示す(実験例1)。(A)TNF-αの血清濃度(pg/ml)、(B)IL-6の血清濃度(pg/ml)をそれぞれ示す。データは、平均値±SDとして示す。*はLPS群に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図2】LPSで刺激したマウスマクロファージ様細胞(RAW264.7)におけるTNF-αおよびIL-6生成に対する本発明のビタミンE誘導体(ETS-GS)の影響を示す(実験例2)。マウスマクロファージを、図に示す投与量(0.0001、0.001、0.01、0.1、1、100μM)のETS-GSとLPS (100ng/ml)で20時間同時に処理した。(A)TNF-α生成量(pg/ml)、(B)IL-6生成量(pg/ml)をそれぞれ示す。データは、平均値±SDとして示す。*はLPS群(「LPS:+、ETS-GS:0」)に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図3】LPS誘導マウスマクロファージにおける核分画中のp50/p65結合活性を示す(実験例4(1))。LPS誘導によって増加したp50/p65結合活性が(左から2番目、「LPS:+、ETS-GS:0」)、ETS-GS処置によって減少することがわかる(左から3番目、「LPS:+、ETS-GS:100」)。データは、平均値±SDで示す。*はLPS群(「LPS:+、ETS-GS:0」)に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図4】LPS誘導IkBリン酸化に対するETS-GSの影響を調べた結果を示す(実験例4(2))。
【図5】左足底に痛み惹起物質(FCA)、右足底に生理食塩水をそれぞれ皮下注射して作成した亜急性疼痛モデルラットを2群にわけ、そのうち「ETS-GS 投与群」に本発明のビタミンE誘導体(ETS-GS )を(左足:「ETS-GS+FCA」、右足:「ETS-GS+Saline」)、また「生食投与群」に生理食塩水を(左足:「Saline+FCA」、右足:「Saline+Saline」)、それぞれ7日間、1日2回の割合で連日皮下投与し、ETS-GS の鎮痛効果をplanter testにて評価した結果を示す(実験例5)。足底に熱刺激を与えた際に足を引っ込めるまでにかかった時間(逃避時間:Latency of response:秒)を測定した結果を示す。統計処理は、Mann-WhitneyのU検定を行い、P<0.05を有意差ありとした。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の鎮痛剤は、下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とするものである。
【0027】
【化5】

【0028】
〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)または下記式(12)に示されるアミンを示す
【0029】
【化6】

【0030】
当該ビタミンE誘導体(以下、これを「本化合物」ともいう)は、式(I)で表されるように、ビタミンE(α,β,γ,δ−トコフェロール)マレイン酸(またはフマール酸)とSH化合物とがS結合した化学構造、並びにこれらにさらにアミノ酸またはアミンが結合した化学構造を有している。
【0031】
なお、上記式(I)中、RまたはRで示されるSH化合物としては、上記式に対応して(1)グルタチオン、(2)γ−グルタミルシステイン、(3)システイン、(4)ペニシラミン、これらのエステルまたは(5)システナミンを挙げることができる。なお、RおよびRは、いずれか一方が水素原子である場合は、他方は水素原子ではなく、SH化合物またはそのエステルである。
【0032】
また、上記式(I)中、Rで示されるN−置換アミノ酸としては、上記式に対応して(6)グリシン(式中n=1)、β−アラニン(式中n=2)、γ−アミノ酪酸(式中n=3)、5−アミノ吉草酸(式中n=4)、ε−アミノカプロン酸(式中n=5)、(7)アントラニル酸、(8)トラネキサム酸、(9)プロリン、これらのエステル、(10)2−アミノエタンスルホン酸、(11)2−アミノエタンスルフィン酸を挙げることができる。
【0033】
また、上記式(I)中、Rで示されるアミンとしては、上記式に対応して(12)セロトニンを挙げることができる。
【0034】
本化合物の具体例としては、下記の化合物を挙げることができる。
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
【0035】
本化合物は、遊離のものであっても、その薬理学的に許容できる塩であっても、本発明の目的のため適宜に用いることができる。その薬理学的に許容できる塩としては、たとえばナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、およびカルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらに有機アミン塩としてエタノールアミン塩やリジン塩などが例示される。これら以外の塩であっても薬理学的に許容できる塩であればいずれのものであっても適宜に使用することができる。
【0036】
本化合物の第一の構成成分であるビタミンEとしては、α,β,γ,δ−トコフェロールのいずれもが適宜使用することができる。
【0037】
本化合物の第二の構成成分であるSH化合物としては、上記のように、(1)グルタチオン、(2)γ−グルタミルシステイン、(3)システイン、(4)ペニシラミン、これらのエステルまたは(5)システナミンが用いられる。グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システイン、ペニシラミンのエステルとしては、炭素数2〜6のアルキルエステルが挙げられる。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、シクロプロピル、n−ブチルエステル、tert−ブチルエステル、sec−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、l−エチルプロピルエステルおよびiso−ペンチルエステルなどが挙げられる。
【0038】
さらに、本化合物の第三の構成成分であるN−置換アミノ酸としては、上記のように、(6)グリシン(式中n=1)、β−アラニン(式中n=2)、γ−アミノ酪酸(式中n=3)、5−アミノ吉草酸(式中n=4)、ε−アミノカプロン酸(式中n=5)、(7)アントラニル酸、(8)トラネキサム酸、(9)プロリン、これらのエステル、(10)2−アミノエタンスルホン酸、(11)2−アミノエタンスルフィン酸が用いられる。
【0039】
N−置換アミノ酸のエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)としては、炭素数2〜6のアルキルエステルが挙げられる。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、シクロプロピル、n−ブチルエステル、tert−ブチルエステル、sec−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、l−エチルプロピルエステルおよびiso−ペンチルエステルなどが挙げられる。
【0040】
本化合物の第四の構成成分であるアミンとしては、(12)セロトニンが用いられる。
【0041】
本化合物は、例えば次の合成経路により、またはこれに準じて適宜合成することができる。
【0042】
【化7】

【0043】
具体的には以下のとおりである。まずビタミンE(II)を無水マレイン酸(III)と炭酸アルカリ(炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)または酢酸アルカリ(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなど)の存在下でアセトン、アセトニトリルまたはテトラハイドフラン(THE)などの無極性溶媒中で加熱して約1〜3時間反応させて、マレイン酸(またはフマール酸)モノトコフェロール(IV)とする。さらに、このように生成した化合物(IV)とアミノ酸(グリシン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸、5−アミノ吉草酸、ε−アミノカプロン酸、アントラニル酸、トラネキサム酸、プロリン、これらのエステル、2−アミノエタンスルホン酸、2−アミノエタンスルフィン酸)またはアミン(セロトニン)とを、クロロホルムまたはテトラヒドロフランなどの溶媒中、有機アミン(ピリジン、トリエチルアミンなど)の存在下、クロル炭酸エチルなどによる混合酸無水物法により縮合し、マレイン酸(またはフマール酸)モノトコフェロール(IV)のそれぞれ対応する酸アミド(V)とする。次に、これらの化合物(IV)または(V)と本化合物の構成成分であるSH化合物(グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システイン、ペニシラミン、これらのエステルまたはシステナミン)とを室温下で約3〜6時間、加温下で約1〜3時間付加反応させることにより本化合物(I)を得ることができる。この際の反応溶媒としては、水または水と混和できる溶媒、たとえばアルコール、アセトニトリル、ジオキサンなどが挙げられ、好ましくは水との混合液がよい。
【0044】
このようにして得られた本化合物(I)は、公知の方法により、薬理学的に許容できる塩として得てもよい。
【0045】
後述する実験例1〜4に示すように、ビタミンE、グルタチオンから構成される化合物(上記化合物(a)、以下「EM-GS」ともいう)、ビタミンE、タウリン及びグルタチオンから構成される化合物(上記化合物(b)、以下「ETS-GS」ともいう)、及びビタミンE、GABA及びグルタチオンから構成される化合物(上記化合物(d)、以下「EGABA-GS」ともいう)を始めとする本化合物は、サイトカインの生成または分泌を抑制する作用があり、また実験例5〜7で示すように、フロイント完全アジュバント(FCA)投与で誘導した炎症を伴う疼痛を軽減・緩和することができる。しかも、その鎮痛効果には持続性がある。従来から多くの急性および慢性疼痛の機序に、サイトカインの関与が報告されていることから(非特許文献1〜3)、本化合物(I)は急性疼痛を軽減・緩和するのみならず、慢性疼痛をも軽減・緩和するための有効成分として有用であると考えられる。
【0046】
従って、本化合物を有効成分とする本発明の医薬品及び医薬組成物は、急性および慢性疼痛の軽減剤または緩和剤(本発明ではこれらを総称して「鎮痛剤」という)として、疼痛の制御及び管理に有効に用いることができる。
【0047】
ここで疼痛とは、不快な知覚や、実際又は潜在的な組織の障害に伴う感情経験(Classification of Chronic Pain,2nd Edition, IASP Task Force on Taxonomy, edited by H. Merskey and N. Bogdug, IASP Press, Seattle, 1994, p209)として定義される。急性疼痛は、自律(反射)反応が関与する不快な感覚、知覚、感情経験の型、及び傷害や急性疾患によって引き起こされる精神的、行動的反応である(Halpern, 1984, Advances in Pain Research and Therapy, Vol 7, Ed. C. Bendetii et al, page 47)。組織の傷害は侵害受容器によって脊髄に伝達される活動電位に変換される一連の侵害性刺激を引き起こし、その刺激は、上位の神経系へと伝達される。急性疼痛の例としては、歯痛,術後疼痛,産科痛,神経痛,筋痛等が挙げられる。慢性疼痛は、上記Halpern, ibid, 1984に、急性疾患の通常の経過を越える持続する痛み、又は創傷治癒の通常の経過を越える痛みと定義されるが、これに限定されない。慢性疼痛は侵害性疼痛系の持続的な機能障害の典型的な結果である。慢性疼痛の例としては,三叉神経痛、発疹後の神経痛(急性ヘルペスに引き続いて起こる皮膚に分布する皮膚変化に伴う慢性疼痛の一形態),糖尿病性神経痛,灼熱痛,幻肢痛や、骨関節炎,リューマチ,癌に伴う疼痛等が挙げられる。
【0048】
従来技術の欄で説明するように、痛みをその発生源によって分類すると、(1)侵害受容性疼痛(nociceptive pain)、(2)神経因性疼痛(neuropathic pain)、(3)心因性疼痛(psychogenic pain)の3種類に大別することができる。本化合物はそのサイトカイン抑制作用に基づいて、これらの疼痛のいずれにも有効に鎮痛効果を発揮することができる。
【0049】
ここで侵害受容性疼痛及び神経因性疼痛に属する疼痛としては、例えば、癌性疼痛及び癌性疼痛症候群、術後疼痛、椎間板ヘルニア、頚椎症、腰椎術後疼痛症候群、Tolosa-Hunt症候群、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、腰椎分離すべり症、変形性脊椎症を挙げることができる。侵害受容性疼痛及び神経因性疼痛に属する疼痛のうち、神経因性疼痛が主と思われるものとしては、帯状疱疹及び帯状疱疹後神経痛、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、中枢性疼痛症候群、視床痛、頚椎症性脊髄症、頚髄症、幻肢痛、断端痛、脊柱管狭窄症、三叉神経痛、神経絞扼症候群、舌咽神経痛、パンコースト症候群、胸郭出口症候群、助間神経痛、開胸術後神経痛を挙げることができる。侵害受容性疼痛及び神経因性疼痛に属する疼痛のうち、侵害受容性疼痛が主と思われるものとしては、筋・筋膜症候群、骨粗鬆症、線維筋痛症、リウマチ性脊椎炎、関節疾患、強直性脊椎炎、外傷性頚部症候群、脊椎炎、椎間板炎、肩関節周囲炎、痛風、顎関節症、椎間関節症、バージャー病、閉塞性動脈硬化症を挙げることができる。
【0050】
また本化合物は、そのサイトカイン抑制作用に基づいて、上記のいずれにも該当しない疼痛に対しても効果を発揮するものと考えられる。かかる疼痛としては、片頭痛、非定型顔面痛、群発頚痛、筋緊張型頭痛、及び側頚動脈炎を挙げることができる。
【0051】
本化合物を鎮痛剤として用いる場合、目的と必要に応じて、本化合物のうち1種または2種以上を適宜組み合わせて含有させることもできる。本化合物のうち、好ましくは上記化合物(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシンであり、より好ましくは化合物(b)である。ちなみに、化合物(a)、(b)および(d)の化学的な相違は(a)はビタミンEマレイン酸エステルに対して1位にグルタチオンが付加したものである。(b)、および(d)は2位にグルタチオンがそれぞれ付加し、更に3位のカルボン酸に2−アミノエタンスルホン酸(タウリン)またはγ−アミノ酪酸(GABA)がそれぞれ縮合したものである。
【0052】
本化合物は、鎮痛剤として、ヒトまたはその他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)に、経口的にあるいは非経口的〔静脈投与、皮下投与、経皮投与、経肺投与、経粘膜投与(点鼻など)、直腸投与など〕に投与される。鎮痛剤は、本化合物を、経口または非経口投与に通常用いられる薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、湿潤剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、バッカル剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤、貼付剤、坐剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。
【0053】
特に本化合物は、水に不溶性のビタミンEと異なり、非吸湿性の安定な結晶であって、且つ、水溶性であるので、経口液剤(アンプル剤、シロップ剤)、注射剤または点眼剤などの水性液剤としての適用も可能である。さらには、外用薬としての使用も可能である。
【0054】
これらの製剤には通常用いられる薬学的に許容される担体、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(例えば、乳糖、砂糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、増粘剤、分散剤等、またその他の添加剤として、再吸収促進剤、pH調整剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤等を適宜使用してもよい。
【0055】
本化合物を鎮痛剤として使用する際の投与量は、使用する本化合物の種類、患者の体重や年齢、対象とする疾患の種類やその状態および投与方法などによっても異なるが、たとえば、本化合物の量に換算して、注射剤の場合は成人1日1回約1mg〜約30mg、錠剤等の経口投与剤の場合は、成人1日数回、1回量約1mg〜約100mg程度、さらに軟膏やクリーム及び貼付剤等の外用剤の場合は、1回量約1mg〜約1000mg程度を投与するのがよい。また、点眼剤等のような粘膜投与剤の場合は、成人1日数回、1回数滴、濃度が約0.01〜5(w/v)%の製剤を投与するのがよい。
【0056】
本化合物を含有する医薬組成物(鎮痛剤)には、本発明の目的に反しない限り、その他の鎮痛剤や疼痛緩和剤または別種の薬効成分を適宜含有させてもよい。
【0057】
例えば本化合物と共に投与することができる鎮痛剤、疼痛緩和剤の例としては、鎮痛作用または疼痛緩和作用を有するものであればよく、特に制限されないが、例えば非麻薬性鎮痛薬もしくは麻薬性鎮痛薬などの鎮痛薬;非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、ステロイドもしくは抗リウマチ剤などの抗炎症剤;βアドレナリン遮断薬、麦角誘導体、もしくはイソメテプテンなどの片頭痛製剤;アミトリプチリン、デシプラミン、もしくはイミプラミンなどの三環系抗うつ剤;ガバペンチン、カルバマゼピン、トピラメート、バルプロ酸ナトリウム、もしくはフェニトインなどの抗てんかん薬;α刺激薬;または選択的セロトニン再取り込み阻害薬/選択的ノルエピネフリン取り込み阻害薬、あるいはそれらの組合せを挙げることができる。また、その他の薬効成分としては、疼痛を伴う疾患の治療に用いられる薬効成分、例えば血管新生阻害剤、抗悪性腫瘍剤、抗糖尿病剤、感染治療薬、胃腸薬、などを挙げることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の構成および効果を製造例及び実験例に基づいてより詳細に説明する。但し、これらの実験例等は一例であり、本発明はかかる実験例によって何ら拘束されるものではない。
【0059】
製造例1
(1)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン モノナトリウム塩の製造 (略語:EM-GS)
dl−α−トコフェロール4.3g(0.01モル)、無水マレイン酸2.0g(0.02モル)および炭酸ナトリウム2.1g(0.02モル)にアセトン80mlを加えて1時間、加熱還流した後、無機塩を濾別し、溶媒を留去した。残渣油状物に水60mlを加え、さらに塩酸で酸性とした後、酢酸エチルで抽出した。次にこれを水で洗浄した後、酢酸エチルを留去させ、残渣油状物のマレイン酸モノα−トコフェロールエステル約5gを得た。次に70%メタノール100mlに水酸化ナトリウム0.6gおよびグルタチオン3.4g(0.011モル)を加えて溶解し、これに上記のマレイン酸モノα−トコフェロールエステルをメタノール30mlに溶解したものを加えて、40℃、3時間攪拌した。次にこれを冷却し析出した半固型油状物を集め、80%含水メタノールで2〜3回洗い、次にメタノールを加えて結晶化させ、結晶を濾取しアセトンで洗い4.0gを得た。これを水−エタノールから再結晶して、標題の化合物のモノナトリウム塩2.8gを得た。
【0060】
(2)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリ
メチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシンの製造
dl−α−トコフェロール4.3g、無水マレイン酸3.0gおよび酢酸ナトリウム1.5gにアセトン80mlを加えて3時間、加熱還流した後、溶媒を留去し、残渣油状物に水60mlを加え、さらに塩酸で酸性とした後、ジイソプロピルエーテルで抽出し、水洗後、ジイソプロピルエーテルを留去させ、残渣油状物のマレイン酸モノα−トコフェロールエステル(放置すると結晶化)5.1gを得た。(これをn−ヘキサンから再結晶すると融点70〜72℃の白色結晶3.8gを得ることができる。)次にメタノール80mlに水酸化ナトリウム0.6gを加えて溶解し、これにグルタチオン3.4gおよび上記のマレイン酸モノα−トコフェロールエステルをエタノール30mlに溶解したものを加えて、50℃、3時間攪拌した。次に、これを冷却し析出した白色結晶を濾取し、アセトンで洗浄後、この結晶に水100mlを加えてのり状とし、これに塩酸を加えてpH3とし、析出する白色結晶を濾取、水洗し、乾燥後テトラハイドロフラン/エタノールから再結晶して、標題の遊離酸3.5gを得た。
【0061】
(3)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン 2ナトリウム塩の製造
上記(2)で得られた遊離酸を3.5gテトラハイドロフラン60mlに溶かし、これに水酸化ナトリウム/メタノールを徐々に加えてpH6.5とした後、溶媒を留去し、これにメタノールを加えて析出する白色結晶を濾取し、これを水−メタノールから再結晶して、標題の化合物の2ナトリウム塩3.0gを得た。
【0062】
製造例2 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造 (略語:ETS-GS)
製造例1の製造過程で得られたマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶かし、これにトリエチルアミン1.2gを加えて−5℃に冷却して置き、これにクロル炭酸エチル1.3gを徐々に滴下した後、15分後にこれにタウリン(2−アミノエタンスルホン酸)1.6gおよび水酸化ナトリウム0.5gをメタノール50mlに溶かしたものを一挙に加えて30分間攪拌し、更に室温にもどして1時間攪拌した。次に溶媒を留去させ、これにアセトンを加えて析出する白色結晶を濾取し、4.0gを得た。更に母液に水酸化ナトリウム/メタノールを加えてpH8として析出する結晶を濾取し1.6gを得た。これらを合わせてメタノール/エタノールから再結晶して、白色結晶のN−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩4.5gを得た。
【0063】
次に、90(V/V)%メタノール溶液60mlに水酸化ナトリウム0.45gおよびグルタチオン3.3gを加えて溶解し、これに上記の化合物4.5gをメタノール50mlに溶解したものを加えて、50℃、3時間攪拌し、冷却後析出した白色結晶を濾取し、メタノールで洗浄し6.0gを得た。これを水200mlに溶かし、これに酢酸銅2.5gを水50ml、酢酸2mlに溶解したものを加えて析出する銅塩を濾取し、水洗後アセトン、メタノールで洗い5.3gを得た。これをテトロラハイドロフラン/メタノール(3:5)の混液100mlに懸濁して置き、これに硫化水素を通じて硫化銅として濾別後、濾液に水酸化ナトリウム/メタノールを加えてpH5として析出する白色結晶を濾取し、メタノールで洗浄して乾燥させて、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
【0064】
製造例3 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造
製造例1の製造過程で得られたマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶解し、製造例1と同様にトリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gを用いて混合酸無水物法によりアントラニル酸1.5g、ピリジン3mlをテトラハイドロフラン40mlに溶かしたものを反応させ、溶媒留去後、塩酸酸性として酢酸エチルで抽出、水洗後、酢酸エチルを留去し、残渣油状物7.5gを得た。
【0065】
一方、メタノール70mlに水酸化ナトリウム0.8gを加えて溶かし、これにグルタチオン3.3gおよび上記の油秋物7.5gをメタノール20mlに溶かしたものを加えて、50℃、3時間攪拌する。次に冷却後、析出した白色結晶を濾取した。これに水50mlを加えてゲル状とし、これに酢酸3mlを加えて析出する白色結晶を濾取し、これを酢酸エチル/エタノールの混液に溶解し、水酸化ナトリウム/メタノール液を加えてPH6.5として析出する白色結晶を濾取し、テトラハイドロフラン/エタノールから再結晶して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.7gを得た。
【0066】
製造例4 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造
(略語:EGABA-GS)
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶かし、前記と同様にトリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gを用いて混合酸無水物法によりγ−アミノ酪酸 (GABA)1.3g、水酸化カリウム0.6gをN,N’−ジメチルホルムアミド50mlに溶解したものを加えて、以下製造例3と同様に反応処理して標題の目的化合物のナトリウム塩4.0gを得た。
【0067】
製造例5 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン ナトリウム塩の製造
製造例2で示したN−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸のナトリウム塩2.4gをメタノール50mlに溶かし、これにL−システイン0.6gを加えて、50℃、2時間攪拌する。次に冷却後析出する白色結晶を濾取し、水/メタノールから再結晶して、白色結晶の標題の目的化合物のナトリウム塩1.8gを得た。
【0068】
製造例6 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gをクロロホルム中で製造例1と同様に混合酸無水物法によりセロトニン塩酸塩2.4g、トリエチルアミン1.5gをメタノール40mlに溶かしたものを加え、製造例2と同様に反応させ、溶媒を留去後、残渣油状物を酢酸エチルで抽出し、1%酢酸、水で洗った後、酢酸エチルを留去した。これにメタノールを加えて放置し、析出する白色結晶をメタノールから再結晶して、N−(α−トコフェロールマレイニル)セロトニンなる化合物4.5gを得た。次に、これとグルタチオン3.4g、水酸化ナトリウム0.4gにメタノール70mlを加えて、50℃、3時間攪拌後、反応液を30mlまで濃縮し、析出した結晶を濾取し、以下製造例3と同様に処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.7gを得た。
【0069】
製造例7 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびε−アミノカプロン酸1.5gを用いて、製造例2と同様に混合酸無水物法により反応処理して、溶媒を留去後残渣に水を加え、更に塩酸酸性として酢酸エチルで抽出し水洗後留去した。これをメタノール70mlに溶かし、これにグルタチオン3.3gを加え、さらに水酸化ナトリウム/メタノールでpH6.5として、50℃、3時間攪拌した後冷却し、析出する結晶を濾取し、これに水50mlを加えた。更にこれを酢酸酸性として結晶を濾取し、水洗後THF/エタノールに溶解し、THF留去後、水酸化ナトリウム/メタノールでpH7として析出する白色結晶を濾取し、これをメタノール/エタノールから再結晶して標題の目的化合物の2−ナトリウム塩2.5gを得た。
【0070】
製造例8 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびトラネキサム酸(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸)1.7gを用いて、製造例7と同様に反応処理して目的化合物の2−ナトリウム塩2.2gを得た。
【0071】
製造例9 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン ナトリウム塩の製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩2.6gおよびγ−グルタミルシステイン1.0gにメタノール50mlを加え、更に水酸化ナトリウム/メタノールでPH6.5として、50℃、3時間攪拌した。次に反応液を20mlまで濃縮し、析出した白色結晶を濾取し、これに水70mlを加えて溶かし、塩酸でpH3として析出する白色結晶を濾取した。次に、これをTHF/エタノールに溶かし、水酸化ナトリウム/メタノールでpH6.5として、THEを留去後、析出した結晶を濾取し、少量のメタノールで洗い、メタノール/エタノールから再結晶して、標題の目的化合物の2−ナトリウム塩1.3gを得た。
【0072】
製造例10 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン ナトリウム塩の製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩3.2gおよびD−ペニシラミン0.8gを用いて、製造例5と同様に反応処理して得られる結晶をメタノール/エタノールから再結晶させて、目的化合物のナトリウム塩2.5gを得た。
【0073】
製造例11 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミンの製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩2.4gおよびシステナミン0.5gをメタノール70mlに溶解し、酢酸を加えてpH6とし、50℃、3時間攪拌した。冷後析出した結晶を濾取し、これをメタノールに懸濁しておき、水酸化ナトリウム/メタノールでpH7として溶解後、酢酸酸性として析出する白色結晶を濾取し、メタノールで洗って乾燥させて、白色結晶の標題の目的化合物1.3gを得た。
【0074】
製造例12 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびグリシンエチル塩酸塩1.5gを用いて、製造例2と同様に混合酸無水物法により反応処理して、溶媒を留去後、酢酸エチルで抽出し、3%炭酸水素ナトリウム、1N−塩酸、水の順で洗浄し、酢酸エチル留去後、残渣油状物約6gを得た。これをメタノール50mlに溶かした。一方、グルタチオン3.3g、水酸化ナトリウム0.5gを70%メタノール50mlに溶かし、上記のメタノール溶液に加えて50℃、2時間攪拌する。次に溶媒を留去しエタノールを加えて析出した結晶を濾取し、これに水50mlを加えて溶解し、これに塩酸を加えて析出する白色結晶を濾取し、THF/エタノール(1:1)に溶解し、製造例7と同様にして標題の目的化合物のナトリウム塩2.0gを得た。
【0075】
製造例13 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル ナトリウム塩の製造
グルタチオンイソプロピルエステル硫酸塩(γ−グルタミル−システニルグリジンイソプロピルエステル硫酸塩)4.0gを水60mlに懸濁しておき、これに2N−水酸化ナトリウムを徐々に加えてpH4として溶解後、濃縮した。これに80%メタノール100mlを加え、更に製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸のナトリウム塩4.8gを加えて、50℃、3時間攪拌する。次に溶媒を約60ml留去し、析出する結晶を濾取した。これにTHE−メタノール(1:1)に溶解し、不溶物を濾別した後、溶媒を留去、残渣結晶物にエタノールを加えて結晶を濾取した。これをメタノール/エタノールから再結晶させて白色結晶の標題の目的化合物のナトリウム塩3.6gを得た。
【0076】
製造例14 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造 製造例7のε−アミノカプロン酸の代わりにヒポタウリン(2−アミノエタンスルフィン酸)1.5gを用いて、製造例2と同様に反応処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
【0077】
製造例15 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン ナトリウム塩の製造
製造例7のε−アミノカプロン酸の代わりにL−プロリン1.5gを用いて、製造例2と同様に反応処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
[実験例]
下記の実験において、本化合物の例として、下式で示される化合物を用いた。
(1) 式(VI)で示す構造を有するETS−GS(製造例2「γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン」(上記(b)の化合物)のナトリウム塩):
【0078】
【化8】

【0079】
(2) 式(VII)で示す構造を有するEM−GS(製造例1「γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン」(上記(a)の化合物)のナトリウム塩):
【0080】
【化9】

【0081】
(3) 式(VIII)で示す構造を有するEGABA−GS(製造例4「γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン」(上記(d)の化合物)のナトリウム塩):
【0082】
【化10】

【0083】
実験例1〜3
下記の実験例1〜3では、本化合物が、サイトカイン(TNF-α、IL-6)の生成または分泌を阻害するかどうかについて調べた。
【0084】
なお、この実験例1〜3の実験には、下記の方法により作成したETS−GSの存在下または非存在下でリポ多糖(LPS: Lipopolysaccharide)(以下、「LPS」という)で処置したラット(LPS誘導敗血症モデル動物)を使用した。またそのデータはすべて平均値±SDとして示し、一元配置分散分析(ANOVA)を使用して評価した。 p-値<0.05を統計的有意とした。
【0085】
(1)被験動物
体重250-300gの雄ラット(Wister rat)を使用した。ラットはすべて、実験前後に食物と水に無制限に摂取できるようにした。研究は大分大学医学部の動物研究の倫理委員会によって承認された。すべてのプロトコルは国立衛生研究所(NIH)のガイドラインに沿って行った。麻酔は4%のセボフルラン(丸石製薬(株)製)を用いて行った。
【0086】
(2)被験動物のLPS処置(LPS誘導敗血症モデル動物の調製)
ラットは、無作為に3つのグループに分けた(LPS群、ETS-GS+LPS群、対照群:n=12)。LPS群には、LPS(7.5mg/kg)を尾静脈に静脈注射した。ETS-GS+LPS群には、ETS−S(10mg/kg)およびLPS(7.5mg/kg)を同時に尾静脈に静脈注射した。対照群には0.9%のNaCl水溶液を尾静脈に静脈注射した。
【0087】
(A)実験例1 LPS投与後の血清IL−6およびTNF−αレベルに対するETS−GSの影響
LPSで誘導したサイトカイン(IL-6、TNF-α)に対するETS−GSの影響を調べた。実験はLPS投与後、12時間に亘って血清サンプル(LPS群、ETS-GS+LPS群)を採取することで実施した。また対照群については、NaCl水溶液を尾静脈に静脈注射した後、12時間に亘って血清サンプルを採取した。
【0088】
(1)サイトカインの測定
血清中のTNF-αおよびIL−6の濃度は、市販のELISAキットとTNF-αおよびIL−6に対するラット特異的モノクローナル抗体(Invitrogen)を用いて分析した。吸光度は540nmで測定した(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ)。
【0089】
(2)結果
血清中のTNF-α濃度及びIL−6濃度の経時的変化を、図1の(A)及び(B)にそれぞれ示す。
【0090】
血清中のTNF−α濃度は、対照群では増加は認められなかったが(結果示さず)、LPS群(―■―)とETS-GS+LPS群(―●―)では増加が認められ、いずれもLPS投与後3時間でピークに達した。しかし、その増加の程度は、LPS群と比較して、ETS-GS+LPS群では著しく低かった(図1(A))。同様に、血清中のIL−6濃度は、対照群では増加は認められなかったが(結果示さず)、LPS群(―■―)およびETS-GS+LPS群(―●―)ともに、LPS投与後3時間でピークに達した (図1(B))。しかし、その増加の程度は、TNF−α濃度と同様に、LPS群と比較して、ETS-GS+LPS群では著しく低かった(図1(B))。
【0091】
これらの結果から、LPS投与(LPS刺激)によって誘導されたサイトカイン(TNF-α、IL-6)はいずれもETS-GSにより有意に抑制されることが判明した。
【0092】
(B)実験例2 LPSで刺激したマウスマクロファージによるTNF−αおよびIL−6生成に対するETS-GSの影響
マウスマクロファージ細胞株RAW264.7(1×106細胞)を、5%の加熱不活性化したウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン(50units/ml、Gibco BRL) およびストレプトマイシン(50μg/ml、Gibco BRL)を含むRPMI 1640培地(和光純薬工業)中で、5%のCO2の下、37℃で培養して、培地に分泌されたTNF−αおよびIL−6の量を測定した(対照群)。またLPS群として、上記の培地にLPS(100ng/ml)を添加し、またETS-GS+LPS群として、上記の培地にETS-GS(0.0001〜100μg/ml)とLPS(100ng/ml)を添加し、上記と同様に培養して培地に分泌されたTNF−αおよびIL−6の量を測定した。
【0093】
TNF-α生成量(pg/ml)を図2(A)に、IL-6生成量(pg/ml)を図2(B)にそれぞれ示す。
【0094】
その結果からわかるように、培地にLPSを添加することで(各図中、横軸の左から2番目「LPS:+、ETS-GS:0」参照)、培地に大量のTNF−αおよびIL−6が分泌された(LPS群)。一方、LPSと共にETS-GSを添加することで(各図中、横軸の左から3〜9番目「LPS:+、ETS-GS:100, 10, 1, 0.1, 0.01, 0.001, 0.0001」参照)、それらの分泌量はいずれも低減した(ETS-GS+LPS群)。ETS-GS添加によるTNF-α及びIL-6分泌に対する抑制効果は、いずれも用量依存的であり、100μMのETS-GSを添加した場合に、その効果は最も大きかった。
【0095】
これらの結果から、LPS投与(LPS刺激)によって誘導されたサイトカイン(TNF-α、IL-6)はいずれもETS-GSにより有意に抑制されることが確認された。
【0096】
(C)実験例3 各種ビタミンE誘導体による抗サイトカイン効果
上記実験例2と同様の方法で、マウスマクロファージ細胞株RAW264.7を用いて、各種のビタミンE誘導体(ETS-GS、EM-GS、EGABA-GS)の抗サイトカイン効果を調べた。なお、サイトカインとしてTNF-αを用いた。
【0097】
具体的には、RAW264.7細胞培養の上清液中にLPS(100ng/ml)を添加すると同時に各種ビタミン誘導体(VE誘導体)を表1に示す濃度にて添加し、20時間培養した後の培養液中のTNF-α濃度(pg/ml)をELISA法にて測定した。結果を表1に併せて示す。
【0098】
【表1】

【0099】
この結果、EM−GSやEGABA-GSといったビタミンE誘導体も、ETS-GSとほぼ同程度の抗サイトカイン作用(サイトカイン生成抑制作用)を有していることが示された。つまり、これらのビタミンE誘導体は、誘導体の種類に拘わらず、いずれの濃度においてもLPSのみの投与(培養液中のTNF-α濃度:812.3 ± 25.6 (pg/ml))に比べて、有意にサイトカインの生成を抑制できることが示された(p<0.05)。
【0100】
実験例4 LPS誘導によるp50/p65 DNA結合増加に対するETS-GSの影響
(1)LPSで誘導したp50/p65 DNA結合の増加に対するETS-GSの影響
マウスマクロファージ細胞株RAW264.7(1×106細胞)を、5%の加熱不活性化したウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン(50units/ml、Gibco BRL) およびストレプトマイシン(50μg/ml、Gibco BRL)を含むRPMI 1640培地(和光純薬工業)中で、5%のCO2の下、37℃で1時間培養した(対照群)。またLPS群として、培地にLPS(100ng/ml)を添加し同様に1時間培養した。またETS-GS+LPS群として、培地にLPS(100ng/ml)とともにETS-GS(100μg/ml)を添加し、同様に1時間培養した。
【0101】
斯くして培養したマウスマクロファージ細胞株RAW264.7(対照群、LPS群、ETS-GS+LPS群)を回収した後、Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents(PIERCE)を用いて核内蛋白質のみを抽出し、得られた核溶解物中でのNF-kB(p50/p65)のDNA結合活性を、ELISAに基づく非放射性のNF-kB (p50/p65) transcription factor assay kit (Millipore)を使用して測定した。
【0102】
結果を図3に示す。この結果からわかるように、マウスマクロファージ細胞株RAW264.7の核分画中のNF-kB(p50/p65)のDNA結合活性はLPS刺激後1時間で増加した(LPS群)(図中、横軸の左から2番目「LPS:+、ETS-GS:0」参照)。しかし、LPSとETS-GSの両方で処置すると、この増加は有意に抑制された(ETS-GS+LPS群)(図中、横軸の左から3番目「LPS:+、ETS-GS:100」参照)。このことから、LPS刺激により増加したRAW264.7細胞核分画中のNF-kB(p50/p65)のDNA結合活性は、ETS-GSによって低減することがわかる。
【0103】
(2)LPSで誘導したIkBリン酸化に対するETS-GSの影響
上記で培養したマウスマクロファージ細胞株RAW264.7(対照群、LPS群、ETS-GS+LPS群)を回収した後Mammalian Extraction Reagents(PIERCE)を用いて細胞蛋白を調製し、細胞質のリン酸化IkBレベルを測定した。リン酸化IkBレベルは、IkBα、リン酸化IkBα、及びβアクチンにそれぞれ特異的な抗体(抗phospho-IKBα (p-IkBα)抗体、IkB alpha抗体:Cell Signaling Technology、抗βアクチン抗体:Abcam)を使用して、ウエスタンブロッティング分析により測定した。
【0104】
なお、ウエスタンブロッティング分析は、各細胞株(対照群、LPS群、ETS-GS+LPS群)から調製したタンパク質をSDS-PAGEゲル電気泳動に供し、まずポリビニリデン・ジフルオリド膜(ミリポア)に転写した。次いで転写した膜を第1抗体(1:1000稀釈)で培養し、第2抗体で培養した後、enhanced chemiluminescence detection kit (Amersham)を使用して
発色させて、Hyperfilm ECL(アマシャム)に供した。
【0105】
結果を図4に示す。図に示すようにLPSによる処置は、IkBαをリン酸化し(図中、「P-IkB」として示す)、結果としてIkBαの低下をもたらした(LPS群)(図中、横軸の左から2番目「LPS:+、ETS-GS:0」参照)。このIkBαリン酸化、及びそれに伴うIkBαの低下は、ETS-GSを投与することで抑制された(ETS-GS+LPS群)(図中、横軸の左から3番目「LPS:+、ETS-GS:100」参照)。
【0106】
以上説明するように、実験例1〜4の結果から、ETS-GS、EM−GS、EGABA−GS等の本発明のビタミンE誘導体は、LPS投与によるサイトカイン(TNF-αおよびIL-6)の生成または分泌を、完全ではないものの抑制することが判明した。
【0107】
前述するように、これらのサイトカインは、通常LPSによって強く誘導され、炎症反応の初期の段階で生成分泌される内因性成分であり、疼痛に関与することが報告されている(非特許文献1〜3)。従ってこれらのサイトカイン(TNF-αやIL-6)の生成または分泌を顕著に抑制する本発明のビタミンE誘導体によれば、サイトカインが関与する急性疼痛および慢性疼痛を軽減または緩和することができると考えられる。ちなみに実験例4でのインビトロ実験において、NF-kB活性化はIkBリン酸化をブロックすることで阻害されることを示した。このことから、本発明のビタミンE誘導体の投与によるサイトカイン(TNF-αおよびIL-6)の抑制は、さらにNF-kB不活性化に基づいている可能性がある。
【0108】
実験例5
痛みを惹起する物質としてフロイント完全アジュバント(FCA:ROCKRAND製)を用いて疼痛モデル動物を作成し、機械的刺激に対する足引っ込め時間を測定することで、本発明のビタミンE誘導体の鎮痛効果(疼痛軽減効果、疼痛緩和効果)を評価した。なお、データはすべてMann-WhitneyのU検定を行い、P<0.05を統計的有意とした。
【0109】
(1)被験動物
体重200-250gの雄SDラット(6週齢)を使用した。ラットはすべて、実験前後に食物と水に無制限に摂取できるようにした。研究は大分大学医学部の動物研究の倫理委員会によって承認された。すべてのプロトコルは国立衛生研究所(NIH)のガイドラインに沿って行った。かかるラットを無作為に、生理食塩水(0.3ml)投与群(以下、「生食投与群」という)(n=7)とETS-GS(10mg/kg)投与群(以下、「ETS-GS 投与群」という)(n=7)の2群に分けた。各群の各ラットの左足底にFCAを、また右足底に生理食塩水をそれぞれ皮下注射により投与し(1.0 ml/kg)、亜急性疼痛モデル動物を作成した。
【0110】
(2)実験方法
上記で作成した亜急性疼痛モデル動物のETS-GS 投与群に、ビタミンE誘導体として上記ETS−GSを、また生食投与群に生理食塩水を、それぞれ7日間、1日2回の割合で連日皮下投与し、ETS-GSの鎮痛効果をplanter testにて評価した。
【0111】
具体的には、ラットの足底に熱刺激を与えると、ラットは痛みを感じたところで足を引っ込める。すなわち、痛みが強いほど短時間で足を引っ込めることになる。そこで、本化合物(ETS-GS)の投与から1日目〜7日目の毎日、亜急性疼痛モデル動物の足底に熱刺激を与え、各足(左足:FCA投与、右足:生食投与)を引っ込めるまでの時間(秒)(以下、これを「逃避時間(Latency of response)」という)を測定した。
【0112】
(3)実験結果
結果を図5に示す。図中、―■―「ETS-GS+FCA」は「ETS-GS 投与群」のFCA投与足(左足)の結果、―●―「ETS-GS+Saline」は「ETS-GS 投与群」の生食投与足(右足)の結果、―▲―「Saline+FCA」は「生食投与群」のFCA投与足(左足)の結果、及び―◆―「Saline+Saline」は「生食投与群」の生食投与足(右足)の結果を示す。
【0113】
その結果、「ETS-GS+FCA」(「ETS-GS 投与群」のFCA投与足)では1日目は5.3±1.3秒であり、疼痛閾値の有意な改善は認められなかったが、4日目には14.2±4.6秒と逃避時間が有意に延長し(疼痛閾値改善)、以後7日目まで継続して著明な延長(疼痛閾値改善)を認めた。一方、「Saline+FCA」(「生食投与群」のFCA投与足)は、1日目も7日目も逃避時間にあまり差異がなく、7日目も1日目と同様に痛みが持続していることが確認された。すなわち、「生食投与群」のFCA投与足と比べて、「ETS-GS 投与群」のFCA投与足は逃避時間が長く、ETS-GSの投与により痛みをあまり強く感じない状態になることが確認された。以上、FCAを用いた亜急性疼痛モデル動物に対してETS-GSを皮下投与することで疼痛閾値が有意に改善されたことから、ETS-GS等の本発明のビタミンE誘導体は急性及び慢性疼痛に対する鎮痛薬として有用であるといえる。
【0114】
実施例
本化合物として製造例1〜15に記載する方法で製造されたいずれかのビタミンE誘導体を使用して、下記処方の製剤を調製する。
〔製剤実施例1〕 内服錠
本化合物 30mg
乳糖 80mg
馬鈴薯澱粉 17mg
ボリエチレングリコール6000 3mg
以上の成分を1錠分の材料として常法により成型する。
【0115】
〔製剤実施例2〕 注射剤
本化合物 1.09
マニトール 4. 09
注射用蒸留水 残 部
全量 100mL
以上を常法により混合溶解させ注射剤とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、鎮痛剤:
【化1】

〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)または下記式(12)に示されるアミンを示す。
【化2】

【請求項2】
一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体が下記(a)〜(o)からなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載する鎮痛剤:
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
【請求項3】
治療対象とする疼痛が急性疼痛または慢性疼痛である、請求項1または2に記載する鎮痛剤。
【請求項4】
治療対象とする疼痛が、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛または心因性疼痛である、請求項1または2に記載する鎮痛剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−162536(P2011−162536A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158094(P2010−158094)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(502384060)有限会社オガ リサーチ (14)
【Fターム(参考)】