説明

ビニル系重合体の製造方法

【課題】 固形分を含有したビニル系重合体における固形分、特に原子移動ラジカル重合により製造されたビニル系重合体に含まれる遷移金属錯体および吸着剤成分を、安全かつ効率的に極めて低い含有量まで除去し精製する製造方法において、従来の方法では固形分が分散したビニル系重合体を循環供給せずに一方向のみの緩やかな供給方式であった為、固形分が分散したビニル系重合体中の粒子の沈降性が影響し、濾過抵抗が上昇して濾過速度が低下することによるタイムサイクルの増加で、生産性が低下していた。
【解決手段】 この課題を解決するために、固形分が分散したビニル系重合体を外部循環機能を有した濾過機にて固形分の沈降速度より大きい濾過機内における流速となる様に外部循環しつつ濾過を行い、ビニル系重合体中に含まれる固形分を除去することで、濾過抵抗を小さくすることができるビニル系重合体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固形分が分散したビニル系重合体から固形分を除去するビニル系重合体の製造方法に関し、さらに詳しくは、固形分が分散したビニル系重合体を加圧濾過して固形分を濾別し除去するビニル系重合体の製造方法において、その固形分が分散したビニル系重合体を固形分の沈降速度より大きい濾過機内における流速となる様に外部循環しつつ濾過を行うことで、濾過抵抗の上昇を防いで安定的に濾過を行うことを特徴とするビニル系重合体の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系重合体を製造するに際し、反応を進行させるために様々な金属触媒が用いられる。例えば、ヒドロシリル化反応は官能基変換や、架橋反応等に利用され、工業的に非常に有用な反応の一つである。例えば、分子鎖の末端に官能基としてアルケニル基を有する重合体はヒドロシリル基含有化合物を硬化剤として用いることにより、架橋硬化し、耐熱性、耐久性等の優れた硬化物を与えること、また、末端にアルケニル基を有する重合体に架橋性シリル基を有するヒドロシリル基含有化合物を反応させることにより、架橋性シリル基を末端に有する重合体が製造されることが知られている。これらのヒドロシリル化反応は加熱することにより進行するが、反応をより迅速に進めるために、ヒドロシリル化触媒が添加される。このようなヒドロシリル化触媒としては、有機過酸化物やアゾ化合物等のラジカル開始剤、および遷移金属触媒が挙げられる。特に、遷移金属触媒を用いると微量の触媒でヒドロシリル化を迅速に進めることができることが知られている。
【0003】
一方、重合体の精密合成法としてリビング重合法が一般的に知られている。リビング重合により、分子量、分子量分布のコントロールが可能であるというだけでなく、末端構造が制御された重合体が得られる。従って、リビング重合は重合体末端に官能基を導入する有効な方法の一つとして挙げられる。最近、ラジカル重合においても、リビング重合が可能な重合系が見いだされ、リビングラジカル重合の研究が活発に行われている。特に原子移動ラジカル重合を利用することにより分子量分布の狭いビニル系重合体が得られる。原子移動ラジカル重合の例として有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒とする重合系が挙げられる。(例えば、Matyjaszewskiら、J.Am.Chem.Soc.1995,117,5614,Macromolecules 1995,28,7901,Science,1996,272,866、あるいはSawamotoら、Macromolecules 1995,28,1721を参照)。
【0004】
原子移動ラジカル重合で製造されるビニル系重合体中には重合触媒である遷移金属錯体が残存するため、重合体の着色、物性面への影響および環境安全性等の問題が生ずる。例えば、原子移動ラジカル重合法を利用して製造された末端にアルケニル基を有するビニル系重合体においては、残存する重合触媒等がヒドロシリル化反応の触媒毒として働くためヒドロシリル化反応が阻害され、ヒドロシリル化反応を進行させるためには高価な遷移金属触媒を多量に用いる必要があるという問題が生じた。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、原子移動ラジカル重合で得られるビニル系重合体を吸着剤に接触させ精製することが報告されている(特開平11−193307)。しかしながらヒドロシリル化反応の触媒毒を除去する為には、この際使用した吸着剤、ならびに残存する遷移金属錯体を重合体溶液から極めて低い残存量まで除去する必要がある。
【0006】
これら吸着剤、遷移金属錯体を除去する方法として、高い遠心力を有する遠心分離機が用いられている。しかしながら高粘性を有する重合体溶液から微小な無機粉末を除去する場合、粒子径によっては分離が不十分な場合もあり、結果として必要なヒドロシリル化活性が得られないこともある。また、分離した固形物の排出時に多量の軽液をロスするという問題点も挙げられる。
【0007】
先行文献に、リビングラジカル重合により得られた重合体溶液から遷移金属とその配位子を除去するにあたり、遠心分離機で除去する方法が記載されている(例えば特許文献1参照)。濾過は濾紙の目詰まりが起きて供給圧力が大きくなる場合が多く大量の処理に適さないことが記載されており、実用化技術レベルでの検討は行われていない。また、リビングラジカル重合で得られた重合体を精製するときに使用した吸着剤を濾過で除去することが記載されているものもある(例えば特許文献2、3参照)。工業的に濾過を行う方法として、バグフィルター(例えば特許文献4参照)や水平リーフ型フィルター(例えば特許文献5参照)を使用する方法が記載されているが、固形分が分散したビニル系重合体を循環供給しない一方向のみの緩やかな供給方式である為、固形分が分散したビニル系重合体中の粒子の沈降性が影響し、濾過抵抗が上昇して濾過速度が低下することによるタイムサイクルの増加で、生産性が低下していた。
【特許文献1】特開2002−080513号公報
【特許文献2】特開2001−323012号公報
【特許文献3】特願2002−320845号公報
【特許文献4】特開2004−75855号公報
【特許文献5】特開2005−255893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら原子移動ラジカル重合で製造されるビニル系重合体のヒドロシリル化反応活性を維持するためには、この際使用した吸着剤を重合体溶液から極めて低い残存量まで除去する必要があり、吸着剤の経済的かつ効率的なビニル系重合体からの分離が必要である。また、高粘性液体の処理において、高温下または溶媒を添加して濾過速度を向上させる際に、液体の漏れ出しや溶媒蒸気の発生がない運転上安全な分離、さらに分離した固形分中の有効成分を効率的に回収し、なおかつ廃棄する固形分中への製品のロスを低減する洗浄回収技術が必要である。さらに、以上の分離回収技術を確保した上で、濾過抵抗を低減して濾過速度を向上させることでタイムサイクルを短縮し、生産性を向上させることが工業的運転面で望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、固形分を濾別し除去するビニル系重合体の製造方法、特に原子移動ラジカル重合で製造されたビニル系重合体における遷移金属錯体および吸着剤成分の除去による重合体の製造方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち本発明は、固形分が分散したビニル系重合体を外部循環機能を有した濾過機にて、濾過機内における流速が固形分の沈降速度より大きくなる様に外部循環しつつ濾過を行い、固形分を除去する、ビニル系重合体の製造方法に関する。
【0011】
ビニル系重合体が遷移金属錯体を重合触媒とする原子移動ラジカル重合により製造されることが好ましい。
【0012】
固形分が重合触媒である遷移金属錯体を除去するために添加する吸着剤であることがより好ましい。
【0013】
吸着剤が合成アルミニウムシリケートまたはハイドロタルサイト類化合物のいずれか一方あるいはその両方であることがより好ましい。
【0014】
濾過機内における流速を2mm/秒以上となる様にして外部循環しつつ濾過を行うことがより好ましい。
【0015】
濾過前に、固形分が分散したビニル系重合体に有機溶媒を添加することがより好ましい。
【0016】
濾過前に、固形分が分散したビニル系重合体に濾過助剤を添加することがより好ましい。また、濾材表面に濾過助剤を予め0.1〜10mmの厚さにプレコートすることもできる。
【0017】
有機溶媒が酢酸ブチル及びトルエンのいずれか一方あるいはその両方であることがより好ましい。
【0018】
濾過助剤が珪藻土であることがより好ましい。
【0019】
濾過助剤を重合体100重量部に対し0.1〜10重量部添加することがより好ましい。
【0020】
濾過助剤の平均粒子径が10〜100μmであることがより好ましい。
ビニル系重合体が(メタ)アクリル系重合体であることがより好ましい。
【0021】
濾過機として水平リーフ型フィルター及びチューブキャンドル型フィルターのいずれかを用いることがより好ましい。
濾過機の濾材として金網及び濾布のいずれかを用いることがより好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、固形分が分散したビニル系重合体における固形分、特に原子移動ラジカル重合により製造されたビニル系重合体に含まれる遷移金属錯体および吸着剤成分を、安全かつ効率的に極めて低い含有量まで除去し精製する工業的な製造方法において、濾過抵抗を低減して濾過速度を向上させることでタイムサイクルを短縮し、生産性を大幅に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、固形分が分散したビニル系重合体を加圧濾過して固形分を濾別し除去するビニル系重合体の製造方法において、その固形分が分散したビニル系重合体を固形分の沈降速度より大きい濾過機内における流速となる様に外部循環しつつ濾過を行うことで、濾過抵抗の上昇を防いで安定的に濾過を行うことを特徴とするビニル系重合体の製造方法である。
【0024】
本発明におけるビニル系重合体としては、高温下で溶融するか、あるいは有機溶媒に可溶であれば特に限定されないが、なかでも特に遷移金属錯体を重合触媒とするビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合により製造されるビニル系重合体であることが好ましい。なお、ビニル系重合体は原子移動ラジカル重合を利用して製造されるものに限定されず、その他の重合方法により得られるビニル系重合体であってもよい。
【0025】
ビニル系重合体の重合に使用されるビニル系モノマーとしては特に限定されず、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等などがあげられる。これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。なかでも、生成物の物性などから、スチレン系モノマーおよび(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステルモノマーおよびメタクリル酸エステルモノマーであり、さらに好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、特に好ましくはアクリル酸ブチルである。
【0026】
これらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合、さらにはブロック共重合させても良く、その際は、これらの好ましいモノマーが重量比で40%以上含まれていることが好ましい。なお、上記表現形式で例えば(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を表す。
【0027】
ビニル系重合体の重合触媒として用いられる遷移金属錯体としては特に限定されないが、周期律表第7族、8族、9族、10族または11族元素を中心金属とする金属錯体であることが好ましい。また、0価または1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄、2価のニッケルの錯体がさらに好ましく、なかでも銅の錯体が最も好ましい。1価の銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅などがあげられる。
【0028】
重合反応は、無溶媒でも可能であるが、各種の溶媒中で行なうこともできる。溶媒の種類としては特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼンなどのエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒などがあげられる。これらは、単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
反応温度については特に限定はされないが、重合反応は0〜200℃の範囲で行なうことができ、室温〜150℃で行なうことが好ましい。
【0030】
次にビニル系重合体の精製方法について述べる。上記の方法により得られたビニル系重合体は、重合溶媒、残存モノマー、残存ジエン系化合物、遷移金属錯体を混合物として含有しており、これらを重合体から除去する必要がある。その中で重合溶媒、残存モノマー、残存ジエン系化合物は沸点の差はあるものの基本的に揮発性の液体であり、通常の各種蒸発操作において重合体からの分離が可能である。
【0031】
一方、重合触媒である遷移金属錯体および遷移金属は重合体との相溶性が高く、そのまま固液分離操作を実施しても重合体中に多量に溶解しているため、重合体本来の品質が得られない傾向がある。
【0032】
これらの重合体に、合成ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、酸化マグネシウムのような無機系吸着剤や無機粉末を添加し遷移金属錯体の精製を行ない、引き続き濾過により重合体溶液から遷移金属錯体や吸着剤などからなる固形分の分離除去を行なう。
【0033】
本発明ではビニル系重合体溶液に、合成ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、酸化マグネシウムのような無機系吸着剤や無機粉末を添加することにより、ビニル系重合体溶液中の遷移金属錯体量を低減させることが可能である。無機系吸着剤や無機粉末は、不溶化した遷移金属錯体の凝集核として作用するだけでなく、物理的、化学的な吸着作用が期待できる。
【0034】
無機系吸着剤の代表的なものとして、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素などを主成分として1種または2種以上含有する無機化合物があげられる。例えば、二酸化珪素;酸化マグネシウム;シリカゲル;シリカ・アルミナ、アルミニウムシリケート;活性アルミナ;酸性白土、活性白土などの粘土系吸着剤;珪酸アルミニウムナトリウムなどの含水アルミノ珪酸塩鉱物群で総称されるゼオライト系吸着剤;ドーソナイト類化合物;ハイドロタルサイト類化合物などがあげられる。
【0035】
アルミニウムシリケートとはケイ酸のケイ素の一部がアルミニウムに置換されたもので、軽石、フライアッシュ、カオリン、ベントナイト、活性白土、珪藻土などが知られている。これらのなかでも、合成のアルミニウムシリケートは比表面積も大きく吸着能力が高いので好ましく用いられる。合成アルミニウムシリケートとしてはキョーワード700シリーズ(協和化学(株)製)などがあげられるが、これらに限定されるわけではない。
【0036】
ハイドロタルサイト類化合物は2価の金属(Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+など)と3価の金属(Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+など)の含水水酸化物または前記水酸化物の水酸基の一部をハロゲンイオン,NO3-,CO32-、SO42-、Fe(CN)63-、CH3CO2-、シュウ酸イオン、サリチル酸イオンなどの陰イオンに交換したものである。これらのうち2価の金属がMg2+、3価の金属がAl3+であって水酸基の一部をCO32-に交換したものが好ましく、例えば合成品としてはキョーワード500シリーズ、キョーワード1000シリーズ(いずれも協和化学(株)製)があげられるが、これらに限定されるわけではない。また、上記ハイドロタルサイト類を焼成して得られる吸着剤も好適に使用される。そのなかでも2価の金属がMg2+、3価の金属がAl3+であるハイドロタルサイト類を焼成して得られるMgO−AlO3系固溶体が好ましく、例えばキョーワード2000(協和化学(株)製)があげられるが、これらに限定されるわけではない。本発明においてはハイドロタルサイト類の焼成品についてもハイドロタルサイト類として分類する。以上に例示した吸着剤は単独で用いても、また複数を混合して用いてもよい。
【0037】
精製に使用した吸着剤および遷移金属錯体は引き続き重合体から除去する必要がある。これらの固液分離の方式としては特に制限されず、遠心分離方式、自然沈降分離方式または濾過方式など種々の分離形式が適用可能であるが、本発明においては濾過方式が用いられる。
【0038】
濾過方式としては、一般的にはバッチ方式としてフィルタープレス、加圧ヌッチェ、水平リーフ型フィルター及びチューブキャンドル型フィルター、連続方式としてドラムフィルターなどが用いられる。ドラムフィルターは、回転ドラム下部から粒子を吸い上げる構造のため、粒子比重が大きくて沈降性が高いもの、または濾過性が悪いものには一般的に不向きである。ここで沈降性が高い固形分とは、固形分粒子の粒子径にもよるが、液相の比重と固形分の真比重との差が概ね0.2g/cm3以上のものをいう。
【0039】
沈降性の高い固形分の処理には、濾過面が水平になっている濾過器が適している。単段の水平盤型濾過器では濾過面積が小さいため、複数の濾過盤を備えた水平リーフ型フィルターなどが利用されることがある。但し、固形分が分散したビニル系重合体を循環供給せずに一方向のみの緩やかな供給方式をとれば、固形分が分散したビニル系重合体中の粒子の沈降性が影響し、濾過抵抗が上昇して濾過速度が低下することによるタイムサイクルの増加で、生産性が低下する。
【0040】
本発明では、図1に示す様に固形分が分散したビニル系重合体を外部循環機能を有した濾過機にて固形分の沈降速度より大きい濾過機内における流速となる様にポンプにて外部循環しつつ濾過を行い、ビニル系重合体中に含まれる固形分を除去する。本方式によって濾過操作を実施すれば、濾過抵抗を低減して濾過速度を向上させることでタイムサイクルを短縮し、生産性を大幅に向上させることが可能となる。
【0041】
濾過機内における流速は、固形分の沈降速度より大きければ問題ないが、2mm/秒以上となる様にするのがポンプ能力と濾過機の生産性を考慮するとより好ましい。
【0042】
濾過機としては、外部循環が可能な濾過機であれば特に限定しないが、水平リーフ型フィルター及びチューブキャンドル型フィルターのいずれかを用いるのが外部循環を容易に行える点でより好ましい。
濾過機の濾材としては、金網及び濾布、焼結板等は適用できるが、濾過砂のような不定形の濾材は適さない。しかしながら、焼結板は濾材抵抗が大きい為、金網及び濾布がより好ましい。
【0043】
高粘性のビニル系重合体を濾過するにあたっては、濾過を容易にするために、濾過前に希釈溶媒として有機溶媒を添加することができる。希釈溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸ブチル、酢酸エチルなどの酢酸エステル、などがあげられるがトルエン、酢酸ブチルがビニル系重合体の溶解度が高いことや作業環境面から蒸気圧が低い点で好ましい。これらの溶媒は、重合体が溶解する範囲内において、単独または2種以上混合して用いられる。
【0044】
希釈溶媒の使用量は、通常、ビニル系重合体100重量部に対して10〜1000重量部であり、50〜500重量部であることが好ましい。10重量部未満では液粘性低下の効果が低く、逆に1000重量部を超えると処理液量の増大に伴い濾過設備が大型化すること、また溶媒回収コストを考えると実際の製造プロセスとしては現実性が低くなるため好ましくない。
【0045】
希釈溶媒を用いる場合には、耐溶媒性の観点から、合成樹脂製の濾布を用いる場合は濾材の選定が必要である。希釈溶媒は製品ポリマーを溶解するために用いられるため、一般に合成樹脂に対する溶解性は高い。よって、耐溶媒性に優れた高価な材質の濾布が必要となることが多い。濾布を濾材とする濾過器として水平リーフ式フィルター及びチューブキャンドル型フィルターがあげられるが、このような濾過器は濾材が濾過器内に設置されているため、濾過中の濾材から液が漏れ出したり、蒸気が発生したりすることはない。
【0046】
合成樹脂製ではない金属製の金網を用いる濾過器であれば耐溶媒性を懸念する必要はない。金網を濾材とする濾過器として水平リーフ式フィルターがあげられるが、同様に濾材が濾過器内に設置されているため、濾過中の濾材から液が漏れ出したり、蒸気が発生したりすることはない。
【0047】
ビニル系重合体を溶媒に溶解させる装置としては特に制限はなく、例えば、バッチ式では汎用の撹拌槽を用いることができ、連続的に溶解する場合にはラインミキサーなどを用いることもできる。
【0048】
また、液粘性を低下させる手段として処理温度を適宜調整することも可能である。濾過温度としては重合体が溶解する範囲内で適宜選択可能であるが、0〜200℃が好ましい。なお、溶媒添加系で濾過を行なう場合、必要以上に高温で処理を行なうと濾過設備として大掛かりな耐圧が必要となるため現実的ではない。
【0049】
また、合成樹脂製の濾布を濾材として用いる場合、一般的なポリプロピレン製の濾布の耐熱性は比較的低く100℃が限界であるなど、濾布の耐熱性から高温処理は困難である。よって、重合が高温下で行なわれる場合は重合後に濾過できる温度まで冷却することが必要となる。金属製の金網を用いる場合では濾材の耐熱性を懸念する必要はなく、高温での処理に適しているが、シール材などの耐熱性の観点から処理温度を設定する必要がある。
【0050】
その他、濾過圧力の調整も有効であり、一般的に0.01〜1MPaGの範囲であることが好ましい。圧力が低すぎると濾過速度が小さくなるために処理能力が低くなり、圧力が高すぎると濾過器の耐圧性を高める必要があり好ましくない。また定圧濾過では、濾過の初期にはケーキ厚さが薄く濾過抵抗が小さいために単位面積あたりの濾過速度が大きいが、ケーキ厚さが厚くなるにつれて経時的に濾過処理速度が低下する。そこで、初期の濾過圧力を低く設定し、経時的に濾過圧力を連続的または段階的に上昇させるなどの定速濾過方法を採ることもできる。
【0051】
本発明では、濾過性を高めるために珪藻土に代表される濾過助剤を加圧濾過前に添加することができる。ここでの濾過性とは、回収される濾液の清澄性、および単位時間あたりに回収される濾液量、すなわち濾過速度を指す。微小な固形分を対象とした濾過の場合、汎用の濾紙あるいは樹脂繊維から構成される濾布を用いた場合、目詰まりによる処理能力の低下が発生しやすいことは良く知られた事実である。逆に目詰まり防止のため濾布孔径を大きくとると、粒子の捕捉性が低下し、濾過本来の性能を得られなくなる。濾過助剤はその粒子径、添加量を濾過対象により選択することで、上記の濾過速度の維持と粒子の捕捉性を改善させることが可能であるが、目詰まりを完全になくすことは困難である。
【0052】
濾過助剤としては、珪藻土やパーライトなどが好適に用いられる。粒子の捕捉性と濾過速度の両立の観点から、濾過助剤としては平均粒子径10〜100μmのものが好ましく、20〜50μmのものがより好ましい。平均粒径が10μm未満では、濾過ケーキの抵抗が大きいため濾過速度が低下し、100μmを超えると濾過助剤の間隙に粒径の小さい固形分が抵抗の大きいケーキ層を生成するため、濾過性を高める効果が得られなくなる傾向がある。
【0053】
濾過助剤の添加量は濾過対象の固形物の量、液粘性などに応じて適宜選択が可能である。本発明では、通常、重合体100重量部に対し、1〜10重量部使用することが好ましい。10重量部を超えた範囲で濾過助剤を添加した場合、液の清澄度は変わらなくとも濾過速度が低下することもある。また、除去対象の固形分100重量部に対しては20〜300重量部の濾過助剤を使用することが好ましく、50〜200重量部使用することがより好ましい。20重量部未満では濾過性を高める効果が小さくなり、300重量部を超えるとケーキ厚さが増すために逆に濾過性が低下する傾向にある。
【0054】
このように濾過助剤を利用した場合であっても、微小な粒子によって徐々に濾材の目詰まりは進行する。目詰まりが発生すると濾過速度が低下するため、濾過速度が初期の半分になるなど一定の基準を設け、あるいは一定期間使用の後、濾材の交換などを行なうのが通常であるが、工業操作上の時間的ロスや手間、濾材交換時の安全性が問題となる。そこで、濾過前に水及び有機溶剤のいずれか一方あるいはその両方に分散した濾過助剤を濾過機に供給して濾過し、濾材表面に濾過助剤を予めプレコートすることで濾材の目詰まりを防止することができる。濾過助剤のプレコート層の厚さは特に限定しないが、薄過ぎると目詰まり防止の効果が薄れ、厚過ぎるとプレコート層自体の濾過抵抗が増して濾過速度が低下する為、0.1〜10mmの厚さにプレコートすることが好ましい。
【0055】
以上のように、本発明のビニル系重合体の精製方法は、固形分が分散したビニル系重合体の高粘性液体を高温下または溶媒を添加することにより粘性を低下させ、固形分が分散したビニル系重合体を固形分の沈降速度より大きい濾過機内における流速となる様に外部循環しつつ濾過を行うことで、濾過抵抗の上昇を防いで安定的に濾過を行い、なおかつ濾材の目詰まりに対してもプレコートを施すことで防止することができる。それにより、固形分が分散したビニル系重合体の固形分、特に原子移動ラジカル重合により製造されたビニル系重合体に含まれる遷移金属錯体および吸着剤成分を、安全かつ効率的に極めて低い含有量まで短時間で濾過・除去し精製することが可能となる。また、このようにして得られた濾過後の清澄液は、添加した溶媒を蒸発するだけで精製されたビニル系重合体を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下に具体的な実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
濾過抵抗を数値的に評価する方法を示す。濾過速度uと濾過圧力Pの関係は、下式のように粘度μと濾過抵抗Rの積の逆数と比例関係にある。さらに濾過抵抗Rはケーク抵抗Rcと濾材抵抗Rmに分けられる。
【0057】
【数1】

(ここでuは濾過速度〔m3/m2・s〕、vは単位面積当たりの濾液量〔m3/m2〕、tは濾過時間〔s〕、Pは圧力〔Pa〕、μは粘度〔Pa・s〕、Rは濾過抵抗〔m-1〕、Rcはケーク抵抗〔m-1〕、Rm:は濾材抵抗〔m-1〕)
これより導き出した下式のRuthの定圧濾過式において、
【0058】
【数2】

(ここでtは濾過時間〔s〕、vは単位面積当たりの濾液量〔m3/m2〕、Pは圧力〔Pa〕、μは粘度〔Pa・s〕、tmは濾液量vmを得るのに要する濾過時間〔s〕、ρは濾液密度〔kg/m3〕、αはケーキ比抵抗〔m/kg〕、sはスラリー中の固形分分率〔−〕))
図2のように横軸に濾液量v、縦軸にt/v(tは濾過時間)をとると、ケーク比抵抗αは傾き1/Kより求めることができる。このケーク比抵抗αが小さいと濾過抵抗Rが小さくなり、濾過速度uが向上して濾過時間tを短縮できると判断できる。すなわち、実験的にケーク比抵抗αを測定する場合、濾過圧力Pと単位濾過面積あたりの濾液量vを記録し、図2のようにプロットすればよい。本発明では、このケーク比抵抗値αの大小によって、濾過抵抗Rを数値化している。詳しくは「化学工学便覧 改訂六版」803〜806ページに記述されている。
(評価の実験方法)
ヌッチェ式加圧濾過器及びに水平リーフ型フィルター、チューブキャンドル型フィルターを用いてスラリーを一定圧力で濾過し、経時の濾液量を測定し、図2のグラフをプロットすることでケーク比抵抗αを測定した。
【0059】
(製造例1)
以降ポリマー100kgあたりの必要量について記述する。攪拌機、ジャケット付きの反応機にCuBr(0.84kg)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(8.79kg)を加え、ジャケットに温水を通水し80℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸ブチル(100kg)、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル(3.51kg)を加え、さらに80℃で25分間撹拌した。これにトリアミンを加え、反応を開始した。反応途中トリアミンを適宜添加し、反応開始から6時間後1,7−オクタジエン(21.5kg)、トリアミンを添加して6時間撹拌を続け、重合体溶液を得た。
この重合体溶液を80℃、真空条件下で溶剤を除去した。溶剤を除去した重合体100kgに酢酸ブチル125kgを添加した後、この溶液を濾過により固体の銅触媒を除去した。銅触媒の除去後の溶液に、吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)0.49kg、キョーワード700SEN(協和化学製)0.49kgを加え、100℃の温度条件下1時間加熱を行った。このスラリーを濾過により吸着剤を除去した。この重合体溶液を100℃、真空条件下で溶剤を除去した。
この重合体に吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)1.0kg、キョーワード700SEN(協和化学製)0.1kgを加え、190℃、真空条件下で撹拌を行った。次に酢酸ブチル10kgと吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)1.0kg、キョーワード700SEN(協和化学製)1.0kgを加え、180℃で9時間、撹拌を行った。酢酸ブチル90kgを加え、重合体スラリー[1]を得た。
【0060】
(製造例2)
以降ポリマー100kgあたりの必要量について記述する。攪拌機、ジャケット付きの反応機にCuBr(0.93kg)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(9.54kg)を加え、ジャケットに温水を通水し80℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸ブチル(27.66kg)、アクリル酸エチル(39.76kg)、アクリル酸メトキシエチル(32.58kg)、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル(1.94kg)を加え、さらに80℃で25分間撹拌した。これにトリアミンを加え、反応を開始した。反応途中トリアミンを適宜添加し、反応開始から6時間後1,7−オクタジエン(23.78kg)、トリアミンを添加して2時間撹拌を続け、重合体溶液を得た。
この重合体溶液を80℃、真空条件下で溶剤を除去した。溶剤を除去した重合体100kgに酢酸ブチル125kgを添加した後、この溶液を濾過により固体の銅触媒を除去した。銅触媒の除去後の溶液に、吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)1.0kg、キョーワード700SEN(協和化学製)1.0kgを加え、100℃の温度条件下1時間加熱を行った。このスラリーを濾過により吸着剤を除去した。この重合体溶液を100℃、真空条件下で溶剤を除去した。
この重合体に吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)1.0kg、キョーワード700SEN(協和化学製)0.1kgを加え、180℃、真空条件下で撹拌を行った。次に酢酸ブチル10kgと吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)1.0kg、キョーワード700SEN(協和化学製)0.1kgを加え、180℃で6時間、撹拌を行った。酢酸ブチル90kgを加え、重合体スラリー[2]を得た。
【0061】
(製造例3)
以降ポリマー100kgあたりの必要量について記述する。攪拌機、ジャケット付きの反応機にCuBr(0.84kg)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(8.79kg)を加え、ジャケットに温水を通水し80℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸ブチル(100kg)、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル(1.76kg)を加え、さらに80℃で25分間撹拌した。これにトリアミンを加え、反応を開始した。反応途中トリアミンを適宜添加し、反応開始から6時間後1,7−オクタジエン(21.5kg)、トリアミンを添加して6時間撹拌を続け、重合体溶液を得た。
この重合体溶液を80℃、真空条件下で溶剤を除去した。溶剤を除去した重合体100kgに酢酸ブチル100kgを添加した後、この溶液を濾過により固体の銅触媒を除去した。銅触媒の除去後の溶液に、吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)0.5kg、キョーワード700SEN(協和化学製)0.5kgを加え、100℃の温度条件下1時間加熱を行った。このスラリーを濾過により吸着剤を除去した。この重合体溶液を100℃、真空条件下で溶剤を除去した。
この重合体に吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)0.5kg、キョーワード700SEN(協和化学製)0.1kgを加え、190℃、真空条件下で撹拌を行った。次に酢酸ブチル10kgと吸着剤としてキョーワード500SH(協和化学製)1.0kg、キョーワード700SEN(協和化学製)0.1kgを加え、180℃で6時間、撹拌を行った。酢酸ブチル90kgを加え、重合体スラリー[3]を得た。
【0062】
(製造例4)
溶媒を酢酸ブチルの代わりにトルエンを用いた以外は、製造例1と同様にして重合体スラリー[4]を得た。
【0063】
(実施例1)
ヌッチェ式加圧濾過器(濾過面積28.26cm2、ポリエステル製濾布使用)で重合体スラリー[1]を循環ポンプにて濾過機内の流速を3.3mm/秒となる様に循環供給しつつ0.1MPaで濾過を行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
ヌッチェ式加圧濾過器を用いて循環せずに重合体スラリー[1]を0.1MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表1に示す。
【0065】
(比較例2)
水平リーフ型フィルター(東和技研製3段リーフフィルター濾過面積1m2、350メッシュ金網濾材使用)を用いて循環せずに重合体スラリー[1]を0.4MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

循環を行った実施例1は循環を行わなかった比較例1、2に比べケーク比抵抗αが小さく、濾過速度が向上した。
【0067】
(実施例2)
水平リーフ型フィルター(クロセ製6段リーフフィルター濾過面積0.665m2、ポリエステル製濾布使用)で重合体スラリー[2]を循環ポンプにて濾過機内の流速を2.5mm/秒となる様に循環供給しつつ0.1MPaで濾過を行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表2に示す。
【0068】
(比較例3)
ヌッチェ式加圧濾過器を用いて循環せずに重合体スラリー[2]を0.1MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表2に示す。
【0069】
(比較例4)
実施例2と同じ水平リーフ型フィルターを用いて循環せずに重合体スラリー[2]を0.4MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

循環を行った実施例2は循環を行わなかった比較例3、4に比べケーク比抵抗αが小さく、濾過速度が向上した。
【0071】
(実施例3)
水平リーフ型フィルター(IHI製4段リーフフィルター濾過面積0.06m2、360メッシュ金網濾材使用)で重合体スラリー[3]を循環ポンプにて濾過機内の流速を2.5mm/秒となる様に循環供給しつつ0.3MPaで濾過を行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表3に示す。
【0072】
(実施例4)
チューブキャンドル型フィルター(IHI製フンダバックフィルター濾過面積0.06m2、ポリフェニレンサルファイド製濾布使用)で重合体スラリー[3]を循環ポンプにて濾過機内の流速を4.7mm/秒となる様に循環供給しつつ0.2MPaで濾過を行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表3に示す。
【0073】
(比較例5)
ヌッチェ式加圧濾過器を用いて循環せずに重合体スラリー[3]を0.1MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表3に示す。
【0074】
(比較例6)
実施例3と同じ水平リーフ型フィルターを用いて循環せずに重合体スラリー[3]を0.4MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

循環を行った実施例3、4は循環を行わなかった比較例5、6に比べケーク比抵抗αが小さく、濾過速度が向上した。
【0076】
(実施例5)
実施例3と同じ水平リーフ型フィルターで重合体スラリー[4]を循環ポンプにて濾過機内の流速を2.5mm/秒となる様に循環供給しつつ0.3MPaで濾過を行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表4に示す。
【0077】
(比較例7)
ヌッチェ式加圧濾過器を用いて循環せずに重合体スラリー[4]を0.1MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表4に示す。
【0078】
(比較例8)
実施例3と同じ水平リーフ型フィルターを用いて循環せずに重合体スラリー[4]を0.4MPaで加圧濾過のみ行った。ケーク比抵抗αを測定した結果を表4に示す。
【0079】
【表4】

循環を行った実施例5は循環を行わなかった比較例7、8に比べケーク比抵抗αが小さく、濾過速度が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明方法の実施に使用される外部循環機能を有した濾過機の一例を示すフローシート。
【図2】ケーク比抵抗αの求め方。
【符号の説明】
【0081】
1 濾過機
2 循環ポンプ
3 被濾過原液クッションタンク
4 濾材(フィルター)
5 循環ライン
6 濾液出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分が分散したビニル系重合体を外部循環機能を有した濾過機にて、濾過機内における流速が固形分の沈降速度より大きくなる様に外部循環しつつ濾過を行い、固形分を除去する、ビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
ビニル系重合体が遷移金属錯体を重合触媒とする原子移動ラジカル重合により製造されることを特徴とする請求項1に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
固形分が重合触媒である遷移金属錯体を除去するために添加する吸着剤である請求項1〜2いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
吸着剤が合成アルミニウムシリケートまたはハイドロタルサイト類化合物のいずれか一方あるいはその両方であることを特徴とする請求項3に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項5】
濾過機内における流速を2mm/秒以上となる様にして外部循環しつつ濾過を行う請求項1〜4いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項6】
濾過前に、固形分が分散したビニル系重合体に有機溶媒を添加する請求項1〜5いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項7】
濾過前に、固形分が分散したビニル系重合体に濾過助剤を添加する請求項1〜6いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項8】
濾過前に、水及び有機溶剤のいずれか一方あるいはその両方に分散した濾過助剤を濾過機に供給して濾過し、濾材表面に濾過助剤を予め0.1〜10mmの厚さにプレコートする請求項1〜7いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項9】
有機溶媒が酢酸ブチル及びトルエンのいずれか一方あるいはその両方である請求項6または8に記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項10】
濾過助剤として珪藻土を用いる請求項7または8記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項11】
濾過助剤を重合体100重量部に対し0.1〜10重量部添加する請求項7、8または10記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項12】
濾過助剤の平均粒子径が10〜100μmである請求項7、8、10または11記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項13】
ビニル系重合体が(メタ)アクリル系重合体であることを特徴とする請求項1〜12いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項14】
濾過機として水平リーフ型フィルター及びチューブキャンドル型フィルターのいずれかを用いる請求項1〜13いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。
【請求項15】
濾過機の濾材として金網及び濾布のいずれかを用いる請求項1〜14いずれかに記載のビニル系重合体の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−37487(P2010−37487A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204485(P2008−204485)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】