説明

ビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法

【課題】ビートパルプを原料として使用し、強度が高く、分解速度が遅いフィルム(マルチシート)の製造方法を提供する。また、フィルム成形時に欠点となる蛋白質分子量を低下し、さらにビートパルプに熱可塑性を付与し、良質なフィルム成形を可能とする製造方法と、その方法によって製造されたフィルムを提供することにより、ビートパルプの有効活用を効率的に図り、省資源および環境保全に資する。
【解決手段】ビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法であって、ビートパルプを蛋白質分解酵素により加水分解し、濾過後、ビートパルプ固形分の多く含まれる濾過スラリー状物に、可塑剤を加え、エタノール超臨界または亜臨界条件下でセルロースを加水分解し、脱水を行い、熱可塑性ビートパルプ組成物を製造し、前記熱可塑性ビートパルプ組成物に、生分解性樹脂を配合して押し出し成形することによりフィルムを製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は甜菜(砂糖大根)から砂糖などを製造する際に発生するビートパルプを原料として製造される熱可塑性組成物(熱可塑性ビートパルプ組成物)を配合したフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
甜菜(砂糖大根)は、その根を搾り、その搾り汁から砂糖等を製造するが、その際に発生する搾りかすがビートパルプである。ビートパルプはその一部が家畜の飼料などに使用されているが、バイオマス資源として注目されているものの、十分な有効利用がなされていないのが現状である。
【0003】
他方、農業用マルチシートは不可化価値の高い農産物の生産には必要不可欠の資材となっているが、現在使用されているポリエチレン系マルチシートは生分解性がなく、土壌中に埋設して放置すると環境汚染物になる。また、最近使用されるようになってきた生分解性プラスチックマルチシートは60℃以上の温度や微生物リッチの状態で初めて生分解性が発揮される資材であり、また、埋設時の縦裂きや5カ月以上の原形保持を要する超長期分解タイプの作物には適応が難しく、田畑においてこの条件を満足させることは容易ではない。ところが、ビートパルプに含まれる繊維質はフィルムの強度を高め、結果として保温効果や雑草防除の効果を収穫前まで保持できる耐久性を発揮し、収量増に貢献するという特性を有する。
【0004】
また、タンパク質、多糖類または脂肪酸のエステルを含有する原料(たとえば、天然食品素材、その残渣、動物の糞尿、植物性素材)を加水分解操作に付して低分子量化させたのち、脱水縮合操作に付して熱可塑性有機組成物を得る製造方法が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載された発明は、天然食品素材、その残渣、動物の糞尿または植物性素材、具体的には、魚介類、海草、肉、豆、野菜、果実もしくはきのこ、それらの加工食品、油脂、調味料、香辛料、大鋸屑、木屑、稲藁、麦藁、籾殻、樹木の葉、草、米ぬか、ビート屑、ビール糟、梅酒糟、焼酎糟、芋糟または紙)および水を押出し機に投入し、100〜350℃で押出す熱可塑性有機組成物の製造方法であり、炭酸ガスおよび水の存在下、炭酸ガスが超臨界状態または亜臨界状態となる条件下で押出す前記の製造方法であり、また原料を、水の存在下で破砕し、100〜350℃で加水分解に付したのち、脱水縮合操作に付してなる熱可塑性有機組成物の製造方法である。しかし、一般的な酵素は生体内でのみ作用し、このような高温では瞬時に失活するため、この提案の製造方法では蛋白質分解酵素を使用することができない。
【0005】
さらに、特許文献2及び3には、物質を、連続して炭酸ガスと共に超臨界又は亜臨界状態の流体として、抽出、混合及び/又は変性加工する方法を用いて、澱粉などからなる熱可塑性組成物を製造し、これをフィルムに成形することが示され、特許文献3には、澱粉からなる熱可塑性組成物を熱可塑性樹脂とブレンドすることも示されているが、ビートパルプ等の蛋白質を多く含む物質にこの方法を適用し、蛋白質を多く含む物質を原料としてフィルムを製造することは示唆されていない。
【0006】
本発明者は、上記の特許文献1〜3に記載されているような技術を踏まえて、蛋白質を多く含む焼酎滓を原料として熱可塑性組成物を製造し、さらにその熱可塑性組成物に生分解性樹脂を配合してフィルムを製造する技術を開発し、特許を出願した(特許文献4参照)。
特許文献4に記載された発明は、「焼酎滓を蛋白質分解酵素により加水分解し、濾過後、焼酎滓固形分の多く含まれる濾過スラリー状物に、可塑剤を加え、エタノール超臨界または亜臨界条件下でセルロースを加水分解し、脱水を行うことを特徴とする、焼酎滓を原料とした熱可塑性組成物の製造方法。」(請求項1)であり、また、請求項1に記載の製造方法により製造した焼酎滓を原料とした熱可塑性組成物に対し、生分解性樹脂を配合して押し出し成形することを特徴とするフィルムの製造方法であり、一定の強度を有するフィルムが得られるが、焼酎滓を原料とした場合には、得られるフィルムの強度が十分に高くないという問題があった。さらに、収穫前まで長期にわたり保温効果を要する作物(甘藷、里芋など)にフィルム(農業用マルチシート)を使用する場合は、マルチシートの劣化速度つまり分解速度が遅いことが要求されるが、焼酎滓を原料とした熱可塑性組成物を配合したマルチシートでは、分解速度が速すぎ、上記のような作物には適さないという問題があった。
【0007】
また、「[請求項1]30重量%から90重量%の植物繊維、および10重量%から60重量%の接着材料を含む分解性材料であって、前記接着材料は、変性尿素・ホルムアルデヒド樹脂および少なくとも1種の水溶性高分子材料を含むことを特徴とする分解性材料。」、「[請求項5]前記植物繊維が、バガス、ビートパルプ、ジャガイモの皮、ならびに米、小麦、トウモロコシ、シナモロコシ、ピーナッツ、およびココナッツの殻および茎の少なくとも1種に由来することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の分解性材料。」、「[請求項20]請求項1ないし18のいずれか1項記載の分解性材料で作られた包装材料。」の発明が公知である(特許文献5参照)が、特許文献5には、ビートパルプを原料とすることについては具体的な記載がなく、包装材料として強度の高いフィルムを製造することについても具体的に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−075470号公報
【特許文献2】WO2005/030845 A1
【特許文献3】特許第3539955号公報
【特許文献4】特開2008−259463号公報
【特許文献5】特開2002−114911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような先行技術の問題を解決しようとするものであり、ビートパルプを原料として使用し、強度が高く、分解速度が遅いフィルム(マルチシート)の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明の課題は、ビートパルプに所定の処理を施して、フィルム成形時に欠点となる蛋白質分子量を低下し、さらにビートパルプに熱可塑性を付与し、良質なフィルム成形を可能とする製造方法と、その方法によって製造されたフィルムを提供することにより、バイオマス資源としてのビートパルプの有効活用を効率的に図り、省資源および環境保全に資することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)ビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法であって、ビートパルプを蛋白質分解酵素により加水分解し、濾過後、ビートパルプ固形分の多く含まれる濾過スラリー状物に、可塑剤を加え、エタノール超臨界または亜臨界条件下でセルロースを加水分解し、脱水を行い、熱可塑性ビートパルプ組成物を製造し、前記熱可塑性ビートパルプ組成物に、生分解性樹脂を配合して押し出し成形することによりフィルムを製造することを特徴とする、ビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
(2)前記蛋白質分解酵素が、アルカリセリンプロテアーゼであることを特徴とする前記(1)のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
(3)前記可塑剤がグリセリンであることを特徴とする前記(1)又は(2)のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
(4)前記グリセリンを、前記濾過スラリー状物の固形分100質量部に対し、5から15質量部加えることを特徴とする前記(3)のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
(5)前記セルロースの加水分解を、弱酸性下で行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
(6)前記脱水後、押し出し成形して前記熱可塑性ビートパルプ組成物を製造することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
(7)前記熱可塑性ビートパルプ組成物100質量部に対し、前記生分解性樹脂を50から500質量部配合することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一項のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
なお、本発明において、「ビートパルプを原料とした熱可塑性組成物」又は「熱可塑性ビートパルプ組成物」とは、ビートパルプに含まれる蛋白質を蛋白質分解酵素等を用いて加水分解すると共に、同じく含まれるセルロースを高温、高圧で加水分解することにより、ビートパルプに熱可塑性を付与した組成物をいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により製造される熱可塑性ビートパルプ組成物を配合したフィルムは熱可塑性でない蛋白質粒子が小さいためフィルムの表面平滑性および透明性に優れ、機械的特性の低下も少なく、実用的な機械的強度を保持している。また、本発明の熱可塑性ビートパルプ組成物を配合したフィルムは生分解性であり、バイオマス資源としてのビートパルプの有効活用を効率的に図り、省資源および環境保全に資するものである。特に、本発明の方法により製造されるフィルム(マルチシート)は、強度が高く、劣化速度つまり分解速度が遅いので、超長期分解タイプのマルチシートが要求される作物(甘藷、里芋など)に抜群の適性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフィルムの製造に使用される熱可塑性ビートパルプ組成物は、ビートパルプをアルカリセリンプロテアーゼ等の蛋白質分解酵素により加水分解し、濾過後、濾過スラリー状物に、グリセリン等の可塑剤(好ましくは、スラリー状物固形分100質量部に対し、5から15質量部)を加え、好ましくは弱酸性下、エタノール超臨界または亜臨界条件下でセルロースを加水分解し、脱水後、好ましくは押し出し成形等により成形することにより製造される。
【0013】
本発明のフィルムの製造方法は、前記熱可塑性ビートパルプ組成物に、生分解性樹脂(好ましくは、前記熱可塑性ビートパルプ組成物100質量部に対し、50から500質量部)を配合して押し出し成形することに特徴を有する。
また、本発明の方法により製造されるフィルムの厚さは、15〜50μmとすることが好ましい。特に、上記した本発明のフィルムの製造方法を採用し、ビートパルプに熱可塑性を付与したことにより、ビートパルプを配合した場合でも、透明性が高く、引っ張り強度の高い18〜25μmといった薄いフィルムが得られるようになった。
【0014】
本発明に使用するビートパルプは甜菜(砂糖大根)の根の搾りかすであるが、成分分析の1例を示すと蛋白質約9%、セルロース約80%、水分を約5%含有し、残りは脂質、糖質、灰分からなる。蛋白質がそのまま残るとフィルムを製造した際に粒状に残り、フィルムの表面平滑性および透明性が低下し、著しくはフィルムの機械的特性まで低下し、フィルムの実用性が低下するので、本発明においては、蛋白質分解酵素を使用して、蛋白質を加水分解する。
【0015】
蛋白質分解酵素は酸性で作用するペクシンなどの酵素とアルカリ性で作用するセリンプロテアーゼなどがある。本発明では経済的な理由とエンド型に蛋白質を切断し、蛋白質の分子量を速やかに低下するため、洗剤などに多量が使用されているセリンプロテアーゼを使用することが好ましい。このセリンプロテアーゼは例えばエイチビアイ(株)オリエンターゼBB2F(商標名)などが市販されている。このセリンプロテアーゼの最大活性pHは8であり、水酸化ナトリウムで調整し、アルカリセリンプロテアーゼとすることがより好ましい。
【0016】
セリンプロテアーゼを使用した場合の配合量は、限定されるものではないが、原料ビートパルプ100質量部に対して0.01から0.7質量部とすることができる。反応時間短縮には好ましくは0.05から0.3質量部である。第1工程の加水分解装置はジャケットおよび攪拌機付きタンクを使用し、加水分解反応時間は10から30分、反応温度は20から45℃である。反応時間短縮には好ましくは35から45℃である。酵素活性を阻害しないようビートパルプは濃縮せず、加水分解が適度に進行した時点で、真空濾過などにより、固液分離し、ビートパルプ固形分の多いスラリー状物を得る。濾過後のビートパルプ固形分の多く含まれるスラリー状物(以下「ビートパルプスラリー状物」と略記する。)は水分を85から125質量%含んでいる。
【0017】
次に第2工程で熱可塑性でないセルロースを高温、高圧で加水分解するが、効率の良い超臨界または亜臨界条件での反応を行う。前記ビートパルプスラリー状物には単蒸留で残ったエタノールを0.1W%以上含有している。エタノールの超臨界温度は340.9℃、圧力は6.14MPaである。亜臨界は温度または圧力のどちらかが超臨界条件に達していない場合である。経済的な理由から、比較的低温、高圧条件の亜臨界が好ましく、160℃以上、6.14MPa以上の亜臨界状態が好ましい。より好ましくは180℃以上である。セルロースを加水分解するためには酸性である方が好ましく、蟻酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸などにより、ビートパルプスラリー状物をpHを5から6の弱酸性に調整しておくことがより好ましい。
【0018】
また、セルロースを加水分解する際には、ビートパルプスラリー状物に可塑剤を加える。可塑剤としては、グリコール、グリセリン等が挙げられるが、本発明においては、グリセリンを使用することが好ましい。グリセリンは、ビートパルプスラリー状物の固形分100質量部に対し、5から15質量部加えることが好ましい。
【0019】
反応装置は高温、高圧の超臨界または亜臨界条件が容易に得られる1軸押し出し機が好ましい。原料が水分を多く含んだビートパルプ固形分にグリセリンを添加した場合には、2軸押し出し機を前記1軸押し出し機の前工程に連結したタンデム型の構成がより好ましい。加水分解後、脱水し、好ましくは押し出し成形(ホットカッターでペレタイズ等)し、熱可塑性ビートパルプ組成物を製造する。
【0020】
さらに第3工程で生分解性樹脂と前記熱可塑性ビートパルプ組成物を配合して通常のフィルム製造機を使用し、押し出し成形により、本発明の熱可塑性ビートパルプ組成物を配合したフィルムを製造する。フィルム製造に使用する機械はインフレーションフィルム製造機またはTダイフィルム製造機で良い。熱可塑性ビートパルプ組成物のみではフィルムの実用的な機械特性が得られない。
【0021】
生分解性樹脂はポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどの脂肪族ポリエステル、ポリブチレンアジペートテレフタレートなどの芳香族変性脂肪族ポリエステルがある。中ではポリブチレンアジペートテレフタレート例えばイレ・ケミカル製エンポール(商標名)がフィルムの良好な機械特性を得られやすい。これらの生分解性樹脂は単独であっても配合されて使用されても良い。熱可塑性ビートパルプ組成物の固形分100質量部に対し、50から500質量部使用されると好ましい機械特性のフィルムが得られる。
【0022】
フィルムの製造温度は生分解性樹脂の種類により異なるが、150から200℃の吐出温度で行われる。生分解性樹脂と熱可塑性ビートパルプ組成物ペレットは2台の供給装置からホッパーに定量的に供給しドライブレンドすれば良い。その際、平滑剤耐光剤、耐熱材、顔料、抗菌剤、防汚剤、防カビ剤、静電防止剤などの添加剤を適宜添加しても良い。
【0023】
以下、具体的には実施例にて説明する。
フィルムの透明性はJISK7161−1および、機械特性(引っ張り強度)はJISK7161に準じて測定した。ビートパルプスラリー状物の固形分は蒸発残渣質量から算出した。
【実施例】
【0024】
第1工程として、固形分が4.7質量%のビートパルプ100質量部をジャケットおよび攪拌機付きタンクに注入し、40℃に調整後、水酸化ナトリウムによりpH8に調整し、エイチビアイ(株)オリエンターゼBB2Fを0.1質量部投入し、攪拌しながら蛋白質の加水分解を10分間行い、真空濾過により固液分離し、乾燥固形分質量48W%のビートパルプスラリー状物と乾燥固形分質量0.3W%のビートパルプ濾液を製造した。
【0025】
第二工程として、前記ビートパルプスラリー状物にシュウ酸を加えpHを5に調整し、グリセリン10質量部とビートパルプスラリー状物100質量部を2軸押し出し機に定量的に供給し、140℃で混練後、真空ベント孔から脱水し、タンデム型に結合された1軸押し出し機に供給し、エタノールの亜臨界条件180℃、8MPaで1分間セルロースを加水分解し、真空ベント孔から脱水し、計量押し出しホットカッターでペレット状に成形し、本発明の乾燥固形分質量90W%の熱可塑性ビートパルプ組成物(a)を製造した。
【0026】
次に第3工程として、得られた熱可塑性ビートパルプ組成物(a)100質量部にイレ・ケミカル製 生分解性樹脂エンポール(商標名)ペレット100質量部を配合し、定法によりインフレーションフィルム製造機により膜厚50μmのフィルムを製造した。
【0027】
(比較例1)
実施例1と同様にして、第1工程を省き、第2工程のみで比較ビートパルプ組成物(b)を製造し、熱可塑性ビートパルプ組成物(a)の代わりに比較ビートパルプ組成物(b)を使用して、第3工程を同様に行い、膜厚50μmのフィルムを製造した。
【0028】
(比較例2)
実施例1と同様にして、第2工程の加水分解温度と圧力をエタノールの亜臨界条件以下の180℃、4MPaにのみ変更し、比較ビートパルプ組成物(c)を製造し、熱可塑性ビートパルプ組成物(a)の代わりに比較ビートパルプ組成物(c)を使用して、第3工程を同様に行い、膜厚50μmのフィルムを製造した。
【0029】
(比較例3)
第1工程として固形分が4.7質量%の芋焼酎滓100質量部をジャケットおよび攪拌機付きタンクに注入し、40℃に調整後、水酸化ナトリウムによりpH8に調整し、エイチビアイ(株)オリエンターゼBB2Fを0.1質量部投入し、攪拌しながら蛋白質の加水分解を10分間行い、真空濾過により固液分離し、乾燥固形分48質量%の焼酎滓スラリー状物と乾燥固形分0.3質量%の焼酎滓濾液を製造した。
第二工程として前記焼酎滓スラリー状物にシュウ酸を加えpHを5に調整し、グリセリン8質量部と焼酎滓スラリー状物100質量部を2軸押し出し機に定量的に供給し、140℃で混練後、真空ベント孔から脱水し、タンデム型に結合された1軸押し出し機に供給し、エタノールの亜臨界条件200℃、8MPaで1分間セルロースを加水分解し、真空ベント孔から脱水し、計量押し出しホットカッターでペレット状に成形し、乾燥固形分92質量%の熱可塑性焼酎滓組成物を製造した。
次に、熱可塑性ビートパルプ組成物(a)の代わりに、上記のようにして得られた熱可塑性焼酎滓組成物を使用して、実施例1の第3工程を同様に行い、膜厚50μmのフィルムを製造した。
【0030】
透明性および引っ張り強度の試験結果を以下に示す。
フィルムの透明性は、本発明の熱可塑性ビートパルプ組成物(a)を配合したフィルムの透過率が73%と優れていたが、比較ビートパルプ組成物(b)および比較ビートパルプ組成物(c)を配合したフィルムの透明性(透過率)は18%、21%と低く、フィルムの表面がザラツキ品位が悪かった。また、フィルムの機械特性は、本発明の熱可塑性ビートパルプ組成物(a)を配合したフィルムの引っ張り強度が60N/50mmと優れていたが、比較ビートパルプ組成物(b)および比較ビートパルプ組成物(c)を配合したフィルムの引っ張り強度は15N/50mm、20N/50mmと本発明品と比較し低下していた。
したがって、同じビートパルプを原料とした組成物を配合したフィルムであっても、本発明の方法によって製造した熱可塑性ビートパルプ組成物を配合したフィルムは、他の方法によって製造したビートパルプ組成物を配合したフィルムよりも、格段に透過率が優れ、極めて高い引っ張り強度を有するといえる。
また、熱可塑性焼酎滓組成物を配合したフィルムの透過率は73%であり熱可塑性ビートパルプ組成物(a)と同程度であったが、引っ張り強度は52N/50mmであり熱可塑性ビートパルプ組成物(a)を配合したフィルムと比較して低かった。
したがって、同様の方法によって製造した熱可塑性組成物を配合したフィルムであっても、熱可塑性ビートパルプ組成物を配合したフィルムは、熱可塑性焼酎滓組成物を配合したフィルムと比較して、引っ張り強度が顕著に優れているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物と生分解性樹脂とを配合して成形したフィルムは、生分解性であるから、農業用生分解性マルチシート等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法であって、ビートパルプを蛋白質分解酵素により加水分解し、濾過後、ビートパルプ固形分の多く含まれる濾過スラリー状物に、可塑剤を加え、エタノール超臨界または亜臨界条件下でセルロースを加水分解し、脱水を行い、熱可塑性ビートパルプ組成物を製造し、前記熱可塑性ビートパルプ組成物に、生分解性樹脂を配合して押し出し成形することによりフィルムを製造することを特徴とする、ビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記蛋白質分解酵素が、アルカリセリンプロテアーゼであることを特徴とする請求項1に記載のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記可塑剤がグリセリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記グリセリンを、前記濾過スラリー状物の固形分100質量部に対し、5から15質量部加えることを特徴とする請求項3に記載のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースの加水分解を、弱酸性下で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記脱水後、押し出し成形して前記熱可塑性ビートパルプ組成物を製造することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性ビートパルプ組成物100質量部に対し、前記生分解性樹脂を50から500質量部配合することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のビートパルプを原料とした熱可塑性組成物を配合したフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−104826(P2011−104826A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260740(P2009−260740)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(510316084)
【Fターム(参考)】