説明

ピックアップ方法及びピックアップ装置

【課題】チップをピックアップする際に加えられる応力負荷を低減でき、チップの破壊を防止できるピックアップ方法及びピックアップ装置を提供する。
【解決手段】粘着シートに貼り付けられているチップに第1の吸着部を近づけて接触させるとともに、粘着シートに接触する接触面に凹部が形成されている第2の吸着部を粘着シートに近づけ、第1の吸着部と対向するように粘着シートに第2の吸着部を接触させる第1のステップS11〜S13と、粘着シートに接触している第2の吸着部により粘着シートを吸引するとともに、粘着シートとチップとの間に注入部により流体を注入することによって、チップの凹部に対向する部分から粘着シートを剥離する第2のステップS14〜S17と、第1の吸着部によりチップを吸着している状態で、粘着シートから第1の吸着部を遠ざけることによって、チップをピックアップする第3のステップS18とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップのピックアップ方法及びチップのピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化が進んでいる。高集積化した複数の半導体デバイスを水平面内で配置し、これらの半導体デバイスを配線で接続して製品化する場合、配線長が増大し、それにより配線の抵抗が大きくなること、また配線遅延が大きくなることが懸念される。
【0003】
そこで、半導体デバイスを三次元に積層する三次元集積技術を用いることが提案されている。この三次元集積技術においては、予め集積回路を作りこんだ基板をチップに分割し、分割前に行った良品判別試験によって良品であると確認されたチップを選別して、別の基板上に積層し、三次元積層体(スタックド・チップ)として実装する方法が提案されている。
【0004】
通常、このようなスタックド・チップは以下のようにして製造される。まず半導体デバイスを形成した基板に、ダイシングテープ又はバックグラインドテープ等の粘着シートを、半導体デバイスが形成されているデバイス形成面側から貼り付ける。そして、デバイス形成面に粘着シートが貼り付けられた基板を、デバイス形成面と反対面、すなわち基板の裏面から、所定の厚さになるまで研削して薄化する。その後、薄化した基板を粘着シートに貼り付けたままダイシング加工して、個々のチップに分割し、個々のチップに分割されたチップを粘着シートから取り出し、取り出したチップを積層する(例えば特許文献1参照)。
【0005】
上記した製造工程のうち、個々のチップを粘着シートから取り出す工程では、ピックアップ装置により、個々のチップが貼り付けられている粘着シートから個々にチップが剥離され、取り出される。このピックアップ装置としては、粘着シートの裏面から針を突き上げてチップを取り出すニードルピックアップ装置(例えば特許文献2参照)が開示されている。あるいは、チップを真空吸着可能なノズルをチップの表面に近づけ、粘着シートから取り出すニードルレスピックアップ装置(例えば特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−056531号公報
【特許文献2】特開昭60−102754号公報
【特許文献3】特開2004−039722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようなチップをピックアップするピックアップ装置及びピックアップ方法には、以下のような問題がある。
【0008】
薄化したチップをピックアップする場合、粘着シートからチップを短時間で剥離させると、チップに材料強度を超える応力が加えられ、チップが破壊されるという問題がある。このような問題を回避するためには、粘着シートからチップを剥離させる時間をより長くし、剥離の際にチップに加えられる応力を低減すればよいとも考えられる。
【0009】
しかし、粘着シートからチップを剥離させる時間を長くした場合、チップの面内では、粘着シートから剥離している部分と、粘着シートから剥離していない部分とが、同時に存在する。そして、粘着シートから剥離している部分と、粘着シートから剥離していない部分との分布に起因して、チップに加えられる応力には、チップ面内における分布が発生する。チップに加えられる応力が最も強い部分において、その応力が、チップの平面寸法、厚さ寸法よりなるチップ形状、及び、例えばシリコン等よりなるチップの材料の材料強度によって決定される、破壊強度を超える場合、チップは破壊される。
【0010】
例えば、粘着シートから剥離している部分と、粘着シートから剥離していない部分との境界面には、せん断応力が作用し、そのせん断応力は、チップの平面寸法、厚さ寸法よりなるチップ形状に依存する。そして、せん断応力が、チップのせん断破壊強度(せん断強度)を超える場合、チップは破壊される。
【0011】
このように、粘着シートからチップを剥離させる剥離時間を単純に長くするだけでは、チップ形状によっては、チップに加わる応力が材料強度よりも大きくなることを防止できない。従って、チップが破壊されずにピックアップできるチップ形状が制限されるという問題がある。
【0012】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、薄化したチップをピックアップする場合でも、粘着シートに貼り付けられているチップをピックアップする際にチップに加えられる応力負荷を低減でき、チップの破壊を防止できるチップのピックアップ方法及びピックアップ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために本発明では、次に述べる各手段を講じたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の一実施例によれば、粘着シートに貼り付けられているチップに第1の吸着部を近づけて接触させるとともに、前記粘着シートに接触する接触面に凹部が形成されている第2の吸着部を前記粘着シートに近づけ、前記第1の吸着部と対向するように前記粘着シートに前記第2の吸着部を接触させる第1のステップと、前記粘着シートに接触している前記第2の吸着部により前記粘着シートを吸引するとともに、前記粘着シートと前記チップとの間に注入部により流体を注入することによって、前記チップの前記凹部に対向する部分から前記粘着シートを剥離する第2のステップと、前記第1の吸着部により前記チップを吸着している状態で、前記第2の吸着部が吸引している前記粘着シートから前記第1の吸着部を遠ざけることによって、前記チップを前記粘着シートから剥離してピックアップする第3のステップとを有する、ピックアップ方法が提供される。
【0015】
本発明の一実施例によれば、チップを吸着する第1の吸着部と、前記第1の吸着部を移動駆動する第1の駆動部と、粘着シートに接触する接触面に凹部が形成されており、前記粘着シートを吸引する第2の吸着部と、前記第2の吸着部を移動駆動する第2の駆動部と、流体を注入する注入部と、前記第1の駆動部により、粘着シートに貼り付けられているチップに前記第1の吸着部を近づけて接触させるとともに、前記第2の駆動部により、前記第2の吸着部を前記粘着シートに近づけ、前記第1の吸着部と対向するように前記粘着シートに前記第2の吸着部を接触させ、前記粘着シートに接触している前記第2の吸着部により前記粘着シートを吸引するとともに、前記粘着シートと前記チップとの間に前記注入部により流体を注入することによって、前記チップの前記凹部に対向する部分から前記粘着シートを剥離し、前記第1の吸着部により前記チップを吸着している状態で、前記第2の吸着部が吸引している前記粘着シートから前記第1の吸着部を前記第1の駆動部により遠ざけることによって、前記チップを前記粘着シートから剥離してピックアップする、制御部とを有する、ピックアップ装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、薄化したチップをピックアップする場合でも、粘着シートに貼り付けられているチップをピックアップする際にチップに加えられる応力負荷を低減でき、チップの破壊を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係るピックアップ装置の概略断面図である。
【図2】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程の手順を説明するためのフローチャートである。
【図3A】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その1)。
【図3B】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その2)。
【図3C】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その3)。
【図3D】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その4)。
【図3E】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その5)。
【図3F】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その6)。
【図3G】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その7)。
【図3H】実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その8)。
【図4】比較例に係るピックアップ装置の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図5】3つの状態における、上コレット上昇工程(ステップS18)でチップに働く剥離力の時間変化を示すグラフである。
【図6】上コレット上昇工程(ステップS18)におけるチップに働くせん断応力を説明するためのピックアップ装置の縦断面図である。
【図7】上コレット上昇工程(ステップS18)においてチップに働くせん断応力を説明するためのチップの平面図である。
【図8】上コレット上昇工程(ステップS18)においてチップに働くせん断応力のせん断面積を説明するためのチップの斜視図である。
【図9】実施の形態の変形例に係るピックアップ装置の概略断面図である。
【図10】実施の形態の変形例に係るピックアップ方法の各工程の手順を説明するためのフローチャートである。
【図11A】実施の形態の変形例に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その1)。
【図11B】実施の形態の変形例に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その2)。
【図11C】実施の形態の変形例に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その3)。
【図11D】実施の形態の変形例に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その4)。
【図11E】実施の形態の変形例に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である(その5)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態について図面と共に説明する。
(実施の形態)
最初に、図1から図8を参照し、本発明の実施の形態に係るピックアップ装置及びピックアップ方法について説明する。
【0019】
初めに、図1を参照し、本実施の形態に係るピックアップ装置について説明する。図1は、本実施の形態に係るピックアップ装置10の概略断面図である。
【0020】
ピックアップ装置10は、ステージ20、上コレット30、下コレット40及び制御部60を有する。
【0021】
ステージ20は、水平に設置されている。ウェハWが貼り付けられた、例えばダイシングテープよりなる粘着シート21が、リングフレーム22に保持された状態で、ステージ20に保持されている。粘着シート21に貼り付けられたウェハWは、ウェハWに加工された複数のチップ23がダイシング加工され、分割された状態で粘着シート21上に接着されている。
【0022】
なお、ステージ20は、ピックアップ装置10と別に設けられているものを使用してもよい。すなわち、ピックアップ装置10は、少なくとも上コレット30、下コレット40を有するものである。
【0023】
上コレット30と下コレット40とは、ステージ20に保持されている粘着シート21に貼り付けられているチップ23を上下から挟み込むように、すなわち互いに対向するように構成されている。上コレット30及び下コレット40は、それぞれ上下動及び水平面内二次元方向に移動可能に設けられており、後述する上コレット駆動機構及び下コレット駆動機構により、上下動及び水平面内二次元方向に移動される。そして、上コレット駆動機構及び下コレット駆動機構により、上コレット30と下コレット40の中心軸が、ピックアップされるチップ23の中心に一致するように位置決めされる。
【0024】
なお、上コレット30及び下コレット40は、それぞれ、本発明における第1の吸着部及び第2の吸着部に相当する。また、ピックアップ装置10は、図1に示す構成を90°回転して横に倒した構成にしてもよく、上下反転した構成にしてもよい。
【0025】
上コレット30は、上コレット本体部31、上コレット駆動機構32、及び上コレット排気機構33を有する。上コレット駆動機構32は、本発明における第1の駆動部に相当する。
【0026】
上コレット本体部31は、上コレット下端部34及び上コレット軸部35を有する。上コレット本体部31は、上コレット駆動機構32の下端に取り付けられた構造体であり、水平面内に移動可能及び垂直方向に移動可能に設けられている。そして、上コレット本体部31は、上コレット駆動機構32により、水平面内に移動駆動及び垂直方向に移動駆動される。
【0027】
上コレット下端部34の下面、すなわちチップ23側の表面は、チップ23の上面に略平行に構成されており、平面視において例えば矩形、円形、楕円形等の形状を有している。上コレット下端部34は、中心側及び周縁側に、それぞれ周縁側部材36及び中心側部材37よりなる部材を2重に配置した構造を有している。周縁側部材36は、気密性の部材により構成され、周縁側部材36の下面の中心側に、下面に接触したチップ23を吸引するための吸引孔38と連通する開口39が形成されている。中心側部材37は、吸引孔38と連通する開口39付近に、周縁側部材36に係止されるように設けられている。中心側部材37は、多孔質材料により構成されており、多孔質材料の内部の微細な孔を通って気体が流通可能に設けられている。
【0028】
上コレット軸部35は、上コレット下端部34を保持するものである。上コレット軸部35は、中心軸に沿って中空の吸引孔38を有している。吸引孔38の下端は、多孔質材料よりなる中心側部材37を介して周縁側部材36の下面に形成された開口39に接続されている。吸引孔38の上端は、上コレット排気機構33に接続されている。上コレット排気機構33は、図示しない排気ポンプおよびバルブを有しており、任意のタイミングでバルブ開度を調整することで、吸引孔38の排気圧の調整が可能である。
【0029】
周縁側部材36の下面がチップ23の上面と接触した状態で上コレット排気機構33により吸引孔38が減圧されるときは、チップ23の上面によって開口39が封じられた中心側部材37及び吸引孔38が減圧されるため、上コレット本体部31は、チップ23を吸着することができる。すなわち、周縁側部材36の下面は、チップ23の上面との接触によって、開口39の内部の多孔質材料よりなる中心側部材37及び吸引孔38を大気から隔離する構造となっている。そのため、上コレット本体部31は、上コレット下端部34に形成された開口39にチップ23を吸着させた状態で、上コレット本体部31を上コレット駆動機構32により上方に移動してチップ23をピックアップするときも、チップ23を吸着保持することができる。
【0030】
下コレット40は、下コレット本体部41、下コレット駆動機構42、下コレット排気機構43、ニードル44を有する。下コレット駆動機構42は、本発明における第2の駆動部に相当する。
【0031】
下コレット本体部41は、下コレット上端部45及び下コレット軸部46を有する。下コレット本体部41は、下コレット駆動機構42の上端に取り付けられた構造体であり、水平面内に移動可能及び垂直方向に移動可能に設けられている。ただし、チップ23が貼り付けられた粘着シート21を保持するステージ20が、粘着シート21を水平面内に移動可能に設けられているときは、下コレット本体部41は、水平面内に移動可能に設けられていなくてもよい。
【0032】
下コレット上端部45の上面、すなわち粘着シート21側の表面は、粘着シート21のシート面に略平行に構成されており、平面視において例えば矩形、円形、楕円形等の形状を有している。下コレット上端部45は、周縁側部材47により構成される。周縁側部材47は、気密性の部材により構成され、周縁側部材47の上面の中心側に開口され、上面に接触させた粘着シート21を吸引するための凹部48が形成されている。凹部48の底面49には、周縁側部材47の上面に接触した粘着シート21を吸引するための吸引孔50の開口51が形成されている。
【0033】
なお、下コレット上端部45は、後述するように上面で粘着シート21に接触する。従って、下コレット上端部45の上面は、本発明における、粘着シートに接触する接触面に相当する。
【0034】
下コレット軸部46は、下コレット上端部45を保持するものである。下コレット軸部46は、中心軸に沿って中空の吸引孔50を有している。吸引孔50の上端は、凹部48の底面49に形成された開口51に接続されている。吸引孔50の下端は、下コレット排気機構43に接続されている。下コレット排気機構43は、図示しない排気ポンプおよびバルブを有しており、任意のタイミングでバルブ開度を調整することで、吸引孔50の排気圧の調整が可能である。
【0035】
周縁側部材47の上面が粘着シート21の下面と接触した状態で下コレット排気機構43により吸引孔50が減圧され、粘着シート21の下面によって開口が封じられた凹部48及び吸引孔50が減圧されると、下コレット本体部41は、粘着シート21を凹部48に吸着する。すなわち、周縁側部材47の上面は、粘着シート21の下面との接触によって、凹部48及び吸引孔50を大気から隔離する構造となっている。そのため、下コレット本体部41は、上コレット下端部34に形成された開口39にチップ23を吸着させた状態で、上コレット本体部31を上コレット駆動機構32により上方に移動してチップ23をピックアップするときも、凹部48により粘着シート21を吸着保持することができる。
【0036】
ニードル44は、ニードル本体部52、ニードル駆動機構53、及び流体供給機構54を有する。ニードル44は、本発明における注入部に相当する。
【0037】
ニードル44は、下コレット本体部41に取り付けられた構造体であり、垂直方向に移動可能に設けられている。そして、ニードル本体部52は、ニードル駆動機構53により、垂直方向に移動駆動される。
【0038】
ニードル44の先端には、チップ23とチップ23から剥離した粘着シート21との間に気体又は液体よりなる流体を注入するために流体を供給する供給孔55と連通する開口56が形成されている。また、ニードル44は、中心軸に沿って中空の供給孔55を有している。供給孔55の上端は、ニードル44の先端に形成された開口56に接続されている。供給孔55の下端は、流体供給機構54に接続されている。
【0039】
上記したように、凹部48は、周縁側部材47の上面に粘着シート21の下面が接触することによって、凹部48の開口が粘着シート21で塞がれ、空間SPを形成するためのものである。凹部48の開口も、平面視において例えば矩形、円形、楕円形等の形状を有している。例えば、チップ23が平面視で矩形形状を有するものとし、凹部48の開口形状を矩形とし、チップ23の平面寸法をL1とし、凹部48の開口寸法をL2とすると、空間SPを形成するために、L2<L1であることが好ましい。例えばL1を10mmとすると、L2を例えば9mmとすることができる。なお、このL2の値は、後述するように、チップ23に作用するせん断応力がチップ23のせん断破壊強度(せん断強度)と等しくなるような所定値よりも大きい値である。
【0040】
一方、凹部48は、粘着シート21をチップ23の下面から剥離して凹部48に吸引することができ、吸引した粘着シート21とチップ23の下面との間に、ニードル44を挿入し、流体を注入できるような深さ寸法H1を有することが好ましい。
【0041】
ニードル44の先端は、吸引した粘着シート21を容易に貫通できるように、水平面から所定のテーパ角で切断されたような端面を有していてもよい。ニードル44の径を1mmφ、テーパ角を45°とすると、端面の上端と下端との間の高低差Hnは、Hn=1mm×tan45°=1mmとなる。ニードル44の上下動に伴うマージンHmを4mm程度と考慮すると、凹部48は、ニードル44の端面の高低差Hn1mmとマージンHm4mmとの合計である5mm程度の深さ寸法H1を有することが好ましい。
【0042】
以上より、凹部48は、例えば、開口の形状が矩形形状であるときは、開口寸法L2が9mm、深さ寸法が5mmの角錐台状の形状とすることができる。また、その他、凹部48の開口の形状が円、楕円であってもよく、その場合は、凹部48は、円錐台状、楕円錐台状の形状を有していてもよい。
【0043】
下コレット本体部41には、例えば超音波振動子等よりなる振動部57が設けられていてもよい。振動部57が設けられているときは、振動部57が振動することによって、下コレット本体部41が振動する。そして、下コレット本体部41がチップ23に粘着シート21を介して接触している状態で振動部57が振動することによって、チップ23が貼り付けられている粘着シート21に振動を付与することができる。粘着シート21に振動を付与することによって、例えば粘着シート21の上面にチップ23を貼り付けるための粘着層に振動を付与してキャビテーションを発生させ、これにより粘着層に気泡を発生させることができる。そして、粘着層に気泡が発生することによって、粘着シート21をチップ23の下面から剥離させることができる。
【0044】
なお、後述する下コレット排気工程(ステップS14)において、粘着シート21がチップ23の表面から剥離しにくくないときは、剥離開始工程(ステップS15)を省略することができるため、振動部57を省略することができる。
【0045】
制御部60は、上コレット駆動機構32、上コレット排気機構33、下コレット駆動機構42、下コレット排気機構43を制御する。また、振動部57が設けられているときは、振動部57をも制御する。
【0046】
制御部60は、例えば、図示しない演算処理部、記憶部及び表示部を有する。演算処理部、例えばCPU(Central Processing Unit)を有するコンピュータである。記憶部は、演算処理部に、各種の処理を実行させるためのプログラムを記録した、例えばハードディスクにより構成されるコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。表示部は、例えばコンピュータの画面よりなる。演算処理部は、記憶部に記録されたプログラムを読み取り、そのプログラムに従って、ピックアップ装置10の各部に制御信号を送り、以下に説明する実施の形態に係るピックアップ方法を実行する。
【0047】
次に、図2から図3Hを参照し、本実施の形態に係るピックアップ方法について説明する。図2は、本実施の形態に係るピックアップ方法の各工程の手順を説明するためのフローチャートである。図3Aから図3Hは、本実施の形態に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置の状態を示す概略断面図である。
【0048】
図2に示すように、本実施の形態に係るピックアップ方法は、上コレット下降工程(ステップS11)、上コレット排気工程(ステップS12)、下コレット上昇工程(ステップS13)、下コレット排気工程(ステップS14)、剥離開始工程(ステップS15)、ニードル挿入工程(ステップS16)、流体注入工程(ステップS17)、及び上コレット上昇工程(ステップS18)を有する。
【0049】
なお、図2に示すように、上コレット下降工程(ステップS11)から下コレット上昇工程(ステップS13)までは、本発明における第1のステップに相当する。また、下コレット排気工程(ステップS14)から流体注入工程(ステップS17)までは、本発明における第2のステップに相当する。また、上コレット上昇工程(ステップS18)は、本発明における第3のステップに相当する。
【0050】
本実施の形態に係るピックアップ方法を行う前、予め、チップ23が形成されたウェハWを例えばダイシングテープよりなる粘着シート21に貼り付け、ウェハWが貼り付けられた粘着シート21の周縁を例えばリングフレーム22により保持する。そして、ダイシング加工装置により、粘着シート21に貼り付けられたウェハWをダイシング加工し、粘着シート21に貼り付けられた状態でチップ23ごとに分離する。更に、ダイシング加工されたチップ23が貼り付けられている粘着シート21を、リングフレーム22に保持したまま例えばステージ20に固定保持する。このとき、粘着シート21のテープ面が例えば水平になるようにステージ20上に固定保持することができ、チップ23が水平に保持されている粘着シート21の上面に貼り付けられているように配置することができる。
【0051】
なお、粘着シート21のチップ23が貼り付けられている側から上コレット30を近づけ、粘着シート21のチップ23が貼り付けられている側と反対側から下コレット40を近づけ、近づけた上コレット30と下コレット40とにより粘着シート21及びチップ23を挟むように構成されていればよく、上下関係は限定されない。
【0052】
初めに、上コレット下降工程(ステップS11)を行う。ステップS11では、上コレット30を下降させ、後述する吸引保持のために、固定保持されている粘着シート21の上面に貼り付けられているチップ23の上面に上コレット30を近づけて接触させる。図3Aは、ステップS11を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0053】
図3Aに示すように、例えば、上コレット本体部31がステージに固定保持されている粘着シート21の上方にある状態で、図1に示した上コレット駆動機構32により、平面視における上コレット本体部31の中心とチップ23の中心とが略一致するように、上コレット本体部31の水平面内の位置を調整する。そして、水平面内の位置が調整された上コレット本体部31を、上コレット駆動機構32により、下降させ、チップ23の上面に上コレット本体部31を接触させる。このとき、上コレット本体部31の周縁側部材36はチップ23の上面と接触しているため、上コレット本体部31の中心側部材37及び吸引孔38は、チップ23の上面との間で気密が確保される。
【0054】
なお、上コレット30と下コレット40の上下関係が逆に構成されている場合、又は、水平方向に対向するように構成されている場合は、ステップS11は、固定保持されている粘着シート21に上コレット30を近づけ、粘着シート21に貼り付けられているチップ23の表面に上コレット30を接触させるものであればよい。
【0055】
次に、上コレット排気工程(ステップS12)を行う。ステップS12では、接触させた上コレット30によりチップ23を吸着する。図3Bは、ステップS12を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0056】
図3Bに示すように、上コレット本体部31の下面に形成されている吸引孔38に接続されている、図1に示した上コレット排気機構33により、チップ23の上面との間で気密が確保されている上コレット本体部31の中心側部材37及び吸引孔38内を減圧する。これにより、チップ23の上面が上コレット本体部31の中心側部材37及び吸引孔38に吸引される。
【0057】
なお、ステップS12は、下コレット排気工程(ステップS14)において、下コレット本体部41の凹部48と粘着シート21により形成されている空間SPを減圧したときに、凹部48の周縁に対応する部分においてチップ23に働くせん断応力によってチップ23が割れることを防止するためのものでもある。従って、ステップS12は、下コレット排気工程(ステップS14)の前に行えばよい。
【0058】
あるいは、後述するように、凹部48の平面視における凹部48の開口面積(又は開口寸法)とチップ23の面積(又は平面寸法)との大小関係によっては、凹部48の周縁に対応する部分においてチップ23に働くせん断応力がそれほど大きくならないようにすることができる。このときは、ステップS12は、後述する上コレット上昇工程(ステップS18)の前に行えばよい。
【0059】
次に、下コレット上昇工程(ステップS13)を行う。ステップS13では、チップ23を上コレット30と下コレット40によって挟み、固定保持する。下コレット40を上昇させ、粘着シート21が貼り付けられているチップ23の下面に下コレット40を接触させる。図3Cは、ステップS13を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0060】
図3Cに示すように、例えば、下コレット本体部41がステージに固定保持されている粘着シート21の下方にある状態で、図1に示した下コレット駆動機構42により、平面視における下コレット本体部41の中心とチップ23の中心とが略一致するように、下コレット本体部41の水平面内の位置を調整する。そして、水平面内の位置が調整された下コレット本体部41を、下コレット駆動機構42により、上昇させ、チップ23の下面に粘着シート21を介して下コレット本体部41を接触させる。このとき、下コレット本体部41の周縁側部材47はチップ23の下面と粘着シート21を介して接触しているため、下コレット本体部41の凹部48に形成されている空間SPは、気密が確保される。
【0061】
なお、上コレット30と下コレット40の上下関係が逆に構成されている場合、又は、水平方向に対向するように構成されている場合は、ステップS13は、固定保持されている粘着シート21に、上コレット30と対向するように下コレット40を近づけるものであればよい。そして、近づけた下コレット40を、粘着シート21に貼り付けられているチップ23の表面に粘着シート21を介して接触させるものであればよい。
【0062】
次に、下コレット排気工程(ステップS14)を行う。ステップS14では、下コレット40の凹部48と粘着シート21により形成されている空間SPを減圧し、粘着シート21を吸引する。図3Dは、ステップS14を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0063】
図3Dに示すように、凹部48に形成されている開口51に吸引孔50を介して接続されている、図1に示した下コレット排気機構43により、凹部48と粘着シート21により形成されている空間SPを減圧する。これにより、チップ23の凹部48に対向する部分に貼り付けられている粘着シート21が、凹部48に向かって吸引される。減圧の程度は、粘着シート21がチップ23から剥離を生じさせる程度でよい。
【0064】
ただし、減圧の程度によっては、粘着シート21がチップ23の表面から剥離しにくいときがある。このときは、粘着シート21がチップ23の表面から剥離する起点を発生するために、剥離開始工程(ステップS15)を行ってもよい。ステップS15では、粘着シート21を振動させることによって、チップ23の凹部48に対向する部分からの粘着シート21の剥離を開始する。図3Eは、ステップS15を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0065】
前述した振動部57を振動させ、粘着シート21に振動を付与することによって、例えば粘着シート21の上面にチップ23を貼り付けるための粘着層に振動を付与してキャビテーションを発生させ、これにより粘着層に気泡を発生させることができる。一方、ステップS14により、凹部48と粘着シート21により形成されている空間SPが減圧されている。従って、図3Eに示すように、チップ23の凹部48に対向する部分からの粘着シート21の剥離を開始することができる。
【0066】
次に、ニードル挿入工程(ステップS16)を行う。ステップS16では、チップ23の凹部48に対向する部分から粘着シート21の剥離が開始したときに、チップ23と剥離が開始した粘着シート21との間にニードル44を挿入する。図3Fは、ステップS16を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0067】
本実施の形態では、ニードル44は、ニードル駆動機構53により、吸引孔50内を凹部48の深さ方向に移動可能、すなわち吸引孔50内を上下動可能に設けられている。従って、ニードル駆動機構53によりニードル44を上昇させ、図3Fに示すように、チップ23と剥離した粘着シート21との間にニードル44を挿入する。
【0068】
次に、流体注入工程(ステップS17)を行う。ステップS17では、挿入したニードル44によりチップ23と剥離した粘着シート21との間に流体FLを注入することによって、チップ23の凹部48に対向する部分のより多くの部分から粘着シート21を剥離する。図3Gは、ステップS17を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0069】
図3Gに示すように、チップ23と粘着シート21との間に挿入したニードル44により、チップ23と粘着シート21との間に気体又は液体を含む流体FLを注入する。これにより、剥離した粘着シート21には、チップ23と粘着シート21との間に注入された流体FLの圧力と、粘着シート21を凹部48に吸引する吸引力とが働くため、粘着シート21を更にチップ23から剥離しようとする力が働く。その結果、チップ23の凹部48に対向する部分から完全に粘着シート21を剥離させることができる。
【0070】
流体FLとして、液体よりなる非圧縮性流体、又は、気体よりなる圧縮性流体を用いることができる。非圧縮性流体として、例えば、純水等の水、エタノール等のアルコール、炭酸水等、のいずれか1種以上を含む液相状態の流体を用いることができる。また、圧縮性流体として、例えば、二酸化炭素(CO)、窒素(N)その他各種のガスのいずれか1種以上を含む気相状態の流体を用いることができる。
【0071】
次に、上コレット上昇工程(ステップS18)を行う。ステップS18では、剥離した粘着シート21とチップ23との間に流体FLが注入されている状態で、上コレット30を上昇させる。そして、下コレット40が吸引している粘着シート21から上コレット30を遠ざけることによって、チップ23を剥離する。図3Hは、ステップS18を行う際のピックアップ装置10の状態を示す。
【0072】
図3Hに示すように、チップ23の凹部48に対向する部分から粘着シート21が剥離され、剥離した粘着シート21とチップ23との間に流体FLが注入されており、チップ23を吸引した状態で、図1に示した上コレット駆動機構32により上コレット本体部31を上昇させる。そして、上昇した上コレット本体部31に吸着したチップ23を粘着シート21から剥離してピックアップする。
【0073】
次に、図4及び図5を参照し、本実施の形態に係るピックアップ装置及びピックアップ方法により、粘着シートに貼着されているチップをピックアップする際にチップに加えられる応力負荷を低減できる作用効果について説明する。
【0074】
通常、粘着シートの粘着力、すなわち粘着タック特性を調べるには、傾斜式ボールタック試験、ローリングボールタック試験、プローブタック試験等の方法がある。例えばプローブタック試験では、シリンダー状のプローブの平滑な端面を粘着剤の表面に接触させた後、これを引離す際の単位面積当たりの応力−ひずみ曲線を測定する。そして、例えばその応力−ひずみ曲線における単位面積当たりの最大応力σmax値から、粘着力を求めることができる。
【0075】
従って、本実施の形態に係るピックアップ方法の上コレット上昇工程(ステップS18)において粘着シートからチップを剥離するのに必要な剥離力Fは、上コレット上昇工程(ステップS18)が開始される時点におけるチップの粘着シートとの間の接着面積をSとすると、
F=S×σmax (1)
で表される。
【0076】
例えば、ダイシングテープとして株式会社トーヨーアドテックの一般感圧シリーズを用いる場合、プローブタック法による粘着力、すなわち剥離力Fは、0.7〜1.0N/20mmとなる。また、ダイシングテープとして株式会社トーヨーアドテックのUVシリーズを用いる場合、プローブタック法による粘着力、すなわち剥離力Fは、1.7〜3.9N/20mmとなる。
【0077】
ここで、下コレットの上面に凹部が設けられておらず、また、ニードルが流体を注入できないように構成されているピックアップ装置を比較例として説明する。図4は、比較例に係るピックアップ装置110の構成を模式的に示す縦断面図である。
【0078】
図4に示すように、比較例に係るピックアップ装置110は、ステージ120、上コレット130、下コレット140を有する。上コレット130は、上コレット本体部131、上コレット駆動機構132、及び上コレット排気機構133を有する。下コレット140は、下コレット本体部141、下コレット駆動機構142、下コレット排気機構143、ニードル144を有する。チップ23が貼り付けられている粘着シート21がリングフレーム22を介してステージ120に保持されているのは、実施の形態と同様である。また、上コレット本体部131の下面に形成された開口139に連通する吸引孔138が上コレット排気機構133により減圧されるのは、実施の形態と同様である。また、下コレット本体部141の上面に形成された開口151に連通する吸引孔150が下コレット排気機構143により減圧されるのは、実施の形態と同様である。
【0079】
しかし、図4に示すように、下コレット本体部141の上面には、凹部が設けられていない。また、ニードル144は、下コレット本体部141の上面に形成された開口151を通って下コレット本体部141の上面から突出自在に設けられているものの、ニードル144が流体を注入することはできない。
【0080】
ここで、比較例に係るピックアップ装置110において、吸引孔138によりチップ23を吸引し、吸引孔150により粘着シート21を吸引した状態で、上コレット本体部131を上昇することによって粘着シート21からチップ23を剥離させるのに必要な剥離力をF1とする。
【0081】
一方、本実施の形態に係るピックアップ装置10において、流体注入工程(ステップS17)を行う際に、注入された流体FLの量が相対的に少ない状態で、上コレット本体部31を上昇することによって粘着シート21からチップ23を剥離させるのに必要な剥離力をF2とする。また、注入された流体FLの量が相対的に多い状態で、上コレット本体部31を上昇することによって粘着シート21からチップ23を剥離させるのに必要な剥離力をF3とする。すると、F1>F2>F3の関係が成立する。
【0082】
上記した3つの状態における、上コレット上昇工程(ステップS18)でチップ23に働く剥離力の時間変化を、それぞれ図5(a)、図5(b)、図5(c)に示す。図5(a)は比較例の場合であり、図5(b)は注入された流体FLの量が相対的に少ない場合であり、図5(c)は注入された流体FLの量が相対的に少ない場合である。また、図5(a)、図5(b)、図5(c)では、上コレット30を等速で上昇させる場合を示しているため、図5(a)、図5(b)、図5(c)の横軸は、上コレット30の上方向への移動距離とも等価である。
【0083】
3つの場合を比較すると、上コレット上昇工程(ステップS18)の開始時点におけるチップ23と粘着シート21との接着面積が最も大きい場合、図5(a)に示すように、剥離力F1が最大であり、また、剥離に要する時間t1、すなわち上コレット30の移動距離も最大である。そして、上コレット上昇工程(ステップS18)の開始時点におけるチップ23と粘着シート21との接着面積が最も小さい場合、図5(c)に示すように、剥離力F3が最小であり、また、剥離に要する時間t3、すなわち上コレット30の移動距離も最小である。そして、図5(b)に示す場合では、剥離力F2はF1とF3の中間であり、剥離に要する時間t2もt1とt3の中間である。
【0084】
すなわち、本実施の形態では、上コレット上昇工程(ステップS18)でチップ23を粘着シート21から剥離する前に、下コレット40により粘着シート21を凹部48に吸引し、かつ、ニードル44により粘着シート21とチップ23との間に流体FLを注入することによって、チップ23の凹部48に対向する部分から粘着シート21を剥離しておく。これにより、上コレット上昇工程(ステップS18)の開始時点におけるチップ23と粘着シート21との接着面積を小さくすることができるため、上コレット上昇工程(ステップS18)における剥離力F及び剥離に要する時間tを低減することができる。
【0085】
次に、図6から図8を参照し、本実施の形態に係るピックアップ装置及びピックアップ方法により、粘着シートに貼着されているチップをピックアップする際にチップが破壊されることを防止できる作用効果について説明する。
【0086】
図6は、上コレット上昇工程(ステップS18)におけるチップ23に働くせん断応力を説明するためのピックアップ装置10の縦断面図である。図7は、上コレット上昇工程(ステップS18)においてチップ23に働くせん断応力を説明するためのチップ23の平面図である。図8は、上コレット上昇工程(ステップS18)においてチップ23に働くせん断応力のせん断面積を説明するためのチップ23の斜視図である。
【0087】
なお、以下では、流体注入工程(ステップS17)において、可能な最大の流体FLを注入した場合、すなわち、凹部48に対向する部分において粘着シート21がチップ23から完全に剥離しており、図5(c)に示すように、上コレット上昇工程(ステップS18)における剥離力(剥離抵抗)Fが最小となる状態について、説明する。
【0088】
図6に示すように、上コレット上昇工程(ステップS18)において、チップ23の凹部48に対向する部分には、上コレット30による上向きの吸引力FUが働く。また、チップ23の凹部48に対向する部分以外の部分には、粘着シート21による下向きの吸引力FDが働く。このとき、チップ23の凹部48に対向する部分と、チップ23の凹部48に対向する部分以外の部分との境界面(図6、図7及び図8における面SF。以下「せん断面」という。)に働くせん断力をTとすると、下向きを正として、
T=FD−FU (2)
となる。そして、せん断面SFの面積の合計をAとすると、このせん断力Tがせん断面SFに作用するせん断応力τは、
τ=T/A=(FD−FU)/A (3)
で表される。そして、チップ23のせん断破壊強度をτmaxとすると、チップ23がせん断破壊しない条件は、せん断応力τとせん断破壊強度τmaxとが
τ<τmax (4)
を満たすときである。
【0089】
次に、チップ23のせん断応力τの見積もりを行う。以下では、図7及び図8に示すように、例えばチップ23の平面視における形状を一辺(平面寸法)L1の正方形形状とし、厚さをdとする。また、図6に示すように、下コレット40の凹部48の平面視における形状を、例えば一辺(開口寸法)L2の正方形形状とする。また、簡単のため、上コレット30の周縁側部材36の形状とチップ23の平面視における形状が略等しいものとし、上向きの吸引力FUは下向きの吸引力FDに比べて小さいものとする。
すると、図7に示すように、
A=L2×d×4 (5)
となり、また、式(1)より
FD−FU≒FD=(L1−L2)×σmax (6)
となる。そして、式(3)、式(5)及び式(6)より、
τ=(L1−L2)×σmax/(L2×d×4) (7)
となる。
【0090】
最大応力σmaxについては、前述したダイシングテープの物性に基づいて、
σmax=0.05N/mm (8)
とする。また、せん断破壊強度をτmaxについては、"Investigating the Influence of Fabrication Process and Crystal Orientation on Shear Strength of Silicon Microcomponents", Q. Chen, D.-J. Yao, C.-J. Kim, and G. P. Carman, Journal of Materials Science, Vol. 35, No. 21, Nov. 2000, pp. 5465-5474.の記載に基づいて、
τmax=5MPa
とする。また、チップ23の平面寸法L1及び厚さdについては、
L1=10mm (9)
d=0.02mm (10)
とする。
【0091】
以上の数値を仮定した上で、凹部48の開口寸法L2を5mm、6.7mm、8mm、9mmと変化させたときのせん断応力τ及びせん断破壊強度τmaxとの関係を計算した。その結果を、表1に示す。
【0092】
【表1】

表1に示すように、凹部48の開口寸法L2が6.7mm以下のときは、せん断面SFに作用するせん断応力τはせん断破壊強度τmax以上となるため、上コレット上昇工程(ステップS18)において、チップ23がせん断破壊するおそれがある。一方、凹部48の開口寸法L2が6.7mmよりも大きいときは、せん断面SFに作用するせん断応力τはせん断破壊強度τmaxよりも小さくなるため、上コレット上昇工程(ステップS18)において、チップ23がせん断破壊するおそれがない。すなわち、凹部48の開口寸法L2がチップ23の平面寸法L1よりも小さく、かつ、所定値よりも大きいときは、せん断面SFに作用するせん断応力τをせん断破壊強度τmaxよりも小さくすることができ、上コレット上昇工程(ステップS18)において、チップ23がせん断破壊することを防止できる。
【0093】
すなわち、本実施の形態では、凹部48の開口寸法L2を、上コレット上昇工程(ステップS18)において上コレット30を上昇させる際にチップ23に作用するせん断応力がチップ23のせん断破壊強度(せん断強度)と等しくなるような所定値よりも大きくし、かつ、チップ23の平面寸法L1よりも小さくすることができる。これにより、粘着シート21に貼り付けられているチップ23をピックアップする際にチップ23の破壊を防止できる。
【0094】
特に、式(7)に示すように、チップ23の厚さdが薄くなるとせん断応力τが大きくなるが、本実施の形態では、凹部48の開口寸法L2を大きくする方向に調整することによって、式(7)に示すせん断応力τを小さくできるため、厚さdが薄いチップ23をピックアップする際にもチップ23の破壊を防止できる。
(実施の形態の変形例)
次に、図9から図11Eを参照し、本発明の実施の形態の変形例に係るピックアップ装置及びピックアップ方法について説明する。
【0095】
初めに、図9を参照し、本変形例に係るピックアップ装置について説明する。図9は、本変形例に係るピックアップ装置10aの概略断面図である。
【0096】
本変形例に係るピックアップ装置10aは、ニードル44aの先端が、下コレット40aの凹部48aの底面49aから突出した状態で、下コレット40aと一体で設けられている点で、実施の形態に係るピックアップ装置10と相違する。
【0097】
本変形例に係るピックアップ装置10aが、少なくとも上コレット30、下コレット40a及び制御部60を有する点は実施の形態と同様であり、本変形例における上コレット30及び制御部60は、実施の形態における上コレット30及び制御部60と同様にすることができる。図9では、実施の形態に係るピックアップ装置10と同様の箇所については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0098】
一方、本変形例における下コレット40aは、下コレット本体部41a、下コレット駆動機構42a、下コレット排気機構43、ニードル44aを有するが、下コレット本体部41a及びニードル44aの構成が、実施の形態と異なる。
【0099】
下コレット本体部41aが下コレット上端部45a及び下コレット軸部46aを有し、下コレット上端部45aが周縁側部材47aを有し、周縁側部材47aが、周縁側部材47aの上面の中心側に開口され、上面に接触させた粘着シート21を吸引するための凹部48aが形成されている点は、実施の形態と同様である。
【0100】
しかし、本変形例では、ニードル44aは、ニードル本体部52a及び流体供給機構54のみを有するものである。すなわち、ニードル44aは、下コレット本体部41aの凹部48aの底面49aから突出した状態で、下コレット本体部41aと一体で設けられており、垂直方向に移動可能には設けられていない。
【0101】
これに伴い、下コレット本体部41aの吸引孔50aは、ニードル44aを垂直方向に移動させるためのものでなくてもよいため、凹部48aのニードル本体部52aが設けられている部分以外の部分に開口51aが形成されるように設けられていてもよい。図9に示す例では、ニードル本体部52aが設けられている凹部48aの底面49aの中央ではなく、底面49aの周縁部に吸引孔50aの開口51aが形成されている。
【0102】
なお、ニードル本体部52aに供給孔55aが設けられており、ニードル本体部52aの先端に設けられた開口56aと連通しているのは、実施の形態と同様である。
【0103】
その他、下コレット本体部41aには、振動部が設けられていてもよい点は、実施の形態と同様であるが、以下では、図9に示すように、振動部が設けられていない例について説明する。
【0104】
次に、図10から図11Eを参照し、本変形例に係るピックアップ方法について説明する。図10は、本変形例に係るピックアップ方法の各工程の手順を説明するためのフローチャートである。図11Aから図11Eは、本変形例に係るピックアップ方法の各工程におけるピックアップ装置10aの状態を示す概略断面図である。
【0105】
図10に示すように、本変形例に係るピックアップ方法は、上コレット下降工程(ステップS21)、上コレット排気工程(ステップS22)、下コレット上昇工程(ステップS23)、下コレット排気工程(ステップS24)、及び上コレット上昇工程(ステップS25)を有する。
【0106】
なお、図10に示すように、上コレット下降工程(ステップS21)から下コレット上昇工程(ステップS23)までは、本発明における第1のステップに相当する。また、下コレット排気工程(ステップS24)は、本発明における第2のステップに相当する。また、上コレット上昇工程(ステップS25)は、本発明における第3のステップに相当する。
【0107】
本変形例に係るピックアップ方法を行う前に、予め、チップ23が貼り付けられた粘着シート21をステージ20に固定保持する工程は、実施の形態と同様である。また、本変形例に係るピックアップ方法の上コレット下降工程(ステップS21)、上コレット排気工程(ステップS22)及び下コレット上昇工程(ステップS23)は、それぞれ実施の形態に係るピックアップ方法の上コレット下降工程(ステップS11)、上コレット排気工程(ステップS12)及び下コレット上昇工程(ステップS13)と同様である。また、図11Aから図11Cは、それぞれ上コレット下降工程(ステップS21)、上コレット排気工程(ステップS22)及び下コレット上昇工程(ステップS23)を行う際のピックアップ装置10aの状態を示す。
【0108】
次に、下コレット排気工程(ステップS24)を行う。ステップS24では、下コレット40aの凹部48aと粘着シート21により形成されている空間SPを減圧し、粘着シート21を吸引する。図11Dは、ステップS24を行う際のピックアップ装置10aの状態を示す。
【0109】
図11Dに示すように、凹部48aに形成されている吸引孔50aに接続されている、図9に示した下コレット排気機構43により、凹部48aと粘着シート21により形成されている空間SPを減圧する。これにより、チップ23の凹部48aに対向する部分に貼り付けられている粘着シート21が、凹部48aに吸引される。減圧の程度は、粘着シート21がチップ23から剥離を生じさせる程度でよい。
【0110】
下コレット排気工程(ステップS24)では、チップ23の凹部48aに対向する部分に貼り付けられている粘着シート21が剥離する際に、剥離した粘着シート21にニードル44aが挿入される。実際には、下コレット排気機構43により減圧される吸引孔50aが粘着シート21を吸引する吸引力に応じて、ニードル44aが凹部48aの底面から突出する高さを設計することが可能である。
【0111】
また、下コレット排気工程(ステップS24)では、挿入したニードル44aによりチップ23と剥離した粘着シート21との間に流体FLを注入することによって、チップ23の凹部48aに対向する部分のうちより広い部分から粘着シート21を剥離する。
【0112】
すなわち、本変形例は、実施の形態に係るピックアップ方法の下コレット排気工程(ステップS14)、ニードル挿入工程(ステップS16)及び流体注入工程(ステップS17)を同時に行うものである。
【0113】
その後、上コレット上昇工程(ステップS25)を行う。上コレット上昇工程(ステップS25)は、実施の形態における上コレット上昇工程(ステップS18)と同様にすることができる。図11Eは、ステップS25を行う際のピックアップ装置10aの状態を示す。
【0114】
本変形例でも、上コレット上昇工程(ステップS25)でチップ23を粘着シート21から剥離する前に、下コレット40aにより粘着シート21を凹部48aに吸引し、かつ、ニードル44aにより粘着シート21とチップ23との間に流体FLを注入することにより、チップ23の凹部48aに対向する部分から粘着シート21を剥離しておく。これにより、上コレット上昇工程(ステップS25)の開始時点におけるチップ23と粘着シート21との接着面積を小さくすることができるため、上コレット上昇工程(ステップS25)における剥離力F及び剥離に要する時間tを低減することができる。
【0115】
また、本変形例でも、凹部48aの開口寸法L2を、上コレット上昇工程(ステップS25)においてチップ23に働くせん断応力τがチップ23のせん断破壊強度(せん断強度)と等しくなるような所定値よりも大きくし、かつ、チップ23の平面寸法L1よりも小さくすることができる。これにより、粘着シート21に貼り付けられているチップ23をピックアップする際のチップ23の破壊を防止できる。
【0116】
また、本変形例でも、式(7)に示したせん断応力τの見積もりを適用でき、チップ23の厚さdが薄い場合に凹部48aの開口寸法L2を大きくする方向に調整することによって、式(7)に示すせん断応力τを小さくでき、厚さdが薄いチップ23をピックアップする際にもチップ23の破壊を防止できる。
【0117】
以上、本発明の好ましい実施の形態について記述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0118】
10 ピックアップ装置
30 上コレット
32 上コレット駆動機構
40 下コレット
42 下コレット駆動機構
44 ニードル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着シートに貼り付けられているチップに第1の吸着部を近づけて接触させるとともに、前記粘着シートに接触する接触面に凹部が形成されている第2の吸着部を前記粘着シートに近づけ、前記第1の吸着部と対向するように前記粘着シートに前記第2の吸着部を接触させる第1のステップと、
前記粘着シートに接触している前記第2の吸着部により前記粘着シートを吸引するとともに、前記粘着シートと前記チップとの間に注入部により流体を注入することによって、前記チップの前記凹部に対向する部分から前記粘着シートを剥離する第2のステップと、
前記第1の吸着部により前記チップを吸着している状態で、前記第2の吸着部が吸引している前記粘着シートから前記第1の吸着部を遠ざけることによって、前記チップを前記粘着シートから剥離してピックアップする第3のステップと
を有する、ピックアップ方法。
【請求項2】
前記第2の吸着部は、前記凹部の開口寸法が、前記粘着シートから前記第1の吸着部を遠ざける際に前記チップに作用するせん断応力が、前記チップのせん断強度と等しくなるような所定値よりも大きく、かつ、前記チップの平面寸法よりも小さいものである、請求項1に記載のピックアップ方法。
【請求項3】
前記第2のステップは、前記粘着シートを吸引するとともに、振動部により前記粘着シートを振動させることによって、前記チップの前記凹部に対向する部分からの前記粘着シートの剥離を開始し、剥離を開始した前記粘着シートと前記チップとの間に前記注入部を挿入し、挿入した前記注入部により流体を注入することによって、前記チップの前記凹部に対向する部分から前記粘着シートを剥離するものである、請求項1又は請求項2に記載のピックアップ方法。
【請求項4】
前記第2の吸着部は、前記凹部の底面に、前記粘着シートを吸引する吸引孔と連通する開口が形成されたものであり、
前記注入部は、前記吸引孔を通って、前記注入部の先端が前記開口から突出自在に設けられたものである、請求項1から請求項3のいずれかに記載のピックアップ方法。
【請求項5】
前記注入部は、前記注入部の先端が前記凹部の底面から突出した状態で、前記第2の吸着部と一体で設けられたものである、請求項1から請求項3のいずれかに記載のピックアップ方法。
【請求項6】
チップを吸着する第1の吸着部と、
前記第1の吸着部を移動駆動する第1の駆動部と、
粘着シートに接触する接触面に凹部が形成されており、前記粘着シートを吸引する第2の吸着部と、
前記第2の吸着部を移動駆動する第2の駆動部と、
流体を注入する注入部と、
前記第1の駆動部により、粘着シートに貼り付けられているチップに前記第1の吸着部を近づけて接触させるとともに、前記第2の駆動部により、前記第2の吸着部を前記粘着シートに近づけ、前記第1の吸着部と対向するように前記粘着シートに前記第2の吸着部を接触させ、
前記粘着シートに接触している前記第2の吸着部により前記粘着シートを吸引するとともに、前記粘着シートと前記チップとの間に前記注入部により流体を注入することによって、前記チップの前記凹部に対向する部分から前記粘着シートを剥離し、
前記第1の吸着部により前記チップを吸着している状態で、前記第2の吸着部が吸引している前記粘着シートから前記第1の吸着部を前記第1の駆動部により遠ざけることによって、前記チップを前記粘着シートから剥離してピックアップする、制御部と
を有する、ピックアップ装置。
【請求項7】
前記第2の吸着部は、前記凹部の開口寸法が、前記粘着シートから前記第1の吸着部を前記第1の駆動部により遠ざける際に前記チップに作用するせん断応力が、前記チップのせん断強度と等しくなるような所定値よりも大きく、かつ、前記チップの平面寸法よりも小さいものである、請求項6に記載のピックアップ装置。
【請求項8】
前記粘着シートを振動させる振動部を有し、
前記制御部は、前記粘着シートを吸引するとともに、前記振動部により前記粘着シートを振動させることによって、前記チップの前記凹部に対向する部分からの前記粘着シートの剥離を開始し、剥離を開始した前記粘着シートと前記チップとの間に前記注入部を挿入し、挿入した前記注入部により流体を注入することによって、前記チップの前記凹部に対向する部分から前記粘着シートを剥離するものである、請求項6又は請求項7に記載のピックアップ装置。
【請求項9】
前記第2の吸着部は、前記凹部の底面に、前記粘着シートを吸引する吸引孔と連通する開口が形成されたものであり、
前記注入部は、前記吸引孔を通って、前記注入部の先端が前記開口から突出自在に設けられたものである、請求項6から請求項8のいずれかに記載のピックアップ装置。
【請求項10】
前記注入部は、前記注入部の先端が前記凹部の底面から突出した状態で、前記第2の吸着部と一体で設けられたものである、請求項6から請求項8のいずれかに記載のピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【公開番号】特開2012−54344(P2012−54344A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194619(P2010−194619)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】