説明

ピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法およびそれに用いる微生物

【課題】比較的簡易な処理により、雑菌の繁殖を抑えつつ、ピニトールを、短期間で、かつ高純度で得ることができる、ピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法およびそれに用いる微生物を提供する。
【解決手段】ピニトール含有植物体を資源とし、下記(A)に示す細菌の培養を高温域で行う工程を備えている。
(A)ピニトールを除く糖質類の分解能を有する、好熱性ジオバチルス属細菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法およびそれに用いる微生物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イノシトールの一種であるピニトール(3−O−メチル−D−キロ−イノシトール)は、イナゴ豆,大豆,黒大豆,松,クローバー,松等の植物体に多く存在する天然成分であり、D−キロ−イノシトールの3位の水酸基がメチル化され、メトキシ基になった化学構造を有する。
【0003】
ピニトールは、D−キロ−イノシトールと同様、インスリン抵抗性を緩和することによる血糖降下作用を持つことが知られている(非特許文献1参照)。そして、ピニトールには、インスリン抵抗性を原因とする2型糖尿病とその合併症である肝障害、白内障等の改善効果や、さらに、抗炎症作用やクレアチン蓄積効果等が報告されている(非特許文献2〜5参照)。
【0004】
また、近年、ピニトールには、副作用を生じることなく、肥満抑制効果、特に皮下脂肪の蓄積に起因する肥満症の抑制効果が報告されており、このようなピニトールを用いた抗肥満剤の開発もなされている(特許文献1参照)。
【0005】
また、先に述べたような植物体からピニトールを抽出する方法も各種検討されている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−196931公報
【特許文献2】特開2009−67716公報
【特許文献3】特許第3806693号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kim JI et al.,EJCN. 59, 456-458 (2005)
【非特許文献2】孫東煥,圓光大学校薬学大学報告書(2003)
【非特許文献3】金在燦,中央大学校医科大学 研究報告書(2004)
【非特許文献4】Geenwood M et al.,J.Exercise Physiology 4(4),41-47(2001)
【非特許文献5】Singh RK et al.,Fitoterapia72,168-170(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先に述べたような植物体からピニトールを高純度で抽出することは、実際には、かなり困難である。なぜなら、上記植物体からの抽出液を、物理的、化学的手法により処理するだけでは、ピニトール以外の糖質類(グルコース,スクロース等の、植物体における一般的な糖質類)や夾雑物も同時に抽出され、しかも、これら糖質類等とピニトールとの分離が難しいからである。
【0009】
このような課題を解消する手法として、例えば、先の特許文献2,3では、酵母等の、ピニトール資化能のない微生物による糖資化工程を経ることにより、ピニトールを高純度で抽出する手法が提案されている。
【0010】
しかしながら、上記のような、酵母等の微生物による糖資化は、通常、上記微生物の活性温度である常温で行われることから、雑菌の繁殖が懸念される。雑菌が繁殖すると、ピニトールも分解消費されるおそれがある。そのため、殺菌工程等の煩雑な工程が必要となる。また、上記用途に従来から用いられている微生物は、ピニトールを高純度で得るといった課題目的を達成するのに要求される性能が、それほど高くなく、この点においても、未だ改善の余地がある。さらに、上記微生物による糖資化工程は、通常、長期にわたる発酵期間を要するものであり、生産性の点で好ましいとはいえず、この点でも改善が求められる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、比較的簡易な処理により、雑菌の繁殖を抑えつつ、ピニトールを、短期間で、かつ高純度で得ることができる、ピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法およびそれに用いる微生物の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、ピニトール含有植物体を資源とし、下記(A)に示す細菌の培養を高温域で行う工程を備えているピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法を第1の要旨とする。
(A)ピニトールを除く糖質類の分解能を有する、好熱性ジオバチルス属細菌。
【0013】
また、本発明は、ピニトールを除く糖質類の分解能を有するジオバチルス カウストフィラス PS8 (Geobacillus kaustophilus PS8, FERM P-21938)を第2の要旨とする。
【0014】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、ピニトール含有植物体の糖資化処理を、雑菌の繁殖を抑えるため、高温域で行うことを想起し、それに適合し得る好熱性細菌を模索した。その過程で、好熱性細菌であるジオバチルス属細菌を利用することを検討し、各種実験を繰り返し行った結果、多種のジオバチルス属細菌のなかから、ピニトールを除く糖質類の分解能を有する菌体(変異株)が存在することを突き止めた。そして、上記植物体を資源とし、この菌体の培養を高温域で行うことにより、雑菌の繁殖を抑えつつ、簡易に、高純度のピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を得ることができ、しかも、糖資化処理に従来から用いられている酵母等の微生物に比べ、短期間で、かつ高純度で、ピニトールが得られることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のピニトール(もしくはピニトール含有組成物)の製法は、ピニトール含有植物体を資源とし、特殊な性能を有する好熱性ジオバチルス属細菌の培養を高温域で行い、糖資化処理するといった工程を経ることにより行われる。これにより、比較的簡易な処理により、雑菌の繁殖を抑えつつ、ピニトールを、短期間で、かつ高純度で得ることができる。また、製造コストの面でも有利であることから、産業上有用である。そして、本発明の製法により得られたピニトール(もしくはピニトール含有組成物)は、副作用なく、血糖値の異常,糖尿病,肝障害,白内障,肥満等の症状の改善・緩和、およびその予防に優れた効果を発揮することができる。
【0016】
特に、上記好熱性ジオバチルス属細菌が、ジオバチルス カウストフィラス PS8 (Geobacillus kaustophilus PS8, FERM P-21938)であると、ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)の精製効率が、より優れるようになる。
【0017】
ジオバチルス カウストフィラス PS8 (Geobacillus kaustophilus PS8, FERM P-21938)は、本出願人が新たに発見した新規微生物であり、この菌株は、ピニトールを分解する能力は有しないが、グルコース,スクロースといった糖質類や、夾雑物を分解する能力が極めて高い。そのため、上記のように、本発明のピニトール(もしくはピニトール含有組成物)の製法に有利に用いることができる。なお、この菌株は、ピニトールの他、ミヨ−イノシトール,D−キロ−イノシトール,シロ−イノシトール等のイノシトールに対する分解能も有しないことが確認されており、そのため、この菌株は、ピニトール以外の他のイノシトールの製造への適応も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の製法により得られた濃縮液中のピニトール含量およびその他の糖質類の含量を示す、クロマトグラムである。
【図2】比較例1の製法により得られた濃縮液中のピニトール含量およびその他の糖質類の含量を示す、クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法は、ピニトール含有植物体を資源とし、下記(A)に示す細菌の培養を高温域で行う工程を備えている。なお、上記「ピニトールもしくはピニトール含有組成物」とは、純粋なピニトールと、ピニトール以外の成分も含むものとの両方を指す。
(A)ピニトールを除く糖質類の分解能を有する、好熱性ジオバチルス属細菌。
【0020】
また、上記(A)の「ピニトールを除く糖質類の分解能を有する」とは、「ピニトールを除く全ての糖質類の分解能を有する」という趣旨ではなく、「ピニトールは分解消費しないが、グルコース,スクロース等の、植物体における一般的な糖質類(炭素源)は効率的に分解消費する」ことを意味する。そして、このような特殊な性能を有する好熱性ジオバチルス属細菌は、特定生息域での微生物の採取や、いわゆるスクリーニングによる選別作業等により得ることができる。スクリーニング処理に関して言えば、例えば、エチルメタンスルフォネート処理して選抜された変異株を、ペニシリンスクリーニング等することにより行われる。これにより、グルコース,スクロース等の糖質類を炭素源とする培地では生育可能であるが、ピニトールのみを炭素源とする培地では生育不可能な菌体(ピニトール非利用株)を選抜することができる。
【0021】
なお、上記エチルメタンスルフォネート処理は、DNAの塩基にメチル基を付加する事により、グアニン/シトシンからアデニン/チミンへ変換させるために行われる。また、上記ペニシリンスクリーニングにおける、菌体へのペニシリン処理は、菌体が増殖する際の細胞壁合成酵素の働きを阻害することにより、菌体の分裂を阻止するため行われる。また、上記ペニシリン処理により、細胞分裂を始めた菌体だけが死ぬことから、「利用できる栄養源があると細胞分裂を始めるが、利用できない栄養源しかないと細胞分裂を止める。」といった菌体の性質を利用し、上記のようにして、ピニトール非利用株のみを選抜することが可能である。
【0022】
上記のようにして得られた菌体がピニトールの分解能を有しないことは、例えば、上記菌体のイノシトール脱水素酵素活性を測定することにより、確認することができる。すなわち、上記菌体がピニトールの分解能を有しないのであれば、イノシトール脱水素酵素活性も欠失しているからである。
【0023】
そして、上記菌体におけるイノシトール脱水素酵素活性は、例えば、つぎのようにして確認することができる。すなわち、まず、イノシトール(ピニトール、ミヨ−イノシトール等)を炭素源とする培地で培養した菌体を、遠心分離により集菌し、ついで洗浄を繰り返し、そのあと、菌体に対し、薬品処理,遠心分離処理,超音波処理等を行い、酵素液を得る。そして、この酵素液と、酵素活性測定用バッファー(5mM β−NAD+ 100ml、1M Tris−HCl[pH8.0] 100ml、dH2O 660ml)と、基質である0.5M イノシトールとを、それぞれ恒温槽で55℃に温めておき、バッファー860mlと酵素液40mlをセルに入れ混和し、さらに0.5M イノシトール100mlをセルに添加して混和する。このようにして得られた反応液の、340nmにおける吸光度の増加を、経時的に測定し、下記の数式(1)に当てはめることにより、イノシトール脱水素酵素活性が求められる。
【0024】
【数1】

【0025】
そして、本発明の製法に用いられる、上記(A)の特性を示す好熱性ジオバチルス属細菌のなかでも、特に、ジオバチルス カウストフィラス PS8 (Geobacillus kaustophilus PS8, FERM P-21938)であると、ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)の精製効率がより優れるようになるため、好ましい。
【0026】
なお、上記菌株は、本出願人が、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した菌株であり、ペニシリンスクリーニングによって取得したジオバチルス カウストフィラス HTA426(JCM12893)の変異株である。そして、この菌株は、ほぼ完全にイノシトール脱水素酵素活性を欠失しており、イノシトール類を単一炭素源として生育することはできないが、他の糖質であれば良好に分解利用する性質を有する。すなわち、ピニトールの他、ミヨ−イノシトール,D−キロ−イノシトール,シロ−イノシトール等のイノシトールに対する分解能も有しないことが確認されている。そのため、この菌株の使用により、ピニトール以外の他のイノシトールの製造への適応も可能である。なお、上記菌株は、その培養液750mlに対して80%グリセロール250mlを混和してから、−80℃にて冷凍保存することができる。
【0027】
本発明の製法に用いられる、ピニトール含有植物体としては、例えば、イナゴ豆、大豆、黒大豆、松、クローバー、レンゲ、カーネーション、ブーゲンビリア等があげられる。これら植物体において、ピニトールが多く含まれる部位は、植物体の種類によって異なる。すなわち、種子(豆等)をはじめ、鞘、茎、葉にもピニトールは含まれる。特に、大豆(黒大豆も含む)においては、種子(豆)よりも、種子を取り除いた後の廃棄対象部位(鞘、茎、葉)のほうが、ピニトール含有量が多いことが確認されている。そのため、上記ピニトール含有植物体として、このような大豆の廃棄対象部位を用いることにより、材料コストを抑えることができ、安価で、目的とするピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を得ることができ、好ましい。
【0028】
上記植物体は、そのまま使用してもよいし、予め細断、破砕、切断、凍結乾燥、脱水などの処理を行った後に使用してもよい。また、これらの抽出液を用いることが、ピニトール抽出の観点から好ましい。この抽出液は、例えば、高温の抽出溶媒に上記植物体を浸漬することにより行われる。上記抽出溶媒としては、水、メタノール, エタノール, イソプロパノール, n−プロパノール, アセトン等の水溶性溶媒、またはこれらの混合溶媒が用いられる。また、上記抽出溶媒による抽出温度は、50〜120℃であることが、抽出効率の点から好ましい。特に、熱水(80〜120℃)で抽出を行うと、上記植物体の殺菌を同時に行える観点から、より好ましい。さらに、上記抽出方法において、上記抽出媒体を還流させて抽出してもよい。
【0029】
続いて、上記植物体を資源(上記植物体の抽出液、もしくは植物体そのもの)とし、これに、適宜、水、緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液等)を加え、そこに、前記(A)の細菌を植菌し、高温域で上記細菌の培養を行う。特に、リン酸緩衝液を加えると、上記細菌の培養が良好に行えるため、好ましい。なお、上記「高温域」とは、42℃以上を意味し、好ましくは42〜74℃、より好ましくは55〜65℃の範囲である。前記(A)の細菌は好熱性細菌であることから、このような高温での培養が可能であり、また、このように高温域に設定することにより、雑菌の繁殖を抑えることができる。
【0030】
そして、上記細菌の培養は、好気条件下で、18〜72時間行うことが好ましく、より好ましくは、24〜48時間行う。すなわち、前記(A)の細菌を高温域で培養することにより、このように短時間であっても、ピニトールを除く糖質類の効率的な分解消費が行われることから、短期間で、高純度のピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を得ることができ、製造効率を向上させることができる。
【0031】
上記培養工程(糖資化工程)により得られた培養液は、高純度のピニトールを含有するため、そのまま利用することも可能であるが、必要に応じ、濃縮し、その後、エタノールを加えて培養液中の不溶性物質を沈殿させるといった工程を経て、その上清を採取して利用するといったことが行われる。上記不溶性物質には、前記(A)の菌体そのものも含まれ、この工程を経ることにより、より高純度のピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を得ることができる。
【0032】
また、上記培養工程の後(もしくは上記のような沈殿処理の後)、その培養液を、遠心分離法,濾過法,沈殿法,液液分配法,吸着クロマトグラフィー,分配クロマトグラフィー,疎水性相互作用クロマトグラフィー,イオン交換クロマトグラフィー,サイズ排除クロマトグラフィー,向流液液分配法といった処理法を適用することにより、目的とするピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を、より高純度で得ることができ、好ましい。なお、上記処理法は、単独で適用してもよいし、二種以上の処理法を併せて適用してもよい。
【0033】
上記処理法のなかでも、より好ましい処理法は、イオン交換クロマトグラフィーである。すなわち、ピニトールは、極性を有さず、イオン交換カラムに吸着されないため、「イオン交換カラムに上記培養液を通液し、上記イオン交換カラムから排出されたピニトール溶出液をそのまま回収する」といった、比較的簡易な処理により、ピニトールを高純度で得ることができるからである。なお、イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂いずれも使用することができる。例えば、酸でH型に変換した陽イオン交換樹脂、アルカリでOH型に変換した陰イオン交換樹脂に抽出液を順次通過させて脱塩処理し、目的とする純度にまで精製することができる。
【0034】
そして、このようにして得られた抽出液を、濃縮、乾燥等することにより、目的とするピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を得ることができる。
【0035】
このようにして得られたピニトール(もしくはピニトール含有組成物)は、高純度(少なくとも、純度50%。通常、95〜100%の純度。)であることから、その医薬品や飲食品の機能性を向上させるのに有用である。また、高純度であることから、研究用試薬としても有用である。上記ピニトールの純度は、例えば、適当な条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析し、目的とする化合物(ピニトール)のピークと、他の糖質類や夾雑物のピークとの面積比を求めることにより確認することができる。
【0036】
そして、上記ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)は、副作用なく、血糖値の異常,糖尿病,肝障害,白内障,肥満等の症状の改善・緩和、およびその予防に優れた効果を発揮することができる。
【0037】
上記ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を、適当な液状担体に溶解あるいは分散させたり、適当な粉末担体に混合させたりする場合、薬理学的に許容される担体として、例えば、固形製剤における賦形剤,滑沢剤,結合剤及び崩壊剤、あるいは、液状製剤における溶剤,溶解補助剤,懸濁化剤,等張化剤,緩衝剤及び無痛化剤等が用いられる。
【0038】
また、上記ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)の製剤化には、通常製剤化に用いられる各種の成分が任意に使用されるが、その例としては、例えば、デンプン、デキストリン、乳糖、コーンスターチ、無機塩類等があげられる。
【0039】
そして、上記ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を、医薬品ないしサプリメントとして提供する際の剤型としては、例えば、アンプル、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、輸液、ドリンク剤等があげられる。
【0040】
さらに、上記ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)は、飲食品に関与させた形態としても提供することができる。上記飲食品としては、例えば、健康食品(タブレット、粉末、顆粒、濃縮液体)、清涼飲料、特定保健用食品、ドリンク、お茶、ミルク、プリン、ゼリー、飴、ガム、ヨーグルト、チョコレート、スープ、クッキー、スナック菓子、ワイン、焼酎、日本酒、ドレッシング、煮豆、豆腐、納豆、豆乳、煎り豆、乾燥豆、味噌等があげられる。そして、これらの飲食品を、通常の飲食品と同様に継続して飲食することにより、先に述べたような、ピニトールによる作用効果(血糖値の異常,糖尿病,肝障害,白内障,肥満等の症状の改善・緩和効果、およびその予防効果)が得られるようになる。なお、本発明の製法により、グルコース,スクロース等の、肥満等の原因となり得るカロリー性甘味料は分解除去されるが、ピニトールには特有の甘味があることから、上記飲食品に、肥満等の原因となり得るカロリー性甘味料を実質的に含有させずに、上記飲食品に甘味を付与し得るという効果もある。
【0041】
なお、上記ピニトール(もしくはピニトール含有組成物)は、ペットや家畜等の動物に対する投与も可能である。そのため、ペットフードや飼料に関与させた形態としても提供することもできる。
【実施例】
【0042】
つぎに、実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
大豆植物体(品種名:大鶴)100個体〔鞘、茎、葉の全てを含む〕を、その倍量の水(120℃)で20分間煮出し、抽出液を得た。そして、上記抽出液250mlと、水650mlと、10mMリン酸緩衝液との混合液を調製し、これに、ジオバチルス カウストフィラス PS8 (Geobacillus kaustophilus PS8, FERM P-21938)を植菌した。続いて、この細菌を60℃で42時間培養した後、その培養液を250mlまで濃縮し、さらにエタノールを等量添加し、一晩低温室(4℃)で静置した。これにより、沈殿物が発生するため、その上清を採取し、さらに、上記上清を濾過した。この濾液を、80℃以上に加熱することによりエタノールを蒸発させた後、イオン交換カラムに通液し、ピニトールの回収精製を行った。なお、上記イオン交換カラムによるイオン交換クロマトグラフィーは、詳しくは、250mlの強陽イオン交換樹脂(DOWEX HCR-S H+タイプ、ダウ・ケミカル社製)を充填したカラムに上記濾液を添加した後に250mlの純水を加え、この間に流れ出た全ての溶出液500mlを集め、次に250mlの強陰イオン交換樹脂(Muromac A202 OH-タイプ、クロマチテクノス社製)を充填したカラムに、上記溶出液を全て添加した後、さらに500mlの純水を加え、この間に流れ出た全ての溶出液1000mlを集めることにより行った。そして、この溶出液を、電子レンジで過熱することによって水分を蒸発させて濃縮した。
【0044】
〔比較例1〕
細菌の植菌およびその培養を行わなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、ピニトールを含む溶出液を回収し濃縮した。
【0045】
つぎに、実施例および比較例の手法により得られた濃縮液を試料とし、濃縮液中のピニトール含量およびその他の糖質類の含量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析した。詳しくは、分析装置である日立ハイテク社製のHPLC LaChrom Elite(L−2490,2300,220,2130という構成)にワコーケミカル社製の分離カラムWakosil5NH2(4.6×250mm)およびガードカラムWakosil5NH2(4.6×10mm)を装着し、80%アセトニトリルを溶媒として流速2ml毎分、25℃という条件で示差屈折計によって溶質を検出することにより行った。
【0046】
上記HPLCによる実施例1の試料の分析結果(クロマトグラム)は、図1に示す通りである。また、上記HPLCによる比較例1の試料の分析結果は、図2に示す通りである。図2では、ピニトール(7分に溶出するピークに相当する)の他、スクロース(15分に溶出するピークに相当する)など他の糖質類のピークも確認されるのに対し、図1では、ピニトール以外の糖質類のピークがほとんど確認されないことがわかる。したがって、実施例1の製法により、ピニトールが高純度で得られていることがわかる。
【0047】
なお、大豆以外の植物原料(イナゴ豆,松,クローバー,レンゲ,カーネーション,ブーゲンビリア等のピニトール含有植物体)からも、実施例に示すような製法を適用することにより、高純度のピニトール(もしくはピニトール含有組成物)を、容易に得られることが、実験により確認されている。また、上記実施例では、大豆の種子(豆)を取り除いた後の廃棄対象部位(鞘、茎、葉)を使用しているが、大豆では、このような部位にピニトール含有量が多いことが、実験により確認されている。したがって、上記ピニトール含有植物体として、このような大豆の廃棄対象部位を用いることにより、材料コストを抑えることができ、安価で、目的とするピニトール(もしくはピニトール含有組成物)が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のピニトール(もしくはピニトール含有組成物)の製法は、比較的簡易な処理により、雑菌の繁殖を抑えつつ、ピニトールを、短期間で、かつ高純度で得ることができ、さらに製造コストの面でも有利であることから、産業上有用である。また、上記のように高純度で得られたピニトールは、医薬品や飲食品の材料として適用すると、その医薬品や飲食品の機能性を向上させるのに有用となる。さらに、上記のように高純度でピニトールを得ることができることから、上記製法により得られたピニトールは、研究用試薬としても有用である。また、上記製法により得られたピニトールは、水に溶けやすく、ヒトをはじめとする動物以外にも、植物にも適用可能であり、乾燥を防いだり、耐塩作用を向上させたりするのにも有用となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニトール含有植物体を資源とし、下記(A)に示す細菌の培養を高温域で行う工程を備えていることを特徴とするピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
(A)ピニトールを除く糖質類の分解能を有する、好熱性ジオバチルス属細菌。
【請求項2】
上記培養を、42〜74℃の高温域で行う請求項1記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項3】
上記(A)に示す細菌が、ジオバチルス カウストフィラス PS8 (Geobacillus kaustophilus PS8, FERM P-21938)である請求項1または2記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項4】
上記資源として、ピニトール含有植物体の熱水抽出液を用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項5】
上記資源にリン酸緩衝液を添加し、上記培養を行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項6】
上記ピニトール含有植物体が、イナゴ豆,大豆,黒大豆,松,クローバー,レンゲ,カーネーションおよびブーゲンビリアからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1〜5のいずれか一項に記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項7】
上記ピニトール含有植物体として、豆を取り除いた後の大豆の廃棄対象部位を用いる請求項1〜5のいずれか一項に記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項8】
上記培養を、好気条件下で18〜72時間行う請求項1〜7のいずれか一項に記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項9】
上記培養工程の後、その培養液を、遠心分離法,濾過法,沈殿法,液液分配法,吸着クロマトグラフィー,分配クロマトグラフィー,疎水性相互作用クロマトグラフィー,イオン交換クロマトグラフィー,サイズ排除クロマトグラフィーおよび向流液液分配法からなる群から選ばれた少なくとも一つの処理法を用いて精製する工程を備えている請求項1〜8のいずれか一項に記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項10】
上記精製工程の前に、上記培養工程により得られた培養液を濃縮し、それにエタノールを加えて培養液中の不溶性物質を沈殿させる工程を備えている請求項9記載のピニトールもしくはピニトール含有組成物の製法。
【請求項11】
ピニトールを除く糖質類の分解能を有することを特徴とするジオバチルス カウストフィラス PS8 (Geobacillus kaustophilus PS8, FERM P-21938)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−217696(P2011−217696A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92715(P2010−92715)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(391003129)フジッコ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】