説明

ピリドカルバゾール型化合物及びその適用

本発明は、薬物としての以下の一般式(I):


に対応するピリドカルバゾール型化合物の使用、より具体的には抗がん化学療法におけるそれらの適用に関する。本発明の別の主題は、特定の式(I)の化合物、及び本発明の式(I)の化合物を含む医薬組成物でもある。最終的には本発明は、神経変性型の病変、例えばアルツハイマー病及び統合失調症の予防及び/又は治療を目的とした薬物の調製のための、寄生虫病、例えばマラリアの予防及び/又は治療を目的とした薬物の調製のための、又は緑内障の予防及び/又は治療を目的とした薬物の調製のための式(I)の化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物としてのピリドカルバゾール型化合物の使用、より具体的には抗がん化学療法における、及びまた他のタイプの疾患(精神疾患、ウイルス疾患、寄生虫疾患又は真菌疾患)の治療のためのその適用に関する。これらの化合物が式(I)に対応し、その構造原型(archetype)をエリプチシンのものと比較することができる。本発明は特定の式(I)の化合物、及び式(I)の化合物を含む医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
紡錘体は長い間、細胞分裂において重要な役割を果たすため、抗がん化学療法における重要な標的として特定されてきた。微小管の機能障害は細胞の生存に対して劇的な影響を有し、細胞周期の停止を引き起こし、さらには場合によって細胞アポトーシスを誘導する可能性がある。
【0003】
微小管はアクチンマイクロフィラメント及び中間径フィラメントと共に、真核細胞の細胞骨格を形成する。これらは単一の二量体タンパク質、すなわちチューブリンで構成される中空の管状凝集体である。哺乳動物細胞では、微小管ネットワークは通例、微小管形成中心(中心体)で核を形成する。これらのネットワークは細胞質の組織化、オルガネラの配置、細胞の運動性及び細胞分裂等の複合的でかつ極めて重要な役割を果たす。有糸分裂中、微小管ネットワークは再組織化され、2つの娘細胞へと切断する前に、重複染色体を2つの同一のセットに分離するために細胞で利用される機構である紡錘体を形成する。紡錘体の完全性は特定のチェックポイントで制御される。任意の検出されない紡錘体の機能障害がゲノム不安定性の発端である場合があり、このため潜在的な腫瘍形成原因を表す(非特許文献1、非特許文献2)。
【0004】
微小管はチューブリンのα−二量体、β−二量体の重合により集合化する。微小管は遊離チューブリン二量体から迅速に重合すると共に、同じように迅速に脱重合することが可能である極めて動的な重合体である。微小管の動態は有糸分裂に極めて重要である(非特許文献3、非特許文献4)。
【0005】
微小管の動的挙動ネットワークは細胞において強く制御される。このネットワークは細胞型に応じて、いわゆる微小管関連タンパク質(MAP)のファミリーである、STOPタンパク質、タウタンパク質、スルビビン、スタスミン/Op18、Tog、並びに微小管脱重合キネシン、MCAK及びKif2Aを含む、微小管安定化タンパク質と微小管不安定化タンパク質の間の活性のバランスにより調節される。さらに、微小管伸長端(growing tips)と幾つかのタンパク質、例えばCLIP 170との相互作用により、微小管が安定化する。これらの見かけ上無関係なタンパク質は全て、微小管格子に沿って又は微小管末端でチューブリン二量体と結合していることが共通している。これらのタンパク質とチューブリンとの結合は、リン酸化/脱リン酸化プロセスにより、又はチューブリン翻訳後修飾、例えばチューブリンチロシン化サイクル(図1)により強く調節される(例えば非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。この翻訳後修飾は、特徴付けられていないチューブリンカルボキシペプチダーゼ(TCP)によるα−チューブリン鎖のカルボキシ末端のチロシン残基の環状(cyclic)除去、及びチューブリンチロシンリガーゼ(TTL)による同じ位置でのチロシン残基の再付加を伴う。最近になって、チューブリンのチロシン化が微小管プラス端トラッキングタンパク質、例えばCLIP−170のCAP−Glyとの微小管相互作用を調節することが分かってきた(非特許文献8)。
【0006】
チューブリンのチロシン化反応を触媒する酵素であるTTLは、チロシンを可溶性の脱チロシン化チューブリンに付加するが、一度チューブリンが微小管へと集合化すると、チューブリンとは効率的に反応しない。TCPについては、主に未だに均一になるまで精製できていないという理由で、あまり知られていない。間接的な証拠により、TCPが重合基質を選択すると考えられ、微小管との結合がその機能に必要とされ得ることが示される。TCPは微小管に対してゆっくりと作用するが、TTLは微小管から放出されると迅速にGlu−チューブリンを再充填させる(図1)(非特許文献7)。
【0007】
TTLの基質特異性及びTTLとTCPとの動態の違いの結果として、チロシン化チューブリン(Tyr−チューブリン)は動的微小管の主成分であり、in vitroでの周期細胞における優勢のチューブリン変異体である一方で、Glu−チューブリンは長期安定な微小管のマーカーである(非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12)。細胞型によっては、これらの脱チロシン化微小管が検出されず、又は小さい細胞亜集団を示す。微小管がエフェクタータンパク質又は薬剤、例えばパクリタキセルにより安定化する場合、脱チロシン化微小管が集積する(非特許文献13、非特許文献14)。
【0008】
ビンカ・アルカロイド系抗がん剤であるビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビン、並びにタキサン系抗がん剤であるパクリタキセル及びドセタキセルを含む臨床的に重要な幾つかの抗がん剤が、チューブリンを特異的に標的とし、微小管の動態を変更させる。これらの抗がん剤の臨床的成果を考慮すると、チューブリンはこれまでに同定された最も有効性が高いがん標的の1つである。
【0009】
さらにがんに加えて、例えば精神障害(非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17)及び神経変性疾患(非特許文献18、非特許文献19)、並びにウイルス感染(非特許文献20)、細菌感染(非特許文献21)及び寄生虫感染(非特許文献22)等の多くの疾患の病因における微小管細胞骨格の関与が説明されている。そのため微小管の細胞骨格及びその様々なエフェクターを標的とする薬理学的作用物質は多くの疾患の治療に関して治療上の利点を示し得る(非特許文献23)。
【0010】
このため、抗がん化学療法に用いられる治療は好ましくは、微小管の動的挙動を標的としている。特に、微小管の動的挙動はチューブリンの異なる部位と結合することができる多くの作用物質により妨げられ得る。現在ではチューブリン上でのこれらの様々な作用物質の結合に関する構造データが取得されている。パクリタキセルで安定化させたチューブリンプロトフィラメントの亜鉛誘導シートをパクリタキセルが結合したチューブリンモデルの構築に使用している。このモデルを電子密度微小管図に適合させた後、著者らはパクリタキセルが微小管腔に面するβ−チューブリンと結合すると結論付けた(非特許文献24)。タンパク質スタスミンと複合体を形成してチューブリンと結合したビンブラスチンのX線構造により、ビンブラスチンが2つのチューブリン分子の接点に楔を導入し、それによりチューブリンアセンブリに干渉することが分かっている(非特許文献25)。
【0011】
これらの研究によりこれまで、チューブリンに対する微小管毒の3つの結合部位が特徴付けられている:2つのα/β−チューブリン二量体間の接点に位置するニチニチソウのアルカロイドのドメイン、βサブユニット上に位置するタキソイド部位、及びαサブユニットとβサブユニットとの間の接点に位置するコルヒチン部位。
【0012】
微小管を不安定化又は安定化させるかに従って、これらの様々な作用物質を分類する。
微小管を不安定化させる作用物質:
ニチニチソウアルカロイド(微小管を脱重合することのできる)を、異常な紡錘体により有糸分裂の際に細胞を停止させることのできる作用物質として特定している。続いて1960年代に、ビンクリスチン及びビンブラスチンが臨床薬に導入され、未だに精巣がん、ホジキン病又は急性リンパ性白血病の化学療法に広く用いられている。
【0013】
微小管の重合を阻害するコルヒチン又はコンブレタスタチン、及びまたノコダゾールも言及され得る。
微小管を安定化させる作用物質:
タキサン、より具体的にはパクリタキセルがチューブリン1モル当たり約1モルのタキサンの化学量論で微小管と特異的かつ可逆的に相互作用する。この相互作用は微小管の安定化を伴い、そのため冷温(4℃)又はCa2+イオンの存在によりin vitroで誘導される脱重合に耐性になる。
【0014】
パクリタキセル及び他のタキサンは、主に微小管で発揮される安定化効果により他の抗チューブリン毒とは区別される。パクリタキセル又はビンカ・アルカロイド等の抗がん剤はこれまでは反対の機構を介して働くと考えられてきた。現在ではこれらは微小管の全体量を増減させるのではなく微小管の動態を変更することにより作用することが知られている。特に乳がん、卵巣がん及び肺がんにおけるそれらの抗腫瘍有効性にかかわらず、増殖の際に非癌性細胞(造血細胞、粘液細胞等)の微小管にも作用するため、タキサンは極めて毒性が高い。最後にこれらは末梢ニューロンに悪影響を与え、重大な副作用を引き起こす可能性がある。
【0015】
エポチロン及びディスコデルモリド等の微小管を安定化させる特性を示す他の天然産物の抗腫瘍特性に関してヒトの臨床試験において現在研究されている。
【0016】
パクリタキセルの治療成果により、チューブリンを標的とする治療剤への探求に対する優位性が維持されている。これらの作用物質の臨床的成果を考慮すると、チューブリンは現在、抗がん化学療法における最も有効な標的の一つである(非特許文献26、非特許文献27、非特許文献28)。
【0017】
しかしながら従来技術で知られている物質のほとんどは有益ではあるものの、理想的なものではない。それらには幾つかの副作用、主に骨髄抑制及び末梢神経毒性がある。チューブリン薬に関連する神経毒性の副作用は、チューブリンが細胞分裂だけでなく有糸分裂と独立した細胞骨格機能においても重要な因子であるので驚くべきことではない。さらに多くのがんがこれらの薬剤に本質的に耐性であるか、又は長期治療中に耐性になる。これは薬剤排出ポンプとして機能するP−糖タンパク質、又は他の薬剤排出ポンプ(例えば乳がん耐性タンパク質(BCRP))の過剰発現により引き起こされる多剤耐性の結果であることが多い。他の耐性原因としては、特定の薬剤があまり効果的に結合しないチューブリンアイソタイプの発現の増大、及びこれにより結合が低減される翻訳後修飾又は突然変異によるチューブリン構造の変化が挙げられる。
【0018】
潜在的により効果的であり、かつ毒性の低い薬剤の開発のために幾つかの戦略が提案されている。その一つは既存の薬剤を改良すること又はチューブリンを標的とする新たな薬剤を見つけることである。
【0019】
別のアプローチは、分裂細胞でのみ発現し、また阻害により有糸分裂が停止する他のタンパク質、例えば(such)有糸分裂チェックポイントタンパク質を標的とすることにある。様々なタンパク質ファミリーの成員(キナーゼ及びキネシン)が現在研究中である。これらのタンパク質の多くが、別々の段階の有糸分裂で非常に特殊化し、かつ特異的な機能を有すると考えられるため、これらのタンパク質の阻害により、チューブリンを標的とする既存の抗有糸分裂療法に比べて治療指数の改善が潜在的に可能であったと推測された。しかしながら、副作用が潜在的に低いという、新規の抗チューブリン剤の代わりに、紡錘体機能の特定の阻害因子の探求することの基礎をなす論拠は弱くなっている。一方で、有糸分裂における特異的な作用が知られているAurora A等のキナーゼが中間期の微小管骨格に対する効果を示すことが近年分かってきている。他方でこのことから、微小管毒の抗腫瘍効果の幾つかがチューブリン細胞骨格との中間期の相互作用にも起因し得る(非特許文献29、非特許文献30)。
【0020】
チューブリン(又は微小管)を直接標的とする、又は微小管の動態を調節することができるタンパク質を標的とする微小管の動態を破壊する作用物質(非特許文献31、非特許文献32)の探求は依然として癌腫学における重要な問題となっている。
【0021】
驚くべきことに出願人は、本発明による式(I)の化合物が従来技術で知られている化合物と比較して幾つかの利点を有することを見出している:
これらの化合物がGlu−チューブリンを生成すると共に、ノコダゾールにより誘導される脱重合に対する微小管ネットワークの耐性を誘導することができる。in vitroでは、これらの化合物はチューブリンとは直接作用しない。そのためこれらの化合物は微小管を安定化させるが、チューブリンと結合することができる他の既知の微小管を安定化させる化合物、例えばタキサン又はエポチロンとは異なる作用機序を有する。
これらの化合物は従来技術で知られている化合物よりも著しく毒性が低く、従来技術の化合物で観察される高い耐性の場合であっても活性である。
さらにこれらの化合物はアクチン細胞骨格に対する効果がある。アクチン細胞骨格は再組織化され、ラトランクリンにより誘導される脱重合に或る程度耐性となる。細胞の運動性が阻害される。このようにして細胞の運動性を阻害することにより、これらの化合物は腫瘍の遠隔播種を低減することができ、このためさらなる抗転移特性を有する。
このためこれらの化合物は、特に例えば他の治療(タキサン)に対する耐性の出現が観察される場合に、有益な代替治療を構成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Castillo et al., 2007
【非特許文献2】Kops et al., 2005
【非特許文献3】Jordan and Wilson, 2004
【非特許文献4】Niethammer et al., 2007
【非特許文献5】Barra et al., 1998
【非特許文献6】Lafanechere and Job, 2000
【非特許文献7】MacRae, 1997
【非特許文献8】Peris et al., 2006
【非特許文献9】Peris et al., 2009
【非特許文献10】Gundersen et al., 1984
【非特許文献11】Gundersen et al., 1987
【非特許文献12】Wheland and Weber 1987
【非特許文献13】Fonrose et al., 2007
【非特許文献14】Vassal et al., 2006
【非特許文献15】Andrieux et al., 2006
【非特許文献16】Andrieux et al., 2002
【非特許文献17】Begou et al., 2008
【非特許文献18】Dermaut et al., 2005
【非特許文献19】Garcia et Cleveland, 2001
【非特許文献20】Ruthel et al., 2005
【非特許文献21】Margalit et al., 2004
【非特許文献22】Morrissette and Sibley, 2002
【非特許文献23】Lafanechere, 2008
【非特許文献24】Snyder et al., 2001
【非特許文献25】Gigant et al., 2005
【非特許文献26】Giannakakou et al., 2000
【非特許文献27】Jackson et al., 2007
【非特許文献28】Zhou and Giannakakou, 2005
【非特許文献29】Pan and Snell, 2007
【非特許文献30】Pugacheva et al., 2007
【非特許文献31】Bhat and Setaluri, 2007
【非特許文献32】Muller et al., 2007
【発明の概要】
【0023】
したがって本発明の主題の一つは薬物としての式(I)の化合物である。
【0024】
このため本発明の第1の主題は、以下の式(I):
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、
は水素原子、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基、1個〜4個の炭素原子を有するアミノアルキル基、又はモノアルキルアミノアルキル基若しくはジアルキルアミノアルキル基(該2つのアルキル基が1個〜4個の炭素原子を有する)を表し、
は水素原子又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
は1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
−ORはヒドロキシル基、1個〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基若しくは式−O−(CH−Zのアルコキシ基、若しくは1個〜4個の炭素原子を有するエステル基若しくは式−OC(O)Zのエステル基を表し、ここで
Zは3個〜6個の炭素原子を有するシクロアルキル基、又はフェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基及びオキサゾリル基から選択されるアリール基(該アリール基はハロゲン原子、−OH基、−NO基又は−NH基、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基、1個〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基及び1個〜4個の炭素原子を有するモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基から選択される、同一の又は異なる1つ、2つ又は3つの置換基によりオルト位、メタ位又はパラ位で必要に応じて置換されていてもよい)であり、
nは1〜4の範囲の、好ましくは1に等しい整数であり、又は
−OR基は式:
【0027】
【化2】

【0028】
に対応し、ここで
VはCH、O、NH又はN−アルキルから選択され、該アルキル基は1個〜4個の炭素原子を有し、
n’は2又は3に等しく、
は水素原子又はジアルキルアミノメチル基(ここで該アルキル基は1個〜4個の炭素原子を有する)を表し、
は二重結合によりD環と結合した酸素原子、ハロゲン原子、又は1個〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、
は水素原子又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
は水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、式
【0029】
【化3】

【0030】
のアルキルカルボキシアルキレン基、若しくは式
【0031】
【化4】

【0032】
のジアルキルホスフェートアルキレン基(ここで該アルキル基及び該アルキレン基が1個〜4個の炭素原子を有する)、又は1個〜4個の炭素原子を有するエステル基を表し、Rが二重結合によりD環と結合した酸素原子である場合にのみRが存在する)に対応する薬物としての四環系化合物及びそれらの薬学的に許容される塩に関する。
【0033】
上で規定された式(I)の化合物の幾つかは既に中間生成物として従来技術で説明されているが、これまでに薬物としては説明されていない(J.C.S. Perkin I, 1979, 7, 1706-1711、Tetrahedron, 1993, 49(4), 2915-2938、J. Med. Chem., 1983, 26, 181-185、特許出願(欧州特許第0 317 416号及び欧州特許第0 010 029号))。
【0034】
式(I)の化合物は以下の構造により表すことができる。
【0035】
【化5】

【0036】
本発明の式(I)の化合物は塩形態であってもよい。この場合、塩酸、臭化水素酸、マレイン酸又はメタンスルホン酸の塩が好ましい。
【0037】
上記化合物の有益な用途のうち、がんの治療、転移の治療、及び他のタイプの疾患(例えば精神疾患、ウイルス疾患、寄生虫疾患又は真菌疾患)の治療に言及することができる。
【0038】
驚くべきことに、上で規定された式(I)の化合物は、細胞に浸透すると共に、微小管及びマイクロフィラメントを安定化させることができ、それによりGlu−チューブリンの形成、微小管の動的挙動の減速、アクチンマイクロフィラメントの再組織化及び安定化(ラトランクリン誘導性の脱重合に対する幾らかの耐性により示される)が引き起こされる。これらの化合物は、タキサン若しくはエポチロン等の他の既知の微小管を安定化させる化合物、又はジャスプラキノリド等のアクチンフィラメントを安定化させる既知の化合物とは異なる作用機序を有する。
【0039】
より具体的には、本発明による化合物は細胞の運動性の阻害と結び付いたアクチンフィラメントの再組織化を誘導し、本発明者らはこれより、LIMK1が式(I)の化合物の標的であり得ることを見出した。
【0040】
本発明による化合物の構造原型は、オクロシア・エリプティカ(Ochrosia elliptica)から単離された精製アルカロイドであるエリプチシンのものと同様であり、以下の式に対応する。
【0041】
【化6】

【0042】
エリプチシン及びエリプチシン誘導体は或る特定のがんにおける抗がん活性及び細胞毒性に関して知られており(Dodion et al., 1982、Hayat et al., 1974、Juret et al., 1980、Le Mee et al., 1998、Paoletti et al., 1980、Tura et al., 1984)、それらの作用機序は主に、DNA挿入、トポイソメラーゼII阻害、及びP450シトクロム及びペルオキシダーゼによるDNAを有する共有結合付加体の形成の特性に応じて変わる。本発明による化合物とは異なり、エリプチシンは細胞微小管の安定化にも、アクチンマイクロフィラメントの安定化にも全く効果を有しない。
【0043】
多くのエリプチシンの誘導体又は類似体が説明されている:
PCT国際出願(国際公開第2007/135538号)は、転移がん又は従来の細胞毒性を有する化学療法では治療することができないがんの治療のためのエリプチシン(ellipticium)誘導体(9−ヒドロキシエリプチシン)の使用を記載している。記載の化合物は、細胞の運動性の低減及び細胞接着性の回復を伴う、腫瘍細胞におけるアクチンの細胞骨格の再構築を誘導する。
【0044】
欧州出願(欧州特許第0 209 511号)は、式:
【0045】
【化7】

【0046】
(式中、−Alkは低級アルキレン基を表し、−Amはジ(低級アルキル)アミノ基を表す)の2−アミノアルキル−9−ヒドロキシエリプチシニウム誘導体の塩化物塩酸塩を記載しており、これらの化合物は抗腫瘍作用を有する医薬組成物における有効成分として使用することが可能である。
【0047】
仏国出願(仏国特許第2 859 474号)は、細胞中でプレメッセンジャーRNAをスプライシングするプロセスに関連する疾患を治療するため、より具体的にはプレメッセンジャーRNAのスプライシングが変更された遺伝子疾患、例えば広範なスプライシングプロセスに作用する或る特定のがん(乳がん、結腸がん及び或る特定のリンパ腫)を治療するために使用することができる薬物の調製のためのインドール由来の化合物及びこのような化合物の使用を記載している。
【0048】
これらの様々な文献に記載されている化合物とは構造が異なる本発明による化合物は驚くべきことに、微小管を安定化させる特性を有し、またアクチンネットワークを再組織化する特性も有し、或る程度までアクチンネットワークを安定化させると共に、主にLIMK1阻害因子として作用する。
【0049】
LIMK1(LIMキナーゼ1)はアクチン脱重合因子であるコフィリンをリン酸化させることによりアクチン重合を調節し、LIMK1はタンパク質p25をリン酸化させることにより微小管解離及び微小管(MT)不安定化の調節にも関与する。このためLIMK1は微小管解離とアクチン重合との両方を連動させる(Gorovoy et al., 2005、Acevedo et al., 2007)。
【0050】
そのためより正確には、LIMドメイン及びPDZドメインを含有するセリン/トレオニンキナーゼであるLIMK1は、セリン3上でコフィリンをリン酸化し、アクチン切断活性を不活性化することによりアクチン細胞骨格の調節において中心的な役割を果たす(Arber et al., 1998、Yang et al., 1998)。アクチン細胞骨格の重要性を考慮すると、LIMK1は多くの生物学的プロセス、具体的には細胞の形態及び運動性の調節において中心的な役割を果たす。
【0051】
腫瘍細胞の転移表現型への進行中に、接触阻害の喪失から始まり、運動性が増大し、腫瘍細胞が原発腫瘍部位から移動し、遠隔臓器に浸潤して、血管新生を誘導し、転移を引き起こすという一連の変化が起こる(Yoshioka et al., 2003)。
【0052】
腫瘍細胞が転移性になると、浸潤が促進するように、アクチン細胞骨格、細胞の形状及び運動性を制御する正常な機構が破壊される可能性がある。コフィリンのリン酸化におけるLIMK1の役割を考慮すると、LIMK1は腫瘍の浸潤及び転移において中心的でかつ重要な役割を果たす。リン酸化コフィリンと非リン酸化コフィリンとの間のバランスにより腫瘍細胞の転移能が決定されることが提案されている。実際、リン酸化コフィリンの増大が観察された場合、LIMK1は悪性のメラノーマ細胞、乳がん腫瘍、前立腺腫瘍及び腫瘍細胞株で過剰発現することが分かっている(Scott and Olson, 2007、Wang et al., 2007)。
【0053】
このため本発明による化合物は様々ながん株(株及び化合物に応じて1μM〜60μM程度のIC50)、具体的に抗がん化学療法に用いられる薬剤(タキサン、ビンカ・アルカロイド、アントラサイクリン(antracyclines)等)に対する耐性機構を発達させた株に対する毒性がある。
【0054】
したがって本発明による化合物は、特に現行の化学療法に耐性があるがんに、及び転移において有用である、新規の抗がん剤群を示す。
【0055】
LIMK1阻害因子として作用する本発明の化合物はLIMK1が関与する他の病態、例えば神経変性疾患(Bernard, 2007、Heredia et al., 2006)、原発性肺高血圧症(Scott and Olson, 2007)及び緑内障にも使用することができる。
【0056】
有益には、R基は水素原子である。しかしながらR基は、式−(CHn’’NR’R’’
(式中、
R’及びR’’(同一の又は異なる)は水素原子又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
n’’は1〜4と様々である)のジアルキルアミノアルキル基でもあり得る。
【0057】
好ましくは、式(I)の化合物はR基が水素原子又はメチル基、より好ましくはさらにはメチル基である構造に対応する。
【0058】
基に関しては、メチル基であるのが好ましい。
【0059】
−OR基は有利には、−OH基又はメトキシ基であり得る。
【0060】
−OR基が式−O−(CH−Zのアルコキシ基又は式−OC(O)Zのエステル基である場合、該−OR基は式−O−CH−Cのベンジルエーテル基又は式−OC(O)Cのエステル基であるのが好ましく、該基は−NO基、−NH基、−N(CH基、−CN基、−CHNH基又は−CHN(CH基から選択される置換基によりオルト位、メタ位又はパラ位で任意に置換していてもよい。
【0061】
−OR基は上で規定されたような式−O−(CH−Zのアルコキシ基及び式−OC(O)Zのエステルであるのが最も好ましい。
【0062】
基は有利には、水素原子、又はR基がジアルキルアミノアルキル基である場合、ジメチルアミノメチルであり得る。
【0063】
好ましくは、式(I)の化合物のR基は水素原子である。
【0064】
基は好ましくは二重結合によりD環と結合した酸素原子、又はハロゲン原子であり、より好ましくはさらには二重結合によりD環と結合した酸素原子である。
【0065】
1つの好ましい実施の形態によれば、R基は二重結合によりD環と結合した酸素原子を表し、R基は水素原子を表し、この場合R基を有する炭素原子とR基を有する窒素原子との間の結合は単結合である。この場合、本発明による式(I)の化合物は以下の構造(Ib)に対応する。
【0066】
【化8】

【0067】
式(I)の化合物の中で、構造(Ib)の化合物がLIMK1阻害因子として最も活性が高く、好ましくは該構造(Ib)の化合物の中で、
−ORが上で規定したようにヒドロキシル基、式−O−(CH−Zの基、又は式−OC(O)Zの基を表し、
が水素原子であり、
が水素原子であるものが特に好ましいと思われる。
【0068】
別の変形形態によれば、R基はハロゲン原子、より好ましくは塩素原子、又は1個〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基を表す。
【0069】
この場合、本発明による式(I)の化合物は以下の構造(Ia)に対応する。
【0070】
【化9】

【0071】
最も好ましい実施の形態では、式(I)の化合物は、式:
【0072】
【化10】

【0073】
又は式:
【0074】
【化11】

【0075】
又は式:
【0076】
【化12】

【0077】
又は式:
【0078】
【化13】

【0079】
又は式:
【0080】
【化14】

【0081】
に対応する。
【0082】
本発明の別の主題は以下の特定の式(I)の化合物である。
【0083】
【化15】

【0084】
本発明の別の主題は、有効成分としての少なくとも1つの上で規定した化合物と少なくとも1つの薬学的に許容されるビヒクルとを含む医薬組成物である。
【0085】
上記医薬組成物の1つの有益な実施の形態によれば、医薬組成物は別の抗がん有効成分も含む。
【0086】
上記医薬組成物には固体形態の組成物(錠剤、ゲルカプセル、カプセル等)、及び液体形態の組成物(溶液、懸濁液又はエマルション)の両方が含まれ、経口投与、局所投与又は非経口投与に好適な賦形剤を含む。
【0087】
本発明による化合物又は組成物の投与を経口経路で又は非経口経路(特にかん流又は静脈注射)で行うのが好ましい。好適な期間、通例2時間〜24時間、好ましくは2時間〜12時間にわたるかん流による投与が一般的には好ましい。
【0088】
化合物の用量は選択される製剤、投与方法及び治療対象の腫瘍によって変わる。年齢、体重、身長又は性別等の他の因子、及び或る特定の生物学的パラメータ(排出率、他の薬物との関連性、アレルギー等)も考慮しなければならない。以下の実施例により、当業者が最も好適な用量を決定することが可能である。
【0089】
本発明の別の主題は上で規定したような式(I)の化合物の微小管を安定化させる活性を評価する方法である。
【0090】
スクリーニング試験はJ. Biomol. Screen(非特許文献14)の刊行物の主題であったが、式(I)の化合物を評価するために適合させた。このため上記方法は以下を含む。
1.真核細胞を試験対象の化合物とインキュベートした後の、微小管ネットワークを保護するが脱重合したチューブリンの排出を可能にするバッファーによる細胞の透過処理、
2.細胞の固定後、Tyr−チューブリンを抗チロシン化チューブリン一次抗体及び波長λ1で(例えば赤色領域(シアニン3)で)発光する二次抗体で標識化し、Glu−チューブリンを抗脱チロシン化チューブリン一次抗体及び波長λ2で(例えば緑色領域(Alexa Fluor(登録商標)488)で)発光する二次抗体で標識化した後の、特に単純なリーダーを用いた脱重合剤に最も感受性がある動的微小管及び安定化した微小管を同定するための様々な波長での蛍光の定量化、
3.細胞層の状態を評価するための核の補助的な標識化(Hoechst)、
4.工程1と同じ条件下での試験対象の化合物とHeLa細胞とのインキュベーション、及び蛍光が波長λ2で(例えばAlexa Fluor(登録商標)488抗体と同じ波長で)観察される場合の化合物の選抜。これにより微小管に対する評価対象の化合物の実際の効果を可視化することにより微小管ネットワークの免疫蛍光分析を介して偽陽性を排除することが可能になり、実際に細胞を洗浄した後でも残存する凝集体の緑色標識化は微小管に特有のものではない。
5.ミトコンドリアに対するアジ化ナトリウムの効果と試験対象の化合物の効果とを比較することによるミトコンドリアの位置及び形状に対する効果の分析、及びミトコンドリアマーカー、例えばクロロメチル−X−ロザミン(MitoTracker(登録商標)マーカー)(ミトコンドリア膜を通って受動的に拡散し、活性ミトコンドリアに集積する特性を有する)を用いた標識化による、試験対象の化合物がアジ化ナトリウムと同様の作用機序を示す場合の試験対象の化合物の除外。
【0091】
アジ化ナトリウムが安定化した微小管の生成を誘導し、これによりGlu−チューブリンを生成することができることが知られている(De Brabander et al., 1982、非特許文献11)。アジ化ナトリウムはミトコンドリアの呼吸の阻害因子である。この現象の説明は酸化的リン酸化中に電子伝達を妨げることにより、この物質がATP枯渇を引き起こすことである。これは特定されていない微小管の脱重合工程を妨げ、細胞におけるGlu−微小管の増大を引き起こす。
6.微小管ネットワークの動態に対する試験対象の化合物の効果を分析する工程。これに関して、HeLa細胞を試験対象の化合物と2時間インキュベートした後、必要に応じて30分間10μMのノコダゾールで処理する。それからノコダゾールにより誘導される脱重合に対する試験対象の化合物の考え得る保護効果を、微小管ネットワークの免疫蛍光標識化の分析、及びマイクロプレートリーダー又は顕微鏡分析を用いた定量化により明らかにする。
7.HeLa細胞と試験対象の化合物とのインキュベーションを介した、アクチンネットワークに対する試験対象の化合物の効果を分析する工程。このインキュベーション工程は、アクチンネットワークの脱重合剤であるラトランクリンBとの同時インキュベーション工程により必要に応じて延長される。最後にはフルオロフォア(λ2で発光、例えばAlexa Fluor(登録商標)488)と結び付いたファロトキシンによるF−アクチンの標識化。アクチンネットワークが安定化する場合、アクチンネットワークのラトランクリン誘導性の脱重合が制限される。
【0092】
チューブリンと同じようにアクチンもネットワークを形成する。これらのネットワークは細胞膜を機械的に支持するため、その形状及び可塑性を決定し、細胞を移動させ、粒子を取り込み、分裂するのを可能とする。アクチンネットワーク及び微小管ネットワークのそれぞれを標的とする特異的な物質があったとしても、これらのネットワークは密接に相互調節することが知られている。そのため、微小管に作用する或る特定の分子はアクチンネットワークにも影響を与える可能性がある(Baudouin et al., 2008、Enomoto, 1996、Mogilner and Keren, 2009)。
【0093】
最後に本発明の別の主題は、具体的に
神経変性型の病変を予防及び/又は治療するため、より具体的にはアルツハイマー病及び統合失調症を予防及び/又は治療するための、
寄生虫病を予防及び/又は治療するため、より具体的にはマラリアを予防及び/又は治療するための、或いは
緑内障を予防及び/又は治療するための、
薬物として用いられる式(I)の化合物である。
【0094】
別の用途は殺虫剤としての式(I)の化合物の使用でもあり得る。
【0095】
本発明は、in vitroでLIMK1の活性を阻害又は安定化させやすい分子をスクリーニングする方法であって、
(i)LIMK1を必要に応じて標識化された本発明による式(I)の化合物に接触させること、
(ii)試験対象の化合物を添加すること、及び
(iii)式(I)の化合物の試験対象の化合物による置き換えを評価すること、
を含む、方法にも関する。
【0096】
式(I)の化合物が標識化されていない場合、工程(iii)の評価はHPLC又は同様の方法で行われる。
【0097】
式(I)の化合物が標識化されている(フルオロフォア、放射性標識化同位体、ビオチン化又は同様の標識化方法)場合、工程(iii)の評価は適切な固体支持体(例えばマイクロプレート)上で行われ、ラベルは該固体支持体上で測定される。ラベルの低減は試験対象の化合物が式(I)の化合物の競合因子であり、そのためLIMK1阻害因子であることを示す。
【0098】
本発明は、in vivoで直接的若しくは間接的なLIMK1活性化因子、又はホスファターゼ阻害因子をスクリーニングする方法であって、
(i)式(I)の化合物を真核細胞、好ましくはヒト細胞に接触させること、
(ii)LIMK1基質、例えばコフィリンのリン酸化の低減を測定することにより、上記式(I)の化合物の阻害効果を評価すること、
(iii)試験対象の化合物を添加すること、及び
(iv)LIMK1基質のリン酸化の阻害に対する試験対象の化合物の効果を測定すること、
を含む、方法にも関する。
【0099】
工程(ii)及び工程(iii)を別々に又は同時に行うことができる。
【0100】
工程(iv)はLIMK1基質のリン酸化レベルを測定すること、及び測定されたLIMK1基質のリン酸化レベルを工程(ii)で得られた測定レベルと比較することからなる。
【0101】
リン酸化が回復又は増大する場合、試験対象の化合物はLIMK1の直接的若しくは間接的な活性化因子、又はホスファターゼ阻害因子である。
【0102】
上述の構成の他に、本発明は以下の残りの記載から明らかとなる他の構成も含む。該残りの記載は本発明による式(I)の四環系化合物の安定化特性に注目した実施例及び添付の図面にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】チューブリンの脱チロシン化/チロシン化サイクルに対応する図である。
【図2】HeLa細胞の微小管に対するノコダゾールの脱重合効果を示す図である。
【図3】低温での微小管の安定性に対する本発明の化合物1の効果を示す図である。HeLa細胞をパクリタキセルと又はパクリタキセルではなく本発明の化合物1と2時間インキュベートした後、4℃に30分間曝露する。本発明の化合物1で処理した細胞におけるチューブリンの量をマイクロプレートリーダーを用いて測定した後、パクリタキセルで処理した細胞の入ったウェルで測定されたチューブリンの量(100%)の百分率として報告する。
【図4】本発明の化合物1で処理したHeLa細胞の微小管に対するノコダゾールの効果を示す図である。HeLa細胞をパクリタキセルと又はパクリタキセルではなく本発明の化合物1と2時間インキュベートした後、30分間ノコダゾールに曝露する。本発明の化合物1で処理した細胞におけるチューブリンの量をマイクロプレートリーダーを用いて測定した後、パクリタキセルで処理した細胞の入ったウェルで測定されたチューブリンの量の百分率として報告する。
【図5】in vitroで精製されたチューブリンのアセンブリに対する本発明の化合物1の効果をパクリタキセル(Taxol(登録商標))の効果と比較した図である。精製されたチューブリン(1mg/ml)を37℃で、GTP(1mM)、MgCl(5mM)、DAPI(10μM)の存在下においてPEMバッファー中でインキュベートする。様々な濃度(× 25μM、◎ 50μM及び△ 100μM)で本発明の化合物1の効果をパクリタキセル(Taxol(登録商標))(■)及びDMSO(□)の効果と比較する。
【図6】アクチンネットワークに対するラトランクリンBにより誘導される脱重合に関する化合物1の保護効果を示す図である。
【図7】NCI−H460細胞に対する本発明の化合物1の毒性を示す図である。細胞を様々な濃度の本発明の化合物1で48時間処理し、細胞の生存率をMTT試験を用いて測定した。
【図8】Glu−微小管の位置及び形態に対する化合物1の効果を示す図である。
【図9】ミトコンドリアの位置及び形態に対する化合物1の効果を示す図である。
【図10】化合物1によるLIMK1の阻害を示す図である。
【図11】化合物1によるLIMK1の用量依存的な阻害を示す図である。
【図12】化合物1によるLIMK1のラインウェーバー・バーク阻害プロットを示す図である。
【図13】化合物1によるLIMK1阻害のin vitroでの可逆性を示す図である。
【図14】HeLa細胞における化合物1により誘導されたコフィリンのSer3におけるリン酸化の阻害の可逆性の分析を示す図である。
【図15】化合物1による細胞のLIMK1活性の用量依存的な阻害を示す図である。
【図16】HeLa細胞における化合物1によるser3におけるコフィリンのリン酸化の阻害の動態分析を示す図である。
【図17】従来技術の化合物C6及び化合物C8と比較した本発明の化合物1(H06)のLIMK1に対する相対的活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0104】
実施例1:生成物の特性決定
シリカカラムクロマトグラフィ:
シリカカラムクロマトグラフィを行う。
【0105】
予め所定の溶媒/溶離液の懸濁液中に入れられた、0.040μm〜0.063μm厚のシリカゲル(Merck)上でクロマトグラフィを行う(シリカの量は精製される粗反応混合物の量の10倍〜100倍に相当していなければならない)。分離させる生成物の混合物を最小量のシリカゲル上に吸着させるか、又は最小量の溶媒中に溶解し、カラムの最上部に慎重に堆積させた後、好適な溶離液を用いてクロマトグラフィを行う。
【0106】
表Iの化合物1〜化合物6及び化合物9〜化合物11を合成すると共に評価した。
【0107】
【表1】

【0108】
化合物1〜化合物6及び化合物9は合成の中間体として文献に記載されている。
化合物1:9−ベンゾイルオキシ−5,11−ジメチル−2H,6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オンの合成
J. Med. Chem., 1983, 26, 181に記載及び公開されているように合成する。
化合物2:9−メトキシ−5,11−ジメチル−2H,6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オンの合成
J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706、及びTetrahedron, 1993, 2915に記載及び公開されているように合成する。
化合物3:9−ベンジルオキシ−5,11−ジメチル−2H,6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オンの合成
J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706に記載及び公開されているように合成する。
化合物4:9−ヒドロキシ−5,11−ジメチル−2H,6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オンの合成
J. Med. Chem., 1983, 26, 181に記載及び公開されているように合成する。
化合物5:1−クロロ−9−メトキシ−5,11−ジメチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾールの合成
J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706、及びTetrahedron, 1993, 2915に記載及び公開されているように合成する。
化合物6:1−クロロ−9−メトキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾールの合成
J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706に記載及び公開されているように合成する。
化合物7:9−ベンジルオキシ−1−メトキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾールの合成
【0109】
【化16】

【0110】
臭化ベンジル(230μl、1.9mmol)のアセトン溶液(6ml)を1−クロロ−9−ヒドロキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(化合物10)(490mg、1.73mmol)、アセトン(7ml)、DMF(2ml)及びKCO(400mg)を含有する混合物に室温で15分かけて添加する。アセンブリを24時間攪拌した後、続いて溶媒を真空下で蒸発させる。それから水を添加する(30ml)。
【0111】
再びアセンブリを24時間攪拌する。固形物を濾過により回収し、水で洗浄した後、室温で18時間乾燥させる。溶離液としてジクロロメタン/酢酸エチル(99%/1%から95%/5%まで)を用いたシリカカラムによるクロマトグラフィ後に、中間体として1−クロロ−9−ベンジルオキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(330mg、収率51%)が得られる。
【0112】
得られた生成物はJ. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706に記載の方法に従って得られたものと同一である。
【0113】
上で得られた1−クロロ−9−ベンジルオキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(320mg、0.86mmol)、DMF(7ml)及びナトリウムメトキシド(メタノール中、30%溶液、10ml)の混合物を20時間加熱還流する。反応混合物を60mlの水に注いだ後、2時間攪拌する。濾過により回収した形成固体を水で洗浄した後、乾燥させる。
【0114】
溶離液としてジクロロメタン/酢酸エチル(99.5%/0.5%から99%/1%まで)を用いたシリカカラムによるクロマトグラフィ後に、280mg(収率88%)の期待化合物9−ベンジルオキシ−1−メトキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(化合物7)が得られる。
【0115】
化合物7のプロトンNMRスペクトルは以下の通りである:
CDCl δ(ppm):8.87(s,1H)、8.00(d,1H)、7.88(br s,1H)、7.80(d,1H)、7.55〜7.33(m,8H)、5.21(s,2H)、4.22(s,3H)、2.76(s,3H)。
微量分析:
2420O 1.75HOに関する計算値:C、72.09;H、5.88;N、7.01;
実測値:C、72.22;H、5.51;N、7.18。
化合物8:1,9−ジメトキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾールの合成
【0116】
【化17】

【0117】
1−クロロ−9−メトキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706に従って調製した)(427mg、1.44mmol)、DMF(1.5ml)及びナトリウムメトキシド(メタノール中、30%溶液、3ml)の混合物を24時間加熱還流する。それから反応混合物を50mlの水に注いだ後、2時間攪拌する。濾過により回収した形成固体を水で洗浄した後、乾燥させる。
【0118】
溶離液としてジクロロメタン/エタノール(99%/1%から98%/2%まで)を用いたシリカカラムによるクロマトグラフィ後に、400mg(収率95%)の期待化合物1,9−ジメトキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(化合物8)が得られる。
【0119】
化合物8のプロトンNMRスペクトルは以下の通りである:
CDCl δ(ppm):8.85(s,1H)、7.98(d,1H)、7.91(br s,1H)、7.68(d,1H)、7.41(d,1H)、7.35(d,1H)、7.11(dd,1H)、4.21(s,3H)、3.95(s,3H)、2.72(s,3H)。
微量分析:
1816 0.5HOに関する計算値:C、71.79;H、5.65;N、9.30;
実測値:C、71.84;H、5.49;N、9.12。
化合物9:9−ベンジルオキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オンの合成
J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706に記載及び公開されているように合成する。
化合物10:1−クロロ−9−ヒドロキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾールの合成
5ml容の封管において、1−クロロ−9−メトキシ−5−メチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(75mg、0.25mmol)(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706に従って調製した)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(225mg、1mmol)及び37%塩酸(4ml)の混合物を140℃の油浴で24時間加熱する。
【0120】
それから反応混合物を真空下で蒸発させた後、20mlの水を添加する。それから媒体を28%水酸化アンモニウム(0.5ml)の添加により塩基性にし、固体を低温濾過により回収した後、水で洗浄し、200℃の温度で18時間、減圧デシケーターを用いて乾燥させる。
【0121】
それにより65mg(収率90%)の化合物10が得られる。化合物10のプロトンNMRスペクトルは以下の通りである:
DMSO−d δ(ppm):11.30(s,1H)、9.21(s,1H)、8.87(s,1H)、8.16(d,1H)、7.98(d,1H)、7.71(d,1H)、7.40(d,1H)、7.07(dd,1H)、2.83(s,3H)。
微量分析:
1611ClNO 0.25HOに関する計算値:C、66.91;H、4.04;N、9.75;
実測値:C、66.99;H、4.26;N、9.34。
化合物11:9−ヒドロキシ−2,5,11−トリメチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オンの合成
1−クロロ−9−メトキシ−5,11−ジメチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール(250mg、0.81mmol)(化合物5、参考文献J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1979, 1706、及びTetrahedron, 1993, 2915に従って調製した)、アセトニトリル(50ml)及びヨードメタン(10ml)の混合物を65℃の温度で3時間加熱する。
【0122】
それから得られた混合物を真空下で蒸発させた後、30mlの3N 水酸化ナトリウムを添加する。それから混合物を30分間攪拌する。得られた赤レンガ色の固体を濾過により回収した後、水で洗浄し、室温で18時間乾燥させる。
【0123】
それにより中間体9−メトキシ−2,5,11−トリメチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オンが得られ、それをそのまま全く精製せずに用いる。
【0124】
上で得られた中間体化合物9−メトキシ−2,5,11−トリメチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾール−1−オン及びピリジン塩酸塩(2g)を含む混合物を30分間加熱還流する。
【0125】
得られた溶液を60mlの氷水に注いだ後、形成固体を低温濾過により回収し、2つの5mlの水で洗浄した後、18時間、20℃の温度で減圧デシケーターを用いて乾燥させる。
【0126】
それから固体を20mlのトルエンに混合した後、5分間沸騰し、その後20℃に冷却する。
【0127】
それにより130mg(収率55%)の化合物11が得られ、これを濾過により回収し、2つの5mlのトルエンで洗浄した後、18時間、室温で乾燥させる。化合物11のプロトンNMRスペクトルは以下の通りである:
DMSO−d δ(ppm):11.07(s,1H)、9.01(d,1H)、7.69(d,1H)、7.38(d,1H)、7.35(d,1H)、6.95(dd,1H)、6.68(d,1H)、3.45(s,3H)、3.39(s,3H)、2.59(s,3H)。
微量分析:
1816 1.33HOに関する計算値:C、68.35;H、5.90;N、8.86;
実測値:C、68.22;H、5.74;N、9.27。
本発明の範囲外の化合物の合成:
化合物C6:J. Med. Chem., 1980, 181に記載及び公開されているように合成する。
【0128】
【化18】

【0129】
化合物C8:この化合物を、J. Med. Chem., 1983, 181に記載及び公開されているように、N,N−ジエチルプロパン−1,3−ジアミンの代わりにN,N−ジエチルプロパン−1,3−ジアミン中で9−ベンゾイルオキシ−1−クロロ−5,11−ジメチル−6H−ピリド[4,3−b]カルバゾールを還流することにより得た。
【0130】
【化19】

【0131】
実施例2:材料及び方法
1)細胞株
株の名称、参照番号及び起源を以下の表IIに挙げる。
【0132】
【表2】

【0133】
2)一次抗体
用いられる一次抗体を以下の表IIIに挙げる:
【0134】
【表3】

【0135】
3)二次抗体
用いられる二次抗体は以下の通りである:
【0136】
【表4】

【0137】
4)細胞生物学
細胞培養:
全ての株を37℃及び5% COで加湿インキュベーターにおいてT75フラスコ中の15mlの培養培地で増殖させる。培養物を維持するために、コンフルエントに達したら、細胞を0.5%トリプシン/EDTA(Gibco, Invitrogen)の溶液を用いて解離させることにより細胞を分割し、1/5〜1/20と様々な希釈率で再播種する。細胞特性の任意の推移(drift)及び変動を避けるために、或る特定数の継代培養後にこれらの細胞が分裂を停止するので、6回の継代培養を越えて使用することが勧められないMEF株(初代細胞)を除いて、これらの株は最大で20回の継代培養に使用する。
【0138】
HeLa株、NCI−H460株及び786−O株を10%のウシ胎児血清(FCS、Hyclone, Thermo Fisher Scientific)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco, Invitrogen)を添加したGlutaMAXI(商標)(Gibco, Invitrogen)を有するRPMI−1640中で増殖させる。
【0139】
MCF−7株を10% FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び0.1mg/mlのインスリン(Sigma Aldrich)を添加したEMEM(ATCC)中で増殖させる。
【0140】
MES−SA株及びMES−SA DX5株を1回目の継代培養では10% FCS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したマッコイ5A(ATCC)中で、その後10% FCS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したRPMI−1640中で増殖させる。
免疫蛍光:
チューブリン(Tyr、Glu)及び核の染色:
ガラスカバースリップ上で2日間増殖させた細胞をOPTバッファー(Pipes 80mM、EGTA 1mM、MgCl 1mM、Triton X−100 0.5%及びグリセロール 10%(pH6.8))を用いて又は用いずに37℃で3分間インキュベートした後、予め−20℃で10分間維持したメタノール中で固定した。それから細胞をPBS/0.1% Tween(登録商標)20で洗浄し、PBS/0.3% BSA/0.02% NaNの溶液で希釈した適切な一次抗体(表IIIの抗体を参照されたい)を用いて室温で最低15分間インキュベートする。その後、細胞をPBS/0.1% Tween(登録商標)20で3回洗浄する。細胞を、PBS/0.3% BSA/0.02% NaNで希釈した二次抗体(表IVの抗体を参照されたい)と1μg/mlの最終濃度のHoechstとの溶液を用いて室温で15分間インキュベートする。最後に、細胞をPBS/0.1% Tween(登録商標)20で3回洗浄した後、純粋なエタノールで脱水し、Fluorsave(商標)マウンティング(mounting)溶液(Calbiochem, Merck)を用いてスライドに固定する。
アクチンの染色:
チューブリン染色と同じように、細胞をガラスカバースリップ上で増殖させ、インキュベートする。培地の除去後、細胞を温かいPBSで洗浄した後、37℃で30分間PBS/3.7%ホルムアルデヒドの溶液を添加することにより固定する。細胞をPBSで洗浄した後、室温で15分間、PBS/0.2% Triton X100の溶液を用いて透過処理する。さらにPBSで洗浄した後、細胞を室温で30分間、PBS/1% BSAの溶液を用いてインキュベートする。それから細胞を室温で20分間、Alexa Fluor(登録商標)488(Molecular Probes, Invitrogen)で標識化したファロイジン(0.165μMの最終濃度)を用いてインキュベートする。もう1度細胞をPBSで洗浄した後、純粋なエタノールで脱水する。最後に、細胞をFluorsave(商標)マウンティング溶液を用いてスライドに固定する。
ミトコンドリアの染色:
チューブリン染色と同じように、細胞をガラスカバースリップ上で増殖させ、37℃で5% CO下でインキュベートする。播種後3日目に、250nMの最終濃度に到達させるために、MitoTracker(登録商標)Red CMXRos(Molecular Probes, Invitrogen)を培養培地に添加する。それから細胞を37℃で30分間、5% CO下でインキュベートする。このマーカーが細胞膜を通じて受動的に拡散し、活性ミトコンドリアに集積する。培地の除去後、細胞を温かい媒体で洗浄した後、37℃で30分間PBS/3.7%ホルムアルデヒドの溶液を添加することにより固定する。他の免疫蛍光染色が必要な場合、細胞をPBSでリンスした後、室温で15分間、PBS/0.2% Triton X100の溶液を用いて透過処理することができる。
【0141】
5)顕微鏡検査
顕微鏡(Axioskop 50、Zeiss, Oberkochen, Germany)、並びに100×/1.3 Plan Neofluar対物レンズ、CololSnap ES電荷結合素子カメラ(Roper Scientific, Trenton, NJ, USA)及びMetaview(Universal Imaging Corp.)ソフトウェアを用いて蛍光画像を撮影し、Adobe Photoshopを用いて処理した。
【0142】
代替的には、スライドを様々な蛍光顕微鏡で又は共焦点顕微鏡を用いて読み取る。
6)細胞培養試験
(細胞株に応じて)2×10細胞/ml〜5×10細胞/mlの細胞溶液を100μl/ウェル播種した後、細胞培養試験を透明な96ウェルマイクロプレート(Greiner)で行う。5% CO下で37℃で24時間インキュベートした後、培養培地を取り除き、様々な濃度の試験対象の分子の溶液に置き換える。細胞を5% CO下で37℃でさらに48時間、これらの分子を用いてインキュベートする。培地の除去後、細胞をブランク(blank)RPMI(Gibco, Invitrogen)で洗浄した後、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミドすなわちMTT(0.5mg/mlの最終濃度)と共に5% CO下で37℃で4時間インキュベートする。MTT(Sigma Aldrich)は、ミトコンドリア酵素の活性を測定することにより、細胞の生存率を推定することが可能である。実際、生細胞では、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼはテトラゾリウム環を切断することが可能であり、これにより水性媒体に不溶であるホルマザン結晶が形成される。可溶化溶液(イソプロパノール、10% Triton X100、0.1N HCl)を添加してこれらの結晶を溶解する。攪拌後、吸光度をFLUOstar OPTIMAマイクロプレートリーダーを用いて570nmで測定する。
【0143】
7)マイクロプレートにおいて微小管を安定化又は不安定化する分子の検出を可能にする試験
40000細胞/mlの細胞溶液を1ウェル当たり90μl分配することにより、HeLa細胞を底が黒色のブラック96ウェルマイクロプレート(Greiner 655086)で播種し、5% CO下で37℃でインキュベートする。24時間後、5% CO下で37℃で2時間、試験対象の分子と共に細胞をインキュベートする。それから細胞を37℃で6分間、温かいOPTバッファーを用いて透過処理した後、室温で10分間メタノールで固定する。細胞をPBS/0.1% Tween(登録商標)20で2回リンスし、PBS/0.3% BSA/0.02% NaNの溶液で1/4000に希釈した一次抗体YL1/2及びL4(表IIIの抗体を参照されたい)と共に37℃で一晩インキュベートする。それから細胞をPBS/0.1% Tween(登録商標)20で3回洗浄した後、1μg/mlの最終濃度のHoechstと、PBS/0.3% BSA/0.02% NaNで1/500及び1/1000でそれぞれ希釈した抗ラットシアニン3二次抗体及び抗ウサギAlexa Fluor(登録商標)488二次抗体との溶液を用いて37℃で1時間インキュベートする。PBS/0.1% Tween(登録商標)20で3回洗浄後、PBS/50%グリセロールをそれぞれのウェルに分配する。様々な蛍光強度をFLUOstar OPTIMAリーダーを用いて測定する。
【0144】
8)アクチン細胞骨格に対する作用に関する試験:細胞においてラトランクリンBにより誘導される脱重合に対するアクチンネットワークの安定性を評価するプロトコル
実験の3日前に、ガラスカバースリップを滅菌条件下で24ウェルマイクロプレートに置く。それぞれのウェルで、指数増殖期にあるHeLa細胞(1つのウェル当たり15000個の細胞)を500μlのRPMI培地に播種する。
【0145】
試薬:
ストック試薬:
PBS(リン酸緩衝生理食塩水、参照番号P4417、Sigma)、PBS/1% BSA(ウシ血清アルブミン、参照番号A3059、Sigma)、−20℃で保存した15mlのアリコート;PBS/0.2% Triton X100(参照番号T8787、Sigma);PBS/0.01% Tween(登録商標)20(参照番号P9916、Sigma);PBS/0.3% BSA/0.02% NaN(NaNに関する参照番号6688、Merck)、−20℃で保存した15mlのアリコート。
ファロイジンA488(参照番号A12379、Invitrogen)。
L4:ウサギ抗脱チロシン化チューブリンポリクローナル抗体(非特許文献13を参照されたい)。
シアニン3に連結した抗ウサギ抗体(参照番号111.165.144、Jackson Laboratories)。
1mg/mlのHoechst(bisbenzimide H 33258、参照番号B2883、Sigma)の再蒸留水ストック溶液。
Fluorsave(登録商標)マウンティング液(参照番号345789、Calbiochem)。
エタノール(参照番号414−587、Carlo Erba)。
同じ日に調製するもの:
ラトランクリンB(参照番号L5298、Sigma)5μM:500μlのRPMI中、5μlの500μM ラトランクリン。
DMSO(ジメチルスルホキシド、参照番号D5879、Sigma)0.25%:1000μlのRPMI中、2.5μlの純粋なDMSO。
パクリタキセル(参照番号T1912、Sigma)5μM:1000μlのRPMI中、5μlの1mM パクリタキセル。
試験対象の化合物(25μM、最終濃度):1000μlのRPMI中、10mM(DMSO中で)の濃度の2.5μlの化合物。
PBS/3.7%ホルムアルデヒド:1.2mlの37%ホルムアルデヒド(参照番号F1635、Sigma)+12mlのPBS(用時(extemporaneously)調製する)。
ファロイジンA488をPBS/1% BSAで0.165μMの濃度まで希釈する。
PBS/0.3% BSA/0.02% NaNでL4一次抗体を1/4000まで希釈する。
PBS/0.3% BSA/0.02% NaNで抗ウサギシアニン3二次抗体を1/1000まで希釈する。
PBS/0.3% BSA/0.02% NaNでHoechstを1/1000(=1μg/ml)まで希釈する。
考え得る凝集体を排除するため、15000gで10分間これらの様々な希釈生成物を遠心分離する。
試験の実施:
それぞれのウェルに試験対象の化合物を25μMの濃度で添加する。0.25% DMSO及び5μM パクリタキセルを対照として用いる。全ての条件を二連で行う。
細胞インキュベーター(湿潤雰囲気下で37℃、5% CO)において2時間インキュベートする。
2時間のインキュベーションの終了時に、10μlの5μM ラトランクリンを2つのウェルごとに添加する(ラトランクリンの最終濃度:0.1μM)。
インキュベーションを10分間続けた後、細胞を固定し、脱チロシン化チューブリンの免疫染色及びアクチンの染色を行う。
細胞の固定、並びに脱チロシン化チューブリン及びアクチンネットワークの染色:
細胞を37℃で500μl/ウェルのPBSで洗浄した後、37℃で予熱したPBS/3.7%ホルムアルデヒド(500μl/ウェル)を用いて37℃で30分間インキュベートすることにより固定する。
37℃で30分間のインキュベーション。
以下の工程を室温で行う。
PBS/3.7%ホルムアルデヒドの吸引。
500μl/ウェルのPBSによる3回の洗浄。
それからカバースリップをピンセットを用いて回収し、好適な支持体上に置く。
PBS/0.2% Triton X100による透過処理(100μl/カバースリップ)。
それからカバースリップをPBSで3回洗浄する。
30分間のPBS/1% BSA(100μl/カバースリップ)による飽和。
それからカバースリップをPBSで3回洗浄する。
20分間の0.165μMの蛍光ファロイジンA488(50μl/カバースリップ)を用いたインキュベーション。
それからカバースリップをPBS/0.1% Tweenで3回洗浄する。
15分間の1/4000に希釈したL4一次抗体(50μl/カバースリップ)を用いたインキュベーション。
それからカバースリップをPBS/0.1% Tweenで3回洗浄する。
15分間の抗ウサギシアニン3蛍光二次抗体(1/1000)及びHoechst(1/1000)(50μl/カバースリップ)を用いたインキュベーション。
それからカバースリップをPBS/0.1% Tweenで3回洗浄する。
カバースリップを100%エタノール浴に浸漬することによる調製物の脱水。
Fluorsave(登録商標)マウンティング溶液(Calbiochem, Merck)を用いてカバースリップをスライドに固定する。
【0146】
9)LIMK1キナーゼアッセイ
放射LIMK1アッセイにおいて、3μlの化合物又は対照として同量のDMSOと、2μl(1ng)のN末端6Hisタグ付け組換えヒトLIMK1(Millipore #14−656、20mM MOPS(pH=7.0)、1mM EDTA、0.01% NP−40、5%グリセロール、0.1% β−メルカプトエタノール、1mg/ml ウシ血清アルブミン中で)と、8μM MOPS(pH=7.0)、200μM EDTA、70μMの組換えGST−コフィリン1、25mM Mg(OAc)及び360μM [γ−32P]−ATPを含有する混合物とを含有する25μlの最終容量で化合物を試験した。アッセイを30℃で10分間行った後、5μlの3%オルトリン酸の添加により停止させた。それから25μLのアリコートをP80の四角いフィルター(4cm)上にスポットした。フィルターを0.5%オルトリン酸により4℃で5分間、3回リンスし、シンチレーションバイアルに移した。シンチレーションカクテル(Ultima Gold, Perkin-Elmer)を添加した後、シンチレーションカウンターを用いて32Pの取り込みを測定した。
【0147】
10)LIMK1阻害可逆性アッセイ
N末端6Hisタグ付け組換えヒトLIMK1(Millipore #14−656、62.5ng)を25μMの化合物1(又は同量のDMSO)と共に100μLの最終容量で4℃で10分間、インキュベートした。その後この混合物のサイズ排除クロマトグラフィを1mlのBiospin P−6カラム(Biorad、20mM MOPS(pH=7.0)、1mM EDTA、0.01% NP−40、5%グリセロール、0.1% β−メルカプトエタノール、1mg/ml ウシ血清アルブミンで平衡化した)を用いて行った。それからinput及びflow−throughにおけるLIMK1キナーゼ活性を放射LIMK1キナーゼアッセイにより検査した。
【0148】
11)細胞のLIMK1活性アッセイ
指定の濃度及び時間でHeLa細胞を化合物(又は対照として同量のDMSO)により処理した。全細胞抽出物をプロテアーゼ阻害因子(Sigma、P8340)及びホスファターゼ阻害因子(Sigma、P5726)を添加したRIPAバッファー(50mM Tris−HCl(pH=7.4)、150mM NaCl、1% NP−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、1% SDS、1mM EGTA、1mM EDTA、5%グリセロール、1mM DTT)を用いて調製した。約30マイクログラムのタンパク質を12% SDS−PAGEに投入し、泳動させた。電気泳動後、ニトロセルロース膜をPBS、0.1% Tween(登録商標)20、5%ウシ血清アルブミンで飽和させた(satured)。ポリクローナル抗体である抗コフィリン(Cytoskeleton、#ACFL02)及び抗ホスホコフィリン(Ser3)(Cell Signaling、#3311)を用いてコフィリンの量及びリン酸化状態を推定した。結合したヤギ抗ウサギIgG−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Biosource、#ALI0404)を二次抗体として用いた。ECL plusウェスタンブロッティング検出システム(GE Healthcare)を用いて検出を行った。
【0149】
実施例3:本発明の式(I)の化合物の安定化特性の実証
生細胞において、微小管は集合化段階と解離段階との間を行き来する動的構造である。微小管ネットワークに対する分子の安定化効果を評価するために、様々なタイプの試験を行うことができる。このため、パクリタキセルと微小管との結合、又はSTOPタンパク質等の安定化タンパク質と微小管との結合(Bosc et al., 2003)が微小管ネットワークを4℃での細胞のインキュベーションにより誘導される脱重合から保護することができる。さらに、微小管の動態を遅らせることのできる分子を、ノコダゾールにより誘導される脱重合に対する細胞微小管の耐性を分析することにより同定することができる。安定化化合物がなければ、微小管はノコダゾールの存在下で脱重合する(図2)。
【0150】
これらの様々な試験を用いて、細胞微小管に対する本発明の化合物1の安定化効果をパクリタキセルのものと比較している。これらの実験は、この化合物が微小管を低温により誘導される低温誘導性の脱重合から保護することはできないが(図3)、用量依存的にノコダゾール誘導性の脱重合を防ぐことを示している(図4)。そのためこの化合物は微小管の動態を遅らせることができる。
【0151】
上記の表Iは顕微鏡を用いた二重盲検評価により定性基準に従って、本発明による化合物の安定化特性を要約している。
実施例4:エフェクターによる本発明の化合物1の安定化効果
例えばパクリタキセルがそうであるようにチューブリンに対する直接的な作用を介して、又はエフェクターによって本発明の化合物1が安定化効果を示すかを知るために、in vitroでの微小管におけるチューブリンのアセンブリに対する本発明の化合物1の効果を分析している。第1の実験を精製チューブリン(1mg/ml)で行った。パクリタキセルだけがこれらの条件下でチューブリンのアセンブリを誘導することができる。試験した濃度に関係なく本発明の化合物1ではアセンブリは観察されない(図5)。この結果は、おそらくこの化合物の安定化効果がこれらの分子とチューブリンとの直接的な相互作用によるものではなく、そのためこの化合物は独自の作用機序を有することを示す。
実施例5:アクチンに対する本発明による化合物の効果
本発明による化合物の別の効果は、細胞移動を大幅に遅らせることができることである。この効果は、実施例3に規定のように免疫蛍光実験により特徴付けされたアクチン細胞骨格に対する作用によるものである。しかしながら、チューブリンと同じように、アクチン細胞骨格に対する化合物の効果はアクチンの重合に対する直接的な効果によるものではない。図6は本発明の化合物1で得られた結果を示し、これはこの化合物がアクチンネットワークをラトランクリンBによる脱重合から保護することを示す(図6)。DMSOもパクリタキセル(Taxol(登録商標))もこのような保護効果を誘導することはできない。
【0152】
共焦点顕微鏡を用いて観察を行う。
【0153】
これらの条件下で、アクチンネットワークが安定化しなければ(DMSO又はパクリタキセル(Taxol(登録商標)))、ラトランクリンはアクチンネットワークのほぼ完全な脱重合を誘導する。化合物1はアクチンネットワークの再組織化を誘導し、アクチンネットワークをラトランクリンβ誘導性の脱重合から部分的に保護する。
【0154】
これらの条件下で、微小管ネットワークが安定化する場合、DMSOを用いて処理した細胞と比較して(例えばパクリタキセル(Taxol(登録商標)による)脱チロシン化微小管の非常に高い増大が観察される。図8は得られた結果を示す。
実施例6:がん株に関する細胞毒性の研究
がん株の増殖に対するこれらの化合物の効果を評価するために、活性化合物の存在下での幾つかの形質転換細胞株、例えばHeLa細胞(子宮腺癌)、786−O細胞(腎臓腺癌)、NCI−H460細胞(肺癌)、MCF−7細胞(乳腺腺癌)、MES−SA細胞(子宮肉腫)及びMES−SA DX5細胞(子宮肉腫)の生存率をDMSOの存在下での生存率と比較した。
【0155】
より具体的には、MES−SA DX5株は高レベルのP−糖タンパク質を発現し、そのため多くの薬理学的作用物質による処理により誘導された毒性に耐性であるがん株である。P−糖タンパク質をがんの化学療法に対する耐性の主因の一つとして同定した。P−糖タンパク質は(「多剤耐性」に関して)MDR1として知られる遺伝子によりコードされる。その正常な機能は細胞から外に環境由来の異物及び毒素を排出することである。関係のある薬物は、アントラサイクリン、エピポドフィロトキシン、ビンカ・アルカロイド、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、ミトキサントロン及びダクチノマイシン等の幾つかの挿入剤、並びにカンプトテシンの或る特定の誘導体である。
【0156】
様々な濃度の分子(100μM〜0.001μM)に48時間曝露した後、MTT試験を用いて細胞の生存率を評価した。このようにして用量効果曲線を取得し、これにより細胞増殖の50%を阻害するのに必要な濃度(IC50)を決定することが可能になった。細胞毒性曲線の一例を図7に示す。
【0157】
様々な細胞株に対する本発明の化合物1及び化合物3の効果を分析した。得られたIC50の値を以下の表Vに提示する。
【0158】
【表5】

【0159】
分子の毒性は細胞株に応じて変わる。MCF−7細胞は最も耐性のある株であると思われる。この細胞株に関しては、高濃度では溶解することが難しい本発明の化合物3のIC50を決定することができていない。しかしながら、MES−SA DX5多剤耐性株は両方の分子に感受性である。
【0160】
最後に、786−O株、NCI−H460株及びMES−SA DX5株に関して、本発明の化合物3は本発明の化合物1よりも毒性が強い。
実施例7:ミトコンドリアに対する効果
25μMでの2時間の処理の後(実施例2〜実施例4を参照されたい)、化合物1は細胞をアジ化ナトリウムタイプで処理した場合に観察されるミトコンドリア表現型を誘導しない(図9)。
実施例8:EC50の決定:
in vivoで分子の生物活性を評価し、それらの活性を比較するために、選択された分子のEC50(効果全体の50%の効果を有する濃度)を決定した。分子の濃度に応じた細胞におけるTyr−チューブリン又はGlu−チューブリンのシグナルの変動を測定することが可能となる用量効果曲線を確立した。それからこれらの曲線を用いて、求められる効果全体の50%に相当する活性を生じる生物活性分子の濃度を規定することが可能である。
【0161】
Glu−チューブリンの量の変動を測定するための用量効果曲線を本発明の化合物1に関して作成した。このために、HeLa細胞を様々な濃度の分子を用いて2時間インキュベートした後、マイクロプレートにおいて免疫蛍光プロトコルに従って処理した。それからマイクロプレートリーダーを用いて蛍光強度を測定した。
【0162】
測定されたシグナルの割合は生物活性の対照(パクリタキセル(Taxol(登録商標)))及び生物不活性の対照(DMSO)との隔たりを表す。EC50をKaleidaGraph(登録商標)3.60ソフトウェアを用いて決定した。
【0163】
本発明の化合物1は最も高い濃度でパクリタキセル(Taxol(登録商標))よりもわずかに小さいGluシグナルの増大を引き起こすことができる。
実施例9:in vitroでの化合物1によるLIMK1の阻害
図10は化合物1(H06)によるLIMK1の阻害を示す。放射LIMK1キナーゼアッセイを実施例2に記載のように行った。以下の条件を試験した:LIMK1なし(「−LIMK1」)、5μM H06(「5μM H06」)、25μM H06(「25μM H06」)又は同量のDMSO(「Ctl」)の存在下でLIMK1(1ng)を用いて。
【0164】
上記阻害は異なるATP濃度:180μM(白丸)又は360μM(黒四角)で図11に示されるように用量依存的である。誤差バーは平均値の標準誤差を表す。
【0165】
阻害機構を、化合物1(H06)の非存在下で(●)又は70nM(▲)及び280nM(■)の化合物1(H06)の存在下でLIMK1キナーゼ活性を決定することにより、LIMK1のラインウェーバー・バークプロットを表す図12に示した。VはGST−コフィリンのリン酸化反応の初期速度である。この結果は化合物1がLIMK1に対するATP競合因子であり、Kが約60nMであり、K(ATP)が約90μMであることを示す。
【0166】
サイズ排除クロマトグラフィの前(「input」)又は後(「flow−through」)、LIMK1阻害の可逆性を2μMの化合物1(H06)の存在下、実施例2の条件下でin vitroで分析した。誤差バーは平均値の標準誤差を表す。図13は結果を示し、化合物1の作用が可逆的であることを示す。
【0167】
化合物1の阻害の可逆性の分析をin vivoでも試験した。
【0168】
HeLa細胞を2時間、25μMの化合物1(H06)により処理した(レーン2)。それから培養培地を棄て、新たな培地(RPMI)を添加した。様々な時間で、RPMI添加後(レーン3、30分;レーン4、1時間;レーン5、1.5時間;レーン6、2時間;レーン7、4時間)、コフィリンの量及びリン酸化状態を実施例2に記載のように決定した。レーン1は時間「0」、すなわち化合物1で処理していない細胞の細胞抽出物に対応している。
【0169】
図14は結果を示し、化合物1をRPMI培地に置き換える場合、再びホスホ−コフィリンが合成されることをはっきりと示している(図14のレーン4を参照されたい)。
実施例10:in vivoでの化合物1による細胞のLIMK1活性の阻害
コフィリンはLIMK1の基質である。化合物1はHeLa細胞における用量依存的なSer3におけるコフィリンのリン酸化の阻害を誘導する。
【0170】
HeLa細胞を指定の濃度の化合物1(又は陰性対照としてエリプチシン)により2時間処理した。
【0171】
コフィリンの量及びリン酸化状態を実施例2に記載のように決定した。in vitroでのリン酸化コフィリン(左側)を対照として用いた。
【0172】
結果(図15)は、エリプチシンはコフィリンのリン酸化を回避しないが、化合物1はLIMK1を阻害することにより用量依存的にホスホ−コフィリンの形成をはっきりと阻害することを示す。
【0173】
HeLa細胞を指定の時間、25μMの化合物1により処理した。コフィリンの量及びリン酸化状態を実施例2に記載のように決定した。
【0174】
図16はこの実験を説明している。図16は化合物1による処理のわずか30分後に化合物1の阻害効果を容易に検出することができることを示す。
実施例11:本発明の式Iの化合物(式中、Rは二重結合によりD環と結合した酸素原子を表す)とRとしてアミン誘導基を有する化合物との間の比較研究
【0175】
【表6】

【0176】
これらの比較データは本発明によるRの選択の極めて重要な役割を示す。
【0177】
実際、Rが本発明で規定されるようなもの、好ましくは二重結合によりD環と結合した酸素原子ではない場合、LIMK1に対する阻害作用は見られない。
【0178】
図17はこれらの結果の幾つかを示す。
【0179】
【表7−1】

【0180】
【表7−2】

【0181】
【表7−3】

【0182】
【表7−4】

【0183】
【表7−5】

【0184】
【表7−6】

【0185】
【表7−7】

【配列表フリーテキスト】
【0186】
配列番号1:チューブリンエピトープ
配列番号2:チューブリンエピトープ
配列番号3:チューブリンエピトープ
配列番号4:チューブリンエピトープ
配列番号5:アルファチューブリン誘導ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】

(式中、
は水素原子、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基、1個〜4個の炭素原子を有するアミノアルキル基、又はモノアルキルアミノアルキル基若しくはジアルキルアミノアルキル基(該2つのアルキル基が1個〜4個の炭素原子を有する)を表し、
は水素原子又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
は1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
−ORはヒドロキシル基、1個〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基若しくは式−O−(CH−Zのアルコキシ基、若しくは1個〜4個の炭素原子を有するエステル基若しくは式−OC(O)Zのエステル基を表し、ここで
Zは3個〜6個の炭素原子を有するシクロアルキル基、又はフェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基及びオキサゾリル基から選択されるアリール基(該アリール基はハロゲン原子、−OH基、−NO基又は−NH基、1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基、1個〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基及び1個〜4個の炭素原子を有するモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基から選択される、同一の又は異なる1つ、2つ又は3つの置換基によりオルト位、メタ位又はパラ位で必要に応じて置換されていてもよい)であり、
nは1〜4の範囲の、好ましくは1に等しい整数であり、又は
−OR基は式:
【化2】

に対応し、ここで
VはCH、O、NH又はN−アルキルから選択され、該アルキル基は1個〜4個の炭素原子を有し、
n’は2又は3に等しく、
は水素原子又はジアルキルアミノメチル基(ここで該アルキル基は1個〜4個の炭素原子を有する)を表し、
は二重結合によりD環と結合した酸素原子、ハロゲン原子、又は1個〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、
は水素原子又は1個〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
は水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、式
【化3】

のアルキルカルボキシアルキレン基、若しくは式
【化4】

のジアルキルホスフェートアルキレン基(ここで該アルキル基及び該アルキレン基が1個〜4個の炭素原子を有する)、又は1個〜4個の炭素原子を有するエステル基を表し、Rが二重結合によりD環と結合した酸素原子である場合にのみRが存在する)に対応することを特徴とする薬物としての四環系化合物及びそれらの薬学的に許容される塩。
【請求項2】
が水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
がメチル基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
がメチル基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記−OR基が−OH基又はメトキシ基であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記−OR基が式−O−CH−Cのベンジルエーテル基、又は式−OC(O)Cのエステル基(該基が−NO基、−NH基、−N(CH基、−CN基、−CHNH基又は−CHN(CH基から選択される置換基によりオルト位、メタ位又はパラ位で必要に応じて置換されていてもよい)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
前記R基が水素原子又はジメチルアミノメチル基であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記R基が二重結合によりD環と結合した酸素原子であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
前記R基が水素原子であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
以下の式(I):
【化5】

化合物1
又は式:
【化6】

又は式:
【化7】

又は式:
【化8】

又は式:
【化9】

に対応することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
以下の式(I):
【化10】

に対応することを特徴とする化合物。
【請求項12】
有効成分としての少なくとも1つの請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物と少なくとも1つの薬学的に許容されるビヒクルとを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項13】
別の抗がん有効成分も含むことを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の抗がん活性を評価する方法であって、
1.真核細胞を試験対象の前記化合物とインキュベートした後の、微小管ネットワークを保護するが脱重合したチューブリンの排出を可能にするバッファーによる該細胞の透過処理、
2.前記細胞の固定後、Tyr−チューブリンを抗チロシン化チューブリン一次抗体及び波長λ1で発光する二次抗体で標識化し、Glu−チューブリンを抗脱チロシン化チューブリン一次抗体及び波長λ2で発光する二次抗体で標識化した後の脱重合剤に最も感受性がある動的微小管及び安定化した微小管を同定するための様々な波長での蛍光の定量化、
3.細胞層の状態を評価するための核の補助的な標識化、
4.工程1と同じ条件下での試験対象の前記化合物とHeLa細胞とのインキュベーション、及び蛍光が波長λ2で観察される場合の該化合物の選抜、
5.インキュベートした細胞試料のミトコンドリアマーカーによる染色及びインキュベートした細胞試料のアジ化ナトリウムによる染色、並びにミトコンドリアに対するアジ化ナトリウムの効果と試験対象の前記化合物の効果との比較、並びに該化合物がアジ化ナトリウムと同様のミトコンドリア染色の変更を示す場合の該化合物の除外、
6.HeLa細胞と試験対象の分子とのインキュベーション、ノコダゾールによる任意の処理、その後の微小管ネットワークの免疫蛍光標識化の分析及びリーダーを用いた定量化、並びに
7.前記HeLa細胞と試験対象の前記化合物とのインキュベーション、任意のその後のラトランクリンBとの同時インキュベーション、及びアクチンネットワークに対する試験対象の前記化合物の効果を分析し、該化合物が該アクチンネットワークの形態を変更しない場合該化合物を選抜するためのフルオロフォア(λ2で発光)と連結したファロトキシンによるF−アクチンの標識化、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項15】
神経変性型の病変を予防及び/又は治療する薬物として用いられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項16】
アルツハイマー病及び統合失調症を予防及び/又は治療する薬物として用いられる、請求項15に記載の式(I)の化合物。
【請求項17】
寄生虫病を予防及び/又は治療する薬物として用いられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項18】
マラリアを予防及び/又は治療する薬物として用いられる、請求項17に記載の式(I)の化合物。
【請求項19】
緑内障を予防及び/又は治療する薬物として用いられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項20】
in vitroでLIMK1の活性を阻害又は安定化させやすい分子をスクリーニングする方法であって、
(i)LIMK1を、必要に応じて標識化した請求項1〜11のいずれか一項に記載の式(I)の化合物に接触させること、
(ii)試験対象の前記化合物を添加すること、及び
(iii)試験対象の前記化合物による式(I)の化合物の置き換えを評価すること(avaluating)、
を含む、方法。
【請求項21】
in vivoで直接的若しくは間接的なLIMK1活性化因子、又はホスファターゼ阻害因子をスクリーニングする方法であって、
(i)請求項1〜11のいずれか一項に記載の式(I)の化合物を真核細胞、好ましくはヒト細胞に接触させること、
(ii)LIMK1基質、例えばコフィリンのリン酸化の低減を測定することにより、式(I)の前記化合物の阻害効果を評価すること、
(iii)試験対象の前記化合物を添加すること、及び
(iv)LIMK1基質のリン酸化の阻害に対する試験対象の前記化合物の効果を測定すること、
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2012−518626(P2012−518626A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550670(P2011−550670)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000538
【国際公開番号】WO2010/095042
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(500056471)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ (85)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【Fターム(参考)】