説明

ファイバレーザ加工装置及び励起用レーザダイオード電源装置

【課題】ファイバレーザ加工装置において、アイソレーション・アンプを要することなく小規模で低コストの装置構成によって励起用レーザダイオードのオープン故障およびショート故障を確実に検出すること。
【解決手段】このポンプLD電源回路50において、スイッチング制御部66は、ポンプLD36(38)と直流電源52との間に接続されるスイッチング素子54をパルス幅変調(PWM)制御方式によってスイッチング制御し、ポンプLD36(38)に流れる駆動電流Idの電流値を設定値に一致または近似させるようにしている。デューティ監視部68は、スイッチング素子54のスイッチング動作のデューティを監視し、デューティに基づいてポンプLD36(38)のオープン故障またはショート故障を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザで生成したレーザ光を被加工物に照射して所望のレーザ加工を行うファイバレーザ加工装置およびこれに使用可能な励起用レーザダイオード電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ファイバレーザ加工装置では、レーザ発振用または増幅用の光ファイバを励起するための光源にレーザダイオード(LD)がよく用いられている(たとえば特許文献1,2)。
【0003】
一般に、この種の励起用LDを駆動するための電源回路は、励起用LDに電力を供給するための直流電源と、この直流電源と励起用LDとの間に接続されるスイッチング素子とを有し、このスイッチング素子をパルス幅変調(PWM)方式でスイッチング制御することにより、励起用LDに所望の駆動電流を流すようにしている。これによって、励起用LDは、駆動電流の電流値に応じたパワーで励起光を発振出力する。特に、高出力のファイバレーザ加工装置では、通常数十アンペア以上の大きな駆動電流が励起用LDに流され、励起用LDより数十ワット以上のハイパワーな励起光が発生される。
【0004】
このようにファイバレーザ加工装置に用いられる励起用LDは、ファイバレーザ光の生成に不可欠なものであるが、経時的に消耗・劣化するだけでなく、突発的にオープン(開路)故障またはショート(短絡)故障を起こすことがある。このようなオープン故障またはショート故障の多くは、励起用LD内で発生する熱によって引き起こされる。たとえば、活性領域内のP−N接合が熱で破壊されることによってショート故障になることがある。あるいは、励起用LDと周囲の接続端子との間で半田が溶融することによって、半田付け結合(電気的接続)が破壊して、オープン故障に至ることがある。
【0005】
いずれにしても、レーザ加工の最中に励起用LDがオープン故障またはショート故障を起こしたときは、加工用レーザ光のパワーが全く意図しないものになるので、直ちにその事態を検出してレーザ加工を停止する必要がある。さらには、ユーザ(現場の作業員等)に励起用LDの部品交換を促す必要がある。
【0006】
この点に関して、従来の励起用LD電源装置は、励起用LDの故障を検出するために、励起用LDの端子(アノード端子/カソード端子)間の電圧をアイソレーション・アンプを通じて監視し、LD端子間電圧が異常に高くなったときはオープン故障とみなし、LD端子間電圧が異常に低くなったときはショート故障とみなすようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6275250号
【特許文献2】特開2009−248157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の励起用LD電源装置は、上記のように励起用LDの故障検出にアイソレーション・アンプを用いることにより、部品が多くて大規模かつコスト高になることが問題となっている。また、励起用LDの端子がアイソレーション・アンプに直接接続されるため、アイソレーション・アンプが故障したならば、励起用LDがその影響をまともに受けて、励起光を正常に発振出力できなくなるという不利点もある。
【0009】
なお、励起用LDの故障を検出するために、励起用LDが含まれる負荷回路を流れる駆動電流を監視する従来手法もある。この手法は、励起用LDがオープン故障を起こしたときは、負荷回路に電流が全く流れなくなるので、正しく故障検出を行える。しかし、励起用LDがショート故障を起こしたときは、フィードバック制御により負荷回路には電流が正常に流れるので、そのショート故障を検出することができない。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するものであり、アイソレーション・アンプを要することなく小規模で低コストの装置構成によって励起用レーザダイオードのオープン故障およびショート故障を確実に検出できるようにした励起用レーザダイオード電源装置およびこれを用いるファイバレーザ加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の励起用レーザダイオード電源装置は、ファイバレーザ加工装置においてファイバレーザに用いる励起光を発生するレーザダイオードを駆動するための励起用レーザダイオード電源装置であって、前記レーザダイオードに電力を供給するための直流電源と、前記直流電源と前記レーザダイオードとの間に接続されるスイッチング素子と、前記駆動電流の電流値を測定する駆動電流測定部と、前記駆動電流測定部より得られる電流測定値が電流設定値に一致または近似するように、パルス幅変調制御方式により前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するスイッチング制御部と、前記レーザダイオードのオープン故障またはショート故障を検出するために前記スイッチング動作のデューティを監視するデューティ監視部とを有する。
【0012】
上記の装置構成において、レーザダイオードが正常に機能している限りは、駆動電流の電流値が電流設定値に対して大きくなる方向に変化すると、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが大きくなって、駆動電流の電流値が増大する。また、駆動電流の電流値が電流設定値に対して小さくなる方向に変化すると、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが小さくなって、駆動電流の電流値が減少する。
【0013】
しかし、レーザダイオードがオープン故障を起こすと、駆動電流の電流値が急激に減少し、これに対してPWM方式のフィードバック制御が効かなくなり、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが著しく大きくなる。また、レーザダイオードがショート故障を起こすと、駆動電流の電流値が急激に増大し、これに対してPWM方式のフィードバック制御が効かなくなり、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが著しく小さくなる。
【0014】
デューティ監視部は、スイッチング動作のデューティを監視し、上記のようにデューティが異常に大きくなった状態、またはデューティが異常に小さくなった状態を捉えて、レーザダイオードがオープン故障またはショート故障を起こしたことを検出する。
【0015】
本発明の第2の励起用レーザダイオード電源装置は、ファイバレーザ加工装置においてファイバレーザに用いる励起光を発生するレーザダイオードを駆動するための励起用レーザダイオード電源装置であって、前記レーザダイオードに電力を供給するための直流電源と、前記直流電源と前記レーザダイオードとの間に接続されるスイッチング素子と、前記ファイバレーザより生成されるレーザ光のパワーを測定するレーザパワー測定部より得られるレーザパワー測定値がレーザパワー設定値に一致または近似するように、パルス幅制御変調方式により前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するスイッチング制御部と、前記レーザダイオードのオープン故障またはショート故障を検出するために前記スイッチング動作のデューティを監視するデューティ監視部とを有する。
【0016】
上記の装置構成において、レーザダイオードが正常に機能している限りは、ファイバレーザ光のパワーがレーザパワー設定値に対して高くなる方向に変化すると、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが大きくなって、駆動電流の電流値が増大する。また、ファイバレーザ光のパワーがレーザパワー設定値に対して低くなる方向に変化すると、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが小さくなって、駆動電流の電流値が減少する。
【0017】
しかし、レーザダイオードがオープン故障を起こすと、駆動電流の電流値が急激に減少して、ファイバレーザ光のパワーが急激に低下し、これに対してPWM方式のフィードバック制御が効かなくなり、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが著しく大きくなる。また、レーザダイオードがショート故障を起こすと、駆動電流の電流値が急激に増大して、ファイバレーザ光のパワーが急激に上昇し、これに対してPWM方式のフィードバック制御が効かなくなり、スイッチング素子のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが著しく小さくなる。
【0018】
デューティ監視部は、スイッチング動作のデューティを監視し、上記のようにデューティが異常に大きくなった状態、またはデューティが異常に小さくなった状態を捉えて、レーザダイオードがオープン故障またはショート故障を起こしたことを検出する。
【0019】
本発明の好適な一態様においては、デューティ監視部が、デューティ上限値を設定し、スイッチング動作のデューティがデューティ上限値を超えたときに、当該レーザダイオードがオープン故障を起こしているとの通報を出力する。さらに好ましくは、デューティ監視部が、第1の判定時限時間を設定し、スイッチング動作のデューティがデューティ上限値を超えた状態が第1の判定時限時間続いたときに、レーザダイオードがオープン故障を起こしていると判定する。
【0020】
別の好適な一態様においては、デューティ監視部が、デューティ下限値を設定し、スイッチング動作のデューティがデューティ下限値を割ったときに、レーザダイオードがショート故障を起こしているとの通報を出力する。さらに好ましくは、デューティ監視部が、第2の判定時限時間を設定し、スイッチング動作のデューティがデューティ下限値を割った状態が第2の判定時限時間続いたときに、レーザダイオードがショート故障を起こしていると判定する。
【0021】
本発明の好適な一態様においては、スイッチング制御部が、上記測定値と上記設定値とを比較して、その比較誤差を表わす誤差信号を生成する誤差生成部と、この誤差信号に基づいてスイッチング素子に供給すべき二値のパルス幅変調制御信号を生成する制御信号生成部とを有する。そして、デューティ監視部が、誤差信号のレベルをデューティ上限値に対応する第1の基準値と比較して、その比較結果から、スイッチング動作のデューティが前記デューティ上限値よりも大きいか否かを判定する。あるいは、デューティ監視部が、パルス幅変調制御信号のパルス幅をデューティ上限値に対応する第1の基準値と比較して、その比較結果から、スイッチング動作のデューティがデューティ上限値よりも大きいか否かを判定する。
【0022】
別の好適な一態様においては、スイッチング制御部が、上記測定値と上記設定値とを比較して、その比較誤差を表わす誤差信号を生成する誤差生成部と、その誤差信号に基づいてスイッチング素子に供給すべき二値のパルス幅変調制御信号を生成する制御信号生成部とを有する。そして、デューティ監視部が、誤差信号のレベルをデューティ下限値に対応する第2の基準値と比較して、その比較結果から、スイッチング動作のデューティがデューティ下限値よりも小さい否かを判定する。あるいは、デューティ監視部が、パルス幅変調制御信号のパルス幅をデューティ下限値に対応する第2の基準値と比較して、その比較結果から、スイッチング動作のデューティがデューティ下限値よりも小さいか否かを判定する。
【0023】
本発明の第1のファイバレーザ加工装置は、シード光を生成するためのシード光源と、希土類元素として少なくともYbを添加したコアを有し、前記シード光を入力端より前記コアの中に入れ、前記シード光を出力端に向けて伝搬させながら誘導放出により増幅する増幅用光ファイバと、前記増幅用光ファイバのコアを励起するための励起光を発生する励起用レーザダイオードと、前記励起用レーザダイオードを点灯駆動するための本発明の励起用レーザダイオード電源装置と、前記シード光源および前記励起用レーザダイオードを前記増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する光結合器と、前記増幅用光ファイバの出力端から出るパルス波形のレーザ光を被加工物に集光照射するレーザ照射部と、前記励起用レーザダイオード電源装置より前記通報が出力されたときは前記通報に応答して前記シード光源および前記励起用レーザダイオード電源装置を停止させる制御部とを有する。
【0024】
本発明の第2のファイバレーザ加工装置は、発光元素を含むコアとこのコアを取り囲むクラッドとを有する発振用の光ファイバと、前記発振用光ファイバのコアを介して光学的に対向する一対の共振器ミラーと、前記増幅用光ファイバのコアを励起するための励起光を発生する励起用レーザダイオードと、前記励起用レーザダイオードを点灯駆動するための本発明の励起用レーザダイオード電源装置と、前記共振器ミラーより出力された前記レーザ光を被加工物の加工点に向けて集光照射するレーザ照射部と、前記励起用レーザダイオード電源装置より前記通報が出力されたときは、前記通報に応答して前記励起用レーザダイオード電源装置を停止させる制御部とを有する。
【0025】
上記第1および第2のファイバレーザ加工装置は、本発明の励起用レーザダイオード電源装置を備えることより、励起用レーザダイオードがオープン故障またはショート故障を起こしたときに適切に対応することが可能であり、装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の励起用レーザダイオード電源装置によれば、上記のような構成および作用により、アイソレーション・アンプを要することなく小規模で低コストな装置構成によって、励起用レーザダイオードのオープン故障およびショート故障を確実に検出することができる。
【0027】
本発明のファイバレーザ加工装置によれば、上記のような構成および作用により、励起用レーザダイオードのオープン故障およびショート故障に対して適切な対処を行うことが可能であり、装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態によるファイバレーザ加工装置の構成を示す図である。
【図2】上記ファイバレーザ加工装置のマーキング加工におけるマーキングパターンの一例を示す図である。
【図3】上記マーキング加工における各部の波形およびタイミングを示す図である。
【図4】上記ファイバレーザ加工装置で用いられるポンプLD電源回路の構成を示す図である。
【図5】上記ポンプLD電源回路に含まれるスイッチング制御部およびデューティ監視部の回路構成を示す図である。
【図6】上記スイッチング制御部のスイッチング動作における各部の波形を示す図である。
【図7A】上記デューティ監視部の一作用を説明するための各部の波形を示す図である。
【図7B】上記デューティ監視部の一作用を説明するための各部の波形を示す図である。
【図8】一変形例におけるデューティ監視部の回路構成を示す図である。
【図9】一変形例におけるファイバレーザ加工装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0030】
図1に、本発明の一実施形態におけるMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)方式ファイバレーザ加工装置の構成を示す。このファイバレーザ加工装置は、シード光発生部10、第1および第2の増幅用光ファイバ(以下「アクティブファイバ」と称する)12,14およびレーザ照射部16をアイソレータ18,20,22および光結合器24,26を介して光学的に縦続接続している。
【0031】
シード光発生部10は、シード用のレーザダイオード(以下「シードLD」と称する。)30と、このシードLD30をパルス波形の電流で駆動してパルス発振させるシードLD電源回路32と、シードLD30の温度を制御するLD温調部34とを有している。シードLD30は、ファイバカップリングLDとして構成されている。
【0032】
シード光発生部10と第1のアクティブファイバ12との間に設けられる光結合器24は、複数たとえば3つの入力ポート24IN(1),24IN(2),24IN(3)と1つの出力ポート24OUTとを有している。第1の入力ポート24IN(1)には、アイソレータ18を介してシードLD30が接続される。第2の入力ポート24IN(2)には、第1のアクティブファイバ12のコアを励起するための励起用LD(以下「ポンプLD」と称する。)36が接続される。第3の入力ポート24IN(3)は、増設ポートであり、ここに別のポンプLD36(図示せず)を接続することも可能となっている。出力ポート24OUTには、アクティブファイバ12の入力端が接続される。
【0033】
シード光発生部10、アイソレータ18および光結合器24によって、第1のアクティブファイバ12に対するシード光注入部が構成されている。また、ポンプLD36および光結合器24によって、第1のアクティブファイバ12に対する励起光注入部が構成されている。
【0034】
第1のアクティブファイバ12は、少なくともYbイオンを添加した石英からなるコアと、このコアを同軸に取り囲むたとえば石英からなるクラッドとを有しており、全長(ファイバ長)がたとえば3〜15mに選ばれている。第1のアクティブファイバ12(第1段アンプ)の利得は、ポンプLD36の総合出力によりたとえば10〜40dBの範囲で調節可能となっている。
【0035】
第1のアクティブファイバ12と第2のアクティブファイバ14との間に設けられる光結合器26は、複数たとえば7つの入力ポート26IN(1),26IN(2)〜26IN(7)と1つの出力ポート26OUTとを有している。第1の入力ポート26IN(1)には、アイソレータ20を介して第1のアクティブファイバ12の出力端が接続される。第2〜第5の入力ポート26IN(2) 〜26IN(5)には、第2のアクティブファイバ14のコアを励起するためのポンプLD38がそれぞれ接続される。第6および第7の入力ポート26IN(2),26IN(7)は空きポートとなっているが、必要に応じてポンプLDを増設することもできる。出力ポート26OUTには、第2のアクティブファイバ14の入力端が接続される。
【0036】
第2のアクティブファイバ14も、第1のアクティブファイバ12と同様に、少なくともYbを添加した石英からなるコアと、このコアを同軸に取り囲むたとえば石英からなるクラッドとを有しており、全長(ファイバ長)がたとえば3〜15mに選ばれている。第2のアクティブファイバ14(第2段アンプ)の利得は、ポンプLD38の総合出力によりたとえば10〜40dBの範囲で調節可能となっている。
【0037】
レーザ照射部16は、第2のアクティブファイバ14の出力端より取り出されるパルス波形の加工用光ビームLBをたとえばコリメータ39、ベントミラー40等の光伝送系を介して受け取り、受け取った光ビームLBをステージ42上の被加工物W表面の所望の位置に集光照射するようになっている。たとえば、マーキング加工を行う場合、レーザ照射部16にはガルバノスキャナが搭載される。
【0038】
主制御部44は、キーボードあるいはマウス等の入力部46aおよびディスプレイ等の表示部46bを有するタッチパネル46と接続するマイクロコンピュータからなり、メモリに格納された制御プログラムに基づいて上述した装置内の各部および装置全体の制御を行う。
【0039】
このファイバレーザ加工装置において、マーキング加工を行う場合、シード光発生部10は、所定の波長を有するパルス波形のシード光(LD光)を所望のパルス幅(たとえば0.1〜200ns)、所望のピークパワー(たとえば10〜100mW)および所望の繰り返し周波数(たとえば20〜500kHz)で出力するように構成されている。なお、繰り返し周波数は、10kHz〜1MHzの範囲で出力するように構成することができる。シード光発生部10より出力されたパルス波形のシード光は、アイソレータ18および光結合器24を介して第1のアクティブファイバ12のコアに注入される。
【0040】
一方、ポンプLD36は、所定の波長を有する連続波(cw)の励起光を出力するように構成されている。ポンプLD36より出力される連続波の励起光は光結合器24を介して第1のアクティブファイバ12のコアに注入される。
【0041】
第1のアクティブファイバ12の中で、シード光は、コアとクラッドとの境界面での全反射によって閉じ込められながらコアの中を軸方向にファイバ出力端側に向って伝搬する。一方、励起光は、クラッド外周界面の全反射によって閉じ込められながらアクティブファイバ12の中を軸方向に伝搬し、その伝搬中にコアを何度も横切ることでコア中のYbイオンを光励起する。
【0042】
こうして、シード光と励起光とがアクティブファイバ12を伝搬する間に、そのYb添加コアにおいて励起光スペクトルの吸収とシード光スペクトルの誘導放出とが繰り返し行われ、アクティブファイバ12の出力端より所望のパワー(たとえば200Wのピークパワー)を有するまでに増幅されたシード光つまり第1段増幅パルスの光ビームが出力される。
【0043】
第1のアクティブファイバ12の出力端から出た第1段増幅パルスの光ビームは、アイソレータ20および光結合器26を介して第2のアクティブファイバ14のコアに注入される。一方で、ポンプLD38からの連続波(cw)の励起光が光結合器26を介して第2のアクティブファイバ14のコアに注入される。
【0044】
第2のアクティブファイバ14においても、増幅対象の光ビームが異なるだけで、つまりシード光が第1段増幅光ビームに置き換わるだけで、第1のアクティブファイバ12と同様の誘導放出機構による光増幅が行われ、アクティブファイバ14の出力端より所望のパワー(たとえば20kWのピークパワー)を有する第2段増幅パルスの光ビームが出される。
【0045】
こうして、第2のアクティブファイバ14の出力端から取り出された第2段増幅パルスの光ビームが、加工用のレーザ光LBとして、たとえばコリメータ39、ベントミラー40を介してレーザ照射部16へ送られる。
【0046】
レーザ照射部16は、マーキング加工用のガルバノスキャナおよびfθレンズを備えている。ガルバノスキャナは、直交する2方向に首振り運動の可能な一対の可動ミラーを有しており、制御部44の制御の下でシード光発生部10のパルス発振動作に同期して両可動ミラーの向きを所定角度に制御することで、加工用レーザ光LBをステージ42上の被加工物W表面の所望の位置に集光照射する。被加工物Wの表面に施されるレーザ加工は、典型的には文字や図形等を描画するマーキング加工であるが、トリミング等の他の表面除去加工等も可能である。
【0047】
図2および図3にこのファイバレーザ加工装置におけるマーキング加工の一例を示す。
【0048】
図2に示すように、たとえば文字“A”のマーキングパターンは、f1→f2の連続した第1ストロークの描画と、f3→f4の連続した第2ストロークの描画とで形成される。ここで、第1および第2のストロークを描画する期間(t1〜t2),(t3〜t4)中は、図3に示すように、シードLD30およびポンプLD36,38よりシード光および励起光がそれぞれ出力されて、加工用レーザ光LBが生成され、ガルバノスキャナが可動ミラーを首振り走査する。しかし、図2の点線で示すf2→f3の期間(t2〜t3)中は、シードLD30およびポンプLD36,38が発光動作を停止し、シード光および励起光ひいては加工用レーザ光LBが出力されないまま、ガルバノスキャナが可動ミラーを首振り走査する。このように、各ストロークの描画が行われる期間中にポンプLD36,38は励起光を発生するようになっている。
【0049】
このファイバレーザ加工装置において、第1および第2のアクティブファイバ12,14のポンピングに用いられる各々のポンプLD36,38は、主制御部44からの制御信号および設定値PCにしたがいポンプLD電源回路50によって駆動される。
【0050】
一方で、ポンプLD36,38がオープン(開路)故障またはショート(短絡)故障を起こしたときは、ポンプLD電源回路50からその旨の通報ARが主制御部44に送られる。主制御部44は、レーザ加工の最中にポンプLD電源回路50より通報ARを受け取ると、直ちにレーザ加工を停止するか、あるいは補償処置をとってレーザ加工を続行し、タッチパネル46の表示部46bを通じてその故障状況をユーザ(現場の作業員等)に伝えるようになっている。その際、故障を起こした当該ポンプLD36(38)を特定する識別情報を表示することもできる。
【0051】
以下、この実施形態におけるポンプLD電源回路50の構成および作用を説明する。
【0052】
図4に示すように、このポンプLD電源回路50は、ポンプLD36(38)に電力を供給するための直流電源52と、この直流電源52とポンプLD36(38)との間に直列に接続されるスイッチング素子54およびチョークコイル56を有している。さらに、直流電源52と並列に平滑用のコンデンサ58を接続するとともに、チョークコイル56およびポンプLD36(38)と並列にフライホイール・ダイオード60を接続し、駆動電流Idが流れる電流路(導体)にたとえばホール素子からなる電流センサ62を取り付けている。駆動電流測定回路64は、電流センサ62の出力信号を基に駆動電流Idの電流測定値MIdとしてたとえば電流実効値を演算し、駆動電流測定値MIdをフィードバック信号として後述するスイッチング制御部66に与える。
【0053】
直流電源52は、たとえばAC−DCコンバータ、DC−DCコンバータあるいはバッテリからなり、一定レベルの直流電圧を安定に出力するようになっている。スイッチング素子54は、応答速度の高いトランジスタ、たとえば電界効果型トランジスタ(FET)からなる。
【0054】
スイッチング制御部66は、パルス幅変調(PWM)制御方式のスイッチング制御信号SPWMによりスイッチング素子54をたとえば20kHz〜300kHzの一定周波数でオン・オフ制御する。スイッチング素子54がスイッチング・オンしている期間中は、直流電源52、スイッチング素子54、チョークコイル56およびポンプLD36(38)を含む閉回路で駆動電流Idが流れる。スイッチング素子54がスイッチング・オフしている期間中は、チョークコイル56に蓄積されていた電磁エネルギーが駆動電流IdとなってポンプLD36(38)およびフライホイール・ダイオード60を還流する。
【0055】
こうして、スイッチング素子54がスイッチング動作を行っている間は、ポンプLD36(38)に直流の駆動電流Idが持続的に流れ、ポンプLD36(38)より駆動電流Idの電流値に応じた光出力を有するLD光が励起光として生成される。
【0056】
上記PWM制御において、スイッチング制御部66は、主制御部44より駆動電流設定値(電流制御信号)PCAを受け取り、駆動電流測定回路64より駆動電流測定値(フィードバック信号)MIdを受け取る。
【0057】
たとえばマーキング加工が行われる場合は、1回の連続したストロークの描画が終了すると、いったんそこでスイッチング素子54のスイッチング動作つまりポンプLD36(38)の駆動が停止し、次のストロークの描画が開始すると、スイッチング素子54のスイッチング動作つまりポンプLD36(38)の駆動が再開する。主制御部44よりスイッチング制御部66に与えられる駆動時間制御信号PCtにしたがって、ポンプLD36(38)に供給する駆動電流Id(つまり励起光)の持続時間および/または休止時間が任意に可変されるようになっている。
【0058】
この実施形態におけるポンプLD電源回路50は、スイッチング制御部66によって制御されるスイッチング素子54のスイッチング動作のデューティを監視し、デューティに基づいてポンプLD36(38)のオープン故障またはショート故障を検出するデューティ監視部68を備えている。
【0059】
図5に、スイッチング制御部66およびデューティ監視部68の構成を示す。
【0060】
スイッチング制御部66は、誤差増幅器70、三角波発生回路72、コンパレータ74およびゲート回路76を有している。誤差増幅器70には、駆動電流測定回路64からの駆動電流測定値(フィードバック信号)MIdが入力されるとともに、主制御部44(図1)からの駆動電流設定値(電流制御信号)PCAが入力される。誤差増幅器70は、たとえば差動増幅器からなり、駆動電流測定値MIdを駆動電流設定値PCAと比較して、その比較誤差(MId−PCA)に応じた電圧レベルを有する誤差信号ERを出力する。
【0061】
三角波発生回路72は、クロック回路78よりPWM用の20kHz〜300kHzのクロック信号CKを入力し、このクロック信号CKに同期した三角波信号(または鋸波信号)KMを出力する。
【0062】
コンパレータ74は、誤差増幅器70からの誤差信号ERおよび三角波発生回路72からの三角波信号KMを両入力端子(-),(+)にそれぞれ入力し、両入力信号ER,KMのレベルの大小関係に応じて、ER>KMのときは論理値Lとなり、ER≦KMのときは論理値Hとなるような二値の出力信号をPWM制御信号SPWMとして発生する。
【0063】
コンパレータ74より出力されるPWM制御信号SPWMは、AND回路からなるゲート回路76を介してスイッチング素子54の制御端子に与えられる。スイッチング素子54は、PWM制御信号SPWMが論理値Lのときはオフし、PWM制御信号SPWMが論理値Hのときはオンする。
【0064】
ゲート回路76は、主制御部44(図1)からの駆動時間制御信号PCtを入力し、この制御信号PCtが論理値HのときはPWM制御信号SPWMの出力を可能とし、制御信号PCtが論理値LのときはPWM制御信号SPWMの出力を禁止化または強制停止する。
【0065】
上記のようなPWM制御方式のスイッチング動作において、たとえば、駆動電流Idの電流値が駆動電流設定値PCAに対して小さくなる方向に変化すると、図6の(a)に示すように誤差信号ER(MId−PCA)のレベルが低下し、図6の(b)に示すようにPWM制御信号SPWMのHレベル期間PWが大きくなる。それによって、スイッチング素子54のスイッチング・オンする期間の割合つまりデューティが大きくなり、図6の(c)に示すように駆動電流Idの電流値が増大する。こうして、駆動電流Idの電流値が駆動電流設定値PCAに再び一致または近似するようになる。
【0066】
また、駆動電流Idの電流値が駆動電流設定値PCAに対して大きくなる方向に変化すると、図示省略するが、上記のようなPWM制御方式のフィードバックループ機構が働くことにより、駆動電流Idの電流値が減少して、駆動電流設定値PCAに再び一致または近似するようになる。
【0067】
この実施形態では、上記のように、誤差信号ERとデューティが逆比例関係にあり、誤差信号ERが大きくなるほどデューティが小さくなり、誤差信号ERが小さくなるほどデューティが大きくなる。もっとも、変形例として、誤差信号ERが大きくなるほどデューティが大きくなり、誤差信号ERが小さくなるほどデューティが小さくなるような比例関係にあってもよい。
【0068】
次に、デューティ監視部68(図5)の構成および作用を説明する。デューティ監視部68は、設定部80、コンパレータ82,84、OR回路86およびカウンタ回路88を有している。
【0069】
設定部80は、主制御部44(図1)よりポンプLD36(38)のオープン故障およびショート故障の検出に必要な設定値PCDを受け取る。この設定値PCDには、デューティ上限値DU、デューティ下限値DLおよび判定時限時間DTが含まれる。
【0070】
ここで、デューティ上限値DUは、ポンプLD36(38)がオープン故障を起こしたときにスイッチング制御部66においてスイッチング動作のデューティが顕著に大きくなる特性に鑑みて、たとえばデューティ80%の値に選ばれる。また、デューティ下限値DLは、ポンプLD36(38)がショート故障を起こしたときにスイッチング制御部66においてスイッチング動作のデューティが顕著に小さくなる特性に鑑みて、たとえばデューティ20%の値に選ばれる。また、判定時限時間DTは、ポンプLD36(38)がオープン故障またはショート故障を起こしたときはスイッチング制御部66においてデューティの異常に大きい状態または小さい状態が持続される特性に鑑みて、たとえばPWMのクロックベースで10サイクルの長さに選ばれる。因みに、クロックCKが100kHzの場合、10サイクルの時間は0.1msecである。
【0071】
設定部80は、デューティ上限値DUに対応した電圧レベルを有する第1基準値ERDUをコンパレータ82の一方の入力端子(+)に与え、デューティ下限値DLに対応した電圧レベルを有する第2基準値ERDLをコンパレータ84の一方の入力端子(-)に与え、判定時限時間DTに対応するカウント値NDTをカウンタ88のプリセット端子(P)に与える。
【0072】
コンパレータ82,84は、それぞれの他方の入力端子(-),(+)に、スイッチング制御部66内で生成される誤差信号ERを受け取る。一方のコンパレータ82は、両入力信号ER,ERDUのレベルの大小関係に応じて、ER≦ERDUのときは論理値Lとなり、ER>ERDUのときは論理値Hとなるような二値の出力信号をデューティ上限超過モニタ信号DMUとして発生する。このデューティ上限超過モニタ信号DMUは、OR回路86を介してカウンタ88のセット端子(S)およびリセット端子(R)に与えられる。
【0073】
他方のコンパレータ84は、両入力信号ER,ERDLのレベルの大小関係に応じて、ER≦ERDLのときは論理値Lとなり、ER>ERDLのときは論理値Hとなるような二値の出力信号をデューティ下限未満モニタ信号DMLとして発生する。このデューティ下限未満モニタ信号DMLも、OR回路86を介してカウンタ88のセット端子(S)およびリセット端子(R)に与えられる。
【0074】
カウンタ88は、クロック回路78からのクロック信号CKをクロック端子(C)に受け取り、セット端子(S)およびリセット端子(R)に論理値Hの信号を入力している間はクロック信号CKをカウントし、計数値がプリセット値NDTに到達すると、出力端子(Q)より論理値Hの信号を出力するようになっている。この論理値Hの出力信号は、上記通報ARとして、主制御部44へ与えられる。また、セット端子(S)およびリセット端子(R)に論理値Lの信号を入力した時または入力している間は、カウント動作を停止し、計数値を初期値に戻し、または初期値にホールドされるようになっている。
【0075】
図7Aおよび図7Bにつき、デューティ監視部68の作用を説明する。
【0076】
上記ファイバレーザ加工装置(図1)において、レーザ加工の最中にいずれかのポンプLD36(38)が突発的にショート故障を起こしたとする。その場合、当該ポンプLD36(38)を駆動するポンプLD電源回路50においては、それまでは正常であった(つまり、駆動電流設定値PCAに一致または近似していた)駆動電流Idの電流値がポンプLD36(38)の短絡によって急激に増大する。
【0077】
当該ポンプLD電源回路50に備えられる上記PWM制御フィードバックループ機構においては、駆動電流Idの増大に応じて駆動電流測定値MIdが増大し、それによって図7Aに示すように誤差信号ERのレベルが増大し、PWM制御信号SPWMのパルス幅(論理値Hの期間)PWの比率つまりデューティが減少する。そして、デューティがデューティ下限値(たとえば20%)を割った時、つまり誤差信号ERが第2基準値ERDLより大きくなった時(図7Aの時点tp)に、コンパレータ84より出力されるデューティ下限未満モニタ信号DMLがそれまで論理値Lから論理値Hに変わる。なお、コンパレータ82においては、第1基準値ERDUのレベルが相当低いため、この場面では定常的にER>ERDUであり、デューティ上限超過モニタ信号DMUは論理値Lを維持する。
【0078】
上記のように、コンパレータ84より出力されるデューティ下限未満モニタ信号DMLが論理値Lから論理値Hに変わると、それに応答してカウンタ88がクロック信号CKのカウント動作を開始する。この場合、駆動電流Idの増大はポンプLD36(38)のショート故障が原因であるので、上記のようなデューティを減少させる方向のフィードバック制御(PWM制御)は持続する。これにより、カウンタ88はプリセット値NDTまでカウントし、出力端子(Q)より論理値Hの通報ARを出力する。
【0079】
次に、別のケースとして、レーザ加工の最中にいずれかのポンプLD36(38)が突発的にオープン故障を起こしたとする。この場合は、当該ポンプLD36(38)を駆動するポンプLD電源回路50において、それまでは正常であった(つまり、駆動電流設定値PCAに一致または近似していた)駆動電流Idの電流値がポンプLD36(38)の開路または遮断によって急激に減少する。
【0080】
当該ポンプLD電源回路50に備えられている上記PWM制御フィードバックループ機構においては、駆動電流Idの急激な減少に応じて駆動電流測定値MIdが急激に減少し、それによって図7Bに示すように誤差信号ERのレベルが減少し、PWM制御信号SPWMのパルス幅(論理値Hの期間)PWの比率つまりデューティが増大する。そして、デューティがデューティ上限値(たとえば80%)を超えた時、つまり誤差信号ERが第1基準値ERDUより小さくなった時(図7Bの時点tp)に、コンパレータ82より出力されるデューティ上限超過モニタ信号DMUがそれまでの論理値Lから論理値Hに変わる。なお、コンパレータ84においては、第2基準値ERDLのレベルが相当高いため、この場面では定常的にER<ERDUであり、デューティ下限未満モニタ信号DMLは論理値Lを維持する。
【0081】
上記のように、コンパレータ82より論理値Hのデューティ上限超過モニタ信号DMUが出力されると、それに応答してカウンタ88がクロック信号CKをカウントする動作(計時動作)を開始する。この場合、上記のような駆動電流Idの顕著な減少はポンプLD36(38)のオープン故障が原因であるので、上記のようなデューティを増大させる方向のフィードバック制御(PWM制御)は持続する。これにより、カウンタ88はプリセット値NDT(判定時限時間DT)までカウント(計時)し、出力端子(Q)より論理値Hの通報ARを出力する。
【0082】
上記のように、ポンプLD36(38)で突発的なオープン故障またはショート故障が起こると、このポンプLD36(38)を駆動するポンプLD電源回路50のデューティ監視部68よりその故障状況を知らせる通報ARが出力される。この通報ARは、主制御部44(図1)に送られる。
【0083】
なお、ポンプLD36(38)が故障しないで正常に機能していても、スイッチング動作の中でデューティがデューティ下限値(20%)を割り、またはデューティ上限値(80%)を超えることがある。しかし、それは一瞬であり、PWM制御フィードバックループ機構の働きにより、直ぐにデューティが定常ダイナミック範囲(上記の例では20%〜80%)に戻る。これにより、正常動作中には、コンパレータ82,84より論理値Hのデューティ上限超過モニタ信号DMUまたはデューティ下限未満モニタ信号DMLが出力されて、カウンタ88がクロックCKのカウント(計時)を開始したとしても、判定時限時間DTが経過する前に、そのモニタ信号DMU(DML)が論理値Hから論理値Lに戻ってカウンタ88がリセットされる。したがって、誤って通報ARが発生されることはない。
【0084】
主制御部44は、いずれかのポンプLD電源回路50より通報ARを受け取ると、一態様として、装置内の全てのポンプLD電源回路50およびシードLD電源回路32のLD駆動動作を停止させて、つまり装置内の全てのポンプLD36(38)およびシードLD32の励起光発振出力動作を止めて、レーザ加工を停止する。そして、停止の原因として、いずれかのポンプLD36(38)がオープン故障またはショート故障を起こしたことを表示する。その際、故障を起こした当該ポンプLD36(38)を特定して表示することもできる。
【0085】
別の一態様として、主制御部44は、故障したポンプLD36(38)を駆動している当該ポンプLD電源回路50だけを停止させ、残りの全てのポンプLD電源回路50を止めないで、レーザ加工を続行または継続することも可能である。その場合、故障によって欠けたポンプLD36(38)の励起光を残りの全てのポンプLD36(38)が補うように、継続使用される各LD電源回路50において駆動電流設定値PCAを調整するようにしてもよい。あるいは、増設ポートに接続されている予備のポンプLD36(38)およびポンプLD電源回路50を使用することも可能である。もちろん、この場合も、故障を起こしたポンプLD36(38)を特定表示して、その部品交換を促してよい。
【0086】
上記のように、この実施形態におけるポンプLD電源回路50は、アイソレーション・アンプを必要とせず、代わりに小規模で低コストな回路構成のデューティ監視部68によって、ポンプLD36(38)のオープン故障およびショート故障を確実に検出することができる。
【0087】
また、この実施形態におけるファイバレーザ加工装置は、上記のような構成および機能を有するポンプLD電源回路50を備えることにより、いずれかのポンプLD36(38)がオープン故障またはショート故障を起こしても適切に対応することが可能であり、装置の信頼性を大きく向上させることができる。
【0088】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0089】
たとえば、上記実施例では、デューティ監視部68の設定部80においてデューティ上限値DUおよびデューティ下限値DLにそれぞれ対応した電圧レベルを有する第1および第2基準値ERDU,ERDLを設定し、スイッチング制御部66の誤差増幅器70より出力される誤差信号ERをコンパレータ82,84により第1および第2基準値ERDU,ERDLと比較して、その比較結果から、スイッチング動作のデューティが前記デューティ上限値DUより大きいか否か、およびデューティ下限値DLより小さいか否かを判定するようにした。
【0090】
別の実施例として、図8に示すように、設定部80においてデューティ上限値DUおよびデューティ下限値DLにそれぞれ対応したパルス幅を有する第1および第2基準値PWDU,PWDLを設定し、スイッチング制御部66のコンパレータ74より出力されるPWM制御信号SPWMのパルス幅(論理値H期間)PWをパルス幅測定部90により測定または監視し、そのパルス幅測定値または監視値PWをパルス幅比較器92,94により第1および第2基準値PWDU,PWDLと比較して、その比較結果から、スイッチング動作のデューティが前記デューティ上限値DUより大きいか否か、およびデューティ下限値DLより小さいか否かを判定することも可能である。
【0091】
上記実施形態はMOPAファイバレーザ加工装置に係わるものであったが、本発明は任意のファイバレーザ加工装置に適用可能であり、たとえば図9に示すようなファイバレーザ加工装置にも適用可能である。
【0092】
このファイバレーザ加工装置は、ロンクパルスのファイバレーザ光を用いるレーザ加工たとえばレーザ溶接に好適に使用可能なレーザ加工機であり、主としてファイバレーザ発振器100、励起用LD102、励起用LD電源回路104、ファイバ伝送系106、レーザ出射部108、主制御部110、タッチパネル112等で構成されている。
【0093】
ファイバレーザ発振器100は、発振用の光ファイバ(以下「発振ファイバ」と称する。)114と、この発振ファイバ114を介して光学的に相対向する一対の光共振器ミラー116,118とを有している。
【0094】
励起用のLD102は、励起用LD電源回路104より供給されるパルス状の駆動電流Idによって発光駆動され、ファイバレーザ発振器100内のレーザ励起(ポンピング)に用いるパルス状のLD光つまり励起光MBを発振出力する。LD102を構成するLD素子の個数は任意であり、アレイ構造あるいはスタック構造をとることも可能である。
【0095】
ファイバレーザ発振器100内の光学レンズ120は、LD102からの励起光MBを発振ファイバ112の一端面に集光入射させる。LD102と光学レンズ120との間に配置される光共振器ミラー116は、LD102側から入射した励起光MBを透過させ、発振ファイバ114側から入射した発振光線を共振器の光軸上で全反射するようにコーティングがなされている。
【0096】
発振ファイバ114は、希土類元素をドープしたコアと、このコアを同軸に取り囲むクラッドとを有しており、コアを活性媒体とし、クラッドを励起光の伝搬光路としている。上記のようにして発振ファイバ114の一端面に入射した励起光MBは、クラッド外周境界面の全反射によって閉じ込められながら発振ファイバ114の中を軸方向に伝搬し、その伝搬中にコアを何度も横切ることでコア中の発光元素を光励起する。こうして、コアの両端面から軸方向に所定波長の発振光線が放出され、この発振光線が光共振器ミラー116,118の間を何度も行き来して共振増幅され、部分反射ミラーからなる片側の光共振器ミラー118より上記所定波長を有するパルス状のファイバレーザ光FBが取り出される。
【0097】
なお、ファイバレーザ発振器100内の光学レンズ122は、発振ファイバ114の端面から放出されてきた発振光線を平行光にコリメートして光共振器ミラー118へ通し、光共振器ミラー118で反射して戻ってきた発振光線を発振ファイバ114の端面に集光させる。また、発振ファイバ114を通り抜けた励起用レーザ光MBは、光学レンズ122および光共振器ミラー118を透過したのち折り返しミラー124にて側方のレーザ吸収体126に向けて折り返される。光共振器ミラー118より出力されたファイバレーザ光FBは、この折り返しミラー124をまっすぐ透過し、次いでビームスプリッタ128を通ってからファイバ伝送系106のレーザ入射部130に入る。
【0098】
ビームスプリッタ128は、入射したファイバレーザ光FBの一部(たとえば1%)を所定方向つまりパワーモニタ用の受光素子たとえばフォトダイオード(PD)132側へ反射する。フォトダイオード(PD)132の正面に、ビームスプリッタ128からの反射光またはモニタ光RFBを集光させる集光レンズ134が配置されてよい。
【0099】
フォトダイオード(PD)132は、ビームスプリッタ128からのモニタ光RFBを光電変換して、ファイバレーザ光FBのレーザ出力(レーザパワー)を表す電気信号(レーザ出力測定信号)を出力する。レーザ出力測定回路136は、フォトダイオード132の出力信号を基に、アナログ信号処理によってファイバレーザ光FBのレーザ出力測定値MFBを求める。レーザ出力測定回路136で得られたレーザ出力測定値MFBは、パワーフィードバック制御用のフィードバック信号として励起用LD電源回路104に与えられる。
【0100】
ビームスプリッタ128をまっすぐ透過してレーザ入射部130に入ったファイバレーザ光FBは、最初にベントミラー138で所定方向に折り返され、次いで入射ユニット140内で集光レンズ142により集光されてファイバ伝送系106の伝送用光ファイバ(以下「伝送ファイバ」と称する。)144の一端面に入射する。伝送用光ファイバ144は、たとえばSI(ステップインデックス)形ファイバからなり、入射ユニット140内で入射したファイバレーザ光FBをレーザ出射部108の出射ユニット146まで伝送する。出射ユニット146は、伝送ファイバ52の終端面より出たファイバレーザ光FBを平行光にコリメートするコリメートレンズ148と、平行光のファイバレーザ光FBを所定の焦点位置に集光させる集光レンズ150とを有している。
【0101】
レーザ溶接加工が行われる時は、励起用LD電源回路104より波形制御された駆動電流IdがLD102に供給(注入)され、ファイバレーザ発振器100内でLD102より駆動電流Idの波形に対応した出力波形の励起光MBが発振ファイバ104に供給(注入)され、ファイバレーザ発振器100よりLD出力波形に対応したレーザ出力波形を有するファイバレーザ光FBが発振出力される。この波形制御されたファイバレーザ光FBが、レーザ入射部130、ファイバ伝送系106およびレーザ出射部108を介して被加工物Wの溶接ポイントまたは溶接ラインに集光照射される。該溶接ポイントまたは溶接ラインにおいては、ファイバレーザ光FBのエネルギーにより被加工材質が溶融し、パルス照射終了後に凝固してナゲットが形成される。
【0102】
このファイバレーザ加工装置においては、励起用LD電源回路104に本発明を適用することができる。この励起用LD電源回路104は、上記実施形態におけるポンプLD電源回路50と同様の構成を有してよく、レーザ出力測定回路136で得られるレーザ出力測定値MFBが設定値に一致または近似するように、PWM制御方式によりスイッチング素子54のスイッチング動作を制御するようになっている。
【0103】
この場合、スイッチング制御部66の誤差増幅器70(図5、図8)には、レーザ出力測定回路136からのレーザ出力測定値MFBと主制御部110からのレーザ出力設定値PCPが入力される。誤差増幅器70は、レーザ出力測定値MFBをレーザ出力設定値PCPと比較して、その比較誤差(MFB−PCP)に応じた電圧レベルを有する誤差信号ERを出力する。コンパレータ74は、誤差増幅器70からの誤差信号ERおよび三角波発生回路72からの三角波信号KMを両入力端子(-),(+)にそれぞれ入力し、両入力信号ER,KMのレベルの大小関係に応じて、ER>KMのときは論理値Lとなり、ER≦KMのときは論理値Hとなるような二値の出力信号をPWM制御信号SPWMとして発生する。
【0104】
この励起用LD電源回路104にも、上記実施形態と同様のデューティ監視部68が備えられている。したがって、LD102で突発的なオープン故障またはショート故障が起こると、励起用LD電源回路104内のデューティ監視部68よりその故障状況を知らせる通報ARが主制御部110に送られる。
【0105】
主制御部110は、励起用LD電源回路104より通報ARを受け取ると、励起用LD電源回路104のLD駆動動作を停止させて、ファイバレーザ光FBの発振出力動作を止めて、レーザ加工を停止する。これによって、LD102のオープン故障またはショート故障に起因するレーザ加工の不良を防止することができる。
【0106】
なお、使用する励起用LDの故障原因が常にオープン故障もしくはショート故障のいずれかに決まっている場合は、デューティ監視部は可能性の高いオープン故障もしくはショート故障のいずれかのみを検出する機能で済ますことも可能である。
【符号の説明】
【0107】
10 シード光発生部
12 第1のアクティブファイバ
14 第2のアクティブファイバ
16 レーザ照射部
30 シードLD
32 シード用LD電源回路
36,38 ポンプLD
44 主制御部
50 ポンプLD電源回路
52 直流電源
54 スイッチング素子
62 電流センサ
64 駆動電流測定回路
66 スイッチング制御部
68 デューティ監視部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバレーザ加工装置においてファイバレーザに用いる励起光を発生するレーザダイオードを駆動するための励起用レーザダイオード電源装置であって、
前記レーザダイオードに電力を供給するための直流電源と、
前記直流電源と前記レーザダイオードとの間に接続されるスイッチング素子と、
前記駆動電流の電流値を測定する駆動電流測定部と、
前記駆動電流測定部より得られる電流測定値が電流設定値に一致または近似するように、パルス幅変調制御方式により前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するスイッチング制御部と、
前記レーザダイオードのオープン故障またはショート故障を検出するために前記スイッチング動作のデューティを監視するデューティ監視部と
を有する励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項2】
ファイバレーザ加工装置においてファイバレーザに用いる励起光を発生するレーザダイオードを駆動するための励起用レーザダイオード電源装置であって、
前記レーザダイオードに電力を供給するための直流電源と、
前記直流電源と前記レーザダイオードとの間に接続されるスイッチング素子と、
前記ファイバレーザより生成されるレーザ光のパワーを測定するレーザパワー測定部より得られるレーザパワー測定値がレーザパワー設定値に一致または近似するように、パルス幅制御変調方式により前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御するスイッチング制御部と、
前記レーザダイオードのオープン故障またはショート故障を検出するために前記スイッチング動作のデューティを監視するデューティ監視部と
を有する励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項3】
前記デューティ監視部は、デューティ上限値を設定し、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ上限値を超えたときに、前記レーザダイオードがオープン故障を起こしているとの通報を出力する、請求項1または請求項2に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項4】
前記デューティ監視部は、第1の判定時限時間を設定し、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ上限値を超えた状態が前記第1の判定時限時間続いたときに、前記レーザダイオードがオープン故障を起こしていると判定する、請求項3に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項5】
前記デューティ監視部は、デューティ下限値を設定し、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ下限値を割ったときに、前記レーザダイオードがショート故障を起こしているとの通報を出力する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項6】
前記デューティ監視部は、第2の判定時限時間を設定し、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ下限値を割った状態が前記第2の判定時限時間続いたときに、前記レーザダイオードがショート故障を起こしていると判定する、請求項5に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項7】
前記スイッチング制御部が、前記測定値と前記設定値とを比較して、その比較誤差を表わす誤差信号を生成する誤差生成部と、前記誤差信号に基づいて前記スイッチング素子に供給すべき二値のパルス幅変調制御信号を生成する制御信号生成部とを有し、
前記デューティ監視部は、前記誤差信号のレベルを前記デューティ上限値に対応する第1の基準値と比較して、その比較結果から、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ上限値よりも大きいか否かを判定する、
請求項3または請求項4に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項8】
前記スイッチング制御部が、前記測定値と前記設定値とを比較して、その比較誤差を表わす誤差信号を生成する誤差生成部と、前記誤差信号に基づいて前記スイッチング素子に供給すべき二値のパルス幅変調制御信号を生成する制御信号生成部とを有し、
前記デューティ監視部は、前記パルス幅変調制御信号のパルス幅を前記デューティ上限値に対応する第1の基準値と比較して、その比較結果から、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ上限値よりも大きいか否かを判定する、
請求項3または請求項4に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項9】
前記スイッチング制御部が、前記測定値と前記設定値とを比較して、その比較誤差を表わす誤差信号を生成する誤差生成部と、前記誤差信号に基づいて前記スイッチング素子に供給すべき二値のパルス幅変調制御信号を生成する制御信号生成部とを有し、
前記デューティ監視部は、前記誤差信号のレベルを前記デューティ下限値に対応する第2の基準値と比較して、その比較結果から、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ下限値よりも小さい否かを判定する、
請求項5または請求項6に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項10】
前記スイッチング制御部が、前記測定値と前記設定値とを比較して、比較誤差を表わす誤差信号を生成する誤差生成部と、前記誤差信号に基づいて前記スイッチング素子に供給すべき二値のパルス幅変調制御信号を生成する制御信号生成部とを有し、
前記デューティ監視部は、前記パルス幅変調制御信号のパルス幅を前記デューティ下限値に対応する第2の基準値と比較して、その比較結果から、前記スイッチング動作のデューティが前記デューティ下限値よりも小さいか否かを判定する、
請求項5または請求項6に記載の励起用レーザダイオード電源装置。
【請求項11】
シード光を生成するためのシード光源と、
希土類元素として少なくともYbを添加したコアを有し、前記シード光を入力端より前記コアの中に入れ、前記シード光を出力端に向けて伝搬させながら誘導放出により増幅する増幅用光ファイバと、
前記増幅用光ファイバのコアを励起するための励起光を発生する励起用レーザダイオードと、
前記励起用レーザダイオードを点灯駆動するための請求項3〜6のいずれか一項に記載の励起用レーザダイオード電源装置と、
前記シード光源および前記励起用レーザダイオードを前記増幅用光ファイバの入力端に光学的に結合する光結合器と、
前記増幅用光ファイバの出力端から出るパルス波形のレーザ光を被加工物に集光照射するレーザ照射部と、
前記励起用レーザダイオード電源装置より前記通報が出力されたときは、前記通報に応答して前記シード光源および前記励起用レーザダイオード電源装置を停止させる制御部と
を有するファイバレーザ加工装置。
【請求項12】
発光元素を含むコアとこのコアを取り囲むクラッドとを有する発振用の光ファイバと、
前記発振用光ファイバのコアを介して光学的に対向する一対の共振器ミラーと、
前記増幅用光ファイバのコアを励起するための励起光を発生する励起用レーザダイオードと、
前記励起用レーザダイオードを点灯駆動するための請求項3〜6のいずれか一項に記載の励起用レーザダイオード電源装置と、
前記共振器ミラーより出力された前記レーザ光を被加工物の加工点に向けて集光照射するレーザ照射部と、
前記励起用レーザダイオード電源装置より前記通報が出力されたときは、前記通報に応答して前記励起用レーザダイオード電源装置を停止させる制御部と
を有するファイバレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−79966(P2012−79966A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224779(P2010−224779)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000161367)ミヤチテクノス株式会社 (103)
【Fターム(参考)】