説明

フィブリル状高性能短繊維を製造する方法、フィブリル状高性能短繊維、およびそれを含む物品

フィブリル状高性能繊維を製造する方法であって、
a)少なくとも10g/dtexの破断強度および少なくとも150g/dtexの伸び弾性率を有する有機高性能フィラメント糸を用意するステップ、
b)乾燥糸状態の前記高性能フィラメント糸のフィブリル化であって、それによってフィブリル状高性能フィラメント糸が生成するステップ、および
c)ステップb)から得られた前記フィブリル状高性能フィラメント糸を実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維に切断するステップと
を含む方法、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維、前記繊維と1種類以上の充填剤とを含む物品、並びにかかる物品を製造する方法が示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリル状高性能短繊維(chopped fibers)を製造する方法、フィブリル状高性能短繊維、およびそれを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミド、ポリオレフィン、ポリベンズオキサゾールまたはポリベンズチアゾールでできた繊維などの高性能繊維、すなわち高い破断強度および高い伸び弾性率を有する繊維は、一般に知られるように、複数の物品において、例えば摩擦ライニングにおいて、補強繊維として使用される。特に、高性能繊維を摩擦ライニングにおける補強繊維として使用するときには、高い充填剤保持率が高性能繊維から要求される。
高い充填剤保持率の要求は、パルプ状高性能繊維によって、例えば、カオリンを用いて測定された充填剤保持率が約80%であるアラミドパルプによって、満たされている。
しかし、高性能繊維をパルプ化すること、すなわち、
− 繊維を切断し、
− 切断繊維から懸濁液を製造し、
− 切断繊維を、必要に応じて複数回、精製し、
− 精製された繊維を乾燥させ、および
− 乾燥繊維を圧縮することは、
労働およびエネルギー集約的方法であり、それに応じてコスト集約的である。
【0003】
米国特許出願公開第2003/0022961号A1には、とりわけ、乾燥アラミドパルプと、湿潤アラミドパルプ、木材パルプおよびアクリルパルプからなる群から選択される少なくとも1種とを含む混合物を含む、摩擦材料が記載されている。乾燥アラミドパルプを製造するために、アラミド繊維を用意し、長さ13mmに切断し、粉砕し、そしてふるい分ける。粉砕は、短繊維が粉砕によってパルプ化されるだけでなく、追加の回数切断されるように、回転切断装置と固定切断装置の間で短繊維をせん断することによって行われる。この手段によって、実質的にすべての生成したパルプ繊維の標準的な長さが、粉砕前の短繊維の切断長さよりも短い。しかし、ふるいが操作中に目詰まりする傾向にあり、準備、切断、粉砕およびふるい分けのための米国特許出願公開第2003/0022961号A1に記載の方法が、ある期間後に中断され、目詰まりしたふるいを交換し、または再度使用できるようにしなければならない。その結果、準備、切断、粉砕およびふるい分けのための米国特許出願公開第2003/0022961号A1に記載の方法は、連続操作には適さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、補強繊維として使用することができる生成物であって、パルプから製造された以外は同様に製造された物品の品質よりもその品質が少なくとも劣らない物品に加工することができる生成物をもたらすにもかかわらず、より低労働および低エネルギー集約的であり、さらに連続操作に適している方法を提供する目的を有する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、フィブリル状高性能繊維を製造する方法であって、
a)少なくとも10g/dtexの破断強度および少なくとも150g/dtexの伸び弾性率を有する有機高性能フィラメント糸を用意するステップ、
b)乾燥糸状態の高性能フィラメント糸のフィブリル化により、フィブリル状高性能フィラメント糸が生成するステップ、および
c)ステップb)から得られたフィブリル状高性能フィラメント糸を実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維に切断するステップ
を含む、前記方法によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の方法と最初に記述したパルプ化方法との比較によれば、本発明の方法は、実行することが容易であるより少数のステップを含む。さらに、本発明の方法はかなり低エネルギー集約的である。特に、(必要に応じて複数回行われる)精製および乾燥を含む、最初に記述したパルプ化方法に必要なステップが省略されるので、これは事実である。したがって、本発明の方法は、最初に記述したパルプ化方法よりもかなり安価である。さらに、本発明の方法は連続操作に適している。
それでも、本発明の方法は、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維をもたらし、このフィブリル状高性能短繊維から物品をそれ自体公知の方法で製造することができる。前記物品は、対応するパルプを使用する以外は同様に製造された物品と、少なくとも摩耗に関して、品質が同等であるだけでなく、実際にそれよりも優れている。
【0007】
例えば、ライニング上およびディスク上で、驚くべきことに、標準処方に従って製造されたブレーキライニングの摩耗よりも少ない摩耗を示すブレーキライニングを、本発明の方法から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維を用いて同じ標準処方に従って製造することができる。ただし、本発明の方法から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維の代わりに、該ブレーキライニングはアラミドパルプを含む。この結果は、一層予測が困難である。というのは、本発明の方法から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維は、カオリンを用いて測定された充填剤保持率が約10%から約40%の範囲にあり、これは、実際、アラミド短繊維の充填剤保持率(約4%)より高いが、アラミドパルプの充填剤保持率(約80%)よりも大幅に低いからである。
【0008】
アラミドパルプの充填剤保持率と比較してこの低い充填剤保持率に照らして、本発明の方法から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維を含むブレーキライニングの摩耗が、アラミドパルプを含む対応するブレーキライニングの摩耗よりも仮にほんのわずかに高いだけでも驚くべきことであろう。本発明の方法から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維を含むブレーキライニングの摩耗が、アラミドパルプを含む対応するブレーキライニングの摩耗と同程度に低いとしたら一層驚くべきことであろう。したがって、本発明の方法から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維を含むブレーキライニングの摩耗が、アラミドパルプを含む対応するブレーキライニングの摩耗よりも一層低いことは、特に驚かざるをえない。
【0009】
本発明の文脈においては、「フィブリル化」という用語は、本発明の方法のステップa)において用意される有機高性能フィラメント糸が、好ましくは長さ方向の摩擦が生じるように、摩擦面上を送られることを意味する。
さらに、本発明の文脈においては、「フィブリル」という用語は、高性能フィラメント糸のフィラメントから分岐し、何分の一でしかない、例えば、フィラメントの直径の1/2〜1/20でしかない、好ましくはフィラメントの直径の1/3〜1/10でしかない直径を有する、繊維を意味する。上述したように、高性能フィラメント糸は、好ましくは長さ方向の摩擦が生じるように、摩擦面上を送られ、長さ方向の摩擦は高性能フィラメント糸の全長にわたって生じるので、ステップb)から得られたフィブリル状高性能フィラメント糸のフィブリルは、ほぼ高性能フィラメント糸の長さである長さを有し得る。しかし、フィブリルの長さは、本発明の方法のステップc)において行われる切断によってそれ相応に短かくされて、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維が生成し、その繊維からフィブリルが分岐し、実質的に同じ長さの高性能短繊維から離れて存在するフィブリルも生成する。
【0010】
本発明の方法のステップb)における高性能フィラメント糸のフィブリル化は、乾燥糸状態で行われる。これは、本発明の文脈においては、糸が、相対湿度90%以下、好ましくは60%以下、特に好ましくは50%以下の雰囲気にさらされたときに確定される含水量を有することを意味する。
本発明の方法のステップa)における高性能フィラメント糸の用意では、少なくとも10g/dtexの破断強度および少なくとも150g/dtexの伸び弾性率を有するすべての有機フィラメント糸が適している。
本発明の文脈においては、「高性能フィラメント糸」とは、上記特性を有する糸を意味し、糸のフィラメントは、好ましくは、その長さに垂直な環状断面を有する。しかしながら、楕円形、三葉形(trilobal)、四葉形、多葉形断面形状などの別の断面形状を有する糸を使用することもできる。
好ましくは、本発明の方法のステップa)において、アラミドフィラメント糸、ポリオレフィンフィラメント糸、ポリベンズオキサゾールフィラメント糸およびポリベンズチアゾールフィラメント糸をからなる群の1種以上から選択される高性能フィラメント糸が用意される。
これは、本発明の方法のステップa)において用意される高性能フィラメント糸が、例えば、上記フィラメント糸の1種類のみからなることを意味する。しかしながら、本発明の方法のステップa)において用意されるフィラメント糸は、上記フィラメント糸の2種類以上からなることもできる。さらに、本発明の方法のステップa)においては、アラミドフィラメントおよび/またはポリオレフィンフィラメントおよび/またはポリベンズオキサゾールフィラメントおよび/またはポリベンズチアゾールフィラメントの混合物からなる高性能フィラメント糸を用意することもできる。
【0011】
本発明の文脈においては、「アラミドフィラメント糸」とは、アミド結合(−CO−NH−)の少なくとも85%が2個の芳香環に直接結合した芳香族ポリアミドでできたフィラメント糸を意味する。本発明に特に好ましい芳香族ポリアミドは、パラフェニレンジアミンと二塩化テレフタロイルの等モル(mole−for−mole)重合から得られるホモポリマーであるポリパラフェニレンテレフタルアミドである。さらに、パラフェニレンジアミンと二塩化テレフタロイルに加えて、ポリマー鎖に挿入された少量の他のジアミンおよび/または他のジカルボン酸塩化物を含む共重合体も、本発明のための芳香族ポリアミドとして適している。通常、パラフェニレンジアミンと二塩化テレフタロイルに対して、他のジアミンおよび/または他のジカルボン酸塩化物は、ポリマー鎖に最高10モルパーセントの量で組み込むことができると理解される。
【0012】
本発明の文脈においては、「ポリオレフィンフィラメント糸」とは、ポリエチレンまたはポリプロピレンでできた糸を意味する。それに関して、「ポリエチレン」は、好ましくは百万を超える分子量を有し、少量の分枝またはコモノマーを含むことができる、実質的に線状のポリエチレン材料であると理解される。そのことによって、「少量」とは、主鎖中の100個の炭素原子ごとに、5個以下の分枝またはコモノマーが存在することを意味すると理解される。線状ポリエチレン材料は、さらに、アルケン−1ポリマー、特に低圧ポリエチレン、低圧ポリプロピレンなど、最高50wt%の1種類以上のポリマー添加剤、または通常混合される、酸化防止剤、UV吸収剤、染料などのごとき低分子添加剤を含むことができる。このタイプのポリエチレン材料は、「延長鎖ポリエチレン」(ECPE)という名称で知られている。本発明の文脈においては、「ポリプロピレン」は、好ましくは百万を超える分子量を有する、実質的に線状ポリプロピレンであると理解される。
【0013】
本発明の文脈においては、「ポリベンズオキサゾール」および「ポリベンズチアゾール」は、以下に示す構造単位を有し、構造単位において示されるように窒素に結合した芳香族基が好ましくは炭素環式である、ポリマーであると理解される。しかしながら、前記基は複素環式とすることもできる。さらに、窒素に結合した芳香族基は、構造単位において示されるように、好ましくは6員環である。しかしながら、前記基は縮合または非縮合多環系として形成することもできる。
【0014】
【化1】

【0015】
本発明の方法のステップa)において用意される高性能フィラメント糸は、好ましくは、200dtexから7,000dtexの範囲、特に好ましくは400dtexから4,000dtexの範囲の番手を有する。
【0016】
本発明の方法のステップa)においては、好ましくは0.2dtexから6.0dtexの範囲、特に好ましくは0.5dtexから2.5dtexの範囲のフィラメント線密度を有する高性能フィラメント糸が用意される。
本発明の方法のステップa)における高性能フィラメント糸の用意は、幾つかの方法で行われ得る。特に簡単で、したがって好ましい、本発明の方法のステップa)における高性能フィラメント糸の用意は、高性能フィラメント糸をスプールまたはクリールから巻き戻すことによって行われる。
【0017】
本発明の方法の更に好ましい一実施形態においては、高性能フィラメント糸は、ステップa)において紡糸工程における適切なポイントで用意され、そこで実際の高性能フィラメント糸が製造される。そのために、一般に、高性能フィラメント糸が、
− 少なくとも10g/dtexの破断強度および少なくとも150g/dtexの伸び弾性率の本発明の方法に必要な値を既に有し、および
− 本発明の方法の後続ステップb)で生じるフィブリル化に必要である乾燥糸状態にある、
実際の紡糸工程の各ポイントが適切である。
溶融紡糸工程においては、例えば、ポリオレフィンフィラメント糸の紡糸中のように、このポイントは、糸が延伸装置を離れる場所に存在し得る。湿式紡糸工程においては、例えば、アラミドフィラメント糸の紡糸中のように、このポイントは、糸が乾燥糸状態である場所に存在し得る。続いて、糸は、本発明の方法のステップb)において作動中に乾燥糸状態でフィブリル化され、本発明の方法のステップc)において実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維に切断される。
各場合において、すなわち、乾式紡糸工程が含まれるか、湿式紡糸工程が含まれるかどうかにかかわらず、実際の高性能フィラメント糸が製造される紡糸工程における本発明の方法の組み込みは、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維をもたらす。この手段によって、紡糸方法の終わりにさもなければ必要な巻き上げが省略される。
【0018】
したがって、本発明の方法を紡糸工程に組み込むことによって、最初に記述したエネルギーおよび労働集約的パルプ化方法の代わりに、より簡単に行われ、より低エネルギー集約的である本発明の方法を用いることができるだけでなく、さもなければ必要な巻き上げが省略される。後者の結果として、
− スプールの品質管理、
− スプールの貯蔵または輸送、および
− さもなければ通常のパルプ化プロセスのためのスプールの設置
のためのさもなければ必要な労力が完全に省略される。実際、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維が、従来の紡糸工程に組み込まれた本発明の方法の最終生成物として使用可能であり、この繊維は、ブレーキライニングのようなトライボロジー的特性に依存する物品に即時に加工することができる。
【0019】
本発明の方法のステップb)においては、高性能フィラメント糸がフィブリル化される。糸のフィブリル化は、糸、好ましくは長さ方向の糸が、摩耗を受けるので、引き起こされる。摩耗は、糸が任意のタイプの摩擦面、例えば、平坦な、湾曲した、または環状の摩擦面上を送られるので引き起こされ、良好な接触が糸と摩擦面の間で同時に調整される。
平坦な摩擦面として、例えば、スレッドブレーキは、簡単な一実施形態における一候補である。
湾曲した摩擦面として、例えば、シリンダは、簡単な一実施形態における一候補である。
摩擦面上を張力下で高性能フィラメント糸を送ることによって生ずるフィブリル化の度合いは、糸の長さ1単位当たりのフィブリルの発生回数および長さによって表され、摩擦面の摩擦係数および付加される張力に依存する。高フィブリル化度を達成するためには、高性能フィラメント糸が高い番手を有し極めて多数のフィラメントを含むときに、糸の個々のフィラメントを、フィブリル化前に、例えば糸を広げることによって、できるだけ多数のフィラメントが糸の表面に存在する配置にすることが特に有利である。これは、湾曲した摩擦面上を高性能フィラメント糸を誘導することによって簡単な方法で達成される。
【0020】
各場合において、本発明の方法のステップb)において生じる高性能フィラメント糸のフィブリル化は、原則的には、フィブリル状高性能フィラメント糸をもたらす任意の装置を用いて行うことができる。フィブリル化のために考慮される装置のうち、十分なフィブリル化度と簡単な手順を兼ね備える装置が、本発明の方法のステップb)において好ましく使用される。したがって、本発明の方法の好ましい一実施形態においては、ステップb)におけるフィブリル化は、糸の仮撚りに使用されるなどの、摩擦ディスクを有する従来のディスク摩擦装置を用いて行われる。しかし、本発明の方法において、摩擦ディスクの回転速度は、<2,000rpm、好ましくは<1,000rpm、より好ましくは<500rpm、そしてとりわけ好ましくは1〜200rpmまたは0rpmであり、ここで摩擦ディスクは、好ましくは、炭化ニッケルまたはニッケルダイアモンド製の表面を備える。
ディスク摩擦装置の摩擦ディスクは、フィブリル化中に駆動されないことが特に好ましい。この場合、装置、速度および引き抜き(drawing−off)張力に応じて、摩擦ディスクの回転速度は、前段落に挙げた範囲の1つ内の値に調節される。
更に好ましい一実施形態においては、本発明の方法のステップb)において、高性能フィラメント糸は、摩擦面上を10m/min〜2,000m/minの速度で引かれる。
【0021】
本発明の方法の更に好ましい一実施形態においては、高性能フィラメント糸のフィブリル化は、ステップb)において2つ以上の連続フィブリル化ステップb1)、b2)、...bn−1)およびbn)で行われ、ステップb1)、b2)、...bn−1)は高性能フィラメント糸を予備フィブリル化し(prefibrillate)そしてステップbn)は糸に所望の最終フィブリル化を施す。フィブリル化ステップ数nは、実際の高性能フィラメント糸をフィブリル化することができる難易度に従って選択され、所望の最終フィブリル化に対応する。したがって、本発明の方法のこの実施形態は、ステップa)において用意される高性能フィラメント糸が、困難を伴ってしかフィブリル化することができないとき、および/または高フィブリル化度が所望であるときに、特に有利である。同時に、各フィブリル化ステップb1)、b2)、...bn−1)およびbn)のフィブリル化効果は、同じにも、(例えば、異なるフィブリル化ステップにおける摩擦ディスクの摩擦面に異なる粗さ値の摩擦面を備え付けることによって、または摩擦ディスクの数および配置の相違によって、またはフィブリル化装置に入るときの異なる繊維張力の選択に起因する異なる接触力によって)異なるようにも設定することができ、その結果、所望の最終フィブリル化を極めて正確に設定することができる。
【0022】
本発明の方法のステップc)においては、ステップb)から得られたフィブリル状高性能フィラメント糸は、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維に切断される。基本的に、フィブリル状高性能フィラメント糸を実質的に同じ長さを有するフィブリル状高性能短繊維に切断することができる任意の装置がこれに適している。この目的のために、例えば、機械的または熱的装置が可能であり、その結果、本発明の方法のステップc)における切断を(例えば、1個以上の切断ブレードを用いて)機械的にまたは(例えば、レーザー光線を用いて)熱的に実施することができる。
本発明の方法のステップc)における切断は、フィラメントの軸から0°以外の角度、好ましくは90°の角度で行われる。
【0023】
本発明の方法のステップc)においては、フィブリル状高性能フィラメント糸は、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維に切断される。これは、本発明の文脈においては、ある切断長さLが、切断用に選択された装置上でミリメートル単位で設定され、装置が前記長さLを有する短繊維(chopped fibers)を生成できることを意味する。0.5から60mmの切断長さ範囲の前記長さは、好ましくは、式(1)で示される変化率以下である。
ΔLmax[%]=±(40−0.6・L) (1)
式中、Lは、切断装置でmm単位で設定される切断長さを意味する。
【0024】
本発明の方法の好ましい一実施形態においては、ステップc)から得られる高性能短繊維の実質的に同じ長さは、0.5mmから60mmの範囲、特に好ましくは1mmから20mmの範囲、更により好ましくは1mmから12mmの範囲、最も特に好ましくは1mmから6mmの範囲である。
本発明の方法の更に好ましい一実施形態においては、ステップc)から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維は、カオリンを用いて測定して、8%から40%、特に好ましくは10%から30%の充填剤保持率を有する。
【0025】
本発明の根本的目的は、さらに、本発明の方法によって得られるフィブリル状高性能短繊維であって、すべてのフィブリル状高性能短繊維が実質的に同じ長さを有するように切断装置における切断長さLの設定によってあらかじめ設定された長さをフィブリル状高性能短繊維が有することを特徴とするフィブリル状高性能短繊維によって、達成される。それに関して、「フィブリル状」、「高性能短繊維」および「実質的に同じ長さ」は、前述の発明方法とそれぞれ対応して同じことを意味する。
好ましい一実施形態においては、本発明のフィブリル状高性能短繊維は、0.5mmから60mmの範囲、特に好ましくは1mmから20mmの範囲、更により好ましくは1mmから12mmの範囲、最も特に好ましくは1mmから6mmの範囲である、実質的に等しい長さを有する。
【0026】
更に好ましい一実施形態においては、本発明のフィブリル状高性能短繊維は、カオリンを用いて測定して、8%から40%、特に好ましくは10%から30%の充填剤保持率を有する。
本発明の方法から得られる実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維の諸特性は、これらの繊維を含む物品においても知覚することができる。したがって、本発明の根本的目的は、さらに、
− 物品を製造する方法であって、該方法が、前述の発明方法のステップa)からc)を含み、さらに、ステップc)から得られた実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維が、1種類以上の充填剤を添加して、それ自体公知の様式でこれらの繊維を含む物品に加工されることにあるステップd)を含む、方法によって達成される。
物品を製造する本発明の方法の好ましい一実施形態においては、高性能フィラメント糸でできた1本以上のパルプが、ステップd)において1種類以上の充填剤と一緒に添加される。
【0027】
さらに、本発明の根本的目的は、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維と1種類以上の充填剤とを含む物品によって達成される。ここでも、「フィブリル状」、「高性能短繊維」および「実質的に同じ長さの」という表現は、前述の発明方法とそれぞれ対応して同じことを意味する。
本発明の物品の好ましい一実施形態においては、物品は、さらに、高性能短繊維でできた1本以上のパルプを含む。
本発明の方法から得られる物品、または本発明の物品が、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維に加えて、高性能フィラメント糸でできた1本以上のパルプを含むことができる選択肢は、本発明の文脈においては、該物品において、さらに、例えば、(例えば、パラアラミドパルプでできた)同じタイプの、または(例えば、パラアラミドパルプとメタアラミドパルプまたはポリアクリロニトリルパルプでできた)異なるタイプの、1本以上の高性能フィラメント糸でできたパルプが存在し得ることを意味する。
【0028】
さらに、本発明の方法から得られる物品、または本発明の物品は、該物品の所望の特性を損なわない限り、高性能フィラメント糸から製造されない、すなわち10g/dtex未満の破断強度および150g/dtex未満の伸び弾性率を有する糸から製造される、1種類以上のパルプを含むこともできる。
本発明の物品および本発明の方法から得られる物品の好ましい実施形態においては、繊維の実質的に同じ長さは、0.5mmから60mmの範囲、特に好ましくは1mmから20mmの範囲、更により好ましくは1mmから12mmの範囲、最も特に好ましくは1mmから6mmの範囲である。
本発明の物品および本発明の方法から得られる物品の更なる好ましい実施形態においては、物品の総重量に対する繊維の重量割合は、0.1%から25%、特に好ましくは0.5%から10%である。
さらに、本発明の物品および本発明の方法から得られる物品の更なる好ましい実施形態においては、物品は、摩擦ライニング、クラッチライニング、またはトライボロジー的特性に依存するこのタイプの物品である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を下記実施例においてより詳細に説明する。
【0030】
実施例1
i)同じ長さのフィブリル化パラアラミド短繊維の用意:
テイジン・トワロン(Teijin Twaron)製タイプ1000 3,360dtex(2,000フィラメント、番手=3,360dtex)のパラアラミドフィラメント糸をスプールから巻き戻し、広げそしてタイプFK6−32−255の8枚の摩擦ディスクを有する従来のディスク摩擦装置(製造者:バルマーク・アクチエンゲゼルシヤフト(BARMAG AG);分類:FK6−32S−556Z、タイプ8E、弾性繊維ガイド付き)を介して70cN/texの初期張力で600m/minの速度でけん引力10Nで2回延伸する。約100rpmの非駆動摩擦ディスクの回転速度は、ディスク摩擦装置を介した繊維けん引によって設定される。上記ディスク摩擦装置においては、8枚の摩擦ディスクは3軸上に配置されており、各3枚の摩擦ディスクが第1の2本の軸上に配置され、2枚の摩擦ディスクが第3の軸上に配置されている。軸上の摩擦ディスクの相互の距離は、約2cmである。摩擦ディスクの軸は、摩擦ディスクが互いにずれた配置に存在するように相互に配置される。摩擦ディスクは、炭化ニッケルでできた摩擦面を備える。ディスク摩擦装置を離れた後、フィブリル状パラアラミドフィラメント糸は、炭化物ギロチン刃先並びに歯車軸A上に45個の歯を有するスプロケットおよび歯車軸B上に9個の歯を有するスプロケットを備えたPierreT G28L1ギロチン切断機を用いて、長さ3.4mmに切断され、それによって同じ3.4mmの長さのフィブリル状パラアラミド短繊維が得られる。
【0031】
ii)カオリン保持率の測定:
i)によって製造されたフィブリル状短繊維3wt%と充填剤カオリン97wt%でできた均一混合物を製造するために、i)によって製造されたフィブリル状繊維90gをMTIミキサー(製造者:MTI−ミッシュテクニック・インターナショナル社(Mischtechnik International GmbH)、デトモルト、ドイツ)中でタイプMK1カオリン(商品名、Kaolin Laude SP20、製造者:ヘラー社(Heller GmbH)、ヴッパータール、ドイツ)2,910gと2,300rpmで5分間混合する。生成した均一混合物から20±0.1gを網目幅0.25mmのふるい上に計り分ける。均一混合物を載せたふるいを振動選別機、タイプJEL200/80(製造者:エンゲルスマン(Engelsmann)、ルートヴィクシャーフェン、ドイツ)中で水平方向に3分間振動させる。混合物の一部はそれによってふるいから落下し、混合物の他の一部、すなわち、ふるい残留物はふるい上に残る。ふるい残留物SRの重量から、前述の均一カオリン/繊維混合物の計量された20gに基づいて、カオリン保持率を(SR/20g)・100(%)によって計算する。フィブリル化された長さ3.4mmのパラアラミド短繊維のカオリン保持率は14.9%である。この値は、同様に測定された、フィブリル化されていない長さ6.0mmのパラアラミド短繊維、タイプTwaron 1080のカオリン保持率約4%よりも高く、フィブリル化されていない長さ3.4mmのパラアラミド短繊維、タイプTwaron 1000 3360(製造者:Teijin Twaron)のカオリン保持率15.7%とほぼ同じであるが、同様に測定されたパラアラミドパルプ、タイプ1095(製造者:Teijin Twaron)のカオリン保持率80%よりかなり低い。
【0032】
iii)バルク体積の測定:
ii)によって製造された均一カオリン/繊維混合物30gをメスシリンダに注ぎ、バルク体積を充填体積VからV(ml)/30gによって計算する。i)によって製造されたフィブリル状短繊維3wt%と充填剤カオリン97wt%でできた均一混合物は、3.99ml/gのバルク体積を有する。パラアラミドパルプ、タイプ1095(製造者:Teijin Twaron)3wt%と充填剤カオリン97wt%でできた均一混合物のバルク体積は、3.37±0.3ml/gである。ここで、±0.3ml/gは最大偏差である。
【0033】
iv)冷間圧縮物の衝撃強さ(「生強度(green strength)」)の測定:
冷間圧縮物を製造するために、i)によって製造された長さ3.4mmのフィブリル状パラアラミド短繊維3wt%とカオリン97wt%でできた、ii)によって製造された均一混合物20±0.1gを圧縮型に入れ、圧力70barでの30秒間の圧縮、10秒間の脱気および圧力70barでの5分間の最終圧縮を各々含む3圧縮サイクルによって、長さ91mm、中央部の幅b)=15mmおよび厚さd)を有する冷間圧縮物に変換する。厚さは、圧縮後に測定され、7.5mm未満に低下せず11.00mmを超えない値を有する。冷間圧縮物は、A.M.ウィットフォート(Wittfoht),”Kunststofftechnisches Woerterbuch,Teil 1”(カールハンザー出版(Carl Hanser Verlag)ミュンヘン,1981),249頁,”1st Charpy Method”に示されたものなどの振子衝撃試験機のアンビルの中央に端部を上にして置かれ、衝撃エネルギーAnが測定される。衝撃強さanは、衝撃エネルギーAnから
an=(An・98.1)/(b・d)[mJ/mm
によって計算される。
i)によって製造されたフィブリル状短繊維の代わりにパラアラミドパルプ、タイプ1095(製造者:Teijin Twaron)を含む冷間圧縮物の衝撃強さも同様に測定される。i)によって製造されたフィブリル状短繊維を含む冷間圧縮物の衝撃強さは、1.75mJ/mmにおいて、フィブリル化されていない長さ6mmのパラアラミド短繊維を用いた以外は同様に作製された冷間圧縮物の衝撃強さと同じ高さである。パラアラミドパルプ、タイプ1095を用いた以外は同様に製造された冷間圧縮物の衝撃強さは1.09±0.35mJ/mmである。
【0034】
v)摩擦ライニングの製造:
i)によって製造された長さ3.4mmのフィブリル状パラアラミド短繊維を用いて、ブレーキライニングの製造者によって商業的に使用されているProduco GmbHの標準処方に従って、ブレーキライニングB1を製造した。
【0035】
vi)摩耗量および平均摩擦値の測定:
v)によって製造された摩擦ライニングの摩耗量および平均摩擦値を、2003年6月に刊行されたSAE(Society of Automotive Engineers:ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ)のSpecification J2522に従って測定した。結果を以下の表に要約する。
【0036】
実施例2
実施例2は、実施例1と同様にステップi)からvi)によって達成された。ただし、実施例2のステップi)において、パラアラミドフィラメント糸、タイプ1000 1680dtex(1,000フィラメント、番手=1,680dtex)が使用された点が異なる。実施例2で得られるブレーキライニングB2の摩耗量および平均摩擦値を同様に以下の表に示す。
【0037】
比較例
比較のために、実施例1または2のv)のように製造された比較ブレーキライニングVの摩耗量および平均摩擦値を測定した。Teijin Twaron製パラアラミドパルプ、タイプ1095を長さ3.4mmのフィブリル状パラアラミド短繊維の代わりに使用した点が異なる。
【0038】
【表1】

【0039】
表によれば、本発明の長さ3.4mmのフィブリル状パラアラミド短繊維を用いて製造されたブレーキライニングB1およびB2は、13.0gの値において、14.1gの値を有する比較ブレーキライニングの摩耗量よりも約8%低いライニング摩耗量を有する。
さらに、表によれば、本発明の長さ3.4mmのフィブリル状パラアラミド短繊維を用いて製造されたブレーキライニングB1およびB2は、8.1gの値において、9.0gであった比較ブレーキライニングの摩耗量よりも約10%低いディスク摩耗量を有する。
最後に、表によれば、本発明の長さ3.4mmのフィブリル状パラアラミド短繊維を用いて製造されたブレーキライニングB1およびB2の平均摩擦値は、0.43の値を有し、これはブレーキ製造者によって承認された0.42から0.45の範囲にあり、p−アラミドパルプを用いて製造されたブレーキライニングVの平均摩擦値とほぼ同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル状高性能繊維を製造する方法であって、
a)少なくとも10g/dtexの破断強度および少なくとも150g/dtexの伸び弾性率を有する有機高性能フィラメント糸を用意するステップ、
b)乾燥糸状態の前記高性能フィラメント糸のフィブリル化であって、フィブリル状高性能フィラメント糸が生成するステップ、および
c)ステップb)から得られた前記フィブリル状高性能フィラメント糸を実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維に切断するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
ステップa)において、アラミドフィラメント糸、ポリオレフィンフィラメント糸、ポリベンズオキサゾールフィラメント糸およびポリベンズチアゾールフィラメント糸を含む群の1種以上から選択される高性能フィラメント糸が用意されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)における前記高性能フィラメント糸の用意が、前記高性能フィラメント糸をスプールまたはクリールから巻き戻すことによって行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フィブリル化が、ステップb)において、回転速度が最高2,000rpmである摩擦ディスクを備えたディスク摩擦装置を用いて行われることを特徴とする、請求項1〜3の一項以上に記載の方法。
【請求項5】
前記ディスク摩擦装置の前記摩擦ディスクが駆動されないことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記摩擦ディスクが炭化ニッケルまたはニッケルダイアモンドでできた摩擦面を備えることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記高性能フィラメント糸が前記摩擦面上を10m/minから2000m/minの速度で引かれることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)から得られた前記フィブリル状高性能フィラメント糸の前記切断が、ステップc)において機械的に行われることを特徴とする、請求項1〜7の一項以上に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)から得られた前記フィブリル状高性能フィラメント糸の前記切断が、ステップc)において熱的に行われることを特徴とする、請求項1〜7の一項以上に記載の方法。
【請求項10】
前記切断が、実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維が生成するようにステップc)において行われ、前記長さが0.5mm〜60mmであることを特徴とする、請求項1〜9の一項以上に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10の一項以上によって得られるフィブリル状高性能短繊維であって、前記フィブリル状高性能短繊維が、すべてのフィブリル状高性能短繊維が実質的に同じ長さを有するように切断装置における切断長さLの設定によってあらかじめ設定された長さを有することを特徴とする、フィブリル状高性能短繊維。
【請求項12】
前記実質的に同じ長さが0.5mm〜60mmの範囲であることを特徴とする、請求項11に記載のフィブリル状高性能短繊維。
【請求項13】
前記繊維が、カオリンを用いて測定して、8%から40%の範囲の充填剤保持率を有することを特徴とする、請求項11または12に記載のフィブリル状高性能短繊維。
【請求項14】
物品を製造する方法であって、請求項1〜10の一項以上に記載のステップa)からc)を含み、さらに、
d)ステップc)から得られた実質的に同じ長さの前記フィブリル状高性能短繊維を、1種類以上の充填剤を添加して、それ自体公知の様式でこれらの繊維を含む物品に加工するステップ
を含む、前記方法。
【請求項15】
高性能フィラメント糸でできた1本以上のパルプが、ステップd)において前記1種類以上の充填剤と一緒に添加されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項11〜13の一項以上に記載の実質的に同じ長さのフィブリル状高性能短繊維と1種類以上の充填剤とを含む、物品。
【請求項17】
前記物品が、高性能短繊維でできた1本以上のパルプを更に含む、請求項16に記載の物品。
【請求項18】
前記繊維の前記実質的に同じ長さが0.5mm〜60mmの範囲であることを特徴とする、請求項16または17に記載の物品。
【請求項19】
前記物品の総重量に対する前記繊維の重量割合が0.1%〜25%であることを特徴とする、請求項16〜18の一項以上に記載の物品。
【請求項20】
前記物品が摩擦ライニングまたはクラッチライニングであることを特徴とする、請求項16〜19の一項以上に記載の物品。

【公表番号】特表2011−501786(P2011−501786A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529341(P2010−529341)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063512
【国際公開番号】WO2009/050096
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(502036011)テイジン・アラミド・ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】