説明

フィルムの清浄方法

【課題】連続走行しているフィルムの有機性物質による汚染を除去し高度に清浄化する。
【解決手段】洗浄液を貯溜した洗浄槽中に縦方向に平行に設けた少なくとも一対の超音波発生器と反射板の間を、走行フィルムを少なくとも1往復させる工程を含むことを特徴とするフィルムの洗浄方法に関するものである。次いで該フィルム表面を清浄水およびエアーナイフの少なくとも一つを使用して清浄化する工程を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高清浄度のプラスチックフィルムを得るための清浄方法に関する。特に、光学素子に使用されるプラスチックフィルムに適した清浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の製造に、プラスチックフィルム表面を一方向にラビング処理した基板フィルムが用いられている。基板フィルムは液晶セルにおける液晶分子の配向処理用に広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。また、基板フィルム上に液晶性高分子層を形成したものを直接または該液晶性高分子層を透光性基板フィルム上に転写して視野角改良板、位相差板、色補償板等の光学素子の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。このようなプラスチックフィルムの加工は高度に清浄な原料フィルムを用いてクリーンルーム内で行うが、原料フィルムに異物が混入したり、ラビング工程においてフィルム表面が削られることにより微細な粉塵が生じることがある。フィルム加工時に、搬送用の多数のロール間を通過することやラビング時の摩擦等により生じた静電気により、異物や粉塵がフィルム表面に付着しやすくなる。これらの異物や粉塵は、数10μm〜数100μm程度の微細な粒子であるが、これらが付着したフィルム表面に液晶性高分子性を塗布すると、数mmの塗布ムラとして現れる。また、このような粒子が付着したフィルムは次の工程に送られる前にいったんフィルムロールとして固く巻かれることがあり、巻張力によりフィルム層間の粒子がフィルムを変形させるが、その大きさは数mmにもなり、かつフィルムロールからフィルムを繰り出すと巻周期ごとに欠陥が現れる。このような欠陥は、製品の歩留まりを低下させる。さらに、有機性汚染物質、たとえばラビング布繊維油剤やゴムロール材などに起因するもの、が欠陥原因になる。
【0003】
従来、プラスチックフィルムの高清浄化方法がいくつか提案されている。例えば、クリーンルーム内にて、超純水中に浸漬して洗浄する工程、該超純水中から引き上げたフィルムの両面に超純水を噴射して強制洗浄する工程、水分を除去する工程、静電気除電処理する工程の順に処理する方法が提案されている(特許文献3参照)。しかし、この方法が対象としているのは包装用のプラスチック製の袋であり、光学素子用のフィルム自体を対象とする場合には、欠陥を完全に除去するには至らない。また、フィルム表面に付着した水滴を乾燥除去すると水滴の跡が表面ムラになって残り製品の欠陥になる。また、フィルムを界面活性剤を含む水で洗浄し、ついで界面活性剤を含まない水で洗浄する洗浄工程および洗浄後にエアノズルからエアを吹き付けて乾燥させる乾燥工程を含み、洗浄工程に超音波洗浄装置使用する、フィルムに付着した塵埃を除去する方法が提案されている(特許文献4参照)。この方法は長尺フィルムを連続して処理する方法ではなく、洗浄液を用いたとしても有機性汚染物質の除去には長い接触時間が必要である。
本出願人は先にこれらの方法の欠点を解決する方法として、以下の順序の工程を含むことを特徴とする走行フィルムを高度に清浄化する方法に関する発明について特許出願をしている(特願2004-100694)。
(a)ガイドロール上を通過するフィルムの表面に片面ずつ純水を噴射する工程;
(b)上昇走行するフィルムの両面に純水を膜状に流下させる工程;
(c)ガイドロール上を通過するフィルムの表面に片面ずつエアーナイフで空気を噴射する工程。
【特許文献1】特開平6−110059号公報
【特許文献2】特開平7−113993号公報
【特許文献3】特許第3351431号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2003−300025号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の清浄化方法は主として微粒子を除去する方法であり、ラビングロール工程等に起因するラビング布繊維油剤などやゴムロール材などに起因する有機性汚染物質を十分に除去できないという問題があった。このような有機性物質に汚染されたフィルムの表面に液晶性高分子性を塗布すると塗布欠陥が生じる。
本発明はこのような問題点を解決することを目的とするものであり、長尺の走行しているフィルムの両面を同時に連続的に高度に清浄化する方法を提供することにある。特に光学素子用フィルムに適した高度に清浄なフィルムを製造するのに適した方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、洗浄液を貯溜した洗浄槽中に縦方向に平行に設けた少なくとも一対の超音波発生器と反射板の間を、走行フィルムを少なくとも1往復させる工程を含むことを特徴とするフィルムの清浄方法に関するものである。
【0006】
本発明の第2は、洗浄液を貯溜した洗浄槽中に縦方向に平行に設けた少なくとも一対の超音波発生器と反射板の間を、走行フィルムを少なくとも1往復させる工程および次いで該フィルム表面を清浄水およびエアーナイフの少なくとも一つを使用して清浄化する工程を含むことを特徴とするフィルムの清浄方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によるときは、走行しているフィルムの表面を連続的に高度に清浄化することができる。得られた清浄化フィルムは、高度に清浄化されているのみならず、フィルム表面に有機性の汚染がない極めて清浄なフィルムであって、その表面に液晶性高分子等を塗布して光学素子材料として使用するのに適したものである。本発明の清浄化方法は、上述の主として付着微粒子を除去して清浄化する方法と組み合わせることによって、さらに高度に清浄化されたフィルムを提供できる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施態様を模式的に示す図1および図2に沿って本発明の方法を詳細に説明する。洗浄槽1中には洗浄液2が貯留されている。洗浄液は、水に界面活性剤を溶解したものが好ましい。水のグレードとしては、通常の水道水、イオン交換水、さらに純度が高く抵抗値の高い純水(1〜15MΩ・cm)や超純水(17〜18MΩ・cm)などを挙げることができる。これらの水は、必要に応じ使用前にフィルターなどを用いて、ゴミ等を除去しておくことが好ましい。これらの水のグレードのうち、蒸発残の可能性があるので家庭用の水道水は用いないほうがよく、また超純水は製造コストの問題がある。したがって、イオン交換水あるいは純水のグレードの水が最も好ましいと言える。
【0009】
水に溶解する界面活性剤は、フィルム表面に付着している主として有機性の汚染物質を除去する目的で使用する。界面活性剤としては、公知のアニオン性、カチオン性、中性、両性のいずれも使用できるが、有機性汚染物質の種類に応じて選択するのが好ましい。また、溶剤もフィルム表面に付着している主として有機性の汚染物質を除去する目的で使用する場合もある。さらに、排水のBOD、COD規制に対応できるものが、環境汚染を避ける点から好ましい。
【0010】
好ましい界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤としてカルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩、燐酸塩、ポリ燐酸塩,フッ化炭化水素系など、陽イオン系界面活性剤として長鎖アミンとその塩、長鎖ジアミン、長鎖ポリアミンとそれらの塩、長鎖第4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレン付加長鎖アミン、ポリオキシエチレン付加長鎖第4級アンモニウム塩、アミンオキシドなど、非イオン系界面活性剤としてアルキルフェノールのエチレンオキシド付加物、長鎖アルコールのエチレンオキシド付加物、ポリオキシプロピレングリコールのポリオキシエチレン付加物、長鎖メルカプタンのポリオキシエチレン付加物、長鎖脂肪酸エステル、アルカノールアミン−脂肪酸宿合物、アルカノールアミド、アセチレン第3級グリコールポリオキシエチレン付加シリコーン、n−アルキルピロリドンアルキルポリグリコシドなど、その他にはキレート剤が挙げられる。さらに、アルコール系、グリコール系、燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、等が挙げられる。これらの内、特に好ましいものは、陰イオン系、特にリン酸塩、非イオン系特にポリオキシエチレンアルキルエーテル(C=12-15)である。
【0011】
補助剤のアルカリ剤として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、エタノールアミン、アンモニア、珪酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが用いられるが、これらのうち特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、2−アミノエタノールが好ましい。
【0012】
水に対する界面活性剤の使用量は、5~60質量%程度であり、特に好ましくは5〜40質量%である。本洗浄液の使用濃度は、5〜30質量%程度であり、特に好ましくは5〜15質量%である。本発明の方法は、上述の主として微粒子除去する清浄化工程の前もしくは後のいずれにおいても実施可能であるが、後に実施する場合は、洗浄液中の微粒子の数は0.2μm以上が20個/ml以下であることが好ましい。
【0013】
フィルム3は、各種のものが使用できるが、例えば液晶性高分子を塗布する配向用基板としての高分子フィルム、その他の光学素子用フィルム、シートあるいは磁気テープ用基材フィルム等である。最も適しているのは、ラビング処理後の配向基板用フィルムである。配向基板用長尺フィルムは、高分子材料からなるもの、高分子材料と他の材料(たとえば、銅、ステンレス、鋼等の金属の箔等)との多層構造のいずれも使用できる。配向基板用フィルム自体を、銅、ステンレス、鋼などの金属箔とすることもできる。
【0014】
この材料としては高分子材料が好ましく、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれも使用できる。たとえばポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、ナイロンなどのポリアミド;ポリエーテルイミド;ポリエーテルケトン;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリケトン;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンサルファイド;ポリフェニレンオキサイド;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリ(メタ)アクリレート;トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂;ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂などが例示される。
【0015】
フィルムの表面に配向膜を構成する材料としては各種の材料が使用できるが高分子化合物が好ましい。例えばポリイミド膜、アルキル鎖変性系ポバール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレートなどである。また無機物としてSiO斜方蒸着膜などの無機物斜方蒸着膜がある。ポリイミドの場合は、ポロアミック酸を塗布した後100℃から300℃で加熱して硬化させる。
【0016】
フィルム3はガイドロールを経て洗浄槽1内に送り込まれる。洗浄槽1内には洗浄液2が貯留されている。フィルムは貯留液中を降下しターンバー4で折り返して貯留液から出る。図1に示す実施態様においてはターンバーを3個設けて、フィルムを3回折り返している。図2に示す実施態様では、ターンバーを1個設けてフィルムの折り返しを1回行っている。ターンバーは、フィルムが折り返す部分が弧状の曲面からなり、該曲面に設けた多数の穴から洗浄液または水を噴射して、フィルムをターンバー表面から、例えば3〜4mm、浮上させ、フィルムが折り返す際に該ターンバー表面と直接に接触しない機能を有するものである。このような液中ターンバーはBELLMATIC社等から入手できる。
【0017】
洗浄槽内の洗浄液中に、少なくとも一対の超音波発生器5と反射板6とが、対向して平行に設けられている。洗浄液中で、フィルムがターンバーで折り返されて、平行に対向して進行して1往復する間に、平行対向進行しているフィルムを、この一対の超音波発生器と反射板との間を通過させる。図1では、フィルムが2往復するのに対応して、2対の超音波発生器と反射板が設けられている。図2では、フィルムが1往復するのに対応して1対の超音波発生器と反射板が設けられている。
【0018】
超音波発生器5は、可聴領域を越える周波数の音波を発生させるものであり、洗浄液中で超音波によるキャビテーションを生じさせて洗浄を行うものである。超音波発生器の周波数、出力、形状および大きさは、フィルムの幅および走行速度に応じて洗浄効率が最も高くなる条件を適宜選択する。その際、超音波は通常の音波よりも指向性が高いことを考慮する。本発明に使用するのに好ましい周波数領域は、19KHz〜120KHzである。本発明の超音波発生器としては、単一周波数よりも複数の周波数の超音波を発生させるものが複数の汚染物質を除去するために好ましい。超音波発生器の出力は大きすぎると、フィルム表面に傷がつくので好ましくない。また、本発明においてターンバーの弧状面から噴出される液がフィルム面上を噴出水流として上昇するので、出力の損失が生じるので、静止水の場合よりも出力を大きくするのが好ましい。好ましい出力範囲は0.4〜1.5w/cm2である。超音波発生面の幅は、走行するフィルム幅もしくはそれ以上であることが好ましい。長さ(高さ)は、フィルムの走行速度に応じて変化するが、出力0.7〜1.2w/cm2の場合で、走行中に0.25分〜1.5分照射することができる程度が好ましい。
超音波発生器とフィルムとの距離は、超音波の波長との関係で適宜定める。好ましい距離は、波長の約2分の1程度である。複数の周波数の超音波を発生させる場合には、最強波の約2分の1波長離すのが好ましい。例えば、最強波の周波数が40KHzの場合には、約20mm離すのが好ましい。
【0019】
反射板6は、超音波発生器からの超音波を反射させ、フィルムの両面を清浄化するためおよび超音波の洗浄槽外への漏洩防止のために設ける。したがって、反射板は超音波発生器と平行に対向してかつ形状がほぼ同じかそれより大きいものが好ましい。反射板の材質については特に制限はないが、密度が高いもの、たとえばステンレス・スティールのような金属板、が好ましい。超音波の遮蔽効果を考慮して反射板は中空構造が好ましい。反射板の表面は、滑らかな平面が好ましい。反射板とフィルムとの距離は、超音波発生器とフィルムとの距離を定めるのと同様にして定める。
【0020】
このように構成された洗浄槽1内をフィルム3が走行して界面活性剤と超音波の相乗作用によって有機性汚染物質の除去が行われる。洗浄後のフィルムに付着している水分、界面活性剤等を除去し乾燥して清浄化製品が得られる。洗浄後の清浄化工程の好ましい方法は次のとおりである。
【0021】
洗浄液2から引き上げられたフィルム3の表裏両面にエアーナイフ7、7によって空気を噴射する。この工程は、フィルムの両面に洗浄工程で付着同伴した水分、界面活性剤および除去された汚染物質を含む液体を除去する工程である。エアーナイフは、ガイドロール軸と平行にフィルム幅をカバーするスリットから噴射される。空気の噴射は、フィルムがガイドロールに接している箇所においてロールと反対側から行うのが好ましい。噴射方向は走行フィルムの上流側に数度傾けるようにするのが好ましい。これによって、走行しているフィルム表面上の液をせき止められる。撥水性の大きなフィルムを用いる場合には、本発明におけるエアーナイフの作用は、フィルム表面の液体を単に乾燥除去するのではなく、フィルム表面の液滴がフィルムに同伴して次の工程へ行かないようにするのが主な作用である。エアーナイフに加熱空気を使用してフィルム表面の液滴を乾燥すると、液滴の跡がフィルム表面に残る。そのフィルム上に液晶性高分子を塗布して光学素子を製造すると、液跡が製品欠陥として表れる。エアーナイフの空気圧、噴射スリット開口幅およびスリット開口とフィルムとの距離はフィルムの種類、フィルムの走行速度等に応じて、適宜調節することが好ましい。エアーナイフは噴射位置がロールと接触していない箇所とするとフィルムがバタつくので好ましくない。
【0022】
洗浄液が除去された走行フィルム3は、そのまま、またはさらに乾燥工程を経て清浄化フィルとして次の工程へ供給することができるが、次いで清浄水による濯ぎ工程に供するのが好ましい。清浄水による濯ぎは、濯ぎ槽内の貯留清浄水を通過させる方法、清浄水をフィルムの両面に流下する方法、清浄水をフィルムの両面に噴射する方法のいずれか、あるいはこれらの任意の組合わせによって行うのが好ましい。
【0023】
図1に示す態様においては、フィルム3はガイドロールに誘導されて反転して垂直に引き上げ、垂直に上昇走行するフィルムの両面に吐出ノズル8、8から純水を膜状に流下させる。これにより、フィルム表面に残存している洗浄液を完全に洗い流す。
該洗浄後のフィルム面に水滴を同伴させないためには、フィルム面上を流下させる水を、直線状のスリットを有する吐出ノズル8,8からフィルム面に向かって垂直より下向きに連続した水膜状態で吐出することにより供給するのが好ましく、吐出された水がフィルム面上を流下する際の上限の水線が連続した直線であることが好ましい。直線状のスリットに換えて複数のノズルから水を吐出させる方法では、上昇するフィルム面上に水滴が残存し易いので好ましくない。
さらに、吐出された水膜がフィルムに当る角度は、フィルム面に垂直な面に対してなす角度として20度〜60度が好ましい。フィルム面に垂直ないし上向きに水を当てると、水線が乱れて直線を保ち難くなり上昇するフィルムに水滴が同伴される恐れがあるので好ましくない。
吐出用スリットの開口間隙は狭い方が好ましいが、あまり狭くすると吐出水膜が切れるので、0.1〜3.0mmが好ましい。スリットの幅、すなわち水膜の幅は、フィルム幅よりも広く取るのが好ましい。
フィルムの両面に対して吐出する水は実質的に同一箇所に同時に両面から当たるようにするのが好ましい。これによりフィルムの揺らぎやバタつきがなくなり、水線の直線性が保たれる。
【0024】
吐出ノズル8に替えて、フィルムがガイドロールに接触している箇所において、ロールと反対側のフィルム表面に純水噴射ノズルから純水を噴射することも好ましい。純水は空気と混合して噴射する方法によるのが好ましい。該噴射流は、ロール軸の方向に平行にフィルム幅をカバーする長さに配列された複数の噴射ノズルから噴射される。噴射位置はフィルムとロールが接触している位置とする。噴射位置がロールと接触していない箇所であるとフィルムがバタつくので好ましくない。
【0025】
濯ぎ工程で使用する水は純水であるが、純粋な水の比抵抗(25℃)である18.3MΩ・cmに近い比抵抗を有する超純水の場合は、静電気の作用により水切れがしにくくなり、走行するフィルム面上に水滴が付着しやすくなる。この場合は静電除去手段を併用する。好ましい電気比抵抗は16未満、更に好ましくは15〜5MΩ・cmである。純水中の微粒子の数は0.2μm以上が20個/ml以下であることが好ましい。
【0026】
濯ぎ工程を経た後に、再度エアーナイフで水分除去および乾燥を適宜行うことができる。
エアーナイフによる工程は、洗浄液から引き上げられたフィルムに行う方法が適用できる。なお、洗浄工程後および濯ぎ工程後のエアーナイフに使用するエアー、濯ぎ工程で純水と共に噴射する空気および本発明の方法に使用する清浄化装置の雰囲気空気は、清浄度クラスは高ければ高いほど望ましい。
【0027】
以上の工程により高度に清浄化され乾燥されたフィルムは巻取りロールに巻き取られる。以上の工程はクリーンルーム内で行われる。清浄度は高ければ高い方が好ましい。図1および図2に示した洗浄装置内の空気は上から下へ流れるように制御するのが好ましい。
【0028】
配向基板フィルムをこのようにして高度洗浄化したものは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、ELディスプレイ等の各種ディスプレイに備えられる各種光学フィルムおよび基板フィルム等を得る際に有用である。さらに具体的には、液晶性高分子等を塗工して得ることができるコレステリックフィルム、ホログラムフィルム、偏光板、カラー偏光板、位相差板、色補償フィルム、視野角改良フィルム、輝度向上フィルム、反射防止フィルム、旋光フィルム等を得る際に非常に有用であると言える。さらに本発明においては、例えば、フィルムのラビング面に液晶性高分子を塗工し、液晶状態にした場合、該液晶性高分子の液晶相の分子配列がラビング方向に対応して配向する。これを硬化または固化して固定すれば上記のような各種光学フィルムを得ることができる。液晶性を示す温度が高いサーモトロピック液晶性高分子の場合には、耐熱性の高い基板フィルムをラビング処理して、該フィルム上に配向液晶層を形成し、これを該基板から剥離して他の透光性基板上に転写して光学素子とすることができる。このようなサーモトロピック液晶性高分子としては、スメクチック、ネマチック、ねじれネマチック(コレステリック)、ディスコティック等のいずれかの液晶であることができる。これらの液晶性高分子を溶融状態または適当な溶剤に溶解した溶液として基板フィルム上に塗布し、温度をガラス転移温度以下に低下させると液晶相の分子配列状態が保持されるのである。
【0029】
このような液晶性高分子としては、カルボン酸基、アルコール基、フェノール基、アミノ基、チオール基などを有する化合物を縮合させて成る縮合系液晶性高分子、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など二重結合を有する液晶性化合物などを原料として得られる液晶性ビニルポリマー、アルコキシシラン基を有する液晶化合物などから合成される液晶性ポリシロキサン、エポキシ基を有する液晶性化合物などから合成される液晶性エポキシ樹脂および上記液晶性高分子の混合物などが例示できる。これらの各種液晶性高分子の中でも、得られるフィルムの光学特性などの点から縮合系液晶性高分子が最も好ましい。
【0030】
縮合系液晶性高分子は、通常二官能性モノマーを適当な方法で縮合して得ることができる。当該二官能性モノマーとしては、芳香族またはシクロヘキサン環を有する二官能性モノマーが望ましく、具体的には、フェニレンジアミン等のジアミン類、ハイドロキノン、2−メチルハイドロキノン、レゾルシノール、カテコール、4−メチルカテコール、4−tert−ブチルカテコール、2,3−ジヒドロキシナフタレン等のジオール類、1,4−フェニレンジチオール、1,2−フェニレンジチオール等のジチオール類、サリチル酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸類、2−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸等のアミノ酸類、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフィニルジカルボン酸、4,4’−スチルベンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸類などを例示できる。なかでもヒドロキシ基を持つ成分としてカテコール単位を必須構造単位として含有する縮合系液晶性高分子が最も好ましい。
【0031】
縮合系液晶性高分子を調製する際の原料モノマーには、液晶性を破壊しない程度において、例えば、シュウ酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等の脂肪族ジオール類、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン等の脂肪族ジアミン類、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸類などが添加可能である。
【0032】
また、必要に応じて液晶性高分子の主鎖末端を修飾するために、一官能性モノマーや三官能性モノマー等を原料モノマー中に添加することもできる。一官能性モノマーとしては、カルボン酸基、アミン基、アルコール基、フェノール基、チオール基などを一分子中に一個有する例えば芳香族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸類、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、フェノール類、脂肪族フェノール類が挙げられる。また三官能性モノマーとしては、例えばトリメリット酸、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシベンゼンカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0033】
これらのモノマーを縮合して縮合系液晶性高分子、具体的には液晶性ポリエステルを得る方法は、特に制限されるものではなく、当該分野で公知の如何なる方法も適宜採用することができる。例えば、カルボン酸を酸ハロゲン化物としたり、ジシクロヘキシルカルボジイミド等を存在させることによってカルボン酸を活性化した後、アルコール、アミン等と反応させる方法、フェノールを酢酸エステル化した後、カルボン酸と反応させ脱酢酸反応により合成する方法、カルボン酸をメチルエステルのようなエステル化物とした後、必要であれば適当な触媒の存在下、アルコールと反応させ脱アルコール反応により合成する方法などが任意に採用できる。
【0034】
本発明の液晶性高分子には、上記したような縮合系液晶性高分子を単独で用いることもでき、また、2種類または3種類以上の縮合系液晶性高分子の混合物を用いることもできる。さらに、本発明の効果を損なわない範囲において光学活性な液晶性高分子、液晶性ビニルポリマー、液晶性ポリシロキサン、液晶性エポキシ樹脂等の各種液晶性高分子や非液晶性高分子などを適宜混合して用いることもできる。
【実施例】
【0035】
図1に示す洗浄装置により高度洗浄を行った。容積1700リットルの洗浄槽(必要ならば:と容積700リットルの補助タンク)を用いた。超音波発生器は、厚さ90mm、幅750mm、長さ750mmのものを縦長に2個対面して設置した。主な発生周波数は37KHz、78KHzおよび98KHzの3周波数であった。最強周波数は37KHzであった。反射板は、厚さ3mm、幅1040mm、長さ750mmのものを縦長に2個対面して設置した。ターンバーとしてBELLMATIC社製の長さ750mmのものを使用した。洗浄液として、界面活性剤は横浜油脂製NCを水に10質量%溶解したものを、洗浄槽に1500リットル貯留した。ターンバー、超音波発生器、反射板のいずれも洗浄液面下に存在するようにした。洗浄液の温度は40℃であった。該装置をクラス10のクリーンルーム内に設けた。クリーンルーム内の温度は23℃に維持した。フィルムは、あらかじめ表面をラビング処理した後、純水を使用した清浄装置で清浄化し十分に静電除去した厚さ60μm、幅650mmの高分子フィルムを用いた。フィルムの走行速度は6m/分とした。フィルムと超音波発生器表面との距離および反射板との距離はそれぞれ20mmとした。ターンバーの弧状面から毎分100リットルの洗浄液を噴出させた。超音波発生器の出力は1.0W/cmであった。
【0036】
次に、洗浄液から上方に引き上げられたフィルムの表面にガイドロール上でエアーナイフ7,7により、それぞれ空気を吹き付けた。空気の温度は23℃、エアーナイフの空気圧は700mmHO、エアーナイフの噴出し口間隙は0.2mm、空気吹き出し口とフィルム表面との距離は3mmであった。
【0037】
濯ぎ工程ではガイドロールを経て垂直に上昇しているフィルムの両面に吐出ノズル8,8から純水を膜状に吐出して吹き付けた。使用した純水の性状は、電気比抵抗(25℃)10MΩcmであり、0.2μm以上の微粒子の数は20個/ml以下であった。水吐出スリット幅は700mm、スリットの間隙は0.2mm、水量は1m/時間であった。吐出水膜がフィル面に垂直な面となす角度は45°であった。
ガイドロールから10cm上のフィルム表面に直線状の水線が存在し、水はその水線から下にフィルム表面に沿って流下し、目視では水線より上のフィルム表面には水滴は認められなかった。
【0038】
実施例によって得られた清浄フィルムおよび未洗浄フィルムを配向基板フィルムとし、当該フィルムのラビング処理面上に、ロールコーターを使用して液晶性高分子物質溶液を300mm幅で塗布した。乾燥後200℃×15分間加熱処理して液晶性高分子を配向させ、次に室温まで冷却して液晶構造(ねじれネマチック配向構造)を固定化した。
得られた長尺の液晶性高分子層について、配向ムラの有無および欠陥数を観察したところ、実施例のフィルムを用いたものは、未洗浄フィルムに比べてラビング布繊維油剤などやゴムロール材などに起因する有機性汚染物質起因となる欠陥が著しく減少していることが認められた。
【0039】
評価に用いた液晶高分子溶液は以下のようにして製造した。
式(1)の液晶性高分子物質(対数粘度=0.22dl/g、Tg=61℃)、及び式(2)の(R)−3−メチルヘキサン−1,6−ジオール単位を含む光学活性な液晶性高分子物質(対数粘度=0.17dl/g)を合成した。
これらの高分子材料の合成は、オルトジクロルベンゼン溶媒中、トリエチルアミンの共存下で、ジカルボン酸単位に対応する酸塩化物とジオール化合物とを反応させることによって行った。
得られた式(1)の液晶性高分子物質18.1g及び式(2)の液晶性高分子物質1.9gの混合物を80gのN−メチルピロリドンに溶解させて液晶性高分子物質溶液を調製した。
【化1】

【化2】

【0040】
なお上記の分折法および評価法は以下のとおりである。
(1)液晶性高分子の対数粘度測定
ウッベローデ型粘度計を用いて、フェノール/テトラクロロエタン(60/40重量比)混合溶媒中、30℃で測定した。
(2)配向ムラおよび欠陥検査の観察
配向ムラ観察はオリンパス光学(株)製BH2偏光顕微鏡を用いて行った。
(3)液晶性高分子の組成の決定
液晶性ポリエステルを重水素化クロロホルムに溶解し、400MHzのH−NMR(日本電子製JNM−GX400)で測定し組成を決定した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の方法によれば、フィルムの両面が連続的に極めて高度に清浄化される。本発明の方法は光学素子用フィルムに適した高清浄度のフィルムの製造に適している。さらに、半導体等の高清浄度が要求される分野に使用される包装資材等の製造にも適している。また、本発明の清浄化方法は、純水と空気を使用するので環境汚染が問題となる施設や環境で実施するのに好適である。
【0042】
また、本発明は、本願明細書の背景技術の項に記載した微粒子や塵埃を主として除去することを目的とするフィルム清浄化方法と組合わせることによって、さらに高度に清浄化されたフィルムを得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の方法を実施する装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の方法を実施する装置の他の一例を示す模式図である
【符号の説明】
【0044】
1 洗浄槽
2 洗浄液
3 フィルム
4 ターンバー
5 超音波発生器
6 反射板
7 エアーナイフ
8 水吐出ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を貯溜した洗浄槽中に縦方向に平行に設けた少なくとも一対の超音波発生器と反射板の間を、走行フィルムを少なくとも1往復させる工程を含むことを特徴とするフィルムの清浄方法。
【請求項2】
洗浄液を貯溜した洗浄槽中に縦方向に平行に設けた少なくとも一対の超音波発生器と反射板の間を、走行フィルムを少なくとも1往復させる工程および次いで該フィルム表面を清浄水およびエアーナイフの少なくとも一つを使用して清浄化する工程を含むことを特徴とするフィルムの清浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−181515(P2006−181515A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379488(P2004−379488)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】