説明

フィルムの製造方法

【課題】従来よりも高いReを有しかつReに対してRthの値が低く、ヘイズ値が低い光学フィルムを製造する。
【解決手段】第1テンタ55において、平均温度が70(℃)以上115(℃)以下の範囲の気体中で、溶媒残留量が25重量%に達するまで湿潤フィルム54を延伸する。中間フィルム56を得る。第1テンタ55の平均温度が40(℃)以上90(℃)以下の範囲の気体中で、溶媒残留量が10重量%以上25重量%未満になるように中間フィルム56を乾燥する。中間フィルム56を第2テンタ57に搬送する。第2テンタ57において160(℃)以上195(℃)以下に温度設定された気体中で、溶媒残留量が10重量%に達した後の前記中間フィルム56を延伸する。フィルム52を得る。Rth/Reの値が低く、かつReの値が高く、ヘイズ値が低い光学フィルムを製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイに対する要求性能は、近年ますます高くなっている。液晶ディスプレイは、複数の光学フィルムが重ねられた構造を有しており、液晶ディスプレイにおける多種類の表示形式に対応する様々な光学特性を有する光学フィルムが要求されている。光学フィルムは、特に液晶ディスプレイの種類や型式等に応じた、面内方向レタデーション(以下、「Re」と称する。)(nm)や厚み方向レタデーション(以下、「Rth」と称する。)(nm)やヘイズ値(%)に代表される様々な光学特性を有する必要がある。Reの「面内方向」とは、フィルムの厚み方向と垂直な面の方向である。
【0003】
周知のように、Reは、下記式(1)でRthは、下記式(2)で求められる。なお、式(1),(2)中のnxはフィルム面内の遅相軸方向における屈折率、nyは進相軸方向における屈折率、nzはフィルムの厚み方向における屈折率、dはフィルムの厚み(nm)である。
Re=(nx−ny)×d ・・・(1)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d ・・・(2)
【0004】
ところで、ポリマフィルムとりわけ、セルロースアシレートを原料とするフィルムは、延伸することによりポリマ分子の配向あるいはポリマ分子の結晶化する割合を調整して、Re,Rthやヘイズ値を調整する。これにより、液晶表示装置の偏光板位相差膜として特に使用されている。そして、Reを高くする場合ほど、延伸での拡幅率を大きくし、これによってRthが高くなる。ところが最近では、偏光板位相差膜に対して、特にReが高く、かつ、Reに対してRthが低い光学特性を有することが求められている。Reに対してRthが低いとは、Rth/Reの値が従来品よりも1以上の範囲で小さいこと、つまりは、1により近い値であることを意味する。そして、このようなフィルムには、さらに、ヘイズ値が低いことも求められている。
【0005】
ポリマフィルムについて、Re、Rthを調整する方法として、セルロースエステル溶液を支持体に流延して流延膜を作製し、この流延膜を支持体から湿潤フィルムとして剥がし、この湿潤フィルムの溶媒残留量が所定範囲にある間に、乾燥させながら幅方向に延伸してReとRthとが大きなフィルムを製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、流延膜の溶媒残留量が所定範囲である間にフィルムとして剥がし、このフィルムを幅方向に2段階で延伸してReが小さなフィルムを製造する方法(例えば、特許文献2参照)がある。更には、レタデーション上昇剤をポリマ溶液に添加することによりReが大きなフィルムを製造するというフィルム製造方法(例えば、特許文献3参照)もある。
【特許文献1】特開2002−187960号公報
【特許文献2】特開2002−311245号公報
【特許文献3】特表2000−065384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される方法では、溶媒残留量が多い場合の流延膜については、破れやすいので幅方向における延伸の速度や延伸する倍率を高めることができない。また、生産性を上げるために流延支持体にドラムを用いて流延膜を固化して剥がす場合、いわゆる冷却流延の場合には、特許文献1の方法によると、流延膜を剥ぎ取るときに分子が湿潤フィルムの搬送方向に配向してしまい、延伸工程を経た後のフィルムのRthが大きくなってしまう。従って、冷却流延の場合には、Reを大きくすることができても、Rth/Reの値を小さくすることができないという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載される方法では、第1テンタとこの第1テンタの下流の第2テンタとによりフィルムを延伸するが、第1テンタに送るフィルムを溶媒残留量が10〜50質量%としておく。従って、第1テンタに至るまでにフィルムを上記の溶媒残留量となるように乾燥するために、流延膜を支持体上で乾燥させることが必要となる。しかし、このように流延膜を支持体上で乾燥して剥がすといういわゆる乾燥流延では、冷却流延ほどの生産性は望めない。また、この方法では、Reが高く、低いヘイズの値を有するフィルムはつくることができない。一方、特許文献3に記載される方法では、流延膜にレタデーション上昇剤が添加されているため、Reを上昇させることはできるものの、Rthも上昇してしまい、所望の光学特性を得ることができなかった。
【0008】
本発明では、上記問題に鑑み、従来に比べて、具体的には、30nm以上の高いReを有しかつReに対してRthの値が低く、かつ、ヘイズ値も低い光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルムの製造方法は、セルロースアシレートと溶媒とが含まれるドープを、走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が冷却により自己支持性を有した後に湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取る湿潤フィルム形成工程と、平均温度が70(℃)以上115(℃)以下の範囲とされた気体の中で、溶媒残留量が25重量%に達するまで前記湿潤フィルムを乾燥し、この乾燥の間に、前記湿潤フィルムを幅方向に延伸して中間フィルムを得る第1工程と、平均温度が40(℃)以上90(℃)以下の範囲とされた気体の中で、溶媒残留量が25重量%から10重量%になるように前記中間フィルムの乾燥をすすめる第2工程と、前記第2工程を経て溶媒残留量が10重量%に達した後の前記中間フィルムを、160(℃)以上195(℃)以下に温度設定された気体の中で、幅方向に延伸する第3工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
第3工程における前記湿潤フィルムの拡幅率が10%以上60%以下であることを特徴とすることが好ましい。前記湿潤フィルムあるいは前記中間フィルムの両側縁部をピンにより保持するピンテンタにより前記第1工程及び前記第2工程を行うことが好ましい。前記中間フィルムの両側縁部をクリップにより保持するクリップテンタにより第3工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
30(nm)以上のReを有し、かつ、Reに対してRthの値が低く、更には、ヘイズ値が低く制御された光学フィルムを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0013】
[ドープ原材料]
ドープ原材料としては、溶質としてセルロースアシレートを用いる。溶媒としては、セルロースアシレートを溶かすまたは分散させるものであれば、特に制約されない。ここで、ドープとはポリマを溶媒に溶解または分散媒に分散して得られるポリマ溶液または分散液のことをいう。なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載を本発明にも適用することができる。
【0014】
ドープの溶媒としては、具体的には、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。
【0015】
これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、セルロースアシレートの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2〜25(重量%)であることが好ましく、5〜20(重量%)であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0016】
また、ドープには、種々の添加剤を加える。添加剤としては、可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤,レタデーション上昇剤等が挙げられる。
【0017】
可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤については、同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0018】
レタデーション上昇剤については、特開2006−235483の[0030]段落から[0142]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0019】
[ドープ製造方法]
図1はドープ製造設備である。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。ドープ製造設備10は、溶媒タンク11と、ホッパ12と、添加剤タンク13と、混合タンク15と、加熱装置16と、温度調整器17と、ろ過装置18と、フラッシュ装置22と、ろ過装置23とを備える。
【0020】
溶媒タンク11は溶媒を貯留する。ホッパ12はセルロースアシレートを供給する。添加剤タンク13は添加剤を貯留する。混合タンク15で溶媒とセルロースアシレートと添加剤とが混合されて混合液14が得られる。そして、加熱装置16で混合液14が加熱される。温度調整器17では、加熱された混合液14の温度が調整される。ろ過装置18で、温度調整器17からの混合液14をろ過してドープ21が得られる。フラッシュ装置22では、ろ過装置18からのドープ21の濃度が調整される。ろ過装置23では、濃度調整されたドープ21をろ過する。
【0021】
ドープ製造設備10は、更に、溶媒を回収するための回収装置24と、回収された溶媒を再生するための再生装置25とを備える。このドープ製造設備10は、ストックタンク26を介して溶液製膜設備27に接続される。なお、送液量を調節するためのバルブ31〜33と、送液用のポンプ34,35とがドープ製造設備10には設けられるが、これらが配される位置及びポンプ数の増減については適宜変更される。
【0022】
ドープ製造設備10によりドープ21は以下の方法で製造される。バルブ32を開くことにより、溶媒は溶媒タンク11から混合タンク15に送られる。次に、セルロースアシレートがホッパ12から混合タンク15に送り込まれる。このとき、セルロースアシレートは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク15に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク15に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ31の開閉操作により必要量が添加剤タンク13から混合タンク15に送り込まれる。
【0023】
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク15に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク15に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク13の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク15に送り込むこともできる。
【0024】
前述した説明においては、混合タンク15に入れる順番が、溶媒、セルロースアシレート、添加剤であったが、この順番に限定されない。また、添加剤は必ずしも混合タンク15でセルロースアシレート及び溶媒と混合することに限定されず、後の工程でセルロースアシレートと溶媒との混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
【0025】
混合タンク15には、その外表を覆い、混合タンク15との間に伝熱媒体が供給されるジャケット36と、モータ37により回転する第1攪拌機38と、モータ41により回転する第2攪拌機42が取り付けられていることが好ましい。混合タンク15は、ジャケット36の内側に流れ込む伝熱媒体により温度調整され、その好ましい温度範囲は−10℃〜55℃の範囲である。第1攪拌機38,第2攪拌機42のタイプを適宜選択して使用することにより、セルロースアシレートが溶媒により膨潤した混合液14を得る。第1攪拌機38は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機42は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0026】
次に、混合液14は、ポンプ34により加熱装置16に送られる。加熱装置16は、管本体(図示せず)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケットとを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液14を加圧する加圧部(図示せず)を有することが好ましい。このような加熱装置16を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液14中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を溶媒に溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液14を0℃〜97℃となるように加熱することが好ましい。
【0027】
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒に溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液14を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液14を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法によりセルロースアシレートを溶媒に十分溶解させることが可能となる。
【0028】
混合液14を温度調整器17により略室温とした後に、ろ過装置18によりろ過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ21とする。ろ過装置18に使用されるフィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。ろ過流量は、50リットル/hr.以上であることが好ましい。
【0029】
ろ過後のドープ21は、バルブ33によりストックタンク26に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0030】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、セルロースアシレートの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ33により、ろ過装置18でろ過されたドープ21をフラッシュ装置22に送り、このフラッシュ装置22でドープ21の溶媒の一部を蒸発させることによりドープ21を濃縮することができる。濃縮されたドープ21はポンプ35によりフラッシュ装置22から抜き出されてろ過装置23へ送られる。ろ過の際のドープ21の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。ろ過装置23で異物を除去されたドープ21は、ストックタンク26へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ21には気泡が含まれていることがあるので、ろ過装置23に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ21に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0031】
また、フラッシュ装置22でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置24により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置25によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、閉鎖系で実施されるために人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0032】
以上の製造方法により、セルロースアシレート濃度が5(重量%)以上40(重量%)以下の範囲であるドープ21を製造する。セルロースアシレート濃度は15(重量%)以上30(重量%)以下の範囲とすることがより好ましく、17(重量%)以上25(重量%)以下の範囲とすることがさらに好ましい。また、添加剤の濃度は、固形分全体に対して1(重量%)以上20(重量%)以下の範囲とすることが好ましい。
【0033】
なお、セルロースアシレートフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しく、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0034】
[フィルム製造設備及び方法]
図2は、本発明の第1実施形態の溶液製膜設備27を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備27に限定されるものではない。溶液製膜設備27には、ろ過装置51と、流延室53と、第1テンタ55と、第2テンタ57と、第2テンタ57から送出されるフィルム52の両側端部を切り離す耳切装置58と、フィルム52を複数のローラ59に掛け渡して搬送しながら乾燥する乾燥室60と、冷却室61と、除電装置62と、ナーリング付与ローラ対63と、巻取室64とが備えられる。
【0035】
ろ過装置51は、ストックタンク26から送られてくるドープ21から異物を除去する。流延室53では、このろ過装置51でろ過されたドープ21を流延して流延膜76とし、流延膜76を剥ぎ取って湿潤フィルム54を得る。第1テンタ55では、湿潤フィルム54の両側端部を保持して搬送しながら乾燥して中間フィルム56が得られる。第2テンタ57では、第1テンタ55から送出される中間フィルム56を搬送しながら乾燥してセルロースアシレートフィルムであるフィルム52が得られる。冷却室61では、フィルム52を冷却して、除電装置62で、フィルム52の帯電量を減らす。ナーリング付与ローラ対63によりフィルム52の側端部にエンボス加工を施して、次に、巻取室64でフィルム52を巻き取る。
【0036】
ストックタンク26には、モータ71で回転する攪拌機72が取り付けられており、攪拌機72の回転によりドープ21が撹拌される。そしてポンプ73によりストックタンク26中のドープ21はろ過装置51に送られる。
【0037】
流延室53には、ドープ21を流出する流延ダイ74と、周面にドープ21が流延される支持体としてのドラム75とが備えられる。
【0038】
ドラム75には、伝熱媒体をドラム75の内部に供給してドラム75の表面温度を制御する伝熱媒体循環装置77が備えられる。ドラム75の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、ドラム75の周面の温度が所定の値に保持されるものとなっている。ドラム75の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ21の濃度等に応じて適宜設定する。
【0039】
流延ダイ74の近傍には、減圧チャンバ78が備えられる。減圧チャンバ78は、流延ダイ74からドラム75にかけて形成される流延ビードの、ドラム75の回転方向における上流側のエリアの空気を吸って減圧する。
【0040】
流延室53には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置81と、ドープ21及び流延膜76から蒸発した溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)82とが設けられる。そして、凝縮液化した溶媒を回収するための回収装置83が流延室53の外部には設けられてある。
【0041】
流延室53から第1テンタ55に至る渡り部84には、送風機(図示せず)が備えられてもよい。
【0042】
湿潤フィルム54の両側端部を保持手段で保持して、湿潤フィルム54を搬送しながら、湿潤フィルム54を延伸し、乾燥する第1テンタ55には、乾燥風を供給する送風ダクト79が設けられている。第1テンタ55の内部の雰囲気(気体)の温度は、送風ダクト79から送り出すべき乾燥風の温度を制御することにより調整される。
【0043】
第1テンタ55から案内されてきた中間フィルム56の両側端部を保持して、中間フィルム56を搬送し、中間フィルム56に熱を加えながら、中間フィルム56を延伸してフィルム52を得る第2テンタ57には、第1テンタ55と同様に、乾燥風を供給する送風ダクト80が設けられている。
【0044】
また、耳切装置58には、切り取られたフィルム52の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ85が備えられる。
【0045】
乾燥室60には、フィルム52から蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置86が取り付けられてある。乾燥室60の下流には冷却室61が設けられており、乾燥室60と冷却室61との間にフィルム52の含水量を調整するための調湿室(図示しない)がさらに設けてもよい。
【0046】
除電装置62は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、フィルム52の帯電圧を所定の範囲となるように調整する。除電装置62の位置は、冷却室61の下流側に限定されない。ナーリング付与ローラ対63は、フィルム52の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。巻取室64の内部には、フィルム52を巻き取るための巻取ロール87と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ88とが備えられている。
【0047】
次に、溶液製膜設備27によりフィルム52を製造する方法の本発明の第1実施形態を以下に説明する。ドープ21は、ストックタンク26に送られ、この中で攪拌機72の回転により常に均一にされる。これにより、流延に供されるまで、固形分の析出や凝集が抑制される。ドープ21には、この攪拌の際にも各種添加剤を適宜混合させることができる。そして、ろ過装置51でのろ過により、所定粒径以上のサイズの異物やゲル状の異物を取り除く。
【0048】
ろ過された後のドープ21は、流延ダイ74からドラム75に流延される。流延時におけるドープ21の温度は30〜35(℃)の範囲で一定、ドラム75の表面温度は−10〜10(℃)の範囲で一定とされることが好ましい。流延室53の温度は、温調装置81により10〜30(℃)とされることが好ましい。なお、流延室53の内部で蒸発した溶媒は回収装置83により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0049】
流延ダイ74からドラム75にかけては流延ビードが形成され、ドラム75上には流延膜76が形成される。流延膜76をドラム75により冷却してゲル状にし、固化させる。そして、流延膜76が自己支持性をもつようになったら、剥取ローラ91で支持しながらドラム75から剥ぎ取って湿潤フィルム54を得る。剥ぎ取りは、流延膜76の溶媒残留量の高低に関わらず、流延膜76が搬送に十分な硬さとなっていれば行うことができる。ここで、本発明において溶媒残留量は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜76や後述する中間フィルム56の重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。なお、以下、剥ぎ取り時における流延膜76の溶媒残留量を「W」と称する。
【0050】
生産効率を考慮すると、剥ぎ取り時における流延膜76の溶媒残留量Wが高くても十分に硬くなるように冷却を行うことが好ましく、冷却により流延膜76の露出面が十分に固まったならば、流延膜76の近傍に乾燥空気を流す等の手段を講じることにより、剥ぎ取り後の搬送安定性をより向上することができる。生産速度を50m/分以上の高速とする場合には、流延膜76の溶媒残留量が140重量%以上でも剥ぎ取りが可能なように冷却を急速に行うことが好ましい。冷却温度を低く設定できず、急冷できない場合には、流延膜76の搬送時間を延ばすためにドラム75を大型化しなければならない場合がある。また、流延膜76の溶媒残留量が320重量%よりも高い場合には、流延膜76を冷却しても搬送するに十分な硬さにすることは難しい。
【0051】
溶媒を多く含んだ状態の湿潤フィルム54は、第1テンタ55に送られる。湿潤フィルム54は、その両端部がピンにより保持されて、ピンの走行により搬送される。そして湿潤フィルム54は搬送されながら第1テンタ55内に設けられた送風ダクト79からの乾燥風により乾燥される。
【0052】
図3は、第1テンタ55の内部の概略図である。第1テンタ55は、ピンプレート102と、チェーン103と、レール104と、乾燥ダクト79(図1参照)とを有する。ピンプレート102は、湿潤フィルム54の搬送路に沿って、湿潤フィルム54の両側端部の位置に配置される。ピンプレート102は多数のピン101を有する。この多数のピンプレート102は、チェーン103に取り付けられている。そして、このチェーン103は無端で走行する。レール104によりチェーン103の軌道は決定される。そして、レール104にはシフト機構105が備えられる。
【0053】
第1テンタ55に送り込まれた湿潤フィルム54は、所定の位置に達すると、両側端部にピン101が差し込まれて保持される。シフト機構105は、レール104を湿潤フィルム54の幅方向に移動させ、これによりチェーン103は移動する。チェーン103上のピンプレート102は、湿潤フィルム54を保持した状態で湿潤フィルム54の幅方向に移動し、湿潤フィルム54は幅方向に張力が付与される。
【0054】
ドラム75から剥ぎ取った直後の湿潤フィルム54は、多量の溶媒を含んでおり非常に不安定であるために、ローラで搬送するのが困難である他、クリップによる把持にも耐えることができない。そこで、本実施形態のように、ピン101で湿潤フィルム54の両側端部を突き刺すと、湿潤フィルム54を安定的に保持して搬送することができる。
【0055】
図4は、第1テンタ55における湿潤フィルム54の延伸の状態を示す説明図である。矢線Xは、湿潤フィルム54の搬送方向である。第1テンタ55において、ピン101(図3参照)による湿潤フィルム54の保持を開始する位置を第1位置P1、保持を解除する位置を第2位置P2とする。なお、第1テンタ55の入口は第1位置P1よりも上流側、出口は第2位置P2よりも下流側にあるが、図4においては図示を略す。
【0056】
ドラムから剥ぎ取られた湿潤フィルム54からは、徐々に溶媒が蒸発し、溶媒残留量は、剥ぎ取り時の溶媒残留量Wよりも低くなる傾向があるが、湿潤フィルム54の幅方向Y1,Y2に張力を加える延伸の開始はできるだけ早く行う。
【0057】
湿潤フィルム54の溶媒残留量が少なくとも25重量%となるまでに延伸を終了する。35重量%までに延伸を終了することがより好ましい。40重量%からまでに延伸を終了することがさらに好ましい。ここで、延伸を開始する位置を第3位置P3とする。延伸を終了する位置を第4位置P4とする。
【0058】
第1テンタ55では、湿潤フィルム54を所定の溶媒残留量、具体的には25重量%に達するまで湿潤フィルム54を乾燥し、この乾燥の間に延伸する第1工程を実施する。この第1工程で得られる湿潤フィルムを中間フィルム56と称する。そして、この第1工程の後に、25重量%の溶媒残留量となった中間フィルム56の乾燥をすすめて、10重量%とする第2工程を実施する。
【0059】
第1テンタ55では、湿潤フィルム54を幅方向Y1,Y2に張力を加える。湿潤フィルム54は、第1テンタ55において、幅方向Y1,Y2に張力を加えずにいると、自重で弛んだり、溶媒の蒸発に伴い幅方向Y1,Y2に収縮したりする。そこで、弛みを防ぐために、湿潤フィルム54を幅方向Y1,Y2に張力を加える(第1延伸工程)。張力は、湿潤フィルム54の幅方向における中心に関して対称に、湿潤フィルム54に付与されることが好ましい。分子配向の制御を、湿潤フィルム54の幅方向で均等に行うためである。
【0060】
湿潤フィルム54は搬送されるため、常に搬送方向Xに張力が掛かっており、湿潤フィルム54のセルロースアシレートの分子は、搬送方向Xに配向する傾向がある。そのため、Rthの増加を抑えながらReを増加させるために、湿潤フィルム54の搬送方向Xの分子配向を緩和した上で幅方向の分子配向を大きくする。
【0061】
弛みを防ぐ目的以外に、湿潤フィルム54を幅方向Y1,Y2に張力を加えて、幅方向Y1,Y2の分子配向を大きくすることができる。これにより、湿潤フィルム54のセルロースアシレートの搬送方向Xに延びている分子配向に対して、幅方向Y1,Y2の分子配向を大きくすることができる。
【0062】
また、一般に、フィルムの厚み方向の分子配向は、フィルムの厚さを調整しない限り、調整し難い。フィルムは、所定の厚みを有するように製造されるため、厚み方向の分子配向は所定に制約される。従って、搬送方向の分子配向と幅方向の分子配向とを調整することによりRthを制御する。
【0063】
湿潤フィルム54に幅方向Y1,Y2に張力を加えることにより、第1テンタ55に入った時に幅L1(以後、「第1幅」と称する)であった湿潤フィルム54の幅をL2(以後、「第2幅」と称する)に大きくする(第1延伸工程)。このように、第1工程は、第1延伸工程を含む。すなわち、第1工程と第1延伸工程とが時間的に重なるように、各開始タイミングが互いに一致するとともに、各終了タイミングが互いに一致するという態様でもよいし、第1工程の開始、第1延伸工程の開始、第1延伸工程の終了、第1工程の終了の順で実施する態様でもよい。
【0064】
次に、中間フィルム56の第2幅L2をL3(以後、「第3幅」と称する)に大きくする(第2延伸工程)。第2工程では、延伸を実施しなくてもよいが、本実施形態のように、第2工程が第2延伸工程を含むことが好ましい。第2工程が第2延伸工程を含む場合には、第2工程と第2延伸工程とが時間的に重なるように、各開始タイミングが互いに一致するとともに、各終了タイミングが互いに一致するという態様でもよいし、第2工程の開始、第2延伸工程の開始、第2延伸工程の終了、第2工程の終了の順で実施する態様でもよい。
【0065】
そして、第1テンタ55では、第2工程の後で、この後、この幅L3を変わらないように保持する保持工程を実施することが好ましい。第3幅L3を保持する場合には、中間フィルム56には、幅方向Y1,Y2に張力が付与される。中間フィルム56の溶媒が揮発する際に、中間フィルム56は収縮する傾向があるためである。以後の説明においては、幅を大きくする場合を「拡幅」と称する。なお、図4において符号KLは、ピンで保持される湿潤フィルム54あるいは中間フィルム56の保持対象部のうち、湿潤フィルム54あるいは中間フィルム56の幅方向における最も中央部側の位置を表し、第1幅〜第3幅L1〜L3はいずれも両側の保持対象ラインKL間の距離である。また、湿潤フィルム54の幅をL2まで延伸する点を第5位置P5とする。
【0066】
第3位置P3から第5位置P5までの拡幅率は、5%以上30%以下とする。ここで、拡幅率とは、拡幅する前の長さに対する拡幅して伸びた分の長さの割合のことである。例えば、第1テンタにおける湿潤フィルム54の拡幅率は{(L2−L1)/L1}×100で求める値である。
【0067】
溶媒残留量がW重量%から、拡幅を開始して、25重量%となるまでの間に、より好ましくは35重量%になるまでに、拡幅を終了することにより、搬送方向Xの分子配向を緩和しつつ幅方向の分子配向を大きくすることができる。但し、溶媒残留量が25重量%よりも小さくなってからの拡幅には、搬送方向Xの分子配向を緩和する効果はほとんどない。湿潤フィルム54の乾燥により固化が進むためである。
【0068】
また、第3位置P3から第5位置P5における拡幅率は、5%より小さいと幅方向Y1,Y2における分子の配向を伸ばすという効果はほとんどない。一方、拡幅率が30%よりも大きいと、溶媒残留量の大きさによっては湿潤フィルム54が保持対象ラインKL等で裂けてしまうこともある。従って、湿潤フィルム54のY1,Y2方向には、拡幅率が30%に対応する範囲でしか伸ばせず、Y1,Y2方向の配向も拡幅率が30%に対応する値以上に大きくすることはできない。
【0069】
溶媒残留量が320重量%であるときにドラム75からの剥ぎ取りを実施した場合には、第1テンタ55の内部の第3位置P3から第5位置P5においては、湿潤フィルム54の溶媒残留量が25(重量%)以上320(重量%)以下の範囲である。そして第1テンタ55においては、少なくとも第3位置P3から第5位置P5までのエリアにつき、湿潤フィルム54の搬送路の雰囲気(気体)の温度を70(℃)以上115(℃)以下に設定して、上述の通り、湿潤フィルム54の延伸を行う。また、第1テンタ55の内部の気体の温度は、75(℃)以上110(℃)以下であることがより好ましく、80(℃)以上105(℃)以下であることが更に好ましい。
【0070】
第3位置P3から第5位置P5までのエリアの雰囲気(気体)についての上記の温度範囲は、このエリアにおける平均温度である。従って、このエリアに含まれる一部のエリア70℃よりも低い温度となっていたり、115℃よりも高い温度となっていてもよい。
【0071】
第1テンタ55の内部の気体の平均温度が70(℃)より小さいと、湿潤フィルム54を幅方向Y1,Y2に延伸しても、搬送方向の分子配向を緩和する効果が生じない。そのため、Reに対してRthが上昇してしまう。第1テンタ55の内部の気体の平均温度が115(℃)より大きいと、膜が発泡する可能性がある。
【0072】
第5位置P5から第4位置P4までにおいては、中間フィルム56の溶媒残留量は、10重量%以上25重量%未満である。第2工程では、前述の通り、張力を加えることにより、第2幅L2を第3幅L3に大きくする第2延伸工程を実施することが好ましい。
【0073】
第5位置P5から第4位置P4における拡幅率は、0%以上20%以下とする。つまり、第2延伸工程を必ずしも実施する必要はなく、拡幅率が0(ゼロ)という幅保持であってもよいが、拡幅率が0よりも大きい第2延伸工程を実施することがより好ましい。第2延伸工程の拡幅率は、好ましくは1%以上15%以下であり、更に、好ましくは2%以上10%以下である。拡幅率を0%よりも小さくする、すなわち、縮幅すると、幅方向の分子配向を低減させてしまう場合がある。また、拡幅率を20%以上にすると、中間フィルム56は破れてしまう可能性がある。ここで、第1テンタにおける中間フィルム56の拡幅率は{(L3−L2)/L2}×100で求める値である。
【0074】
第5位置P5から第4位置P4の間では、第1テンタ55の内部の気体の平均温度を40(℃)以上90(℃)以下に設定する。第1テンタ55の内部の気体の平均温度は、45(℃)以上85(℃)以下であることがより好ましく、50(℃)以上80(℃)以下であることが更に好ましい。
【0075】
第5位置P5から第4位置P4までのエリアの雰囲気(気体)についての上記の温度範囲は、このエリアにおける平均温度である。したがって、このエリアに含まれる一部のエリアが40℃よりも低い温度となっていたり、90℃よりも高い温度となっていてもよい。
【0076】
第5位置P5から第4位置P4の間における第1テンタ55の内部の気体の平均温度を40(℃)より小さくすると、フィルム52におけるヘイズ値が大きくなるため、透明性を重視する光学フィルムとして使用できなくなる。更には、中間フィルム56が硬くなり裂けやすくなる。
【0077】
第5位置P5から第4位置P4の間における第1テンタ55の内部の気体の平均温度を90(℃)より大きくすると、中間フィルム56がY1,Y2方向に延伸して幅方向の分子配向を大きくしているにもかかわらず、結晶化により分子の側鎖が中間フィルム56の搬送方向Xに並んでしまう。従って、中間フィルム56から得られるフィルム52は、Reに対してRthの値が高いフィルムとなってしまう。
【0078】
ここで、ヘイズ値(単位;%)とは、透明なフィルムの内部又は表面の不明瞭なくもり様の外観の度合いのことで、数値はヘイズ値という。ヘイズの試験方法は、試験片の光線透過率を測定し、ヘイズ値Th=100×散乱光線透過率Td/全光線透過率Ttで表される。
【0079】
第2工程の後には、さらに幅保持工程を実施してもよい。この幅保持工程では、更に乾燥を進めることが好ましい。そして、この幅保持工程を実施するエリア、すなわちP4からP2までのエリアの気体の平均温度を第2工程と同じ条件としてもよい。
【0080】
第1テンタ55を経た中間フィルム56は、搬送により中間フィルム56に搬送方向Xの張力がかかってしまい、搬送方向Xにおける分子配向がすすむことを防ぐことは難しい。しかしながら、第1テンタ55での第1延伸工程により、さらには第2延伸工程によっても、湿潤フィルム54に幅方向Y1,Y2に分子配向を持たせることができるので、中間フィルム56に搬送方向Xの分子配向と幅方向Y1,Y2の分子配向との間に一定の均衡をもたすことができる。なお、図4において、第1テンタ55における第1工程と第2工程とを連続させて行っているが、第1工程と第2工程との間に延伸を行わない非延伸エリアを設けてもよい。
【0081】
次に、第1テンタ55で溶媒残留量が10重量%に達した中間フィルム56は、第2テンタ57に送られる。この第2テンタ57に送られる中間フィルム56の溶媒残留量が0(ゼロ)であってもよいし、第2テンタ57では、この中間フィルム56を、所定の温度範囲とされた雰囲気(気体)の中で幅方向に延伸しながら、乾燥してもよい。
【0082】
第2テンタ57では、所定の温度範囲となるように温度調整された雰囲気(気体)の中で中間フィルム56を幅方向に延伸する第3工程を実施する。この第3工程は、中間フィルム56を延伸することにより拡幅する第3延伸工程を含むことが好ましいが、幅保持、縮幅工程を含んでもよい。図5は、第2テンタ57における中間フィルム56の拡幅及び収縮状態を示す説明図である。矢線Xは、中間フィルム56の搬送方向である。第2テンタ57において、保持手段による中間フィルム56の保持を開始する位置を第11位置P11、保持を解除する位置を第12位置P12とする。なお、第2テンタ57の入口は第1位置P11よりも上流側、出口は第12位置P12よりも下流側にあるが、図5においても図示を略す。
【0083】
第2テンタ57は、湿潤フィルム54より溶媒残留量が低い中間フィルム56を搬送するため、第1テンタ55と異なり、ピン型の保持手段でなく、中間フィルム56の両端部分を把持するクリップ型の保持手段を有するテンタ装置を用いることが好ましい。
【0084】
中間フィルム56は、湿潤フィルム54より固化しているため、第2テンタ57では、中間フィルム56に熱を加えることにより、中間フィルム56を軟化させる。そして、中間フィルム56を軟化させながら、あるいは軟化した中間フィルム56につき、第3延伸工程を実施する。
【0085】
第2テンタ57内において、溶媒残留量が10重量%に既に達している中間フィルム56を、張力を加えることにより、第2テンタ57に入った時に幅L11(以後、「第11幅」と称する)であった中間フィルム56の幅をL12(以後、「第12幅」と称する)に大きくする。
【0086】
第11幅L11を第12幅L12に拡幅し始める位置を第13位置P13、第13位置P13からの拡幅を終える位置を第14位置P14とする。
【0087】
第13位置P13から第14位置P14までの拡幅率は、10%以上60%以下とする。好ましくは15%以上55%以下であり、更に、好ましくは20%以上50%以下である。拡幅率を10%以下にすると、幅方向に分子配向を伸ばすという効果はほとんど生じない。また、拡幅率を60%以上にすると、中間フィルム56は破れてしまう可能性があり、ヘイズ値も上昇する可能性がある。ここで、第2テンタにおける中間フィルム56の拡幅率は{(L12−L11)/L11}×100で求める値である。
【0088】
更に、第13位置P13から第14位置P14においては、第2テンタ57の内部の気体の温度を160(℃)以上195(℃)以下に設定する。更に好ましくは、第2テンタ57の内部の気体の温度は、165(℃)以上190(℃)以下であり、170(℃)以上185(℃)以下である。
【0089】
第13位置P13から第14位置P14における中間フィルム56の周りの気体の温度を160(℃)より小さくして、中間フィルム56を延伸すると、中間フィルム56におけるヘイズ値が大きくなる。温度が小さいと中間フィルム56の軟化が不十分なため、延伸による応力が大きくなり、分子と分子間の間が広がるからである。このため、透明性を重視する光学フィルムとして使用できなくなる。更には、中間フィルム56が裂けやすくなる。
【0090】
第13位置P13から第14位置P14における中間フィルム56の周りの気体の設定温度を195(℃)より大きくすると、中間フィルム56のY1,Y2方向に延伸して、幅方向の分子配向を高めているにもかかわらず、結晶化により分子の側鎖が中間フィルム56の搬送方向Xに並んでしまう。そのため、中間フィルム56は、Reに対してRthの値が高くなってしまう。
【0091】
第12幅L12とした中間フィルム56の幅を小さくする場合には、小さくした後の幅をL13(以下、「第13幅」と称する)とする。第12幅L12を第13幅L13に拡幅し始める位置を第15位置P15、第15位置P15からの拡幅を終える位置を第16位置P16とする。
【0092】
第12幅L12を保持する場合も、第12幅L12から第13幅L13に幅を小さくする場合もフィルム52には、第15位置P15と第16位置P16との間では、幅方向Y1,Y2に張力が付与される。小さくする場合には、保持手段で保持しつつ、自然に収縮する力を利用して、これに張力を加えることにより幅を制御する。なお、図5において符号KMは、保持手段で保持される中間フィルム56の保持対象部のうち、中間フィルム56の幅方向における最も中央部側の位置を表し、第11幅〜第13幅L11〜L13はいずれも両側の保持対象ラインKM間の距離である。
【0093】
縮幅率は、10%以下とすることが好ましい。本発明では、縮幅を行わずに第12幅L12を保持してもよいので、縮幅率は0%以上10%以下ということになる。拡幅の後に縮幅を行うことにより、分子の配向状態を、熱収縮寸法安定性の観点からより適切な状態にすることができる。縮幅率が10%よりも大きいと、先に実施した拡幅の効果を下げてしまうことがある。ここで、第2テンタにおける中間フィルム56の縮幅率は(L12−L13)/L13}×100で求める値である。
【0094】
湿潤フィルム54及び中間フィルム56を溶媒残留量によって拡幅する温度を調整することにより、結晶化により分子の側鎖が搬送方向Xに並び、幅方向のレタデーションが低下してしまうことを防ぐ。幅方向の分子配向を大きくすることができるため、Reを幅広く調整することができる。また、延伸によりヘイズ値が高くなることを防ぐことができる。
【0095】
図1に示すように、フィルム52は、第2テンタ57で所定の溶媒残留量まで乾燥された後、その両側端部が耳切装置58により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ85に送られる。クラッシャ85により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0096】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム52は、乾燥室60に送られて、さらに乾燥される。乾燥室60では、フィルム52はローラ59に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室60の内部温度は、特に限定されるものではないが、50℃以上160℃以下とすることが好ましい。なお、乾燥室60は、送風温度を変えるために、フィルム52の搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置58と乾燥室60との間に予備乾燥室(図示せず)を設けてフィルム52を予備乾燥すると、乾燥室60でフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室60でのフィルム52の形状変化を抑制することができる。乾燥室60で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置86により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室60の内部に乾燥風として再度送られる。
【0097】
フィルム52は、冷却室61で略室温にまで冷却される。なお、乾燥室60と冷却室61との間に調湿室を設ける場合には、調湿室では所望の湿度及び温度に調整された空気をフィルム52に吹き付けることが好ましい。これにより、フィルム52のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良を抑制することができる。
【0098】
除電装置62により、フィルム52が搬送されている間の帯電圧を所定の値とする。除電後の帯電圧は−3kV〜+3kVとされることが好ましい。さらに、フィルム52は、ナーリング付与ローラ対63によりナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
【0099】
フィルム52は、巻取室64の巻取ロール87で巻き取られて、フィルム原反ができる。プレスローラ88で所望のテンションをフィルム52に付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましく、これによりフィルムロールにおける過度な巻き締めを防止することができる。巻き取られるフィルムの長さは1400〜3400mm以下であることが好ましい。しかし、3400mmよりも幅が大きい場合でも本発明は適用される。また、本発明は、厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0100】
次に、溶液製膜設備27によりフィルム52を製造する方法の第2実施形態を以下に説明する。第2実施形態において、第1実施形態と同じ部材については同じ符号を付する。また、同一の部材の説明についても省略する。
【0101】
図6は、本発明の第2実施形態のオフライン延伸設備92を示す概略図である。第2実施形態のオフライン延伸設備92は、第1実施形態において、第2テンタ57がなく中間フィルム56が第1テンタ55を出てから、乾燥室60と冷却室61とを経由して、巻取室64へ送られ、中間フィルム56が巻き取られる(図2参照)場合において、巻き取られた中間フィルム56の中間フィルム原反93を第2テンタ111で幅方向に延伸するものである。すなわち、中間フィルム原反93を、溶液製膜設備27(図2参照)で、第1テンタ55を出た中間フィルム56を、第2テンタ57を経ることなく乾燥室60へ案内して、乾燥し、冷却室61、巻取室64へと順次送り、この巻取室64で巻き取ることによって得られるものである。図6のオフライン延伸設備92で図2同じ装置、部材については、同じ符号を付し、説明を略す。
【0102】
オフライン延伸設備92は、フィルム送出室94と、第2テンタ111と、応力緩和室120と、冷却室61と、フィルム巻取室64とを順に有し、中間フィルム56を第2テンタ111により熱を加えて延伸する。応力緩和室120では、延伸によってフィルム52の内部に生じた応力歪みを緩和するためにフィルム52を加熱する。
【0103】
フィルム送出室94は、中間フィルム原反93がセットされるフィルム送出機96を備える。フィルム送出機96には、取付軸(図示せず)が設けられている。この取付軸に中間フィルム原反93がセットされる。中間フィルム56の送出が行われる。この中間フィルム原反93の中間フィルム56は、第1テンタ55(図2参照)で設定された特定のReとRthとを有している。また、様々な特定のReとRthとを有する複数の中間フィルム原反93を連続的に第2テンタ57に送出するために、複数のフィルム送出機96を設けてもよい。
【0104】
第1実施形態では、第1テンタ55による延伸と第2テンタ57とによる延伸を連続して実施するのに対し、第2実施形態では、既に第1テンタによる延伸が実施された中間フィルム56を中間フィルム原反93から引き出して第2テンタ111で延伸する。そこで、搬送方向の分子配向度と幅方向との分子配向度との比率が互いに異なる中間フィルム56を、このオフライン延伸設備92の第2テンタ111で所定条件で延伸することにより、中間フィルム56の各々に対応する最終的なReとRthとに調整することができる。例えば、所定のReとRthとを有する中間フィルムの原反を保管しておき、必要なときに、第2テンタ111で熱延伸して、適宜に任意の必要なReとRthとの組み合わせを有するフィルムを作成することができる。そして、フィルム送出機96を複数備えた場合には、中間フィルム56を送り出すフィルム送出機96の切り替えと、第2テンタ111での延伸条件の変更とを実施することにより、多種類の中間フィルム56につき、延伸を次々と実施して、ReとRthとが互いに異なる多種類のフィルムを効率良く製造することができる。
【0105】
以上の第1,第2実施形態で作製されたフィルムは、液晶ディスプレイの光学フィルムに好適であり、中でも、偏光板位相差膜として用いるには、より好適である。
【0106】
以下、本発明の具体的な実施例について述べるが、本発明はこれに限定されるものではい。
【実施例1】
【0107】
下記の処方のドープ21を図1のドープ製造設備10によりつくった。
セルローストリアセテート(置換度2.94、粘度平均重合度305.6%、ジクロロメタン溶液6重量%の粘度350mPa・s) 100重量部
ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 390重量部
メタノール(溶媒の第2成分) 60重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエ
チルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
N−N−ジ−m−トルイル−N−P−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン(レタデーション上昇剤) 8重量部
【0108】
上記ドープを用いて、図2の溶液製膜設備27により複数のフィルム52を製造した。フィルム52の厚みを45μmとした。フィルム52を搬送する速度は、60[m/分]とした。実施例1では、本発明を満たすフィルムを作製した。湿潤フィルム54の溶媒残留量が25重量%に達するまでの第1テンタ55における温度を100℃とした。湿潤フィルム54の溶媒残留量が25重量%に達するまでの第1テンタ55における延伸の拡幅率を10%とした。中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%以上25重量%未満のときの第1テンタ55で設定される延伸温度を50℃とした。ここで、延伸温度とは、延伸が行われるときのテンタ内の気体の平均温度とする。中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%以上25重量%未満のときの第1テンタ55の延伸の拡幅率を5%とした。中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57の延伸温度を180℃とした。中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57の延伸の拡幅率を40%とした。以下の実施例1〜12では、本発明の製造条件を満たして、比較例1〜7では、本発明の製造条件を満たさずに、フィルム52を作製した。
【実施例2】
【0109】
実施例2では、湿潤フィルム54の溶媒残留量が25重量%に達するまでの第1テンタ55における延伸温度を70℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例3】
【0110】
実施例3では、湿潤フィルム54の溶媒残留量が25重量%に達するまでの第1テンタ55における延伸温度を115℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例4】
【0111】
実施例4では、中間フィルム56の溶媒残留量が25重量%未満10重量%以上のときの第1テンタ55における延伸温度を40℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例5】
【0112】
実施例5では、中間フィルム56の溶媒残留量が25重量%未満10重量%以上のときの第1テンタ55における延伸温度を90℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例6】
【0113】
実施例6では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%以上25重量%未満のときの第1テンタの延伸の拡幅率を0%とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例7】
【0114】
実施例7では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57における延伸温度を160℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例8】
【0115】
実施例8では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57における延伸温度を195℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例9】
【0116】
実施例9では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57の延伸の拡幅率を10%とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例10】
【0117】
実施例10では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57の延伸の拡幅率を60%とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例11】
【0118】
実施例11では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57の延伸の拡幅率を9%とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【実施例12】
【0119】
実施例12では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57の延伸の拡幅率を65%とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0120】
[比較例1]
比較例1では、湿潤フィルム54の溶媒残留量が25重量%に達するまでの第1テンタ55における延伸温度を60℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0121】
[比較例2]
比較例2では、湿潤フィルム54の溶媒残留量が25重量%に達するまでの第1テンタ55における延伸温度を120℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。その結果、湿潤フィルム54が発泡してしまい、延伸をすることができず、破断してしまった。このため、次の工程を実施することができず、フィルム52を作製することができなかった。
【0122】
[比較例3]
比較例3では、湿潤フィルム54の溶媒残留量が25重量%に達するまでの第1テンタ55において、延伸を行わず、延伸の拡幅率を0%とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0123】
[比較例4]
比較例4では、中間フィルム56の溶媒残留量が25重量%未満10重量%以上のときの第1テンタ55における延伸温度を100℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0124】
[比較例5]
比較例5では、中間フィルム56の溶媒残留量が25重量%未満10重量%以上のときの第1テンタ55における延伸温度を30℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0125】
[比較例6]
比較例6では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57における延伸温度を150℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0126】
[比較例7]
比較例7では、中間フィルム56の溶媒残留量が10重量%未満のときの第2テンタ57における延伸温度を200℃とした以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0127】
実施例1〜12,比較例1〜7の条件及び結果を表1に示す。なお、Re値は、巻取室64で巻き取られたフィルム52の一部をサンプリングし、このサンプル片につき、Re値を調べた結果である。具体的には、25℃,60%RHでの値(単位:nm)である。また、Rth値は、25℃,60%RHでの値(単位:nm)である。Rth/Reの値を求め、表に示した。ヘイズ値(単位:%)は、25℃,60%RHでの試験片の光線透過率を測定し、(散乱光線透過率Td/全光線透過率Tt)×100の値とした。
【0128】
【表1】

【0129】
表1において、比較例2における、−は工程を実施することができず、延伸温度や拡幅率を設定できなかったことを示す。Re及びRth/Reとヘイズ値に基づき、次の基準でフィルムの評価を行った。
ヘイズ値が1.0より大きいか、あるいはRth/Reが3.0より大きいフィルムは、偏光板位相差膜として使用ができず、不良とし、×とした。また、便宜的に、比較例2において、工程を実施できなかった場合も、×とした。
ヘイズ値が1.0以下を満たし、かつ、Reが30nm以上、Rth/Reが3.0以下のフィルムは、偏光板位相差膜として、使用することができるため、良好なフィルムとし、○とした;
○のうち、とりわけ、ヘイズ値が0.7以下であり、かつ、Reが30nm以上であり、Rth/Reが2.5未満のフィルムは、偏光板位相差膜としては非常に優れており、より良好であるとし、◎とした。
【0130】
本発明を満たさない比較例1〜7について、比較例2においては、フィルムを得ることができなかった。比較例5,6では、Reの値は、30nm以上となっており、Rthの値も抑えられており、Rth/Reの値が3.0以下である。しかし、ヘイズ値が1.0より大きいため、良好なフィルムであるとはいえない。比較例1〜4,7では、Rth/Reの値が3.0を超えるため、良好なフィルムが得られなかった。
【0131】
一方、本発明を満たす実施例1〜12では、Reが30nm以上であり、かつReに対するRthの値、Rth/Reの値が3.0以下、ヘイズ値も1.0以下である。従って、本発明により、Reが30nm以上であり、Rth/Reが抑えられており、ヘイズ値が低いフィルムを得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】ドープ製造設備の概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態を実施する溶液製膜設備の概略図である。
【図3】第1テンタにおける湿潤フィルムの保持状態を示す概略図である。
【図4】第1テンタにおける湿潤フィルムの拡幅状態を示す説明図である。
【図5】第2テンタにおける中間フィルムの拡幅及び収縮状態を示す説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態を実施するオフライン延伸設備の概略図である。
【符号の説明】
【0133】
21 ドープ
54 湿潤フィルム
55 第1テンタ
56 中間フィルム
57 第2テンタ
75 ドラム
74 流延ダイ
76 流延膜
101 ピン
105 シフト機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートと溶媒とが含まれるドープを、走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が冷却により自己支持性を有した後に湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取る湿潤フィルム形成工程と、
平均温度が70(℃)以上115(℃)以下の範囲とされた気体の中で、溶媒残留量が25重量%に達するまで前記湿潤フィルムを乾燥し、この乾燥の間に、前記湿潤フィルムを幅方向に延伸して中間フィルムを得る第1工程と、
平均温度が40(℃)以上90(℃)以下の範囲とされた気体の中で、溶媒残留量が25重量%から10重量%になるように前記中間フィルムの乾燥をすすめる第2工程と、
前記第2工程を経て溶媒残留量が10重量%に達した後の前記中間フィルムを、160(℃)以上195(℃)以下に温度設定された気体の中で、幅方向に延伸する第3工程と、
を有することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】
第3工程における前記中間フィルムの拡幅率が10%以上60%以下であることを特徴とする請求項1記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記湿潤フィルムあるいは前記中間フィルムの両側縁部をピンにより保持するピンテンタにより前記第1工程及び前記第2工程を行うことを特徴とする請求項1または2記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記中間フィルムの両側縁部をクリップにより保持するクリップテンタにより第3工程を行うことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のフィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−773(P2010−773A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234920(P2008−234920)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】