説明

フィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルム

【課題】ポリエーテルイミド樹脂を用いて耐熱性や耐電圧性に優れる厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを高い厚さ精度で製造できるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエーテルイミド樹脂を含有する成形材料1を押出機10に投入してTダイス20先端のリップ部21からフィルムキャパシタ用フィルム50を直下に押出成形し、フィルムキャパシタ用フィルム50を圧着ロール31と冷却ロール33の間に挟持させて冷却し、冷却した厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルム50を巻取機40に巻き取る製造方法で、Tダイス20のリップ部21における溶融した成形材料1のせん断速度をγ〔/s〕、冷却ロール33の周速度をV〔m/s〕とした場合に、冷却ロール33の周速度Vと成形材料1のせん断速度γの比V/γ〔m〕を3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、厚さ精度、耐電圧性等に優れるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャパシタは、誘電体の種類により、フィルムキャパシタ、セラミックキャパシタ、アルミ電解キャパシタの3種類に区別することができる。これら3種類のキャパシタの中でも、フィルムキャパシタは、温度や周波数に対する特性変化が少なく、絶縁性が高く、誘電損失が小さい等の特性を有するので、他のキャパシタよりも優れているといえる(技術文献1参照)。
【0003】
このフィルムキャパシタのフィルムは、図示しないが、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE樹脂)、ポリイミド樹脂(PI樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、あるいはポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)等により誘電層として形成され、金属蒸着層が電極として形成されることで実用化されている。
【0004】
現在、実用化されているフィルムキャパシタ用フィルムは、PP樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、PEN樹脂の4種類から得られるフィルムであり、他の樹脂からなるフィルムは加工特性やコストに問題があるので、殆んど使用されなくなって来ている(技術文献1参照)。
【0005】
しかしながら、PP樹脂あるいはPET樹脂からなるフィルムキャパシタ用フィルムは、PP樹脂の使用温度が105℃以下であり、PET樹脂の使用温度が125℃以下なので、耐熱性に問題がある。したがって、例えば150℃以上の耐熱性が要求されるハイブリッド車のフィルムキャパシタ用フィルムに利用する場合には、(1)軽量化の要請を無視して大型の冷却装置を設置する方法、(2)スペース効率を無視して熱源のエンジンルームから遠く離れた運転席側等にフィルムキャパシタを設置する方法を採用せざるを得ず、軽量化やコストの点で新たな問題が生じる。
【0006】
また、PPS樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、使用温度が160℃以下であり、良好な耐熱性が得られるものの、絶縁破壊電圧が低く、耐電圧性に劣るため、使用範囲が限定されることになる。また、PEN樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、使用温度が160℃以下で、良好な耐熱性が得られるものの、誘電損失が大きく、誘電正接の温度依存性が大きいので、使用範囲が制約されることになる(技術文献1参照)。
【0007】
上記に鑑み、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)製のフィルムがフィルムキャパシタ用フィルムとして注目されている(特許文献1、2参照)。このポリエーテルイミド樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、ガラス転移点が200℃以上で耐熱性や耐電圧性に優れ、絶縁破壊電圧が高く、しかも、誘電正接の周波数依存性と温度依存性とが小さいので、フィルムキャパシタ用に最適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009‐152590号公報
【特許文献2】特開2007‐300126号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】狩野順史:「コンデンサ用フィルムの技術動向」コンバーテック,No.40,7月号,P82〜P88(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで近年、フィルムキャパシタ用フィルムは、フィルムキャパシタ自体の小型化や薄膜化の要請から10μm以下の厚さとされ、しかも、安定した耐電圧性や巻き形状の均一化の要請を満たすため、高い厚さ精度が要望されている。この要望を満足すべく、フィルムキャパシタ用フィルムは、その殆んどが溶融押出成形二軸延伸法により製造されている。
【0011】
しかし、溶融押出成形二軸延伸法は、10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムの製造には適するが、縦延伸機と横延伸機(テンター法)、あるいは同時二軸延伸機を使用しなければならないので、電力費等の加工費が嵩み、原料歩留が悪化するおそれがある。
これに対し、溶融押出後に延伸しない無延伸の溶融押出成形法は、電力費等の加工費を低減でき、高い原料歩留が期待できる反面、厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを高い厚さ精度で製造することができないという問題がある。
【0012】
本発明は上記に鑑みなされたもので、ポリエーテルイミド樹脂を用いて耐熱性や耐電圧性に優れる厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを高い厚さ精度で製造することのできるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明においては上記課題を解決するため、成形材料を押出機に投入してTダイス先端のリップ部からフィルムキャパシタ用フィルムを下方に押し出し、この押し出したフィルムキャパシタ用フィルムを圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、この冷却した厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを巻取機に巻き取る製造方法であって、
成形材料を少なくともポリエーテルイミド樹脂とし、Tダイスのリップ部における溶融した成形材料のせん断速度をγ〔/s〕、冷却ロールの周速度をV〔m/s〕とした場合に、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕を3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲とすることを特徴としている。
【0014】
なお、成形材料を、少なくともポリエーテルイミド樹脂100質量部にフッ素樹脂1〜30質量部を配合することにより調製することができる。
また、押出機とTダイスとの間に、フィルムキャパシタ用フィルムの厚さの4倍以下の開口を有するフィルタを介在することができる。
【0015】
また、Tダイスのリップ部のクリアランスを0.1〜1.0mmとし、冷却ロールの温度をポリエーテルイミド樹脂のガラス転移点−100℃〜+50℃の範囲とすることができる。
また、冷却ロールの周面形状を中心線の平均粗さで1〜10μmの範囲とすることが好ましい。
また、フィルムキャパシタ用フィルムの表面は、冷却ロールの周面形状の転写により微細な凹凸が形成されてその中心線の平均粗さが0.05〜0.50μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1又は2記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法によりフィルムキャパシタ用フィルムを製造することを特徴としている。
【0017】
ここで、特許請求の範囲における成形材料は、優れた耐熱性を得る観点から、好ましくはポリエーテルイミド樹脂にフッ素樹脂を配合することにより調製されるが、特に支障を来たさなければ、これらにシリカ等の各種フィラーや熱可塑性樹脂を適宜添加することができる。本発明には、無延伸の溶融押出Tダイ成形法が採用されるが、この方法で使用される押出機は、単軸タイプでも良いし、二軸タイプでも良い。また、本発明に係るフィルムキャパシタ用フィルムは、少なくともハイブリッド車、風力発電や太陽光発電のインバータ等に利用することができる。
【0018】
フィルムキャパシタ用フィルムに必要な厚さ精度は、フィルム厚さの実測値から求めた標準偏差が指標となる。フィルムの厚さが5μm以下の場合、標準偏差が概ね0.2以下になれば、フィルムキャパシタの巻き形状が均一化する。また、フィルムキャパシタ用フィルムに必要な耐電圧性は、フィルムキャパシタの性能保証の観点から最小絶縁破壊電圧が指標となる。
【0019】
但し、この最小絶縁破壊電圧はフィルムキャパシタ用フィルムの厚さの影響を受けるので、最小絶縁破壊電圧をEminとしたとき、このEminをフィルムキャパシタ用フィルムの厚さの平均値tavで除した単位厚さ当たりの最小絶縁破壊電圧が有効な指標となる。この最小絶縁破壊電圧の値が200V/μm以上あれば実用に適し、フィルムキャパシタの小型化の点でも有利になるといえる。
【0020】
本発明によれば、ガラス転移点が200℃以上のポリエーテルイミド樹脂を少なくとも成形材料に使用するので、例え150℃以上の温度でも使用可能な耐熱性を得ることができる。また、厚さ精度に優れるので、フィルムキャパシタの巻き形状が均一化するとともに、絶縁破壊電圧の安定性も得られる。また、フィルムキャパシタ用フィルムの単位厚さ当たりの最小絶縁破壊電圧が200V/μmを上回るので、薄いフィルムキャパシタ用フィルムに十分な耐電圧性を付与することができる。
【0021】
また、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕を3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲に調整するので、Tダイスのリップ部のエッジに対する成形材料の付着量が増大し、付着して固化した成形材料により、フィルムキャパシタ用フィルム表面にスジが発生し、フィルムキャパシタ用フィルムの厚さ精度が低下することが少ない。さらに、成形材料がリップ部のエッジよりも上流側の内面から剥がれ、フィルムキャパシタ用フィルムの厚さ精度が低下するおそれも少ない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ポリエーテルイミド樹脂を用いて耐熱性や耐電圧性に優れ、しかも、厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを高い厚さ精度で製造することができるという効果がある。
【0023】
また、Tダイスのリップ部のクリアランスを0.1〜1.0mmとすれば、成形材料に含まれる異物、又は押出機やTダイス内で発生する成形材料がクリアランスに挟まり、フィルムキャパシタ用フィルムにスジが生じるおそれを排除することができる。また、冷却工程でフィルムキャパシタ用フィルムに冷却ムラが発生する事態を未然に防止することができる。
【0024】
また、冷却ロールの温度をポリエーテルイミド樹脂のガラス転移点−100℃〜+50℃の範囲とすれば、成形材料のポリエーテルイミド樹脂が急激に冷却されてフィルムキャパシタ用フィルムにヒケを発生させ、冷却ロールからフィルムキャパシタ用フィルムが均一に剥がれずに厚さ精度が低下するのを防ぐことができる。さらに、冷却ロールにフィルムキャパシタ用フィルムが融着して破断する事態を防ぐことも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムの実施形態を模式的に示す全体説明図である。
【図2】本発明に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法及びフィルムキャパシタ用フィルムの実施形態におけるTダイスと引取機とを模式的に示す部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態におけるフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法は、図1や図2に示すように、成形材料1を押出機10に投入してTダイス20先端の先細りのリップ部21からフィルムキャパシタ用フィルム50を直下に押出成形し、この押出成形したフィルムキャパシタ用フィルム50を引取機30に挟持させて急激に、かつ瞬時に引き落としながら冷却し、この冷却した厚さ10μm以下の薄いフィルムキャパシタ用フィルム50を巻取機40に巻き取る製法である。
【0027】
成形材料1は、少なくともポリエーテルイミド樹脂からなり、本発明の特性を損なわない範囲において、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱向上剤、充填剤等が選択的に添加される。ポリエーテルイミド樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば化学式1、2で表される繰り返し単位を有する樹脂があげられる。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
ポリエーテルイミド樹脂の製造方法としては、例えば特公昭57−9372号、あるいは特表昭59−500867号公報記載の製法があげられる。具体的なポリエーテルイミド樹脂としては、例えばガラス転移点が211℃のUltem1000−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名)、ガラス転移点が223℃のUltem1010−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名)、ガラス転移点が235℃のUltem CRS5001−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名)等があげられる。
【0031】
ポリエーテルイミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいは変性体を使用することができる。例えば、ポリエーテルイミドサルフォン共重合体であるガラス転移点が252℃のUltem XH6050−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名)が使用可能である。ポリエーテルイミド樹脂は、単独又は2種以上をアロイ化あるいはブレンドして使用しても良い。
【0032】
成形材料1には、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリイミド樹脂(PI樹脂)やポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)等の熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、ポリエーテルケトン樹脂(PK樹脂)等のポリアリーレンケトン樹脂、ポリサルホン樹脂(PSU樹脂)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES樹脂)、あるいはポリフェニレンサルホン樹脂(PPSU樹脂)等の芳香族ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂(PPS樹脂)、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂等のポリアリーレンサルフィド系樹脂、液晶ポリマー(LCP)等の公知の熱可塑性樹脂が適宜添加される。液晶ポリマーは、I型、II型、III型のいずれのタイプをも使用可能である。
【0033】
成形材料1は、フィルムキャパシタ用フィルム50に摺動性を付与するため、好ましくは特定の溶融粘度を有するフッ素樹脂が攪拌混合され、押出混練機で混練され、乾燥処理された後、押出機10に投入される。フッ素樹脂は、温度360℃、荷重50kgfの条件下、直径1.0mm、長さ10mmのダイスを用いてフローテスターで測定した溶融粘度が120.000ポイズ以下の分子構造の主鎖にフッ素原子を有する化合物である。
【0034】
フッ素樹脂の溶融粘度が120.000ポイズ以下なのは、120.000ポイズを越えると、フッ素樹脂の流動性が著しく低下してフィルムキャパシタ用フィルム50の表面に微小な突起が生じ、フィルムキャパシタ用フィルム50の絶縁破壊電圧が低下して耐電圧性に問題が生じるからである。さらに、高溶融粘度で流動性が非常に小さいので、ゲル化し、ゲル部分からフィルムキャパシタ用フィルム50に孔が開いたり、フッ素樹脂の分散不良によりフィルムキャパシタ用フィルム50の機械的性質が低下し、フィルムキャパシタ用フィルム50の製造中に破断しやすくなるため、薄いフィルムキャパシタ用フィルム50を製造することが困難になる。
【0035】
フッ素樹脂は、通常、融点未満の温度では固体状が好ましい。このフッ素樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、融点:325〜330℃、連続使用温度:260℃、以下ではPTFE樹脂と略称する)、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(四フッ化エチレン‐パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂、融点:300〜315℃、連続使用温度:260℃、以下ではPFA樹脂と略称する)、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピル共重合体(四フッ化エチレン‐六フッ化プロピル共重合体樹脂、融点:270℃、連続使用温度:200℃、以下ではFEP樹脂と略称する)、テトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体(四フッ化エチレン‐エチレン共重合体樹脂、融点:260〜270℃、連続使用温度:150℃、以下ではETFE樹脂と略称する)、ポリビニリデンフルオライド(フッ化ビニリデン樹脂、融点:170〜175℃、連続使用温度:150℃、以下ではPVDF樹脂と略称する)、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ化塩化エチレン樹脂、融点:210〜215℃、連続使用温度:120℃、以下ではPCTFE樹脂と略称する)等があげられる。
【0036】
これらのフッ素樹脂の中では、連続使用温度が200℃以上で耐熱性に優れ、しかも、取り扱いとコストの観点から、PFA樹脂とFEP樹脂の使用が好ましい。PFA樹脂とFEP樹脂とは、単独で使用しても良いし、ブレンドして使用することもできる。
【0037】
なお、熱可塑性樹脂成形物や熱硬化性樹脂成形物に摺動性を付与する場合には、一般的に固体材料中で最小の摩擦係数を有するPTFE樹脂を添加するのが効果的である。但し、PTFE樹脂は、連続使用温度が260℃で耐熱性に優れるものの、溶融粘度が非常に高いので、溶融流動性が殆んど認められない。
【0038】
したがって、ポリエーテルイミド樹脂にPTFE樹脂を添加して組成物を調製し、この組成物を使用してフィルムキャパシタ用フィルム50を押出成形する場合には、フィルムキャパシタ用フィルム50中でPTFE樹脂が微小な粒子として存在するので、無機添加物を添加した場合と同様、フィルムキャパシタ用フィルム50に微小な突起が形成され、フィルムキャパシタ用フィルム50の絶縁破壊電圧が低下して耐電圧特性に問題が生じることとなる。さらに、高溶融粘度で流動性が非常に小さいので、ゲル化し、このゲル部分からフィルムキャパシタ用フィルム50に孔が開いたり、フッ素樹脂の分散不良によりフィルムキャパシタ用フィルム50の機械的性質が低下し、フィルムキャパシタ用フィルム50の製造中に破断しやすくなるため、薄いフィルムキャパシタ用フィルム50を製造することが実に困難になる。
【0039】
また、フッ素樹脂が液状の場合、押出成形後のフィルムキャパシタ用フィルム50からブリードし、金属蒸着層の蒸着不良を招いたり、蒸着後に金属蒸着層が剥がれてキャパシタ内を汚染するおそれがある。したがって、液状のフッ素樹脂を添加するのは好ましくない。
【0040】
成形材料1のポリエーテルイミド樹脂にフッ素樹脂を添加する場合には、ポリエーテルイミド樹脂100質量部に対してフッ素樹脂1.0〜30.0質量部添加することが好ましい。これは、フッ素樹脂が1.0質量部未満の場合には、フィルムキャパシタ用フィルム50に摺動性を十分に付与することができないからである。
【0041】
これに対し、フッ素樹脂が30.0質量部を越える場合には、フィルムキャパシタ用フィルム50の摺動性改善効果に変化がなく、しかも、誘電正接の周波数依存性が大きくなるため、フィルムキャパシタ用フィルム50としての適性低下を招くからである。さらに、フィルムキャパシタ用フィルム50の引張強度が低下し、フィルムキャパシタ用フィルム50の製造中に破断しやすくなるため、フィルムキャパシタ用フィルム50を薄く製造したり、金属蒸着層の蒸着に悪影響を及ぼすおそれがあるという理由に基づく。
【0042】
成形材料1のポリエーテルイミド樹脂、あるいはポリエーテルイミド樹脂と他の樹脂との組成物の含水率は、熱風乾燥機により、押出成形前に5000ppm以下、好ましくは2000ppm以下に調整される。これは、成形材料1の含水率が5000ppmを越える場合には、フィルムキャパシタ用フィルム50が発泡するおそれがあるという理由に基づく。
【0043】
押出機10は、図1に示すように、例えば加熱される横長のシリンダ11に螺旋溝を備えたスクリュが回転可能に内蔵軸支され、このスクリュが駆動装置の駆動で回転して投入された成形材料1を溶融混練し、先端部側のTダイス20に供給するよう機能する。シリンダ11の末端部上方には、成形材料1用の投入ホッパ12が連通して装着され、この投入ホッパ12の少なくともシリンダ11に連通する下部には、成形材料1の酸化劣化防止の観点から、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガスを連続的に供給する不活性ガス供給管13が接続される。
【0044】
シリンダ11の開口した先端部には、加熱される接続管14が接続され、この接続管14には、ろ過用のフィルタ15が嵌着されるとともに、このフィルタ15の下流に位置して成形材料1を一定速度で押し出すギアポンプ16が装着される。
【0045】
フィルタ15は、例えば多数の孔を同心円に備えた円板、多数の孔を有する焼結金属、あるいは金網製のメッシュ等からなり、フィルムキャパシタ用フィルム50の厚さの4倍以下、好ましくは3倍以下、より好ましくは2.9〜3.8倍以下の開口を複数有しており、押出機10とギアポンプ16との間に介在される。このフィルタ15の円板やメッシュ等は、必要に応じ複数使用される。このようなフィルタ15は、接続管14を流通する成形材料1を高分散させたり、溶融した成形材料1中の異物やゲル状物等を除去したり、あるいはシリンダ11内の背圧を向上させ、成形材料1の混練効果を増大させる。
【0046】
押出機10の温度は、好ましくはシリンダ11の先端部における成形材料1の溶融樹脂のガラス転移点+50℃〜+200℃になるよう調整され、おおよそ300〜400℃の範囲に設定される。
【0047】
Tダイス20は、接続管14の下方に屈曲した先端部に接続され、押出機10のギアポンプ16から供給されてきた成形材料1を幅方向に分流し、この成形材料1をリップ部21の細長いクリアランス22から連続的に押し出してフィルムキャパシタ用フィルム50を押出成形するよう機能する。このTダイス20の温度は、好ましくは成形材料1のTダイス20流入時の溶融温度に等しくなるよう調整される。
【0048】
引取機30は、Tダイス20から下方に押し出されたフィルムキャパシタ用フィルム50を絞りながら挟持する回転可能な縮径の圧着ロール31と金属製で拡径の冷却ロール33とを対向させて備え、この冷却ロール33の下流には、フィルムキャパシタ用フィルム50を挟持冷却しつつカールを調整する上下一対の搬送ロール35が回転可能に軸支されており、この一対の搬送ロール35の下流に、フィルムキャパシタ用フィルム50の厚さを測定する厚さ測定器36が配設される。
【0049】
圧着ロール31の周面には、フィルムキャパシタ用フィルム50と冷却ロール33との密着性を向上させる弾性の密着層32が密着される。この密着層32は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムにより成形されるが、耐熱性の観点からシリコーンゴムやフッ素ゴムが最適である。これら密着層32の材料には、シリカやアルミナ等からなる無機化合物が適宜添加される。
【0050】
冷却ロール33は、周面が所定の粗さで形成され、周面に微細な凹凸34が選択的に形成されており、ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移点−100℃〜+50℃の温度範囲で使用される。この冷却ロール33の周面形状は、中心線の平均粗さで1〜10μm、好ましくは2〜7μm、より好ましくは2〜5μmが最適である。
【0051】
これは、冷却ロール33の周面形状の中心線の平均粗さが1μm未満の場合には、フィルムキャパシタ用フィルム50の表面に微細な凹凸34を形成することが困難になるからである。これに対し、中心線の平均粗さが10μmを越える場合には、冷却ロール33にフィルムキャパシタ用フィルム50が融着して破断してしまうからである。
【0052】
冷却ロール33の周面には、キャパシタ組立時のフィルムキャパシタ用フィルム50のブロッキングを防止するため、凹凸34が選択的に形成される。具体的には、冷却ロール33の周面に微細な凹凸34を予め配設し、この冷却ロール33にフィルムキャパシタ用フィルム50を圧着ロール31で圧着する際、フィルムキャパシタ用フィルム50の表面に凹凸34を転写すれば、フィルムキャパシタ用フィルム50のブロッキングを防止することができる。
【0053】
フィルムキャパシタ用フィルム50の表面に微細な凹凸34が転写される場合、フィルムキャパシタ用フィルム50の表面の微細な凹凸34は、中心線の平均粗さで0.05〜0.50μm、好ましくは0.10〜0.40μm、より好ましくは0.15〜0.35μmが良い。これは、フィルムキャパシタ用フィルム50の表面の凹凸34が0.05μm未満の場合には、フィルムキャパシタ用フィルム50のアルミニウム蒸着工程で蒸着性が低下したり、フィルムキャパシタ用フィルム50の摺動性低下を招くおそれがあるからである。
【0054】
冷却ロール33がポリエーテルイミド樹脂のガラス転移点−100℃〜+50℃の温度範囲なのは、−100℃未満の場合には、ポリエーテルイミド樹脂が急激に冷却されてフィルムキャパシタ用フィルム50にヒケを発生させ、冷却ロール33の周面からフィルムキャパシタ用フィルム50が不均一に剥がれて厚さ精度が低下するという理由に基づく。逆に、50℃を超える場合には、冷却ロール33の周面にフィルムキャパシタ用フィルム50が融着し、破断するという理由に基づく。
【0055】
巻取機40は、引取機30から供給されてきたフィルムキャパシタ用フィルム50を巻架する複数のロール41を所定の間隔で回転可能に備え、この複数のロール41の下流に、フィルムキャパシタ用フィルム50を順次巻き取る巻取管42が回転可能に軸支される。この巻取機40には、巻取管42に巻き取られるフィルムキャパシタ用フィルム50の両側部を裁断するスリット刃が適宜設けられる。
【0056】
ところで、冷却ロール33と成形材料1のせん断速度とは、厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルム50を高い厚さ精度で製造する観点から、Tダイス20のリップ部21における溶融した成形材料1のせん断速度をγ〔/s〕、冷却ロール33の周速度をV〔m/s〕とした場合に、冷却ロール33の周速度Vと成形材料1のせん断速度γとの比V/γ〔m〕が3.0×10−2〜90×10−2〔m〕、好ましくは4.0×10−2〜85×10−2〔m〕、より好ましくは5.0×10−2〜80×10−2〔m〕の範囲であるのが良い。
【0057】
これは、V/γ〔m〕が3.0×10−2〔m〕未満の場合には、リップ部21のクリアランス22が狭く、せん断速度が速いので、リップ部21のバラス効果で成形材料1の膨らみが大きくなるからである。また、冷却ロール33の周速度が相対的に遅いので、リップ部21のエッジへの成形材料1の付着量が増大し、付着して固化した成形材料1によりフィルムキャパシタ用フィルム50の表面にスジが生じ、厚さ精度が低下する上、フィルムキャパシタ用フィルム50の巻取時に皺が発生するからである。
【0058】
これに対し、V/γ〔m〕が90×10−2〔m〕を越える場合には、成形材料1のせん断速度が遅く、冷却ロール33の周速度が相対的に速いので、成形材料1の急激な引き落としにより、成形材料1がリップ部21のエッジよりも上流側の内部流面から剥がれ、フィルムキャパシタ用フィルム50の厚さ精度が低下するという理由に基づく。
【0059】
Tダイス20のリップ部21における溶融した成形材料1のせん断速度γ〔/s〕は、図2に示すように、成形材料1の押出量〔kg/h〕、成形材料1の密度〔g/cm〕から算出される流量Q〔cm/s〕、Tダイス20のダイ面長W〔mm〕、Tダイス20のリップ部21のクリアランス22のt〔mm〕から、
γ=(6Q)/(Wt
で求められる。リップ部21のクリアランス22のtは、押出機10の稼動状態では実測不可能であるから、Tダイス20の組立時、あるいは押出成形の開始前にスキミゲージやマイクロスコープにより計測される。
【0060】
厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルム50を高精度で製造するため、リップ部21のクリアランス22のtは、0.1〜1.0mmの範囲、好ましくは0.1〜0.8mm、より好ましくは0.1〜0.5mmが良い。これは、リップ部21のクリアランス22のtが0.1mm未満の場合には、成形材料1に含まれる異物、又は押出機10やTダイス20内で発生する成形材料1のヤケがクリアランス22に挟まり、フィルムキャパシタ用フィルム50にスジが生じるという理由に基づく。
【0061】
これに対し、リップ部21のクリアランス22のtが1.0mmを越える場合には、押し出される成形材料1が厚くなり、熱容量が増大するため、引取機30内での冷却工程で冷却ムラが発生するからである。
【0062】
フィルムキャパシタ用フィルム50は、0.5〜10.0μm、好ましくは1.0〜7.0μm、より好ましくは1.5〜5.0μmの厚さに成形される。これは、フィルムキャパシタ用フィルム50の厚さが0.5μm未満の場合には、フィルムキャパシタ用フィルム50の引張強度が著しく低下し、フィルムキャパシタ用フィルム50の製造が困難になるからである。これに対し、フィルムキャパシタ用フィルム50の厚さが10.0μmを越える場合には、体積当たりの静電容量が小さくなるからである。
【0063】
上記において、フィルムキャパシタ用フィルム50を製造する場合には、先ず、計量したポリエーテルイミド樹脂とフッ素樹脂とを攪拌混合して混合物を調製し、この混合物を押出混練機で混練してペレット形の樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を乾燥処理して含水率を低下させることにより、成形材料1を調製する。
【0064】
こうして成形材料1を調製したら、不活性ガスを供給しつつ成形材料1を図1に示す押出機10の投入ホッパ12に投入し、加熱されたTダイス20からフィルムキャパシタ用フィルム50を連続的に押出成形し、このフィルムキャパシタ用フィルム50を引取機30の圧着ロール31と冷却ロール33との間に挟んで急激に、かつ瞬時に引き落としながら冷却固化することにより10μm以下、好ましくは1〜7μm程度の厚さとし、このフィルムキャパシタ用フィルム50を下流に位置する巻取機40の巻取管42に順次巻き取れば、フィルムキャパシタ用フィルム50を製造することができる。
【0065】
この際、フィルタ15の開口がフィルムキャパシタ用フィルム50の厚さの4倍以下の大きさに予め設定され、従来よりも異物を効果的に除去できるので、フィルムキャパシタ用フィルム50に摺動性を付与するフッ素樹脂が成形材料1中で適切に分散し、生産性が向上する。また、巻き取られたフィルムキャパシタ用フィルム50は、後に図示しない蒸着装置にセットされて金属蒸着層がスリット部を介しストライプ状にパターン形成される。
【0066】
上記によれば、冷却ロール33の周速度Vと成形材料1のせん断速度γとの比V/γ〔m〕を無関係とするのではなく、3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲に事前に調整して延伸を緩やかにするので、厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルム50を高い厚さ精度で製造することができる。また、電力費等の加工費を低減することができ、高い原料歩留が大いに期待できる。
【0067】
また、フィルムキャパシタ用フィルム50の成形材料1として、ガラス転移点が200℃以上のポリエーテルイミド樹脂、又はポリエーテルイミド樹脂と連続使用温度が200℃以上のフッ素樹脂とを混合して使用するので、150℃以上の環境でも使用可能な耐熱性を得ることができる。また、厚さ精度にも優れるので、フィルムキャパシタの巻き形状が均一化するとともに、絶縁破壊電圧の安定性をも得ることができる。さらに、フィルムキャパシタ用フィルム50の単位厚さ当たりの最小絶縁破壊電圧が200V/μmを上回り、フィルムキャパシタ用フィルム50に優れた耐電圧性を付与することが可能になる。
【0068】
なお、上記実施形態ではシリンダ11に連通する投入ホッパ12の下部に、不活性ガス供給管13を接続したが、投入ホッパ12の上下部に不活性ガス供給管13をそれぞれ接続してダイラインの発生や酸化等を確実に防止するようにしても良い。また、押出機10の接続管14に単一のフィルタ15を接続したが、複数のフィルタ15を装着しても良い。
【0069】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、タンブラーミキサーに10kgのポリエーテルイミド樹脂(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製:商品名 Ultem1010‐1000)100質量部と、フッ素樹脂として0.5kgのPFA樹脂(旭硝子社製:商品名 フルオンPFA P‐62XP)5質量部とを投入して30分間攪拌混合した。PFA樹脂の360℃における溶融粘度は11,100ポイズであった。
【0070】
ポリエーテルイミド樹脂とPFA樹脂とを混合して混合物を調製したら、この混合物を真空ポンプを備えたφ30mmの高速二軸押出成形機(池貝社製:商品名 PCM30 L/D=35)で溶融混練してダイスから棒形に押し出すとともに、水冷後にカットし、ペレット形の樹脂組成物を長さ4〜6mm、直径2〜4mの大きさに調製した。この際、混合物は、減圧下で高速二軸押出成形機のシリンダ温度320〜350℃、アダプタ温度360℃、ダイス温度360℃の条件で混練した。
【0071】
樹脂組成物を調製したら、この樹脂組成物を160℃に加熱した排気口付きの熱風乾燥機中に24時間静置して乾燥処理し、樹脂組成物の含水率が250ppm以下であるのを確認して成形材料とした。樹脂組成物の密度は1.27g/cmだった。
【0072】
次いで、成形材料をφ40mmの単軸押出機の投入ホッパに投入し、圧縮比2.5のフルライトスクリュを使用して溶融混練し、リップ部のクリアランスを0.3mmに調整した幅400mmのTダイスからフィルムキャパシタ用フィルムをダイス温度350〜360℃、押出量7kg/hの条件下で連続的に押出成形するとともに、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕が3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲になるよう、フィルムキャパシタ用フィルムを引取機の圧着ロールと周速度60m/minに調整した冷却ロールとの間に挟んで冷却固化した。
【0073】
単軸押出機は、MVS40‐25 L/D=25(アイ・ケー・ジー社製:商品名)を用い、シリンダ温度320〜350℃、スクリュ回転数30rpm、接続管温度360℃の条件で押し出した。
【0074】
フィルムキャパシタ用フィルムを冷却固化したら、このフィルムキャパシタ用フィルムの両側部を巻取機のスリット刃で裁断し、この巻取機の巻取管に順次巻き取って厚さ5μm、長さ1000m、幅250mmのフィルムキャパシタ用フィルムを帯形に製造した。こうしてフィルムキャパシタ用フィルムを製造したら、その外観を精査するとともに、厚さと絶縁破壊電圧とをそれぞれ測定し、結果を表1にまとめた。
【0075】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様であるが、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕が3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲になるよう、リップ部のクリアランスを0.15mmに調整した幅400mmのTダイスからフィルムキャパシタ用フィルムを連続的に押出成形し、厚さ5μm、長さ1000m、幅250mmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造した。フィルムキャパシタ用フィルムを製造したら、その外観を精査するとともに、厚さと絶縁破壊電圧とをそれぞれ測定し、結果を表1にまとめた。
【0076】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様であるが、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕が3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲になるよう、リップ部のクリアランスを0.15mmに調整した幅400mmのTダイスからフィルムキャパシタ用フィルムを連続的に押出成形し、この押出成形したフィルムキャパシタ用フィルムを引取機の圧着ロールと周速度100m/minに調整した冷却ロールとの間に挟んで冷却固化し、厚さ3μm、長さ1000m、幅250mmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造した。
【0077】
フィルムキャパシタ用フィルムを製造したら、フィルムキャパシタ用フィルムの外観を精査するとともに、フィルムキャパシタ用フィルムの厚さと絶縁破壊電圧とをそれぞれ測定し、その結果を表1にまとめた。
【0078】
〔比較例1〕
基本的には実施例1と同様だが、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕が3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲外になるよう、リップ部のクリアランスを2.0mmに調整した幅400mmのTダイスからフィルムキャパシタ用フィルムを連続的に押出成形し、厚さ5μm、長さ1000m、幅250mmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造した。フィルムキャパシタ用フィルムを製造したら、その外観を精査し、かつ厚さと絶縁破壊電圧とをそれぞれ測定して結果を表1に示した。
【0079】
〔比較例2〕
基本的には実施例1と同様だが、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕が3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲外になるよう、リップ部のクリアランスを0.6mmに調整した幅400mmのTダイスからフィルムキャパシタ用フィルムを連続的に押出成形し、厚さ5μm、長さ1000m、幅250mmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造した。フィルムキャパシタ用フィルムを製造したら、その外観を精査し、かつ厚さと絶縁破壊電圧とをそれぞれ測定して結果を表1に示した。
【0080】
〔比較例3〕
基本的には実施例1と同様だが、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕が3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲外になるよう、リップ部のクリアランスを0.1mmに調整した幅400mmのTダイスからフィルムキャパシタ用フィルムを押出成形しようとしたが、スジと皺の発生に伴い、フィルムキャパシタ用フィルムを製造することができなかった。
【0081】
〔溶融粘度〕
溶融粘度は、フローテスター(島津製作所社製:商品名 島津フローテスターCFT‐500形A)を使用して測定した。この溶融粘度の測定に際しては、樹脂1.5cmを直径1mmで長さ10mmのダイを備えた360℃のシリンダ内に充填し、このシリンダの上部に面積1cmのプランジャを装着し、シリンダの温度が360℃に達したら、5分間予備加熱してその直後に荷重50kgfを印加し、フッ素樹脂を溶融流出させることにより測定した。
【0082】
〔フィルムキャパシタ用フィルムの外観〕
フィルムキャパシタ用フィルムの外観については目視により観察し、スジの発生なしを○、スジの発生ありを×として表1にまとめた。
〔フィルムキャパシタ用フィルムの厚さ〕
フィルムキャパシタ用フィルムの厚さについては、接触式の厚み計(Mahr社製:商品名 電子マイクロメータミロトロン1240)により、フィルムキャパシタ用フィルムの幅方向に19点、長さ方向に5点の合計95点箇所の平均厚みにより測定した。
【0083】
〔フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧〕
フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧については、JIS C 2110‐1994法に準拠し、気中法による短時間絶縁破壊試験により23℃の環境下で測定した。測定に使用する電極は、上部形状が直径25mm、高さ25mm、下部形状が直径25mm、高さ15mmの円柱状とした。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例のフィルムキャパシタ用フィルムの場合には、厚さの標準偏差が小さく、厚さ精度に優れることが判明した。また、単位厚さ当たりの最小絶縁破壊電圧が200V/μmを越えており、耐電圧性に優れることも判明した。したがって、本実施例によれば、厚さ精度や耐電圧性等に優れるフィルムキャパシタ用フィルムを製造できるのを証明することができた。
【0086】
これに対し、比較例のフィルムキャパシタ用フィルムの場合には、厚さの標準偏差が大きく、厚さ精度が劣化して厚さばらつきが生じた。また、単位厚さ当たりの最小絶縁破壊電圧も200V/μmに達せず、耐電圧性に問題が生じた。
【符号の説明】
【0087】
1 成形材料
10 押出機
20 Tダイス
21 リップ部
22 クリアランス
31 圧着ロール
32 密着層
33 冷却ロール
34 凹凸
40 巻取機
42 巻取管
50 フィルムキャパシタ用フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を押出機に投入してTダイス先端のリップ部からフィルムキャパシタ用フィルムを下方に押し出し、この押し出したフィルムキャパシタ用フィルムを圧着ロールと冷却ロールとの間に挟んで冷却し、この冷却した厚さ10μm以下のフィルムキャパシタ用フィルムを巻取機に巻き取るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法であって、
成形材料を少なくともポリエーテルイミド樹脂とし、Tダイスのリップ部における溶融した成形材料のせん断速度をγ〔/s〕、冷却ロールの周速度をV〔m/s〕とした場合に、冷却ロールの周速度Vと成形材料のせん断速度γとの比V/γ〔m〕を3.0×10−2〜90×10−2〔m〕の範囲とすることを特徴とするフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項2】
Tダイスのリップ部のクリアランスを0.1〜1.0mmとし、冷却ロールの温度をポリエーテルイミド樹脂のガラス転移点−100℃〜+50℃の範囲とする請求項1記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするフィルムキャパシタ用フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−108714(P2011−108714A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259615(P2009−259615)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】