説明

フィルム状接着剤、接着シート及び半導体装置

【課題】 パッケージの電気的不具合の発生を十分に抑制することができるフィルム状接着剤を提供すること。
【解決手段】 半導体素子と、該半導体素子を搭載する支持部材とを接着するためのフィルム状接着剤であって、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する銅イオン吸着層1を備える、フィルム状接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状接着剤、接着シート及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チップを多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及しており、携帯電話、携帯オーディオ機器用のメモリパッケージとして搭載されている。また、携帯電話等の多機能化に伴い、パッケージの高速化・高密度化・高集積化も推し進められている。これに伴い、チップ回路の配線材料として銅を使用することでの高速化が図られている。また、複雑な搭載基板への接続信頼性の向上、パッケージからの排熱促進という観点から、銅を素材としたリードフレームなどが使用されてきている。
【0003】
スタックドMCPなどの半導体素子をはじめとする各種電子部品を搭載した実装基板として重要な特性の一つとして信頼性がある。半導体素子の実装には、実装工程が有利なフィルム状接着剤がダイボンディング用の接着剤として広く用いられている。そして、製造される半導体装置の信頼性向上のため、耐熱性、耐湿性、耐リフロー性を考慮したフィルム状接着剤の開発も行われている。このようなフィルム状接着剤として、例えば、下記特許文献1には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びアクリル共重合体を含む接着フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−220576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、処理する情報量が膨大となるにつれ、半導体装置の高速化が求められている。そのため、高速化の手段の1つとして、上述したようにチップの配線材料として銅が使用されてきている。しかし、銅は腐食しやすい特性をもち、また、低コスト化の観点から、回路面の絶縁性を確保するためのコート材も簡略化される傾向にあるため、パッケージの電気的特性を確保しにくくなる傾向にある。特に、チップを多段積層するパッケージでは、腐食により発生した銅イオンが接着剤内部を移動し、チップ内あるいはチップ/チップ間での電気信号のロスが起こりやすい傾向にある。
【0006】
また、高機能化という観点から、複雑な搭載基板へ半導体素子を接続することが多く、接続信頼性を向上するために銅を素材としたリードフレームが好まれる傾向にある。このような場合においても、リードフレームから発生する銅イオンによる電気信号のロスが問題となることがある。
【0007】
上記特許文献1の接着フィルムなどでは、上述の銅イオンによる電気信号のロスが発生しやすく、パッケージの信頼性を十分に確保することが難しい。
【0008】
このように、銅を素材とする部材を使用したパッケージにおいては、その部材から銅イオンが発生し、電気的な不具合を起こす可能性が高く、十分な耐HAST性が得られないことがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、パッケージの電気的不具合の発生を十分に抑制することができるフィルム状接着剤、接着シート、及び、上記フィルム状接着剤を用いて製造される半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、フィルム状接着剤に銅イオンを捕捉させることについて鋭意研究を重ねた。銅イオンと錯体を形成しうるポリアミドなどの固形添加剤をフィルム状接着剤の構成成分として添加することによっても銅イオンの捕捉は可能と思われる。しかし、上記添加剤は溶剤への溶解性・分散性が悪く。フィルム状接着剤中に安定且つ均一に分散させることは比較的困難である。そこで、銅イオンを効率良く確実に捕捉するためには、銅イオンと錯体を形成し得る成分をフィルム状接着剤に添加剤として添加するのではなく、フィルム状接着剤の構成樹脂中に銅イオンと錯体を形成し得る骨格を持たせ、樹脂内部に銅イオンを取り込むことが望ましいことを見出した。
【0011】
その結果、本発明者らは、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を使用してフィルム状接着剤を形成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、半導体素子と、該半導体素子を搭載する支持部材とを接着するためのフィルム状接着剤であって、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する銅イオン吸着層を備える、フィルム状接着剤を提供する。
【0013】
かかるフィルム状接着剤によれば、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する銅イオン吸着層を備えることにより、銅イオン吸着層の樹脂内部に銅イオンを化学的に吸着させることができる。特に、上記樹脂を含有する銅イオン吸着層は、十分な銅イオン捕捉能力を持ち、半導体装置の銅を素材とする部材から発生する銅イオンの影響を従来よりも大幅に低減することができる。そして、かかるフィルム状接着剤を、銅を素材とする部材を含む半導体装置に用いることで、銅イオンに起因する電気的な不具合の発生を十分に抑制することができ、十分な耐HAST性を有する半導体装置を得ることができる。
【0014】
本発明のフィルム状接着剤において、上記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂は、トリアジン骨格、メラミン骨格及びトリアゾール骨格のうちの少なくとも一種の骨格を有する樹脂であることが好ましい。これにより、銅イオン吸着層はより優れた銅イオン捕捉能力を得ることができ、銅イオンに起因する電気的な不具合の発生をより十分に抑制することができる。
【0015】
また、本発明のフィルム状接着剤において、上記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂は、銅イオンと錯形成し得る骨格を有するフェノール樹脂又はエポキシ樹脂であることが好ましい。これにより、銅イオン吸着層の耐熱性及び耐湿性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明のフィルム状接着剤において、上記銅イオン吸着層は、(a)熱硬化性成分、(b)高分子量成分、及び、(c)フィラーを含有し、且つ、上記(a)熱硬化性成分として、上記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有することが好ましい。これにより、銅イオン吸着層は十分な銅イオン捕捉能力を有しつつ、十分な接着性、耐熱性及び耐湿性を得ることができる。
【0017】
更に、本発明のフィルム状接着剤において、上記銅イオン吸着層は、その硬化物を質量比で10倍となる2.0ppmの銅イオン水に浸して121℃、2atmで24時間加熱した場合に、銅イオンを1.0ppm以上吸着し得るものであることが好ましい。
【0018】
上記特定の条件を満たす銅イオン吸着層は、十分な銅イオン捕捉能力を持ち、銅イオンに起因する電気的な不具合の発生を十分に抑制することができる。なお、銅イオン吸着層が上記の特定の条件を満たさない、すなわち、上記条件での銅イオン吸着量が1.0ppm未満であると、半導体装置の銅を素材とする部材から発生する銅イオンを十分に捕捉することができず、電気的不具合の発生を抑制する効果が低下する傾向がある。
【0019】
本発明はまた、支持基材と、該支持基材の一方の面上に設けられた上記本発明のフィルム状接着剤と、を備える接着シートを提供する。かかる接着シートは、上記本発明のフィルム状接着剤を備えるものであるため、半導体装置に用いた場合に、銅イオンに起因する電気的な不具合の発生を十分に抑制することができ、また、十分な耐HAST性を得ることができる。
【0020】
本発明は更に、半導体素子と、該半導体素子を搭載する支持部材と、上記半導体素子及び上記支持部材間に設けられ、上記半導体素子及び上記支持部材を接着する接着部材と、を備える半導体装置であって、上記接着部材が、上記本発明のフィルム状接着剤の硬化物である、半導体装置を提供する。ここで、上記支持部材は、銅を素材として含むものであることが好ましい。
【0021】
かかる半導体装置は、上記本発明のフィルム状接着剤を用いて半導体素子及び支持部材を接着しているため、銅イオンに起因する電気的な不具合の発生を十分に抑制することができ、また、十分な耐HAST性を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、半導体素子や支持部材等から銅イオンが発生しやすい半導体装置であっても、銅イオンに起因する電気的不具合の発生を十分に抑制することができるフィルム状接着剤、接着シート、及び、上記フィルム状接着剤を用いて製造される半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のフィルム状接着剤の一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】本発明の接着シートの一実施形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明の接着シートの他の一実施形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明の接着シートの他の一実施形態を示す模式断面図である。
【図5】本発明の半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。
【図6】本発明の半導体装置の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【図7】電気的不具合発生率の測定に使用するくし型電極を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、本明細書における「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味する。
【0025】
本発明のフィルム状接着剤は、半導体素子と、該半導体素子を搭載する支持部材とを接着するためのフィルム状接着剤であって、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する銅イオン吸着層を備えるものである。ここで、フィルム状接着剤は、銅イオン吸着層のみからなるものであってもよく、銅イオン吸着層以外の層を有するものであってもよい。
【0026】
図1は、本発明の好適な実施形態に係るフィルム状接着剤を示す模式断面図である。このフィルム状接着剤50は、銅イオン吸着層1のみからなるものである。
【0027】
銅イオン吸着層1は、半導体素子と、該半導体素子を搭載する支持部材とを接着する接着剤としての機能を有するとともに、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有することにより、銅イオンを捕捉する機能を有する層である。また、銅イオン吸着層1は、熱硬化性であることが好ましい。
【0028】
銅イオン吸着層1は、その硬化物を質量比で10倍となる2.0ppmの銅イオン水に浸して121℃、2atmで24時間加熱した場合に、銅イオンを1.0ppm以上吸着し得るものであることが好ましい。
【0029】
この銅イオン吸着性は、例えば、以下の手順で確認することができる。まず、厚み40μmの銅イオン吸着層1の硬化物を1cm角に切り、耐圧・耐熱性の密閉可能なテフロン(登録商標)容器に測り取る。ここに、質量比で10倍の2.0ppm銅イオン水を加え、容器を密閉した後、PCT装置(プレッシャークッカー、HIRAYAMA社製)で121℃、2atmの条件で24時間加熱する。銅イオン水としては、例えば、酢酸銅水溶液等を用いることができる。
【0030】
次に、PCT装置で処理したサンプルから銅イオン吸着層1の硬化物をろ別し、得られたろ液の銅イオン濃度を測定する。銅イオン濃度の測定方法としては特に制限は無いが、例えば、ICP分析(誘導結合プラズマ発光分光分析装置、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、商品名:SPS5100)などにより測定することができる。これにより、銅イオン吸着層1の硬化物の銅イオン吸着性を確認することができる。また、上記のICP分析等で測定した銅イオン濃度を残存銅イオン濃度B(ppm)とした場合、銅イオン吸着層1の硬化物の銅イオン捕捉率を以下の計算式により算出することができる。
銅イオン捕捉率(%)={(2.0−B)/2.0}×100
【0031】
上記銅イオン捕捉率は、銅イオンに起因する電気的不具合の発生を十分に抑制する観点から、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0032】
銅イオン吸着層1は、銅イオンと錯形成能力のある樹脂をその構成成分として含むものであれば特に限定されるものではないが、半導体装置の耐熱信頼性を確保するという観点から、十分な接着力をもつことが好ましい。このような銅イオン吸着層1の構成の1例として、(a)熱硬化性成分と、(b)高分子量成分と、(c)フィラーとを含有し、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂が、上記(a)熱硬化性成分として含まれる接着剤組成物をフィルム状に成形してなる層であることが好ましい。なお、銅イオンと錯形成し得る骨格は、(b)高分子量成分、又は、(c)フィラーに導入されていてもよい。また、上記接着剤組成物は、十分な接着性を得るとともに、硬化速度を容易に調整するという観点から、(d)硬化促進剤を更に含むことが好ましい。また、上記接着剤組成物は、カップリング剤等の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0033】
上記銅イオンと錯形成し得る骨格としては、当該骨格を有する化合物と、銅イオン濃度が0.1Mである銅イオン溶液とを体積比で1:1となるように混合した場合に、紫外可視吸収スペクトルで銅イオン由来のピークに、あるいは添加した化合物由来のピークに変化が見られるものであれば特別な制限はない。このような銅イオンと錯形成し得る骨格の具体例としては、トリアジン骨格、メラミン骨格、トリアゾール骨格などが挙げられる。これらの中でも、人体への有害性を加味すると、銅イオンと錯形成し得る骨格としては、トリアジン骨格またはメラミン骨格が好ましい。
【0034】
また、上記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂としては特に制限は無いが、銅イオンと錯形成し得る骨格を有するフェノール樹脂又はエポキシ樹脂であることが好ましい。このような樹脂としては、トリアジン変性又はメラミン変性のエポキシ樹脂又はフェノール樹脂が最も一般的である。メラミン変性フェノール樹脂として代表的なものに、DIC株式会社製のフェノライトLAシリーズ、日立化成工業株式会社製のHPM−J3などがある。
【0035】
銅イオン吸着層1において、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂の含有量は、銅イオン吸着層1の固形分全量を基準として、1〜50質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。この含有量が1質量%未満であると、銅イオン吸着層1による銅イオン捕捉率が低下し、銅イオンに起因する電気的不具合の発生を抑制する効果が低下する傾向があり、50質量%を超えると、フィルムの可とう性が低下し、作業性が悪くなる傾向がある。
【0036】
また、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂において、銅イオンと錯形成し得る骨格の含有量は、当該樹脂の質量基準で5〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。この含有量が5質量%未満であると、銅イオン吸着層1による銅イオン捕捉率が低下し、銅イオンに起因する電気的不具合の発生を抑制する効果が低下する傾向があり、40質量%を超えると、フィルムの可とう性が低下し、作業性が悪くなる傾向がある。
【0037】
銅イオン吸着層1の接着力は、上述した(a)熱硬化性成分、(b)高分子量成分、(c)フィラーなどを適切に選択し、その配合比率を変化させることにより適宜調整できる。銅イオン吸着層1は、その硬化物の銅への接着力が0.5MPa以上となるものであることが好ましい。
【0038】
(a)熱硬化性成分は、上記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂のみからなるものであってもよく、他の熱硬化性成分を含むものであってもよいが、接着力、耐熱性及び耐湿性を向上させる観点から、他の熱硬化性成分を含むものであることが好ましい。他の熱硬化性成分としては、熱硬化性樹脂が好ましく、半導体素子を実装する場合に要求される耐熱性及び耐湿性に優れた、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂などが好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂としては、硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などの二官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂などを使用することができる。また、多官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂または脂環式エポキシ樹脂など、一般に知られているものを用いることができる。
【0040】
また、フェノール樹脂としては、耐熱性の観点から、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に48時間投入後の吸水率が2重量%以下で、熱重量分析計(TGA)で測定した350℃での加熱重量減少率(昇温速度:5℃/min、雰囲気:窒素)が5重量%未満のものが好ましい。このようなフェノール樹脂として代表的なものに、DIC株式会社製のフェノライトLF、KA、TDシリーズ、三井化学株式会社製のミレックスXLCシリーズとXLシリーズ、エア・ウォーター株式会社製のHEシリーズなどがあり、東都化成株式会社製のナフトール樹脂SNシリーズなどでも良い。
【0041】
これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
接着剤組成物が(a)熱硬化性成分としてエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂の配合量は、それぞれエポキシ当量と水酸基当量との当量比で0.70/0.30〜0.30/0.70となるように調整することが好ましく、0.65/0.35〜0.35/0.65となるように調整することがより好ましく、0.60/0.40〜0.40/0.60となるように調整することがさらに好ましく、0.60/0.40〜0.50/0.50となるように調整することが特に好ましい。なお、銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂が、該骨格を有するエポキシ樹脂又はフェノール樹脂である場合、そのエポキシ当量又は水酸基当量も含めた上で、上記の当量比となるように調整することが好ましい。上記当量比が上記範囲を外れると、作製した銅イオン吸着層1が硬化性に劣るか、又は、未硬化の銅イオン吸着層1の粘度が高く、流動性に劣る可能性がある。
【0043】
なお、高い接着性を得るという観点から、(a)熱硬化性成分は、多官能のエポキシ樹脂、及び/又は、多官能のフェノール樹脂を含有することが望ましい。
【0044】
銅イオン吸着層1において、(a)熱硬化性成分の含有量は、銅イオン吸着層1の固形分全量を基準として、10〜70質量%であることが好ましい。この含有量が10質量%未満であると、銅イオンの捕捉能力と接着力が低下し、十分な耐HAST性と耐熱性が得られにくくなる傾向があり、70質量%を超えると、フィルムの可とう性が低下し、作業性が悪くなる傾向がある。
【0045】
(b)高分子量成分としては、特に制限は無いが、高い接着性を発現させるという観点から、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートなどの官能性モノマーを重合して得たエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体などのアクリル系樹脂がより好ましい。
【0046】
このような樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリルゴムなどを使用することができ、アクリルゴムがより好ましい。アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とし、主として、ブチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体や、エチルアクリレートとアクリロニトリルなどの共重合体などからなるゴムである。これらの(b)高分子量成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0047】
なお、上記(b)高分子量成分中のエポキシ基含有率を変化させることにより銅イオン吸着層1の接着強度は制御可能であり、エポキシ基含有率を上げることで接着力を向上させることができる。
【0048】
(b)高分子量成分の重量平均分子量は、高い接着力を発現させ且つフィルムの可とう性を維持する観点から、10万〜100万であることが好ましく、30万〜80万であることがより好ましい。
【0049】
銅イオン吸着層1において、(b)高分子量成分の含有量は、銅イオン吸着層1の固形分全量を基準として、5〜80質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましい。この含有量が5質量%未満であると、フィルムの可とう性が低下し、作業性が悪くなる傾向があり、80質量%を超えると、フィルムの接着力及び流動性が低下する傾向がある。
【0050】
(c)フィラーとしては、Bステージ状態における銅イオン吸着層1のダイシング性の向上、銅イオン吸着層1の取扱い性の向上、熱伝導性の向上、フィルム粘度の調整、チクソトロピック性の付与、接着力の向上などの作業性・実用性の観点から、シリカフィラーを配合することが好ましい。
【0051】
シリカフィラーは、銅イオン吸着層1の成膜性に影響を及ぼすことが無ければ、特に粒径を規定する必要は無いが、良好な成膜性を得るという観点から、80質量%以上の粒子が0.001〜10μmの粒径範囲に分布していることが好ましい。
【0052】
また、表面をカップリング剤などで改質したシリカフィラーを使用することも可能であり、上記銅イオンと錯形成し得る骨格が含まれた構造で表面修飾したシリカフィラーを使用しても良い。
【0053】
なお、銅イオン吸着層1中でのシリカフィラーの含有率は任意に調整可能だが、フィルムの成膜性・取り扱い性という観点から、銅イオン吸着層1の固形分全量を基準として80質量%以下とすることが好ましく、5〜60質量%とすることがより好ましい。
【0054】
(d)硬化促進剤としては特に制約は無く、一般的に用いられるアミン系、アミド系、イミダゾール系などの窒素系化合物、またはリン系化合物を用いることができる。また、その添加量は任意に調整可能であり、フィルム状接着剤を適用する用途に応じて適宜添加量を調整しても良い。
【0055】
接着剤組成物は、接着性向上の観点から、カップリング剤を含有することが好ましい。カップリング剤としては、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0056】
銅イオン吸着層1の膜厚は、十分な接着力を発現させるため、3〜250μmであることが好ましい。膜厚が3μmより薄いと、十分な接着力が得られない傾向があり、250μmより厚いと、経済的でなくなる上に、半導体装置の小型化の要求に応えることが困難となる。なお、接着性が高く、また、半導体装置を薄型化できる点で、銅イオン吸着層1の膜厚は5〜100μmであることがより好ましく、5〜60μmであることが更に好ましい。
【0057】
銅イオン吸着層1は、上述した接着剤組成物のワニスから作製することができる。
【0058】
具体的には、まず、上記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含む(a)熱硬化性成分(熱硬化性樹脂)、上記(b)高分子量成分、上記(c)フィラー、並びに、必要に応じて、上記(d)硬化促進剤、及び上記カップリング剤などの他の添加成分を、有機溶媒中で混合、混練してワニスを調製する。次に、得られたワニスを基材フィルム上に塗布することによりワニスの層を形成する。次に、加熱乾燥によりワニス層から溶媒を除去した後、基材フィルムを除去することにより、フィルム状接着剤としての銅イオン吸着層1が得られる。
【0059】
上記の混合、混練は、通常の攪拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を用い、これらを適宜組み合わせて行うことができる。上記の加熱乾燥は、使用した溶媒が充分に揮散する条件であれば特に制限はないが、通常60℃〜200℃で、0.1〜90分間加熱して行うことができる。
【0060】
上記基材フィルムとしては、特に制限はなく、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリエーテルナフタレートフィルム、メチルペンテンフィルム等が挙げられる。
【0061】
上記有機溶媒は、上記各成分を均一に溶解、混練又は分散できるものであれば制限はなく、従来公知のものを使用することができる。このような溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらの中でも、乾燥速度が速く、価格が安い点でメチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどを使用することが好ましい。
【0062】
図2は、本発明の接着シートの一実施形態を示す模式断面図である。図2に示す接着シート100は、支持基材としての基材フィルム2と、これの一方の面上に設けられた、フィルム状接着剤としての上述した銅イオン吸着層1とから構成される。図3は、本発明の接着シートの他の一実施形態を示す模式断面図である。図3に示す接着シート110は、基材フィルム2の上に設けられた銅イオン吸着層1の基材フィルム2とは反対側の面上に、さらにカバーフィルム3を設けた構造を有する。
【0063】
接着シート100,110を構成する基材フィルム2としては、例えば、PETフィルム、OPPフィルム等が挙げられる。
【0064】
また、カバーフィルム3としては、例えば、PETフィルム、PEフィルム、OPPフィルム等が挙げられる。
【0065】
銅イオン吸着層1は、基材フィルム2に、予め得られた上述した銅イオン吸着層1を積層することにより設けることができる。また、銅イオン吸着層1は、上述のように銅イオン吸着層1を製造する場合と同様に、上述した接着剤組成物のワニスを基材フィルム2上に塗工し、これを加熱乾燥することにより形成することもできる。
【0066】
本発明のフィルム状接着剤は、それ自体で用いても構わないが、一実施態様として、本発明のフィルム状接着剤を従来公知のダイシングテープ上に積層したダイシング・ダイボンディング一体型接着シートとして用いることもできる。この場合、ウェハへのラミネート工程が一回で済む点で、作業の効率化が可能である。
【0067】
ダイシングテープとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルムなどのプラスチックフィルム等が挙げられる。また、ダイシングテープは、必要に応じて、プライマー塗布、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理等の表面処理が行われていてもよい。
【0068】
更に、ダイシングテープは粘着性を有するものが好ましく、上述のプラスチックフィルムに粘着性を付与したものを用いてもよいし、上述のプラスチックフィルムの片面に粘着剤層を設けてもよい。
【0069】
このようなダイシング・ダイボンディング一体型接着シートとしては、例えば、図4に示される構成を有するものが挙げられる。図4に示す接着シート120は、引張テンションを加えたときの伸び(通称、エキスパンド)を確保できる基材フィルム7上に粘着剤層6が設けられたダイシングテープを支持基材とし、該ダイシングテープの粘着剤層6上に、フィルム状接着剤としての上述した銅イオン吸着層1が設けられた構造を有している。
【0070】
基材フィルム7としては、上述のプラスチックフィルムが挙げられる。また、粘着剤層6は、例えば、液状成分及び高分子量成分を含み適度なタック強度を有する樹脂組成物を基材フィルム7上に塗布し乾燥する、または、PETフィルムなどの基材フィルムに塗布・乾燥させたものを基材フィルム7と貼り合せることで形成可能である。タック強度は、例えば、液状成分の比率、高分子量成分のTgを調整することにより、所望の値に設定される。
【0071】
ダイシング・ダイボンディング一体型接着シートが半導体装置の製造に用いられる場合、ダイシング時には半導体素子が飛散しない粘着力を有し、その後のピックアップ時にはダイシングテープから容易に剥離できることが必要である。
【0072】
かかる特性は、上述したように粘着剤層のタック強度の調整、光反応などによりタック強度を変化させることによって得ることができるが、銅イオン吸着層1の粘着性が高すぎるとピックアップが困難になることがある。そのため、銅イオン吸着層1のタック強度を適宜調節することが好ましく、その方法としては、液状成分の比率の調整、高分子量成分のTgの調整、可塑剤として機能する化合物の含有量の調整などが挙げられる。上記可塑剤としては、例えば、単官能のアクリルモノマー、単官能エポキシ樹脂、液状エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系希釈剤等が挙げられる。
【0073】
ダイシングテープ上に銅イオン吸着層1を積層する方法としては、銅イオン吸着層1を構成する上述した接着剤組成物のワニスをダイシングテープ上に塗布し乾燥する、または印刷により部分的に塗工する方法のほか、予め作製した銅イオン吸着層1をダイシングテープ上に、プレス、ホットロールラミネートにより積層する方法が挙げられる。本実施形態においては、連続的に製造でき、効率がよい点で、ホットロールラミネートによる方法が好ましい。
【0074】
ダイシングテープの膜厚は、特に制限はなく、銅イオン吸着層1の膜厚やダイシングテープ一体型接着シートの用途によって適宜、当業者の知識に基づいて定めることができる。経済性がよく、フィルムの取扱い性が良い点で、ダイシングテープの膜厚は60〜150μmが好ましく、70〜130μmがより好ましい。
【0075】
また、本発明の接着シートにおいて、支持基材上に形成されるフィルム状接着剤は銅イオン吸着層1のみで構成されていてもよいが、銅イオン吸着層1以外の他の層を含む2以上の層で構成されていてもよい。フィルム状接着剤を2以上の層で構成した場合、複数の層に機能を分離することが可能となる。例えば、銅イオン吸着層1単体では目的とする流動性または接着力が得にくい場合には、流動性または接着力に優れた接着フィルムと貼り合せた多層構造とすることにより、目的をより容易に達成しうる。なお、流動性または接着力に優れた接着フィルムの一例としては、上述した特許文献1あるいは国際公開WO2005/103180号パンフレットに記載の接着フィルムが挙げられる。
【0076】
本発明のフィルム状接着剤及び接着シートは、好ましくは半導体装置の製造に用いられ、より好ましくはウェハ或いは既に小片化されているチップに、フィルム状接着剤及びダイシングテープを0℃〜90℃で貼り合わせた後、回転刃、レーザーあるいは伸張による分断で接着剤付きチップを得た後、当該接着剤付きチップを、有機基板、リードフレームあるいは別チップ上に接着する工程を含む半導体装置の製造に用いられる。
【0077】
ウェハとしては、単結晶シリコンの他、多結晶シリコン、各種セラミック、ガリウム砒素などの化合物半導体などが挙げられる。
【0078】
銅イオン吸着層1のみからなるフィルム状接着剤を単体で用いる場合には、ウェハに銅イオン吸着層1を貼り合わせ、次いで、銅イオン吸着層1面にダイシングテープを貼り合わせればよい。
【0079】
銅イオン吸着層1をウェハに貼り付ける温度、即ちラミネート温度は、通常、0〜90℃であり、好ましくは15〜80℃であり、さらに好ましくは40〜80℃である。90℃を超えると銅イオン吸着層1の過度な溶融による厚みの変化が顕著となる場合がある。ダイシングテープ又はダイシング・ダイボンディング一体型接着シートを貼り付ける際にも、上記温度で行うことが好ましい。
【0080】
本発明のフィルム状接着剤及び接着シートは、IC、LSI等の半導体素子と、42アロイリードフレーム、銅リードフレーム等のリードフレーム;ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチックフィルム;ガラス不織布等基材にポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等のプラスチックを含浸、硬化させたもの;アルミナ等のセラミックス等の半導体搭載用支持部材等の被着体とを貼り合せるためのダイボンディング用接着材料として用いることができる。
【0081】
また、本発明のフィルム状接着剤及び接着シートは、複数の半導体素子を積み重ねた構造のStacked−PKGにおいて、半導体素子と半導体素子とを接着するための接着材料としても好適に用いられる。この場合、一方の半導体素子が、半導体素子を搭載する支持部材となる。
【0082】
本発明のフィルム状接着剤を用いて製造された半導体装置について、図面を用いて具体的に説明する。なお、近年は様々な構造の半導体装置が提案されており、本発明のフィルム状接着剤の用途は、以下に説明する構造の半導体装置に限定されるものではない。
【0083】
図5は、本発明の半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。図5に示す半導体装置200において、半導体素子9は本発明のフィルム状接着剤における銅イオン吸着層の硬化物1’(接着部材)により半導体素子搭載用支持部材10に接着され、半導体素子9の接続端子(図示せず)はワイヤ11を介して外部接続端子(図示せず)と電気的に接続され、封止材12によって封止されている。
【0084】
また、図6は、本発明の半導体装置の他の一実施形態を示す模式断面図である。図6に示す半導体装置210において、一段目の半導体素子9aは本発明のフィルム状接着剤における銅イオン吸着層の硬化物1’(接着部材)により、端子13が形成された半導体素子搭載用支持部材10に接着され、一段目の半導体素子9aの上に更に本発明のフィルム状接着剤における銅イオン吸着層の硬化物1’(接着部材)により二段目の半導体素子9bが接着されている。一段目の半導体素子9a及び二段目の半導体素子9bの接続端子(図示せず)は、ワイヤ11を介して外部接続端子と電気的に接続され、封止材12によって封止されている。このように、本発明のフィルム状接着剤は、半導体素子を複数重ねる構造の半導体装置にも好適に使用できる。
【0085】
図5及び図6に示す半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、上述の接着剤付きチップを半導体素子搭載用支持部材若しくは半導体素子に加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程、必要に応じて封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。
【0086】
上記本発明の半導体装置は、上記本発明のフィルム状接着剤における銅イオン吸着層1によって半導体素子と支持部材とが接着されているため、半導体装置の構成部材として銅を素材とする部材を用いている場合であっても、当該部材から発生する銅イオンの影響を低減することができ、銅イオンに起因する電気的な不具合の発生を十分に抑制することができる。
【0087】
ここで、銅を素材とする部材としては、リードフレーム、配線、ワイヤ、放熱材等が挙げられるが、いずれの部材に銅を用いた場合でも、銅イオンの影響を低減することが可能である。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
(実施例1〜2及び比較例1〜2)
表1又は表2に示す品名及び組成比(単位:質量部)のエポキシ樹脂、フェノール樹脂及びフィラーからなる組成物にシクロヘキサノンを加え、撹拌混合した。これに、表1又は表2に同様に示すアクリルゴムを加えて撹拌し、更に表1又は表2に同様に示すカップリング剤及び硬化促進剤を加えて各成分が均一になるまで撹拌してワニスを得た。
【0090】
なお、表1及び表2中の各成分の記号は下記のものを意味する。
YDF−8170C:(東都化成株式会社製商品名、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量159)。
YDCN−700−10:(東都化成株式会社製商品名、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210)。
フェノライトLF−4871:(大日本インキ株式会社製商品名、銅イオンと錯形成し得る骨格を有しない下記式(1)で表されるフェノール樹脂、水酸基当量118)。
ミレックスXLC−LL:(三井化学株式会社製商品名、銅イオンと錯形成し得る骨格を有しない下記式(2)で表されるフェノール樹脂、水酸基当量175)。
フェノライトLA−7054:(大日本インキ株式会社製商品名、銅イオンと錯形成し得るメラミン骨格を有する下記式(3)で表されるフェノール樹脂、水酸基当量125、メラミン骨格の含有量18質量%)。
SC2050−HLG:(アドマテックス株式会社製商品名、シリカフィラー分散液、平均粒径0.500μm)。
アエロジルR972:(日本アエロジル株式会社製商品名、シリカ、平均粒径0.016μm)。
アクリルゴムHTR−860P:(帝国化学産業株式会社製商品名、重量平均分子量80万、グリシジル官能基の含有量3質量%)。
NUC A−1160:(GE東芝株式会社製商品名、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン)。
NUC A−189:(GE東芝株式会社製商品名、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)。
キュアゾール2PZ−CN:(四国化成工業株式会社製商品名、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)。
【0091】
【化1】



【0092】
【表1】



【0093】
【表2】



【0094】
次に、得られたワニスを100メッシュのフィルターでろ過し、真空脱泡した。真空脱泡後のワニスを、厚さ38μmの離型処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布した。塗布したワニスを、90℃で5分間、続いて140℃で5分間の2段階で加熱乾燥した。こうして、基材フィルムとしてのPETフィルム上に、Bステージ状態にある厚み40μmのフィルム状接着剤としての銅イオン吸着層が設けられた接着シートを得た。
【0095】
[銅イオン捕捉率の測定]
銅イオン吸着層の銅イオン捕捉率は以下の手順で測定した。まず、銅イオン吸着層を170℃、3時間の条件で硬化させた。厚み40μmの銅イオン吸着層の硬化物を1cm角に切り、耐圧・耐熱性の密閉可能なテフロン(登録商標)容器に測り取った。ここに質量比で上記硬化物の10倍量の2.0ppm酢酸銅水溶液を加え、容器を密閉した後、PCT装置(プレッシャークッカー、HIRAYAMA社製)で121℃、2atmの条件で24時間加熱した。その後、上記硬化物をろ別し、得られたろ液の銅イオン濃度をICP分析(誘導結合プラズマ発光分光分析装置、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、商品名:SPS5100)により算出し、それを残存銅イオン濃度B(ppm)とした。残存銅イオン濃度Bの値から、銅イオン捕捉率を以下の計算式により算出した。結果を表3に示す。
銅イオン捕捉率(%)={(2.0−B)/2.0}×100
【0096】
[接着強度の測定]
銅イオン吸着層のダイシェア強度(接着強度)を下記の方法により測定した。まず、接着シートの銅イオン吸着層を厚み400μmの半導体ウェハに70℃で貼り付けた。次に、それらを5mm角にダイシングしてチップを得た。個片化したチップの銅イオン吸着層側を銅製のリードフレーム上に、120℃、250gf/cm、5秒間の条件で熱圧着してサンプルを得た。その後、得られたサンプルの銅イオン吸着層を110℃で1時間、120℃で1時間の順で加熱し、続いて封止工程相当の熱処理を175℃、6.7MPaで30秒間加えた。その後、170℃で3時間加熱することで銅イオン吸着層を硬化させた。更に、銅イオン吸着層硬化後のサンプルを85℃、60%RHの条件下で、168時間放置した。放置後、即座に265℃でダイシェア強度を測定し、これを接着強度とした。結果を表3に示す。
【0097】
[電気的不具合発生の有無の評価]
電気的不具合発生の有無を下記の方法により確認した。まず、接着シートの銅イオン吸着層を厚み400μmの半導体ウェハに70℃で貼り付けた。次に、それらを5mm×10mmにダイシングしてチップを得た。一方、図7に示すように、ポリイミド基板14の表面に銅製のくし型電極パターン15が設けられた基板21を準備した。なお、くし型電極パターン15は、プラス電極15aとマイナス電極15bとで構成され、ライン幅/スペース幅が30μm/70μmとなるように形成されている。
【0098】
次に、上記の個片化したチップの銅イオン吸着層側を、上記基板21のくし型電極パターン15上に、120℃、500gf/cm、20秒間の条件で圧着してサンプルを得た。その後、得られたサンプルの銅イオン吸着層を110℃で1時間、120℃で1時間の順で加熱し、続いて封止工程相当の熱処理を175℃、6.7MPaで30秒間加えた。その後、170℃で3時間加熱することで銅イオン吸着層を硬化させた。得られたサンプルの+極と−極をそれぞれHAST試験の配線にハンダで接続し、130℃、85%RH、3.6Vの条件で試験を行った。電気抵抗をモニターし、196時間後でも電気抵抗が急激に低下することがなく維持できているものを良品とし、電気抵抗の急激な低下が生じたものを不良品(電気的不具合発生)とした。サンプルを5つ作製してそれぞれ同様の試験を行い、不良品となったサンプルの個数を求めた。結果を表3に示す。
【0099】
【表3】



【0100】
表3に示した結果から明らかなように、実施例1〜2の接着シートは、比較例1〜2の接着シートと比較して、銅イオン吸着層による銅イオンの捕捉率が高く、パッケージの電気的不具合の発生を十分に抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0101】
1…銅イオン吸着層、1’…銅イオン吸着層の硬化物(接着部材)、2…基材フィルム、3…カバーフィルム、6…粘着剤層、7…基材フィルム、9、9a、9b…半導体素子、10…半導体搭載用支持部材、11…ワイヤ、12…封止材、50…フィルム状接着剤、100,110,120…接着シート、200,210…半導体装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、該半導体素子を搭載する支持部材とを接着するためのフィルム状接着剤であって、
銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する銅イオン吸着層を備える、フィルム状接着剤。
【請求項2】
前記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂が、トリアジン骨格、メラミン骨格及びトリアゾール骨格のうちの少なくとも一種の骨格を有する樹脂である、請求項1記載のフィルム状接着剤。
【請求項3】
前記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂が、銅イオンと錯形成し得る骨格を有するフェノール樹脂又はエポキシ樹脂である、請求項1又は2記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
前記銅イオン吸着層が、(a)熱硬化性成分、(b)高分子量成分、及び、(c)フィラーを含有し、且つ、前記(a)熱硬化性成分として、前記銅イオンと錯形成し得る骨格を有する樹脂を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤。
【請求項5】
前記銅イオン吸着層は、その硬化物を質量比で10倍となる2.0ppmの銅イオン水に浸して121℃、2atmで24時間加熱した場合に、銅イオンを1.0ppm以上吸着し得るものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤。
【請求項6】
支持基材と、該支持基材の一方の面上に設けられた請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤と、を備える接着シート。
【請求項7】
半導体素子と、該半導体素子を搭載する支持部材と、前記半導体素子及び前記支持部材間に設けられ、前記半導体素子及び前記支持部材を接着する接着部材と、を備える半導体装置であって、
前記接着部材が、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルム状接着剤の硬化物である、半導体装置。
【請求項8】
前記支持部材が、銅を素材として含むものである、請求項7記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52109(P2011−52109A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201932(P2009−201932)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】