説明

フェナザシリン系重合体、フェナザシリン系重合体の製造方法および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタ

【課題】均質な膜を容易かつ低廉に作成できるフェナザシリン系重合体、フェナザシリン系重合体の製造方法および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタを提供する。
【解決手段】下記に示すフェナザシリン化合物を主鎖骨格とする重合体は有機溶媒への溶解性が高く、キャスト法による膜作成が可能である。本発明のフェナザシリン系重合体は、ハロゲン化炭化水素、有機酸、通常の有機溶剤にも容易に溶解するので、スピンコート法、ディップコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できる。よって、有機薄膜トランジスタの構成材料に用いることが可能である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェナザシリン誘導体を主鎖に持つポリマー、即ち、5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン(以下、単に「フェナザシリン」という)化合物を主鎖に持つ新規なフェナザシリン系重合体、フェナザシリン系重合体の製造方法および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、フェナザシリン化合物は酸化を防止する化合物として知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、ジェットエンジンの潤滑剤用の耐熱性添加剤としても知られている(例えば、非特許文献2参照)。さらに、フェナザシリンの低分子化合物については、発光素子の正孔輸送材料として好適に用いられることも知られている(例えば、特許文献1,2参照)。一方で、ポリアニリンを初めとする芳香族アミン型ポリマーは、高い電気活性を示すことが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Issled.Obl.Fiz.Khim.Kauch.Rezin,2,14(1973)
【非特許文献2】Ann.N.Y.Acad.Sci.,125,242(1965)
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−302339号公報
【特許文献2】特開平10−218884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来のフェナザシリンをはじめとする低分子化合物を、発光素子をはじめとする電子素子の構成材料として用いる場合、キャスト法では膜形成がうまくいかないので、真空蒸着等の方法が用いられる。その場合、真空蒸着装置等の高価な機器が必要とされるので、より簡便な手段によって電子素子の構成材料として利用できることが求められていた。また、ポリアニリンを初めとする芳香族アミン型ポリマーは、一般の有機溶媒への溶解性が低いため、膜形成がしにくく、素子化が難しいという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、均質な膜を容易かつ低廉に作成できるフェナザシリン系重合体、フェナザシリン系重合体の製造方法および当該フェナザシリン系重合体を用いた有機薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明のフェナザシリン系重合体は、下記一般式(1)で示されるようなフェナザシリン化合物を主鎖骨格とすることを特徴とする。
【化4】

(式中、R,R,R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、nは平均重合度である。)
【0008】
また、請求項2に係る発明のフェナザシリン系重合体は、下記一般式(2)で示されるようなフェナザシリン化合物を主鎖骨格とすることを特徴とする。
【化5】

(式中、R,R,R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。nは平均重合度である。)
【0009】
また、請求項3に係る発明のフェナザシリン系重合体の製造方法は、下記一般式(3)で示されるジハロゲン化スピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物をニッケル錯体を用いてカップリング反応をさせることによって、請求項1に記載のフェナザシリン系重合体を製造することを特徴とする。
【化6】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
【0010】
また、請求項4に係る発明のフェナザシリン系重合体の製造方法は、請求項3に記載のハロゲン化スピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物と、ジスタニル化合物又はジボリル化合物とを、パラジウム系触媒の存在下で反応させることによって、請求項2に記載のフェナザシリン系重合体を製造することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に係る発明の有機薄膜トランジスタには、請求項1又は2に記載のフェナザシリン系重合体が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明のフェナザシリン系重合体は、上記一般式(1)で示されるようなスピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物を主鎖骨格としているので、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロ酢酸等の有機酸、トルエンやTHF(テトラヒドロフラン)等の通常の有機溶剤に容易に結晶化することなく溶解させることができる。よって、キャスト法等を用いることによって、均質な膜を容易かつ低廉に作成できる。
【0013】
また、請求項2に係る発明のフェナザシリン系重合体は、上記一般式(2)で示されるスピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物を主鎖骨格としているので、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロ酢酸等の有機酸、トルエンやTHF(テトラヒドロフラン)等の通常の有機溶剤に容易に結晶化することなく溶解させることができる。よって、キャスト法等を用いることによって、均質な膜を容易かつ低廉に作成できる。
【0014】
また、請求項3に係る発明のフェナザシリン系重合体の製造方法では、上記一般式(3)で示されるジハロゲン化スピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物をニッケル錯体を用いてカップリング反応をさせることによって、請求項1に記載のフェナザシリン系重合体を容易に製造できる。
【0015】
また、請求項4に係る発明のフェナザシリン系重合体の製造方法では、上記一般式(3)で示されるジハロゲン化スピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物と、ジスタニル化合物又はジボリル化合物とを、パラジウム系触媒の存在下で反応させることによって、請求項2に記載のフェナザシリン系重合体を容易に製造できる。
【0016】
また、請求項5に係る発明の有機薄膜トランジスタでは、請求項1又は2に記載のフェナザシリン系重合体が、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロ酢酸等の有機酸、トルエンやTHF(テトラヒドロフラン)等の通常の有機溶剤に容易に結晶化することなく溶解するから、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できるものであるので、有機薄膜トランジスタの構成材料に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】有機薄膜トランジスタ素子10の模式的断面図である。
【図2】トランジスタ特性の分析に用いた半導体パラメータアナライザの回路図である。
【図3】試料1の分析結果を示すグラフである。
【図4】試料2の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について、複数の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
まず、前記一般式(1)〜(3)において、R〜Rで表されるアルキル基としては、メチル、エチル、n−またはiso−プロピル、n−、iso−またはtert−ブチル、n−、iso−またはneo−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜24、好ましくは1〜12のアルキル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、o−、m−、p−トリル基、1−および2−ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基等の炭素数6〜50、好ましくは6〜32のアリール基が挙げられる。
【0020】
また、前記一般式(1)〜(3)において、R〜Rで表されるアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−またはiso−プロポキシ、n−、iso−またはtert−ブトキシ、n−、iso−またはneo−ペントキシ、n−ヘキソキシ、シクロヘキソキシ、n−ヘプトキシ、n−オクトキシ等の直鎖、分岐、環状の炭素数1〜24、好ましくは1〜12のアルコキシ基があげられる。アリーロキシ基としては、フェノキシ基、o−、m−、p−トリロキシ基、1−および2−ナフトキシ基、アントロキシ基、フルオレニル基等の炭素数6〜50、好ましくは6〜32のアリーロキシ基が挙げられる。
【0021】
さらに、R〜Rにおける「置換されていてもよい」の置換基としては、後記するカップリング反応に関与しないものであればよく、例えば、前記したアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基が挙げられる。
【0022】
また、前記一般式(2)において、Arで表される二価のアルキル基としては、o−、p−フェニレン、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−2,3−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,3−ジイル、ピリジン−4,5−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−1,2−ジイル、ナフタレン−1,7−ジイル、アントラセン−9,10−ジイル、アントラセン−1,4−ジイル、アントラセン−2,6−ジイル、アントラセン−1,7−ジイル、ビフェニレン−4,4’−ジイル、フルオレン−2,7−ジイルが挙げられ、これらの芳香族化合物の芳香環上が置換された化合物も含まれる。
【0023】
Arとして、アリール基の芳香環上が置換された化合物としては、アルコキシベンゼン−1,4−ジイル、アルキルベンゼン−1,4−ジイル、アリールベンゼン−1,4−ジイル、アリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルコキシベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアルキルベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリールベンゼン−1,4−ジイル、2,5−、2,3−、2,6−ジアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5−トリアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、2,3,5,6−テトラアリーロキシベンゼン−1,4−ジイル、アルコキシチオフェン−2,5−ジイル、アルキルチオフェン−2,5−ジイル、アリールチオフェン−2,5−ジイル、アリーロキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルコキシチオフェン−2,5−ジイル、ジアルキルチオフェン−2,5−ジイル、ジアリールチオフェン−2,5−ジイル、ジアリーロキシチオフェン−2,5−ジイル、9,9−ジアルコキシフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジアリールフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジアリーロキシフルオレン−2,7−ジイルが挙げられる。
【0024】
さらに、前記一般式(1)および(2)のR〜R、および一般式(2)のArが有する置換基としては、後述するカップリング反応に関与しないものであればよく、例えば、前記したアルコキシ基、アルキル基、アリール基、アリーロキシ基が挙げられる。
【0025】
前記一般式(1)および(2)における平均重合度nは、1を超える任意の数字を取りうるが、2<n<10000の範囲であることが望ましい。
【0026】
前記一般式(3)において、XおよびXで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0027】
前記一般式(1)で表される化合物は前記一般式(3)に記載の化合物を溶媒に溶かし、このモノマーに対し1〜20当量のニッケル錯体を用いて脱ハロゲン化カップリング反応を行うことによって製造することができる。この場合の反応は式(a)で表される。
【化7】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
【0028】
前記ニッケル錯体としては、テトラカルボニルニッケル(0)、ジカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、(η−エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(イソシアン化t−ブチル)ニッケル(0)、[(1,2,5,6,8,10−η)−trans,trans,trans−1,5,9−シクロドデカトリエン]ニッケル(0)、等を例示することができる。ニッケル錯体は、前記(3)の化合物一当量あたり、0.1〜20当量、好ましくは1〜5当量の割合で用いられる。
【0029】
また、ニッケル錯体には支持配位子として0.1〜10当量の2,2’−ビピリジルやトリフェニルホスフィン等の配位子を加えてもよい。例を挙げれば、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)に2,2’−ビピリジルを1当量加えて用いる、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)にトリフェニルホスフィンを2当量加えて用いる等である。
【0030】
前記一般式(2)で表される化合物の製造は、前記一般式(3)に記載の化合物とジスタニル化合物又はジボリル化合物をパラジウム系触媒の存在下に反応させることにより行うことができる。この反応は、下記反応式(b)で示される。
【化8】

【0031】
反応式(b)において、R〜R及びArは、いずれも前記一般式(1)および(2)で説明したと同意義である。また、XおよびXはそれぞれ独立に、ハロゲン原子を示し、Y、Yは、それぞれ独立に、ボリル基又はスタニル基を示す。
【0032】
これらの製造方法では、まず、ハロゲン化されたモノフェナザシリン化合物及びジスタニル化合物又はジボリル化合物を適当な有機溶媒に溶解させる。そして、その溶液中にモノマー1当量に対して0.001〜20当量のパラジウム系触媒を添加することによりカップリング反応が進行し、一般式(2)で表されるフェナザシリン系重合体を容易に得ることができる。
【0033】
また、反応式(b)中のY−Ar−Yにおいて、Y及びYで示されるスタニル基としては、トリメチルスタニル基、トリエチルスタニル基、トリブチルスタニル基、ジメチルブチルスタニル基が挙げられる。また、Y及びYで示されるボリル基としては、ジヒドロキシボリル基、ジメトキシボリル基、ジエトキシボリル基、メトキシエトキシボリル基、2,1,3−ジオキサボリル基が挙げられる。
【0034】
ここで、カップリング反応にはパラジウム系触媒が用いられる。パラジウム系触媒としては、従来公知の金属パラジウムを含むパラジウム化合物やパラジウム錯体が用いられる。具体的には、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、酢酸パラジウム、テトラキス(トリメチルホスフィン)パラジウム、トリス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリエチルホスフィト)パラジウム、テトラキス(トリフェニルアルシン)パラジウム、カルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、(η−エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、(η−無水マレイン酸)[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム、ビス(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、クロロ(メチル)(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジエチルビス(トリフェニルフォスフィト)パラジウム、ジエチルビス(トリメチルフォスフィト)パラジウム、ジエチルビス(トリ−i−プロピルフォスフィト)パラジウム、ジメチル[1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン]パラジウム、ジメチル[1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン]パラジウム、ジメチル[1,2−ビス(ジメチルアミノ)エタン]パラジウム、ジメチルビス(4−エチル−1−ホスファ−2,6,7−トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン)パラジウム、ビス(t−ブチルイソシアニド)ジメチルパラジウム、ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルイソシアニド)ジメチルパラジウム、ジフェニルビス(メチルジフェニルホスフィニト)パラジウム、ジベンジルビス(トリメチルホスフィン)パラジウム、ジエチニルビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ジネオペンチル(2,2’−ビピリジル)パラジウム、ブロモ(メチル)ビス(トリエチルホスフィン)パラジウム、ベンゾイル(クロロ)ビス(トリメチルホスフィン)パラジウム、シクロペンタジエニル(フェニル)(トリエチルホスフィン)パラジウム、η−アリル(ペンタメチルシクロペンタジエニル)パラジウム、π−アリル(1,5−シクロオクタジエン)パラジウムテトラフルオロほう酸塩、ビス(π−アリル)パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロエチレンジアミンパラジウム、塩化パラジウム、パラジウム炭素などの担持パラジウム金属等を例示することができる。これらのパラジウム系触媒は、原料のモノフェナザシリン化合物一当量あたり、0.001〜20当量、好ましくは0.01〜0.1当量の割合で用いられる。
【0035】
また、式(b)においては、パラジウム系触媒に対し0.1〜10当量の塩化リチウムや臭化銅、アンモニウム塩等の添加剤を加えて反応させてもよい。さらに、カップリング反応では塩基を加えて反応させることができる。その塩基としては、カップリング反応において通常用いられる種々の塩基を用いることができる。これを例示すれば、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、酢酸カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化バリウム、リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、フッ化セシウム、酸化アルミニウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−N−メチルピペリジン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルモルホリンが挙げられる。使用する塩基の量としては、前記反応式(b)に示したモノフェナザシリン化合物1当量に対して1〜100当量、好ましくは1〜20当量である。また、これらの塩基は水溶液にして使用してもよい。
【0036】
反応式(a)および反応式(b)におけるカップリング反応は、この種の反応において通常用いられる種々の溶媒を用いることができる。これを例示すれば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)等である。
【0037】
また、反応式(a)および反応式(b)におけるカップリング反応は、溶媒の融点〜溶媒の沸点まで種々の温度で実施できるが、特に0℃〜100℃程度が望ましい。反応終了後、生成物は再沈法やクロマトグラム等によって容易に精製できる。
【0038】
本発明のフェナザシリン系重合体は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トリフルオロ酢酸等の有機酸、トルエンやTHF等の通常の有機溶剤に容易に結晶化することなく溶解するから、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法等の通常の塗布法を用いて簡易に成膜化して薄膜を形成できるものであり、有機薄膜トランジスタの構成材料に用いることが可能である。
・実施例1
【0039】
スピロビス(2−ブロモ−5,8,10−トリメチル−5,10−ジヒドロフェナザシリン)の合成(一般式(3),R=R=R=R=メチル基,X=X=臭素原子)
【化9】

【0040】
まず、氷浴中、窒素雰囲気下で2.21gの4,N−ジメチル−2’,4’,4−トリブロモジフェニルアミンを45mLの脱水エーテルに懸濁させた後に6.7mLのn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.6M)を加えた。さらにテトラクロロシランを0.39g加え、沈殿が生成した後に氷浴を外して12時間攪拌した。反応液を氷水に注ぎ、エーテルで抽出した後にエーテル層を濃縮してメタノールで析出させることにより0.65gのスピロビス(2−ブロモ−5,8,10−トリメチル−5,10−ジヒドロフェナザシリン(化合物1)を薄黄色の粉末として単離した。
【0041】
化合物のNMRデータは以下のとおりである。
H‐NMRスペクトル(CDCl):δ6.9〜7.5(m,12H)ppm,3.62(s,6H)ppm,2.20(s,6H)ppm
13C−NMRスペクトル(CDCl):δ149.93ppm,149.08ppm,137.29ppm,135.61ppm,133.38ppm,131.98ppm,129.76ppm,122.00ppm,118.13ppm,117.09ppm,115.43ppm,113.01ppm,38,53ppm,20.36ppm
・実施例2
【0042】
ポリ(スピロビス(5,8,10−トリメチル−5,10−ジヒドロフェナザシリン)−2,2’−ジイルの合成(一般式(1),R=R=R=R=メチル基)
【化10】

【0043】
窒素雰囲気下で250mgのビス(シクロオクタジエン)ニッケル(0)に1,5−シクロオクタジエン1mLを加えた後にトルエン5mLを加えて懸濁させた。さらに2,2’−ビピリジル150mgを加えて攪拌した。さらに318.7mg(0.55mmol)の前記記載の化合物1(一般式(3),R=R=R=R=メチル基,X=X=臭素原子)を加えた後に60℃に昇温して48時間攪拌した。反応液をメタノールに注いで析出した粉末をクロロホルムに溶かし、水を加えて抽出した。クロロホルム層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムをろ別し、濃縮したクロロホルム層をメタノールにて再沈殿させた。得られた粉末をヘキサンで洗浄することにより上記重合体(ポリマー1)を130.9mg(モノマーユニットとして0.31mmol)を単離した。
【0044】
得られたポリマー1の数平均分子量は1500(n=3.6)、重量平均分子量は2500(n=6.0)であり、キャストフィルムを作製するためには十分な重合度であった。
・実施例3
【0045】
ポリ(スピロビス(5,8,10−トリメチル−5,10−ジヒドロフェナザシリン)−2,2’−ジイル−alt−9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)の合成(一般式(2),R=R=R=R=メチル基,Ar=9,9−ジアルキルフルオレン−2,7−ジイル)
【化11】

【0046】
窒素雰囲気下での前記記載の化合物1(一般式(3),R=R=R=R=メチル基,X=X=臭素原子)291.8mgと、9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジボロン酸(反応式b参照、Ar=9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル,Y=Y=ジヒドロキシボリル基)241.5mgとをトルエン5mLに加えて懸濁させた。次に、炭酸カルシウム1.07gを5mLの水に溶かしたものを加えて攪拌した。更にテトラキストリフェニルホスフインパラジウム(0)29.2mgを加えた後、塩化トリオクチルメチルアンモニウムを一滴加え、90℃に昇温して60時間攪拌した。生成した反応液をクロロホルムで抽出し、メタノールに析出させて得られた粉末をヘキサンで洗浄することにより、上記重合体(ポリマー2)を203mg(0.23mmol unit)単離した。
【0047】
得られたポリマー2の数平均分子量は3000(n=3.4)、重量平均分子量は4300(n=4.8)であり、キャストフィルムを作製するためには十分な重合度であった。
・実施例4
ポリマー1,2を用いた有機薄膜トランジスタの作成
【0048】
図1に示すように、基板6には厚さ0.7mmのガラス板を用い、このガラス板を超純水と有機溶媒を用いた超音波洗浄をした後、ゲート電極5としてアルミニウムを50nm真空蒸着した。
【0049】
次に、オゾン洗浄を行った後、ゲート電極5上にポリイミド前駆体をスピンコート法で成膜し、200℃でベークして厚さ270nmのゲート絶縁層4とした。その後、背面露光を用いてゲート電極5上にレジストを形成し、この上から金を50nm真空蒸着で成膜した後リフトオフを行うことでソース電極2とドレイン電極3を形成した。この上からポリマーの1.0wt%1,2−ジクロロエタン溶液をキャスト法で成膜することによりポリマー層とし、有機薄膜トランジスタ10の作製を行った。なお、ポリマー層7を上記したポリマー1で作成した有機薄膜トランジスタ10を「試料1」とし、ポリマー層7を上記したポリマー2で作成した有機薄膜トランジスタ10を「試料2」として以下説明する。
【0050】
・実施例5
試料1,2のトランジスタ特性の分析
分析項目は、移動度[cm/Vs]、on−off比、閾値電圧[V]の3つのパラメータである。on−off比とは、有機トランジスタがオンであるときのソース電極とドレイン電極間の電流の、有機トランジスタがオフであるときのソース電極とドレイン電極間の電流に対する比のことである。閾値電圧とは、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流が流れない状態)からオン状態(ドレイン電流が流れる状態)に移り変わるときの、境界となるゲート電圧のことである。
【0051】
分析方法について説明する。本分析は、図2に示す半導体パラメータアナライザ20を用いて行った。半導体パラメータアナライザ20では、FET21である試料1,2を被測定対象物とした。FET21のゲート側には入力電位を接続し、ソース側には基準電位を接続し、基準電位からの出力電圧を適宜変更した。入力電位からゲートに流れる電流は電流計22で計測し、入力電位と基準電位との電位差であるゲート電圧は電圧計24で計測した。FET21のドレイン側には出力電位を接続した。FET21にゲート電圧を印加することで、ドレインからソースに向けて電流が流れる。ドレイン−ソース間を流れる電流を電流計27で計測した。出力電位と基準電位との電位差は電圧計29で計測した。このような半導体パラメータアナライザ20を用いて、試料1,2の分析条件を以下のように設定した。
【0052】
試料1のゲート長は50μm、ゲート幅は630μmであった。試料1の分析では、ゲート電圧を−40V〜−10Vまで5V毎に異なる7つの試験区を設け、各試験区においてドレイン電圧を5V〜−30Vまで変えたときのドレイン−ソース間を流れる電流を電流計27で計測した。試料2の分析では、ゲート電圧を10V〜−50Vまで10V毎に異なる7つの試験区を設け、各試験区においてドレイン電圧を10V〜−30Vまで変えたときのドレイン−ソース間を流れる電流を電流計27で計測した。そして、これら各分析結果に基づき、移動度[cm/Vs]、on−off比、閾値電圧[V]を算出した。
【0053】
試料1のトランジスタ特性の分析結果について、図3を参照して説明する。試料1では、ゲート電圧を−40V〜−10Vの範囲内でかえたどの試験区においても、ドレイン−ソース間に電流が流れた。そして、これらのデータに基づき、試料1のトランジスタ特性を分析したところ、移動度=1.22×10−7[cm/Vs]、on−off比=103.10、閾値電圧=−8.05Vであった。これにより、ポリマー1で作製した試料1の有機薄膜トランジスタは、良好なp型トランジスタ特性を有することが実証された。
【0054】
試料2のゲート長は10μm、ゲート幅は700μmであった。試料2のトランジスタ特性の分析結果について、図4を参照して説明する。試料2でも、ゲート電圧を10V〜−50Vの範囲内でかえたどの試験区においても、ドレイン−ソース間に電流が流れた。そして、これらのデータに基づき、試料2のトランジスタ特性を分析したところ、移動度=4.47×10−8[cm/Vs]、on−off比=100.81、閾値電圧=6.8Vであった。これにより、ポリマー2で作製した試料2の有機薄膜トランジスタも、良好なp型トランジスタ特性を有することが実証された。
【符号の説明】
【0055】
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート絶縁層
5 ゲート電極
6 基板
7 ポリマー層
10 有機薄膜トランジスタ
20 半導体パラメータアナライザ
21 FET
22,27 電流計
24,29 電圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるスピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物を主鎖骨格としたことを特徴とするフェナザシリン系重合体。
【化1】

(式中、R,R,R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、nは平均重合度である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で示されるスピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物を主鎖骨格としたことを特徴とするフェナザシリン系重合体。
【化2】

(式中、R,R,R,Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、Arは二価のアリール基を示す。nは平均重合度である。)
【請求項3】
下記一般式(3)で示されるジハロゲン化スピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物をニッケル錯体を用いてカップリング反応をさせることによって、請求項1に記載のフェナザシリン系重合体を製造することを特徴とするフェナザシリン系重合体の製造方法。
【化3】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基または水素原子を示し、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
【請求項4】
請求項3に記載のジハロゲン化スピロビス(5,10−ジヒドロ−5H−フェナザシリン)化合物と、ジスタニル化合物又はジボリル化合物とを、パラジウム系触媒の存在下で反応させることによって、請求項2に記載のフェナザシリン系重合体を製造することを特徴とするフェナザシリン系重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のフェナザシリン系重合体が用いられていることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−46767(P2011−46767A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194095(P2009−194095)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】