説明

フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤

【課題】フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤であって、毒性や環境問題が小さい溶液型接着剤及び、毒性や環境問題が小さいフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤であって、熱間接着強さ及び熱老化後の常態接着強さを有する接着剤を提供する。
【解決手段】(A)ポリビニルアセタール樹脂を100重量部、(B)フェノール樹脂を30〜300重量部、(C)炭酸エステルを100〜500重量部、及び(D)メタノールを10〜200重量部含有することを特徴とするフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤に関し、特に環境に対する負荷が高いとされる芳香族系溶剤や塩素系溶剤を使用しないフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤(フェノリック−ビニル系接着剤)はフェノール樹脂の耐熱性とポリビニルアセタール樹脂の可撓性を有する接着剤である。耐熱性と靭性があり、金属に対する接着性に優れている。
【0003】
プリント配線用銅張積層板は銅箔とフェノール樹脂等の基材を積層したものであるが、回路作成後ハンダ浴に浸漬されるため耐熱性が必要であり、また回路作成された基板に穴あけ加工がされるので靭性が必要とされる。このため、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤は特許文献1や特許文献2に記載されているように、古くから銅箔とフェノール樹脂等の基材の接着に使用されている。
【0004】
また、乗用車、トラックなどの車両用ディスクブレーキやドラムブレーキは、ブレーキ操作でブレーキの摩擦材とディスクまたはドラムが接触して生じる摩擦熱により、ディスクまたはドラムや摩擦材の周辺が高温に曝される。プレッシャープレート等の金属性のブレーキ部材と摩擦材は接着剤で接合されることが多い。そのため、制動部材の組立てに用いられる接着剤には耐熱性が必要とされる。一方、ブレーキをかけた時の衝撃で制動部材が破壊しないよう、制動部材の組立てに用いる接着剤には可撓性も必要とされる。このため、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤は特許文献3に記載されているように、金属製のブレーキ部材と摩擦材との接着にも使用されている。
【0005】
フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を上記用途に使用する場合には、溶剤に溶解して使用することが望ましい。特許文献1〜特許文献3にあるように、溶媒としてトルエン等の芳香族化合物溶媒やジクロロメタン等のハロゲン化物溶媒が使用されている。特に、トルエンとエタノールの混合溶媒が多くの特許文献の実施例で使用されている。
【0006】
しかしながらこれらの溶媒は環境問題を有しており、使用しないことが望ましい。しかしながら、一般的な工業用溶剤であって毒性が小さい溶剤であるメチルアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテートなどのエステル類、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類では、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を十分に溶解することができない。特に、ポリビニルアセタール樹脂として、耐熱性に優れるポリビニルホルマール樹脂を使用した場合、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を十分に溶解することができる環境問題が小さい溶媒は見いだされていない
【0007】
特許文献4では、溶媒を用いない粉末状フェノール樹脂系接着剤が提案されている。この接着剤は溶剤若しくは水分を揮発させずに接着できる利点を有するが、塗布量の調整が困難であり、ドラムブレーキ用のプレッシャープレートのように塗布面が湾曲している場合、容易に塗布できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭42−026400号公報
【特許文献2】特公昭48−012068号公報
【特許文献3】特開昭63−022882号公報
【特許文献4】特開平5−65468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤であって、毒性や環境問題が小さい溶液型接着剤を提供することにある。本発明の他の目的は毒性や環境問題が小さいフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤であって、熱間接着強さ及び熱老化後の常態接着強さに接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の溶媒として炭酸エステル及びメタノールからなる混合溶媒を使用すると、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を溶解することができ、また、得られた接着剤の熱間接着強さ及び熱老化後の常態接着強さが優れることを見出した。すなわち、本発明は次のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤およびこの接着剤を使用した制動部材の組立方法である。
【0011】
(1)(A)ポリビニルアセタール樹脂を100重量部、
(B)フェノール樹脂を30〜300重量部、
(C)炭酸エステルを100〜500重量部、及び
(D)メタノールを10〜200重量部含有することを特徴とするフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0012】
(2)前記(A)ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルホルマール樹脂及びポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0013】
(3)前記(A)ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルホルマール樹脂であることを特徴とする(2)記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0014】
(4)前記ポリビニルホルマール樹脂が重量平均分子量50,000以上のポリビニルホルマール樹脂であることを特徴とする(3)記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0015】
(5)前記(B)フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0016】
(6)前記(C)炭酸エステルがエチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0017】
(7)前記(C)炭酸エステルがジメチルカーボネートであることを特徴とする(6)記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0018】
(8)制動部材の組立てを用途とする(1)〜(7)のいずれか1つに記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【0019】
(9)(8)記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤を用いて制動部材を組立てることを特徴とする制動部材の組立方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤はトルエン、キシレン、ジオキサン及び塩素系溶剤を使用しないので環境負荷を低減し、刺激性、毒性、環境汚染性、臭気のいずれにおいても問題が少なく、安全性を高めるという効果を有する。また、熱間接着強さ及び熱老化後の常態接着強さが優れており、プリント配線用銅張積層板の金属との接着や制動部材組立用接着剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の接着剤を用いたディスクブレーキ1の断面図である。
【図2】本発明の接着剤を用いたドラムブレーキ20の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に用いる(A)ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化した樹脂の総称である。
【0023】
ポリビニルアセタール樹脂としては、たとえば、一般式
【化1】

(式中、R1は水素原子またはアルキル基を示す。)
で表されるビニルアセタール単位(1)を主体とし、一般式
【化2】

で表されるビニルアルコール単位(2)、および場合により一般式
【化3】

(式中、R2は水素原子、アルキル基またはアルコキシ基を示す。)
で表されるビニルカルボキシレート単位(3)を繰り返し単位として含む重合体が挙げられる。このポリビニルアセタール樹脂のうち、ビニルアセタール単位(1)を50〜90重量%、ビニルアルコール単位(2)を0.1〜20重量%およびビニルカルボキシレート単位(3)を5〜20重量%の割合でそれぞれ含むものは、入手が容易である。
【0024】
上記繰り返し単位(1)〜(3)を含むポリビニルアセタール樹脂の具体例としては、たとえば、ポリビニルホルマール(ビニルアセタール単位(1)におけるR1=水素原子、ビニルカルボキシレート単位(3)におけるR2=メチル基)、ポリビニルアセトアセタール(ビニルアセタール単位(1)におけるR1=メチル基、ビニルカルボキシレート単位(3)におけるR2=メチル基)、ポリビニルプロピラール(ビニルアセタール単位(1)におけるR1=エチル基、ビニルカルボキシレート単位(3)におけるR2=メチル基)、ポリビニルブチラール(ビニルアセタール単位(1)におけるR1=プロピル基、ビニルカルボキシレート単位(3)におけるR2=メチル基)などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルホルマールは耐熱性に優れており制動部材組立用接着剤に、また、ポリビニルブチラールはプリント配線用銅張積層板によく使用される。ポリビニルホルマールは耐熱性に優れているが、有機溶媒への溶解性が小さい。従って本発明の接着剤はポリビニルホルマールを使用する場合であっても、ポリビニルホルマールが十分に溶解した接着剤を得ることができ、制動部材組立用接着剤に特に好適である。
【0025】
ポリビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位(2)の含有量は、好ましくは0.1〜20重量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%、特に好ましくは1〜7重量%である。ビニルアルコール単位(2)の含有量が0.1重量%よりも少ないと、ポリビニルアセタール樹脂の接着性が低下するおそれがある。一方、20重量%を超えると、接着剤の不揮発分が低くなり過ぎるおそれがある。ところで、ポリビニルアセタール樹脂中のビニルアルコール単位(2)の含有量は、ポリビニルアセタール樹脂の種類およびその製法に依存し、たとえば、ポリビニルブチラールで10〜20重量%、ポリビニルホルマールで5重量%前後であり、ポリビニルホルマールの方が好ましい。もちろん、その他のポリビニルアセタール樹脂であっても、ビニルアルコール単位(2)の含有量を前記範囲内に調整できれば、ポリビニルホルマールと同様に好適に使用できる。
【0026】
本発明に係るポリビニルアセタール樹脂において、ビニルアセタール単位(1)の含有量は、好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜95重量%、特に好ましくは75〜95重量%の範囲から適宜選択される。
【0027】
ポリビニルアセタール樹脂の分子量は、原料のポリビニルアルコールの分子量に依存し、原料のビニルアルコールの数平均重合度で示すと、好ましくは50〜5,000、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは300〜3,000である。ポリビニルアセタール樹脂の分子量が小さすぎると接着剤の接着性が損なわれるおそれがある。重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては10,000〜500,000、さらには20,000〜300,000、特には30,000〜200,000が好ましい。分子量が大きくなるほど有機溶媒への溶解性が小さくなり、特にポリビニルホルマールであって分子量が大きいものは有機溶媒、特に環境問題がなく沸点が低い溶媒、には溶解しにくい。しかし、本発明の接着剤は重量平均分子量が50,000以上、さらには80,000以上の高分子量のポリビニルホルマールであっても十分使用することができる。
【0028】
本発明に用いる(B)フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂のいずれでも使用することができる。また、液状、固形、粉末のいずれの形状でも使用することができる。
【0029】
以上に例示したフェノール樹脂のうち、接着性、特に熱間接着強さ及び熱老化後の常態接着強さの観点からレゾール型フェノール樹脂が望ましい。
【0030】
(B)フェノール樹脂の使用量は、(A)ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対し、30〜300重量部使用することが好ましく、150〜250重量部使用することがさらに好ましい。フェノール樹脂が30重量部未満では十分な耐熱性が得られず、300重量部を超えると十分な可撓性が得られず、耐衝撃性が低下する。
【0031】
本発明に用いる(C)炭酸エステルは炭酸とアルコールとをエステル化した構造を有し、刺激性、毒性、悪臭性が低く、環境影響が非常に低い溶剤である。また、類似の構造のカルボン酸エステル溶剤に比べて引火性が非常に低く、より安全であるという特徴を有する。たとえば、酢酸エチルの引火点−4℃に対して、炭酸ジエチルの引火点は31℃であり、室温以上である。
【0032】
このため、本発明のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤は、従来使用されてきたフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤よりも、安全に作業を行なうことができる。
【0033】
炭酸エステルには、2つの置換基が互いに連結していない鎖状炭酸エステルと、2つの置換基が互いに連結した構造である環状炭酸エステルとがある。
【0034】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルn−プロピルカーボネート、エチルn−プロピルカーボネート、ジn−プロピルカーボネート、メチルiso−プロピルカーボネート、エチルiso−プロピルカーボネート、ジiso−プロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ブチルn−プロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、メチル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、エチル−2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、ジ(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、メチル−3,3,3,2,2−ペンタフルオロプロピルカーボネート、エチル−3,3,3,2,2−ペンタフルオロプロピルカーボネート、プロピル−3,3,3,2,2−ペンタフルオロプロピルカーボネート、ジ(3,3,3,2,2−ペンタフルオロプロピル)カーボネートなどが挙げられる。
【0035】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1、3−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンテンカーボネート、2,3−ペンテンカーボネート、1,2−ヘキセンカーボネート、2,3−ヘキセンカーボネート、3,4−ヘキセンカーボネート、n−ブチルエチレンカーボネート、n−ヘキシルエチレンカーボネート、シクロヘキシルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,1−ジフルオロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、フルオロメチルエチレンカーボネート、ジフルオロメチルエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0036】
以上に例示した炭酸エステルのうち、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の溶解性と接着剤の粘度の観点からは分子量が小さい炭酸エステルが望ましい。このような炭酸エステルとして、エチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1、3−プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルn−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、メチルiso−プロピルカーボネート、エチルiso−プロピルカーボネート、ジiso−プロピルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネートなどが望ましく、エチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどがさらに望ましく、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートがもっとも望ましい。
【0037】
鎖状炭酸エステルおよび環状炭酸エステルはそれぞれ単独で用いてもそれらを混合して用いても良い。フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の溶解性をさらに高めるためには、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の分子量や化学構造を特定のものに限定するか、または溶解時に加熱を行なうことによってフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を溶解することができる。ここで、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の溶解性を高めるとは、たとえば、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂をより高濃度で溶解すること、ポリビニルアセタール樹脂の種類に関係なく溶解できること、溶解時に加熱する必要がないこと、溶解後、接着剤温度が低下して室温以下になってもフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の析出がないことなどを意味する。
【0038】
また、炭酸エステルの含有水分量は、200ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。この範囲にあれば、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の含有水分量が低く抑えられて好ましい接着剤が得られる。
【0039】
(C)炭酸エステルの使用量は、(A)ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対し、100〜500重量部使用することが好ましく、200〜400重量部使用することがさらに好ましい。炭酸エステルが100重量部未満では、接着剤の粘度が高くなり塗布性が低下する。また接着剤の貯蔵安定性も低下する。400重量部を超えると不揮発分が低下するので乾燥に時間がかかり、接着剤層も薄くなるので十分な接着強さを得ることができない。
【0040】
本発明では溶媒として炭酸エステルと共にメタノールを使用する。エタノールやブタノール等の他のアルコールではフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の溶解性に劣る。特に重量平均分子量が50,000以上のフェノール樹脂・ポリビニルホルマール樹脂を溶解することが困難である。(D)メタノールの使用量は(A)ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対し、10〜200重量部使用することが好ましく、50〜100重量部使用することがさらに好ましい。10重量部未満では、フェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を均一に溶解することが困難となる。200重量部を超えると不揮発分が低下するので乾燥に時間がかかり、接着剤層も薄くなるので十分な接着強さを得ることができない。
【0041】
本発明の接着剤には、上記の成分の他に、接着剤の性能の損なわない範囲内で必要に応じて、カップリング剤、充填剤、希釈剤、着色剤などを加えてよい。カップリング剤としては、クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン等のシランカップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリラウリルミスティルチタネート等のチタン系カップリング剤が挙げられる。充填剤としては、カーボンブラック、酸化チタン、タルク、クレー、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、マイカ等が挙げられる。希釈剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のメタノール以外のアルコール系溶剤、ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ペンタン、ヘキサン等が挙げられる。着色剤としては、酸化チタン、酸化クロム、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0042】
本発明の接着剤の製造方法には特に限定されることなく、(A)ポリビニルアセタール樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)炭酸エステル、(D)メタノールを一括に混合させる方法、及び(A)ポリビニルアセタール樹脂、(B)フェノール樹脂を(C)炭酸エステルに溶解した後、(D)メタノールを添加する方法などがある。
【0043】
混合については、公知の攪拌機付き混合装置が使用でき、粘度が高いときはプラネタリーミキサー、ニーダーなどの高粘度用混合機も使用できる。また、混合温度も特に限定されないが、通常は20〜30℃の範囲から好適に選択される。
【0044】
本発明の接着剤は、金属と金属の接着、金属と樹脂板、金属と摩擦材の接着に用いると、200℃の熱時強度が保持され、かつ、熱老化した後も十分な接着強さを有する。本発明の接着剤によって接着される被着体は、金属、樹脂板、摩擦材が挙げられ、金属と金属、金属と樹脂板や摩擦材、樹脂板と樹脂板、摩擦材と摩擦材の組合せが挙げられるが、中でも、金属と摩擦材との組合せであるのが好ましい。金属としては、銅、鋼鉄、ねずみ鋳鉄、NiやCrの添加あるいは高炭素化鋼などの金属が挙げられる。また、樹脂板の例としてはフェノール樹脂板が挙げられる。摩擦材の例としては、フェノール樹脂に、バインダーとして、ゴム等の有機質や、フィラーとして、銅、黄銅、亜鉛などの金属質、黒鉛、MoS,BaSO,CaCO,SiO,MgOなどの無機質を添加した摩擦材が挙げられる。
【0045】
特に、自動車の場合、金属がブレーキのプレッシャープレートで、摩擦材がカーボン繊維をフェノールバインダーで固めたライニングであって、本発明の接着剤をプレッシャープレートとライニングの間に挟んで接着するのが好ましい。本発明の接着剤を用いた制動部材の組立方法は、本発明の接着剤を上述の被着体の一方または両方の面に塗布し、その2つの被着体で接着剤を挟み、150〜200℃で0.2〜3時間加熱して硬化することによって行える。
【0046】
本発明の接着剤は、自動車、二輪車、鉄道車両、航空機、産業機械等のブレーキ及びクラッチフェーシング、特に自動車のディスクブレーキやドラムブレーキの金属製のプレッシャープレートと摩擦材であるライニングとの接着に有用である。図1に自動車用のディスクブレーキの1例を図示し、本発明の接着剤を用いたブレーキについて説明する。
【0047】
図1は車輪の軸に平行に切ったディスクブレーキ1の断面図である。図1で、ディスクブレーキ1は、車輪の軸11に車輪と平行に設けられる金属製のディスク10と、そのディスク10の両側の平面に離隔して設けられ、ディスク10の平面に対して平行な接触面を有する一対のライニング12、12’およびそれらのライニング12、12’を保持するプレッシャープレート14、14’からなるブレーキ部を有する。このブレーキ部は油圧装置の圧力により、ピストン15、15’を介して金属製のディスク10に対して直角方向に移動可能である。ライニング12とプレッシャープレート14あるいはライニング12’とプレッシャープレート14’は、本発明の接着剤13、13’で接着され1体化されている。
【0048】
ディスク10は、鋼鉄、ねずみ鋳鉄、NiやCrの添加あるいは高炭素化鋼などの金属製の円板であって、車輪の軸11に対してディスク10の円板が垂直になるように車輪の軸11に固定されている。ライニング12、12’は、フェノール樹脂に、バインダーとしてゴムなどの有機質、銅、黄銅、亜鉛などの金属質、黒鉛、MoS,BaSO,CaCO,SiO,MgOなど無機質を添加した摩擦材からなり、ディスク10を挟んで対で車体に具備され、ディスク10と対峙する面の裏面でプレッシャープレート14、14’と接着剤13、13’によって接着されている。
【0049】
プレッシャープレート14、14’は、ねずみ鋳鉄、鋼等の金属製であって、一端はピストン15、15’を介してブレーキの油圧装置に繋がり、もう一方は、本発明の接着剤13、13’を介して各ライニング12、12’と接着されている。
【0050】
さらに、ドラムブレーキの場合として、図2に1例として、車輪の軸と垂直に車輪を切断したドラムブレーキ20の断面図を示した。図2で、車輪のドラム21は、ねずみ鋳鉄、鋼等の金属製であり、ライニング12、12’、プレッシャープレート14、14’は、ディスクブレーキの場合と同様の材質からなり、接着剤13,13’を介して接着されている。ブレーキ操作がなされると、油圧装置の圧力によりピストン15、15’を介してプレッシャープレート14、14’がディスク10あるいはドラム21の方向に押され、プレッシャープレート14、14’を介してライニング12、12’が、回転しているディスク10の両側の平面あるいはドラム21の内側の面と接触して摩擦抵抗を生じることでディスク10あるいはドラム21の回転を阻止し、車輪の回転にブレーキがかかる。
【0051】
かくして得られた接着剤組成物は熱間接着強さ及び熱老化後の常態接着強さが優れているとともに、トルエン、キシレン、ジオキサン及び塩素系溶剤を使用しないので環境負荷を低減し、刺激性、毒性、環境汚染性、臭気、引火性のいずれにおいても問題が少なく、安全性を高めることができることから、制動部材の組立用接着剤として有用である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0053】
実施例の接着剤は、表1に示す組成で前記得られた接着剤について、下記試験を行った。
【0054】
(相溶性試験)
50mlのガラス瓶に約20gいれ、23℃にて24時間放置後の溶解状態を目視にて確認した。
評価基準 ◎:均一に相溶している。
○:一部少量の分離が見られる。
△:一部かなりの分離が見られる。
×:全体的に分離が見られる。
【0055】
(塗布性試験)
バーコーターを用いてクラフト紙上に、塗布量が120g/mとなるように塗布した。その時の塗布状態を目視にて確認した。
評価基準 ○:均一にムラなく塗布されている。
×:均一にムラなく塗布されていない。
【0056】
(粘度)
JIS K6833−1の5.4「粘度」の試験方法に準拠し、23℃条件下における接着剤組成物の粘度を、BM型回転粘度計を用いて測定した。
【0057】
(乾燥性試験)
バーコーターを用いてクラフト紙上に、塗布量が120g/mとなるように塗布した。50℃雰囲気にて30分間放置し、接着剤の状態を指触にて確認した。
評価基準 ○:接着剤が手に付着せず、ベタツキがない。
△:接着剤が手に付着しないが、ベタツキがある
×:接着剤が手に付着する。
【0058】
(常態接着強さ試験)
幅25mm、長さ100mm、厚み1.6mmの軟鋼板2枚に、接着剤組成物を一端から12.5mmの長さの部分に塗布量が100g/mとなるように、バーコーターを用いて塗布する。50℃にて30分間オープンタイムをとった後、接着剤塗布部分が重なり合うように貼り合わせる。10kgf/cmの圧締圧をかけたまま、200℃、2時間の条件で硬化して試験片を得た。前記得られた試験片を23℃7日間放置後、23℃雰囲気下で引張りせん断接着強さを測定する(引張りスピード2.5mm/分)。
【0059】
(熱間接着強さ試験)
常態接着強さ試験と同様に作成して得られた試験片を、200℃雰囲気下で引張りせん断接着強さを測定する(引張りスピード2.5mm/分)。
【0060】
(熱老化後の常態接着強さ試験)
常態接着強さと同様に作成して得られた試験片を、200℃で7日間熱老化させた後、23℃雰囲気下で引っ張りせん断接着強さを測定する(引張りスピード2.5mm/分)。
【実施例1】
【0061】
実施例1においては(A)ポリビニルアセタール樹脂としてポリビニルホルマール樹脂、(B)フェノール樹脂としてレゾール型フェノール樹脂、(C)炭酸エステルとしてジメチルカーボネートを使用した。接着剤の相溶性、塗布性、粘度、乾燥性、接着強さは表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
※1:ポリビニルホルマール樹脂、商品名:ビニレックE(数平均分子量115000) チッソ株式会社製
※2:レゾール型フェノール樹脂、商品名:スミライトレジンPR51406 住友ベークライト株式会社製
【実施例2】
【0064】
実施例2では、(C)炭酸エステルとしてジエチルカーボネートを用いた。実施例1と実施例2の比較から、実施例1が相溶性および乾燥性すぐれ、また、接着強さも優れることがわかる。
【0065】
(比較例1、2)
比較例1ではメタノールを使用せず、ジメチルカーボネートのみを使用した。比較例2ではメタノールに代えてエタノールを使用した。比較例1ではフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂は溶解しなかった。また、比較例2ではフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂は溶解したが相溶性は実施例1や実施例2より劣った。
【0066】
(比較例3、4)
比較例3では炭酸エステルに代えてベンジルアルコールを用いた。比較例4ではベンジルアルコールとメタノールを併用した。この溶媒はフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を溶解し、環境問題が小さい溶媒の検討中に見出したものであり、ベンジルアルコール単独でもフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を溶解する。しかし、ベンジルアルコールを用いることにより相溶性は十分であるが、粘度が高く塗布性が低下することがわかる。また乾燥時間が長くなり、乾燥性も低下することがわかる。また、比較例3、4より実施例1のほうが接着強さに優れることがわかる。
【0067】
(比較例5,6、7)
比較例5ではフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂の溶媒として特許文献において使用例があるトルエンとエタノールの混合溶媒を使用した。実施例1や実施例2と比較し相溶性は不十分であった。また、比較例6ではトルエンとエタノールの混合溶媒を使用した。この場合、比較例5よりも相溶性は改善されるが実施例1の場合のほうが相溶性は優れていた。比較例6接着剤を使用して接着強さの評価を行ったが、実施例1の場合のほうが接着強さは優れていた。なお、実施例7はトルエンのみを使用したがフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を溶解できなかった。
【0068】
(比較例8〜13)
比較例8〜13では環境問題が小さく、適度の沸点を有する溶媒やこの溶媒とメタノールの混合溶媒を使用した。表から明らかなように、これらの溶媒はフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂を溶解できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の接着剤は、溶媒として環境問題が小さいものを使用し、且つ、200℃の高温での接着強さに優れ、さらに、熱老化した後の接着強さにも優れている。本発明の接着剤は、ディスクブレーキやドラムブレーキなどの車両用のブレーキのプレッシャープレートと摩擦材との接着の他、クラッチフェーシングや鉄道車両の制輪子の組立てにも有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 ディスクブレーキ
10 ディスク
11 車輪の軸
12、12’ ライニング
13、13’ 本発明の接着剤
14、14’ プレッシャープレート
15、15’ ピストン
20 ドラムブレーキ
21 ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリビニルアセタール樹脂を100重量部、
(B)フェノール樹脂を30〜300重量部、
(C)炭酸エステルを100〜500重量部、及び
(D)メタノールを10〜200重量部含有することを特徴とするフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項2】
前記(A)ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルホルマール樹脂及びポリビニルブチラール樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項3】
前記(A)ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルホルマール樹脂であることを特徴とする請求項2記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項4】
前記ポリビニルホルマール樹脂が重量平均分子量50,000以上のポリビニルホルマール樹脂であることを特徴とする請求項3記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項5】
前記(B)フェノール樹脂がレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項6】
前記(C)炭酸エステルがエチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項7】
前記(C)炭酸エステルがジメチルカーボネートであることを特徴とする請求項6記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項8】
制動部材の組立てを用途とする請求項1〜7のいずれか1つに記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤。
【請求項9】
請求項8記載のフェノール樹脂・ポリビニルアセタール樹脂系接着剤を用いて制動部材を組立てることを特徴とする制動部材の組立方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190351(P2011−190351A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57852(P2010−57852)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000108111)セメダイン株式会社 (92)
【Fターム(参考)】