説明

フォトクロミック二色性染料としての3H−ナフト[2,1−b]ピランおよびこれを含む光学物品

式(I)で表されるナフトピラン化合物を提供する:式中、n1、n2、p、およびqは0〜5の整数であり;mは0〜4の整数であり;R1およびR2は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-NRbRc、-CO-Ra、および-CO2Ra1(式中、Ra、Ra1、Rb、およびRcは、明細書において詳細に定義する)から選択される基を表し;R3は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1から選択される基を表し;R4は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-CO-Ra、-CO2Ra1から選択される基を表し;R5は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表すか、あるいは、qが2である場合において、2つのR5は一緒に-O-(CH2)q1-O-(式中、q1は1〜3の整数を表す)を表す〕。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一群の新規な染料であって、フォトクロミック性および二色性の両方を有する染料、および光学物品、特に、眼科用レンズなどの光学レンズにおけるこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムは、よく知られた物理現象であり、特定の部類の化学化合物で観察される。この現象についての詳細な議論は、Organic Chemistry 40における研究「Photochromism : Molecules and Systems」(H. Durr and H. Bouas-Laurent編、Elsevier、1990)に記載されている。
多くの置換3H-ナフト[2,1-b]ピランが、可逆的なフォトクロミック効果を有するとして知られている。例えば、国際公開第99/31082号、米国特許第6,630,597号、同第5,552,090号、同第5,520,853号、および同第5,623,005号に記載されているとおりである。しかし、これらの3H-ナフト[2,1-b]ピラン化合物のうち、二色性を有することが報告されているものは一つもない。
【0003】
受動的なフォトクロミックデバイス、すなわち、その吸収が、UV光の存在または非存在にのみ依存するフォトクロミック染料を含有するデバイスは、典型的にはかなり速い活性化(着色)を示すが、一般に、着色状態から脱色状態に戻るのに数分あるいは場合により数十分かかる。この遅い消色は、日の当たる所を離れて夕食用の照明下に入る際に明瞭な視界を得るために眼鏡を外さなければならないフォロクロミック眼鏡の使用者にとって重要な欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/31082号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,630,597号公報
【特許文献3】米国特許第5,552,090号公報
【特許文献4】米国特許第5,520,853号公報
【特許文献5】米国特許第5,623,005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、良好なフォトクロミック性、例えば、着色状態での高い吸収、迅速な着色速度および消色速度を有するだけではなく、空間的に規則正しい状態に置かれた場合(例えば、液晶または配向されたポリマーホスト材料に組み込まれた場合)には二色性および直線偏光能力をも有するフォトクロミック染料への要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したことを考慮に入れて、本発明の第一の観点は、フォトクロミック性と、二色性とを両方有する染料を提供することである。
【0007】
本発明の別の観点は、式(I)で表されるナフトピラン化合物を提供することである:
【化1】

[式中、
− n1は、0〜5の整数であり;
− n2は、0〜5の整数であり;
− pは、0〜5の整数であり;
− mは、0〜4の整数であり;
− qは、0〜5の整数であり;
− R1およびR2は、同じであるかまたは異なり、互いに独立に、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-NRbRc、-CO-Ra、-O-CO-Ra、および-CO2Ra1
〔式中、
- Raは、直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)アルキル基、または直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)ペルフルオロアルキル基を表し;
- Ra1は、水素、直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)アルキル基、および直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される基を表し;
- RbおよびRcは一緒に、さらに窒素原子と一緒に、場合によりO、N、およびSから選択されるさらなる1個のヘテロ原子を含んでいてもよく、場合によりハロゲン、Ra、-OH、-ORa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基で置換されていてもよい、5〜7員環の飽和複素環基を表すか、あるいは、
RbおよびRcは一緒に、窒素原子および隣接するフェニル基と一緒に、式(A)の複素環基:
【化2】

を形成する〕
から選択される基を表し;
− R3は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表し;
− R4は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-CO-Ra、および-CO2Ra1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表し;
− R5は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表すか、あるいは、
qが2であり、かつ、2つのR5置換基が、ナフト[2,1-b]ピラン基のC-7、C-8、C-9、およびC-10から選択される2つの隣接する炭素原子上に位置する場合において、これら2つのR5置換基がさらに、一緒に-O-(CH2)q1-O-基(式中、q1は1〜3の整数を表す)を表す]。
【0008】
本発明のさらに別の観点は、本発明の1種以上のナフトピラン化合物を含む光学物品を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ナフトピラン基のC-6位に置換ビフェニル基を有する3H-ナフト[2,1-b]ピランを提供する。
【0010】
1つ以上の実施態様において、ビフェニル部分を組み込むと、活性状態でのフォトクロミック染料の二色性が顕著に改良される。この新規な染料化合物は、異方性(anisotropic)ホスト材料(例えば、液晶、配向性ポリマーなど)に組み込まれると、ホスト材料と一緒に強く配列され、着色状態で強い二色性(光偏光性)を示す。この新規な染料は、約0.6より高いオーダーパラメーターを有し、液晶ホストおよびほとんどの有機溶媒中への優れた溶解性を有する。
【0011】
特定の実施態様では、本発明のフォトクロミック染料は、驚くべきことに、非常に速い消色速度を、特に、流動性、メソモルファス、およびゲル状のホスト媒体に溶解した場合に有する。1つ以上の実施態様において、これらは、着色状態から脱色状態に5分未満で戻ることができ、このことにより、従来技術のフォトクロミック染料のほとんどより優れた重要な利点を有する。
【0012】
したがって、本発明は、式(I)で表されるナフトピラン化合物を提供する:
【化3】

[式中、
− n1は、0〜5の整数であり;
− n2は、0〜5の整数であり;
− pは、0〜5の整数であり;
− mは、0〜4の整数であり;
− qは、0〜5の整数であり;
− R1およびR2は、同じであるかまたは異なり、互いに独立に、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-NRbRc、-CO-Ra、-O-CO-Ra、および-CO2Ra1
〔式中、
- Raは、直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)アルキル基、または直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)ペルフルオロアルキル基を表し;
- Ra1は、水素、直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)アルキル基、および直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される基を表し;
- RbおよびRcは一緒に、さらに窒素原子と一緒に、場合によりO、N、およびSから選択されるさらなる1個のヘテロ原子を含んでいてもよく、場合によりハロゲン、Ra、-OH、-ORa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基で置換されていてもよい、5〜7員環の飽和複素環基を表すか、あるいは、
RbおよびRcは一緒に、窒素原子および隣接するフェニル基と一緒に、式(A)の複素環基:
【化4】

を形成する〕
から選択される基を表し;
− R3は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表し;
− R4は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-CO-Ra、および-CO2Ra1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表し;
− R5は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表すか、あるいは、
qが2であり、かつ、2つのR5置換基が、ナフト[2,1-b]ピラン基のC-7、C-8、C-9、およびC-10から選択される2つの隣接する炭素原子上に位置する場合において、これら2つのR5置換基がさらに、一緒に-O-(CH2)q1-O-基(式中、q1は1〜3の整数を表す)を表す]。
【0013】
本発明の好ましいナフトピランは、式(I)の化合物であって、式中:
− n1が0または1であり、R1が、フェニル基のパラ位またはオルト位に位置するハロゲン、-OH、および-ORaから選択される基を表し(式中、Raは、上で定義したとおりである);
− n2が1であり、R2が、フェニル基のパラ位に位置するハロゲン、-OH、-ORa、および--NRbRc(式中、Ra、Rb、およびRcは、上述したとおりである)から選択される基を表し;
− mが0であり;
− pが1であり、R4が、フェニル基のパラ位に位置する-Ra、-ORa、および-NRaRa1から選択される基を表し;かつ、
− qが、0〜2の整数であり、R5が、ナフト[2,1-b]ピラン基のC-8および/またはC-9に位置する-OHおよび-ORaから選択される基を表す。
【0014】
最も好ましい式(I)の化合物は、以下の式(a)〜式(p)で表される化合物である。
【化5A】

【化5B】

【化5C】

【化5D】

【0015】
式(I)で表される化合物は、以下の記述および反応スキームにしたがって合成することができる。
【0016】
必要なナフトール類は、スキーム1〜4に示したとおりに合成することができる。例えば、4-ブロモ-2-ナフトール(1)は、スキーム1に示したとおりに、公表された手順(M. S. Newman、V. Sankaran、およびD. Olson、J. Am. Chem. Soc, 1976, 98, 3237;この文献を参照により本明細書に組み込む)にしたがって、順次の臭素化、ジアゾ化、および1-ナフチルアミンの還元によって合成することができる。
【0017】
1,3-ジヒドロキシナフタレンは、MeyerおよびBlochの手順(Org Synth. Coll. Vol., 3, p. 637;この文献を参照により本明細書に組み込む)にしたがって、容易に得ることができ、K. H. BellおよびL. F. McCaffreyらにより記載(Aust. J. Chem., 1993, 46, 731;この文献を参照により本明細書に組み込む)されているように、選択的にメチル化して、3-メトキシ-1-ナフトールを高い収率で得ることができる。その後、トリフェニルメタンスルホン酸無水物を用いるスルホニル化により、トリフレート(2)が約74%の収率で得られる(スキーム2)。この手順は、S. C. Benson、J. Y. L. Lam、S. M. Menchen, US Pat. 5, 936, 087(この文献を参照により本明細書に組み込む)に記載されている。
【0018】
(2)と4’-メトキシビフェニル-4-ボロン酸とのSuzuki-Miyauraカップリングを用いて、過剰の三臭化ホウ素で処理した後で、(3)を得ることができる(スキーム3)。Suzuki-Miyauraカップリングは、A. Suzuki、J. Organomet. Chem., 1999, 576, 147、およびN. Miyaura、Top. Curr. Chem., 2002, 219, 11に記載されており、これらの文献を参照により本明細書に組み込む。4’-メトキシビフェニル-4-ボロン酸はさらに、V. Percec、P. Chum、およびM. Kawasumi、Macromolecules, 199 A, 27, 4441に記載されており、この文献を参照により本明細書に組み込む。
【0019】
ナフトール(4)の合成は、最初に、メチル(3,4-ジメトキシフェニル)アセテートと、4’-ブロモアセトフェノンとの、水素化ナトリウムが介在するClaisen型の縮合を含むことができる(スキーム4)。この種のアシル化反応の活性CH化合物については、総説がある(C. R. Hauser、F. W. Swamer、およびJ. T. Adams、Org. React., 1954, 8, 126、ならびに、B. R. DaviesおよびP. J. Garratt、Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon, Oxford, 1991, vol. 2, p. 795;これら両文献を参照により本明細書に組み込む)。この中間体1,3-ジケトンの(4)への脱水環化は、酸性条件下で達成することができる(A. V. KeI' in、およびY. Yu. Kozyrkov、Synthesis, 1998, 729、および、国際公開第99/31082号;これら両文献を参照により本明細書に組み込む)。
【0020】
1,1-ジアリールプロプ-2-イン-1-オール(5)の、リチウムトリメチルシリルアセチリドとベンゾフェノンとからのスキーム5にしたがった合成は、報告されている(例えば、C. D. Gabbutt、J. D. Hepworth、B. M. Heron、S. M. Partington、およびD. A. Thomas、Dyes Pigm., 2001, 49, 65;この文献を参照により本明細書に組み込む)。
【0021】
6-置換ナフト[2,1-b]ピランの合成は、適切な2-ナフトール(1)、(3)、または(4)と、アルキノール誘導体(5)との酸触媒縮合によって、スキーム6に示すように達成することができる。ナフトピランへのこのルートについては、総説がある(B. Van Gemert、Organic Photochromic and Thermochromic compounds Volume 1「Main Photochromic Families」J. C. CranoおよびR. Gugglielmetti編、Plenum Press, New York, 1998, p 111;J. D. HepworthおよびB. M. Heron、「Functional Dyes」S. -H. Kim編、Elsevier, Amsterdam, 2006, p. 85;C. D. Gabbutt、B. M. Heron、A. C. Instone、P. R. Horton、M. B. Hursthouse、Tetrahedron, 2005, 61, p.463;これらすべての文献を参照により本明細書に組み込む)。
【0022】
ブロモナフトピラン(6)および(8)は、適切な4’-置換-4-ビフェニルボロン酸〔例えば、M. R. Friedman、K. J. Toyne、J. W. Goodby、およびM. Hird、Liquid Crystals, 2001, 28, 901(この文献を参照により本明細書に組み込む)に記載されているように合成される〕および4-置換フェニルボロン酸へのSuzuki-Miyauraカップリングによって、一般構造式(I)の6-(4’-置換-4-ビフェニル)ナフト[2,1-b]ピランを、それぞれ実施例(a)〜(j)および(m)〜(p)に示すように得るさらなる修飾のための基質としての役目を果たすことができる。あるいは、ナフトピラン(7)を、実施例(k)および(j)に示すように、アルキル化することができる。これら3つの一般的なシークエンスをスキーム7に示す。より特に、実施例(l)の合成の概略を、スキーム8に示す。特筆すべきことは、6-(4’-ヒドロキシ-4-ビフェニル)部分の組み立てであり、この組み立ては、ブロモナフトピラン誘導体(8)の、容易に入手可能な4-(トリイソプロピルシリルオキシ)フェニルボロン酸へのSuzuki-Miyauraカップリング(D. J. Aitken、S. Faure、およびS. S. Roche、Tetrahedron Lett., 2003, 44, 8827、および、M. E. Hartら、J. Med. Chem., 2006, 49, 1101;これら両文献を参照により本明細書に組み込む)を経由する。
【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
本発明は、本発明の1種以上のナフトピラン化合物(I)を含む光学物品を提供する。本発明のナフトピラン化合物(I)は、全ての種類の光学デバイスおよび部材、例えば、眼科用デバイスおよび部材、ディスプレイ用デバイスおよび部材、ウインドウ、またはミラーに用いることができる。眼科用部材の非制限的な例には、矯正レンズおよび非矯正レンズが含まれ、セグメント化レンズであっても非セグメント化レンズであってもよいシングルヴィジョンレンズまたはマルチヴィジョンレンズが含まれ、さらに、視覚を補正、保護、もしくは強化するために用いる他の部材、これだけに限定されないが、コンタクトレンズ、眼球内レンズ、拡大鏡、および保護レンズもしくは保護バイザーが含まれる。ディスプレイ用部材およびデバイスの非制限的な例には、スクリーンおよびモニターが含まれる。ウインドウの非制限的な例には、自動車用および航空機用の透明物品、フィルター、シャッター、および光学スイッチが含まれる。
【0029】
本発明の光学物品は、レンズ、より特に眼科用レンズであることが好ましい。
【0030】
光学物品に用いる場合、ナフトピラン化合物を、例えば、その光学物品のポリマー材料のバルクに組み込むことができる。このようなポリマーホスト材料は、一般に、透明な、あるいは光学的に透明な固体材料である。好ましいポリマーホスト材料は、例えば、ポリオール(アリルカーボネート)モノマーのポリマー、ポリアクリレート、ポリ(トリエチレングリコールジメタクリレート)、ポリペルフルオロアクリレート、酢酸セルロース、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリ(ジエチレングリコールビス(アルキルカーボネート))、およびこれらの混合物から選択される。
【0031】
本発明のフォトクロミック物質は、当分野で開示されている様々な方法によってポリマーホスト材料に組み込むことができる。このような方法には、フォトクロミック物質をモノマーホスト材料に重合前に添加することによって、フォトクロミック物質をホスト材料に溶解または分散させる方法、あるいは、ホスト材料をフォトクロミック物質の熱溶液中に浸漬させることによってフォトクロミック物質をホスト材料に吸収させることによる方法が含まれる。
【0032】
本発明の別の実施態様では、フォトクロミック染料を、有機ポリマーホスト材料のバルクに組み込まず、光学基材上に適用される表面コーティングまたはフィルムに組み込む。この基材は、透明な材料または光学的に透明な材料、例えば、ガラスまたは光学用途に通常用いられる有機ポリマーなどであることが好ましい。
【0033】
本発明は、当然に、その物品のバルク、その物品のコーティング、またはその物品上に適用されたフィルムに組み込まれた、式(I)の少なくとも1種のナフトピラン化合物を有する光学物品も包含する。1つ以上の実施態様では、この光学物品は、その物品のバルクおよびその物品のコーティングの両方に組み込まれた式(I)のナフトピラン化合物を含む。
【0034】
本発明のさらに好ましい実施態様では、本発明のフォトクロミックナフトピラン化合物を組み込むコーティングまたはフィルムは、異方性(anisotropic)フィルムまたはコーティングである。すなわち、このフィルムまたはコーティングは、染料分子のための配向層として機能することができる層または媒体を備えている。このような配向層は、例えば、有機ポリマー、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)であってよい。二色性色素分子を配向させる1つの一般的な方法は、PVAのシートまたは層を加熱してPVAを柔軟にする工程、および、その後、そのシートを延伸させてポリマー鎖を配向させる工程を含む。次いで、二色性色素を、延伸させたシートに含浸させると、染料分子がポリマー鎖の配向をとる。あるいは、二色性色素を、最初にPVAシートに含浸させて、その後、シートを加熱し、上述したように延伸させて、PVAポリマー鎖および付随した染料を配向させることができる。このようにして、二色性染料の分子を、PVAシートの配向したポリマー鎖内で適切に配向または配列させて、正味の直線偏光を達成することができる。
【0035】
本発明のなおさらに好ましい実施態様では、この新規なナフトピラン化合物を、固体の、等方性または異方性ホスト材料に組み込まず、流動性の、メソモルファス、またはゲルのホスト材料に組み込む。本発明のナフトピラン化合物をこのような流動性の、メソモルファス、またはゲルのホスト材料に溶解または分散させると、着色速度が向上し、消色速度はさらにより大幅に向上する。復帰時間、すなわち材料が吸収状態から消去状態に戻る時間が、5分未満に低減される。
【0036】
少なくとも1種のナフトピラン化合物を組み込む流動性またはメソモルファスのホスト媒体は、有機溶媒、液晶、およびこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0037】
本発明のナフトピラン化合物を、ホスト媒体に溶解することが好ましい。
【0038】
溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、N-メチルピロリドン、2-メトキシエチルエーテル、キシレン、シクロヘキサン、3-メチルシクロヘキサノン、酢酸エチル、フェニル酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メタノール、プロピオン酸メチル、エチレングリコール、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0039】
本発明に用いることができる液晶媒体には、これらだけに限定されないが、ネマチック媒体またはキラルネマチック媒体のような材料が含まれる。あるいは、ポリマー性液晶媒体を、ホスト材料として用いることができる。これらの液晶媒体およびポリマー性液晶媒体は、一般に、有機溶媒、例えば上述した有機溶媒の1つと組み合わせて用いられる。
【0040】
流動性、メソモルファス、またはゲルのホスト材料と、本発明の少なくとも1種のナフトピラン化合物との混合物は、この混合物を力学的に安定な環境内に保持するための構造を備えるデバイスに組み込むことが好ましい。
【0041】
このようなデバイスは、例えば、米国特許第6,690,495号(この文献を、参照により本明細書に組み込む)に開示されている。このようなデバイスは、流動性、メソモルファス、またはゲルのホスト媒体および本発明の少なくとも1種のフォトクロミック染料の混合物をその間に受容する空隙を有する1組の向かい合った基材と、前記1組の基材を互いに隣接して保持するためのフレームとを備える。
【0042】
混合物を力学的に安定な環境内に保持するための、なおさらに好ましいデバイスは、国際公開第2006/013250号および仏国特許第2879757号に記載されているデバイスである(これらの文献を、特に本明細書に組み込む)。
【0043】
国際公開第2006/013250号に開示されている本発明の好ましい光学物品は、光学部品を含み、この光学部品は、その表面に平行に並置された少なくとも1個の透明セル配列を備え、各セルがきつく閉じられており、かつ、各セルに、流動性、メソモルファス、またはゲルのホスト媒体と、本発明の少なくとも1種のナフトピラン化合物とが入っている。この透明セル配列は、部品の表面に対して垂直方向の高さが100μm未満、好ましくは1μm〜50μmである層を形成する。
【0044】
この透明セル配列を、前記光学部品の透明剛性基材上に直接形成させてもよく、あるいは、透明セル配列を組み込んでいる透明フィルムを、前記光学部品の透明剛性基材上に適用してもよい。
【0045】
セル配列は、光学部品の合計表面積の大部分を占めることが好ましい。前記セルが占める合計表面積の、前記光学部品の合計表面積に対する比率は、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは90%〜99.5%、最も好ましくは96%〜98.5%である。
【0046】
セル配列は、例えば、六角形セルまたは矩形セルからなっていてよく、その寸法は、以下のように記述することができる。
(a) 光学部品の表面に平行方向の大きさは、少なくとも1μm、好ましくは5μm〜100μmであり;
(b)部品の表面に対して垂直方向の(複数の)セルの高さは、100μm未満、好ましくは1μm〜50μmであり;かつ、
(c) 固く閉じられた(複数の)セルを互いに隔てている隔壁の厚さは、0.10μm〜5.00μmの厚さの隔である。
【実施例】
【0047】
[実施例化合物の合成に用いる中間体化合物の合成]:
[3-メトキシナフタレン-1-イルトリフルオロメタンスルホネート]
【化11】

トリフルオロメタンスルホン酸無水物(9.35 g、32.8mmol)を、3-メトキシ-1-ナフトール(5.77 g、32.8mmol)と、Et3N(10 ml)とのジクロロメタン(100 ml)溶液に、0℃にて撹拌しながら、滴下により添加した。1時間後に、得られた溶液をHCl(50 ml、1M)、および飽和Na2CO3 (50 ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、さらに減圧下で溶媒を除去した。残渣を、EtOAc (ヘキサン中7 %)を使用してシリカによるクロマトグラフィーにかけて、表題化合物(7.45 g、74 %)を無色オイルとして得た。
【0048】
[3-メトキシ-1-(4’-メトキシ-4-ビフェニル)ナフタレン]
【化12】

3-メトキシナフタレン-1-イルトリフルオロメタンスルホネート (0.5 g、1.7 mmol)、(4’-メトキシ-4-ビフェニル)ボロン酸 (0.58 g、2.5 mmol)、Na2CO3 (0.27 g、2.5 mmol)、およびPd(PPh3)4 (40 mg、2 mol %)の、PhMe (20 ml)およびEtOH (20 ml)中の混合物を、N2下、加熱還流させた。2時間後、この混合物を冷却し、水(100 ml)に注ぎ、ジクロロメタン(3 x 50 ml)で抽出し、乾燥させ(MgSO4)、さらに減圧下で溶媒を除去した。残渣を、ジクロロメタンに溶解させ、シリカの短いプラグを通してろ過し、減圧下で溶媒を除去して、表題化合物(0.44 g、76 %)を無色粉末として得た。
【0049】
[4-(4’-ヒドロキシ-4-ビフェニル)-2-ナフトール]
【化13】

三臭化ホウ素(1.00 g、3.9 mmol) を、3-メトキシ-1-(4’-メトキシ-4-ビフェニル)ナフタレン (0.44 g、1.3 mmol)のジクロロメタン(50 ml)溶液に、0℃、窒素下で、滴下により添加した。この溶液を室温に戻し、一晩撹拌し、水(200 ml)中に注ぎ、Et2O (3 x 50 ml)で抽出し、乾燥させ(MgSO4)、さらに減圧下で溶媒を除去して、表題化合物(0.40 g、100%)を褐色粉末として得た。
【0050】
[1-(4-ブロモフェニル)-4-(3,4-ジメトキシフェニル)ブタン-1,3-ジオン]
【化14】

水素化ナトリウム(60%分散物、3.80 g、95.1 mmol)を、Et2O (100 ml)中のメチル2-(3,4-ジメトキシフェニル)アセテート(10 g, 47.6 mmol)に、0℃にて少量に分けて添加した。4’-ブロモアセトフェノン(9.48 g、47.6 mmol)のEt2O(50 ml)溶液を、1時間かけて滴下した。この混合物を、16時間加熱還流させ、冷却し、氷/HCl (2 M)に注ぎ、Et2O(3 x 100 ml)で抽出し、乾燥させ(MgSO4)、減圧下で溶媒を除去した。残渣をMeOHから結晶化させて、表題化合物(9 g、50 %)を黄褐色の粉末として得た。
【0051】
[4-(4-ブロモフェニル)-6,7-ジメトキシ-2-ナフトール]
【化15】

85%リン酸中の1-(4-ブロモフェニル)-4-(3,4-ジメトキシフェニル)ブタン-1,3-ジオン(3 g、8 mmol)を、70℃にて20時間加熱した。得られた溶液を冷却し、水(150 ml)に注ぎ、濾過した。残渣をジクロロメタン(50 ml)に溶解させ、水(50 ml)で洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、減圧下で溶媒を除去して、表題化合物(2.56 g、90 %)を褐色の粉末として得た。
【0052】
[6-ブロモフェニル-8,9-ジメトキシナフト[2,1-b]ピランの一般的合成方法]
4-(4-ブロモフェニル)-6,7-ジメトキシ-2-ナフトール(9.7 mmol)、1,1-ジアリールプロプ-2-イン-1-オール(9.7 mmol)、および酸性アルミナ(3 g)のトルエン(100 ml)中の混合物を、加熱還流させた。2時間後、この溶液を熱濾過し、残渣をPhMe(50 ml)で洗浄した。減圧下で溶媒を除去し、残渣をMeOHで洗浄して、表題化合物を得、これをシリカゲルによるフラッシュクロマトグラフィーにかけて精製した。以下の化合物をこのような方法で合成した。
【0053】
[6-(4-ブロモフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピペリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン]
ジクロロメタン(ヘキサン中の70%)を溶離液として、紫色の粉末を69%の収率で得た。
【化16】

【0054】
[6-(4-ブロモフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン]
ジクロロメタンを溶離液として、紫色の粉末を64%の収率で得た。
【化17】

【0055】
[6-(4-ブロモフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-(4-ブトキシフェニル)-3-(9-ジュロリジニル)-3H- ナフト[2,1-b]ピラン]
ジクロロメタンを溶離液として、緑色の粉末を51%の収率で得た。
【化18】

【0056】
[6-ビフェニルナフト[2,1-b]ピランの6-ブロモナフトピランからの一般的合成方法]
適切な6-ブロモ-3H-ナフト[2,1-b]ピラン(1 mmol)を、水(1 ml)を含有するTHF (10 ml)に、窒素下で溶解させ、[1,1’- ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II) (1 mol%)を添加した。この溶液を、5分間撹拌し、炭酸カリウム(1.1 mmol)、フッ化カリウム(3.3 mmol)、および適切な4’-置換-4-ビフェニルボロン酸 (1.1 mmol)を添加した。この反応混合物を、20時間加熱還流させた。溶媒を除去し、残渣を、石油エーテル−酢酸エチル(97-3)を用いてシリカゲルによるフラッシュクロマトグラフィーにかけた。酢酸エチルおよびヘキサンからの再結晶により、表題化合物を得た。
【0057】
以下の実施例は、これまでに記述した中間工程を用いて以下のように合成した。
【0058】
[実施例(a)]:6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピペリジノフェニル)-3H- ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-(4-ピペリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ペンチルビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 95〜97℃)。
【0059】
[実施例(b)]:6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-(4-メトキシフェニル)-3-(4- モルホリノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-(4-メトキシフェニル)-3-(4-モルホリノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ペンチルビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 166〜167℃)。
【0060】
[実施例(c)]:6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H- ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-フェニル-3-(4- ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ペンチルビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 155〜157℃)。
【0061】
[実施例(d)]:6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(ジュロリジン-9-イル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-フェニル-3-(ジュロリジン-9-イル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ペンチルビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 130〜132℃)。
【0062】
[実施例(e)]:6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-(4-メトキシフェニル)-3-(ジュロリジン-9イル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-(4-メトキシフェニル)- 3-(ジュロリジン-9-イル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ペンチルビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 89℃)。
【0063】
[実施例(f)]:6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-フルオロフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-フェニル-3-(4-フルオロフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ペンチルビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 55℃)。
【0064】
[実施例(g)]:6-(4’-ブトキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ブトキシビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 107℃)。
【0065】
[実施例(h)]:6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)- 3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ヘキシルオキシビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 93℃)。
【0066】
[実施例(i)]:6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-3-(4-フルオロフェニル)-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-(4-フルオロフェニル)-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ヘキシルオキシビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 149℃)。
【0067】
[実施例(j)]:6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-(4-フルオロフェニル)-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-ブロモ-3-(4-フルオロフェニル)-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピランと、4’-ペンチルビフェニル-4-ボロン酸とから得た(m.p. 153℃)。
【0068】
[6-ビフェニル-8,9-ジメトキシナフト[2,1- b]ピランの、6-ブロモフェニル-8,9-ジメトキシナフトピランからの一般的合成法]
6-ブロモフェニル-8,9-ジメトキシナフトピラン(2.4 mmol)と、アリールボロン酸 (3.6 mmol)との、1,2-ジメトキシエタン(50 ml)中の混合物を、窒素でパージすることによって脱気した。テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) (5 mol%)、次いで、脱気した水(50 ml)中のNa2CO3 (7.2 mmol)を添加した。この混合物を100℃にて16時間加熱し、冷却し、水に注ぎ、ジクロロメタン(5 x 50 ml)で抽出し、乾燥させ(MgSO4)、溶媒を減圧下で除去した。この残渣をシリカゲルによるクロマトグラフィーにかけた。溶媒を減圧下で除去し、残渣を、徐々に蒸発させることによってアセトン−メタノールから結晶化させて、表題化合物を得た。
【0069】
以下の実施例は、これまでに記述した中間工程を用いて以下のように合成した。
【0070】
[実施例(m)]:6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピペリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
ジクロロメタンを溶離液として、紫色の粉末を72%の収率で得た(mp 198-199℃)。
【0071】
[実施例(n)]:6-(4’-ジブチルアミノ-4-ビフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
ブタノン(シクロヘキサン中15 %)を溶離液として、無色の粉末を73%の収率で得た(mp 174-175℃)。
【0072】
[実施例(o)]:6-(4’-(ヘキシルオキシ)-4-ビフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
ブタノン(シクロヘキサン中20 %) を溶離液として、無色の粉末を76%の収率で得た(mp 197-198℃)

【0073】
[実施例(p)]:3-(4-ブトキシフェニル)-8,9-ジメトキシ-6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-3-(9-ジュロリジニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
アセトン、ブタノン、シクロヘキサン(8:8:84) を溶離液として、紫色の粉末を53%の収率で得た(mp 111〜112℃)。
【0074】
8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-6-(4’-トリイソプロピルシリルオキシ-4-ビフェニル)]-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
ジクロロメタンを溶離液として、無色の粉末を70%の収率で得た。
【化19】

【0075】
8,9-ジメトキシ-6-(4’-(ヒドロキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
【化20】

テトラブチルアンモニウムフルオリド(THF中1M) (1.26 mmol)を、8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-6-(4’-トリイソプロピルシリルオキシ-4-ビフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン(1.26 mmol)のTHF (30 ml)溶液に撹拌しながら添加した。5分後に、HCl (3 ml、1M)を添加し、溶媒を減圧下で除去した。残渣を、ジクロロメタン (ヘキサン中70 %)を溶離液として用いてシリカゲルによるクロマトグラフィーにかけた。溶媒を減圧下で除去し、残渣をアセトン/MeOHから結晶化させて、表題化合物(57%)をクリーム状の粉末として得た(mp 154-155℃)。
【0076】
[実施例(l)]:8,9-ジメトキシ-6-(4’-ドデシルオキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
8,9-ジメトキシ-6-(4’-ヒドロキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン(0.63 g、1.0 mmol)および1-ヨードデカン(0.59 g、2.0 mmol)のアセトン(50 ml)溶液に、炭酸カリウム(1.38 g、10 mmol)を添加し、この混合物を6時間還流させた。この後、混合物を水に注ぎ、ジクロロメタン(3 x 50 ml)で抽出した。抽出液を、乾燥させ、蒸発させて、残渣をアセトンを用いて粉末にして、表題化合物(70%)を無色の粉末として得た(mp 173-175℃)。
【0077】
[実施例(k)]:6-(4’-ドデシルオキシ-4-ビフェニル)-3-(4-ヘキシルオキシフェニル)-3-[4-(4-メチルピペリジノ)フェニル]-3H-ナフト[2,1-b]ピラン
6-(4’-ヒドロキシ-4-ビフェニル)-3-[4-(ヘキシルオキシ)フェニル]-3-[4-(4-メチルピペリジノ)フェニル]-3H-ナフト[2,1-b]ピラン(0.73 g、1.0 mmol)および1-ヨードデカン(0.59 g、2.0 mmol)のアセトン(50 ml)溶液に、炭酸カリウム(0.72 g, 5 mmol) を添加し、この混合物を24時間還流させた。この後、混合物を水に注ぎ、ジクロロメタン(3 x 50 ml)で抽出した。抽出液を、乾燥させ、蒸発させて、残渣を、ヘキサン中の60%ジクロロメタンを溶離液として用いてシリカの短いプラグを通してろ過した。溶媒を除去し、残渣をアセトン−メタノールから結晶化させて、表題化合物(0.81 g, 89%)をピンク色の粉末として得た(mp 45℃)。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるナフトピラン化合物:
【化1】

[式中、
− n1は、0〜5の整数であり;
− n2は、0〜5の整数であり;
− pは、0〜5の整数であり;
− mは、0〜4の整数であり;
− qは、0〜5の整数であり;
− R1およびR2は、同じであるかまたは異なり、互いに独立に、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-NRbRc、-CO-Ra、-O-CO-Ra、および-CO2Ra1
〔式中、
- Raは、直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)アルキル基、または直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)ペルフルオロアルキル基を表し;
- Ra1は、水素、直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)アルキル基、および直鎖もしくは分岐した(C1〜C18)ペルフルオロアルキル基から選択される基を表し;
- RbおよびRcは一緒に、さらに窒素原子と一緒に、場合によりO、N、およびSから選択されるさらなる1個のヘテロ原子を含んでいてもよく、場合によりハロゲン、Ra、-OH、-ORa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基で置換されていてもよい、5〜7員環の飽和複素環基を表すか、あるいは、
RbおよびRcは一緒に、窒素原子および隣接するフェニル基と一緒に、式(A)の複素環基:
【化2】

を形成する〕
から選択される基を表し;
− R3は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表し;
− R4は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、-NRaRa1、-CO-Ra、および-CO2Ra1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表し;
− R5は、ハロゲン、-Ra、-OH、-ORa、-SH、-SRa、-NH2、および-NRaRa1(式中、RaおよびRa1は上で定義したとおりである)から選択される基を表すか、あるいは、
qが2であり、かつ、2つのR5置換基が、ナフト[2,1-b]ピラン基のC-7、C-8、C-9、およびC-10から選択される2つの隣接する炭素原子上に位置する場合において、これら2つのR5置換基がさらに、一緒に-O-(CH2)q1-O-基(式中、q1は1〜3の整数を表す)を表す]。
【請求項2】
− n1が0または1であり、R1が、フェニル基のパラ位またはオルト位に位置するハロゲン、-OH、および-ORaから選択される基を表し(式中、Raは、上で定義したとおりである);
− n2が1であり、R2が、フェニル基のパラ位に位置するハロゲン、-OH、-ORa、および--NRbRc(式中、Ra、Rb、およびRcは、上述したとおりである)から選択される基を表し;
− mが0であり;
− pが1であり、R4が、フェニル基のパラ位に位置する-Ra、-ORa、および-NRaRa1から選択される基を表し;かつ、
− qが、0〜2の整数であり、R5が、ナフト[2,1-b]ピラン基のC-8および/またはC-9に位置する-OHおよび-ORaから選択される基を表す、請求項1に記載のナフトピラン化合物。
【請求項3】
下記化合物から選択される、請求項1または2に記載のナフトピラン化合物:
− 6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピペリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-(4-メトキシフェニル)-3-(4-モルホリノフェニル)-3H- ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(ジュロリジン-9-イル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-(4-メトキシフェニル)-3-(ジュロリジン-9-イル)-3H- ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-フルオロフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ブトキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-3-(4-フルオロフェニル)-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ペンチル-4-ビフェニル)-3-(4-フルオロフェニル)-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H- ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピペリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-(ジブチルアミノ)-4-ビフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-8,9-ジメトキシ-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 3-(4-ブトキシフェニル)-8,9-ジメトキシ-6-(4’-ヘキシルオキシ-4-ビフェニル)-3-(9- ジュロリジニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;
− 8,9-ジメトキシ-6-(4’-ドデシルオキシ-4-ビフェニル)-3-フェニル-3-(4-ピロリジノフェニル)-3H-ナフト[2,1-b]ピラン;および
− 8,9-ジメトキシ-6-(4’-ドデシルオキシ-4-ビフェニル)-3-(4-ヘキシルオキシフェニル)-3-[4-(4-メチルピペリジノ)フェニル]-3H-ナフト[2,1-b]ピラン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の少なくとも1種のナフトピラン化合物を含む、光学物品。
【請求項5】
前記物品が、さらにポリマーホスト材料を含み、前記少なくとも1種のナフトピラン化合物が前記ポリマーホスト材料のバルクに組み込まれている、請求項4に記載の光学物品。
【請求項6】
前記ポリマーホスト材料が、ポリオール(アリルカーボネート)モノマーのポリマー、ポリアクリレート、ポリ(トリエチレングリコールジメタクリレート)、ポリペルフルオロアクリレート、酢酸セルロース、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリスチレン、ポリフルオロスチレン、ポリ(ジエチレングリコールビス(アルキルカーボネート)) 、およびこれらの混合物から選択される、請求項5に記載の光学物品。
【請求項7】
前記物品が、光学基材と、少なくとも1種のナフトピラン化合物を含む少なくとも1層のフィルムまたはコーティングとを含む、請求項4に記載の光学物品。
【請求項8】
前記少なくとも1層のフィルムまたはコーティングが、異方配向性ポリマー(anisotropic oriented polymer)層と、少なくとも1種のナフトピラン化合物とを含む、二色性のフィルムまたはコーティングである、請求項7に記載の光学物品。
【請求項9】
前記物品が、流動性ホスト媒体、メソモルファスホスト媒体、もしくはゲルホスト媒体、または、流動性、メソモルファス、もしくはゲルのホスト媒体の混合物と、少なくとも1種のナフトピラン化合物とを含み、前記ナフトピラン化合物が、前記ホスト媒体に溶解または分散されている、請求項4に記載の光学物品。
【請求項10】
前記少なくとも1種のナフトピラン化合物が組み込まれた前記流動性、メソモルファス、もしくはゲルのホスト媒体が、有機溶媒、液晶、液晶ポリマー、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項9に記載の光学物品。
【請求項11】
前記物品が、前記混合物を力学的に安定な環境内に保持するための構造を備えるデバイスを含む、請求項9に記載の光学物品。
【請求項12】
前記デバイスが、前記ホスト媒体および前記少なくとも1種のフォトクロミック染料の混合物を受容する空隙をその間に有する1組の向かい合った基材と、前記1組の基材を互いに隣接して保持するためのフレームとを備える、請求項11に記載の光学物品。
【請求項13】
前記デバイスが光学部品を備え、前記光学部品はその表面に平行に並置された少なくとも1個の透明セル配列を備え、各セルがきつく閉じられており、かつ、各セルに前記流動性ホスト媒体と前記少なくとも1種のナフトピラン化合物とが入っている、請求項11に記載の光学物品。
【請求項14】
前記透明セル配列が、前記部品の表面に対して垂直方向の高さが100μm未満、好ましくは1μm〜50μmである層を形成する、請求項13に記載の光学物品。
【請求項15】
前記光学部品が、その上に前記透明セル配列が形成されている透明剛性基材を含む、請求項13に記載の光学物品。
【請求項16】
前記光学部品が透明剛性基材を含み、前記基材上に、前記透明セル配列を組み込んでいる透明フィルムが適用されている、請求項13に記載の光学物品。
【請求項17】
前記セルが占める合計表面積の、前記光学部品の合計表面積に対する比率が、少なくとも90%、好ましくは90%〜99.5%、最も好ましくは96%〜98.5%である、請求項13〜16のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項18】
前記セルの、前記光学部品の表面に平行方向の大きさが、少なくとも1μm、好ましくは5μm〜100μmである、請求項13〜17のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項19】
前記セルが、0.10μm〜5.00μmの厚さの隔壁によって互いに隔てられている、請求項13〜18のいずれか一項に記載の光学物品。
【請求項20】
前記物品が、眼科用部材、眼科用デバイス、ディスプレイ用部材、ディスプレイ用デバイス、ウインドウ、およびミラー、好ましくはレンズ、および最も好ましくは眼科用レンズからなる群から選択される、請求項13〜19のいずれか一項に記載の光学物品。

【公表番号】特表2010−502699(P2010−502699A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527331(P2009−527331)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/034507
【国際公開番号】WO2008/030226
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(505425373)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラレ ドプテイク) (74)
【出願人】(509064624)アルファマイクロン・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】