説明

フタロシアニンナノワイヤーの製造方法

【課題】置換基を有するフタロシアニン誘導体が酸により分解すること無く、代表的な有機半導体たる無置換フタロシアニン及び置換基を有するフタロシアニンからなるワイヤー状結晶、特にワイヤーの幅(短径)が100nm以下のナノサイズの細線状の構造を有し、そのワイヤーの短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10以上であるフタロシアニンナノワイヤーの製造法を提供すること。
【解決手段】無置換フタロシアニンのみを酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて得られた微細化無置換フタロシアニンを、置換基を有するフタロシアニン誘導体と混合し、溶媒中、もしくは溶媒蒸気雰囲気下に置くことで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタロシアニンナノワイヤーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、誰もが如何なる場所においても使用できる「壊れにくく軽量で安価な情報端末」が求められている。この実現には、情報端末のキーデバイスたるトランジスタにおいて、コストメリットのあるソフトな材料の使用が望まれる。しかしながら、従来使用されているシリコン等の無機材料は、こういった要望に十分に応えることが出来ない。
【0003】
このような状況により、トランジスタの半導体部に有機物を使った「有機トランジスタ(OFET)」が注目を集めている(非特許文献1参照)。このような有機物よりなる半導体(有機半導体)は、柔らかく低温処理が可能であり、また、一般的に溶媒との親和性が高い。このため、有機半導体は、OFETを、フレキシブルなプラスチック基板上に、塗布や印刷等のウェットプロセスを用いて低価格で生産できるというメリットがあり、「壊れにくく軽量で安価な情報端末」の実現には欠かせない電子素子用材料として期待されている。
【0004】
無置換フタロシアニンあるいは置換基を有するフタロシアニンなどのフタロシアニン類は代表的な有機半導体の一つであり、高次構造、すなわち、分子の配列や集合状態を制御することで良好なトランジスタ特性を示すことが知られている(非特許文献2参照)。しかしながら、フタロシアニン類は、溶剤溶解性が低いため、ウェットプロセスによる素子作製が困難で、電子素子に供する際には、一般的に、真空蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスが用いられている。このようなドライプロセスは煩雑であることから、有機半導体の特徴の一つである低価格電子素子の提供が困難となる。
【0005】
この問題を解決するために、フタロシアニン類に可溶性置換基を導入し、溶剤溶解性を高めることで、ウェットプロセスによるトランジスタ作製を行う技術も開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、フタロシアニン類分子は充分配列せず、高次構造が制御できないため、ドライプロセスによるものと比較するとトランジスタ特性が劣る。良好な半導体特性を示すためには、フタロシアニン類分子が、一定の方向に配列した次元性のある構造、結晶構造を有することが重要であり、その中でも特に、一次元のワイヤー状結晶が有用である。また、電子素子への応用に供するためには、該ワイヤー状結晶は、ワイヤー径が1μm以下、好ましくは100nm以下のナノワイヤーであることが好ましい。
【0006】
フタロシアニン類の結晶は、印刷インキの塗料用着色剤として広く使用されており、その結晶サイズや形状を制御する技術も多く知られている。例えば、金属フタロシアニンに無機塩と有機溶剤を混ぜて磨砕装置により顔料を細かく砕いて微粒子化するソルベントソルトミリング法(例えば、特許文献2)や、該金属フタロシアニンを硫酸に溶解させた後に大量の水中に沈殿させる晶析(例えば、特許文献3)などの方法により、微細粒子化が行われているが、これらの方法を用いてフタロシアニン類のナノワイヤー状結晶を得ることはできなかった。
【0007】
フタロシアニン類の高次構造の制御法として、既に本発明者らは、フタロシアニンナノワイヤーの製造法を開示しているが(特許文献4)、該製造法においては、無置換のフタロシアニンと置換基を有するフタロシアニン誘導体を共に酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて、晶析複合体を得ることが必要であった。しかしながら、該製造法においては、置換基を有するフタロシアニン誘導体を酸に溶解させる工程において、誘導体が有する置換基の種類によっては、該誘導体の酸による(部分的な)分解が起き、系中への分解物による不純物混入の可能性があり、また、置換基の種類によってはアルカリによって分解するため、上述の酸に溶解させる工程後、中和することができず、所定の酸濃度以下にまで洗浄するには多量の水を要し、廃水処理が増大するという課題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アドバンスドマテリアルズ(Advanced Materials)2002年、第14号、 P.99
【非特許文献2】アプライドフィジクスレター(Applied Physics Letters) 2005年、第86号、P.22103
【特許文献1】特開2008−303383号広報
【特許文献2】特開2002−121420号広報
【特許文献3】特開2004−091560号公報
【特許文献4】WO2010/122921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記に鑑み、製造工程において、ナノワイヤーの構成成分である置換基を有するフタロシアニン誘導体が分解すること無く、系中の不純物の発生を抑制し、洗浄過程を簡便にする無置換フタロシアニン及び置換基を有するフタロシアニンからなるワイヤー状結晶、特にワイヤーの幅(短径)が100nm以下のナノサイズの細線状の構造を有するフタロシアニンナノワイヤーの製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、無置換フタロシアニンと置換基を有するフタロシアニン誘導体とを共に酸に溶解させるのでなく、無置換フタロシアニンのみを酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて得られた析出体を、置換基を有するフタロシアニン誘導体と混合し、溶媒中、もしくは溶媒蒸気雰囲気下に置くことで、ワイヤーの幅(短径)が100nm以下のナノサイズの細線状の構造を有するフタロシアニンナノワイヤーを得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
即ち本発明は、無置換フタロシアニンと置換基を有するフタロシアニンからなる半導体特性に優れるフタロシアニンナノワイヤーの製造方法であって、系中の不純物の発生を抑制し、また、洗浄過程を簡便にすることが可能であるフタロシアニンナノワイヤーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるフタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2におけるフタロシアニンナノワイヤーの走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3におけるフタロシアニンナノワイヤーの走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、無置換フタロシアニン及び置換基を有するフタロシアニンを含有し、短径が100nm以下であるフタロシアニンナノワイヤーの製造方法において、
(1)無置換フタロシアニンを酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて無置換フタロシアニンの析出体(A)を得る工程(a)、
(2)前記工程(a)で得られた無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体との混合物(B)を得る工程(b)、
(3)前記工程(b)で得られた混合物(B)を、溶媒中、もしくは溶媒蒸気雰囲気下でナノワイヤー化する工程(c)、
を含むことを特徴とするフタロシアニンナノワイヤーの製造方法を提供するものである。
以下に本発明の詳細について説明する。
【0014】
(フタロシアニンナノワイヤーに含有される無置換フタロシアニン)
本発明の無置換フタロシアニンには、一般式(1)で表されるフタロシアニン、又は一般式(2)で表される無金属フタロシアニンを用いることができる。
【0015】
【化1】

【0016】
一般式(1)において、Xとしては、後述のナノワイヤー製造法によってフタロシアニンナノワイヤーを構成するものであれば制限はないが、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子、パラジウム原子等の金属原子、又は、チタニル(TiO)、バナジル(VO)、塩化アルミニウム(AlCl)等の金属酸化物や金属ハロゲン化物を挙げることができ、中でも銅原子、亜鉛原子、鉄原子が特に好ましい。
【0017】
(フタロシアニンナノワイヤーに含有される置換基を有するフタロシアニン)
本発明のフタロシアニンナノワイヤーは、前記無置換フタロシアニンと、下記一般式(3)又は(4)で表される置換基を有するフタロシアニンを含有するフタロシアニンナノワイヤーである。
【0018】
【化2】

【0019】
(但し、式中、Xは、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子からなる群から選ばれる何れかであり、YからYは、フタロシアニン骨格とR〜Rを結合させる結合基を表し、
からYが結合基として存在しない場合には、R〜Rは、SOH、COH、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、
からYが、−(CH−(nは1〜10の整数を表す)、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−NH−、−S−、−S(O)−、又は−S(O)−で表される結合基である場合には、R〜Rは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0ではない。)
【0020】
本発明の置換基を有するフタロシアニンと錯体を形成する金属原子Xとしては、金属フタロシアニンの中心金属として公知慣用であれば特に限定はないが、好ましい金属原子として、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル、スズ、鉛、マグネシウム、ケイ素、及び鉄から選ばれるいずれか一種の金属原子を挙げることができる。また、Xとして、チタニル(TiO)、バナジル(VO)、塩化アルミニウム(AlCl)が配位した金属フタロシアニンも用いることができる。ここで、一般式(4)で表される置換基を有するフタロシアニンのように、中心金属Xを含まない化合物も本発明の置換基を有するフタロシアニンとして用いることができる。
【0021】
一般式(3)又は(4)において、YからYは、フタロシアニン環とR〜Rを結合させる結合基であれば、特に制限なく使用することが可能である。このような結合基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、ビニレン結合、エチニレン、スルフィド基、エーテル基、スルホキシド基、スルホニル基、ウレア基、ウレタン基、アミド基、アミノ基、イミノ基、ケトン基、エステル基等を挙げることができ、より具体的には、−(CH−(nは1〜10の整数を表す)、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−NH−、−S−、−S(O)−又は−S(O)−等である。また、フラーレン類も本発明の結合基として用いることができる。
【0022】
〜Rは、上記結合基YからYを介してフタロシアニン環と結合しえる官能基である。このような官能基としては、例えば、アルキル基、アルキルオキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基、スルホン酸基、シリル基、シラノール基、ボロン酸基、ニトロ基、リン酸基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、ニトリル基、イソニトリル基、アンモニウム塩またはフラーレン類、フタルイミド基等を挙げることができ、より具体的には、フェニル基やナフチル基などのアリール基や、インドイル基、ピリジニル基などのヘテロアリール基やメチル基などを挙げることができる。この中でも具体的に好ましい基としては、SOH、COH、アルキル基、エーテル基もしくはアミノ基を有するアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいヘテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類等を挙げることができる。
【0023】
上記置換基を有してもよいアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基を挙げることができるが、特にメチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基が好ましい。
また、エーテル基もしくはアミノ基を有するアルキル基も好ましく、例えば、下記式
【0024】
【化3】

【0025】
(mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基、又はアリール基である。)
で表される基も用いることができる。
【0026】
上記置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基としては、好ましくは、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいオリゴフェニレン基、又は置換基を有してもよいオリゴナフチル基等を挙げることができる。置換基としては、アリール基に置換が可能な通常公知の置換基を挙げることができる。
【0027】
上記置換基を有してもよい(オリゴ)ヘテロアリール基としては、好ましくは、置換基を有してもよいピロール基、置換基を有してもよいチオフェン基、置換基を有してもよいオリゴピロール基、置換基を有してもよいオリゴチオフェン基を挙げることができる。置換基としては、ヘテロアリール基に置換が可能な通常公知の置換基を挙げることができる。
【0028】
また、置換基を有してもよいフラーレン類としては、フラーレン類に通常公知の置換基を有するフラーレン類を挙げることができ、例えば、C60フラーレン、C70フラーレンやフェニルC61−駱酸メチル[60]フラーレン(PCBM)等を挙げることできる。
【0029】
上記置換基を有してもよいフタルイミド基としては、例えば、
【0030】
【化4】

【0031】
(ここで、qは1〜20の整数である。)
で表される基を挙げることができる。置換基としては、フタルイミド基に置換が可能な通常公知の置換基を挙げることができる。
【0032】
また、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表わし、フタロシアニン環に置換するY〜Yの置換基数を示す。なお、フタロシアニン環に置換する置換基の数aからdのうち、少なくとも一つは0ではない。
【0033】
本発明の一般式(3)で表される置換基を有するフタロシアニンの具体例としては以下が挙げられるが、これらに限らない。なお、ここで、置換基を有するフタロシアニンの式の括弧の横の数字はフタロシアニン分子に対する官能基の平均導入数を表している。この数が小数である理由は、個々の分子についての置換基導入数は整数であるが、実際の使用に当たっては、置換基導入数の異なるものが混在しており、それらの平均値を表したものであるためである。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
(ここで、Xは、銅原子又は亜鉛原子、nは1〜20の整数、mは平均的な官能基の導入数を表わす1〜4の数値である。)
【0042】
【化12】

【0043】
(ここで、Xは銅原子又は亜鉛原子、nは1〜20の整数、mは平均的な官能基の導入数を表わす1〜4の数値であり、RからRは、各々独立に水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、アルキルオキシ基又はアルキルチオ基を表す。)
【0044】
【化13】

【0045】
(ここで、Xは銅原子又は亜鉛原子、nは1〜20の整数、mは平均的な官能基の導入数を表わす1〜4の数値であり、RからRは、各々独立に水素原子、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル基、アルキルオキシ基又はアルキルチオ基を表す。)
【0046】
また、一般式(4)で表される具体的化合物としては、上記式(化5)〜(化13)において中心金属が存在しない置換基を有するフタロシアニンも用いることができる。
【0047】
本発明の一般式(5)
【0048】
【化14】

【0049】
(但し、式中、Xは銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、スズ原子、鉛原子、マグネシウム原子、ケイ素原子、鉄原子からなる群から選ばれる何れかであり、Zは下記式(a)又は(b)で表される基であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0ではない。)
【0050】
【化15】

【0051】
(ここで、nは4〜100の整数であり、Qは各々独立に水素原子又はメチル基であり、Q’は炭素数1〜30の非環状炭化水素基である。)
【0052】
【化16】

【0053】
(ここで、mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である。)
で表される置換基を有するフタロシアニンでは、フタロシアニン環が少なくとも1個以上のスルファモイル基で置換された化合物を挙げることができる。導入されるスルファモイル基は、フタロシアニン環1個あたり少なくとも1個であれば特に限定なく用いることができるが、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個である。置換される位置は、特に限定はない。
【0054】
一般式(a)の分子量には特に制限は無く、アルキル基やエーテル基などの各種官能基でも、これらの官能基が数個の繰り返し単位を持つオリゴマーでも、さらに繰り返し単位の多いポリマーでもよい。ポリマーの場合は数平均分子量が10000以下であることが、ナノワイヤー化において、立体障害によるフタロシアニンの結晶成長が阻害されず、十分に長いナノワイヤーが得られるために好ましい。該ポリマーとしてアルキル基やビニル化合物の重合体からなるポリマーやウレタン結合やエステル結合、エーテル結合を有するポリマーなどを挙げることができる。
【0055】
最も好ましい本発明の鎖状化合物Zとして、一般式(a)で表されるポリアルキレンオキシドコポリマーを挙げることができ、エチレンオキシドポリマー及びエチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーなどのあらゆるポリアルキレンオキシドであり、ブロック重合したものでも、ランダム重合したものでも用いることができる。
【0056】
ここで、Q’は、炭素数1〜30に非環状炭化水素基として、直鎖状炭化水素基でも分岐状炭化水素基でもどちらでもよく、炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基のどちらでもよい。このような非環状炭化水素基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチル−ヘキシル基、n−ドデシル基、ステアリル基、n−テトラコシル基、n−トリアコンチル基等の直鎖状或いは分岐状飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0057】
また、直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基としては、炭化水素基が二重結合又は三重結合を有してもよく、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、イソプレン基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ゲラニル基、エチニル基、2−プロピニル基、2−ペンテン−4−イニル基等の直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0058】
ポリアルキレンオキシド部分の繰り返し数nには特に制限はないが、分散溶媒との親和性即ち、得られるナノワイヤーの分散安定性の観点からは、4以上100以下であることが好ましく、より好ましくは5以上80以下、更により好ましくは10以上50以下である。
【0059】
本発明で用いる一般式(1)で表される置換基を有するフタロシアニンは、公知慣用の方法を組み合わせることにより、例えば、銅フタロシアニンスルホニルクロライドとポリエーテル主鎖の末端にアミンを持つポリエーテルアミン(以下、「ポリエーテルモノアミン」と略記)とを反応させて製造できる。
【0060】
原料となる銅フタロシアニンスルホニルクロライドは、銅フタロシアニンとクロロスルホン酸又は塩化チオニルとの反応により得ることができる。他方の原料であるポリエーテルモノアミンは、公知慣用の方法で得ることができる。例えば、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基をニッケル/銅/クロム触媒を用いて還元的にアミノ化することにより得ることができるし、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基を光延反応(参考文献:Synthesis,1−28(1981))によりイミド化したのち、ヒドラジン還元によりアミノ化(参考文献:Chem.Commun.,2062−2063(2003))することにより得ることができる。
ポリエーテルモノアミンは市販品としても提供されており、例えばアメリカHuntsmanCorporationから「JEFFAMINE(商品名)Mシリーズ」がある。
【0061】
本発明で用いられる一般式(5)で表される置換基を有するフタロシアニンとしては、例えば(化17)式の化合物が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0062】
【化17】

【0063】
(但し、式中、Q及びRは水素原子又はメチル基を表す。nは4〜100の整数である。またスルファモイル結合を介してフタロシアニンに結合するポリアルキレンオキシド鎖の導入数はフタロシアニンが有する4つのベンゼン環に対して、0.2から3.0である。)
【0064】
本発明で用いることができる置換基を有するフタロシアニンには前記の置換基を有するフタロシアニンのほか、一般式(b)で表される基を有していてもよい。
【0065】
本誘導体は、上記の一般式(a)で表される基の導入に用いたポリエーテルアミンの替わりに下記式で表されるアミンと反応させればよい。
【0066】
【化18】

【0067】
(ここで、mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である。)
好ましいR及びR’として、低級アルキル基、特にメチル基を挙げることができ、mとしては、1〜6の整数であるものが好ましい。具体的に好ましい置換基を有するフタロシアニンとして以下が挙げられる。
【0068】
【化19】

【0069】
また、一般式(3)で表される置換基を有するフタロシアニンのうち、R〜Rで表される基がSOH又はCOHである基を有するものであってもよく、SOH又はCOHである基の個数に制限はないが、1〜4個、より好ましくは1〜2個を挙げることができる。これらの基は、一種類の基を有していても2種類の基を有していてもどちらでもよい。SOH又はCOHの導入は公知慣用の方法で行うことができる。
【0070】
一般式(5)で表される置換基を有するフタロシアニンのスルファモイル基の個数に制限はないが、1〜4個、より好ましくは1〜2個を挙げることができる。これらの基は、一種類の基を有していても2種類の基を有していてもどちらでもよい。これらの置換基を有するフタロシアニンは、公知慣用の方法で合成することができる。
【0071】
上記の置換基を有するフタロシアニンの式の括弧の横の数字はフタロシアニン分子に対する平均的な官能基の導入数を表し、好ましい官能基の導入数は後述するナノワイヤー化機構の観点から、0.2から3.0、さらに好ましくは0.5から2.0の範囲にある。
【0072】
前記の各種置換基を有するフタロシアニンは、フタロシアニン環に側鎖もしくは官能基を導入することにより、合成することができる。例えば(化17)記載の銅フタロシアニンスルファモイル化合物は前記の方法で合成することができ、(化5)、(化6)、(化7)記載のスルホン酸化銅フタロシアニンは銅フタロシアニンを発煙硫酸(三酸化硫黄濃度:20%)中で加熱することにより得ることができ、(化10)の化合物の合成は、例えば特許文献(米国特許2761868号)に開示の方法で合成することができる。
【0073】
該置換基を有するフタロシアニンは、例えば、特開2005−145896号広報、特開2007−39561号公報に記載のある公知公用のフタロシアニン類合成方法によっても得られ、例えば4−フェノキシ−フタロニトリルや4−フェニルチオ−フタロニトリル、4−(1,3−ベンゾチアゾール−2−イル)−フタロニトリルなどの各種フタロニトリル化合物を、置換基を有しないオルトフタロニトリルに対して任意の比率で混合し、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデック−7−エンなどの有機塩基存在下で硫酸銅(II)や塩化亜鉛(II)などの金属塩とともにエチレングリコール中で加熱することにより、前記の各種官能基を任意の比率で有する置換基を有するフタロシアニンを合成できる。ここで該フタロニトリル化合物を原料の一つとして合成できる置換基を有するフタロシアニン有する前記の官能基の数は、該フタロニトリル化合物とオルトフタロニトリルとの混合比を変化させることにより任意に変えることができ、例えば平均してフタロシアニン分子あたり、1つの官能基を有する置換基を有するフタロシアニンを合成したい場合は、該フタロニトリル誘導体とオルトフタロニトリルとの混合を1:3にすればよく、平均して1.5導入したい場合は3:5の比率で、特許文献に記載の方法などを用いて合成することができる。また二種類以上のフタロニトリル化合物とオルトフタロニトリルから、複数種の官能基を有する置換基を有するフタロシアニンを合成することもできる。
【0074】
さらに置換基を有するフタロニトリル誘導体には前記以外に公知慣用の各種フタロニトリル誘導体が含まれるが、一例として、特開2007−519636号公報の0001段落の化2、特開2007−526881号公報の0006段落記載の化2を挙げることができ、さらには特開2006−143680号公報の0014段落の化2で記載されるオリゴチオフェン類が連結したフタロニトリル誘導体、特開2009−135237号公報の0021段落の化9記載のフラーレン類を連結したフタロニトリル誘導体なども、本発明で用いることができる置換基を有するフタロシアニンを合成するための原料に含まれる。
【0075】
本発明のナノワイヤーは、上記無置換フタロシアニンと置換基を有するフタロシアニンを適宜配合量で配合することにより、長さと短径が異なる種々のフタロシアニンナノワイヤーを得ることができる特徴を有する。
【0076】
(フタロシアニンナノワイヤーの製造方法)
次に、本発明のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法について説明する。
【0077】
<製造方法>
本製造方法は、
(1)無置換フタロシアニンを酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて無置換フタロシアニンの析出体(A)を得る工程(a)と、
(2)前記無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体との混合物(B)を得る工程(b)と、
(3)前記混合物(B)を溶媒中、もしくは溶媒蒸気雰囲気下でナノワイヤー化する工程(c)とからなるものである。
【0078】
・工程(a)
一般にフタロシアニン類は硫酸などの酸溶媒に可溶であることが知られており、本発明のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法においても、まず前記無置換フタロシアニンを硫酸、クロロ硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等の酸溶媒に溶解させる。その後に水などの貧溶媒に投入して該無置換フタロシアニンの析出体(A)を得る。
【0079】
該無置換フタロシアニンの酸溶媒に対する添加量は未溶解分が無く、完全に溶解できる濃度であれば特に制限はないが、該溶液が十分な流動性を有している程度の粘性を保つ範囲として、20質量%以下が好ましい。
【0080】
該無置換フタロシアニンを溶解させた溶液を水などの貧溶媒に投入して該無置換フタロシアニンを析出させる際、該溶液は、貧溶媒に対して、0.01質量%から50質量%の範囲が好ましい。0.01質量%以上であれば、析出体(A)の濃度も十分高いので、固形分回収が容易であり、50質量%以下であれば、すべての該無置換フタロシアニンが固形状の析出体(A)となり、溶解成分がなく、回収が容易となる。
【0081】
前記の貧溶媒に関して無置換フタロシアニンが不溶もしくは難溶性の液体であれば特に制限はないが、析出体(A)の均質性を高く保てることができ、かつ、環境負荷の少ない水もしくは水を主成分とする水溶液を最も好ましい貧溶媒として挙げることができる。
【0082】
該無置換フタロシアニンの析出体(A)は濾紙及び、ブフナーロートを用いて濾過し、酸性水を除去するとともに、濾液が中性になるまで水洗して、含水した該無置換フタロシアニンの析出体(A)を回収することができる。
【0083】
ここで、前記無置換フタロシアニンの析出体(A)は、脱水・乾燥して水分を除去するか、又は、含水状態のままであっても、後述するように次工程において、置換基を有するフタロシアニン誘導体と混合することができる。
・工程(b)
前記工程(a)を経て得られた無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体とを均一に混合することができれば、その方法は特に限定されるものではなく、湿式混合法もしくは乾式混合法のいずれを用いることができる。この中で、後述するナノワイヤー化工程を考慮した場合、工程を簡略化することが出来ることから、特に湿式混合法が好ましい。
湿式混合法の場合、ビーズミル、ペイントコンディショナーなどの微小ビーズを用いた湿式分散機に代表されるメディア型分散機を用いて、又はプライミクス社製のT.K.フィルミックス、ナノマイザーに代表される湿式ジェットミルなどのメディアレス分散機を用いて、水もしくは有機溶媒および含水有機溶媒などの溶媒とともに、工程(a)で得られた該無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体とを混合することができる。
【0084】
フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体と溶媒とを混合する順番に関しては特に制限はなく、フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体を溶媒中に同時に加えても良いし、予め溶媒中でフタロシアニンの析出体(A)を混練してから置換基を有するフタロシアニン誘導体を加えても良いし、予め溶媒中で置換基を有するフタロシアニン誘導体を混練してからフタロシアニンの析出体(A)を加えても良い。
前記有機溶媒に関しては特に制限はないが、例えば、フタロシアニン類との親和性が高いアミド系溶媒、芳香族有機溶媒、グリコールエーテル類、グリコールエステル類が好ましく、具体的には、フタロシアニンと特に親和性が高いN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやトルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを最も好適な有機溶媒として挙げることができる。上記有機溶媒は単独で用いることもできるが、任意の比率で混合して使用することもでき、さらには他の有機溶媒と併用して用いることもできる。
【0085】
アミド系溶媒、芳香族有機溶媒、グリコールエーテル類、グリコールエステル類と併用できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭素を挙げることができる。
【0086】
該無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体との溶媒に対する質量比に関しては特に制限はないが、混合効率の観点から、固形分濃度を1質量%から30質量%の範囲で混合処理することが好ましい。混合処理にはジルコニアビーズなどの微小メディアの使用が好ましく、該無置換フタロシアニンと置換基を有するフタロシアニン誘導体の微粒子化の程度を鑑みて、そのビーズ径は0.01mmから2mmの範囲が好ましい。また微小メディアは、混合効率と回収効率の観点から、無置換フタロシアニンの析出体と置換基を有するフタロシアニン誘導体の混合液に対して、100質量%から1000質量%の範囲での使用が、最も好適に無置換フタロシアニンの析出体と置換基を有するフタロシアニン誘導体を混合することができる。
【0087】
なお、溶媒中において無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体を混合した場合は、混合後、必要に応じて脱溶媒、乾燥などをして溶媒を除去することができる。脱溶媒、乾燥の方法については特に制限はないが、ろ過、遠心分離、ロータリーエバポレーター等による蒸発を挙げることができる。さらに脱溶媒後、真空乾燥機などを用いて溶媒を完全に除去するまで乾燥してもよい。
ここで、該置換基を有するフタロシアニン誘導体の該無置換フタロシアニンの析出体(A)に対する混合比は5質量%から200質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは30質量%から120質量%である。混合比が5質量%以上の場合は、該置換基を有するフタロシアニンが有する官能基あるいはポリマー側鎖の作用により、後述する工程を経て一方向に結晶成長して良好にナノワイヤー化する傾向を有しており、一方、200質量%以下の範囲にあれば該官能基やポリマー側鎖が結晶成長を阻害するほど多くないため、良好に一方向結晶成長を経てナノワイヤー化し、アモルファス状態もしくは粒子状となることはない。
【0088】
・工程(c)
工程(b)で得られた無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体の混合物(B)を、有機溶媒中(液相中)もしくは溶媒蒸気雰囲気中(気相中)で、(加熱)静置することにより、フタロシアニンのナノワイヤーが製造できる。この際、ナノワイヤー化を阻害しない程度に溶媒を攪拌するか、もしくは溶媒蒸気を循環させても良い。溶媒を攪拌する場合、前記混合物(B)を得る工程(b)が、ナノワイヤー化工程(c)を兼ねても良い。
この中で、後述するナノワイヤーの溶媒分散化を考慮した場合、工程を簡略化することが出来ることから、液相中でナノワイヤー化する方法が好ましい。
【0089】
特に前記混合物(B)が湿式混合法により、N−メチルピロリドンやオルトジクロロベンゼンなどのナノワイヤー化に供される有機溶媒に既に分散している場合は、(加熱)静置することによりナノワイヤー化することができる。また混合物(B)の粉末を、有機溶媒中(液相中)でナノワイヤー化させる場合、予め有機溶媒を加えた容器中に、前記混合物粉末(B)を加えても良いし、該混合物粉末(B)を設置した容器に、後から有機溶媒を加えても良い。さらに、溶媒蒸気中(気相中)でナノワイヤー化する場合、溶媒蒸気で満たした容器中に、該混合物粉末(B)を後から加えても良いし、該混合物粉末(B)を加えた容器中に、直接接触しない状態で、後から有機溶媒を加えて蒸気発生させても良く、該混合物粉末(B)と有機溶媒をY字管等の、分かれた二つの先端部に別々に用意して、蒸気発生させる方法も用いることができる。
【0090】
ナノワイヤー化の温度は、5℃から250℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは20℃から200℃である。温度が5℃以上であれば、十分にフタロシアニン類の結晶成長を誘発することができ、目的とする一方向結晶成長により、ナノワイヤーへ成長可能であり、また250℃以下であればナノワイヤーの凝集、融着がほとんど見られず、幅方向に結晶成長して粗大化することもない。なお、本発明において、フタロシアニンナノワイヤーとは、その短径に対する長さの比率(長さ/短径)が10未満であるロッド状のものから、該比率が10以上の長い線状のものを含む。ナノワイヤー化に要する(加熱)静置時間には特に限定は無く、目的に応じて適宜選択すれば良いが、100nm以上の長さのフタロシアニンナノワイヤーを得る場合には、少なくとも10分以上(加熱)静置することが好ましい。
【0091】
前記有機溶媒に関しては、フタロシアニン類との親和性が低いものでなければ特に制限はなく、前記工程(b)の湿式混合法記載のアミド系溶媒、芳香族有機溶媒、グリコールエーテル類、グリコールエステル類が好ましく、具体的には、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンやトルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを最も好適な有機溶媒として挙げることができる。上記有機溶媒は単独で用いることもできるが、任意の比率で混合して使用することもでき、さらには他の有機溶媒と併用して用いることもできる。
【0092】
アミド系有機溶媒、芳香族有機溶媒、グリコールエーテル類、グリコールエステル類と併用できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭素を挙げることができる。これらの有機溶媒は前記混合物(B)をアミド系有機溶媒、芳香族有機溶媒、グリコールエーテル類、グリコールエステル類に浸漬した後に添加してもよいし、予め上記有機溶媒と混合してから該混合物(B)を投入してもよい。
【0093】
溶媒中でナノワイヤー化を行う場合、上述の混合物(B)に対する有機溶媒の添加量に関しては、適当な流動性を有し、かつ、凝集防止の観点から、該混合物(B)の該有機溶媒に対する固形分濃度が0.1%から20%の範囲にあり、さらに好ましくは1%から10%である。
【0094】
工程(c)を経て得られたナノワイヤーは短尺化する(アスペクト比を下げる)こともできる。短尺化の方法としては特に限定されるものではないが、前記ナノワイヤーを有機溶媒中にて、撹拌処理、分散攪拌処理、分散均一処理、超音波照射処理、超音波攪拌処理、超音波均一処理、超音波分散処理、レーザー照射処理等の方法を1種又は複数種組み合わせて行なう事ができる。
また工程(c)において、有機溶媒中(液相中)で得られたナノワイヤーに撹拌処理、分散攪拌処理、分散均一処理、超音波照射処理、超音波攪拌処理、超音波均一処理、超音波分散処理、レーザー照射処理等の方法を1種又は複数種組み合わせて行なう事により、有機溶媒中で凝集状態にあるナノワイヤーを解して、該ナノワイヤーの溶媒分散性を向上させることもできる。
【0095】
前記の工程(a)から工程(c)まで処理することにより、幅(短径)が100nm以下であるフタロシアニンナノワイヤーを製造することができる。工程(a)で得られた無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニンが工程(b)で混合され、工程(c)でナノワイヤー化する機構に関しては必ずしも明確ではないが、有機溶媒と該混合物(B)の界面よりナノワイヤー化が進行し、生成したナノワイヤーが溶媒中に移行、これにより新たに界面が生じるというサイクルにより、ナノワイヤー化が進行するものと推定できる。この際、工程(c)の有機溶媒はフタロシアニンナノワイヤーの良分散媒として機能しており、前記サイクルをより促進しているものと考えられる。
【0096】
(インキ組成物への応用)
本発明の製造法で得られる前記フタロシアニンナノワイヤーは、ワイヤー化後に有機溶媒に分散させることが可能であり、該分散体は、ウエットプロセス(印刷又は塗布)に適したインキ組成物、特に、電子素子(トランジスタや光電変換素子)用材料として好適に使用することができる。
【0097】
該ナノワイヤーを分散させる有機溶媒の種類は、フタロシアニンナノワイヤーを安定分散させるものであれば特に限定されるものではなく、単独の有機溶媒であっても、二種以上を混合した有機溶媒を用いても良いが、フタロシアニンナノワイヤーを良好且つ安定に分散させることができる点からは、アミド系溶媒が好ましく、具体的には、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジエチルホルムアミド等を挙げることができ、中でもN−メチルピロリドンが特に好ましい。
【0098】
又、フタロシアニンナノワイヤーに含有される置換基を有するフタロシアニンの種類によって、インキ組成物を構成する該溶媒を適宜選択することができ、例えば、(化10)の誘導体を含有するフタロシアニンナノワイヤーを良好且つ安定に分散させることができる好ましい有機溶媒として、アミド系溶媒の他に、例えば、芳香族系溶媒として、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ハロゲン化芳香族系有機溶媒として、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等を挙げることができ、ハロゲン系有機溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン等の有機溶媒を挙げることができる。この中で、特に好ましいものはオルトジクロロベンゼンである。又、(化17)式の誘導体を含有するフタロシアニンナノワイヤーを良好且つ安定に分散させることができる好ましい有機溶媒として、グリコールエーテル類、グリコールエステル類が好ましく、具体的には、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。
【0099】
本発明で得られる前記フタロシアニンナノワイヤーは、前記分散用の溶媒中に、組成物中のナノワイヤーの含有率が、0.05から20質量%の割合で好適に分散させることができるが、ウエットプロセス(印刷又は塗布)適性及び造膜性(印刷又は塗布後の膜質性)付与のためには、0.1から10質量%の割合で分散させることが好ましい。
【0100】
前記フタロシアニンナノワイヤーの分散方法としては特に限定されるものではないが、所望の比率でナノワイヤーを溶媒に添加した後、攪拌処理など公知慣用の方法の方法を用いて溶媒中に分散させることができる。
【0101】
本発明で得られるフタロシアニンナノワイヤーを前記溶媒中に分散させたインキ組成物は、フタロシアニンナノワイヤー以外に、例えば、π共役系ポリマー、半導体的性質を示す非π共役系ポリマー、低分子系有機半導体化合物等を含有していても良い。ここで、π共役系ポリマーとしては、ポリチオフェン類、ポリ−p−フェニレンビニレン類、ポリ−p−フェニレン類、ポリフルオレン類、ポリピロール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリチエニレンビニレン類等が、半導体的性質を示す非π共役系ポリマーとしてはポリビニルカルバゾールが、低分子系有機半導体化合物としては、可溶性又は溶媒分散性の置換基を有するフタロシアニン、可溶性又は溶媒分散性のポルフィリン誘導体等が挙げられる。これらのうち、ポリマー系材料には、インキ組成物にウエットプロセス(印刷又は塗布)適性及び造膜性(印刷又は塗布後の膜質性)を付与する効果もある。
【0102】
また、本発明で得られるフタロシアニンナノワイヤーを分散させたインキ組成物には、フラーレン類に代表される電子受容性材料を含んでも良い。これにより、光電変換素子を作製する再、一回の製膜で光電変換層の形成が可能となる。本発明で用いることができる電子受容性材料としては、例えばナフタレン類、ペリレン類、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、フラーレン類、カーボンナノチューブ(CNT)類、修飾グラフェン類、ポリ−p−フェニレンビニレンにシアノ基を導入した誘導体(CN−PPV)、Boramer(商品名、TDA Research製)、CF基又はF基を導入した公知慣用の低分子又は高分子有機半導体材料等が挙げられる。
【0103】
ここで、ナフタレン類としては、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシリックジイミド(NTCDI)、N,N'−ジアルキル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシリックジイミド(NTCDI−R)(Rは炭素数1から20のアルキル基)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(NTCDA)等、ペリレン類としては、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(PTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックビスベンズイミダゾール(PTCBI)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックジイミド(PTCDI)、N,N'−ジアルキル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックジイミド(PTCDI−R)(Rは炭素数1から20のアルキル基)等、オキサゾール誘導体としては、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、2,5−ジ(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)等、トリアゾール誘導体としては、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等、フェナントロリン誘導体としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(Bphen)等、フラーレン類としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94等の無置換のものと、[6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)、[5,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル([5,6]−PCBM)、[6,6]−フェニルC61酪酸ヘキシルエステル([6,6]−PCBH)、[6,6]−フェニルC61酪酸ドデシルエステル([6,6]−PCBD)、フェニルC71酪酸メチルエステル(PC70BM)、フェニルC85酪酸メチルエステル(PC84BM)等が挙げられる。
【0104】
本発明で得られるフタロシアニンナノワイヤーを分散して得られるインキ組成物には、ウエットプロセス(印刷又は塗布)適性及び造膜性(印刷又は塗布後の膜質性)を付与するために、樹脂成分を、レオロジー調整やバインダー成分として添加しても良い。樹脂としては、公知慣用のものであれば特に限定されるものではなく、単独の樹脂であっても、二種以上の樹脂を併用してもかまわないが、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート等が好ましい。
【0105】
本発明で得られるフタロシアニンナノワイヤーを分散させたインキ組成物には、ウエットプロセス(印刷又は塗布)適性及び造膜性(印刷又は塗布後の膜質性)の向上を主な目的として、体質成分や各種界面活性剤等を必要に応じて添加しても良い。
体質成分としては、公知慣用の、微粒子粉末単体、これら微粒子粉末単体を予め分散剤又は有機溶媒に分散させた分散液を用いることができ、これらを単独又は二種以上を併用して用いてもかまわない。具体的には、アエロジルシリーズ(商品名、エボニック製)、サイリシア、サイロホービック、サイロピュート、サイロページ、サイロピュア、サイロスフェア、サイロマスク、シルウェル、フジバルーン(商品名、富士シリシア製)、PMA−ST、IPA−ST(商品名、日産化学製)、NANOBIC3600シリーズ、NANOBIC3800シリーズ(商品名、ビックケミー製)等があるが、特に限定するものではない。又、これらは単独又は二種以上を併用しても良い。
【0106】
界面活性剤としては、炭化水素系、シリコン系、フッ素系が挙げられ、これらを単独又は二種以上を混合して使用することが出来る。なかでも好ましいフッ素系界面活性剤は、直鎖状のパーフルオロアルキル基を有し、鎖長がC6以上、さらに好ましくはC8以上のノニオン系のフッ素系界面活性剤である。具体的なものとしては例えば、メガファックF−482、メガファックF−470(R−08)、メガファックF−472SF、メガファックR−30、メガファックF−484、メガファックF−486、メガファックF−172D、メガファックF178RM(以上、商品名、DIC製)等があるが、特に限定するものではない。又、これらは単独又は二種以上を併用しても良い。これら界面活性剤はインキ組成物中、有効成分で5.0質量%以下、好ましくは有効成分で1.0質量%以下含有される。
【0107】
本発明で得られるフタロシアニンナノワイヤーに、前記記載の材料を混合して用いてインキ組成物を構成する場合、混合方法としては特に限定されるものではないが、所望の比率で前記記載の材料を溶媒に添加した後、公知慣用の方法で混合すれば良い。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
・工程(a)(晶析工程)
銅フタロシアニン(DIC(株)製、Fastogen Blue 5380E)2.00gを濃硫酸(関東化学(株)製)64gに完全に溶解させ、濃硫酸溶液を調製した。続いて該濃硫酸溶液を、氷冷した蒸留水584g中に投入し、銅フタロシアニンを析出させた。
【0110】
得られた該析出体をろ別し、蒸留水を用いて十分に洗浄して、含水した銅フタロシアニン析出体を回収した。この含水銅フタロシアニン析出体を、真空乾燥して水分を除去し、1.83gの銅フタロシアニン析出体粉末を得た。
【0111】
・工程(b)(混合工程)
前記で得られたフタロシアニン析出体粉末1.5gと(化10)で表される銅フタロシアニン誘導体0.75gを20.25gのオルトジクロロベンゼンとともに、容量50mLのポリプロピレン製容器に投入し、次いでφ0.5mmのジルコニアビーズ60gを加えて、ペイントシェイカーを用いて2時間、混合工程を行った。続いて該混合物をジルコニアビーズから分離回収し、さらにオルトジクロロベンゼンを加えて、固形物濃度2%の混合液を得た。
【0112】
・工程(c)(ナノワイヤー化工程)
前記混合液をステンレス製耐圧セルに投入し、これをオーブンで200℃まで加熱した。このとき、30℃から100℃までは毎分2℃で昇温し、100℃から200℃までは毎分1℃で昇温して、200℃到達後、30分間200℃を保持した。冷却後、オルトジクロロベンゼン中の固体を取り出し、透過型電子顕微鏡(機種名:日本電子(株)製、JEM−1400)を用いて観察したところ、短径が25nm程度で長径が短径の20倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたナノワイヤーはフタロシアニン化合物特有のピークを示し、高い結晶性を有することが確認できた。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0113】
(実施例2)
実施例1の工程(a)において、銅フタロシアニンの析出体を得た後、水酸化ナトリウムで中和してから蒸留水で洗浄すること、及び工程(b)において、フタロシアニンの析出体粉末1.5gと(化10)で表される銅フタロシアニン誘導体0.75gを20.25gのオルトジクロロベンゼンとともに、乳鉢中で混合する以外は、実施例1と同様にして銅フタロシアニンナノワイヤーを得た。オルトジクロロベンゼン中の固体を取り出し、走査型電子顕微鏡(機種名:日立製作所(株)製、S−800)を用いて観察したところ、短径が25nm程度で長径が短径の20倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたナノワイヤーはフタロシアニン化合物特有のピークを示し、高い結晶性を有することが確認できた。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0114】
(実施例3)
実施例1において(化10)式に代えて(化6)式のフタロシアニン誘導体を1.0g用い、工程(b)におけるオルトジクロロベンゼンに代えてN−メチルピロリドンを用いる以外は、実施例1と同様にして銅フタロシアニンナノワイヤーを得た。N−メチルピロリドン中の固体を取り出し、走査型電子顕微鏡(機種名:日立製作所(株)製、S−800)を用いて観察したところ、短径が25nm程度で長径が短径の20倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたナノワイヤーはフタロシアニン化合物特有のピークを示し、高い結晶性を有することが確認できた。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0115】
(実施例4)
実施例1において(化10)式に代えて(化17)式のフタロシアニン誘導体(Rはメチル基、Qは水素原子又はメチル基を表し、プロピレンオキシド/エチレンオキシド=29/6(モル比)、nの平均値=35である。)を1.0g用い、工程(b)におけるオルトジクロロベンゼンに代えてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いる以外は、実施例1と同様にして銅フタロシアニンナノワイヤーを得た。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中の固体を取り出し、走査型電子顕微鏡(機種名:日立製作所(株)製、S−800)を用いて観察したところ、短径が25nm程度で長径が短径の10倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたナノワイヤーはフタロシアニン化合物特有のピークを示し、高い結晶性を有することが確認できた。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0116】
(実施例5)
実施例1において、銅フタロシアニンに代えて亜鉛フタロシアニン、(化10)式に代えて(化5)式のフタロシアニン誘導体、工程(b)におけるオルトジクロロベンゼンに代えてN−メチルピロリドンを用いる以外は、実施例1と同様にして亜鉛フタロシアニンナノワイヤーを得た。N−メチルピロリドン中の固体を取り出し、走査型電子顕微鏡(機種名:日立製作所(株)製、S−800)を用いて観察したところ、短径が25nm程度で長径が短径の10倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたナノワイヤーはフタロシアニン化合物特有のピークを示し、高い結晶性を有することが確認できた。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0117】
(実施例6)
実施例1において、銅フタロシアニンに代えてスズフタロシアニン、(化10)式において中心金属がスズであるフタルイミドメチル基を含有するフタロシアニン誘導体を用いる以外は、実施例1と同様にしてスズフタロシアニンナノワイヤーを得た。オルトジクロロベンゼン中の固体を取り出し、走査型電子顕微鏡(機種名:日立製作所(株)製、S−800)を用いて観察したところ、短径が25nm程度で長径が短径の10倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたナノワイヤーはフタロシアニン化合物特有のピークを示し、高い結晶性を有することが確認できた。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0118】
(実施例7)
実施例1において、銅フタロシアニンに代えて無金属フタロシアニン、(化10)式に代えて、オルトフタロニトリル3部、4−(2’,6’−ジメチルフェノキシ)フタロニトリル1部を1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンを触媒として、N,N−ジメチルホルムアミド中で合成したジメチルフェノキシ基を含有する無金属フタロシアニン誘導体を用いる以外は実施例1と同様にして、無金属フタロシアニンナノワイヤーを得た。オルトジクロロベンゼン中の固体を取り出し、走査型電子顕微鏡(機種名:日立製作所(株)製、S−800)を用いて観察したところ、短径が25nm程度で長径が短径の10倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された。さらに、X線回折(理学電機(株)製 RINT−ULTIMA+使用)により、得られたナノワイヤーはフタロシアニン化合物特有のピークを示し、高い結晶性を有することが確認できた。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0119】
(実施例8)
実施例(1)で得られた銅フタロシアニンナノワイヤーを含むオルトジクロロベンゼンに超音波ホモジナイザー(商品名:US300、日本精機製作所製)を用いて、氷冷下、7φのホーンを使用し、出力10で30分間、超音波照射した。このようにして得られた分散液を回収し、その固形分を走査型電子顕微鏡で観察したところ、短径が約20nm以下、短径に対する長さの比率が5以下であるロッド状固形物が確認された。該分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットは見られなかった。
【0120】
(実施例9)
実施例1で得たナノワイヤー45mgとPCBM(フロンティアカーボン製)45mgとオルトジクロロベンゼン4500mgをサンプル瓶の中に投入し、超音波洗浄機(47kHz)中で30分間超音波照射することによりインキ組成物(1)を得た。
【0121】
ガラス基板にスパッタリング法により正極となるITO透明導電層を100nm堆積させ、これをフォトリソグラフィー−エッチング法により2mm幅の短冊状にパターニングした。得られたパターンITO付きガラス基板を、中性洗剤、蒸留水、アセトン、エタノールの順にそれぞれにつき15分間超音波洗浄を3回実施した後、30分間UV/オゾン処理し、この上にPEDOT:PSS水分散液(AI4083(商品名、HCStarck製))をスピンコートすることで、PEDOT:PSSよりなるバッファー層1を60nmの厚さでITO透明電極層上に形成した。これを100℃に加熱したホットプレート上で5分間乾燥した後、該PEDOT:PSS層上に前記インキ組成物(1)をスピンコートし、膜厚100nmのインキ組成物(1)由来の有機半導体層を形成した。その後、前記「有機半導体層が形成された基板」と蒸着用メタルマスク(2mm幅の短冊パターン形成用)を真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度を5×10−4Paまで高めた後、抵抗加熱法によって、負極となるアルミニウムを2mm幅の短冊パターンになるように蒸着堆積した(膜厚:80nm)。以上のようにして、面積が2mm×2mm(短冊状のITO層とアルミニウム層が交差する部分)である光電変換素子(1)を製造した。
【0122】
前記光電変換素子(1)の正極と負極をデジタルマルチメーター(6241A、製品名(ADC製))に接続して、スペクトル形状:AM1.5、照射強度:100mW/cm2の擬似太陽光(簡易型ソーラシミュレータ XES151S(製品名、三永電機製作所製))の照射下(ITO層側から照射)、大気中で電圧を−0.1Vから+0.8Vまで掃引し、電流値を測定した。この時の短絡電流密度(印加電圧が0Vのときの電流密度の値。以下、Jsc)は5.08mA/cm2、開放端電圧(電流密度が0になるときの印加電圧の値。以下、Voc)は0.54V、フィルファクター(FF)は0.31であり、これらの値から算出した光電変換効率(PCE)は0.84%であった。なお、FFとPCEは次式により算出した。

FF=JVmax/(Jsc×Voc)
(ここで、JVmaxは、印加電圧が0Vから開放端電圧値の間で電流密度と印加電圧の積が最大となる点における電流密度と印加電圧の積の値である。)

PCE=[(Jsc×Voc×FF)/擬似太陽光強度(100mW/cm2)]×100(%)
【0123】
(実施例10)
実施例1で得たナノワイヤー45mgとオルトジクロロベンゼン9000mgをサンプル瓶に投入し、超音波洗浄機(47kHz)中で30分間超音波照射することによりインキ組成物(2)を得た。
【0124】
n型のシリコン基板を用意してこれをゲート電極とし、この表面層を熱酸化処理して酸化シリコンからなるゲート絶縁膜を形成した。ここに、前記インキ組成物(2)をスピンコートし、半導体膜を形成した。次に、蒸着成膜によって、金薄膜からなるソース・ドレイン電極をパターン形成し、トランジスタ(1)を製造した。なお、チャネル長L(ソース電極−ドレイン電極間隔)を75μm、チャネル幅Wを5.0mmとした。
【0125】
トランジスタ特性の評価は、前記トランジスタ(1)に対して、デジタルマルチメーター(ケースレー製237)を用いて、ゲート電極に電圧(Vg)0〜−80Vをスイープ印加しながら、−80Vを印加したソース・ドレイン電極間の電流(Id)を測定することで行なった。結果、移動度は、10−4cm/V・s、ON/OFF比は10であった。なお、移動度は、√Id−Vgの傾きから、周知の方法により求めた。また、ON/OFF比は(Idの絶対値の最大値)/(Idの絶対値の最小値)で求めた。
【0126】
(実施例11)〜(実施例35)
以下、上記実施例と同様にして、下記実施例(11)〜(35)を行い、各種無置換フタロシアニン及び置換基を有するフタロシアニンを含有するフタロシアニンナノワイヤーを作製し、走査型電子顕微鏡を用いてナノワイヤーが得られることを確認した。(表中、フタロシアニンナノワイヤーの作製上参照すべき実施例を記載した。)
【0127】
【表1】

【0128】
但し、表中のフタロシアニンの置換基のうち、スルホン酸は(化6)に記載の置換基、イミドは(化10)に記載の置換基、スルファモイルは(化17)に記載の置換基を表す。
【0129】
(比較例1)
銅フタロシアニン1.67g、(化10)で表される銅フタロシアニン誘導体0.83gを濃硫酸(関東化学(株)製)80gに完全に溶解させ、続いて該濃硫酸溶液を氷冷した蒸留水730g中に投入して得られた析出体を、水洗、真空乾燥後に2.25g分取してオルトジクロロベンゼンと混合する以外は、実施例(1)と同様にして銅フタロシアニンナノワイヤーを得た。この水洗の際に使用した蒸留水量は、(実施例2)の同工程で使用した蒸留水量の3倍であった。また該ナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ、不純物由来と推定されるスポットが見られた。
【0130】
(比較例2)
銅フタロシアニン1.5gと(化17)で表される銅フタロシアニン誘導体(Rはメチル基、Qは水素原子又はメチル基を表し、プロピレンオキシド/エチレンオキシド=29/6(モル比)、nの平均値=35である。)1.0gを用い、オルトジクロロベンゼンに代えてN−メチルピロリドンを用いる以外は、比較例1と同様にして加熱した。得られたナノワイヤー分散液をガラス製キャピラリーで分取し、TLCプラスチックプレート(Merck社製:シリカゲル60F254)にスポッティングし、ヘキサン:酢酸エチル=1:1で展開したところ不純物由来と推定されるスポットが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の製造方法により、無置換フタロシアニン及び置換基を有するフタロシアニンを含有し、短径が100nm以下であるフタロシアニンナノワイヤーを、置換基を有するフタロシアニン誘導体の、酸やアルカリによる分解の問題なく製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無置換フタロシアニン及び置換基を有するフタロシアニンを含有し、短径が100nm以下であるフタロシアニンナノワイヤーの製造方法において、
(1)無置換フタロシアニンを酸に溶解させた後に、貧溶媒に析出させて無置換フタロシアニンの析出体(A)を得る工程(a)、
(2)前記工程(a)で得られた無置換フタロシアニンの析出体(A)と置換基を有するフタロシアニン誘導体との混合物(B)を得る工程(b)、
(3)前記工程(b)で得られた混合物(B)を、溶媒中、もしくは溶媒蒸気雰囲気下でナノワイヤー化する工程(c)、
を含むことを特徴とするフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
無置換フタロシアニンが、一般式(1)又は(2)で表される請求項1に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【化1】

(但し、式中、Xは、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、錫原子、鉛原子、マグネシウム原子、珪素原子、鉄原子、パラジウム原子、TiO、VO及びAlClからなる群から選ばれる何れかである。)
【請求項3】
置換基を有するフタロシアニンが、一般式(3)又は(4)で表される請求項1又は2に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【化2】

(但し、式中、Xは、銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、錫原子、鉛原子、マグネシウム原子、珪素原子、鉄原子、パラジウム原子、TiO、VO、及びAlClからなる群から選ばれる何れかであり、YからYは、フタロシアニン骨格とR〜Rを結合させる結合基を表し、
からYが結合基として存在しない場合には、R〜Rは、−SOH、−COH、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、
からYが、−(CH−(nは1〜10の整数を表す)、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−NH−、−S−、−S(O)−、又は−S(O)−で表される結合基である場合には、R〜Rは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基、置換基を有してもよいフタルイミド基又は置換基を有してもよいフラーレン類であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0ではない。)
【請求項4】
置換基を有してもよいアルキル基が、メチル基、エチル基又はプロピル基であり、置換基を有してもよい(オリゴ)アリール基が、置換基を有してもよい(オリゴ)フェニレン基又は置換基を有してもよい(オリゴ)ナフチレン基であり、置換基を有してもよい(オリゴ)へテロアリール基が、置換基を有してもよい(オリゴ)ピロール基、置換基を有してもよい(オリゴ)チオフェン基、置換基を有してもよい(オリゴ)ベンゾピロール基又は置換基を有してもよい(オリゴ)ベンゾチオフェン基である請求項3に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
置換基を有するフタロシアニンが、一般式(5)又は(6)で表される請求項1又は2に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【化3】

(但し、式中、Xは銅原子、亜鉛原子、コバルト原子、ニッケル原子、錫原子、鉛原子、マグネシウム原子、珪素原子、鉄原子、パラジウム原子、TiO、VO、及びAlClからなる群から選ばれる何れかであり、Zは下記式(a)又は(b)で表される基であり、a、b、c及びdは各々独立に0〜4の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは0ではない。)
【化4】

(ここで、nは4〜100の整数であり、Qは各々独立に水素原子又はメチル基であり、Q’は炭素数1〜30の非環状炭化水素基である。)
【化5】

(ここで、mは1〜20の整数であり、R及びR’は、各々独立に炭素数1〜20のアルキル基である。)
【請求項6】
工程(a)における酸が、硫酸、クロロ硫酸、メタンスルホン酸、又はトリフルオロ酢酸である請求項1に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項7】
工程(c)に於ける有機溶媒がアミド系有機溶剤、芳香族系有機溶剤、グリコールエーテル類、又はグリコールエステル類である請求項1に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項8】
アミド系有機溶媒がN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、又はN,N−ジメチルアセトアミドである請求項7に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項9】
芳香族系有機溶剤が、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、又はジクロロベンゼンである請求項7に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項10】
グリコールエーテル類が、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールである請求項7に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項11】
グリコールエステル類が、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、又はジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートである請求項7に記載のフタロシアニンナノワイヤーの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−30545(P2013−30545A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164254(P2011−164254)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】