説明

フッ化マグネシウム焼結体、その製法及び半導体製造装置用部材

【課題】高強度かつ高耐食性であり、アルカリ金属含有量が500ppm以下のフッ化マグネシウム焼結体を提供する。
【解決手段】本発明のフッ化マグネシウム焼結体は、フッ化マグネシウムを主相とする焼結体であって、平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低い少なくとも1種の分散粒子を含み、焼結体中の分散粒子の平均粒径とフッ化マグネシウム粒子の平均粒径が5μm以下でかつ開気孔率が1%以下であり、アルカリ金属元素含有量が500ppm以下のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化マグネシウム焼結体、その製法及び半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるドライプロセスやプラズマコーティングなどを実施する際に利用される半導体製造装置では、エッチング、クリーニング用として、反応性の高いF、Cl系プラズマが使用される。このため、こうした装置に利用される部材には高い耐食性が必要であり、静電チャックやヒーター等のSiウエハと接する部材は更なる高耐食が求められる。このような要求に応えられる耐食性部材として、Al23やY23の焼結体が知られているものの、よりエッチングレートを小さく抑えることのできる焼結体材料の開発が望まれている。例えばY23の焼結体を利用した半導体製造装置は、特許文献1〜3に開示されている。
【0003】
フッ化物セラミックスは、フッ素系の腐食ガスやそれらのプラズマに対して高い耐食性を有している。このため、半導体製造装置で使用される内壁材等の材料として用いられている。こうしたフッ化物セラミックスとして、フッ化マグネシウムが知られている(特許文献4参照)。フッ化マグネシウムはアルミナに比べて2倍以上の耐食性を持つと言われているが、機械的強度が弱いことが問題とされている。こうした問題点を克服するために、フッ化マグネシウムにアルミナを添加した混合粉末を焼成したフッ化物基複合セラミックス焼結体が開示されている(特許文献5参照)。特許文献5には、平均粒径1.6μmのフッ化マグネシウム粉末にフッ化リチウムを1mol%添加して得られたフッ化物粉末と平均粒径0.2μmのアルミナ粉末とを、所定の重量比となるように調合して湿式混合を行い、その混合粉末を加圧して成形体を作製し、600〜800℃の温度範囲で3時間保持の条件で常圧焼結を行い、更にその焼結体を550〜700℃でHIP処理してフッ化物基複合セラミックス焼結体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−278935号公報
【特許文献2】特開2001−179080号公報
【特許文献3】特開2006−69843号公報
【特許文献4】特開2000−86344号公報
【特許文献5】特開2000−302553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のフッ化物基複合セラミック焼結体は、焼結助剤であるフッ化リチウムに由来するリチウム元素を含有している。従来、半導体製造プロセスにおいてカリウム、ナトリウム、リチウムといったアルカリ金属元素はプラズマ中、更にはシリコンウエハや構成部材中へ拡散しやすいため、半導体製造装置用部材としてはアルカリ金属元素を可能な限り含まない高純度な材料が要求される。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、高強度かつ高耐食性であり、アルカリ金属含有量が500ppm以下のフッ化マグネシウム焼結体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体は、
フッ化マグネシウムを主相とする焼結体であって、
平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低い少なくとも1種の非アルカリ金属系の分散粒子を含み、
焼結体中の分散粒子の平均粒径とフッ化マグネシウム粒子の平均粒径が5μm以下でかつ開気孔率が1%以下であり、
アルカリ金属元素含有量が500ppm以下
のものである。
【0008】
このフッ化マグネシウム焼結体では、フッ化マグネシウム粒子単体で製造した焼結体に比べて、耐食性を高く維持したまま強度が向上する。また、アルカリ金属元素が500ppm以下であるため、アルカリ金属元素が他の部品や最終製品に悪影響を与えるような用途にも使用することができる。
【0009】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体の製法は、
平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低い少なくとも1種の非アルカリ金属系の分散粒子とフッ化マグネシウム粒子とを、フッ化マグネシウム100体積部に対して分散粒子が1〜20体積部となるように秤量し、これらにアルカリ金属元素を加えることなく混合し、混合粉末を成形した後、900〜1100℃でホットプレス焼成する
ものである。
【0010】
この製法は、上述したフッ化マグネシウム焼結体を製造するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体は、フッ化マグネシウムを主相とする焼結体であって、平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低い少なくとも1種の非アルカリ金属系の分散粒子を含み、焼結体中の分散粒子の平均粒径とフッ化マグネシウム粒子の平均粒径が5μm以下でかつ開気孔率が1%以下であり、アルカリ金属元素含有量が500ppm以下のものである。
【0012】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体において、分散粒子は、通常、焼結体の粒界か粒内に存在する。この分散粒子は、平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低いものであればよく、例えば、酸化物、窒化物、炭化物及び酸フッ化物粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子が挙げられる。フッ化マグネシウムの平均線熱膨張係数は16.9ppm/K(293K−1273K)であるため、分散粒子の平均線熱膨張係数はそれより低い値である。
【0013】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体において、焼結体中の分散粒子の平均粒径は、5μm以下であることが好ましい。5μmを超えると、フッ化マグネシウム粒子単体で製造した焼結体に比べて、強度が低下してしまうし、場合によっては耐食性も低下することがあるため、好ましくない。この平均粒径は、3.5μm以下であることがより好ましい。なお、焼結体中の分散粒子の平均粒径の下限値は、特に限定するものではないが、例えば0.4μm以上としてもよい。
【0014】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体において、焼結体中のフッ化マグネシウム粒子の平均粒径は、5μm以下であることが好ましい。5μmを超えると、フッ化マグネシウム粒子単体で製造した焼結体に比べて、強度が低下してしまうことがあるため、好ましくない。この平均粒径は4.5μm以下であることがより好ましい。焼結体中のフッ化マグネシウムの平均粒径は、細かければ細かいほど強度アップの効果が高いため、下限値は特に限定するものではないが、例えば1μm以上としてもよい。
【0015】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体において、開気孔率は、1%以下であることが好ましい。1%を超えると、フッ化マグネシウム粒子単体で製造した焼結体に比べて、耐食性が大きく損なわれることがあるため、好ましくない。また、開気孔の存在により材料自身が脱粒によって発塵し易くなるおそれがあることからも好ましくない。また、開気孔率は、可能な限りゼロに近いほど好ましい。このため、特に下限値は存在しない。
【0016】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体において、アルカリ金属元素は500ppm以下である。アルカリ金属元素は、例えば半導体製造装置用部材として使用する場合、プラズマ腐食により半導体製造用装置内に飛散してプラズマを不安定にしたり、半導体製品を汚染して歩留まり低下を引き起こす可能性がある。よって、焼結体のアルカリ金属含有量はできる限り少ないことが好ましい。
【0017】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体において、分散粒子は、フッ化マグネシウム100体積部に対して1〜20体積部存在することが好ましい。分散粒子が1体積部未満では、強化粒子としての作用が十分ではない上、フッ化マグネシウムの粒成長が進みすぎるため強度が十分向上しないことがあり、20体積部を超えると、焼結性が不十分になり開気孔率が大きくなる場合があり、また、分散粒子自体の耐食性によってフッ化マグネシウム焼結体の耐食性がやや低下する傾向にあるため好ましくない。分散粒子は、フッ化マグネシウム100体積部に対して2〜10体積部存在することがより好ましく、5〜10体積部存在することが更に好ましい。
【0018】
本発明の半導体製造装置用部材は、上述したフッ化マグネシウム焼結体からなるものである。例えば、静電チャックやセラミックヒーター、サセプターなどのように上面にウェハーを載置してそのウェハーに対して加工を施すような半導体製造装置では、ウェハーにアルカリ金属が混入するのをできる限り回避したいという要望がある。したがって、本発明のフッ化マグネシウム焼結体は、半導体製造装置用部材に利用するのに適している。
【0019】
本発明のフッ化マグネシウム焼結体の製法は、平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低い酸化物、窒化物、炭化物、酸フッ化物粒子から選ばれる少なくとも1種の非アルカリ金属系の分散粒子とフッ化マグネシウム粒子とを、フッ化マグネシウム100体積部に対して分散粒子が1〜20重量部となるように秤量し、これらをアルカリ金属元素を加えることなく混合し、混合粉末を成形した後、900〜1100℃でホットプレス焼成するものである。
【0020】
この製法において、分散粒子やフッ化マグネシウム粒子は、それぞれ単独で湿式又は乾式で粉砕したあと篩分けして粒度調整したものを用いてもよい。また、分散粒子とフッ化マグネシウム粒子とを混合する方法は、特に限定するものではないが、各粒子を有機溶媒中で湿式混合することによりスラリーとし、該スラリーを乾燥造粒して混合粉末としてもよい。湿式混合を行う際は、ポットミル、トロンメル、アトリッションミルなどの混合粉砕機を使用してもよい。また、湿式混合の代わりに乾式混合してもよい。
【0021】
この製法において、分散粒子は、フッ化マグネシウム100体積部に対して1〜20体積部混合することが好ましい。分散粒子が1体積部未満では、焼結体の強度が十分向上しないことがあり、20体積部を超えると、焼結体の耐食性がやや低下する傾向にあるため好ましくない。分散粒子は、フッ化マグネシウム100体積部に対して2〜10体積部混合することがより好ましい。
【0022】
この製法において、混合粉末の成形は、特に限定するものではないが、混合粉末を一軸加圧成形により成形体を作製することが好ましい。一軸加圧成形では、混合粉末を型に充填し上下方向に圧力を加えて成形するため、高密度な成形体が得られる。
【0023】
この製法において、成形体のホットプレス焼成は、900〜1100℃で行うのが好ましい。900℃未満では、焼結が不十分となり、緻密化が進まず十分な強度や耐食性が得られないおそれがある。また、1100℃を超えると、焼結粒径が増大し、強度低下を招くおそれがある。ホットプレス焼成のプレス圧力は、5〜30MPaが好ましく、10〜25MPaが寄り好ましい。ホットプレス焼成の雰囲気は、真空又は不活性雰囲気であることが好ましい。不活性雰囲気とは、焼成に影響を与えないガス雰囲気であればよく、例えば窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などが挙げられる。なお、焼成時間は、焼成条件に応じて適宜設定すればよいが、例えば1〜10時間の間で適宜設定すればよい。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
[1]フッ化マグネシウム焼結体の作製
[1−1]フッ化マグネシウム原料の調製
フッ化マグネシウム粉末を秤量し、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、直径φ10mmのジルコニア玉石を用いて24時間湿式粉砕した。粉砕後スラリーを取り出し、窒素気流中110℃で乾燥した。その後、30メッシュの篩に通し、フッ化マグネシウム原料とした。フッ化マグネシウム原料の平均粒径は2μm以下であった。なお、上記フッ化マグネシウム粉末は純度99.0%以上であり、アルカリ金属含有量は100ppm以下であった。
【0026】
[1−2]調合
フッ化マグネシウム原料及び各種分散粒子原料を、表2に示す体積%(外配)となるように秤量し、イソプロピルアルコールを溶媒とし、ナイロン製のポット、直径φ20mmのナイロンボールを用いて4時間湿式混合した。混合後スラリーを取り出し、ロータリーエバポレーターにて減圧乾燥で乾燥した。その後、30メッシュの篩に通し、調合粉末とした。なお、フッ化マグネシウム原料100体積部に分散粒子原料をX体積部を加えたときに、X体積%(外配)と表すものとする。なお、各種分散粒子原料は、市販のものを使用した。それらの平均粒径を表2に示す。なお、分散粒子を含む調合粉末のアルカリ金属含有量は500ppm以下であった。
【0027】
[1−3]成型
調合粉末を、20MPaの圧力で一軸加圧成形し、直径50mm、厚さ20mm程度の円盤状成形体を作製した。
【0028】
[1−4]焼成
円盤状成形体を焼成用黒鉛モールドに収納し、ホットプレス焼成することによりセラミックス焼結体を得た。ホットプレス焼成では、プレス圧力を20MPaとし、表2に示す焼成温度(最高温度)で焼成し、焼成終了までAr雰囲気とした。焼成温度での保持時間は2〜4時間とした。
【0029】
[2]各種パラメータについて
[2−1]原料の平均粒径
JIS R 1629に準拠し、レーザー回折散乱法によって粒度分布測定した値であり、体積基準の平均粒径である。
【0030】
[2−2]平均線熱膨張係数
各分散粒子原料の293K−1273Kの平均線熱膨張係数(ppm/K)を表2に示す。
【0031】
[2−3]開気孔率
アルキメデス法(JIS R 1634準拠)によって測定した値である。
【0032】
[2−4]焼結体中のフッ化マグネシウムの平均粒径
JIS R 1670(ファインセラミックのグレインサイズ測定方法)を参考に、焼結体の断面(破面)をSEMにて撮影し、1視野中に30個以上の焼結粒を含む程度の倍率のSEM写真を用いて、各フッ化マグネシウム粒子の長径を測定した。そして、測定個数30個以上の平均長径を求め、それをフッ化マグネシウムの平均粒径(焼結粒径)とした。
【0033】
[2−5]焼結体中の分散粒子の平均粒径
ここでいう分散粒子の平均粒径は、上記[2−4]と同様に、1視野内に30個以上の分散粒子を含む程度の倍率のSEM写真を用いて、各分散粒子の長径を測定した。そして、測定個数30個以上の平均長径を求め、それを分散粒子の平均粒径とした。なお、各分散粒子の長径を測定する際、1つの分散粒子を測定する場合もあるが、フッ化マグネシウム焼結体の粒界又は粒内に分散粒子が凝集している場合にはその凝集粒を1つの分散粒子とみなして測定した。
【0034】
[2−6]曲げ強度
JIS R 1601に準拠した曲げ強度試験によって測定した値である。
【0035】
[2−7]エッチングレート
緻密(開気孔率<1%)かつ加工可能な強度を有する焼結体であることを条件として、その焼結体の表面を鏡面に研磨し、ICPプラズマ耐食試験装置を用いて耐食試験を行った。そして、段差計により測定したマスク面と暴露面との段差を試験時間で割ることにより各材料のエッチングレートを算出した。なお、耐食試験の条件は以下のとおり。
(条件)ICP:800W、バイアス:450W、導入ガス:NF3/O2/Ar=75/35/100sccm 0.05Torr、暴露時間:10h、試料温度:室温
【0036】
[2−8]アルカリ金属含有量
JIS R 1649に準拠し焼結体中のカリウム及びナトリウム量を分析した。リチウム量についても同手法にて分析した。
【0037】
[3]実施例及び比較例
実施例1〜24,比較例1〜7につき、上記[1]の作製方法に準じて、表2に示す調合条件、焼成条件にしたがって焼結体を作製した。得られた焼結体につき、開気孔率、フッ化マグネシウムの平均粒径(焼結粒径)、分散粒子の平均粒径、曲げ強度及びエッチングレート(対イットリア焼結体比)を上記[2−3]〜[2−7]に準じて測定し、その結果を表2に示した。
【0038】
比較例1では、イットリア単相の焼結体を作製し、その特性を測定した。1600℃焼成で163MPaの曲げ強度を得た。比較例2〜4では、フッ化マグネシウム単相の焼結体を作製し、その特性を測定した。エッチングレートは、いずれもイットリア単相の焼結体より小さかった。このことは、フッ化マグネシウム焼結体がイットリア焼結体に比べて耐食性が高いことを示している。曲げ強度は、焼成温度900℃で100MPa、焼成温度1000℃で22MPa、焼成温度1100℃で焼結体崩壊により強度測定不能であった。このように、フッ化マグネシウム単相の焼結体では、焼成温度が高くなるにしたがって曲げ強度が低下したが、その原因は焼成温度が高くなるにしたがってフッ化マグネシウムの焼結粒径が大きくなったことにあると推察している。
【0039】
実施例1〜10は分散粒子としてジルコニア粒子を添加した例である。ジルコニア粒子としては単斜晶ジルコニア(m−ZrO2)及び、イットリア部分安定化ジルコニア(YSZ)を使用し、いずれもアルカリ金属含有量は500ppm以下であった。表2ではXmol%のイットリアが固溶したジルコニアをX%YSZと示した。ジルコニア粒子の添加により、フッ化マグネシウムの焼結粒径が5μm以下に小さくなり、比較例2のフッ化マグネシウム単相の焼結体に比べて高強度な材料が得られた。なお、焼結体中の分散粒子の平均粒径は5μm以下、開気孔率は1%未満であった。また、焼成温度1000〜1100℃において、フッ化マグネシウム単相の焼結体では、顕著な粒成長が見られたが、ジルコニア粒子を添加することにより、そのような粒成長が抑制され、その結果、曲げ強度が高く維持された。更に、ジルコニア粒子の添加量が10体積%(外配)の方が2体積%(外配)に比べてフッ化マグネシウムの焼結粒径が小さくなり、曲げ強度も高くなった。添加量が20体積%(外配)になると、緻密な焼結体を得る為に高い焼成温度が必要となるため5体積%(外配)に比べてフッ化マグネシウムの焼結粒径がやや大きくなり、曲げ強度もやや低くなったが、それでも、焼結粒径は5μm以下と小さく、曲げ強度は150MPaと高い水準を維持していた。
【0040】
比較例5〜7も、分散粒子として3%YSZを添加した例であるが、添加量が0.03体積%(外配)という微量だったため、フッ化マグネシウムの焼結粒径が5μmを超えて大きくなり、比較例2のフッ化マグネシウム単相の焼結体に比べて強度は同程度かそれよりも低下していた。また、焼成温度1000〜1100℃において、フッ化マグネシウム単相の焼結体では、顕著な粒成長が見られたが、比較例6,7ではそのような粒成長を抑制することはできなかった。
【0041】
実施例11−15は、分散粒子としてスピネル粒子を添加した例である。スピネル粒子のアルカリ金属含有量は500ppm以下であった。スピネル粒子の添加(2体積%(外配))により、フッ化マグネシウムの焼結粒径が5μm以下に小さくなり、比較例2のフッ化マグネシウム単相の焼結体に比べて高強度な材料が得られた。なお、焼結体中の分散粒子の平均径は5μm以下、開気孔率は1%未満であった。また、焼成温度1000〜1100℃において、フッ化マグネシウム単相の焼結体では、顕著な粒成長が見られたが、スピネル粒子を添加することにより、そのような粒成長が抑制され、その結果、曲げ強度が高く維持された。
【0042】
実施例16−24は、分散粒子として表2に示す炭化物、窒化物、酸化物を添加した例である。各分散粒子のアルカリ金属含有量は、炭化ケイ素100ppm以下、窒化アルミ100ppm以下、酸化イッテルビウム100ppm以下、マグネシア100ppm以下、アルミナ1000ppm以下、8%YSZ100ppm以下であった。分散粒子の添加量はいずれも10体積%(外配)とした。いずれの分散粒子によっても、フッ化マグネシウムの焼結粒径が5μm以下に小さくなり、比較例2のフッ化マグネシウム単相の焼結体に比べて高強度な材料が得られた。なお、焼結体中の分散粒子の平均径は5μm以下、開気孔率は1%未満であった。また、焼成温度1000〜1100℃において、フッ化マグネシウム単相の焼結体では、顕著な粒成長が見られたが、マグネシアやアルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミを分散粒子として添加した場合には、そのような粒成長が抑制され、その結果、曲げ強度が高く維持された。
【0043】
比較例8,9は、分散粒子としてそれぞれ炭化ケイ素粒子、スピネル粒子を用いた例であるが、いずれも分散粒子の原料粒径が4.9μmと大きかったため、焼結体中の分散粒子の平均粒径が5μmを超えてしまい、その結果、比較例2のフッ化マグネシウム単相の焼結体に比べて曲げ強度が大きく低下した。
【0044】
【表1】

【0045】
以上の実施例及び比較例から明らかなように、ジルコニア、スピネル、アルミナ、マグネシア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化イッテルビウムを分散粒子として所定量添加することで、フッ化マグネシウムの高い耐食性を維持しながら曲げ強度を向上させることができた。特にジルコニア粒子、アルミナ粒子、スピネル粒子は分散粒子としての効果が大きく、ジルコニア粒子、アルミナ粒子、スピネル粒子を分散させたフッ化マグネシウム焼結体では、イットリア焼結体と同等の曲げ強度を維持しながら、イットリア焼結体の耐食性を凌ぐ焼結体を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化マグネシウムを主相とする焼結体であって、
平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低い少なくとも1種の非アルカリ金属系の分散粒子を含み、
焼結体中の分散粒子の平均粒径とフッ化マグネシウム粒子の平均粒径が5μm以下でかつ開気孔率が1%以下であり、
アルカリ金属元素含有量が500ppm以下である、
フッ化マグネシウム焼結体。
【請求項2】
フッ化マグネシウム100体積部に対し分散粒子が1〜20体積部存在する、
請求項1に記載のフッ化マグネシウム焼結体。
【請求項3】
前記分散粒子が、酸化物、窒化物、炭化物及び酸フッ化物粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のフッ化マグネシウム焼結体。
【請求項4】
前記分散粒子が、Al23、AlN、SiC、ZrO2、MgAl24、MgO、Yb23及びYbOFからなる群より選ばれるすくなくとも1種である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ化マグネシウム焼結体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ化マグネシウム焼結体からなる半導体製造装置用部材。
【請求項6】
平均線熱膨張係数がフッ化マグネシウムよりも低い少なくとも1種の非アルカリ金属系の分散粒子とフッ化マグネシウム粒子とを、フッ化マグネシウム100体積部に対して分散粒子が1〜20体積部となるように秤量し、これらにアルカリ金属元素を加えることなく混合し、混合粉末を成形した後、900〜1100℃でホットプレス焼成する、
フッ化マグネシウム焼結体の製法。
【請求項7】
前記分散粒子が、酸化物、窒化物、炭化物及び酸フッ化物粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のフッ化マグネシウム焼結体の製法。
【請求項8】
前記分散粒子が、Al23、AlN、SiC、ZrO2、MgAl24、MgO、Yb23及びYbOFからなる群より選ばれるすくなくとも1種である、
請求項6又は7に記載のフッ化マグネシウム焼結体の製法。

【公開番号】特開2012−206913(P2012−206913A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75280(P2011−75280)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】