説明

フッ素含有脱硫スラグの再生法

【課題】溶鋼2次製錬用脱硫スラグは、年間50万トン発生するが、多くはフッ素を含んでいるため、そのまま廃棄できず、高炉スラグとして再利用し、無害化するか、処理しきれない分は、保管・管理しているのが実情であるが、脱硫スラグ中の硫黄分を除去し、再び脱硫スラグ原料として使用可能とする方法を提供する。
【解決手段】脱硫スラグ中の硫黄分を除去する方法として、約1000℃で空気酸化をさせることで、硫黄分が、揮発除去できることを理論的かつ実験的に確かめたもので、高温で硫黄分をSO2として気化させて除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫スラグ中の硫黄分を除去し、再び脱硫スラグ原料として使用可能とするフッ素含有脱硫スラグの再生法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、中国をはじめとした発展途上国の経済発展に伴って、鉄鋼需要は増加傾向にある。1990年代から長らく8億トン程度であった世界粗鋼生産量は2004年には10億トンを、2006年には12億トンを超えた。日本でも例外なく鉄鋼生産、特に極低硫鋼といった高級鋼の
製造が盛んに行なわれている。日本の2004年の粗鋼生産量は、企業部門の好調継続のため、設備投資の増加による旺盛な内需とアジア向けの輸出の増加により、1億1267万トンと
過去3番目、2005年は1億1248万トンで過去4番目の高水準に達し、鉄鋼業が再び成長産業
に転じたとの指摘がある。ところで、高純度鋼、高清浄度鋼などの高品質鋼材の製造技術では、我が国の鉄鋼業が世界トップの座を堅持している。これは、鋼材の高度な加工、組織制御技術によるところはもちろんであるが、優れた高純度・高清浄度鋼製錬技術によるところが大きい。例えば、日本の一貫製鉄所では、高品質鋼のニーズに対応して製鋼プロセスの最適化を行なうため、製鋼プロセスを、高炉、溶銑予備処理、ガス上底吹き転炉、二次精錬といった各精錬の段階に分化することが主流となっている(図1)。図1中、溶銑予備処理では、通常、温度: 1400℃程度で溶銑脱硫処理(CaO-Al2O3-FeO系スラグ)され、
二次精錬では、通常、温度: 1600℃程度で溶鋼脱硫処理(CaO-Al2O3-CaF2系スラグ)される。
【0003】
中でも二次精錬プロセスは、高純度鋼や高清浄鋼を溶製し、それらを素材とする高品質鋼を製造するために必須のプロセスであると位置付けられている。製鋼二次精錬において脱硫反応を促進するために塩基性の高いフラックスであるCaO-CaF2が添加される。これらは、脱硫後にスラグ中の成分となる。この脱硫スラグには少量の硫黄が含まれているために廃棄または路盤材として再利用せざるをえない。しかし近年、このフラックスに含まれるフッ素がいくつかの理由で廃棄や再利用の際に問題となっている。
【0004】
フッ素は地殻存在度が625mg/kgと13番目に多い元素で、種々の元素と結合した形で広く存在し、土壌、水、空気、生物体内のほとんど全てに含まれている。しかしながら、1974年の国連人間環境委員会において、フッ素は公害物質として認定された。また、日本では平成13年に水質汚濁防止法が改正されて排出基準に新たにフッ素等が追加され、同年7月1日より公布された。この改正では、表1に示すような排出基準が適用されている。
【0005】
【表1】

【0006】
鉄鋼業界でも例外ではなく、鉄鋼スラグ中のフッ素含有量は3%に達する。フッ素の土壌環境基準値は現在検討中であるが、その値が水道水源水域での基準値を参考に決められるとすると、スラグからのフッ素溶出量は基準値を大幅に超えてしまうものと予想される。
また、通常スラグはコンクリート等として再利用されることが多いが、その際にも雨水等との接触によりフッ素が溶出する可能性が懸念されるため、フッ素含有スラグの再利用が難しくなっている。
さらに、二次精錬に伴い発生するスラグの量は年間およそ40万トンに上っている。このスラグは現在大部分が廃棄物として処理される。ところが、平成17年4月1日現在での産業廃棄物最終処分場の残余年数は7.1年となっている(図2)。分別・リサイクルの普及など
により最終処分量が減少しているため、残余年数は増加傾向にあるものの、最終処分場の不足は重大な問題であり、スラグの廃棄が処分場の残余年数を圧迫していることは否めない。
【0007】
これまで、脱硫スラグの再利用技術の開発が試みられており、報告されている〔特許文献1:特開2007-262511号公報「脱硫スラグの再利用方法」、特許文献2:特開2006-97137号公報「溶銑の予備処理方法」、特許文献3:特開2004-244706号公報「スラグの再利用法」、特許文献4:特開2004-76088号公報「脱硫スラグの再利用方法」、特許文献5:特開2001-279316号公報「溶銑の予備処理方法」〕が、いずれも高温のままでのリサイクル
高炉用スラグとしてのリサクルに関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−262511号公報
【特許文献2】特開2006−97137号公報
【特許文献3】特開2004−244706号公報
【特許文献4】特開2004−76088号公報
【特許文献5】特開2001−279316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶鋼2次精錬用脱硫スラグは、年間約50万トン発生するが、わずか0.2〜0.3%の硫黄を吸収させることで役割を終え、多くの場合はフッ素(フッ化カルシウム)を含んでいるため容易に廃棄することができない。フッ素含有スラグは路盤材としての再利用が非常に困難である。そのため、埋め立て処理される事となるが、その際にもフッ素が溶出しないような処理を施す必要がある。さらに、埋立地としてもその後の管理が必要になるなど廃棄の場合も容易には行なえず、スラグの処理が問題になる。そのため、高炉スラグとして再利用したり、無害化する他、鉄鋼メーカーは、処分しきれない分についてフッ素含有脱硫スラグを所内で保管、管理しているのが実情である。したがって、こうしたフッ素含有脱硫スラグの再生技術の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、フッ素含有脱硫スラグを空気酸化によって再生させることができることを見出すことに成功した。具体的には、脱硫スラグ中の硫黄分を高温で気化させることで揮発除去できるとの知見を得ることに成功し、こうして再生されたスラグは、脱硫フラックスとして再利用することができることも見出した。本発明では、フッ素・硫黄含有の脱硫スラグを、例えば、約1000℃あるいはそれ以上の温度で空気酸化をさせることで、脱硫スラグ中の硫黄分を揮発除去できることを理論的かつ実験的に確かめている。こうした知見に基づいて、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、次を提供する。
〔1〕 溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程において、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを空気酸化する工程を有することを特徴とするフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
〔2〕 取鍋から払い出ししたスラグ中の硫黄を60%以上SO2として除去せしめることを
特徴とする上記〔1〕に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
〔3〕 溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程において、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを凝固後粉砕する工程と、それに引き続き粉砕スラグを空気酸化する工程を有することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
〔4〕 溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程において、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを空気中においてアトマイズする工程と、それに引き続きスラグアトマイズ粒子を空気酸化する工程を有することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
〔5〕 取鍋から払い出ししたスラグを、処理温度1000℃以上、酸素分圧0.05atm以上、
処理時間10分以下で酸化処理することにより、スラグ中の硫黄を70%以上SO2として除去
せしめることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
〔6〕 粒子径1mm以下のスラグ粒子を、処理温度1000℃以上、酸素分圧0.05atm以上、処理時間10分以下で酸化処理することにより、スラグ中の硫黄を80%以上SO2として除去せ
しめることを特徴とする上記〔3〕〜〔5〕のいずれか一に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
〔7〕 フッ素の揮発分を5%以下とすることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一に記載のに記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の脱硫スラグ再生法によれば、鉄鋼業の懸案事項であるフッ素含有スラグを後処理して再生可能であり、単なるフッ素の溶出防止や無害化といった消極的な対策でなく、処理されたスラグは、脱硫剤、フラックスとして再度二次精錬の脱硫処理に利用できる利点もある。本技術により、フッ素含有スラグの排出量(廃棄量)を劇的に低減させる途が拓かれることになり、さらに、リサイクルの効果、例えば、新規脱硫剤の投入量も削減できると期待できる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】製鋼プロセスチャート
【図2】最終処分場の残余容量及び残余年数(産業廃棄物)
【図3】CaO-Al2O3-CaF2系状態図(1000℃)
【図4】カルシウム−酸素−硫黄ポテンシャル図
【図5】実験装置概略図
【図6】空気雰囲気下でのスラグからの硫黄の酸化除去(1時間保持)
【図7】実験前後におけるスラグと排ガスへの硫黄分配(1000℃、1時間保持)
【図8】流動層酸化装置概要図
【図9】反応率の時間変化
【図10】反応率の時間変化
【図11】二次精錬プロセスチャート
【図12】CaO-Al2O3-CaF2擬三元系状態図(1100℃)において実施例3の実験試料の各スラグの占める組成箇所を示す。
【図13】実施例3の実験試料である試料番号6のスラグの酸化処理前のXRD回折パターンを示す。
【図14】実験装置(固定層装置)概略図
【図15】反応率の経時変化。試料番号6のスラグを1000℃でAr-21%O2混合ガスで酸化した場合である。
【図16】スラグ及び排ガス中の硫黄濃度。試料番号6のスラグを1000℃でAr-21%O2混合ガスで30分間酸化した場合を示す。酸化法に伴うスラグ中の硫黄濃度変化。
【図17】反応率の酸素分圧依存性
【図18】硫黄除去率の温度依存性
【図19】フッ素濃度の経時変化
【図20】スラグ中の硫黄の存在形態の解析
【図21】熱天秤装置概略図
【図22】CaS酸化における質量変化量
【図23】CaS酸化後のX線回折パターン
【図24】各スラグ組成試料における硫黄の存在形態
【図25】硫黄除去率のスラグ中SiO2濃度による変化
【図26】硫黄除去率のスラグ中硫黄濃度による変化
【図27】硫黄除去率のスラグ中の塩基度による変化
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、脱硫スラグ中の硫黄分を除去し、再び脱硫スラグ原料として使用可能とするフッ素含有脱硫スラグの再生法を提供する。本発明は、特に、二次精錬における溶鋼脱硫処理に際して発生するCaO-Al2O3-CaF2系スラグの再生技術に関する。
本発明において、フッ素含有脱硫スラグの再生法、すなわち、フッ素を含有している脱硫スラグ中の硫黄分を除去し、再び脱硫スラグ原料として使用可能とする手法について考察並びに解析を行った。当該2次精錬脱硫スラグの処理に関する問題をまとめると、以下のようになる。
(1)脱硫スラグの溶融性や反応促進のためには、スラグへのフッ化カルシウム添加が最も効果的である。
(2)脱硫処理後のスラグの硫黄濃度は1%以下という低濃度に過ぎない。
(3)フッ素規制の問題から、脱硫処理後のフッ素含有スラグは容易に廃棄することはできない。
(4)鉄鋼業はフッ化カルシウムの使用を極力回避しようと努力しているが、未だ有効な技術は開発されておらず、高度な脱硫はフッ化カルシウム系フラックスに依存せざるを得ない状況である。鋼からのスラグへの硫黄の除去反応は式(1)で与えられる。
【0015】
【化1】

【0016】
ここで下線は溶鋼中に溶解した成分を、[ ]はスラグ中の成分を表す。式(1)に基づけば、溶鋼中の硫黄はスラグ中のCaOと反応してCaSとしてスラグ中に固定化され、溶鋼中に酸素が移行する。脱硫処理前の溶鋼中の硫黄濃度は100〜200ppm程度であるが、高級鋼の厳
しい硫黄スペックに応えるために、上記のようなスラグ―メタル反応を介して、硫黄濃度を100ppm以下まで低下させているのである。このような厳しい処理条件であるため、鋼からの硫黄の除去効率を保証するためには、処理後のスラグ中の硫黄濃度は1%程度が限界
である。すなわち、使用後スラグを再利用できない最大の理由は、わずか1%以下の微量
の硫黄が含まれているからである。従って、もしスラグ中の硫黄成分のみを、処理後スラグから取り除くことが出来れば、スラグを脱硫フラックスとして再利用できることになる。加えて、スラグの処分・再利用についての問題を解決することが可能であると思われる。
【0017】
したがって、以下、使用済脱硫スラグから硫黄を除去して、再生し、再び脱硫剤として利用可能とすることを目的として、熱力学的基本原理を含めて検討を行った。
本発明を構成するにあたり、技術開発解析のための熱力学的基本原理について説明する。溶鋼2次精錬における脱硫脱硫反応式は上述の式(1)で表されるが、溶鋼中の硫黄、酸
素とガス相の平衡、式(2)と式(3)、を組み合わせると、ガス―スラグ間平衡反応として式(4)のようにも表わすことができる。
【0018】
【化2】

【化3】

【化4】

【0019】
この反応を促進するために、塩基性が高く、融解性が優れたフラックスであるCaO-CaF2が用いられる。また、2次精錬では溶鋼中の酸素レベルを要求水準まで低下させるために、溶鋼中に脱酸剤としてAlを添加する。このAl脱酸による酸素分圧低下のために、上記の脱硫反応はさらに促進される。従って、2次精錬で生成されるスラグの主な組成は、フラックス主成分であるCaO-CaF2、脱硫の生成物であるCaS、脱酸の生成物であるAl2O3、の以上4種類から構成される CaO-CaF2-Al2O3-CaS という四元系スラグである。当該四元系スラグ中、CaF2は環境規制物質となる問題の物質であり、CaSはスラグを廃棄しなければな
らなくなる原因物質で、通常、使用済み脱硫スラグには〜0.5%含有されることとなって
いる。図11には、二次精錬の工程を模式的に説明する図が示されている。
【0020】
一方、式(4)より、脱硫スラグを高い酸素分圧に保持すると、式(4)の反応は左に進み、スラグ中にCaSとして保持されている硫黄は再び溶鋼中に戻ってしまい、いわゆる復硫反
応が生じてしまう。しかしながら、脱硫処理が終了し、反応器(取鍋)から払い出された脱硫スラグを空気等で酸化させれば、酸化により生じたS2は、式(5)のように酸素と反応
してSO2として除去されると考えられる。
【0021】
【化5】

【0022】
ただし、SO2が発生するので、脱硫機能を有する排ガス処理装置が付帯設備として必要
になる。
基本的に式(4)の反応はスラグとガス相の間の硫黄の移行反応であり、フッ化カルシウ
ムは直接的には反応に関与せず、そのままスラグ成分として保持されると予想される。従って、払い出し後のフッ素含有脱硫スラグを空気等で酸化させれば、硫黄のみがSO2とし
て揮発除去されるので、処理後のスラグを再び脱硫フラックスとして用いることができる。
【0023】
この方法が実際に可能かどうかは、処理条件でCaSO4とCaOの相対的安定性によって決まる。すなわち、スラグ中のCaSを酸化させることによって、CaSO4が生成するならば、硫黄はCaSO4としてスラグ中に残留することになり、再び脱硫スラグとして利用することはで
きない。
【0024】
【化6】

【0025】
このことから、CaSO4とCaOの相対的安定性を定量的に検討するために、Ca-S-O系ポテンシャル図を作製した。
【0026】
ポテンシャル図の作成にあたって考慮すべき反応式は、以下の3式、及び、気相での反応である式(5)である。
【0027】
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【0028】
式(7)〜(10)より、CaSやCaO等の成分活量が一定ならば、温度一定の条件下において各
成分の安定領域を酸素分圧と硫黄分圧の関係として図示することができる。溶鋼2次精錬の操業条件(1600℃)におけるスラグ中の各成分の活量値については、十分ではないものの、幾つかの文献情報がある。一方、酸化再生処理の想定温度である1000℃前後における本系スラグの熱力学情報はほとんど報告されていない。基本系であるCaO-Al2O3-CaF2系の1000℃近傍における等温断面状態図を図3に示す。
【0029】
この図3によれば、本系には幾つかの中間化合物が存在するが、高CaO/Al2O3比の広い
範囲で純粋なCaOおよびCaF2が安定相として存在できるので、CaOの活量は1と仮定して問題はない。たとえば、CaF2-CaO-C3A-C11A7Fを結ぶ領域内では固体の純粋なCaOが安定相であるので、CaOの活量は理論的にも1である。
しかしながら、C3A-C12A7-C11A7Fのような中間化合物が安定相として存在する組成領域ではCaOの活量は低下し、0.1程度を仮定するのが妥当と思われる。このCaO-Al2O3-CaF2系におけるCaSおよびCaSO4の熱力学的挙動は全く知られていないが、例えばCaOへのCaSの溶解度は1500℃近傍においても0.01%以下と報告されているので、これらの活量は1と仮定した。
【0030】
作成したCa−O−Sポテンシャル図を、図4に示す。図4中の点線の線は1100℃における等SO2分圧線(PSO2)であり、図4には例として10-2(atm)〔図中上側の点線〕と10-4(atm)
〔図中下側の点線〕の場合が示してある。硫黄の除去は、スラグ中の硫黄(S)が酸素(O2)
と反応してSO2として除去され、この反応が等SO2分圧線上を右から左に向かって進むものと考えられる。まず、900℃においてはCaSO4の安定領域が広く、生成するSO2の分圧が10-4atm程度であってもCaSをCaOに転化することは困難と思われる。一方、1100℃では、CaO
の安定領域が高SO2分圧の条件まで広がるので、スラグ中のCaSを容易にCaOに転化できる
ものと思われる。ここで、スラグ中のCaF2は、安定に保持されると考えられ、空気酸化によりスラグ中の硫黄のみがSO2として除去できることとなり、スラグをフラックスとして
再生可能であると予想される。
【0031】
かくして、溶鋼2次精錬用脱硫スラグを空気流通の下で、高温において酸化処理して、該使用済フッ素含有熱脱硫スラグから硫黄分を揮発除去できるか否かを、実施例で示すように実験したところ、高い硫黄除去率が達成できることを見出し且つ確認できた。
本発明のフッ素含有脱硫スラグの再生方法は、溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程において、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを空気酸化する工程を有することを特徴とする。当該取鍋から払い出しした直後の熱間スラグは、高温で溶融状態にあるものを酸化処理してよいし、あるいは、一旦、凝固後に酸化処理してもよい。溶融状態にあるスラグを処理する場合、例えば、溶けているスラグに酸素含有気体、例えば、空気などをバブリングするなどして酸化せしめる方法を採用できるが、これに限定されず、当該分野で知られた手法の中から適宜選択して適用できる。本発明の好ましい態様では、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグは、それを凝固後粉砕して、それに引き続き粉砕スラグを空気酸化する。本発明の別の好ましい態様では、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグは、それを空気中においてアトマイズして、それに引き続きスラグアトマイズ粒子を空気酸化する。上記酸化においては、通常、酸素を含有している空気を好適に使用できるが、アルゴン、窒素、ヘリウムなどの不活性気体に酸素を配合したもの、酸素を富化した空気など、当該分野で酸化処理に使用されるものを、適宜選択して使用できる。
【0032】
本発明で処理するスラグは、好適にはスラグ粒子であり、当該スラグ粒子は、例えば、粒子径1mm以下のスラグ粒子を処理することが好適である。酸化処理の場合の処理温度は
、高温が好適であり、例えば、900℃以上、さらには、950℃以上、好ましくは1000℃以上、ある場合には1050℃以上、さらには1100℃以上である。該処理温度としては、1200℃以上であってもよい。酸化処理の場合の酸素分圧は、0.05atm以上、処理時間10分以下であ
ってもよい。本酸化処理することにより、スラグ中の硫黄を60%以上SO2として除去させ
ることを特徴とするものであってよいし、さらには、スラグ中の硫黄を65%以上SO2とし
て除去させること、あるいは、スラグ中の硫黄を70%以上SO2として除去させること、好
適には、スラグ中の硫黄を75%以上SO2として除去させるものであってよい。代表的な望
ましい態様では、本酸化処理することにより、スラグ中の硫黄を80%以上SO2として除去
させることを特徴とするものであってよい。本発明のフッ素含有脱硫スラグの再生方法においては、処理後において当該脱硫スラグは、フッ素の揮発分を5%以下とされていることを特徴とするものであってよい。
【0033】
本発明の技術により、溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程で、ガラス状の凝固スラグを100〜200ミクロン程度に粉砕し、空気流通下で約1000℃で短時間保持することで、スラグ中の硫黄のみをSO2として気化除去させることができる。フッ素をはじめ、その他の成
分は反応には寄与しないため、処理後のスラグは再び脱硫スラグ原料としてリサイクル可能である。流動層を用いることにより、酸化処理時間は更に短縮することが可能である。
スラグを酸化して硫黄を除去するにあたり、当該スラグは、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを凝固後粉砕することができ、当該凝固後粉砕工程に引き続き粉砕スラグを空気酸化するものであってよい。粉砕処理は、当該分野で知られた手法・装置から適宜適切な手法・装置を選択して適用でき、例えば、ミル、破砕機、粉砕機などを使用して粉砕できる。
【0034】
当該処理すべきスラグは、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを空気中においてアトマイズされたものであってよい。そして該アトマイズする工程に引き続きスラグアトマイズ粒子を空気酸化することができる。アトマイズ手段としては、当該分野で知られた方法及び装置から適宜適切な手法・装置を選択して適用できる。該アトマイズ手段としては、ガスアトマイズ手段、遠心アトマイズ手段などが挙げられる。当該ガスアトマイズ手段は、不活性ガスを噴射しながら熱間スラグを滴下することにより、原料スラグを噴霧状にして下方に供給するものなどである。これにより溶融物は、例えば数十ミクロン〜数百ミクロン程度の微粒子(溶滴)となる。当該遠心アトマイズ手段は、上記ガスアトマイズ手段の下方に配置された回転ディスクと、この回転ディスクを高速回転させる回転駆動部とを利用して微粒子を形成するものである。高速回転する回転ディスクの表面温度が処理物の融点以上の温度に保たれた状態で、ガスアトマイズ手段からの噴霧が供給されると、溶
融物の微細な液滴は回転ディスクの表面で薄膜状態となり、遠心力で飛散されて凝固し微粉末となる。この微粉末は、球形状をなし、粒径が10ミクロン以下で揃っている。
【0035】
粉砕されたスラグやスラグアトマイズ粒子としては、酸化処理されて硫黄除去が充分になされるサイズのものであれば、粒子サイズは特に限定されないが、例えば、粒子径1mm
以下のスラグ粒子が挙げられる。また、ある場合には、スラグ粒子の粒径は、500μm程度又はそれ以下、あるいは300μm程度又はそれ以下、好適には、250μm程度又はそれ以下、又は、200μm程度又はそれ以下、さらには150μm程度又はそれ以下であってよいし、そうした粒径のものを使用すると、より好適な結果が得られる。
本発明の一つの態様では、取鍋から払い出ししたスラグを、処理温度1000℃以上、酸素分圧0.05atm以上、処理時間10分以下で酸化処理することにより、スラグ中の硫黄を70%
以上SO2として除去せしめるもので、典型的には、スラグ中の硫黄を80%以上SO2として除去せしめるものである。また、本発明の別の一つの態様では、粉砕されたスラグやスラグアトマイズ粒子を、処理温度1000℃以上、酸素分圧0.05atm以上、処理時間10分以下で酸
化処理することにより、スラグ中の硫黄を70%以上SO2として除去せしめるもので、典型
的には、スラグ中の硫黄を80%以上SO2として除去せしめる。
【0036】
鉄鋼の製造工程で実施される二次精錬における溶鋼脱硫で発生する大量の使用済みフッ素含有脱硫スラグは、図11でも示すように、排出時に1600℃という高い研熱を持っているので、この熱エネルギーを利用することができれば、工業的には非常に有利である。本発明では、1000℃あるいはそれ以上の温度、例えば、1100℃の温度で酸化処理する技術であるから、精錬炉から出された使用済みスラグを、単に1000℃まで冷却させてから硫黄の除去反応(酸化処理)を施すのではなく、1000℃まで程度(例えば、1000℃程度)まで冷却させる冷却過程を利用して、この工程で硫黄の除去反応(酸化処理)を完了するようにすることは、非常に有用である。こうすることで、例えば、加熱設備などを新たに設ける必要はなくなる。
本発明によれば、簡単且つ単純な空気酸化処理により、フッ素含有脱硫スラグを再生することが可能であり、フッ素含有廃棄物としての処分量を大幅に低減できる可能性が高いものである。
【0037】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0038】
溶鋼2次精錬用脱硫スラグを空気流通の下で、高温において酸化処理して、該使用済フッ素含有熱脱硫スラグから硫黄分を揮発除去できるか否かを実験的に検証するために、スラグの酸化実験を行った。実験に用いた溶鋼2次精錬スラグの組成を表2に示す。本スラグは鉄鋼メーカーA社より提供された現場脱硫スラグである。
【0039】
【表2】

【0040】
固定層による実験について説明する。実験試料は、表2に示す組成の試料を用い、粒径を150μm以下になるように粉砕した。図5に装置の概略図を示す。
実験装置は丸祥電気株式会社の二珪化モリブデンヒーターを用いた真空置換型炉床昇降式電気炉(SPM65-15V)、磁器るつぼを使用した。実験は、まず1gの試料を底部に薄く敷い
た状態の磁器るつぼを電気炉に投入し、真空に0.1MPaまで引いた後、純O2ガスで置換した。その後、空気を0.1l/minの流量で流しながら加熱し、1時間保持後取り出して急冷した。実験は1000℃、1100℃の二つの条件で行った。排ガス中のSO2量を定量するために、実
験中の炉からの排ガスはH2O2吸収カラムを通した後に系外に排出した。吸収液には3%過酸化水素水150mlを用いた。実験後のスラグ試料は、粉砕して20mlの王水に溶かし、ICP-AESによる分析を行った。
【0041】
図6に実験結果を示す。これより、高温ほど硫黄が除去されており、1100℃においては硫黄の除去率は90%近くにまで達していることがわかる。硫黄と酸素の反応を考えると、
図4のポテンシャル図からもわかるように、高温ほどCaOの安定領域が広くなることから
、実験結果が妥当であることが確かめられた。なお、実験後のスラグを酸に溶解し、フッ素イオン電極法でフッ素濃度を測定したが、変化は認められなかった。すなわち、1100℃で処理後スラグを適切に空気酸化することで、スラグから硫黄が除去すれ、スラグを再生することができると言える。
【0042】
図6の結果について、硫黄が全てSO2として除去されており、CaSO4は生成していないことを示すために、H2O2吸収液による排ガス分析を行った。発生したSO2を過酸化水素水に
吸収させると式(11)の反応が起こる。
【0043】
【化11】

【0044】
以上のように、発生したSO2を硫酸として回収し、溶液中の硫黄濃度をICP-AESにより測定した。実験結果を図7に示す。図7より、酸化後の試料中の硫黄濃度と過酸化水素中の硫黄濃度の和が、試料の初期硫黄濃度とほぼ等しくなったため、スラグ中の硫黄はほぼ全量がSO2として除去されたことが証明された。
以上の結果から酸素雰囲気下で硫黄をSO2として除去することが可能であり、高温ほど
硫黄を除去しやすいことが示唆された。
【実施例2】
【0045】
上記実施例1のような固定層ではなく、流動層を用いることによってより迅速に硫黄の酸化除去が可能であると考えられたため、次に実際に流動層を用いた実験についても行っ
た。
本実施例の流動層による実験について説明する。実験装置は、図8に示す流動層酸化装置を用いた。実験は、900℃、1000℃、1100℃の3種類の温度で行った。各温度まで炉を加熱した後、Arガスにより置換した。その後、試料を10g投入して流動を確認した後、炉を
流動層に移動させ、加熱・反応を開始した。なお、試料投入時や、炉の移動などによる炉の温度低下のため、炉を流動層に移動させてから実験温度に到達した時点を実験開始とした。実験温度に到達してからO2ガスを流し、スラグの酸化を行った。ガス流量は、21%O2-Ar混合ガス全体で5000cm3(STP)・min-1とした。
【0046】
実験後はO2ガスを止め、炉を外した後空冷した。また、その間Arガスは流し続けた。実験後の試料は前章と同様に、王水に溶かした後、ICP-AESによる分析を行った。
【0047】
1000℃における反応率の時間変化を図9に示す。この図における上方の曲線は流動層での実験結果であり、下方の破線は固定層を用いた場合の実験結果である。図より、流動層では10分間の酸化でも60%近い反応率となっており、固定層の場合と比較すると、流動層
を用いることで格段に除去効率が向上することが分かる。
【0048】
以上のように、流動層を用いることで格段に除去・反応効率が向上し、またより低温での硫黄除去が可能であることが実験により明らかとなった。
【実施例3】
【0049】
酸化法によるフッ素含有脱硫スラグの再生プロセスの処理条件をさらに検討するため、実験を行った。実験に用いたスラグ試料の組成を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
実験試料が、図3で示すようなCaF2-CaO-Al2O3擬三元系状態図において、実際に占めている位置を、図12に示してある。鉄板急冷によりガラス化したスラグ試料を212μm以下の粒度に粉砕した。図13には、試料番号6のスラグのXRD回折パターンを示す。図13より、
X線回折パターンがブロードであり、スラグの冷却速度が速く、ガラス化している状態が強く示唆されているものであることがわかる。粉砕して得られたスラグ試料0.5gを磁器るつぼに入れ、縦型電気抵抗炉に挿入した。図14には、使用した固定層装置の概略図を示す
。その後Ar-O2混合ガスを500mL/minで流しながら試料に吹き付け、所定時間に保持した。処理温度は、900℃〜1100℃とした。混合ガス中の酸素分圧も、それを変えても実験を行
った。炉からの排ガスは3%H2O2溶液を通してSO2と反応させ、H2SO4にすることで捕集し、その後ICP分析により排ガス中の硫黄濃度を定量した。実験後の急冷却スラグについては
、王水に溶解した後、ICPにより硫黄濃度の分析を行った。
【0052】
図15には、1000℃で試料番号6のスラグをAr-21%O2混合ガスで酸化反応させて処理した場合の硫黄除去率対時間で表わした反応率の経時変化の結果を示す。短時間でおおよそ70%程度の硫黄除去率が得られた。図16には、1000℃、Ar-21%O2混合ガスで30分間酸化反応
させた試料番号6のスラグ中の硫黄濃度を実験前の初期濃度と比較して示す。実験後スラグ中に残っている硫黄と、排ガス中に排出され、捕集された(吸収された)SO2の硫黄の
量とを併せると、初期値と一致していた。この結果から、酸化によりスラグ中の硫黄が除去されていることが分かる。
図10には、Ar-21%O2混合ガスを使用しての各種の温度での反応率の経時変化を示す。図より、数分で急激に反応が進むことから、短時間で硫黄の除去が可能であることが示唆される。
【0053】
図17には、Ar-O2混合ガス中の酸素分圧を変えて、1000℃で5分間酸化反応させた試料
番号6のスラグの反応率を示す。5%O2で硫黄除去可能であることがわかる。硫黄除去は迅速であることが観察された。図18には、900℃〜1100℃まで温度を変えて行った結果を示
す。1000℃付近までは硫黄除去率が酸化処理温度に依存して変化することが認められた。図19には、排ガス中のフッ素濃度の経時変化を示す。1100℃でAr-21%O2混合ガスを使用して酸化した場合の結果である。スラグ中の水分子とCaF2が反応した場合(脱水有り)とスラグ中のSiO2とCaF2が反応した場合(脱水無し)のガス化が考えられる。5分間程度の処理では数%のフッ素揮発に抑制できるし、フッ素の揮発は緩慢で硫黄の酸化除去を優先的に行わしめることが可能で、単純な空気酸化処理により使用済みのフッ素含有脱硫スラグを、フラックスに再生することが可能であることが確かめられた。
【0054】
図20には、酸化処理前スラグ及び各温度で処理後のスラグにつき、その中に存在している硫黄につき解析した結果を示す。本試料番号6のスラグでは、初期硫黄はほぼ硫化物(CaS)で、CaSO4として存在している硫黄の量は僅かである。低温(950℃)での処理ではCaSが酸化されてCaSO4に転化するのが主たる反応であると考えられ、高温ではCaSから硫黄はSO2とされて除去される。
CaSの質量変化の温度依存性を解析した。試料としてCaSのブリケット(0.5g)をアルミナるつぼに入れ、熱天秤装置を使用して、700〜1100℃でAr-O2混合ガスを500mL/minで流し
ながら試料に吹き付け、所定時間(例えば、7時間)保持した。図21には、使用した熱天秤装置の概略図を示す。図22に、CaS酸化における質量変化を示す。CaSO4に転化することで質量増加の現象となり、CaSから硫黄がSO2とされる反応で質量減少の変化となる。図23には、CaS酸化後のX線回折パターンを示す。
【0055】
表3に示した各組成の試料における硫黄の存在形態を解析した結果を、図24に示す。図24において、試料番号の所の左側は、初期状態(酸化前)の値で、右側は1100℃で30分間酸化処理した後の値である。硫黄が硫酸塩(CaSO4)として初期状態で既に存在しているも
のがあるが、その場合硫黄の除去は比較するとあまり進行しないという結果となる。一方、大部分の硫黄が硫化物(CaS)であれば、迅速な硫黄の除去が可能であることが分かる。
次に、スラグ中のSiO2濃度の影響を解析した結果を、図25に示す。高いSiO2濃度の場合、硫黄除去率の減少が認められたが、極端にSiO2濃度が高いというものでなければ、良好に硫黄の除去が可能であることが判明した。図26には、スラグ中の硫黄濃度の影響を解析した結果を示す。極端にSiO2濃度が高くなければ、総じて8割程度あるいはそれ以上の硫黄は除去できることが分かる。図27には、スラグ中の塩基度(CaO/Al2O3)硫黄濃度の影響
を解析した結果を示す。スラグの塩基度が高いと硫黄除去率がいくらか減少することが認められた。
【0056】
以上のように、使用済みフッ素含有脱硫スラグを、おおよそ1000℃程度あるいはそれ以上という高温で酸化処理することで、当該スラグから硫黄を除去して、脱硫フラックスに再生することが可能である。本酸化法による再生では、短時間で硫黄が除去可能で、例えば、5分程度の短い時間の酸化であればフッ素の揮発も数%に抑制できて有利・有用である。
かくして、本発明では、脱硫スラグ中の硫黄分を除去し、再び脱硫スラグ原料、すなわち、脱硫用フラックスとして使用可能とするフッ素含有脱硫スラグの再生技術が提供されている。以上のように、フッ素含有スラグの後処理については鉄鋼業の懸案事項であるが、本発明は、従来技術のようにフッ素の溶出防止や無害化のような消極的な対策ではなく、脱硫スラグを破棄しなくてはならない最大の理由であるわずか1%未満の硫黄分のみを空気酸化によって揮発除去しようというものである。本発明ではこのことが原理的、実験的に可能であることが示されており、処理後スラグは再び脱硫プロセスに戻すことができる。このため、本技術によってフッ素含有スラグの排出量を劇的に低減させることができると同時に、リサイクルの効果として脱硫剤投入量の削減も期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明で、鉄鋼の製造工程で実施される二次精錬における溶鋼脱硫で発生する大量の使用済みフッ素含有脱硫スラグを再生できて、廃棄が困難であるなどに伴うスラグの処理問題を解決できることとなる。鉄鋼生産において、鉄鋼の品質向上プロセスの変更を必要とすることなく、迅速且つ簡単な手法で、さらにエネルギー的にもメリットが期待できる経済的に有利な手法で、スラグを再生できることから、工業的にも優れている。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程において、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを空気酸化する工程を有することを特徴とするフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
【請求項2】
取鍋から払い出ししたスラグ中の硫黄を60%以上SO2として除去せしめることを特徴と
する請求項1に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
【請求項3】
溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程において、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを凝固後粉砕する工程と、それに引き続き粉砕スラグを空気酸化する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
【請求項4】
溶鋼2次精錬用脱硫スラグの処理過程において、取鍋から払い出しした直後の熱間スラグを空気中においてアトマイズする工程と、それに引き続きスラグアトマイズ粒子を空気酸化する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
【請求項5】
取鍋から払い出ししたスラグを、処理温度1000℃以上、酸素分圧0.05atm以上、処理時
間10分以下で酸化処理することにより、スラグ中の硫黄を70%以上SO2として除去せしめ
ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
【請求項6】
粒子径1mm以下のスラグ粒子を、処理温度1000℃以上、酸素分圧0.05atm以上、処理時間10分以下で酸化処理することにより、スラグ中の硫黄を80%以上SO2として除去せしめる
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。
【請求項7】
フッ素の揮発分を5%以下とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載のフッ素含有脱硫スラグの再生方法。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図22】
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【図1】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2010−95793(P2010−95793A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213399(P2009−213399)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】