説明

フッ素樹脂塗料組成物

【課題】フッ素樹脂の優れた非粘着性を維持しつつ、耐摩耗性及び基材との接着性に優れたフッ素樹脂系塗料を提供する。
【解決手段】3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体をフッ素樹脂100質量部に対し0.1〜9.9質量部含有することを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物である。上記金属化合物結晶体は、テトラポット形状を有する酸化亜鉛結晶体であることが好ましい。また、フッ素樹脂塗料組成物には接着成分を含有させてプライマー用とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、表面エネルギーが他の高分子化合物に比べて低く、一般に物質が付着しにくい性質を有している。この性質を利用して、フッ素樹脂は、塗料に調製して、非粘着性が必要とされる様々な分野において利用されている。
【0003】
しかしながら、フッ素樹脂は、その優れた非粘着性ゆえに、基材との接着性が充分でない問題がある。基材との接着性を持たせることを目的として、一般に、フッ素樹脂に加えて接着性を有する化合物をも含有するプライマー組成物と、フッ素樹脂を成分とするトップコート組成物とを調製し、基材上に前者組成物、次いで後者組成物を塗装することにより、プライマー層とトップコート層との積層構造の形成が行われている。
【0004】
このような積層構造を形成するフッ素樹脂系塗料は、例えば、厨房機器用途としてフライパン、鍋、炊飯釜、ホットプレート、電子レンジの内壁、ジャーポットの内面等に用いられ、また、オフィスオートメーション機器用途として、電子写真装置の定着部や分離爪の表層部に用いられている。
【0005】
その一方で、フッ素樹脂は、硬度が低い、耐摩耗性が不充分であるといった欠点を有する。従って、従来の一般的なフッ素樹脂系塗料を用いて形成した被膜は、各種用途において長期間使用すると、摩耗若しくはトップコート層とプライマー層との層間剥離により、プライマー層又は基材の露出に至る問題があった。また、電子写真装置の定着部ではトナーを加熱、溶融させて紙面に定着させるに際し、定着部表層にトナーが付着してオフセットを起こす問題があった。
【0006】
調理器において離型性と塗膜硬度との向上を目的として、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕10重量%及びポリエーテルスルホン10重量%に対し、テトラポット形状を有する酸化亜鉛粉末を1重量%又は3重量%含有する塗料組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この塗料組成物により形成した塗膜は、耐磨耗性及び非粘着性が不充分であり、また、基材との接着性に劣る問題がある。
【0007】
同じ酸化亜鉛粉末を使用するものとして、フッ素樹脂に添加して調製した電着塗料を基体上に塗装することにより形成した撥水性表面構造が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この撥水性表面構造は、酸化亜鉛粉末のテトラポット形状に依る微小凹凸を表面に備えることにより撥水性を発揮するものであり、また、接着性や耐磨耗性については記載されていない。
【特許文献1】特開平05−214288号公報
【特許文献2】特開平10−25469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フッ素樹脂の優れた非粘着性を維持しつつ、耐摩耗性及び基材との接着性に優れたフッ素樹脂系塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体をフッ素樹脂100質量部に対し0.1〜9.9質量部含有することを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物である。
【0010】
本発明は、金属基材と、上記金属基材上にフッ素樹脂塗料組成物を塗布して焼成することにより得られる被膜とを有する物品であって、上記フッ素樹脂塗料組成物は、本発明のフッ素樹脂塗料組成物であることを特徴とする物品である。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、プライマー組成物として使用してもよいし、トップコート組成物として使用してもよいし、プライマーないしトップコートの別なく1つの塗料組成物として基材上に塗装するワンコート塗料として使用してもよい。本明細書において、プライマー用途に使用する本発明のフッ素樹脂塗料組成物をプライマー用フッ素樹脂塗料組成物、トップコート用途に使用する本発明のフッ素樹脂塗料組成物をトップコート用フッ素樹脂塗料組成物、ワンコート用途に使用する本発明の塗料組成物をワンコート用フッ素樹脂塗料組成物ということがある。
【0012】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物におけるフッ素樹脂としては特に限定されないが、テトラフルオロエチレン〔TFE〕単独重合体〔TFEホモポリマー〕、変性ポリテトラフルオロエチレン〔変性PTFE〕、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体〔PFA〕及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕よりなる群から選択される1種又は2種以上からなる樹脂であることが好ましい。
【0013】
上記変性PTFEは、TFE及びTFEと共重合可能な微量の単量体との共重合体である。上記変性PTFEとしては、TFEと、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体、パーフルオロアルキルエチレン及び上記以外のフルオロオレフィンよりなる群から選択される1種又は2種以上との共重合体であることが好ましい。本明細書において、「上記以外のフルオロオレフィン」は、TFE、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体及びパーフルオロアルキルエチレンの何れとも異なるフルオロオレフィンである。
【0014】
上記フルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、例えば、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられ、上記PAVEとしては、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕等が挙げられる。
【0015】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体を含有する。上記金属化合物結晶体としては、4以上の針状先端を有するものであることが好ましい。
【0016】
上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体としては、特に限定されないが、テトラポット形状を有する金属化合物結晶体が好ましい。上記テトラポット形状を有する金属化合物結晶体としては、例えば、テトラポット形状を有する酸化亜鉛結晶体等が挙げられ、該酸化亜鉛結晶体としては、例えば、松下電器産業社製のパナテトラ(商品名)等が挙げられる。
【0017】
上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体は、上述のフッ素樹脂100質量部に対して0.1〜9.9質量部、好ましくは4.0〜9.0質量部の範囲で含有する。上記フッ素樹脂塗料組成物において、上記金属化合物結晶体の含有量が多すぎる場合には、得られる被膜中のフッ素樹脂含有量が減少することによって、被膜の非粘着性や耐熱性が低下したり、プライマー組成物が含有する場合、プライマー被膜表面に現れる金属化合物結晶体が多くなり、トップコート被膜中の樹脂とプライマー被膜中の樹脂との相溶が妨げられ、両被膜間における層間接着性が低下したりすることがある。逆に上記金属化合物結晶体の含有量が少なすぎる場合には、被膜の硬度向上やトップコート−プライマー層間接着性の改良が図れないことがある。
【0018】
上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体は、プライマーとトップコートとを積層する場合、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物のみに含有してもよいし、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物のみに含有してもよいし、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物及びトップコート用フッ素樹脂塗料組成物の両方に含有してもよいが、非粘着性保持の点で、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物又はトップコート用フッ素樹脂塗料組成物の何れかに少量、例えば、各塗料組成物においてフッ素樹脂100質量部に対し0.1〜5.0質量部含有することが好ましく、耐摩耗性向上の点で、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物及びトップコート用フッ素樹脂塗料組成物の両方に含有することが好ましい。
【0019】
上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体は、プライマーとトップコートとを積層する場合、該プライマーとトップコートとの積層体全体について、該積層体全体に含有するフッ素樹脂100質量部に対し0.1〜9.9質量部含有することが好ましく、より好ましい下限は1.0質量部、より好ましい上限は9.0質量部である。
【0020】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、本発明の効果を損なわない限り、種々の公知の添加剤を含有するものであってもよい。上記添加剤としては、例えば、界面活性剤、着色剤、上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体以外の充填剤、消泡剤、乾燥遅延剤、造膜剤、増粘剤等が挙げられる。
【0021】
上記界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、後述の式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、式(II)で表されるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。また、レベリング剤やハジキ防止剤として知られる物質もここに含まれる。レベリング剤やハジキ防止剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0022】
上記着色剤としては、特に限定されず、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ、複合酸化物顔料等の公知の物質が挙げられる。
【0023】
上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体以外の充填剤としては、特に限定されず、例えば、チタン酸カリウムウィスカー、酸化チタンウィスカー等の各種ウイスカーのほか、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、二酸化ケイ素等の各種無機化合物からなる充填剤等の公知の物質が挙げられる。
【0024】
上記消泡剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、炭素数9〜11の炭化水素系化合物、シリコーン系化合物等が挙げられる。
【0025】
上記乾燥遅延剤としては、特に限定されず、例えば、200〜300℃程度の沸点を有する溶剤等が挙げられ、このような溶剤としては水溶性溶剤が好ましい。
【0026】
上記造膜剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0027】
上記増粘剤としては、特に限定されず、メチルセルロース等が挙げられる。
【0028】
本発明のプライマー用フッ素樹脂塗料組成物は、上述のフッ素樹脂、3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体及び所望により用いる上記添加剤に加え、更に、耐熱性樹脂、例えば、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレンスルファイド等の公知の物質を1種又は2種以上含有するものであることが好ましい。上記耐熱性樹脂は、接着成分として機能するものと考えられる。これらの接着成分は、上記フッ素樹脂100質量部に対して1〜90質量部であることが好ましく、10〜80質量部の範囲であることがより好ましい。
【0029】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば、プロペラ式攪拌機等の混合機に上記フッ素樹脂粒子の水性分散体を入れ、これに上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体の水性分散体や、他の液体状ないし水性分散体とした添加剤を攪拌しながら均一に混合する方法等を採用することができる。
【0030】
上記フッ素樹脂は、該フッ素樹脂からなるフッ素樹脂粒子が水性媒体に分散している水性分散体の形態で使用することが好ましい。上記水性分散体として用いることにより、塗料の調製を容易にし、また、製造費用を低減することができる。上記フッ素樹脂粒子の平均粒径としては、0.05〜0.7μmが好ましく、0.1〜0.5μmがより好ましい。上記水性分散体における上記フッ素樹脂の濃度は特に限定されず、20〜80質量%という広い範囲において用いることができる。
【0031】
上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体は、その水性分散体を予め調製してから配合することが、フッ素樹脂塗料組成物中での均一な混合、分散が容易である点で好ましい。上記金属化合物結晶体の水性分散体を調製するためには、例えば、一般的な炭化水素系の界面活性剤を用いることができる。上記炭化水素系の界面活性剤としては、例えば、式(I):
−O−A−H (I)
(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8〜19、好ましくは10〜16のアルキル基;Aは、炭素数8〜58のポリオキシアルキレン鎖)
で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、式(II):
−C−O−A−H (II)
(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜13、好ましくは4〜12のアルキル基;Aは、炭素数8〜58のポリオキシアルキレン鎖)
で表されるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0032】
上記Aとしては、4〜20個のオキシエチレン単位及び0〜6個のオキシプロピレン単位を有するポリオキシアルキレン鎖が好ましい。
【0033】
上記の種々の添加剤のうち、常温で固体の性状を示す物質は、予め水性分散体を調製してから配合することが、フッ素樹脂塗料組成物中で均一に混合、分散させることが容易である点で好ましい。これらの水性分散体を調製するには、特に限定されないが、上記式(I)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、上記式(II)で表されるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等を用いることができる。
【0034】
かくして得られる本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、塗装方法により異なるが、通常、固形分濃度が10〜60質量%の範囲に調製することができる。
【0035】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属基材やガラス、磁器等のセラミック基材といった種々の無機基材からなる被塗装物に塗装することができる。
【0036】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物を塗装する方法としては特に限定されないが、例えば、スプレー塗装、浸漬又は流しかけ塗装、はけ塗り塗装、静電塗装等が挙げられる。塗装後、好ましくは200〜420℃程度の範囲の温度で焼成することにより、被膜を形成する。塗装膜厚は用途や適用部位等によって適宜選定すればよいが、耐摩耗性等の観点からは、トップコート被膜は焼成後の膜厚として10μm以上、好ましくは15μm以上とすることが好ましい。プライマー被膜は焼成後の膜厚として5〜15μm程度とすることが一般的である。
【0037】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、高い硬度を有し、耐摩耗性及び非粘着性に優れ、長期間にわたって使用しても優れた非粘着性を維持することができ、更に耐熱性をも有し得る被膜を得ることができる。また、基材上に、本発明のフッ素樹脂塗料組成物として、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物を塗装した後にトップコート用フッ素樹脂塗料組成物を塗装した場合、更に、基材との接着性及びプライマー被膜とトップコート被膜との層間接着性に優れた積層構造からなる被膜を形成することができる。
【0038】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物が上記の優れた効果を奏する理由は明確ではないが、上記3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体が被膜中で3次元の網目構造を形成し得るので、被膜の硬度を上昇することができるものと推測される。また、本発明のフッ素樹脂塗料組成物を使用してトップコート被膜及びプライマー被膜を形成する場合、プライマー被膜の表面から針状先端が立ち上がることにより形成されると考えられる微小な凹凸がトップコート被膜とプライマー被膜との接触面積を増大するために、両被膜間の層間接着性が改良されるものと推測される。このような硬度上昇や層間接着性の改良により、本発明のフッ素樹脂塗料組成物から形成される被膜をその一部又は全部に用いた被膜の耐摩耗性が向上するものと考えられる。
【0039】
本発明の物品は、金属基材と、上記金属基材上に本発明のフッ素樹脂塗料組成物を塗布して焼成することにより得られる被膜とを有する。本発明の物品は、厨房機器用途、オフィスオートメーション機器用途の他、従来からフッ素樹脂が使用されている工業上の物品に有用である。
【0040】
本発明の物品は、電子写真装置用ロール、電子写真装置用ベルト又は電子写真装置用フィルムに好適に使用し得る。
【0041】
上記オフィスオートメーション機器用途のうち、プリンターやコピー機の定着部表層材料として本発明のフッ素樹脂塗料組成物を適用する場合には、高温での耐久性やトナー離型性に優れる点において、上記フッ素樹脂としてパーフルオロ系重合体であるPTFE及び/又はPFAを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、上述の構成からなるので、高い硬度を有し、非粘着性、耐熱性、接着性、耐摩耗性に優れ、長期間にわたって使用しても優れた非粘着性を維持することができる被膜を得ることができる。本発明の物品は、本発明のフッ素樹脂塗料組成物からなるので、優れた非粘着性、耐熱性、耐摩耗性、接着性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
調製例1
テトラポット形状を有する酸化亜鉛結晶体(松下電器産業社製パナテトラWZ−05F1)10質量部、非イオン性界面活性剤(第一工業製薬社製ノイゲンTDS−50)20質量%水溶液10質量部、純水20質量部を混合し、分散して均一な分散組成物を得た。これを金属化合物ペーストという。
【0044】
調製例2
ポリエーテルスルフォン樹脂粉末(住友化学社製スミカエクセル4100P)20質量部、純水60質量部、N−メチルピロリドン20質量部を混合し、ボールミルを用いて摩砕することにより、平均粒子径5μmのポリエーテルスルフォン樹脂の水性分散組成物を得た。これをバインダーペーストAという。
【0045】
調製例3
ポリアミドイミド樹脂溶液(日立化成工業社製HI−400)を過剰量のメタノール中に滴下し、樹脂分を析出させて分離し、乾燥させてポリアミドイミド樹脂粉末を得た。ポリアミドイミド樹脂粉末20質量部、純水60質量部、N−メチルピロリドン20質量部を混合し、ボールミルを用いて摩砕することにより、平均粒子径5μmのポリアミドイミド樹脂の水性分散組成物を得た。これをバインダーペーストBという。
【0046】
調製例4
メチルセルロース(松本油脂化学社製マーポローズM−4000)2質量部と純水98質量部を混合し、分散して均一な分散組成物を得た。これを増粘剤ペーストという。
【0047】
調製例5
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なトップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aを得た。
【0048】
調製例6
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、金属化合物ペースト2.4質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なトップコート用フッ素樹脂塗料組成物Bを得た。
【0049】
調製例7
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、金属化合物ペースト12質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なトップコート用フッ素樹脂塗料組成物Cを得た。
【0050】
調製例8
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、金属化合物ペースト16.8質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なトップコート用フッ素樹脂塗料組成物Dを得た。
【0051】
調製例9
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、金属化合物ペースト21.6質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なトップコート用フッ素樹脂塗料組成物Eを得た。
【0052】
調製例10
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、金属化合物ペースト24質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なトップコート用フッ素樹脂塗料組成物Fを得た。
【0053】
調製例11
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA90質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aを得た。
【0054】
調製例12
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA90質量部、金属化合物ペースト2.4質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Bを得た。
【0055】
調製例13
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA90質量部、金属化合物ペースト12質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Cを得た。
【0056】
調製例14
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA90質量部、金属化合物ペースト16.8質量部、増粘剤ペースト24部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Dを得た。
【0057】
調製例15
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA90質量部、金属化合物ペースト21.6質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Eを得た。
【0058】
調製例16
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA90質量部、金属化合物ペースト24質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Fを得た。
【0059】
調製例17
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストB90質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Gを得た。
【0060】
調製例18
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストB90質量部、金属化合物ペースト12質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Hを得た。
【0061】
調製例19
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストB90質量部、金属化合物ペースト16.8質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Iを得た。
【0062】
調製例20
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストB90質量部、金属化合物ペースト24質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なプライマー用フッ素樹脂塗料組成物Jを得た。
【0063】
調製例21
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA50質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Aを得た。
【0064】
調製例22
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストA50質量部、金属化合物ペースト16.8質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Bを得た。
【0065】
調製例23
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストB50質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Cを得た。
【0066】
調製例24
TFEホモポリマーの粒子(平均粒径0.25μm)の水性分散体(固形分濃度60質量%)100質量部、バインダーペーストB50質量部、金属化合物ペースト16.8質量部、増粘剤ペースト24質量部を混合し、分散して均一なワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Dを得た。
【0067】
比較例1
被膜の形成
アルミニウム板上に、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aをスプレー塗装し、80〜100℃で15分間乾燥した。その上に、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aをスプレー塗装し、80〜100℃で15分間乾燥した後に380℃で20分間焼成して、プライマーの膜厚約10μmとトップコートの膜厚約20μmとの合計膜厚約30μmの被膜を形成した。
【0068】
被膜の接触角評価
協和界面化学社製表面接触角計において、被膜の表面温度が25℃であることを確認し、n−セタンの接触角を評価した。
【0069】
被膜の硬度評価
JIS K 5600に準じ、25℃及び200℃で被膜の鉛筆硬度を評価した。
【0070】
被膜の耐摩耗性評価(25℃)
安田精機製作所社製テーバー摩耗試験機において、被膜の表面温度を25℃に保持しながら荷重1kgの下にテーバー摩耗輪(CS−17)を用いて被膜を摩耗させ、1000回転運転による重量減少を評価した。
【0071】
被膜の耐摩耗性評価(200℃)
安田精機製作所社製テーバー摩耗試験機において、被膜を加熱することにより表面温度を200℃に保持しながら荷重1kgの下に市販のPPC用紙を接着したアルミニウム製摩耗輪を用いて被膜を摩耗させ、1000回転運転による重量減少を評価した。
【0072】
実施例1
トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Bをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0073】
実施例2
トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Cをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0074】
実施例3
トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Dをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0075】
実施例4
トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Eをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0076】
比較例2
トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Fをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0077】
実施例5
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Bをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0078】
実施例6
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Cをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0079】
実施例7
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Dをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0080】
実施例8
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Eをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0081】
比較例3
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Fをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0082】
実施例9
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Dをスプレー塗装し、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Dをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0083】
比較例4
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Gをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0084】
実施例10
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Gをスプレー塗装し、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Cをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0085】
実施例11
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Gをスプレー塗装し、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Dをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0086】
比較例5
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Gをスプレー塗装し、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Fをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0087】
実施例12
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Hをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0088】
実施例13
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Iをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0089】
比較例6
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Jをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0090】
実施例14
プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、プライマー用フッ素樹脂塗料組成物Iをスプレー塗装し、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、トップコート用フッ素樹脂塗料組成物Dをスプレー塗装した以外は比較例1の手順を繰り返した。
【0091】
比較例7
アルミニウム板上に、ワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Aをスプレー塗装し、80から100℃で15分間乾燥した後に380℃で20分間焼成して、膜厚約15μmの被膜を形成した。被膜の接触角、硬度、耐摩耗性評価は比較例1の手順で実施した。
【0092】
実施例15
ワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、ワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Bをスプレー塗装した以外は比較例7の手順を繰り返した。
【0093】
比較例8
ワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、ワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Cをスプレー塗装した以外は比較例7の手順を繰り返した。
【0094】
実施例16
ワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Aに代えて、ワンコート用フッ素樹脂塗料組成物Dをスプレー塗装した以外は比較例7の手順を繰り返した。
【0095】
上記実施例の結果を表1及び表2にまとめる。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
耐摩耗性の結果を見ると、比較例1よりも、実施例1〜9の値の方が優れている。また、比較例4よりも、実施例10〜13の値の方が優れている。このことと鉛筆硬度の結果から、被膜硬度の上昇が耐摩耗性の向上に寄与していることが示唆される。
【0099】
その一方、酸化亜鉛をプライマー組成物のみに含む系において最も良好な耐摩耗性の結果を示しているのは実施例7及び実施例13であり、このことは被膜硬度のみで説明することができない。
【0100】
これは、プライマー組成物に適量の酸化亜鉛を配合することにより形成されるプライマー被膜表面の微小な凹凸が、トップコート被膜とプライマー被膜との接触面積を増大させ、両被膜間の層間接着力が高い値を示すことによるものと考えられる。
【0101】
これに対し、比較例3及び比較例6では酸化亜鉛の配合量が多くなり、トップコート被膜中の樹脂とプライマー被膜中の樹脂との相溶が妨げられ、両被膜間の層間接着力が低下することに伴い、耐摩耗性が低下しているものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、高い硬度を有し、非粘着性、耐熱性、接着性、耐摩耗性に優れ、長期間にわたって使用しても優れた非粘着性を維持することができる被膜を得ることができるので、厨房機器用途、オフィスオートメーション機器用途の他、従来からフッ素樹脂が使用されている工業上の物品に有用である。本発明の物品は、本発明のフッ素樹脂塗料組成物からなるので、優れた非粘着性、耐熱性、耐摩耗性を有し、フライパン、鍋、炊飯釜、ホットプレート、電子レンジの内壁、ジャーポットの内面等の厨房機器用途、電子写真装置の定着部や分離爪の表層部等のオフィスオートメーション機器用途等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の針状先端を有する金属化合物結晶体をフッ素樹脂100質量部に対し0.1〜9.9質量部含有する
ことを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン単独重合体、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体よりなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項3】
変性ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンと、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体、パーフルオロアルキルエチレン及び前記以外のフルオロオレフィンよりなる群から選択される1種又は2種以上との共重合体である請求項2記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項4】
金属化合物結晶体は、テトラポット形状を有する酸化亜鉛結晶体である請求項1〜3の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項5】
更に接着成分をも含有するプライマー用フッ素樹脂塗料組成物である請求項1〜4の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項6】
接着成分は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン及びポリアリレンスルファイドよりなる群から選択される1種又は2種以上を含む請求項5記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項7】
トップコート用フッ素樹脂塗料組成物である請求項1〜4の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項8】
金属基材と、前記金属基材上にフッ素樹脂塗料組成物を塗布して焼成することにより得られる被膜とを有する物品であって、
前記フッ素樹脂塗料組成物は、請求項1〜7の何れかに記載のフッ素樹脂塗料組成物である
ことを特徴とする物品。
【請求項9】
電子写真装置用ロール、電子写真装置用ベルト又は電子写真装置用フィルムである請求項8記載の物品。

【公開番号】特開2007−197535(P2007−197535A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16513(P2006−16513)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】