説明

フラクタル画像圧縮の符号化量低減装置

【課題】 符号化による画質劣化をきたすことなく、符号化量を低減できるフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置を提供することにある。
【解決手段】 原画像10は、画像分割・抽出部1でレンジブロックに分割され、かつ該レンジブロックは1つずつ抽出されて、シェード/エッジブロック判定部2および最適ドメインブロック決定部3に送られる。探索距離指定部4は前記レンジブロックがエッジブロックであった場合の、ドメインブロックの探索距離または探索範囲を指定する。最適ドメインブロック決定部3は該指定された探索範囲内から最適ドメインブロックを決定する。レンジブロックデータ作成部5は、前記レンジブロックがシェードの場合には符号化情報として輝度情報を作成し、一方エッジの場合には、対応するドメインブロックの位置情報(近傍領域)、輝度変換情報、回転・反転変換情報、細分化情報を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置に関し、特にドメインブロックの位置情報を低減して符号化量を低減するようにしたフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラクタル画像符号化は、まず画像を重複しないレンジブロックに分割し、その各レンジブロックに対して大きなブロック(ドメインブロック)を抜き出し、それに縮小変換、回転、鏡像変換、および/またはアフィン変換を加えた上で、最もレンジブロックと相似したドメインブロックを探し出し、その画像間の関係情報を符号として送信または記憶するものである。
【0003】
図8は、フラクタル画像圧縮のデータ構造例を示し、該データは、同図(a)に示されているように、ヘッダ(360ビット)81、レンジブロックデータ82、レンジブロックデータ83、・・・・、レンジブロックデータ8nから構成されている。同図(b)は、レンジブロックがシェードブロックの場合のレンジブロックデータ82のデータ構造を示し、レンジ/ドメインフラグと輝度情報とから構成される。レンジ/ドメインフラグには1ビット、輝度情報には8ビットを必要とされる。
【0004】
次に、同図(c)は、レンジブロックがシェードブロックでない場合、すなわちエッジブロックの場合のレンジブロックデータ83のデータ構造を示す。レンジブロックがエッジブロックの場合には、レンジブロックはドメインブロックを参照して符号化する。このため、そのデータ構造は、レンジ/ドメインフラグ、対応するドメインブロックの位置、輝度変換情報、回転/反転変換、および細分化フラグから構成される。必要とされるビット数は、「対応するドメインブロックの位置」のビット数を除いて、それぞれ1ビット、(4+6)ビット、3ビット、および1ビットである。
【0005】
前記「対応するドメインブロックの位置」のビット数は、原画像のサイズおよびドメインブロックのサイズに依存し、例えば画像のサイズが横352画素、縦240画素、ドメインブロックのサイズが8画素×8画素の場合には、横、縦方向の位置指定にそれぞれ6ビット、5ビットを必要とし、合計で11ビットとなる。この画面内のドメインブロックの位置情報のビット数は画面のサイズに依存するため、原画像が大きくなるほどレンジブロックのデータビットが多くなる。
【0006】
前記のことから、レンジブロックがエッジブロックの場合のビット数(図8の例では、26ビット)はシェードブロックの場合のビット数(9ビット)に比べて多く、またエッジブロックの場合のビット数の中で「対応するドメインブロックの位置」の情報のビット数(11ビット)が占める割合が大きいことが分かる。
【0007】
なお、画質の劣化が少なくかつ圧縮率の高い画像圧縮装置を提供する従来技術として、例えば下記の特許文献1に記されたようなものがある。
【特許文献1】特開平9−18877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したように、レンジブロックがエッジブロックの場合、ドメインブロックの位置情報のビット数が大きく、フラクタル画像圧縮の符号化効率が悪いという課題があったが、従来はこの課題を解消するために格別の配慮が何らされていなかった。
【0009】
本願発明の目的は、前記した従来技術の課題を解消し、符号化による画質劣化をきたすことなく、従来方式に比べて符号化量を低減できるフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した目的を達成するために、本発明は、原画像を所定サイズのレンジブロックに分割し、該レンジブロックがエッジブロックの場合に該レンジブロックが参照するドメインブロックを決定するフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置において、前記レンジブロックが参照するドメインブロックを探索する範囲を指定する探索範囲指定手段を具備し、該探索範囲指定手段は、ドメインブロックの探索範囲を当該レンジブロックを含む近傍に限定した点に第1の特徴がある。
【0011】
また、フラクタル画像圧縮のデータ構造中のレンジブロックデータを作成するレンジブロックデータ作成手段をさらに具備し、該レンジブロックデータ中の、対応するドメインブロックの位置情報の情報量を前記探索範囲の限定に伴って低減するよにした点に第2の特徴がある。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によれば、レンジブロックがエッジブロックの場合に該レンジブロックが参照するドメインブロックの探索範囲を当該レンジブロックを含む近傍に限定したので、該ドメインブロックの位置情報を従来方式に比べて大きく低減することができるようになる。このため、フラクタル画像圧縮における符号化量の低減を図ることができるようになる。
【0013】
また、該ドメインブロックの位置情報は、原画像の画面サイズが大きくなっても一定であるので、原画像の画面サイズが大きくなる程、符号化量の低減の割合が大きくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。図1は、本願発明の一実施形態の概略の構成を示すブロック図である。
【0015】
画像分割・抽出部1は、図2に示されているように、符号化すべき原画像10を例えば4×4画素のレンジブロックR1、R2、・・・、Rn(nは正の整数)に分割し、該レンジブロックを順次1個ずつ抽出する。該抽出されたレンジブロックは、シェード/エッジブロック判定部2と最適ドメインブロック決定部3に送られる。シェード/エッジブロック判定部2では、レンジブロックがシェードブロックであるかエッジブロックであるかの判定をする。この判定は、例えば、レンジブロック内の輝度値の分散値がある閾値以上のものをエッジブロック、該閾値より小さいものをシェードブロックとする。該シェード/エッジブロック判定部2においてエッジブロックであると判定されると、その旨が最適ドメインブロック決定部3に送られる。ドメインブロックD1、D2、・・・、Dm(mは正の整数でかつm<n)は、図2に示されているように、前記レンジブロックR1、R2、・・・、Rnより大きなサイズのブロックであり、例えば8×8画素で構成されている。
【0016】
探索距離(または、探索範囲)指定部4は、前記最適ドメインブロック決定部3で、対応するレンジブロックに係るドメインブロックの探索距離あるいは探索範囲を指定する。なお、符号化される当該レンジブロックの位置情報は前記画像分割・抽出部1から通知される。例えば、レンジブロックから探索距離0,1,2、3、・・・と指定される。図3に示されているように、探索距離0の場合には、当該レンジブロックRpを含むドメインブロック(探索範囲:Dq1)を参照する。この場合の参照ドメインブロック数は1である。探索距離1の場合は、当該レンジブロックRpを含むドメインブロックとその周辺のドメインブロック(探索範囲:Dq2)を参照する。この場合の参照ドメインブロック数は9である。さらに、探索距離2の場合は、当該レンジブロックRpを含むドメインブロックとその周辺およびさらにその周辺のドメインブロック(探索範囲:Dq3)を参照する。この場合の参照ドメインブロック数は25である。なお、該探索距離あるいは探索範囲は、原画像のサイズに依存させて決定することもできる。例えば、原画像サイズの10%とか20%と決めることもできる。また、図示のような正方形に限らず、長方形、楕円、菱形、多角形などの探索範囲とすることができる。
【0017】
図1の最適ドメインブロック決定部3は、探索距離指定部4で指定された探索距離または探索範囲内のドメインブロックから最適のものを決定する。例えば、該探索範囲内の各ドメインブロックをレンジブロックと同じサイズに縮小変換し、該縮小変換により得られた縮小パターンを、例えば0度、90度、180度および270度に回転変換し、それぞれの回転をされた縮小パターンに対して輝度変換を行うことにより合計8種類の縮小パターンを得、その中のレンジブロックとの誤差が最小となる縮小パターンを有するドメインブロックが最適のものとして決定される。
【0018】
レンジブロックデータ作成部5は、図4(a)に示されているような、フラクタル画像圧縮データ41中のレンジブロックデータ41a、41b、・・・、41nを作成する。例えば、該当するレンジブロックがシェードブロックである場合には、同図(b)に示されているように、輝度情報(8ビット)を作成する。一方、エッジブロックである場合には、同図(c)に示されているように、対応するドメインブロックの位置情報(近傍領域)、輝度変換情報(4ビット+6ビット)、回転・反転変換情報(3ビット)、および細分化フラグ(1ビット)を作成する。ここで、レンジブロックデータ41b中の、「対応するドメインブロックの位置情報」を除くデータに要するビット数は、従来方式の場合と同じである。
【0019】
本実施形態では、前記探索距離指定部4で当該レンジブロックに対応するドメインブロックの探索範囲を制限するようにしたので、該ドメインブロックの位置情報のビット数を大きく削減することができるようになる。例えば、探索距離が0、1の場合は1ビット、探索距離が2,3の場合は2ビット、探索距離が4〜7の場合は3ビット、探索距離が8〜15の場合は4ビットとなり、従来方式の11ビットに比べて大きく削減することができる。
【0020】
次に、本実施形態の動作を、図5のフローチャートを参照して説明する。ステップS1では、ヘッダでドメインブロックの探索距離を指定する。すなわち、レンジブロックから何個まで離れたドメインブロックまでを探索するかを指定する。ステップS2では、原画像を隙間なくレンジブロックに分割する(総数をN個とする)。ステップS3では、レンジブロックの番号を表す置き数nを1とする。ステップS4では、第n番目のレンジブロックを抽出する。ステップS5では、該抽出したレンジブロックがシェードブロックであるか否かの判断をする。この判断が肯定の場合にはステップS6およびS7をスキップしてステップS8に進む。一方、否定の時、すなわちエッジブロックの時には、ステップS6に進んで、前記探索距離内のドメインブロックを抽出する。ステップS7では、該探索距離内のドメインブロックの中から最適のドメインブロックを決定する。ステップS8では、n=N+1が成立するか否かの判断がなされ、この判断が否定の時にはステップS9に進んでnに1が加算される。そして、再度前記ステップS4〜S9の処理が繰り返される。最後に、ステップS8の判断が肯定になると、前記した一連の処理は終了する。
【0021】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、レンジブロックが参照するドメインブロックが原画像のサイズ依存ではなく、指定した探索距離依存となるため、レンジブロック毎の必要符号化量を、最大10ビット低減することが可能になる。
【0022】
本発明者は、従来方式と本発明方式とによる画像符号化をシミュレートして、図6に示すような符号化低減率と、図7に示すような符号化後のPSNRを得た。実験には、4種(A,B,C,およびD)の画像を用い、従来手法としては、Giovambattista Pulciniのフラクタル符号化アルゴリズム(http://www.verrando.com/~verrando/pulcini/gp-ifs.html参照)を用いた。また、本発明方法としては、前記探索距離を7とし、225のドメインブロックから最適なドメインブロックを探索させた。
【0023】
図6に示されているように、本発明方式によれば、最大で24.6%の符号量を削減させることができた。しかし、図7に示されているように、符号量の低減による画質(PSNR)にはあまり影響がなく、逆に画質が向上する場合もあった(画像A、C、D参照)。これは、従来方式では、高速化のために、ドメインブロック情報を予め分析し、レンジブロックの探索領域を事前に分割する手法(Yuval Fisher, "Fractal Image Compression" Springer-Verlag, New York,1995参照)を用いているため、画面中から最適なドメインブロックを探索できない可能性があるからであり、それよりは本発明方式のようにレンジブロックの近傍を全探索することにより適当なドメインブロックを指定する方が良いためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態の概略の構成を示すブロック図である。
【図2】原画像から得られるレンジブロックとドメインブロックの説明図である。
【図3】ドメインブロックの探索範囲の説明図である。
【図4】本実施形態によるフラクタル画像圧縮のデータ構造を示す図である。
【図5】本実施形態の動作を説明するフローチャートである。
【図6】本発明方式の従来方式に対する符号化低減率を示す図である。
【図7】本発明方式の従来方式に対する符号化後のPSNRを示す図である。
【図8】従来方式によるフラクタル画像圧縮のデータ構造を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1・・・画像分割・抽出部、2・・・シェード/エッジブロック判定部、3・・・最適ドメインブロック決定部、4・・・探索距離指定部、5・・・レンジブロックデータ作成部、10・・・原画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原画像を所定サイズのレンジブロックに分割し、該レンジブロックがエッジブロックの場合に該レンジブロックが参照するドメインブロックを決定するフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置において、
前記レンジブロックが参照するドメインブロックを探索する範囲を指定する探索範囲指定手段を具備し、
該探索範囲指定手段は、ドメインブロックの探索範囲を当該レンジブロックを含む近傍に限定することを特徴とするフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置において、
フラクタル画像圧縮のデータ構造中のレンジブロックデータを作成するレンジブロックデータ作成手段をさらに具備し、
該レンジブロックデータ中の、対応するドメインブロックの位置情報の情報量を前記探索範囲の限定に伴って低減したことを特徴とするフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置において、
前記探索範囲指定手段は、当該レンジブロックからの距離によりドメインブロックの探索範囲を指定することを特徴とするフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置において、
前記探索範囲指定手段は、原画像のサイズに依存したドメインブロックの探索範囲を指定することを特徴とするフラクタル画像圧縮の符号化量低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−67300(P2006−67300A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248275(P2004−248275)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月8日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会2004年総合大会講演論文集 情報・システム2」に発表
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】