説明

フラーレン誘導体及びこれを含む有機電子デバイス

【課題】本発明はフラーレン誘導体及びこれを用いた有機電子デバイスに関する。
【解決手段】本発明は、芳香族縮合環化合物が導入された新規のフラーレン(fullerene)誘導体を提供し、これを有機電子デバイスの材料として用いることで、電気的特性に優れた有機電子デバイスを提供する。詳細には、本発明の芳香族縮合環化合物が導入された新規のフラーレン(fullerene)誘導体は、有機溶媒に対する溶解度に優れており、電気化学的に電子の移動度が高く、LUMOエネルギーレベルが高く、開放電圧(Voc)に優れている。そのため、エネルギー変換効率が改善された有機太陽電池の材料として用いたり有機薄膜トランジスタなどの有機電子デバイス用に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体物質として新規のフラーレン誘導体及びこれを含む有機電子デバイスに関し、具体的には、芳香族縮合環化合物が連結されたフラーレン誘導体の有機半導体物質及びこれを含む有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ここ10年間、半導体の性質を帯びる有機素材の開発及びこれを用いた様々な応用研究が従来より活発に行われた。電磁波遮蔽膜、コンデンサ、OLEDディスプレイ、有機薄膜トランジスタ(organic thin film transistor;OTFT)、太陽電池、多光子吸収現象を用いたメモリ素子など、有機半導体を用いた応用研究の領域は拡張され続けている。このうち特にOLED分野は、大型ディスプレイの商品化寸前であるため、有機物を用いた応用研究の活性化を促進させる機能を行っており、OLEDの能動駆動回路を含み、次世代のスマートカードなどの応用にも期待される有機半導体薄膜トランジスタも急速に注目されている。また、有機物半導体を活性層とした電気発電特性に関する発表があった後、レーザーダイオードとしての応用性に対しても再び多くの注目を集めている。また、非有機物に比べて素子の製造コストが顕著に低いため、未来の太陽電池市場に変革をもたらすと予想される。
【0003】
有機半導体薄膜トランジスタに関する研究は1980年以後から始まり、近年では世界中で本格的な研究が行われている。製造工程が簡単で、低コストで衝撃吸収力がありフレキシブルな電子回路基板が未来産業に必須な要素となると予想されており、このような要求を満たすことができる有機トランジスタの開発は非常に重要な研究分野として台頭しつつある。有機トランジスタは、有機半導体の特性上、電荷移動度が低いため、SiやGeなどが用いられる速い速度を要する素子には使用することができない。しかし、素子を広い面積上で製造する必要がある場合や低い工程温度を要する場合、またフレキシブルな必要がある場合、特に低コスト工程を要する場合には有用に用いられることができる。最近、フィリップス(Philips)の研究陣は、基板と電極、誘電体(絶縁体)、半導体を全て高分子を用いて326個のトランジスタからなるprogrammable code generatorを製造、発表して世界を驚かせた。これは、今まで半導体は硬いものであるという固定観念を完全に破ったことであって、人間の想像力により応用分野は無限であることを予告している。
【0004】
有機半導体トランジスタは、素材の特性上、有機電気発光トランジスタに使用される発光有機物のような有機物半導体であるため同様な蒸着法を有しており、物理的化学的性質が類似しており、同一の工程条件下で素子を製造することができる。また、両方とも常温及び低温(摂氏100℃以下)工程が可能であるため、有機トランジスタを用いたプラスチックベースの有機電気発光素子を製造することができる。同じように、プラスチックを基板にしてフレキシブルな液晶表示素子を具現するところにおいても使用することができる。また最近大きく注目されている電子ペーパーの駆動を例として挙げることができる、電子ペーパーは電流駆動でなく電圧駆動を用いており、高い電荷移動度や速いスイッチング速度を要する表示素子でないだけでなく、フレキシブルな大面積において適用される技術であるため、有機トランジスタが最も適していると考えられる。また、現在半導体工程を用いてシリコン基板として使用されるスマートカード用マイクロプロセッサも、有機トランジスタを適用する場合シリコンプロセッサとプラスチックベースの接合などによるコストを減少させることができ、その使用が期待される。さらに、これはコンピューターにおける様々な部分に応用できると考えられる。
【0005】
有機半導体は、高性能素子を得るために、次のような電荷注入と電流移動性に対する一般的な事項を満たさなければならない。(i)有機半導体物質は電場が印加された際に正孔と電子が容易に注入される分子軌道(HOMO/LUMO)エネルギーを有さなければならない。(ii)隣接した分子間における効果的な電荷移動のために、物質の結晶構造はフロンティア軌道(frontier orbital)が十分に重複する構造を有さなければならない。(iii)不純物は電荷トラップとして作用するため、固体は非常に純粋でなければならない。(iv)分子内のπ−πスタッキング(π−π stacking)の方向に沿った効果的な電荷移動のために、分子は素子基板に並んでいる長い軸に沿って選択的に配列しなければならない。(v)有機半導体の結晶領域はソースとドレイン電極との間の単結晶膜のような薄膜状に被覆しなければならない。さらに、有機物質の溶解度も優れたものが好ましい。素子の製造における溶液法は、低温工程が可能であるため、プラスチック基板にも容易に薄膜を形成することができ、低コストの素子を製造することができる。
【0006】
1980年代初期から有機薄膜トランジスタ(OTFT)に関する研究が本格的に始まった以来、ペンタセン(pentacene)、ポリチオフェン(polythiophene)、ポリアセンチレン(polyacetylene)、α−キサチエニレン(α−hexathienylene)、フラーレン(fullerene、C60)薄膜などが適用されて来た。また、これは有機薄膜トランジスタ(OTFT)素子の重要な特性である電荷移動度とON/OFF比を増加させる方向に開発されて来た。現在最も優秀なp型チャンネル材はペンタセンであるが、酸素と反応して電気的特性が変化するという安全性の問題を有している。このように有機半導体が酸化されると、結合が壊れるため、電荷移動度が低くなる。また結晶内部に格子歪み現象が生じて電荷トラップを形成し、これによる電荷散乱も移動度を減少させる原因となる。また、有機半導体における電荷移動度を向上させるための研究としては、蒸着時に基板の温度を上げたり自己集合(self assembly)法を用いて有機分子の結晶化を誘導する研究が頻繁に行われてきた。しかし、分子間(inter molecular)伝導が容易に行われるように分子を設計することが最も重要である。
【0007】
一方、太陽電池は、光起電力効果(photovoltaic effect)を応用することにより、太陽エネルギーを直接電気エネルギーに変換することができる素子である。代表的な太陽電池は、無機半導体である結晶性シリコン(Si)をドーピング(doping)してp−n接合からなるものである。光を吸収して生じる電子(electron)と正孔(hole)は、p−n接合点まで拡散され、その電場により加速されて電極に移動する。この過程における電力変換効率は、外部回路に与えられる電力と太陽電池に含まれた太陽電力の比により定義され、現在標準化された仮想の太陽照射の条件で測定すると、24%程度まで達成された。しかし、従来の無機太陽電池は、既に経済性と材料上の需給においてその限界を見せているため、加工が容易で低コストでありながら多様な機能性を有する有機物半導体太陽電池が長期的な代替エネルギー源として脚光を浴びている。
【0008】
有機太陽電池の可能性が初めて提示されたのは1970年代であるが、効率が低すぎるため実用性がなかった。しかし1986年イーストマンコダック(Eastman Kodak)社のタン(C.W.Tang)氏が銅フタロシアニン(copper phthalocyanine;CuPc)とペリレンテトラカルボン酸(perylene tetracarboxylic acid)誘導体を用いた二重層構造を用いて多様な太陽電池としての実用化可能性を見せると、有機太陽電池に対する関心と研究が急速に増加し、大幅に発展して来た。その後、1995年にはYu氏などによりバルクへテロジャンクション(bulk heterojunction;BHJ)の概念が導入され、フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)のように溶解度が向上したフラーレン(fullerene)誘導体がn型半導体物質として開発されることにより、有機太陽電池の効率面において画期的な発展があった。特に、高分子太陽電池の場合、最近3〜4年間に新しい素子構成及び工程条件の変化などにより効率が著しく向上しており、既存の物質に代替するために低いバンドギャップ(band gap)を有するドナー(donor)物質と電荷移動度に優れた新しいアクセプタ(acceptor)物質の開発が常に研究されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電気伝導性物質として熱的に安定しており溶解度に優れ電子移動度が高くて、電気的特性に優れた有機半導体物質及びこれを含む有機電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、本発明は下記化学式1または2のように芳香族縮合環化合物が導入されたフラーレン構造、より詳細にはフラーレンにシクロヘキサン(cyclohexane)の構造が導入されており、ここに芳香族環化合物またはヘテロ芳香族環化合物が縮合されたフラーレン誘導体の有機半導体物質とこれを含む有機電子デバイスを提供する。
【0011】
[化学式1]

【0012】
[化学式2]

【0013】
(前記化学式1及び2中、R〜Rは、互いに独立して水素原子、直鎖または分岐鎖の(C1−C20)アルキルから選択されてもよく、隣接した置換体と(C4−C8)アルケニレンで連結され芳香族縮合環を形成してもよく、前記アルケニレンは酸素原子、窒素原子または硫黄原子から選択される1〜3のヘテロ原子に置換されヘテロ芳香族縮合環を形成し、AはC60又はC70のフラーレンである。)
【0014】
本発明による芳香族縮合環化合物が導入された化学式1または化学式2のフラーレン化合物は具体的に下記の化合物で示すことができるが、下記の化合物は本発明の範囲を限定するものではない。また、本発明ではフラーレン化合物の芳香族縮合環シクロヘキサン置換体の位置を限定しない。また、本発明ではフラーレン化合物の芳香族縮合環シクロヘキサン置換体の位置を限定しない。本発明によるフラーレン誘導体化合物のディールスアルダー反応(Diels−Alder reaction)により芳香族縮合環が置換された位置は、具体的に下記に図示された位置に限定されず、フラーレンの二重結合のどの位置においても置換されることができる。また、位置異性体の混合物であってもよく、有機太陽電池素子用フラーレン誘導体としての電気化学的特性は同様である。

























【0015】
本発明による前記化学式1または化学式2の芳香族縮合環化合物が導入されたフラーレン誘導体の製造方法は、下記反応式1〜5で図示しており、下記反応式1〜5に図示されたように、ディールスアルダー反応(Diels−Alder reaction)によりフラーレン誘導体を製造することができる。
【0016】
前記ディールスアルダー反応は、ブタジエンなどのように共役二重結合を有したジエン化合物と二重結合または三重結合を有した親ジエン体が付加反応を起こして6員環または5員環化合物を製造する反応である。本発明のフラーレン誘導体を製造するための反応条件は、当業者が実施できる通常のディールスアルダー反応条件であればどのような方法を用いてもよい。例えば、有機溶媒下において反応物を加温して得てもよく、必要に応じて触媒をさらに用いてもよい。前記有機溶媒としては、ペンタン、オクタン、デカン及びシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどのような芳香族炭化水素、クロロメタン、メチレンクロライド、クロロホルム、カーボンテトラクロライド、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロライド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロロベンゼン及びブロモベンゼンなどのようなハロゲン化炭化水素を用いてもよい。
【0017】
[反応式1]

【0018】
[反応式2]

【0019】
[反応式3]

【0020】
[反応式4]

【0021】
[反応式5]

【0022】
前記の反応式1〜5中、C60又はC70のフラーレンに付加される付加物は商品化された製品を用いてもよく、直接製造して用いてもよい。前記フラーレンと付加物を合成するために前記有機溶媒から選択された溶媒下で溶媒の沸点にまで加温して6〜48時間反応して本発明のフラーレン誘導体を得ることができる。
【0023】
前記の反応式1〜5には、モノ付加物(mono−adduct)とジ付加物(di−adduct)が同時に生成されてもよく、これは通常の再結晶及びカラムクロマトグラフィーなどの分離工程により本発明による化合物であるジ付加物を得てもよい。
【0024】
本発明により製造された前記化学式1の芳香族縮合環化合物が導入されたフラーレン誘導体は、有機薄膜トランジスタのチャンネル材として用いてもよく、前記化学式1のフラーレン誘導体をチャンネル材として用いて有機薄膜トランジスタを製造してもよく、電気移動度に優れたn型有機半導体の特性を有する有機薄膜トランジスタに用いてもよい。
【0025】
また本発明により製造された前記化学式2の芳香族縮合環化合物が導入されたフラーレン誘導体は、有機太陽電池素子に用いてもよい。本発明のフラーレン誘導体及びこれを光活性層として用いた有機太陽電池素子は、既存のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)に比べ電気化学的特性に優れている。前記フラーレン誘導体は、LUMOエネルギーレベルが−3.5〜−3.52eV程度であって既存のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)の−3.70eVに比べて5%程度優れたLUMOエネルギーレベルを有している。これは、有機太陽電池素子の光活性層として用いる場合、フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)を光活性層として用いた既存の有機太陽電池素子より高い開放電圧を有することができる。実際、前記フラーレン誘導体とrr−P3HT[regioregular Poly(3−hexylthiophene)]を光活性層にして製造された有機太陽電池素子の特性を分析した結果、開放電圧(Voc)が800〜850mVを示し、これはフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)に比べさらに50〜60%向上したものである。従って、本発明の前記化学式2のフラーレン誘導体化合物を有機太陽電池の光活性層として用いる場合、エネルギー変換効率を大幅に向上させることができ、溶解度に優れるため低価印刷工程に適した材料として低コストでも高効率の有機太陽電池素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
その結果、本発明は、前記化学式1のように一つのシクロヘキサン(cyclohexane)型の置換基を有するフラーレン(fullerene)誘導体を製造することにより溶解度を高め、電子移動度に優れたn型有機半導体材料として溶解法を用いたn型有機薄膜トランジスタのチャンネル材に用いることができる。
【0027】
また本発明は、前記化学式2のように二つのシクロヘキサン(cyclohexane)型の置換体を有するフラーレン(fullerene)誘導体とドナー(donor)用高分子材料との組み合わせにより高いレベルの開放電圧(Voc、open circuit voltage)を具現することができるため、エネルギー変換効率が向上した有機太陽電池素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】製造例1のフラーレン化合物(化合物1−1)のサイクロボルタメトリー(Cyclovoltametry;CV)測定結果である。
【図2】実施例2の製造例1フラーレン化合物(化合物1−1)をチャンネル材として用いた有機薄膜トランジスタ素子の出力曲線(output curve)である。
【図3】実施例2の製造例1フラーレン化合物(化合物1−1)をチャンネル材として用いた有機薄膜トランジスタ素子の遷移曲線(transition curve)である。
【図4】実施例3の製造例4フラーレン化合物(化合物1−4)をチャンネル材として用いた有機薄膜トランジスタ素子の出力曲線(output curve)である。
【図5】実施例3の製造例4フラーレン化合物(化合物1−4)をチャンネル材として用いた有機薄膜トランジスタ素子の遷移曲線(transition curve)である。
【図6】比較例1のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)をチャンネル材として用いた有機薄膜トランジスタ素子の出力曲線(output curve)である。
【図7】比較例1のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)をチャンネル材として用いた有機薄膜トランジスタ素子の遷移曲線(transition curve)である。
【図8】本発明の化合物2−1、2−5、2−6及びフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)のサイクリックボルタモグラム(Cyclic voltamogram)である。
【図9】本発明の実施例2,3及び比較例1の有機太陽電池特性を比較したものである。
【図10】本発明の実施例2と比較例1の有機太陽電池のIPCE(内部エネルギー変換効率)測定結果を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、下記の実施例に基づき本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
[製造例1]化合物1−1及び化合物2−1の製造

【0031】
反応器にベンゾシクロブテン(Benzocyclobutene、0.51g、5mmol)とフラーレンC60(Fullerene C60、0.3g、0.42mmol)を1,2−ジクロロベンゼン50mlに溶解させて注入し、190℃で24時間反応させた。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、シリカゲルのカラムクロマトグラフィー(40×10cm)によりベンゼンとへキサンの1:7の混合溶媒を用いて展開し、褐色固体状のモノ付加物(mono−adduct、化合物1−1)(83mg、21%)とジ付加物(di−adduct、化合物2−1)(110mg、28%)を得た。
【0032】
Mono−adduct(化合物1−1):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.69−7.67(m,2H)、7.58−7.55(m,2H)、4.82−4.80(m,2H),4.47−4.42(m,2H)。
13C−NMR500MHz(CDCl=77.00ppm)δ146.49、146.27、145.48、144.74、142.60、142.25、138.15、128.02、65.94、45.12,30.92。
FABMSm/z:824(MH):calcd.(C68),824.
Di−adduct(化合物2−1):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.94−7.28(m,8H)、5.08−3.91(m,8H)。
13C−NMR500MHz(CDCl=77.00ppm)δ146.71、145.41、144.97、144.57、143.74、142.43、141.84、141.28、138.41、138.05、128.03、127.75、127.68、65.06、64.84、64.56、64.45,63.79、45.31,45.11,44.76、30.92。
FABMSm/z:928(MH):calcd.(C7616)、928。
【0033】
[製造例2]化合物1−2及び化合物2−2の製造

【0034】
(4−メチル−1,2−フェニレン)ジメタノール[(4−methyl−1,2−phenylene)dimethanol]の製造
4−メチルフタル酸無水物(4−Methylphthalic anhydride、5g、30.84mmol)をエーテル90mlに溶解させた後、−78℃で水素化アルミニウムリチウム(LiAlH、LAH、2.9g、77.09mmol)を注入して30分間攪拌した。その後、温度を徐々に上げて常温で24時間反応させる。反応終了後、塩化アンモニウム(ammonium chloride)溶液で冷却した後、減圧下で溶媒を濃縮し、エチルアセテート(ethylacetate)で2回洗浄して、さらに蒸留水で1回洗浄した。有機層を分離して硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を濃縮してシリカゲルを用いてカラムクロマトグラフィー(40×10cm)によりエチルアセテートとへキサンの2:5混合溶媒を用いて展開し、白い固体状の(4−メチル−1,2−フェニレン)ジメタノール(3.73g、80%)を得た。
【0035】
H−NMR300MHz(CDCl3)δ7.21−7.11(m,3H)、4.62(s,4H)、3.48(brs,1H)、3.40(brs,1H)、2.34(s,3H)
【0036】
1,2−ビス(ブロモメチル)−4−メチルベンゼン[1,2−bis(bromomethyl)−4−methylbenzene]の製造
(4−メチル−1,2−フェニレン)ジメタノール(3g、19.71mmol)、テトラブロモメタン(Tetrabromomethane、13.08g、39.42mmol)、トリフェニルホスフィン(Triphenylphosphine、10.34g、39.42mmol)を四塩化炭素(tetrachloromethane)150mlに溶解して常温で24時間反応させる。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、エチルアセテートで2回洗浄して、さらに蒸留水で1回洗浄した。有機層を分離して硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を濃縮し、シリカゲルを用いてカラムクロマトグラフィー(40×10cm)によりエチルアセテートとへキサンの2:5混合溶媒を用いて展開し、白い固体状の1,2−ビス(ブロモメチル)−4−メチルベンゼン(1.44g、26%)を得た。
【0037】
ディールスアルダー反応(Diels−Alder reaction)を用いたC60誘導体の製造
1,2−ビス(ブロモメチル)−4−メチルベンゼン(0.76g、2.76mmol)、ヨウ化カリウム(KI、0.69g、4.17mmol)、18−クラウン−6(1.82g、6.9mmol)、フラーレンC60(Fullerene C60、0.5g、0.69mmol)をトルエン100mlに溶解して110℃で還流し、24時間反応させた。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、ジクロロメタン(dichloromethane)で2回洗浄して、さらに蒸留水で1回洗浄した。有機層を分離して硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を濃縮し、シリカゲルを用いてカラムクロマトグラフィー(40×10cm)によりベンゼンとへキサンの2:7混合溶媒を用いて展開し、褐色固体状のモノ付加物(mono−adduct、化合物1−2)10mgとジ付加物(di−adduct)(化合物2−2、7mg)を得た。
【0038】
Mono−adduct(化合物1−2):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.57−7.55(m,1H)、7.50(s,1H)、7.37−7.35(m,1H)、4.81−4.77(m,2H)、4.42−4.38(m,2H)、2.55(s,3H)。
FABMSm/z:839(M+1);calcd.(C6910)838。
Di−adduct(化合物2−2):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.59−7.32(m,2H)、7.52(s,2H)、7.41−7.33(m,2H)、4.81−4.77(m,4H)、4.42−4.38(m,4H)、2.55(s,6H)。
FABMSm/z:957(M+1);calcd.(C7820)956。
【0039】
[製造例3]化合物1−3及び化合物2−3の製造

【0040】
ジメチル4,5−ジメチルシクロヘキサ−1,4−ジエン−1,2−ジカルボキシレート[Dimethy4,5−Dimethycyclohexa−1,4−diene−1,2−dicarboxylate]の製造
アセチレンジカルボン酸ジメチル(Dimethy acetylendicarboxylate、5g、35.18mmol)をベンゼン50mlに溶解した後、窒素下で2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン(2,3−Dimethy−1,3−butadiene、2.72g、33.07mmol)を添加して24時間還流攪拌させる。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、エチルアセテートで2回洗浄して、さらに蒸留水で1回洗浄した。有機層を分離して硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を濃縮し、シリカゲルを用いてカラムクロマトグラフィー(40×10cm)によりエチルアセテートとへキサンの1:5混合溶媒を用いて展開し、白い固体状のジメチル4,5−ジメチルシクロヘキサ−1,4−ジエン−1,2−ジカルボキシレート(5.68g、72%)を得た。
【0041】
H−NMR300MHz(CDCl)δ3.77(s,6H)、2.92(s,4H)、1.66(s,6H)
【0042】
ジメチル4,5−ジメチルベンゼン−1,2−ジカルボキシレート[Dimethy4,5−Dimethybenzene−1,2−dicarboxylate]の製造
ジメチル4,5−ジメチルシクロヘキサ−1,4−ジエン−1,2−ジカルボキシレート(Dimethy4,5−Dimethycyclohexa−1,4−diene−1,2−dicarboxylate、2g、8.92mmol)をクロロベンゼン50mlに溶解した後、常温で2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ;2,3−dichloro−5,6−dicyano−1,4−benzoquinone4g、17.84mmol)を少しずつ徐々に添加した後、24時間還流攪拌させる。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、エチルアセテートで2回洗浄して、さらに蒸留水で1回洗浄した。有機層を分離して硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を濃縮し、シリカゲルを用いてカラムクロマトグラフィー(40×10cm)によりエチルアセテートとへキサンの1:5混合溶媒を用いて展開し、透明オイル状のジメチル4,5−ジメチルベンゼン−1,2−ジカルボキシレート(1.29g、65%)を得た。
【0043】
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.49(s,2H)、3.88(s,6H)、2.31(s,6H)
【0044】
1,2−ビス(ブロモメチル)−4,5−ジメチルベンゼン[1,2−bis(bromomethyl)−4,5−Dimethybenzene]の製造
水素化アルミニウムリチウム(LAH;0.54g、14.29mmol)に乾燥したテトラヒドロフラン20mlを−78℃で注入し、ジメチル4,5−ジメチルベンゼン−1,2−ジカルボキシレート(1.27g、5.71mmol)を乾燥したテトラヒドロフラン10mlに溶解して、前記反応液に徐々に添加した後、反応温度を徐々に常温まで上げ24時間還流攪拌させる。反応終了後、水酸化ナトリウム溶液で冷却した後、減圧下で溶媒を濃縮し、エチルアセテートで2回洗浄して、さらに蒸留水で1回洗浄した。有機層を分離して硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を濃縮して白い固体状の(4,5−ジメチル−1,2−フェニレン)ジメタノール((4,5−Dimethyl−1,2−phenylene)dimethanol、0.95g、定量的)を得た。ここにトリブロモホスフィン(tribromophosphine)を用いて臭素化反応させて1,2−ビス(ブロモメチル)−4,5−ジメチルベンゼンを56%の収率で得た。
【0045】
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.13(s,2H)、4.27(s,4H)、2.23(s,6H)。
【0046】
ディールスアルダー反応(Diels−Alder reaction)を用いたC60誘導体の製造
1,2−ビス(ブロモメチル)−4,5−ジメチルベンゼン(0.6g、2.06mmol)、ヨウ化カリウム(KI、0.69g、4.17mmol)、18−クラウン−6(1.82g、6.9mmol)、フラーレン60(FullereneC60、0.5g、0.69mmol)を使用し、製造例2と同一の方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−adduct、化合物1−39mg)とジ付加物(di−adduct、化合物2−3、5mg)を得た。
【0047】
mono−adduct(化合物1−3):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.54(s,2H)、4.52−4.39(m,4H)、2.54(s,6H)。
FABMSm/z:852(M);calcd.(C7012)、852。
Di−adduct(化合物2−3):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.59−7.52(m,4H)、4.55−4.36(m,8H)、2.64−2.51(m,6H)。
FABMSm/z:984(M);calcd.(C7820)、984。
【0048】
[製造例4]化合物1−4 及び化合物2−4の製造

【0049】
2,3−ビス(ブロモメチル)ナフタレン[2,3−bis(bromomethyl)naphthalene]の製造
2,3−ジメチルナフタレン(2,3−Dimethynaphthalene、3g、19.2mmol)、N−ブロモスクシンイミド(N−Bromosuccimide、6.84g、38.4mmol)、2、2´−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル(AIBN、321mg、0.19mmol)を四塩化炭素60mlに溶解して80℃で還流し、24時間反応させた。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、へキサンで再結晶して淡いベージュの固体状の2,3−ビスブロモメチルナフタレン(4.47g、74%)を得た。
【0050】
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.86(s,2H)、7.81−7.78(m,2H)、7.52−7.49(m,2H)、4.87(s,4H)
【0051】
ディールスアルダー反応(Diels−Alder reaction)を用いたC60誘導体の製造
2,3−ビスブロモメチルナフタレン(2,3−bis(bromomethyl)naphthalene、1.3g、4.17mmol)、ヨウ化カリウム(KI、0.69g、4.17mmol)、18−クラウン−6(1.82g、6.9mmol)、フラーレンC60(FullereneC60、0.5g、0.69mmol)を使用し、製造例2と同一の方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−adduct、化合物1−4)(140mg、20%)及びジ付加物(di−adduct、化合物2−4)(85mg、10%)を得た。
【0052】
Mono−adduct(化合物1−4):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.83−7.77(m,4H)、7.25−7.47(m,2H)、4.88−4.83(m,4H)。
FABMSm/z:874(MH):calcd.(C7210)、874。
Di−adduct(化合物2−4):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.89−7.70(m,8H)、7.53−7.17(m,4H)、4.88−4.79(m,8H)。
FABMSm/z:1028(MH):calcd.(C8420)、1028。
【0053】
[製造例5]化合物1−5及び化合物2−5の製造


1,2−ビス(ブロモメチル)ナフタレン[1,2−bis(bromomethyl)naphthalene]の製造
1,2−ジメチルナフタレン(1,2−Dimethynaphthalene、2g、12.8mmol)、N−ブロモスクシンイミド(N−Bromosuccimide、4.56g、25.6mmol)、2、2´−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル(AIBN、11mg、0.064mmol)を使用し、前記製造例1と同一の方法により1,2−ビス(ブロモメチル)ナフタレン(3.5g、87%)を得た。
【0054】
H−NMR300MHz(CDCl)δ8.13(d、J=8.4Hz、1H)、7.83(t,J=8.4Hz,2H)、7.66−7.60(m,1H)、7.55−7.50(m,1H)、7.42(d,J=8.4Hz,1H)、5.09(s,2H)、4.76(s,2H)
【0055】
ディールスアルダー反応(Diels−Alder reaction)を用いたC60誘導体の製造
1,2−ビスブロモメチルナフタレン(1,2−bis(bromomethyl)naphthalene、0.87g、2.76mmol)、ヨウ化カリウム(KI、0.69g、4.17mmol)、18−クラウン−6(1.82g、6.9mmol)、フラーレンC60(FullereneC60、0.5g、0.69mmol)を使用し、前記製造例2と同一の方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−adduct)(化合物1−5、102mg、14%)とジ付加物(di−addcut)(化合物2−5,68mg)を得た。
【0056】
Mono−adduct(化合物1−5):
H−NMR300MHz(CDCl)δ8.61−7.52(m,6H)、5.25−4.12(m,4H)。
FABMSm/z:874(MH):calcd.(C7210)、874。
Di−adduct(化合物2−5):
H−NMR300MHz(CDCl)δ8.75−7.48(m,12H)、5.29−4.01(m,8H).
FABMSm/z:1028(MH):calcd.(C8420)、1028。
【0057】
[製造例6]化合物1−6及び化合物2−6の製造

【0058】
フラーレンC60の代りにフラーレン70(FullereneC70、0.5g、0.69mmol)を使用したほかには製造例1と同一の方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−addcut)(化合物1−6、112mg、18%)とジ付加物(di−adduct)(化合物2−6、220mg、35%)を得た。
【0059】
Mono−adduct(化合物1−6):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.70−7.67(m,2H)、7.57−7.53(m,2H)、4.83−4.79(m,2H)、4.47−4.41(m,2H)。
FABMSm/z:1048(MH):calcd.(C8616)、1048。
Di−adduct(化合物2−6):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.58−7.36(m,8H)、4.18−3.66(m,8H)。
FABMSm/z:1048(MH):calcd.(C8616)、1048。
【0060】
[製造例7]化合物1−7及び化合物2−7の製造


フラーレンC60の代りにフラーレンC70(0.58g、0.69mmol)を使用したほかには製造例2と同じ方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−addcut)(化合物1−7、23mg)とジ付加物(di−adduct)(化合物2−7、15mg)を得た。
【0061】
mono−adduct(化合物1−7):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.53−7.50(m,1H)、7.47(s,1H)、7.32−7.30(m,1H)、4.80−4.76(m,2H)、4.42−4.39(m,2H)、2.53(s,3H)。
FABMSm/z:958(M);calcd.(C7910)958。
Di−adduct(化合物2−7):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.60−7.29(m,2H)、7.55−7.47(m,2H)、7.41−7.30(m,2H)、4.83−4.72(m,4H)、4.45−4.33(m,4H)、2.59−2.44(m,6H)。
FABMSm/z:1076(M);calcd.(C8820)1076。
【0062】
[製造例8]化合物1−8及び化合物2−8の製造

【0063】
フラーレンC60の代りにフラーレンC70(0.58g、0.69mmol)を使用したほかには製造例3と同一の方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−addcut)(化合物1−8、19mg)とジ付加物(di−adduct)(化合物2−8、25mg)を得た。
【0064】
mono−adduct(化合物1−8):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.51(s,2H)、4.50−4.39(m,4H)、2.55(s,6H)。
FABMSm/z:972(M);calcd.(C8012)、972。
Di−adduct(化合物2−8):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.57−7.47(m,4H)、4.59−4.29(m,8H)、2.61−2.57(m,6H)。
FABMSm/z:1104(M);calcd.(C9024)、1104。
【0065】
[製造例9]化合物1−9及び化合物2−9の製造

【0066】
フラーレンC60の代りにフラーレンC70(0.58g、0.69mmol)を使用したほかには製造例4と同一の方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−addcut)(化合物1−9、85mg、12%)及びジ付加物(di−adduct)(化合物2−9、168mg、21%)を得た。
【0067】
Mono−adduct(化合物1−9):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.87−7.79(m,4H)、7.49−7.27(m,2H)、4.91−4.80(m,4H)。
FABMSm/z:994(MH):calcd.(C8210)、994。
Di−adduct(化合物2−9):
H−NMR300MHz(CDCl)δ7.93−7.65(m,8H)、7.59−7.10(m,4H)、4.91−4.70(m,8H)。
FABMSm/z:1148(MH):calcd.(C8420)、1148。
【0068】
[製造例10]化合物1−10及び化合物2−10の製造

【0069】
フラーレンC60の代りにフラーレンC70(0.58g、0.69mmol)を使用したほかには製造例4と同一の方法により褐色固体状のモノ付加物(mono−addcut)(化合物1−10、77mg、11%)とジ付加物(di−adduct)(化合物2−10、192mg、24%)を得た。
【0070】
Mono−adduct(化合物1−10):
H−NMR300MHz(CDCl)δ8.57−7.47(m,6H)、5.21−4.10(m,4H)。
FABMSm/z:994(MH):calcd.(C8210)、994。
Di−adduct(化合物2−10):
H−NMR300MHz(CDCl)δ8.79−7.43(m,12H)、5.31−4.00(m,8H)。
FABMSm/z:1148(MH):calcd.(C8410)、1148。
【0071】
[実施例1]フラーレン誘導体化合物の電気化学的特性
前記製造例1で製造されたフラーレン化合物(化合物1−1)の電気化学的特性を観察するために、サイクロボルタメトリー(Cyclovoltametry;CV)を用いた酸化/還元特性を観察した。CV装置は、BAS 100 Cyclovoltametryを使用し、電解質は0.1MのBuNBF(Tetrabutylammonium tetrafluoroborate)とアセトニトリル(Acetonitrile)溶媒を使用し、試料は10−3Mの濃度で1,2−ジクロロベンゼンに溶解した。常温でアルゴン下で100mW/sの走査速度で測定し、ガラス炭素電極(直径0.3mm)を作用電極として使用し、パラジウム(Pt)と銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極を対電極及び参照電極として使用し、その結果を図1に図示した。
【0072】
[実施例2]製造例1のフラーレン誘導体化合物(化合物1−1)を含む有機薄膜トランジスタ素子の製造及び測定
本発明ではフラーレン誘導体のうち前記製造例1のベンゾシクロブテン(benzocyclobutene)と反応して得られたフラーレン化合物(化合物1−1)を用いて有機薄膜トランジスタ素子を製造した。素子の製造方法は次のとおりである。300nmのシリコンウェハ(silicon wafer)を硫酸/過酸化水素(4:1)(piranha solution)でホットプレート(hot plate)100℃で20分間濃硫酸処理を施す。濃硫酸処理が終わったシリコンウェハの硫酸/過酸化水素を蒸留水で複数回拭き取った後、窒素を吹込みながら表面の水を取り除く。全ての処理が終わったシリコンウェハ表面を20分間UV/オゾン処理し、スピンコーティング(0rpm、30s、4000rpm、30s)法によりヘキサメチルジシラン(HMDS)処理を行う。
【0073】
表面処理が終わった後、120℃で10分間熱処理を施す。熱処理が終わった後、クロロベンゼンに前記製造例1のフラーレン化合物を1wt%の濃度で溶解した溶液をスピンコーティング(500rpm、5s、2000rpm、60s)する。この際、有機物の厚さはアルファステップ(Alpha−step)で測定した結果、約30nmであった。
【0074】
スピンコーティングが終わった後、グローブボックス中の窒素気流下で90℃、20分間ベーキング(baking)する。ベーキングが終わった後、ソースとドレインを蒸着し、この際の基本真空度(base pressure)は10-6torrであり、ソースとドレインは、4.2eVの仕事関数を有するアルミニウム(Aluminium)120nmを蒸着してなる。アルミニウムをソースとドレインとして使用した際、金属の酸化防止のためにマグネシウム(Mg)5nmを蒸着した。測定する際に物質が酸化され得るため、水分吸収防止のために、エポキシを用いてゲッターを付着したガラスキャップをチャンネル上に取り付けた。90秒間UV硬化(curing)を行って仕上げた。すべての作業が終わった後、常温でシルバーペイント(silver painting)を施してゲートを取り付けた後、電子移動度を評価した。
【0075】
その結果、図2及び図3に示されたように、10以上のON/OFF比と0〜40Vのゲート電圧の変化により優れた遷移曲線を見せており、0.0387cm/Vsの優れた電子移動度が得られた。
【0076】
[実施例3]製造例4のフラーレン誘導体化合物を含む有機薄膜トランジスタ素子製造及び測定
チャンネル材として製造例4のフラーレン誘導体化合物(化合物1−4)を用いたほかには実施例2と同一の方法により有機薄膜トランジスタを製造して電子移動度を評価した。
【0077】
その結果、図4及び図5に示されたように、10以上のON/OFF比と0〜40Vのゲート電圧の変化により優れた遷移曲線を見せており、0.0101cm/Vsの優秀な電子移動度が得られた。
【0078】
[比較例1]フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)をチャンネル材として用いた有機薄膜トランジスタ(organic thin film transistor;OTFT)素子製造
チャンネル材としてフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)を用いたほかには実施例2と同一の方法によりOTFT素子を製造して電子移動度を評価した。
【0079】
その結果、図6及び図7に示されたように、10程度のON/OFF比と0〜40Vのゲート電圧の変化により良好な遷移曲線を見せており、0.0058cm/Vsの電子移動度が得られた。
【0080】
以下の表1では実施例2、実施例3及び比較例1で製造した有機薄膜トランジスタ(organic thin film transistor;OTFT)素子の特性を比較した。
【0081】
【表1】

【0082】
その結果、本発明の実施例2と3の化合物1−1と化合物1−4の材料をチャンネル材として用いた場合、既存のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)をチャンネル材として用いた素子に比べより高いON/OFF比と、優れた電子移動度を得ることができた。特に、実施例2の素子(製造例1の化合物1−1)は、0.0387cm/Vsであって非常に優れた電子移動度を示したが、既存の代表的なフラーレン誘導体であるフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)を用いた場合(比較例1)の0.0058cm/Vsに比べ約6倍程度高い値である。また、ON/OFF比の面においても10以上であって既存のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)を用いた素子の10に比べ優れた結果が得られた。
【0083】
[実施例4]フラーレン誘導体化合物の電気化学的特性
前記製造例1(化合物2−1)、製造例5(化合物2−5)及び製造例6(化合物2−6)で製造されたフラーレン化合物の電気化学的特性を観察するためにサイクロボルタメトリー(Cyclovoltametry;CV)を用いて酸化/還元特性を観察した。CV装置は、BAS 100 Cyclovoltametryを用い、電解質は0.1MのBuNBF(Tetrabutylammonium tetrafluoroborate)とアセトニトリル(Acetonitrile)溶媒を使用し、試料は10−3Mの濃度で1,2−ジクロロベンゼンに溶解した。常温のアルゴン気体下で100mV/sの走査速度で測定し、ガラス炭素電極(直径0.3mm)を作用電極として使用し、PtとAg/AgCl電極を対電極及び参照電極として使用し、その結果を図8及び下記表2に示した。
【0084】
【表2】

【0085】
一般的に有機太陽電池の開放電圧(Voc)は、ドナー材料のHOMOエネルギーレベルとアクセプタ材料のLUMOエネルギーレベルの差から得られるものと知られている(C.J.Brabec et al、Adv.Func.Mater.,2001,11,374)。表2に示されたように、本発明の芳香族縮合環を含むフラーレン化合物は既存のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)に比べ0.18〜0.20eV程度の高いLUMOエネルギーレベルを有しており、有機太陽電池素子でより高い開放電圧を得ることができる。
【0086】
[実施例5]P3HTと化合物2−1を光活性層として用いた有機太陽電池素子
洗浄されたインジウムスズ酸化物(Indium Tin oxide;ITO)ガラス基板(表面抵抗7Ω/sq)上にPEDOT−PSS(Bayer Baytron P、Al4083)を40nm程度スピンコーティングした後、ポリ(3−へキシルチオフェン)[Poly−3−(hexylthiophene)、P3HT、Rieke Metal社]と本発明で製造された芳香族縮合環を含むフラーレン誘導体(化合物2−1)を1,2−ジクロロベンゼンやクロロベンゼン、クロロホルム単独あるいはこれらの混合溶媒に溶解してスピンコーティングなどの方法により有機薄膜を形成した。このように形成された有機膜上に、LiF/Alを電極にしてそれぞれ0.7nmと120nmを真空下で蒸着した後、吸湿剤を付着したガラスキャップで封止した。封止された素子は150℃下で10分間熱処理(annealing)した後、Newport社のClass A級太陽光シミュレータ(solar simulator)を用いてAM 1.5G100mW/cmの光源下でI−V特性を測定した。光源の光量は、分光計器社のシリコン系フォトダイオード、BS−520を用いて補正した。
【0087】
その結果、有機太陽電池素子の電気化学的特性は図9のとおりであり、下記表3で整理した。
【0088】
[実施例6]P3HTと化合物2−6を光活性層として用いた有機太陽電池素子
光活性層アクセプタ材料として化合物2−1の代わりに化合物2−6を使用したほかには実施例2と同様である。
【0089】
その結果、有機太陽電池素子の電気化学的特性は、図9のとおりであり、下記表3で整理した。
【0090】
[比較例2]P3HTとPCBMを光活性層として用いた有機太陽電池素子
光活性層アクセプタ材料として化合物1−1の代わりにPCBMを使用したほかには実施例2と同様である。
【0091】
その結果、有機太陽電池素子の電気化学的特性は、図9のとおりであり、下記表3で整理した。
【0092】
一般的に太陽電池のエネルギー変化効率(power conversion efficiency;PCE)は下記計算式1を通じて求めることができる。
【0093】
[計算式1]

【0094】
(前記算式1中、Vocは開放電圧(open circuit voltage;V)であって電流が流れない状態における電圧を示しており、Jscは短絡電流密度(short circuit current density、mA/cm)であって0Vにおける電流密度を示しており、FFは曲線因子(fill factor)であって最大電力値をVocとJscをかけた値で分けた値であり、Pincは、照射した光の強度(mW/cm)を示す。)
【0095】
【表3】

【0096】
前記表3に示されたように、本発明の芳香族縮合環を含むフラーレン化合物を用いた素子の場合、既存のフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)に比べ高いVoc値を示していることが確認できた。特に、化合物2−1と2−6などのジ付加物(di−adduct)を電子アクセプタ材料として用いる場合、それぞれ0.267Vと0.276Vの高いVoc値を得ることができ、これはフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)を電子アクセプタ材料として用いた有機太陽電池素子の開放電圧に比べ50%程度向上した結果である。このように改善された開放電圧により短絡電流はフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)に比べほとんど変化していないが、有機太陽電池素子のエネルギー変換効率は、フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)の場合、2.99%から5%程度に改善したことが分かる。
【0097】
また、IPCE(内部エネルギー変換効率)を測定した結果、化合物2−1を電子アクセプタ材料として用いた素子は、フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)を電子アクセプタ材料として用いた素子に比べ350〜480nmの領域では多少低い値を、570〜650nmの領域ではより高い値を示しており、最高効率は60%程度の類似した結果を示した。この結果により二つの素子の短絡電流密度(short circuit current density)が類似したことを検証することができた(図10)。
【産業上の利用可能性】
【0098】
従来、p型有機薄膜トランジスタ用材料が多く開発されている反面、n型有機薄膜トランジスタ用材料はあまり公知されていなかった。これは、有機半導体材料の正孔移動特性に比べ電子移動度の特性が著しく低いためであるが、本発明の化学式1のようなフラーレン誘導体は、n型有機薄膜トランジスタの性能を向上させることができ、さらに溶解度に優れているため溶解法を通じて容易に素子化することができ、商業的に有用になると期待される。また、本発明の化学式2のようなフラーレン誘導体は、合成が容易であり、電子の移動度に優れたn型有機半導体材料であって、有機太陽電池のアクセプタ材料として高い開放電圧(Voc)を得ることができる素子を提供して有機太陽電池素子のエネルギー変換効率を向上させることができ、溶解度に優れているため低価印刷工程に適した材料であり広い面積の高効率有機太陽電池の製造に適すると期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表されるフラーレン誘導体。
[化学式1]


(前記化学式1中、R〜Rは、互いに独立して水素原子、直鎖または分岐鎖の(C1−C20)アルキルから選択されてもよく、隣接した置換体と(C4−C8)アルケニレンで連結され芳香族縮合環を形成してもよく、前記アルケニレンは酸素原子、窒素原子または硫黄原子から選択される1〜3のヘテロ原子に置換されヘテロ芳香族縮合環を形成し、AはC60又はC70のフラーレンである。)
【請求項2】
前記化学式1中、R〜Rは、互いに独立して水素またはメチル基から選択されてもよく、R及びRはC4のアルケニレンで連結され芳香族縮合環を形成することを特徴とする請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
前記化学式1の化合物は、下記化合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載のフラーレン誘導体。














【請求項4】
下記化学式2で表されるフラーレン誘導体。
[化学式2]


(前記化学式2中、R〜Rは、互いに独立して水素原子、直鎖または分岐鎖の(C1−C20)アルキルから選択されてもよく、隣接した置換体と(C4−C8)アルケニレンで連結され芳香族縮合環を形成してもよく、前記アルケニレンは酸素原子、窒素原子または硫黄原子から選択される1〜3のヘテロ原子に置換されヘテロ芳香族縮合環を形成し、AはC60又はC70のフラーレンである。)
【請求項5】
前記化学式2中、R〜Rは、互いに独立して水素またはメチル基から選択されてもよく、R及びRはC4のアルケニレンで連結され芳香族縮合環を形成することを特徴とする請求項4に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
前記化学式2の化合物は、下記化合物から選択されることを特徴とする請求項4に記載のフラーレン誘導体。










【請求項7】
請求項1乃至3のうち何れか一項に記載のフラーレン誘導体を含む有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記フラーレン誘導体がチャンネル材であることを特徴とする請求項7に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項9】
前記フラーレン誘導体を溶解法または蒸着法により形成する請求項7に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
請求項1乃至3のうち何れか一項に記載のフラーレン誘導体を含む有機太陽電池素子。
【請求項11】
前記フラーレン誘導体がアクセプタ材料であることを特徴とする請求項10に記載の有機太陽電池素子。
【請求項12】
前記フラーレン誘導体を溶解法または蒸着法により形成する請求項10に記載の有機太陽電池素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−516324(P2012−516324A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547802(P2011−547802)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/KR2010/000572
【国際公開番号】WO2010/087655
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(506280041)コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー (3)
【Fターム(参考)】