説明

フルオロアルキル基含有オレフィン系共重合体の製造方法

【課題】低い分子量の共重合体しか得られないなどの不都合が無く、含フッ素オレフィンにおけるスペーサーメチレン基の数が0または1であっても、良好に共重合が進行する含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンの共重合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1):
CH=CY−(CH)−R−Y (1)
(式中、Y及びYは同一かまたは異なる水素またはフッ素原子を表し、xは0〜8の整数で、Rは炭素数1〜21の含フッ素アルキレン基を表す。)
で示される含フッ素オレフィンから誘導される繰り返し単位、及び炭素数2〜20の炭化水素系オレフィンから誘導される繰り返し単位を含む含フッ素オレフィン系共重合体の製造方法であって、イミドアリール配位子が配位している前周期遷移金属成分(a)及び有機金属成分(b)を含んで成る触媒を使用することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンを含む共重合体の製造方法及び該共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(1):
CH=CY−(CH)−R−Y (1)
(式中、Y、Yは同一かまたは異なる水素またはフッ素原子を表し、xは0〜8の整数で、Rは炭素数1〜21の含フッ素アルキレン基を表す。)
で示される含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンの共重合体を製造する方法として、種々の方法が提案されている。
特開平5−18963号公報は、含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンを含む共重合体を製造するのに、過酸化物を用いたラジカル重合を用いることを開示している。しかし、得られる共重合体の数平均分子量は、1,000〜10,000と低い。
特開昭61−204208号公報は、共重合体を製造するのに、TiCl/MgCl及び有機アルミニウム化合物を含んで成る触媒を用いることを開示している。しかし、含フッ素オレフィンの構造に限定がある。一般式(1)中のx(スペーサーメチレン基の数)が0及び1である含フッ素オレフィンについての記載がない。
【0003】
Macromolecules, 2005, 38, 5905(野村琴広ら);特開2003−137849号公報及び特開平6−73128号公報は、バナジウム−イミドアリール錯体を用いた炭化水素系オレフィンの重合や共重合を行うことを開示している。しかし、これらのバナジウム−イミドアリール錯体を用いた含フッ素オレフィンとの共重合についての記載はない。
【0004】
【特許文献1】特開平5−18963号公報
【特許文献2】特開昭61−204208号
【特許文献3】公報特開2003−137849号公報
【特許文献4】特開平6−73128号公報
【非特許文献1】Macromolecules, 2005, 38, 5905
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低い分子量の共重合体しか得られないなどの不都合が無い、含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンを含む共重合体を製造する方法を提供することにある。本発明の別の目的は、含フッ素オレフィンにおけるスペーサーメチレン基の数が0または1であっても、良好に共重合反応が進行する含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンの共重合体を製造する方法を提供する。本発明のさらに別の目的は、高い分子量を有する含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンの共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンを含む共重合体を製造するのに、前周期遷移金属のイミドアリール錯体と有機金属化合物を含んで成る触媒を用いる。
本発明は、一般式(1):
CH=CY−(CH)−R−Y (1)
(式中、Y及びYは同一かまたは異なる水素またはフッ素原子を表し、xは0〜8の整数で、Rは炭素数1〜21の含フッ素アルキレン基を表す。)
で示される含フッ素オレフィンから誘導される繰り返し単位、及び炭素数2〜20の炭化水素系オレフィンから誘導される繰り返し単位を含む、含フッ素オレフィン系共重合体の製造方法であって、
イミドアリール配位子が配位している前周期遷移金属成分(a)及び有機金属成分(b)を含んで成る触媒を使用することを特徴とする製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンを含む共重合体が高分子量で得られる。含フッ素オレフィンにおけるスペーサーメチレン基の数が0または1であっても、良好に共重合が進行する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
含フッ素オレフィンは、一般式:
CH=CY−(CH)−R−Y
(式中、Y、Yは同一かまたは異なる水素またはフッ素原子を表し、xは0〜8の整数で、Rは炭素数1〜21の含フッ素アルキレン基を表す。)
で示される化合物である。
【0009】
含フッ素オレフィンにおいて、含フッ素アルキレン基(前記式中のR)は、C〜C21、例えばC〜C、特にCまたはCの直鎖の含フッ素アルキレン基である。含フッ素アルキレン基中の一部のフッ素は置換してあってよく、置換基の例として、ハロゲン(例えば塩素、臭素、ヨウ素)、ニトロ、アルキル(炭素数例えば1〜6)、シクロアルキル(炭素数例えば4〜8)、アリール(炭素数例えば6〜20)、アルコキシ(炭素数例えば1〜6)、アリールオキシ(炭素数例えば6〜20)、ジアルキルアミノ(炭素数例えば1〜6)などが挙げられる。ビニル基の2位(前記式中のY1)及びω末端(前記式中のY)は、水素原子またはフッ素原子のどちらでもよい。ビニル基(CH=CH−)または2−フルオロビニル基(CH=CF−)と含フッ素アルキレン基(R)間のメチレンスペーサーの数(前記式中のx)は0〜8の整数、特に0または1である。
【0010】
含フッ素オレフィンの具体例として、3,3,3−トリフルオロプロピレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロピレン、3,3−ジフルオロプロピレン、2,3,3−トリフルオロプロピレン、3,3,4,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン、2,3,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテン、2,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、2,3,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ペンテン、2,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ペンテン、3,3,4,4,4−ペンタフルオロ−1−ペンテン、3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ペンテン、(パーフルオロエチル)エチレン、(パーフルオロブチル)エチレン、(パーフルオロヘキシル)エチレン、(パーフルオロオクチル)エチレン、3−(パーフルオロエチル)プロピレン、3−(パーフルオロブチル)プロピレン、3−(パーフルオロヘキシル)プロピレン、3−(パーフルオロオクチル)プロピレン、4−(パーフルオロエチル)ブチレン、4−(パーフルオロブチル)ブチレン、4−(パーフルオロヘキシル)ブチレン、4−(パーフルオロオクチル)ブチレンなどが挙げられる。含フッ素オレフィンは、単独で、または2種以上の混合物として用いてよい。
【0011】
また、含フッ素オレフィンに加えて、含フッ素ジエン、例えば、3,3−ジフルオロ−1,4−ペンタジエン、2,3,3,4−ジフルオロ−1,4−ペンタジエン、3,3,4,4−テトラフルオロ−1,5−ヘキサジエン、2,3,3,4,4,5−ヘキサフルオロ−1,5−ヘキサジエン、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロ−1,6−ヘプタジエン、2,3,3,4,4,5,5,6−オクタフルオロ−1,6−ヘプタジエン、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロ−1,7−オクタジエン、2,3,3,4,4,5,5,6,6,7−デカフルオロ−1,7−オクタジエンなどの架橋性の含フッ素オレフィンを用いてもよい。
【0012】
含フッ素オレフィンは物質及びその製造方法が公知のものを使い、市販製品がある場合は、それらを用いることができる。
【0013】
含フッ素オレフィンは、一般に、フルオロアルキルハライドにエチレンを付加させたものを、またはフルオロアルキルメチルハライドを、塩基と反応させて合成できる(特開昭61−204208号公報参照)。含フッ素オレフィンに含まれる(パーフルオロアルキル)エチレン類(下記式)は、ダイキン化成品販売、シンクエストなどから市販されている。
CH=CH−R
(式中、Rは炭素数1〜21のパーフルオロアルキル基を表す。)
3−(パーフルオロアルキル)−1−プロペン類及び4−(パーフルオロアルキル)−1−ブテン類の合成に関しては、特開昭61−204208号公報のほかに、J.Am.Chem.Soc.2006, 128, 1968 (野崎京子ら)に記載がある。
【0014】
CH=CH−(CH−R
(式中、x=1;3−(パーフルオロアルキル)−1−プロペン類、x=2;4−(パーフルオロアルキル)−1−ブテン類、Rは炭素数1〜21のパーフルオロアルキル基を表す。)
【0015】
炭化水素系オレフィンは、C〜C20、例えばC〜C10、特にC〜Cの直鎖または分岐の不飽和炭化水素である。
炭化水素系オレフィンの例としては、脂肪族オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン;脂環式オレフィン、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネンなどが挙げられる。
炭化水素系オレフィンは、単独で、または2種以上の混合物として用いてよい。
【0016】
また、炭化水素系オレフィンに加えて、炭化水素系ジエン、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、3,7−ジメチル−1,7−ジオクタジエン、1,9-デカジエン、ジヒドロミルセン、ジヒドロオシメン、メチレンノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエンなどの架橋性の炭化水素系オレフィンを用いてもよい。架橋性の炭化水素系オレフィンの量は、炭化水素系オレフィン100重量部に対して、100重量部以下、例えば1〜50重量部であってよい。
【0017】
本発明において含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンの好ましい組み合わせは、例えば、次のとおりである。
(1)ビニル基(CH=CH−)を有する含フッ素オレフィンと脂肪族オレフィン
(2)ビニル基(CH=CH−)を有する含フッ素オレフィンと脂環式オレフィン
(3)2−フルオロビニル基(CH=CF−)を有する含フッ素オレフィンと脂肪族オレフィン
(4)2−フルオロビニル基(CH=CF−)を有する含フッ素オレフィンと脂環式オレフィン
【0018】
触媒は、前周期遷移金属成分(a)、及び有機金属成分(b)を含んで成る。
前周期遷移金属成分(a)は、前周期遷移金属イミドアリール錯体である。
【0019】
前周期遷移金属イミドアリール錯体は、一般式:
Ar−N=M−X
(式中、Mは、前周期遷移金属を表し、a+bは、[(Mの原子価)−2]の数、Arは置換又は非置換のアリール基を表し、Xはハロゲン原子を表し、Zはアルコキシ基及び/またはアリールオキシ基を表し、Ar−N=はイミドアリール基を表す。)
で示される化合物であることが好ましい。
【0020】
M(前周期遷移金属)は、Sc、Ti、V、Y、Zr、Nb、Hf、Ta、Rf(ラザホージウム)、Db、ランタノイド系元素及びアクチノイド系元素である。前周期遷移金属は、Ti、Zr、V、及び/またはNbであることが好ましい。前周期遷移金属はバナジウムであることが特に好ましい。
【0021】
Ar−N=、X、及びZのそれぞれは、配位子である。
Ar−N=はイミドアリール配位子である。Arは置換又は非置換のアリール基である。アリール基は、当業者に既知のあらゆる単環式または多環式アリール基を意味し、例えば、フェニル、ナフチル、インデニル、フルオレニル基などが挙げられる。アリール基は、芳香環上に置換基を有することができる。置換基は、電子吸引性でも、電子供与性のどちらでもよく、例として、ハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ニトロ、アルキル(炭素数例えば1〜6)、シクロアルキル(炭素数例えば4〜8)、アリール(炭素数例えば6〜20)、アルコキシ(炭素数例えば1〜6)、アリールオキシ(炭素数例えば6〜20)、ジアルキルアミノ(炭素数例えば1〜6)などが挙げられる。
【0022】
Xはハロゲン原子である。ハロゲン原子の例は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素である。
【0023】
Zは、アルコキシ基及び/またはアリールオキシ基である。アルコキシ基は、直鎖、分岐、単環式または多環式である。アルコキシ基の炭素数は、1〜10、例えば1〜4であってよい。アリールオキシ基の炭素数は、6〜20、例えば6〜12であってよく、芳香環上に置換基を有することができる。
Zの具体例は、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、フェノキシなどである。
【0024】
Zは、単官能のアルコキシ基またはアリールオキシ基に加えて、多官能のアルコキシ基またはアリールオキシ基、例えば、エタンジオキシ、プロパンジオキシ、ブタンジオキシ、プロパントリオキシ、ブタントリオキシ、トリメトキシアミン、トリエタノキシアミン、トリプロポキシアミン、トリブタノキシアミン、ベンゼンジオキシ、ベンゼントリオキシ、ベンゼンジメトキシ、ベンゼントリメトキシなどであってもよい。
Zは、アルコキシ基またはアリールオキシ基の一部の水素をフッ素で置換したフルオロアルコキシ基またはフルオロアリールオキシ基であってよい。
a及びbは、0以上の数を表す。a+bは、[(Mの原子価)−2]を表し、3であることが好ましい。
【0025】
bが1以上の場合、アルコキシ基またはアリールオキシ基(下記式中、Z)とイミドアリール基のアリール基またはそのアリール基の置換基(下記式中、Qm)の間、及び/または異なるアルコキシ基またはアリールオキシ基(下記式中、Z)の間に、ケイ素原子等の架橋構造を有してもよい。架橋構造としては、例えば、ジメチルシリル、ジメチルメチレン、メチルフェニルメチレン、ジフェニルメチレン、メチレン、エチレン、置換エチレン、硫黄などが挙げられる。
【0026】



(式中、Mは、前周期遷移金属を表し、Qは、ハロゲン、ニトロ、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、及びジアルキルアミノの群から選ばれる置換基を表し、mは、0〜5の整数を表し、Xはハロゲンを表し、Zは、同一かまたは異なるアルコキシ基またはアリールオキシ基を表す。)
【0027】
前周期遷移金属錯体内には、中性配位子、例えば、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ホスフィン、ジホスフィン、イミン、ジイミンなどを、所望により導入することができる。
【0028】
バナジウムオキシトリアルコキシドまたはバナジウムオキシトリアリールオキシドの製法は公知であり、特開昭50−49231号公報では、五酸化バナジウム(V)とアルコールを酸触媒下で反応させる方法、WO99/23865号公報では、バナジウムオキシトリハライド(O=VX)とアルコールを過剰のエポキシド存在下で反応させる方法が開示されている。
【0029】
バナジウム−イミドアリールのトリハロゲン錯体は、物質とその製造方法が、特開2003−137849号公報及びJ. Am. Chem. Soc. 1987, 109, 7408 (D. D. Devoreら) に記載されている。



(式中、Qは、ハロゲン、ニトロ、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、及びジアルキルアミノの群から選ばれる置換基を表し、mは、0〜5の整数を表し、Xはハロゲンを表す。)
【0030】
バナジウム−イミドアリールのトリアルコキシ及び/またはトリアリールオキシ錯体も、同様の方法で合成することができる[Chem. Lett. 2007, 36, 1486 (平尾俊一ら)参照]。



(式中、Qは、ハロゲン、ニトロ、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、及びジアルキルアミノの群から選ばれる置換基を表し、mは、0〜5の整数を表し、R、R、及びRは、アルキル、シクロアルキル、及びアリールの群から選ばれ、それぞれが異なってもよくまた同じであってもよい置換基を表す。)
【0031】
配位子として、ハロゲン原子と、アルコキシ基及び/またはアリールオキシ基の両方を持つ、バナジウム−イミドアリール錯体は、物質及びその製造方法が、前記野村琴広らの文献(Macromolecules, 2005, 38, 5905)で公知である。
【0032】
バナジウムオキシトリハライド(O=VX)に、アルキルアルコール及び/またはアリールアルコールに対して過剰量の塩基存在下で、O=VXに対して3当量未満のアルキルアルコール及び/またはアリールアルコールと反応させることで、まず、バナジウムのアルコキシオキシハロゲン化物及び/またはアリールオキシオキシハロゲン化物(下記式)を合成し、これにアリールイソシアネートを反応させることで、前項と同様の方で製造できる。
O=VX
(式中、Xはハロゲン原子を表し、Zはアルコキシ基及び/またはアリールオキシ基を表し、a及びbは、1または2で、a+b=3を満たす。)
【0033】
有機金属成分(b)は、有機アルミニウム化合物または有機ボロン化合物であることが好ましい。
有機アルミニウム化合物は、C〜C18の直鎖または分岐のアルキル基を持つアルミニウム化合物を意味し、具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムアイオダイド、ジイソブチルアルミニウムクロリドなどのジアルキルアルミニウムモノハライド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、メチルアルミニウムジブロミド、エチルアルミニウムジブロミド、エチルアルミニウムジアイオダイド、イソブチルアルミニウムジクロリドなどのモノアルキルアルミニウムジハライド、エチルアルミニウムセスキクロリドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド、ジエチルアルミニウムエトキサイドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、ジエチルアルミニウムフェノキサイドなどのアルキルアルミニウムアリールオキシド、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサンなどのアルキルアルミノキサンが挙げられる。
【0034】
有機ボロン化合物は、含フッ素アリール基を持つボロン化合物を意味し、具体例としては、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、N,N−ジメチルアニリニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチル テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、または、リチウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
有機金属成分(b)は、単独でまたは2種以上の混合物を使用することができる。
【0035】
有機金属成分(b)に、さらに、電子供与性の有機化合物を添加することで、触媒を変性することができる。典型的な電子供与体は、酸素含有化合物、例えば、エステル、アルコール、フェノール、カルボン酸、酸アミド、ケトン、アルデヒド、及びエーテル、または、窒素含有化合物、例えば、アミン、ニトリル、及びイソシアネートが挙げられる。これらの電子供与体は、2種以上の混合物を使用することができる。
有機金属成分(b)中の金属(すなわち、アルミニウムおよびボロン)の量は、前周期遷移金属成分(a)における前周期遷移金属1モルに対して、1〜1,000モル、例えば、50〜500モルであることが好ましい。電子供与性の有機化合物のモル比は、有機金属成分(b)における金属の量1モルに対して、1〜100モルであってよい。
【0036】
前周期遷移金属成分(a)、有機金属成分(b)、及び電子供与性の有機化合物を含む触媒は、溶液の形態、または無機または有機の担体に担持した固形物であってよい。担体材料として、表面を適切に変性しうる粒状の無機、または有機固体を使用できる。
【0037】
無機固体には、次のような物質を例示することができる:シリカゲル、沈降シリカ、クレー、アルミノケイ酸塩、タルク、ゼオライト、カーボンブラック、無機酸化物、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化チタン、無機塩化物、例えば塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛または炭酸カルシウム、粘土、粘土鉱物、例えば、カオリン、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、アロフェン、ヒシンゲル石、パイロフィライト、ウンモ群、モンモリロナイト群、バーミキュライト、リョクデイ石群、パリゴルスカイト、カオリナイト、ナクライト、ディッカイト、ハロイサイト、イオン交換性層状化合物、例えば、α−Zr(HAsO・HO、α−Zr(HPO、α−Zr(KPO・3HO、α−Ti(HPO、α−Ti(HAsO・HO、α−Sn(HPO・HO、γ−Zr(HPO、γ−Ti(HPO、γ−Ti(NHPO・HOが挙げられる。
【0038】
有機固体には、適切に粉末化したポリマー材料が包含される。その例示として、次のような物質を挙げることができるが、本発明は、これらに限定されるものではない:ポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリブタジエン、ポリエーテル、例えばポリエチレンオキシド、ポリオキシテトラメチレン、またはポリスルフィド、例えばポリ−p−フェニレンスルフィドが挙げられる。
【0039】
本発明の重合は、配位子を有する錯体を含む触媒による配位重合である。
重合反応は、モノマーと触媒の存在下、減圧、大気圧、加圧のいずれかの条件のもと、気相または液相で行う。バルク、溶液、スラリーのいずれの方法でも行うことが出来る。
【0040】
反応を液相で行う場合には、反応に不活性である液状媒体を用いてもよいし、用いなくても良い。液状媒体としては、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の例は、脂肪族炭化水素類、例えば、ペンタン、ヘキサン、脂環式炭化水素類、例えば、シクロヘキサン、芳香族炭化水素類、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、含塩素系炭化水素類、例えば、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、エーテル類、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ケトン類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどである。これらの液状媒体の一部またはすべての水素は、フッ素で置換されていてもよい。液状媒体の量は、モノマー全体1重量部に対して、0〜1,000重量部であってよい。
【0041】
反応に用いるモノマー、前周期遷移金属成分(a)、有機金属成分(b)、電子供与性の有機化合物及び媒体は、前処理において水分を、10ppm以下、より好ましくは、5ppm以下に除去しておくことが好ましい。
一般に前周期遷移金属成分(a)における前周期遷移金属の量は、モノマー全体1モルに対して、0.0001〜1モル、例えば0.001〜0.5モルの範囲で使用してよい。重合反応の方式は、回分式または流通式のいずれであってもよい。重合反応の温度は−60〜+200℃、好ましくは−20〜+120℃、重合反応の時間は60分間〜72時間であってよい。
【0042】
重合反応の停止は、反応混合物に少量の無機酸を含むアルコールを添加すること、または反応混合物から、モノマーまたは触媒を除去することなどによって行える。
共重合体の精製は、所望により、反応混合物を、生じる共重合体に不溶な溶剤で洗浄し、乾燥することで行える。
【0043】
共重合体の数平均分子量は通常5,000〜500,000、例えば10,000〜300,000である。本発明によれば、12,000以上、例えば20,000以上、特に30,000以上、特別には100,000以上の高い数平均分子量が得られる。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものである(ポリスチレン換算)。
本発明によれば、含フッ素オレフィンのx(スペーサーメチレン基)の数値が0または1であっても、高い数平均分子量の共重合体が得られる。
【0044】
共重合体中に含まれる含フッ素オレフィン単位含有率は、全オレフィン単位(すなわち、含フッ素オレフィン単位と炭化水素系オレフィン単位の和)に対する含フッ素オレフィン単位の比率を意味し、通常0.5〜60mol%である。含フッ素オレフィン単位含有率は、得られる共重合体の収量と元素分析によるフッ素イオン量測定の結果から、計算することができる。
【0045】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
特筆しない限り、使った物質は、市販品である(アルドリッチ、和光純薬工業、東京化成工業またはダイキン化成品販売から入手した)。モノマー及び錯体の合成は、反応容器内を真空乾燥後、アルゴンまたは窒素で置換し、アルゴンまたは窒素下で行った。
【0047】
合成例1
3-(perfluorobutyl)-1-propyleneの合成




前記の野崎京子らの文献(J.Am.Chem.Soc.2006, 128, 1968)の方法に従い、3-(perfluorobutyl)-1-propyleneを次のように製造した。
【0048】
真空乾燥後、窒素置換した300 mLなすフラスコにperfluorobutyl iodide (69.1 g,200 mmol)、benzoyl peroxide (BPO, 1.22 g,5 mmol)を入れ、70℃に加熱してから、allyl acetate (17.5 g,175 mmol)を滴下した。allyl acetateの消費を確認後、perfluorobutyliodideを留去し、反応中間体混合物を得た。次いで、真空乾燥後、窒素置換した別の300 mLなすフラスコに、亜鉛粉末(15.3 g,230 mmol)、N,N-dimethylformamide (DMF)30 mLを入れ、60℃に加熱してから、前記の反応中間体混合物を滴下した。このとき、反応系内を160 mmHgに減圧にし、生成物の混合物を抜き出しながら反応させた。次いで、水で分液を行い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、収率62%で目的モノマーを得た。
【0049】
合成例2
4-(perfluorobutyl)-1-buteneの合成



前記の野崎京子らの文献(J.Am.Chem.Soc.2006, 128, 1968)の方法に従い、4-(perfluorobutyl)-1-buteneを次のように製造した。
【0050】
真空乾燥後、窒素置換した300 mLなすフラスコに、CuI (1.8 g,9.7 mmol)、vinylmagnesium bromide[1.0 M tetrahydrofuran (THF)溶液] を入れ、−30℃で2-(perfluorobutyl)ethyl iodide (24.3 g,65 mmol)を滴下した。滴下終了後は、2-(perfluorobutyl)ethyl iodideが消費されるまで室温で反応させた。反応混合物にチオ硫酸ナトリウム水溶液を加え、セライトでろ過し、ろ液を水で分液を行い、硫酸ナトリウムで乾燥させ、収率58%で目的モノマーを得た。
【0051】
合成例3
(4-methoxyphenyl)-N=VCl3の合成



(4-methoxyphenyl)-N=VCl3を、次のように製造した。
グローブボックス内で、真空乾燥した100 mLなすフラスコに4-methoxyphenyl isocyanate (447 mg, 3.0 mmol)、トルエン50 mLを加え、次いで、vanadium(V) oxytrichloride (572 mg, 3.6 mmol)を滴下した。滴下終了後、反応混合物の入った100 mLなすフラスコに真空乾燥した冷却管を取り付け、反応容器内をアルゴン下にしてから、1時間室温で、次いで16時間還流させた。反応容器を再びグローブボックス内に戻し、反応混合物を減圧濃縮後、ヘキサンを加え、不溶部をメンブレンフィルターでろ過し、ろ液を濃縮回収した。収率88%で目的のバナジウムイミド錯体を得た。
【0052】
合成例4

(4-methoxyphenyl)-N=V(Oi-Pr)3の合成


(4-methoxyphenyl)-N=V(Oi-Pr)3を、次のように製造した。
グローブボックス内で、5 mLなすフラスコに4-methoxyphenyl isocyanate (597 mg, 4 mmol)とvanadium(V) oxytriisopropoxide (1.06 mL , 4.5 mmol)を中で加えた。Ar置換後、140℃で3時間加熱した。CH2Cl2を加えてメンブレンフィルターでろ過を行い、ろ液から溶媒を留去した後、租生成物を加温してオイル状にし、少量のヘキサン、−30℃で再結晶を繰り返し、収率87 %で目的のバナジウムイミド錯体を得た。
【0053】
実施例1〜16
含フッ素オレフィンと1−ヘキセンの共重合:
重合を液相で行う場合、液体モノマーと溶剤は、CaH2で乾燥後、真空蒸留で精製したものを用いた。
重合反応は、なすフラスコ内を真空乾燥後、乾燥窒素で置換し、乾燥窒素下、室温で行った。バナジウムイミド錯体0.01 mmol、CH2Cl2 10 mL、所定量のメチルアルミノキサン(MAO)溶液[MAO/トルエン溶液、または修飾MAO(MMAO)/ヘキサン溶液]を入れ、所定量の含フッ素オレフィンと1−ヘキセンの混合物を入れて重合を開始した。所定時間後、当該重合混合物に、少量の塩酸を含むエタノールを添加し、重合反応を停止した。生じた共重合体を、エタノール及びアセトンで洗浄し、次いで、60℃、10時間真空乾燥し、収量を測定した。
得られた共重合体について、数平均分子量とフッ素イオン量を測定した。共重合体中の含フッ素オレフィン単位含有率は、収量とフッ素イオン量から求めた。結果を表1に示す。
【0054】
なお、共重合体のキャラクタリゼーションは、下記の機器及び方法で行った。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる数平均分子量測定
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、東ソー(株)製の HLC−8020を用い、Shodex社製のカラム(GPC KF−801を1本、GPC KF−802を1本、GPC KF−806Mを2本直列に接続)を使用し、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を40℃、流速1mL/分で流して測定したデータより算出する。なお、分子量の較正は、標準ポリスチレンを用いて行う。
【0055】
(2)元素分析によるフッ素イオン量測定
オリオンリサーチ社製のマイクロプロセッサ イオナライザ901型 ;サンプル1.4〜1.9mgにNa22(助燃剤)を少量加え、25mLの純水を入れた燃焼フラスコ中で燃焼させる。30分間放置後、10mLを取り出し、チサブ液(酢酸500mL、塩化ナトリウム500g、クエン酸三ナトリウム2水和物5g及び水酸化ナトリウム320gに純水を加えて10Lにしたもの)10mLを加えてフッ素イオンメータでフッ素イオン量を測定する。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の注:
a: バナジウムイミド錯体: 0.01 mmol、CHCl:10mL、反応:室温、1日
b: 含フッ素オレフィンの構造:CH=CY−(CH)x−Rf−Y
c: バナジウムイミド錯体の構造:


OMe=メトキシ、
Oi-Pr=イソプロポキシ
d アルミノキサンの種類: MAO;TMAO−211、MMAO;TMAO−341、いずれも東ソー・ファインケム(株)製、
e 数平均分子量(標準ポリスチレン換算)、
f 収量と元素分析によるフッ素イオン量から求めた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
炭化水素系ポリオレフィンに、本明細書に記載の含フッ素オレフィンと炭化水素系オレフィンを含む共重合体を添加することで、該ポリオレフィンを変性させ、従来の炭化水素系ポリオレフィンに比べ、耐薬品性、耐油性、及び、防汚性の向上、選択的ガス透過を実現させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
CH=CY−(CH)−R−Y (1)
(式中、Y及びYは同一かまたは異なる水素またはフッ素原子を表し、xは0〜8の整数で、Rは炭素数1〜21の含フッ素アルキレン基を表す。)
で示される含フッ素オレフィンから誘導される繰り返し単位、及び炭素数2〜20の炭化水素系オレフィンから誘導される繰り返し単位を含む、含フッ素オレフィン系共重合体の製造方法であって、
イミドアリール配位子が配位している前周期遷移金属成分(a)及び有機金属成分(b)を含んで成る触媒を使用することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前周期遷移金属成分(a)における前周期遷移金属が、Ti、Zr、V、及びNbからなる群から選択された少なくとも1種の金属である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前周期遷移金属成分(a)における前周期遷移金属が、バナジウムである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前周期遷移金属成分(a)が、ハロゲン及び/またはアルコキシ基もしくはアリールオキシ基を配位子基に持つ請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
有機金属成分(b)が有機アルミニウム化合物または有機ボロン化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
有機金属成分(b)が有機アルミニウム化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前周期遷移金属成分(a)が、一般式(2):
Ar−N=M−X (2)
(式中、Mは、前周期遷移金属を表し、a+bは、[(Mの原子価)−2]の数を表し、Arは置換又は非置換のアリール基を表し、Xはハロゲン原子を表し、Zはアルコキシ基及び/またはアリールオキシ基を表し、Ar−N=はイミドアリール基を表す。)
で示される化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
含フッ素オレフィンにおけるxが0または1である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
一般式(1):
CH=CY−(CH)−R−Y (1)
(式中、Y、Yは同一かまたは異なる水素またはフッ素原子を表し、xは0〜8の整数で、Rは炭素数1〜21の含フッ素アルキレン基を表す。)
で示される含フッ素オレフィンから誘導される繰り返し単位、及び炭素数2〜20の炭化水素系オレフィンから誘導される繰り返し単位を含む、12,000〜500,000の数平均分子量を有する共重合体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によって得られた、12,000〜500,000の数平均分子量を有する共重合体。

【公開番号】特開2009−209323(P2009−209323A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56489(P2008−56489)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】