説明

フレキシブルプリント配線板用積層体及びその製造方法

【課題】 導体とポリイミドフィルムとの接着性及び密着性に優れると共に、ポリイミドフィルムの誘電特性等の特性を損なうことなく信頼性に優れた積層体であって、フレキシブルプリント配線板のファインパターン加工が可能な積層体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面がプラズマ処理されていると共にシランカップリング処理されており、この面には貴金属化合物を含んだ触媒を介して無電解めっき層が形成され、更に電気めっき層が形成されているフレキシブルプリント配線板用積層体であり、また、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理する工程、シランカップリング処理する工程、貴金属化合物を含んだ触媒を付着させる工程、この触媒を介して無電解めっき層を形成する工程及び電気めっき層を形成する工程とを含むフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器分野等で広く使用されるフレキシブルプリント配線板用の積層体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電子機器の小型化や高機能化の要請が強まり、実装配線材料の微細化に対応したフレキシブルプリント配線板用材料の高性能化への要求が高まっている。そのため、ファインパターン加工を可能とするフレキシブルプリント配線板用の積層体の開発が望まれている。フレキシブルプリント配線板のファインピッチの微細加工を可能とするには、フレキシブルプリント配線板を形成する導体自体の薄膜化とその表面の平坦性向上が要求される。一方、絶縁体である絶縁性樹脂と接する導体表面の形態が平坦化してくると、導体と絶縁性樹脂との界面での接着力が低下するおそれがあるという新たな技術課題が生じる。
【0003】
ところで、無電解めっき技術は、めっき液組成やめっき条件を変化させることで化学的、機械的、電気的特性にユニークで優れた皮膜が得られることから、表面処理分野の基幹技術に成長している。特に、プラスチックやセラミックスなどの不導体への無電解めっきは素材の表面形状によらず、また、電気めっきの電流分布の問題等もなく、均一且つ平滑な皮膜が形成でき、高精度な膜厚制御が可能であるため、電気・電子機器産業、半導体産業において、重要かつ不可欠な表面処理技術として急速に需要が拡大してきた(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
このような無電解めっきを用いたプリント配線板の製造に関する技術として、無電解銅めっきを例にすると、例えば以下のようなものを示すことができる。すなわち、サブトラクティブ法の場合には、各層間の銅回路を電気的に接続させるために、スルーホールと呼ばれる導通穴に電気銅めっき皮膜を20〜30μm程度成膜する。その際、下地に導電性を付与する必要があることから、予め無電解銅めっき皮膜を1μm程度成膜させる。また、フルアディティブ法の場合には、フレキシブルプリント配線板の配線部分を形成するために絶縁体の表面に直接無電解銅めっきにより回路を形成する。そのため、無電解銅めっきの皮膜の物性や密着性は、フレキシブルプリント配線板の品質に大きな影響を与える。この方法は、使用材料が少なく、穴あけ、印刷、そして写真的手法による触媒形成後、無電解銅めっきによる配線が可能であることから、最も経済的な方法である。更に、ビルドアップ法の場合には、従来のサブトラクティブ法で作製したプリント配線板上に絶縁性樹脂と銅回路を1層ずつ形成していく方法であり(例えば非特許文献2及び3参照)、各層間の銅回路は、ブラインドビアホール(BVH)と呼ばれる導通穴に銅めっきを成膜することによって電気的に接続される。
【0005】
これらいずれのプリント配線板の製造においても、無電解めっき皮膜を絶縁体である高分子フィルムの表面に均一、かつ、密着性良く付着させることが重要な課題となっている。そのため、特にポリイミドのように表面活性が乏しい場合には、導体あるいは接着剤との間の接合力を確保するために、アルカリ性薬液を用いてポリイミドフィルムの表面をエッチングしてフィルムの表面に微細な凹凸を形成し、アンカー効果によって導体等との密着性及び接着性を改善することが行われている。
しかしながら、このアルカリ性薬液による処理は、一般に、処理時間が長いことから処理効率が悪く、それに伴いフィルムに対する薬液の改質作用が強すぎてしまうといった不具合が生じる。また、フィルム片面のみを優先的に改質することができないために、改質処理を必要としない面までも処理されることとなり、引張強さ、伸度、弾性係数、耐屈曲性等の優れたポリイミドフィルムの機械特性が低下してしまうといった欠点もある。
【0006】
また、ポリイミドフィルムのような非導電性基板上に金属皮膜を形成するためには、エッチングにより樹脂表面を荒らし、貴金属化合物を用いて触媒活性機能を付与して、この触媒作用によって無電解めっき皮膜を形成する方法も報告されている。この際、触媒活性機能を付与する方法としては、それぞれ2価のPdとSnとを含んだコロイド液や塩酸酸性のSnCl2溶液とPdCl2溶液の2液法が広く用いられているが、これらの方法では、毒性の高いSn(II)を使用することや、Sn化合物がポリイミドフィルムに残存してポリイミドフィルムの電気特性や機械特性等に悪影響を及ぼすおそれがあることなどから、残存するSn化合物の除去処理が必要である。また、この方法では、樹脂との密着性を確保するために、エッチングによって樹脂の表面を粗面化する必要があることから、高周波電気信号を伝達する電気回路の形成を目的とするフレキシブルプリント用配線板には不向きである。
【0007】
更には、ポリイミドフィルム製膜中に形成される表面脆弱層(WBL/Weak Boundary Layer)を除去すると共に、このフィルムの表面に親水性の官能基を形成させて表面自由エネルギーを高めて導体層との密着力を向上させることを目的とし、ポリイミドフィルムの表面に対してコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、電子線照射処理等の表面改質処理を行うことは知られている。
しかしながら、これらの処理方法をそれぞれ単独で行ったとしても、処理効果はポリイミドフィルムの表面特性によって大きく異なり、また、これらは経時変化が大きいことから品質管理制御が難しい。更には、微細パターン回路を形成する導体層との接着力が十分に得られず、表面改質処理を行った面内でのバラツキ等の問題も生じてしまう。
【0008】
ところで、末端にアミノ基などのPd2+捕捉機能を持つシランカップリング剤で、ガラスやシリコン基板を処理し、次に還元剤を含む溶液に入れてPd2+をPdに還元し、このPdを触媒として無電解Ni−P、NiRe−P、Ni−Bめっきを行う方法については報告されている(非特許文献4〜6参照)。しかしながら、これらはいずれも表面がシリコンの酸化物であるガラスやシリコン基板を対象としたものであり、表面活性が乏しく、平滑なポリイミドフィルム等へ密着性の良いカップリング処理を行うことは困難であり、ポリイミド等の樹脂に対しこれらの方法を適用したものはない。
【0009】
このような状況の下、特開2002−64252号公報(特許文献1)では、無電解めっき触媒を含有するポリイミドフィルムを用い、表面粗化工程を含まずに、無電解めっきより得られた導体層が平滑な表面を有し、ポリイミドフィルムとの高密着性を持ち、高周波数回路に適していると共に、均一な狭ピッチ配線パターンやビルドアップ配線板の製造に適したポリイミドフィルムの作製について提案している。
しかしながら、この方法では、触媒である貴金属化合物を予めポリイミドフィルムに付与する必要があり、フィルムの作製段階から特別に取り扱わなければならず、使用できるポリイミドフィルムの選択性が狭められてしまう。また、ポリイミドフィルムの表面における触媒分布の不均一性によって、導体層とポリイミドフィルムとの密着性低下のおそれがあり、更には、ポリイミドフィルムの内部に残存している貴金属触媒が電気特性等に影響を及ぼすおそれもある。
【0010】
また、特開2003−306554号公報(特許文献2)では、ポリイミドフィルムの表面に研磨剤を含むスラリーを圧縮空気によって吹付けて物理的に荒らすことで、接着剤の種類を選ばずにポリイミドフィルムと接着剤との接着強度を確保することを提案している。
しかしながら、ポリイミドフィルムの表面を荒らすと、無電解めっきに必要な触媒層の均一な付与が保証できなくなり、形成する無電解めっき皮膜の均一性を確保することは困難であり、ファインパターン形成と高周波の対応に問題がある。
【0011】
更に、特開2002−226972号公報(特許文献3)では、ポリイミドフィルムをアルカリ金属塩を含有する溶液で前処理した後、無電解めっきの触媒となる貴金属類と錯形成が可能な官能基を有するシランカップリング剤の溶液で処理する方法が提案されている。
しかしながら、アルカリ改質のポリイミドフィルム特性へのダメージが大きく、フィルム表面が粗すぎてしまい、ファインパターン形成と高周波の対応に問題があり、一方、アルカリ金属塩による前処理がない場合には、被めっき材の素材に密着性よくかつ均一なめっき膜を得ることが困難である。
【特許文献1】特開2002-64252号公報
【特許文献2】特開2003-306554号公報
【特許文献3】特開2002-226972号公報
【非特許文献1】中岸 豊, 表面技術, 48, 380 (1997)
【非特許文献2】塚田 裕, 回路実装学会誌, 13, 65 (1998)
【非特許文献3】浅井 元雄, 回路実装学会誌, 13, 70 (1998)
【非特許文献4】T. Hamaya., Y. Kumagai, N. Koshizaki, T. Kanbe, Chem. Lett, 1461 (1989)
【非特許文献5】T. Osaka, N. Nakano, T. Kurokawa, K. Ueno, Electrochemical and Solid-State Letters, 5(1) C7 (2002)
【非特許文献6】T. Osaka, N. Takeno, T. Kurokawa, T. Kaneko, K. Ueno, Journal of Electrochemical Society, 149 (11) C573 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、フレキシブルプリント配線板のファインパターン加工が可能であって、回路を形成する導体と絶縁体であるポリイミドフィルムとの界面における信頼性に優れ、また、ポリイミドフィルムの優れた機械的特性や電気的特性等を損なうことのないフレキシブルプリント配線板用の積層体について鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムの表面をプラズマ処理すると共にシランカップリング処理を行い、この表面に貴金属化合物を含む触媒を介して無電解めっき層を設けることによって、ポリイミドフィルム上に均一、かつ、平滑な無電解めっき層を形成することができ、この無電解めっき層がポリイミドフィルムに対して優れた密着性及び接着性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明の目的は、回路を形成する導体とポリイミドフィルムとの接着性及び密着性に優れると共に、ポリイミドフィルムが備える誘電特性、耐湿性、耐熱性等の特性を損なうことなく信頼性に優れた積層体であって、フレキシブルプリント配線板のファインパターン加工が可能となるフレキシブルプリント配線板用積層体を提供することにある。
【0014】
また、本発明の別の目的は、このようなフレキシブルプリント配線板を低コストで、かつ、簡便に作製することができるフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、フレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミドフィルムを含んだ積層体であって、上記ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面がプラズマ処理されていると共に、このプラズマ処理された面がシランカップリング処理されており、このシランカップリング処理された面には貴金属化合物を含んだ触媒を介して無電解めっき層が形成され、この無電解めっき層の表面には電気めっき層が形成されていることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用積層体である。
【0016】
また、本発明は、フレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミドフィルムを含んだ積層体の製造方法であって、上記ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理する工程と、このプラズマ処理された面をシランカップリング処理する工程と、このシランカップリング処理した面に貴金属化合物を含んだ触媒を付着させる工程と、この触媒を介して無電解めっき層を形成する工程と、この無電解めっき層の表面に電気めっき層を形成する工程とを含むことを特徴とするフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法である。
【0017】
本発明におけるポリイミドフィルムについては、従来公知の方法で製造されたものを使用することができる。すなわち、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応から得られるポリアミド酸をフィルムとし、得られたポリアミド酸フィルムを熱的もしくは化学的にイミド化することにより得られたものを使用することができる。テトラカルボン酸二無水物としては、例えば無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水4,4’-オキシジフタル酸物、無水物等を挙げることができる。芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’ジアミノベンズアニリド等を挙げることができる。また、これらのテトラカルボン酸二無水物や芳香族ジアミンについては、それぞれ、1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。
【0018】
また、本発明においては、上記ポリイミドフィルムについて、好ましくは次のような物性値を有するものを使用するのがよい。すなわち、膜厚が10〜100μm、プラズマ処理する面の表面平均粗さ(Rz)が50〜200nm、吸湿率が1.0wt%(23℃/50%RH)以下、及び寸法安定率が30ppm(23℃、0〜70%RH)以下であるのがよい。ポリイミドフィルムの膜厚が10μmより小さいと微細回路を作製する時フィルムの絶縁性などの信頼性が懸念され、反対に100μmより厚くなるとフィルム加工過程における溶剤の揮発状況やイミド化により発生した水分の脱離の制御が難しく、フィルムの寸法変化率、吸湿率などの変化が微細回路加工時に悪影響を及ぼすことが懸念される。プラズマ処理する面の表面平均粗さ(Rz)が50nmより小さいとシランカップリング剤を介して、貴金属化合物を含んだ触媒を捕捉できる機能団の表面濃度が不足し、ポリイミドフィルムと貴金属化合物を含んだ触媒との間に十分な付着力が得られないおそれがある。一方、200nmより大きくなると、後の工程においてポリイミドフィルムの表面に無電解めっきに必要な触媒を付着させる際に均一な触媒の付着が保証できなくなり、この触媒の上に析出して形成される無電解めっき層がポリイミドフィルムに対して十分な密着性を得ることができなくなるおそれがある。また、フレキシブルプリント配線板のファインパターン加工が困難となるばかりか、フレキシブルプリント配線板として要求される高周波特性に対応できなくなるおそれがある。また、吸湿率(23℃/50%RH)が1.0wt%を超えるとめっき処理時、フィルムをめっき液に浸漬する際、吸水によるフィルムの寸法安定性の低下などの不具合を発生することが懸念され、寸法安定率が30ppm(23℃、0〜70%RH)を超えるとめっき処理を行う時のフィルムの変形度合が増し、微細回路加工の対応に支障を生じる。
【0019】
本発明においては、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面がプラズマ処理されている必要がある。このプラズマ処理については、ポリイミドフィルムを真空あるいは大気プラズマ処理することによって、ポリイミドフィルムの脆弱層形成や表面汚染のおそれを可及的に低減させた上で、ポリイミドフィルムの表面に接着活性官能基を均一に、かつ、効果的に形成させることができる表面活性化処理として作用する。
プラズマ処理の具体的な条件については、好ましくは以下のようにして行うのがよい。すなわち、無機ガスの雰囲気下、プラズマ処理を行う装置の内圧を0.11〜1.1×105Paに保持した状態で、電極間に0.1〜10kVの直流あるいは交流を印加してグロー放電させることにより無機ガスの低温プラズマを発生させ、ポリイミドフィルムの表面をプラズマ処理するのがよい。このようなプラズマ処理の処理時間については、1〜100秒程度であるのがよく、また、上記無機ガスについては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス、又は、酸素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、窒素、空気等から選ばれた1種または2種以上の混合ガスを使用するのがよい。
【0020】
本発明においては、上記プラズマ処理によって、好ましくはプラズマ処理後のポリイミドフィルムの表面が、純水との接触角50度以下となるようにするのがよい。プラズマ処理後のポリイミドフィルムの接触角が50度より大きくなるとシランカップリング剤とポリイミドフィルムの密着性が低下する。また、上記プラズマ処理によって、プラズマ処理後のポリイミドフィルムの表面粗さ(Rz)が50〜250nmとなるのが好ましい。プラズマ処理後のポリイミドフィルムの表面粗さ(Rz)が50nmより小さいとポリイミドフィルムと貴金属化合物を含んだ触媒との間の密着力が不十分であり、一方、250nmより大きくなると貴金属化合物を含んだ触媒がフィルム上に均一に付着されないおそれがある。
【0021】
また、本発明においては、プラズマ処理された面がシランカップリング処理されている必要がある。プラズマ処理したポリイミドフィルムの表面について、接着活性官能基を含むシラン類化合物を用いてシランカップリング処理することによって、前記のプラズマ処理による表面活性化処理を行ったポリイミドフィルムの表面に更に均一な化学特性を付与することができ、後の工程において形成する無電解めっき層とポリイミドフィルムとの密着性を向上させることができる。
【0022】
本発明におけるシランカップリング処理には、以下に示すシランカップリング剤を用いて行うことができる。これらのシランカップリング剤は、一方の末端にアルコキシシランを、その他の末端に、窒素を含むアミンやピリジンなどの基を有するものである。具体的なシラン類化合物としてはγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(フェニルメチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N, N, N,−トリブチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ω(アミノヘキシル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N{N’−β(アミノエチル)}−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を含有するシランカップリング剤、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、イソフォロンジアミン等のアミノ基を含有する化合物、ジエチレントリアミンとダイマー酸との反応物等を挙げることができる。
【0023】
上記化合物は、アルコキシシランによりポリイミドフィルムとの間に強固な接着力を確保し、アミノやピリジン等の含窒素基により、無電解めっきの触媒となるPdイオン等の金属イオンを捕捉して、優れた密着性を付与せしめることができる。
【0024】
本発明において、プラズマ処理されたポリイミドフィルムの表面をシランカップリング処理するためには、上記のシランカップリング剤の溶液中にプラズマ処理されたポリイミドフィルムを浸漬することによって行うことができる。シランカップリング剤を溶解する溶剤としては、エタノール等のアルコール類、エーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等の有機系溶剤が利用可能である。ここで、これらの溶剤中に水が存在すると、アルコキシシランが加水分解によって不安定化するおそれがあるため、シランカップリング処理によってポリイミドフィルムの表面に結合力の高い単分子層を形成するためには、水の混入が少ない炭化水素系の化合物が好ましい。更に、浸漬処理を行う場合には、加熱を行うことにより効率的にカップリングを行うことができ、また、溶剤についてもできるだけ沸点の高いもの、たとえばトルエンが好ましい。
【0025】
シランカップリング処理の具体的な条件について、プラズマ処理を行って表面を親水化したポリイミドフィルムを所定のシランカップリング処理液に浸漬する。カップリング処理液は、上記溶剤に0.1〜2wt%程度のシランカップリング剤を溶かした溶液である。浸漬時間及び溶液温度等については、使用するカップリング剤の種類やその濃度によって異なるため、適宜、探索実験によって最適条件を見出すことが望ましい。また、シランカップリング処理に先駆けて行うプラズマ処理による効果をより一層発揮させるためには、プラズマ処理をした後、直ちにシランカップリング処理を行うことが好ましい。また、所定の時間カップリング処理を行った後には、メタノールやトルエン等を用いて洗浄し、過剰のカップリング剤を取り除くのが好ましい。
【0026】
また、本発明において、シランカップリング処理されたポリイミドフィルムの表面には貴金属化合物を含んだ触媒を介して無電解めっき層が形成される。上述したように、ポリイミドフィルムの表面をプラズマ処理することによって表面改質処理をして、更にシランカップリング処理することにより、ポリイミドフィルムの表面にアミノ基等の含有窒素基を並べる。その上で、無電解めっきに対し活性な触媒が付着された触媒層を形成して無電解めっき層を形成する。
【0027】
本発明における貴金属化合物を含んだ無電解めっきに使用される触媒としては、好ましくは塩化パラジウム、臭化パラジウム、パラジウム硫酸塩(PdSO4)、Pd(OCOCH3)2等のPdを含むものであるのがよい。そして、このような触媒を上述した所定のプラズマ処理及びシランカップリング処理を施したポリイミドフィルムの表面に付着させるために、好ましくは上記触媒についてはパラジウムの塩化物水溶液等のような水溶液の状態として、この水溶液中に上記ポリイミドフィルムを浸漬し、プラズマ処理及びシランカップリング処理によりポリイミドフィルムの表面に並べられたアミノ基等の含窒素化合物でPd2+を捕捉し、次いで、ホルムアルデヒド、次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)またはジメチルアミンボラン(Dimethyl Amine Borane)等の還元剤でこのPd2+をPdに還元して無電解めっきの触媒とするのがよい。その後、得られたポリイミドフィルムについては水洗するのが好ましい。このようにすることにより、毒性の高いSn(II)等を用いることなく、ポリイミドフィルムの表面に無電解めっきに活性な触媒が付着された触媒層をポリイミドフィルム上に均一、かつ、フィルムに対して密着性よく形成することができる。
【0028】
本発明においては、上記のようにポリイミドフィルムの表面に触媒を付着させてPd2+を捕捉して無電解めっきに活性な表面を得た後、この触媒を介して無電解めっき層を形成する。この無電解めっき層については、一般に用いられる無電解銅めっき又は無電解Niから形成されためっき層とすることができ、この無電解めっき層の形成の条件については、一般的な条件を用いることができる。また、この無電解めっき層の膜厚については10〜500nmであるのがよい。
このようにすることにより、本発明では、所定のプラズマ処理及びシランカップリング処理を施したポリイミドフィルム上に表面を荒らすことなく、直接無電解めっき層を形成することができる。このため、ファインパターンの形成と高周波数対応が可能となる。
【0029】
また、本発明における積層体は、無電解めっき層の表面には電気めっき層が形成される。この電気めっき層については、公知の電気銅めっき等により形成することができる。この際、一般的な電気めっき皮膜を形成するための条件を用いることができるが、表面の平滑性を保ちしかも電気抵抗の低い皮膜が得られる観点から、実施例における表2に示すようなPEG―Cl―SPSを添加した浴を用いて形成した電気銅めっき層が好ましい。この電気めっき層については、フレキシブルプリント配線板の導体として必要な膜厚まで任意にめっきアップすることができることから、本発明における積層体によれば、ポリイミドフィルムと強固な接着力を有するファインピッチ配線及び高周波数対応が可能なフレキシブルプリント配線板を得ることができる。
【0030】
本発明においては、機械的特性及び電気的特性等に優れたポリイミドフィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理することにより表面活性化処理を行い、更にこのプラズマ処理された面をシランカップリング処理することで、ポリイミドフィルムの表面に無電解めっき層との密着力に寄与できる機能団を持つ単分子膜を形成させることができる。そして、このシランカップリング処理されたポリイミドフィルムの表面には無電解めっきに必要な貴金属化合物を含んだ触媒を均一に吸着させることができ、この触媒を介して密着性に優れた無電解めっき層が均一に形成することができ、電解めっきにより必要な厚みまで導体層を任意にめっきアップすることができる。このようにして得られた積層体は、ポリイミドフィルムに対して無電解めっき層及び電気めっき層が優れた接着力と優れた密着性を具備する。特に、表面活性化処理の効果が得られやすく、寸法安定性が優れたポリイミドフィルムを選定することで、上記のような効果はより一層向上する。なお、本発明における積層体は、用途に応じて、ポリイミドフィルムの片面のみに所定の処理を施して無電解めっき層及び電気めっき層を形成しても、ポリイミドフィルムの両面に所定の処理を施して無電解めっき層及び電気めっき層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明における積層体は、特別な接着層を必要とせず、また、ポリイミドフィルムの表面を特に粗面化処理する必要もないことから、ポリイミドフィルムの誘電特性、耐湿性、耐熱性等の特性を維持したまま、プラズマ処理による表面活性化処理とシランカップリング処理との併用効果で、従来直接無電解めっき層の形成が困難であった平坦なポリイミドフィルムの表面に、ポリイミドフィルムと密着性が良く、均一、かつ、平滑な表面を有する無電解めっき層が形成できる。そして、この無電解めっき層の表面には電気めっき層を形成することにより必要な膜厚まで導体をめっきアップすることができることから、配線に必要な厚みのめっき皮膜を任意に得ることができる。そして、このような積層体は、平滑なポリイミドフィルム上に無電解めっき層と電気めっき層とが優れた密着性及び接着力を具備していることから、ポリイミドフィルムと強固な接着力を有するファインピッチ配線が可能であると共に、高周波用の電気回路製作に好適である。
また、本発明における積層体の製造方法によれば、上記のような積層体を低コストで、簡便に得ることができ、フレキシブルプリント配線板の各種製造方法への適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
ポリイミドフィルムの片面に銅箔が積層された銅張積層板(新日鐵化学(株)製商品名:エスパネックスMシリーズ)を用い、表面の銅箔を全面エッチング除去することにより、厚さ40μm、エッチング除去前に銅箔が積層されていなかった側のポリイミドフィルムの表面粗さRzが150±50nm、吸湿率が0.82wt%(23℃/50%)および寸法安定率が10ppm(23℃、0〜70%RH)の特性を有する5mm×5mmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムをアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、印加電圧5kV、周波数10kHzで250Wの電力を入力し、上記ポリイミドフィルムの片面(低粗さ面)にプラズマ表面活性化処理(プラズマ処理)を25秒実施した(プラズマ処理工程)。この際、接触角度(純水)測定によりポリイミドフィルムの接触角が、処理前の85±5°から処理後の35±5°に変わったことを確認した。次いで、プラズマ処理後のポリイミドフィルムをテフロン(登録商標)製治具に貼り付け、3−アミノプロピルトリメトキシシランの1wt%トルエン溶液中に10分間浸漬し、シランカップリング処理を行った(シランカップリング処理工程)。次に、メタノールに浸漬し、超音波洗浄により余剰のシランカップリング分子を除去した。上記処理済みのサンプルフィルムを治具に固定したまま、攪拌しながら、PdClを0.02g、38%HClを0.2ml含有する触媒化水溶液200mlに常温で30秒間浸し、純水洗浄処理を経て、フィルム表面に触媒を吸着させた(触媒付着工程)。引き続き、pH値を9.0に調整した表1に示した70℃のNi−B無電解めっき浴に1分間浸漬し、約40nmのNi−Bめっき皮膜を形成した(無電解めっき層形成工程)。この時点で、ポリイミドフィルムの処理面に連続的で均一なNi金属光沢を持つめっき皮膜が形成されていることが目視で確認できた。
【0034】
【表1】

【0035】
ここで、無電解めっき皮膜とポリイミドフィルムとの密着性の評価として、セロハンテープ剥離法(密着力試験)を行った。Ni金属光沢を持つめっき皮膜にセロハンテープを貼り付け、引き剥がしたテープ側に金属色の転写があるかどうか目視確認を行ったが、金属色の転写は観察されなかった。更に、引き剥がしテープのXPS元素分析を行ったが、この測定からも金属層(Ni−Bめっき皮膜)の剥離は認めなれなかった。
次いで、室温下で、表2に示した組成の電気銅めっき浴の中に上記の無電解めっき皮膜が形成されたポリイミドフィルムをセットし、電流密度を2A/dmに制御して、約18分間電気銅めっきを行うことでポリイミドフィルムに約8μmの厚みを有する平滑な銅めっき皮膜を形成し(電気めっき層形成工程)、積層体を作製した。
上記で得た積層体を用いて0.1mm幅の回路パターンを加工した。そして、ピール強度測定を行ったところ、ポリイミドフィルムと銅めっき皮膜との間の接着力は0.65kN/m以上の値を示した。
【0036】
【表2】

【0037】
上記においては、ポリイミドフィルムの厚み測定にはデジマチックインジケータ ID-C, Mitutoyo製を用い、表面粗さ測定にはテンコール測定器 KLA Tencor P-15 テンコール株式会社製を用い、接触角度測定には全自動接触角計 CA-W 協和界面科学株式会社製を用いた。また、吸湿率の測定には、4cm×20cmのポリイミドフィルム(各3枚)を、120℃で2時間乾燥した後、23℃/50%RHの恒温恒湿室で24時間以上静置し、その前後の重量変化から次式(1)を用いて求めた。
吸湿率(%)=[(吸湿後重量−乾燥後重量)/乾燥後重量]×100 …(1)
【0038】
また、寸法安定率の測定については湿度膨張係数(CHE)の測定を用いて以下のようにして行った。上記エスパネックスMシリーズを35cm×35cmのポリイミド/銅箔積層試験片として用意し、この銅箔上にエッチングレジスト層を設け、これを一辺が30cmの正方形の四辺に10cm間隔で直径1mmの点が12箇所配置されるパターンに形成した。エッチングレジスト開孔部の銅箔露出部分をエッチングし、12箇所の銅箔残存点を有するCHE測定用ポリイミドフィルムを得た。このフィルムを120℃で2時間乾燥した後、23℃/(0-70%RH)の恒温恒湿機で各湿度において24時間以上静置して、二次元測長機により測定した湿度変更前後の銅箔点間の寸法変化から求めた。
【実施例2】
【0039】
実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。次いで、このポリイミドフィルムの片面に実施例1と同じ条件下でプラズマ表面活性化処理(プラズマ処理)を行い(プラズマ処理工程)、実施例1と同様に接触角度測定を行いポリイミドフィルムの処理前の接触角(純水)が85±5°から処理後の35±5°に変わったことを確認した。次いで、プラズマ処理後のポリイミドフィルムをテフロン(登録商標)製治具に貼り付け、3−アミノプロピルトリメトキシシランの1wt%トルエン溶液中に10分間浸漬してシランカップリング処理を行った(シランカップリング処理工程)。次に、メタノールに浸漬し、超音波洗浄により余剰のシランカップリング分子を除去した。上記処理済みのサンプルフィルムを治具に固定したまま、攪拌しながら、PdClを0.02g、38% HClを0.2ml含有する触媒化水溶液200mlに室温で30秒間浸し、純水洗浄処理を経て、フィルム表面に触媒を吸着させた(触媒付着工程)。次に、ジメチルアミノボラン(DMAB)を0.05M含みテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)でpHを9に調整し、70℃とした溶液に30秒間浸漬し(活性化工程)、引き続き、pH値を12.5に調整した表3に示した70℃の無電解銅めっき浴に60秒間浸漬し、触媒付着工程で付着させた触媒を介して約50nmの無電解めっき皮膜を形成させた(無電解めっき層形成工程)。その際、ポリイミドフィルムの処理面に連続的に均一な銅金属光沢を有しためっき皮膜が形成されていることが目視で確認できた。
【0040】
【表3】

【0041】
ここで、実施例1と同様な方法で無電解めっき皮膜とポリイミドフィルムとの密着性の評価(密着力試験)を行ったところ、引き剥がしたテープ側には金属色の転写は観察されなかった。また、実施例1と同様に、引き剥がしテープのXPS元素分析を行ったが、この測定からも金属層(銅めっき皮膜)の剥離は認めなれなかった。
次いで、室温下で、上記表2に組成を示した電気銅めっき浴に、上記の無電解めっき皮膜が形成されたポリイミドフィルムをセットし、電流密度を2A/dmに制御した上、約18分間電気銅めっきを行うことでポリイミドフィルムに約8μmの厚みを有する平滑な銅めっき皮膜を形成し(電気めっき層形成工程)、積層体を作製した。
上記で得た積層体を用いて0.1mm幅の回路パターンを加工し、実施例1と同様の方法でピール強度を測定した結果、ポリイミドフィルムと銅めっき皮膜との間の接着力は0.65kN/m以上の値を示した。
【0042】
[比較例1]
実施例1と同様のポリイミドフィルムを用い、プラズマ表面活性化処理(プラズマ処理)を行わず、メタノールにより表面洗浄をした後、実施例1と同じ条件下で、同様なシランカップリング処理(シランカップリング処理工程)及びPdCl化合物による表面触媒化処理(触媒付着工程)を行い、その後、実施例1と同様に無電解Ni−Bめっきを実施した(無電解めっき層形成工程)。ポリイミドフィルムの表面にNiの析出が認められない或いは不連続な析出状態が観測され、触媒付着工程において触媒がほぼ付着していない或いは均一的に付着していないことが判明した。金属色が確認できるところにセロハンテープを貼り付け、剥がしてみるとテープ側にNiの転写が目視で確認でき、無電解Ni−Bめっき皮膜とポリイミドフィルムとの間に十分な密着性がないことが確認された。
【0043】
[比較例2]
実施例1と同様のポリイミドフィルムを用い、実施例1と同じ条件下でプラズマ表面活性化処理を行い(プラズマ処理工程)、次いで、シランカップリング処理をせずに、実施例1と同様の方法により直接PdCl化合物による表面触媒化処理(触媒付着工程)を行い、その後、無電解Ni−Bめっきを実施した(無電解めっき層形成工程)。ポリイミドフィルムの表面にNiの析出が認められない或いは不連続な析出状態が観測され、触媒付着工程において触媒がほぼ付着していない或いは均一付着していないことが判明した。金属色が確認できるところにセロハンテープを貼り付け、剥がしてみるとテープ側にNiの転写が目視で確認でき、無電解Ni−Bめっき皮膜とポリイミドフィルムとの間に十分な密着性がないことが確認された。
【0044】
[比較例3]
実施例1と同様のポリイミドフィルムを用い、プラズマ表面活性化処理(プラズマ処理工程)及びシランカップリング処理(シランカップリング処理工程)について、実施例1と同様に行った。次いで、PdCl化合物による表面触媒化を行わず、その後、実施例1と同様に、無電解Ni−Bめっきを実施した(無電解めっき層形成工程)。得られたポリイミドフィルムの表面を目視で確認すると、ポリイミドフィルムの表面にはNiは全く析出していなかった。
【0045】
[比較例4]
プラズマ表面活性化処理において、プラズマ処理工程後のプラズマ処理した面のポリイミドフィルムの接触角度(純水)が60±5°となるようにした以外は、実施例1と同様にして無電解めっき皮膜を形成した。得られたNi−B無電解めっき皮膜は明らかに不均一、かつ、不連続であり、セロハンテープにより密着力試験を行ったところ、金属の剥離が目視にて観察でき、無電解Ni−Bとポリイミドフィルムとの間に十分な密着性がないことが確認された。
【0046】
[比較例5]
実施例1と同様のポリイミドフィルムを用い、銅箔と接触していた面エッチング除去前に銅箔が積層されていた側のポリイミドフィルムの面(表面平均粗さRz=0.65μm)に対し、実施例1と同様に無電解めっき皮膜を形成させた。この際、プラズマ表面活性化処理を行った場合とプラズマ表面活性化処理を行わなかった場合の両方について、実施例1と同様の条件でシランカップリング処理を行い、次いで、上記の通り、Ni−B無電解めっき皮膜を形成させたところ、ポリイミドフィルムの表面の一部に金属色の付着が確認された。
そこで、無電解めっき皮膜とポリイミドフィルムとの密着性の評価として、セロハンテープを用いて密着力試験を行ったところ、プラズマ表面活性化処理を行った場合と行わなかった場合のいずれにおいても、上記でポリイミドフィルムの表面の一部に付着された金属色部分の剥離が観察された。ポリイミドフィルムの表面の凹凸が大きいため、触媒がポリイミドフィルムの表面に均一に付着することが困難であり、この触媒上に析出した無電解めっき皮膜の密着性が十分ではないことが推測される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明における積層体は、平滑なポリイミドフィルム上に無電解めっき層と電気めっき層とが優れた密着性及び接着力を具備していることから、ポリイミドフィルムと強固な接着力を有するファインピッチ配線が可能であると共に、高周波用の電気回路製作に好適なフレキシブルプリント配線板用積層体である。
また、本発明における積層体の製造方法によれば、上記のような積層体を低コストで、簡便に得ることができ、フルアディティブ法のフレキシブルプリント配線板の製造方法への適用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミドフィルムを含んだ積層体であって、上記ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面がプラズマ処理されていると共に、このプラズマ処理された面がシランカップリング処理されており、このシランカップリング処理された面には貴金属化合物を含んだ触媒を介して無電解めっき層が形成され、この無電解めっき層の表面には電気めっき層が形成されていることを特徴とするフレキシブルプリント配線板用積層体。
【請求項2】
プラズマ処理後のポリイミドフィルムの表面が、純水との接触角50度以下である請求項1に記載のフレキシブルプリント配線板用積層体。
【請求項3】
ポリイミドフィルムが、膜厚10〜100μm、プラズマ処理する面の表面平均粗さ(Rz)が50〜200nm、吸湿率が1.0wt%(23℃/50%RH)以下、及び寸法安定率が30ppm(23℃、0〜70%RH)以下である請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント配線板用積層体。
【請求項4】
無電解めっき層が無電解銅めっき層又は無電解Niめっき層であり、電気めっき層が電気銅めっき層である請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用積層体。
【請求項5】
フレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミドフィルムを含んだ積層体の製造方法であって、上記ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面をプラズマ処理する工程と、このプラズマ処理された面をシランカップリング処理する工程と、このシランカップリング処理した面に貴金属化合物を含んだ触媒を付着させる工程と、この触媒を介して無電解めっき層を形成する工程と、この無電解めっき層の表面に電気めっき層を形成する工程とを含むことを特徴とするフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法。
【請求項6】
プラズマ処理後のポリイミドフィルムの表面が、純水との接触角50度以下である請求項5に記載のフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法。
【請求項7】
ポリイミドフィルムが、膜厚10〜100μm、プラズマ処理する面の表面平均粗さ(Rz)が50〜200nm、吸水率が1.0wt%(23℃/50%RH)以下、及び寸法安定率が30ppm(23℃、0〜70%RH)以下である請求項5又は6に記載のフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法。
【請求項8】
無電解めっき層が無電解銅めっき層又は無電解Niめっき層であり、電気めっき層が電気銅めっき層である請求項5〜7のいずれかに記載のフレキシブルプリント配線板用積層体の製造方法。

【公開番号】特開2006−54357(P2006−54357A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235833(P2004−235833)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】