説明

フレキシブル回路基板

【課題】狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせる用途においても高い耐屈曲特性が得られるフレキシブル回路基板を実現する。
【解決手段】フレキシブル回路基板1は、第1の面2aと第2の面2bを有する回路基板本体2と、第1の面2aに隣接するように配置された座屈防止層3を備えている。回路基板本体2は、絶縁層21と配線層22を含む積層体を有している。また、回路基板本体2は、屈曲可能な屈曲部12Cと、屈曲部12Cに対して第1の面2aに沿った方向の両側に位置する第1および第2の非屈曲部12A,12Bを含んでいる。座屈防止層3は、それぞれ回路基板本体2の第1および第2の非屈曲部12A,12Bに固定された第1および第2の固定部13A,13Bと、この第1および第2の固定部13A,13Bの間に位置し屈曲部12Cに対して固定されずに隣接する屈曲可能な隣接部13Cを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層と、パターン化された導体よりなる配線層とを含むフレキシブル回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、ノート型パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、ゲーム機等の電子機器では、小型化、薄型化、軽量化が急速に進んでおり、その構成要素には、狭い空間に高密度で収容でき、且つ高性能であることが要求されている。この要求に応えるために、電子機器では、例えば特許文献1に記載されているようなフレキシブル回路基板が広く利用されている。フレキシブル回路基板は、柔軟性を有する絶縁層と、パターン化された導体よりなり絶縁層の少なくとも一方の面上に配置された配線層とを含んでいる。このフレキシブル回路基板は、薄く、柔軟性を有し、狭い空間に折り込んで収容することが可能である。
【0003】
特に、折畳み型携帯電話機やスライド型携帯電話機等における可動部に用いられるフレキシブル回路基板には、より柔軟で折り曲げが容易であると共に、耐屈曲特性が高いことが求められている。また、近年、電子機器において取り扱う情報量が増大していることから、例えば特許文献2に記載されているような、複数の配線層を有する多層フレキシブル回路基板も利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−273766号公報
【特許文献2】特開2006−41044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のフレキシブル回路基板では、屈曲半径をより小さくすると、長時間の使用後に断線が発生するという問題点があった。そこで、絶縁層と導体層を共により薄くすることによって、フレキシブル回路基板をより薄くして、フレキシブル回路基板の耐屈曲特性を高める研究が行われてきた。
【0006】
特許文献1には、ポリイミド絶縁層と金属箔層とを有し、フレキシブル回路基板を製造するために用いられる積層体において、ポリイミド絶縁層と金属箔層の引張弾性率および厚みを最適化することによって、耐屈曲特性を向上させる技術が記載されている。
【0007】
しかしながら、例えば厚みが2mm以下のような狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせるような用途のフレキシブル回路基板では、フレキシブル回路基板をより薄くする方法では、十分な耐屈曲特性を実現することが難しい。その原因の一つとしては、フレキシブル回路基板を薄くするとフレキシブル回路基板の剛性が小さくなり、このフレキシブル回路基板を狭い空間内で折り曲げて、フレキシブル回路基板の一端部をスライドさせると、フレキシブル回路基板に座屈と呼ばれる局所的な変形が生じることが挙げられる。フレキシブル回路基板において、座屈が生じると、その部分に応力が集中し、その結果、耐屈曲特性が低下する。
【0008】
特許文献2には、それぞれ導体層と、導体層を挟む内側導体層および外側導体層とを備えた2つのフレキシブル回路基板がエアギャップを介して積層された多層フレキシブル回路基板において、少なくとも一方の外側導体層の外側面におけるエアギャップの端部に対応する位置に補強層を設ける技術が記載されている。しかし、この技術では、フレキシブル回路基板のうち、補強層が設けられていない部分の耐屈曲特性が低下するという問題点がある。また、フレキシブル回路基板を狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせる用途では、フレキシブル回路基板における屈曲位置が変化するため、補強層の位置が固定されている上記技術は適していない。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせる用途においても高い耐屈曲特性が得られるようにしたフレキシブル回路基板、およびこのフレキシブル回路基板を含む電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフレキシブル回路基板は、厚み方向について互いに反対側に位置する第1の面と第2の面を有する回路基板本体と、第1の面に隣接するように配置された座屈防止層とを備えている。回路基板本体は、厚み方向に積層された絶縁層と配線層とを含む積層体を1つ以上有している。配線層は、パターン化された導体よりなる。また、回路基板本体は、屈曲可能な屈曲部と、屈曲部に対して第1の面に沿った方向の両側に位置する屈曲しない第1および第2の非屈曲部とを含んでいる。座屈防止層は、それぞれ回路基板本体の第1および第2の非屈曲部に固定された第1および第2の固定部と、この第1および第2の固定部の間に位置し屈曲部に対して固定されずに隣接する屈曲可能な隣接部とを含んでいる。
【0011】
本発明のフレキシブル回路基板では、屈曲部と隣接部を、屈曲部に対して隣接部が曲率中心側に位置するように屈曲させることにより、隣接部によって、屈曲部において座屈が発生することが抑制される。
【0012】
本発明のフレキシブル回路基板において、座屈防止層は、パターン化された導体部を含んでいなくてもよい。あるいは、座屈防止層は、パターン化された導体部を含んでいてもよい。この場合、導体部は配線層に電気的に接続されていない。
【0013】
また、本発明のフレキシブル回路基板において、回路基板本体は、積層体を複数有し、この複数の積層体は厚み方向に並んでいてもよい。この場合、複数の積層体は、屈曲部においては互いに固定されずに、第1および第2の非屈曲部において互いに固定されている。
【0014】
また、本発明のフレキシブル回路基板において、隣接部の曲げ剛性は、屈曲部における積層体の曲げ剛性の1〜5倍の範囲内であってもよい。
【0015】
本発明の電子機器は、本発明のフレキシブル回路基板を含むと共に、第1の部分と、第1の部分に対して可動の第2の部分を有している。この電子機器において、第1の非屈曲部は第1の部分に固定され、第2の非屈曲部は第2の部分に固定されている。また、屈曲部と隣接部は、屈曲部に対して隣接部が曲率中心側に位置するように屈曲する。
【0016】
本発明の電子機器において、第2の部分は第1の部分に対してスライド可能であり、フレキシブル回路基板は折り曲げられ、第1の部分に対して第2の部分がスライドすることにより第1の非屈曲部に対して第2の非屈曲部がスライドしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフレキシブル回路基板では、前述のように、屈曲部と隣接部を、屈曲部に対して隣接部が曲率中心側に位置するように屈曲させることにより、隣接部によって、屈曲部において座屈が発生することが抑制される。これにより、本発明によれば、狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせる用途においても高い耐屈曲特性が得られるフレキシブル回路基板を実現することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明のフレキシブル回路基板を含む本発明の電子機器によれば、フレキシブル回路基板の耐久性を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。
【図2】本発明による効果を確認するための第1の実験で使用した試料の配線層を示す平面図である。
【図3】第1の実験において屈曲試験装置に装着した試料の第1の状態を示す説明図である。
【図4】第1の実験において屈曲試験装置に装着した試料の第2の状態を示す説明図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。
【図9】本発明の第6の実施の形態に係る電子機器の概略の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るフレキシブル回路基板の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1は、使用時において屈曲させられる部分を含んでいる。なお、図1は、フレキシブル回路基板1が屈曲していない状態を示している。
【0021】
図1に示したように、フレキシブル回路基板1は、回路基板本体2と、座屈防止層3とを備えている。回路基板本体2は、厚み方向(図1における上下方向)について互いに反対側に位置する第1の面2aと第2の面2bを有している。座屈防止層3は、回路基板本体2の第1の面2aに隣接するように配置されている。座屈防止層3は、回路基板本体2において座屈が発生することを抑制するためのものである。
【0022】
回路基板本体2は、厚み方向に積層された絶縁層と配線層とを含む積層体を1つ以上有している。配線層は、パターン化された導体よりなる。積層体の構成については、後で詳しく説明する。回路基板本体2は、屈曲可能な屈曲部12Cと、屈曲部12Cに対して第1の面2aに沿った方向(図1における左右方向)の両側に位置する屈曲しない第1および第2の非屈曲部12A,12Bとを含んでいる。屈曲部12Cは、屈曲可能であればよく、必ずしも、使用時において屈曲部12Cの全体が屈曲させられる必要はない。屈曲部12Cは、使用時において屈曲させられる部分の他に、屈曲可能ではあるが使用時において屈曲させられない部分を含んでいてもよい。
【0023】
座屈防止層3は、それぞれ回路基板本体2の第1および第2の非屈曲部12A,12Bに固定された第1および第2の固定部13A,13Bと、この第1および第2の固定部13A,13Bの間に位置し屈曲部12Cに対して固定されずに隣接する屈曲可能な隣接部13Cとを含んでいる。
【0024】
座屈防止層3は、銅箔、ステンレス箔、アルミニウム箔等の金属箔によって構成されていてもよいし、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタリート(PET)等の樹脂よりなる樹脂フィルムによって構成されていてもよい。あるいは、座屈防止層3は、金属箔と樹脂フィルムを含む積層体によって構成されていてもよいし、回路基板本体2の積層体と同様の積層体によって構成されていてもよい。フレキシブル回路基板1全体の厚みが大きくなりすぎないように、座屈防止層3の厚みは、100μm以下であることが好ましく、20〜80μmの範囲であることがより好ましい。
【0025】
本実施の形態では、特に、座屈防止層3が、絶縁材料よりなり柔軟性を有する絶縁層31によって構成されている例について説明する。この場合、座屈防止層3は、回路基板本体2の積層体と異なり、パターン化された導体部を含んでいない。絶縁層31は、絶縁性樹脂よりなり、その中でも柔軟性および耐熱性が良好なポリイミド樹脂よりなることが好ましい。絶縁層31は、単層であってもよいし、複数層からなるものであってもよい。
【0026】
フレキシブル回路基板1は、更に、絶縁材料よりなる結合層41A,41Bを備えている。結合層41Aは、回路基板本体2の第1の非屈曲部12Aと座屈防止層3の第1の固定部13Aとを結合している。結合層41Bは、回路基板本体2の第2の非屈曲部12Bと座屈防止層3の第2の固定部13Bとを結合している。回路基板本体2の屈曲部12Cと座屈防止層3の隣接部13Cの間には、これらを結合する層は存在していない。そのため、隣接部13Cは、屈曲部12Cに対して固定されずに隣接している。屈曲部12Cおよび隣接部13Cを屈曲させていない状態では、屈曲部12Cと隣接部13Cとの間に、結合層41A,41Bの厚みによる空隙(エアギャップ)が形成される。
【0027】
結合層41A,41Bは、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤等の合成系接着剤よりなるシートや、ポリイミド樹脂等よりなる絶縁フィルムの両面に合成系接着剤を塗布して構成されたシートや、熱可塑性のポリイミド樹脂よりなるシートによって形成されている。これらはボンディングシートと呼ばれ、各種市販されているものから選択して用いることができる。
【0028】
次に、回路基板本体2の積層体について詳しく説明する。本実施の形態では、特に、回路基板本体2が1つの積層体20のみを有する例について説明する。積層体20は、回路基板本体2の厚み方向に積層された絶縁層21と配線層22とを含んでいる。絶縁層21は、厚み方向について互いに反対側に位置する第1の面21aと第2の面21bを有している。第1の面21aは、回路基板本体2の第1の面2aと同じ方向に向いている。本実施の形態では、回路基板本体2の第1の面2aは、絶縁層21の第1の面21aによって構成されている。図示しないが、第1および第2の面21a,21bの形状は、例えば、いずれも、一方向に長い矩形である。配線層22は、パターン化された導体よりなり、絶縁層21の第2の面21b上に配置されている。
【0029】
積層体20は、更に、絶縁層21の第2の面21bおよび配線層22の上に順に積層された接着層23および保護層24を含んでいる。本実施の形態では、回路基板本体2の第2の面2bは、保護層24の表面によって構成されている。接着層23および保護層24からなる積層体は、カバーレイフィルムとも呼ばれる。接着層23および保護層24は、絶縁層21の第2の面21bおよび配線層22のうち、第1の非屈曲部12Aに含まれる部分の一部が露出するように、絶縁層21の第2の面21bおよび配線層22を覆っている。配線層22のうち、接着層23および保護層24によって覆われていない部分には、リード線42が電気的に接続されている。
【0030】
絶縁層21および保護層24は、絶縁材料よりなり、柔軟性を有している。絶縁層21および保護層24は、絶縁性樹脂よりなり、その中でも柔軟性および耐熱性が良好なポリイミド樹脂または液晶ポリマーよりなることが好ましい。絶縁層21および保護層24は、単層であってもよいし、複数層からなるものであってもよい。接着層23の材料としては、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤等の合成系接着剤が用いられる。
【0031】
なお、絶縁層21は、例えば、後にパターニングされて配線層22となる銅箔等の金属箔上に、ポリイミド樹脂または液晶ポリマーの樹脂溶液を塗布し、これを乾燥させて形成してもよい。あるいは、上記金属箔上に、ポリイミド樹脂の前駆体溶液を塗布し、これを熱処理によって乾燥およびイミド化して、絶縁層21を形成してもよい。あるいは、市販されているポリイミド樹脂または液晶ポリマーよりなる絶縁フィルムを上記金属箔に接着して、絶縁層21を形成してもよい。この場合には、必要に応じて、エポキシ樹脂や熱可塑性ポリイミド樹脂等からなる接着剤を用いて、絶縁フィルムを金属箔に接着してもよい。
【0032】
また、絶縁層21および保護層24の厚みは、特に限定されるものではないが、それぞれ、5〜100μmの範囲内であることが好ましい。フレキシブル回路基板1のうち特に高い屈曲性(柔軟性)が要求される回路基板本体2の屈曲部12Cにおける絶縁層21および保護層24の厚みは、それぞれ、5〜30μmの範囲内であることが好ましい。絶縁層21および保護層24の各厚みが5μm未満であると、絶縁層21および保護層24の絶縁性が十分に得られないおそれがある。一方、絶縁層21および保護層24の厚みが大きくなりすぎるとフレキシブル回路基板1の可撓性が損なわれるため、狭い空間でのフレキシブル回路基板1の折り曲げが困難となる。絶縁層21および保護層24の厚みの範囲は、フレキシブル回路基板1が屈曲させられる程度等に応じて適宜、定められる。
【0033】
配線層22は、絶縁層21と、この絶縁層21の第2の面21b上に配置された導体層とを含む積層体における導体層をエッチングによってパターニングすることによって形成される。導体層は、配線層22を構成する金属よりなる。導体層には、例えば金属箔、特に銅箔が用いられる。導体層に銅箔を用いた積層体は、銅張積層板と呼ばれる。導体層に用いられる銅箔には、圧延銅箔と電解銅箔がある。一般的に、圧延銅箔は、電解銅箔よりも耐屈曲特性が高い。そのため、導体層に用いられる銅箔としては、圧延銅箔を用いることが好ましい。導体層に用いられる銅箔の厚みは、5〜30μmの範囲内であることが好ましく、9〜15μmの範囲内であることがより好ましい。銅箔の厚みが5μm未満であると、銅張積層板の剛性が小さくなりすぎて、フレキシブル回路基板1の製造時における銅張積層板のハンドリング性が低下する。一方、銅箔の厚みが30μmを超えると、フレキシブル回路基板1の柔軟性および耐屈曲特性が低下すると共にコストが高くなる。
【0034】
ここで、フレキシブル回路基板1の製造方法について簡単に説明する。まず、上述のように、絶縁層21と導体層とを含む積層体における導体層をエッチングによってパターニングすることによって配線層22を形成する。次に、配線層22を覆うように、接着層23および保護層24からなるカバーレイフィルムを、絶縁層21の第2の面21bおよび配線層22に接着する。これにより、回路基板本体2が完成する。次に、結合層41A,41Bによって、座屈防止層3の第1および第2の固定部13A,13Bを、回路基板本体2の第1および第2の非屈曲部12A,12Bに固定する。
【0035】
次に、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1の作用および効果について説明する。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1は、使用時には、必要に応じて、回路基板本体2の屈曲部12Cおよび座屈防止層3の隣接部13Cにおいて、任意の形状で屈曲させられる。本実施の形態では、屈曲部12Cと隣接部13Cを、屈曲部12Cに対して隣接部13Cが曲率中心側に位置するように屈曲させることにより、隣接部13Cによって、屈曲部12Cにおいて座屈が発生することが抑制される。これは、屈曲部12Cに対して曲率中心側に位置する隣接部13Cが、屈曲部12Cが所定の屈曲形状を保つように屈曲部12Cを支えるためである。これにより、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1によれば、狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせる用途においても高い耐屈曲特性が得られる。
【0036】
[第1の実験]
以下、本発明による効果を確認するために行った第1の実験の結果について説明する。始めに、図2を参照して、第1の実験で作製した複数の試料について説明する。図2は、第1の実験で作製した複数の試料の配線層を示す平面図である。複数の試料は、第1の種類の試料と第2の種類の試料とを含んでいる。第1の種類の試料は、図1に示した回路基板本体2に対応する。第2の種類の試料は、図1に示したフレキシブル回路基板1に対応する。第1および第2の種類の試料は、配線層22の代りに、図2に示したパターンの配線層122を含んでいる。第1の種類の試料におけるその他の構成は、図1に示した回路基板本体2と同じである。第2の種類の試料におけるその他の構成は、図1に示したフレキシブル回路基板1と同じである。
【0037】
配線層122は、ミアンダ形状を有している。より詳しく説明すると、配線層122は、絶縁層21の第2の面21bの長手方向(図2における左右方向)に延びる複数の直線状部分122aと、配線層122の全体がミアンダ形状となるように、隣接する2つの直線状部分122aの端部同士を連結する連結部分122bとを有している。ここで、直線状部分122aの幅(図2における上下方向の寸法)を線幅LWと定義し、隣接する2つの直線状部分122aの間隔を線間幅SWと定義する。試料において、線幅LWと線間幅SWは、いずれも75μmである。
【0038】
第1の実験では、第1および第2の種類の試料を、以下のようにして作製した。まず、ポリイミド樹脂よりなる絶縁層21と、この絶縁層21の第1および第2の面21a,21bの両面上に配置された電解銅箔よりなる導体層とを含む積層体(両面銅張積層板)において、第1の面21a上に配置された導体層をエッチングによって除去すると共に、第2の面21b上に配置された導体層をエッチングによってパターニングして、配線層122を形成した。エッチング液としては、塩化鉄/塩化銅系のエッチング液を用いた。絶縁層21および配線層122の厚みは、いずれも12μmとした。
【0039】
次に、配線層122を覆うように、エポキシ系接着剤よりなる接着層23およびポリイミド樹脂よりなる保護層24からなるカバーレイフィルムを、絶縁層21の第2の面21bおよび配線層122に接着した。カバーレイフィルム(接着層23および保護層24)の接着には、熱圧着プレスを用いた。このようにして、第1の種類の試料と、第2の種類の試料における回路基板本体2を完成させた。カバーレイフィルムの接着層23および保護層24の厚みは、それぞれ、15μm、12.5μmである。
【0040】
第2の種類の試料では、次に、エポキシ系接着剤よりなる結合層41A,41Bによって、座屈防止層3(絶縁層31)を絶縁層21の第1の面21aに固定した。これにより、第2の種類の試料を完成させた。座屈防止層3の固定は、プレス加工によって行った。具体的には、絶縁層21の第1の面21aと座屈防止層3との間に結合層41A,41Bを挟んだ状態で、回路基板本体2と座屈防止層3を圧着することによって、座屈防止層3を絶縁層21の第1の面21aに固定した。結合層41A,41Bには、いずれも40μmの厚みのエポキシ系接着剤のボンディングシートを用いた。
【0041】
また、第1の実験では、第2の種類の試料として、座屈防止層3が異なる以下の5つの試料、すなわち試料1、試料2、試料3、試料4および試料5を作製した。試料1ないし試料4では、座屈防止層3として、それぞれ、東レ・デュポン株式会社製のカプトン(登録商標)V50、同V100、同V200、同V300を用いた。試料5では、座屈防止層3として、宇部興産株式会社製のユーピレックス(登録商標)−75Sを用いた。試料1、試料2、試料3、試料4および試料5の座屈防止層3の厚みは、それぞれ、12.5μm、25.0μm、50.0μm、75.0μm、75.0μmである。また、試料1、試料2、試料3、試料4および試料5の座屈防止層3の引張弾性率は、それぞれ3.5GPa、3.4GPa、3.4GPa、3.4GPa、6.9GPaである。
【0042】
次に、図3および図4を参照して、第1および第2の種類の試料に対して行った屈曲試験について説明する。図3は、屈曲試験装置に装着した試料の第1の状態を示す説明図である。図4は、屈曲試験装置に装着した試料の第2の状態を示す説明図である。図3および図4において、符号100は、第2の種類の試料(試料1ないし試料5)を示している。この屈曲試験は、スライド型携帯電話機や光ピックアップ装置等におけるスライド部分に用いられる態様のように、狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせるフレキシブル回路基板1の使用態様を模擬した試験である。
【0043】
屈曲試験装置は、所定の間隔Hを開けて配置された固定板101と可動板102とを備えている。屈曲試験は、固定板101と可動板102の間に試料をU字形状に屈曲させて介挿し且つ試料の長手方向の各端部をそれぞれ固定具103,104によって固定板101と可動板102とに固定し、可動板102をその面に平行な方向(図3および図4における左右方向)に往復運動させて行われる。なお、図4は、可動板102が、図3に示した状態から図3における右方向に移動した状態を示している。また、屈曲試験の際には、配線層122に通電されて、配線層122の抵抗値が検出される。そして、配線層122の抵抗値が所定値以上になったときに配線層122が破断したと判断される。屈曲試験では、試験の開始から、配線層122が破断するまで、すなわち配線層122の抵抗値が所定値以上になるまでの可動板102の往復運動の回数が、屈曲寿命として測定される。屈曲試験装置としては、間隔H、1分間における可動板102の往復運動の回数(rpm)、可動板102の移動範囲をそれぞれ設定可能で、且つ配線層122の抵抗値が所定値以上になったことを判定して、試験を終了することのできる装置を用いた。
【0044】
図3および図4に示したように、屈曲試験では、第2の種類の試料100における屈曲部12Cと隣接部13Cを、屈曲部12Cに対して隣接部13Cが曲率中心側に位置するように屈曲させている。屈曲試験装置における第1の種類の試料の姿勢は、第2の種類の試料100における回路基板本体2の姿勢と同じである。
【0045】
第1の実験では、図3に示した間隔Hを1.6mmとした。また、1分間における可動板102の往復運動の回数を15rpmとし、可動板102の移動範囲を38mmとした。また、配線層122の抵抗値が初期値よりも10%増加した時点における可動板102の往復運動の回数を屈曲寿命とした。
【0046】
第1の実験の結果を、下記の表1に示す。表1において、相対曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性に対する座屈防止層3の隣接部13Cの曲げ剛性の割合を表す。なお、屈曲部12Cや隣接部13Cのような板状の部材の曲げ剛性は、その引張弾性率と断面2次モーメントの積から求めることができる。表1において、座屈防止層3を有さない第1の種類の試料における相対曲げ剛性は、0と表記した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から、第2の種類の試料100(試料1ないし試料5)は、第1の種類の試料よりも高い耐屈曲特性(屈曲寿命)を有することが分かる。この第1の実験の結果から、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1によれば、狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせる用途においても高い耐屈曲特性を得られることが分かる。
【0049】
ところで、屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性に比べて隣接部13Cの曲げ剛性が小さすぎる場合には、隣接部13Cが屈曲部12Cを支える力が弱すぎて、屈曲部12Cにおける座屈の発生を抑制する効果が低下する。この観点から、隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性の0.8倍以上であることが好ましく、1倍以上であることがより好ましい。なお、隣接部13Cの曲げ剛性が屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性よりも小さい場合には、隣接部13Cにおいて座屈が発生する可能性が高まる。しかし、たとえ隣接部13Cにおいて座屈が発生しても、座屈防止層3がない場合に比べると、隣接部13Cの存在により屈曲部12Cにおける座屈の発生は抑制される。
【0050】
一方、屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性に比べて隣接部13Cの曲げ剛性が大きすぎる場合には、特に、フレキシブル回路基板1を狭い空間内で折り曲げて、一端部をスライドさせる用途において、長時間の使用後に隣接部13Cが破断するおそれがある。特に、隣接部13Cの曲げ剛性が屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性の6倍よりも大きくなると、上述のように隣接部13Cが破断する可能性が高まる。相対曲げ剛性が6.759である試料5では、配線層122が破断する前に隣接部13Cが破断し、その結果、配線層122が破断して、試験を終了している。そのため、隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性の6倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましい。
【0051】
以上のことから、隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性の0.8〜6倍の範囲内であることが好ましく、1〜5倍の範囲内であることがより好ましい。
【0052】
[第2の実施の形態]
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図5は、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1は、第1の実施の形態における積層体20の代りに、積層体50を備えている。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1のその他の構成は、第1の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1と同じである。
【0053】
積層体50の構成は、基本的には、第1の実施の形態における積層体20と同じである。すなわち、積層体50は、積層体20と同様に、絶縁層51、配線層52、接着層53および保護層54を含んでいる。絶縁層51、配線層52、接着層53および保護層54の材料は、それぞれ、第1の実施の形態における絶縁層21、配線層22、接着層23および保護層24の材料と同様である。
【0054】
絶縁層51は、厚み方向について互いに反対側に位置する第1の面51aと第2の面51bとを有している。第1の面51aは、回路基板本体2の第1の面2aと同じ方向に向いている。本実施の形態では、回路基板本体2の第1の面2aは、第1の面51aによって構成されている。配線層52は、第2の面51b上に配置されている。接着層53および保護層54は、第2の面51bおよび配線層52のうち、回路基板本体2の第1および第2の非屈曲部12A,12Bに含まれる部分が露出するように、第2の面51bおよび配線層52を覆っている。本実施の形態では、回路基板本体2の第2の面2bは、保護層54の表面によって構成されている。
【0055】
積層体50は、更に、導体部55A,55Bを含んでいる。導体部55A,55Bの材料は、配線層52の材料と同様である。導体部55Aは、絶縁層51の第1の面51aのうち、回路基板本体2の第1の非屈曲部12Aに含まれる部分の上に配置されている。導体部55Bは、絶縁層51の第1の面51aのうち、回路基板本体2の第2の非屈曲部12Bに含まれる部分の上に配置されている。
【0056】
積層体50は、更に、積層体50を貫通する複数のスルーホール56と、複数の導体膜57とを含んでいる。複数のスルーホール56は、絶縁層51、配線層52および導体部55Aを貫通する1つ以上のスルーホールと、絶縁層51、配線層52および導体部55Bを貫通する1つ以上のスルーホールとを含んでいる。導体膜57は、導体部55Aまたは55Bの表面と、配線層52の表面の一部と、スルーホール56の壁面に沿って形成されている。配線層52と導体部55A,55Bは、導体膜57を介して互いに電気的に接続されている。
【0057】
スルーホール56は、例えば、機械加工、レーザ加工、エッチング等によって形成される。導体膜57は、例えばめっき法によって形成される。
【0058】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0059】
[第3の実施の形態]
次に、図6を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。図6は、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1は、第2の実施の形態における積層体50の代りに、2つの積層体60,90を備えている。積層体60,90は、回路基板本体2の厚み方向に並んでいる。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1のその他の構成は、第2の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1と同じである。
【0060】
積層体60,90の各々の構成は、基本的には、第2の実施の形態における積層体50と同じである。すなわち、積層体60は、積層体50と同様に、絶縁層61、配線層62、接着層63、保護層64および導体部65A,65Bを含んでいる。また、積層体90は、積層体50と同様に、絶縁層91、配線層92、接着層93、保護層94および導体部95A,95Bを含んでいる。絶縁層61,91、配線層62,92、接着層63,93、保護層64,94および導体部65A,65B,95A,95Bの材料は、それぞれ、第2の実施の形態における絶縁層51、配線層52、接着層53、保護層54および導体部55A,55Bの材料と同様である。
【0061】
絶縁層61は、厚み方向について互いに反対側に位置する第1の面61aと第2の面61bとを有している。第1の面61aは、回路基板本体2の第1の面2aと同じ方向に向いている。本実施の形態では、回路基板本体2の第1の面2aは、第1の面61aによって構成されている。導体部65Aは、第1の面61aのうち、回路基板本体2の第1の非屈曲部12Aに含まれる部分の上に配置されている。導体部65Bは、第1の面61aのうち、回路基板本体2の第2の非屈曲部12Bに含まれる部分の上に配置されている。配線層62は、第2の面61b上に配置されている。接着層63および保護層64は、第2の面61bおよび配線層62を覆っている。
【0062】
絶縁層91は、厚み方向について互いに反対側に位置する第1の面91aと第2の面91bとを有している。第1の面91aは、回路基板本体2の第1の面2aと同じ方向に向いている。導体部95Aは、第1の面91aのうち、回路基板本体2の第1の非屈曲部12Aに含まれる部分の上に配置されている。導体部95Bは、第1の面91aのうち、回路基板本体2の第2の非屈曲部12Bに含まれる部分の上に配置されている。配線層92は、第2の面91b上に配置されている。接着層93および保護層94は、第2の面91bおよび配線層92のうち、回路基板本体2の屈曲部12Cに含まれる部分を覆っている。本実施の形態では、回路基板本体2の第2の面2bは、保護層94の表面によって構成されている。
【0063】
本実施の形態における回路基板本体2は、更に、絶縁材料よりなる結合層68A,68Bを有している。結合層68A,68Bの材料は、結合層41A,41Bの材料と同様である。結合層68Aは、積層体60のうちの、回路基板本体2の第1の非屈曲部12Aに含まれる部分と、積層体90のうちの、回路基板本体2の第1の非屈曲部12Aに含まれる部分とを結合している。結合層68Bは、積層体60のうちの、回路基板本体2の第2の非屈曲部12Bに含まれる部分と、積層体90のうちの、回路基板本体2の第2の非屈曲部12Bに含まれる部分とを結合している。回路基板本体2の屈曲部12Cにおいては、積層体60と積層体90の間に、これらを結合する層は存在していない。このようにして、積層体60,90は、回路基板本体2の屈曲部12Cにおいては互いに固定されずに、第1および第2の非屈曲部12A,12Bにおいて互いに固定されている。屈曲部12Cを屈曲させていない状態では、積層体60と積層体90との間に、結合層68A,68Bの厚みによる空隙(エアギャップ)が形成される。
【0064】
回路基板本体2は、更に、回路基板本体2を貫通する複数のスルーホール96と、複数の導体膜97とを含んでいる。複数のスルーホール96は、積層体60,90と結合層68Aを貫通する1つ以上のスルーホールと、積層体60,90と結合層68Bを貫通する1つ以上のスルーホールとを含んでいる。導体膜97は、導体部65Aまたは65Bの表面と、配線層92の表面の一部と、スルーホール96の壁面に沿って形成されている。配線層62,92と、導体部65A,65B,95A,95Bは、導体膜97を介して互いに電気的に接続されている。
【0065】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第2の実施の形態と同様である。
【0066】
[第4の実施の形態]
次に、図7を参照して、本発明の第4の実施の形態について説明する。図7は、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1は、第2の実施の形態における絶縁層31よりなる座屈防止層3の代りに、積層体70よりなる座屈防止層3を備えている。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1のその他の構成は、第2の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1と同じである。
【0067】
積層体70は、絶縁層71と、この絶縁層71の上に順に積層された導体部72、接着層73および保護層74を含んでいる。導体部72は、パターン化された導体よりなる。絶縁層71、導体部72、接着層73および保護層74の材料は、それぞれ、第1の実施の形態における絶縁層21、配線層22、接着層23および保護層24の材料と同様である。
【0068】
本実施の形態における座屈防止層3は、第2の実施の形態と同様に、第1および第2の固定部13A,13Bと、隣接部13Cとを含んでいる。本実施の形態において、結合層41A,41Bは、積層体70の保護層74の表面のうち、固定部13A,13Bに含まれる部分に接合されている。
【0069】
積層体70には、回路基板本体2を構成する積層体50に設けられたスルーホール56および導体膜57のようなスルーホールおよび導体膜は設けられていない。そのため、積層体70の導体部72は、積層体50の配線層52には電気的に接続されていない。積層体70は、積層体50と同様の層構成を有しているが、配線としての機能は有していない。
【0070】
本実施の形態では、隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体50の曲げ剛性と等しい。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第3の実施の形態と同様である。
【0071】
[第5の実施の形態]
次に、図8を参照して、本発明の第5の実施の形態について説明する。図8は、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す断面図である。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1は、第3の実施の形態における絶縁層31よりなる座屈防止層3の代りに、積層体70よりなる座屈防止層3を備えている。本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1のその他の構成は、第3の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1と同じである。
【0072】
積層体70の構成は、第4の実施の形態と同じである。本実施の形態において、結合層41A,41Bは、積層体70の保護層74の表面のうち、固定部13A,13Bに含まれる部分に接合されている。積層体70の導体部72は、回路基板本体2を構成する積層体60,90の配線層62,92には電気的に接続されていない。
【0073】
本実施の形態では、隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体60,90の各々の曲げ剛性と等しい。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第3および第4の実施の形態と同様である。
【0074】
[第2の実験]
次に、第4および第5の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1について、第1の実験と同様に、本発明による効果について確認した第2の実験の結果について説明する。第2の実験では、以下で説明する第3ないし第5の種類の試料を作製した。第3の種類の試料の構成は、第1の実施の形態で説明した第1の種類の試料と同じである。第3の種類の試料では、配線層122を、圧延銅箔よりなる導体層をエッチングによってパターニングして形成した。また、第3の種類の試料では、絶縁層21の厚みを16μmとした。
【0075】
第4の種類の試料は、図7に示した第4の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1に対応する。第4の種類の試料は、以下の点で第4の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1と異なっている。第4の種類の試料は、配線層52、導体部72の代りに、それぞれ、第1の実施の形態における図2に示した配線層122を含んでいる。積層体50,70の各々の配線層122には、図示しないリード線が電気的に接続されている。また、第4の種類の試料では、導体部55A,55B、スルーホール56および導体膜57は設けられていない。第4の種類の試料における隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体50の曲げ剛性の1倍である。
【0076】
第4の種類の試料における積層体50,70の作製方法は、配線層122の形成方法を除いて、第1の実施の形態で説明した第1および第2の種類の試料における回路基板本体2(絶縁層21、配線層122、接着層23および保護層24)の作製方法と同じである。第4の種類の試料では、配線層122を、圧延銅箔よりなる導体層をエッチングによってパターニングして形成した。絶縁層51,71の厚みは、いずれも16μmとした。積層体50,70の各々の配線層122の厚みは、いずれも12μmとした。接着層53,73の厚みは、いずれも15μmとした。保護層54,74の厚みは、いずれも15μmとした。
【0077】
第4の種類の試料では、エポキシ系接着剤よりなる結合層41A,41Bによって、積層体50と積層体70を結合した。積層体50,70の結合方法は、第1の実施の形態で説明した第2の種類の試料における絶縁層21,31の結合方法と同様である。結合層41A,41Bには、いずれも40μmの厚みのエポキシ系接着剤のボンディングシートを用いた。
【0078】
第5の種類の試料は、図8に示した第5の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1に対応する。第5の種類の試料は、以下の点で第5の実施の形態に係るフレキシブル回路基板1と異なっている。第5の種類の試料は、配線層62,92、導体部72の代りに、それぞれ、第1の実施の形態における図2に示した配線層122を含んでいる。積層体60,90,70の各々の配線層122には、図示しないリード線が電気的に接続されている。また、第5の種類の試料では、導体部65A,65B,95A,95B、スルーホール96および導体膜97は設けられていない。第5の種類の試料における隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体60,90の各々の曲げ剛性の1倍である。
【0079】
第5の種類の試料における回路基板本体2(積層体60,90および結合層68A,68B)の作製方法は、第4の種類の試料の作製方法と同じである。また、第5の種類の試料における積層体70の形成方法は、第3の種類の試料の作製方法と同じである。また、回路基板本体2と積層体70の結合方法は、第4の種類の試料における積層体50,70の結合方法と同じである。
【0080】
第2の実験では、第3ないし第5の種類の試料に対して、第1の実施の形態において図3および図4を参照して説明した屈曲試験を行った。なお、第4の種類の試料では、積層体50,70の各々の配線層122の屈曲寿命を求めた。また、第5の種類の試料では、積層体60,90,70の各々の配線層122の屈曲寿命を求めた。
【0081】
図示しないが、屈曲試験装置では、第4および第5の種類の試料における屈曲部12Cと隣接部13Cを、屈曲部12Cに対して隣接部13Cが曲率中心側に位置するように屈曲させた。屈曲試験装置における第3の種類の試料の姿勢は、第1の実施の形態で説明した第1の種類の試料の姿勢と同じである。
【0082】
第2の実験では、図3に示した間隔Hを1.4mmとした。また、1分間における可動板102の往復運動の回数を15rpmとし、可動板102の移動範囲を38mmとした。また、配線層122の抵抗値が初期値よりも10%増加した時点における可動板102の往復運動の回数を屈曲寿命とした。第2の実験の結果を、下記の表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2から、第4および第5の種類の試料における回路基板本体2は、第3の種類の試料や座屈防止層3よりも高い耐屈曲特性(屈曲寿命)を有することが分かる。第4および第5の種類の試料における隣接部13Cの曲げ剛性は、屈曲部12Cにおける積層体50,60,90の曲げ剛性の1倍である。第1および第2の実験結果から、本発明において、特に、隣接部13Cの曲げ剛性が屈曲部12Cにおける積層体20の曲げ剛性の1倍以上の場合には、座屈防止層3がない場合に比べて、屈曲部12Cにおける座屈の発生が顕著に抑制され、その結果、フレキシブル回路基板1の耐屈曲特性を顕著に向上させることができることが分かる。
【0085】
[第6の実施の形態]
次に、図9を参照して、本発明の第6の実施の形態について説明する。図9は、本実施の形態に係る電子機器の概略の構成を示す斜視図である。図9には、本実施の形態に係る電子機器の一例として、スライド型携帯電話機80を示している。携帯電話機80は、第1ないし第5の実施の形態のいずれかに係るフレキシブル回路基板1を含んでいる。
【0086】
図9に示したように、携帯電話機80は、第1の部分81と、第1の部分81に対して可動の第2の部分82を有している。本実施の形態では、特に、第2の部分82は、第1の部分81に対してスライド可能になっている。この携帯電話機80において、回路基板本体2の第1の非屈曲部12Aは第1の部分81に固定され、回路基板本体2の第2の非屈曲部12Bは第2の部分82に固定されている。第1の部分81は、第1の非屈曲部12Aにおいてフレキシブル回路基板1の配線層に電気的に接続され、且つ第1の非屈曲部12Aを第1の部分81に固定するコネクタ83を含んでいる。第2の部分82は、第2の非屈曲部12Bにおいてフレキシブル回路基板1の配線層に電気的に接続され、且つ第2の非屈曲部12Bを第2の部分82に固定するコネクタ84を含んでいる。
【0087】
本実施の形態では、フレキシブル回路基板1は折り曲げられ、回路基板本体2の屈曲部12Cと、座屈防止層3の隣接部13Cは、屈曲部12Cに対して隣接部13Cが曲率中心側に位置するように屈曲している。そして、第1の部分81に対して第2の部分82がスライドすることにより、第1の非屈曲部12Aに対して第2の非屈曲部12Bがスライドする。
【0088】
本実施の形態に係る電子機器(携帯電話機80)によれば、フレキシブル回路基板1の耐久性を高めることができる。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第5の実施の形態と同様である。
【0089】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明のフレキシブル回路基板は、積層された絶縁層と配線層とを含む積層体を3つ以上有していてもよい。また、本発明のフレキシブル回路基板は、第6の実施の形態において説明したスライド型携帯電話機に限らず、折畳み型携帯電話機や光ピックアップ装置等、可動部を有する種々の電子機器に用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
1…フレキシブル回路基板、2…回路基板本体、2a…第1の面、2b…第2の面、3…座屈防止層、12A…第1の非屈曲部、12B…第2の非屈曲部、12C…屈曲部、13A…第1の固定部、13B…第2の固定部、13C…隣接部、20…積層体、21…絶縁層、22…配線層、23…接着層、24…保護層、31…絶縁層、41A,41B…結合層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向について互いに反対側に位置する第1の面と第2の面を有する回路基板本体と、前記第1の面に隣接するように配置された座屈防止層とを備え、
前記回路基板本体は、前記厚み方向に積層された絶縁層と配線層とを含む積層体を1つ以上有し、前記配線層は、パターン化された導体よりなり、
前記回路基板本体は、屈曲可能な屈曲部と、前記屈曲部に対して前記第1の面に沿った方向の両側に位置する屈曲しない第1および第2の非屈曲部とを含み、
前記座屈防止層は、それぞれ前記回路基板本体の第1および第2の非屈曲部に固定された第1および第2の固定部と、この第1および第2の固定部の間に位置し前記屈曲部に対して固定されずに隣接する屈曲可能な隣接部とを含むことを特徴とするフレキシブル回路基板。
【請求項2】
前記座屈防止層は、パターン化された導体部を含まないことを特徴とする請求項1記載のフレキシブル回路基板。
【請求項3】
前記座屈防止層は、パターン化された導体部を含み、この導体部は前記配線層に電気的に接続されていないことを特徴とする請求項1記載のフレキシブル回路基板。
【請求項4】
前記回路基板本体は、前記積層体を複数有し、この複数の積層体は前記厚み方向に並び、
前記複数の積層体は、前記屈曲部においては互いに固定されずに、前記第1および第2の非屈曲部において互いに固定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフレキシブル回路基板。
【請求項5】
前記隣接部の曲げ剛性は、前記屈曲部における前記積層体の曲げ剛性の1〜5倍の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のフレキシブル回路基板。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のフレキシブル回路基板を含むと共に、第1の部分と、前記第1の部分に対して可動の第2の部分を有する電子機器であって、
前記第1の非屈曲部は前記第1の部分に固定され、前記第2の非屈曲部は前記第2の部分に固定され、
前記屈曲部と前記隣接部は、前記屈曲部に対して前記隣接部が曲率中心側に位置するように屈曲することを特徴とする電子機器。
【請求項7】
前記第2の部分は前記第1の部分に対してスライド可能であり、前記フレキシブル回路基板は折り曲げられ、前記第1の部分に対して前記第2の部分がスライドすることにより前記第1の非屈曲部に対して前記第2の非屈曲部がスライドすることを特徴とする請求項6記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−195479(P2012−195479A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58965(P2011−58965)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】