説明

フレキシャ、該フレキシャの製造方法

【課題】熱イミド化反応が不要な感光性のポリイミド樹脂を用いて絶縁層を形成することで、感光性のポリイミド樹脂を用いて絶縁層を形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができるフレキシャ、該フレキシャの製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】基材層11aと、基材層11a上に形成される配線回路Wと、配線回路W及び基材層11aを被覆する絶縁層11cとからなるフレキシブルプリント配線板11に、金属支持基板12を取り付けてなるフレキシャ10であって、絶縁層11cが露光処理、現像処理、熱硬化処理を経て形成されるものにおいて、基材層11aは液晶ポリマーからなり、且つ絶縁層11cはその熱硬化温度が液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマーからなる基材層と、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂からなる絶縁層とを備えてなるフレキシャ及び該フレキシャの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータのハードディスク駆動装置(以下、HDDとする)には、樹脂からなる基材層と、導電性金属からなる配線回路と、絶縁性樹脂からなる絶縁層とを備えるフレキシブルプリント配線板と、ステンレス等からなる金属支持基板とを組み合わせてなる配線回路付きサスペンション基板(以下、フレキシャとする)が組み込まれている。
このようなHDDに組み込まれるフレキシャを示す従来技術として、例えば下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4615427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年におけるHDDの小型化・高機能化等に伴い、HDDに組み込まれるフレキシャの開発においては、高周波特性の向上やインピーダンス整合を図るためにフレキシャの誘電率を如何にして低下させるかが重要な開発課題となっている。
このようなフレキシャの誘電率を低下させるための技術として、低誘電率を特性として備える液晶ポリマーを用いて基材層を形成する技術が検討され始めている。
しかし上記特許文献1に示すような従来のフレキシャにおいては、薄肉化や高密度配線化等を実現するために、感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成する構成に設計が制約されているのが現状である。
このような感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成する構成においては、フォトレジスト用のポリアミック酸前駆体を基材層及び配線回路に塗工し、露光処理、現像処理により感光部分又は非感光部分を溶解した後、更に残ったポリアミック酸を高温加熱(一般的には300℃以上の温度で加熱)によりイミド化させる(いわゆる熱イミド化反応)ことで絶縁層を形成するものが一般的である。
よって低誘電率を特性として備える液晶ポリマーで基材層を形成する場合、液晶ポリマーのガラス転移温度(Tg)が一般的に200℃以下であることから、ポリアミック酸をイミド化させる高温加熱工程で液晶ポリマーが溶融してしまい、基材層に変形が生じてしまう。
従って感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成する従来のフレキシャにおいては、液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができないという問題があった。
【0005】
そこで本発明は上記従来における問題点を解決し、熱イミド化反応が不要な感光性のポリイミド樹脂を用いて絶縁層を形成することで、感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができるフレキシャ、該フレキシャの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフレキシャは、基材層と、該基材層上に形成される配線回路と、該配線回路及び前記基材層を被覆する絶縁層とからなるフレキシブルプリント配線板に、金属支持基板を取り付けてなるフレキシャであって、前記絶縁層が露光処理、現像処理、熱硬化処理を経て形成されるものにおいて、前記基材層は液晶ポリマーからなり、且つ前記絶縁層はその熱硬化温度が前記液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂からなることを第1の特徴としている。
【0007】
上記本発明の第1の特徴によれば、フレキシャは、基材層と、該基材層上に形成される配線回路と、該配線回路及び前記基材層を被覆する絶縁層とからなるフレキシブルプリント配線板に、金属支持基板を取り付けてなるフレキシャであって、前記絶縁層が露光処理、現像処理、熱硬化処理を経て形成されるものにおいて、前記基材層は液晶ポリマーからなり、且つ前記絶縁層はその熱硬化温度が前記液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂からなることから、絶縁層の形成工程で液晶ポリマーからなる基材層が溶融し、変形してしまうことを確実に防止することができる。よって感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができる。よって誘電率を効果的に下げることができ、高周波特性を向上させることができると共に、インピーダンス整合を図ることができるフレキシャとすることができる。
【0008】
また本発明のフレキシャは、上記本発明の第1の特徴に加えて、前記ブロック共重合ポリイミド樹脂は、溶媒可溶性であることを第2の特徴としている。
【0009】
上記本発明の第2の特徴によれば、上記本発明の第1の特徴による作用効果に加えて、前記ブロック共重合ポリイミド樹脂は、溶媒可溶性であることから、ブロック共重合ポリイミド樹脂を含有してなるインク組成物を形成することができる。よって印刷を用いて絶縁層を形成することができる。
従って製造効率の良いフレキシャとすることができる。
【0010】
また本発明のフレキシャの製造方法は、請求項1に記載のフレキシャの製造方法であって、基材層と、該基材層上に形成される配線回路と、該配線回路及び前記基材層を被覆する絶縁層とを備えるフレキシブルプリント配線板を形成するフレキシブルプリント配線板形成工程と、前記基材層に金属支持基板を取り付ける金属支持基板取り付け工程とを備えると共に、前記フレキシブルプリント配線板形成工程に、液晶ポリマーからなる基材層を形成する基材層形成工程と、前記配線回路及び前記基材層に熱硬化温度が前記液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂を被覆し、露光処理、現像処理、熱硬化処理を経て絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを少なくとも備えることを第3の特徴としている。
【0011】
上記本発明の第3の特徴によれば、フレキシャの製造方法は、請求項1に記載のフレキシャの製造方法であって、基材層と、該基材層上に形成される配線回路と、該配線回路及び前記基材層を被覆する絶縁層とを備えるフレキシブルプリント配線板を形成するフレキシブルプリント配線板形成工程と、前記基材層に金属支持基板を取り付ける金属支持基板取り付け工程とを備えると共に、前記フレキシブルプリント配線板形成工程に、液晶ポリマーからなる基材層を形成する基材層形成工程と、前記配線回路及び前記基材層に熱硬化温度が前記液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂を被覆し、露光処理、現像処理、熱硬化処理を経て絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを少なくとも備えることから、絶縁層形成工程で液晶ポリマーからなる基材層が溶融し、変形してしまうことを確実に防止することができる。よって感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができる。よって誘電率を効果的に下げることができ、高周波特性を向上させることができると共に、インピーダンス整合を図ることができるフレキシャを製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフレキシャによれば、感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができる。よって誘電率を効果的に下げることができるフレキシャとすることができる。従って高周波特性を向上させることができると共に、インピーダンス整合を図ることができるフレキシャとすることができる。また製造効率の良いフレキシャとすることができる。
また本発明のフレキシャの製造方法によれば、熱硬化温度が液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂で絶縁層を形成することで、絶縁層形成工程において液晶ポリマーで形成される基材層が溶融し、変形してしまうことを確実に防止することができる。
よって感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができる。従って誘電率を効果的に下げることができることで、高周波特性を向上させることができると共に、インピーダンス整合を図ることができるフレキシャを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るフレキシャを示す図で、(a)は本発明の実施形態に係るフレキシャが組み込まれるヘッド・スタック・アセンブリを示す平面図、(b)は本発明の実施形態に係るフレキシャを示す平面図である。
【図2】図1(b)のa−a線方向における断面図の要部を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るフレキシャの製造方法を簡略化して示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るフレキシャの製造方法を簡略化して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の図面を参照して、本発明の実施形態に係るフレキシャ、該フレキシャの製造方法を説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の実施形態であって、特許請求の範囲に記載の内容を限定するものではない。
【0015】
まず図1、図2を参照して、本発明の実施形態に係るフレキシャを説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るフレキシャ10は、磁気ディスク装置としてのコンピュータのハードディスク装置(図示しない)を構成するヘッド・スタック・アセンブリ(Head Stack Assembly)1を形成するものである。
【0017】
前記ヘッド・スタック・アセンブリ1は、図1(a)に示すように、フレキシャ10と、磁気ヘッド部20と、サスペンション30と、アクチュエータ・アセンブリ(Actuator Assembly)40と、ボイスコイルモータ50とから構成される。
【0018】
前記フレキシャ10は、センス電流、書き込み情報及び読み出し情報を送信するためのものであり、図1(b)に示すヘッド領域Hが磁気ヘッド部20と接続されると共に、コネクタ領域Kが外部配線との接続を行うための固定部60と接続される。
このフレキシャ10は、図2に示すように、フレキシブルプリント配線板11と、金属支持基板12とから構成される。
【0019】
前記フレキシブルプリント配線板11は、主としてフレキシャ10の配線部を形成するもので、図2に示すように、基材層11aと、導電層11bと、絶縁層11cとから構成される。なお本実施形態においては、フレキシブルプリント配線板11の構成を基材層11aの片面にのみ導電層11bを備える、いわゆる片面フレキシブルプリント配線板とする構成としてある。
【0020】
前記基材層11aは、フレキシブルプリント配線板11の基台となるものであり、液晶ポリマーで形成されている。
液晶ポリマーとしては、サーモトロピック型等、如何なる液晶ポリマーを用いる構成としてもよい。
なお液晶ポリマーのガラス転移温度(Tg)は150℃〜300℃程度、より好適には240℃〜300℃程度のものを用いることが望ましい。
また基材層11aの厚みは、10μm〜50μm程度とすることが望ましい。
【0021】
前記導電層11bは、本実施形態においては基材層11aの片側(表側)に設けられ、フレキシブルプリント配線板11の配線回路Wや図示しない端子等を構成する層である。
この配線回路Wは、基材層11aに導電性金属箔をめっきを用いて積層したり(いわゆるアディティブ法)、基材層11aに予め積層される導電性金属箔をエッチングしたり(いわゆるサブトラクティブ法)等の公知の形成方法を用いて形成することができる。
また導電性金属箔としては、銅(Cu)を用いることができる。勿論、銅(Cu)に限るものではなく、プリント配線板の導電層を形成する導電性金属箔として通常用いられるものであれば、如何なるものであってもよい。
なお、図2に示す配線回路Wの幅Lは8μm〜200μm程度、隣接する配線回路Wの間隔Mは8μm〜200μm程度、導電層11bの厚みNは5μm〜30μm程度とすることが望ましい。
また配線回路Wの本数等は、本実施形態のものに限るものではなく、適宜変更可能である。
【0022】
前記絶縁層11cは、フレキシブルプリント配線板11の絶縁を確保するための層である。
なお本実施形態においては、熱硬化温度が基材層11aを形成する液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な(最初からイミド化している)感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成してある。更に具体的には溶媒可溶性のブロック共重合ポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成してある。
なおブロック共重合ポリイミド樹脂としては、ジアミン成分として分子骨格中にシロキサン結合を有するジアミンと、アミノ基に対してオルト位に水酸基及び/又はカルボキシ基を有する芳香族ジアミンとを含むブロック共重合ポリイミド樹脂を用いることが望ましい。
またブロック共重合ポリイミド樹脂の熱硬化温度は150℃〜250℃程度、より好適には180℃〜200℃程度のものを用いることが望ましい。
また感光性を付与させるための光酸発生剤としては、ナフトキノンジアジド系光酸発生剤等を用いることができる。
この絶縁層11cは、感光性が付与された溶媒可溶性のブロック共重合ポリイミド樹脂を含有してなるインク組成物(いわゆる印刷用のインク)を、スクリーン印刷等の印刷によって基材層11a及び配線回路Wの表面に被覆させた後、露光処理、現像処理を行い、更にインク中の溶媒を揮発させると共に、ブロック共重合ポリイミド樹脂を硬化させる熱硬化処理(加熱乾燥処理)を行うことで形成される。
このような溶剤可溶性のブロック共重合ポリイミド樹脂と、光酸発生剤とが有機溶媒に溶解されたスクリーン印刷用の感光性インク組成物の一般的な組成、製造方法は、WO2007/100078号に記載されている。
なお絶縁層11cの厚みは、3μm〜25μm程度とすることが望ましい。
【0023】
前記金属支持基板12は、平板状の金属箔や金属薄板からなり、フレキシャ10の剛性を確保すると共に、電気的なグランドを形成するものである。
なお本実施形態においては、金属支持基板12を形成する金属としてステンレス(SUS)を用いる構成としてある。
勿論、金属支持基板12を形成する金属は、ステンレスに限るものではなく、アルミ等、フレキシャの金属支持基板を形成する金属として通常用いられるものであれば、如何なる金属を用いてもよい。
なお金属支持基板12の厚みは、金属支持基板12を形成する金属としてステンレスを用いた場合は15μm〜25μm程度とすることが望ましい。
また金属支持基板12は図示しない接着剤層を介してフレキシブルプリント配線板11に取り付けられている。
【0024】
前記磁気ヘッド部20は、情報の書き込み及び読み出しを行うためのもので、図示しないヘッドコアを備える。
このヘッドコアは、図1(a)には詳しくは図示していないが、サスペンション30に沿って設けられるフレキシャ10に接続されており、このフレキシャ10を介して情報がやりとりされる。
【0025】
前記サスペンション30は、磁気ヘッド部20を支持すると共に、磁気ヘッド部20に対して図示しないハードディスク装置の磁気ディスク方向に弾性力を加える機能を有するものである。
【0026】
前記アクチュエータ・アセンブリ40は、主として磁気ヘッド部20及びサスペンション30を揺動可能に保持するためのものである。
このアクチュエータ・アセンブリ40は、図1(a)に示すように、主として、磁気ヘッド部20及びサスペンション30を揺動可能に保持するためのアクチュエータユニット41と、ボイスコイルモータ50の回転力を伝達させるためのピボット軸42とから構成される。
【0027】
前記ボイスコイルモータ50は、アクチュエータユニット41に保持される磁気ヘッド部20及びサスペンション30を揺動するためのモータである。
【0028】
このような構成からなる本発明の実施形態に係るフレキシャ10は、以下の効果を奏する。
熱硬化温度が基材層11aを形成する液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な(最初からイミド化している)感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成することで、絶縁層11cの形成時に、ポリイミド樹脂を高温加熱でイミド化させる工程(一般的には300℃以上の熱を加えて加熱閉環させる工程)を設ける必要がない。
よって絶縁層11cの形成時に液晶ポリマーからなる基材層11aが溶融し、変形することを確実に防止することができる。
よって感光性のポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層11aを用いることができる。
従ってフレキシャ10の誘電率を効果的に下げることができ、高周波特性を向上させることができると共に、インピーダンス整合を図ることができるフレキシャ10とすることができる。
また溶媒可溶性のブロック共重合ポリイミド樹脂を用いる構成とすることで、ブロック共重合ポリイミド樹脂を含有してなるインク組成物(いわゆるインク)を形成することができる。
よってブロック共重合ポリイミド樹脂を含有してなるインク組成物を、配線回路W及び基材層11aに印刷によって被覆させることができる。従って絶縁層11cを効率よく形成することができ、製造効率の良いフレキシャ10とすることができる。
また液晶ポリマーで形成する基材層11aの厚みを10μm〜50μm程度とすると共に、ブロック共重合ポリイミド樹脂で形成する絶縁層11cの厚みを3μm〜25μm程度とする構成とすることで、反りを抑制することができる。
また感光性のポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成することで、フレキシャに求められる薄肉化と高密度配線化とを実現できるフレキシャ10とすることができる。
【0029】
つまり従来、ハードディスク駆動装置に配設されるフレキシャにおいては、フォトレジスト用のポリアミック酸前駆体を基材層及び配線回路に塗工し、露光処理、現像処理により感光部分又は非感光部分を溶解した後、残ったポリアミック酸を高温加熱しイミド化させる(一般的には300℃以上の熱を加えてイミド化させる)ことで絶縁層を形成するものが一般的であった。
このような構成においては、高温加熱工程(一般的には300℃以上の高温加熱工程)が必須となることから、ガラス転移温度が一般的に200℃以下である液晶ポリマーを用いて基材層を形成した場合、基材層が溶融し、変形してしまう。
よって感光性のポリイミド樹脂で絶縁層を形成する従来のフレキシャにおいては、低誘電率を特性として備える液晶ポリマーで形成する基材層を用いることができないという問題があった。
【0030】
従って本発明の実施形態に係るフレキシャ10の構成とすることで、感光性のポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成するフレキシャ10において、液晶ポリマーで形成する基材層11aを用いることができる。よって誘電率を効果的に下げることができるフレキシャ10とすることができる。
【0031】
次に図3、図4を参照して、本発明の実施形態に係るフレキシャ10の製造方法を説明する。
【0032】
まず図3(a)を参照して、フレキシブルプリント配線板形成工程Aにおける基材層形成工程A1により、液晶ポリマーからなる基材層11aを形成する。
なお本実施形態においては、液晶ポリマーとして、ガラス転移温度がブロック共重合ポリイミド樹脂の乾燥温度よりも高い液晶ポリマーを用いる構成としてある。より具体的には、ガラス転移温度が200℃〜300℃程度である液晶ポリマーを用いる構成としてある。
次に図3(a)を参照して、金属支持基板取り付け工程Cにより、基材層11aの下面に図示しない接着剤層を介して金属支持基板12を取り付ける。
次に図3(b)を参照して、配線回路形成工程A2により、基材層11aの上面に導電性金属をめっきすることで導電層11bを形成する。なお本実施形態においては、導電性金属として銅(Cu)を用いる構成としてある。
次に図3(c)を参照して、配線回路形成工程A2により、めっきレジスト(図示しない)を用いて、配線回路Wを形成しない領域の導電層11bをエッチング除去することで配線回路Wを形成する(いわゆるセミアディティブ法)。
次に図3(d)を参照して、絶縁層形成工程A3により、基材層11a及び配線回路Wの表面に、熱硬化温度が基材層11aを形成する液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な(最初からイミド化された)感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂Bを被覆させる。
より具体的には、溶媒可溶性のブロック共重合ポリイミド樹脂Bと、光酸発生剤とが有機溶媒に溶解されてなるインク組成物を、スクリーン印刷によって基材層11a及び配線回路Wの表面に被覆させる。
またこのような熱イミド化反応が不要な(最初からイミド化された)感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂Bを含有してなるスクリーン印刷用のインク組成物としては、例えば株式会社ピーアイ技術研究所製「Q−PILON(キューピロン)」(登録商標)等を用いることができる。
次に図4(a)を参照して、絶縁層形成工程A3における露光処理により、露光手段70を用いて、所定のパターンが形成されたパターンマスク71を介して、ブロック共重合ポリイミド樹脂Bを露光する。
なお露光手段70から照射される化学線は、X線、電子線、紫外線、可視光線等を用いることができる。より好適には紫外線を用い、その波長は350nm〜380nm程度、照射量は500mJ〜1000mJ程度とすることが望ましい。
またパターンマスク71は、ポジ型、ネガ型の何れを用いる構成としてもよい。
次に図示しない絶縁層形成工程A3における現像処理により、現像液を用いて露光されたブロック共重合ポリイミド樹脂Bを現像する。なお現像液としては、アルカリ現像液、アルカリ性水溶液等を用いることができる。
次に図4(b)を参照して、絶縁層形成工程A3における熱硬化処理により、熱硬化手段80を用いて、現像されたブロック共重合ポリイミド樹脂Bに、基材層11aを形成する液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低い温度の熱を加えてインク中の溶媒を揮発させると共に、ブロック共重合ポリイミド樹脂Bを硬化させ(加熱乾燥させ)、絶縁層11cを形成する。
なお、熱硬化処理における加熱温度は150℃〜250℃程度、より好適には180℃〜200℃程度とすることが望ましい。また加熱時間は30分〜5時間程度、より好適には1時間〜2時間程度とすることが望ましい。
以上の工程を経ることで、図4(c)に示すフレキシブルプリント配線板11に金属支持基板12を取り付けてなる本発明の実施形態に係るフレキシャ10が製造される。
このように製造されるフレキシャ10は、ヘッド・スタック・アセンブリ1に組み込まれ、更に図示しない磁気ディスク装置に組み込まれる。
【0033】
このような構成からなる本発明の実施形態に係るフレキシャ10の製造方法は、以下の効果を奏する。
熱硬化温度が基材層11aを形成する液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な(最初からイミド化された)感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂Bで絶縁層11cを形成することで、ポリイミド樹脂を高温加熱(一般的には300℃以上の高温加熱)でイミド化させる工程を絶縁層形成工程A3に設ける必要がない。
よって絶縁層11cの形成時に液晶ポリマーからなる基材層11aが溶融し、変形することを確実に防止することができる。
よって感光性のポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成するフレキシャにおいて、液晶ポリマーで形成する基材層11aを用いることができる。
従って誘電率を効果的に下げることができることで、高周波特性を向上させることができると共に、インピーダンス整合を図ることができるフレキシャ10を製造することができる。
また溶媒可溶性のブロック共重合ポリイミド樹脂Bを用いる構成とすることで、ブロック共重合ポリイミド樹脂Bを含有してなるインク組成物(いわゆるインク)を形成することができる。よってブロック共重合ポリイミド樹脂Bを含有するインクを配線回路W及び基材層11aに印刷(本実施形態においてはスクリーン印刷)によって被覆させることができる。従って絶縁層11cを効率よく形成することができ、製造効率の良いフレキシャ10の製造方法とすることができる。
また感光性のポリイミド樹脂で絶縁層11cを形成することで、フレキシャに求められる薄肉化と高密度配線化とを実現できるフレキシャ10とすることができる。
【0034】
なお本発明の実施形態においては、フレキシブルプリント配線板11の構成を、基材層11aの片面にのみ導電層11bを備える、いわゆる片面フレキシブルプリント配線板とする構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、基材層11aの両面に導電層11bを備える、いわゆる両面フレキシブルプリント配線板とする構成としてもよい。このような構成とすることで、一段と高密度配線化が可能なフレキシャとすることができる。
また本実施形態に係るフレキシャ10の製造方法においては、導電層11b、絶縁層11cを形成する前に基材層11aに金属支持基板12を取り付ける構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、フレキシブルプリント配線板11を形成した後に、接着剤層を介して金属支持基板12を取り付ける構成としてもよい。
また本実施形態に係るフレキシャ10の製造方法においては、いわゆるセミアディティブ法により配線回路Wを形成する構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、フレキシブルプリント配線板の配線回路を形成する方法として公知の如何なる形成方法(アディティブ法やサブトラクティブ法等)を用いてもよい。
また本実施形態に係るフレキシャ10の製造方法においては、溶媒可溶性のブロック共重合ポリイミド樹脂Bと、光酸発生剤とが有機溶媒に溶解されてなるインク組成物をスクリーン印刷によって基材層11a及び配線回路Wに被覆させる構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、他の印刷方法を用いる構成としてもよい。例えばロールコーター等を用いることができる。ロールコーターとすることで、効率的に連続印刷を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、誘電率を効果的に下げることができるフレキシャとすることができることから、フレキシャを備える磁気ディスク装置の分野における産業上の利用性が高い。
【符号の説明】
【0036】
1 ヘッド・スタック・アセンブリ
10 フレキシャ
11 フレキシブルプリント配線板
11a 基材層
11b 導電層
11c 絶縁層
12 金属支持基板
20 磁気ヘッド部
30 サスペンション
40 アクチュエータ・アセンブリ
41 アクチュエータユニット
42 ピボット軸
50 ボイスコイルモータ
60 固定部
70 露光手段
71 パターンマスク
80 熱硬化手段
A フレキシブルプリント配線板形成工程
A1 基材層形成工程
A2 配線回路形成工程
A3 絶縁層形成工程
B ブロック共重合ポリイミド樹脂
C 金属支持基板取り付け工程
H ヘッド領域
K コネクタ領域
L 幅
M 間隔
N 厚み
W 配線回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、該基材層上に形成される配線回路と、該配線回路及び前記基材層を被覆する絶縁層とからなるフレキシブルプリント配線板に、金属支持基板を取り付けてなるフレキシャであって、前記絶縁層が露光処理、現像処理、熱硬化処理を経て形成されるものにおいて、前記基材層は液晶ポリマーからなり、且つ前記絶縁層はその熱硬化温度が前記液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂からなることを特徴とするフレキシャ。
【請求項2】
前記ブロック共重合ポリイミド樹脂は、溶媒可溶性であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシャ。
【請求項3】
請求項1に記載のフレキシャの製造方法であって、基材層と、該基材層上に形成される配線回路と、該配線回路及び前記基材層を被覆する絶縁層とを備えるフレキシブルプリント配線板を形成するフレキシブルプリント配線板形成工程と、前記基材層に金属支持基板を取り付ける金属支持基板取り付け工程とを備えると共に、前記フレキシブルプリント配線板形成工程に、液晶ポリマーからなる基材層を形成する基材層形成工程と、前記配線回路及び前記基材層に熱硬化温度が前記液晶ポリマーのガラス転移温度よりも低く、熱イミド化反応が不要な感光性のブロック共重合ポリイミド樹脂を被覆し、露光処理、現像処理、熱硬化処理を経て絶縁層を形成する絶縁層形成工程とを少なくとも備えることを特徴とするフレキシャの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−62009(P2013−62009A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200509(P2011−200509)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(500400216)住友電工プリントサーキット株式会社 (197)
【Fターム(参考)】