説明

フレキソグラフ印刷原版製造用積層体及びフレキソグラフ印刷原版の製造方法

【課題】 低出力の可視光レーザーを用いて微細なマスクパターンを形成可能なフレキソグラフ印刷原版製造用積層体、及びそれを用いたフレキソグラフ印刷原版の製造方法を提供する。
【解決手段】 支持体層2、紫外線感光性樹脂層3、及び金属微粒子分散液を含むポリウレタン樹脂組成物からなるマスク層4をこの順に積層してなることを特徴とするフレキソグラフ印刷原版製造用積層体1、及び該フレキソグラフ印刷原版製造用積層体1のマスク層4に可視光レーザー光を照射して所定のマスクパターンを形成する工程、露光工程、及び現像工程からなることを特徴とするフレキソグラフ印刷原版11の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソグラフ印刷原版に関し、詳しくは、微細なパターンを容易に印刷可能にするフレキソグラフ印刷原版製造用積層体及びフレキソグラフ印刷原版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フレキソグラフ印刷原版は、(1)支持体層上に紫外線に反応する感光性樹脂層を積層し、ネガフィルムを通して感光性樹脂層に画像露光を行い、未露光部分を現像液で洗い流すことによって、所望のレリーフを得る方法、あるいは、(2)支持体層、紫外線に反応する感光性樹脂層、及び赤外線レーザー光の照射によってアブレーションされる特性を有するマスク層をこの順に積層した積層体を用意し、マスク層に所定パターンに従って赤外線レーザー光を照射し、露光し、現像することによって所望のレリーフを得る方法によって作製されている。ここで、マスク層は、ポリアミド、ポリビニルアルコール等からなるマトリックス及びそれに分散される赤外線吸収性材料であるカーボンブラック、グラファイト等からなる。赤外線レーザー光を提供するレーザーとしては、波長750〜880nmの半導体レーザーあるいは波長1060nmのNd−YAGレーザーが有効に用いられる。(2)の赤外線レーザー光を用いる方法は、(1)のネガフィルムを用いる方法に比べて、寸法安定性に優れ、より微細なレリーフを形成可能で、パターンの修正がデジタル的に可能であるという特徴を有する(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−258898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の(2)の方法に関して、より微細なパターンをマスク層に形成するためには、できるだけ波長の短いレーザー光を用いることが有効であるにもかかわらず、パターン形成用のレーザーは赤外線レーザーに限定されていた。波長の短いレーザー光としては紫外線レーザー光が考えられるが、紫外線レーザー光は、マスク層へのパターン形成段階でマスク層の下層の感光性樹脂層に影響を与えるため好ましくない。また、可視光レーザー光を用いる場合も、適切な可視光吸収性材料を選択することが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、低出力の可視光レーザーを用いて微細なマスクパターンを形成可能なフレキソグラフ印刷原版製造用積層体、及びそれを用いたフレキソグラフ印刷原版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本願請求項1記載の発明は、支持体層、紫外線感光性樹脂層、及び金属微粒子分散液を含むポリウレタン樹脂組成物からなるマスク層をこの順に積層してなることを特徴とするフレキソグラフ印刷原版製造用積層体である。
【0007】
請求項2記載の発明は、金属微粒子が金微粒子である請求項1記載のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体である。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2のいずれかに記載のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体のマスク層に可視光レーザー光を照射して所定のマスクパターンを形成する工程、露光工程、及び現像工程からなることを特徴とするフレキソグラフ印刷原版の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本願各請求項記載の発明によれば、低出力の可視光レーザーを用いて微細なマスクパターンを容易に形成可能なフレキソグラフ印刷原版製造用積層体及びフレキソグラフ印刷原版を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体及びフレキソグラフ印刷原版の製造方法について詳細に説明する。
本発明のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体を図1(a)に示す。フレキソグラフ印刷原版製造用積層体1は、支持体層2、紫外線感光性樹脂層3、及び金微粒子分散液を含むポリウレタン樹脂組成物からなるマスク層4をこの順に積層してなることを特徴とする。
【0011】
支持体層2としては、紫外線感光性樹脂層3及びマスク層4の重量によって歪むことなく平面性を維持できるシートが好ましく、スチール、アルミ、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等からなる厚さ100〜300μmのシートが用いられる。
【0012】
支持体層2の上に設けられる紫外線感光性樹脂層3は、少なくともエラストマーバインダ、架橋剤、及び光重合開始剤からなる。
【0013】
エラストマーバインダとしては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム、シリコーンゴムが挙げられる。これらは、それぞれ単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
架橋剤としては、エチレン性不飽和有機化合物が用いられ、具体的には、スチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、アントラキノン、チオキサントン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
前記エラストマーバインダ、架橋剤、及び光重合開始剤以外に加えて、必要に応じて可塑剤、酸化防止剤、熱重合防止剤等の添加剤を添加し、有機溶剤に溶解し、アプリケータ、スピンコータ等を用いて支持体2上に薄膜を形成する。有機溶剤としては、トルエン、クロロホルム、テトラクロロエチレン、メチルエチルケトン等が用いられる。紫外線感光性樹脂層3の膜厚は1mm〜3mm程度に形成される。また、有機溶剤を用いることなく、前記材料をニーダあるいはロールミルで混練りし、押出機、射出成形機等を用いて狙いの厚さに成形してもよい。
【0017】
なお、紫外線感光性樹脂層3は、ゲル状あるいは液状の市販の紫外線感光性樹脂、例えば、ジェムプレート(日本電子精機社製)、APR(旭化成工業社製)等の紫外線感光性樹脂をそのまま用いてもよい。
【0018】
紫外線感光性樹脂層3上にマスク層4が設けられる。マスク層4は、金属微粒子分散液を含むポリウレタン樹脂組成物からなる。金属微粒子分散液は、粒径100nm以下の金、銀、銅等の金属微粒子が溶媒中に分散されたものであって、マトリックス中に金属微粒子分散液を分散させることによって、金属の種類に対応したプラズモン共鳴振動による吸収を示す。
【0019】
金属微粒子分散液は、特許第2561537号に開示されたガス中蒸発法、特開平11−319538号に開示された金属の塩からの還元析出法等によって作製される。これらの金属微粒子分散液は、特開2002−121606号に開示されているように、アルキルアミン、カルボン酸アミド、アミノカルボン酸塩等の分散剤を用いて分散安定性を増大させることもできる。金属の種類としては、低出力のグリーンレーザーの波長に対応する吸収を示す金微粒子が最も好ましい。
【0020】
ポリウレタン樹脂組成物は、ポリオールとイソシアネートの重付加反応によって生成される。ポリオールの種類としては、アクリル系、ポリエステル系、ポリエーテル系、フッ素系等があり、ポリエステル系あるいはアクリル系が好ましい。
【0021】
アクリル系ポリオールは、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体と、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系単量体、及び(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等のエステル基を有する(メタ)アクリル系単量体を共重合させることによって得られる。
【0022】
ポリエステル系ポリオールは、例えば、アジピン酸、ヘキサメチレンジカルボン酸、イソフタル酸、オルトフタル酸からなる群から選ばれた一種または二種以上のジカルボン酸と、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びテトラメチレングリコール、カプロラクトンジオールからなる群から選ばれた一種または二種以上のジオールとから形成されたポリエステル単位を主鎖に含み、少なくとも主鎖両末端に水酸基を有するものが用いられる。
【0023】
イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが用いられ、特に限定されるものではない。
【0024】
前記金属微粒分散液、ポリオール、及びイソシアネートを、トルエン、p−キシレン等の有機溶剤に混合することにより、ペーストが作製される。金属微粒子分散液の配合量は特に限定されるものではないが、ポリウレタンマトリックス中での均一な分散を考慮すれば、5wt%〜20wt%が好ましい。このペーストは、アプリケータ、スピンコータ等を用いて紫外線感光性樹脂層3上に塗布され、加熱乾燥され、マスク層4が形成される。マスク層4の膜厚は、10μm〜100μm程度が好ましく、紫外線(例えば波長365nm)の透過率が1%以下好ましくは0.5%以下になるように設定される。
【0025】
続いて、前記のようにして得られたフレキソグラフ印刷原版製造用積層体を用いたフレキソグラフ印刷原版の製造方法について説明する。
【0026】
まず、図1(b)に示すように、フレキソグラフ印刷原版製造用積層体1のマスク層4側から所定のパターンに従って可視光レーザー光Lを照射する。可視光レーザー光Lとしては、マスク層4を構成する金属微粒子が金微粒子である場合は、波長532nm、出力10mW〜50mWのグリーンレーザーが好適に用いられる。グリーンレーザー光の照射を受けた部分では、金微粒子が吸収した光エネルギーが熱エネルギーに変換され、図1(c)に示すように、マスク層4に凹部5からなるパターンが形成される。なお、この凹部5は、紫外線感光性樹脂層3が露出するように形成されることが望ましい。
【0027】
次に、図1(c)に示すように、フレキソグラフ印刷原版製造用積層体1のマスク層4側から紫外線UVを照射する。紫外線光源としては、高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、キセノンランプ、カーボンアーク灯等が用いられる。紫外線UVの照射によって、紫外線感光性樹脂層3の、マスク層4に形成された凹部5に対応した部分が硬化し、潜像が形成される。ここで、後述する現像に対する安定性を付与するために、支持体層2の側からも全面に紫外線照射を行うことがより好ましい。
【0028】
続いて、フレキソグラフ印刷原版製造用積層体1全体を現像液に浸漬する。現像液としては、トルエン、デカリン、テトラクロロエチレエン等が用いられる。現像液への浸漬後、ブラッシングあるいはノズルからのエア噴射によって、紫外線未露光部が除去され、図1(d)に示すように、支持体層2及びその上に設けられた、凹部5に対応した凸部6からなるレリーフ、即ちフレキソグラフ印刷原版11が得られる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体及びフレキソグラフ印刷原版の製造方法について、実施例を示しながらさらに詳細に説明する。
【0030】
支持体層としてガラス基板を用意し、その上に紫外線感光性樹脂層としてゲル状紫外線感光性樹脂フレキソ版材(日本電子精機社製ジェムプレートSX17:厚さ1.7mm)を重ねた。
【0031】
マスク層を形成するペーストとして、トルエンに溶解しているアクリル系ポリウレタン(川上塗料社製ウレオール600/E−1)に、ポリオール/イソシアネートに対する濃度が17wt%となるように濃度20wt%の金微粒子分散液(真空冶金社製パーフェクトゴールド)を混合し、ペーストを作製した。
【0032】
前記ペーストを、紫外線感光性樹脂層上にアプリケータを用いて成膜、乾燥させ、厚さ20μmのマスク層を形成した。
【0033】
前記マスク層上にグリーンレーザ(波長:532nm、強度:23mW)を照射し、複数の直径300μmの穴パターンを描画した。
【0034】
前記穴パターン描画後、超高圧水銀ランプを用いて1,862J/cmの条件で、紫外線感光性樹脂層を露光した。続いて、現像液としてのトルエンに5分間浸漬後、ブラッシング、水洗を施し、底部の直径800μm、頂上部の直径300μm、高さ300μmの円錐台状凸部からなるレリーフ、すなわちフレキソグラフ印刷原版が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
低出力の可視光レーザーを用いてフレキソグラフ印刷原版製造用積層体及びそれを用いたフレキソグラフ印刷原版を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)本発明のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体を示す模式図である。(b)〜(d)本発明のフレキソグラフ印刷原版の製造方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 フレキソグラフ印刷原版製造用積層体
2 支持体層
3 紫外線感光性樹脂層
4 マスク層
5 凹部
6 凸部
11 フレキソグラフ印刷原版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層、紫外線感光性樹脂層、及び金属微粒子分散液を含むポリウレタン樹脂組成物からなるマスク層をこの順に積層してなることを特徴とするフレキソグラフ印刷原版製造用積層体。
【請求項2】
金属微粒子が金微粒子である請求項1記載のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のフレキソグラフ印刷原版製造用積層体のマスク層に可視光レーザー光を照射して所定のマスクパターンを形成する工程、露光工程、及び現像工程からなることを特徴とするフレキソグラフ印刷原版の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−126517(P2006−126517A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314914(P2004−314914)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】