説明

フロントエンジンマウント構造

【課題】各種パワーユニットに対応可能で、製造及び製品管理の簡略化が可能となり、製造コストを削減することが可能なフロントエンジンマウント構造を提供する。
【解決手段】車体側取り付けブラケット34と、エンジン側取り付けブラケット36と、エンジン側取り付けブラケットに一体的に保持される防振用弾性体38とを有するフロントエンジンマウント構造30において、エンジン側取り付けブラケットは、防振用弾性体を一体的に保持してエンジン側に取り付け可能にされた弾性体保持ブラケット40と、弾性体保持ブラケットより車体側取り付けブラケット側に突出されて弾性体保持ブラケットを車体側取り付けブラケットに対し高さ方向及び傾斜方向で調整可能にされた調整用ブラケット42とが予め一体的に形成され、車体側取り付けブラケットは、調整用ブラケットを差し込んで高さ及び傾斜角度を調整して固定可能にする差込孔44を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントエンジンマウント構造に関し、特に、FF車にパワーユニとを横置き支持する場合に用いるフロントエンジンマウント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のFF車において、エンジン及びトランスミッションを一体化したパワーユニットを横置き搭載させることが行われている。
【0003】
このような場合、アクセルペダルをオン・オフしたときに、エンジン回転数の増減に伴う反作用でパワーユニットが前後方向に揺動して振動が発生することが知られている。
【0004】
そのため、複数のマウント、例えば、サイドエンジンマウント、トランスミッションマウント、フロントエンジンマウント、リヤエンジンマウント等を介してパワーユニットを支持することが行われている(特許文献1参照)。
【0005】
特に、アイドリング振動の低減として、フロントエンジンマウントの配置が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−19909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなフロントエンジンマウントにあっては、エンジンの振動に合わせて防振用弾性体の角度と中心位置を変える必要性がある。
【0008】
これに対し、従来では、エンジンの動きに応じてた防振用弾性体の角度と中心位置を変えた状態のフロントエンジンマウントを新設することで対応しており、これでは個々のエンジンに合わせてフロントエンジンマウントを多種新設しなければならず、製造が煩雑で、製品管理も煩雑となり、製造コストが増大してしまうこととなるものであった。
【0009】
本発明の目的は、各種パワーユニットに対応可能で、製造及び製品管理の簡略化が可能となり、しかも、製造コストを削減することが可能なフロントエンジンマウント構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明のフロントエンジンマウント構造は、車体側に取り付けるための車体側取り付けブラケットと、一方で前記車体側取り付けブラケットに一体的に取り付けられ、他方でエンジン側に取り付け可能にされたエンジン側取り付けブラケットと、前記エンジン側取り付けブラケットに一体的に保持される防振用弾性体とを有するフロントエンジンマウント構造において、
前記エンジン側取り付けブラケットは、前記防振用弾性体を一体的に保持して前記エンジン側に取り付け可能にされた弾性体保持ブラケットと、前記弾性体保持ブラケットより前記車体側取り付けブラケット側に突出されて前記弾性体保持ブラケットを前記車体側取り付けブラケットに対し高さ方向及び傾斜方向で調整可能にされた調整用ブラケットとが予め一体的に形成され、
前記車体側取り付けブラケットは、前記調整用ブラケットを差し込んで高さ及び傾斜角度を調整して固定可能にする差込孔を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、車体側取り付けブラケットに対してエンジン側取り付けブラケットをサブアセンブリとし、しかも、エンジン側取り付けブラケットに車体側取り付けブラケットに対し高さ方向及び傾斜方向で調整可能にされた調整用ブラケットを一体的に設けることで、防振用弾性体の角度及び中心位置を容易に調整することができ、その結果、各種パワーユニットに対応可能で、製造及び製品管理の簡略化が可能となり、しかも、製造コストを削減することが可能となる。
【0012】
本発明においては、前記弾性体保持ブラケットは、前記調整用ブラケット対応位置に取り付け用突起部を有し、
前記調整用ブラケットの取り付け用突起部対応位置には取り付け孔が形成され、
前記弾性体保持ブラケットと前記調整用ブラケットとは、前記取り付け用突起部を前記取り付け孔に差し込んでかしめにより一体化されるようにすることができる。
【0013】
このような構成とすることにより、弾性体保持ブラケットの取り付け用突起部を調整用ブラケットの取り付け孔に差し込んでかしめることで、簡単な構造で安価にエンジン側取り付けブラケットを容易かつ確実にサブアセンブリ化することができる。
【0014】
本発明においては、前記弾性体保持ブラケットは、前記調整用ブラケット対応位置に取り付け用突起部を有する半割り状ブラケット部材を予め形成しておき、これら一対の半割り状ブラケット部材の両端部を溶接にて接合して環状に形成され、
前記調整用ブラケットの取り付け用突起部対応位置には取り付け孔が形成され、
前記弾性体保持ブラケットと前記調整用ブラケットとは、前記一方の取り付け用突起部を前記取り付け孔に差し込んでかしめにより一体化されるようにすることができる。
【0015】
このような構成とすることにより、同一部品である半割り状ブラケット部材を溶接することで、部品点数を少なくして弾性体保持ブラケットを安価で、容易かつ確実に製造することができる。
【0016】
また、弾性体保持ブラケットには取り付け用突起部が形成されているので、この取り付け用突起部を調整用ブラケットの取り付け孔に差し込んでかしめることで、簡単な構造で安価にエンジン側取り付けブラケットを容易かつ確実にサブアセンブリ化することができる。
【0017】
さらに、調整用ブラケットと接合した取り付け用突起部と異なる側の取り付け用突起部は、他の部品、例えばダイナミックダンパーやマスダンパーの取り付け等に用いることができ、これらの取り付けを容易かつ確実に行うことができる。
【0018】
本発明においては、前記車体側取り付けブラケットは、前記エンジン側取り付けブラケットが高さ方向及び傾斜方向で調整可能に前記エンジン側取り付けブラケットの底部及び側部を覆う形状とされ、前記エンジン側取り付けブラケットの高さ方向及び傾斜方向での調整後に前記エンジン側取り付けブラケットと溶接にて接合されるようにすることができる。
【0019】
このような構成とすることにより、車体側取り付けブラケットに変更を加えることなく、車体側取り付けブラケットをも共用することができ、その結果、より一層、製造及び製品管理の簡略化が可能となり、しかも、製造コストを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるフロントエンジンマウント構造を示す正面図である。
【図2】図1のエンジン側取り付けブラケットの正面図である。
【図3】図1の調整用ブラケットと車体側取り付けブラケットとの接合状態を示す部分拡大図である。
【図4】パワーユニットに対するマウントの取り付け状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
図4は、パワーユニットに対するマウントの取り付け状態を示す斜視図である。
【0023】
このパワーユニット10は、図4に示すように、自動車の車体前部に搭載されるもので、左側に位置するエンジン12と、右側に位置するトランスミッション14とを一体化してなる。
【0024】
エンジン12は、シリンダブロック16とシリンダヘッド18とをそれぞれ下側及び上側にして配置され、かつ図示せぬクランクシャフトを車体左右方向に向けて横置きに配置されるようになっている。
【0025】
また、パワーユニット10は、エンジン回転数の増減に伴う反作用でパワーユニットが前後方向に揺動して振動が発生するため、4個のマウント、例えば、エンジン12を左側のフロンとサイドフレーム20に支持させるサイドエンジンマウント22、トランスミッション14を右側のフロントサイドフレーム24に支持させるトランスミッションマウント26、エンジン12を左右のフロントサイドフレーム20,24を接続するクロスメンバ28に支持させるフロントエンジンマウント30、エンジン12を左右のフロントサイドフレーム20,24を接続する図示せぬクロスメンバに支持させるリヤエンジンマウント32(エンジンの後面に隠れて見えないため黒丸で表示)等を介して車体に支持されるようになっている。
【0026】
これら4個のメンバの内、フロントエンジンマウント30は、エンジンの振動に合わせて防振用弾性体の角度と中心位置を変える必要性がある。
【0027】
そのため、本実施の形態では、図1に示すようなフロントエンジンマウント構造を採用している。
【0028】
このフロントエンジンマウント30は、車体側(クロスメンバ28)に取り付けるための車体側取り付けブラケット34と、一方で車体側取り付けブラケット34に一体的に取り付けられ、他方でエンジン12側に取り付け可能にされたエンジン側取り付けブラケット36と、エンジン側取り付けブラケット36に一体的に保持される防振用弾性体38とを有する。
【0029】
エンジン側取り付けブラケット36は、図2にも示すように、弾性体保持ブラケット40と、調整用ブラケット42とを有している。
【0030】
弾性体保持ブラケット40は、ほぼ十字状の防振用弾性体38の外周を覆うほぼ十字状の環状のものとされ、防振用弾性体38を内部側に一体的に保持してエンジン12側に取り付け可能にされている。
【0031】
調整用ブラケット42は、弾性体保持ブラケット40と予め一体化されてエンジン側取り付けブラケット36としてサブアセンブリされるもので、弾性体保持ブラケット40より車体側取り付けブラケット34側に突出されて、弾性体保持ブラケット40を車体側取り付けブラケット34に対し高さ方向及び傾斜方向で調整可能にされている。
【0032】
車体側取り付けブラケット34は、エンジン側取り付けブラケット36を保持した状態で車体側(クロスメンバ28)に取り付けられるもので、図3に示すように、調整用ブラケット42対応位置に調整用ブラケット42を差し込んで、エンジン側取り付け用突起部36の高さ及び傾斜角度を調整して固定可能にする差込孔44を有している。
【0033】
そして、車体側取り付けブラケット34の差込孔44に調整用ブラケット42を差し込んでエンジン側取り付け用突起部36を所定の高さh及び傾斜の角度θで調整した後、調整用ブラケット42と差し込み孔44位置の車体側取り付け用突起部34とをアーク溶接するようにしている。
【0034】
このように、車体側取り付けブラケット34に対してエンジン側取り付けブラケット36をサブアセンブリとし、しかも、エンジン側取り付けブラケット36に車体側取り付けブラケット34に対し高さ方向及び傾斜方向で調整可能にされた調整用ブラケット42を一体的に設けることで、防振用弾性体38の角度及び中心位置を容易に調整することができ、その結果、各種パワーユニットに対応可能で、製造及び製品管理の簡略化が可能となり、しかも、製造コストを削減することが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態においては、弾性体保持ブラケット40は、調整用ブラケット42対応位置に取り付け用突起部46を有する半割り状ブラケット部材48を予め形成しておき、これら一対の半割り状ブラケット部材48の両端部をアーク溶接にて接合して環状に形成されるようになっている。
【0036】
これに対し、調整用ブラケット42の取り付け用突起部46対応位置には取り付け孔50が形成され、弾性体保持ブラケット40と調整用ブラケット42とは、一方(下側)の取り付け用突起部46を取り付け孔50に差し込んでかしめにより一体化されるようになっている。
【0037】
このようにすることで、同一部品である半割り状保持ブラケット部材48を溶接することで、部品点数を少なくして弾性体保持ブラケット40を安価で、容易かつ確実に製造することができるようになっている。
【0038】
また、弾性体保持ブラケット40には取り付け用突起部46が形成されているので、この取り付け用突起部46を調整用ブラケット42の取り付け孔50に差し込んでかしめることで、簡単な構造で安価にエンジン側取り付けブラケット36を容易かつ確実にサブアセンブリ化することができる。
【0039】
さらに、調整用ブラケット42と接合した取り付け用突起部46と異なる側(上側)の取り付け用突起部46は、他の部品、例えばダイナミックダンパーやマスダンパーの取り付け等に用いることができ、これらの取付を容易かつ確実に行うことができる。
【0040】
また、本実施の形態では、車体側取り付けブラケット34は、エンジン側取り付けブラケット36が高さ方向及び傾斜方向で調整可能にエンジン側取り付けブラケット36の底部及び側部を覆う形状とされ、エンジン側取り付けブラケット36の高さ方向及び傾斜方向での調整後にエンジン側取り付けブラケット36と溶接にて接合されるようにすることで、車体側取り付けブラケット34に変更を加えることなく、車体側取り付けブラケット34をも共用することができ、その結果、より一層、製造及び製品管理の簡略化が可能となり、しかも、製造コストを削減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、ホン発明の要旨のは煮ないにおいて種々の形態に変形可能である。
【0042】
例えば、前記実施の形態では、弾性体保持ブラケットを取り付け用突起部を有する半割り上部ラケット部材にて形成し、一対の半割り状ブラケット部材の両端部を溶接して形成するようにしているが、この例に限らず、弾性体保持ブラケットは、調整用ブラケット対応位置に一箇所の取り付け用突起部を有する環状のものとして形成することも可能である。
【符号の説明】
【0043】
12 エンジン
14 トランスミッション
30 フロントエンジンマウント
34 車体側取り付けブラケット
36 エンジン側取り付けブラケット
38 防振用弾性体
40 弾性体保持ブラケット
42 調整用ブラケット
44 差込孔
46 取り付け用突起部
48 半割り状ブラケット部材
50 取り付け孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に取り付けるための車体側取り付けブラケットと、一方で前記車体側取り付けブラケットに一体的に取り付けられ、他方でエンジン側に取り付け可能にされたエンジン側取り付けブラケットと、前記エンジン側取り付けブラケットに一体的に保持される防振用弾性体とを有するフロントエンジンマウント構造において、
前記エンジン側取り付けブラケットは、前記防振用弾性体を一体的に保持して前記エンジン側に取り付け可能にされた弾性体保持ブラケットと、前記弾性体保持ブラケットより前記車体側取り付けブラケット側に突出されて前記弾性体保持ブラケットを前記車体側取り付けブラケットに対し高さ方向及び傾斜方向で調整可能にされた調整用ブラケットとが予め一体的に形成され、
前記車体側取り付けブラケットは、前記調整用ブラケットを差し込んで高さ及び傾斜角度を調整して固定可能にする差込孔を有することを特徴とするフロントエンジンマウント構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記弾性体保持ブラケットは、前記調整用ブラケット対応位置に取り付け用突起部を有し、
前記調整用ブラケットの取り付け用突起部対応位置には取り付け孔が形成され、
前記弾性体保持ブラケットと前記調整用ブラケットとは、前記取り付け用突起部を前記取り付け孔に差し込んでかしめにより一体化されることを特徴とするフロントエンジンマウント構造。
【請求項3】
請求項1において、
前記弾性体保持ブラケットは、前記調整用ブラケット対応位置に取り付け用突起部を有する半割り状ブラケット部材を予め形成しておき、これら一対の半割り状ブラケット部材の両端部を溶接にて接合して環状に形成され、
前記調整用ブラケットの取り付け用突起部対応位置には取り付け孔が形成され、
前記弾性体保持ブラケットと前記調整用ブラケットとは、前記一方の取り付け用突起部を前記取り付け孔に差し込んでかしめにより一体化されることを特徴とするフロントエンジンマウント構造。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記車体側取り付けブラケットは、前記エンジン側取り付けブラケットが高さ方向及び傾斜方向で調整可能に前記エンジン側取り付けブラケットの底部及び側部を覆う形状とされ、前記エンジン側取り付けブラケットの高さ方向及び傾斜方向での調整後に前記エンジン側取り付けブラケットと溶接にて接合されることを特徴とするフロントエンジンマウント構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−221928(P2010−221928A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73505(P2009−73505)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】