説明

フロー系レーザーアブレーション用ポンプ及びレーザーアブレーションシステム

【課題】レーザーアブレーションシステムに固形物を沈降させずに一定量を安定して供給し得るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの提供。
【解決手段】レーザー光を発する光源を含み、固形物を分散させた分散液を流路に連続的又は間歇的に供給し、該流路にレーザー光を照射し、分散液中の固形物を微細化させるレーザーアブレーションシステムに分散液を供給するために用いられるフロー系レーザーアブレーション用ポンプであって、前記ポンプは、前記分散液へ機械的流動又は振動を与える沈降防止手段を有することを特徴とするフロー系レーザーアブレーション用ポンプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中に難溶性固形物(例えば水中に難水溶性化合物)を分散させた分散液を連続的に流動させた物に対して、レーザー光を照射することによって、分散液中の固形物を微細化するレーザーアブレーションシステムとこれに用いられるフロー系レーザーアブレーション用ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
抗ガン剤などの一部の医薬用有機化合物は、難水溶性のため細胞に吸収され難い。このような難水溶性医薬品の細胞取り込み効率を向上させるために、ごく最近になって、患部の細胞膜を通過し易い大きさにまで薬物を極微粒子化する技術の開発が行われてきている。すなわち、癌細胞の細胞膜は、正常な細胞では通過できないおよそ50nm以上、200nm以下の大きさの薬物でも通過できることがわかってきており、かかる知見を利用して、この粒子範囲とされた薬物を癌細胞に選択的に供給する技術が、癌の治療方法として、有望視されつつある。
また、将来、薬物の粒子径を自在に調整することができれば、癌だけでなく他の病変についても、各種薬物を、選択的に治療を要する部位に作用させることができることが可能となる。
このような背景の下、近年、薬物の粒子範囲を調製するために、各種の極微粒子製造装置が提案されている。この極微粒子製造装置としては、例えば、ウェットボールミルと称せられる粉砕装置がある。この粉砕装置は、多数の金属製、又はセラミック製、或いはプラスチック製のボールを、鍔状リングを有するローターとともに円筒容器に収納し、薬物をボールとローターの回転摩擦で粉砕する装置である。
【0003】
また、有機化合物の極微粒子製造方法としては、ナノ秒あるいはフェムト秒短パルスレーザービームを用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。これは、透明容器中の水中懸濁された薬物に対して、外部からパルスレーザーを照射し、薬物を水中粉砕する方法である。
【0004】
レーザーは良く知られているように、エネルギー密度が非常に高い。レーザーアブレーションは、対象とする材料(固形物)に対して高強度のレーザー光を照射することにより、光励起によって対象とする材料のイオン化や化学結合の切断、もしくは対象とする材料に高い熱エネルギーが蓄積されることにより、被照射領域の温度が急激に上昇することを利用した技術である。この急激な温度上昇により、材料は急激に液化・気化し、より温度の高い内部の爆発的な体積膨張にともなって、材料がクラスターイオンとなって、その表面に対して垂直方向に噴出する。このクラスターイオンなどによる薄膜の形成方法が、半導体製造分野などに用いられている。レーザーアブレーションは、多くの場合、気体中(真空、窒素もしくは大気中)で行われている。
【0005】
また、液中にて高強度のレーザーを固形物に照射して、固形物を微細化する、液中レーザーアブレーション微細化処理は、液中に難溶性固形物を分散させた分散液に対して、高強度のレーザー光を照射することにより、被照射物質である分散液中の固形物を微細化する技術として用いられている。
このように液中にてレーザーアブレーション微細化処理を行う技術的意義としては、(1)微細化された固形物が液中に保持されるため、空気中に飛散することを防止できる、(2)真空装置などの大掛かりな装置が不要、(3)液中にて実施するため、外部からの不純物の混入を防止できる、(4)固形物の周囲が液体で覆われているため、予期せぬ温度上昇が生じ難い、などが挙げられる。
【特許文献1】特開2005−238342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この液中レーザーアブレーション微細化処理を安定的に行うためには、分散液中の固形物を均一に分散させ、且つ、定量的にレーザー光照射位置に送液する必要がある。
この液中レーザーアブレーション微細化処理において適用する固形物の粒子径は、レーザー照射前の一次粒子径が100〜200μm程度、レーザー照射後の二次粒子径が50〜150nm程度と想定される。
粒子の沈降に関する一般的な条件として、例えば、沈降速度:V(cm/sec)は、有機化合物の密度ρ:1.1(g/cm)、水の密度ρw:1.0(g/cm)、重力加速度g:980(cm/sec)、水の粘度η:0.01poiseと仮定すると、下記ストークスの式(1):
V=2(ρ−ρw)gr/9η ・・・(1)
により、粒子径が100nmの粒子の場合、V=5.45−8cm/sec、粒子径が150μmの粒子の場合、V=0.123cm/secであり、一次粒子は沈降が早く、二次粒子はほとんど沈降しない。
分散液中の固形物粒子に沈降を生じると、分散液濃度が不均一になる、付着を起こす、再凝集を起こす、などの微細化処理を行う上で重大な問題を招く可能性が高い。
【0007】
一般に、液中レーザーアブレーション微細化処理を実行するためのレーザーアブレーションシステムとしては、レーザー光源と、分散液を流す流路と、該流路に分散液を供給するポンプとを少なくとも有し、このポンプによって流路に所定の流速で分散液を流すと共に、該流路にレーザー光を照射できるように構成されたシステムが挙げられる。この種のシステムで適用する流量は、通常〜10mL/min程度である。ポンプから分散液を吐出する方法は、間歇の場合と連続の場合とがある。また、吐出流量は高精度に調整が必要である。
【0008】
前記流量範囲より、適用されるポンプとしては、液体クロマトグラフ用に多用される往復動プランジャーポンプやシリンジポンプが想定されるが、プランジャーポンプはチェッキ弁を装備していることから粒子の付着や噛み込みによる作動不良が発生する。また、汎用のシリンジポンプは、分散液吸込み後の静止時間及び押切り時間が長いと沈降を生じてしまう。
また、連続式の定量ポンプ(ダイヤフラム、ロータリー、ギヤ、一軸ネジ等)は、有効な沈降防止機構の組込みが困難であり、非接触部、よどみ部に付着を生じやすい。また、適用流量範囲のものが少ない。
さらに、液中レーザーアブレーション微細化処理を医薬品へ適用する場合、前記システムに使用するポンプとしては、洗浄性やディスポーザブルの考慮が必要となるため、複雑な構造の沈降防止機構は採用し難い。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、レーザーアブレーションシステムに固形物を沈降させずに一定量を安定して供給し得るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、レーザー光を発する光源を含み、固形物を分散させた分散液を流路に連続的又は間歇的に供給し、該流路にレーザー光を照射し、分散液中の固形物を微細化させるレーザーアブレーションシステムに分散液を供給するために用いられるフロー系レーザーアブレーション用ポンプであって、
前記ポンプは、前記分散液へ機械的流動又は振動を与える沈降防止手段を有することを特徴とするフロー系レーザーアブレーション用ポンプを提供する。
【0011】
本発明のフロー系レーザーアブレーション用ポンプにおいて、前記ポンプが、シリンジと、該シリンジ内に摺動可能に挿入されたプランジャーと、該プランジャーを進退可能に駆動させるプランジャー駆動機とを有するシリンジポンプであることが好ましい。
【0012】
本発明のフロー系レーザーアブレーション用ポンプにおいて、前記沈降防止手段は、マグネットスターラ、撹拌翼、超音波発振機からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、レーザー光を発する光源を含み、固形物を分散させた分散液を流路に連続的又は間歇的に供給し、該流路にレーザー光を照射し、分散液中の固形物を微細化させるレーザーアブレーションシステムに分散液を供給するために用いられるフロー系レーザーアブレーション用ポンプであって、
シリンジと、該シリンジ内に摺動可能に挿入されたプランジャーと、該プランジャーを進退可能に駆動させるプランジャー駆動機とを有し、又は分散液へ機械的流動又は振動を与える沈降防止手段をさらに有するシリンジポンプと、
サブシリンジとフリープランジャとを有するフリーピストンと、
前記シリンジポンプの吐出口を第1通路に接続し、前記フリーピストンの吐出口を第2通路に接続し、第3通路がポンプ吐出口となるように接続された3方弁とを有することを特徴とするフロー系レーザーアブレーション用ポンプを提供する。
【0014】
また本発明は、レーザー光を発する光源を含み、固形物を分散させた分散液を流路に連続的又は間歇的に供給し、該流路にレーザー光を照射し、分散液中の固形物を微細化させるレーザーアブレーションシステムにおいて、
前記流路に前記分散液を供給するポンプが、本発明に係る前記フロー系レーザーアブレーション用ポンプであることを特徴とするレーザーアブレーションシステムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフロー系レーザーアブレーション用ポンプは、分散液へ機械的流動又は振動を与える沈降防止手段、又はポンプとフリーピストン間で分散液を往復動させて分散液中の固形物の沈降を抑制することにより、分散液中の固形物を沈降させずに、常時一定の固形物濃度の分散液を安定してレーザーアブレーションシステムの流路に供給することができる。
本発明のフロー系レーザーアブレーション用ポンプにおいて、該ポンプをシリンジポンプとし、且つ沈降防止手段をマグネットスターラ、撹拌翼、超音波発振機から選択して構成することで、沈降防止手段を含む該ポンプの構造が簡略なものとなり、ポンプの分解洗浄が容易となるので、医薬品の製造などの用途において好ましい。
本発明のレーザーアブレーションシステムは、前述したように分散液中の固形物を沈降させずに、常時一定の固形物濃度の分散液を安定して供給可能なフロー系レーザーアブレーション用ポンプを用いたものなので、固形物の分散状態が安定した分散液を正確な流量で流路に供給し、この流路にレーザー光を照射して液中レーザーアブレーション微細化処理を行うことができるので、分散液中の固形物の沈降(再凝集)による微細化処理効率の低下を抑制でき、効率よく固形物の微細化処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第1実施形態を示す概略断面図である。本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、先端に吐出口を有するシリンジ1と、該シリンジ1内に摺動可能に挿入されたプランジャー2と、プランジャー2の先端に装着された往復動シール3と、プランジャー2を進退可能に駆動させるプランジャー駆動機7とを有するシリンジポンプであり、さらに沈降防止手段として、プランジャー2の内部に設けられたマグネットスターラ5及びそれを回転駆動させるマグネットスターラ駆動機6と、プランジャー2の先端面外側に磁力によってマグネットスターラ5と連動し回転するように配置された撹拌子4とを有している。
【0017】
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、吐出口からシリンジ1内に分散液を吸い込んだ後、プランジャー駆動機7を吐出側に駆動させ、シリンジ1内の分散液を吐出口から一定流量で押し出すようになっている。また、シリンジ1内に分散液が入った状態で、マグネットスターラ5を回転駆動させることによって、このマグネットスターラ5の磁力に連動する撹拌子4がプランジャー2の先端面外側で回転し、シリンジ1内の分散液を撹拌することで、分散液中の固形物粒子の沈降を防ぐようになっている。
【0018】
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、シリンジポンプを例示しているが、本発明においてポンプの基本的な構造は、このシリンジポンプに限定されるものではなく、往復動プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ロータリーポンプなどの他のポンプ装置であってもよい。ただし、シリンジポンプであれば、非接触部、よどみ部が極めて少なくなるので、ポンプ内面への分散液中の固形物粉末の付着・再凝集を少なくできる利点がある。
【0019】
このフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20の主要部であるシリンダ1やプランジャー2の材質は、有機物や溶媒との反応を起こさないフッ素樹脂やガラスや耐食性金属とすることが好ましい。また、分散液と接するマグネットスターラ4についても、棒状磁石をフッ素樹脂やガラスでコーティングして作製したものが好ましい。
【0020】
マグネットスターラ駆動機6は、プランジャー2の内部に配置され、駆動用の電力は、プランジャー2の後方から電線等を挿通して接続して供給するか、又は無接触給電システムによりポンプ外からマグネットスターラ駆動機6に電力を供給することもできる。
【0021】
このフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20の容量調整は、シリンジサイズ、シリンジの本数及びプランジャー2の駆動速度により容易に且つ高精度に調整することができる。また、撹拌子4によるシリンジ1内の分散液の撹拌強度は、使用する撹拌子4のサイズやマグネットスターラ駆動機6への供給電力によって調節することが可能であり、マグネットスターラ5の回転速度及び撹拌子4の大きさは、分散液中の固形物の密度、大きさ及び種類により最適な物を選択することが望ましい。
【0022】
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、シリンジポンプにマグネットスターラ5を組み込んで、撹拌子4で分散液を撹拌する構造なので、撹拌子4で分散液を撹拌しつつ、分散液を吐出させることで、分散液中の固形物の沈降を抑制することができ、分散液中の固形物を沈降させずに、常時一定の固形物濃度の分散液を安定してレーザーアブレーションシステムの流路に供給することができる。
また、本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、シリンジポンプにマグネットスターラ5を組み込んで、撹拌子4で分散液を撹拌する構造なので、部品点数が少なく、ポンプの分解洗浄が容易となり、医薬品の製造などの用途において好ましい。また、プランジャー2内のマグネットスターラ5及びマグネットスターラ駆動機6を着脱可能とすれば、シリンジ1及びプランジャー2のディスポーザブル対応も容易となる。
【0023】
図2は、本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第2実施形態を示す概略断面図である。本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、沈降防止手段を変更したこと以外は、前記第1実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20と同様の構成要素を備えて構成されている。
【0024】
本実施形態において、沈降防止手段は、プランジャー2内に設けられた撹拌機駆動機10と、該撹拌機駆動機10の回転軸に固定された撹拌翼8と、プランジャー2側に設けられた回転軸シール9とからなっている。この撹拌翼8は、撹拌機駆動機10を駆動させることで、シリンジ1内で回転し、シリンジ1内の分散液を撹拌する。撹拌機駆動機10への電力の供給は、前記マグネットスターラ駆動機6の場合と同様に、プランジャー2の後方から電線等を挿通して接続するか、又は無接触給電システムによりポンプ外から行うことができる。
【0025】
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、前述した第1実施形態のポンプとほぼ同様の効果を得ることができる。
【0026】
図3は、本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第3実施形態を示す概略断面図である。本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、沈降防止手段を変更したこと以外は、前記第1実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20と同様の構成要素を備えて構成されている。
【0027】
本実施形態において、沈降防止手段は、プランジャー2内の先端側及びシリンジ1にそれぞれ設けられた超音波素子11と、これらの超音波素子11に高周波電流を送る超音波発振器12とからなっている。このフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20では、超音波素子11から超音波を分散液中に照射し、音場を形成することにより、分散液の流動、又は固形物の浮揚を行うことができる。
【0028】
超音波素子11から発生させる超音波は、単一波長の適用でも構わないが、分散液に与える流動・浮揚効果は周波数により特性が異なり、また単一波長では効果のムラ(定在波の位置)もあることから、1波長以上の複数波長の適用が安定した沈降防止効果を得る上で望ましい。
【0029】
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、前述した第1実施形態や第2実施形態のポンプとほぼ同様の効果を得ることができ、さらに、シリンジ1内面に撹拌子4や撹拌翼8を設けず、プランジャー2内部に設けた超音波素子11やシリンジ1の外側に設けた超音波素子11から、シリンジ1内の分散液に超音波を照射し、分散液の流動、又は固形物の浮揚を行うものなので、より効率よく固形物の沈降を防止することができる。また。シリンジ1内に余分な部品を設けずに沈降防止効果を得ることができ、シリンジ1やプランジャー2の分解洗浄がより容易になる。
【0030】
図4は、本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第4実施形態を示す概略断面図である。
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、シリンジ1と、シリンジ1内に摺動可能に挿入されたプランジャー2と、プランジャー2の先端に装着された往復動シール3と、プランジャー2を進退可能に駆動させるプランジャー駆動機7とを有するシリンジポンプ16と、
サブシリンジ13とフリープランジャ14とを有し、駆動源を有していないフリーピストン17と、
前記シリンジポンプ16の吐出口を第1通路に接続し、前記フリーピストン17の吐出口を第2通路に接続し、第3通路がポンプ吐出口となるように接続された3方弁15とからなっている。
【0031】
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、シリンジポンプ16のプランジャー2を往復動させることにより、分散液をシリンジポンプ17とフリーピストン17との間で往復移動させることで、分散液を流動させることにより、固形物の沈降を防止し、また分散液は3方弁15の第3通路から吐出させるようになっている。
【0032】
本実施形態のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、前述した第1実施形態〜第3実施形態のポンプとほぼ同様の効果を得ることができる。
本実施形態において、シリンジポンプ17とフリーピストン17との一方又は両方に、図1〜図3に示したいずれかの沈降防止手段を設けることも可能である。
【0033】
図5は、本発明の液中レーザーアブレーションシステムの実施形態を示す概略構成図である。図5中、符号20はフロー系レーザーアブレーション用ポンプ、21は分散液供給部、22は配管、23はマイクロ流路導入部、24はレーザー光源、25はマイクロ流路、26は回収部、27は磁気駆動回転翼、28は再凝集防止装置をそれぞれ示している。
【0034】
このレーザーアブレーションシステムは、レーザー光源24より発振したレーザー光LAを、マイクロ流路25内を流動する、固形物を液中に分散させた分散液に照射することにより、分散液中の固形物を微細化するシステムである。
レーザー光源24は、マイクロ流路25の受光部に対向し、所定の間隔を置いて設けられている。
【0035】
レーザー光源24としは、エキシマレーザー、窒素レーザー、YAGレーザー、Arイオンレーザー、色素レーザー、半導体レーザー、チタンサファイヤレーザー、ガラスレーザーなどが用いられる。
【0036】
分散液供給部21は、フロー系レーザーアブレーション用ポンプ20の前段に、流路22を介してフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20と接続され、微細化の対象とする固形物を液中に分散させた分散液に対して、超音波処理等を施した一次粒子を一時的に貯留するためのものである。この分散液供給部21は、固形物の飛散を防止するとともに、外部からの不純物の混入を防止し、分散液の濃度を一定に保つために、密閉可能とする。また、分散液供給部21内の分散液の濃度が局所的に不均一にならないように、スターラーなどの撹拌装置を設け、分散液を撹拌することが好ましい。
【0037】
フロー系レーザーアブレーション用ポンプ20は、分散液供給部21とマイクロ流路25の間に設けられ、図1〜図4に示す本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20のいずれかを用いている。分散液供給部21から配管22を通して送られる分散液は、フロー系レーザーアブレーション用ポンプ20のシリンジ1内に入り、ここでマグネットスターラ、撹拌翼、超音波発振機などの沈降防止手段によって、又は図4に示すようにシリンジポンプ16とフリーピストン17間で分散液を往復移動させることによって固形物の沈降を防止しながら、その分散液を一定流量でマイクロ流路25に送り込む。
【0038】
マイクロ流路25は、石英ガラスなどの透明材料からなる本体に、幅30〜1000μm、深さ45〜200μm程度のマイクロ流路を設けたものであり、レーザー光LAが照射される受光部は、この流路を複数回折り返してジグザグ状に形成し、流路長さを大きくしている。
【0039】
回収部26は、マイクロ流路25の後段に接続され、マイクロ流路25にてレーザー光が照射された分散液を回収するためのものである。この回収部26は、微細化された粒子の飛散を防止するとともに、外部からの不純物の混入を防止するために、密閉可能とする。回収部26には、回収された分散液の固形物が沈降するのを防ぐために、撹拌翼27や超音波発振器を用いた再凝集防止装置28を設けることが望ましい。回収された分散液は、次の工程に送られるまでの間、ここで貯留される。
【0040】
なお、液中レーザーアブレーションによる固形物の微細化率が100%でない場合や、次工程において微細化前の一次粒子が存在してはならない場合には、マイクロ流路25と回収部26との間に、微細化された粒子と一次粒子を分離する機構を設ける。
また、このレーザーアブレーションシステムでは、分散液供給部21、フロー系レーザーアブレーション用ポンプ20、マイクロ流路25及び回収部26の操作系を密閉系とすることができる。
【0041】
次に、このレーザーアブレーションシステムを用いた、固形物の微細化方法について説明する。
まず、対象とする有機化合物などの固形物を含む分散液を超音波処理し、一次粒子を含む分散液を調製し、この分散液を分散液供給部21のタンクに注入する。
【0042】
固形物を分散させる溶媒としては、微細化しようとする固形物を溶解せず、かつ、懸濁させることができるものが用いられ、例えば、水、アルコールなどの水溶液、有機溶媒、油状液体などが挙げられる。また、溶媒としては、液体ヘリウムや液体窒素などの不活性液体または準不活性液体を用いてもよい。不活性液体または準不活性液体を用いた場合、固形物を微細化した後、直ちに溶媒を蒸発させて、微細化した固形物を容易に回収する事ができるとともに、レーザー光を照射したときの温度上昇を抑えることができるので、温度上昇による固形物の変質も防止することができる。
【0043】
液中レーザーアブレーションによる微細化の対象となる固形物としては、粒子状で、かつ、難溶性のものが挙げられ、例えば、難溶性の薬物などの有機化合物が挙げられる。また、分散液を調製する前に、固形物の粒径を予め1μm〜100μm程度にしておくことが好ましい。このようにすれば、微細化したときの固形物の粒径をほぼ均一にすることができる。
【0044】
また、固形物を含む分散液の濃度は、固形物の種類(材質)、固形物の吸光度、マイクロ流路25を流動する分散液の流量、レーザー光LAの照射面積、レーザー光源24の仕様などに応じて適宜調整されるが、例えば、1〜3mg/mL程度とする。
【0045】
次いで、ポンプ20を駆動し、マイクロ流路25に、所定の流量で分散液を送出する。マイクロ流路25内における分散液の流量は、固形物の種類(材質)、固形物を含む分散液の濃度(分散液の単位体積中に含まれる固形物の量)、固形物の吸光度、レーザー光の照射面積、レーザー光源24の仕様などに応じて適宜調整されるが、例えば、0.05〜1.00mL/min程度とする。
【0046】
次いで、マイクロ流路25内への分散液の流入を開始すると同時に、レーザー光源24から、マイクロ流路25の受光部へのレーザー光LAの照射を開始する。
レーザー光源24から発振するレーザー光LAの波長は、微細化する固形物の吸収波長あるいは多光子吸収の波長に応じて選択される。レーザー光LAとしては、例えば、紫外光レーザー光、可視光レーザー光、近赤外レーザー光、赤外レーザー光などが挙げられる。
【0047】
紫外光レーザー光を用いる場合、エキシマレーザー(193nm、248nm、308nm、351nm)や、窒素レーザー(337nm)、YAGレーザーの3倍波および4倍波(355nm、266nm)などが挙げられる。また、可視光レーザー光を用いる場合、YAGレーザーの2倍波(532nm)、Arイオンレーザー(488nmまたは514nm)、その他の色素レーザーなどが挙げられる。さらに、近赤外レーザー光を用いる場合、種々の半導体レーザー、チタンサファイヤレーザー、YAGレーザー、ガラスレーザーなどが挙げられる。さらに、これらのレーザー光と光パラメトリック発振器を用いて、紫外から赤外領域の任意の光を発振させてもよい。
【0048】
また、レーザー光源24から発振されるレーザー光LAは、パルスレーザー光が好ましい。レーザー光源24は、レーザー光が発せられる点灯状態と、レーザー光が発せられない消灯状態とを交互に繰り返し、間欠的にレーザー光を発振することにより、パルスレーザー光を発振する。特に、レーザー光の強度がパルス状に変化することが好ましい。以下、1つのパルスのレーザー光をパルス光と称する。パルスレーザー光を用いた場合、1つのパルス光によって1回の照射が行われる。
【0049】
また、レーザー光源24から発振されるレーザー光LAの励起光強度Pは、1mJ/cm〜1000mJ/cm程度が好ましい。
また、パルス光とパルス光との間のパルス周期Tは、0.1Hz〜1000Hz程度が好ましい。ここで、パルス周期とは、ある一のパルス光の立ち上がりの時点から、一のパルスと隣り合うパルス光の立ち上がりの時点までの時間、またはパルス光の立ち上がりの時点から、隣り合うパルス光の立ち下がりの時点までの時間をいう。
さらに、パルス光の各々のパルス幅sが、10フェムト秒〜1マイクロ秒程度が好ましい。なお、パルス幅とは、ある一のパルス光の立ち上がりの時点から、立ち下がりの時点までの時間をいう。
【0050】
レーザー光源24から発振したレーザー光LAを、分散液中の固形物に照射することにより、固形物の内部に急激な温度差が生じ、この温度差によって、固形物に生じた内部応力によって固形物が破砕して、微細化する。
【0051】
次いで、マイクロ流路25にて微細化された粒子を含む分散液は、回収部26に送り込まれ、貯留される。
【0052】
このレーザーアブレーションシステムは、前述したように分散液中の固形物を沈降させずに、常時一定の固形物濃度の分散液を安定して供給可能なフロー系レーザーアブレーション用ポンプ20を用いたものなので、固形物の分散状態が安定した分散液を正確な流量でマイクロ流路25に供給し、その受光部にレーザー光LAを照射して液中レーザーアブレーション微細化処理を行うことができるので、分散液中の固形物の沈降(再凝集)による微細化処理効率の低下を抑制でき、効率よく固形物の微細化処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第1実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第2実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第3実施形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係るフロー系レーザーアブレーション用ポンプの第4実施形態を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係るレーザーアブレーションシステムの実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0054】
1…シリンジ、2…プランジャー、3…往復動シール、4…撹拌子、5…マグネットスターラ、6…マグネットスターラ駆動機、7…プランジャー駆動機、8…撹拌翼、9…回転軸シール、10…攪拌機駆動機、11…超音波素子、12…超音波発振器、13…サブシリンジ、14…フリープランジャー、15…3方弁、16…シリンジポンプ、17…フリーピストン、20…フロー系レーザーアブレーション用ポンプ、21…分散液供給部、22…配管、23…マイクロ流路導入部、24…レーザー光源、25…マイクロ流路、26…回収部、27…磁気駆動回転翼、28…再凝集防止装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を発する光源を含み、固形物を分散させた分散液を流路に連続的又は間歇的に供給し、該流路にレーザー光を照射し、分散液中の固形物を微細化させるレーザーアブレーションシステムに分散液を供給するために用いられるフロー系レーザーアブレーション用ポンプであって、
前記ポンプは、前記分散液へ機械的流動又は振動を与える沈降防止手段を有することを特徴とするフロー系レーザーアブレーション用ポンプ。
【請求項2】
前記ポンプが、シリンジと、該シリンジ内に摺動可能に挿入されたプランジャーと、該プランジャーを進退可能に駆動させるプランジャー駆動機とを有するシリンジポンプであることを特徴とする請求項1に記載のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ。
【請求項3】
前記沈降防止手段は、マグネットスターラ、撹拌翼、超音波発振機からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフロー系レーザーアブレーション用ポンプ。
【請求項4】
レーザー光を発する光源を含み、固形物を分散させた分散液を流路に連続的又は間歇的に供給し、該流路にレーザー光を照射し、分散液中の固形物を微細化させるレーザーアブレーションシステムに分散液を供給するために用いられるフロー系レーザーアブレーション用ポンプであって、
シリンジと、該シリンジ内に摺動可能に挿入されたプランジャーと、該プランジャーを進退可能に駆動させるプランジャー駆動機とを有し、又は分散液へ機械的流動又は振動を与える沈降防止手段をさらに有するシリンジポンプと、
サブシリンジとフリープランジャとを有するフリーピストンと、
前記シリンジポンプの吐出口を第1通路に接続し、前記フリーピストンの吐出口を第2通路に接続し、第3通路がポンプ吐出口となるように接続された3方弁とを有することを特徴とするフロー系レーザーアブレーション用ポンプ。
【請求項5】
レーザー光を発する光源を含み、固形物を分散させた分散液を流路に連続的又は間歇的に供給し、該流路にレーザー光を照射し、分散液中の固形物を微細化させるレーザーアブレーションシステムにおいて、
前記流路に前記分散液を供給するポンプが、請求項1〜4のいずれかに記載のフロー系レーザーアブレーション用ポンプであることを特徴とするレーザーアブレーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−115056(P2009−115056A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291944(P2007−291944)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】