説明

ブラジキニン拮抗薬およびヒアルロン酸を含む医薬組成物、およびその使用

有効成分として、ヒアルロン酸ポリマーとブラジキニンB2受容体拮抗薬との混合物を含む医薬組成物が開示される。前記組成物は、関節内注射を用いる、骨関節炎のような変形性関節疾患の治療に特に効果的であるとわかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分として、ヒアルロン酸ポリマーとブラジキニンB2受容体拮抗薬との混合物を含む医薬組成物に関する。前記組成物は、関節内注射を用いる骨関節炎のような変形性関節疾患の治療において、特に効果的であると分かった。
【背景技術】
【0002】
変形性関節疾患としても知られている骨関節炎(OA)は、関節の有痛性で進行性で変形性の疾患である。OAの主な病態生理学的特徴は、関節軟骨の破壊および損失、肥大、滑膜の炎症、および結果としての関節の腫れである。これらの効果は、疼痛、こわばりおよび機能損失のような兆候を生み出す。平均寿命の上昇に伴う、高齢人口におけるOAの高い罹患率は、この疾患を患っている患者の数が近い将来にかなり増加しそうであることを示唆している。OAの患者は、疼痛の軽減が、かれらの生活の質に、非常に重要であると考えている。
【0003】
この疾患の進行を止める薬剤は、これまで得られていない。現存する治療は、主に、疼痛兆候を低下させ、関節機能を回復するように設計されている。骨関節炎における疼痛の治療のために、パラセタモールおよび非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が広く記載されている。しかしながら、前記薬剤の長期使用には、大きな副作用、特に胃腸水準(潰瘍)において血小板凝集が伴い得る。コルチコステロイドの関節内注射は、関連する炎症および疼痛を減少させるが、その効果が短命であるのでほとんど使われていない。結果として、骨関節炎に伴う疼痛および炎症を減少させる新規治療剤が明らかに必要とされている。
【0004】
ブラジキニン(BK)は、ペプチダーゼ活性を有する酵素(カリクレイン)による攻撃に続いて高分子量の前駆体(キニノゲン)から誘導される小さなペプチド(8〜11アミノ酸)のファミリーであるキニンの一員である。キニン形成は、炎症性、虚血性および免疫性作用または細菌およびウイルス感染を含む種々の環境において活性化される。
【0005】
2つのキニン受容体が薬理学的に特徴付けられている:すなわち、正常状態では最低限の発現であるがその発現が前述の刺激により誘発されるB1受容体、および多くの細胞型により連続的に発現されているB2受容体である。ブラジキニンは、B2受容体の刺激を介するもので、炎症および疼痛の最も重要なメディエーターの一つであり、炎症誘発および痛覚過敏メディエーターの放出に含まれるものである。
【0006】
ブラジキニン(BK)は、種々の水準のOAの病態生理学に関与することが示された。
【0007】
キニンが、OA患者の滑液中に放出されることが昔から知られている。さらに、これらの患者において、滑液腔の内側を覆っている細胞、線維芽細胞、および血管の内皮細胞においてB2受容体が見つかった。
【0008】
種々の前臨床モデルを用いた多くの研究が、BKが、関節内経路により投与された場合、サブスタンスP、ヒスタミンおよびカルシトニン遺伝子関連ペプチドのような他の炎症性メディエーターよりも効果的に、ラットの滑膜における好中球の沈積および血漿の浸出を誘発することを示している。さらに、BKは、関節軟骨におけるプロテオグリカン含量を減少させ、ネズミOAモデルにおけるプロスタグランジンの放出を生じさせる。
【0009】
一部のブラジキニンB2受容体拮抗薬は、種々の動物滑膜炎モデルにおいて炎症性事象および痛覚過敏を防止するのに効果的であるとわかった。
【0010】
その放出後、BKは、関節包に神経を分布する知覚神経線維を刺激および感作する。
【0011】
膝の症候性OAを有する58人の患者について行われた第II相試験において、BKの臨床的有意性が示され、そこで、B2受容体拮抗薬イカチバント(icatibant)(90μg/1ml)の関節内単回投与が、プラセボ(患者55人)よりもかなりの程度に膝における疼痛の強さを低下させた。サノフィー・アベンティスは、膝のOAの患者において、イカチバントの関節内浸入(500μgを1週間開けて3回投与)が、投与後に3か月まで続く強力な鎮痛反応を誘発し、このかなりの鎮痛効果が、副作用が無視できる程度でまたは副作用無く得られることを、最近報告した。
【0012】
多くのブラジキニンB2受容体拮抗薬が文献に記載されてきた。
【0013】
EP370453は、ブラジキニン拮抗薬として作用するペプチド構造を有する幾つかの化合物を記載しており、この化合物としては、イカチバントとして定義される化合物が挙げられる。イカチバントは、EP1594520の特許の対象も形成し、骨関節炎の予防および治療におけるその使用が開示されている。
【0014】
WO03103671(引用文献1)は、一群の非常に強力な非ペプチド性ブラジキニン拮抗薬を記載している。化合物MEN16132を含む特に有効な拮抗薬の選択がWO2006040004に報告されており;これらの拮抗薬も、骨関節炎の予防および治療において、特に膝の関節内治療において高度に有効であると分かった。
【0015】
ヒアルロナン(ヒアルロン酸またはヒアルロネートとしても知られている)は、内皮、結合、上皮および神経組織に広く分布している非硫酸化グリコースアミノグリカンである。これは、細胞外マトリクスの主要成分の一つであり、細胞の増殖および移動に著しく貢献する。平均して、70kgの人は体内にヒアルロナン15gを含み、その三分の一が毎日交換される(破壊され合成される)。
【0016】
ヒアルロナンは滑液の主要成分の一つであり、その粘度を上昇させるものである。ルブリシンと共に、それは、滑液成分の主な滑剤の一つである。ヒアルロナンは、関節軟骨の重要な成分でもあり、各細胞(軟骨細胞)の内張りとして見られる。
【0017】
ヒアルロナンは、膝のOAの治療に昔から用いられている(Puhl W;Scharf P (1997).Ann Rheum Dis 56(7):637−40)(非特許文献1)。ビスコサプリメンテーションとして知られている前記治療は、膝関節に含まれる流体の粘度を増すように設計されている膝関節への一続きの注射からなり、関節を滑らかにすると共に支持し、結果として鎮痛効果を発生させるものである。ヒアルロナンは、軟骨細胞への好ましい生化学的効果を有するとも仮定されてきた。発売されるべきこの種の最初の生成物は、Hylan G−F 20(Synvisc(登録商標))であり、1998年からGenzymeにより販売されてきた。European Medicines Agency(EMEA)は、OA疼痛用治療としてのHylan GF−20の認可を、2002年には腰まで、および2007年には足首および肩まで延ばした。販売されている他の生成物としては、Ostenil(登録商標)(TRB CHEMEDICA)、Suplasyn(登録商標)(MERCKLE RECORDATI)およびGO−ON(登録商標)(ROTTAPHARM)がある。
【0018】
18回のランダム化臨床試験のメタ分析は、Hylan G−F 20およびこのクラスのビスコサプリメントの臨床的利益を確認しており、ビスコサプリメントがプラセボよりも優れていること、およびそれらの多くのものが、膝のOAに係わる疼痛の治療において、ステロイドよりも効果的であることを結論付けている(Cochrane Collaboration Source,Press Release 2005,May 05,Genzyme Corpにより公開されているPositive Synvisc Data)。
【0019】
構造的に、ヒアルロナンは、N−アセチルグルコースアミンの繰り返し二糖単位と、グルクロン酸ナトリウムからなるポリマーである。OAの治療に用いられるものは、通常、ケイトウ(coxcombs)から抽出され、0.5〜10ミリオンダルトンの範囲の種々の平均分子量のフラクションを単離することができる。ビスコサプリメンテーション効果は、分子量および密度に依存して変化する(Gomisら著,Arthritis & Rheumatism,2004,50:314−326)。
【0020】
骨関節炎の治療のために、BK拮抗薬またはヒアルロン酸の使用を含む多くの方法が提案されてきた。
【0021】
WO03063799は、マトリクスメタルプロテイナーゼ(MMP)阻害剤(ブラジキニンはMMP生成を阻害する)を含む複数の軟骨保護剤を含む医薬組成物の使用も提案しているが、ヒアルロン酸の使用は記載されていない。
【0022】
しかしながら、骨関節炎のような変形性関節疾患の効果的治療のための満たされていない要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第03/03671号パンフレット
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Puhl W;Scharf P (1997).Ann Rheum Dis 56(7):637−40
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
有効成分として
a)ヒアルロン酸
b)ブラジキニンB2受容体拮抗薬
を含む医薬組成物が、限定はされないが骨関節炎のような変形性関節疾患の治療において驚くべき効果を示すことが、意外にも発見された。
【0026】
本発明は、ブラジキニンB2受容体拮抗薬を含む医薬組成物であって、そのブラジキニン拮抗薬が好ましくは以下のものである医薬組成物に関する:
・H−D−Arg−Arg−Pro−Hyp−Gly−Igl−Ser−D−F5F−Igl−Arg−OH(B10056)
・H−Arg−Arg−Pro−Hyp−Gly−Igl−Ser−D−Igl−Oic−Arg−OH(B9430)
・H−D−Arg−Arg−Pro−Hyp−Gly−Thi−Ser−D−Tic−Oic−Arg−OH(イカチバント(Icatibant))
・4−[2−[([[3−(3−ブロム−2−メチル−イミダゾ[1.2−a]ピリジン−8−イルオキシメチル)−2,4−ジクロロ−フェニル]−メチル−カルバモイル]−メチル)−カルバモイル]−ビニル]−N,N−ジメチル−ベンズアミド(FR167344)
・3−(6−アセチルアミノ−ピリジン−3−イル)−N−([[2,4−ジクロロ−3−(2−メチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−フェニル]−メチル−カルバモイル]−メチル)−アクリルアミド(FR173657またはFK3657)
・1−[2,4−ジクロロ−3−(2,4−ジメチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−ベンゼンスルホニル]−ピロリジン−2−カルボン酸[3−(4−カルバミドイル−ベンゾイルアミノ)−プロピル]−アミド(LF160687、アナチバント(Anatibant))
・4−(4−[1−[2,4−ジクロロ−3−(2,4−ジメチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−ベンゼンスルホニル]−ピロリジン−2−カルボニル]−ピペラジン−1−カルボニル)−ベンズアミジン(LF160335)
・2−[5−(4−シアノ−ベンゾイル)−1−メチル−1H−ピロール−2−イル]−N−[2,4−ジクロロ−3−(2−メチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−フェニル]−N−メチル−アセトアミド。
【0027】
または一般式(I)で示されるWO2006/04004に記載の化合物の一つ;
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、
Rは水素またはメチル、
Wは単結合または酸素原子を表し、
n=3または4
Xは水素または−NR1R2アミノ基(ここで、R1およびR2は、互いに独立して、水素または、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルから選択される基であり得る)であり、
Yは四級アンモニウム(−NR3R4R5)+-(ここで、R3、R4およびR5は、互いに独立して、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルまたはn−ペンチルであり、A-は医薬的に許容される酸のアニオンである)である);
それらの薬理的に許容される塩、エナンチオマーおよびエナンチオマー混合物。
【0030】
本発明の目的において、医薬的に許容される酸は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、炭酸、酢酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、メタン硫酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、クエン酸およびエデト酸から選択される酸であり、ここで、アニオンは、2個以上の陰性電荷を有し、A-は少数値である。
【0031】
一般式(I)で示される化合物のうち、以下の化合物が特に好ましい:塩酸、酢酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、コハク酸およびエデト酸から選択される酸から形式的に誘導されるイオンで塩化された状態の(4−(S)−アミノ−5−(4−{4−[2,4−ジクロロ−3−(2,4−ジメチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−テトラヒドロ−ピラン−4−カルボニル}−ピペラジン−1−yl)−5−オキソ−ペンチル]−トリメチルアンモニウム;塩化物二塩酸塩はMEN16132(MW 871.5)に定義されている化合物である。
【0032】
使用されるヒアルロン酸は、平均分子量が0.5〜10ミリオンダルトン、好ましくは4〜9ミリオンダルトンであり、特に好ましいのは、平均分子量が5〜8ミリオンダルトンであるヒアルロン酸のそのもの、またはそのナトリウムもしくはカリウム塩である。
【0033】
本発明の組成物は、ブラジキニン拮抗薬の量が一回分当たり5.7×10-5〜2.3×10-2ミリモルの範囲(MEN16132の場合、約0.05〜20mgの量に相当)であり、好ましくは1.1×10-4〜1.1×10-2ミリモルの範囲(MEN16132の場合、約0.1〜10mgの量に相当)であり、さらにより好ましくは2.9×10-4〜5.7×10-3ミリモルの範囲(MEN16132の場合、約0.25〜5mgの量に相当)である。
【0034】
前記組成物は、一回分当たり1〜100mg、好ましくは5〜20mgのヒアルロン酸も含む。
【0035】
本発明の医薬組成物は、一種または複数種の医薬的に許容されるキャリア/賦形剤も含み得る。
【0036】
溶液、クリーム、ゲルまたは経皮パッチのような局所投与に適した液体または半固体剤型が好ましく、特に、溶液のような関節内または滑液包内注射に適した型、および、クリームまたはゲルおよび経皮パッチのような半固体型のような経皮用途のものが好ましい。剤型は、成分の一部または全てが乾燥状態、場合により凍結乾燥状態であり、使用前に水溶液または他の適当なビヒクルを用いて再構成される型でもあり得る。
【0037】
前記組成物は、バインダー、崩壊剤、充填剤、安定化剤、希釈剤および着色剤のような既知の賦形剤を用いて、当業者に良く知られた方法により製造することができる。これらは、医薬技術において知られている適当なポリマーを用いて作られる遅延または徐放型も含み得る。
【0038】
溶媒のような医薬的に許容されるキャリア/賦形剤、酸化防止剤のような防腐剤および/またはキレート剤、および抗菌剤、等張性調整剤、および緩衝剤系が、注射用途に適した液体型の調製に好ましい。
【0039】
水が溶媒として好ましく、エチレングリコールのようなグリコールまたはポリアルコールのような共溶媒を場合により用いる。
【0040】
防腐剤またはキレート剤も用いて良く、エデト酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸ナトリウムが好ましく、抗菌剤、ベンジルアルコールが好ましい。
【0041】
塩化ナトリウムまたはマンニトールが、等張性調整剤として特に好ましい。
【0042】
好ましい緩衝剤系は、リン酸およびクエン酸緩衝剤用の塩の複合体であり得、好ましくはナトリウムまたはカリウム塩の状態のものである。
【0043】
本発明において、特にペプチド構造を有する化合物の記載において、一部の非天然アミノ酸について以下の略号を用いた:
Nal=ナフチルアラニン
NMePhe=N−メチル−フェニルアラニン
Oic=オクタヒドロインドール−2−カルボン酸、
HyP=ヒドロキシプロリン
Igl=アミノインダンカルボン酸
Cpg=1−アミノシクロペンタンカルボン酸
Tic=1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸
F5F=ペンタフルオロフェニルアラニン。
【0044】
本発明の組成物の典型的例としては、以下のものが挙げられる。
【0045】
1.ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量0.5〜10ミリオンダルトン、5〜20mg、MEN−16132、0.25〜5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、0.1N HCl、pH4.5にする適量、水、1mlにする適量。
【0046】
2.ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量0.5〜10ミリオンダルトン、5〜20mg、MEN−16132、0.25〜5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、0.1N HCl、pH6にする適量、水、1mlにする適量。
【0047】
3.ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量0.5〜10ミリオンダルトン、5〜20mg、MEN−16132、0.25〜5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、リン酸塩緩衝剤(pH6〜8)、水、1mlにする適量。
【0048】
4.ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量0.5〜10ミリオンダルトン、5〜20mg、MEN−16132、0.25〜5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、クエン酸塩緩衝剤(pH6〜8)、水、1mlにする適量。
【0049】
5.MEN−16132(0.25〜5mg、凍結乾燥状態)を、ヒアルロン酸ナトリウム塩(平均分子量0.5〜10ミリオンダルトン、5〜20mg)、食塩溶液(0.9%NaCl)中のリン酸塩緩衝剤、1mlにする適量の水、からなる溶液で溶解することにより得られる即席製剤。
【0050】
6.ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量0.5〜10ミリオンダルトン、5〜20mg、イカチバント(MW1304.5)、0.37〜6.5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、リン酸塩緩衝剤(pH6〜8)、水、1mlにする適量。
【0051】
本発明の医薬組成物は、炎症性、自己免疫性、外傷性および変形性関節疾患、例えば、骨関節炎および外傷後骨関節炎、変形性骨関節炎(膝関節炎、脊椎関節炎)、脊椎症、滑膜炎、腱滑膜炎、滑液包炎、打撲傷、捻挫、脱臼および亜脱臼、および、発生的変化により引き起こされる関節内疾患、例えば、骨軟骨炎および異形成の予防および治療に有用である。
【0052】
投与量は、年齢および患者の全身状態、疾患または不全の性質および重症度、および投与の経路およびタイプにより変わり得る。成人ヒト患者における関節内使用の場合、本発明の医薬組成物の使用は、ブラジキニン拮抗薬2.9×10-4〜5.7x10-3ミリモル(MEN16132の場合、約0.25〜5mgに相当)およびヒアルロン酸5〜20mgの毎週の投与(単回投与)を含む。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は、本発明をより詳しく説明するものである。
【0054】
(実施例1)
ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量6ミリオンダルトン、10mg、MEN−16132、0.5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、0.1N HCl、pH4.5にする適量、水、1mlにする適量。溶液を、充填済み2.25ml注射器に入れる。
【0055】
(実施例2)
ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量6ミリオンダルトン、10mg、MEN−16132、0.5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、リン酸塩緩衝剤(Na2HPO4の0.16mg、NaH2PO4の0.04mg)含有、水、1mlにする適量。溶液を、充填済み2.25ml注射器に入れる。
【0056】
(実施例3)
ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量6ミリオンダルトン、10mg、MEN−16132、0.2mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、0.1N HCl、pH4.5にする適量、水、1mlにする適量。溶液を、充填済み2.25ml注射器に入れる。
【0057】
(実施例4)
ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量6ミリオンダルトン、10mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、リン酸塩緩衝剤(Na2HPO4の0.16mg、NaH2PO4の0.04mg)含有、水、1mlにする適量。凍結乾燥状態のMEN16132を、前述の溶液を用いて溶解する。
【0058】
(実施例5)
ヒアルロン酸ナトリウム塩、平均分子量6ミリオンダルトン、10mg、イカチバント、0.5mg、食塩溶液中(0.9%NaCl)、リン酸塩緩衝剤(Na2HPO4の0.16mg、NaH2PO4の0.04mg)含有、水、1mlにする適量。溶液を、充填済み2.25ml注射器に入れる。
【0059】
(生物学的活性)
軟骨細胞中での解糖を阻害するモノヨード酢酸ナトリウム(MIA)の関節内注射により誘発され、それにより、ヒト骨関節炎と非常に似た状態で、細胞に損傷および死を引き起こし結果として関節表面を変形させた骨関節炎の実験モデルにおいて、MEN16132、イカチバントおよびヒアルロン酸の活性を測定した。
【0060】
MIA(1mg/25μl)を、ラットの右膝の関節内空間に注射し、一方、内部対照として、食塩水25μlを左膝に投与した。
【0061】
MIAの投与は、疼痛、歩行困難、および処理された膝に対応する足に体重をかけられないことを引き起こし、従って、体重は、知覚された痛みに正比例した程度に主に左足にかかる。この効果は、長い週間続く。無能力試験を用いて非侵襲的に評価された体重を支えている2本の足における体重の不均衡は、MIAにより誘発された関節損傷(骨関節炎)により生じる疼痛を評価するものである。
【0062】
この試験の目的は、実験的骨関節炎に対するブラジキニンB2受容体拮抗薬の保護的効果を評価し、ヒアルロン酸を一緒に投与する効果を達成することである。
【0063】
MIAで処理した7日後に、検討中の化合物を注射し、鎮痛効果およびその持続時間を測定するために種々の回数繰り返した。
【0064】
投与量3μg/25μlで関節内投与したMEN16132およびイカチバントは、骨関節炎により引き起こされた疼痛をそれぞれ55%および40%減少させ、化合物の投与の3日後に最大の抑制効果が観察された。投与量10μg/25μlで関節内投与した場合、抑制効果のさらなる著しい増加は観察されなかった。抗侵害効果が、いずれの化合物を用いても、1週間を超えて続いた。
【0065】
ヒアルロン酸の投与(分子量6ミリオンダルトン、50μg/25μl関節内投与)により、控えめな抗侵害効果が得られ、疼痛反応が16%低下した。
【0066】
MEN16132またはイカチバントをヒアルロン酸と共に投与すると、MIAで骨関節炎が誘発されたラットにおける抗侵害効果をかなり強めた。MEN16132またはイカチバント(3μg/25μl関節内)およびヒアルロン酸(50μg/25μl)は、処理されていない足と処理された足との間の体重の不均衡として測定される疼痛を、それぞれ72%および65%低下させた。運動活性の直接観察に基づくと、MEN16132またはイカチバントおよびヒアルロン酸で処理したラットの運動挙動は、骨関節炎を患っていない対照の運動挙動と異ならなかった。ヒアルロン酸と組み合わせた単回投与後の2つのB2受容体拮抗薬の効果も長く続き、一部の場合には2週間を超えて続いた。
【0067】
骨関節炎により引き起こされる兆候および損傷の低減における、ヒアルロン酸を組み合わせた驚くべき効果をさらに確認するために、形態学的および組織学的試験を行った。MEN16132またはイカチバントとヒアルロン酸との組み合わせによる処理の14日後に、膝の関節表面上に存在する損傷の実質的減少(50%超)が観察され、これは軟骨細胞の損失減少、グリコースアミノグリカンマトリクス、および関節下骨の露出により特徴付けられ、B2拮抗薬またはヒアルロン酸の単独投与よりも遥かに優れた結果である。
【0068】
さらに、組み合わせは、適用の観点から特に興味深い、何故なら、キニンB2受容体拮抗薬は抗侵害効果をゆっくりとしかし長期間にわたり達成し、一方、高分子量(6ミリオンダルトン)のヒアルロン酸またはその塩は、投与の数時間内に最大効果を呈するからである。従って、本発明に開示されている組み合わせは、2種類の化合物の相補的および促進的効果によって、直ぐに効果を奏し長く続くものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、
a)ヒアルロン酸または、ナトリウム塩およびカリウム塩から選択されるその塩と、
b)ブラジキニンB2受容体拮抗薬と、
の混合物を、医薬的に許容されるキャリアおよび賦形剤と共に含んでなり、
該ヒアルロン酸は、平均分子量が0.5〜10ミリオンダルトンであるポリマー状であり、該ブラジキニン拮抗薬が、以下のものから選択されることを特徴とする医薬組成物:
・H−D−Arg−Arg−Pro−Hyp−Gly−Igl−Ser−D−F5F−Igl−Arg−OH
・H−Arg−Arg−Pro−Hyp−Gly−Igl−Ser−D−Igl−Oic−Arg−OH
・H−D−Arg−Arg−Pro−Hyp−Gly−Thi−Ser−D−Tic−Oic−Arg−OH(イカチバント(Icatibant))
・4−[2−[([[3−(3−ブロム−2−メチル−イミダゾ[1.2−a]ピリジン−8−イルオキシメチル)−2,4−ジクロロフェニル]−メチル−カルバモイル]−メチル)−カルバモイル]−ビニル]−N,N−ジメチル−ベンズアミド
・3−(6−アセチルアミノ−ピリジン−3−イル)−N−([[2,4−ジクロロ−3−(2−メチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−フェニル]−メチル−カルバモイル]−メチル)−アクリルアミド
・1−[2,4−ジクロロ−3−(2,4−ジメチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−ベンゼンスルホニル]−ピロリジン−2−カルボン酸[3−(4−カルバミドイル−ベンゾイルアミノ)−プロピル]−アミド(アナチバント(Anatibant))
・4−(4−[1−[2,4−ジクロロ−3−(2,4−ジメチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−ベンゼンスルホニル]−ピロリジン−2−カルボニル]−ピペラジン−1−カルボニル)−ベンズアミジン
・2−[5−(4−シアノ−ベンゾイル)−1−メチル−1H−ピロール−2−イル]−N−[2,4−ジクロロ−3−(2−メチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−フェニル]−N−メチル−アセトアミド
からなる群より選択されるB2受容体拮抗薬;
一般式(I)で示されるB2受容体拮抗薬;
【化1】

(式中、
Rは水素またはメチル、
Wは単結合または酸素原子を表し、
n=3または4
Xは水素または−NR1R2アミノ基(ここで、R1およびR2は、互いに独立して、水素または、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピルから選択される基であり得る)であり、
Yは四級アンモニウム(−NR3R4R5)+-(ここで、R3、R4およびR5は、互いに独立して、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルまたはn−ペンチルであり、A-は医薬的に許容される酸のアニオンである)である);
それらの薬理的に許容される塩、エナンチオマーおよびエナンチオマー混合物。
【請求項2】
該ブラジキニン拮抗薬が、イカチバントまたは一般式(I)で表わされる化合物から選択されるブラジキニンB2受容体拮抗薬である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
該ブラジキニン拮抗薬が、一般式(I)で表わされる化合物:塩酸、酢酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、コハク酸およびエデト酸から選択される酸から形式的に誘導されるイオンで塩化された状態の(4−(S)−アミノ−5−(4−{4−[2,4−ジクロロ−3−(2,4−ジメチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−テトラヒドロ−ピラン−4−カルボニル}−ピペラジン−1−イル−5−オキソ−ペンチル]−トリメチルアンモニウム、である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
該化合物(4−(S)−アミノ−5−(4−{4−[2,4−ジクロロ−3−(2,4−ジメチル−キノリン−8−イルオキシメチル)−ベンゼンスルホニルアミノ]−テトラヒドロ−ピラン−4−カルボニル}−ピペラジン−1−イル−5−オキソ−ペンチル]−トリメチル−アンモニウムが、塩化物二塩酸塩の状態(MEN16132)である請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
一回分当たりのヒアルロン酸の量が1〜100mgである、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
一回分当たりのヒアルロン酸の量が5〜20mgである、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ヒアルロン酸の平均分子量が4〜9ミリオンダルトンの範囲である、請求項1〜6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
ヒアルロン酸の平均分子量が5〜8ミリオンダルトンの範囲である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ブラジキニン受容体拮抗薬の量が一回分当たり5.7×10-5〜2.3×10-2ミリモルの範囲(MEN16132の場合、一回分当たり0.05〜20mgの量に相当)である、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
ブラジキニン受容体拮抗薬の量が一回分当たり1.1×10-4〜1.1×10-2ミリモルの範囲(MEN16132の場合、一回分当たり0.1〜10mgの量に相当)である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ブラジキニン受容体拮抗薬の量が一回分当たり2.9×10-4〜5.7×10-3ミリモルの範囲(MEN16132の場合、一回分当たり0.25〜5mgの量に略相当)である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
関節内または滑液包内注射液の状態、またはクリーム、ゲルもしくはパッチから選択される経皮状態である、請求項1〜11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
ブラジキニン拮抗薬が、結晶、無定形または凍結乾燥から選択される固体状態にあり、使用前に、ヒアルロン酸を含む溶液に溶解されることにより関節内または滑液包内注射液を構成するものである請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
リン酸塩またはクエン酸塩から選択される緩衝剤も含む請求項1〜13のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
等張性調整剤としての塩化ナトリウムも含む請求項1〜14のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項16】
防腐剤およびキレート剤としてのエデト酸ナトリウムも含む請求項1〜15のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項17】
炎症性、自己免疫性、外傷性および変形性関節疾患、例えば、骨関節炎および外傷後骨関節炎、変形性骨関節炎(膝関節炎、脊椎関節炎)、脊椎症、滑膜炎、腱滑膜炎、滑液包炎、打撲傷、捻挫、脱臼および不全脱臼、および、発生的変化により引き起こされる関節内疾患、例えば、骨軟骨炎および異形成の予防および治療のための請求項1に記載の医薬組成物の調製のための、ブラジキニンB2受容体拮抗薬と組み合わせたヒアルロン酸の使用。
【請求項18】
炎症性、自己免疫性、外傷性および変形性関節疾患、例えば、骨関節炎および外傷後骨関節炎、変形性骨関節炎(膝関節炎、脊椎関節炎)、脊椎症、滑膜炎、腱滑膜炎、滑液包炎、打撲傷、捻挫、脱臼および不全脱臼、および、発生的変化により引き起こされる関節内疾患、例えば、骨軟骨炎および異形成の予防および治療のための医薬組成物の調製のための、ヒアルロン酸と組み合わせたブラジキニンB2拮抗薬MEN16132の請求項17に記載の使用。
【請求項19】
骨関節炎および外傷後骨関節炎の治療に適した医薬組成物を調製するための、ヒアルロン酸と組み合わせたブラジキニンB2拮抗薬MEN16132の請求項18に記載の使用。

【公表番号】特表2011−504473(P2011−504473A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534395(P2010−534395)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009451
【国際公開番号】WO2009/065507
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(507121622)イスティトゥイート ルーソ ファルマコ ディイタリア ソシエタ ペル アチオニ (3)
【氏名又は名称原語表記】ISTITUTO LUSO FARMACO D’ITALIA S.P.A.
【Fターム(参考)】