説明

ブレーキ制御装置および電磁弁の作動判定方法

【課題】ブレーキ制御装置の作動流体通路に配設された電磁弁の作動状態を判定する。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、車両の各車輪に対応して設けられるホイールシリンダに作動流体を供給して制動力を付与する。ホイールシリンダへの作動流体の流路には、ソレノイドとソレノイドへの電流の印加によって作動するプランジャとを有する電磁弁が配設される。電流指令部106は、プランジャを作動させるための起動電流を電源からソレノイドに供給する。電流計測部102は、ソレノイドを流れる電流値を計測する。バルブ作動判定部104は、ソレノイドへの電流の供給開始後、電流計測部102により計測された電流値が予め定められた値以上低下したとき、プランジャが作動したと判定する。プランジャが作動したと判定されたとき、電流指令部106は、起動電流よりも電流値の低い保持電流をソレノイドに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ制御装置に関し、より詳細にはブレーキ制御装置に配設される電磁弁の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両における制動装置として、車両の走行状況に応じて最適な制動力を車両に与えるよう各車輪の制動力を制御する電子制御ブレーキシステムが多く採用されている。このような電子制御ブレーキシステムは、作動流体の流路に複数の電磁弁を備えている。
【0003】
電磁弁は、ソレノイドを備えており、ソレノイドに供給する電流を制御することによって弁の開状態と閉状態とを切り替えることができる。電磁弁は、起動時には電流値が大きい起動電流を必要とするが、一旦駆動された後は、起動電流よりも電流値が小さい保持電流を供給することで、駆動状態を維持することができる。
【0004】
特許文献1では、電磁弁に対して起動電流を供給した後、保持状態のときは起動電流よりも電流値の低い保持電流に切り替えるブレーキ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−230432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、電磁弁が作動を開始する起動電流を学習し、その起動電流のソレノイドへの通電時間に基づき電磁弁の作動を推定している。しかしながら、このような推定方法を用いると、実際の電磁弁の作動完了を直接的には観測できないので、作動完了後も起動電流を流し続けている可能性がある。起動電流が余分な時間だけ流れるほど、電磁弁の消費電力は増大する。
【0007】
ハイブリッド車などに搭載される電子制御ブレーキシステムでは、ブレーキアクチュエータに複数の電磁弁を使用しており、ドライバーによるブレーキ操作のたびにこれら複数の電磁弁を駆動する必要がある。個々の電磁弁の消費電力が大きくなると、複数の電磁弁に電力を供給する電源装置も、容量の大きなものが必要になる。また、電磁弁の容積のうち多くの割合を占めているソレノイドにおいても、消費電力が大きくなるとサイズの大きなものを使用する必要がある上、電磁弁の発熱問題も生じる。これらは、電子制御ブレーキシステムの小型軽量化にあたり大きな課題となっている。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキ制御装置の作動流体の流路に配設される電磁弁の作動判定を早期にかつ確実に行える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、車両の各車輪に対応して設けられるホイールシリンダに作動流体を供給して制動力を付与するブレーキ制御装置である。この装置は、ホイールシリンダへの作動流体の流路に設けられ、ソレノイドと該ソレノイドへの電流の印加によって作動するプランジャとを有する電磁弁と、前記プランジャを作動させるための起動電流を電源から前記ソレノイドに供給する電流指令部と、前記ソレノイドを流れる電流値を計測する計測部と、前記ソレノイドへの電流の供給開始後、前記計測部により計測された電流値が予め定められた値以上低下したとき、前記プランジャが作動したと判定する作動判定部と、を備える。
【0010】
電磁弁では、ソレノイドへの起動電流の供給によりプランジャが作動し、ソレノイド内部にプランジャが進入することでソレノイドのインダクタンスが変化するため、ソレノイドを流れる電流値が一旦低下する。この態様によると、上記の電流値の低下を検出することによって、追加のセンサを用いることなく、プランジャの作動を確認することができる。
【0011】
前記作動判定部により前記プランジャが作動したと判定されたとき、前記電流指令部は、前記起動電流よりも電流値の低い保持電流を前記ソレノイドに供給してもよい。これによると、プランジャの作動完了を確認後直ちに起動用電流から保持用電流に切り替えられるため、ソレノイドにおける消費電流が低減され、省電力化が可能となる。
【0012】
電源電圧が所定のしきい値以上であるかを判定する電源監視部と、電源電圧がしきい値を下回ったとき、前記作動判定部による前記プランジャの作動判定の代わりに、前記ソレノイドに対する起動電流の通電時間に基づき前記プランジャが作動したか否かを判定する通電時間測定部と、をさらに備えてもよい。電源電圧の変動があったときは、電源電圧低下によるソレノイド電流値の低下と、インダクタンス成分の増加によるソレノイド電流値の低下の判別が困難であるため、バルブ動作の誤判定をするおそれがある。そこで、電源電圧低下時には起動電流の通電時間でプランジャ動作の推定をすることで、作動状態の誤判定を防止することができる。
【0013】
本発明の別の態様は、電磁弁の作動判定方法である。この方法は、車両の各車輪に対応して設けられるホイールシリンダに作動流体を供給して制動力を付与するブレーキ制御装置において、ソレノイドと該ソレノイドへの電流の印加によって作動するプランジャとを有する電磁弁が前記ホイールシリンダへの作動流体の流路に設けられているとき、前記プランジャを作動させるための起動電流を電源から前記ソレノイドに供給し、前記ソレノイドを流れる電流値を計測し、前記ソレノイドへの電流の供給開始後、計測された電流値が予め定められた値以上低下したとき、前記プランジャが作動したと判定することを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブレーキ制御装置の作動流体の流路に配設される電磁弁の作動判定を早期にかつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】一実施形態に係るブレーキ制御装置の電磁弁駆動回路を示す図である。
【図3】ブレーキECUからの指令、電磁弁のプランジャの作動、ソレノイドのインダクタンス、およびソレノイドを流れる電流のタイミングチャートである。
【図4】ブレーキECUのうち、一実施形態に係る電磁弁の作動判定に関与する部分の機能ブロック図である。
【図5】一実施形態による電磁弁作動判定を示すフローチャートである。
【図6】(a)、(b)は、従来の電磁弁の作動判定方法と本実施形態による電磁弁の作動判定方法とを比較する図である。
【図7】電磁弁作動判定の一変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。
【0018】
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、車輪(図示せず)ごとに設けられた制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット10と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0019】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット10は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24のドライバーによる操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、ドライバーによるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット10から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40を含んで、ホイールシリンダ圧制御系統が構成される。
【0020】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット10、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下でさらに詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
【0021】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0022】
マスタシリンダユニット10は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0023】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。
【0024】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット10に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0025】
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0026】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0027】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0028】
さらに、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット10のリザーバ34に接続されている。
【0029】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0030】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0031】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0032】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0033】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0034】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時にドライバーによるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、ドライバーによるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましく、本実施形態のストロークシミュレータ69は多段のバネ特性を有する。
【0035】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0036】
本実施形態においては上述のように、マスタシリンダユニット10のマスタシリンダ32は、次の各要素を含んで構成される第1の系統により前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに連通される。第1の系統は、マスタ配管37、マスタ流路61、マスタカット弁64、主流路45の第1流路45a、個別流路41および42、ABS保持弁51および52を含んで構成される。また、マスタシリンダユニット10の液圧ブースタ31およびレギュレータ33は、次の各要素を含んで構成される第2の系統により後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLに連通される。第2の系統は、レギュレータ配管38、レギュレータ流路62、レギュレータカット弁65、主流路45の第2流路45b、個別流路43および44、ABS保持弁53および54を含んで構成される。
【0037】
よって、ドライバーによるブレーキ操作量に応じて加圧されたマスタシリンダユニット10における液圧は、第1の系統を介して前輪側のホイールシリンダ23FRおよび23FLに伝達される。また、後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLへは、第2の系統を介してマスタシリンダユニット10における液圧が伝達される。これにより、ドライバーのブレーキ操作量に応じた制動力を各ホイールシリンダ23に発生させることができる。
【0038】
液圧アクチュエータには、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0039】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、いずれもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0040】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。
【0041】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。したがって、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0042】
本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を含んで圧力制御機構が構成される。圧力制御機構を動作させることによりホイールシリンダ23の液圧が制御される。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67との間に主流路45の第2流路45bが連通されているので、圧力制御機構は、分離弁60の開閉に関わらず後輪側のホイールシリンダ23RRおよび23RLの液圧を制御することができる。分離弁60が開状態であれば、圧力制御機構を動作させることにより全てのホイールシリンダ23の液圧を制御することができる。
【0043】
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御手段としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御して、ブレーキ制御を実行可能である。
【0044】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。
【0045】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。さらに、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0046】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0047】
ドライバーによってブレーキペダル24が踏み込まれると、ブレーキECU70は、ペダルストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標減速度を算出する。そして、ブレーキECU70は、算出した目標減速度に基づいてホイールシリンダ23の目標液圧を算出し、ホイールシリンダ圧が目標液圧になるように増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に対する供給電流の値を決定する。その結果、ブレーキ制御装置20においては、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介してブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給されて各車輪に制動力が付与される。なお、このとき、ブレーキECU70は、分離弁60を開状態として動力液圧源30からのブレーキフルードが前輪側に供給されるようにする一方、マスタカット弁64およびレギュレータカット弁65を閉状態とし、マスタシリンダ32およびレギュレータ33から送出されるブレーキフルードが主流路45へ供給されないようにする。
【0048】
図2は、本実施形態に係るブレーキ制御装置20の電磁弁駆動回路を示す。直流電源装置(バッテリ)96は、ブレーキ制御装置20の複数の電磁弁を駆動するための電源装置である。直流電源装置96は、フィルタ92、ソレノイドリレー94等の電子部品を介して複数の電磁弁駆動回路に電流を供給する。フィルタ92を通過し、ノイズ成分が除去された電流は、電源線99を介して並列につながれた複数の電磁弁駆動回路へと流れる。図2では、一つの電磁弁駆動回路88について示し、他の電磁弁駆動回路については図示を省略している。
【0049】
電磁弁駆動回路88は、ブレーキECU70からの制御信号によって、電磁弁のソレノイド90に供給する電流を制御する。電磁弁駆動回路88は、Pチャネル型のFET80と、Nチャネル型のFET82と、フライホイールダイオード84と、電流検出抵抗86と、を備える。
【0050】
FET80のソース端子は、電源線99に接続されている。FET80のゲート端子は、制御信号線97を介してブレーキECU70に接続されている。FET80のドレイン端子と、FET82のドレイン端子との間には、ソレノイド90が接続されている。また、FET80のドレイン端子には、フライホイールダイオード84のカソード端子が接続されており、フライホイールダイオード84のアノード端子は接地されている。FET82のゲート端子は、制御信号線98を介してブレーキECU70に接続されている。FET82のソース端子には、電流検出抵抗86の一方の端子が接続され、電流検出抵抗86の他方の端子は接地されている。また、FET82のソース端子は、電流モニタ線95を介してブレーキECU70に接続されている。
【0051】
電磁弁は、バルブ作動することでエアギャップがなくなり透磁率が大きくなるので、作動後にプランジャを保持するために必要な電流は小さくなる。言い換えると、電磁弁は、起動時には電流値が大きい起動電流を必要とするが、一旦駆動された後は、起動電流よりも電流値が小さい保持電流を供給することで、駆動状態を維持することができる。電磁弁の状態に応じて供給する電流を変化させることで、消費電流と発熱を低減することができる。本実施形態において、ブレーキECU70は、PWMデューティ制御によりFET80のゲート端子に供給する制御信号のデューティ比を変化させ、電磁弁のソレノイド90に供給する電流Iを制御することができる。
【0052】
ブレーキ制御装置20において、ブレーキECU70は、ブレーキ操作がなされた際に複数の電磁弁に対してそれぞれ異なるタイミングで電流の供給を開始するように構成されている。また、ブレーキECU70は、複数の電磁弁のそれぞれに対し、電磁弁を起動させるための起動電流を供給した後に起動電流より電流値の低い保持電流に切り替える制御を行っており、一つの電磁弁に供給する電流を起動電流から保持電流に切り替えた後に、次の電磁弁に対して起動電流の供給を開始する。
【0053】
一般に、電磁弁は、ソレノイド90と、ソレノイドの内部を長手方向に移動可能に配置されたプランジャ(図示せず)とから構成される。ソレノイドに起動電流以上の電流を印加すると、ソレノイドの磁力によりプランジャがソレノイド内に引き寄せられる。図1に表われる電磁弁は全て2ポジションバルブであり、このプランジャが移動することで弁が配設された流路を開閉するように構成されている。このような電磁弁の構成および動作は周知であるから、本明細書ではこれ以上の詳細な記載は省略する。
【0054】
なお、電磁弁には、常開と常閉の二つの種類があるが、これは電流を印加していない状態にあるときプランジャに付与されている付勢力によって開弁または閉弁されていることを表しており、電磁弁の駆動状態とは別のものである。以下の記載では、電磁弁が常開であるか常閉であるかに関わらず、ソレノイドに電流が印加されてプランジャが完全に移動したときを電磁弁またはプランジャが「作動」したといい、ソレノイドに電流が印加されておらずプランジャがソレノイド外にあるときを、電磁弁またはプランジャが「非作動」であるという。つまり、常開弁であれば電磁弁の作動時には閉弁され、常閉弁であれば、電磁弁の作動時には開弁されることになる。
【0055】
図3は、(a)ブレーキECUからの指令、(b)プランジャの作動、(c)ソレノイドのインダクタンス、および(d)ソレノイドを流れる電流のタイミングチャートである。図示するように、ブレーキECU70から起動電流を印加する指令が時刻tでなされたとする。このとき、プランジャはtで直ちに作動するわけではなく、時間をおいて例えば時刻tで作動状態になる。上述の特許文献1のような従来技術では、ECUの指令に応じて実際にプランジャが作動したか否かを判別するために、ソレノイドを流れる起動電流の通電時間を測定するなどしていた。これに対し、本願発明者は、ソレノイドを流れる電流が、電流の印加開始から起動電流値に到達する前に一旦低下することに着目した。この電流の低下は、プランジャがソレノイド内部に移動することで磁束が増加し、ソレノイドのインダクタンスが増加するために生じる現象であることが実験によって確かめられた。
【0056】
そこで、本実施形態では、ブレーキECU70による電磁弁のオン指令後に、ソレノイドを流れる電流の低下を監視することで、電磁弁のプランジャの作動タイミングを検出するようにした。
【0057】
図4は、ブレーキECU70のうち、本実施形態に係る電磁弁の作動判定に関与する部分の機能ブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0058】
電流計測部102は、ソレノイド90を流れる電流値を測定する。電流指令部106は、プランジャを作動させるための起動電流を電源からソレノイド90に供給する。ここで、「起動電流」とはソレノイド作動開始時に必要な電流(例えば、1.5A)である。
【0059】
バルブ作動判定部104は、ソレノイド90への電流付与開始後の過渡状態において、つまり起動電流に到達するまでの間に、電流計測部102により測定された電流値が予め定められた値α以上低下したとき、プランジャが作動したと判定する。予め定められた値αは、実験に基づき、例えば起動電流の何%のように規定してもよいし、何アンペアのように規定してもよい。または、プランジャがソレノイド内に進入するときのインダクタンスの増分から予想される電流低下量に設定してもよい。
【0060】
バルブ作動判定部104によりプランジャが作動したと判定されたとき、電流指令部106は、起動電流よりも電流値の低い保持電流を供給する。保持電流とは、ソレノイドの保持時(オン継続時)に必要な電流(例えば0.8A)である。
【0061】
電源監視部108は、直流電源装置96の電圧(以下、「電源電圧」という)が所定のしきい値以上であるかを判定する。このしきい値は、例えば直流電源装置が仕様通りの性能を発揮できる電圧に設定される。
【0062】
通電時間測定部110は、電源電圧がしきい値を下回ったとき、バルブ作動判定部104によるプランジャの作動判定の代わりに、ソレノイド90に対する起動電流の通電時間に基づきプランジャの作動を判定する。プランジャが作動したと判定されたとき、電流指令部106は、起動電流よりも電流値の低い保持電流を供給する。
【0063】
図5は、本実施形態による電磁弁作動判定を示すフローチャートである。ドライバーによるブレーキ操作に応じてブレーキECU70から電磁弁オンの指令があると、電流指令部はソレノイドに対する起動電流の供給を開始する(S10)。電流計測部102は、ソレノイド90を流れる電流値を計測する(S12)。バルブ作動判定部104は、起動電流のPWMデューティ制御がオンになっているか、電流の過渡状態であるか、および計測された電流値が所定の値以上低下したかを判定する(S14)。全ての判定が肯定的である場合(S14のY)、バルブ作動判定部104は電磁弁が正しく作動してプランジャが移動したと判断する(S16)。この判断に応じて、電流指令部106は、ソレノイド90に対して供給する電流値を起動電流値から保持電流値に切り替える(S18)。
【0064】
S14において、いずれかの条件が否定的であった場合(S14のN)、バルブ作動判定部104はプランジャがまだ移動していないと判断し(S20)、電流計測部102は引き続きソレノイド90を流れる電流値を計測する(S12)。
なお、S14において三つの条件全てを判定しなくてもよく、少なくとも電流計測部102により計測された電流値の低下のみを判定してもよい。
【0065】
図6は、従来の電磁弁の作動判定方法と本実施形態による電磁弁の作動判定方法とを比較する図である。
図6(a)は、従来の電磁弁の作動判定を行ったときのブレーキECU70の指令とソレノイド90を流れる電流とを簡易的に示すタイムチャートである。図示するように、従来の方法では、起動電流を所定時間tだけ通電したとき、電磁弁のプランジャが作動したと判断して、ソレノイドに供給する電流値を起動電流から保持電流に切り替える。プランジャがどの時点で移動を完了するかは正確には分からないので、確実に移動できるだけの通電時間をtとして確保する。
【0066】
これに対し、図6(b)は、本実施形態による電磁弁の作動判定をしたときのブレーキECU70の指令、電磁弁の作動状態、およびソレノイド90を流れる電流とを簡易的に示すタイムチャートである。図示するように、本実施形態では、起動電流の低下の検出に基づきプランジャの作動を判定するため、プランジャ作動後に直ちに、電流指令部106が起動電流から保持電流に切り替えることができる。この結果、ソレノイドにおける消費電力を低減することができ、したがって電磁弁からの発熱も抑制される。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係るブレーキ制御装置20では、ソレノイドへの起動電流の供給によりプランジャが作動し、ソレノイド内部にプランジャが進入することでソレノイドのインダクタンスが変化するため、ソレノイドを流れる電流値が一旦低下するという現象を利用して、プランジャの作動を確認する。したがって、追加のセンサを用いることなく、プランジャの作動を確実に判定できるので、ソレノイドに対する起動電流の通電時間を短くして消費電力および発熱を抑制することができる。その結果、電磁弁の容積も削減できる。
【0068】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0069】
図7は、電磁弁作動判定の一変形例を示すフローチャートである。ドライバーによるブレーキ操作に応じてブレーキECU70から電磁弁オンの指令があると、電流指令部はソレノイドに対する起動電流の供給を開始する(S30)。電流計測部102は、ソレノイド90を流れる電流値を計測する(S32)。バルブ作動判定部104は、起動電流のデューティ制御がオンになっているか、電流の過渡状態であるか、および計測された電流値が所定の値以上低下したかを判定する(S34)。全ての判定が肯定的である場合(S34のY)、電源監視部108はバッテリ電圧を検出し、バッテリ電圧が下限値以下に低下しているか否かを判定する(S36)。バッテリ電圧が低下していない場合(S36のN)、バルブ作動判定部104は電磁弁が正しく作動してプランジャが移動したと判断する(S44)。この判断に応じて、電流指令部106は、ソレノイド90に対して供給する電流値を起動電流値から保持電流値に切り替える(S40)。
【0070】
バッテリ電圧が下限値以下であった場合(S36のY)、S34で判定された電流値の低下が、ソレノイドのインダクタンスによるものかバッテリ電圧に影響されたものか不明であるため、バルブ作動判定部104による作動判定に加えて、通電時間測定部110が、ソレノイド90に対する起動電流の通電時間が所定時間以上であるか否かを判定する(S38)。通電時間が所定時間以上であれば(S38のY)、電磁弁が作動してプランジャが移動したと判断し、この判断に応じて電流指令部106は、ソレノイド90に対して供給する電流値を起動電流値から保持電流値に切り替える(S40)。S38において、通電時間が所定時間未満である場合は(S38のN)、所定時間が経過するまで待機する。
【0071】
S34において、いずれかの条件が否定的であった場合(S34のN)、バルブ作動判定部104はプランジャがまだ移動していないと判断し(S42)、電流計測部102は引き続きソレノイド90を流れる電流値を計測する(S32)。
なお、S34において三つの条件全てを判定しなくてもよく、少なくとも電流計測部102により計測された電流値の低下のみを判定してもよい。
【0072】
一般に、起動連流を通電中に電源電圧の低下が生じた場合には、電源電圧低下の影響によってソレノイド電流が変動したのか、またはプランジャの移動に伴うソレノイドのインダクタンス増加によって電流が低下したのかを区別することができない。そこで、この変形例によると、ソレノイドに対する起動電流の通電時間により電磁弁の作動を判定するようにした。よって、電磁弁の作動の誤判定を回避することができる。
【符号の説明】
【0073】
20 ブレーキ制御装置、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 30 動力液圧源、 32 マスタシリンダ、 45 主流路、 60 分離弁、 61 マスタ流路、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 102 電流計測部、 104 バルブ作動判定部、 106 電流指令部、 108 電源監視部、 110 通電時間測定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各車輪に対応して設けられるホイールシリンダに作動流体を供給して制動力を付与するブレーキ制御装置において、
前記ホイールシリンダへの作動流体の流路に設けられ、ソレノイドと該ソレノイドへの電流の印加によって作動するプランジャとを有する電磁弁と、
前記プランジャを作動させるための起動電流を電源から前記ソレノイドに供給する電流指令部と、
前記ソレノイドを流れる電流値を計測する計測部と、
前記ソレノイドへの電流の供給開始後、前記計測部により計測された電流値が予め定められた値以上低下したとき、前記プランジャが作動したと判定する作動判定部と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記作動判定部により前記プランジャが作動したと判定されたとき、前記電流指令部は、前記起動電流よりも電流値の低い保持電流を前記ソレノイドに供給することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
電源電圧が所定のしきい値以上であるかを判定する電源監視部と、
電源電圧がしきい値を下回ったとき、前記作動判定部による前記プランジャの作動判定の代わりに、前記ソレノイドに対する起動電流の通電時間に基づき前記プランジャが作動したか否かを判定する通電時間測定部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
車両の各車輪に対応して設けられるホイールシリンダに作動流体を供給して制動力を付与するブレーキ制御装置において、ソレノイドと該ソレノイドへの電流の印加によって作動するプランジャとを有する電磁弁が前記ホイールシリンダへの作動流体の流路に設けられているとき、
前記プランジャを作動させるための起動電流を電源から前記ソレノイドに供給し、
前記ソレノイドを流れる電流値を計測し、
前記ソレノイドへの電流の供給開始後、計測された電流値が予め定められた値以上低下したとき、前記プランジャが作動したと判定することを含むことを特徴とする電磁弁の作動判定方法。
【請求項5】
前記プランジャが作動したと判定されたとき、前記起動電流よりも電流値の低い保持電流を前記ソレノイドに供給することを特徴とする請求項4に記載の電磁弁の作動判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−131706(P2011−131706A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292436(P2009−292436)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】