説明

ブレーキ制御装置

【課題】ストロークシミュレータのペダルフィーリングにばらつきが生じる。
【解決手段】マスタシリンダは、ドライバーによるブレーキペダルの操作量に応じた液圧を出力する。ストロークシミュレータ24は、流路68を介してマスタシリンダと連通するシミュレータ室66にブレーキオイルを導入することによって、第1スプリング78の付勢力に抗して摺動可能な第1ピストン70を有し、第1ピストン70は、ブレーキペダルの操作量に応じてその操作に対する反力を創出する。シミュレータ室66と反対側の空間96、98は、流路80を介してホイールシリンダの減圧弁とつながる減圧通路と連通している。制動解除時にブレーキオイルの圧力を空間96および98に導入することによって、第1ピストン70を初期位置Aに強制的に押し戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバーによるブレーキペダルの操作量に応じて反力を与えるストロークシミュレータを有するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両における電子制御ブレーキシステムでは、回生によるブレーキ力の変動に合わせてドライバーのペダル操作に関係なく油圧ブレーキの増減圧を実施する必要がある。そこで、ブレーキバイワイヤの構成が必要となる。
【0003】
一般に、ブレーキバイワイヤシステムでは、ブレーキの操作感が従来のブレーキシステムと異ならないように、ペダルフィーリングを模擬するためのストロークシミュレータが設置される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−153555号公報
【特許文献2】特開平8−72688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ストロークシミュレータは、シリンダ内に配置され弾性体で付勢されたピストンをマスタシリンダからの作動液圧で押し込むことで、反力を創出している。ブレーキペダルが初期位置に戻ると作動液がシリンダから排出される。このとき、ピストンは弾性体により初期位置に押し戻される。しかしながら、ピストンとシリンダとの間の摺動抵抗によってピストンが初期位置に戻らないと、ブレーキペダルの踏み込み初期のペダルフィーリングが設定されたものとは異なってしまうという問題がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ストロークシミュレータを備えるブレーキ制御装置において、ストロークシミュレータの創出するペダルフィーリングを安定させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、ブレーキ制御装置である。この装置は、ドライバーによるブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を出力するマスタシリンダと、前記マスタシリンダに連通するシリンダ内に弾性体の付勢力に抗して摺動可能なピストンを有し前記ブレーキ操作部材の操作量に応じてその操作に対する反力を創出するストロークシミュレータと、作動液圧の導入により車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、前記ホイールシリンダの液圧を制御する減圧弁と、前記減圧弁を通して排出される作動液を収容するリザーバと、前記減圧弁と前記リザーバとを連通するリザーバ流路に配設され該リザーバ流路の開度を制御する開度制御手段と、前記減圧弁と前記開度制御手段との間で前記リザーバ流路から分岐して前記ストロークシミュレータと連通するシミュレータ流路と、前記減圧弁と前記開度制御手段とを制御する制御手段と、を備える。前記ストロークシミュレータのシリンダは、前記マスタシリンダからの作動液圧が導入される第1室と、前記ホイールシリンダからの作動液圧が導入される第2室とに前記ピストンによって画成されており、前記制御手段は、制動解除時に前記開度制御手段によって前記リザーバ流路の開度を所定期間減少させ、作動液の少なくとも一部を前記ストロークシミュレータの第2室へと導入させる。
【0007】
この態様によると、ストロークシミュレータを有するブレーキ制御装置において、ストロークシミュレータとホイールシリンダの減圧通路とを連結し、制動解除時にホイールシリンダ圧とリザーバ液圧との差圧をストロークシミュレータ内の第2室に導入するようにした。この差圧は、ペダルフィーリングを模擬するためのピストンを第1室側に押圧し、強制的に初期位置に戻す。これによって、ブレーキ操作部材が操作される毎にピストンが同一の初期位置からシリンダ内を摺動開始するようになるため、ドライバーの感じるブレーキペダルフィーリングを一定に保つことができる。
【0008】
前記制御手段は、ホイールシリンダ圧が所定値より高いとき前記開度制御手段によって前記リザーバ流路の開度を所定期間減少させ、作動液圧の少なくとも一部を前記ストロークシミュレータの第2室へと導入させてもよい。これによると、ストロークシミュレータとホイールシリンダからの減圧通路とを連結し、制動解除時にホイールシリンダからのブレーキオイルの一部をストロークシミュレータ内に導入するようにした。これによって、ホイールシリンダの減圧通路における減圧勾配が緩和され、減圧通路におけるベーパーロック現象の発生や減圧弁の自励振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ストロークシミュレータを備えるブレーキ制御装置において、ストロークシミュレータの創出するペダルフィーリングを安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1実施形態.
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。ブレーキ制御装置10は、図示しない車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、ドライバーによるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12の操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定する。つまり、ブレーキ制御装置10は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御することができる。
【0011】
ブレーキペダル12は、ドライバーによる踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキオイルを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。また、ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
【0012】
さらに、マスタシリンダ14には、リザーバタンク26が接続されており、マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、シミュレータカット弁25を介して、ドライバーによるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。なお、シミュレータカット弁25は、非通電時に閉状態にあり、ドライバーによるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型電磁弁である。
【0013】
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されている。ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のディスクブレーキユニット21FRのホイールシリンダに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のディスクブレーキユニット21FLのホイールシリンダに接続されている。
【0014】
右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、何れも、非通電時に開状態にあり、ドライバーによるブレーキペダル12の操作が検出された際に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。
【0015】
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。
【0016】
ブレーキ制御装置10では、ドライバーによってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLの2つによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。
【0017】
一方、リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキオイルの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。
【0018】
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキオイルを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキオイルの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキオイルは油圧給排管28へと戻される。
【0019】
さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキオイルの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
【0020】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを介して右前輪用のディスクブレーキユニット21FR、左前輪用のディスクブレーキユニット21FL、右後輪用のディスクブレーキユニット21RRおよび左後輪用のディスクブレーキユニット21RLのホイールシリンダにそれぞれに接続されている。以下、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、何れも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダの増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。
【0021】
なお、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、ホイールシリンダの作用によってブレーキパッド23をディスク22に押し付けることで制動力を発生する。
【0022】
また、右前輪用のディスクブレーキユニット21FRと左前輪用のディスクブレーキユニット21FLのホイールシリンダは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてディスクブレーキユニット21FR、21FLのホイールシリンダの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のディスクブレーキユニット21RRと左後輪用のディスクブレーキユニット21RLのホイールシリンダは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0023】
各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLのホイールシリンダ付近には、それぞれ対応するホイールシリンダに作用するブレーキオイルの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR、44FL、44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
【0024】
上述の右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ制御装置10の油圧アクチュエータを構成する。そして、かかる油圧アクチュエータは、本実施形態における制御部としての電子制御ユニット100(以下「ブレーキECU100」という)によって制御される。ブレーキECU100は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。
【0025】
ブレーキECU100には、上述の電磁開閉弁22FR、22FL、シミュレータカット弁25、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL等が電気的に接続されている。また、ブレーキECU100には、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLから、各ディスクブレーキユニットのホイールシリンダにおけるホイールシリンダ圧を示す信号が与えられる。さらに、ブレーキECU100には、ストロークセンサ46からブレーキペダル12のペダルストロークを示す信号が与えられ、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLからマスタシリンダ圧を示す信号が与えられ、アキュムレータ圧センサ51からアキュムレータ圧を示す信号が与えられる。
【0026】
このように構成されるブレーキ制御装置10では、ブレーキECU100により、ブレーキペダル12の踏み込みストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標減速度が算出され、算出された目標減速度に応じて各車輪の目標ホイールシリンダ圧が求められる。そして、ブレーキECU100により増圧弁40および減圧弁42が制御され、各車輪のホイールシリンダ圧が目標ホイールシリンダ圧になるよう制御される。
【0027】
一方、このとき電磁開閉弁22FRおよび22FLは閉状態とされ、シミュレータカット弁25は開状態とされる。よって、ドライバーによるブレーキペダル12の踏み込みによりマスタシリンダ14から送出されたブレーキオイルは、シミュレータカット弁25を通ってストロークシミュレータ24に流入する。
【0028】
減圧弁42とリザーバタンク26とを連通する流路の途中には、リザーバタンク26に続く油圧給排管28の開度を制御するシミュレータ導入弁75が配設される。シミュレータ導入弁75は常開型のリニア弁である。減圧弁42とシミュレータ導入弁75との間からは、ストロークシミュレータ24と連通するシミュレータ流路71が分岐している。詳細な構成は図2を参照して後述するが、ストロークシミュレータ24のシリンダは、マスタシリンダ14からの液圧が導入される空間と、シミュレータ流路71を介してホイールシリンダからの液圧が導入される空間とを有している。
【0029】
図2は、ストロークシミュレータ24の断面を模式的に示す断面図である。ストロークシミュレータ24は、ハウジング64の内部に第1ピストン70と第2ピストン82とを備える。ハウジング64の内部には、第1ピストン70よりもわずかに大径の第1シリンダ60と、第1シリンダ60よりも大径の第2シリンダ62が連続して形成されている。第1ピストン70は第1シリンダ60内を摺動し、第2ピストン82は第2シリンダ62内を移動する。
【0030】
第1ピストン70の左側には、マスタシリンダ14からのブレーキオイルが導入されるシミュレータ室66が画成される。第1ピストン70は略円柱形状をなし、円柱の表面に形成された円環溝にリング状のカップ72が取り付けられて、シミュレータ室66をシールしている。シミュレータ室66は、ハウジング64に形成された流路68およびシミュレータカット弁25を介してブレーキ油圧制御管16に連通している。
【0031】
第1ピストン70と第2ピストン82との間には、ピストンを付勢する弾性体としての第1スプリング78が若干量圧縮された状態で配置される。第1ピストン70のシミュレータ室66と反対側の底部には、軸方向に延びる穴74が形成される。穴74には円柱状のゴム76が、第1ピストン70の底部から若干量突出するような状態で嵌め込まれる。
【0032】
第2ピストン82はフランジ82aと凸部82bとを有する。フランジ82aは第2シリンダ62の中心軸から外径方向に延設され、第2シリンダ62より若干量小さい外径を有している。このフランジ82aにより、第2ピストン82が所定位置より左方に移動することを防止している。
【0033】
第2シリンダ62内の右端には基部90が配置される。基部90とフランジ82aとの間には、第2ピストン82を付勢する弾性体としての第2スプリング84が若干量圧縮された状態で配置される。
【0034】
凸部82bは、フランジ82aの中央から第1ピストン70とは逆方向(図中右方向)に延びる。凸部82bの先端にはゴムキャップ88が嵌め込まれており、第2フランジが右方に移動すると、ゴムキャップ88は基部90に形成されたゴム受容部94内部に収納される。
【0035】
第2ピストン82には貫通路86が形成されている。この貫通路86により、第1シリンダ60内の空間96と、第2シリンダ62内の空間98とが連通している。貫通路86は、第1ピストン70の底部に設けられたゴム76とは異なる位置に開口しており、第1ピストン70が右方に移動してもゴム76が貫通路86内部に入り込まないようにされている。
【0036】
第1シリンダ60には流路80が設けられる。この流路80はシミュレータ導入弁75を介してリザーバタンク26に連通している。したがって、シミュレータ導入弁75を開放すれば、第1シリンダ60内の空間96と第2シリンダ62内の空間98とをリザーバタンク26と連通させて、その内部のブレーキオイルの圧力を概ね大気圧と一致させることができる。
【0037】
上記構成のストロークシミュレータ24の動作を説明する。シミュレータカット弁25が開放された状態でドライバーによりブレーキペダル12が操作されると、ブレーキオイルが流路68からシミュレータ室66に導入される。すると、第1ピストン70が、第1スプリング78の付勢力と、カップ72と第1シリンダ60の内周面との摺動抵抗に抗して、図中右方向に移動する。第1ピストン70が右方に移動すると、第1ピストン70の底部に設けられたゴム76の先端が第2ピストン82の左端に接触する。この時点から、第1ピストン70にはさらにゴム76の弾性力が加えられる。
【0038】
シミュレータ室66にブレーキオイルが導入されて、第1ピストン70がさらに右方に移動すると、ゴム76が圧縮されて第1ピストン70の穴74に押し込まれた状態になる。すると、第1ピストン70が第2ピストン82と直に接触する状態となる。この時点から第1ピストン70と第2ピストン82とは一体に移動するようになり、第1ピストン70と第2ピストン82には第2スプリング84の弾性力が加えられる。
【0039】
第1ピストン70と第2ピストン82とがさらに右方に移動すると、今度は第2ピストン82の凸部82bに取り付けられたゴムキャップ88が、基部のゴム受容部94と接触する。これ以降、ゴムキャップ88の弾性力も第1ピストン70と第2ピストン82に加えられる。
【0040】
この結果、ストロークシミュレータ24は、第1ピストン70の右方への移動につれて4段階のバネ特性すなわち反力を与えることになる。スプリング78、84のバネ係数、ゴム76、ゴムキャップ88の反発係数、およびカップ72摺動抵抗などを調整することによって、ドライバーによるブレーキペダル12の操作量に応じて、踏み始めは軽く、踏み込みにしたがって反力が大きくなる最適なブレーキフィーリングが付与される。
なお、他の段数特性を有するストロークシミュレータであっても、本実施形態を適用可能であることは言うまでもない。
【0041】
ドライバーがブレーキペダルから足を離すと、シミュレータ室66から流路68を経由してブレーキオイルがストロークシミュレータ24から流出し、これに応じて第1ピストン70と第2ピストン82は、ゴムキャップ88、第2スプリング84、ゴム76および第1スプリング78からの弾性力により、図2中の左方に押され、第1ピストン70は第1シリンダ60内を摺動する。このとき、カップ72と第1シリンダ60の内周面との間に生じる摺動抵抗により、図2中に「x」で示すように、第1ピストン70が左端の初期位置(図2中の「A」)まで戻り切らず途中で停止してしまうことがある。気温の低下などのためにカップ72が硬化すると、さらに初期位置に戻りにくくなる。
【0042】
こうすると、再びドライバーによりブレーキペダル12が操作されてシミュレータ室66にブレーキオイルが導入されたとき、第1ピストン70が摺動を開始するまでのタイミングが設計値よりも遅くなるため、ドライバーに違和感を感じさせてしまう原因となる。また、ピストンの戻り位置がばらつくと、ドライバーの感じるペダルフィーリングが毎回異なることになり、好ましくない。
【0043】
これを防止するため、第1スプリング78のバネ係数を大きく設定し、カップ72の摺動抵抗を上回る強い反発力を発揮させることもできる。しかしながら、実際には、第1スプリング78のバネ係数は従来のブレーキペダルと同様のフィーリングをドライバーに与えるように値が定められるため、バネ係数を変更できる範囲は限られている。
【0044】
そこで、本実施形態では、ブレーキペダルが戻される制動解除時に、ストロークシミュレータ24のシミュレータ室66の背面に当たる空間96および98にブレーキオイルを導入することによって、ブレーキペダルの戻し時に、第1ピストンを強制的に初期位置Aに復帰させるようにした。
【0045】
図1と図2をともに参照して、ブレーキECU100は、ストロークセンサ46の検出値などからドライバーがブレーキペダル12から足を離したことを検出すると、減圧弁42を開弁するとともにシミュレータ導入弁75を閉弁する。減圧通路55の圧力Pと油圧給排管28の圧力Pとの差圧ΔP=P−Pが、シミュレータ流路71を通ってストロークシミュレータ24の空間96、98に導入される。このブレーキオイルの差圧ΔPは、カップ72と第1シリンダ60の内周面との間に生じる摺動抵抗に打ち勝って、第1ピストン70を第1シリンダ60内で左方に移動させ、第1ピストン70を初期位置Aにまで押し戻す。所定期間の経過後、ブレーキECU100がシミュレータ導入弁75を開弁すると、ストロークシミュレータ24の空間96、98は、流路80、シミュレータ流路71、シミュレータ導入弁75および油圧給排管28を介してリザーバタンク26と連通し、大気圧に開放される。
【0046】
図3は、本実施形態に係るシミュレータピストン戻し制御のフローチャートである。まず、ブレーキECU100は、ブレーキペダルからドライバーの足が離され、制動解除が要求されていることを、ストロークセンサ46の出力値を参照して検出する(S10)。ブレーキECU100は、減圧弁42を開弁するとともにシミュレータ導入弁75を閉弁し、ストロークシミュレータ24の空間96、98に差圧ΔPを導入する(S12)。所定期間の経過後、ブレーキECU100はシミュレータ導入弁75を開弁して、ストロークシミュレータ24の空間96、98を大気圧に開放する(S14)。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、ストロークシミュレータを有するブレーキ制御装置において、ストロークシミュレータとホイールシリンダの減圧通路とを連結し、制動解除時にホイールシリンダ圧とリザーバ液圧との差圧をストロークシミュレータ内の空間96、98に導入するようにした。この差圧は、ペダルフィーリングを模擬するための第1ピストン70をシミュレータ室66側に押圧し、強制的に初期位置Aに戻す。これによって、ブレーキペダル12が操作される毎に、第1ピストン70が同一の初期位置Aから第1シリンダ60内を摺動開始するようになるため、ドライバーの感じるブレーキペダルフィーリングを一定に保つことができる。
【0048】
制動解除時にシミュレータ導入弁75を全閉にする代わりに、油圧給排管28を絞ることによってブレーキオイルの一部をストロークシミュレータ24に導入するようにしてもよい。また、リニア弁であるシミュレータ導入弁75の代わりに可変絞りを有するオリフィスを油圧給排管28に配設しておき、制動解除時にブレーキECU100からの指令に応じてオリフィスを絞るようにしても同様の効果が得られる。
【0049】
第2実施形態.
上記構成のブレーキ制御装置10には、以下のような問題もある。ドライバーがブレーキペダル12から足を離し制動解除が指示されると、減圧弁42が開弁するが、このときにオイルポンプ34を駆動するモータ32が作動した場合、減圧弁42の減圧通路55側が負圧になる。ブレーキオイルが減圧弁42の高圧側から負圧側に逃がされる場合、その圧力差によってブレーキオイルに微小な気泡が発生することがある。このような気泡は、ブレーキの作動時に気泡がクッションの役目をするベーパーロック現象を発生させてしまい、ブレーキの性能を低下させてしまう。さらに、減圧弁42の両側の圧力差が大きい状態で減圧弁42を開弁すると、減圧弁に自励振動が発生しやすいという問題もある。
【0050】
そこで、この第2実施形態において、ブレーキECU100は、ホイールシリンダ圧が所定値より高いとき、シミュレータ導入弁75を閉弁し、ブレーキオイルをストロークシミュレータ24の空間96、98へと導入することによって、ホイールシリンダ圧の圧力勾配を緩和する。
【0051】
図4は、ホイールシリンダ圧と、減圧弁42およびシミュレータ導入弁75の開閉との関係を示す。ホイールシリンダの高圧時、制動指示に応じて時刻t1で減圧弁42が開弁されるとき、シミュレータ導入弁75を閉弁し、ブレーキオイルがストロークシミュレータ24の空間96、98に導入されるようにする。導入されたブレーキオイルは、ストロークシミュレータ24において、第1ピストン70と第2ピストン82がスプリング78、84等から反発力を受けるので、減圧通路55における減圧勾配が緩和される。ホイールシリンダ圧が予め定められた所定値P2まで低下すると、ブレーキECU100はシミュレータ導入弁75を開弁し、ストロークシミュレータ24の空間96、98は大気圧に開放される。
【0052】
図5は、本実施形態に係る減圧勾配緩和制御のフローチャートである。まず、ブレーキECU100は、ブレーキペダルからドライバーの足が離され、制動解除が要求されていることを、ストロークセンサ46の出力値を参照して検出する(S20)。ブレーキECU100は、減圧弁42を開弁するとともに、ホイールシリンダ圧センサ44の出力値から、ホイールシリンダ圧が予め定められたしきい値以上か否かを判定する(S22)。ホイールシリンダ圧がしきい値以上であれば(S22のY)、シミュレータ導入弁75を閉弁し、ストロークシミュレータ24の空間96、98にブレーキオイルを導入する(S24)。ホイールシリンダ圧が第2のしきい値P2以下になると、ブレーキECU100はシミュレータ導入弁75を開弁して、ストロークシミュレータ24の空間96、98を大気圧に開放する(S26)。
【0053】
なお、ホイールシリンダの急減圧が要求される、VSC(Vehicle Stability Control)、ABS(Anti-lock Brake System)による制御が実施されているときには、シミュレータ導入弁75を閉弁しないようにすることが望ましい。
【0054】
本実施形態によれば、ストロークシミュレータを有するブレーキ制御装置において、ストロークシミュレータとホイールシリンダからの減圧通路とを連結し、制動解除時にホイールシリンダからのブレーキオイルの一部をストロークシミュレータ内に導入するようにした。これによって、ホイールシリンダの減圧通路における減圧勾配が緩和され、減圧通路におけるベーパーロック現象の発生や減圧弁の自励振動を抑制することができる。
【0055】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組合せ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組合せなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0056】
本発明は、減圧通路55と油圧給排管28との差圧をストロークシミュレータに導入可能であれば、図1に示した以外の構成を有するブレーキ制御装置にも適用することができる。
【0057】
図6は、そのようなブレーキ制御装置の一例である。以下、簡単に構成を説明する。なお、図1と同じ符号を付された構成要素は上述したのと同様の機能を有する。
【0058】
ブレーキ制御装置120は、ブースタ131、マスタシリンダ132、レギュレータ133、リザーバタンク26、アキュムレータ50およびオイルポンプ34を含む。ブースタ131は、ブレーキペダル12に連結されており、ブレーキペダル12に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ132に伝達する。そして、マスタシリンダ132は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。マスタシリンダ132には流体通路137が、レギュレータ33には流体通路138が、アキュムレータ35には流体通路139が接続されている。
【0059】
個別通路141〜144は、それぞれ主通路145から分岐されて対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RR、21RLに接続されている。これにより、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、主通路145と連通可能となる。また、個別通路141、142、143および144の中途には、増圧保持弁151、152、153および154が設けられている。
【0060】
さらに、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、個別通路141〜144にそれぞれ接続された減圧通路146、147、148および149を介して油圧給排管28に接続されている。減圧通路146、147、148および149の中途には、減圧制御弁156、157、158および159が設けられている。
【0061】
主通路145は、中途に連通弁160を有しており、この連通弁160により個別通路143および144と接続される第1通路145aと、個別通路141および142と接続される第2通路145bとに区分けされている。すなわち、第1通路145aは、個別通路143および144を介して後輪側のディスクブレーキユニット21RRおよび21RLに接続され、第2通路145bは、個別通路141および142を介して前輪側のディスクブレーキユニット21FRおよび21FLに接続される。
【0062】
また、主通路145には、マスタシリンダ132と連通する流体通路137に接続されるマスタ通路161、レギュレータ133と連通する流体通路138に接続されるレギュレータ通路162、およびアキュムレータ135と連通する流体通路139に接続されるアキュムレータ通路163が接続されている。
【0063】
マスタ通路161は、中途にマスタ圧カット弁164を有する。レギュレータ通路162は、中途にレギュレータ圧カット弁165を有する。また、アキュムレータ通路163は、中途に増圧リニア制御弁166を有し、アキュムレータ通路163および主通路145の第1通路145aは、減圧リニア制御弁167を介して油圧給排管28に接続されている。
【0064】
一方、マスタ通路161には、マスタ圧カット弁164よりも上流側において、シミュレータカット弁25を介してストロークシミュレータ24が接続される。
【0065】
ブレーキECU200は、各種センサからの信号に基づいてポンプ34や電磁制御弁151〜154、156〜159、160、164〜168を制御する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおけるブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)は、制御圧センサ173の出力値に基づいて増圧リニア制御弁166および減圧リニア制御弁167への供給電流Iを制御することにより調整される。また、この場合、シミュレータカット弁25を介してマスタシリンダ132とストロークシミュレータ24とが接続され、ストロークシミュレータ24によりブレーキペダル12を操作するドライバーに対する反力が創出される。以上のようにして、各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して所望圧力のブレーキオイルを安定的に供給することが可能となる。
【0066】
以上説明したようなブレーキ制御装置120において、上述した実施形態と同様に、シミュレータ導入弁175を油圧給排管28に配設する。そして、油圧給排管28の中途から分岐し、ストロークシミュレータ24の第2室に連通するシミュレータ流路171も設ける。制動解除時には、減圧制御弁156〜159または減圧リニア制御弁167が開弁され、ホイールシリンダからのブレーキオイルが減圧通路55に流入する。以下、シミュレータ導入弁75およびストロークシミュレータ24の動作は、上述の実施形態と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】ストロークシミュレータの断面を模式的に示す断面図である。
【図3】本実施形態に係るシミュレータピストン戻し制御のフローチャートである。
【図4】ホイールシリンダ圧と、減圧弁およびシミュレータ制御弁の開閉との関係を示す図である。
【図5】本実施形態に係る減圧勾配緩和制御のフローチャートである。
【図6】本発明を適用可能な別のブレーキ制御装置を示す系統図である。
【符号の説明】
【0068】
10 ブレーキ制御装置、 12 ブレーキペダル、 14 マスタシリンダ、 16 ブレーキ油圧制御管、 21 ディスクブレーキユニット、 24 ストロークシミュレータ、 25 シミュレータカット弁、 26 リザーバタンク、 28 油圧給排管(リザーバ流路)、 42 減圧弁、 46 ストロークセンサ、 55 減圧通路、 60 第1シリンダ、 62 第2シリンダ、 64 ハウジング、 66 シミュレータ室(第1室)、 70 第1ピストン、 71 シミュレータ流路、 75 シミュレータ導入弁(開度制御手段)、 78 第1スプリング、 82 第2ピストン、 84 第2スプリング、 96、98 空間(第2室)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバーによるブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を出力するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダに連通するシリンダ内に弾性体の付勢力に抗して摺動可能なピストンを有し前記ブレーキ操作部材の操作量に応じてその操作に対する反力を創出するストロークシミュレータと、
作動液圧の導入により車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、
前記ホイールシリンダの液圧を制御する減圧弁と、
前記減圧弁を通して排出される作動液を収容するリザーバと、
前記減圧弁と前記リザーバとを連通するリザーバ流路に配設され該リザーバ流路の開度を制御する開度制御手段と、
前記減圧弁と前記開度制御手段との間で前記リザーバ流路から分岐して前記ストロークシミュレータと連通するシミュレータ流路と、
前記減圧弁と前記開度制御手段とを制御する制御手段と、
を備え、
前記ストロークシミュレータのシリンダは、前記マスタシリンダからの作動液圧が導入される第1室と、前記ホイールシリンダからの作動液圧が導入される第2室とに前記ピストンによって画成されており、
前記制御手段は、制動解除時に前記開度制御手段によって前記リザーバ流路の開度を所定期間減少させ、作動液の少なくとも一部を前記ストロークシミュレータの第2室へと導入させることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、ホイールシリンダ圧が所定値より高いとき前記開度制御手段によって前記リザーバ流路の開度を所定期間減少させ、作動液の少なくとも一部を前記ストロークシミュレータの第2室へと導入させることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−210372(P2007−210372A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30299(P2006−30299)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】