説明

ブレーキ装置

【課題】 電動制動力発生手段を駆動する電動モータを大型化することなく、制動力発生の応答性を高める。
【解決手段】 目標ブレーキ液圧算出手段M1はスレーブシリンダに発生させるべき目標ブレーキ液圧を算出し、微分手段M2は目標ブレーキ液圧を時間微分して目標ブレーキ液圧の変化率を算出し、界磁電流算出手段M3は目標ブレーキ液圧の変化率に基づいてスレーブシリンダを駆動する電動モータの界磁電流指令値を算出し、電動モータ制御手段M4は界磁電流指令値に基づいて電動モータを弱め界磁制御する。目標ブレーキ液圧の変化率が大きいときは制動力を急激に立ち上げる必要がある緊急時であり、このときに界磁電流指令値を増加させて電動モータの弱め界磁量を増加させることで、電動モータの回転数を増加させてスレーブシリンダを速やかに作動させ、制動力発生の応答性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの駆動力で車輪を制動する電動制動力発生手段を備えたブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の制動操作を電気信号に変換して電動制動力発生手段としてのモータシリンダを作動させ、このモータシリンダが発生するブレーキ液圧でホイールシリンダを作動させる、いわゆるBBW(ブレーキ・バイ・ワイヤ)式ブレーキ装置が、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2005−343366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、衝突回避のような緊急時にはスレーブシリンダの電動モータの回転数を増加させてブレーキ液圧を素早く立ち上げる必要があるが、緊急時の制動力発生の応答性を高めるべく電動モータの定格回転数を高く設定すると、その分だけ定格トルクが低くなってしまい、通常時に電動モータのトルクが不足する可能性がある。その対応策として、電動モータの定格回転数および定格トルクの両方を高く設定すると、電動モータが大型化したり価格が上昇するという問題がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、電動制動力発生手段を駆動する電動モータを大型化することなく、制動力発生の応答性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、電動モータの駆動力で車輪を制動する電動制動力発生手段を備えたブレーキ装置において、前記電動モータを弱め界磁制御する電動モータ制御手段を備えたことを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記電動モータ制御手段は、少なくとも運転者の制動操作量に応じて目標制動力を設定し、前記目標制動力の変化率に応じて弱め界磁制御を実行することを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0007】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記電動モータ制御手段は、前記電動制動力発生手段の負荷特性を検出し、前記負荷特性に応じて弱め界磁制御を実行することを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0008】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記電動モータ制御手段は、イグニッションスイッチのオン時に前記負荷特性の検出を実行することを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0009】
尚、実施の形態のスレーブシリンダ23は本発明の電動制動力発生手段に対応し、実施の形態の弱め界磁制御部Uaは本発明の電動モータ制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、電動制動力発生手段を作動させる電動モータを電動モータ制御手段で弱め界磁制御するので、通常時は電動モータに充分なトルクを発生させながら、必要に応じて弱め界磁制御により電動モータの回転数を増加させることで、電動制動力発生手段を速やかに作動させて制動力発生の応答性を高めることができる。
【0011】
また請求項2の構成によれば、電動モータ制御手段が運転者の制動操作量に応じて目標制動力を設定し、目標制動力の変化率に応じて弱め界磁制御を実行するので、制動力の急激な立ち上げが必要な緊急時に電動モータの回転数を増加させて電動制動力発生手段を速やかに作動させることができる。
【0012】
また請求項3の構成によれば、電動モータ制御手段が電動制動力発生手段の負荷特性を検出し、その負荷特性に応じて弱め界磁制御を実行するので、電動制動力発生手段の負荷特性の差による制動力発生の応答遅れを、電動モータの回転数を増加させることで補償することができる。
【0013】
また請求項4の構成によれば、電動モータ制御手段がイグニッションスイッチのオン時に電動制動力発生手段の負荷特性の検出を実行するので、エンジンを始動する度に最新の負荷特性を検出して適切な弱め界磁制御を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図6は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は車両用ブレーキ装置の正常時の液圧回路図、図2は図1に対応する異常時の液圧回路図、図3は車両用ブレーキ装置の制御系のブロック図、図4は電子制御ユニットの弱め界磁制御部のブロック図、図5は目標液圧の変化率から界磁電流指令値を検索するマップを示す図、図6は電動モータのq軸成分の界磁電流指令値Iq* を変化させたときの回転数およびトルクの関係を示すグラフである。
【0016】
図1に示すように、タンデム型のマスタシリンダ11は、運転者がブレーキペダル12を踏む踏力に応じたブレーキ液圧を出力する二つの第1液圧室13A,13Bを備えており、一方の第1液圧室13Aは液路Pa,Pb,Pc,Pd,Peを介して例えば左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15のホイールシリンダ16,17に接続されるとともに、他方の第1液圧室13Bは液路Qa,Qb,Qc,Qd,Qeを介して例えば右前輪および左後輪のディスクブレーキ装置18,19のホイールシリンダ20,21に接続される。
【0017】
液路Pa,Pb間に常開型電磁弁である遮断弁22Aが配置され、液路Qa,Qb間に常開型電磁弁である遮断弁22Bが配置され、液路Pb,Qbと液路Pc,Qcとの間にスレーブシリンダ23が配置され、液路Pc,Qcと液路Pd,Pe;Qd,Qeとの間にABS装置24が配置される。
【0018】
液路Qaから分岐する液路Ra,Rbには、常閉型電磁弁である反力許可弁25を介してストロークシミュレータ26が接続される。ストロークシミュレータ26は、シリンダ27にスプリング28で付勢されたピストン29を摺動自在に嵌合させたもので、ピストン29の反スプリング28側に形成された液室30が液路Rbに連通する。
【0019】
スレーブシリンダ23のアクチュエータ51は、ブラシレスDCモータやACサーボモータのような永久磁石同期モータよりなる電動モータ52と、電動モータ52の回転軸に設けた駆動ベベルギヤ53と、駆動ベベルギヤ53に噛合する従動ベベルギヤ54と、従動ベベルギヤ54により作動するボールねじ機構55とを備える。アクチュエータハウジング56に一対のボールベアリング57,57を介してスリーブ58が回転自在に支持されており、このスリーブ58の内周に出力軸59が同軸に配置されるとともに、その外周に従動ベベルギヤ54が固定される。
【0020】
スレーブシリンダ23のシリンダ本体36の内部に一対のリターンスプリング37A,37Bで後退方向に付勢された一対のピストン38A,38Bが摺動自在に配置されており、ピストン38A,38Bの前面に一対の第2液圧室39A,39Bが区画される。後側のピストン38Aの後端に前記出力軸59の前端が当接する。一方の第2液圧室39Aはポート40A,41Aを介して液路Pb,Pcに連通し、他方の第2液圧室39Bはポート40B,41Bを介して液路Qb,Qcに連通する。
【0021】
ABS装置24の構造は周知のもので、左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15の系統と、右前輪および左後輪のディスクブレーキ装置18,19の系統とに同じ構造のものが設けられる。その代表として左前輪および右後輪のディスクブレーキ装置14,15の系統について説明すると、液路Pcと液路Pd,Peとの間に一対の常開型電磁弁よりなるインバルブ42,42が配置され、インバルブ42,42の下流側の液路Pd,Peとリザーバ43との間に常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ44,44が配置される。リザーバ43と液路Pcとの間に、一対のチェックバルブ45,46に挟まれた液圧ポンプ47が配置されており、この液圧ポンプ47は電動モータ48により駆動される。
【0022】
図3に示すように、遮断弁22A,22B、反力許可弁25、スレーブシリンダ23の電動モータ52およびABS装置24の作動を制御する電子制御ユニットUには、マスタシリンダ11が発生するブレーキ液圧を検出する液圧センサSaと、ディスクブレーキ装置18,19に伝達されるブレーキ液圧を検出する液圧センサSbと、各車輪の車輪速を検出する車輪速センサSc…と、電動モータ52の回転位置を検出するモータ回転位置センサ(レゾルバ)Sdとが接続される。
【0023】
図4に示すように、電子制御ユニットUの弱め界磁制御部Uaは、目標ブレーキ液圧算出手段M1と、微分手段M2と、界磁電流算出手段M3と、電動モータ制御手段M4とを備える。目標ブレーキ液圧算出手段M1にはマスタシリンダ11が発生するブレーキ液圧を検出する液圧センサSaが接続され、電動モータ制御手段M4にはスレーブシリンダ23の電動モータ52が接続される。
【0024】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0025】
システムが正常に機能する正常時には、常開型電磁弁よりなる遮断弁22A,22Bが消磁されて開弁し、常閉型電磁弁よりなる反力許可弁25が励磁されて開弁する。この状態で液路Qaに設けた液圧センサSaが運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、スレーブシリンダ23のアクチュエータ51が作動する。即ち、電動モータ52を一方向に駆動すると、駆動ベベルギヤ53、従動ベベルギヤ54およびボールねじ機構55を介して出力軸59が前進することで、出力軸59に押圧された一対のピストン38A,38Bが前進する。ピストン38A,38Bが前進を開始した直後に液路Pb,Qbに連なるポート40A,40Bが閉塞されるため、第2液圧室39A,39Bにブレーキ液圧が発生する。このブレーキ液圧はABS装置24の開弁したインバルブ42…を介してディスクブレーキ装置14,15,18,19のホイールシリンダ16,17,20,21に伝達され、各車輪を制動する。
【0026】
また液路Pb,Qbに連なるポート40A,40Bをピストン38A,38Bが閉塞することで、マスタシリンダ11が発生したブレーキ液圧はディスクブレーキ装置14,15,18,19に伝達されることはない。このとき、マスタシリンダ11の他方の第1液圧室13Bが発生したブレーキ液圧は開弁した反力許可弁25を介してストロークシミュレータ26の液室30に伝達され、そのピストン29をスプリング28に抗して移動させることで、ブレーキペダル12のストロークを許容するとともに擬似的なペダル反力を発生させて運転者の違和感を解消することができる。
【0027】
そして液路Qcに設けた液圧センサSbで検出したスレーブシリンダ23によるブレーキ液圧が、液路Qaに設けた液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11によるブレーキ液圧に応じた大きさになるように、スレーブシリンダ23のアクチュエータ51の作動を制御することで、運転者がブレーキペダル12に入力する踏力に応じた制動力をディスクブレーキ装置14,15,18,19に発生させることができる。
【0028】
上述した制動中に、車輪速センサSc…の出力に基づいて何れかの車輪のスリップ率が増加してロック傾向になったことが検出されると、スレーブシリンダ23を作動状態に維持した状態でABS装置24を作動させて車輪のロックを防止する。
【0029】
即ち、所定の車輪がロック傾向になると、その車輪のディスクブレーキ装置のホイールシリンダに連なるインバルブ42を閉弁してスレーブシリンダ23からのブレーキ液圧の伝達を遮断した状態で、アウトバルブ44を開弁してホイールシリンダのブレーキ液圧をリザーバ43に逃がす減圧作用と、それに続いてアウトバルブ44を閉弁してホイールシリンダのブレーキ液圧を保持する保持作用とを行うことで、車輪がロックしないように制動力を低下させる。
【0030】
その結果、車輪速度が回復してスリップ率が低下すると、インバルブ42を開弁してホイールシリンダのブレーキ液圧を増加させる増圧作用を行うことで、車輪の制動力を増加させる。この増圧作用により車輪が再びロック傾向になると、前記減圧、保持、増圧を再び実行し、その繰り返しにより車輪のロックを抑制しながら最大限の制動力を発生させることができる。その間にリザーバ43に流入したブレーキ液は、液圧ポンプ47により上流側の液路Pc,Qcに戻される。
【0031】
上述したABS制御を実行している間、遮断弁22A,22Bを励磁して閉弁することで、ABS装置24の作動による液圧変化がキックバックとなってマスタシリンダ11からブレーキペダル12に伝達されるのを防止することができる。
【0032】
電源の失陥等によりスレーブシリンダ23が作動不能になると、スレーブシリンダ23が発生するブレーキ液圧に代えて、マスタシリンダ11が発生するブレーキ液圧による制動が行われる。
【0033】
即ち、電源が失陥すると、図2に示すように、常開型電磁弁よりなる遮断弁22A,22Bは自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなる反力許可弁25は自動的に閉弁し、常開型電磁弁よりなるインバルブ42…は自動的に開弁し、常閉型電磁弁よりなるアウトバルブ44…は自動的に閉弁する。この状態では、マスタシリンダ11の第1液圧室13A,13Bにおいて発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ26に吸収されることなく、遮断弁22A,22B、スレーブシリンダ23の第2液圧室39A,39Bおよびインバルブ42…を通過して各車輪のディスクブレーキ装置14,15,18,19のホイールシリンダ16,17,20,21を作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0034】
ところで、例えば衝突回避のために運転者がブレーキペダル12を急激に踏み込んだような場合には、できるだけ速やかにスレーブシリンダ23を作動させてブレーキ液圧を立ち上げる必要がある。しかしながら、電動モータ52の定格回転数および定格トルクは相互にトレードオフの関係にあるため、緊急時の制動力発生の応答性を高めるべく電動モータ52の定格回転数を高く設定すると、その分だけ定格トルクが低くなってしまい、通常時に電動モータ52のトルクが不足する可能性がある。これを防止するために、電動モータ52の定格回転数および定格トルクの両方を高く設定しようとすると、電動モータ52が大型化したり価格が上昇するという問題がある。そこで本実施の形態では、制動力発生の応答性を高める必要がある緊急時に、電動モータ52を弱め界磁制御して回転数を増加させるようになっている。
【0035】
即ち、図4に示す電子制御ユニットUの弱め界磁制御部Uaにおいて、液圧センサSaで検出したマスタシリンダ11のブレーキ液圧が入力された目標ブレーキ液圧算出手段M1は、マスタシリンダ11のブレーキ液圧に応じた目標ブレーキ液圧Pref、つまりスレーブシリンダ23に発生させるべきブレーキ液圧を算出する。微分手段M2は目標ブレーキ液圧Prefを時間微分して目標ブレーキ液圧の変化率dPref/dtを算出する。目標ブレーキ液圧の変化率dPref/dtが大きいときは、例えば運転者がブレーキペダル12を急激に踏み込んだ場合であり、制動力を急激に立ち上げることが必要な緊急時に対応する。
【0036】
ブラシレスDCモータやACサーボモータのような永久磁石同期モータよりなる電動モータ52は、q軸成分の励磁電流指令値Iq* とd軸成分の励磁電流指令値Id* とに基づいて制御されるもので、q軸成分の励磁電流指令値Iq* は電動モータ52に発生させるべきトルク指令値に比例するように出力され、またd軸成分の励磁電流指令値Id* は電動モータ52の弱め界磁制御を行わないときには基本的に0とされ、その励磁電流指令値Id* を負方向に増加させると、弱め界磁量が増加して電動モータ52の回転数が増加する。
【0037】
界磁電流算出手段M3は、目標ブレーキ液圧の変化率dPref/dtをパラメータとして、図5に示すマップから界磁電流指令値Id* を検索し、電動モータ制御手段M4は前記界磁電流指令値Id* に基づいて電動モータ52を弱め界磁制御する。このとき、界磁電流指令値Id* は、目標ブレーキ液圧の変化率dPref/dtが増加するのに応じて負方向に増加し、それに伴って弱め界磁量が増加して電動モータ52の回転数が増加する。従って、目標ブレーキ液圧の変化率dPref/dtが大きくなる緊急時には、図6に示すように、界磁電流指令値Id* を負方向に増加させることで、電動モータ52の弱め界磁量を増加させて電動モータ52の回転数を増加させ、スレーブシリンダ23を速やかに作動させて制動力発生の応答性を高めることができる。
【0038】
このように、特別に定格回転数が大きい電動モータ52を採用しなくても、制動力発生の応答性を高める必要がある緊急時に電動モータ52を弱め界磁制御することで、その回転数を増加させて制動力発生の応答性を高めることができる。
【0039】
図7〜図10は本発明の第2の実施の形態を示すもので、図7は弱め界磁制御により応答性を高める手法の説明図、図8は弱め界磁制御のフローチャートを示す図、図9はスレーブシリンダの負荷特性の検出手法の説明図、図10はモータ回転位置から界磁電流指令値を検索するマップを示す図である。
【0040】
上述した第1の実施の形態は目標ブレーキ液圧に応じて電動モータ52を弱め界磁制御するものであるが、第2の実施の形態はホイールシリンダ16,17,20,21のキャリパ剛性で代表されるスレーブシリンダ23の負荷特性に応じて電動モータ52を弱め界磁制御するものである。
【0041】
ホイールシリンダ16,17,20,21のキャリパはブレーキ液圧でブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けて制動力を発生するが、ブレーキパッドを支持するキャリパ本体の剛性が経年変化で低下したり、ブレーキパッド自体が摩耗したりすると、キャリパにブレーキ液圧を作用させてもブレーキパッドおよびブレーキディスク間の接触面圧が速やかに立ち上がらないため、制動力発生の応答性が低下する問題がある。
【0042】
図7(A)に示すように、運転者がブレーキペダル12に踏力を加えると、図7(B)、(C)に示すように、ブレーキペダル12の踏力に応じてスレーブシリンダ23が発生すべき目標ブレーキ液圧、つまりキャリパに供給される目標ブレーキ液圧が立ち上がる。しかしながら、スレーブシリンダ23が目標ブレーキ液圧どおりのブレーキ液圧を発生しても、図7(B)に示すように、キャリパの実液圧はキャリパ本体の剛性の程度やブレーキパッドの摩耗の程度に応じて異なる応答時間a,b,cだけ遅れて立ち上がる。
【0043】
第2の実施の形態は、図7(C)に示すように、応答時間a,b,cが大きくなるほど界磁電流指令値Id* を大きくすることで、電動モータ52を弱め界磁制御して回転数を増加させ、前記応答時間の遅れを一定にするとともに、前記応答時間の遅れを最小限に止めるものである。
【0044】
その作用を図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0045】
先ず、ステップS1でイグニッションスイッチがONすると、運転者がブレーキペダル12を踏まなくても、ステップS2で電動モータ52を自動的に作動させてスレーブシリンダ23にブレーキ液圧を発生させ、ステップS3でそのときのスレーブシリンダ23の負荷特性を検出する。
【0046】
スレーブシリンダ23の負荷特性とは、電動モータ52の回転位置、つまりピストン38A,38Bの前進位置に対するキャリパ液圧の変化特性である。電動モータ52の回転位置はモータ回転位置センサ(レゾルバ)Sd(図3参照)で検出され、キャリパ液圧は液路Qcに設けた液圧センサSb(図1および図2参照)で検出される。
【0047】
図9は負荷特性の一例を示すもので、電動モータ52を駆動して、各回転位置に対するキャリパ液圧を検出し、所定のキャリパ液圧Pが得られたときの電動モータ52の回転位置Ang1を記憶する。負荷特性はキャリパ本体の剛性の程度やブレーキパッドの摩耗の程度に応じて変化するため、前記所定のキャリパ液圧Pに対応する電動モータ52の回転位置Ang1はスレーブシリンダ23の経年変化に応じて変化することになる。
【0048】
図8のフローチャートに戻り、ステップS4で電動モータ52を弱め界磁制御するための界磁電流指令値Id* を、図10のマップに基づいて検索する。図10に示すように、界磁電流指令値Id* は、電動モータ52の回転位置Ang1,Ang2,Ang3の増加に応じて、つまりピストン38A,38Bの前進位置の増加に応じて負方向に増加し、それに伴って弱め界磁量が増加して電動モータ52の回転数が増加する。従って、ステップS5でブレーキペダル12が踏まれてスレーブシリンダ23が作動し、ステップS6で電動モータ52の弱め界磁制御を実行するとき、キャリパ剛性が低くなっているほど、あるいはブレーキパッドの摩耗が進行しているほど、電動モータ52の弱め界磁量を増加させて電動モータ52の回転数を増加させることで、スレーブシリンダ23を速やかに作動させて制動力発生の応答性の低下を補償することができる。
【0049】
またイグニッションスイッチのオン時にスレーブシリンダ23の負荷特性の検出を実行するので、エンジンを始動する度に最新の負荷特性を検出して適切な弱め界磁制御を実行することができる。
【0050】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0051】
例えば、本発明の電動制動力発生手段は実施の形態のスレーブシリンダ23に限定されず、電動モータ52で直接ブレーキパッドを駆動して制動力を発生するする機械式(非液圧式)のものであっても良い。
【0052】
また第2の実施の形態では、スレーブシリンダ23の負荷特性を電動モータ52の回転位置に対するキャリパ液圧の関係として検出しているが、電動モータ52の回転位置とピストン38A,38Bの前進位置とは一定の対応関係にあるため、スレーブシリンダ23の負荷特性をピストン38A,38Bの前進位置に対するキャリパ液圧の関係として検出しても良い。ピストン38A,38Bの前進位置は適宜の位置センサにより検出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】車両用ブレーキ装置の正常時の液圧回路図
【図2】図1に対応する異常時の液圧回路図
【図3】車両用ブレーキ装置の制御系のブロック図
【図4】電子制御ユニットの弱め界磁制御部のブロック図
【図5】目標液圧の変化率から界磁電流指令値を検索するマップを示す図
【図6】電動モータのq軸成分の界磁電流指令値Iq* を変化させたときの回転数およびトルクの関係を示すグラフ
【図7】第2の実施の形態に係る弱め界磁制御により応答性を高める手法の説明図
【図8】弱め界磁制御のフローチャートを示す図
【図9】スレーブシリンダの負荷特性の検出手法の説明図
【図10】モータ回転位置から界磁電流指令値を検索するマップを示す図
【符号の説明】
【0054】
23 スレーブシリンダ(電動制動力発生手段)
52 電動モータ
Ua 弱め界磁制御部(電動モータ制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(52)の駆動力で車輪を制動する電動制動力発生手段(23)を備えたブレーキ装置において、
前記電動モータ(52)を弱め界磁制御する電動モータ制御手段(Ua)を備えたことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記電動モータ制御手段(Ua)は、少なくとも運転者の制動操作量に応じて目標制動力を設定し、前記目標制動力の変化率に応じて弱め界磁制御を実行することを特徴とする、請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記電動モータ制御手段(Ua)は、前記電動制動力発生手段(23)の負荷特性を検出し、前記負荷特性に応じて弱め界磁制御を実行することを特徴とする、請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記電動モータ制御手段(Ua)は、イグニッションスイッチのオン時に前記負荷特性の検出を実行することを特徴とする、請求項3に記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−184057(P2008−184057A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19753(P2007−19753)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】