説明

ブレーキ装置

【課題】ブレーキフィーリングの向上を図ることができるブレーキ装置を提供する。
【解決手段】リア側に設けた電動ブレーキ5は、ブレーキペダル6の踏込み時に、フロント側に設けた液圧ブレーキ4が制動力を発生するストロークh2に達する前のストロークh1の段階で、制動力の発生を開始する。フロントの液圧に応じてリア側の制動力を設定し、液圧の応答でしかブレーキコントロールを行なえない従来技術では、無効ストローク領域と、ペダルストロークに応じた制動力を発生する制動領域との境界を通過するとき、すなわち、ペダルストロークに対する制動力上昇の割合(剛性感)が不連続となり、運転者に違和感を与え、フィーリングを悪くする要因となっていたが、これに対して、リア側がフロント側に先行して制動力を発生するので、剛性感の変化を滑らかにすることができ、これによりブレーキフィーリングの向上を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制動に用いられるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の左右前輪(フロント側)に対しては油圧、左右後輪(リア側)に対しては電動力を用いて制動力を発生させるブレーキ装置が記載されている。
【特許文献1】特開平7−165054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来技術では、フロント側の液圧に応じてリア側の制動力を設定しているため、油圧システムの応答性でしかブレーキコントロールができない。このため、フロント側のパッドクリアランスを広げて引き摺りを防止しようとすると操作開始直後の無効操作量が増大して応答性を確保することができず、ブレーキフィーリングの向上も図ることができなかった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ブレーキフィーリングの向上を図ることができるブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明に係るブレーキ装置は、制動操作子の操作でマスタシリンダに発生する液圧により、回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧して制動作動するフロント制動機構と、前記制動操作子の操作に応じて前記マスタシリンダで発生する液圧以外の動力により制動力を発生するリア制動機構とを有するブレーキ装置において、前記リア制動機構は、前記制動操作子の操作時に、前記フロント制動機構が制動力を発生する前に、前記制動力を発生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本願発明によれば、ブレーキフィーリングの向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態に係るブレーキ装置を図1〜図4に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ装置を、これを搭載した車両と共に模式的に示す平面図である。図2は、図1のメインECUの演算・処理内容を模式的に示す制御ブロック図である。図3は、図1のブレーキ装置、従来技術のそれぞれにおける前輪及び後輪の制動力配分について、対比して示す図である。図4は、図3の左下側の領域(制動力が小さい領域)における図1のブレーキ装置、従来技術のそれぞれのペダルストローク及び制動力の関係を示し、(a)は、そのペダルストローク−制動力特性を示す図であり、(b)は、(a)に表示された区間A〜Eの内容を表形式で示す図である。
【0008】
図1において、自動車(車両)1に搭載されたブレーキ装置2は、左右前輪3F,3Fに対応して設けられた〔すなわちフロント(Fr.)側に設けられた〕液圧ブレーキ4(フロント制動機構)と、左右後輪3R,3Rに対応して設けられた〔すなわちリア(Rr.)側に設けられた〕電動ブレーキ5(リア制動機構)と、ブレーキペダル6(制動操作子)の踏み込み(操作)に応じて作動して油圧(液圧)を発生するマスタシリンダ7と、を備えている。ブレーキペダル6及びマスタシリンダ7間には、入力ロッド8及びブースタ9が介在されており、ブレーキペダル6にかかる踏力(操作力)を増大してマスタシリンダ7に伝達するようにしている。ここで、本実施形態においては、制動操作子としてブレーキペダル6を例として説明を行なっているが、これに代えて二輪車等で用いられるブレーキレバー、または、押しボタンスイッチやジョイスイステック等のユーザーインターフェースを用いても良い。
【0009】
マスタシリンダ7と液圧ブレーキ4との間には、図示しないVDC(Vehicles Dynamic Controlビークル・ダイナミクス・コントロール)ポンプなどを含んでVDC機能を発揮する液圧ユニット〔以下、HU(Hydraulic Unit)ともいう。〕10が介在されており、マスタシリンダ7が発生した液圧がHU10を介して液圧ブレーキ4に供給されて前輪3Fに対する制動力が発揮されるようになっている。
【0010】
液圧ブレーキ4は、車軸11(図5参照)に取付けられたディスクロータ13を挟んでその両側に配置された一対のブレーキパッド14,15と、一対のブレーキパッド14,15をディスクロータ13の両面に押圧させて制動力を発生する液圧キャリパ17と、を備えている。以下、ブレーキパッド14,15の夫々を、適宜、インナパッド14、アウタパッド15ともいう。液圧キャリパ17は、インナパッド14に対向するシリンダ部18と、シリンダ部18からディスクロータ13を跨いで反対側に延びる爪部19と、から大略構成されている。また、一対のブレーキパッド14,15には、それぞれブレーキパッド14,15をディスクロータ13から離間させる方向に付勢する戻しスプリング(図示省略)が設けられており、この戻しスプリング(図示省略)によりディスクロータ13とブレーキパッド14,15との間にパッドクリアランスが生じるようになっている。
【0011】
液圧ブレーキ4は、ブレーキペダル6が踏込まれ〔ブレーキペダル6の踏込み開始時のストロークをストロークh0という。ストロークh0を、適宜ストローク0ともいう。〕、そのストロークが進んで、マスタシリンダ7に液圧を発生させ、ストローク値が例えば図4に点線で示すようにストロークh2に達した段階で、制動力を発生する。このように、液圧ブレーキ4は、ブレーキペダル6が踏込まれても即座には制動力を発生せず、制動力の発生が、ブレーキペダル6が、例えば図4に示す区間A(ストロークh0〜h1)及び区間B(ストロークh1〜h2)を超えて進んだ後に行なわれることになる。すなわち、液圧ブレーキ4は、図4に示す区間A及び区間Bが無効ストロークとなっている。なお、前記従来技術の電動キャリパも液圧ブレーキ4と同様に、区間A及び区間Bが無効ストロークとなっている。
【0012】
シリンダ部18には、インナパッド14側を開口部となし、他端が底壁(シリンダ底壁)〔符号省略〕により閉じられた有底のシリンダ20が形成されている。シリンダ20内には,ピストンシール〔符号省略〕を介してピストン(図示省略)が摺動可能に内装されている。ピストンとシリンダ底壁〔符号省略〕との間は、図示しない液圧室として画成されている。この液圧室には液圧ユニット10を介してマスタシリンダ7が接続されており、液圧ユニット10のVDC機能を受けた状態でマスタシリンダ7から液圧が供給されるようになっている。
【0013】
液圧ユニット10に付随してVDCポンプを含む図示しないVDC機構(VDC機能発揮部)を駆動するためのドライバ(以下、HUドライバという。)22と、HUドライバ22を制御するECU(以下、液圧ユニットECUという。)23と、が一体に設けられている。
【0014】
リア側に設けられる電動ブレーキ5は、フロント側に設けられる液圧ブレーキ4に比して、以下の(i)〜(iv)に示す事項を備えたことが主に異なっている。
(i)液圧キャリパ17に代えて、電動モータ25を備えた電動キャリパ26〔以下、適宜、EFC(エレクトリック・フィストタイプ・キャリパ)ともいう。〕)を設け、制動力の発生(ブレーキパッド14,15によるディスクロータ13の挟み付け)について、液圧ブレーキ4がマスタシリンダ7に発生する油圧(液圧)により行なうのに比して、電動モータ25の動力により行なうこと。
(ii)メインECU27(後述する)からの指令信号(目標推力)の入力を受けて電動モータ25を駆動するモータドライバ31を設けたこと。
(iii)電動モータ25のストローク位置を検出する図示しないストロークセンサ(以下、モータストロークセンサという。)30の制御などを行なうECU(以下、電動ブレーキECUという。)28を備えたこと。
(iv)電動ブレーキ5の電動キャリパ26に設定されるディスクロータ13とブレーキパッド14,15とのクリアランス(以下、パッドクリアランスという。)は、任意の値に設定しえるが、通常はメインECU27からの指令に基づき、走行状態に応じたクリアランスに調整される。本実施の形態においては、通常の走行時に、リヤの電動キャリパ26に設定されるパッドクリアランスは、フロントの液圧ブレーキ4の液圧キャリパ17に設定されるパッドクリアランスよりも小さくなっている。換言すれば、液圧ブレーキ4のキャリパ17に設定されるパッドクリアランスは、電動ブレーキ5のキャリパ26に設定されるパッドクリアランスよりも大きくなるように設定されている。
【0015】
左右前輪3F,3F及び左右後輪3R,3Rのそれぞれの近傍には、車輪速センサ33が設けられている。車輪速センサ33は車輪と連動し、外周部に等間隔で溝が形成された反射用円板34と、反射用円板に対する光の送受信を行なって車輪速を検出する検出部35と、から大略構成されている。
入力ロッド8に対応してブレーキペダル6の踏込み量を検出するストロークセンサ(以下、便宜上、ペダルストロークセンサという。)37〔操作検出手段〕が設けられている。マスタシリンダ7と液圧ユニット10とを連通する配管(符号省略)には、左前輪3Fの液圧ブレーキ4及び右前輪3Fの液圧ブレーキ4に供給される液圧をそれぞれ検出する液圧センサ38が設けられている。ペダルストロークセンサ37については、力伝達経路上、液圧ブレーキ4およびブースタ9の前段に設けられている。そして、ペダルストロークセンサ37は、液圧ブレーキ4が制動力を発生する前に、ブレーキペダル6の踏込みに連動して、ブレーキペダル6の踏込みが行なわれたことを示す検出信号(以下、便宜上、ペダル踏込み信号ともいう。)をメインECU27に入力する。
【0016】
液圧センサ38及びペダルストロークセンサ37にはメインECU27が接続されており、各センサ(液圧センサ38及びペダルストロークセンサ37)からの信号の入力を受けて予め定められた制御プログラムによって演算を行なって電動ブレーキ5に対する指令信号(目標推力信号)の発生などを行なうようにしている。
メインECU27、液圧ユニットECU23(HUドライバ22)及び左右後輪3R,3Rの電動ブレーキECU28,28はCAN(Controller Area Network)40を介して接続され、これら相互で信号授受が行なわれるようになっている。
【0017】
メインECU27は、図2に示すように、液圧対象用、ストローク値対象用不感帯処理部41a,41b、液圧対象用、ストローク値用対象フィルタ部42a,42b、液圧P−制動力F変換部(以下、P−F変換部という。)43a、ストロークS−制動力F変換部(以下、S−F変換部という。)43b、重み付け調整部44、加算部45、ゲイン調整部46、車速感応ゲイン調整部47、制御ブレーキ指令受信部49、制御ブレーキ作動部50、及び目標推力信号出力部51を備えている。ここで、制御ブレーキとは、ABS(Antilock Brake System)、VDC(Vehicle Dynamics Control)、ACC(Adaptive Cruise Control)等の制御機能を指している。
液圧対象用不感帯処理部41aは、液圧センサ38の検出信号を予め定めた不感帯領域と比較し、値が不感帯領域内に含まれる検出信号については、その値をゼロとし、値が不感帯領域外となる検出信号については、その値のまま、液圧対象用対象フィルタ部42aを介してP−F変換部43aに入力する。
ストローク値対象用不感帯処理部41bは、ペダルストロークセンサ37の検出信号を予め定めた不感帯領域と比較し、値が不感帯領域内に含まれる検出信号については、その値をゼロとし、値が不感帯領域外となる検出信号については、その値のまま、ストローク値用対象フィルタ部42bを介してS−F変換部43bに入力する。
【0018】
P−F変換部43aは、入力を受けた信号Pについて制動力Fを示す信号(制動力信号)に変換する。S−F変換部43bは、入力を受けた信号Sについて制動力Fを示す信号(制動力信号)に変換する。この際、P−F変換部43a及びS−F変換部43bが変換して得た信号(制動力信号)には、重み付け調整部44によって、予め定めた定数の積算処理を行うなどして重み付け処理が施され、それぞれ加算部45に入力される。
加算部45は、P−F変換部43a及びS−F変換部43bからそれぞれ入力を受けた制動力信号について加算を行ない、その加算データについて、ゲイン調整部46を介して車速感応ゲイン調整部47に入力する。
【0019】
車速感応ゲイン調整部47は、ゲイン調整部46を介して入力を受けた信号について、車輪速センサ33の検出信号を参照して、ゲイン調整を行なって車速感応ゲイン信号を得、これを制御ブレーキ作動部50に入力する。制御ブレーキ作動部50は、車速感応ゲイン信号について、制御ブレーキ指令受信部49の夫々からの信号を参照して、制御ブレーキ作動対応信号を発生しこれを目標推力信号出力部51に入力する。
目標推力信号出力部51は、入力を受けた制御ブレーキ作動対応信号から目標推力発生のための目標推力信号を得、この目標推力信号を、左右後輪3R,3Rに対応した電動ブレーキECU28に出力する。
【0020】
メインECU27は、各センサ(ペダルストロークセンサ37及び液圧センサ38)からの信号の入力を受け、これに応じて、目標推力信号出力部51から出力指示信号を出力する。
【0021】
上記のような構成の本実施形態における動作を、図3および図4に基づいて説明する。制動を行なうためにブレーキペダル6が踏込まれると、ペダルストロークセンサ37がそのことを検出し、その検出信号がメインECU27に入力されてメインECU27が出力指示信号を出力する。電動ブレーキ5がその電動ブレーキECU28にメインECU27から上記出力指示信号を受けると電動モータ25が動作を開始して図4のストロークh1までの間にパッドクリアランスを無くし、さらに、ストロークh1に対応する時点から電動ブレーキ5が制動力を発生する。このとき、ブレーキペダル6が踏込まれて電動ブレーキ5が制動力を発生するまでには、ブレーキペダル6の踏込み時点〔図4でストローク0(h0)に相当する。〕から一定の遅れ(この遅れに対応する時間を、便宜上、ブレーキペダル踏込み後の動作遅れ時間という。)を持つことになる。ここで、図4の(b)のグラフにおいては、縦軸に制動力を取っており、点線で示す従来技術と実線で示す本実施形態とは、ブレーキペダル6のストロークに対する車両の4輪全ての制動力を示している。
【0022】
ブレーキペダル踏込み後の動作遅れ時間は、図4では、区間A〔図4でストロークh0〜h1〕に対応した時間に相当する。前記動作遅れ時間に対応する区間Aが、本実施形態では電動ブレーキ5の無効ストロークになっている。
しかし、本実施形態の無効ストローク〔区間A〕は、従来技術の液圧式ディスクブレーキによってブレーキペダル踏込み時点〔図4でストローク0(h0)〕から制動力を発生する時点〔図4でストロークh2に対応する。〕までの時間〔図4で区間「A+B」(ストロークh0〜h2)に対応する時間〕に比して短いものである。このように従来技術において無効ストロークが長くなるのは、マスタシリンダからの液圧を受けたディスクブレーキのパッドクリアランスが無くなるまでの無効ストロークに加え、前記マスタシリンダの作動初期に内部のピストンが所定量移動してリザーバと液圧室との連通が遮断されるまでは液圧室に液圧が発生しない無効ストロークがあること、また、マスタシリンダから液圧キャリパまでの配管の膨張による液圧ロス等に起因している。
【0023】
本実施形態では、ブレーキペダル6の踏込み時に、フロント側(液圧ブレーキ4)が制動力を発生する〔図4でストロークh2に相当する。〕前であるストロークh1に相当する時点で、リヤ側の電動ブレーキ5が制動力の発生を開始し、区間Bでは電動ブレーキ5及び液圧ブレーキ4のうちリヤ側の電動ブレーキ5のみが制動力を発生する。
【0024】
このとき、前記メインECU27(目標推力信号出力部51)は、ブレーキペダル6の踏込み〔図4のストローク位置h0で踏込み開始〕があった場合、ペダルストロークセンサ37からのペダル踏込み信号の入力を受けてブレーキペダル6が操作されたことを検出し、これに応じて、左右後輪3R,3Rに対応した目標推力信号を電動ブレーキECU28に出力し、電動ブレーキ5(リア側)を作動させて、制動力の発生を増加率θ1で開始させる〔図4のストローク位置h1で電動ブレーキ5による制動力の発生が開始される〕。
【0025】
このようにして、図3及び図4に示されるように、リア側がフロント側に先行して制動力を発生するので、無効ストロークを低減し、応答性を高めると共に、ペダルストロークに対する制動力の増加率が徐々に高まるので、ブレーキフィーリングの向上を図ることが可能となる。
【0026】
すなわち、前記従来技術では、フロントの液圧に応じてリア側の制動力を設定しているため、液圧の応答でしかブレーキコントロールを行なえず、ブレーキフィーリングの向上を図ることができなかった。特に、ペダル操作によりピストンが前進し、パッドがディスクロータ13を挟み込むまでのストロークに対して殆ど液圧が上昇しない、所謂、無効ストローク領域と、パッドがディスクロータ13を挟んで液圧の上昇に合わせて制動力が上昇しはじめ、以降、ペダルストロークに応じた制動力を発生する制動領域との境界を通過するとき、すなわち、ペダルストロークに対する制動力上昇の割合(剛性感)が不連続(図4に点線で示す従来技術の特性における符号60で示す部分参照)となり、ブレーキの効き始めや効き終り(ペダルを放す直前)のような微小な制動力を微妙に調整したいときに、運転者に違和感を与え、フィーリングを悪くする要因となっていた。
これに対して、本実施形態では、リア側がフロント側に先行して制動力を発生するので、ペダルストロークに対する剛性感の変化を滑らかにすることができ、これによりブレーキフィーリングの向上を図ることが可能となる。
【0027】
また、応答性を低下させることなく、フロントキャリパの設定パッドクリアランスを大きくすることができる。さらに、2系統(左右輪)あるフロント液圧系統が共に失陥した場合でも、リヤブレーキによる制動が可能となる。さらに、本実施形態では、上述したように無効ストロークが区間A(h0〜h1)であり、従来技術における無効ストローク〔区間A+区間B〕に比して、短くすることができるので、後述する良好なペダルフィーリングの確保に寄与するものになっている。
【0028】
また、ペダルストロークの値が液圧ブレーキ4の無効ストローク領域〔区間A+区間B〕を超えた領域〔図4のストロークh2を超えた領域〕になると、電動ブレーキ5(リア制動機構)は、フロント側の液圧ブレーキ4の制動力発生(図4ストロークh2)後の区間Cには、図4のストロークh2での制動力の値を維持した状態で、一定の値(増加率0)の制動力を発生する。このとき、メインECU27は、液圧ブレーキ4による制動力発生開始に対応して(制動力発生開始と同時又は制動力発生開始に先立って)、重み付け調整部44の液圧(P)とストローク(S)支配との重み付け、およびゲイン調整部46のゲインを調整することにより、目標推力信号出力部51が出力する目標推力信号が一定になるように調整する。これにより、電動ブレーキ5は、フロント側(液圧ブレーキ4)の制動力発生開始〔図4に示す例では、ペダルストロークh2〕後には、一定の大きさ(増加率0)の制動力を発生する〔図4、区間C〕。また、この区間では、電動ブレーキ5が発生する制動力は一定の大きさであるが、ペダルストロークの増加に伴いフロント側の液圧ブレーキ4が発生する制動力が逓増し、液圧ブレーキ4及び電動ブレーキ5を合わせた4輪全ての制動力は、図4の区間B、Cの部分に示されるように、区間Cにおける制動力が区間Bに比べてその増加率が大きくなる。
【0029】
ペダルストロークがさらに進み、区間Cに続く区間D以降では、液圧ブレーキ4及び電動ブレーキ5の両方の制動力がペダルストロークの増加に伴い逓増し、4輪全ての制動力の増加率が、区間Cにおける4輪全ての制動力の増加率よりさらに大きくなる。但し、この区間Dでのリヤ側の電動ブレーキ5の制動力の増加率θ2は区間Bの制動力の増加率θ1よりも小さくなっている。
一方、フロント側の液圧ブレーキ4は、区間C以降、ストロークの増加に伴い、発生する制動力を大きくする。これにより、液圧ブレーキ4及び電動ブレーキ5を合わせた4輪全ての制動力は、区間C以降、図3の理想配分線に対応するように逓増していくことになる。
【0030】
この実施形態では、液圧ブレーキ4のキャリパに設定されるパッドクリアランスは、電動ブレーキ5のキャリパに設定されるパッドクリアランスよりも大きくなっている(換言すれば、電動ブレーキ5の電動キャリパ26に設定されるパッドクリアランスは、液圧ブレーキ4の液圧キャリパ17に設定されるパッドクリアランスよりも小さくなっている)。このため、非制動時におけるフロント側のディスクロータ13とブレーキパッド14,15との接触、いわゆる引き摺り現象を緩和することができる。また、電動ブレーキ5のキャリパに設定されるパッドクリアランスは、ペダルストロークの値が無効ストローク領域(図4の区間A)に入った直後に最小値に設定されるようにすることが可能である。このようにした場合、リア側の制動力の応答性を高めることが可能となる。
【0031】
上記実施形態では、電動ブレーキ5は、フロント側(液圧ブレーキ4)の制動力発生開始〔図4、ペダルストロークh2〕後の区間Cでは、所定の大きさの制動力を発生する場合を例にしたが、これに代えて、以下のように、制動力を発生するようにしてもよい。すなわち、電動ブレーキ5は、フロント側(液圧ブレーキ4)の制動力発生開始〔図4、ペダルストロークh2〕後には、制動操作子(ブレーキペダル6)の操作に応じた制動力を、それ以前の増加率〔図4に示す例では、区間Bの増加率〕以下の値の増加率〔図4、区間C〕で発生する、換言すれば、区間Bにおいて電動ブレーキ5が発生する制動力の増加率より、フロント側(液圧ブレーキ4)の制動力発生開始後(区間C)において電動ブレーキ5が発生する制動力の増加率の方が小さくなるようにしてもよい。
【0032】
上記実施形態では、リア制動機構として電動モータ25の動力を用い、この動力によりリア側のディスクロータ13へのブレーキパッド14,15の押圧による制動力を発生させる場合を例にしたが、これに代えて、以下のものを、マスタシリンダ7で発生する液圧以外の動力により制動力を発生するリア制動機構として用いることできる。
(ア)VDC機構に用いられるVDCポンプやその他の液圧ポンプ、蓄圧したアキュムレータ等の液圧源を動力とし、前記ブレーキペダル6が操作されたことを前記ペダルストロークセンサ37が検出したとき、VDC機構の配管のバルブが開弁されて液圧が供給される液圧キャリパ。
(イ)サービスブレーキ時にマスタシリンダからの液圧により作動し、パーキングブレーキ時に電動モータにより作動する電動パーキングブレーキでパーキング作動のための電動モータを動力とし、前記ブレーキペダル6が操作されたことを前記ペダルストロークセンサ37が検出したとき、前記電動モータが作動する電動パーキングブレーキキャリパ。
(ウ)例えば図5に示すようにハイブリッドカーなどに用いられる、車輪(後輪3R)を駆動する電動モータ62の回生機構。
(エ)電磁ブレーキ等、電動モータ以外の電動式ブレーキ。
【0033】
上記実施形態では、操作検出手段として、ペダルストロークセンサ37を用いた場合を例にしたが、これに代えて、図6に示すようにブレーキランプスイッチ39と液圧センサ38とを組み合わせて用いてもよいし、図7に示すようにブレーキペダル6(制動操作子)の踏込み力(操作力)を検出する力センサ40を用いるようにしてもよい。
【0034】
ここで、上記実施形態の変形例として操作検出手段にブレーキランプスイッチ39と液圧センサ38とを組み合わせて用いる場合には、図6に示すブレーキランプスイッチ39によりブレーキペダル6の操作を検出したときに、電動ブレーキ5(リア制動機構)を作動させて、液圧センサ38に液圧が発生する(液圧ブレーキ4(フロント制動機構)が制動力を発生するのに相当するマスタシリンダ7の)所定圧を検出する前に電動ブレーキ5(リア制動機構)に所定の増加率で制動力を発生させる。その後、液圧センサ38により検出される液圧が所定の圧力(図4のペダルストロークh3に対応する液圧)となったときに、液圧センサ38の検出液圧に応じた制動力を発生させるように、メインECU27’により電動ブレーキ5を制御する。このように操作検出手段としてブレーキランプスイッチ39と液圧センサ38とを組み合わせて用いても、リア側がフロント側に先行して制動力を発生させることができ、ブレーキの剛性感の変化を滑らかにすることができ、これによりブレーキフィーリングの向上を図ることが可能となる。
【0035】
また、上記実施形態の他の変形例として、操作検出手段に力センサ40を用いる場合には、図7に示す力センサ40によりその踏込み力を検出してブレーキペダル6の操作を検出したときに、電動ブレーキ5(リア制動機構)を作動させ、液圧ブレーキ4(フロント制動機構)が制動力を発生するのに相当するブレーキペダル6に加わる所定力に達するのを力センサ40が検出する前に、電動ブレーキ5に所定の増加率で制動力を発生させる。その後、力センサ40により検出される踏込み力に応じた制動力を発生させるようにメインECU27”により電動ブレーキ5を制御する。この場合、力センサ40により検出される踏込み力fは、以下のように処理されていく。力センサ40の検出信号が、踏込み力値対象用不感帯処理部41cにより予め定めた不感帯領域と比較され、値が不感帯領域内に含まれる検出信号については、その値をゼロとし、値が不感帯領域外となる検出信号については、その値のまま、踏込み力値用対象フィルタ部42cを介してf−F変換部43cに入力する。f−F変換部43cは、入力を受けた信号fについて制動力Fを示す信号(制動力信号)に変換する。その後の制動力信号Fは上記実施形態と同様に処理される。このように操作検出手段として力センサ40を用いても、リア側がフロント側に先行して制動力を発生させることができるので、剛性感の変化を滑らかにすることができ、これによりブレーキフィーリングの向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ装置を、これを搭載した車両と共に模式的に示す平面図である。
【図2】図1のメインECUの演算・処理内容を模式的に示す制御ブロック図である。
【図3】図1のブレーキ装置、従来技術のそれぞれにおける前輪及び後輪の制動力配分について、対比して示す図である。
【図4】図3の左下側の領域(制動力が小さい領域)における図1のブレーキ装置、従来技術のそれぞれのペダルストローク及び制動力の関係を示し、(a)は、そのペダルストローク−制動力特性を示す図であり、(b)は、(a)に表示された区間A〜Eの内容を表形式で示す図である。
【図5】リア制動機構として電動モータの回生機構を用いたブレーキ装置を、これを搭載した車両と共に模式的に示す平面図である。
【図6】変形例としてのメインECUの演算・処理内容を模式的に示す制御ブロック図である。
【図7】他の変形例としてのメインECUの演算・処理内容を模式的に示す制御ブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
2…ブレーキ装置、4…液圧ブレーキ(フロント制動機構)、5…電動ブレーキ(リア制動機構)、6…ブレーキペダル(制動操作子)、7…マスタシリンダ、13…ディスクロータ、17…液圧キャリパ、26…電動キャリパ、37…ペダルストロークセンサ(操作検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動操作子の操作でマスタシリンダに発生する液圧により、回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧して制動作動するフロント制動機構と、前記制動操作子の操作に応じて前記マスタシリンダで発生する液圧以外の動力により制動力を発生するリア制動機構とを有するブレーキ装置において、
前記リア制動機構は、前記制動操作子の操作時に、前記フロント制動機構が制動力を発生する前に、前記制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置において、前記フロント制動機構と前記リア制動機構とには、制動力を発生するために、回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧するキャリパが設けられていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ装置において、前記フロント制動機構の前記キャリパに設定されるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランスは、前記リア制動機構の前記キャリパに設定されるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランスよりも大きくなっていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のブレーキ装置において、前記リア制動機構のキャリパには電動モータが設けられ、該電動モータにより前記リア制動機構のキャリパは作動することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項5】
請求項2に記載のブレーキ装置において、前記リア制動機構には液圧ポンプが設けられ、該液圧ポンプにより前記リア制動機構のキャリパは作動することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のブレーキ装置において、前記リア制動機構は、車輪を駆動する電動モータの回生機構であることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1に記載のブレーキ装置において、前記フロント制動機構の制動力が所定の大きさに達した後、前記リア制動機構は、前記制動操作子の操作に応じて、それ以前の増加率より小さい増加率で増加する制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項8】
ブレーキペダルの操作でマスタシリンダに発生する液圧により、回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧するキャリパにより制動作動するフロント制動機構と、前記ブレーキペダルの操作に応じて前記マスタシリンダで発生する液圧以外の動力により制動力を発生するリア制動機構とを有するブレーキ装置において、
前記リア制動機構は、前記ブレーキペダルの操作時に、前記フロント制動機構により回転するディスクロータにブレーキパッドが押圧される前に、前記制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のブレーキ装置において、前記ブレーキペダルの操作を検出する操作検出手段を設け、前記リア制動機構は、前記ブレーキペダルが操作されたことを前記操作検出手段が検出したときに作動を開始することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項10】
請求項8に記載のブレーキ装置において、前記リア制動機構には、制動力を発生するために、回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧するキャリパが設けられ、前記フロント制動機構の前記キャリパに設定されるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランスは、前記リア制動機構の前記キャリパに設定されるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランスよりも大きくなっていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項11】
請求項8に記載のブレーキ装置において、前記フロント制動機構の制動力が所定の大きさに達した後、前記リア制動機構は、前記制動操作子の操作に応じてそれ以前の増加率より小さい増加率で増加する制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項12】
制動操作子の操作でマスタシリンダに発生する液圧により、回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧して制動作動するフロント制動機構と、前記制動操作子の操作に応じて前記マスタシリンダで発生する液圧以外の動力により制動力を発生するリア制動機構とを有するブレーキ装置において、
前記制動操作子の操作を検出する操作検出手段を有し、
前記リア制動機構は、前記制動操作子が操作されたことを前記操作検出手段が検出したときに作動を開始し、前記操作検出手段が前記フロント制動機構による制動力を発生するときの操作値に達することを検出する前に、前記制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項13】
請求項12に記載のブレーキ装置において、前記フロント制動機構と前記リア制動機構とには、制動力を発生するために、回転するディスクロータにブレーキパッドを押圧するキャリパが設けられていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項14】
請求項13に記載のブレーキ装置において、前記フロント制動機構の前記キャリパに設定されるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランスは、前記リア制動機構の前記キャリパに設定されるディスクロータとブレーキパッドとのクリアランスよりも大きくなっていることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項15】
請求項12に記載のブレーキ装置において、前記操作検出手段は、前記制動操作子のストロークを検出するストロークセンサであることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項16】
請求項15に記載のブレーキ装置において、前記操作値は前記フロント制動機構が制動力を発生するのに相当する前記制動操作子の所定ストロークであって、ストロークセンサにより、所定ストロークに達するのを検出する前に前記リア制動機構が制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項17】
請求項12に記載のブレーキ装置において、前記操作検出手段は、前記制動操作子の操作によってブレーキランプをオン・オフさせるブレーキランプスイッチと、マスタシリンダの液圧を検出する液圧センサとで構成されることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項18】
請求項17に記載のブレーキ装置において、前記リア制動機構は、前記ブレーキランプスイッチがオンされたときに作動を開始し、前記操作値は前記フロント制動機構が制動力を発生するのに相当する前記マスタシリンダの所定圧であって、前記液圧センサが所定圧に達するのを検出する前に前記リア制動機構が制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項19】
請求項12に記載のブレーキ装置において、前記操作検出手段は、前記制動操作子の操作力を検出する力センサであることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項20】
請求項19に記載のブレーキ装置において、前記操作値は前記フロント制動機構が制動力を発生するのに相当する前記制動操作子に加わる所定力であって、力センサが前記所定力に達するのを検出する前にリア制動機構が制動力を発生することを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−208518(P2009−208518A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51307(P2008−51307)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】