説明

ブレーキ装置

【課題】意図しない制動力の発生を抑制できるブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、入力部材の操作ストロークを検出するストローク検出手段と、ストローク検出手段の検出結果に基づいてアクチュエータ(電動モータ)を制御するコントローラと、を備え、コントローラは、制御可能な状態になったときに、記憶された初期原点Ssをストローク検出手段(ストロークセンサ)の制御原点S*として設定して、ストローク検出手段の検出値Sに基づいてアクチュエータを制御し、入力部材が制御原点S*を越えて後退するごとに、そのときの入力部材の位置をストローク検出手段の制御原点S*として更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検出されるブレーキ操作量に応じてアクチュエータを駆動し、マスタシリンダに液圧を発生させて車両を制動するブレーキ装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のブレーキ装置では、各種センサの調整が終了しない状態でもブレーキ装置を起動させて作動させる必要があり、このような作動状態においては、意図しない制動力、所謂引き摺りが発生するおそれがある。本発明の目的とするところは、意図しない制動力の発生を抑制できるブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、好ましくは、ブレーキ装置の起動後、検出されるブレーキ操作量が初期原点を越えて小さくなると、そのときの操作量を制御原点として更新する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のブレーキ装置によれば、意図しない制動力の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブレーキ装置を適用したブレーキシステムを示す。
【図2】ブレーキ装置の部分断面図である。
【図3】システム起動時に実行される制御のフローチャートである。
【図4】入力部材の位置とブースタピストンの位置の関係を示す特性図である。
【図5】システム起動時におけるストロークセンサ検出値とブースタピストン位置のタイムチャートである。
【図6】システム起動時における入力部材とブースタピストンとスライド軸の位置関係を示す。
【図7】システム起動時における入力部材とブースタピストンとスライド軸の位置関係のタイムチャートである。
【図8】システム起動時におけるブレーキペダルのストロークと液圧との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のブレーキ装置を実現する形態を、図面に基づき説明する。
【0009】
[実施例1]
[実施例1の構成]
図1は、実施例1のブレーキ装置(以下、装置1という。)を適用した車両のブレーキシステムを示す。図2は、装置1の部分断面図である。図1に示すように、ブレーキシステムは、運転者のブレーキ操作が入力される操作部材であるブレーキペダル2と、ブレーキペダル2に接続され、ブレーキ操作に基づき動作して液圧(具体的には油圧)を発生する装置1と、2つの配管7,8を介して装置1に接続され、装置1で発生した液圧(ブレーキ液圧)Pを配管23〜26を介して車両の各輪に設けられたキャリパ(ホイルシリンダ)31,41,51,61に分配する液圧装置21と、電力線72を介して装置1に接続され、装置1に電源電力を供給するバッテリ等の電源装置71と、通信線46を介して装置1及び液圧装置21に接続され、これら装置1,21の作動を制御する車両制御装置22と、を有している。キャリパ31〜61は、供給される液圧に応じた推力により摩擦材をロータ32〜62に押し付け、これにより各車輪に制動力が発生する。装置1(コントローラ4)と液圧装置21と車両制御装置22は、通信線46を介して互いに接続されており、これらの間で情報信号の伝送(送受信)が行われる。通信方式は、シリアル通信でもよいし、CAN等の多重通信でもよい。
【0010】
図2に示すように、装置1は、電動式の液圧発生装置であり、液圧を発生するマスタシリンダ10と、ブレーキペダル2の操作により進退移動する入力部材15と、入力部材15に対して相対移動可能に配置されたアシスト部材13と、アシスト部材13にアシスト推力を加えることによりアシスト部材13を進退移動させてマスタシリンダ10内で液圧を発生させるアクチュエータ部16と、入力部材15の進退移動量(操作ストローク)を検出するストローク検出手段としてのストロークセンサ17と、所定のシステムオン条件で制御可能な状態になると共に、ストロークセンサ17(ストローク検出手段)の検出結果に基づいてアクチュエータ部16を制御するコントローラ4と、を有している。上記入力部材15、アシスト部材13及びアクチュエータ部16は、ケース12内に配置されて電動式の倍力装置(ブースタ)を構成している。
【0011】
コントローラ4は、インバータ回路を有しており、電源装置71から電力線72を介して受けた直流電力を交流電力に変換し、この交流電力を制御して電動モータ11(アクチュエータ)に供給することで、電動モータ11の回転方向やトルクを制御する。なお、図2においては、コントローラ4とケース12と別体構造としているが、これらを一体構造としてもよい。
【0012】
液圧装置21は、マスタシリンダ10からの液圧に基づき各キャリパ32〜62へ供給する液圧を定める。また、液圧装置21は、その内部に、液圧を発生するためのポンプや液圧を制御するための電磁弁をアクチュエータとして備えており、マスタシリンダ10の液圧に基づくことなく各キャリパ32〜62へ供給する液圧を制御可能に設けられている。これにより、アンチロックブレーキ制御(ABS)や横滑り防止制御、トラクション制御、その他の車両の操縦安定性を向上する制動力制御を実行することができる。
【0013】
車両制御装置22は、カメラやレーダ等の外界認識センサやナビゲーションシステムからの情報に基づき車両の走行状態を変化させる制御(例えば車両追従制御や高度道路交通システムITS)を担うようになっている。車両制御装置22は、走行状態を変化させるために必要な制動力を担うためのブレーキ液圧を発生させることができる装置1に対して、必要な制動力やこれに相当するトルク、液圧等の情報を、制御要求として、通信線46を介して装置1に伝達する。また、車両制御装置22は、車両の運動エネルギを電力に変換する回生制御を担い、車両減速中に車両駆動用アクチュエータを発電機として動作させて電源装置(バッテリ)71に電力を回生するときに発生する回生制動力と、キャリパ32〜62に供給される液圧に由来する液圧制動力とを協調させる、所謂、回生協調制御のための制御要求の出力を行う。したがって、車両制御装置22が、回生量やこれに相当する回生ブレーキ量、トルク、液圧等の情報を、制御要求として、通信線46を介して装置1に伝達することによって、装置1のコントローラ4は、液圧制動力分のブレーキ量が、回生制動力分のブレーキ量だけ少なくなるように電動モータ11(アクチュエータ)を制御することができる。
【0014】
図2に示すように、入力部材15は、ブレーキペダル2の操作により進退移動する入力ロッド151と、入力ロッド151の移動に基づき進退移動する入力ピストン152とを有している。入力部材15は、ブレーキペダル2が踏み込まれると(運転者から見て)奥方向に前進し、ブレーキペダル2が踏み戻される(放される)と(運転者から見て)手前方向に後退する。以下、説明のため、入力部材15の移動方向にx軸を設け、前進方向を正方向、後退方向を負方向とし、入力部材15の位置Siは、前進方向へ向かうほど大きな値をとり、後退方向へ向かうほど小さな値をとると定義する。
【0015】
入力ロッド151のx軸負方向端はブレーキペダル2に対して相対回動可能に接続されている。入力ロッド151のx軸方向中間部には外径側に広がる鍔状のストッパ部153が設けられている。入力ロッド151のストッパ部153よりもx軸正方向側は先細り形状に設けられており、そのx軸正方向端は入力ピストン152のx軸負方向端に形成された凹部155に嵌合して入力ピストン152に連結されている。入力ピストン152は段付の円柱状に設けられ、そのx軸負方向側には、外径側に広がるバネ受(リテーナ)としての鍔部154が形成されている。鍔部154のx軸正方向側には、略円柱状のストッパ部156が形成されている。ストッパ部156のx軸正方向側には、ストッパ部156よりも小径に略円柱状の受圧部157が形成されている。
【0016】
アクチュエータ部16は、アクチュエータの電動部分としての電動モータ11(固定子110及び回転子112)と、電動モータ11(回転子112)の動力を変換してアシスト部材13に直動推力を伝達する回転直動変換機構としてのボール−ネジ機構119とを有している。これら電動モータ11とボール−ネジ機構119とは、電動モータ11により駆動され、運転者のブレーキ操作力を補助するための液圧を発生させるアシスト部材13としてのブースタピストン102や、入力部材15やブースタピストン102を付勢してそれらのx軸方向位置を調整する付勢部材としてのバネ180、181、182とともに、これら各部材を保持するハウジングとしてのケース12に軸心を一致させて収容されている。なお、電動モータ11やボール−ネジ機構119は、必ずしもケース12内に軸心を一致させて収容されている必要はなく、アシスト部材13に対して電動モータ11やボール−ネジ機構119を別軸でケース12に設けるようにしても良い。このような場合、電動モータ11やボール−ネジ機構119を必ずしもケース12に収容する必要はない。
【0017】
ケース12のx軸正方向側には、ブースタピストン102を案内・支持する支持部120が、ケース12内に突出する略円筒状に開口形成されている。ケース12のx軸負方向側は階段状に形成されており、内径が比較的大きい第1ストッパ部121と、第1ストッパ部121よりも内径が小さくケース12の外側(ブーツ内)に開口する第2ストッパ部122とを構成している。第1ストッパ部121の内径は入力ロッド151のストッパ部153の外径よりも大きく、第2ストッパ部122の内径はストッパ部153の外径よりも小さく設けられている。ストッパ部153は、第2ストッパ部122に当接/離反可能に設けられており、第2ストッパ部122は、入力ロッド151のx軸負方向側への移動を規制する。ケース12の第1ストッパ部121には、スライド軸115を案内・支持する孔123がx軸方向に貫通形成されている。
【0018】
電動モータ11は、三相交流電力により駆動する永久磁石型の同期モータである。なお、電動モータ11としては、誘導モータやDCブラシレスモータ等でもよく、特に永久磁石型の同期モータに限定されるものではない。電動モータ11の固定子110はケース12に設置されており、コントローラ4からの供給電力により回転磁界を発生する。回転子112は、永久磁石を有しており、固定子110の内周側に、ケース12内に設けられた軸受111により回転可能に支持されている。回転子112は、固定子110が発生する回転磁界により回転駆動され、トルクを発生する。
【0019】
ボール−ネジ機構119は、回転子112と、この回転子112の内周側に設置されるスライド軸115とを有している。回転子112は、その内周側が中空となっており、その内周面にはボール114と噛合う溝が形成されている。スライド軸115は、その外周面に複数のボール114と噛合う溝が形成されている。回転子112の回転(トルク)は、複数のボール114を介してスライド軸115に伝達され、スライド軸115をx軸方向に移動させる。スライド軸115は、略円筒状に設けられており、その(ケース12内に収容された部分の)x軸負方向側には、内径側に広がる鍔状にストッパ部116が設けられている。スライド軸115には、ストッパ部116からx軸負方向側に延びる被支持部118が設けられており、被支持部118はケース12の第1ストッパ部121に設けられた貫通孔123内に相対移動可能に設置されている。ストッパ部116(のx軸負方向側)は、ケース12の第1ストッパ部121に当接/離反可能に設けられており、第1ストッパ部121は、スライド軸115のx軸負方向側への移動を規制する。
【0020】
アシスト部材13としてのブースタピストン102は、略円筒形状に形成されており、ケース12のx軸正方向側の支持部120に設けられた貫通孔124内に、ケース12に対して移動可能に設置されている。ブースタピストン102のx軸負方向端には外径側に広がる鍔状のストッパ部103が形成されている。このストッパ部103は、スライド軸115の内周側に、スライド軸115に対してx軸方向に移動可能に設置されている。ストッパ部103(のx軸負方向側)は、スライド軸115のストッパ部116に当接/離反可能に設けられている。ブースタピストン102の内周側には、x軸正方向寄りの位置に壁部107が設けられ、壁部107には、入力ピストン152のストッパ部156よりも小径の孔108がx軸方向に貫通形成されている。貫通孔108には、入力ピストン152の受圧部157が相対移動可能かつ液密的に設置されている。入力ピストン152の受圧部157は、マスタシリンダ10のプライマリ液室104における受圧面積がブースタピストン102の受圧面積よりも充分小さくなるように設けられている。壁部107よりもx軸負方向側のブースタピストン102の内周には、内径側に広がるバネ受(リテーナ)としての鍔部109が形成されている。なお、入力ピストン152、すなわち入力部材15には、必ずしもマスタシリンダ10のプライマリ液室104に臨む受圧部157を形成する必要はなく、入力部材15は、アシスト部材13に対して相対移動可能に設けられていれば、アクチュエータ部16のフェール時以外は、マスタシリンダ10のピストンに踏力を伝達しない、いわゆるブレーキバイワイヤ形式用の入力部材であっても良い。
【0021】
ケース12の支持部120(のx軸負方向端)とブースタピストン102のストッパ部103(のx軸正方向側)との間には、ブースタピストン102をx軸負方向側に付勢するバネ182が設置されている。バネ182は、ブースタピストン102を初期位置(限界位置Sb0)に戻すセット荷重として働き、電動モータ11がトルクを発生させていないとき、ブースタピストン102のストッパ部103及びこれに当接するスライド軸115のストッパ部116を、例えばケース12の第1ストッパ部121まで移動させる。また、ブースタピストン102の壁部107(のx軸負方向端)と入力ピストン152の鍔部154(のx軸正方向側)との間には、バネ181が設置され、入力ピストン152の鍔部154(のx軸負方向側)とブースタピストン102の鍔部109(のx軸正方向側)との間には、バネ180が設置されている。これらのバネ180、181は、その付勢力により、入力ピストン152(入力部材15)をブースタピストン102に対して中立位置に戻し、ブースタピストン102が初期位置(限界位置Sb0)にあるときには入力部材15を初期位置(限界位置Si0)に戻すセット荷重として働く。なお、バネ180、181は、必ずしも設ける必要はなく、いずれか一方のみを設けても良いし、両方設けないようにしてもよい。
【0022】
マスタシリンダ10は、ケース12に接続されている。マスタシリンダ10は、液圧を発生する加圧室として、ブースタピストン102(及び入力ピストン152)により加圧されるプライマリ液室104と、有底円筒状のセカンダリピストン105により加圧されるセカンダリ液室106とを直列に有する、所謂、タンデム型のマスタシリンダとなっている。プライマリ液室104には配管7が連通し、セカンダリ液室106には配管8が連通している。また、各液室104、106には、ブレーキ液を貯留するリザーバが接続されている。プライマリ液室104とリザーバとの連通は、ブースタピストン102が初期位置(非制動時の待機位置Sbt)からx軸正方向へ所定距離だけ移動することで遮断される。同様に、セカンダリ液室106とリザーバとの連通はセカンダリピストン105の前進により遮断される。また、プライマリ液室104内には、セカンダリピストン105の(x軸負方向側)底部のx軸負方向側とブースタピストン102の壁部107のx軸正方向側(受圧面)との間に、ブースタピストン102を初期位置に向かって付勢する戻しバネ183が設置されている。セカンダリ液室106内には、マスタシリンダ10内のx軸正方向端部(底部)とセカンダリピストン105の底部のx軸正方向側(受圧面)との間に、セカンダリピストン105を初期位置に向かって付勢する戻しバネ184が設置されている。
【0023】
ブースタピストン102と入力ピストン152はマスタシリンダ10のプライマリピストンとして機能し、これらのピストン102、152がx軸正方向側に移動することで、プライマリ液室104の液圧(マスタシリンダ圧)Pが上昇する。すなわち、入力ピストン152がx軸正方向に移動することで、プライマリ液室104の容積が圧縮され、マスタシリンダ圧Pが発生する。また、アシスト部材であるブースタピストン102にアシスト推力を加え、これをx軸正方向に移動させることでも、マスタシリンダ10内で液圧Pが発生する。具体的には、スライド軸115のストッパ部116がブースタピストン102のストッパ部103に当接した状態で、スライド軸115がx軸正方向に移動することで、マスタシリンダ10のプライマリ液室104にブースタピストン102が押し込まれ、マスタシリンダ10の出力液圧Pが上昇する。また、プライマリ液室104の液圧に基づきセカンダリピストン105がx軸方向に移動し、プライマリ液室104の液圧とセカンダリ液室106の液圧とが略同じとなる位置で停止する。このようにして、プライマリ液室104とセカンダリ液室106とからは、略同じ液圧Pが供給される。すなわち、ブースタピストン102の推進により各液室104、106で加圧された作動液が、配管7,8を経由してブレーキ液圧として液圧装置21に供給される。
【0024】
コントローラ4は、ブレーキスイッチ5、ストロークセンサ17、液圧センサ140,141、及び回転センサ113の各センサの信号をうけとれるようになっている。ブレーキスイッチ5は、ブレーキペダル2に対して設けられたペダルスイッチとしてのブレーキランプスイッチとしても機能するものであり、ブレーキペダル2の操作の有無、すなわち操作の始まりと終わりとをオンオフスイッチで検出して、その情報信号をコントローラ4に出力する。
【0025】
ストロークセンサ17は、ブレーキペダル2に設けられ、ブレーキペダル2の操作量(踏み込み/踏み戻し量ないしストローク量)、言い換えると入力部材15の進退移動量から操作ストロークを検出して、その情報信号をコントローラ4に出力する。すなわち、運転者によるブレーキペダル2の操作に応じて入力部材15がx軸方向に進退移動すると、ブレーキペダル2と入力ロッド151の幾何学的関係が決まっているため、ストロークセンサ17の出力値の所定の制御原点(ゼロ点)S*からの変位に基づき、入力部材15の位置ないし進退移動量を検出することができる。よって、ストロークセンサ17の検出値Sと入力部材15の検出位置ないしx軸方向移動量とを同じものとして扱う。なお、ストロークセンサ17が設けられる部位は、ブレーキペダル2に取付けられる以外にも、装置1(ケース12)と一体又は装置1の内部に取付けることとしてもよい。ストロークセンサ17の代わりに、入力部材15の進退移動量を直接検出することとしてもよい。ストロークセンサ17は、回転センサであっても直動センサであってもよく、また、例えば可変抵抗を用いたポテンショメータやロータリエンコーダであってもよい。また、回転スリットを用いて光ピックアップで検知する方式であっても、磁気素子を用いて磁気の変化を検知する方式であってもよい。
【0026】
液圧センサ140は、プライマリ液室104の液圧を計測するようになっており、液圧センサ141は、セカンダリ液室106の液圧を計測するようになっている。液圧センサ140,141は、計測した液圧の情報信号をコントローラ4に出力する。なお、両液室104、106の液圧は略同じとなるため、どちらか一方のみを備えることとしてもよいし、プライマリ液室104若しくはセカンダリ液室106のいずれか一方に両液圧センサ140,141を備えるようにしても良い。回転センサ113は、回転子112の外周位置に設けられており、回転子112の磁極の位置(回転角度ないし回転位相)を検出し、その情報信号をコントローラ4に出力する。回転センサ113の出力値、すなわち所定の原点(ゼロ点)からの回転子112の回転量に基づき、スライド軸115のx軸方向移動量を算出することができる。回転センサ113として、光や磁気を用いたエンコーダないしレゾルバを用いることができる。
【0027】
コントローラ4は、電動モータ11を駆動するための三相交流電流をスイッチング素子により生成するインバータ回路を備えている。インバータ回路は、ホール素子やシャント抵抗等により構成される電流センサを備えている。回転センサ113や電流センサにより検出された情報は、固定子110に供給される電流の制御に用いられ、これにより回転子112の回転位置や速度、言い換えるとスライド軸115すなわちブースタピストン102の位置や速度が制御される。コントローラ4は、ストロークセンサ17の検出値に基づきブースタピストン102の目標位置を算出し、ブースタピストン102の実際の位置Sbが目標位置となるように、回転センサ113等の検出値に基づき電動モータ11の作動を制御する。これにより、運転者のブレーキペダル操作に応じた液圧Pをマスタシリンダ10に発生させることができる。
【0028】
具体的には、ブレーキペダル2(入力ロッド151)の操作によって入力ピストン152を前進させると、コントローラ4からの制御電流によって電動モータ11の回転子112を回転させ、ボール−ネジ機構119のスライド軸115を介してブースタピストン102を前進させて入力ピストン152に追従させ、プライマリ液室104及びセカンダリ液室106を加圧する。これにより、ブレーキペダル2の操作に応じて電動モータ11によるアシスト力を付与して倍力制御を行う。このとき、プライマリ液室104の圧力が入力ピストン152を介して入力ロッド151(ブレーキペダル2)にフィードバックされる。また、各種センサの検出に基づいて、コントローラ4によって電動モータ11の回転を適宜制御することにより、ブレーキアシスト制御、回生協調制御、車両追従制御等のブレーキ制御を実行可能である。回生協調制御においては、ブースタピストン102をx軸負方向側に引き戻す方向に電動モータ11を回転制御することで、回生制動力相当の液圧制動力を減少させる制御を行う。ここで、入力ピストン152とブースタピストン102とは相対変位可能に設けられているため、上記ブレーキ制御時に所望の倍力比を発生させることができる。すなわち、入力ピストン152の受圧面積とブースタピストン102の受圧面積の比に応じた倍力比、及び/又は入力ピストン152とブースタピストン102の相対変位量Δxに応じた倍力比に倍力された液圧を液室104、106に発生させるようになっている。なお、入力ピストン152の移動に対して、入力ピストン152とブースタピストン102の相対変位量Δxを可変とすることで倍力比を可変とすることが可能となっている。この場合、入力ピストン152の移動量に対して、相対変位量Δxを漸増させることで、ブレーキペダル2の踏み込みストロークに対する液圧上昇度合いが高くなる、所謂ショートストローク感を運転者に与えることができる制御(進み制御)が可能となっている。また、、入力ピストン152の移動に対して、入力ピストン152とブースタピストン102の相対変位量Δxを一定、例えば0にすることで倍力比が一定となる制御(等倍制御)を行ってもよい。
【0029】
ここで、ブレーキシステムの作動状態におけるブースタピストン102(アシスト部材13)と入力部材15との位置関係について説明する。ブレーキペダル2が踏まれておらず、システムが起動しておらず、かつ、電動モータ11に電力が供給されていないとき(システムダウンでペダル非操作時)に、ブースタピストン102は、バネ182の付勢力によりx軸負方向側へ押され、そのストッパ部103がスライド軸115のストッパ部116に当接するとともに、スライド軸115のストッパ部116はケース12の第1ストッパ部121に当接してx軸負方向側への移動が制限されている。この状態におけるブースタピストン102の位置を限界位置Sb0とし、スライド軸115の位置を限界位置Sm0とする。また、この状態では、ブレーキペダル2が踏まれていないため、バネ180、181のセット荷重により入力部材15はブースタピストン102に対して中立位置にある。言い換えると、入力部材15に対してバネ180、181の付勢力の合成ベクトルがx軸正方向にもx軸負方向にも作用せず、ブースタピストン102に対して入力ピストン152が中立位置に保持される。ブースタピストン102が限界位置Sb0にあるときの入力部材15の中立位置を、入力部材15の限界位置Si0とする。なお、この限界位置Si0にあるとき、入力ロッド151のストッパ部153がケース12の第2ストッパ部122に当接して入力部材15のx軸負方向側への移動が制限されることとしてもよい。
【0030】
そして、ブレーキペダル2が踏まれておらず、かつシステムが起動し、電動モータ11に電力が供給可能なとき(システムアップでペダル非操作時)に、ブースタピストン102は所定の待機位置Sbtに待機するように制御される。待機位置Sbtは、好ましくは、ブースタピストン102をx軸負方向側へ移動させて回生協調制御を実行することを可能とする余裕分である。ブースタピストン102が待機位置Sbtにあり、かつバネ180、181のセット荷重により入力部材15がブースタピストン102に対して中立位置にあるとき、この位置を入力部材15の待機位置Sitとする。システム作動中、ストロークセンサ17の制御原点S*はこの待機位置Sitに設定され、この制御原点S*を基準として検出される入力部材15の位置Siに基づきブースタピストン102の位置Sbが制御される。よって、ストロークセンサ17の制御原点S*が待機位置Sitと一致しているとき、ストロークセンサ17の検出値Sがゼロとなるように電動モータ11(スライド軸115)を制御すれば、ブースタピストン102が待機位置Sbtに位置することになる。言い換えると、制御原点S*が待機位置Sitと一致していないとき、検出値Sがゼロとなるように電動モータ11(スライド軸115)を制御すれば、ブースタピストン102が待機位置Sbtからズレた位置に待機することになる。
【0031】
上記状態からブレーキペダル2が踏まれると、ブースタピストン102は、電動モータ11の駆動により、ストロークセンサ17の検出値Sに応じて待機位置Sbtからx軸正方向に移動するように制御される。ここで、スライド軸115のストッパ部116とケース12の第1ストッパ部121とが当接していないとき、回転子112の回転位置と、スライド軸115及びブースタピストン102の位置とは、一定の関係があり、同じものとみなしてよい。ストロークセンサ17の検出値Sと同じ量だけブースタピストン102を移動させると、入力部材15とブースタピストン102の相対位置が中立位置に保持されることとなり、一定の倍力比が得られる。ストロークセンサ17の検出値Sに対してブースタピストン102の移動量を増減させると可変の倍力比が得られ、例えばブースタピストン102の移動量を相対的に増やすことでブレーキアシスト制御等が可能となり、減らすことで回生協調制御等が可能となる。
【0032】
ここで、本実施例においては、イグニションオフの状態であっても、ブレーキ操作が行われるとシステムが起動し、電動モータ11に電力を供給してブースタピストン102を作動させてブレーキ液圧を発生可能なようになっている。この制御の詳細については、後述する。
【0033】
なお、システムフェール等によって電動モータ11を駆動できない場合には、電動モータ11によるスライド軸115の移動が出来ない状態となり、電動モータ11による倍力作用は得られない。この場合、運転者がブレーキペダル2(入力ロッド151)を操作すると、入力ピストン152に伝達された推力は、バネ181、ひいては入力ピストン152のストッパ部156を介してブースタピストン102に伝達され、ブースタピストン102が移動する。よって、スライド軸115のストッパ部116とブースタピストン102のストッパ部103が離間してこれらが相対移動することになる。これにより、所定の踏力でブレーキペダル2を操作したときに、両液室104、106に最低限のブレーキ力が確保できる程度の液圧を発生させることができる。
【0034】
コントローラ4は、電気的にデータの消去/書き換えが可能な半導体記憶装置であるEEPROMを有している。EEPROMは、ストロークセンサ17の制御原点(ゼロ点)S*の初期値、すなわち初期原点を記憶/書き換え可能に設けられており、初期原点記憶部を構成している。記憶された初期原点は適当なタイミングで読み出され、ストロークセンサ17による検出に用いられる。
【0035】
図3は、イグニションオフの状態で、運転者のブレーキ操作(具体的にはブレーキスイッチ5のオン)によるシステム起動時にコントローラ4にて実行される制御の流れの一例を示す。
ステップS1では、ブレーキペダル操作の有無を示すブレーキスイッチ5の検出値がオン(操作有)であればS2へ進み、オフ(操作無)であればステップS11へ進む。
ステップS2では、コントローラ4が起動する。その後、ステップS3へ進む。
ステップS3では、ストロークセンサ17の制御原点(ゼロ点)S*の学習が既に済んでいるか否かを判定する。済んでいれば通常の制動制御を行うべく、ステップS14へ進み、未学習であればステップS4へ進む。
ステップS4では、制御原点S*を、EEPROMに予め記憶された初期原点Ss0よりも所定幅αだけ大きい値の初期原点Ss(=Ss0+α)に設定し、ステップS5へ進む。
ステップS5では、制御原点S*を基準としてストロークセンサ17の検出値Sを出力し、この検出値Sが制御原点S*(ゼロ)より小さいか否かを判定する。S*(ゼロ)より小さければ制御原点S*(ゼロ点)を更新するためにステップS6へ進む。一方、検出値Sが制御原点S(ゼロ)以上であれば、制御原点S*(ゼロ点)を更新する必要はないため、ステップS10へ進む。
ステップS6では、新たな制御原点S*(ゼロ点)をステップS5の検出値Sに設定(更新)し、ステップS7へ進む。
ステップS7では、制御原点S*の学習条件が成立したか否か、本実施例においてはブレーキペダル2が踏まれていない状態が所定時間継続しているか否かを判定する。この学習条件の詳細については、後述する。学習条件が成立していればステップS8へ進み、成立していなければステップS5へ戻る。
ステップS8では、その詳細を後述する制御原点S*の学習処理を実行する。その後、ステップS9へ進む。
ステップS9では、学習が終了した制御原点S*を基準としてストロークセンサ17の検出値Sを出力し、この検出値Sを用いて電動モータ11の制御(ブレーキ制御)を実行する。
ステップS10では、ステップS5の検出値Sが制御原点S*以上であるため、この検出値Sを用いてブレーキ制御を実行する。具体的には、ブースタピストン102を検出値Sと同じ分だけ進める、所謂等倍制御を行うように電動モータ11を制御する。その後、ステップS5へ戻る。
ステップS11では、イグニッションがオンであればコントローラ4が起動してステップS12へ進み、オフであればステップS1へ戻る。
ステップS12では、ステップS7と同様、制御原点S*の学習条件が成立したか否かを判定する。学習条件が成立していればステップS13へ進み、成立していなければステップS1へ戻る。
ステップS13では、ステップS8と同様、制御原点S*の学習処理を実行する。その後、S14へ進む。
ステップS14では、ステップS9と同様、学習が終了した制御原点S*を基準としてストロークセンサ17の検出値Sを出力し、この検出値Sを用いてブレーキ制御を実行する。
【0036】
すなわち、コントローラ4は、イグニッションがオフであっても、ブレーキスイッチ5からブレーキ操作有りとの検出信号が入力されたときに起動し、制御可能な状態になる。これにより、ブレーキシステムがオンとなる(S1→S2)。コントローラ4は、制御可能な状態になって制御原点S*の学習処理が終了していないとき、(この状態になる前から)予め記憶された初期原点Ss(=Ss0+α)をストロークセンサ17の制御原点S*として設定し(S4)、設定された制御原点S*を基準とするストロークセンサ17の検出値Sに基づいて、電動モータ11を制御する(S10)。具体的には、上記検出値Sが初期原点Ss以上の場合は、ブースタピストン102を上記検出値Sと同じ分だけ進めるように電動モータ11を制御する(S5→S10)。すなわち、ストロークセンサ17により検出された入力部材15のx軸方向移動量と同じ分だけ、ブースタピストン102をx軸方向に移動させる。一方、上記検出値Sが初期原点Ssより小さい場合は、ブースタピストン102を進めないように電動モータ11を制御する。初期原点Ssは、装置1が車両に搭載されたときに記憶されていた値Ss0よりも所定幅αだけ大きな(進み側の)値に設定される。車両搭載時の記憶値Ss0は、例えば、入力部材15の限界位置Si0よりも僅かに進み側(x軸正方向側)に設定することができる。所定幅αは、システムオフ時(電源遮断中)にストロークセンサ17の出力を変動させる可能性のある要因、具体的には、温度ドリフトや機械ガタ(ブレーキペダル2等のガタ)、又は検出回路の誤差等を考慮し、これらの要因による出力変動の影響を抑制できる大きさとすることが好ましい。
【0037】
コントローラ4は、ブレーキスイッチ5のオンによる起動後、ストロークセンサ17の検出値Sが最初から初期原点Ss以下である場合、又は、検出値Sが初期原点Ssよりも大きい(よって検出値Sと同じ量だけブースタピストン102を進める制御を行う)状態から、検出値Sが初期原点Ssより小さくなった場合、すなわち入力部材15が制御原点S*を越えて後退するごとに、そのときの入力部材15の位置(検出値S)をストロークセンサ17の制御原点S*として更新する(S5→S6→S7→S5)。その間、ブースタピストン102を進めないように電動モータ11を制御する。ブレーキペダル2が非制動位置に戻ったことに伴い、ストロークセンサ17の制御原点S*の学習条件が成立したと判断すると、制御原点S*を学習する(S7→S8)。このように、制御原点S*の更新を、(初回の)学習が行われるまで行う。ブレーキスイッチ5のオンによる起動時、既に制御原点S*の学習が済んでいれば、この制御原点S*を基準として検出された検出値Sに基づいて、ブースタピストン102を制御する(S3→S14)。また、イグニションオンによる通常の起動時には、学習条件が成立すれば制御原点S*を学習し、これに基づきブースタピストン102を制御する(S11→S12→S13)。さらに、イグニションオンによる通常の起動時でも、制御原点S*の学習処理が終了していないときには、検出値Sが初期原点Ssより小さくなった場合、すなわち入力部材15が制御原点S*を越えて後退するごとに、そのときの入力部材15の位置(検出値S)をストロークセンサ17の制御原点S*として更新する(S5→S6→S7→S5)。
【0038】
ここで、上述の図3の制御におけるステップS8,S13で行われるストロークセンサ17の制御原点S*の学習処理の内容を説明する。制御原点S*の学習は、ブースタピストン102が後退方向(x軸負方向)に移動できる限界位置Sb0に達したときのストロークセンサ17の出力を基準として行い、この出力値に所定の値βを加えた値を学習値として用いる。この特定の値βは、回生ブレーキ相当の液圧ブレーキ力を減少させることができるようにブースタピストン102がストロークするための余裕代である。ステップS7,S12で行われる学習条件が成立しているか否かは、ブレーキペダル2が踏み込まれておらず、通信線46から制御要求を受けていないことである。また、液圧装置21が液圧制御を行っている場合、マスタシリンダ10の液圧Pや入力部材15やブースタピストン102の位置が変動する可能性がある。よって、学習は、液圧装置21がキャリパ(ホイルシリンダ)31,41,51,61への液圧制御を行っていないときにようにしている。
【0039】
上記のブレーキペダル2が踏み込まれていない状態であるか否かの判定は、ブースタピストン102を若干移動させることで、より正確に行うことができる。以下、その原理を図4に基づいて説明する。図4は、ブースタピストン102をx軸正方向側に少し動かしたときの、入力部材15の位置Siとブースタピストン102の位置Sbの関係を示す特性図である。運転者がブレーキペダル2を操作していない状態で、全くブレーキ制御が行われていないとき、回転子112に回転トルクは発生せず、入力部材15にはブレーキペダル2による推力が発生していない。よって、バネ180、181により、入力部材15とブースタピストン102との位置関係が定まる。この状態で、ブレーキペダル2が少し踏まれると、入力部材15がx軸正方向側に若干移動し、バネ180が微少に伸び、バネ181が微少に縮んだ状態となる。ブレーキペダル2の踏み込み操作が無くなると、入力部材15はバネ180、181により再び元の位置に戻る。
【0040】
特性201は、ブレーキペダル2が踏み込まれていない状態での特性を示す。電動モータ11の駆動によりブースタピストン102がx軸正方向側に静かに移動すると、バネ181が少しずつ伸びる一方、バネ180が少しずつ縮む。入力部材15に作用するバネ180の押圧力が増加してくるが、ブースタピストン102が位置203に達するまでは、静止摩擦力などの影響で入力部材15は移動せず静止した状態である。位置203を越えてブースタピストン102がx軸正方向側に移動すると、入力部材15が移動し始める。また、特性202は、ブレーキペダル2が予め若干踏み込まれた状態での特性を示す。ブレーキペダル2が若干踏み込まれているので、入力部材15は位置204まで既に移動しており、バネ180が少し伸び、バネ181が少し縮んだ状態にある。この状態で、電動モータ11の駆動によりブースタピストン102がx軸正方向に静かに移動すると、この移動に追従して直ぐに入力部材15が移動する。さらに、破線の特性205は、ストロークセンサ17の出力にドリフト等の影響が現れた状態での特性を示す。ドリフト等の影響により、ストロークセンサ17の出力はブレーキペダル2が踏み込まれたときと同様である(例えば位置204に近い)。しかし、ブレーキペダル2が踏み込まれていないため、バネ180とバネ181が入力部材15に作用している付勢力は略同じである。電動モータ11の駆動によりブースタピストン102がx軸正方向に静かに移動すると、バネ181が少しずつ伸びる一方、バネ180が少しずつ縮み、入力部材15に作用するバネ180の押圧力が増加してくる。ブースタピストン102が位置203を越えて移動すると、入力部材15が移動し始める。このような特性202と特性205の違いから、ストロークセンサ17の出力に少しズレがあっても、ブレーキペダル2が踏み込まれているか否かの判定を正確に行うことができる。
【0041】
図5は、ブレーキペダル2の踏み込み(ブレーキスイッチ5のオン)によるシステム起動時における、ストロークセンサ17の検出値Sと(入力部材15から見た)ブースタピストン102の位置Sbの経時変化の一例を示す。図5(a)の縦軸は、ストロークセンサ17の生値ないし出力値、すなわちストロークセンサ17の角度や電圧の値を示し、言い換えれば、ブレーキペダル2のストローク量や入力部材15のx軸方向移動量ないし位置に対応する値である。
【0042】
時刻t01では、ブレーキスイッチ5がオンとされ、コントローラ4が起動し、ストロークセンサ17の制御原点S*が初期原点Ss(=Ss0+α)に設定されている状態である。時刻t01までは、運転者のブレーキペダル2の操作量(ストロークセンサ17の生値=出力値Sr)は一定であり、値S1に保持されている。コントローラ4が認識する入力部材15の位置、すなわちストロークセンサ17の検出値Sは、制御原点S*(初期原点Ss)を基準とした値、すなわちストロークセンサ17の出力値Srから制御原点S*の値を差し引いた値である。図5(a)に示すようにブレーキペダル2の操作量(ストロークセンサ17の出力値Sr)が一定であるため、ストロークセンサ17の検出値Sは一定であり、これに基づき制御されるブースタピストン102の位置Sbも図5(b)に示すように一定である。ブースタピストン102は、ストロークセンサ17の検出値Sと同じ量だけ、すなわち検出値Sに表わされる入力部材15の移動量と同じ移動量だけ変位するよう、言い換えると互いの移動量が一対一となるよう、等倍制御される。
【0043】
時刻t01以降、運転者のブレーキペダル2の操作量が減少する(踏み戻される)のに伴い、図5(a)に示すようにストロークセンサ17の出力値Sr及び検出値Sが減少し、並びに図5(b)に示すように検出値Sに基づき制御されるブースタピストン102の位置Sbも、減少(x軸負方向側に移動)する。ここで、初期原点Ss(=Ss0+α)がSs0よりもx軸正方向側にαだけ進んだ位置に設定されているため、検出される入力部材15の位置はx軸負方向側にαだけ遅れた位置となる。よって、ブースタピストン102の位置は、入力部材15に対して中立位置を基準としてx軸負方向側にαだけ遅れた位置を保持するように制御される。時刻t02で、スライド軸115のストッパ部116がケース12の第1ストッパ部121に当接し、ブースタピストン102のx軸負方向側への移動(ストロークSb)がメカ的に制限される。よって、ブースタピストン102の位置は限界位置Sb0に保持される。一方、ブレーキペダル2の操作量(ストロークセンサ17の出力値Sr)は減少し続け、ストロークセンサ17の検出値Sも減少し続ける。
【0044】
時刻t03で、ストロークセンサ17の出力値Sr(検出値S)が、制御原点S*として設定された初期原点Ss(ゼロ)まで減少する。時刻t03以降、各制御周期において、ストロークセンサ17の出力値Sr(検出値S)が、前回の制御周期において設定された制御原点S*(検出された値=ゼロ)よりも小さくなる。よって、このストロークセンサ17の出力値Sr(検出値S)を制御原点S*(ゼロ点)として再設定する。この図5に示す変化においては、時間の経過と共に(すなわち制御周期毎に)ブレーキペダル2の操作量が減少するようになっているため、ストロークセンサ17の出力値Srは減少し、よって、制御原点S*も減少する(すなわち元の値よりもx軸負方向側にオフセットする)ように更新される。また、(各制御周期の)ストロークセンサ17の検出値Sは略ゼロに維持される。時刻t04で、バネ180、181が中立状態となってブースタピストン102に対する入力部材15の位置が中立となり(両者の相対変位量Δxがゼロとなり)、入力部材15が限界位置Si0に達する。すなわち、ブレーキペダル2のストローク量がゼロとなる。制御原点S*は限界位置Si0に設定される。
【0045】
時刻t05で、学習条件が成立する。すなわち、時刻t04〜t05で、ブレーキペダル2が踏み込まれていない状態であること等を確認する。よって、時刻t05後、時刻t7まで、ストロークセンサ17の制御原点S*の学習を実行する。まず、制御原点S*を限界位置Si0に設定したまま、ブースタピストン102をx軸正方向側に移動させることで、入力部材15を徐々に、限界位置Si0からx軸正方向側に所定距離βだけ移動させる。図5(b)に示すようにストロークセンサ17の検出値Sは、ゼロ(限界位置Si0)から徐々にx軸正方向側に所定距離βだけ増加する。ブースタピストン102は、入力部材15に対する中立位置を保ったまま、ストロークセンサ17の検出値Sと同じ量だけ変位するように制御される。このため、ブースタピストン102の位置は、限界位置Sb0からx軸正方向側に所定距離βだけ離れた待機位置Sbtまで、徐々に増加する。時刻t06で、入力部材15とブースタピストン102の移動が完了する。時刻t07で、制御原点S*を、ストロークセンサ17の検出値S、すなわち限界位置Si0からx軸正方向側に所定距離βだけ離れた位置に変更して再設定する。この再設定(学習)された制御原点S*を基準として検出されるストロークセンサ17検出値Sはゼロとなる。
【0046】
以後、次回の学習が行われるまで、この再設定された制御原点S*を基準として検出されたストロークセンサ17の検出値Sに基づき、ブースタピストン102の制御が行われる。検出値Sがゼロとなる入力部材15の位置に対応して制御されるブースタピストン102の位置は待機位置Sbtとなる。ブレーキペダル2が踏まれていないとき、入力部材15の位置はブースタピストン102の位置に追従するため、検出値Sがゼロとなる入力部材15の位置(すなわち限界位置Si0からx軸正方向側に所定距離βだけ離れた位置)が、入力部材15の待機位置Sitとなる。
【0047】
図6は、ブレーキスイッチ5のオンによるシステム起動時における入力部材15とブースタピストン102とスライド軸115の位置関係の一例を、時系列に沿った各動作(1)〜(6)について示す。図7は、各動作(1)〜(6)に対応して、入力部材15の位置Si、ブースタピストン102の位置Sb、及びスライド軸115の位置Smの相互関係の経時変化を示す。なお、制御原点S*が不定であるため、コントローラ4が認識する値は、必ずしも図7のとおりにはならないようになっている。また、図6においては、説明の便宜上、図2に示しているバネ180,181の図示を省略している。
【0048】
動作(1)は、運転者がブレーキペダル2を踏む前であって、ブレーキスイッチ5がオフとされているときの動作を示す(図7の時刻t11以前に対応)。電動モータ11に電力が供給されていないため、スライド軸115は、バネ182の力によりブースタピストン102を介してx軸負方向側に付勢され、そのストッパ部116がケース12の第1ストッパ部121に当接し、x軸負方向側への移動が制限されている。よって、スライド軸115の位置Smは限界位置Sm0にあり、ブースタピストン102の位置Sbも限界位置Sb0にある。ブレーキペダル2が操作されていないため、入力部材15に対するブースタピストン102の位置(Sb−Si)は中立位置(相対変位量Δxが0となる位置)となり、入力部材15の位置Siは限界位置Si0(≒Ss0)にある。
【0049】
動作(2)は、運転者がブレーキペダル2を踏み込むことで、ブレーキスイッチ5がオンとなり、システムが起動した直後の動作を示す(図7の時刻t11〜t12に対応)。入力部材15がx軸正方向側に進んだ状態で起動する。ブレーキペダル2から入力部材15に伝達された推力は、バネ181、ひいては入力ピストン152のストッパ部156を介してブースタピストン102に伝達され、ブースタピストン102が移動する。また、電動モータ11が駆動される直前であるため、スライド軸115は限界位置Sm0にある。よって、ブースタピストン102がスライド軸115から離間する。
【0050】
動作(3)は、ストロークセンサ17の検出値Sに基づき、入力部材15の移動量と同じ分だけブースタピストン102を移動させるように電動モータ11を制御する際の動作を示す(図7の時刻t12〜t17に対応)。ストロークセンサ17の制御原点S*は、初期原点Ssである。スライド軸115が再びブースタピストン102に当接してこれをx軸正方向側に押す(図7の時刻t13)。ストロークセンサ17の検出値Sは初期原点Ss(=Ss0+α)を基準として検出されるため、実際の入力部材15の移動量よりも略αだけ少なくなる。よって、ブースタピストン102の移動量は入力部材15の移動量よりも略αだけ少なくなる。したがって、入力部材15に対するブースタピストン102の位置(Sb−Si)は、中立位置よりもx軸負方向側に略αだけ遅れた位置(相対変位量Δxが−αとなる位置)となる。ここで、ブースタピストン102の位置(Sb−Si)は、そこからブースタピストン102が入力部材15に対して更にx軸負方向側へ移動することで回生ブレーキ相当の液圧ブレーキ力を減少させることができる位置であることが好ましい。ブレーキペダル2が更に踏み増され、又は踏み戻されると、スライド軸115とブースタピストン102と入力部材15は、互いの位置関係を保ったまま移動する(図7の時刻t15〜t17)。
【0051】
動作(4)は、運転者によりブレーキペダル2が放される(踏み戻される)際の一動作を示す(図7の時刻t17に対応)。スライド軸115とブースタピストン102のx軸負方向側への移動が第1ストッパ部121により制限されると、それぞれの位置が限界位置Sm0,Sb0となる。ブレーキペダル2が戻される間、ストロークセンサ17の出力値Sr(検出値S)が初期原点Ss(ゼロ)よりも減少すると、制御原点S*は、出力値Sr(検出値S)に応じて、その都度、初期原点Ssからx軸負方向側の位置へ更新される。
【0052】
動作(5)は、ブレーキペダル2が更に踏み戻される際の動作を示す(図7の時刻t17〜t18に対応)。ブースタピストン102のx軸負方向側への移動が制限されているため、入力部材15が、図6に図示せぬバネ180、181の付勢力によってブースタピストン102に対してx軸負方向側に移動し、入力部材15に対するブースタピストン102の位置(Sb−Si)が、中立位置に戻る。この間、制御原点S*は、初期原点Ssからx軸負方向側へ更新され、最終的に限界位置Si0に設定される。
【0053】
動作(6)は、ブレーキペダル2が一旦ほぼ完全に踏み戻された後、制御原点S*の学習処理が行われていない状態で、運転者が再度ブレーキペダル2を踏み込む際の動作を示す(図7の時刻t18以降に対応)。ストロークセンサ17の検出値S(入力部材15の移動量)と同じ量だけブースタピストン102を移動させるように電動モータ11を制御する。このとき、入力部材15に対するブースタピストン102の位置(Sb−Si)は、中立位置(相対変位量Δx=0)を維持する。
【0054】
図8は、装置1の作動においてマスタシリンダ10に発生する液圧Pとブレーキペダル2のストローク(入力部材15の実際のストロークSr)との関係を示す。実線でブレーキスイッチ5のオンによる起動時における関係を示し、図6の各動作(1)〜(6)との対応を、同一の符号を付した矢印によって示す。対比のため、破線で通常時(具体的には進め制御時すなわち倍力比を大きくしたとき)における関係を示す。ブレーキスイッチオンによる起動直後は、通常時の制御原点S*(=待機位置Sit)よりも踏み込んだストローク位置相当の初期原点Ss(=Ss0+α)を制御原点S*として制御を行う。よって、ストロークセンサ17の検出値Sが踏み戻し側に減少するため、入力部材15の位置(検出値S)に対するブースタピストン102の位置(Sb−Si)が中立位置よりも略α分だけ遅れた状態で、ブースタピストン102の位置ないし移動量が制御される。したがって、図8の(1)〜(3)に示すように、ストロークSrに対する液圧Pの立ち上がりが通常時よりも遅れるものの、ストロークSrに応じて液圧Pが発生する。
【0055】
また、動作(4)(5)では、ストロークセンサ17の出力値Sr(検出値S)が制御原点S*(ゼロ)よりも小さくなる都度、制御原点S*は踏み戻し側(x軸負方向側)へ更新され、初期原点Ssから通常時の制御原点S*(=Sit)に近づく。よって、ブレーキペダル2が一旦ほぼ完全に踏み戻された後、制御原点S*の学習処理が行われていない状態で、運転者が再度ブレーキペダル2を踏み込むと、このときにはストロークセンサ17の検出値Sの踏み戻し側の減少分αが無くなっているため、入力部材15に対してブースタピストン102が中立位置である状態で、ブースタピストン102の位置ないし移動量が制御される。したがって、(6)に示すように、ストロークSrに対する液圧Pの立ち上がりが通常時と同様となり、遅れなくなる。なお、ブレーキスイッチオンによる装置1の起動後、ブレーキペダル2が完全に踏み戻される前に、運転者が再度ブレーキペダル2を踏み込んでも、制御原点S*は、初期原点Ssからある程度、踏み戻し側(x軸負方向側)へ更新されている。すなわち、ストロークセンサ17の検出値Sは、起動直後よりも通常値に近づくように修正されているため、入力部材15に対するブースタピストン102の位置が中立位置に近づいた状態で、ブースタピストン102の位置ないし移動量が制御される。したがって、(7)の矢印に示すように、起動直後に比べると、ストロークSrに対する液圧Pの立ち上がりが早まることになる。
【0056】
以下、本実施例1の装置1の作用効果を説明する。
装置1は、ブレーキペダル2の操作量に応じてアクチュエータ(電動モータ11)を駆動してアシスト部材13(ブースタピストン102)を推進し、マスタシリンダ10に液圧Pを発生させて車両を制動するブレーキ装置であって、イグニッションがオフの状態でも、ブレーキペダル2が操作された場合は、装置1を起動してブースタピストン102の作動による液圧Pをマスタシリンダ10に発生させることで、車両を制動させることができる。本実施例1では、ブレーキペダル2の操作の有無を検出するブレーキスイッチ5により操作有りと検出されたときに、コントローラ4が制御可能な状態になる。よって、運転者の制動意図を直接的に検出することで、より確実かつ迅速に制動力を発生させることができる。また、従来から備えられているセンサを用いることで、センサの追加等が必要なく、簡便な構成とすることができる。なお、ブレーキスイッチ5以外のセンサからの信号により、ブレーキペダル2の操作の有無を検出したり、運転者の制動意図を検出してコントローラ4を制御可能な状態にすることとしてもよい。
【0057】
ここで、上記のようにブレーキ操作により装置1を起動させる場合、既にブレーキペダル2(ないし入力部材15。以下同様。)が操作されているため、ブレーキペダル2の操作量を検出する際の正確な制御原点S*を設定することが困難である。すなわち、ブレーキペダル2が操作されていなければ、例えば制御原点S*を学習して補正することが可能であるが、上記のような場合、既にブレーキペダル2が操作されているため、学習はできない。よって、装置1の起動前から仮の制御原点(初期原点Ss)を記憶しておき、この初期原点Ssを基準に上記操作量を検出して電動モータ11を制御することとしている。
【0058】
ここで、本実施例1では、初期原点Ssを、余裕分αをもった大きな値に設定する。具体的には、初期原点Ssは、装置1が車両に搭載されたときに記憶されていた値Ss0よりも大きな値に設定される。よって、車両搭載後にストロークセンサ17の出力を変動させるおそれがある要因の影響を抑制し、より確実に制動力を発生させることができる。なお、制御原点の学習を行うこととした場合、初期原点Ssは、前回のシステムオン時に学習され記憶された制御原点よりも(例えば所定幅αだけ)大きな値に設定されることとしてもよい。この場合も、システムオフ時(電源遮断中)にストロークセンサ17の出力を変動させるおそれがある要因の影響を抑制することができる。
【0059】
ここで、上記要因による影響を抑制するため、初期原点Ssを、記憶値Ss0よりも小さな(戻り側の)値に設定することも考えられる。しかし、この場合、ブレーキスイッチ5のオンによる起動後、(記憶値Ss0よりも進み側に検出される)ストロークセンサ17の検出値に応じてブースタピストン102の位置を制御すると、ブースタピストン102が入力部材15に対する中立位置よりも進み側に制御されてしまう。よって、入力ロッド151のストッパ部153がケース12の第2ストッパ部122に当接してx軸負方向側への移動が制限されるまで入力部材15が戻ったような場合でも、ブースタピストン102がその限界位置Sb0にまで戻ることができないおそれが生じる。これに対し、本実施例1のように、初期原点Ssを、記憶値Ss0よりも大きな(進み側の)値に設定することで、上記おそれを回避することができる。
【0060】
この場合、大きな(進み側の)制御原点S*を基準としてブレーキペダル2の操作量が検出されると、ブレーキペダル2の無効ストロークが大きくなり、ブレーキペダル2の操作量に対して発生できる液圧が少なくなってしまうという問題がある。すなわち、制御原点S*が通常時の制御原点(待機位置Sit)と一致しておらず、これよりも進み側(x軸正方向側)に設定されたとき、この制御原点S*を基準として検出される値Sがゼロとなるように電動モータ11(スライド軸115)を制御すれば、ブースタピストン102が通常の待機位置Sbtよりも更に進み側(x軸正方向側)にズレた位置に待機する(すなわち戻りきらない)ことになる。これにより、例えばブレーキペダル2が踏まれていないときであっても、マスタシリンダ10の液圧が発生し、意図しない制動力(ブレーキパッドがディスクに当接した状態、所謂引き摺り)が発生するおそれがある。従来の技術は、このような課題について全く着目していなかった。
【0061】
これに対し、本実施例1では、装置1の起動後、ブレーキペダル2の操作量が初期原点Ssを越えて小さくなる(x軸負方向に後退する)と、そのときの操作量を制御原点S*として更新することとした。具体的には、ブレーキペダル2の踏み戻しに応じて、初期原点Ss(又は前回更新した制御原点S*)を基準として検出されたストロークセンサ17の検出値Sが、上記初期原点Ss(又は前回更新した制御原点S*)すなわちゼロよりも小さくになると、そのときの検出値Sを新たな制御原点S*(ゼロ点)として設定し、以後、その制御原点S*を基準としてストロークセンサ17による検出を行う。よって、学習が不可能であり正確な制御原点S*を設定することが困難な上記場合であっても、大きめの初期原点Ssを設定することでより確実に制動力を発生させつつ、初期原点Ssをより実際の値に近い制御原点S*に補正(更新)することができる。この補正(更新)後の制御原点S*を基準としてブレーキペダル2の操作量を検出し、これに基づきブースタピストン102の位置を制御することで、上記意図しない制動力の発生、所謂引き摺りの発生を抑制することができる。
【0062】
本実施例1では、ストロークセンサ17の制御原点S*の学習が可能になると(具体的にはブレーキペダル2が非制動位置に戻る等の学習条件が成立すると)、制御原点S*を学習し、この学習値に基づき制御原点S*を補正することとした。よって、ブレーキペダル2が戻された後には、制御原点S*をより正確に設定し、装置1によるブレーキ制御をより正確なものとすることができる。ここで本実施例1では、制御原点S*の更新を初回の学習が行われるまで行う。よって、学習前であっても制御原点S*を実際に近い値に補正して上記効果を得ることができるだけでなく、上記補正を学習と併せて切れ目なく行うことで、制御をより正確なものとすることができる。なお、学習処理を行わないこととしてもよく、この場合でも、少なくともブレーキペダル2が戻されるまでは、上記のように意図しない制動力の発生を抑制することができるという効果を得ることができる。
【0063】
装置1は、制御可能な状態になったときのストロークセンサ17の検出値Sが初期原点Ss(ゼロ)以下である場合は、ブースタピストン102を進めないように電動モータ11を制御する。すなわち、この場合は、初期原点Ssが過大な値に設定されていることが明らかであるため、この初期原点Ssを用いた検出値Sに基づくブレーキ制御を行わず、制御原点S*の更新(補正)を優先して実行する。これにより、意図しない制動力の発生をより確実に抑制することができる。また、装置1は、制御可能な状態になったときの検出値Sが初期原点Ssよりも大きい場合は、ブースタピストン102を検出値Sと同じ分だけ進めるように電動モータ11を制御する。これにより、ブレーキ操作によるシステム起動後の液圧制御の確実性を向上できる。また、倍力比を一定とし、倍力比を大きくする進め制御や倍力比を小さくする遅れ制御を行わないため、制動力をより確実に発生させつつ、意図しない制動力の発生をより確実に抑制することができる。
【0064】
[実施例1の効果]
以下、実施例1の装置1が奏する効果を列挙する。
(1)ブレーキ液圧Pを発生するマスタシリンダ10と、ブレーキペダル2の操作により進退移動する入力部材15と、入力部材15の操作ストローク(x軸方向位置Si)を検出するストローク検出手段(ストロークセンサ17)と、入力部材15に対して相対移動可能に配置されたアシスト部材(ブースタピストン102)と、アシスト部材にアシスト推力を加えることによりアシスト部材を進退移動させてマスタシリンダ10内でブレーキ液圧Pを発生させるアクチュエータ(電動モータ11)と、所定のシステムオン条件で制御可能な状態になると共に、ストローク検出手段の検出結果に基づいてアクチュエータを制御するコントローラ4と、を備え、コントローラ4は、制御可能な状態になったときに、記憶された初期原点Ssをストローク検出手段の制御原点S*として設定して、ストローク検出手段の検出値Sに基づいてアクチュエータを制御し、入力部材15が制御原点S*を越えて後退するごとに、そのときの入力部材15の位置(ストローク検出手段の検出値S)をストローク検出手段の制御原点S*(ゼロ点)として更新する。
よって、意図しない制動力の発生を抑制することができる。
【0065】
(2)コントローラ4は、ブレーキペダル2の操作の有無を検出するペダルスイッチ(ブレーキスイッチ5)が接続され、ペダルスイッチにより前記操作有りと検出されたときに制御可能な状態になる。
よって、より確実に制動力を発生させることができる。
【0066】
(3)コントローラ4は、ブレーキペダル2が非制動位置に戻るとストローク検出手段の制御原点S*を学習し、制御原点S*の更新を初回の学習が行われるまで行う。
よって、ブレーキ制御をより正確なものとすることができる。
【0067】
(4)初期原点Ssは、前回のシステムオン時に学習され記憶された制御原点S*よりも大きな値に設定されることとしてもよい。
この場合、システムオフ時にストローク検出手段(ストロークセンサ17)の出力を変動させる要因の影響を抑制することができる。
【0068】
(5)初期原点Ssは、車両搭載時に記憶されていた値よりも大きな値に設定される。
よって、車両搭載後にストローク検出手段(ストロークセンサ17)の出力を変動させる要因の影響を抑制することができる。
【0069】
(6)コントローラ4は、制御可能な状態になったときのストローク検出手段の検出値Sが初期原点Ss以下である場合は、アシスト部材を進めないようにアクチュエータを制御する。
よって、意図しない制動力の発生をより確実に抑制することができる。
【0070】
(7)コントローラ4は、制御可能な状態になったときのストローク検出手段の検出値Sが初期原点Ssよりも大きい場合は、アシスト部材を検出値Sと同じ分だけ進めるようにアクチュエータを制御する。
よって、システム起動後に制動力を発生させつつ、意図しない制動力の発生をより確実に抑制することができる。
【0071】
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
2 ブレーキペダル
4 コントローラ
5 ブレーキスイッチ(ペダルスイッチ)
10 マスタシリンダ
11 電動モータ(アクチュエータ)
15 入力部材
17 ストロークセンサ(ストローク検出手段)
102 ブースタピストン(アシスト部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材と、
該入力部材の操作ストロークを検出するストローク検出手段と、
前記入力部材に対して相対移動可能に配置されたアシスト部材と、
該アシスト部材にアシスト推力を加えることにより前記アシスト部材を進退移動させて前記マスタシリンダ内でブレーキ液圧を発生させるアクチュエータと、
所定のシステムオン条件で制御可能な状態になると共に、前記ストローク検出手段の検出結果に基づいて前記アクチュエータを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
制御可能な状態になったときに、
記憶された初期原点を前記ストローク検出手段の制御原点として設定して、前記ストローク検出手段の検出値に基づいて前記アクチュエータを制御し、
前記入力部材が前記制御原点を越えて後退するごとに、そのときの前記入力部材の位置を前記ストローク検出手段の制御原点として更新する
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記ブレーキペダルの操作の有無を検出するペダルスイッチが接続され、
該ペダルスイッチにより前記操作有りと検出されたときに前記制御可能な状態になる
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記ブレーキペダルが非制動位置に戻ると前記ストローク検出手段の前記制御原点を学習し、
前記制御原点の更新を初回の前記学習が行われるまで行う
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のブレーキ装置において、
前記初期原点は、前回のシステムオン時に学習され記憶された前記制御原点よりも大きな値に設定される
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のブレーキ装置において、
前記初期原点は、車両搭載時に記憶されていた値よりも大きな値に設定される
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のブレーキ装置において、
前記コントローラは、制御可能な状態になったときの前記ストローク検出手段の検出値が前記初期原点以下である場合は、前記アシスト部材を進めないように前記アクチュエータを制御する
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のブレーキ装置において、
前記コントローラは、制御可能な状態になったときの前記ストローク検出手段の検出値が前記初期原点よりも大きい場合は、前記アシスト部材を前記検出値と同じ分だけ進めるように前記アクチュエータを制御する
ことを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−96617(P2012−96617A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244510(P2010−244510)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】