説明

ブレーキ診断装置

【課題】 従来は、保守員の点検作業後、次回の点検予定日以前でも異常を検出した時点で発報する。
【解決手段】 この発明に係るブレーキ診断装置は、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーの上部および励磁コイルカバーの上部に設けられ、励磁コイルの励磁制御によるプランジャーの上下運動のストロークを回転運動の回転量に変換する運動変換手段と、運動変換手段に変換された回転運動の回転量を検出し、検出した回転量に基づいて、エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する診断手段と、診断手段がエレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態に異常があることを診断したとき、所定の連絡先に保守点検の要請を発報する発報手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータのブレーキ診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータのブレーキ診断装置は、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーを手動回転させる機構を備え、そのプランジャーを回転させた時の回転トルクを保守員がトルクレンチで計測し、その結果からプランジャーストロークの異常を判断することでブレーキ状態の診断を行っていた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−265161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のブレーキ診断装置では、保守員がエレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャー点検作業では、保守員が現地で点検するため、前回の点検日以降にプランジャーストロークに異常が発生していても、次回の点検日までエレベータ巻上機の電磁ブレーキ異常を検知することができず、電磁ブレーキが異常状態のままエレベータを走行させ続けてしまうという問題があった。
【0005】
また、従来のブレーキ診断装置は、既設のエレベータ巻上機の電磁ブレーキへ導入しようとすると、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーを手動回転させる機構を設ける加工が必要となり、ブレーキ診断装置を後付けすることが困難であった。
【0006】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーストロークの異常の発生を常時診断できるブレーキ診断装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、既設のエレベータ巻上機の電磁ブレーキにも容易に後付けできるブレーキ診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るブレーキ診断装置は、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーの上部および励磁コイルカバーの上部に設けられ、励磁コイルの励磁制御による前記プランジャーの上下運動のストロークを回転運動の回転量に変換する運動変換手段と、前記運動変換手段に変換された回転運動の回転量を検出し、検出した回転量に基づいて、前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する診断手段と、前記診断手段が前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態に異常があることを診断したとき、所定の連絡先に保守点検の要請を発報する発報手段とを備えた。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係るブレーキ診断装置によれば、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーストロークの異常の発生を常時診断できるブレーキ診断装置を提供することができる。また、診断結果の通知により、異常があれば次の定期点検を待たずに即時対応できるようになる。
【0010】
また、既設のエレベータ巻上機の電磁ブレーキにも容易に後付けできるブレーキ診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の一例を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の電磁ブレーキの一例を示す構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の励磁コイルの励磁とプランジャーの上下動作の一例を示す関係図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の芯と突起を設けたプランジャーの一構成例を示す拡大図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の切欠きを設けた回転力付勢器の一構成例を示す拡大図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置のプランジャーの突起が回転力付勢器の切欠きに契合して生まれる回転動作の一例を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の診断手段に撮像手段を設けた構成の一例を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の画像処理による回転角検出の説明図(変形例1)である。
【図9】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の画像処理による回転角検出の説明図(変形例2)である。
【図10】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の芯と突起を設けたプランジャーの一変形例を示す拡大図である。
【図11】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の芯と突起を設けたプランジャーの一変形例を示す拡大図である。
【図12】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の芯に切欠きを設けたプランジャーの一変形例を示す拡大図である。
【図13】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の突起を設けた回転力付勢器の一変形例を示す拡大図である。
【図14】この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置のプランジャーの切欠きが回転力付勢器の突起に契合して生まれる回転動作の一例を示す説明図である。
【図15】この発明の実施の形態2に係るブレーキ診断装置の診断手段に回転量検出手段を設けた構成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明に係るブレーキ診断装置は、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーストロークの異常を診断して、保守員が現地に不在のときでも、保守センターまたは保守員へ診断結果を通知するものである。
【0013】
以下、この発明に係るブレーキ診断装置の実施の形態(実施例)について、図を用いて説明する。
【0014】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1では、電磁ブレーキのプランジャーの上下運動を芯の円運動に変換し、上下運動のストロークをストロークに比例する円運動の回転量に置き換えて、診断手段106に撮像手段61を導入し、撮像された診断画像の画像処理から検出された回転量に異常があれば発報するブレーキ診断装置について説明する。
【0015】
図1は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の一例を示すブロック図である。図において、電磁ブレーキ10は、ブレーキホイール101、ブレーキホイール回転抑制手段102、励磁手段103、プランジャー104、運動変換手段105、診断手段106から構成される。ブレーキホイール101は、エレベータ巻上機(モータ)11に接続され、回転することでエレベータのかご12を運行させる。ブレーキホイール回転抑制手段102は、ブレーキホイール101の回転を抑制することで停止させる。励磁手段(励磁コイル)103は、通電量によって励磁力が制御される。プランジャー104は、励磁手段103の励磁力によって上下に運動し、ブレーキホイール回転抑制手段102の回転抑制力を制御する。運動変換手段105は、プランジャー104の上下運動をその上下運動量(ストローク)に関係した回転運動量(回転角)に変換する。診断手段106は、運動変換手段105に変換された回転運動量に基づいて、エレベータ停止時のブレーキの異常の有無を診断する。発報手段107は、診断手段106がブレーキに異常があることを診断すると、保守要請の発報をエレベータの所定の連絡先(保守センターや保守員)に向けて行う。なお、診断結果は、異常があるときだけでなく、異常がなくても発報手段107から定期的に所定の連絡先に報告するように設定しても構わない。
【0016】
図2は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の電磁ブレーキの一例を示す構成図である。このブレーキ診断装置の電磁ブレーキを正面から見た構成図に基づいて構成を説明する。ここでは、図1に示した診断手段106、発報手段107の図示は省略している。図において、ブレーキホイール21は、エレベータ巻上機(モータ。図示せず)に接続されて回転する。ブレーキホイール21の両側には、押しバネ22によってブレーキホイール21に向かって付勢されるブレーキアーム23と、ブレーキアーム23に取付けられた摩擦材24がある。ブレーキアーム23には、ボルト25が取付けられ、ボルト25はブレーキレバー26に向かって付勢され、ブレーキレバー26はプランジャー27の下面に向かって付勢される。プランジャー27は、励磁コイル28の励磁によって上下に動作する。プランジャー27および励磁コイルカバー29の上部に設けた運動変換手段30の詳細は後述する。
【0017】
なお、ブレーキホイール21、プランジャー27、励磁コイル28は、図1におけるブレーキホイール101、プランジャー104、励磁手段(励磁コイル)103に対応する。また、押しバネ22、ブレーキアーム23、摩擦材24、ボルト25、ブレーキレバー26が、図1におけるブレーキホイール回転抑制手段102を構成する。
【0018】
電磁ブレーキの基本動作について、図2を用いて説明する。図において、電磁ブレーキを制動するときは、励磁コイル28を励磁していない状態にすることで、押しバネ22の付勢力によってブレーキアーム23が摩擦材24をブレーキホイール21に押し付け、ブレーキホイール21が回転できなくなる。同時に、プランジャー27は、押しバネ22の付勢力によってボルト25からブレーキレバー26を介して付勢され、位置を保っている。
【0019】
一方、電磁ブレーキを開放するときは、励磁コイル28を励磁した状態にすることで、プランジャー27が下方に吸引され、プランジャー27の下端に接するブレーキレバー26の一端を押し下げ、他端に接するボルト25を介してブレーキアーム23がブレーキホイール21から離れる方向に付勢され、ブレーキホイール21への摩擦材24の押し付けが緩み、ブレーキホイール21が回転できるようにする。
【0020】
図3は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の励磁コイルの励磁とプランジャーの上下動作の一例を示す関係図である。図において、左図は、励磁コイル28が励磁していない状態を示している。プランジャー27は、励磁コイル28が励磁する開始前および終了後には、図示した位置にある。一方、右図は、励磁コイル6が励磁中の状態を示している。プランジャー27は、励磁コイル28が励磁することで、下方に吸引され、この時のプランジャー27の移動量がストローク41となる。
【0021】
次に、プランジャー27および励磁コイルカバー29の上部に設けられ、プランジャー27の上下運動の移動量(ストローク)をその移動量に関係した回転運動量(回転角)に変換する運動変換手段30の構成について、図4および図5を用いて説明する。
【0022】
図4は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の芯と突起を設けたプランジャーの一構成例を示す拡大図である。図において、芯31は、円柱状の部材でプランジャー27の中心の延長上に設けられる。また、突起32は、芯31がプランジャー27の直径に比べて細いため、棒状の部材で芯31の中心を貫通させ、左右均等の長さで2点設けている。なお、ここで挙げた構成は一例であって、突起32は芯31を貫通させずに、突起32ごとに芯31の外から開けた穴に部材(例えばネジ)を挿入する形態や、突起32となる部材を芯31に接着する形態、突起と芯を一体成型する形態でも構わない。また、ブレーキ診断装置を後付けするのではなく、エレベータの新設と同時に導入することができる場合は、予め芯31をプランジャー27と一体成型して構わない。なお、芯31、突起32は、均等な太さ、断面を保った部材に限らない。
【0023】
図5は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の切欠きを設けた回転力付勢器の一構成例を示す拡大図である。図において、回転力付勢器33は、円筒状の部材でプランジャー27の上部に設けた2つの突起を契合させる切欠き34を設けている。なお、ここで挙げた構成は一例であって、回転力付勢器33は切欠き34を設ける内側は、プランジャーの突起を契合させて回転運動に変換するため、円柱状の空間とするが、外側の形状は円でなくてもよく、すなわち図5のような円筒状の回転力付勢器33の形態でなくても構わない。
【0024】
このように、運動変換手段30は、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャー27上部に設けられた芯31と、励磁コイルカバー29の上部に芯31を囲むように設けられた回転力付勢器33と、芯31から外向きに設けられた突起32と、回転力付勢器33の内側に設けられた突起32を契合させる切欠き34とを含む構成とされる。
【0025】
ここで、回転力付勢器33の内側に設ける切欠き34は、プランジャー27の上下運動の方向に対して傾斜させることで、上下運動を回転運動に変換する効果を得る。プランジャー27の上下運動の方向と平行でない、回転力付勢器33の内面に沿った、例えば図5のような見た目が直線に近い斜めの切欠きでも、また螺旋状の切欠きでも構わない。切欠きの傾斜の設け方により、プランジャー27の上下運動のストロークに伴う回転運動の回転角、また回転方向(右回りまたは左回り)が定義される。
【0026】
図6は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置のプランジャーの突起が回転力付勢器の切欠きに契合して生まれる回転動作の一例を示す説明図である。ここでは、図4の芯31、突起32を設けたプランジャー27および図4の切欠き34を設けた回転力付勢器33を突起32が切欠き34に契合するように組み合わせて運用したときの状態を真上から見た説明図に基づいて回転動作を説明する。図4に示される回転力付勢器33上面の切欠き34の入り口およびプランジャー27の本体は図示していない。
【0027】
図において、プランジャー27の上下運動に伴い、回転力付勢器33の切欠きに契合して回転した突起32の位置を示す目盛りを回転力付勢器33の上部円周上に描いている。例えば、上面から見た図で、プランジャー27が励磁状態にない場合で、突起32が水平な状態が正常な状態とする。このときの突起32の位置を目盛り51で示す。この突起32の位置をエレベータ保守直後の位置とすれば、エレベータ保守後の運用に伴うブレーキの状態変化を、突起32の位置、すなわちプランジャー27のストロークの変化で診断する。例えば、左図のように、回転した突起32の位置が目盛り52の境界を越えない正常範囲にあるときを正常状態、右図のように、さらに大きく回転し、目盛り52の境界を越えた異常範囲(非正常範囲)に入ったときを異常状態(非正常状態)と診断する。
【0028】
なお、正常範囲を示す目盛り51と目盛り52の間を、さらに細かく分けた補助目盛り53を設けておいてもよい。また、この補助目盛り53と同様に、正常範囲から異常範囲(非正常範囲)に入った部分についても、補助目盛り(図示せず)を適宜設けてもよい。さらに、突起32自体を色付け、正常範囲と異常範囲(非正常範囲)における異なる色分け、目盛りの太さなどを工夫して視認性を向上させてもよい。
【0029】
図7は、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置の診断手段に撮像手段を設けた構成の一例を示す説明図である。ここでは、図2に示したブレーキホイール21からブレーキレバー26までの構成要素の図示は省略している。
【0030】
図において、撮像手段(カメラ)61は、プランジャー27の突起32が回転力付勢器33の切欠きに契合するように組み合わせて運用しているときの状況を図6のように上方(真上)から診断画像として撮像する。画像記録手段62は、保守員によって十分なエレベータ保守が実施された状態におけるプランジャー27の突起32の位置を撮像手段61で撮像した診断画像を基準画像として保存する。画像処理手段63は、撮像手段61が撮像した診断画像と画像記録手段62が保存する基準画像とから画像処理によりプランジャーの突起の位置(回転量)を測定する。状態判断手段64は、画像処理手段63が測定した回転量が基準値の範囲でない場合に異常状態(非正常状態)と診断し、発報手段107に発報するように命令を出す。発報手段107は、状態判断手段64から発報するように命令されると、図示しない通信手段を介して、監視センターまたは保守員に発報する。
【0031】
なお、撮像手段61は、プランジャー27を励磁させる励磁コイル28やエレベータ巻上機(図示せず)を動作させる制御信号値の変化を契機にして、プランジャー27の突起32に回転力が付勢するときのみ撮像するようにしてもよい。
【0032】
また、画像記録手段62は、基準画像のみを保存するのではなく、常時、診断画像を含めて記録してもよく、また、記録容量の制限もあるので、所定の時間が経過した診断画像、あるいは異常(非正常)が検出されなかった診断画像は消去するようにしてもよい。定期保守や異常状態(非正常状態)検出時の保守対応後の基準値の再設定時に、他の記録された診断画像を消去してもよい。また、診断画像は、保守現場で保守員が手動で消去してもよいし、保守センターから遠隔操作により消去してもよく、さらに消去前に他の記録手段へバックアップを取るようにしてもよい。
【0033】
また、画像処理手段63は、診断画像と基準画像の差分画像から突起32の位置(回転量)を測定して診断させてもよいし、各画像に突起32とともに撮像された目盛りから突起の位置(回転量)をそれぞれ読み取り、その回転量の差分で診断させてもよい。
【0034】
また、状態判断手段64は、画像処理手段63が測定した回転量が基準値の範囲でない場合に異常状態(非正常状態)と診断するが、さらに第2の基準値を設けておき、第2の基準値を超える異常状態(非正常状態)であれば、エレベータの運行を即時停止させて安全を確保するようにしてもよい。
【0035】
また、発報手段107は、監視センターへの発報に有線通信または無線通信のいずれを利用してもよい。また、保守員への発報には、保守車両や保守端末に無線通信を利用しても構わない。発報内容には、検出した角度やその評価状況、また撮像した画像を含めてもよい。
【0036】
また、これまで、画像処理手段63がプランジャー27の回転量を画像処理して解析する際に、突起32の回転角として得るものとして説明したが、変形例1として、プランジャー27に設けた芯31の上面の円を直径で2つの半円に分けて異なる色付けを行うことで、回転量(回転角)を画像処理により解析するものを説明する。芯31が細くて、上面の円が小さい場合は、別の円盤の部材を取り付けてもよい。例えば、画像処理手段63は、図8に示すように、保守直後に撮像した基準画像(左図)と運用中に撮像した診断画像(中央図)との差分画像(右図)を回転に伴う2つの扇形として抽出し、この扇形を形成する2つの半径のなす角度を回転角として計測し、状態判断手段64は、回転角が基準値の範囲にない場合に異常状態(非正常状態)と診断することができる。あるいは、回転角に代えて、回転角に比例する扇形の面積を測定し、扇形の面積が基準値の範囲にない場合に異常状態(非正常状態)と診断してもよい。この扇形の面積は、扇形内部に含まれる画素数と考えてもよく、扇形内部に含まれる画素数が基準値の範囲にない場合に異常状態(非正常状態)と診断してもよい。また、基準画像と診断画像との差分画像は、動きのない差分零の背景領域と、動きのあった差分非零の扇形領域に分布する。よって、扇形の形状まで厳密に認識しなくても、面積に比例する差分非零をとる画素数を計数して、差分非零をとる画素数が基準値の範囲にない場合に異常状態(非正常状態)と診断することもできる。このとき、差分画像の画素の絶対値を所定の閾値で二値化してから差分非零の画素を計数してもよいし、二値化せず、差分絶対値が所定の閾値以上となる画素を差分非零の画素数として計数しても構わない。なお、円の色付けは、直径に限らず、2つの半径により2つの扇形領域に分割してもよく、また2色に限らず、より多くの領域、例えば3つ以上の扇形に分割して、偶数領域に分割した2色交互の色付けを含め、2色以上で色付けても構わない。
【0037】
また、変形例2として、例えば、プランジャー27に設けた芯31の上面の円の色付けを回転角が正常範囲を示す扇形領域(面積S=1とする)に行い、画像処理手段63は、図9に示すように、基準画像(左図)と診断画像から1つまたは2つの扇形が抽出された差分画像(中央図および右図)を得ることで、差分画像の扇形の合計面積が回転していない状態の面積S=0から破線で示した異常状態(非正常状態)と判断する境界を越えていない面積S=2未満までの状態を正常状態、面積S=2以上となる状態を異常状態(非正常状態)と状態判断手段64は診断してもよい。ここでも、差分画像の扇形の合計面積に代えて、差分非零の画素数で診断しても構わない。
【0038】
このような基準画像と診断画像から抽出した扇形の差分画像に基づく診断では、図6で説明した目盛り51、52、補助目盛り53は必ずしも設けなくてよいが、保守員が現場で直接目視する場合や、監視センターから画像を遠隔確認する場合には、エレベータのブレーキが正常状態か、異常状態(非正常状態)かを診断する有効な指標となる。
【0039】
さらに、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置において、プランジャー27の突起32を回転力付勢器33の切欠き34に契合させることで、直線運動を回転運動に変換させる運動変換手段30の構成として、次のような形態(変形例)を採用してもよい。
【0040】
すなわち、プランジャー7の上下運動の妨げにならなければ、例えば、図10のように、芯31をプランジャー27より太くしてもよい。このとき、芯31の上面に突起32と芯31の中心を結ぶ半径または直径に相当する線を描いて突起32相当の視認性を向上させてもよい。また、通常同数設けられる突起32の数および切欠き34の数は、必ずしも2点でなくてもよく、1点以上で実現しても構わない。
【0041】
また、突起32を切欠き34に契合させられるならば、図11のように、突起32および芯31をプランジャー27の中心線(軸)の延長線上から外れた箇所に設けてもよい。また、このような形態の突起32および芯31をプランジャー27に複数設けてもよい。
【0042】
また、図4では左右の突起32を同じ高さに設けることで、図5のように2つの切欠き34、例えば2本の直線状または二重螺旋状の切欠きを必要とするが、切欠き34に合わせて突起32を異なる高さ、位置に配置することで、突起32の数より少ない切欠き34の数で構成することもできる。
【0043】
さらに、これまでプランジャー27上部の芯31に突起32を設け、回転力付勢器33に切欠き34を設けた形態の運動変換手段30を採用したブレーキ診断装置を説明してきたが、例えば、図12のように、プランジャー27上部の芯31に切欠き35を設け、図13のように、回転力付勢器33の内側にプランジャー27上部の芯31に設けた切欠き35に契合させる内向きの突起36を設けた形態の運動変換手段30を採用したブレーキ診断装置としてもよい。この場合、回転力付勢器33の内側に設けた突起36は回転しないので、図14のように、回転するプランジャー27上部の芯31の上面に、図6の目盛り51、52、補助目盛り53に相当する目盛り54、55、補助目盛り56を設けて回転角を診断してもよい。また、図8、図9で説明したようなプランジャー27上部の芯31の上面を色付けて回転角を検出しても構わない。
【0044】
この場合には、運動変換手段30は、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャー27の上部に設けられた芯31と、励磁コイルカバー29の上部に芯31を囲むように設けられた回転力付勢器33と、回転力付勢器33の内側に設けられた突起36と、芯31の外周に設けられた突起36を契合させる切欠き35とを含む構成とされる。
【0045】
このように、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置によれば、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーの上部および励磁コイルカバーの上部に設けられ、励磁コイルの励磁制御によるプランジャーの上下運動のストロークを回転運動の回転量に変換する運動変換手段と、運動変換手段に変換された回転運動の回転量を検出し、検出した回転量に基づいて、エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する診断手段と、診断手段がエレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態に異常があることを診断したとき、所定の連絡先に保守点検の要請を発報する発報手段とを備え、さらに、診断手段は、運動変換手段が変換する回転運動を上方から撮像する撮像手段と、エレベータ巻上機の電磁ブレーキの保守後に撮像手段が撮像した基準画像を記録する画像記録手段と、画像記録手段が記録した基準画像とエレベータの運用中に撮像手段が撮像した診断画像とに基づいて、画像処理して回転量を検出する画像処理手段と、画像処理手段が検出した回転量に基づいて、エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する状態判断手段とを含むようにしたので、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーストロークの異常の発生を常時診断できるブレーキ診断装置を提供することができる。
【0046】
また、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置によれば、既設のエレベータ巻上機の電磁ブレーキにも容易に後付けしやすいブレーキ診断装置を提供することができる。
【0047】
実施の形態2.
先に説明したこの発明の実施形態1では、電磁ブレーキのプランジャーの上下運動を芯の円運動に変換し、上下運動のストロークをストロークに比例する円運動の回転量に置き換えて、診断手段に撮像手段を導入し、撮像された診断画像の画像処理から検出された回転量に異常があれば発報するブレーキ診断装置について説明したが、この発明の実施の形態2では、診断手段に回転量検出手段(例えば、ロータリーエンコーダ)を導入し、検出された電流あるいは電圧の測定値に基づく回転量に異常があれば発報する場合について説明する。
【0048】
図15は、回転力付勢器33の上部に回転量検出手段71を設けた図である。ここでは、図2に示したブレーキホイール21からブレーキレバー26までの構成要素の図示は省略している。
【0049】
図において、回転量検出手段71(ロータリーエンコーダ)は、プランジャー27および励磁コイルカバー29の上部に設けられた運動変換手段30が変換した回転量の大きさを回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値として検出する。測定値記憶手段72は、回転量検出手段71が検出した保守直後の正常状態時の回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値を基準値として記憶する。状態判断手段73は、エレベータ運行中に回転量検出手段71が検出した回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値と測定値記憶手段72が記憶した基準値とを比較して、その差分が所定値以上である場合に異常(非正常)と判断し、発報手段107に発報するように命令を出す。発報手段107は、状態判断手段64から発報するように命令されると、図示しない通信手段を介して、監視センターまたは保守員に発報する。
【0050】
回転量検出手段71は、運動変換手段30の上部に設けられ、延長したプランジャー27の芯31に接続されて、その回転量に比例した電流あるいは電圧の測定値として、芯31の回転角の大きさを検出する。
【0051】
測定値記憶手段72は、保守直後の正常状態時の回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値である基準値のみを保存するのではなく、常時、診断した回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値を含めて記録してもよく、また、記録容量の制限もあるので、所定の時間が経過済みの記録された回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値、あるいは異常(非正常)が検出されなかった回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値は記録せず消去するようにしてもよい。定期保守や異常状態(非正常状態)検出時の保守対応後の基準値の再設定時に、他の記録された記録された回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値を消去してもよい。また、記録された回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値は、保守現場で保守員が手動で消去してもよいし、保守センターから遠隔操作により消去してもよく、さらに消去前に他の記録手段へバックアップを取るようにしてもよい。
【0052】
また、状態判断手段73は、回転量検出手段71が検出した電流あるいは電圧の測定値と測定値記憶手段72が記憶した基準値とを比較して、その差分が所定値以上である場合に異常状態(非正常状態)と診断するが、さらに第2の所定値を設けておき、第2の所定値を超える異常状態(非正常状態)であれば、エレベータの運行を即時停止させて安全を確保するようにしてもよい。
【0053】
なお、測定値記憶手段72は、電流あるいは電圧の大きさから回転量(回転角)を参照するテーブルを保持して、回転量に変換して記憶するようにしてもよく、状態判断手段73は、測定値記憶手段72に記憶された回転量と回転量検出手段71が検出した電流あるいは電圧の大きさから変換された回転量との差分から異常状態(非正常状態)を診断してもよい。
【0054】
このように、この発明の実施の形態2に係るブレーキ診断装置によれば、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーの上部および励磁コイルカバーの上部に設けられ、励磁コイルの励磁制御によるプランジャーの上下運動のストロークを回転運動の回転量に変換する運動変換手段と、運動変換手段に変換された回転運動の回転量を検出し、検出した回転量に基づいて、エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する診断手段と、診断手段がエレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態に異常があることを診断したとき、所定の連絡先に保守点検の要請を発報する発報手段とを備え、さらに、診断手段は、運動変換手段が変換する回転運動の回転量の大きさを回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値として検出する回転量検出手段とエレベータ巻上機の電磁ブレーキの保守後に回転量検出手段が検出した電流あるいは電圧の測定値を基準値として記憶する測定値記憶手段と、測定値記憶手段が記録した基準値とエレベータの運用中に回転量検出手段が検出した電流あるいは電圧の測定値とに基づいて、エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する状態判断手段とを含むようにしたので、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーストロークの異常の発生を常時診断できるブレーキ診断装置を提供することができる。
【0055】
また、この発明の実施の形態2に係るブレーキ診断装置によれば、この発明の実施の形態1に係るブレーキ診断装置と同様に、既設のエレベータ巻上機の電磁ブレーキにも容易に後付けしやすいブレーキ診断装置を提供することができる。
【0056】
以上のように、この発明に係るブレーキ診断装置によれば、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーの上部および励磁コイルカバーの上部に設けられ、励磁コイルの励磁制御によるプランジャーの上下運動のストロークを回転運動の回転量に変換する運動変換手段と、運動変換手段に変換された回転運動の回転量を検出し、検出した回転量に基づいて、エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する診断手段と、診断手段がエレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態に異常があることを診断したとき、所定の連絡先に保守点検の要請を発報する発報手段とを備えるようにしたので、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーストロークの異常の発生を常時診断できるブレーキ診断装置を提供することができる。
【0057】
また、この発明に係るブレーキ診断装置によれば、既設のエレベータ巻上機の電磁ブレーキにも容易に後付けできるブレーキ診断装置を提供することができる。
【0058】
また、この発明に係るブレーキ診断装置によれば、診断結果の通知により、異常があれば、放置することなく、次の定期点検を待たずに即時保守対応できるようになり、エレベータの運行の安全性、保守作業の品質やサービスの向上が可能となる。また、このブレーキ診断装置を導入することで、エレベータの運行の安全性、保守作業の品質を維持したまま、保守員による定期点検の間隔を柔軟に調整することができるようになる。
【0059】
また、この発明に係るブレーキ診断装置によれば、エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーストロークの異常の発生状況を常時診断により事前に把握できるので、保守項目・工程の詳細な立案や絞り込みを行い、保守員による定期的な保守作業の時間短縮や効率化に効果が得られる。また、このブレーキ診断装置を導入することで、導入前と同数の保守人員で、エレベータの保守台数を増やすことができ、あるいはより少数の保守人員で、導入前と同数のエレベータの保守台数に対応することができるようになる。
【符号の説明】
【0060】
10 電磁ブレーキ、11 エレベータ巻上機(モータ)、12 エレベータ(かご)、21 ブレーキホイール、22 押しバネ、23 ブレーキアーム、24 摩擦材、25 ボルト、26 ブレーキレバー、27 プランジャー、28 励磁コイル、29 励磁コイルカバー、30 運動変換手段、31 芯、32、36 突起、33 回転力付勢器、34、35 切欠き、41 プランジャーストローク、51、52、54、55 目盛り、53、56 補助目盛り、61 撮像手段(カメラ)、62 画像記録手段、63 画像処理手段、64 状態判断手段、71 回転量検出手段(ロータリーエンコーダ)、72 回転量記憶手段、73 状態判断手段、101 ブレーキホイール、102 ブレーキホイール回転抑制手段、103 励磁手段、104 プランジャー、105 運動変換手段、106 診断手段、107 発報手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーの上部および励磁コイルカバーの上部に設けられ、励磁コイルの励磁制御による前記プランジャーの上下運動のストロークを回転運動の回転量に変換する運動変換手段と、
前記運動変換手段に変換された回転運動の回転量を検出し、検出した回転量に基づいて、前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する診断手段と、
前記診断手段が前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態に異常があることを診断したとき、所定の連絡先に保守点検の要請を発報する発報手段と
を備えたブレーキ診断装置。
【請求項2】
前記運動変換手段は、
前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャー上部に設けられた芯と、
前記励磁コイルカバーの上部に前記芯を囲むように設けられた回転力付勢器と、
前記芯から外向きに設けられた突起と、
前記回転力付勢器の内側に設けられた前記突起を契合させる切欠きと
を含むことを特徴とする請求項1記載のブレーキ診断装置。
【請求項3】
前記運動変換手段は、
前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキのプランジャーの上部に設けられた芯と、
前記励磁コイルカバーの上部に前記芯を囲むように設けられた回転力付勢器と、
前記回転力付勢器の内側に設けられた突起と、
前記芯の外周に設けられた前記突起を契合させる切欠きと
を含むことを特徴とする請求項1記載のブレーキ診断装置。
【請求項4】
前記診断手段は、
前記運動変換手段が変換する回転運動を上方から撮像する撮像手段と、
前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの保守後に前記撮像手段が撮像した基準画像を記録する画像記録手段と、
前記画像記録手段が記録した基準画像とエレベータの運用中に前記撮像手段が撮像した診断画像とに基づいて、画像処理して前記回転量を検出する画像処理手段と、
前記画像処理手段が検出した回転量に基づいて、前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する状態判断手段と
を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のブレーキ診断装置。
【請求項5】
前記撮像手段は、前記芯の上面に設けられた前記回転運動の回転軸を中心とし、2つの半径を境界として2色で色付けられた円を上方から撮像し、
前記画像処理手段は、前記基準画像と前記診断画像の差分画像に基づいて、前記回転量を検出する
ことを特徴とする請求項4記載のブレーキ診断装置。
【請求項6】
前記画像処理手段は、前記回転量に比例する前記差分画像の扇形領域の面積を検出し、
前記状態判断手段は、前記差分画像の扇形領域の面積に基づいて、前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する
ことを特徴とする請求項5記載のブレーキ診断装置。
【請求項7】
前記画像処理手段は、前記差分画像の扇形領域の面積を前記差分画像の扇形領域内の画素数として検出することを特徴とする請求項6記載のブレーキ診断装置。
【請求項8】
前記画像処理手段は、前記差分画像の扇形領域内の画素数を前記差分画像の非零画素数として検出することを特徴とする請求項7記載のブレーキ診断装置。
【請求項9】
前記発報手段は、前記診断手段が前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態に異常があることを診断したときの診断画像を発報時に添付することを特徴とする請求項4ないし請求項8のいずれかに記載のブレーキ診断装置。
【請求項10】
前記診断手段は、
前記運動変換手段が変換する回転運動の回転量の大きさを回転量に比例する電流あるいは電圧の測定値として検出する回転量検出手段と
前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの保守後に前記回転量検出手段が検出した電流あるいは電圧の測定値を基準値として記憶する測定値記憶手段と、
前記測定値記憶手段が記録した基準値とエレベータの運用中に前記回転量検出手段が検出した電流あるいは電圧の測定値とに基づいて、前記エレベータ巻上機の電磁ブレーキの状態を診断する状態判断手段と
を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のブレーキ診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−86930(P2013−86930A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229477(P2011−229477)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】