説明

プラスチック成形品及びその製造方法

【課題】高転写性・高強度・高耐熱性を有し、主材料がバイオマスを原料とするプラスチック材料であるプラスチック成形品を提供する。
【解決手段】プラスチック成形品1(OA機器の外装部品)は、バイオマスを原料とするプラスチック(ポリ乳酸)に、石油を原料とするプラスチック(ポリカーボネート)を添加しアロイ化したプラスチック材料により構成されている。この成形品は、上記アロイ化材料を成形装置の金型に射出充填して作製されるもので、表層部がスキン層4、中心部が空孔5aを含有するコア層5となっている。この空孔は発泡剤添加により形成されるが、空孔径は核剤の添加により小さいものに制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形品及びその製造方法に関し、より詳しくは 高転写性、高強度、高耐熱性を有する、バイオマスを原料とする樹脂を用いたプラスチック成形品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油を原料とするプラスチック材料を、バイオマスを原料とするプラスチック材料で代替することによって、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を削減することができ、地球温暖化を防止することがきる。また、枯渇資源である化石資源の省資源化にもつながる。このような理由から、植物由来樹脂、微生物由来樹脂などのバイオマスを原料とするプラスチック材料の研究が盛んに行われている。しかし、バイオマスを原料とするプラスチック材料は、剛性、耐熱性等の問題から、プラスチック製食器など、その利用範囲が限定されるものであり、特に家電製品やOA機器の外装部品など、強度や耐熱性が求められる用途への適用は難しかった。
【0003】
成形品の強度や耐熱性を向上させる技術としては、成形中または成形後の熱処理によってポリ乳酸を結晶化させることが検討されている。しかしながら、ポリ乳酸樹脂は結晶化速度が遅いため長い成形サイクル時間や成形後の熱処理を必要とすること、および成形時や熱処理時の変形が大きいことなど、実用上問題があった。
【0004】
そこで、成形品の強度や耐熱性を向上させるために、バイオマスを原料とするプラスチック材料に、石油を原料とするプラスチック材料を添加してアロイ化、ブレンドする方法や、フィラーを添加する方法などが検討されてきている。
【0005】
下記特許文献1では、バイオマスを原料とするプラスチック材料であるポリ乳酸樹脂中に、加重たわみ温度が120℃以上である熱可塑性樹脂のポリカーボネート樹脂や脂環式アモルファスポリオレフィン樹脂を分散させたアロイ樹脂を光ディスク基板に用いることにより、必要な透明性を維持しつつ耐熱性を向上させている。この植物由来原料のポリ乳酸樹脂を主成分とするアロイ樹脂を光ディスク基板へ用いることにより、信号を記録または再生するレーザ光に対して透明性を有し、しかもCDやDVDの規格に定められた耐熱性を有し、高温負荷試験後においてもディスクの変形が小さく、再生装置、或いは記録再生装置などのプレーヤで再生可能な、耐熱性の向上した光ディスクを得ることができるとしている。
【0006】
また、下記特許文献2では、結晶性ポリプロピレン樹脂と無機フィラーとを配合したポリ乳酸系樹脂を用いて、プラスチック成形品を得るようにしている。無機フィラーとしてはタルク、炭酸カルシウム、カーボンブラック、水酸化マグネシウム等の粒状フィラーや、チタン酸カリウム、モスハイジ等のウィスカー状フィラー、マイカ等の板状フィラー、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の繊維状フィラーを挙げているが、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、タルクおよび炭酸カルシウムであるとしている。フィラーは強度向上としてのみではなく、核剤としての働きもあり、結晶化を促進させる。これらの樹脂を用いることにより、強度および耐熱性に優れ、分散性が良好なプラスチック成形品を得ることができるとしている。
【0007】
更に、下記特許文献3では生分解性を有し、かつ、優れた耐衝撃性、耐熱性を有するプラスチック成形品を得るために、乳酸系樹脂と、乳酸系樹脂以外の脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、および、平均粒径が1〜5μmの無機フィラーをブレンドした樹脂を用いている。無機フィラーのとしては、タルク、マイカ、アルミナ、ガラス繊維、金属粉末などを挙げている。これらの樹脂を用いたプラスチック成形品は、耐衝撃性、耐熱性に優れているので、家電製品、自動車部品、その他の一般的な成形品として使用することができるとしている。
【0008】
しかし、上記の方法はプラスチック成形品の剛性、耐熱性を向上させるため、バイオマスを原料とするプラスチック材料に、石油を原料とするプラスチック材料を添加してアロイ化、ブレンドする方法や、フィラーを添加する方法であるため、これらの樹脂はアロイ化、ブレンドなどを行っていない純粋なバイオマスを原料とするプラスチック材料に比べて、粘度が高くなる。
【0009】
そのため、これらのプラスチック材料を用いて射出成形を行う場合、流動性が低下しているため、厚肉や偏肉の形状や、リブなどを有する複雑形状をしたプラスチック成形品を得ようとする場合に、ヒケという成形不良(金型のキャビティ形状を精確に転写できない)が発生してしまう欠点がある。以下に、成形不良が発生した場合の一例を挙げる。
【0010】
図8は、目的とする形状の成形品すなわち、リブ形状を有するOA機器の外装部品27の断面図である。これに対し図9は、実際に得られた成形品28の形状を示す断面図であって、成形加工で生じる従来技術の問題点を示すものである。図8、図9において符号2はリブ、符号3はゲート(に対応する部分)、符号4はスキン層である。
[成形原料:使用樹脂]
(1)バイオマスを原料とするプラスチック材料と、石油を原料とするプラスチック材料を、下記割合(重量%)で混合してアロイ化したものを用いた。
(2)バイオマスを原料とするプラスチック材料
・ポリ乳酸(ガラス転移点=60℃、融点=170℃、熱分解点=250℃)
・配合割合=50重量%
(3)石油を原料とするプラスチック材料
・ポリカーボネート(ガラス転移点=145℃、融点=250℃、熱分解点=400℃)
・配合割合=50重量%
[主な成形条件]
(1)成形法=射出成形法
(2)樹脂温度=220℃
(3)金型温度=130℃
(4)保圧圧力=100MPa
【0011】
上記成形品の作製では、ポリ乳酸とポリカーボネートをアロイ化した樹脂を用いているため樹脂温度を、ポリ乳酸の熱分解点である250℃以下の220℃に設定しなければならない。ポリカーボネートは非晶性樹脂のため、ガラス転移点以上であれば軟化するため流動可能ではあるが、粘度が非常に高い。その結果、金型内への樹脂充填中に冷却が進行し、ゲートから離れた所では保圧が効かないためにヒケが発生してしまう。また、成形品がリブを有した形状をしているため、リブの根元部分における樹脂の冷却が最も遅くなり、リブの対向する面にヒケが発生しやすくなる。
【0012】
【特許文献1】特開2005−196821号公報
【特許文献2】特開2005−307128号公報
【特許文献3】特開2004−323791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術の前記課題を解決するためになされたものであり、高転写性(金型のキャビティ形状を高精度に転写できる性質)、高強度・高耐熱性を有し、主材料としてバイオマスを原料とするプラスチック材料を用いたプラスチック成形品および、ヒケなどの成形不良が発生しておらず、家電製品やOA機器の外装部品などに有効に適用可能な上記成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、バイオマスを原料とするプラスチック材料(以下、バイオマス原料プラスチック)と、石油を原料とするプラスチック材料(以下、石油原料プラスチック)とを混合してアロイ化したプラスチック材料を主材料としてなる成形品であって、表層部を形成するスキン層と中心部を形成するコア層とで構成され、該コア層に空孔が形成されていることを特徴とするプラスチック成形品である。
【0015】
請求項2に係る発明は、表層部を形成するスキン層と中心部を形成するコア層とで構成された成形品であって、前記スキン層が石油原料プラスチック(石油原料樹脂)を主材料として形成され、前記コア層がバイオマス原料プラスチック(バイオマス原料樹脂)を主材料として形成され、かつ該コア層に空孔が形成されていることを特徴とするプラスチック成形品である。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記石油原料プラスチックは非晶性プラスチックであり、そのガラス転移温度がバイオマス原料プラスチックの溶融温度より低いことを特徴とする請求項2に記載のプラスチック成形品である。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記石油原料プラスチックは結晶性プラスチックであり、その軟化温度がバイオマス原料プラスチックの溶融温度より低いことを特徴とする請求項2に記載のプラスチック成形品である。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記プラスチック成形品が電気製品(家電製品、OA機器等)の外装部品であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック成形品である。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1に記載の成形品を製造するに際し、バイオマス原料プラスチックと石油原料プラスチックと発泡剤とを混合してアロイ化したプラスチック材料を金型内に射出充填し、金型の冷却を行ったのち成形品を金型から取り出す射出成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法である。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1に記載の成形品を製造するに際し、バイオマス原料プラスチックと石油原料プラスチックとを混合してアロイ化したプラスチック材料に超臨界流体を含浸させ、該プラスチック材料を金型内に射出充填し、金型の冷却を行ったのち成形品を金型から取り出す射出成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法である。
【0021】
請求項8に係る発明は、請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックを金型内に射出充填し、次いでコア層を形成するべき、発泡剤が添加されたバイオマス原料プラスチックを金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法である。
【0022】
請求項9に係る発明は、請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックと、コア層を形成するべき、発泡剤が添加されたバイオマス原料プラスチックとを同時に金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法である。
【0023】
請求項10に係る発明は、請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックを金型内に射出充填し、次いでコア層を形成するべき、超臨界流体(炭酸ガス(CO)、窒素ガス(N)など、以下同じ)が含浸されたバイオマス原料プラスチックを金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法である。
【0024】
請求項11に係る発明は、請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックと、コア層を形成するべき、超臨界流体が含浸されたバイオマス原料プラスチックとを、同時に金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明によれば、バイオマス原料プラスチックを用いた、高転写性・高強度・高耐熱性のプラスチック成形品が提供される。請求項2の発明によれば、バイオマス原料プラスチックを用いた、より高転写性・高強度・高耐熱性のプラスチック成形品が提供される。
請求項3、請求項4の発明に係る成形品をサンドイッチ成形法で製造する場合、コア層を形成するべきバイオマス原料プラスチックが発泡して膨張した時に、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックが軟化した状態にあるため、この石油原料プラスチックを効率的に金型キャビティ面に押し付ける結果、成形品にヒケなどの成形不良が発生しにくくなる。
請求項5の発明によれば、バイオマス原料プラスチックを用いた、高転写性・高強度・高耐熱性の外装部品が提供される。
【0026】
請求項6、請求項7の発明では汎用の射出成形機を用いることができるため、設備コストが安価となり、バイオマス原料プラスチックを用いた高転写性・高強度・高耐熱性のプラスチック成形品を安価に提供することができる。
請求項8、請求項9の発明によれば、請求項2〜4のいずれかに記載された、バイオマス原料プラスチックによる高転写性・高強度・高耐熱性を有するプラスチック成形品を得ることができる。
請求項10、請求項11の発明に係るプラスチック成形品の製造方法は、プラスチックを発泡させるための材料として上記超臨界流体を用いるため環境に悪い影響を与えことがないから、環境に優しい成形法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明のプラスチック成形品1(OA機器の外装部品)の形状を示す断面図である。成形品1は、バイオマス原料プラスチックと石油原料プラスチックを混合してアロイ化したプラスチック材料を射出成形して製造したものである。本実施形態では、バイオマス原料プラスチックとしてポリ乳酸を、石油原料プラスチックとしてポリカーボネートをそれぞれ用いている。すなわち、成形品1は表層部がスキン層4、中心部が空孔5aを含有するコア層5となっており、この空孔は発泡剤添加により形成されるが、空孔径は核剤の添加により小さいものに制御することができる。
空孔を小さく制御するのは、空孔が大きく成長して成形品表面に達し、凹部が発生するのを防止するためである。
【0028】
[実施例1]
上記成形品の成形例について説明する。
[成形原料:使用樹脂]
(1)バイオマス原料プラスチックと、石油原料プラスチックを下記割合(重量%)で混合してアロイ化したものを用いた。
(2)バイオマス原料プラスチック
・ポリ乳酸(ガラス転移点=60℃、融点=170℃、熱分解点=250℃)
・配合割合=50重量%
(3)石油原料プラスチック
・ポリカーボネート(ガラス転移点=145℃、融点=250℃、熱分解点=400℃)
・配合割合=50重量%
[発泡剤]
アゾジカルボンアミド(ADCA)
[核剤]
タルク
[主な成形条件]
(1)成形法=射出成形法
(2)樹脂温度=220℃
(3)金型温度=130℃
(4)保圧圧力=60MPa
【0029】
図2は、射出成形法によるプラスチック成形品1の製造方法を工程順に示す説明図である。この図において、上記アロイ化したプラスチック材料を、温度制御手段(図示せず)により一定温度に保たれている金型キャビティ3A内にゲート3から射出充填射する(図2(a))。プラスチック材料の充填とともに、発泡剤が発泡し、その発泡力によってプラスチック材料は金型のキャビティ面へ押し付けられる(図2(b))。そのため、ポリカーボネートをアロイ化することにより粘度の増加、流動性の低下が生じても、ヒケなどの成形不良が生じることはない。その結果、図1に示すような、空孔の無い表層部を形成するスキン層4と、空孔5aが形成されている中心部を形成するコア層5とで構成された、高転写性・高強度・高耐熱性を有するプラスチック成形品を得ることができる。
【0030】
[第2の実施形態]
図3は、本発明に係るプラスチック成形品6(OA機器の外装部品)の形状を示す断面図である。このプラスチック成形品6は、表層部を形成するスキン層4と中心部を形成するコア層5とで構成され、スキン層4の主材料が石油原料プラスチックで、空孔5aが存在するコア層5の主材料がバイオマス原料プラスチックでそれぞれ構成されている。本実施形態では、石油原料プラスチックとしてポリカーボネートを、バイオマス原料プラスチックとしてポリ乳酸を用いている。また、バイオマス原料プラスチックには、コア層に空孔を形成せるための発泡剤と、空孔を小さく制御する核剤も混入させている。
【0031】
[実施例2]
上記成形品の成形例について説明する。
[成形原料:使用樹脂]
(1)スキン層形成用材料:石油原料プラスチック
・ポリカーボネート(ガラス転移点=145℃、融点=250℃、熱分解点=400℃)
(2)コア層形成用材料:バイオマス原料プラスチック
・ポリ乳酸(ガラス転移点=60℃、融点=170℃、熱分解点=250℃)
[発泡剤]
アゾジカルボンアミド(ADCA)
[核剤]
タルク
[主な成形条件]
(1)成形法=サンドイッチ成形法
(2)樹脂温度
・ポリカーボネート:290℃
・ポリ乳酸:220℃
(3)金型温度=130℃
(4)保圧圧力=60MPa
【0032】
図4(a)(b)(c)は、サンドイッチ成形法によるプラスチック成形品6の製造方法を工程順に示す説明図である。キャビティ16を構成する一対の金型17が用意されている。金型17は温度制御手段(図示せず)により、一定温度に保たれている。ここで、射出成形機のノズルの内部には2つの流路7,8がある。すなわち、第1の射出ユニット9に接続され、スキン層を形成するポリカーボネ−ト11が流れる第1の流路7と、第2の射出ユニット10に接続され、コア層を形成するポリ乳酸12が流れる第2の流路8と、吐出口13とが備えられ、吐出口13の手前で上記2種類のプラスチック材料が合流するようになっている。
なお、符号14は石油原料プラスチックの射出を示し、符号15はバイオマス原料プラスチックの射出を示している。また、サンドイッチ成形法に関しては、例えば特開平10−211633号公報、特開2001−260173号公報に開示されたものがある。
【0033】
次にサンドイッチ成形法の成形工程について説明する。図4において、まず、第1の射出ユニット9から、スキン層を形成するためのポリカーボネートを第1の流路7を経て、吐出口13から金型17のキャビティ16内へ射出する。これによってスキン層4が形成される。所定量のスキン層4用ポリカーボネートを射出した後、スキン層を形成するポリカーボネートの射出を続けたまま、コア層を形成するポリ乳酸を第2の射出ユニット10から第2の流路8を経て、吐出口13より金型17のキャビティ16内に射出充填する。
【0034】
ポリ乳酸中には発泡剤が混入されているため、射出充填とともに発泡剤が発泡し、その発泡力によって、コア層を形成するべきバイオマス原料プラスチックが膨張し、さらにスキン層を形成するべき石油原料プラスチックを金型のキャビティ面へ押し付ける。その後、成形品の温度がスキン層4を形成するポリカーボネートのガラス転移点以下の温度まで冷却されたら、金型17から成形品を取り出す。その結果、図3に示すような、ポリカーボネートで形成された空孔の無い表層部を形成するスキン層4と、ポリ乳酸で形成された空孔が存在する中心部を形成するコア層5とで構成された、高転写性・高強度・高耐熱性を有するプラスチック成形品を得ることができる。
【0035】
[第3の実施形態]
図5は、本発明に係るプラスチック成形品18(家電製品の外装部品)の形状を示す断面図である。プラスチック成形品18は、表層部を形成するスキン層4と中心部を形成するコア層5とで構成されていて、スキン層4が石油原料プラスチックで、空孔5aが存在するコア層5がバイオマス原料プラスチックで構成されているものである。本実施形態では、石油原料プラスチックとしてABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、バイオマス原料プラスチックとしてポリ乳酸を用いている。また、バイオマス原料プラスチックには、プラスチック成形品のコア層に空孔を形成せるための発泡剤と、空孔径を小さく制御する核剤も混入させている。
【0036】
[実施例3]
上記成形品の成形例について説明する。
[成形原料:使用樹脂]
(1)石油原料プラスチック
・ABS(ガラス転移点=120℃、融点=180℃、熱分解点=400℃)
(2)バイオマス原料プラスチック
・ポリ乳酸(ガラス転移点=60℃、融点=170℃、熱分解点=250℃)
[発泡剤]
アゾジカルボンアミド(ADCA)
[核剤]
タルク
[主な成形条件]
(1)成形法=サンドイッチ成形法
(2)樹脂温度
・ABS:260℃
・ポリ乳酸:220℃
(3)金型温度=80℃
(4)保圧圧力=80MPa
【0037】
次に、本実施形態におけるサンドイッチ成形法の成形工程について説明する。図4において、第1の射出ユニット9からスキン層を形成するためのABSを第1の流路7を経て、吐出口13から金型17のキャビティ16内へ射出する。これによってスキン層4が形成される。また、コア層を形成するポリ乳酸を第2の射出ユニット10から第2の流路8を経て、吐出口13より金型17のキャビティ16内に射出充填する。本実施形態では、スキン層を形成するべきABSと、コア層を形成するべき発泡剤を混入させたポリ乳酸を、同時に金型内に射出充填する。ポリ乳酸の中には発泡剤が混入されているため、射出充填とともに発泡剤が発泡し、その発泡力によってコア層を形成するべきバイオマス原料プラスチックが膨張し、さらにスキン層を形成するべき石油原料プラスチックを金型のキャビティ面へ押し付ける。その後、金型内で冷却を行った後、プラスチック成形品を金型から取り出す。
その結果、図5に示すような、ABSで形成された空孔の無い表層部を形成するスキン層4と、ポリ乳酸で形成された空孔5aが存在する中心部を形成するコア層5とで構成された、高転写性・高強度・高耐熱性を有するプラスチック成形品18が得られる。
【0038】
本発明におけるバイオマス原料プラスチックとは、原料として石油を殆ど用いずに、植物もしくは微生物から取り出されたものを原料として製造されたプラスチックであれば特に限定されず、本発明の実施例で用いたポリ乳酸の他、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸及びそれら樹脂を組み合わせたコポリマーやポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などの微生物原料樹脂、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンアジペート、それら樹脂を組み合わせたコポリマー(ポリブチレンサクシネート・アジペート)、セルロース誘導体、デンプン、キチン、キトサン等の糖質系高分子などを使用することができる。
【0039】
一方、石油原料プラスチックに関しても特に限定されるものではなく、強度があり、耐熱性のあるものであれば良い。軟化温度が高いものであれば特に良い。また、非晶性、結晶性にかかわらず用いることが可能である。
【0040】
スキン層を形成するべき石油原料プラスチックが非晶性プラスチックである場合、そのガラス転移点の温度が、コア層を形成するべきバイオマス原料プラスチックの溶融温度より低いものが良い。これは、サンドイッチ成形法を用いた場合、バイオマス原料プラスチックが発泡して膨張した時に、石油原料プラスチックが軟化した状態にあるため、効率的に金型キャビティ面に押し付ける力が伝播して、成形不良であるヒケなどが発生しにくくなるためである。
【0041】
また、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックが結晶性プラスチックの場合、その軟化点の温度が、コア層を形成するべきバイオマス原料プラスチックの溶融温度より低いものが良い。これも、非晶性プラスチックを用いる場合と同様に、バイオマス原料プラスチックが発泡して膨張した時に、石油原料プラスチックが軟化した状態にあるため、効率的に金型キャビティ面に押し付ける力が伝播して、成形不良であるヒケなどが発生しにくくなるためである。
【0042】
また、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックに、従来公知の難燃剤を添加することにより、バイオマス原料プラスチックを使用した成形品の難燃性を向上させることができる。
【0043】
発泡剤としては、本発明の実施例で用いたアゾジカルボンアミド(ADCA)の他に、無機発泡剤(炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなど)や、有機発泡剤(アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウムなど)を用いることができる。
一方、上記核剤としてはタルクの他に、シリカ、クレー、アルミナなどを使用することができる。
【0044】
図6は、発泡剤31または発泡ガス31aの混入方法を示す図である。発泡剤31ではプラスチック材料とともにホッパ20より入れる方法や、射出シリンダ19に入れる方法が挙げられる。また、発泡ガス31aをノズル21から注入することも可能である。ノズル21から発泡ガスを入れる方法としては、ノズル21内におけるプラスチック材料の流路を多孔質の焼結材料で作製し、高圧ガスを焼結材料から混入させる方法が挙げられる。
【0045】
[第4の実施形態]
以下、図7の成形装置の構造および、これによる発泡成形品の製造方法について説明する。この成形装置は大きく分けてホッパ30、射出装置40、金型50、ガスボンベ60、超臨界流体発生装置70および図略の制御装置等を備えている。射出装置40はシリンダ41、スクリュ47等を備えたインラインスクリュ射出成形機である。シリンダ41の外周部にはヒータ42が設けられ、シリンダ41先端には溶融樹脂の射出口43が形成され、この射出口43には開閉自在なノズル44が設けられている。シリンダ41にはさらに超臨界流体の注入部81および、流量制御弁を有する注入装置82が配備されている。また、スクリュ47の先端部であるスクリュヘッド47bとノズル44の間には射出前の溶融樹脂が滞留する滞留キャビティ45が形成されるようになっている。金型50は固定型51と可動型52の突き合わせによりキャビティ53が形成されるようになっている。ガスボンベ60には、発泡剤として使用されるガス(二酸化炭素、窒素等の不燃性ガス)が充填されている。超臨界流体発生装置70は、ガスボンベ60からのガスを超臨界状態に変化させ、超臨界流体として射出装置40に供給するためのものである
図7において符号47aは低圧部、71は配管である。符号Gaは樹脂材料、Gbは溶融樹脂である。
【0046】
発泡成形品の製造に際しては、ペレット状の樹脂材料Gaをホッパ30に投入する。シリンダ41内に供給された樹脂材料Gaは、スクリュ47の回転によりシリンダ41内をスクリュヘッド47bに向けて移送される間に溶融される。溶融された樹脂材料Gaつまり溶融樹脂Gbは、スクリュ47の低圧部47aにおいて超臨界流体と混合される。この場合、超臨界流体発生装置70からの超臨界流体が注入装置82を介してシリンダ41内に注入され、溶融樹脂Gbがスクリュヘッド47bに向けてさらに移送される間に、超臨界流体がこの溶融樹脂Gbに均一に混合・含浸される。
【0047】
この溶融樹脂Gbは、キャビティ45に蓄積される。キャビティ45内の圧力が所定値に達した時点でノズル44が開状態となり、これによって、キャビティ45内の溶融樹脂Gbが金型50のキャビティ53へ射出・充填される。このとき、溶融樹脂Gbの内温および内圧が急激に低下し、その結果、溶融樹脂Gb中の超臨界流体が気体へと状態変化して樹脂材料に微細な発泡セルが成長形成される。最終的な各発泡セルの成長の程度すなわち各発泡セルの直径は、樹脂材料における射出前後の温度差および圧力差、ならびに射出時の温度低下速度および圧力低下速度によって決まる。
【0048】
図7に示すような発泡成形品の製造方法は、上記請求項10または請求項11に記載されたプラスチック成形品製造方法に有効に適用できるものである。
【0049】
このようにして成形された成形品内には、上記不燃性ガスが封入された微細な発泡セルが密に分散している。そのため、この成形品は良好な難燃性を示す。また、難燃剤として不燃性ガスを利用しているため、燃焼時に難燃剤由来の有害物質は発生しない。加えて、大きな占有比率で発泡セルが形成されているため軽量であり、このような難燃性の発泡成形は家電製品,OA機器等の外装部品として優れた機能を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明によるOA機器の外装部品断面形状を示す図である(第1の実施形態)。
【図2】射出成形法による本発明のプラスチック成形品の製造方法を示す図である。
【図3】本発明によるOA機器の外装部品断面形状を示す図である(第2の実施形態)。
【図4】サンドイッチ成形法による本発明のプラスチック成形品の製造方法を示す図である。
【図5】本発明による家電製品の外装部品断面形状を示す図である(第3の実施形態)。
【図6】発泡剤の混入方法を示す図である。
【図7】発泡用材料として超臨界流体を用いる成形装置を示す図である(第4の実施形態)。
【図8】目的とするOA機器の外装部品断面形状を示す図である。
【図9】OA機器の外装部品を成形加工する際に生じる従来技術の問題点を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 OA機器の外装部品(プラスチック成形品)
2 リブ
3 ゲート
3A キャビティ
4 スキン層
5 コア層
5a 空孔
6 OA機器の外装部品(プラスチック成形品)
7 第1の流路
8 第2の流路
9 第1の射出ユニット
10 第2の射出ユニット
11 石油原料プラスチック(ポリカーボネート)
12 バイオマス原料プラスチック(ポリ乳酸)
13 吐出口
14 石油原料プラスチックの射出
15 バイオマス原料プラスチックの射出
16 キャビティ
17 金型
18 家電製品の外装部品(プラスチック成形品)
19 射出シリンダ
20 ホッパ
21 ノズル
27 OA機器の外装部品(成形品)
28 OA機器の外装部品(成形品)
30 ホッパ
31 発泡剤
31a 発泡ガス
40 射出装置
50 金型
60 ガスボンベ
70 超臨界流体発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを原料とするプラスチック材料(以下、バイオマス原料プラスチック)と、石油を原料とするプラスチック材料(以下、石油原料プラスチック)とを混合してアロイ化したプラスチック材料を主材料としてなる成形品であって、表層部を形成するスキン層と中心部を形成するコア層とで構成され、該コア層に空孔が形成されていることを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項2】
表層部を形成するスキン層と中心部を形成するコア層とで構成された成形品であって、前記スキン層が石油原料プラスチックを主材料として形成され、前記コア層がバイオマス原料プラスチックを主材料として形成され、かつ該コア層に空孔が形成されていることを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項3】
前記石油原料プラスチックは非晶性プラスチックであり、そのガラス転移温度がバイオマス原料プラスチックの溶融温度より低いことを特徴とする請求項2に記載のプラスチック成形品。
【請求項4】
前記石油原料プラスチックは結晶性プラスチックであり、その軟化温度がバイオマス原料プラスチックの溶融温度より低いことを特徴とする請求項2に記載のプラスチック成形品。
【請求項5】
前記プラスチック成形品が電気製品の外装部品であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック成形品。
【請求項6】
請求項1に記載の成形品を製造するに際し、バイオマス原料プラスチックと石油原料プラスチックと発泡剤とを混合してアロイ化したプラスチック材料を金型内に射出充填し、金型の冷却を行ったのち成形品を金型から取り出す射出成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の成形品を製造するに際し、バイオマス原料プラスチックと石油原料プラスチックとを混合してアロイ化したプラスチック材料に超臨界流体を含浸させ、該プラスチック材料を金型内に射出充填し、金型の冷却を行ったのち成形品を金型から取り出す射出成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックを金型内に射出充填し、次いでコア層を形成するべき、発泡剤が添加されたバイオマス原料プラスチックを金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックと、コア層を形成するべき、発泡剤が添加されたバイオマス原料プラスチックとを同時に金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項10】
請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックを金型内に射出充填し、次いでコア層を形成するべき、超臨界流体が含浸されたバイオマス原料プラスチックを金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項2〜4のいずれかに記載の成形品を製造するに際し、スキン層を形成するべき石油原料プラスチックと、コア層を形成するべき、超臨界流体が含浸されたバイオマス原料プラスチックとを、同時に金型内に射出充填し、冷却を行ったのち成形品を金型から取り出すサンドイッチ成形法により製造することを特徴とするプラスチック成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−161853(P2007−161853A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359007(P2005−359007)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】