説明

プラズマドーピング方法

【課題】幅広い用途に適用可能なプロセスウィンドウの広いプラズマドーピング方法を提供する。
【解決手段】リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を含むガスのプラズマを生成して該プラズマ中のリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種のラジカル21を処理対象物13たるシリコン基板の表面に堆積させる第1工程と、第1工程で処理対象物13表面に堆積されたラジカル21にヘリウムイオン22を照射する第2工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象物の内部に不純物を導入するプラズマドーピング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの1つである電界効果トランジスタでは、そのゲート長が短くなると、トランジスタのオフ動作時に漏れ電流が流れる短チャネル効果が起こることが知られており、この短チャネル効果を抑制するために、ソース/ドレイン領域よりも浅いエクステンション領域を形成することが知られている。一般に、エクステンション領域は、基板内に不純物を導入し、導入した不純物を熱処理により活性化させることで形成される。
【0003】
基板内に不純物を導入する方法として、不純物のラジカルを基板表面に堆積した後、この堆積したラジカルにイオンを照射するプラズマドーピング方法が本出願人により提案されている(例えば、特許文献1参照)。このものは、基板の厚さ方向で基板表面に近い位置(例えば、10nm以下)に面内均一性良く不純物を導入することができるため、エクステンション領域を形成する用途に対して特に有効であった。
【0004】
然し、上記特許文献1記載のものでは、イオンの照射エネルギーを大きくしても基板内の深い位置(例えば15nm以上)に不純物を導入することができない場合があり、また、イオンの照射時間を長くすると、基板内に一旦導入された不純物が放出され、結果としてドーズ量が少なくなる場合がある。上記特許文献1記載のものはプロセスウィンドウが狭く、適用する用途が限定されるという不具合があった。このため、幅広い用途に適用するために、プロセスウィンドウの広いプラズマドーピング方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/018797号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、幅広い用途に適用可能なプロセスウィンドウの広いプラズマドーピング方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマドーピング方法は、処理対象物の内部に不純物を導入するプラズマドーピング方法において、リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を含むガスのプラズマを生成して該プラズマ中の前記リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種のラジカルを処理対象物表面に堆積させる第1工程と、前記第1工程で前記処理対象物表面に堆積されたラジカルにヘリウムイオンを照射する第2工程とを含むことを特徴とする。なお、本発明において、不純物が導入される処理対象物は基板だけでなく膜を含む。
【0008】
本発明によれば、処理対象物表面に堆積されるリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種のラジカルの面内分布と、処理対象物表面に照射されるヘリウムイオンの面内分布とが独立して制御可能となる。このため、処理対象物の内部にリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を面内均一性良く導入することができる。
【0009】
ここで、第2工程にて質量数の小さいヘリウムイオンを照射することで、イオンが基板内を進む際の運動エネルギーロスを小さくすることができる。このため、ヘリウムイオンの照射エネルギーを大きくすれば、運動エネルギーを大きく保った状態のヘリウムイオンにより基板内の深い位置までリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を導入することができる。一方、ヘリウムイオンの照射エネルギーを小さくすれば、基板内の浅い位置にリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を導入することができる。また、基板内の比較的浅い位置に導入されたリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種はヘリウムイオンと衝突しても基板内から放出されない。このため、ヘリウムイオンの照射時間を長くしても、ドーズ量が少なくなることがない。従って、プロセスウィンドウの広いプラズマドーピング方法が得られる。
【0010】
本発明において、前記第1工程で堆積されるラジカルの堆積量を調整し、前記処理対象物の内部に導入されるリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種のドーズ量を制御することができる。
【0011】
本発明において、前記第2工程で照射されるヘリウムイオンの照射時間又は照射エネルギーを調整し、前記処理対象物の内部に導入されたリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種の深さ方向の分布を制御することができる。尚、本発明において、リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種の深さ方向の分布とは、処理対象物の深さ方向に沿ったリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種の濃度分布をいう。
【0012】
本発明において、前記第1工程の前に、前記処理対象物表面に対してイオンを照射する工程を更に含ませてもよい。これにより、処理対象物の内部に導入されたリン、ヒ素又はアンチモンが、後工程の熱処理によって過度に拡散することが抑制される。
【0013】
本発明において、前記第1及び第2工程が同一の処理室内で実行される場合には、前記第1工程では前記リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を含むガスのプラズマを生成すると共に基板にバイアス電位を印加せず、前記第2工程では前記リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を含むガスの供給を停止すると共に前記基板にバイアス電位を印加すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態において用いられるプラズマドーピング装置の構成を説明するための図である。
【図2】(A)〜(C)は、本発明の実施形態のプラズマドーピング方法を説明するための図である。
【図3】(A)は、発明実験1のSIMS分析結果を示す図、(B)は、比較実験のSIMS分析結果を示す図。
【図4】発明実験2のSIMS分析結果を示す図。
【図5】発明実験1において、ヘリウムイオン照射時間に対するリンのドーズ量の変化を説明するための図。
【図6】比較実験において、アルゴンイオン照射時間に対するリンのドーズ量の変化を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、処理対象物をシリコン基板とし、その内部にリンを導入する本発明の実施形態のプラズマドーピング方法を説明する。
【0016】
図1には、本実施形態のプラズマドーピング方法を実施し得る処理装置として、ICP(誘導結合プラズマ)型のプラズマドーピング装置Mが示されている。プラズマドーピング装置Mは、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバ1を備えている。
【0017】
真空チャンバ1の上部は石英などの誘電体からなる円筒部2によって構成され、この円筒部2はプラズマ発生部として機能する。円筒部2の外側には、円筒部2内に磁気中性線(NLD)を形成可能な3つのリング状の磁場コイル3、4及び5が配置されている。円筒部2と磁場コイル3乃至5との間には、ループ状のアンテナコイル6が配置されている。アンテナコイル6には、コンデンサ7を介して高周波電源8に接続され、プラズマ生成のための高周波電力が印加できるようになっている。
【0018】
円筒部2の上部開口は天板9により塞がれており、この天板9には真空チャンバ1内にガスを導入するガス導入口10が設けられている。ガス導入口10の他端は、図示省略したガス管及びマスフローコントローラを介してガス源に連通している。これにより、ガスを流量制御して真空チャンバ1内に導入できるようになっている。本実施形態では、第1のガス源がリンを含むホスフィンガスからなり、第2のガス源がアルゴンガスからなり、第3のガス源がヘリウムガスからなる。
【0019】
真空チャンバ1の底部には、絶縁体部材11を介して電極12が配置され、図外の搬送ロボットを用いて搬送した基板13を電極12の基板載置面たる上面に載置できるようになっている。電極12には、ブロッキングコンデンサ14を介して高周波電源15が接続され、バイアス電位を印加できるようになっている。電極12外側の真空チャンバ1の側壁には排気管16が接続されている。排気管16は、図示省略したターボ分子ポンプやロータリポンプやコンダクタンス可変バルブ等からなる真空排気手段に通じている。
【0020】
ガス導入口10から真空チャンバ1内にガスを供給すると共に、上下の磁場コイル3、5に同一方向の電流を流し、中間の磁場コイル4に逆方向の電流を流すと、真空の円筒部2内に環状の磁気中性線17が形成される。この状態でアンテナコイル6に高周波電力を供給すると、磁気中性線17に沿ってプラズマが発生する。
【0021】
ここで、磁場コイル3、5に流す電流の電流値と、中間の磁場コイル4に流す電流の電流値とを適宜調整することで、上記磁気中性線17の水平方向の広がりが変化するため、プラズマの広がり分布を制御することができる。以下、図2も参照して、上記プラズマドーピング装置Mを用いたプラズマドーピング方法について、シリコン基板内へのリンの導入を例に説明する。
【0022】
先ず、真空排気手段を作動させて真空チャンバ1を所望の真空度まで真空引きした状態で、図外の搬送ロボットを用いてシリコン基板13を搬送し、シリコン基板13を電極12上に載置する。
【0023】
次に、第1工程として、ガス導入口10から真空チャンバ1内に、リンを含むホスフィン(PH)ガスと希釈ガスとしてのアルゴンガスとを供給する。これと同時に、上下の磁場コイル3、5に同一方向の電流を流すと共に、中間の磁場コイル4に逆方向の電流を流すことにより、円筒部2内に磁気中性線17を形成する。さらに、高周波電源8からアンテナコイル6に高周波電力を印加することにより、磁気中性線17に沿ってプラズマが生成する。尚、第1工程で用いる希釈ガスは、放電安定性が高く低圧処理を可能にするアルゴンガスに限定されず、ヘリウムガス等の不活性ガスを用いることができ、あるいは、第1工程で希釈ガスを供給しなくてもよい。
【0024】
第1工程では電極12に負のバイアス電位が印加されていないため、プラズマ中のイオン(PH,Ar等)はシリコン基板13に引き込まれない。従って、図2(A)に示すように、リンラジカル21のシリコン基板13表面への堆積が支配的となる。ここで、シリコン基板13表面に堆積するリンラジカル21の面内分布を向上させるためには、プラズマ中のリンラジカル21の分布を向上させる必要がある。
【0025】
そこで、本実施形態では、磁場コイル3乃至5に流れる電流値を調整して磁気中性線17の広がりを変化させることで、プラズマ中のリンラジカル21の分布を制御する。例えば、以下のデポジション条件を用いることで、シリコン基板13表面に堆積するリンラジカル21の面内分布を制御することができる。
【0026】
[デポジション条件]
PH流量:1[sccm]
Ar流量:100[sccm]
プロセス圧力:3[Pa]
アンテナRFPower:300[W]
バイアスRFPower:0[W]
磁場コイル電流(上下/中間):9.5[A]/7.5[A]
【0027】
上記デポジション条件でシリコン基板13表面へのリンラジカル21の堆積を所定時間(例えば、20秒〜40秒)行った後、ホスフィンガス及びアルゴンガスの供給とアンテナコイル6への高周波電力の印加とを停止する。そして、ヘリウムガスの供給を開始し、アンテナコイル6への高周波電力の印加を再開し、高周波電源15から電極12に負のバイアス電位を印加する(第2工程)。尚、第1工程でアルゴンガスに代えてヘリウムガスを用いる場合、ホスフィンガスの供給を停止し、ヘリウムガスの供給とアンテナコイル6への高周波電力の印加とを継続して行ったまま、負のバイアス電位を印加することで、第1工程と第2工程とを連続して実施できる。
【0028】
上記第2工程では、図2(B)に示すように、プラズマ中のヘリウムイオン(He)22がシリコン基板13に引き込まれる。シリコン基板13に引き込まれたヘリウムイオン22がリンラジカル21に衝突することで、リンラジカル21がシリコン基板13内に押し込まれる。
【0029】
ここで、ヘリウムイオン22は質量数が小さいため、シリコン基板13内を進む際の運動エネルギーロスが少なく、運動エネルギーを大きく保つことができる。また、シリコン基板13の比較的浅い位置(シリコン基板13の厚さ方向でシリコン基板13表面に近い位置)に一旦押し込まれたリンラジカル21は、その後に引き込まれたヘリウムイオン22と衝突しても、シリコン基板13内から放出されることはない。尚、図2(B)に示すように、一部のリンラジカル21aは、ヘリウムイオン22によりエッチングされて飛散する。
【0030】
第2工程にてシリコン基板13内に押し込まれるリンラジカル21の面内分布を向上させるには、シリコン基板13に引き込まれるヘリウムイオン22の面内分布を向上させる必要がある。
【0031】
そこで、本実施形態では、磁場コイル3乃至5に流れる電流値を調整して磁気中性線17の広がりを変化させることで、プラズマ中のヘリウムイオン22の分布を制御する。プラズマ中でのヘリウムイオン22の分布は、上記リンラジカル21の分布と相違する。例えば、以下のヘリウムイオン照射条件を用いることで、シリコン基板13に引き込まれるヘリウムイオン22の面内分布を制御することができる。中間の磁場コイル4の電流値を上記デポジション条件と変えることで、シリコン基板13表面でヘリウムイオン22の均一な面内分布を得るのに最適な磁気中性線17の広がりに制御される。
【0032】
[ヘリウムイオン照射条件]
PH流量:0[sccm]
He流量:100[sccm]
プロセス圧力:2[Pa]
アンテナRFPower:300[W]
バイアスRFPower:500[W]
バイアスVpp:3000[V]
磁場コイル電流(上下/中間):9.5[A]/7.0[A]
【0033】
その後、図示しない公知のランプアニール装置において熱処理を行うことで、シリコン基板13内に導入されたリンラジカル21が活性化する。その結果、図2(C)に示すように、シリコン基板13内にn型の不純物拡散層23が形成される。
【0034】
以上説明した実施形態では、シリコン基板13表面へのリンラジカル21の堆積工程(第1工程)と、シリコン基板13表面へのヘリウムイオン22の照射工程(第2工程)とを分離したため、各工程で磁場コイル3乃至5に流す電流値を調整することにより、シリコン基板13表面でのリンラジカル21の面内分布とヘリウムイオン22の面内分布とを独立して制御することができる。これにより、シリコン基板13表面に堆積するリンラジカル21の面内分布を改善することができるため、シリコン基板13内にリンを面内均一性良く導入することができる。
【0035】
本実施形態では、第2工程にて質量数の小さいヘリウムイオン22を照射しているため、ヘリウムイオン22がシリコン基板13内を進む際の運動エネルギーロスが小さい。このため、ヘリウムイオン22の照射エネルギーを大きく設定するか、又は、ヘリウムイオン22の照射時間を長く設定すれば、運動エネルギーを大きく保った状態のヘリウムイオン22によりシリコン基板13内の深い位置までリンを導入することができる。一方、ヘリウムイオン22の照射エネルギーを小さく設定するか、又は、ヘリウムイオン22の照射時間を短く設定すれば、シリコン基板13内の浅い位置にリンを導入することができる。また、シリコン基板13内の比較的浅い位置に一旦導入されたリンは、導入後にヘリウムイオン22と衝突してもシリコン基板13内から放出されない。即ち、ヘリウムイオン22は、質量数の大きいアルゴンイオン等に比べて、シリコン基板13内に一旦導入されたリンラジカルをスパッタして基板外部に放出する効果が小さい。このため、ヘリウムイオン22の照射時間を長くしても、ドーズ量が少なくならない。従って、上記実施形態によれば、プロセスウィンドウの広く、幅広い用途に適用可能なプラズマドーピング方法が得られる。
【0036】
また、ドーズ量は、リンラジカル21の堆積膜厚(以下「デポ膜厚」という)と相関を有する。上記デポジション条件で処理時間(以下「デポ時間」という)を変えてリンラジカル21を堆積させ、夫々のデポ膜厚を断面SEMにより求めたところ、デポ時間とデポ膜厚との間に比例関係があることが判った。このため、デポ時間を調整することでデポ膜厚を調整すれば、上述したようにヘリウムイオンの照射時間を長くしてもドーズ量が少なくならないという効果と相俟って、ドーズ量を精度良く制御できる。
【0037】
上記実施形態の効果を確認するために、以下の実験を行った。発明実験1では、処理対象物を直径300mmのシリコン基板とし、上記プラズマドーピング装置Mを用いて、上記デポジション条件でリンラジカルを20秒堆積させた後、上記ヘリウムイオン照射条件でヘリウムイオンを5秒(発明品1)、20秒(発明品2)、80秒(発明品3)照射した。これらの発明品1〜3のSIMS(Secondary Ion-microprobe Mass Spectrometer)分析結果を図3(A)に示す。リン濃度が5.E+18[atoms/cm]である深さは、発明品1では約10nmであり、発明品2では約18nmであり、発明品3では約25nmであった。これより、ヘリウムイオンの照射時間を調整し、シリコン基板内のリン濃度のプロファイル(深さ)を幅広く制御できることが確認された。さらに、上記発明品1〜3のドーズ量を測定した結果を図4に示す。発明品1では8.2E+15[atoms/cm]であり、発明品2では9E+15[atoms/cm]であり、発明品3では8.6E+15[atoms/cm]であった。これより、ヘリウムイオンの照射時間を長くしても、ドーズ量が減少しないことが確認された。上記発明実験1によれば、プロセスウィンドウが広いことが確認された。
【0038】
発明実験2では、上記発明実験1と同様にシリコン基板表面にリンラジカルを堆積させた後、上記ヘリウムイオン照射条件のうちバイアスRFPowerを調整してヘリウムイオンを照射エネルギー3.2keV(発明品4)、5.8keV(発明品5)で照射した。これらの発明品4及び5のSIMS分析結果を図5に示す。これより、ヘリウムイオンの照射エネルギーを調整することで、上記発明実験1の如く照射時間を調整する場合と同様に、シリコン基板内のリン濃度のプロファイル(深さ)を幅広く制御できることが確認された。具体的には、ヘリウムイオンの照射エネルギーを大きくすればシリコン基板内の深い位置にリンを導入できる一方で、照射エネルギーを小さくすればシリコン基板内の浅い位置にリンを導入できることが確認された。
【0039】
上記発明実験1に対する比較実験では、ヘリウムイオンに代えてアルゴンイオンを用い、アルゴンイオンを5.2秒(比較品1)、12.5秒(比較品2)、25秒(比較品3)照射した以外は、上記発明実験と同様とした。これらの比較品1〜3のSIMS分析結果を図3(B)に示す。リン濃度が5.E+18[atoms/cm]である深さは、比較品1〜3のいずれも約15nmであった。これより、アルゴンイオンの照射時間を調整しても、シリコン基板内のリン濃度のプロファイル(深さ)を制御できないことが確認された。この理由としては、シリコン基板内をアルゴンイオンが進む際に運動エネルギーロスが大きく、アルゴンイオンの運動エネルギーを大きく保つことが難しいためと考えられる。また、上記比較品1〜3のドーズ量を測定した結果を図6に示す。比較品1では7.4E+15[atoms/cm]であり、比較品2では5.7E+15[atoms/cm]であり、比較品3では1.6E+15[atoms/cm]であった。これより、アルゴンイオンの照射時間を長くすると、ドーズ量が減少することが確認された。この理由は、アルゴンイオンはスパッタ効果が大きく、シリコン基板の比較的浅い位置に一旦導入されたリンラジカルが基板外部に放出されるためと考えられる。上記比較実験によれば、プロセスウィンドウが狭いことが確認された。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、リンを導入する場合について説明したが、n型不純物として用いられるヒ素やアンチモンを導入する場合にも本発明を適用することができる。この場合、ホスフィンガスに代えて、アルシン(AsH)ガス、スチビン(SbH)ガスを供給することで、リンを導入する場合と同様の効果が得られる。
【0041】
また、リンラジカル21の堆積工程とヘリウムイオン22の照射工程とを別チャンバで行うことも可能であるが、上記実施形態のように、リンラジカル21の堆積時にはホスフィンガスとアルゴンガスのプラズマを生成すると共にシリコン基板13にバイアス電位を印加せず、ヘリウムイオン22の照射時にはホスフィンガスの供給を停止すると共にシリコン基板13にバイアス電位を印加することで、両工程を同一の真空チャンバ1内で連続して実行することが好ましい。これによれば、両工程を別チャンバで行う場合に比してスループットを大幅に向上させることができる。
【0042】
リンラジカルの堆積前に、ヘリウムガスのプラズマを生成し、プラズマ中のヘリウムイオンをシリコン基板13表面に照射してもよい。これにより該表面が非晶質化されるため、シリコン基板13内部に導入されたリンが、後工程の熱処理によって過度に拡散することが抑制できる。
【0043】
また、上記実施形態では、ICP型の処理装置を用いて基板内にリンを導入する場合について説明したが、例えば平行平板型の処理装置などを用いてもよい。
【0044】
上記実施形態では、プラズマ中のヘリウムイオンを基板表面に照射しているが、公知のイオン生成機構で生成したヘリウムイオンを基板表面に導いて照射し、リンラジカルを基板内に押し込むようにしてもよい。
【0045】
また、ヘリウムイオンによるリンラジカルの減少速度(以下「エッチングレート」という)を予め求めておき、このエッチングレートに基づいてリンラジカルがシリコン基板表面に存しなくなるまでの時間を設定し、設定した時間だけヘリウムイオンを照射することもできる。これによれば、シリコン基板表面のエッチングを防止して、シリコン基板のシート抵抗値の上昇を抑えることができる。ここで、リンラジカルのエッチングレートは、シリコン基板表面にリンラジカルを同じ膜厚で堆積させ、ヘリウムイオンを照射時間を変えて照射し、そのときのリンラジカルの残存膜厚をそれぞれ断面SEMの観察結果から求めることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…真空チャンバ、13…シリコン基板、15…高周波電源、21…リンラジカル、22…ヘリウムイオン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物の内部に不純物を導入するプラズマドーピング方法において、
リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を含むガスのプラズマを生成して該プラズマ中の前記リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種のラジカルを処理対象物表面に堆積させる第1工程と、
前記第1工程で前記処理対象物表面に堆積されたラジカルにヘリウムイオンを照射する第2工程とを含むことを特徴とするプラズマドーピング方法。
【請求項2】
前記第1工程で堆積されるラジカルの堆積量を調整し、前記処理対象物の内部に導入されるリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種のドーズ量を制御することを特徴とする請求項1記載のプラズマドーピング方法。
【請求項3】
前記第2工程で照射されるヘリウムイオンの照射時間又は照射エネルギーを調整し、前記処理対象物の内部に導入されたリン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種の深さ方向の分布を制御することを特徴とする請求項1または2記載のプラズマドーピング方法。
【請求項4】
前記第1及び第2工程が同一の処理室内で実行される場合には、前記第1工程では前記リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を含むガスのプラズマを生成すると共に基板にバイアス電位を印加せず、前記第2工程では前記リン、ヒ素及びアンチモンの少なくとも1種を含むガスの供給を停止すると共に前記基板にバイアス電位を印加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプラズマドーピング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−45826(P2013−45826A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181350(P2011−181350)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】