説明

プラズマリアクタ

【課題】プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生、改質効率の低下及びハニカム電極の劣化を抑制することができるプラズマリアクタを提供する。
【解決手段】被改質ガス2の導入口4及び改質ガス6の排出口8が形成された反応容器10と、反応容器10の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極12と、一対の電極12に対して電圧を印加するパルス電源14と、被改質ガス2の改質反応を促進する触媒とを備え、一対の電極12の一方は導電性セラミックスからなり、ガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極12bであり、一対の電極の他方はハニカム電極12bの端面と対向するように配置された対向電極12aであり、触媒がハニカム電極12bの隔壁に担持されているとともに、ハニカム電極12bが対向電極12aに対向する端面の中央部に凹曲面30Aが形成されたものであるプラズマリアクタ1A。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極間に発生させたプラズマと、改質反応を促進させるための触媒とによって改質反応を進行させるプラズマリアクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンなエネルギーとして水素が注目されている。そして、この水素を得るためのプロセスとしては、ガソリン、灯油、軽油等に含まれる炭化水素の改質反応が知られている。しかしながら、一般にガソリン等に含まれる炭化水素の改質反応には700〜900℃の高温が必要であるため、改質装置が大型化せざるを得ず、また、改質反応を進行させるためには、大きな起動エネルギーや長い起動時間を必要とするといった問題があった。
【0003】
そこで、一対の電極にパルス電圧等を印加してプラズマを発生させ、そのプラズマを利用して低温でかつ高効率に改質反応を行う技術が検討されてきた。このようなプラズマを利用する技術は、従来法と比較すれば、低温、常圧の温和な条件の下、比較的低コストで炭化水素の改質を実施可能であるという利点がある。しかしながら、改質反応の反応効率としては未だ十分に満足できるものではなかった。
【0004】
そこで、プラズマを利用して改質反応を行う際に、改質反応を促進させるための触媒を併用する方法によって、改質反応を促進させ、改質反応の反応効率を向上させることが試みられている。この方法ではプラズマの作用と触媒の作用が複合化した改質反応が進行すると考えられている。
【0005】
例えば、炭化水素と水蒸気とを混合する混合ガス容器と、電源と、混合ガス容器中に内在する一対の電極を備え、特定のパルス周波数の電圧を一対の電圧に印加してプラズマを発生させ、そのプラズマにより水素への転化反応を行う炭化水素改質装置が提案されている(特許文献1参照)。そして、この特許文献1には、混合ガス容器内部に粒状の触媒を充填させることによって(いわゆるパックドベッド方式)、転化反応が促進されることが記載されている。
【0006】
また、反応器と、反応器内に対向するように配置された一対の針状電極と、電圧印加装置に加えて、粒状の酸化物触媒と、その酸化物触媒を反応器内で支持する触媒支持手段とを備えた燃料改質装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
更に、本発明者等も、図12に示すような、被改質ガス2の導入口4及び改質ガス6の排出口8が形成された反応容器10と、一対の電極12と、パルス電源14とを備え、一対の電極12の一方として導電性セラミックスからなるハニカム電極12bを用い、このハニカム電極12bを構成するハニカム構造体20における複数のセル16を区画形成する隔壁に触媒を担持したプラズマリアクタ100Bを提案している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−345879号公報
【特許文献2】特開2006−56748号公報
【特許文献3】国際公開第2009/057473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1又は2に記載の炭化水素改質装置等は、放電により生じたプラズマを利用すること加えて、触媒を併用しているため、改質反応の促進、これに伴う改質反応の反応効率向上を期待することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1又は2に記載の炭化水素改質装置等は、触媒として粒状触媒を用いているため、触媒同士の接触は点接触となり、触媒間の熱伝達に劣る。従って、改質反応の起動性が低いという課題があった。また、パックドベッド方式を採用した場合には、反応器内に充填された粒状触媒の間隙を被改質ガスが通過することになり、被改質ガスの空間速度が数千h−1以下の範囲でしか使用することができない。従って、被改質ガスの処理速度を高めることができず、大量の改質ガス(水素)を生成させることができないという課題があった。
【0011】
これに対し、特許文献3に記載のプラズマリアクタは、触媒をハニカム電極の隔壁に担持することによって前記課題を解決し、改質反応の反応効率向上、改質ガスの生成量増大、消費電力の低減、電極の耐用時間延長等の種々の優れた効果を得ることに成功した。
【0012】
このように特許文献3に記載のプラズマリアクタは種々の優れた効果を奏するものの、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生、改質効率の低下、ハニカム電極の劣化という観点からすると、未だ改良の余地を残すものであった。
【0013】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、特許文献3に記載のプラズマリアクタの優れた効果は維持しつつ、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生、改質効率の低下及びハニカム電極の劣化を抑制することができるプラズマリアクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記の従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、プラズマリアクタを構成するハニカム電極の対となる電極と対向する側の端面に凹曲面を形成することによって、前記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下のプラズマリアクタが提供される。
【0015】
[1] 被改質ガスの導入口及び改質ガスの排出口が形成された反応容器と、前記反応容器の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極と、前記一対の電極に対して電圧を印加するパルス電源と、前記被改質ガスの改質反応を促進する触媒とを備え、前記一対の電極の一方は、導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極であり、前記一対の電極の他方は、前記ハニカム電極の端面と対向するように配置された対向電極であり、前記触媒が、前記ハニカム電極の前記隔壁に担持されているとともに、前記ハニカム電極が、前記対向電極に対向する端面の中央部に、凹曲面が形成されたものであるプラズマリアクタ。
【0016】
[2] 前記ハニカム電極が、前記対向電極に対向する端面の外周部は平面状に形成される一方、前記端面の中央部には凹曲面が形成されたものである前記[1]に記載のプラズマリアクタ。
【0017】
[3] 前記対向電極は、その先端が凸曲面に形成されたものである前記[1]又は[2]に記載のプラズマリアクタ。
【0018】
[4] 前記対向電極の前記凸曲面は、前記ハニカム電極の前記凹曲面と曲率を同じくする曲面に形成されたものである前記[3]に記載のプラズマリアクタ。
【0019】
[5] 被改質ガスの導入口及び改質ガスの排出口が形成された反応容器と、前記反応容器の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極と、前記一対の電極に対して電圧を印加するパルス電源と、前記被改質ガスの改質反応を促進する触媒とを備え、前記一対の電極の一方は、導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極であり、前記一対の電極の他方は、前記ハニカム電極の端面と対向するように配置された対向電極であり、前記触媒が、前記ハニカム電極の前記隔壁に担持されているとともに、前記ハニカム電極は、その外周面全体に当接するように配置された、金属からなる面状導電部材を介して、前記パルス電源と電気的に接続されたものであるプラズマリアクタ。
【0020】
[6] 前記面状導電部材が、Cu又はCu合金からなるものである前記[5]に記載のプラズマリアクタ。
【0021】
[7] 前記対向電極が、導電性セラミックスからなるものである前記[1]〜[6]のいずれかに記載のプラズマリアクタ。
【0022】
[8] 前記ハニカム電極は、前記対向電極に対向する端面の中央部から前記対向電極に向かって突出する金属製又は合金製の補助電極を備え、前記補助電極は、前記ハニカム電極にその一部が埋め込まれるとともに、その残部が前記ハニカム電極の前記端面から突出するように配置されたものである前記[1]〜[7]のいずれかに記載のプラズマリアクタ。
【0023】
[9] 前記対向電極として、前記ハニカム電極を挟んで対向するように配置された、少なくとも一対の対向電極を備えており、前記補助電極として、前記一対の対向電極の各々に向かって突出する、少なくとも一対の補助電極を備えている前記[8]に記載のプラズマリアクタ。
【0024】
[10] 前記補助電極が、前記ハニカム電極の内部を貫通し、前記ハニカム電極の両端面から両先端部が突出するように配置されている前記[9]に記載のプラズマリアクタ。
【0025】
[11] 絶縁性材料からなり、前記プラズマの発生領域以外の領域を通過した被改質ガスの流入を遮蔽する遮蔽部材を更に備え、前記遮蔽部材は、前記ハニカム電極のガス導入端面の外周側を隠蔽するように、前記対向電極と前記ハニカム電極との間の空間に突出されたものである前記[1]〜[10]のいずれかに記載のプラズマリアクタ。
【0026】
[12] 前記遮蔽部材が絶縁性セラミックスからなるものである前記[11]に記載のプラズマリアクタ。
【0027】
[13] 前記ハニカム電極が、炭化珪素を含む導電性セラミックスからなるものである前記[1]〜[12]のいずれかに記載のプラズマリアクタ。
【0028】
[14] 前記パルス電源が、静電誘導型サイリスタを用いた高電圧パルス電源である前記[1]〜[13]のいずれかに記載のプラズマリアクタ。
【発明の効果】
【0029】
本発明のプラズマリアクタは、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生、改質効率の低下及びハニカム電極の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のプラズマリアクタの一の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のプラズマリアクタの別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明のプラズマリアクタの更に別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明のプラズマリアクタの更にまた別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明のプラズマリアクタの別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明のプラズマリアクタの更に別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明のプラズマリアクタの更にまた別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明のプラズマリアクタの別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明のプラズマリアクタの更に別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明のプラズマリアクタの更にまた別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図11】従来のプラズマリアクタの一の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図12】従来のプラズマリアクタの別の実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のプラズマリアクタを実施するための形態について説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備えるプラズマリアクタを広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0032】
[1]本発明のプラズマリアクタの第1の実施形態:
本発明のプラズマリアクタは、図1に示すプラズマリアクタ1Aのように、被改質ガス2の導入口4及び改質ガス6の排出口8が形成された反応容器10と、反応容器10の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極12と、一対の電極12に対して電圧を印加するパルス電源14と、被改質ガス2の改質反応を促進する触媒とを備え、一対の電極12の一方は、導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極12bであり、一対の電極12の他方は、ハニカム電極12bの端面と対向するように配置された対向電極12aであり、触媒が、ハニカム電極12bの隔壁に担持されているプラズマリアクタを基本構成とする。
【0033】
そして、本発明のプラズマリアクタの第1の実施形態は、図1に示すプラズマリアクタ1Aのように、ハニカム電極12bにおける対向電極12aに対向する端面の中央部に、凹曲面30Aが形成されたものである。
【0034】
このように、ハニカム電極の端面の中央部に凹曲面を形成することにより、対向電極の先端からハニカム電極の端面中心部に至るまでの放電距離と、対向電極先端からハニカム電極の端面外周部に至るまでの放電距離の差が縮小される。即ち、ハニカム電極の端面において放電距離が均一化される。この放電距離の均一化により、局部的にプラズマが集中し難くなるため、プラズマが広がり、被改質ガスとプラズマとの相互作用が高まる。これにより、改質反応を促進する要素に繋がる。また、局部的なプラズマの集中が抑制されるため、これに伴う電気的ノイズが小さくなる。このため、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生及び改質効率の低下を抑制することができる。
【0035】
[1−1]凹曲面:
「凹曲面」は、字義通り、凹んだ曲面である。即ち、第1の実施形態におけるハニカム電極の端面に曲面的な窪みが形成されている。凹曲面の形状としては、例えば放物面等を挙げることができる。凹曲面は、ハニカム電極の端面中心が最深部となるように、一の端面につき1箇所形成することが好ましい。
【0036】
凹曲面の最深部の深さは、被改質ガスとプラズマの相互作用を高めるという観点から、1〜5mmとすることが好ましい。1mm未満であると、放電距離を均一化し難くなる。一方、5mmを超えると、被改質ガスとプラズマとの相互作用が弱くなり、改質効率が低下するおそれがある。
【0037】
凹曲面の曲率は特に限定されないが、ハニカム電極の端面の全域において放電距離を均一化させるという観点から、R10〜R30とすることが好ましい。R10未満であると、局所的にプラズマが集中して被改質ガスの改質反応が進行し難くなるおそれがある。一方、R30を超えると、前記と同様に局所的にプラズマが集中して被改質ガスの改質反応が進行し難くなるおそれがある。このような凹曲面は、例えば、対向電極の先端と凹曲面最深部を結ぶ直線を半径とする球面を仮定し、その球面に沿ってハニカム電極の端面を切削する等の方法で形成することができる。
【0038】
本明細書において、「端面の中央部に凹曲面が形成される」というときは、少なくともハニカム電極の端面中央部に凹曲面が形成されていることを意味し、図1に示すように、ハニカム電極12bの端面中央部を含めた端面全域に凹曲面30Aが形成されている場合も含むものとする。
【0039】
但し、本発明のプラズマリアクタは、図2に示すプラズマリアクタ1Bのように、ハニカム電極12bが、対向電極12aに対向する端面の外周部は平面状に形成される一方、端面の中央部には凹曲面30Bが形成されたものであることが好ましい。即ち、図1に示すプラズマリアクタ1Aのように、ハニカム電極12bの端面全体が凹曲面30Aとなっているのではなく、図2に示すプラズマリアクタ1Bのように、ハニカム電極12bの端面中央部のみに凹曲面30Bが形成されていることが好ましい。
【0040】
前記構造により、ハニカム電極の端面において電子が流れる経路が長くなり、前記端面の一部にプラズマ放電が集中する不具合を緩和することができる。従って、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生及び改質効率の低下を抑制することができる。ハニカム電極の端面外周部に形成される平面部(凹曲面以外の部分)は、ハニカム電極端面の外縁から幅1〜5mmの範囲で形成することが好ましい。換言すれば、ハニカム電極端面の外縁から幅1〜5mmの領域を残した上で、その領域より内側の部分に凹曲面を形成すればよい。平面部の幅が1mm未満であると、エッジ効果が大きくなるために平面部に局所的な電子集中を生じ易くなるおそれがある。また、プラズマ放電の領域も拡がりにくくなる。一方、平面部の幅が5mmを超えると、凹曲面の面積、即ちプラズマ放電の照射領域が狭くなり、改質反応が進行し難くなるおそれがある。
【0041】
[1−2]対向電極:
第1の実施形態においては、図1に示すプラズマリアクタ1Aのように、対向電極12aは、その先端が凸曲面32に形成されたものであることが好ましい。このような構造は、ハニカム電極の端面に凹曲面を形成する構成と相俟って、ハニカム電極の端面と対向電極との間の放電距離を均一化する効果を向上させる。
【0042】
凸曲面の形態は特に限定されないが、例えば、線状電極や棒状電極の先端を面取り又はR加工して凸曲面とした形態等を挙げることができる。但し、第1の実施形態においては、対向電極の先端に末端部に比して外径が大なる球体や楕円球体を付設したマッチ棒型、半球体や半楕円球体等の笠部を付設したキノコ型等とする形態が好ましい。
【0043】
前記のような形態は、線状電極や棒状電極の先端を加工して凸曲面とする形態と比較して、外径、表面積の大きい凸曲面を形成することができ、ハニカム電極の端面と対向電極との間の放電距離を均一化する効果をより向上させることができる。図1に示すプラズマリアクタ1Aの対向電極12aは、その先端に半楕円球状の笠部を付設してキノコ型とした形態の例である。
【0044】
第1の実施形態においては、対向電極の凸曲面は、ハニカム電極の凹曲面と曲率を同じくする曲面に形成されたものであることが好ましい。このような形態は、ハニカム電極の端面と対向電極との間の放電距離を均一化する効果をより一層向上させることができる。この場合の曲率としては、ハニカム電極の凹曲面の好ましい曲率と合致させるため、R10〜R30とすることが好ましい。
【0045】
第1の実施形態においては、図1に示すプラズマリアクタ1Aのように、対向電極12aが導電性セラミックスからなるものであることが好ましい。従前は、金属からなる対向電極が汎用されてきたが、ハニカム電極と同じ導電性セラミックスで対向電極を構成することにより、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生、改質効率の低下を抑制することができる。中でも、対向電極がハニカム電極と同種の導電性セラミックスからなるものであることが好ましく、対向電極とハニカム電極が炭化珪素からなるものであることが更に好ましい。なお、この構成は後述する第2の実施形態においても有効である。
【0046】
[2]本発明のプラズマリアクタの第2の実施形態:
本発明のプラズマリアクタの第2の実施形態は、前記第1の実施形態と基本構成を同じくするプラズマリアクタであって、図7に示すプラズマリアクタ1Gのように、ハニカム電極12bの外周面全体に当接するように配置された、金属からなる面状導電部材34を介して、パルス電源14と電気的に接続されたものである。
【0047】
従来は、針状の導通部材によりハニカム電極とパルス電源との導通を図ることが行われていたが、第2の実施形態のように、面状導電部材を介してハニカム電極とパルス電源を接続することにより、ハニカム電極の外周面全体に電圧が印加され、ハニカム電極の一部に電圧が集中する不具合を効果的に防止することができる。即ち、ハニカム電極の一部に電圧が集中しないため、ハニカム電極内の電子流れも集中せず、これが局所的なプラズマ発生を抑制することになる。これにより、局所的なプラズマ発生に伴うハニカム電極への損傷を低減することができる。従って、ハニカム電極の劣化を抑制することができ、ハニカム電極の耐用時間を延長させることができる。また、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生及び改質効率の低下を抑制することができる。なお、この構成は既述の第1の実施形態においても有効である。
【0048】
[2−1]面状導電部材:
「面状導電部材」とは、従来用いられてきた針状部材とは異なり、ハニカム電極と一点で接触して導通を図るのではなく、ハニカム電極の外周面に対して、広がりを持った複数の点又は面で接触して電気的導通を確保する部材を意味する。例えば、導電性材料からなるシート、フィルム、マット、メッシュ(ネット)等を挙げることができる。
【0049】
面状導電部材は、導電性材料からなるものであればよく、導電性が高い金属又は合金からなるものが好ましい。導電性が高い金属としては、ステンレス、ニッケル、銅、アルミニウム、鉄等を、導電性の高い合金としては、アルミニウム−銅合金、チタン合金、ニッケル合金(例えば、商品名「インコネル」、ニラコ社製)等を挙げることができる。中でも、安価で扱い易いという理由から、銅又は銅合金からなるものであることが好ましい。「銅合金」としては、前記アルミニウム−銅合金等を挙げることができる。より具体的には、銅製のテープ、銅製のワイヤーメッシュ等を面状導電部材として好適に用いることができる。
【0050】
[2−2]絶縁部材:
第2の実施形態では、ハニカム電極の外周面全体に当接するように面状導電部材を配置するため、反応容器(通常、金属又は合金で構成される。)との短絡を防止する観点から、図7に示すプラズマリアクタ1Gのように、絶縁性材料からなる絶縁部材36を介して反応容器10内部に設置することが好ましい。
【0051】
この場合の絶縁性材料としては、絶縁性セラミックスを好適に用いることができる。例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、窒化アルミニウム、サイアロン、ムライト、シリカ、コーディエライト等を用いることが好ましい。これらのセラミックスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
絶縁部材の形態は特に限定されず、例えば、絶縁部材としてセラミックス製のブロックを用い、当該ブロックでハニカム電極を狭持して反応容器内に設置する形態等が挙げられる。但し、第2の実施形態においては、絶縁部材としてセラミックス製のマットを用い、当該マットでハニカム電極を巻回して反応容器内に設置する形態が好ましい。このような形態は、セラミックスブロックを用いた場合と比較して、耐衝撃性が高く、コンパクトな構造とすることができ、車載用途等において好適に用いることができる。
【0053】
セラミックス製のマットの種類は特に限定されないが、例えば、セラミックスファイバーを絡み込んだ構造のものであって、厚さ1〜5mm、坪量100〜150g/mのもの等を好適に用いることができる。
【0054】
[3]本発明のプラズマリアクタの基本構成:
第1の実施形態及び第2の実施形態は、図1に示すプラズマリアクタ1Aのように、ハニカム電極12b、対向電極12a、触媒、反応容器10、パルス電源14、補助電極、遮蔽部材等を構成部材とする基本構成において共通する。以下、第1の実施形態及び第2の実施形態に共通する構成について、構成部材ごとに説明する。
【0055】
[3−1]ハニカム電極:
本発明のプラズマリアクタは、図1に示すように反応容器10の内部空間に、相対向するように一対の電極12が配置されており、この一対の電極12に電圧を印加させることによってプラズマを発生させるものである。そして、本発明のプラズマリアクタにおいては、図1に示すようにその一方の電極をハニカム電極12bとしている。
【0056】
本明細書にいう「ハニカム電極」とは、導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム構造の電極を意味する。即ち、ハニカム電極は導電性セラミックスからなるハニカム構造体である。
【0057】
本発明のプラズマリアクタにおいては、ハニカム電極の外形(全体形状)を、ハニカム電極のセル形成方向の長さに対するハニカム電極のセル開口端面の最大外径の比率が0.50〜1.2の範囲内となるように形成することが好ましい。即ち、ハニカム電極の奥行きを長く構成することが好ましい。これにより、被改質ガスと触媒との接触時間(即ち、反応時間)を延長させることができ、触媒の効果により、また、セル内で発生する反応熱の増大によって、改質反応が更に促進される。即ち、改質反応の反応効率が向上するという効果が得られる。前記効果をより確実に得るためには、前記比率を0.50〜1.0の範囲内とすることが更に好ましい。
【0058】
ハニカム電極のセル形成方向の長さは、25〜60mmであることが好ましく、30〜60mmであることが更に好ましい。25mmより短いと、被改質ガスと触媒との接触時間が短く、被改質ガスに含まれる炭化水素の大部分が改質されないまま反応容器から流出してしまう場合がある。一方、60mmより長いと、被改質ガスと触媒との接触時間は延長されるものの、被改質ガスがハニカム電極のセルを通過する際の圧力損失が大きくなり、被改質ガスを処理する際の空間速度が低下するおそれがある。また、ハニカム電極の末端側まで反応熱が行き渡らず、ハニカム電極の温度上昇による反応効率向上の効果を得られない場合がある。
【0059】
ハニカム電極のセル開口端面の最大外径は、25〜35mmであることが好ましく、27〜33mmであることが更に好ましい。25mmより短いと、圧力損失が増加するおそれがある。一方、35mmより長いと、プラズマを発生させるための電力が大量に必要となることに加え、ハニカム電極が溶損する場合がある。
【0060】
なお、本明細書にいう「最大外径」とは、ハニカム電極のセル開口端面の外周上の2点間を結ぶ直線のうち最も長い直線の長さを意味するものとする。例えば、ハニカム電極のセル開口端面の形状が円形である場合、「最大外径」はその円の直径の長さに等しく、矩形状である場合、「最大外径」はその矩形の対角線の長さに等しい。
【0061】
ハニカム構造の具体的な形態については特に限定されず、従来公知のハニカム構造を採用すればよい。例えば、セル形状(セル形成方向と直交する方向に切断した際の断面形状)は、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、その他の多角形等の中から所望の形状を適宜選択すればよい。また、セル開口部の一部が目封止されたものであってもよい。
【0062】
ハニカム電極のセル密度(即ち、単位断面積当たりのセルの数)を4〜192セル/cm(25〜1200セル/平方インチ)の範囲内とすることが好ましい。セル密度が4セル/cm(25セル/平方インチ)より低くなると、セル内で発生する反応熱を利用する前に改質ガスがハニカム電極のセルを通過してしまい、被改質ガスとセルの隔壁に担持された触媒との接触時間(即ち、反応時間)が短くなる場合がある。従って、触媒の効果を十分に享受できず、改質反応の促進効果が不十分となってしまうおそれがある。
【0063】
一方、セル密度が192セル/cm(1200セル/平方インチ)を超えると、被改質ガスと触媒との接触時間は延長されるものの、被改質ガスがハニカム電極のセルを通過する際の圧力損失が大きくなり、被改質ガスを処理する際の空間速度が低下する場合がある。また、ハニカム電極の末端側まで反応熱が行き渡らず、ハニカム電極の温度上昇による反応効率向上の効果を得られないおそれがある。
【0064】
前記のように、ハニカム電極を奥行きの長い形状とした場合、その奥行きの長さによっては圧力損失が増加するおそれもある。この場合にはハニカム電極のセル密度を低くすることで、圧力損失を減少させることができる。逆に、ハニカム電極を奥行きの短い形状とした場合でも、ハニカム電極のセル密度を高くすることで、被改質ガスとセルの隔壁に担持された触媒との接触時間(即ち、反応時間)を延長することができ、触媒の効果を十分に享受することができる。
【0065】
また、隔壁の厚さ(壁厚)についても、目的に応じて適宜設計すればよく、特に制限はない。例えば、壁厚を50μm〜2mmとすることが好ましく、60〜500μmとすることが更に好ましい。このような形態は炭化水素の改質による水素生成に用いる場合に好適である。壁厚を50μm未満とすると、機械的強度が低下して衝撃や温度変化による熱応力によって破損することがある。一方、2mmを超えると、ハニカム電極に占めるセル容積の割合が低くなり、被改質ガスが透過する際の圧力損失が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0066】
ハニカム電極を構成する「導電性セラミックス」としては炭化珪素が好ましい。但し、ハニカム電極が導電性を有する限り、必ずしも電極全体が炭化珪素で構成されている必要はない。即ち、本発明のプラズマリアクタにおいては、ハニカム電極が炭化珪素を含む導電性セラミックスからなるものであることが好ましい。この場合、ハニカム電極中の炭化珪素の含有率は、導電性の低下を抑制するという理由から、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。
【0067】
また、ハニカム電極は、気孔率30〜60%の多孔体であることが好ましく、40〜50%の多孔体であることが更に好ましい。30%未満であると、セラミックス粒子間の空隙での微小放電の効果が少なくなるおそれがある。一方、60%超では隔壁の強度不足等の不具合を生じるおそれがある。なお、ハニカム電極は、セラミックス焼成体に対しケイ素を含浸して緻密化する等、気孔率を適宜調整してもよい。
【0068】
ハニカム電極は、その密度が0.5〜4.0g/cmの多孔体であることが好ましく、1.0〜3.0g/cmの多孔体であることが更に好ましい。0.5g/cm未満であると、ハニカム電極自体の強度が不十分となり、衝撃を受けると破損するおそれがある。一方、4.0g/cmを超えると、製造時において加工が困難となり、製造コストが上昇するおそれがある。
【0069】
ハニカム電極は、導電性を確保する観点から、その電気抵抗は180℃で3.5Vの電圧印加の時に2Ω以下のものが好ましく、0.3Ω以下のものが更に好ましい。このような電気抵抗とするためには、導電性セラミックスとして炭化珪素を用い、これに金属珪素を混合する、或いは炭化珪素と金属珪素を複合化する等の処理をすることが好ましい。
【0070】
なお、ここにいう「電気抵抗」とは、ハニカム電極のガスが流れる方向(セル形成方向)に沿って、長さ3.3cm、断面積1.1cm(ガスの流れ方向に垂直な断面の断面積)の直方体を切り出し、180℃の温度条件下、直流電源による定電流4端子法にて電圧端子間2.3cmで測定した値を意味するものとする。
【0071】
ハニカム電極は、担持触媒の活性化という観点から、その熱伝導率が5〜300W/mKのものが好ましく、10〜200W/mKのものが更に好ましく、20〜100W/mKのものが特に好ましい。熱伝導率を5W/mK未満とすると、担持触媒の活性化に時間を要するおそれがある。一方、300W/mKを超えると、外部への放熱が大きくなり、担持触媒が十分に活性化しないおそれがある。このような熱伝導率を有する導電性セラミックスとしては、例えば、炭化珪素を挙げることができる。
【0072】
ハニカム電極は、対向電極側端面と対向電極との電極間距離が1〜30mmとなるように配置されていることが好ましく、5〜10mmとなるように配置されていることが更に好ましい。電極間距離を1mm未満とすると、電界集中が起こり易く、これを起点として短絡し易くなることがある。また、電極間でプラズマ放電するものの、炭化水素の改質反応に伴う水素生成量が少なくなる場合がある。一方、30mmを超えると、プラズマ放電が安定し難くなり、プラズマの発生効率が低下することがある。
【0073】
[3−2]対向電極:
本発明のプラズマリアクタは、図1に示すように、ハニカム電極12bと対になる電極である対向電極12aを備える。本明細書にいう「対向電極」には、既に説明したマッチ棒型、キノコ型の他に、一方向に突出する線状又は面状の電極や、これらが折れ曲がった形状の電極も含まれる。例えば、針状電極、棒状電極、平板状(短冊状)電極等の直線的な形状の他、L字型等の折れ曲がった形状等を挙げることができる。圧着端子又は圧着端子でなくても圧着端子のように先端が広がったもの若しくは筒状のもの等を対向電極として使用してもよい。対向電極は少なくとも1本配置する。
【0074】
対向電極の長さは、プラズマリアクタのサイズを小さくするという理由から、3〜50mmであることが好ましく、5〜30mmであることが更に好ましい。長さを3mm未満とすると、プラズマリアクタの製造時に、対向電極のハンドリングが不安定になり、対向電極の固定が困難となるおそれがある。一方、50mmを超えると、流動する被改質ガスとの接触により対向電極が曲がり易くなるおそれがある。
【0075】
また、対向電極が針状又は棒状である場合、その外径は0.1〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることが更に好ましい。外径を0.1mm未満とすると、流動する被改質ガスとの接触により対向電極が曲がり易くなり、プラズマ放電が不安定になるおそれがある。一方、5mmを超えると、プラズマ放電が制御し難くなるおそれがある。
【0076】
対向電極は導電性を確保する観点から、導電性が高い材質、具体的には、面状導電部材の項で列挙した金属又は合金、第1の実施形態の項で例示した導電性セラミックス等によって構成されていることが好ましい。
【0077】
本発明においては、ハニカム電極と対になる対向電極を備えていればよく、対向電極の数は限定されない。例えば、図6に示すプラズマリアクタ1Fのように、一対の電極12の一方が、ハニカム電極12bを挟んで対向するように配置された、少なくとも一対の対向電極12a,12cである形態も好ましい。このような形態は、図1に示すプラズマリアクタ1Aのように対向電極12aを1本備えたものと比較して、被改質ガスがプラズマ空間を通過する時間が増えることにより改質反応が確実に進行するため、未反応の炭化水素を低減し、副生成物の生成を抑制することができる。従って、炭化水素の改質反応に用いた場合に、更に水素収率を高くし、副生物の生成をより抑制することができるという効果を奏する。
【0078】
[3−3]補助電極:
本発明のプラズマリアクタは、図4に示すプラズマリアクタ1Dのように、ハニカム電極12bが、対向電極12aに対向する端面の中央部から対向電極12aに向かって突出する金属製の補助電極38Aを備え、補助電極38Aは、ハニカム電極12bにその一部が埋め込まれるとともに、その残部がハニカム電極12bの端面から突出するように配置されたものであることが好ましい。
【0079】
前記のような構成により、放電の一部を補助電極に導き、ハニカム電極に加わるダメージを減少させることができるため、ハニカム電極の耐用時間を延長させることができる。従って、電極をハニカム形状とした効果を維持しつつ、ハニカム電極の劣化を抑制することができ、ハニカム電極の耐用時間を延長させることが可能となる。また、プラズマ放電に伴う電気的ノイズの発生及び改質効率の低下を抑制することもできる。
【0080】
補助電極の材質としては、対向電極の項で列挙した金属又は合金を好適に用いることができる。補助電極の形態は特に限定されないが、外径が1〜5mmの針状電極又は棒状電極を好適に用いることができる。
【0081】
補助電極はハニカム電極の劣化を抑制し、被改質ガスの改質反応を促進するとする観点から、その先端部がハニカム電極の端面から1〜5mm突出していることが好ましい。突出している長さが1mm未満であると、ハニカム電極の劣化抑制効果を得られ難くなる。一方、5mmを超えると、被改質ガスとハニカム電極に担持した触媒との相互作用が小さくなるために改質反応を促進し難くなり、改質効率が低下するおそれがある。
【0082】
また、補助電極は、補助電極全体の長さに対して、長さ50〜95%の部分がハニカム電極に埋め込まれていることが好ましい。埋め込まれている比率が50%未満であると、補助電極がハニカム電極から外れ易くなるおそれがある。また、埋め込まれている比率が95%より大きいと補助電極の突出効果が小さくなるおそれがある。
【0083】
補助電極と対向電極の電極間距離は、ハニカム電極と対向電極の電極間距離と同様の理由から、1〜30mmとすることが好ましく、5〜10mmとすることが更に好ましい。
【0084】
本発明のプラズマリアクタは、対向電極として、ハニカム電極を挟んで対向するように配置された、少なくとも一対の対向電極を備えており、補助電極として、一対の対向電極の各々に向かって突出する、少なくとも一対の補助電極を備えていることが好ましい。このような形態は、対向電極12aを2本備えた形態において、ハニカム電極に加わるダメージを減少させ、ハニカム電極の耐用時間を延長させることができる点において好ましい。
【0085】
前記形態においては、ハニカム電極の両端面に、各々別体の補助電極を付設してもよい。但し、図6に示すプラズマリアクタ1Fのように、補助電極38Bが、ハニカム電極12bの内部を貫通し、ハニカム電極12bの両端面から両先端部が突出するように配置されていることが好ましい。このような形態は、ハニカム電極の両端面に、各々別体の補助電極を付設した場合と比較して、被改質ガスの改質反応を促進する効果に優れる点で好ましい。
【0086】
[3−4]触媒:
本発明のプラズマリアクタは、被改質ガスの改質反応を促進する触媒を備えており、この触媒はハニカム電極の隔壁に担持されている。
【0087】
触媒は、前記触媒作用を有する物質であれば特に制限なく使用することができる。例えば、貴金属(白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、インジウム、銀、金等)、アルミニウム、ニッケル、ジルコニウム、チタン、セリウム、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、スズ、鉄、ニオブ、マグネシウム、ランタン、サマリウム、ビスマス、及びバリウムからなる群より選択された少なくとも一種の元素を含有する物質を挙げることができる。前記元素を含有する物質としては、金属単体、金属酸化物、それ以外の化合物(塩化物、硫酸塩等)等の各種形態が含まれる。これらの物質は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
触媒の担持量としては、0.05〜70g/Lであることが好ましく、0.1〜40g/Lであることが更に好ましい。担持量を0.05g/L未満とすると、触媒作用が発現し難いおそれがある。一方、70g/Lを超えると、プラズマリアクタの製造コストが上昇するおそれがある。
【0089】
触媒は担体微粒子に担持された触媒コート微粒子の状態でハニカム電極の隔壁に担持されていることが好ましい。このような形態は、被改質ガスの触媒に対する反応効率を高めるという利点がある。担体微粒子としては、例えば、セラミックス粉末を用いることができる。セラミックスの種類は特に限定されないが、例えば、金属酸化物、特にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、ゼオライト、モルデナイト、シリカアルミナ、金属シリケート、コージェライト等の粉末を好適に用いることができる。これらのセラミックスは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。このような触媒コート微粒子をハニカム電極の隔壁にコーティングすることにより、担持させることができる。
【0090】
これらの粉末の平均粒子径は0.01〜50μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることが更に好ましい。平均粒子径を0.01μm未満とすると、触媒が担体微粒子の表面に担持され難くなるおそれがある。一方、50μmを超えると、触媒コート微粒子がハニカム電極から剥離し易くなるおそれがある。
【0091】
担体微粒子に対する触媒の質量比率は、0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることが更に好ましい。触媒の質量比率を0.1質量%未満とすると、改質反応が進行し難いおそれがある。一方、20質量%を超えると、触媒が均一に分散されずに互いに凝集し易くなるために、担体微粒子に均一に担持され難くなる。従って、20質量%を超える量の触媒を加えても、その量に見合った触媒添加効果を得られず、改質反応が促進されないおそれがある。
【0092】
触媒コート微粒子は、例えば、担体微粒子となるセラミックス粉末に触媒成分を含む水溶液を含浸させた後、乾燥し、焼成することにより得ることができる。この触媒コート微粒子に分散媒(水等)、その他の添加剤を加えてコーティング液(スラリー)を調製し、このスラリーをハニカム電極の隔壁にコーティングすることによって、ハニカム電極の隔壁に触媒を担持することができる。
【0093】
[3−5]反応容器:
本発明のプラズマリアクタは、図1に示すように被改質ガス2の導入口4及び改質ガス6の排出口8が形成された反応容器10を備えている。反応容器は、ガスを通過させる必要から中空形状であることが必要であるが、形状について他の制限はなく、例えば、円筒状、角筒状等の構造のものを用いることができる。反応容器の最大内径についても特に制限はなく、プラズマリアクタの用途により適宜サイズを決定すればよい。
【0094】
また、反応容器を構成する材質は特に限定されないが、加工性が良好な金属(例えば、ステンレス等)で構成することが好ましい。但し、短絡を防止するため、反応容器内の電極の設置部分等については絶縁性材料により構成することが好ましい(例えば、ハニカム電極支持体等)。
【0095】
[3−6]遮蔽部材:
本発明のプラズマリアクタは、図5に示すプラズマリアクタ1Eのように、絶縁性材料からなり、プラズマの発生領域以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽する遮蔽部材40を更に備え、遮蔽部材40は、ハニカム電極12bのガス導入端面の外周側を隠蔽するように、対向電極12aとハニカム電極12bとの間の空間に突出されたものであることが好ましい。
【0096】
遮蔽部材40はプラズマ発生領域を通過して活性化された(又は一部反応が進行した)被改質ガス2を優先的にハニカム電極12bのセルに流入させるための部材である。遮蔽部材によって、プラズマ発生領域を通過して活性化された(又は一部反応が進行した)被改質ガスを優先的にハニカム電極のセルに流入させることができ、改質反応の反応効率を向上させることができる。
【0097】
図5に示すように、遮蔽部材40はプラズマ発生領域以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽する必要から、プラズマを発生させる対向電極12aとハニカム電極12bとの間に配置される。遮蔽部材40の開口部の開口面積はプラズマ発生領域以外の領域を通過した被改質ガス2の流入を遮蔽しつつ、圧力損失が増加することを防止するという理由から、80〜200mmとすることが好ましく、90〜150mmとすることが更に好ましい。開口面積を80mm未満とすると、プラズマ発生領域を通過した被改質ガスまでもがハニカム電極に流入し難くなり、圧力損失も増加するおそれがある。一方、開口面積が200mmを越えるとプラズマ発生領域以外の領域を通過した被改質ガスの流入を十分に遮蔽することができなくなり、改質反応の反応効率が低下するおそれがある。
【0098】
遮蔽部材の形状は、プラズマ発生領域以外の領域を通過した被改質ガスを遮蔽して、前記ハニカム電極のセルに流入することを抑制し得るものである限り、特に限定されるものではない。例えば、図5に示す遮蔽部材40は、中央に円形の開口部42が形成されたものである。但し、この開口部の形状は、円形以外の形状、例えば矩形状等であってもよい。
【0099】
遮蔽部材は絶縁性材料により構成する。絶縁部材の項で列挙した絶縁性セラミックス(アルミナ等)を好適に用いることができる。但し、他の絶縁性材料、例えば、アノダイズ処理(アノード酸化処理)によって表面に酸化物被膜を形成した金属(アルマイト等)を用いることもできる。
【0100】
[3−7]パルス電源:
本発明のプラズマリアクタは、図1に示すように一対の電極12(対向電極12a、ハニカム電極12b)に対して電圧を印加するパルス電源14を備える。パルス電源は周期的に電圧を加えられる電源であり、中でも、(a)ピーク電圧が1kV以上で、かつ1秒当たりのパルス数が1以上のパルス波形、(b)ピーク電圧が1kV以上で、かつ周波数が1以上の交流電圧波形、(c)電圧が1kV以上の直流波形、又は、(d)これらの2種以上を重畳してなる電圧波形、を供給することができるパルス電源であることが好ましい。そして、ピーク電圧が1〜20kVのパルス電源であることが好ましく、ピーク電圧が5〜10kVのパルス電源を用いることが更に好ましい。
【0101】
このようなパルス電源としては、例えば、スイッチング素子として静電誘導型サイリスタ(SIサイリスタ)又はMOS−FETを用いた高電圧パルス電源等を挙げることができる。中でも、使用条件が広いという理由から、スイッチング素子としてSIサイリスタを用いた高電圧パルス電源(例えば、日本ガイシ社製)を用いることが好ましい。なお、「MOS−FET」とは、電界効果トランジスタ(Field effect transistor:FET)のうち、ゲート電極が金属(Metal)−半導体酸化物(Oxide)−半導体(Semiconductor)の3層構造になっているタイプのものを意味する。
【0102】
[4]製造方法:
本発明のプラズマリアクタは、例えば以下のようにして製造することができる。従来公知の押出成形法により、ハニカム電極となるハニカム構造体を得る。具体的には、セラミックス粉末を含む坏土を所望の形状に押し出した後、乾燥し、焼成することによって、ハニカム電極となるハニカム構造体を得る。この際、ハニカム構造体を得るための原料セラミックスとしては導電性材料の炭化珪素等を用いる。そして、第1の実施形態においては、一方又は両方の端面を切削加工等することにより凹曲面を形成する。
【0103】
前記のように得られたハニカム構造体には、その隔壁に触媒を担持させる。予め、担体微粒子となるセラミックス粉末に触媒成分を含む水溶液を含浸させた後、乾燥し、焼成することにより触媒コート微粒子得る。この触媒コート微粒子に分散媒(水等)、その他の添加剤を加えてコーティング液(スラリー)を調製し、このスラリーをハニカム構造体の隔壁にコーティングした後、乾燥し、焼成することによって、ハニカム構造体の隔壁に触媒を担持させる。
【0104】
前記のように得られたハニカム構造体(即ちハニカム電極)を、アルミナ等の絶縁性材料からなる絶縁部材を介して反応容器の内部空間に設置する。ハニカム電極は対向電極と相対向するように所定の距離だけ離隔させて配置する。
【0105】
反応容器については、従来公知の金属加工法により、管状(筒状)の反応容器を形成すればよい。この際、反応容器を得るための金属材料としてはステンレス等の加工容易な金属材料を用いることが好ましい。
【0106】
第2の実施形態においては、ハニカム電極の外周面に当接するように面状導電部材を巻回した上で、反応容器の内部に設置する。この際、絶縁部材としてセラミックス製のマットを用い、面状導電部材を巻回されたハニカム電極に対して、更に当該マットを巻回して反応容器内に設置することも好ましい。
【0107】
最後に、ハニカム電極及び対向電極をパルス電源と電気的に接続することにより、プラズマリアクタを構成することができる。
【0108】
[5]使用方法:
本発明のプラズマリアクタは、改質反応、特に、炭化水素類やアルコール類を被改質ガスとし、水素含有改質ガスを得る改質反応に好適に用いることができる。また、燃焼制御、排ガス後処理、触媒再生、触媒着火等にも利用することができる。更に、被改質ガスを導入せずに空気、又は酸素をプラズマリアクタへ導入してプラズマ放電を行うことにより、高いエネルギーを持つ電子と酸素が衝突してオゾン(O)を発生するオゾナイザー(オゾン発生器)として利用することもできる。近年、オゾンの強力な酸化力を活かした自動車排気ガス浄化の用途等が考えられている。
【0109】
「炭化水素類」としては、例えば、メタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサン等の軽質炭化水素;イソオクタン、ペンタデカン等の石油系炭化水素;の他、前記石油系炭化水素等を含むガソリン、灯油、ナフサ、軽油等の石油製品;を挙げることができる。「アルコール類」としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等を挙げることができる。これらの被改質ガスは、1種を単独で、また、2種以上を混合して用いることができる。
【0110】
改質の方法についても特に限定されるものではない。例えば、酸素を用いる部分改質、水を用いる水蒸気改質、酸素、水を用いるオートサーマル等のいずれの方法にも用いることができる。
【0111】
改質反応は、本発明のプラズマリアクタを用い、被改質ガスを反応容器の内部空間に導入し、パルス電源から電極に対して、(a)ピーク電圧が1kV以上で、かつ1秒当たりのパルス数が1以上のパルス波形、(b)ピーク電圧が1kV以上で、かつ周波数が1以上の交流電圧波形、(c)電圧が1kV以上の直流波形、及び、(d)これらの2種以上を重畳してなる電圧波形のうちの一種の電圧波形を有するパルス電圧を印加することにより行うことができる。
【実施例】
【0112】
本発明のプラズマリアクタについて、図1〜図10に示すプラズマリアクタ1A〜プラズマリアクタ1Jを例として更に具体的に説明する。但し、本発明のプラズマリアクタは、その発明特定事項を備えたプラズマリアクタを全て包含するものであり、以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
[プラズマリアクタの作製]
まず、以下のようにして、プラズマリアクタを作製した。
【0114】
(実施例1)
図1に示すようなプラズマリアクタ1Aを作製した。反応容器10としては、ステンレスからなり、内径38mm、厚さ3mm、長さ100mmの円筒体を用いた。この反応容器10の内部空間に、絶縁部材36Aに巻回されたハニカム電極12b、及び対向電極12aを設置した。
【0115】
ハニカム電極12bとしては、炭化珪素(含有率75質量%)からなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を用いた。ハニカム構造体としては、エンジン排ガス等に含有される粒子状物質を捕集するための炭化珪素製ディーゼルパティキュレートフィルタ(商品名:SiC−DPF、日本ガイシ社製)を切出して使用した。
【0116】
より具体的には、セル形状は正方形状、セル密度は46セル/cm、外径30mmφ、長さ(ガスの流れ方向の長さ)は30mmの円柱状のものであった。また、前記SiC−DPFから、ガスが流れる方向に沿って、長さ2.5cm、断面積12.3cm(ガスの流れ方向に垂直な断面の断面積)の直方体を切り出し、180℃の温度条件下、直流電源による定電流4端子法にて電圧端子間2.5cmで測定した電気抵抗は、0.2Ωであった。更に、熱伝導率は100W/mKであった。
【0117】
このハニカム電極12bの端面には凹曲面30Aを形成した。凹曲面30Aはハニカム電極12bの端面全域に渡って形成した。また、凹曲面30Aは、最大深さ5mm、曲率R15の曲面とした。
【0118】
前記ハニカム構造体に触媒を担持させた。触媒の担持は、以下の方法により行った。予め、担体微粒子となるアルミナ粉末(比表面積107m/g)に触媒成分ロジウムを含む硝酸ロジウム(Rh(NO)水溶液を含浸させた後、120℃で乾燥し、大気中550℃で3時間焼成することにより触媒コート微粒子を得た。アルミナに対するロジウムの質量比率は、0.5質量%であった。
【0119】
この触媒コート微粒子に分散媒(水)、アルミナゾルを加え、硝酸水溶液でpHを4に調整してコーティング液(スラリー)を得た。ハニカム電極をこのスラリーに浸漬させることにより、隔壁をコーティングした後、120℃で乾燥し、窒素雰囲気中550℃で1時間焼成することによって、ハニカム電極の隔壁に触媒を担持した。ハニカム電極に担持したロジウム量は1.0(g/L)であった。
【0120】
絶縁部材36Aとしては、アルミナファイバーを絡み込んだ構造のものであって、厚さ5mm、坪量100g/mのセラミックスマットを用いた。
【0121】
対向電極12aとしては、ハニカム電極12bと同一材料である炭化珪素からなり、軸部の先端に軸部より外径が大なる笠部が形成されたキノコ型のものを使用した。より具体的には、軸部末端から笠部先端までの全長12mm、笠部の最大外径6mmφ、軸部の外径3mmφ、軸部の長さ9mmのキノコ型とした。ハニカム電極12bは対向電極12aとの電極間距離が5mmとなるように配置した。なお、このプラズマリアクタ1Aでは、対向電極12aを正極とした。
【0122】
パルス電源14としては、SIサイリスタをスイッチング素子とする高電圧パルス電源(日本ガイシ社製)を用いた。パルス電源14は、対向電極12a(正極)及びハニカム電極12b(負極)に電気的に接続した。
【0123】
(実施例2)
図2に示すようなプラズマリアクタ1Bを作製した。プラズマリアクタ1Bは、ハニカム電極12bの端面に形成する凹曲面30Bの形状を変更したことを除いては、実施例1のプラズマリアクタと同様にして作製した。凹曲面30Bはハニカム電極12bの端面外縁から幅5mmの領域については平面状とし、当該領域の内側のみ凹曲面30Bを形成した。また、凹曲面30Bは、最大深さ5mm、曲率R10の曲面とした。
【0124】
(実施例3)
図3に示すようなプラズマリアクタ1Cを作製した。プラズマリアクタ1Cは、ハニカム電極12bの外周面全体に面状導電部材34を巻回した上で、絶縁部材36Bを巻回したことを除いては、実施例2のプラズマリアクタと同様にして作製した。
【0125】
面状導電部材34としては、厚さ0.5mmの銅製テープを使用した。絶縁部材36Bとしては、実施例2で用いたのと同じセラミックスマットを用いた。
【0126】
(実施例4)
図4に示すようなプラズマリアクタ1Dを作製した。プラズマリアクタ1Dは、ハニカム電極12bの一方の端面(凹曲面30B)に補助電極38Aを埋め込んだことを除いては、実施例3のプラズマリアクタと同様にして作製した。
【0127】
補助電極としては、ニッケル基合金(商品名:インコネル、ニラコ社製)からなる長さ5mm、直径4.0mmの棒状体を用いた。この棒状体の先端部ハニカム電極12bの端面(凹曲面30B)から5mmだけ突出するように構成した。
【0128】
(実施例5)
図5に示すようなプラズマリアクタ1Eを作製した。ハニカム電極12bと対向電極12aの間の空間に、遮蔽部材40を設置したことを除いては、実施例4のプラズマリアクタと同様にして作製した。
【0129】
遮蔽部材40としては、厚さ5mmのアルミナ板であって、その中心部に直径11mmの円形開口部(開口面積95mm)が形成されたものを用いた。
【0130】
(実施例6)
図6に示すようなプラズマリアクタ1Fを作製した。一対の電極12の一方として、ハニカム電極12bを挟んで対向するように一対の電極12a,12cを配置したこと、反応容器10の長さを150mmとしたこと、補助電極38Bを、ハニカム電極12bの内部を貫通し、ハニカム電極12bの両端面から両先端部が突出するように配置したことを除いては、実施例5と同様にして、プラズマリアクタ1Eを作製した。
【0131】
対向電極12a,12cはハニカム電極12bとの電極間距離がいずれも5mmとなるように配置した。なお、このプラズマリアクタ1Eにおいても、対向電極12a,12cを正極とした。補助電極としては、実施例4で用いたのと同じニッケル基合金からなる長さ30mm、直径3mmの棒状体を用いた。この棒状体の先端部ハニカム電極12bの端面(凹曲面30B)から5mmだけ突出するように構成した。
【0132】
(比較例1)
図11に示すようなプラズマリアクタ100Aを作製した。ハニカム電極12bの端面に凹曲面を形成せず平面状としたこと、対向電極12aとして棒状電極を用いたことを除いては、実施例1のプラズマリアクタと同様にして、プラズマリアクタ100Aを作製した。
【0133】
対向電極12aの棒状電極としては、実施例4で補助電極に用いたのと同じニッケル基合金からなる長さ17.8mm、直径4.0mmの棒状体を用いた。
【0134】
(実施例7)
図7に示すようなプラズマリアクタ1Gを作製した。ハニカム電極12bの端面に凹曲面を形成せず平面状としたこと、対向電極12aとして棒状電極を用いたことを除いては、実施例3のプラズマリアクタと同様にして、プラズマリアクタ1Gを作製した。
【0135】
(実施例8)
図8に示すようなプラズマリアクタ1Hを作製した。プラズマリアクタ1Hは、ハニカム電極12bの一方の端面に補助電極38Aを埋め込んだことを除いては、実施例7のプラズマリアクタと同様にして作製した。
【0136】
補助電極としては、実施例4で用いたのと同じニッケル基合金からなる長さ10mm、直径3mmの棒状体を用いた。この棒状体の先端部ハニカム電極12bの端面から5mmだけ突出するように構成した。
【0137】
(実施例9)
図9に示すようなプラズマリアクタ1Iを作製した。ハニカム電極12bと対向電極12aの間の空間に、遮蔽部材40を設置したことを除いては、実施例8のプラズマリアクタと同様にして作製した。遮蔽部材40としては、実施例5で用いたのと同じアルミナ板を用いた。
【0138】
(実施例10)
図6に示すようなプラズマリアクタ1Jを作製した。一対の電極12の一方として、ハニカム電極12bを挟んで対向するように一対の電極12a,12cを配置したこと、反応容器10の長さを150mmとしたこと、補助電極38Bを、ハニカム電極12bの内部を貫通し、ハニカム電極12bの両端面から両先端部が突出するように配置したことを除いては、実施例9と同様にして、プラズマリアクタ1Jを作製した。
【0139】
対向電極12a,12cはハニカム電極12bとの電極間距離がいずれも5mmとなるように配置した。なお、このプラズマリアクタ1Jにおいても、対向電極12a,12cを正極とした。補助電極としては、実施例6で用いたのと同じニッケル基合金からなる長さ40mm、直径3mmの棒状体を用いた。この棒状体の先端部ハニカム電極12bの端面から5mmだけ突出するように構成した。
【0140】
[軽油の改質試験]
実施例1〜10及び比較例1のプラズマリアクタを用い、軽油の改質試験を行った。具体的には、軽油の部分酸化反応を行った。前記軽油としては、密度0.8g/cm、セタン価57の軽油を用いた。
【0141】
被改質ガスとしては、軽油を10000ppm、酸素を16000ppm含有し、残部が窒素ガスで構成されるものを使用した。被改質ガスは、250℃に加熱した窒素ガス中に、予め蒸発器を用いて気化させた軽油(液体)を所定量注入することにより調製した。この際、軽油の注入は、高圧マイクロフィーダー(商品名:JP−H型、古江サイエンス社製)を用いて行った。
【0142】
前記被改質ガスをプラズマリアクタに供給し、部分酸化反応を行った。プラズマリアクタに、周期3kHz、ピーク電圧5kVの条件で、パルス電源から一対の電極に対してパルス電圧を印加した。この際の投入電力は50Wであった。また、反応容器の内部における被改質ガスの空間速度(SV)は、いずれも8万h−1となるように調整した。
【0143】
改質反応により得られた改質ガスについて水素量を測定した。水素量の測定は、TCD(熱伝導検出器)を備えたガスクロマトグラフィー(商品名:GC3200、ジーエルサイエンス社製)を用いて行った。この際、標準ガスとしては、濃度既知の水素ガスを、キャリヤーガスとしては、アルゴンガスを用いた。ガスクロマトグラフィーでは、水素に該当するピークの面積が濃度に比例して大きくなるため、予め濃度既知の水素に該当するピークの面積と比較することにより、改質ガス中の水素量を測定することができる。
【0144】
水素生成率は、下記式(1)により算出した。その際、軽油をペンタデカン(C1532)として見積もった。その結果を表1に示す。
水素生成率(質量%)=改質ガス中の水素量/注入した軽油(C1532)量を100%改質した際に発生する水素量×100 :(1)
【0145】
水素生成率は、改質試験開始から3分後の水素生成率で評価した。水素生成率が60%以上であれば「極めて良好(A)」、30%以上、60%未満であれば「良好(B)」、30%未満であれば「不良(C)」と評価した。
【0146】
プラズマリアクタの耐久性は、改質試験開始から3分後及び10分後の水素生成率の差で評価した。水素生成率の差が5%以内であれば「極めて良好(A)」、5%超、10%以下であれば「良好(B)」、10%超であれば「不良(C)」と評価した。
【0147】
プラズマ放電に伴うノイズ評価は、プラズマリアクタから50cm離れた場所に、100V電源に接続された電源ON状態のクロマトグラムデータ処理装置(商品名:クロマトコーダ21、システムインスツルメンツ社製)を配置し、プラズマ放電に伴って前記クロマトグラムデータ処理装置のプリンターが誤作動するか否かで評価した。プリンターが全く誤作動しないのであれば「極めて良好(A)」、プリンターが1回だけ誤作動したのであれば「良好(B)」、プリンターが120秒以上の間隔で2回以上誤作動したのであれば「普通(C)」、試験中、プリンターが連続的に誤作動したのであれば「極めて不良(D)」として評価した。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
(評価)
実施例1と比較例1の対比から、ハニカム電極の端面に凹曲面を形成することにより、水素生成率を向上させ、プラズマ発生に伴う電気的ノイズを抑制することができると考えられた。これはプラズマ放電の領域が広がり、プラズマ発生領域を通過する被改質ガスの比率が向上することに起因して、改質反応が促進されたためと考えられた。
【0151】
実施例1と実施例2の対比から、ハニカム電極の端面全域ではなく、端面中央部に凹曲面を形成することにより、水素生成率を向上させ、プラズマ発生に伴う電気的ノイズを抑制することができると考えられた。特に、電気的ノイズを抑制する効果に顕著な差があった。これはハニカム電極の外周部を平面形状とすることにより、ハニカム電極の端面外縁部におけるエッジ効果を抑制することができ、前記端面の外縁部にプラズマ放電が集中する不具合を緩和することができたためと考えられた。
【0152】
実施例2と実施例3の対比又は実施例7と比較例1の対比から、面状導電部材を付設することにより、水素生成率を向上させ、プラズマ発生に伴う電気的ノイズを抑制することができると考えられた。特に、電気的ノイズを抑制する効果に顕著な差があった。これはハニカム電極の表面に均一に電子が流れるため、プラズマが一点に集中し難く、安定的にプラズマが発生し、反応効率を向上させているためと考えられた。
【0153】
実施例3と実施例4の対比又は実施例7と実施例8の対比から、補助電極を設置すると、反応開始から3分後の水素生成率と、反応開始から10分後の水素生成率との差が小さくなっており、ハニカム電極の耐久性が向上すると考えられた。
【0154】
実施例4と実施例5の対比又は実施例8と実施例9の対比から、遮蔽部材を設置することにより、水素生成率を向上させることができると考えられた。これは被改質ガスがプラズマ発生空間を通過する割合が高くなり、改質反応が促進されたためと考えられた。
【0155】
実施例5と実施例6の対比又は実施例9と実施例10の対比から、2個の対向電極がハニカム電極の両端面に各々対向するように設置することで、対向電極を1本のみ配置したプラズマリアクタと比較して、更に水素収率を向上させることができると考えられた。これは、プラズマ空間が拡がることで被改質ガスがプラズマ空間を通過する時間が増加し、改質反応が更に促進されたためと考えられた。
【0156】
以上の結果から明らかなように、(1)ハニカム電極の端面に凹曲面を形成する構成、(2)ハニカム電極の外周面に面状導電部材を設置する構成は、各々の構成を単独で採用した場合でも水素生成率の向上、プラズマ発生に伴う電気的ノイズの抑制という効果を得ることができ、両構成を組み合わせることで更に良好な効果を得ることができた。
【0157】
また、前記(1)及び/又は(2)の構成に、(3)対向電極として先端に凸曲面が形成された、導電性セラミックスからなる電極を用いる構成、(4)ハニカム電極の端面中心に補助電極を付設する構成、又は(5)遮蔽部材を設置する構成を組み合わせることで、一層良好な効果を得ることができた。
【0158】
本実施例では部分酸化の例を示したが、水を用いる水蒸気改質、酸素、水を用いるオートサーマル等の他の改質方法でも従来のプラズマリアクタと比較して高い水素生成率を示す結果が得られた。即ち、本発明のプラズマリアクタは、各種改質方法に適用することが可能であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明のプラズマリアクタは、炭化水素系化合物やアルコール類の改質反応、特に水素生成反応に好適に用いることができる。そして、長期間にわたって安定的に大量の改質ガスを供給することができるので、車載用燃料改質器等の用途にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0160】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H、1I,1J,100A,100B:プラズマリアクタ、2:被改質ガス、4:導入口、6:改質ガス、8:排出口、10:反応容器、12:電極、12a,12c:対向電極、12b:ハニカム電極、14:パルス電源、16:セル、20:ハニカム構造体、30A,30B:凹曲面、32:凸曲面、34:面状導電部材、36A,36B:絶縁部材、38A,38B:補助電極、40:遮蔽部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被改質ガスの導入口及び改質ガスの排出口が形成された反応容器と、前記反応容器の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極と、前記一対の電極に対して電圧を印加するパルス電源と、前記被改質ガスの改質反応を促進する触媒とを備え、
前記一対の電極の一方は、導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極であり、
前記一対の電極の他方は、前記ハニカム電極の端面と対向するように配置された対向電極であり、
前記触媒が、前記ハニカム電極の前記隔壁に担持されているとともに、
前記ハニカム電極が、前記対向電極に対向する端面の中央部に、凹曲面が形成されたものであるプラズマリアクタ。
【請求項2】
前記ハニカム電極が、前記対向電極に対向する端面の外周部は平面状に形成される一方、前記端面の中央部には凹曲面が形成されたものである請求項1に記載のプラズマリアクタ。
【請求項3】
前記対向電極は、その先端が凸曲面に形成されたものである請求項1又は2に記載のプラズマリアクタ。
【請求項4】
前記対向電極の前記凸曲面は、前記ハニカム電極の前記凹曲面と曲率を同じくする曲面に形成されたものである請求項3に記載のプラズマリアクタ。
【請求項5】
被改質ガスの導入口及び改質ガスの排出口が形成された反応容器と、前記反応容器の内部空間に相対向するように配置された、プラズマを発生させる一対の電極と、前記一対の電極に対して電圧を印加するパルス電源と、前記被改質ガスの改質反応を促進する触媒とを備え、
前記一対の電極の一方は、導電性セラミックスからなり、隔壁によってガスの流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム電極であり、
前記一対の電極の他方は、前記ハニカム電極の端面と対向するように配置された対向電極であり、
前記触媒が、前記ハニカム電極の前記隔壁に担持されているとともに、
前記ハニカム電極は、その外周面に当接するように配置された、金属からなる面状導電部材を介して、前記パルス電源と電気的に接続されたものであるプラズマリアクタ。
【請求項6】
前記面状導電部材が、Cu又はCu合金からなるものである請求項5に記載のプラズマリアクタ。
【請求項7】
前記対向電極が、導電性セラミックスからなるものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のプラズマリアクタ。
【請求項8】
前記ハニカム電極は、前記対向電極に対向する端面の中央部から前記対向電極に向かって突出する金属製又は合金製の補助電極を備え、
前記補助電極は、前記ハニカム電極にその一部が埋め込まれるとともに、その残部が前記ハニカム電極の前記端面から突出するように配置されたものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のプラズマリアクタ。
【請求項9】
前記対向電極として、前記ハニカム電極を挟んで対向するように配置された、少なくとも一対の対向電極を備えており、
前記補助電極として、前記一対の対向電極の各々に向かって突出する、少なくとも一対の補助電極を備えている請求項8に記載のプラズマリアクタ。
【請求項10】
前記補助電極が、前記ハニカム電極の内部を貫通し、前記ハニカム電極の両端面から両先端部が突出するように配置されている請求項9に記載のプラズマリアクタ。
【請求項11】
絶縁性材料からなり、前記プラズマの発生領域以外の領域を通過した被改質ガスの流入を遮蔽する遮蔽部材を更に備え、
前記遮蔽部材は、前記ハニカム電極のガス導入端面の外周側を隠蔽するように、前記対向電極と前記ハニカム電極との間の空間に突出されたものである請求項1〜10のいずれか一項に記載のプラズマリアクタ。
【請求項12】
前記遮蔽部材が絶縁性セラミックスからなるものである請求項11に記載のプラズマリアクタ。
【請求項13】
前記ハニカム電極が、炭化珪素を含む導電性セラミックスからなるものである請求項1〜12のいずれか一項に記載のプラズマリアクタ。
【請求項14】
前記パルス電源が、静電誘導型サイリスタを用いた高電圧パルス電源である請求項1〜13のいずれか一項に記載のプラズマリアクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−5418(P2011−5418A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151093(P2009−151093)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】