説明

プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法

【課題】複雑な構成を必要としない、スパッタエッチングの均一性を調整する手段を備えたプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】対向する一対の電極5a,5bの外周部に異極同士が対向するように永久磁石8a,8bを設置し、各電極の外周の前方近傍から中心寄りの電極表面に至る部分にマグネトロン磁場(半円筒形磁場)が、一対の電極の外周部間に電極表面に垂直方向の対向磁場が形成できるようにし、各電極にプラズマ電力を供給し、導入口2よりアルゴンなどを供給して、一方の電極5b上に載置した被処理基板13に対しプラズマエッチングを行う。各電極の背面に磁場調整手段12a,12bを設けてプラズマ空間の磁場を調整してエッチングの均一性を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法に関し、より詳しくは、所定の空間を隔てて一対の電極を対向配置し、対向電極空間にプラズマを発生させ、少なくとも一方の電極上に配置した被処理基板表面をプラズマにより処理するようにしたプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスにおいては、加工の微細化に伴いエッチング液を用いる等方的なウェットエッチングに代わり真空槽内にプラズマを発生させ基板表面を処理することで優れた異方性エッチング特性が得られる、反応性イオンエッチングなどのドライエッチング技術が広く用いられている。ドライエッチング装置としては、平行平板型、ECR(electron Cyclotron Resonance)型、ヘリコン波型などが開発されているが、比較的簡単な装置で高いプラズマ密度を実現できるものとしてマグネトロン型のエッチング装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1には、チャンバー上に設置した永久磁石を回転し、ウェハ(被処理基板)の外周を囲むように導電性リングを配置し、サセプター(ウェハ載置台)をアノードとして処理を行なうプラズマ処理装置が開示されている。また、特許文献2には、反応室の外周部に円周溝を設け、該円周溝に永久磁石を配置してこれを周回させ、アノードとなる基板載置電極にRF電力を供給するプラズマ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−029269号公報
【特許文献2】特開平05−047715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のプラズマ処理装置では、永久磁石を回転させなければならないため装置が複雑化する恐れがある。また、永久磁石を回転させる方式では、磁場を形成する永久磁石の動作速度が電極に供給される電源の周波数と比較し桁違いに遅いため、基板表面にプラズマ密度の不均一を生じ、基板表面に塗布した絶縁性のレジストのチャージアップによるマイクロアークの発生やエッチング時の加工形状の不良が生じる可能性が懸念される。
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解決することであって、永久磁石を被処理基板に対して回転させることなく、静止磁場構造において高密度で均一性の高いプラズマを実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、所定の間隔を隔てて一対の電極を対向配置し、該電極各々の外周に沿って、各電極の外周の前方近傍から中心寄りの電極表面に至る部分にマグネトロン磁場(半円筒形磁場)が、前記一対の電極の外周部間に電極表面に垂直方向の対向磁場が形成できるように、永久磁石を異極同士が向き合うように対向設置し、前記一対の電極に電力を供給して、対向電極空間にプラズマを発生させ、少なくとも一方の電極上に設置した被処理基板表面に処理を加えることを特徴とするプラズマ処理装置、が提供される。
そして、好ましくは、前記各電極の背面の前記永久磁石の内側に磁場調整手段を設ける。また、一層好ましくは、前記磁場調整手段は、永久磁石または磁性体若しくはそれらの組み合わせである。また、好ましくは、被処理基板とこれを保持する電極との間に該被処理基板の表面高さを調整する基板高さ調整手段を設置する。
【0007】
また、上記の目的を達成するため、本発明によれば、所定の間隔を隔てて一対の電極を対向配置し、該電極各々の外周に沿って、各電極の外周の前方近傍から中心寄りの電極表面に至る部分にマグネトロン磁場が、前記一対の電極の外周部間に電極表面に垂直方向の対向磁場が形成できるようにし、前記一対の電極に電力を供給して少なくとも一方の電極上に配置した被処理基板の表面に処理を加えるプラズマ処理方法であって、前記一対の電極間に不活性ガスまたは反応性ガスのいずれか一方またはその両方を供給して処理を行なうことを特徴とするプラズマ処理方法、が提供される。
【0008】
[作用]
本発明によると、真空処理室に所定の空間を隔てて一対の電極を対向させ配置し、その電極各々の外周に沿って、異極同士が向き合うように永久磁石が配置される。これにより電極外周部の前方近傍から中心寄りの電極表面に至る部分に半円筒形のマグネトロン磁場が形成される。ここで、真空処理室にアルゴンガスなどのスパッタリングガスを供給し、対向配置された各電極に電源よりDC、パルスもしくは高周波電力を供給すると各電極の外周の前面近傍から中心寄りの電極表面に至る部分にプラズマ(以下、マグネトロンプラズマ)が形成される。
【0009】
また、異極同士が対向する永久磁石間には、電極面に垂直な磁場(対向磁場)が形成される。そのため、対向電極間の電子はその磁束に絡まりながら一方の電極に向かって進行する。そしてその電極の近傍に達すると電極表面のカソードシースに反射され再度対向電極間の磁束に絡まりながらもう一方の電極方向に向かう。そして、電極近傍に達すると再度電極表面のカソードシースで反射され、これを繰り返すことにより電子は電極間を往復運動する。
【0010】
この対向電極間を往復運動する電子は真空槽内に導入したアルゴンガスやエッチングガスと衝突することにより対向電極間にプラズマを発生させ、このプラズマは対向電極外周部に設置した永久磁石により対向電極空間に拘束され、対向電極間中央から外周寄りに至る部分に高密度なプラズマ(以下、対向プラズマ)が形成される。
この対向プラズマと先のマグネトロンプラズマとが合わさって対向電極空間に高密度のプラズマが得される。そして、対向プラズマのマグネトロンプラズマとのバランスを適切に設定することによりプラズマ密度分布を均等化を図ることができ、プラズマ処理の均一化を実現することができる。
【0011】
しかし、電極外周部に対向配置された永久磁石のみでは所望のプラズマ密度分布が得られないことがある。また、本発明に係るプラズマ処理装置は、半導体分野で一般的に使用されているシリコン基板のみならず合金を含む金属材料、ガラスなどの酸化物材料、プラスチックなどの有機物材料の表面処理を行なうこともある。この場合、基材および基材表面にコーティングを行った材料の磁気特性により対向する電極間および各電極表面に形成される磁場構造が影響を受けるため、マグネトロンプラズマおよび対向プラズマのプラズマ密度のバランスが崩れることがある。それらの理由により、基板全面におけるプラズマ表面処理の均一性が変化する可能性がある。
【0012】
これに対処するため、本発明によると、対向配置した永久磁石の内側で電極の背面に例えば永久磁石からなる磁場調整手段を設ける。永久磁石からなる磁場調整手段を設けると、磁場調整手段間に対向磁場が形成されるととも磁場調整手段の周囲にプラズマ磁場が形成され、これにより元の磁場分布に変更を加えることができ、プラズマ密度の分布を調整することができる。
また、被処理基板の表面高さを変更すると、被処理基板の表面の磁場状態に変更を加えることができる。この手段によってもプラズマ処理の均一性を調整することが可能である。
また、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などの材料には遷移金属などが用いられることがあり、化学反応に基づいてエッチングを行なう従来のプラズマ処理装置ではエッチングが難しい場合があるが、物理的エッチングが可能な本発明装置によれば、一般的に難エッチング材料とよばれる遷移金属材料なども容易にエッチングすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁場を形成する永久磁石を基板に対して可動させることなく、静止状態の磁場構造において、高密度のプラズマを実現することができる。また、被処理基板と下部電極間に挿入される高さ調整板の厚みを調整したり電極背面に設置する磁場調整手段によって磁場強度を調整することにより被処理基板全面により均一なプラズマを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1のA−A線の断面図である。
【図3】図1のB−B線の断面図である。
【図4】本発明の作用を説明するためのグラフである。
【図5】実施例に用いた磁場調整手段を示す断面図である。
【図6】本発明の作用を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の縦断面図であり、図2は、図1のA−A線での縦断面図、図3は、図1のB−B線での横断面図である。これらの図において、同一部位には同一の参照符号が付せられている。
図1、図2に示すように、真空槽1は、該略、アルミニウムなどからなる金属製の槽壁4と一対の電極、上部電極5aおよび下部電極5bとによって構成されている。上部電極5aと下部電極5bとは、平面形状が四角形であり両者で平行平板型の電極を形成している。つまり、真空槽1内には電極対により対向電極空間が形成されている。上部電極5aと下部電極5bは、電源に接続され、DC、パルス、高周波(RF)、DC+RFなどの電力が供給される。槽壁4は接地されている。槽壁4には、導入口2と排気口3とが設けられている。導入口2からはアルゴンガスなどの不活性ガス、あるいは、酸素、窒素やフッ化炭素などの反応性ガス、あるいは、不活性ガスと反応性ガスとの混合ガスが供給される。排気口はターボ分子ポンプなどに接続され真空引きされる。
【0016】
上部電極5aと下部電極5bは、例えば銅からなる平板型の電極プレート6a、6bと、電極プレート6a、6bをその周辺部において支持する、例えばアルミニウムなどからなる電極プレート支持体7a、7bとによって構成される。電極プレート支持体7a、7bは、枠形状をしておりこれには永久磁石を収容するための溝が各辺外周部に沿って穿設されており、そこに異極同士が向き合うようにして永久磁石8a、8bが収納されている。永久磁石8a、8bから出される磁力線の一部は図1、2の上下方向に延びて対向する相手側の永久磁石に入り、他の一部の磁力線は、自身の他の磁極側に戻る。この自己の磁極間に形成される磁力線によってマグネトロンプラズマを拘束する磁場が形成される。永久磁石8a、8bの背面には、それぞれヨーク板10a、10bが設置されており、これにより各辺に沿って設置された永久磁石同士は磁気的に結合されている。
【0017】
電極プレート6a、6bには、プラズマ処理時電極に加わる熱を効率的に外部へ排出するため、内部にジグザグ構造の冷却水路が形成されており、これには合成樹脂からなる冷却水用チューブ9a、9bが接続されていて、冷却水が流される。また、電極5a、5bと槽壁4との間には耐熱性樹脂からなる断面L字状の絶縁枠11a、11bが挿入されており、電極−槽壁4間は絶縁分離されている。
【0018】
下部電極5bの電極プレート6b上には、被処理基板13が載置され、これはチタン合金材料などのスパッタ率の低い導電性材料からなる基板固定治具15により固定される。被処理基板13と電極プレート6bとの間には、必要に応じて被処理基板13の表面高さを調整するための高さ調整板14が挿入される。高さ調整板14は、アルミニウム、チタンなどの熱伝導性の高い材料により形成されている。被処理基板13、または、被処理基板13および高さ調整板14は、基板固定治具15により電極プレート6bに密着して固定されており、有効に冷却されるようになっている。また、下部電極5bの電極プレート支持体7bは、プラズマ処理時にその表面がスパッタされ、かつ温度上昇により内部に設置した永久磁石8bが熱によって劣化されるのを抑制するため、電極プレート6bにボルト止めされた、銅板などの熱良導性材料からなるL字金具16で覆われ、L字金具16上にはスパッタ率の低い導電性材料(例えばチタン)からなる電極表面部材17bが設置される。
ここで、下部電極5bの電極プレート6bの表面高さは、永久磁石8bの前面側の表面高さより低いことが望ましい。このようにしておくことにより、被処理基板13上に形成されるマグネトロン磁場の強度を高さ調整板14の厚さによって効果的に調整することができるからである。
【0019】
また、上部電極5aの電極プレート6aの表面上には、プラズマ処理時にその表面がスパッタされ電極表面材料が下部電極に設置した被処理基板13表面に付着するのを抑制するため、スパッタ率が低く、導電性材料からなる電極表面部材17aが設置される。電極表面部材17aは、例えばカーボン板で構成され、例えばインジウムなどの熱良導性の接着材で電極プレート6aに接着される。電極表面部材17aは、永久磁石8aを保持する電極プレート支持体7a上の電極材料がプラズマ処理時スパッタされるのも抑制して、永久磁石8aが熱によって劣化されるのが抑制されるようになっている。
【0020】
電極プレート6a、6bとヨーク板10a、10bとの間には、必要に応じてまプラズマ処理均一性を調整するための磁場調整手段12a、12bが設置される。磁場調整手段12a、12bは、永久磁石、磁性材料またはそれらの組み合わせによって構成され、永久磁石を含む場合その極性はその電極内の永久磁石8a、8bの極性と一致するように配置される。磁場調整手段12a、12bは、ヨーク板10a、10bに接続されることにより永久磁石8a、8bと磁気的に結合されるようになっている。
【0021】
槽壁4と上部電極5aおよび下部電極5bとの間に電源を接続して本プラズマ処理装置にプラズマを形成するための電力を供給する。電源には、DC電源、パルス電源、RF電源やDCにRFを重畳した電源などが用いられる。上部電極5aと下部電極5bとに同一の電源によって給電してもよいが、それぞれを別個の電源によって給電するようにしてもよい。
【0022】
以上の実施の形態にて説明したプラズマ処理装置は被処理基板に対してスパッタ(エッチング)を行なうものであったが、被処理基板上に成膜を行なうものであってもよい。成膜を行なう場合には被処理基板と反対側の電極上にはターゲットが設置される。また、上記実施の形態では一方の電極上のみに被処理基板を載置していたが、両方の電極上に被処理基板を載置して2枚の基板に対して同時にスパッタ(エッチング)を行なうようにしてもよい。また、実施の形態の処理装置は直方体の形状をしたものであったが、これに代え円筒形や楕円筒形などの形状にしてもよい。また、上記実施形態では、磁場調整手段は両方の電極の背面側に設けられていたが、磁場調整手段は被処理基板が載置される側のみに設置するようにしてもよい。さらに、磁場調整手段は、永久磁石によって形成される磁場に変更を加えるものであればよく、永久磁石の外側に設置したり、複数個ずつ設置したりすることができる。
以下にエッチング処理の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
高さ調整板14を用いない場合とその厚みを5mm、10mm(それぞれ92mm角のアルミニウム板)とした場合について、シリコン基板を被処理基板とし、アルゴンをプロセスガスとするスパッタエッチングを行なって、高さ調整板14の作用・効果について確認した。
90mm角にカッティングしたシリコンをテスト基板とし、まず、シリコン基板をアセトン、エタノール、純水の順番で本多電子社製超音波洗浄器を用いて5分間ずつ洗浄し、アズワン社製定温乾燥機を用いてベークし水分を完全に取り除いた。次に、ミカサ社製スピンコーターを用い、レジスト(東京応化工業製OFPR(商品名))を約2μm シリコン基板全面にコーティンし、シリコン基板を定温乾燥機で105℃ 3分間プリベークしレジストを固化させ、次いで、ユニオン光学社製マスクアライナーを用いてシリコン基板を露光し、0.1mm幅のラインが1.1mm間隔に並び上下左右にライン部が垂直に交差する格子パターンをシリコン基板全面にパターニングした。
【0024】
次に、現像液(東京応化工業株式会社製 NMD-3(商品名))を用いて現像し、定温乾燥機にて90℃ 5分間ポストベークを行った。次に、パターニングを行ったシリコン基板上にエフ・ティ・エスコーポレーション製新対向ターゲット式スパッタ装置において、シリコンターゲットを用いた反応性スパッタ法により約1μm厚のSiOx膜を基板全面に堆積させ、その後、超音波洗浄器を用いてシリコン基板上のレジストをアセトンにより除去して、リフトオフによるSiOx膜をマスクとするテスト基板を作製した。
【0025】
このテスト基板を本発明に係るプラズマ処理装置の下部電極上に設置し、純度99.99995%以上のアルゴンガスを真空槽1に導入し、真空槽1内の真空度が0.3Paとなるようにアルゴンガス流量を調整した。対向する一対の電極にENI社製パルス電源RPG50(商品名)を接続し、周波数100kHz、パルス幅1056nsとし、上部電極5aと下部電極5bに合わせて300W投入し、スパッタエッチング時間は、テスト基板上に形成した1μm厚のSiOxマスクが全てエッチングされないように6分間とした。エッチング後、テスト基板をバッファードフッ酸に浸し残ったSiOxマスクを除去し、テスト基板を純水により洗浄した。
その後、AMBIOS社製触針式段差計を用いてエッチング深さを測定した。測定位置は基板の中心を原点として、テスト基板のカッティング面と平行に原点に対して左右40mm幅を10mm間隔に、合計9点(図3の上下を二分する中心線上にある9点)である。
【0026】
測定結果を図4に示す。ここで、高さ調整板14の厚みが5mmの場合、永久磁石8bの対向電極面側表面高さと基板表面の高さが同程度となっている。
高さ調整板の厚さが0mmの場合(高さ調整板を用いない場合)、永久磁石8bの対向電極面側表面高さがテスト基板表面高さより高いことから、下部電極外周部周辺に形成されるマグネトロンプラズマがテスト基板中心部付近に形成される対向プラズマより相対的に強く作用することにより、テスト基板外周部周辺のエッチングレートが増加し、図4から分かるように、テスト基板外周部のエッチング深さが中心部分より高くなる。測定位置9点のエッチング深さ平均値に対する分布特性を “(各エッチング深さ−9点の平均値)/9点の平均値×100”とし計算すると、-31.7%〜50.8%となる。
【0027】
高さ調整板の厚みが10mmの場合、永久磁石8bの対向電極面側表面高さがテスト基板表面より5mm程度高くなるため、テスト基板外周部付近のマグネトロンプラズマが弱くなり、相対的に対向プラズマが強くなる。その影響により、テスト基板外周部周辺のエッチング深さが低下し、中心部より±20mm付近においてエッチング深さが増加する。また、対向プラズマは相対的に強くなるにとどまっているため、テスト基板中心付近におけるエッチング深さは低下する傾向にあり、このときのエッチング分布特性は-47.9%〜30.3%となる。
高さ調整板の厚みが5mmの場合では、0mmと10mmの中間的効果によりエッチング分布は-17.6%〜27.9%と高さ調整板厚み3条件の中で最も良好な値が得られる。以上の結果から高さ調整板の厚みにより下部電極上に設置した被処理基板表面のエッチング分布特性が調整可能であることが確認された。
【実施例2】
【0028】
実施例1で用いたプラズマ処理装置を使用し、実施例1の場合と同様にして作製したテスト基板を用いて、磁場調整手段12a、12bを調整した場合の磁場強度変化によるエッチング分布に対する影響を確認した。なお、テスト基板下には、高さ調整板14として厚さ5mmのアルミニウム板を挿入した。電極プレート背面中央部に設置される磁場調整手段12a、12bの調整状態を図5に、それぞれの場合のエッチングの測定結果を図6示す。
磁場構造Aは、磁界調整手段を用いない場合、磁場構造Bは、縦25mm×横10mm×高さ10mmの補助磁石(永久磁石)を二つ重ねたもの、磁場構造Cは、補助磁石二つと同サイズのヨークブロック(鉄板)1枚とを重ねたもの、磁場構造Dは、補助磁石を三つ重ねたものである。これらの補助磁石、ヨークブロックは、磁力によりヨーク板10a、10bに固定される。
【0029】
磁場構造Aの場合、その測定データは実施例1の調整板の厚さが5mmの場合と同じである。磁場構造Bでは、磁場構造Aの場合に比較して対向プラズマ強度が増加することによりテスト基板中心付近のエッチング深さが増加する傾向が見られ、このときのエッチング分布は-16.0%〜17.1%と磁場構造Aの場合より改善される。
磁場構造Cでは、ヨークブロックが追加されたことにより対向プラズマ強度が増加し、テスト基板中心付近のエッチング深さが増加する。また、相対的にマグネトロンプラズマ強度が低下することによりテスト基板表面外周部付近のエッチング深さが低下する傾向にあり、磁場構造Cにおけるエッチング分布は-9.3%〜8.8%となる。磁場構造Dでは、磁場構造Cと比較してより対向プラズマ強度が増加し、マグネトロンプラズマ強度が低下し、磁場構造Dのエッチング分布は-31.1%〜26.5%となる。以上の結果から、電極プレート6bの背面中心付近に設置する磁場調整手段によって磁場強度を調整することにより、被処理基板表面のエッチング分布特性を調整することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0030】
1 真空槽
2 導入口
3 排気口
4 槽壁
5a 上部電極
5b 下部電極
6a、6b 電極プレート
7a、7b 電極プレート支持体
8a、8b 永久磁石
9a、9b 冷却水用チューブ
10a、10b ヨーク板
11a、11b 絶縁枠
12a、12b 磁場調整手段
13 被処理基板
14 高さ調整板
15 基板固定具
16 L字金具
17a、17b 電極表面部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を隔てて一対の電極を対向配置し、該電極各々の外周に沿って、各電極の外周の前方近傍から中心寄りの電極表面に至る部分にマグネトロン磁場(半円筒形磁場)が、前記一対の電極の外周部間に電極表面に垂直方向の対向磁場が形成できるように、永久磁石を異極同士が向き合うように対向設置し、前記一対の電極に電力を供給して、対向電極空間にプラズマを発生させ、少なくとも一方の電極上に設置した被処理基板表面に処理を加えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記永久磁石によって形成される磁場に変更を加える磁場調整手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記磁場調整手段が、永久磁石または磁性体若しくはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記被処理基板と前記電極との間に前記被処理基板の表面高さを調整する基板高さ調整手段が設置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記永久磁石の背面、または、前記永久磁石の背面および前記磁場調整手段の背面はヨーク板に接触していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記被処理基板が搭載される電極の被処理基板が搭載される面の高さは、その電極に保持される前記永久磁石の前面側の高さより低いことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
所定の間隔を隔てて一対の電極を対向配置し、該電極各々の外周に沿って、各電極の外周の前方近傍から中心寄りの電極表面に至る部分にマグネトロン磁場が、前記一対の電極の外周部間に電極表面に垂直方向の対向磁場が形成できるようにし、前記一対の電極に電力を供給して少なくとも一方の電極上に配置した被処理基板の表面に処理を加えるプラズマ処理方法であって、前記一対の電極間に不活性ガスまたは反応性ガスのいずれか一方またはその両方を供給して処理を行なうことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項8】
前記電極上に形成されるマグネトロン磁場若しくは対向磁場の強度、または、これら二つの磁場のバランスを調整して処理を行なうことを特徴とする請求項7に記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
前記各電極には、それぞれ別個の電源より電力を供給することを特徴とする請求項7または8に記載のプラズマ処理方法。
【請求項10】
前記各電極に供給する電力は、DC、RF、パルスまたはDC+RFのいずれかであることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項11】
前記被処理基板表面をスパッタエッチングにより処理することを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載のプラズマ処理方法。
【請求項12】
一方の電極上に被処理基板を、他方の電極上にターゲットを設置し、ターゲットをスパッタして前記被処理基板表面に薄膜を形成することを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載のプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−48143(P2013−48143A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185704(P2011−185704)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(500557370)株式会社エフ・ティ・エスコーポレーション (4)
【Fターム(参考)】