説明

プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法

【課題】広範囲の繰り返し周波数帯域で高精度に制御可能な時間変調された間欠的な高周波電力を供給する高周波電源を備えるプラズマ処理装置及び前記プラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法を提供する。
【解決手段】真空容器と、該真空容器内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記真空容器内に設置され試料を載置する試料台と、時間変調された間欠的な高周波電力を前記試料台に印加する高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、前記高周波電源は、2つ以上の異なる周波数帯域を有し、前記周波数帯域のそれぞれが使用するアナログ信号の範囲が同じである繰り返し周波数によって高周波電力を時間変調することを特徴とするプラズマ処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に係り、特に半導体素子等の試料を加工するために、プラズマを用いて微細パターンを高精度にエッチング処理を施すのに好適なプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の表面を処理する方法として、半導体素子をプラズマでエッチングする装置が知られている。ここでは、電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR、以下、ECR略称する)方式のプラズマエッチング装置を例に、従来技術を説明する。このECR方式では、外部より磁場を印加した真空容器中でマイクロ波によりプラズマを発生する。磁場により電子はサイクロトロン運動し、この周波数とマイクロ波の周波数を共鳴させることで効率よくプラズマを生成できる。半導体素子に入射するイオンを加速するため、高周波電力を概略正弦波にて連続波形で試料に印加している。ここで、試料に印加する高周波電力を以下、高周波バイアスと称する。また、プラズマとなるガスには塩素やフッ素などのハロゲンガスが広く使われている。
【0003】
プラズマにより発生したラジカルやイオンと被エッチング材が反応することでエッチングが進行する。
【0004】
エッチングによって発生する反応生成物はパターンへの再付着を引き起こし、エッチング形状をテーパーにする。よって、エッチング加工の高精度を図るためにはエッチング時に発生する反応生成物の制御が重要になる。反応生成物濃度を少なくするためには、反応生成物の滞在時間を短くする方法がある。プラズマ処理室内のガスの滞在時間をτとすると、τはPを処理圧力、Vをプラズマ処理室の容量、Qをガス流量とした場合、τ=PV/Qの関係があり、装置構成で前記P、V、Qの限界が規定される。この関係からガスとなった反応生成物の滞在時間は処理圧力を下げることやガス流量を増加させることで短くすることができるが、ガス流量を増加するのと、処理圧力を下げることはトレードオフの関係にあり改善が困難である。
【0005】
また、特許文献1には、反応生成物を制御し、エッチング加工精度を高める方法としては、プラズマや高周波バイアスの時間変調が開示されている。また、特許文献2には、高周波バイアスを2つ以上に分けイオンエネルギーを高精度に制御する時間変調された高周波バイアスの制御の方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−250479号公報
【特許文献2】特開2001−85395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高周波バイアス電源の時間変調を制御するパラメータとして、繰り返し周波数及び1周期に対するオン時間の比(以下、デューティー比と称する)がある。エッチングを実施する際、繰り返し周波数とデューティー比及びエッチングガスや圧力等のエッチング条件を入力手段により制御部に設定する。設定された値は制御部内ではデジタル信号として取り扱われるが、制御部と高周波バイアス電源がアナログで接続されている場合、制御部内のデジタル―アナログコンバータ(以下D/Aコンバータと称する)でアナログ信号に変換した後、送信する必要がある。アナログ信号の送信の際、信号に対するノイズ等で誤差が生じると設定値に対し、出力値が異なることとなる。例えば0〜2000Hzの信号を1Hz単位で入力できる場合、12ビットのデジタル信号処理では、1デジットあたり約0.98Hzの分解能となる。ここでデジットとは2進数の桁数を意味する。図11に示すように、12ビットのデジタル信号処理に対し、アナログ信号が±10Vで使用される場合、1デジット当たりの電圧は約4.9mVである。アナログ信号がノイズ等の理由で4.9mV以上ずれた場合にはデジタル信号変換後に1デジット以上のずれが生じる可能性がある。この場合、分解能は1デジットあたり約0.98Hz(約1Hz)なので、1Hz以上の誤差が生じる可能性がある。
【0008】
例えば、繰り返し周波数が10Hzでデューティー比が10%の時、高周波バイアスのオフ時間は90msである。繰り返し周波数が11Hzでデューティー比が10%の場合、オフ時間は81.8msである。制御精度の誤差が±1Hzある場合、10Hzが結果として11Hzとなる可能性がある。この場合、オフ時間の誤差は8.2msである。オフ時間には反応生成物が排気されるが、一般的なプラズマエッチングでの反応生成物の滞在時間は50ms〜500ms程度であるため、高周波バイアスのオフ時間の8.2msの誤差は反応生成物の滞在時間に対して影響が大きく、形状制御の精度に影響する。また、繰り返し周波数が1000Hzでデューティー比が10%の場合、オフ時間は0.9msであるが、ノイズによる誤差が生じ、1001Hzの信号として処理された場合でも、オフ時間は0.899msで誤差は0.001msとなり、0.1%の誤差にしかならない。即ち、繰り返し周波数が低い場合には信号の制御精度や分解能を上げる必要があるが、繰り返し周波数が高い場合には周波数分解能は低くても影響が少ない。このため、エッチング形状加工制御性を向上させるためには、繰り返し周波数の低周波数帯域の分解能を向上させ、反応生成物濃度を高精度に制御することが必須となる。
【0009】
使用する繰り返し周波数領域を狭くすることで、分解能を上げることが可能であるが、エッチングガスや被エッチング対象構造によって、最適な繰り返し周波数が異なる。そのため、各種のエッチングガスや各種の被エッチング対象構造に対応するためには、できるだけ広い周波数帯の繰り返し周波数が必要となる。このため、繰り返し周波数の使用可能領域の広域化と周波数分解能向上の両立は困難となる問題があった。
【0010】
また、プラズマの解離を制御する方法として知られるパルスプラズマについても、上記の課題に関しては、同様のことが言える。パルスプラズマを生成するために印加される高周波は時間変調され、パルス化されているが、この制御においても、高精度な制御を行うためには、周波数分解能を上げることが必要である。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、広範囲の繰り返し周波数帯域で高精度に制御可能な時間変調された間欠的な高周波電力を供給する高周波電源を備えるプラズマ処理装置及び前記プラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、真空容器と、前記真空容器内にプラズマを生成するための第1の高周波電源と、前記真空容器内に設置され試料を載置する試料台と、前記試料台に電圧を印加する第2の高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、前記第1及び第2の高周波電源の少なくとも1つは、時間変調された間欠的な高周波電力を供給するものであり、2つ以上の異なる周波数帯域を有し、前記周波数帯域のそれぞれが使用するアナログ信号の範囲が同じである繰り返し周波数によって前記高周波電力を時間変調することを特徴とするプラズマ処理装置である。
【0013】
また、真空容器と、前記真空容器内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記真空容器内に設置され試料を載置する試料台と、時間変調された間欠的な高周波電力を前記試料台に印加する高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、前記高周波電源は、2つ以上の異なる周波数帯域を有し、前記周波数帯域のそれぞれが使用するアナログ信号の範囲が同じである繰り返し周波数によって高周波電力を時間変調することを特徴とするプラズマ処理装置である。
【0014】
また、本発明は、真空容器と、該真空容器内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記真空容器内に設置され試料を載置する試料台と、時間変調された間欠的な高周波電力を前記試料台に印加する高周波電源とを備えるプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法において、前記高周波電源は、2つ以上の異なる周波数帯域を有し、前記周波数帯域のそれぞれが使用するアナログ信号の範囲が同じである繰り返し周波数によって高周波電力を時間変調し、前記周波数帯域のいずれかの周波数で時間変調された間欠的な高周波電力を印加しながら前記試料をエッチングすることを特徴とするプラズマ処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、広範囲の繰り返し周波数帯域で高精度に制御可能な時間変調された間欠的な高周波電力を、プラズマを生成する高周波電源と試料台に電圧を印加する高周波電源の少なくとも一つの電源から供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係るマイクロ波ECRプラズマエッチング装置の縦断面図である。
【図2】本発明の一実施例に係る制御部と高周波バイアス電源の概略図である。
【図3】アナログ信号の送信を示した図である。
【図4】A/Dコンバータの概略図である。
【図5】本発明の一実施例に係る制御部と高周波バイアス電源の概略図である。
【図6】チャンネルの設定例を示した図である。
【図7】反応生成物濃度のエッチング処理時間依存性を示した図である。
【図8】繰り返し周波数または時間変調された間欠的な高周波バイアス電力のオフ時間に対するエッチング形状のテーパー角度依存性を示した図である。
【図9】本発明の一実施例に係る制御部と高周波電源の概略図である。
【図10】本発明の一実施例に係る制御部と高周波バイアス電源の概略図である。
【図11】従来のアナログ信号設定例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図を参照しながら説明する。図1に本発明の一実施例に係るマイクロ波を用いたECRプラズマエッチング装置の概略縦断面図を示す。なお、同一符号は同一の構成要素を示す。
【0018】
上部が開放された真空容器101の上部に、真空容器101内にエッチングガスを導入するためのシャワープレート102(例えば石英製)と、誘電体窓103(例えば石英製)とを設置し、密封することにより処理室104を形成する。シャワープレート102にはエッチングガスを流すためのガス供給装置105が接続される。また、真空容器101には排気用開閉バルブ117及び排気速度可変バルブ118を介し真空排気装置106が接続されている。処理室104内は排気用開閉バルブ117を開とし、真空排気装置106を駆動することで減圧され、真空状態となる。処理室104内の圧力は排気速度可変バルブ118により所望の圧力に調整される。エッチングガスは、ガス供給装置105からシャワープレート102を介して処理室104内に導入され、排気速度可変バルブ118を介して真空排気装置106によって排気される。また、シャワープレート102に対向して真空容器101の下部に試料台である試料載置用電極111が設けられる。
【0019】
プラズマを生成するための電力を処理室104に伝送するため、誘電体窓103の上方には電磁波を伝送する導波管107が設けられる。導波管107へ伝送される電磁波は電磁波発生用電源109から発振させる。尚、本実施例の効果は、電磁波の周波数に特に限定されないが、本実施例では2.45GHzのマイクロ波を使用する。処理室104の外部には、磁場を形成する磁場発生コイル110が設けてあり、電磁波発生用電源109より発振された電磁波は、磁場発生コイル110により形成された磁場との相互作用により、処理室104内に高密度プラズマを生成し、試料載置用電極111上に配置された、試料であるウエハ112にエッチング処理を施す。シャワープレート102、試料載置用電極111、磁場発生コイル110、排気用開閉バルブ117、排気速度可変バルブ118及びウエハ112は処理室104の中心軸上に対して同軸に配置されているため、エッチングガスの流れやプラズマにより生成されたラジカル及びイオン、更にはエッチングにより生成された反応生成物はウエハ112に対し同軸に導入、排気される。この同軸配置はエッチングレート、エッチング形状のウエハ面内均一性を軸対称に近づけ、ウエハ処理均一性を向上させる効果がある。試料載置用電極111は電極表面が溶射膜(図示せず)で被覆されており、高周波フィルター115を介して直流電源116が接続されている。さらに、試料載置用電極111には、マッチング回路113を介して高周波バイアス電源114が接続される。高周波バイアス電源114は、高周波バイアス出力部126とパルス発生器108を備え(図2参照)、時間変調された間欠的な高周波電力または、連続的な高周波電力を選択的に試料載置用電極111に供給することができる。また、時間変調された間欠的な高周波バイアス電力は高周波バイアス電力を印加する期間(オン期間)と印加しない期間(オフ期間)を単位時間あたり繰り返す回数である繰り返し周波数と、1周期(繰り返し周波数の逆数)あたりのオン期間であるデューティー比とによって、制御される。
【0020】
上述のECRエッチング装置を用いたエッチング処理を制御する制御部120は、入力手段(図示せず)により入力された繰り返し周波数、デューティー比、エッチングを実施するガス流量、処理圧力、マイクロ波電力、コイル電流等のエッチングパラメータの処理を行うパソコン121と、信号処理を行うマイコン122と、デジタル信号をアナログ信号に変換するデジタル―アナログコンバータ(以下、D/Aコンバータ123と称する)とを備える(図2参照)。
【0021】
また、高周波バイアス電源114は、アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ―デジタルコンバータ(以下、A/Dコンバータ124と称する)と、マイコン122から送信された信号とA/Dコンバータ124から送信された信号とを処理する信号処理部125と、信号処理部125から指示された繰り返し周波数とデューティー比のパルス波形を発生するパルス発生器108と、信号処理部から指示された高周波バイアスを出力する高周波バイアス出力部126とを備える(図2参照)。
【0022】
以下に、高周波バイアス電源114から時間変調された間欠的な高周波電力を試料載置用電極に供給する場合の制御部120の機能について、図2を用いて説明する。
【0023】
入力手段(図示せず)により、パソコン121に入力された繰り返し周波数とデューティー比は、デジタル信号としてマイコン122で処理され、D/Aコンバータ123を介して、アナログ信号に変換されて高周波バイアス電源114に送信される。高周波バイアス電源114が受信したアナログ信号は、A/Dコンバータ124にてデジタル信号へ変換され、信号処理部125にて処理されて高周波バイアス出力部126とパルス発生器108とからそれぞれ高周波バイアス電力とパルス波形が出力される。出力された高周波バイアス電力に出力されたパルス波形が重畳されて、時間変調された間欠的な高周波電力を高周波バイアス電源114から試料載置用電極111に供給する。
【0024】
次に、高周波バイアス電源114の繰り返し周波数は、1〜2000Hzの範囲を1Hz単位で使用され、特に1〜119Hzの周波数帯域を高分解能で制御する場合について、説明する。
【0025】
1〜119Hzの周波数帯域をチャンネル1、120〜2000Hzの周波数帯域をチャンネル2とする。また、12ビットのD/Aコンバータ123及びA/Dコンバータ124を使用し、アナログ信号の電圧値は±10Vの範囲としている。尚、アナログ信号が±10Vの範囲の場合、アナログ信号は、一般的に0〜10Vが使用される。
【0026】
例えば、パソコン121に60Hzの繰り返し周波数が入力されると、図3に示すようにマイコン122からD/Aコンバータ123を介してチャンネル1とチャンネル2の信号が両方とも時間をずらされて周期的にA/Dコンバータ124に送信される。信号処理部125は、マイコン122から送信されたチャンネル1を選択するためのチャンネル切替え信号に応じて、タイミングA(チャンネル1)と信号受信を同期させることにより、A/Dコンバータ124から送信されたチャンネル1とチャンネル2の信号からをチャンネル1の信号を選択する。チャンネル1の信号を選択した信号処理部125は、パルス発生器108から60Hzのパルス波形を発生させ、60Hzの繰り返し周波数の時間変調された間欠的な高周波電力を高周波バイアス電源114から出力する。
【0027】
また、信号処理部125のチャンネル選択の他の方法としては、図4に示すように、A/Dコンバータ124に複数の入出力端子(以下ポートとする)がある場合、チャンネル切替え信号にてどのチャンネルを選択するのは判断し、特定のポートの信号をとる方法でも良い。例えば、60Hzの繰り返し周波数の場合、ポート1を選択するように信号処理部125に判断させれば良い(図4)。
【0028】
また、使用するチャンネルだけをマイコン122からD/Aコンバータ123を介して、A/Dコンバータ124に送信しても良い。例えば、10Hzの繰り返し周波数を設定する場合、チャンネル1の信号のみを送信し、チャンネル2の信号は送信しないようにする。A/Dコンバータ124が図4のような構成の場合、信号処理部125がポートの受信信号の有無を判定することで、ポート1には信号有り、ポート2には信号無しの状態ならば、信号処理部125は、ポート1、すなわちチャンネル1を選択できる。この場合、チャンネル切替え信号は必要ないため、図5の構成でもよい。
【0029】
しかし、エッチング処理は、複数ステップで連続に処理することがあり、各ステップ間で異なる周波数帯域の周波数(異なるチャンネル)を使用する場合は、送信のタイミングをずらした状態で常に周期的に、異なるチャンネルの信号を送信した状態で、切替え信号によりチャンネルを選択する方法(図4)が切替え信号が不要な方法より、チャンネルの変更を速く行うことが可能なため、図4のようなチャンネル選択方法が適している。
【0030】
次に、本実施例でのチャンネル1とチャンネル2の周波数分解能について説明する。
【0031】
通常、D/Aコンバータ123及びA/Dコンバータ124の処理能力と周波数帯域の範囲により周波数分解能が決定される。12ビットのD/Aコンバータ123及びA/Dコンバータ124の場合、4096デジットの信号を取り扱える。デジットとは2進数の桁のことである。この場合、アナログ信号が±10Vの範囲で4096種類の信号の値を扱えることになる。アナログ信号は一般的に0〜10Vが使用されるため、2048種類の信号の値を扱えることとなる。本実施例では、チャンネル1の繰り返し周波数の使用範囲が1〜119Hzのため、約0.058Hzの分解能になる。また、チャンネル2の繰り返し周波数の使用範囲が120〜2000Hzのため、約0.92Hzの分解能になる。また、アナログ信号の使用範囲が10Vで2048デジットの信号を取り扱えるため、1デジットは約4.9mVに相当する。すなわち、アナログ信号が約4.9mVであれば、チャンネル1の場合は、約0.058Hzの繰り返し周波数、チャンネル2の場合は、約0.92Hzの繰り返し周波数を表すことになる。このため、アナログ信号に4.9mVの誤差が発生すると、チャンネル1の場合は、約0.058Hzの誤差、チャンネル2の場合は約0.92Hzの誤差が生じることになる。
【0032】
例えば、繰り返し周波数が10Hz(チャンネル1)でデューティー比が10%の場合、オフ時間は90msとなる。アナログ信号に約0.05%(5mV)のノイズが発生した場合、繰り返周波数に約0.058Hz以上の誤差が生じることになる。繰り返し周波数が10.058Hzでデューティー比が10%の場合、オフ時間は89.5msとなり、誤差はわずか0.56%である。また、繰り返し周波数が1000Hz(チャンネル2)でデューティー比が10%の場合、オフ時間は0.9msとなる。ノイズによりアナログ信号に約0.05%(5mV)のノイズが発生した場合、約1001Hzの信号として処理されることになるが、オフ時間は0.899msで誤差は0.001msとなり、0.1%の誤差にしかならない。
【0033】
よって、本実施例は、上述したとおり、繰り返し周波数の使用周波数範囲を分解能の精度が要求される周波数帯域と分解能の精度があまり要求されない周波数帯域とに分割することにより、繰り返し周波数の高範囲の周波数帯域において、繰り返し周波数を高精度に制御することができる。
【0034】
また、本実施例では繰り返し周波数の設定単位を1Hzとしているため、チャンネル1の周波数帯域を選択した場合、1Hzに約20デジットを割り当てることができ、ノイズ等による誤差を排除することを可能としている。
【0035】
また、チャンネル1の分解能は、0.058Hzのため、チャンネル1の繰り返し周波数の設定単位を1Hz以下にして制御することは可能である。
【0036】
また、本実施例では、繰り返し周波数の周波数帯域を2つに分割した例であったが、2つ以上に分割しても良い。分割数を増やすほど、各周波数帯域の分解能を向上させることができる。
【0037】
また、本実施例では、繰り返し周波数の周波数帯域を2つに分割した例であったが、図6に示すように、2つ以上の異なる周波数帯域を組み合わせることによって、繰り返し周波数の使用周波数範囲を広げても良い。このように、異なる周波数帯域を組み合わせることによって、繰り返し周波数の使用周波数範囲を広げることにより、それぞれの周波数帯域の精度を向上させることができる。
【0038】
また、時間変調された間欠的な高周波バイアス電力のオン時間が短い場合には、高周波バイアス電力のマッチングが困難になるという問題がある。オン時間はデューティー比と繰り返し周波数によって規定されるが、デューティー比が20%以下のような低いデューティー比の場合、チャンネル2の高周波帯域の繰り返し周波数はオン時間が短くなりすぎるため、高周波バイアス電力を試料載置用電極111に印加できなくなる場合がある。このため、チャンネル2の周波数帯域の繰り返し周波数を使用する場合は、デューティー比を20%以上で使用するのが望ましい。
【0039】
次に、本実施例に係るマイクロ波ECRプラズマエッチング装置を用いて、ウエハ112にエッチング処理を施すプラズマ処理方法について説明する。
【0040】
また、時間変調された間欠的な高周波バイアスの繰り返し周波数の使用周波数範囲が、2つの周波数帯域に分割され、チャンネル1(1〜119Hz)とチャンネル2(120〜2000Hz)の2つの周波数帯域から構成されている場合のプラズマ処理方法について説明する。
【0041】
時間変調された間欠的な高周波バイアスは反応生成物濃度を制御し、エッチング性能を制御することに用いられるが、オフ時間が反応生成物の滞在時間と同等程度の時、特に大きな効果が得られる。時間変調された間欠的な高周波バイアスのオン時間の期間はエッチングが進行し、反応生成物が発生し続ける。時間変調された間欠的な高周波バイアスがオフすると、エッチングは進行しなくなり、反応生成物は排気される。一般的なプラズマエッチング装置の場合、処理圧力0.1Pa〜10Paでは反応生成物の滞在時間は10ms〜1000msである。一例として、反応生成物の滞在時間が80msの場合を説明する。連続高周波バイアスでは反応生成物濃度はエッチング開始時より単調に増加していく。反応生成物の滞在時間を80ms、時間変調された間欠的な高周波バイアスのオン時間を10ms、オフ時間を10msとした場合の反応生成物濃度のエッチング処理時間依存性を図7(a)に示す。オフ時間が反応生成物の滞在時間と比較して短い場合には、反応生成物が残留するため、反応生成物濃度は時間の経過とともに増加していく。次に、反応生成物の滞在時間を80ms、時間変調された間欠的な高周波バイアスのオン時間を10ms、オフ時間を80msとして、反応生成物の滞在時間とオフ時間を等しくした時の反応生成物濃度のエッチング処理時間依存性を図7(b)に示す。オン時間内に発生した反応生成物はオフ時間に排気され、残留しないため、反応生成物濃度が低い状態を作り出すことが可能である。オフ時間を反応生成物の滞在時間以上にすることにより、反応生成物濃度を下げることができる。
【0042】
次に、図8(a)にデューティー比を20%に固定して、シリコン窒化膜のラインをエッチングした場合の繰り返し周波数に対するラインのエッチング形状のテーパー角度の依存性を示す。繰り返し周波数が低くなるほど、エッチング形状が垂直に近づく。繰り返し周波数とデューティー比により、オフ時間が規定されるが、図8(a)の結果は、オフ時間が長くなることにより、反応生成物濃度が低くなり、反応生成物の付着が少なくなったためである。図8(a)の繰り返し周波数に対するテーパー角度の依存性を、オフ時間に対するテーパー角度の依存性に書き直したものが図8(b)であるが、図8(b)より、オフ時間を長くすることでテーパー角度を制御することが可能であることが分かる。特に、オフ時間が、10〜1000msの範囲で垂直なエッチング形状を得ることができる。
【0043】
このように、オフ時間を反応生成物の滞在時間以上にすることにより、反応生成物濃度を減少させることができる。オフ時間を長くするためには、繰り返し周波数を低くし、かつ、デューティー比を低くする必要がある。例えば、図7(b)は、繰り返し周波数が11.1Hz、デューティー比が11.1%の時間変調された間欠的な高周波バイアス電力を試料載置用電極111に印加してウエハ112をプラズマエッチングした例である。
【0044】
よって、本実施例は、オフ時間を長くすることができる低周波の繰り返し周波数帯域でも、高精度な周波数制御が可能なため、反応生成物濃度を高精度に制御することができる。このため、エッチング形状を高精度に制御することができる。
【0045】
また、被エッチング膜の種類や対象エッチング工程、エッチング条件等によっては、高周波の繰り返し周波数帯域を用いる必要があることがある。しかしながら、高周波の繰り返し周波数の場合は、オン時間及びオフ時間が非常に短いため、低周波に比べて周波数分解能はあまり高くなくても良い場合が多い。
【0046】
また、エッチング工程はさまざまな種類があり、工程によっては、垂直加工でなく、テーパー形状が必要な場合がある。一例としては、素子分離部(Shallow Trench Isolation:STI、以下STIと称する)のエッチングがある。STIエッチング後は、埋め込みをするため、概して、テーパー形状が必要となる。テーパー形状に加工する際、図8(a)に示すようなエッチング特性を持つ場合は、繰り返し周波数を高くすれば良いこととなる。このように半導体製造の種々な工程に広く対応するためには、繰り返し周波数は広範囲で使用できることが望ましい。
【0047】
また、上述したプラズマ処理方法は、時間変調された間欠的な高周波バイアスの繰り返し周波数の使用周波数範囲が、2つの周波数帯域に分割された例であったが、繰り返し周波数の使用周波数範囲が2つ以上に分割されている場合でも、上述したプラズマ処理方法と同様な効果を得ることができる。また、繰り返し周波数の使用周波数範囲が2つ以上の異なる周波数帯域の組合せからなる場合でも、上述したプラズマ処理方法と同様な効果を得ることができる。
【0048】
本発明は、上述した通りの構成を備えるため、広範囲の周波数帯域で高精度に制御された繰り返し周波数の時間変調された間欠的な高周波バイアス電力を載置用電極に供給することができるため、種々のエッチング工程において、高精度なエッチング加工が可能である。
【0049】
また、上述の実施例では、繰り返し周波数の周波数帯域の複数チャンネルの切替えは、チャンネル切替え信号を用いたが、高周波バイアス電源を複数使用する方法でも良い。例えば、図9に示すように、2つのチャンネルの場合、それぞれ、異なる周波数帯域の繰り返し周波数の時間変調された間欠的な高周波バイアス電力を出力する高周波電源を2つ設け、高周波電源選択信号により第一の高周波電源127と第二の高周波電源128とを切り替えることで、広範囲の周波数帯域で高精度に制御された繰り返し周波数の時間変調された間欠的な高周波バイアス電力を載置用電極に供給することができる。また、図10に示すように、上記の複数の高周波電源の代わりに、異なる周波数帯域の繰り返し周波数のパルス波形をそれぞれ発生させる複数のパルス発生器(第一のパルス発生器129、第二のパルス発生器130等)を高周波バイアス電源に設けても良い。
【0050】
また、上述した実施例の高周波バイアス電源の構成は、プラズマを生成する高周波電源へも適用できる。このため、本発明は、広範囲の繰り返し周波数帯域で高精度に制御可能な時間変調された間欠的な高周波電力を、プラズマを生成する高周波電源と、高周波バイアス電源とのいずれかの少なくとも一つの電源から供給するプラズマ処理装置である。
【0051】
また、本実施例では、マイクロ波ECRプラズマを一実施例とし説明したが、容量結合型プラズマや誘導結合型プラズマ等の他のプラズマ生成方式におけるプラズマ処理装置においても本実施例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0052】
101・・・真空容器、102・・・シャワープレート、103・・・誘電体窓、104・・・処理室、105・・・ガス供給装置、106・・・真空排気装置、107・・・導波管、108・・・パルス発生器、109・・・電磁波発生用電源、110・・・磁場発生コイル、111・・・ウエハ載置用電極、112・・・ウエハ、113・・・マッチング回路、114・・・高周波バイアス電源、115・・・高周波フィルター、116・・・直流電源、117・・・排気用開閉バルブ、118・・・排気速度可変バルブ、120・・・制御部、121・・・パソコン、122・・・マイコン、123・・・D/Aコンバータ、124・・・A/Dコンバータ、125・・・信号処理部、126・・・高周波バイアス出力部、127・・・第一の高周波電源、128・・・第二の高周波電源、129・・・第一のパルス発生器、130・・・第二のパルス発生器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、前記真空容器内にプラズマを生成するための第1の高周波電源と、前記真空容器内に設置され試料を載置する試料台と、前記試料台に電圧を印加する第2の高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、
前記第1及び第2の高周波電源の少なくとも1つは、時間変調された間欠的な高周波電力を供給するものであり、2つ以上の異なる周波数帯域を有し、前記周波数帯域のそれぞれが使用するアナログ信号の範囲が同じである繰り返し周波数によって前記高周波電力を時間変調することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、
前記第1及び第2の高周波電源の少なくとも1つは、A/Dコンバータとパルス発生器とを具備し、
前記A/Dコンバータは、前記2つ以上の異なる周波数帯域をそれぞれ異なるタイミングで受信し、
前記パルス発生器は、前記A/Dコンバータが受信した前記2つ以上の異なる周波数帯域のそれぞれから周波数帯域切替え信号により選択された周波数帯域のパルスを発生することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマ処理装置において、
前記第1及び第2の高周波電源の少なくとも1つは、前記2つ以上の異なる周波数帯域の数と同数の高周波電源を含むことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
真空容器と、前記真空容器内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記真空容器内に設置され試料を載置する試料台と、時間変調された間欠的な高周波電力を前記試料台に印加する高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、
前記高周波電源は、2つ以上の異なる周波数帯域を有し、前記周波数帯域のそれぞれが使用するアナログ信号の範囲が同じである繰り返し周波数によって前記高周波電力を時間変調することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項4記載のプラズマ処理装置において、
前記高周波電源は、A/Dコンバータとパルス発生器とを具備し、
前記A/Dコンバータは、前記2つ以上の異なる周波数帯域をそれぞれ異なるタイミングで受信し、
前記パルス発生器は、前記A/Dコンバータが受信した前記2つ以上の異なる周波数帯域のそれぞれから周波数帯域切替え信号により選択された周波数帯域のパルスを発生することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項4記載のプラズマ処理装置において、
前記高周波電源は、前記2つ以上の異なる周波数帯域の数と同数の高周波電源を含むことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
真空容器と、前記真空容器内にプラズマを生成するプラズマ生成手段と、前記真空容器内に設置され試料を載置する試料台と、時間変調された間欠的な高周波電力を前記試料台に印加する高周波電源とを備えるプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法において、
前記高周波電源は、2つ以上の異なる周波数帯域を有し、前記周波数帯域のそれぞれが使用するアナログ信号の範囲が同じである繰り返し周波数によって高周波電力を時間変調し、
前記周波数帯域のいずれかの周波数で時間変調された間欠的な高周波電力を印加しながら前記試料をエッチングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項8】
請求項7記載のプラズマ処理方法において、
前記時間変調された間欠的な高周波電力の印加されない期間は、10〜1000msであることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項9】
請求項8記載のプラズマ処理方法において、
前記時間変調された間欠的な高周波電力の印加されない期間が反応生成物の滞在時間以上であることを特徴とするプラズマ処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−212728(P2012−212728A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76585(P2011−76585)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】